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指定管理者制度の成立過程と法的性格 ――公立図書館に焦点を当てて――

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[研究]

指定管理者制度の成立過程と法的性格

――公立図書館に焦点を当てて――

田中 宏樹

指定管理者制度は2003年、ビジネスチャンスを得たい経済界、経済官庁、財政危機に 瀕している地方公共団体などの要望を受けた内閣官房のイニシアチブの下にスピーディー に成立し、公立図書館への採用も進んでいった。一方、法体系の根本的な見直しを行わな いまま、導入された同制度には、法的な不安定さが内在することとなった。本稿では、指 定管理者制度の導入の経緯、導入後の国および地方公共団体の対応を振り返りながら、同 制度の法的性格について精査した。

1. はじめに1)

従来、日本の公立図書館の運営は、直営方式、

つまり、公務員によって行なわれていた。1963 年の地方自治法改正によって管理委託制度(「公 共団体又は公共的団体」への「公の施設」の管 理の委託を可能にした)が導入されたが 2)、文 部省が基幹的業務の委託に対し否定的な見解を 持っていたこともあり、全面的な委託は京都市 などに限られていた。

しかし、2003 年9月、地方自治法の一部改 正により指定管理者制度が導入され、状況は大 きく変わった。指定管理者制度は管理委託制度 と明らかに異なる特徴がある。それは、改正地 方自治法に、「法人その他の団体」(地方自治法 第244条の2)と記されているように、管理受任 者の範囲を、民間事業者にまで拡大しているこ とである。

コストの削減、組織の効率化という問題に直 面していた地方公共団体は、指定管理者制度の 採用を検討し、公立図書館もその対象となった が、以下の障害に直面していた。図書館法第13 条1項、地方教育行政の組織及び運営に関する 法律(以降「地教行法」と表す)第 34 条によ り、必置である図書館長は教育委員会が任命し た公務員でなければならないと考えられ、指定

管理者制度導入の歯止めとなっていた。

しかし、2003年12月、中央教育審議会生涯 学習分科会において、文部科学省は、「地方自治 法改正により指定管理者制度が導入されたこと を受け、今後は館長業務を含めた全面的な民間 委託が可能であることをあらためて明確に周知 した」と説明を行い 3)、方針転換を発表した。

館長業務も含めた全面的な指定管理者制度の採 用への歯止めが取り除かれたことにより、公立 図書館における指定管理者制度の採用が進んで いった。

日本図書館協会によると、指定管理者制度採 用を実施・予定している図書館は、都道府県立 図書館では2館が実施済みで、市区町村立図書 館では、2005年度~2011年度に採用した図書 館は296、2012年度に採用を予定している図書 館は36である4)。2011年時点で公立図書館数 は3,274館であることから、指定管理者制度採 用を実施・予定している図書館の割合は10%を 少々超えるぐらいであると言えよう。運営主体 については、2011 年度までに導入した図書館 296館のうち、民間企業が指定されているのが 205 館、NPO が指定されているのが37館であり、

両者をあわせると 8 割を超えている。これから も、市区町村図書館を中心に指定管理者制度の

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導入が増えていくことが予想される。

ここまで、指定管理者制度導入に関する経緯 と現況について概観したが、同制度は成立過程 において検討が尽くされたとはいえない面があ り、いくつか問題を含んだまま今に至っている。

以下、本稿では公立図書館の管理形態の多様化 をもたらした同制度の成立過程を振り返りなが ら、その法的性格を精査するとともに、問題点 とその改善策について私見をのべたいと思う。

2. 指定管理者制度の成立過程 2.1 行政改革と公立図書館の委託

まず、指定管理者制度が導入される以前の公 立図書館の委託の状況について述べたい。1970 年代、『市民の図書館』が提唱する貸出重視路線 が普及したこと、社会教育施設を建設する財政 的余裕が生じたこと、市民運動が活発に行なわ れたことなどの要因により、公立図書館の数は 大幅に増えていった。1980年代になると、行政 改革の流れを受けて公立図書館の委託が検討・

実施されるようになった。1981年京都市、1983 年埼玉県和光市、広島市(一部)、1985年東京 都足立区で委託が実施された。一方、1986年3 月、海部文部大臣が、「図書館法の規定から見て も公立図書館の基幹的な業務については、これ は民間の委託にはなじまないものでしょうし、

生涯学習をするという非常に大きな目標があり ます」と国会で答弁を行っているように 5)、当 時の文部省は全面的な委託については否定的な 見解を持っていた。

1991年、第三セクターが全国各地で設立され るようになったことなどを受け、地方自治法(管 理委託制度)が一部改正された。この改正によ り、普通地方公共団体(都道府県・市町村)は、

「公共団体若しくは公共的団体」に加えて、「普 通地方公共団体が出資している法人で政令で定 めるもの」にも公の施設の管理委託をすること ができ、また、「適当と認めるときは、管理受託 者に当該公の施設の利用に係る料金を当該管理 受託者の収入として収受させることができる」

ようになった。しかし、依然として管理受託団 体、そして管理業務は限定されたものであり、

東京都調布市などで委託問題が発生することが

あったが、1990年代中盤までは、公立図書館の 委託、特にパブリックサービス(貸出・返却、

レファレンスなど)の委託はそれほど進まなか った。しかし、1990年代後半に入ると、深刻な 経済状況を受け、行政改革は次の段階に進んで いった。次の段階(具体的にはPFIや指定管理 者 制 度 ) に 至 る 過 程 で 触 れ て お き た い の が NPMに関することである。

2.2 NPM

NPM(New Public Management)は、1980 年代から主にイギリスを始めとするアングロ・

サクソン諸国が行ってきた行政改革を、C. フッ ドを始めとする行政学者が分析し定式化を試み たものである。よって、NPM は一つの理論的 体系に基づく訳ではなく、実際、各国で行なわ れるNPMによる行政改革は一様ではない。日 本にNPMを紹介した大住莊四郎は、「NPM論 とは、民間企業の経営の考え方・理念・手法を 公共部門に適用することで、その効率化・活性 化を図ることである。より具体的には、改革の 手法に着目し、1. 業績/成果主義、2. 市場メ カニズムの活用、3. 顧客主義、4. ヒエラルキ ーの簡素化-などによる」と述べている6)

財政の悪化に苦しむ日本でもNPMは注目さ れ始め、2001年、経済財政諮問会議の「骨太の 方針」により、NPM に基づく改革の必要性が 閣議で承認された7)。この後、NPM(特にイギ リスをモデルとした)に影響を受けた改革が検 討・実施されていった。2003年、地方自治法の 一部改正によって成立した指定管理者制度もそ の流れを受けたものである。次に、英国のNPM の主要な構成要素であり、指定管理者制度導入 への重要なステップとなったPFIについて述べ る。

2.3 PFI

1996年、橋本総理大臣は「行政改革」、「財政 構造改革」などの6つの改革を提唱し、首相直 属の「行政改革会議」を設置した。1997年に行 政改革会議は、「徹底的な規制の撤廃と緩和を断 行し、民間にゆだねるべきはゆだね、また、地 方公共団体の行う地方自治への国の関与を減ら

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さなければならない。『公共性の空間』は、決し て中央の『官』の独占物ではないということを、

改革の最も基本的な前提として再認識しなけれ ばならない」と提言している 8)。官の減量を図 る動きが活発になる中、イギリスで行なわれて いるPFI(Private Finance Initiative: 民間の 資金、ノウハウを活用した社会資本整備)に関 心を持たれるようになっていった。

1997年11月18日、経済対策閣僚会議が決 定した「21世紀を切り開く緊急経済対策」の中 で、PFI導入の検討が言及され、議論が急速に 展開されることになった。通商産業省(現経済 産業省)、建設省(現国土交通省)、経済界が積 極的な動きを示すほか、自民党で「民間資本主 導の社会資本整備(PFI)推進調査会」が設置 され、法案提出の環境が整備されていった。

1998年5月、PFI法は第142回国会に提出さ れた。法案は継続審議となり、1999 年6月、

当初案を撤回し、新法案を提出、1999年7月、

PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の 整備等の促進に関する法律)は成立した。同年 8 月、総理府(現内閣府)に民間資金等活用事 業推進室(PFI推進室)が設置され、各省庁の 連絡・調整に当たることになった。

日本においてPFIを導入しようとする際、障 害になっていたのが、「公の施設」に関する地方 自治法の規定である。前述の通り、管理委託制 度のもとでは、管理団体は公共団体・公共的団 体・地方公共団体の出資法人のうち一定の要件 をみたすものに限られ、また、公権力の行使を 伴う業務を行うことはできなかった。このこと から、PFI事業者が公の施設の運営を全面的に 行うことはできなかったのである。経済界など から公の施設に関する地方自治法の規定の改正 が主張されるようになり、指定管理者制度導入 の一つの要因となった。

2.4 指定管理者制度の導入

1990年代後半から動き始めた「官から民へ」

の流れは、2001 年4月に誕生した小泉政権に よって加速されていった。前述の2001年6月 26日に閣議決定された骨太の方針には、「『民間 でできることは、できるだけ民間に委ねる』こ

とを原則に、国民の利益の観点に立って、徹底 した行政改革を行い、特殊法人等や国営施設の 見直し、民営化を進めることが必要である」と 明記され、各所で官業民営化に向けて具体的な 検討が進められていった。

2002年 5月、経済産業省の研究会は、公共 性を確保した上で、「公の施設」の管理委託先を 民間に開放することを提言している 9)。同年 6 月17日、日本経済団体連合会は、「『公の施設』

に係る運営を広く民間 PFI 事業者に開放し、民 間事業者の創意工夫を最大限発揮できるよう

『公の施設の管理委託者』の範囲を民間 PFI 事 業者にも拡大し、民間PFI事業者の法的位置付 けを法令上明確にすべきである」との提言を行 っている10)。同年7月23日、総合規制改革会 議(内閣府)は、「現在においては、『民間でで きるものは官は行わない』という基本理念を確 立すべきである」という主張を行い、そして、

「より効率的な公共サービスを提供するために は、その提供方法の多様化を図ることが必要で あり、『公の施設』の管理の担い手を、民間事業 者等多様な主体に拡大すべきである」と述べて いる11)。その流れの中で総務省(片山虎之助総 務大臣)は同年8月28年、経済財政諮問会議 に提出した「総務省制度・政策改革ビジョン」

で「『公の施設』管理受託者の拡大に向けて積極 的に検討」すると述べ、制度の見直しを約束し た12)

指定管理者制度導入の重大な推進力となった のは構造改革特区であった。2002年6月25日 の「骨太の方針(2002年度版)」で、「進展の遅 い分野の規制改革を地域の自発性を最大限尊重 する形で進めるため、『構造改革特区』の導入を 図る。(中略)内閣官房に推進のための組織を設 け、総合規制改革会議等の意見を聴きつつ、地 方公共団体の具体的な提案等を踏まえて制度改 革の内容等の具体化を推進する」と述べられ13)、 同年7月26日、構造改革特区推進本部が内閣 官房に設置され、第 1 回の特区構想の提案募集 を行った。東京都足立区などから民間企業によ る公の施設の運営の実現の提案があり、同年 9 月 25 日、総務省は、「特定の地域に限定せず、

一般的な事項として、公の施設の管理受託者の

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範囲を拡大するよう、地方自治法等の規定の整 備を行う」と前述のビジョンと同様の考えを示 したが、構造改革特区推進室から、「貴省からの 回答では全国的に対応するとのことであるが、

対応時期、内容を明確にされたい」との再検討 要請が出された14)。再検討要請に対し総務省は、

「次期通常国会を念頭に、公の施設の管理受託 者の範囲を拡大するよう、地方自治法等の規定 の整備を行う」との回答を行った。それに対し て更に構造改革特区推進室は、「貴省の回答では、

『次期通常国会を念頭に』、また『公の施設の管 理受託者の範囲を拡大』とあるが、具体的な時 期と検討されている内容を示されたい。全国で 実施としているが、提案や意見にある民間企業、

特定非営利法人などを全て管理受託者の対象に 含める方向で検討されていると考えて良いか」

との再々検討要請を行っている15)。内閣官房の 強い意思によって総務省が早期の地方自治法改 正に追い込まれているのがこのやり取りから読 み取れる。

指定管理者制度は、経済界、経済官庁、地方 公共団体などの要望を受けた内閣官房のイニシ アチブの下に制度導入へと導かれていった。

2003年3月28日、「規制改革推進3か年計画」

が閣議決定され、その中で今国会中に地方自治 法の一部改正を行うことが記された。同年6月 に地方自治法の一部改正する法律が成立し、同 年9月2日、指定管理者制度は施行された。

指定管理者制度は施行されたが、図書館法第 13条1項「公立図書館に館長並びに当該図書館 を設置する地方公共団体の教育委員会が必要と 認める専門的職員、事務職員及び技術職員を置 く」、地教行法第34条「教育委員会の所管に属 する学校その他の教育機関の校長、園長、教員、

事務職員、技術職員その他の職員は、この法律 に特別の定がある場合を除き、教育長の推薦に より、教育委員会が任命する」により、図書館 長は教育委員会が任命する公務員であることが 求められていて、指定管理者制度導入への一つ の障害となっていた。

文部科学省は、2003 年7月の段階では図書 館長は公務員でなければならないとの従来の考 えを変更していなかった16)。しかし、状況は変

化していく。内閣府は、同年 10 月、地方公共 団体を対象に民間委託の阻害要因について意見 募集を行い、その調査結果を各省庁に示した。

その中で、公民館、図書館、博物館に関する阻 害要因として「必置職員に対する教育委員会の 任命」が挙げられ、文部科学省は対応に迫られ た。そして前述の通り文部科学省は、同年 11 月 21 日に開催された経済財政諮問会議におい て方針転換を発表し、館長業務を含めた全面的 な委任への途を開いた。

その後、文部科学省は特区申請の回答書にて、

「教育委員会は公務員たる職員については任命 を行いますが、教育委員会が図書館の管理を指 定管理者に行わせる場合で、任命権の対象とな る公務員たる職員がいないときには、地教行法 34 条は適用されません。すなわち、この場合、

図書館に館長を置く必要はありますが(図書館 法第13条第1項)、公務員でない館長について は教育委員会が任命する必要はないものです。

したがって、指定管理者に館長業務を含めた図 書館の運営を全面的に行わせることはできるも のと考えています」との解釈を示している 17)。 しかし、中嶋哲彦が述べているように、文部科 学省はこれ以上の具体的な対応をすることはな かった18)

2.5 図書館法改正をめぐる動き

2006年12月に教育基本法が全面改正された ことを受け、2008年6月、社会教育関連法(社 会教育法、図書館法、博物館法)が改正された。

この法改正では、直接指定管理者制度に影響す る条文の改正は行なわれなかったが、興味深い 動きが2点見られた。

1点目は、参議院文部科学委員会で渡海文部 科学大臣が、「今、17 年度、少し古くなります が、この社会教育調査によりますと、公立図書 館への指定管理者制度の導入率というのはまだ 1.8%なんですね。その最大の理由は、(中略)大 体指定期間が短期であるために、5 年ぐらいと 聞いておりますが、長期的視野にたった運営と いうものが図書館ということになじまないとい うか難しいということ、また職員の研修機会の 確保や後継者の育成等の機会が難しくなる、こ

(5)

ういう問題が指摘されておるわけでございます。

(中略)先ほど言いましたような点について、

しっかりとそういった懸念が起こらないように していただいた上で導入していただくというこ とが大事なのではないかなというふうに考えて おります」と述べ19)、図書館には指定管理者制 度がなじまないのではないかという考えを示し た。

2点目は、衆参両院で出された附帯決議の内 容である。衆議院の附帯決議には、「公民館、図 書館及び博物館等の社会教育施設における人材 確保及びその在り方について、指定管理者制度 の導入による弊害についても十分配慮し、検討 すること」20)、参議院の附帯決議には、「公民館、

図書館及び博物館等の社会教育施設における人 材確保及びその在り方について検討するととも に、社会教育施設の利便性向上を図るため、指 定管理者制度の導入による弊害についても十分 配慮して、適切な管理運営体制の構築を目指す こと」となっていて21)、両院の附帯決議ともに、

「指定管理者制度の導入による弊害」という文 言が入っている。附帯決議とはいえ、指定管理 者制度に係り「弊害」という言葉を用いられた のである。この2点から、当時指定管理者制度 に何らかの歯止めが必要ではないかという考え が広まりつつあったことが読み取れる。

2.6 2009 年以降

2009年の総選挙により、政権が民主党中心に よるものに交代した後も、指定管理者制度に抜 本的な見直しが加えられることはなかった。し かし、その中でも注目すべき動きが現れている。

2010年12月28日、総務省は自治行政局長 名で、「指定管理者制度の運用について」という 通知を出している22)。この通知では留意すべき 点として8項目を挙げているが、特に興味深い 項目は第2項の「指定管理者制度は、公共サー ビスの提供者を、議会の議決を経て指定するも のであり、単なる価格競争による入札とは異な るものであること」である。片山善博総務大臣 は、直後の記者会見で、「指定管理者制度が導入 されてから今日までの自治体のこの制度の利用 の状況を見てみますと、コストカットのツール

として使ってきた嫌いがあります」と述べてい る23)。この通知は、地方自治体がコストカット に力点を置きすぎていることへの警鐘であった。

片山善博総務大臣は、この記者会見で図書館 界にとって重要な発言をしている。それは、「本 来、指定管理になじまないような施設について まで、指定管理の波が押し寄せて、現れてしま っている(中略)。例えば、公共図書館とか、ま して学校図書館なんかは、指定管理になじまな いと私は思うのです。やはり、きちっと行政が ちゃんと直営で、スタッフを配置して運営すべ きだと、私なんかは思うのですね」と述べてい ることである。前項で渡海文部科学大臣の発言 を取り上げたが、指定管理者制度を管轄する総 務省のトップも、指定管理者制度は図書館にな じまないという発言をしたのである。この発言 は、公立図書館への指定管理者制度採用に反対 する人々を大いに勇気付けることとなった。

しかし、これらの発言は法的拘束力を有する ものではない。実際、リーマンショックによる 地方財政の深刻化、指定管理者制度を導入した 図書館への高評価などが要因となり、指定管理 者制度を導入する図書館は増え続けている。

3. 指定管理者制度の法的性格 3.1 管理委託制度と指定管理者制度

管理委託制度と指定管理者制度との主な違 いは以下の3点である。

① 管理委託制度は、契約によって行なわれるが、

指定管理者制度は、指定という行政行為によ って行なわれる。

② 管理委託制度は、「公共団体若しくは公共的 団体」などに受託者を限っていたが、指定管 理者制度は、受任者に特に制限を設けていな い。

③ 管理委託制度は、公権力の行使につながる業 務を行うことができなかったが、指定管理者 制度は、使用許可などの公権力の行使につな がる業務を行うことができる。

以下、これらの3点に対応して節を設け、現在 の指定管理者制度の問題点を含め、その基本的 性格について詳しくのべることにする。

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3.2 指定の法的性格

まず、「指定」という行為がどのような法的 性格を持っているのかについて述べる。

改正地方自治法は「法人その他の団体であつ て当該普通地方公共団体が指定するものに、当 該公の施設の管理を行なわせることができる」

(地方自治法第244の2第3項)となっているが、

条文に言う指定とはどのような法的性格を持っ ている行為なのかが問題となる。成田頼明が、

「従来の設置者と受託者との間の契約による管 理の委託という関係をやめて、設置者が管理を ゆだねるにふさわしい法人を指定し、行政処分 の性質をもつその指定を受けた管理者に公の施 設の管理を包括的にゆだねることとした。(中 略)指定管理者は、設置者から広範囲な管理権 の委任を受けて公の施設の設置者に代わって管 理やサービスを代行する主体となり」と述べて いるように24)、指定とは、管理委託制度の契約 とは違い、行政処分の性格を持つものであり、

指定管理者は地方自治体からの委任を受けて公 の施設の管理を行っているのである。

この通り、管理委託制度と指定管理者制度と ではその法的性格を異にしているが、丸山高弘 が、「公立図書館の場合は、直営+窓口業務委託 が長らく行なわれているので、指定管理者制度 に切り替えても、公務員は民間に命令するもの という感覚が拭いきれない」と述べているよう に25)、地方公共団体が、従来の制度と同じよう な対応をとってしまうことが多いのが現状であ る。

地方公共団体には、指定管理者の裁量の幅を 広くし、その代わりに成果による統制を行うこ とにより設置者としての責任を果たすこと、指 定管理者には、単なる利益獲得のための手段と してではなく、公の職務を担っているとの認識 を持って管理を行うことが求められる。

3.3 受任団体について

次に、受任団体について取り上げる。改正地 方自治法に、「法人その他の団体」(地方自治法 第244の2の3項)と記されているように、地 方公共団体は、営利企業や NPO など様々な団体 を指定管理者に選定することができるようにな

った。経済界がビジネスチャンスを得るために 積極的に働きかけたこととは別に、前述の特区 申請で現れたように、地方公共団体も受任団体 の範囲を拡大するよう国に働きかけていたので ある。

糸賀雅児が、「どうしてこういうことになっ たかというと、そもそもは数年前から公社委 託・団体委託ができるようになったことが背景 にあると私は理解しています。ところがこの公 社委託・団体委託にはいろいろな問題があった。

本来は民間のいいところと、地方自治体が 1/2 以上出資することで財政的にしっかりとすると いう双方のメリットを生かせるはずだったのに、

結果は逆で、むしろ両方の問題点やデメリット ばかりを残してしまったんですね」と述べてい るように26)、外郭団体による運営がはかばかし くないことから、地方公共団体は受任団体の範 囲の拡大を求めたのである。

指定管理者制度を採用したことにより、民間 のノウハウを公の施設の経営に生かすことがで きるようになったばかりではなく、末吉興一北 九州市長が、「これまで管理委託制度により簡単 に外郭団体などに特命などにより委託していま したが、選定から管理状況などをすべてオープ ンにすることにより、それぞれの施設を所管し ている部局の職員が管理経費を削減しつつ、市 民サービスを向上させるという経営感覚を持た ざるを得ない状況となった」と述べているよう に27)、外郭団体の経営能力が向上することが期 待できるようになった。

地方公共団体には、導入施設の性質や引き受 け手の状況を的確に把握し、最も的確な団体を 選定することが求められる。

3.4 公権力の行使について

次に、公権力の行使について取り上げる。

2003年7月17日、総務省自治局長名で出され た通知(総行行第87号)には、「地方公共団体 の長は、条例の定めるところにより、指定管理 者に使用許可を行なわせることができるもので あるが、使用料の強制徴収(第231条の3)、不 服申し立てに対する決定(第244条の4)、行政 財産の目的外使用許可(第238条の4第4項)

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等法令により地方公共団体の長のみが行うこと ができる権限については、これらを指定管理者 に行なわせることはできないものであること」

と記されている。このことは、市橋克哉が、「住 民の施設使用を許可する権限といった公権力の 行使である行政処分に関する権限も、民間の株 式会社を含む施設管理者に委任できることにな ったことである」と述べているように28)、指定 管理者は使用許可という行政処分、言い換える と公権力の行使を行うことができるようになっ たことを意味している。公務員でなければ公権 力の行使ができないという前提を覆すものであ る。

一方で、指定確認検査機関による建築確認に 関して最高裁は、地方公共団体は国家賠償法上 の賠償責任を負うという判断を示している 29)。 今井照が、「行政処分(公権力の行使)そのもの は、あくまで自治体が責任を負うべきという考 えのようだ」と述べているように30)、指定管理 者による公権力の行使であっても、その責任を 地方公共団体が負う可能性がある。このような 状況では、地方公共団体はリスクを軽減しよう として指定管理者の裁量を狭めてしまい、指定 管理者のノウハウが発揮できなくなる恐れがあ る。

もう1点述べたいことがある。それは、前述 の総務省の通知には使用許可以外の行政処分に ついて、何が委任可能かについて示していない ことである。公立図書館の場合では、長期延滞 者に対する貸出停止処分や酩酊者に対する退館 処分が委任可能かどうかについてははっきりと していないのである。このことから、各地方公 共団体が独自に判断する状況になってしまって いる。

現在の指定管理者制度は、公権力の行使とい う観点から見れば、未整備な所が多く、不安定 であると言わざるを得ない。法体系の根本的な 見直しを行い、指定管理者制度が抱える不安定 な要素を取り除く必要がある。

3.5 一般法と特別法

一般法と特別法との関係から指定管理者制 度の問題点を論じる。一般法とはより広い一般

的な法律であり、特別法はより特定の事項に限 られている法律のことを言う。法律の世界では

「特別法は一般法を破る」という原則があり、

例えば民法と商法の関係の場合、商法が特別法 であり商法が優先して適用されることになる。

倉澤生雄が、「指定管理者制度を採用するには、

個別法が規定する制約を受けることになる。本 稿の検討対象とする公立図書館の場合、地方自 治法上の公の施設であると同時に、図書館法の 規律を受ける施設であり、公立図書館に指定管 理者制度を採用する場合には、図書館法の制約 を受けることになる」と述べている通り31)、公 立図書館に指定管理者制度を導入する場合には、

一般法が地方自治法で、個別法(特別法)が図 書館法であり、図書館法が優先して適用される ことになる。

ここで取り上げたいのは図書館長の任命につ いてである。前述の通り、文部科学省は、図書 館法第13条、地教行法第34条について、図書 館長は必置であるが、指定管理者が公務員でな いときは館長を教育委員会が任命する必要がな いとの見解を示した。

この見解に対し、山口源治郎は、「地教行法 上の『教育機関の長』であり、図書館法上の公 立図書館の『館長』行政組織上の必置の『職』

ある。専任か兼任か、あるいは常勤か非常勤か は別として、教育委員会は館長職に公務員を任 命し、『館長』を称させなければならないのであ って、指定管理者が自ら雇用するものに『館長』

と称させることとは法的意味がまったく異なる のである。したがって、地教行法や図書館法上、

公立図書館の館長職に『公務員でない館長』が 就任する場合があると解釈することには相当の 無理がある。指定管理者制度を導入するための あまりで強引で不合理な解釈である」と述べて いる32)

図書館法、地教行法を字義通りに読むと山口 が主張していることはもっともである。鑓水三 千男が主張するように、指定管理者制度が成立 した以上、制度への賛否を棚上げにして、図書 館法の改正を行い、この問題に対する根本的な 解決を図るべきである33)

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4. 選定・モニタリング 4.1 選定

これから、指定管理者の選定、モニタリング について取り上げる。指定管理者制度導入のプ ロセスは大体以下の通りである。(法規上必須の ものとそうではないものがある。)

① 指定管理者制度を導入する施設の選定

② 公の施設の指定管理者の指定管理等に関す る条例の制定(もしくは設置条例の制定、改 正)

③ 選定委員会の設置

④ 指定管理者の募集

⑤ 説明会の実施

⑥ 指定管理者候補者の選定(書類審査・プレゼ ンテーション)

⑦ 債務負担行為の設定

⑧ 指定管理者の議決

⑨ 協定書の締結

⑩ 指定管理者による管理の開始

以上の導入のプロセスの中から、指定管理者 の募集、指定管理者候補者の選定について詳し く述べることにする。

まず、指定管理者の募集について述べる。公 募にするか、非公募にするかによって以後のス テップが大きく変わってくる。総務省は、公の 施設が多岐にわたっていることから、一律に公 募を課すことをしなかったが、2003年7月17 日の通知で複数の者から事業計画書を提出させ ることが望ましい旨示している34)。資料による と、指定管理者を公募した施設の割合は38.8%

である35)。公立図書館の公募の割合についてで あるが、その正確な数値は把握していないが、

民間企業・NPO が指定されている割合が高い ことから、全体の平均よりも高いのではないか と考える。それでも、非公募の事例が見受けら れる。その理由の一つに、地方公共団体の外郭 団体への配慮があるのではないかと考える。外 郭団体は地方公共団体の業務に依存しており、

指定から漏れる事は団体専属職員の解雇をもた らすのである。このことを考慮に入れると、第 1 回の選定時に公募を導入しなかったからとい っても、必ずしも非難されることではないと考

える。しかし、いつまでもその状況が続くこと は好ましいことではない。

地方公共団体には、外郭団体の専任職員に権 限委譲を行い、地方公共団体からの規制を緩和 することにより、外郭団体が競争団体と対等に 競うことができる環境を整備した上で、公募を 導入することが求められる。

次に、指定管理者候補者の選定についてであ る。選定は書類審査・プレゼンテーションの 2 段階で行なわれることが多い。書類審査は応募 者が提出した事業計画書(企画提案書)などを もとに行う。

選定について特に主張したいことは価格の みで候補者を決定しないことである。地方財政 が厳しい中、指定管理者に管理費の縮減を求め ることは理解できる。しかし、選定基準が価格 面に偏れば、ダンピングを招いてしまう。ダン ピングが進めば現場の労働環境が劣悪になり、

中・長期的にはサービスの低下は免れない。

選定委員会(地方公共団体)は、選定基準に 公立図書館・図書館員に対する認識・企画力・

労働環境の整備・CSR(企業の社会的責任)な どを設けるとともに、公立図書館のミッション の達成に最も適している応募者はどこかという 視点を持って選定を行うことが必要である。

4.2 モニタリング

ここではまずプリンシパル・エージェント理 論について述べる。プリンシパル・エージェン ト理論は、「経済行為者間の財・サービスの提供 関係を依頼人(プリンシパル)と代理人(エー ジェント)の関係として表し、両社の間で不完 全かつ不平等に配分された情報のためにプリン シパルに発生するリスク問題を軽減する方法を 分析する」ものである36)。指定管理者制度の場 合では、プリンシパルは地方公共団体であり、

エージェントは指定管理者である。

指定管理者制度は公の施設の管理を包括的 に委任するものであり、指定管理者が情報の非 対称性を利用して不当な利益を得ることを考慮 に入れなければならない。地方自治体がこのリ スクを軽減するのに用いるのがモニタリングで ある。埼玉県ふじみ野市の市営プールで起きた

(9)

事故は、委託業者への監視が不十分だったこと が原因の一つに挙げられている37)。この事件は モニタリングの重要性を改めて示すものとなっ た。

指定管理者制度では、指定管理者を統制する ために地方自治法に以下の規程を設けている。

・事業報告書の提出(第244条の2第7項)

・指定管理者の管理に対する調査、指導(第 244条の2第10項)

・指定の取り消し(第244条の2第11項)

これらの規程は、地方公共団体がモニタリング を行い、結果に対して必要な措置を取る事を求 めるものである。地方公共団体は効果的なモニ タリングを実施するため試行錯誤を重ねている。

公立図書館に指定管理者制度を導入している 地方自治体のモニタリングの事例を2例取り上 げる。

北九州市は毎年各所管局による所見評価を 行うほか、指定期間の最終年度に次回選定に向 けた評価を5段階評価で行っている。北九州市 戸畑図書館の指定管理者である(株)日本施設 協会は、2005年度からの管理業務に対し最高評 価を受け、次回選定(2008年度~2012年度)

で有利となるような加点も得ている。また、指 定管理者評価マニュアルの作成・公表、外部委 員からなる「北九州市指定管理者推進会議評価 部会」の設置などを行い、評価の客観化・透明 化に努めているのも特徴である。

千代田区は、「区による定常的評価」、「指定 管理者による自主的評価」、「千代田区図書館評 議会(外部委員で構成)」、「パフォーマンス指標 目標値の達成度」の4点から評価を行っている。

また、経営財務のモニタリングでは公認会計士、

労働環境のモニタリングでは社会保険労務士を 起用し、モニタリングの質の向上に努めている。

これらは、意欲的にモニタリングに取り組んで いる事例ではないかと考える。

指定管理者制度は、公の施設の管理を包括的 に委任するものである。しかし、決して「民間 への丸投げ」ではない。地方公共団体は公の施 設の設置者として、モニタリングを適切に実施

する責任がある。

5. まとめ

これまで指定管理者制度の成立過程、法的性 格について述べてきた、指定管理者制度は、ビ ジネスチャンスを得たい経済界、経済官庁、財 政危機に瀕している地方公共団体などの要望を 受けた内閣官房のイニシアチブの下によって誕 生したものである。総務省は追い立てられるよ うに法案を作成し、また、文部科学省は従来の 解釈の変更を迫られた。法体系の根本的な見直 しを行わないまま弥縫的に地方自治法を改正し たために、指定管理者制度は法的に不安定なも のになってしまっている。

図書館においても、公権力の行使(長期延滞 者に対する貸出停止処分など)、一般法と特別法 との関係(公務員ではない図書館長の任命)の 面で問題をはらんでいる。また、地方公共団体 の中には管理委託制度との違いを認識せず、従 来と同じような対応をしている所がある。

法整備を行い、指定管理者制度を「制度」と して確立することが求められる。

[参考・引用文献]

1) 本稿は、著者が東京大学大学院に提出した修士論 文“指定管理者制度と公立図書館―制度面から見る 指定管理者制度の問題点と可能性―”第1章、第2 章を一部修正したものである。

2) 公の施設とは、「住民の福祉を増進する目的をもつ てその利用に供するための施設」(地方自治法第 244条)である。公立図書館も公の施設である。

3) 文部科学省. “中央教育審議会生涯学習分科会(第 26回)議事録”. 2003.

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37) 2006年7月31日、ふじみ野市大井プール内の流

水プールの吸水口を覆っていた防護柵が脱落し、

女児が吸水口に吸いこまれ死亡した。当時ふじみ 野市はプールの管理等の業務を民間事業者に委託 していた。(指定管理者制度は採用されていない。)

受託業者は、仕様書に定められた人数の監視員を 配置していないなど、業務遂行態度がずさんであ った。その後の刑事裁判で、事故当時のふじみ野 市教育委員会体育課長、体育課管理係長は、管理 責任を果たさず、委託業者に丸投げしていた事を 問われ、有罪判決を受けている。

(たなか ひろき 金城学院大学図書館)

参照

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