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阿部治ゼミ 2017 年夏合宿(羅臼町)について
珠村 智
2017
年8
月中旬、阿部治ゼミの合宿は北海道にて行われた。場所は知床半島の羅臼町。私はこの時、初めて知床半島を訪れた。テレビ番組や本では何度も見たことがある場所だ。
世界遺産に認定された、日本が世界に誇る豊かな自然。ヒグマやオオワシといった生物が 生息する、自然が魅力的な場所というイメージを持っていた。実際に行ってみた結果、分 かったのは多くの社会問題に直面する姿だった。
合宿ではホエールウォッチングなどを通して知床の自然を体感した。エゾシカに遭遇し たり、海の幸に舌鼓を打ったり、知床の魅力を存分に感じることがで きた。しかしそれだ けではない。海のすぐ向こうに見える陸地。今も領土権問題に揺れる国後島だ。北方領土 の問題についても詳しくお聞きした。また、高校と小学校にお邪魔して、子どもたちと交 流することができた。教育現場を通して見えたのは、この町で子どもたちがいかに重要か ということだった。本レポートでは、世界遺産、羅臼が抱える問題から、地域 の創生につ いて考えたい。
羽田から飛行機で1時間
40
分ほど、空の玄関口である中標津空港に着く。私は前日に札 幌を観光していたため、新千歳空港から飛行機に乗った。時間はおよそ50
分。空からは砂 粒ほどの、小さな牛の姿が見える。空港には、売店が二つ、レストランが一つ。小さな空 港だ。ここで私たちを出迎えてくれたのが、羅臼教育委員会の金澤裕司さんである。今回 の合宿に同行してくださった金澤さんは、羅臼で「知床学」を進めている。若い世代に知 床の自然や文化、歴史を知ってもらう教育活動だ。合宿
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日目、救命胴衣に袖を通し、船に乗り込む。ホエールウォッチング。知床を代表 するレジャーだ。携帯電話のGPS
は、どんどん陸地を離れていく。「10 時の方向!」スピ ーカーから声が響く。船からは、小さなイルカが見えた。水 の中に消えてはまた現れる、独特の泳ぎ方。イシイルカという小型のイルカだという。港に帰ると、茶色の鳥がたたず んでいるのが見えた。オオワシと並んで知床を代表する猛禽類の
1
種、オジロワシが2
羽、港のへりで私たちを見ていた。今回は大きなクジラこそ現れなかったが、生き物を通して 自然を楽しむことを十分に体験することができた。
それから、北方領土の話を聞いた。東京で暮らす私たちにとって、北方領土など、正直 な話、関心が薄い。歴史や地理の授業で聞いたときの感想を述べるとしたら、どうでもい いとしか思っていなかったのだが、自分の勉強不足を痛感させられた。太平洋戦争で、日 本はアメリカを筆頭とする多くの国々に大敗、終戦が迫る
1945
年8
月にはソ連からも攻 撃を受けた。この時に北方領土はソ連が支配するようになったという。これは国際法の観 点からみて違法な支配だという。戦争でそろそろ負けそうな国にちょっと侵攻し、「俺の勝 ちだ」と言わんばかりに領土を得る。確かに、これが認められるのは不条理 なものだ。さ らに、知床や北方領土の問題が難しいのは、もともと住んでいた人たちを忘れてはいけな いということだ。北海道地域の先住民として知られる、アイヌの人々。日本の歴史のなか で、度重なる弾圧を受けてきたアイヌの人たち。北方領土は誰のものか?日本か?ロシア- 105 -
か?という選択肢に、アイヌのもの、という選択肢はないのだ。アイヌの人たちの歴史、
文化、権威を守ることの重要さを私たちは知らなかった。今、北方領土の問題を正しく知 ってもらおうと、たくさんの人が動いている。歴史上の悲劇を忘れないために、課題を解 決するために、取り組む人たちと真摯に向き合わねばならないと悟った。
合宿
2
日目の夜。この日の夕餉は、浜っこ山ちゃんという店で海鮮のバーベキューだっ た。机に並べられた魚、エビ、貝の数々。最後には毛ガニまでいただいた。まさしく海の 幸と呼ぶにふさわしい海産物。普段の生活では感じない、海の豊かさを、そこから人が享 受する恵みを体感した。合宿
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日目。羅臼高校の図書館で、高校生と交流した。東京の大学生と羅臼の高校生。普通なら会話もしないような相手。丁度この時期、夏休みが終わったばかりであった。東 京の学生からすれば、8月
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日に新学期が始まっていることが驚きなのだが。北海道は冬 休みが長い分、夏休みが短いのだという。高校生たちは夏休みに何をしていたのだろう。聞くと、アルバイトとして漁の手伝いをしていたという答えが多かった。この地域の基幹 産業であるという認識。しかし同時に、産業の少なさを物語っている。羅臼にはコンビニ もホテルも少ない。仕事といえば、漁業がメインである。この町の雇用の少なさが窺える。
知床が抱える社会問題として人口流出があげられる。多くの地方で過疎が叫ばれる今日、
世界遺産といえども、羅臼も例外ではない。たとえば大学。知床半島に は大学がない。つ まり、もし羅臼の高校生が大学に通いたいと思ったら、ほかの地域、たとえば札幌や釧路 で暮らす必要がある。では、そこで学びを終えた若者は羅臼に戻ってくるのか? そのまま 大学のある都市部で暮らすことくらい容易に想像がつく。人口の減少によって持続可能性 が失われる。羅臼の人口を維持し、持続可能な社会を創る。そこには教育が不可欠だ。金 澤さんの「知床学」は若者に羅臼を知ってもらう、そして羅臼での生活を勧める意味があ るといえよう。
合宿
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日目。浜っ子山ちゃんのすぐ向かいにある春松小学校を訪問した。小学校の授業 を見学させていただく。1クラスの人数は、大体15
人ほど。羅臼には小学校が、二つしか ない。少ない人口。その問題が、確かに感じられた。休み時間、虫を捕まえて遊んでいる1
年生と話した。昆虫が好きだという。「家にはどんな生き物がいるの?」
何か生き物を飼っているかもしれない、と軽い気持ちで聞いてみた。予想していない答 えが返ってきた。
「家の前にクマが出たことがある」
クマが出た。家に。私は心の底から驚きながら、そっか、大変だね、と会話を続けた。
自然豊かな町。そこには、危険があることを、私は理解していな かった。都会に住む人 は、自然をうらやむことがある。空気がおいしいだの、緑が癒されるだの、都会にないも のを求めている。しかし自然は、人を喜ばせてくれるテーマパークではない。時には危険 を与える存在だと、常に覚えておくべきなのだろう。
知床という言葉。誰もが聞いたことがある。北海道の東の端にある半島。大きなクマが いて、冬には海に流氷が来る、世界遺産の半島。一度くらいはテレビで見たことがあるだ ろう。しかしこの町が抱える問題を、社会のひずみを知るものは、果たしてどれくらいい るだろうか。世界遺産として番組で取り上げられる、豊かな自然。その裏には、地方の問
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題があった。人口流出を食いとどめ、なんとか羅臼の持続可能な社会を目指す人々。教育 を通して問題の解決に取り組む人々。地方の課題に対し、教育が大きくかかわっていた。
この町がこれからどうなるか、知りたいと思えた。
私たちの通うキャンパスは、大都会、池袋にある。ビルが立ち並び、夜の間も煌々と光 り輝く町だ。池袋と比べたら、羅臼は真逆の場所だろう。コンビニは少ないし、夜中には 閉まる。基幹産業は漁業。自然豊かな町には、時折シカが現れる。池袋にシカはいないし、
何十というコンビニが朝も夜も営業している。だから、羅臼での体験はすべてが新鮮だっ た。都会にはない魅力があった。そして、都会にはない課題があった。
初めていく土地で、知らなかった魅力と課題を発見した。立教大学の学生だからこそ、
そういったものは知るべきだと思う。池袋のまだ見ぬ魅力を、気づかぬ課題を、発見する こともおろそかにはできないと感じた。
(たまむら・さとし 立教大学社会学部現代文化学科3年 阿部治ゼミ)