古 代 日本 語 動 詞 の意 味 的 タイ プ と ヲ格 標 示 との 関 係

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「奈 良 大 学 情 報 処 理 セ ン ター 年 報No .10」

古 代 日本 語 動 詞 の意 味 的 タイ プ と ヲ格 標 示 との 関 係

九州女子大学 伊 土 耕 平 ※

1.は じ め に

周 知 の よ う に 古 代 日本 語 に お い て は 、 い わ ゆ る 目 的 語 を 表 す ヲ 格 が 、 標 示 さ れ た り さ れ な か っ た り し た 。 「竹 ヲ取 る … … 」 と 「竹 φ取 る … … 」 の よ う に(以 下 、 ヲ が 標 示 さ れ る 場 合 を 「ヲ」、 さ れ な い 場 合 を 「4」 で 示 す 。 「ヲ 」 は 単 に"格 助 詞 ヲ"の 意 味 で も使 用 す

る)。

ど の よ う な 場 合 に ヲ と な り、 ど の よ う な 場 合 に4と な る か 、 そ の 要 因 に つ い て は 、 す で に い ろ い ろ と説 が あ る 。 例 え ば 、 目 的 語 で あ る こ と を 特 に 強 調 し た い 場 合 に ヲ と な る 、 人 間 を 表 す 名 詞 で あ れ ば ヲ と な る 、"定"名 詞 で あ れ ば ヲ と な る 、 等 々 。 しか し 、 お そ ら く こ の 問 題 は 、 い くつ か の 要 因 が 複 雑 に 絡 ん で い る の で あ り 、 一 つ の 説 だ け が 正 し く他 の 説 は す べ て 間 違 い 、 と い う わ け で は な い 。

本 稿 は 、"動 詞 の 意 味 的 タ イ プ"と い う 要 因 を 検 討 す る の が 目 的 で あ る 。 つ ま り 、 あ る 種 の 動 詞 の 場 合 は ヲ と な る 率 が 高 い 、 な ど と 主 張 す る の で あ る 。 こ の 問 題 は 、 こ れ ま で そ れ ほ ど議 論 さ れ て こ な か っ た 。 しか し平 安 前 期 の 散 文 作 品 を調 査 し て み る と 、 結 論 を 先 に す る こ と に な る が 、 知 覚 動 詞 ・要 求 動 詞 な ど が ヲ が 標 示 さ れ る こ と が 多 い の で あ る 。

も っ と も 、 デ ー タ量 が そ れ ほ ど 多 く は な い の で 、 本 稿 で は あ く ま で"そ の よ う な 可 能 性 が あ る"と い う 程 度 の 主 張 し か で き な い 。 ま た 、 紙 幅 の 都 合 に よ り 、 ヲ が 多 い 動 詞 の み を 取 り上 げ る こ と に し 、 φが 多 い 動 詞 な ど に つ い て は 別 の 機 会 に す る 。

2.先 行 研 究

本 論 に 入 る 前 に 、 先 行 研 究 を 概 観 して お く。 ま ず 松 尾(1944)が 、 動 詞 を100種 ほ ど に 分 類 して φ対 ヲ に 差 が な い か 調 査 した が 、 と く に 傾 向 は な か っ た 、 と す る 。 し か し 、 動 詞 を ど の よ う に 分 類 し た か に つ い て は 何 も述 べ ら れ て い な い 。 松 尾 は 、 動 詞 で は な く名 詞 が 要 因 で あ る と し て 、 ヲ の つ く名 詞 が ① 人 に 関 す る 語 、 ② 代 名 詞 、 ③ 「事 」 「由 」、 ④ 準 体 言 の と き 、 ヲ が 標 示 さ れ る と結 論 し た 。

松 尾 の 言 う① ② ④ に つ い て は 、 私 の 調 査 で も確 か に ヲ が 多 か っ た が 、 ③ に つ い て は 必 ず し もそ う で は な か っ た 。 そ れ は と も か く、 動 詞 は φ対 ヲ に は 無 関 係 と い う の に は 従 え な い 。

次 に 、Motohashi(1989)と い う研 究 が あ る 。 本 稿 に 関 係 す る 部 分 だ け を 簡 単 に ま と め れ ば 、 次 の よ う に な る(3章4「 動 詞 の ク ラ ス か ら 見 た ヲ の 選 択 」)。

※元奈良大学文学部助教授

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「奈 良 大 学 情 報 処 理 セ ン タ ー 年 報No .10」

① 普 通 の 他 動 詞 一 他 動 性(transitivity)に よ っ て φ/ヲ が 決 ま る 。 例 え ば 、 目 的 語 が 人 間 ・定 名 詞 ・単 数 な ど の と き 、 他 動 性 が 高 く な る の で ヲ が 標 示 さ れ る 。

② 「別 る 」 タ イ プ ーBは ソ ー ス(そ こ か ら 心 理 的 ・物 理 的 に 離 れ る 対 象)で あ り、 万 葉 集 の 例 で は す べ て ヲ が 標 示 さ れ て い る 。 他 に 「背 く」 「離 る 」 な ど 。

③ 「問 ふ 」 タ イ プ ーBは ゴ ー ル(向 か っ て い く対 象)で あ る 。 ヲ が 常 に 標 示 さ れ る か ど う か に つ い て は 書 か れ て い な い 。 他 に 「祈 る 」 「婚 ふ 」 な ど。

④ 移 動 動 詞 一Bは ル ー ト(通 過 す る 所)で あ る 。 φ対 ヲ に つ い て は 書 か れ て い な い 。 こ の 論 文 は 、 日 本 語 の 格 標 示 の 史 的 変 化 を 理 論 的 に 説 明 し よ う と した も の で あ り、 φ対 ヲ が 主 な テ ー マ と い う わ け で は な い 。② ③ に つ い て は 、私 の 調 査 で も ヲ標 示 が 多 か っ た(た だ し数 は 少 な い)。 し か し① の 中 に も ヲ が 高 率 で 標 示 さ れ る 動 詞 が あ る 、 と い う の が 本 稿 の 主 張 で あ る 。

最 近 で は 、 田 中(1998)と い う 研 究 が あ る 。 田 中 は 『土 左 日記 』 を 調 査 し 、 次 の よ う な 結 果 を 得 た(表 記 を 本 稿 と 同 じ も の に 改 め る)。

① ヲ と4と で は 、 述 語 の 意 味 の あ り よ う に 差 異 が 認 め ら れ る 。

② ヲ の 方 に は 知 覚 を 表 す 動 詞 が と く に 多 く 、 心 情 も 比 較 的 多 い 。

③ φ の 方 に は 、 ヲ に 比 べ 、 接 触 や 授 受 を 表 す 動 詞 が 多 い 。

② と③ か ら 、 次 の よ う に 言 う。

④ ヲ に よ る 対 象 化 は 、 知 覚 や 心 情 と い っ た 心 理 的 ・内 的 な 作 用 に よ り、 助 詞 を 用 い な い 場 合 は 、 接 触 や 授 受 な ど の 物 理 的 ・外 的 な 働 き か け に よ る 、 とい う傾 向 が 認 め ら れ る 。

② に つ い て は 、 本 稿 で も 同 じ よ う な 結 果 を 得 た 。 しか し、 「知 覚 」 「心 情 」 以 外 に も ヲ が 多 い 動 詞 は あ る 。 ③ に つ い て は 、 授 受 動 詞 は た し か に φが 多 か っ た が 、 接 触 動 詞 は そ う で は な か っ た 。 ま た 、 ④ の よ う な ま と め か た が よ い の か ど う か は 疑 問 で あ る(後 述)。 調 査 範 囲 が 狭 い と い う 問 題 も あ る 。 し か し、 ② の よ う な 指 摘 は 、 管 見 の か ぎ り 田 中 が 最 初 で あ る 。 こ の 点 を 高 く評 価 し た い 。

言 う ま で も な く、 古 代 語 の 格 助 詞 に つ い て の 研 究 は 数 多 い が 、 動 詞 の 意 味 的 タ イ プ とC 対 ヲ の 相 関 に つ い て 言 及 した 研 究 は 、 管 見 の か ぎ りで は 、 上 の 三 研 究 だ け で あ る 。 しか し、

こ の 問 題 は 、 さ ら に 調 査 す る 必 要 が あ る と考 え る 。 次 節 で 、 私 の 行 な っ た 調 査 の 対 象 と方 法 に つ い て 述 べ よ う 。

3.調 査 の 対 象 と 方 法

調 査 の 対 象 と し た の は 『竹 取 物 語 』 『伊 勢 物 語 』 『土 佐 日記 』 『蜻 蛉 日記 』r古 今 和 歌 集 』r後 撰 和 歌 集 』 の 六 作 品 で あ る 。 い ず れ も 『新 日本 古 典 文 学 大 系 』(岩 波 書 店)の も の を テ キ

ス トに した(以 下 、 作 品 名 は 「竹 取 」 「竹 」 な ど と 略 記 す る)。

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し た が っ て 、 「古 代 語 」 と は 題 し た が 、 こ の 範 囲(平 安 前 期)で あ る 。 和 文 の 散 文 資 料 と し て は も っ と も 古 い 時 期 の ほ う に 属 す る も の 、 と い う つ も りで あ る 。 ま た 、 ジ ャ ン ル の 偏 りが な い よ う に も し た 。

竹 取 は 室 町 時 代 を 遡 る 伝 本 が な い な ど の 問 題 も あ る が(森 野1981)、 い ず れ も0度 は 調 べ て み る べ き作 品 で あ り、 調 査 の 手 始 め に 選 ぶ 作 品 と し て は 妥 当 で あ る と 考 え る 。 ま た 、 例 え ば 、伊 勢 は 諸 本 に よ っ て ヲ の 標 示/非 標 示 に 差 が あ る 、 な ど の 問 題 も あ る(山 口1987)。

結 局 本 稿 の 調 査 は 、 前 記 六 作 品 に つ い て 新 大 系 本 を 見 る 限 り 、 と い う 限 定 さ れ た も の で あ る 。

そ れ ぞ れ の 作 品 の 中 で は 「層 」 を 区 別 す る 。 「層 」 と は 、 歌 ・地 の 文 ・会 話 文 ・手 紙 文 ・ 詞 書 な ど の 区 別 を 言 う こ と に す る 。 各 層 の う ち 、 歌 と 、 あ ま り に デ ー タ量 の 少 な い も の は 対 象 か ら は ず し た 。 結 局 、 本 稿 で 調 査 対 象 と し た 作 品 お よ び 層 別 は 、 次 の と お りで あ る 。

① 竹 取 の 地 の 文(「 竹 地 」 と 略 記)

② 竹取 の会話 文(「 竹 会」

③ 伊勢 の地 の文(「 伊 地」

④ 土佐 の地 の文(「 土 地」

⑤ 蜻蛉 の地 の文(「 蜻 地」

⑥ 蜻蛉 の会話 文(「 蜻 会」

⑦ 古今 の詞書(「 古詞」

⑧ 後撰 の詞書(「 後詞」

j

〃) j

〃 。 手 紙 文 を 含 む) j

〃 。 「仮 名 序 」 は 含 ま な い)

〃)

以 下 に 、 例 え ば 「伊 勢 に1例 し か な い 」 な ど と言 う場 合 、 あ く ま で 伊 勢 の 上 の 範 囲 に1 例 と い う 意 味 で あ る 。

歌 を 除 外 し た わ け は 、m対 ヲ が 「調 整 可 能 な 事 象 と し て 扱 わ れ て し ま う 」(金 水1993) か ら で あ る 。 ま た 、 ⑤ 蜻 蛉 の 地 の 文 だ け 手 紙 文 を 含 め た が 、 蜻 蛉 で は 地 の 文 と 会 話 文 と で

φ/ヲ の 分 布 に 関 し て 有 意 差 が な か っ た か ら で あ る 。

次 に 、 具 体 的 な 作 業 に つ い て 述 べ る 。 ま ず 、 上 の 作 品 ・層 の 中 か ら ヲ と φの 例 を 一 つ0 つ 拾 っ て い き 、 デ ー タ ベ ー ス を 作 る 。 た だ し、 次 の よ う な も の は 採 ら な い こ と に した 。

① 係 助 詞 ・副 助 詞 の つ い て い る も の 例)花 ヲ も見 る 。 花 φ は 見 る 。

② 「題 φ知 らず 」 「詠 み 人 φ知 ら ず 」

③ サ 変 動 詞

例)返 事4す 。 い そ ぎ4す 。

④ 「物 」

例)物 φ見 て … … 。 物 φ思 ふ 。

⑤ 準 体 句

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例)花 の 散 る ヲ 見 て 詠 め る 。

⑥ 代 名 詞

例)こ れ ヲ 見 て … … 。 君 ヲ 思 ふ 。

採 ら な い 理 由 を 簡 単 に 述 べ れ ば 、① は 例 え ば 「花 ヲ しそ 思 ふ 」 と 言 う場 合 、 こ の ヲ は 「し そ 」 の 強 調 に 引 か れ て 付 け ら れ た と も考 え ら れ る 。 逆 に 、 例 え ば 「は 」 は 、 ヲ と 両 立 せ ず 、

ヲ を 消 して し ま う こ と が 多 い(ヲ バ と い う 形 も あ る こ と は あ る が)。 要 す る に 、 係 助 詞 や 副 助 詞 は 、 ヲ の 標 示/非 標 示 に 何 ら か の 影 響 を 及 ぼ す と考 え ら れ る の で あ る 。 ② の 「題C 知 ら ず 」 と 「詠 み 人 φ知 ら ず 」 は 、 合 計 す る と500例 以 上 も あ り 、 統 計 量 を ゆ が め て し ま

う恐 れ が あ る 。 ③ の サ 変 と④ の 「物 」 は4で あ る こ と が 圧 倒 的 に 多 く、 こ れ も統 計 量 を ゆ が め て し ま う 。 ⑤ の 準 体 句 と⑥ の 代 名 詞 は 、 逆 に ヲ で あ る こ と が 圧 倒 的 に 多 く(先 述 の 松 尾 の 結 論)、 こ れ も統 計 量 を ゆ が め て し ま う 。 ③ 〜 ⑥ に 関 し て は 、 具 体 的 な デ ー タ を 示 す べ き か も し れ な い が 、 こ こ で は 省 略 す る 。

デ ー タ ベ ー ス 作 成 の 次 は 、 動 詞 の 分 類 で あ る 。 ヲ 格 を と る 動 詞 の 意 味 分 類 と し て は 、 現 代 語 に 関 し て で あ る が 、 奥 田(1960)、 同(1968)が 基 本 的 な も の で あ る 。 本 稿 で も 基 本 的 な 考 え 方 は 奥 田 に 従 う 。 す な わ ち 、 「AガBヲC二(カ ラ 、 へ 、 ト な ど も)Vス ル 」 と い う文 型 で 言 え ば 、AがBに 直 接 働 き か け てBが 変 化 す る 、 と い う場 合 を 典 型 的 な 他 動 詞

と考 え る の で あ る 。

具 体 的 に は コ ー ド表 を 作 る わ け で あ る が 、 ま ず 大 綱 を 示 そ う 。 な お 、 古 代 語 で は 自 動 詞 と他 動 詞 が 同 形 の も の な ど が あ る の で 、 例 は 現 代 語 で 示 す(一 部 古 代 語)。

10番 代AがBに 直 接 的 に 働 き か け 、Bが 質 的 ・位 置 的 に 変 化 す る 。 例)花 ヲ 折 る 。 人 ヲ 殺 す 。 枝 ヲ 挿 す 。 酒 ヲ 飲 む 。 笛 ヲ 吹 く。

20番 代AがBに(命 令 な ど に よ り)間 接 的 に 働 き か け 、Bが 質 的 ・位 置 的 に 変 化 す る 。Bは 人 や 人 の 動 か す 乗 物 な ど 。

例)人 ヲ 呼 ぶ 。 車 ヲ寄 せ る 。 人 ヲ 慰 め る 。

30番 代AがBに 取 り組 む 。 つ ま り、Bは 結 果 的 に 生 ず る 事 物 で あ り 、Aが 働 き か け る の は 、 実 際 に はB以 外 の 人 や 物 で あ る 。

例)襖 ヲ行 な う 。 家 ヲ作 る 。 歌 ヲ 詠 む 。

40番 代 遣 り貰 い 。 つ ま り、AはBの 所 有 権 をCに/か ら や っ た り も ら っ た りす る 。 例)物 ヲ奉 る 。 文 ヲ 遣 る 。 物 ヲ い た だ く。

50番 代 態 度 表 明 。AがBに 対 し て あ る 態 度 を 表 明 す る 。Bは 人 間 の 場 合 と 事 物 の 場 合 が あ る 。

例)神 ヲ 祈 る 。 人 ヲ 求 婚 す る 。 人 ヲ 待 つ 。 人/事 ヲ 誉 め る 。 暇 ヲ 乞 う 。 60番 代 表 現 理 解 活 動 。BはAの 表 現 理 解 の 対 象 。

例)山 ヲ 詠 む 。 景 色 ヲ 見 る 。 事 ヲ 考 え る 。BヲCと 思 う 。

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70番 代 感 情 。BはAが 感 情 を持 つ 対 象 。

例)人 ヲ 恋 う 。 人 ヲ 恋 し く思 う 。 物 ヲ 求 め る 。

80番 代 空 間 的 ・時 間 的 移 動 。Bは 通 過 す る 場 所 ・時 間 あ る い は 離 れ る 起 点 な ど 。 例)関 ヲ通 る 。 家 ヲ 離 れ る 。 時 ヲ経 る 。 年 ヲ越 え る 。

99番 そ の 他 。 上 に 入 ら な い も の す べ て 。

一 つ 注 意 す る が、 同 じ動 詞 で も別 々 の と こ ろ に 分 類 さ れ る こ とが あ る 。 例 え ば 「詠 む 」 と い う動 詞 は 、Bが 「歌 」 な ど 表 現 作 品 で あ れ ば30番 代 、 「山 」 な ど 表 現 さ れ る 対 象 で あ れ ば60番 代 と な る 。

次 に 細 分 類 を 示 す 。 た だ し紙 幅 の 都 合 に よ り、 本 稿 の 結 論 に 関 係 の あ る も の だ け に す る 。 す な わ ち 、50〜70番 代(合 計14項 目)で あ る 。

50番 代 態 度 表 明

51要 求 的 態 度 。B=人 。Bに 対 し て 何 か を 要 求 す る 。

例)神/人 ヲ祈 る/頼 む/念 ず る 。 人 ヲ 語 ら う/Qめ る/婚 う 。 52要 求 的 態 度 。B一 物 事 。 人 に 対 し てBを 要 求 す る 。

例)文 ヲ 召 す 。 暇 を 乞 う/言 う 。 事 ヲ 許 す 。

55非 要 求 的 態 度 。Bに 対 す る 態 度 を行 為 に よ っ て 示 す 。 例)人 ヲ 訪 ね る/招 く/待 つ/見 送 る/守 る 。

56非 要 求 的 態 度 。 評 価 的 ・表 現 的 態 度 。 例)人 ヲ 誉 め る/叱 る/誇 る 。

57非 要 求 的 態 度 。 意 志 表 明 。

例)事 ヲ 定 め る/承 知 す る/受 入 れ る 。 茶 ヲ 断 つ 。 人 ヲ 否 ぶ/背 く。

60番 代 表 現 理 解 活 動 61B一 表 現 題 材 。

例)昔 の 事 ヲ 話 す/言 う/書 く。 山 ヲ 詠 む/絵 に 書 く。

62知 覚 。

例)景 色 ヲ 見 る/見 つ け る 。 音 ヲ 聞 く。 香 ヲ か ぐ。

63知 的 理 解 。

例)Bヲ 知 る/数 え る/試 み る 。 事 ヲ 考 え る 。 話 ヲ 聞 く。 文 ヲ読 む/見 る 。 64思 考 。 判 断 。

例)BヲCと 見 な す/思 う/知 る/間 違 え る 。BヲCと 比 べ る 。 65記 憶 。

例)Bヲ 覚 え て い る/思 い 出 す/忘 れ る 。 66伝 達 。

例)事 ヲ 人 に伝 え る/指 示 す る 。 物 ヲ 見 せ る 。

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70番 代 感 情 71感 情 。

例)人/物 ヲ恋 う/思 う/偲 ぶ/忌 む/恨 む 。 72感 情 的 認 識 。

例)Bヲ 恋 し く思 う 。 73志 向 。

例)Bヲ 目 指 す/探 る/欲 しが る 。

こ れ ら の 分 類 コ ー ドは 、 何 回 か の 試 行 の 結 果 出 来 上 が っ た も の で あ る 。 す な わ ち 、 φ対 ヲ の 要 因 を探 る と い う 目 的 を に ら み つ つ 、 理 論 的 に 考 え て 分 類 の 枠 組 を 作 る → デ ー タ を 実 際 に 分 類 して み て 枠 組 を 修 正 す る 、 の 繰 返 しの 結 果 出 来 上 が っ た の で あ る 。 当 然 他 の 分 類 方 法 も あ り う る 。 例 え ば 酒 井(1990)の よ う な 、 他 動 性 を 尺 度 と し た す っ き り と した 分 類

も よ い か も しれ な い 。 本 稿 の 分 類 は 、 ま だ 完 壁 と は 言 い が た い 。

次 に 、 実 際 の 用 例 一 つ 一 つ(=デ ー タベ ー ス の1レ コ ー ド)に コ ー ド番 号 を 振 っ て い く。

実 際 の 用 例 の 中 に は 、 ど の 分 類 に 入 れ れ ば よ い か 迷 う も の も 少 な く な い が 、 そ の よ う な 場 合 は あ ま り無 理 を せ ず 、99「 そ の 他 」 に 入 れ た 。

最 後 に 、 作 品 別 ・層 別 に 集 計 し、 ヲ の 使 用 率 の 高 い も の と φの 使 用 率 の 高 い も の を 明 ら か に す る わ け で あ る 。

4.調 査 結 果

問 題 は 、 動 詞 の コ ー ド別 に 見 て 、 φ対 ヲ に 差 が あ る か ど う か で あ る 。 しか も 、 作 品 ご と に ヲ の 使 用 率 が 異 な る の で あ る か ら 、 作 品 別 に 集 計 す る の が 理 想 で あ る 。

こ こ で は 、 紙 幅 の 都 合 上 、 あ る 程 度 用 例 数 が あ り、 か つ ヲ の 標 示 率 が 高 か っ た も の 、 だ け を 紹 介 す る こ と に す る 。 具 体 的 に は 、 「62.知 覚 動 詞 」 「63.知 的 理 解 動 詞 」 「64.思 考 動 詞 」

「71.感 情 動 詞 」 「51.要 求 動 詞 」 「73.志 向 動 詞 」 の 六 タ イ プ で あ る(デ.̲̲.タ 量 の 多 い 順 。 0部 コ ー ド順)

。 以 下 、 コ ー ド番 号 で は な く、 こ れ ら の 動 詞 の 名 前 を 使 う こ と に す る 。 作 品 別 ・動 詞 別 に φ対 ヲ の 数 を ま と め る と別 表 の よ う に な る 。 表 の 最 下 段 に は 作 品 別 に 見 たm対 ヲ の 数 と ヲ の 割 合 を 示 し て い る の で 、 そ こ か ら 、 ヲ の 使 用 率 は 竹 地 ・竹 会 ・古 詞 で 高 く、 蜻 地 ・蜻 会 で 低 い 、 六 作 品 全 体 の 平 均 で は ヲ が や や 多 い 、 な ど の こ とが わ か る 。 以 下 、 動 詞 別 に 具 体 例 を 掲 げ 、 検 討 し て い き た い 。 な お 、 以 下 に お い て 「16対20」 な ど の 言 い 方 を す る こ と が あ る が 、 そ れ ら は す べ て 「mの 個 数 」 対 「ヲ の 個 数 」 の 意 で あ る 。

4.1知 覚 動 詞

こ れ は 、 「見 る 」 「見 遣 る 」 「見 付 く」 「見 出 す(=中 か ら外 を 見 る)」 「見 置 く」 「眺 む 」 「眺 遣 る 」 「ま ぼ る 」 「ま ぼ り交 す 」 と 「(音 を)聞 く」 と い う 、 単 純 な 感 覚 的 理 解 を 表 す 動 詞

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別表 作 品別 ・動 詞別集 計(*=5%未 満 の危 険率 で有 意。本 文参照)

竹地 竹会 伊地

十 地 蜻 地

蜻会

古詞

後詞

計(ヲ%)

知 覚 動 詞 φ 3 2 8 2 7 7 29

11* 4 10 8* 26* 2 23* 23 107

(78.7)

知 覚 理解 φ 2 1 11 2 16

7 3 4 3 9 2* 2 30

(65.2)

思 考動 詞 φ 2 4 6

1 1 4 3 n* 5 2 25

(80.6)

感 情 動 詞 φ 1 1 1 1 3 4 11

2 2 n* 3 1 2 8 27

X71.1)

要 求動 詞 φ 0

1 6* 3 6* 6* 22

(loo.o>

志 向動 詞 φ 2 1 3

1 1 6* 4* 1 2 15

(83.3)

作 品 ・層 φ 51 47 83 51 269 58 70 !52 781

全体

118 78 104 62 182 21 114 194 873

(52.8)

ヲ% 69.8 62.4 55.6 54.9 40.4 26.6 62.0 56.1 52.8

合 計

169 125 187 113 451 79 184 346 1654

で あ る(今 回 の 調 査 に 出 現 し た 語 を す べ て(敬 語 形 や ア ス ペ ク ト形 式 が 付 加 し た も の は 除 く)記 す 。 以 下 の 動 詞 に つ い て も 同 様)。 も っ と も 、 「眺 む 」 「眺 遣 る 」 な ど は 、 単 純 に"見 る"意 だ け で は な く 、 そ の 点 問 題 だ が 。

六 作 品 全 体 で 「見 る 」類 が125例 、「聞 く」が11例 で 、計136例 あ っ た 。 う ち107例(78.7%) で ヲ が 標 示 さ れ て い る(表 の 右 端 を 参 照)。

作 品 別 に 見 て も 、 ど れ も ヲ の ほ う が 多 い 。 表 で は 、 カ イ ニ 乗 検 定 を し て5%未 満 の 危 険 率 で 有 意 と な っ た も の に*を 付 け て あ る(例 え ば 、 竹 地 の 知 覚 動 詞 は4対 ヲ が0対11だ が 、

そ れ は 竹 地 全 体 の51対118に 対 し て 有 意 差 が あ る)。 そ れ を 見 る と半 分 の 作 品 で 有 意 と な っ て い る 。 竹 会 と蜻 会 だ け 差 が な い が 、 数 が 少 な い の で あ ま り重 要 視 し な い で よ か ろ う 。 知 覚 動 詞 は ヲ 標 示 の 率 が 高 い 。

ヲ の 例 を 掲 げ て お こ う 。 用 例 に は 、 作 品 ・層 別 ・所 在 を 示 す 。 所 在 は 、 古 今 と後 撰 は 国 歌 大 観 番 号 、 そ れ 以 外 は テ キ ス トの ペ ー ジ(左3桁)と 行 数(右2桁)で 示 す 。 「… … 」

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は 私 に よ る 省 略 で あ る 。 テ キ ス トは 、 都 合 に よ り表 記 を … 部 改 め る 。 (1)人 間 に も 月 ヲ 見 て は 、 い み じ く泣 き 給 ふ(竹 地06002)

(2)男 の 隠 れ て 女 ヲ 見 た り け れ ば 、(後 詞1153) (3)と ほ 山 ヲ な が め や れ ば 、(蜻 地16514) (4)雁 の 声 ヲ 聞 き て 、(古 詞30)

他 方 、m標 示 は29例 だ が 、 主 な も の を 三 種 に 分 類 して 掲 げ よ う 。

① 「見 に 」

(5)春、 花 φ見 に 出 で た り け る に 、(後 詞99) (6)祭4見 に 出 で た れ ば 、(蜻 地07813)

(7)仁和 帝 … … 布 留 の 滝 φ御 覧 じ に お は し ま し て(古 詞396)

② 意 志 表 現

(8)女 ど も 、 花 φ見 む と て 、(後 詞112) (9)こ の 貝 、 顔4見 ん(竹 会04804)

③ 連 体 修 飾 節 内

(1◎女 車 、 紅 葉 φ見 け る つ い で に(蜻 地10706)

(11)法皇 、 宮 の 滝 と い ふ 所m御 覧 じ け る 、 御 供 に て(後 詞1356)

④ そ の 他

① の 「花 φ見 に 」 は 、 「花 見 」 で 一 つ の 複 合 語 と 考 え る こ と も可 能 で あ る(参 考 『(小学 館)古 語 大 辞 典 』 な ど)。 要 す る に 「花 」 と 「見 る 」 と の 間 が 密 接 な の で あ る 。 「祭m見 に 」

「滝 φ見 に 」 も、 構 文 上 は 似 た よ う な と こ ろ が あ る 。 ② ③ は 、 デ ー タ は 省 略 す る が 、 す べ て の 動 詞 で φで あ る 率 が 高 い 。 ② 意 志 表 現 は 簡 潔 さが 要 求 さ れ る こ と 、 ③ 連 体 節 は 節 内 部 の 緊 密 度 を 高 め る(ま と ま り を つ け る)た め 、 φの ほ う が 多 く使 用 さ れ る と 考 え る 。 と す れ ば 文 法 的 な 問 題 で は な く、 文 体 上 の 問 題 で あ る 。 数 は 、 ⑦ ② ③ 合 わ せ て22例 あ り、 知 覚 動 詞 の4の 例 の76%を 占 め る 。 要 す る に 、 知 覚 動 詞 のmの 例 は 、4で あ る 必 要 が 別 に あ る

"例 外 的"な も の が 多 い と 言 え る

以 上 の こ と か ら、 知 覚 動 詞 は ヲ 標 示 が 原 則 で あ る と 考 え る 。 先 述 の 田 中 説 と 同 じで あ る 。

4.2知 的 理 解 動 詞

こ れ は 「知 る 」 「思 知 る 」 「(心/文 を)見 る(一 知 る/読 む)」 「(話 を)聞 く」 「見 聞 く」

と い う 、 知 覚 動 詞 に 比 べ て 、 高 度 な 理 解 を す る と い う 意 味 の 動 詞 で あ る 。 ま ず は ヲ 標 示 の 例 を掲 げ る 。

(12)玉の 取 りが た か り し事 ヲ 知 り給 へ れ ば な ん 、 勘 当 あ ら じ と て 、(竹 会04005) (13)さる さ が な き え び す 心 ヲ 見 て は 、 い か"は せ ん は 。(伊 地09408)

働 か ・る 身 の 果 て ヲ 見 聞 か ん 人 … …(蜻 地13508)

(9)

「奈 良 大 学 情 報 処 理 セ ン タ ー 年 報No .10」

知 的 理 解 動 詞 は 、 知 覚 動 詞 の 高 度 な も の と考 え れ ば 、 ヲ 標 示 と な りそ う だ が 、 ヲ の 例 は 、 六 作 品 全 体 で65%と 、 あ ま り多 くな い 。 しか し蜻 蛉 だ け が4が 多 く、 全 体 の ヲ の 率 を 下 げ て い る と い う側 面 が あ る 。 蜻 蛉 の デ ー タ を 除 く と 、5対!9で 、 ヲ の 割 合 が79%に 上 が る 。

次 に φの 例 を 挙 げ よ う 。

(15)心ば へm知 り た る 人 の 、(蜻 地11912)

(16)せん 方4知 らず あ や し くお き ど こ ろ な き を 、(蜻 地11205) (1の女 、 歌 よ む 人 な り け れ ば 、 心 φ見 む と て 、(伊 地09802)

(18)あひ 知 りて 侍 りけ る 人 の も と に 、 「返 事 φ見 む 」 と て つ か は し け る(後 詞510) (15×16)のよ う な 「知 る/ら ず 」 は8例(φ の 例 の 半 数)あ る が 、(16)など は 慣 用 句 な 固 定 的 な 表 現 と言 え そ う で あ る 。(17×18は先 述 の 意 志 表 現 で あ る 。 とす れ ば 、 前 項 の 知 覚 動 詞 と 同 じ く、mの 例 を 特 殊 な も の と考 え る こ と も で き る 。 よ っ て 、 こ の タ イ プ も ヲ が 標 示 さ れ る 率 が 高 い と 考 え る 。

4.3思 考 動 詞

こ れ は 「(事 を)思 ふ 」 「思 遣 る 」 「思 成 す 」 「思 定 む 」 「眺 思 ふ 」 「念 ず 」 と い う 、 頭 の 中 で い ろ い ろ 考 え る 、 ま た 、 何 か を 判 断 す る 、 と い う 意 味 の 動 詞 で あ る 。 知 覚 動 詞 、 知 的 理 解 動 詞 に 比 べ 、 さ ら に 高 度 な 精 神 作 用 の よ う に 思 わ れ る 。

こ の タ イ プ の 動 詞 は 、 ヲ 標 示 が 六 作 品 全 体 で81%と 、 高 率 で あ る 。 ヲ の 例 か ら 掲 げ よ う 。 (19)には か に か ・る 事 ヲ 思 ふ に 、(蜻 地11912)

⑳ 今 日 は 白 馬 ヲ 思 へ ど 、 か ひ な し。(土 地00806)

⑳ そ の を と こ 、 身 ヲ え う な き物 に 思 な し て 、(伊 地08703)

⑳ ま た 弓 の こ と ヲ念 ず る に 、(蜻 地10907)

⑳ は い わ ゆ る"認 識 構 文"で あ る(後 述)。

mの 例 に は 、 次 の よ う な も の が あ る 。

23)あが 仏 、 何 事 φ思 ひ た ま ふ ぞ 。(竹 会06106)

¢4今 日 ま し て 思 こ ・ろ4お し は か ら な ん 。(蜻 地13008)

こ の 思 考 動 詞 の デ ー タ の う ち 有 意 差 が あ っ た の は 蜻 地 だ け で あ る が 、mと ヲ の 分 布 を全 体 的 に 見 て 、 ヲ標 示 の 可 能 性 が 高 い と判 断 した い 。

4.4感 情 動 詞

こ れ は 「惜 し む 」 「(人 を)思 ふ(一 恋 ふ)」 「好 む 」 「恋 ふ 」 「(思 ひ)嘆 く」 「恨 む 」 「思 煩 ふ 」 「哀 れ が る 」 「厭 ふ 」 「思 倦 む 」 「思 悔 る 」 「思 憂 ず 」 と い う 、Bに 対 し て あ る 感 情 を 持 つ と い う 意 味 の 動 詞 で あ る 。

こ の タ イ プ は 、 ヲ標 示 が 六 作 品 全 体 で71%で あ る 。 ま ず ヲ 標 示 の 例 を 挙 げ て お こ う 。

(10)

「奈 良 大 学 情 報 処 理 セ ン ター 年 報No .10」

⑳ 春 ヲ 惜 し み て 、 よ め る(古 詞130)

⑳ 昔 、 若 き を と こ 、 異 し う は あ ら ぬ 女 ヲ 思 ひ け り。(伊 地11801)

⑳ た ち 別 れ な む こ と ヲ 、 … … 嘆 か し が り け り。(竹 地06406)

⑱ 時 に 遇 は ず し て 、 身 ヲ恨 み て 籠 り侍 け る 時(後 詞1245) な お 、 次 の よ う な 「BヲCト/ク/二 思 ふ 」 と い う例 が あ る 。

⑳ 翁 ヲ 「い と ほ し く、 か な し」 と お ぼ しつ る 事 も 失 せ ぬ 。(竹 地07412) (30)深草 に 住 み け る 女 ヲ 、 や う や う あ き が た に や 思 け ん 、(伊 地19204)

こ れ ら も い わ ゆ る 認 識 構 文 で 、 感 情 動 詞 の 数 に は 入 れ て い な い(「72.感 情 的 認 識 」 に 入 れ た)。 も し こ れ ら も 入 れ て よ い の で あ れ ば(「 悲 し と 思 す 」 な ど 全 体 で 一 つ の 感 情 動 詞 と 考 え る わ け で あ る)、 こ れ ら は11例 す べ て ヲ な の で 、11対38に な る 。 ヲ が78%と 、 さ ら に 高 率 に な る 。

他 方 、 φの 例 は 「惜 し む 」 が 多 い 。

⑳ か の 国 人 、 馬 の は な む け し 、 別 れ φ惜 しみ て 、(土 地Ol706) (32)帰りが て に し て 別 れ φ惜 し み け る に(古 詞388)

(33)かれ こ れ 花 φ惜 しみ け る 所 に て(後 詞95)

130命 φ を し む と 人 に 見 え ず も あ り に しが な と の み 念 ず れ ど 、(蜻 地09813)

「惜 し む 」 は4の 例11例 の う ち7例 を 占 め る

。 と く に 「別 れ φ惜 し む 」(4例)と い う の は 固 定 的 な 表 現 の よ う で あ る 。 他 に は 「事4好 む 」 が2例 あ り、 こ れ も 固 定 的 な 表 現 で あ る 。 特 定 の 動 詞 が 多 か っ た り、 固 定 的 表 現 で あ っ た り 、Cの 例 は む し ろ 特 殊 で あ る こ と か ら 、 感 情 動 詞 も ヲ 標 示 の 可 能 性 が 高 い と 判 断 す る 。 こ れ も 田 中 説 と 同 じ で あ る 。

4.5要 求 動 詞

こ れ は 「言 ふ/相 言 ふ/言 入 る/語 ら ふ(=以 上 、 求 婚 す る 意)」 「祈 る 」 「(仏 を)念 ず 」

「頼 む 」 「婚 ふ(あ ふ/よ ば ふ)」 「制 す 」 で

、B(人 や 神)に 対 し て 何 ら か の 依 頼 的 ・要 求 的 な 態 度 を 表 す と い う 意 味 の 動 詞 で あ る 。 コ ー ド表50番 代 の 「態 度 表 明 動 詞 」 の う ち 、 人 に 対 し て 依 頼 的 ・要 求 的 態 度 を 表 す も の を 特 立 し た わ け で あ る 。 依 頼 的 ・要 求 的 で あ れ ば 、Bに 対 す る 心 理 的 な 志 向 作 用 が 、 よ り強 い の で は な い か と 考 え た の で あ る(志 向 動 詞 と の 違 い に つ い て は 後 述 す る)。 な お 、Motohashiの 言 う 「問 ふ タ イ プ 」 の 動 詞(B一 ゴ ー ル の も の)は 、 こ こ に 含 ま れ る 。 も っ と も 「問 ふ タ イ プ 」 の 外 延 は そ れ ほ ど 明 確 で は な い 。

「B一 ゴ ー ル 」 と い う の が 条 件 で あ れ ば、 次 項 の 志 向 動 詞 も 入 る で あ ろ う 。 (35)女ヲ と か くい ふ こ と 月 日経 に け り。(伊 地17301)

(36)異人 ヲ あ ひ か た ら ふ と 聞 き て つ か は し け る(後 詞1283) (37)日一 日 、 夜 も す が ら 、 神 仏 ヲ 祈 る 。(土 地02315)

(38)すだ れ ヲ た の み た る も の ど も我 か 人 か に て … …(蜻 地21410)

(11)

「奈 良 大 学 情 報 処 理 セ ン ター 年 報No .10」

劔 だ け 「簾 」 で 、 人 で は な い が 、 擬 人 的 な 表 現 と考 え る こ と が で き る 。

数 は 多 く は な い が 、 す べ て ヲ が 標 示 さ れ て い る 。 有 意 差 の 出 た 作 品 が 多 い こ と も考 え て 、 要 求 動 詞 は ヲ 標 示 が 多 い と考 え る 。

4.6志 向 動 詞

こ れ は 「求 む 」 「追 ふ(=目 指 す)」 「指 す(=目 指 す)」 「(便 り を)尋 ぬ 」 「(機会 を)窺 ふ 」 「探 る 」 で あ る 。Bは 物 や 所 で あ り 、 そ れ をAが 探 し求 め た り 目 指 し た りす る の で あ る 。

前 項 の 要 求 動 詞 も志 向 作 用 を 含 む が 、 そ れ が 主 で は な い 。 例 え ば 「女 を 語 ら ふ 」 と 言 う場 合 、Aの 気 持 ち が 女 に 向 い て い る の は 確 か だ が(つ ま り志 向 作 用)、 そ れ が 「語 ら ふ 」 の 意 味 の 中 心 な の で は な い 。 そ れ に 対 し て こ ち ら の 志 向 動 詞 は 、 気 持 ち の 方 向 性 が よ り 明 確 で あ る 。 そ して こ ち ら は 、Bが 人 で は な い し 、 依 頼 的 ・要 求 的 側 面 も な い 。 も ち ろ ん 、 態 度 を表 明 す る わ け で も な い 。

例 を掲 げ よ う 。

(39)枇杷 左 大 臣 、 用 侍 て 、 楢 の 葉 ヲ 求 め 侍 け れ ば 、(後 詞1182)

40)・・… ・大 湊 よ り、 奈 半 の 泊 ヲ 追 は む 、 と て 、 漕 ぎ 出 で け り。(土 地OlOO9) q1)三笠 山 ヲ さ して 行 くか ひ も な く、(蜻 地16205)

こ の タ イ プ の 動 詞 も、 数 は 少 な い(18例)が 、83%に ヲ が 標 示 さ れ て い る 。 ヲ 標 示 の 可 能 性 が 高 い と判 断 した い 。

5.結 論 と 補 足

以 上 の こ と か ら 、 知 覚 動 詞 ・要 求 動 詞 は ヲ 標 示 が 高 率 で あ っ た と 結 論 す る 。 知 的 理 解 動 詞 ・思 考 動 詞 ・感 情 動 詞 ・志 向 動 詞 も 、 完 全 に 実 証 す る こ と は で き な か っ た が 、 そ の 可 能 性 は 高 い と思 わ れ る 。 今 後 さ ら に 調 査 し た い 。

こ れ ら の 動 詞 に 共 通 す る こ と は 、B(対 象)に 対 し て 直 接 働 き か け る の で は な い こ と で あ る 。 奥 田 の 言 葉 で 言 え ば 、 「は た ら き か け 」 で は な く 「か か わ り」 を 表 す 動 詞 で あ る 。 具 体 的 な 働 き か け を 意 味 と し て 持 つ 動 詞 が 典 型 的 な 他 動 詞 で あ る と す れ ば 、 知 覚 動 詞 な ど は 典 型 的 で な い 他 動 詞 で あ る 。 こ の よ う な 働 き か け 性 を 持 た な い 動 詞 か ら優 先 的 に ヲ が 標 示 さ れ た の だ と す れ ば 、要 す る に 、こ れ ら の 動 詞 は 、言 わ ば 働 き か け 性 が 弱 い の で ヲ に よ っ て 補 わ れ る こ と が 必 要 だ っ た と い う こ と に な る 。 こ れ は 興 味 深 い こ と で あ る 。 し か し 、 動 詞 全 体 の デ ー タ を 見 て こ の よ う に 言 え る か と 言 え ば 、 ま だ ま だ こ の よ う に 断 言 す る こ と は で き な い 。 今 後 さ ら に 調 査 す る 必 要 が あ る 。

ま た 、 他 の 要 因 も 加 味 す る 必 要 が あ る 。 例 え ば 、 先 に 述 べ た 、Bが 人 間 を 表 す 名 詞 で あ る 場 合 や 定 名 詞 で あ る 場 合 な ど も 、 私 の 調 査 で も 、 ヲ標 示 の 傾 向 が 多 少 見 ら れ た 。 よ っ て 厳 密 に 判 断 す る の で あ れ ば 、 こ れ ら の 要 因 も 考 慮 す べ き で あ る 。 今 後 の 課 題 と し た い 。

(12)

「奈 良 大 学 情 報 処 理 セ ン タf,一.1}報No .10」

な お 、 現 代 語 に 関 し て"認 識 構 文"の 議 論 が あ る(三 原1994:115‑127な ど)。 本 稿 に 関 係 の あ る 部 分 だ け を 取 り上 げ る と 、 「BヲCト 思 う」 な ど の 構 文 に お い て 、 ヲ が 省 略 で き な い と 言 う の で あ る 。 結 論 か ら言 え ば 、 本 稿 の デ ー タ に お い て も 、 こ の よ う な 構文 で は す べ て の 例 に お い て ヲ が 標 示 さ れ て い た(コ ー ド64の 一 部 と72全 部 。 詳 細 は 省 略)。 か な り

古 くか ら 、 こ の よ う な 構 文 で は ヲ が 標 示 さ れ て い た こ と に な る 。 こ の 点 も興 味 深 い 。 ヲ が 高 率 で 標 示 さ れ る と 見 ら れ る 動 詞 は 、 調 査 範 囲 を 広 げ て デ0タ 量 を 増 や せ ば 、 さ ら に 発 見 で き る か も し れ な い 。 逆 に 、 φ標 示 が 多 い 動 詞 も あ る 。 そ れ ら に つ い て は 、 別 の 機 会 に 述 べ る こ と に す る 。

引 用 文 献

奥 田 靖 雄(1960)「 を 格 の か た ち を と る 名 詞 と 動 詞 の く み あ わ せ 」(言 語 学 研 究 会 編 『日本 語 文 法 ・連 語 論(資 料 編)』(む ぎ書 房 、1983)に 再 録 の も の に よ る)

(1968)「 を 格 の 名 詞 と動 詞 の くみ あ わ せ 」(同 上)

金 水 敏(1993)「 古 典 語 の 『ヲ』 に つ い て 」 仁 田 義 雄 編 『日本 語 の 格 を め ぐ っ て 』 く ろ し お 出 版

酒 井 峰 男(1990)「 他 動 性 に よ る 動 詞 の 分 類 」 『(名古 屋 大 学 日本 語 学 科)日 本 語 教 育 論 集 』 1

田 中 牧 郎(1998)「 レ ポ ー一 ト③ 」 青 葉 こ と ば の 会 編 『日 本 語 研 究 法 〔古 代 語 編 〕』 お う ふ う 松 尾 拾(1944)「 客 語 表 示 の 助 詞 『を 』 に 就 い て 」 橋 本 博 士 還 暦 記 念 会 編 『橋 本 博 士 還

暦 記 念 国 語 学 論 集 』 岩 波 書 店

三 原 健 一・(1994)『 日本 語 の 統 語 構 造 』 松 柏 社

森 野 宗 明(198!)「 中 古 語 」 川 端 善 明 他 編 『講 座 日 本 語 学3現 代 文 法 と の 史 的 対 照 』 明 治 書 院

山 口 仲 美(1987)「 伊 勢 物 語 の 文 法 」 山 口 明 穂 編 『国 文 法 講 座4時 代 と 文 法 古 代 語 』 明 治 書 院

Motohashi,Tatsushi(1989)CaseTheoryarldtheHistoryoftheJapaneseI.aiiguage.

DoctoralDissertation,TheUniversityofArizona.

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References

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