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冷戦期の自衛隊の役割 ― 国際秩序・安全保障・任務の観点による考察 ―

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社学研論集 Vol. 34 2019年11月

論 文

冷戦期の自衛隊の役割

― 国際秩序・安全保障・任務の観点による考察 ―

田 中 新 悟

アブストラクト:本稿の目的は,冷戦下の自衛隊の特徴を明らかにすることである。考察の結果とし て,次のことが明らかになった。まず,自衛隊は自衛権に基づき最小限の実力で,近代国家としての日 本を防衛する近代軍の特徴があげられる。次に,「敵の侵略」という脅威に対し,自衛隊は近代軍とし て基本的に単独で,それが困難である場合には米軍からの協力を得て,日本の「不可侵性」(境界,権 威,そしてアイデンティティをともなう領域の広がりのこと)を防衛する特徴があげられる。最後に,

1970年代末から自衛隊は,近代軍として「浸透性」(住民の殲滅)に間接的に対処することが特徴とし てあげられる。「核戦争」という脅威に対し,日本政府は基本的に米軍の拡大抑止力に依存する。ただし,

海上自衛隊は,米海軍に対して「不可侵性」を防衛することで「安全地帯」を提供し,その結果として,

「核戦争」という脅威に間接的に対処するのである。

はじめに

本稿の目的は,冷戦期の自衛隊の特徴を明ら かにすることである。ポスト冷戦期の自衛隊を 研究するものとして,ゆるやかに「ポスト近代 軍」へと変貌しつつあるとする藤重博美の研究 がある。この「ポスト近代軍」研究では,ポス ト冷戦期の「国際秩序」はリベラルな規範が優 位なものとなり,その規範を指向する西側先進 諸国が,冷戦期の領域性を重視する近代国家か ら領土や国境への関心が低下したポスト近代国 家へ変容したとされる。そして国家形態の変容 は,その国家の「安全保障」観を変容させ,そ の変容に影響されて軍隊は,「リベラリズムの 伝道者」として人道支援などの「任務」を担う ようになった。このように,ポスト冷戦期に非 伝統的任務が主流となった西側先進国の軍隊

は,「ポスト近代軍」と呼ばれるものとなり,

自衛隊はゆるやかに「ポスト近代軍」へと変容 しつつも「近代軍」としての特徴が残るとして いる(藤重2008:93

-

120)。

自衛隊が「ポスト近代軍」へ変容しつつある ことがポスト冷戦期の特徴とするならば,冷戦 期には自衛隊に「ポスト近代軍」の特徴が存在 しないことになる。それでは,冷戦期の自衛隊 にどのような特徴があるのであろうか。この点 について藤重は,詳細に考察しているわけでは ない。そこで本稿では,この点を明らかにする。

研究のアプローチとしては,藤重による上記の 研究,後述するジョン・ハーツ(

John H. Herz

による近代国家の「不可侵性」に関する研究

Herz

1976),チャールズ・モスコス(

Charles

Moskos

)による「ポスト近代軍」に関する研

究(

Moskos

2000:14)をふまえて,「国際秩序」,

(2)

国家の「安全保障」観(特に「脅威認識」),「主 要任務」の観点で冷戦期の自衛隊を分析し,そ の特徴を明らかにする。

そのため,本稿第1節では冷戦期の自衛隊の 特徴を描き出すために先行研究を概観する。第2 節では近代軍と自衛隊との関連性を,第3節では 近代国家の安全保障には「不可侵性」や「浸透性」

という概念がかかわることを,第4節では勢力 均衡秩序の下での安全保障政策の手段として

「防衛」と「抑止」が用いられることを確認する。

そして,日本の安全保障政策に関する資料を用 いて,第5節では1950年代以降を,第6節では 1960年代以降を,第7節では1970年代中期以降 を扱うことで自衛隊の特徴について考察する。

1.先行研究概観

藤重はポスト冷戦期において,人道支援など の役割を持つ軍隊のことを「ポスト近代軍」と 表現している。ポスト近代軍が出現した背景に は,冷戦終結の前後から始まった近代国家から ポスト近代国家への転換がある。近代国家は,

明確な境界と領域を持つ。他方で,ポスト近代 国家も明確な領域を持ち領域を代表して主権を 行使するが,グローバル化により領土・国境に 対する関心の低下をまねき,国内外の区別が曖 昧となっている。そのためポスト近代国家は,

遠隔地の不安定化の影響を大きく受けかねなく なった。冷戦に勝利した西側諸国にとってリベ ラリズムは,紛争のない繁栄した世界をもたら すための公共財である。西側諸国を前提とした ポスト近代国家にとっての最大の関心事は,国 際社会の安定であり,それが最大の価値となる。

こうした「安全保障」観から,ポスト近代国家 は「リベラリズムの伝道者」として介入主義的

な態度をとり,そのためのツールが上記のポス ト近代軍となる。

藤重はこのように「ポスト近代軍」に関する 概念整理を行い,それに基づきポスト冷戦期の 自衛隊には,①破綻国家に向けた役割,②好戦 性国家に向けた役割,③上記二つが混合した役 割があるとした。①は

PKO

活動など国際平和 協力活動として担われている。②は日本周辺に 近代国家が集中するため,自衛隊は好戦性国家 からの近代的脅威へ対処するという側面を持 ち,①や③といった役割に比べて②の役割が強 いとされている。③はインド洋での給油活動や イラク人道復興支援活動など,アフガニスタン やイラクといった破綻国家を再建することを目 的とし,かつ同盟国アメリカとの紐帯強化を目 指して東アジア有事の際に日米共同行動を円滑 にするのを目的としたものである(藤重2008:

93

-

120)。先行研究を概観すると,自衛隊の①と

③の役割はポスト冷戦期になってから担われた ことがわかる。このことから冷戦期における自 衛隊は,②の役割を担うことが推測される。

それでは②の好戦性国家に向けて近代的脅威0 0 0 0 0 に対処する自衛隊には,どのような特徴がある のであろうか。この特徴を明らかにするために まず確認しておきたいのが,モスコスらによる

「ポスト近代軍」研究である。藤重が基礎を置 くこの研究では,西側先進諸国における軍隊の 特性が時を経るとともに変容し,それを近代軍,

後期近代軍,ポスト近代軍といったモデルとし て表現されている(表参照)

1 モスコスらは,社会学の観点で軍事組織の特徴 を明らかにするために,各種評価項目を設けて 研究している(Moskos 2000:14)。

(3)

モスコスによると,「近代」と「ポスト近代」

とを分けるのは脅威の差異にあるとする(

Moskos

2000:16)。そのため冷戦後のポスト近代国家 は,非軍事的な「サブナショナル」(例えば,民 族紛争・テロリズム)を脅威として認識し,そ のツールである国軍に「新しい任務」(例えば,

PKO

や人道支援)を担わせる。それがポスト近 代軍である。他方で,冷戦期の近代国家は軍事 的な「敵の侵略」を脅威として,そのツールで ある国軍に「自国の防衛」の任務を担わせる。

それが近代軍である。このことから②の好戦性 国家に向けた自衛隊の近代的脅威0 0 0 0 0への役割とは,

「敵の侵略」の脅威に対して近代軍として「自 国の防衛」を任務として担い,それに対処する ことだと考えられる。

表 モスコスによる軍隊の特性 近代 後期近代 ポスト近代

脅威認識 敵の侵略 核戦争

サブナショナル

(例:民族紛争・

テロリズム)

主要任務 自国の

防衛 同盟支援

新しい任務

(例:PKO・人道 支援)

出典: Moskos, “Toward a Postmodern Military,” p.15よ り筆者が抜粋・作成。

2.近代軍と自衛隊

冷戦期における近代軍としての自衛隊の特徴 を問うためにも,本節では日本における自衛隊 の立ち位置を確認したい。1967年3月に自衛隊 について国会で問われた佐藤栄作首相は,「自 衛隊を,今後とも軍隊と呼称することはいたし ません」と答弁をした(参議院1967:3)。こ の答弁を契機に,自衛隊は軍隊ではないことが

以後の政府見解として定着した(田村2016:

70)。その根拠は,「日本国憲法」第9条第2項 の「陸海空軍その他の戦力は,これを保持しな い」(印刷局1947:1

-

15)との文言である。

この政府見解は「日本国憲法」という国内法の 観点に立つものであり,ポスト冷戦期の現在に おいても変更はない。

他方で国際法の視点で,自衛隊は軍隊とする 政府見解がポスト冷戦期になされた。国際法で ある「ジュネーブ諸条約」において「軍隊」は,

「武力を行使することを任務とする組織一般」

とされている。そのため「自衛隊は,(中略)

武力を行使して我が国を防衛する組織であるこ とから,一般にはジュネーブ諸条約上の軍隊に 該当する」(参議院ホームページ)。このように,

「日本国憲法」という国内法と「ジュネーブ諸 条約」という国際法とでは,同じ法律の観点で も自衛隊が「軍隊」なのか否かの見解が分かれ る。

それでは,政治学の観点で「軍隊」はどのよ うな存在なのであろうか。マックス・ウェーバー

Max Weber

)は,ある特定の領域において物

理的暴力が国家に独占されることを近代国家の 成立要件としている(ウェーバー2009:10

-

11)。

そして,独占される物理的暴力は,近代国家の 軍隊として現れる。特に第二次世界大戦以降は,

自衛権に基づき防衛を任務とすることが,国軍 としての正当な役割とされている。つまり,

近代国家に独占されるのが国軍であり,その ツールとして自衛権に基づき「自国の防衛」を 任務として担うのが近代軍である。

2 近代国家とその国軍との関係性については,次 を参照(長尾2000:48)。

(4)

それでは,自衛隊が近代軍の役割を担うこと になったのはいつからであろうか。自衛隊は第 二次世界大戦後の1954年7月に,「自衛隊法」

と「防衛庁設置法」から構成される「防衛二法」

により創設された。前者は自衛隊の任務・権限 などを定めたものであり,後者は総理府(現在 の内閣府)の外局として設置された防衛庁(現 在の防衛省)による陸海空自衛隊の管理・運営 などについて定めたものである。この「防衛二 法」により自衛隊は,日本国政府が独占する物 理的暴力と考えられる。

なお,1947年5月に施行された「日本国憲法」

第9条では,戦争放棄や戦力不保持,また交戦 権を否認している。しかし,いわゆる「砂川事 件判決」では,政府が主権国家として固有の自 衛権を保持することを否定していない(裁判所 ホームページ:1)。また,政府が自衛権を行 使するための最小限度の実力を保持すること は,憲法上認められている(衆議院ホームペー ジ)。そのため,政府は自衛権に基づき最小限 の実力としての自衛隊に防衛を担わせる。これ らのことをふまえて,モスコスの主張,つまり 近代軍の主要任務が「自国の防衛」であること と照らし合わせるのであれば,自衛隊は1954年 7月の「防衛二法」が施行された時より,近代 軍としての特性を有していたと考えられる。

3.近代国家の脅威と「不可侵性」

(1)近代国家と社会契約

それでは近代軍は,なぜ防衛を担うのであろ うか。本稿で近代軍としての自衛隊を議論する ためにも,ここでは自衛隊についての考察を一 旦わきに置き,近代軍の役割について確認した い。そこで,近代的な国家論の確立者と言われ

るトマス・ホッブズ(

Thomas Hobbes

)(佐藤 1992:33)の議論を概観する。

ホッブズが考える人間は,国や政府や法律の ない自然状態におり,この状態のなかで人間 は,自身の生命を守る自己保存のための自然権 を有する。ただし,この自然権はすべての人々 が有することから,「万人の万人に対する闘争」

の状態が不可避となる。そこで人間は自己保存 のために,各人が自然権を放棄してお互いに社 会契約を結ぶ。そして社会契約に参加した全員 が,代表(主権者)を多数決により選び,結果 としてコモンウェルス(国家)という「リヴァ イアサン」が形成される。このような議論は,

近代国家論の生誕と評価される3

こうして社会契約により国内秩序が形成され たが,このホッブズによる国内無政府状態の解 決策は,国際レベルにおける「ホッブズのジレ ンマ」を再生産する。つまり,国家間レベルに おいて「万人の万人による闘争」が創り出され るのである(

Keohane

2002:66)。社会契約は,

一定の領域内の個人の安全を主権者の権力に よって保障するが(佐藤1992:33),結果とし て領域が境界で区切られ,「万人の万人に対す る闘争」状態にある領域外へ対処する必要性を 生じさせる。つまり,国内と国外の区分がつ くようになり,国家は領域の外側である国際社 会を対象とした防衛を引き受けざるを得なくな る(佐藤1992:33)。そこで,近代国家は軍隊

3 例えば,次が詳しい(田中2016:Ⅲ-Ⅴ,39-46,

69,87-95)(田中1982:v,3-37,140-152)。

4 国際政治は,万人の万人に対する闘争の場とホッ ブズが考えていたとするリアリストの立場を

「ホッブズ・モデル」や「ホッブジアン・パラダ イム」と呼ぶ(土山1997:45-54)。

(5)

に防衛の任務を担わせ,この任務を担うのが近 代軍となる。

(2)脅威と「不可侵性」

近代軍は国際社会の「万人の万人に対する闘 争」から,何を防衛するのであろうか。それは,

近代国家における「領域」(

Territory

)である。「領 域」は単なる国境で囲まれている地理的な区画 を意味するのではなく,境界,権威,そしてア イデンティティを伴う「領域性」(

Territoriality

として理解されている(伊藤2007:46

-

47)。「領 域性」は「主権の超越性」や「代表」と並ぶ近 代国家の特徴の一つであり(梅田2010:171

-

178),

主権に密接に関連している。近代的な主権はそ れが根を下ろしたところに必ず「リヴァイアサ ン」を構築し,自己のアイデンティティの純粋 さを保全して,それとは異なるものすべてを排 除する。領域的な境界を強いる近代的な主権は,

その限界=境界のうえに存在するのであり(ネ グリ,ハート2003:217),これが近代国家の

「領域性」である(梅田2010:5

-

6,176

-

178)。

「安全保障」の観点で,ハーツは近代国家の

「領域性」を「不可侵性」(

Impermeability

)と いう同義語でとらえている。近代国家の根本的 要素は,自国と他国とを識別し,自国を防衛す るための要塞のような「堅い殻」(

Hard Shell

に取り囲まれる領域の広がり0 0 0 0 0 0である。この近代 国家の特徴は,「不可侵性」(他に「領域性」,「不 可入性」(

Impenetrability

))と表現される。それ は,近代国家をある程度は外国の侵攻から安全 にし,境界内の,つまり国境内の人々を保護す る最も重要な単位となる。こうした境界と権威 の関係性から,近代国家は「領域国家」とも表 現される(

Herz

1976:99

-

101)。

ただし,冷戦期における米ソ勢力均衡の国際 秩序において,近代領域国家の「不可侵性」は

「核戦争」の脅威により,つまり核兵器の技術 により「浸透性」(

Permeability

)へ代替される 可能性があった(

Herz

1976:101)。そもそも 脅威は常に境界にあることから,境界の外側に 対しては強制力となり,境界の内側に対しては 侵害となり,境界のないところには存在するも のではない(

Cambell

1998:80

-

81)。

しかし,「航空戦」(

Air Warfare

)という交戦 手段の発展は,国家の「不可侵性」に劇的な影 響を与えるものとなった。なぜなら「航空戦」

による脅威は,戦闘員のいる戦地,つまり境界 部分ではなく,住民のいる国家の「柔らかい」

内部に直接作用するものとなったからだ。その ため脅威は対外的に住民を保護する「堅い殻」

を突き破ることになり,軍事的に最強の国家 でさえ伝統的な「不可侵性」は消滅の兆候を 示ことになる。そして交戦手段の発展プロセス は,核兵器の出現により完成した。「核戦争」

Nuclear Warfare

)という交戦手段は,近代国

家に対する「浸透性」をもたらすものとなった。

つまり,核兵器は,単に住民へ被害などをもた らすだけではなく,住民を殲滅させるのである

Herz

1976:109)。

このような「航空戦」や「核戦争」といった 交戦手段の発展により,外部からの侵略の脅威 は近代国家の「堅い殻」である境界を突き破り かねなくなった。そのため冷戦期の勢力均衡秩 序の下では,近代国家の「不可侵性」が消滅し ないように,また「浸透性」がもたらされない 5 「航空戦」や「核戦争」と「不可侵性」の関係性

は次を参照(Herz 1976:116-118)。

(6)

ようにいかに対処するかが,安全保障政策上の 課題となる。

4.勢力均衡秩序下の安全保障政策

(1)国際秩序と安全保障政策上の近代軍 近代国家がこの課題を解決に導くのに必要な のは,「抑止」と「防衛」という安全保障政策 上の手段である。これらの手段は,国際秩序に より影響される。冷戦下の国際秩序は,核兵器 を背景にして成立する勢力均衡であった。核兵 器は国際社会をホッブズの自然状態に近づけか ねないほどの影響力を持つ(

Gauthier

1969:207

-

208)。そのため民主主義を基本とする西側近代 諸国は,冷戦下において覇権国であるアメリカ の陣営へ参加し,勢力均衡秩序の下で同盟関係 を構築する。近代国家としての「不可侵性」が 消滅し,また「浸透性」へと代替されることを 防ぐことが期待されるからである。

この構図は,モスコスによる「近代」モデル や「後期近代」モデルとして表れている(表参 照)。安全保障政策上,近代国家は「不可侵性」

を脅かす「敵の侵略」に対して,「自国の防衛」

を主要任務として自軍に担わせ,それに対処さ せる。また,近代国家は「浸透性」をもたらす

「核戦争」に対して,米軍の主要任務である「同 盟支援」に依存し,核の拡大抑止という手段に 期待するのである。

(2)安全保障政策上の「防衛」と「抑止」

そこで,安全保障政策上の「防衛」や「抑止」

という手段について掘り下げてみたい。近代国 家の安全保障政策において主要な目標は,「最小 限のコストで,生じる敵の攻撃に対して,攻撃 を抑止し,首尾よく防衛すること」である。つ

まり,「防衛」(

Defense

)と「抑止」(

Deterrence

が,安全保障政策上の手段となる(

Snyder

1961:

-

4)。しかし,侵略を「抑止」するという観 念は,第二次世界大戦までは乏しかった。「抑止」

が重視されるようになったのは,戦後になり核 兵器による侵略が脅威として認識されるように なってからである(服部1980:172,176)。

「抑止」とは「敵が予想する利得を上回るコ ストとリスクの可能性を提示することにより,

敵に軍事行動を取らせないこと」である。つま り,「抑止」は「敵の意志(

Intention

)に働き かけること」が重要であり,平時の目標となる。

他方で「防衛」とは「抑止が失敗する場合に,

自身が予想するコストとリスクを減らすこと」

である。つまり,「防衛」は損害を与えまた剥 奪する「敵の能力を減らす」ことであり,有事 の際に重要となる(

Snyder

1961:3

-

4)。こう した国家安全保障政策としての「防衛」と「抑 止」は,異なる次元で用いられる。まず,敵か らの攻撃がある前に,国家は軍事力による「抑 止」を用いる。もし,それが効果を発揮できず に既に敵からの攻撃がされたならば,国家は軍 事力による「防衛」を用いることになる(

Snyder

1961:4)。

なかでも「抑止」は,冷戦下においてソ連に 対する拡大抑止として機能した。覇権国のアメ リカが同盟諸国へ,安全保障に関する公式の条 約や共通の利益により「関与」(

Commitment

)を したからである(

Harvard

1983:137

-

142)。これ はモスコスの表にある「後期近代」モデルとし て表れており,西側同盟国が認識する「核戦争」

という脅威に対し,米軍が主たる任務として抑 止力を発揮し,「同盟支援」を担うとしている。

なお,それを実現させるためには,アメリカに

(7)

報復の意志があるという「信頼性」(

Credibility

が極めて重要となる。例えばソ連がアメリカ の同盟国に対して通常兵器や核兵器により攻 撃を行ったとしても,ソ連はアメリカによる 報復の意志に対して懐疑的になる可能性があ

る(

Snyder

1961:79)。そこで,報復の信頼性

を担保するものとして,同盟国はアメリカの

「逃げ道」(

Loophole

)を封じる「仕掛け線」(

Trip Wire

)が必要となる。

もし関与について条約などで不完全な状態で 定義され曖昧なものとなっていたのであれば,

アメリカに逃げ道を残すことになる。また,関 与について条約などで正確に定義されても,ア メリカの関与は当てにはならないことがある。

そこで同盟国はアメリカの逃げ道を無効にし,

関与せざるをえない立場にすることが必要とな る(

Schelling

1966:44,47

-

48)。その方法の一 つが仕掛け線であり,例えば冷戦期における米 軍のヨーロッパ駐留がそれである。もしソ連か らヨーロッパに攻撃があった場合には,米軍の 駐欧は自動的に巻き込まれる仕掛け線となるこ と か ら, 米 軍 は 関 与 せ ざ る を 得 な く な る

Schelling

1966:47)。この仕掛け線が,「抑止」

の信頼性を高めることにつながるのである

6 このように,相手にコストの大きさのために行動 させないことを「懲罰的抑止」という。他方で,

相手に作戦面で目標を達成できないことを認識さ せて行動させないことを「拒否的抑止」という。

エリノア・スローン(Elinor Sloan)によると,冷 戦期の抑止理論は,「懲罰的抑止」と核兵器の議 論が中心であった。ただし,グレン・スナイダー

(Glenn Snyder)は,両者の区分が厳密ではなく,

また絶対ではないとしている。そのため,本稿で は「懲罰的抑止」を「抑止」の中心として考察す る。(スローン2015:272-273)(Snyder 1961:15)。

このように西側近代諸国の安全保障政策は,

冷戦期の勢力均衡秩序下において表の「後期近 代」モデルにあるように,「核戦争」の脅威に 対し覇権国アメリカによる「同盟支援」に依存 することがわかる。米軍は後期近代軍として集 団的自衛権による拡大抑止を手段として用いる ことで,同盟国へ関与して敵の意志に働きかけ るのである。それにより同盟関係にある西側近 代諸国は,「浸透性」がもたらされることを防 ぐのである。他方で西側近代諸国には,在来型 兵器による「敵の侵略」の脅威にも米軍の核兵 器による拡大抑止が有効である。しかし,それ が機能しない場合には,西側近代諸国は個別的 自衛権に基づき近代軍の主要任務である「自国 の防衛」を自軍に担わせ,敵の能力を減らし自 国の「不可侵性」を破らせないために対処する のである。

5.「不可侵性」に対する「防衛」のは じまり─1950年代─

(1)自衛隊誕生への布石

これまでに,自衛隊は近代軍の特性があるこ とが明らかなった。また,近代軍は国際秩序と 安全保障政策上,「不可侵性」を防衛する任務 を担うことが,近代国家の関係性から明らかに なった。以下では,こうした議論をふまえて冷 戦期の自衛隊を考察することで,近代軍として の特徴を明らかにする。そこで,勢力均衡秩序 下の安全保障政策に着目し,日本政府の「脅威 認識」と自衛隊の「主要任務」の観点で考察し ていく。

自衛隊が誕生したのは,1954年7月である。

その背景には,再軍備への必要性があったから だ。1945年8月に「ポツダム宣言」を日本政府

(8)

が受諾したことにより,第二次世界大戦の一部 である太平洋戦争は終わり,帝国陸軍・海軍は 武装解除された。これは日本という領域におい て,物理的暴力が不在になったことを意味す る。こうした状況において1950年8月に連合 国軍最高司令官総司令部(

General Headquarters, the Supreme Commander for the Allied Powers

GH

Q)の指導により,「警察予備隊令」の公布・

施行が行われた。その背景には日本に駐留して いた連合国軍の主体である米軍が,同年6月に 生じた朝鮮戦争に従軍したことにある。そのた め米軍が日本に不在となり,日本の防衛・治安 体制が不安定となる懸念があった。そこで,こ の政令により陸上部隊として警察予備隊が創設 され,また1952年4月には海上部隊である海上 警備隊が新設された。さらに同年8月には保安 庁の設置により,警察予備隊は保安隊へ,海上 警備隊は警備隊へと改組され一つの傘下に収ま ることになった。

こうした両組織の改組を通して,日本政府は 近代国家が独占する正当な物理的暴力の体制作 りを進めていった。これは前年にあたる1951年 9月に締結された「日本国とアメリカ合衆国と の間の安全保障条約」(「旧安保条約」)(鹿島 1983:444

-

448)に基づくものである。日本の 主権回復をもたらした「日本国との平和条約」

(「サンフランシスコ平和条約」)(鹿島1983:419

-

444)と同時に締結された「旧安保条約」の前 文には,「直接及び間接の侵略に対する自国の 防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待 する」とあることから,防衛力の自己負担が日 本に求められたのである。

ただし「旧安保条約」では,こうした「直接

侵略」7や「間接侵略」8といった「敵の侵略」

の脅威に関して9,第1条では米軍に基地を提 供し駐留する権利を認めていたが,米軍によ る日本を防衛する義務は不確実なものであっ た。そのため日本が再軍備をして,「自国の防 衛」を担うことが期待された。ただし,実際 に設立された上記の組織は機能として治安部 隊にとどまり,近代軍と呼ばれる存在とはな らなかった。

(2)「不可侵性」に対処する自衛隊の創設 そのため1953年9月吉田茂自由党党首と重光 葵改進党党首とで行われた会談で防衛力を保持 する方針が打ち立てられ,1954年3月に「

MSA

四協定」が調印された。そこにはアメリカによ る経済援助の代わりに,日本が「直接侵略」や

「間接侵略」に対する防衛力を増強することが

7 「旧安保条約」の前文にある「直接侵略」という 表現は,「相手国に対し,戦争の宣言をし又は宣 言をしないで,武力をもって相手国の領域に侵 入し又は相手方の領域,軍隊,軍艦,軍用航空 機等を攻撃し,或いは海岸を封鎖する等積極的 に,かつ,顕在的に実力を行使すること」である。

つまり外部からの武力攻撃による「敵の侵略」

を意味する(眞邉2000:303-304)。

8 「間接侵略」は,「外国の教唆又は干渉により引 き起こされた大規模な内乱,騒擾」のことであり,

内乱や騒擾は警察による治安活動により鎮圧さ れるべきことである(眞邉2000:52)。

9 内乱や騒擾により「間接侵略」を操っているのが 外国である実態に着目して,「敵の侵略」とみな し,防衛問題として扱われる(安田1979:9-10)。

なお,「間接侵略」の定義をめぐる議論は次が詳 しい(衆議院1961:10)。

(9)

取り決められた10。こうした動向が再軍備への 布石となり1954年7月には「防衛二法」が施行 され,保安隊が陸上自衛隊へ,警備隊が海上自 衛隊へと改組され,航空自衛隊が新設された。

「防衛二法」の一つである「自衛隊法」(大蔵 省1954:82

-

101)第3条第1項には,自衛隊 が「我が国の平和と独立を守り,国の安全を保 つため,直接侵略及び間接侵略に対し我が国を 防衛することを主たる任務」とすることが記さ れている。「直接侵略」や「間接侵略」といっ た「不可侵性」を脅かす「敵の侵略」について は,「旧安保条約」にも見受けられた。しかし,

これらの脅威に対応できる日本独自の軍事組織 は存在しなかった。そこで「自衛隊法」では,

自衛隊の本来任務が第3条に「わが国を防衛す る」ことだと規定され,それを実行するために 同法第88条には「事態に応じ合理的に必要と判 断される限度をこえてはならない」程度に,「必 要な武力を行使することができる」と規定され た。こうして自衛隊は必要最小限の武力行使に よるものではあるが,自国の「不可侵性」を防 衛することを主要任務とする近代軍として誕生 した。

そして1957年5月に閣議決定された「国防の 基本方針」(内閣官房ホームページ

a

)では,脅 10 「MSA四協定」とは,「日本国とアメリカ合衆国 との間の相互防衛援助協定」(「相互防衛援助協 定:MSA協定」),「農産物の購入に関する日本 国とアメリカ合衆国との間の協定」(「余剰農産 物購入協定」),「経済的措置に関する日本国とア メリカ合衆国との間の協定」(「経済的措置協 定」),「投資の保証に関する日本国とアメリカ合 衆国との間の協定」(「投資保障協定」)のことで ある。「MSA四協定」については次を参照。(鹿 島1983:633-642)。

威のなかでも特に「直接侵略」という外部の侵 略に関して,前文に「民主主義を基調とする我 が国の独立と平和」のために,(4)で「米国との 安全保障体制を基調としてこれに対処する」と した。いわば日本の「不可侵性」を防衛するた めに,日米共同防衛の方針0 0 0 0 0 0 0 0 0が示されたのである。

この背景には「旧安保条約」を改正し,アメリ カに基地提供を行う代わりに日本の防衛義務化 を盛り込む意図があった(大巌1983:92

-

99)。

そのため「国防の基本方針」には,(4)の内容 が記載されたのである。ただし,実際の日米共 同防衛の規定は,将来的に「安保条約」が改正 されるまで待たなければならなかった。

「国防の基本方針」までの1950年代において,

無政府状態である国際社会は必ずしも「ホッブ ズのジレンマ」,つまり「万人の万人により闘争」

の状況ではなく,米ソの勢力均衡により国際秩 序が保たれたネオ・リアリズムの世界であっ た11。しかし,「核」という脅威に対処する意志 は,当時の日本の安全保障政策に見受けられな かった。むしろ安全保障政策には「直接侵略」

や「間接侵略」といった「敵の侵略」が脅威と して認識されており,自衛隊に「不可侵性」を 侵害する脅威に対して近代軍の主要任務である

「自国の防衛」を担うことを期待するものとなっ た。

11 無政府状態である国際社会において,国家の対 外行動の原因を国際社会の構造に求めるものを

「ネオ・リアリズム」という。その構造の典型が 勢力均衡である。例えば,米ソによる原水爆兵 器の開発の成功,ワルシャワ条約機構(WTO) の成立,西ドイツの北大西洋条約機構(NATO) への加盟により,この時期に米ソ間での勢力均 衡が成立したとされている(佐々木2009:115)。

(10)

6.「不可侵性」への共同防衛・「浸透性」

への拡大抑止依存─1960年代以降─

(1)米軍の防衛義務と仕掛け線

1950年代の日本の安全保障観は,敵の在来型 兵器による「直接侵略」や外国の教唆や干渉と いった「間接侵略」による「不可侵性」の侵害 を脅威としたものであった。しかし,1960年代 に入り徐々に変化がみられた。「国防の基本方 針」で示された米軍の日本に対する防衛義務化 の方針は,1960年に締約された「日本国とアメ リカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条 約」(「安保条約」)(鹿島1983:959

-

968)で実 現された。同条約第5条に「日本国の施政の下 にある領域」において,「いずれか一方に対す る武力攻撃」があった場合には,「共通の危機 に対処する」としたように,「敵の侵略」とい う脅威認識には自衛隊と共同で対処するとし,

米軍の日本に対する防衛義務化を規定した。

その一方で,同条約では防衛だけではなく抑 止についても規定された。同条約第6条にて「日 本の安全に寄与並びに極東における国際の平和 及び安全の維持に寄与」するために,米軍が日 本の施設や区域を使うことが許された。それに より,駐日米軍が抑止を実現する存在となった。

米軍の駐留については「旧安保条約」の第1条 にも規定があったが,「安保条約」の第5条に より対日防衛義務を負うことになり,逃げ道が 塞がれた。また,同条約第6条にある米軍の駐 留規定が仕掛け線となり,結果として米軍の関 与の信頼性が高まったのである。こうして「安 保条約」を契機に,日本にとっての米軍の存在 は「敵の意志に働きかける」という抑止力の効 果が発揮される(外務省ホームページ)体制と

なった。

(2) 脅威としての「核」の明示化と「浸透性」

への対処

日本の安全保障政策は,「安保条約」に基づ く米軍の抑止力に依存するものとなった。その 姿勢は,核という脅威認識の進展と共にさらに 明確化していく。その一つの表れが,1965年1 月に行われた佐藤栄作首相とリンド・ジョンソ

ン(

Lyndon Johnson

)米大統領との「日米共同

声明」(鹿島1984:542

-

546)である。同声明の 8に「安保条約」は今後とも堅持すべき基本政 策であり「米国が外部からのいかなる武力攻撃 に対しても日本を防衛する」としている。この

「いかなる武力攻撃」との表現は,土山實男に よるとアメリカによる核の傘を公約したものと している(土山2000:173)。つまり,同声明 に明記はされていないものの,当時は在来型兵 器による「敵の侵略」の他に,核兵器による「敵 の侵略」も脅威として認識したと考えられる。

そして翌年の1966年4月に外務省が発表した

「日米安保条約の問題点について」(「安保問題 点」)(外務省1967:26

-

29)の一では,「安保 条約」第5条にある日本への「武力攻撃」とい う表現が「核攻撃を含むあらゆる種類の武力攻 撃を意味する」とした。この「安保問題点」で,

脅威として「核」の文字が明記されることにな り,アメリカの核戦力の存在が,日本への核攻 撃を防止する主たる抑止力となることを説くも のとなった。また,「安保問題点」の二と三に おいて,駐日米軍の存在が抑止力になると説い ている。

このように1960年代以降の日本の国家安全保 障政策では,在来型兵器による「敵の侵略」と

(11)

いう脅威に対し「安保条約」第5条の米軍の防 衛義務化により日米共同で担う。これは自衛隊 が自衛権はあるが交戦権はなく,実力が必要最 小限に制限されている近代軍であることから,

在日米軍の力を借りながら「不可侵性」に対処 する姿勢が示されものと考えられる。

その一方で,表の「後期近代」モデルにある ように,日本にとっての脅威である「核戦争」

は,つまり核兵器による敵の侵略は,「安保条約」

第5条に「武力攻撃」と表現され,同条約を基 調とする「日米共同声明」には「いかなる武力 攻撃」へと表現され,そして「安保問題点」で は「核攻撃を含むあらゆる種類の武力攻撃」へ と表現されたように,時が経るとともに脅威の 内実が明確になっていった。これは日本政府が

「後期近代」型米軍の「同盟支援」に,つまり 拡大抑止力に依存する姿勢が明らかになったと 言えよう。

このことから核兵器を背景の一つとする勢力 均衡秩序において,日本政府は「安保条約」が 仕掛け線として後期近代型の米軍を自らの安全 保障政策に巻き込むことで,核攻撃による日本 の「不可侵性」の消滅(「浸透性」の生起)を 阻止する抑止機能を米軍に担わせたと考えられ る。日本政府は国家安全保障政策として,「核 戦争」という後期近代型脅威に対し自衛隊を直 接対処させることはなかったのである。

7.「不可侵性」への自主防衛・「浸透性」

への間接関与─1970年代中期以降─

(1)自衛隊の「不可侵性」に対する自主防衛 1960年代の安全保障政策では,日本が在来型 兵器による侵略の他に核兵器による侵略をも 脅威としたことで,防衛の他に拡大抑止も手段

として含まれるようになった。しかし,1970年 代入ると,防衛手段のあり方に変化がみられた。

1976年10月に閣議決定がされた「昭和52年以 降の防衛計画の大綱」(「51大綱」)(内閣官房ホー ムページ

b

)の三

-

1では,「核の脅威にたいし ては,米国の核抑止力に依存する」とし,日本 に「浸透性」をもたらしかねない核兵器による 侵略の脅威に関して規定された。その一方で,

在来型兵器による領域侵略への対処について,

自衛隊の新たな方針として三

-

1では,敵から の「限定的かつ小規模な侵略について,原則と して独力で排除する」とし,三

-

2では「独力 で排除が困難な場合(中略)米国からの協力を まってこれを排除する」と規定された。つまり,

自衛隊は単独防衛から米軍との共同防衛へと状 況に応じて段階的に防衛体制を移行し,「不可 侵性」に対処するという「基盤的防衛力」の考 えが打ち出された。

なぜ自衛隊が単独で対処する脅威を「限定的 小規模な侵略」と限定したのであろうか。それ は米ソによる勢力均衡秩序が,戦略兵器制限交 渉(

SALT

Ⅰ)などでデタント(緊張緩和)状 態へと変化したことにある。その結果として日 本政府は,現実的な脅威を在来型兵器による「限 定的かつ小規模な侵略」として認識したのであ る(防衛庁1977:52

-

57)。こうした背景から 構築された「基盤的防衛力」概念は,以後の日 本政府による安全保障政策の中心概念となり,

自衛隊は近代軍として「不可侵性」を自らが主 となり防衛するようになった。

(2)自衛隊の「浸透性」に対する間接対処 このように,安全保障政策として自衛隊は

「不可侵性」にのみ対処するものとなっていた

(12)

が,1978年11月に制定された「日米防衛協力 の指針」(「78ガイドライン」)(防衛省・自衛隊 ホームページ)では,自衛隊が「浸透性」へ間 接的に対処する政策が打ち出された。

アメリカは当時ベトナム戦争で疲弊していた ことから,アジアにおける存在を縮小しようと する「ニクソン・ドクトリン」(内閣官房1985:

41)を打ち出した。ソ連は,それとは裏腹に海 軍の軍拡を行い,アジアにおける存在を増やし ていた(佐道2006:114

-

118)。ただし,1970 年代中期以降は米ソ間でデタントのほころびが 見えたにも関わらず,日本は武力攻撃に備えた 日米間の協力内容を具体的に取り決めていな かった。そこで「78ガイドライン」では,「51 大綱」には詳細には規定されていない日米によ る共同対処の内容が規定された。

「78ガイドライン」のⅠ

-

1において,核兵器 による脅威は,抑止の観点で従来のように米軍 に依存することが規定された12。そして日本に 対して通常兵器による脅威が生じた際には,「51 大綱」にある「基盤的防衛力」で対処すると規 定された。それ対処しきれない場合には,「安保 条約」第5条に基づき「78ガイドライン」Ⅱ

-

(2)

-

(ⅰ)にて,陸上作戦は陸上自衛隊と米陸

-

軍との組み合わせで,航空作戦は航空自衛隊と 米空軍との組み合わせで共同防衛すると規定さ れた。

12 川中子真や村田晃嗣は,1978年の「ガイドライン」

で初めてアメリカが日本への核の傘を公約した と し て い る が, 土 山 實 男 は, 前 述 の よ う に,

1965年の「日米共同声明」が初めて核の傘を公 約したとしており,研究者により見解が異なる

(川中子1989:107)(村田1997:92)(土山2000:

173)。

また,海上作戦は海上自衛隊と米海軍の共同 で,周辺海域の防衛や海上交通保護(シーレー ン防衛)を行うと規定された。当時は「新冷戦」

と呼ばれ,ソ連は軍拡の傾向にあった。そのた め日本は核兵器も搭載可能な爆撃機や潜水艦を 脅威とし(

NHK

1983:242

-

254),ソ連の太平 洋への進出を懸念していた(佐道2015:134)。

そのため「核戦争」という後期近代型脅威に対 する海上の共同対処は,自衛隊が防勢作戦で米 軍は核兵器を含む攻勢作戦でというように,盾 と矛の関係で任務を分担・補完した。なかでも 自衛隊の役割は矛の役割を務める米軍に対し,

盾として安全地帯を提供することである。その ため自衛隊はソ連海軍の太平洋進出を阻むため に宗谷・津軽・対馬の三海峡の閉鎖や,太平洋 に進出したソ連の潜水艦や爆撃機から米海軍を 守るためのシーレーン防衛などを担うことに なった(道下2008:246

-

251)。

ここで問題となるのは,「不可侵性」を防衛 する日本の自衛権である。そこで「78ガイドラ イン」Ⅱ

-

(2)

-

(ⅱ)において,自衛隊は米軍

-

と「それぞれの指揮系統に従って行動する」と 規定された。つまり,自衛隊の行動が集団的自 衛権と誤認されないように規定されたのである

(松村・武田2004:94)(櫻井1997:39)。その ため海上自衛隊にとっては,個別的自衛権の範 囲で米軍と盾と矛の役割を分担し,共同対処す ることになる。

次なる問題となるのは,自衛権が及ぶ海上 における地理的範囲である。自衛権の範囲は,

領海や200カイリの排他的経済水域(

Exclusive

Economic Zone

EEZ

)との解釈がある。

EEZ

は国家の主権が絶対的に及ぶところではない が,主権的な管轄権が及ぶところとされてい

(13)

13。また,それ以外の場所では1974年の国連 総会決議第3314号「侵略の定義に関する決議」

の第3条(

d

)項にあるように,「ある国家の軍 隊によるもう一方の国家の陸・海・空軍あるい は船隊・航空隊への攻撃」(

UN doc

1974)が行 われれば,侵略行為とみなされ自衛権が発動さ れる。このことから地理的な適応範囲が問題と はならず,公海における自衛権の適応範囲は考 える必要はない(曽村1983:129

-

130)。

ただし,これは本稿第3節の論考にあるよう に,日本という近代国家の権威が及ぶ「不可侵 性」の境界が,つまり主権の一部である自衛権 が及ぶ境界が曖昧であるわけではない。長さ 1000カイリにも及ぶシーレーンは日本固有であ る200カイリの

EEZ

の外周と一致することから

(曽村1983:130),現実的な自衛隊の盾として の防衛範囲は,主権や主権的な管轄権が及ぶ 1000カイリまでである。つまり近代国家の権威 と境界をともなう「不可侵性」の範囲までとな り,それ以遠は米軍に期待されるのである(防 衛庁1983:89

-

90)。このように「78ガイドラ イン」では,海上において矛である米軍に,盾 である自衛隊が安全地帯を「不可侵性」の防衛 という形態で提供する体制を整備した。こうし て,今まで米軍に「浸透性」を阻む活動を依存 していた日本の安全保障政策は,新たに自衛隊 が近代軍として「核戦争」という脅威に間接的 に対処するものへと変化したのである。

「51大綱」が制定された1970年代中頃までに

13 国家は,主権的な管轄権が及ぶところで所属国 の排他的利益を不法に犯した者に対し,国家的 な処置(例えば,臨検,捜索,逮捕,訴追,処罰 など)を行うことができる(曽村1983:129)。

は,すでに核兵器による「浸透性」の脅威に対 し,1960年代に構築された拡大抑止の体制に依 存することが所与のものとなっていた。そのた め目下の日本の安全保障政策は,「不可侵性」

の防衛に力点が置かれた。そこで「51大綱」で は「基盤的防衛力」という自衛隊を主とし,米 軍を副とした防衛概念が規定され,「78ガイド ライン」では日米共同防衛の具体的内容が規定 された。このように,自衛隊は「自国の防衛」

を主要任務とする近代軍の役割を日米で協力し て担う体制が整備されたのである。

ただし「78ガイドライン」の海上における日 米共同対処に関する規定では,自衛隊が「浸透 性」に,つまり「核戦争」という後期近代軍型 の脅威に間接的に対処するものとなった。つま り,核の脅威を含む有事の際には,日本が覇権 国アメリカに巻き込まれる安全保障体制とな り,この状況は米ソ勢力均衡秩序が崩壊する冷 戦の終焉まで続くのである。

おわりに

本稿の目的は,冷戦期の自衛隊にどのような 特徴があるのかを「国際秩序」,国家の「安全保 障」観(特に「脅威認識」),「主要任務」の観 点で明らかにすることであった。まず,冷戦期 の勢力均衡という「国際秩序」のなかで,自衛 隊は「安全保障」政策として交戦権は有してい ないものの,自衛権により最小限の実力で防衛 任務を担う近代軍であることを指摘できる。

次に,近代軍としての自衛隊は最小限度の実 力しか保有していないことから,近代国家であ る日本の「不可侵性」を防衛のためには,米軍 からの協力を必要とせざるを得ないことがあげ られる。そのため,自衛隊は在来型兵器による

(14)

「敵の侵略」という脅威認識に,国家「安全保障」

政策として,1960年代の「安保条約」からは日 米共同により,1970年代中頃の「51大綱」から は限定的で小規模な侵略の場合には単独で,大 規模な侵略の場合には日米共同でという二段構 えにより「自国の防衛」という「任務」を担う のである。

最後に,1970年代末以降の自衛隊は「核戦争」

という後期近代型の脅威に対し,海上において 近代軍0 0 0として間接的に対処することがあげられ る。それまでの核兵器による「浸透性」への対 処は,後期近代型である米軍の「同盟支援」に よる抑止力に日本政府は依存していた。しかし,

1970年代末に制定された「78ガイドライン」で は,海上にて「浸透性」を阻む活動を行う米軍 へ,自衛隊が近代軍として「不可侵性」を防衛 することで,安全地帯を提供することが規定さ れた。その結果として,自衛隊は「浸透性」の 対処に,言いかえるのであれば,「核戦争」と いう脅威に間接的に対処することになったので ある。自衛隊はこのような特徴を有しながら,

冷戦下の勢力均衡という「国際秩序」の下で,「安 全保障」政策として「不可侵性」を防衛する近 代軍の「任務」を主に担っていたのである。

本稿では人為災害を所与の脅威とし,それに 対処する自衛隊について論じてきた。しかし,

自然災害という脅威に対処する自衛隊について は,どのような経緯から取り組み,どのような 特徴があるのかは触れていない。この点をこれ からの研究課題としたい。

〔投稿受理日2019. 6. 14/掲載決定日2019. 7. 11〕

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