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(1)

はじめに

ドイツ民法六一八条の生成

はじめに

' ︐

ドイツ民法制定前の判例

ドイツ民法制定時の議論 むすび

ド イ ツ 民 法 典 に お け る 使 用 者 の 安 全 配 慮 義 務 規 定 の 生 成 に

いて

橋 ︵ 中 ︶

四七

6‑2  ‑217  ' 8 6 )

(2)

本章の対象

ニにおいてはドイツ民法六一八条の現在の解釈論の素描を試みた︒二の冒頭で述べたように︑ライヒ保険法の優先

適用により同条の適用の機会は著しく減じ︑同条の解釈論も現在はあまり大きく動いていない︒六一八条の解釈論の

実質的展開を見るためには︑同条形成の時期に遡らなければならない︒

その際本稿では︑検討の対象を民法典成立前後の時期に限定する︒その理由は︑

慮義務が何故民法典に︑しかも契約の節に規定されたかを検討することであるが故に︑民法典が受継いだ法典成立直

前の法状態を調べれば右目的の限りでは十分であること︑次に︑保険制度の発展に加え︑ワイマール期以後の労働法

学の成立•発展により、労働災害・職業病に関する法的問題は労働保護法の諸制度・労働関係の本質等の研究の中で

検討され︑民法規定の解釈論の枠を大きく超えるに至ったが故である︒ まず本稿の第一の目的が︑安全配

右の限定の下︑本章においては︑②においてドイツ民法制定以前に労働災害に関する損害賠償の根拠として用いら

れた諸規定について簡単に触れる︒そして口においてドイツ民法制定前の判例の状況︑口において民法六一八条制定

の際の議論︑四において制定後の同条に関する解釈論を紹介する︒

②ドイツ民法制定前における賠償根拠規定

民法制定前の労働災害による損害賠償請求訴訟において︑賠償の根拠としてしばしば挙げられる法規には三つのも 日

は じ め に

︐ ' ︐  

9 , 9  

ドイツ民法六︳八条の生成

四八

(3)

ドイツ民法典における使用者の安全配慮義務規定の生成について(中)(高橋)

特に重要な意味を有したのはこの三つである︒

︵鉱

坑︶

掘削

業︑

四九

または工場を営む者は︑全権受託者︑ のがある︒第一にアクイリウス法ないし普通法の原則︑第二にライヒ責任法一一条︑第三に営業令の労働者保護規定で

( 5 9 )

6 0 )  

あり︑他にラント毎の特別法︑地域によってはフランス民法の適用も問題となりうるが︑ドイツ民法制定前において

ローマ法におけるアクイリウス法は︑財産の侵害に対する損害賠償責任を定めた法規であるが︑後に自由人の身体

( 6 2 )  

傷害の場合にも拡張されるに至った︒普通法においても︑身体傷害について物の侵害の場合の原則が類推適用され︑

労働災害による身体傷害に対する損害賠償の根拠規定として用いられえた︒しかしアクイリウス法に基づく訴には限界

( ︑

6 4 )

があったもののようである︒民法六一八条の解釈論を扱ったある学位論文によれば︑原告に相手方の過責についての

証明が義務づけられたこと︑並びに労働災害においては使用者の有責な不作為が問題となるにもかかわらず︑アクイ

リウス法が不作為の場合にも妥当するか否かに争いがあったことから︑労働災害に関してアクイリウス法が機能しな

( 6 5 )  

いことがしばしばであったとされる︒

( 6 6 )  

ライヒ責任法二条(‑八七一年制定︶は︑﹁鉱業︑砕石業︑

代理人︑事業または労働者の指導・監督のために任用された者が︑過責によって業務の遂行中に人の死亡または身体 傷害を惹き起こしたときは︑それによって生じた損害について責任を負う﹂と定める︒口④で見るように︑同条は普 通法の原則に対して特別の規定を設け︑使用者自身に過責がない場合であっても︑その幹部職員・監督責任者に過責 があれば使用者の賠償責任が基礎づけられるとするものである︒しかし責任法の適用のない領域ではこの規律による

ことはできず︑普通法の原則に従い使用者自身の過責が必要とされた︒

( 6 8 )  

北 ド イ ツ 連 邦 営 業 令 (

‑ 八 六 九 年 制 定

︶ は

︑ 一

〇 七 条 に お い て

﹁ 全 て の 営 業 経 営 者 は

︑ 営 業 と 事 業 の 場 所

( 6 9 )  

( B e t r i e b s s t a t t e )

の特別の性質を考慮した上で︑生命及び健康の危険から労働者を可能な限り保護するために必要な

(4)

全ての設備を︑自己の費用で設置し維持する義務を負う﹂と規定する︒同一四八条一

0

号によれば﹁官庁の勧告にも

かかわらず

( u

n g

e a

c h

t e

t )

0

七条の規定に違反した者﹂は︑﹁五

0

ターレル以下の罰金を以て︑また無資力の場合は

一項︑二項で一八歳以下の労働者の健康・風紀・実科学校通学につい

て配慮すべき義務を定めた後︑三項で﹁終わりに︑営業経営者は︑営業と事業の場所の特別の性質を考慮した上で︑

生命及び健康の危険に対して可能な限りの安全を確保するために必要な全ての設備を設置し維持する義務を負う︒あ

る一定の種類の全ての施設に対していかなる設備が設置さるべきかについては︑連邦参議院の決議によって規則を公

布することができる︒それが公布されない場合には︑必要な規定を行なうことは依然ラントの法律により管轄権のあ

る官庁に委ねられる﹂と規定する︒同一四七条四号によれば﹁官庁の勧告にもかかわらず︱︱

‑ 0

条の規定に違反した

者﹂

は︑

﹁三

00

マルク以下の罰金を以て︑また無資力の場合には拘留を以て罰せられる︒﹂

一八九一年改正のライヒ営業令︱二

0

a

は次のように規定する︒

﹁営業経営者は業務の性質が許す限りにおいて︑労働者が生命及び健康の危険から保護されるように︑労働領域︑業

務設備︑機械及び器具を設置・維持し︑業務を規律すべき義務を負う︒

特に︑十分な照明︑十分な気積

( L

u f

t r

a u

m )

と換気︑業務に際して生ずるほこり︑蒸気︑ガス並びに廃物の除去に

ついて配慮しなければならない︒

同様に︑機械または機械部品との危険な接触︑または事業の場所もしくは事業の性質上存するその他の危険︑

わけ工場火災より生じうる危険から労働者を保護するために必要な設備を設置しなければならない︒

とり

終わりに︑危険のない業務を確保するために必要な業務の秩序と労働者の態度に関する諸規定を公布しなければな 一八七八年改正のライヒ営業令︱二

0

条は

四週間以下の禁錮を以て罰せられる︒﹂

五〇

(5)

ドイツ民法典における使用者の安全配慮義務規定の生成について(中)(高橋)

げられている︒これについては口で検討する︒ ︑4

0

なし

このように営業令の労働者保護規定は行政罰を直接の効果とするものであり︑

しかしドイツ民法制定前の判例において︑損害賠償責任が認められる場合しばしば右規定違反が理由として挙

( 5 9 )

RGZ  

18

1

73

1

8 8 6 .

1 1 .  

4︺琴ニ昭唸

( 6 0 )

  RGZ 

1 27 5  ( 1 8 8 0 .   6 .  

1

参 二 照 ︒

( 6 1 ) 船田享二﹃羅馬法第三巻﹄︵一九四三年︶三四

0

( 6 2 )

春木一郎﹁

Le x Aq ui li a

二付テ﹂︵土方教授在職廿五年記念私法論集(‑九一七年︶

ついては

le x Aq ui li

aの規定の拡張なしとされる︵春木・前掲四四頁︶︒

( 6 3 )   D er nb ur g, a  P nd ek te n  2 .   B d.   6.   Au fl .  ( 1 9 0 0 )   S .   3 6 3 .  

( 6 4 ) N  

y b e l l ,   Di e  F t i r s o r g e p f l i c h t e  d s  D ie ns th er rn a  n ch

§6 18   BG B, i   D s s .   ( 1 9 0 6 ) S  

9 . 

( 6 5 )

北山雅昭﹁ドイツにおける過失責任主義の確立過程と経済的自由主義ー│'﹃ドイツ産業革命と損害賠償法﹄研究序説ー﹂︵早稲

田大学大学院法研論集三六号(‑九八五年︶︶︱ニニ頁は︑一九世紀ドイツにおいて︑労働災害の被害者が民事損害賠償法によっ

てほとんど救済されなかった理由に関して次のように述べる︒﹁数度に渡る法曹大会決議あるいは国民経済会議での議論や︑六八

年に北ドイツ連邦議会に提出された請願書によれば︑問題は以下の三点である︒第一に︑帰責の根拠として原告たる被害者の立証

せねばならない過失が︑一般に極めて狭く理解されており︑その立証はほとんど不可能であった点︑第二に︑当時︑ドイツの大部

分の地域で採用されていた法定証拠主義のために︑過失及び損害の立証は困難を極めた点︑第三に︑過失の範囲が﹁個人の見渡し

うる範囲﹂によって厳格に枠付けられており︑大工場での災害の場合︑被害者は通常末端労働者を相手に訴訟を提起する他なく︑ 布された規定に違反した者﹂

ま ︑

, 1 ̲  

﹁ 三

00

マルク以下の罰金を以て︑ そして同一四七条四号によれば﹁︱二

0

d

に基づいて最終的に発せられた命令︑

自由人の殺害の場合に それ自体は損害賠償の根拠規定では また無資力の場合には拘留を以て罰せられる︒﹂

らな

い︒

または︱二

0

e

に基づいて公

(6)

( 6 6 )   ( 6 7 )

  ( 6 8 )

  9)   (6

  北山雅昭「一九世紀ドイツにおける損害賠償法改革論議に関する〗考察ー|lライヒ責任法(Reichshaftpflichtgesetz1871) と損害賠償法研究の一環として﹄ー││﹂︵早稲田法学会誌三六巻(‑九八六年︶︶参照︒ 参照︒また議会における審議過程と学界の評価につき︑北山雅昭﹁ライヒ責任法の成立過程に関する;考察ー﹃ドイツ産業革命 その運用と問題点につき︑西村健一郎﹁ドイツ労働災害補償法の生成に関する一考察︵﹂︵民商法雑誌六五巻四号(‑九七二年︶︶ 事業︑王への責任追及の道は閉ざされ︑実際上救済されえなかった点が挙げられている︒﹂

成立史 研究の為の序論的考察ー﹂︵早稲田大学大学院法研論集.:七号(‑九八六年︶︶は︑事故被害者救済のために為され︑ライヒ責任 法の立法に至った損害賠償法改革論議を紹介している︒その中で︑/ハ七

0

年第九回法曹大会における法律顧問官カルステンの意 見書が紹介されているが︑これによればカルステンは︑工場主自身の過責がない場合にも︑﹇場︑

E

の代理人もしくは職員の過貴に よる損害については工場︑モが責任を負うべきである︑しかし他の労働者の過責による損寅については事業︑

Eは責任を負わないと する法律規定が望ましいとし︑その理由を次のように述へている︒

﹁⁝⁝工場t

は︑自己の代理人・全権受託者職員について︑単に

cu lp i n a   e l i g e n d o

について責めを負うのみではなく︑彼らの過 失ある行為についても責めを負わねばならない︒なせなら鉱業施設の事槃

E は︑施設の経営幹部が卜分に専門知識のある者である こと︑そこで働く者の生命及び健康がいかなる根拠によろうとも︑業務の遂行に不適格な者に左右されることのないことを保障し

なければならないからである︒

これに対し労働者については︑一方で比較的大規模な事業体にあっては︑労働者の行為について事業主にその全人・全財産をも って責めを負うことを要求できるよう︑採用前に涸々の労働者の性質を調査することは物理的に不可能である︒他方個々の労働者 は︑確かに事業体への入社に際して管理指導を信頼し︑事業体の職員による分別ある︑専門知識をもった指導を前提としているに 違いない︒だが彼は︑自分の仲間が絶対に過失を犯さないということを前提とすることはできない︒むしろ彼は︑自分の過失か彼 らに損害を与える恐れがあるように︑同僚の過失が自分に損害を与えるかもしれないということを意識しつつ︑多かれ少なかれ危

険であることを知っている仕事に加わっているのである︒﹂︵北山・前掲六九頁︶

その性格については︑田山輝明﹁ドイツ民法の形成と営業令︐

BGB 第六.八条論!﹂︵早稲田法学会誌.

1 1

(

参照︒条文の全訳として︑同﹁北ドイツ連邦営業令試訳﹂︵比較法学︵早大比較法研究所︶ぃハ巻.1号︵/几七﹂年︶︶がある︒

La nd ma nn  1 1   Ro hm er .  K om me nt ar   zu r  G ew er be or dn un g  f i . i r   d as   De ut sc he   Re ic h 

2.

 B

d .   4

A u f l .  

(1903) 

S .  

1S4

は︑一八九.年

改正後のライヒ営業令一

1

0a

の註釈において︑同条の﹁労働領域

(A rb ei ts ra um e)

Jの語につき︑以前の表現

( B e t r i e b s s t a t t e )  

(7)

ド イ ツ 民 法 典 に お け る 使 用 者

UJ

安 全 配 慮 義 務 規 定

UJ

生成に‑)し)て(中)(高橋)

本稿の目的は︑使用者の安全配慮義務が︑前節に見た諸法規があるにもかかわらず何故民法の規定として︑

契約の節に取人れられたかを検討することにあった︒以ドに見るように︑安全配慮義務は雇傭契約に基づく私法上の義 務であるという考え方は︑民法典編纂にあたってはじめて提起されたものではなく︑

よって判例上形成されてきたものである︒またその形成の際には︑営業令の労働者保護規定が重要な役割を果たした︒

本節では民法制定前の判例をもとにして︑安全配慮義務が哭約に基づく私法上の義務として形成・確立された経過 を 示 し

︑ 更 に

︑ 義 務 内 容 使 用 者 が ど れ だ け の こ と を し な け れ ば な ら な い か の 問 題

︑ 帰 責 事 由 の 証 明 の 問 題

︑ 労務の指揮・監督者の過責に対する使用者の責任の問題に関して判例の立場を検討する︒なお各判決の番号は︑本節

で引用した判決を判決日順に並べたものである︒

田雇傭契約に基く私法上の義務としての位置づけ

︵甘初判例は︑損害賠償義務の根拠を示すにあたって営業令の労働者保護規定の解釈のみを示している︒例えば︑

次のような判決がある︒

① 

S e u f

f .  

A r c h .  

B d

.  

35 . 

N r .  

291 

RG

18 80 .  4

17

労働者が︑工場主がこの作業を保護設備を備えた落ド式ハンマーを用いてさせなかったことを理由に損害賠償を 請求した︒裁判所は営業令一〇七条を引用して︑労働者保護に必要な施設を設置・維持すべき工場主の一般的義

︵ ド イ ツ 民 法 制 定 前 の 判 例

に代えて︑より良い表現を立てようとしたもいであろう︑

れる領域という趣旨と解して良いと思われる︒

とする︒従って本文の.

O

じ条における﹁事業の場所﹂も︑労働が為さ

しかも

それ以前にライヒ最高裁判所に 手槌によって鋳鉄管を破壊する作業において事故に遇った

(8)

これに関して︑ライヒ最高裁判所は右義務を契約 務を指摘した︒そして鑑定に基づき︑保護壁を備えた落下式ハンマーが危険防止のために適切な設備であると判断した上で︑﹁その危険を予防する保護手段を設置しなかったが故に︑被告は法律上義務づけられている︵ライヒ営業令一〇七条︶注意を怠ったものである︒従って被告は︑責任を負担し補償すべき義務がある

( v e r t r e t u n g s

, un

と特に述べていること︑ もっともこのことから直ちに︑営業令の労働者保護規定が私法上の損害賠償義務の直接の根拠規定とされていたものと断定することはできない︒後に見る

1 7 判決において︑一審のラント裁判所が︑予防警察的性格を有するにすぎな

い営業令の規定は損害賠償責任の根拠にはならない︑

業令の規定が使用者の私法上の責任を生ぜしめるか否かがしばしば裁判上問題とされる︑

事実から︑営業令の規定が損害賠償責任の根拠となるという理解が存したことが窺える︒他方︑同じく民法六一八条

の立法の際の議論において︑﹁使用者が営業令によって課されている義務に有責に違反するときは︑彼は違法に行動し

( 7 2 )  

たものであり︑それ故に勿論不法行為責任に関する一般原則に従って責任を負う﹂と述べられていること︑

2 0 S e u f f .   A r c h .   B d .   4 0

 N r

.   142 RG

18 84 .  9

2

9︺が︑営業令によって特別の︑契約・不法行為の訴とは異なる訴が取入れられ

たとの解釈には疑問がある︑と述べていること等︑損害賠償の責任根拠はあくまでも私法規範たる不法行為法であり︑

( 7 3 )  

営業令の規定する義務は︑不法行為法の構成要件を補充ないし具体化するものと解されていたと推測する根拠も存す

る︒しかしここでは︑労務から生じた損害を賠償すべき義務の判断に際し︑営業令の規定の解釈が重要な意味を持っ

てい

たこ

と︑

しかし右規定の私法上の意味については曖昧な点があったことを指摘すれば足る︒

︐ ' ︐  

•I •I ,1

全配慮義務の性質はそもそも何か︑ それ故に︑営業令の規定だけで損害賠償責任が基礎づけられるか否か︑

r e g r e B p f l i c h t i g )

を明らかにする必要が存した︒ と結論づけている︒

また現民法六一八条の提案に際し︑営

( 7 1 )  

と述べられていること等の

また損害賠償法において問題となる安

五四

(9)

ドイツ民法典における使用者の安全配慮義務規定の生成について(中)(高橋)

の時期において雇傭契約は︑ いずれが賠償責任の根拠であるかについては触れられていない︒

五五

} J  

に基づくものと位置づけた︒

1 1 S e u f f .   A r c h .   B d .   3 7

 

r .  

242 ︹RG

18 82 .  2

1 0

︺はヽ労働の場を危険のない状態に維持す

べき義務は︑単に営業令にのみ由来するのではなく︑﹁営業経営者と営業職員

( G e w e r b e g e h t i l f e

) が相対する契約関係

の本質から引き出されうる﹂ものであると述べる︒ここでは義務の根拠につき︑営業令と契約関係とを並列的に挙げ

安全配慮義務を雇傭芙約に基づく義務として位置づけるにあたり︑他の法規範との関連に触れたライヒ最高裁判所

の判決として︑以下の三つのものが特に注目さるべきである︒

1 4  

RG

Z 8 │1お︹

18 82 . 12 .  3

0

5渚

逗 車

ヂ 幸

木 付

属 の

5は︹工作げ埠四ヘレールの釘を運ぶ途中︑荷車の不備によって傷害

を受けた労働者が︑使用者である鉄道管理局

( E i s e n b a h n v e r w a l t u n g

) の責任を追及した事件である︒原審は︑営

業令︱二

0

条によって課された義務の不履行を理由に︑使用者の責任を認めた︒これに対してライヒ最高裁判所

は︑営業令六条は︑主たる営業・補助的営業を問わず鉄道営業を営業令の適用から除外しているため︑本件に営

業令の適用があるか否か疑問があるとしながらも︑原判決を破棄する必要はないとしてその理由を次のように述

べた︒﹁何故なら︑営業令の明文規定を全く度外視しても︑普通私法の正当な見解によれば︑営業経営者がその労

働者と締結した労務賃貸借契約が︑前者と本質上同一の義務を課するからである︒営業経営者は彼に義務づけら

れている注意によって︑賃借人が彼に託された目的物の完全性について為すべき配慮よりも少なくない配慮を︑

彼の傭う労働者の生命・健康の安全について為さなければならない︒﹂

この判決は︑営業令の適用がなくとも︑普通法上雇傭芙約に基づき安全配慮義務が認められるとして︑私法上の︑

しかも芙約に基づく安全配慮義務を承認したものである︒なお﹁労務賃貸借契約﹂という表現に見られるように︑ て

いる

が︑

ローマ法の伝統に従い賃貸借芙約に準じて規律されるものと解されていたが︑この判決

(10)

の安全配慮義務を賃貸借契約における賃借人の用法遵守義務の類推によって導く かの如き表現が為されていることは注目に値する︒社会的必要とは別に︑安全配慮義務が判例上︑普通法を根拠とし 雇傭契約に基づくものとして一般的に認められるに至った法論理上の要因のひとつがここにあるものと推測しうるよ

うに思われるからである︒

﹈ 1 7  

RG

12‑45 

18 84 .

7.

9

保護設備が設置されていなかったことを理由に︑

製紙工場の機械に手をはさみ込んで傷害を受けた労働者が︑機械に必要・適切な

工場主に損害賠償を請求した︒第一審裁判所は︑営業令‑︱

1 0

条は予防警察的性格を有するにすぎないから︑損害賠償請求の根拠を同条に求めることはできず︑私法上の損害

賠償請求は専ら普通法上のアクイリウス法によるべきである︑

と判断した︒ライヒ最高裁判所はこの見解を正当

でないとし︑﹁ライヒ営業令一︱

‑ 0

条は︑既にしばしばライヒ最高裁判所が認めたように︑営業経営と結びついた

健康•生命に対する危険から労働者を保護することが問題となる限りで、労務賃貸借契約に基づいて営業経営者

に課されている義務を法律上規律するものであり︑この法律規定の不遵守は︑営業経営者がこの義務を履行しな いために労働者が傷害を被った場合に損害賠償請求権の基礎を為す﹂と述べた︒そして確定された事実によれば

﹁ライヒ営業令︱二

0

条に基づき︑

た︒そして本件において工場監督官が︑当該機械の構造的欠陥と保護設備の欠陥とについて検査の際に警告しな

かったという事情につき︑ かつ一般的法原則に基づいて損害賠償義務が生ずる要件が存在する﹂と判断し

それは営業令一四七条に示される刑罰が問題となる場合には意味があろうが︑私法

t

の責任がこれにより排除されるものではない︑

まず契約上の責任と不法行為責任の関係につき︑本判決は︑安全配慮義務は契約に根拠を有するものであり︑義務

において︑使用者︵労務の賃借人︶

と述

べた

五六

(11)

ドイツ民法典における使用者の安全配慮義務規定の生成について(中)(高橋)

五七

違反による損害賠償責任の根拠はアクイリウス法だけではないことを示した︒次に営業令と私法の関係について︑本 判決は結局︑賠償義務の根拠としては営業令と

1般的法原則とを並列的に挙げているが︑営業令の性質については次

のように理解しているものと思われる︒すなわち︑安全配慮義務は雇傭契約に根拠を有するものであるが︑

その文言

表現が営業令の労働者保護規定によって与えられ︑それに基づいて法律上の規律が為される︒その限りで営業令の労 働者保護規定は私法的な意味を持れ︑公法・私法の両領域において機能することになる︒しかしその場合︑解釈の基 2 9  

RGZ21ー吋〔

1888.7.6

〕塗江衣工であった原告は、鉛白を加~する作業に従事し、鉛中毒となった。原審は、

本件鉛中毒を事故保険法(‑八八四年七月六日法︶が対象とする﹁事故﹂と見た上で︑同法の免責規定により︑

事業所で生じた事故の結果に対して保険がかけられている原告については損害賠償請求権は認められない︑と判 断した︒ライヒ最高裁判所は︑事故保険法にいう﹁事故﹂は時間的に特定しうる事件を意味し︑継続的な鉛白取

扱によって徐々に進行する中毒のような漫性疾患は右の意味での﹁事故﹂ではない︑右のような事業上の疾病は︑

それ自体不健康な事業の︑通常の予見さるべき不利益であって︑事故保険法による保障の対象外である︑従って

原審がこれを事故保険法における﹁事故﹂と見て︑他の法的手段に基づく請求権を認めなかったのは誤りである︑

請求権を認めるものではないため︑同法によって賠償請求権を根拠づけることはできない︑ と述べた︒そして原告の損害賠償請求権の法的根拠については︑責任法も徐々に増大する健康侵害について賠償

しかし使用者が︑事

業による労働者の健康侵害の回避・減少のために適切な指図・設備を為すべき義務を怠った場合には︑︳雇傭契約

に基づく損害賠償請求権が認められ︑ 準は必ずしも同↓ではない︑

それは事故のみならず事業によって生じた疾病をも対象とする︑従って本

(12)

( i v )  

た︒

件においては︑右の義務並びにその不履行の存否を審理すべきであると判示して︑原判決を破棄し︑原審に差戻 本判決は︑職業病に関する事故保険法及び責任法の限界を示した上で︑雇傭契約に基づく安全配慮義務は突発的な

事故のみならず漫性の職業病にも妥当するものと判断した︒これにより︑前述の

判決が事業所の種類による特別法1 4

の適用範囲の限界に対して述べた点と相侯って︑雇傭契約に基づく安全配慮義務が広範囲にわたって適用の可能な一

般規範としての意味を有することが明らかにされた︒

血使用者の安全配慮義務を雇傭契約に基礎を置くものと性格づける見解は︑ライヒ最高裁判所の判例に定着した︒

営業令の規定する使用者の義務は雇傭契約に基づくものであって不法行為法に基づくものではないと明言する判決 ( 2 6  

R G Z  15  

│ 5

1 

1

88 6. 1 .   12

︺ , 

3

1 w  

18 97  

3

9

RG 18 97

5

2 5] )

も中

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塩平

吉賠

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書竺

仕の

根拠

を示

す際

にヽ

営業令に触れることな<‑雇傭契約に基づく安全配慮義務のみを挙げる判決も現われた

( 2 1

Gr uc ho ts   Be it r.   B d

 29  N

r.  

ご︹

R G 18 84 . 

1 0 .  

25

︺ ー 公 務 員 の 場 合

3 0

Se uf f.  A rc h.  B d.  4 3  Nr .  2

66

 

R G 18 88 .  4 .   13 ],  3 1  

R G Z  21

1

70

1

88 8. 5 .   24

︺︶︒しかし同時に︑﹁労務賃貸借契約から生じ︑営業令︱二

0

条によって法律上規律される義務﹂への違

反が損害賠償責任の根拠であるとする判決

( 2 2

Se uf f.   Ar ch .  B d.   40

  N 

r .   23

゜ ︹

R G 18 84 .  1 1 .   1 4︺ 応 2 3

Se u 

ff . 

Ar ch .  B d.  

かなり後の判決においても︑営業令と雇傭契約の両者を義務の根拠として並列

40

  N 

r .   23 1 

(RG 

18 85 .  1

.   9

︺︶

もあ

り︑

的に挙げるもの

( 3 2

Re ge r 

E .  

13

3 62  

R

G 18 93 .  1 .   2

0︺︶がある︒従って︑安全配慮義務の法的性質について︑雇傭契

約に基づくものとの評価が確定した後においても︑営業令の労働者保護規定は︑損害賠償請求訴訟を規律するにあた

り︑実務上意味を持つものとしてなお重視されていたものと推測しうる︒

以上の叙述により︑労働災害における損害賠償の訴において営業令の労働者保護規定が重要な役割を果してい

五八

(13)

ドイツ民法典における使用者の安全配慮義務規定の生成について(中)(高橋)

られた︒展開は公法の領域に拡がり︑

しかしこの展開と並び︑私法の領域に於ても抜本的な変化が生じた︒機械に保護設備がないために事故に遇っ

た場合︑労働者の使用者に対する損害賠償請求権はもはやアクイリウス法の構成要件に拘束されることなく︑雇 の第

たこ

と︑

五九

一八七一年六月七日の責任法によって踏 しかしその上で︑使用者の損害賠償責任の私法上の根拠づけが意識的に為されるに至ったこと︑

者の義務は︑不法行為法ではなく使用者・被傭者間で締結された雇傭契約に基礎を置くものと性格づけられたことを 示すことができた︒しかし以上の経過からは︑営業令において具体的に定められている安全配慮義務が私法上の義務

として性格づけられた理由︑ その際使用

その際不法行為ではなく契約に基礎を置くものとされた理由を十分に読み取ることはで きない︒そこでこれを推測するための一補助手段として︑同時期の文献による右展開の評価を参照する︒

( 7 8 )  

民法第一草案の雇傭芙約の規定を論評する目的で一八九

0

年に書かれたある論文は︑安全配慮義務の生成に関し次 使用者が被傭者に対して危険な道具を供給し︑あるいは瑕疵ある場所を指示し︑あるいは機械への保護設備の

設置を怠った結果︑被傭者が損害を被った場合︑

その損害賠償請求権は以前はアクイリウス訴権の観点から評価 されるのが常であった︒その結果︑事故と因果関係ある使用者の過責を証明する義務は原告に帰することとなっ

た︒過失

( c u l p a )

及び因果関係の証明に失敗すると︑労働者はその損害賠償の訴を棄却された︒

このような危険の配分は︑近代工業の発展に伴う機械営業の危険が高度化した現在︑国民の法意識に合致しな

い︒我々の法生活を現代の経済生活に適合するよう改革する第一歩は︑

み出

され

︑ それによって証明責任の転換と代理人の過責に対する工場主・鉱山主の責任負担とが企図された︒右 歩が不卜分であることが明らかになったとき︑私法はそもそも労働者の正当な要求に応えられないと考え

その上に疾病・事故・廃疾保険が創られた︒ のように述べている︒

(14)

結果を伴うことになろう︒ 傭契約から引出されるのであり︑

そして営業の性質に鑑みて労働者の生命・健康の安全のために必要な設備・手 段の設置・維持につき配慮することは使用者の契約上の義務であると看倣され始めた︒

右の配慮を為すことは雇傭契約に基づく使用者の義務であるという見地を繰返し言明し︑この原則を基礎づけ︑

続行し︑鍛練したのはライヒ最高裁判所の功績である︒営業令︱二

0

条三項が︑右原則に合致する配慮義務を営

業経営者に課していたことは確かである︒しかしこの義務を︑使用者の過責によってはじめて根拠づけられるので なく︑雇傭契約から直ちに生ずる義務として基礎づけたこと︑営業令の右規定を普通法規範の一結果

( A

u s

f l

u f

3 )

として性格づけたことは︑ライヒ最高裁判所の判例による成果である︒

ドイツ民法典は︑この展開から成果を引出し︑それを営業令︱二

0

条一二項を一般化した原則労務権利者は︑

労務義務者の生命・健康が労務の遂行により危殆化されないよう配慮する義務を負うを受容することによっ て定着させるべきである︒今日の普通法においてこの結果に到達しているにしても︑明文規定のないままであれ ば︑民法典施行後に右配慮義務が肯定される保証はない︒

営業令一

1 ‑ 0

条三項並びに近時導入された強制的な事故保険が卜分な保障を与えるから︑

規定は必要がないという見解があれば︑

そのような一般的な それは不当である︒営業令の規定は単に営業上の雇傭関係のみについて 定められ︑他の種類の労働関係︑例えば農業的性格のもの︑あるいは国の鉄道営業と結びついているものは対象

とされていない︒事故保険法︑責任法も︑例えば事業の影脚によって徐々に進行する職業病には適用がないため︑

ト分な保護を与えるものではない︒もし特別法以外に一般規定がなければ︑

2 9 判決の鉛中毒事件のように非常に

このことは社会的観点から見て著しく望ましからぬ

痛ましい事件が財産上の保護を全く受けないことになるが︑

六〇

(15)

ドイツ民法典における使用者の安全配慮義務規定の生成について(中)(高橋)

触れている判例及び立法直後の解釈論を紹介する中で検討する 当に不利益をもたらすという判断が背後に存したのではないかとの推測が許されよう︒これについては︑証明責任に

︵後

述③

並び

に四

参照

︶︒

② 使 用 者 の 義 務 の 内 容 に つ い て

日の②で示したように︑営業令の労働者保護規定は︑

に表現したものになっているが︑一八六九年に制定された一〇七条は﹁全ての営業経営者は︑営業と事業の場所の特 別の性質を考慮した上で︑生命及び健康の危険から労働者を可能な限り保護するために必要な全ての設備を︑自己の

費用で設置し維持する義務を負う﹂と規定するのみであり︑

限り基本的には同じである︒右義務に違反した場合につき営業令の定める罰則は︑労働者保護のために官庁が行なう 勧告の存在を適用の前提としている︒しかし損害賠償に関しては官庁による勧告や個別的な指示・警告の存在は必要

条件でなく︵前掲

判決参照︶︑営業令の労働者保護規定の右の文言に照らして当該事件における使用者の義務の内容1 7

並びにその不履行の有無が判断された︒

従って右規定の文言の解釈が問題とされる︒もっとも︑ は明らかでないが︑

 

一八七八年に改正された後のニ︱

0

条一二項も文言を見る

いかなる業種においていかなる保護設備が必要とされたか 一八九一年の改正によって使用者の義務の内容を比較的詳細

右の叙述から︑安全配慮義務が私法上の義務として位置づけられた理由としては︑営業令︑責任法︑事故保険法等 の 特 別 法 の 適 用 範 囲 が 限 定 さ れ て い る あ る い は 業 種 に つ い て

︑ あ る い は 被 害 の 原 因 に つ い て た め

︑ 労 務 に 原

因を有し使用者に責のあるすべての生命・健康侵害について︑一般的な賠償根拠規範が必要とされたことが︑少くと

もそのひとつであると推測しうる︒これは︑既に紹介した判決及び民法六一八条制定に際しての提案理由︵後述国参

照︶からも裏付けられうる︒次に︑不法行為ではなく芙約上の義務に基づく責任として性格づけられた理由は直接に

アクイリウス法の適用の結果が︑特に使用者の過責と因果関係の証明責任に関して被傭者側に不

6  ‑ 2  ‑231  ' 8 6 )

(16)

こ ︒ と述べた を拾うにとどめる︒

1

,

. 1  

9

̲ 9  

についての具体的判断は鑑定に基づいて為され︑

な設備の意義︑

その設置・維持の意義︑義務不履行の場合における責任追及の前提について︑

﹁生命及び健康の危険から労働者を可能な限り保護するために必要な設備﹂について

まずここにいう﹁設備﹂は︑工場内の機械の安全装置等︑持続的な営業における持続的な保護設備に限られるもの

では

ない

R1 3

GZ

 8‑51 

(1 88 2. 9. 26

︺は︑鉄道トンネル建設工事に従事する労働者が坑内側壁の崩壊事故で負傷した

事件であるが︑ライヒ最高裁判所は︑

について特別法の規律を受けていることを示した上で︑﹁人間の予見を通じて回避可能である場合︑その限りで︑労働

者の安全確保は建設︵という一時的な仕事︶

︵括

弧内

筆者

補充

︶︒

次に︑ここにいう﹁設備﹂は︑ その内容については詳かにしえない︒ここでは判例の中から︑必要

一時的に産出するのみの化石︵燃料︶の採掘に向けられた鉱業が︑坑夫の安全

から生ずる全ての危険へと拡げられなければならないことは疑いない﹂

工場・機械に定着した保護設備のみならず︑個々の労働者が安全のために身につけ

( 8 0 )  

る装備︑例えば保護眼鏡

(S

ch

ut

b z r i l l e )

をも含む︒もっともい

]R

GZ

1275 

l oo O

゜ 6

﹂︺はこのことを前提とした上O

で︑保護眼鏡の調達にはあまり費用がかからないこと︑その保存管理は経営者よりも労働者自身が行なう方が確実で

あること︑を理由として︑事情によっては眼の保護についての配慮は労働者の義務である場合がある︑と述べたが︑

これは

1 6 R

GZ

 

1 1

ー 誌

1884.2.8︺によって明示的に否定され︑文言通り経営者が自己の費用で提供すべきものとされ

更に︑使用者が設置しなければならない﹁設備﹂は︑営業経営に結合した危険から労働者を絶対的に保護するに適

8 1

)

切な設備のみならず︑相対的な保護を与えるにとどまる設備をも含む︒すなわち営業経営者は︑常に確実に労働者の 一般的に示された規準

/¥ 

(17)

ドイツ民法典における使用者の安全配慮義務規定の生成について(中)(高橋)

'  

傷害を防ぐに適した保護設備のみを設置すれば足るのではなく︑必ずしも絶対的ではないが︑傷害の危険を相当程度 軽減するに適した保護設備をも設置すべき義務をも負う︒従って︑問題とされる設備が絶対的に確実な保護を与える ものでないからといってそれを設けない理由とすることはできない︒仮に保護設備が用いられたとしても労働者の傷

害は防ぎえなかったであろうという場合には︑このこと︵因果関係の不存在︶は経営者の側で論証

( d

a r

l e

g e

n )

しなけ

ればならない︒

右﹁

設備

( 8 3 )  

の必要性の有無は︑営業の性質に照らして判断される︒各判決もこの観点から鑑定に基づいて判断して

営者側の個人的な事情は︑右﹁設備﹂ いるが︑右判断は︑あくまでも営業の性質という客観的な基準によるものであって︑当該企業の営業規模の大小等経

( 8 4 )  

の必要性の有無︑従って義務の成否に影響を与えるものではない︒

なお︑この規定は安全設備の設置・維持を義務づけるのみであって︑労働者を危険にさらさないために特定の材料

( 8 4

2

)

を選択すべき義務を課するものではない︒

︵保護設備の﹁設置・維持﹂について 右に述べた﹁必要な設備﹂が設けられていない場合には︑そのことが使用者の安全配慮義務違反として評価される

こととなる︒しかし使用者は右設備を設置すれば足るのではなく︑それによって労働者が継続的に安全な状態にある

( 8 5 )  

ことについて責任を持たなければならない︒従って使用者は︑右設備を労働者を保護しうる状態に維持すべき義務を

( 8 6 )  

有し︑必要な場合にはそれが十分安全を確保しうる状態にあるかどうか検査しなければならない︒

しかしそれ以上に︑右設備の適切な利用について指示・監督すべき義務があるか否かについて︑一八九一年改正︵一

( 8 7 )  

0

a

四項︶以前の規定の下では問題とされた模様である︒すなわち一方で︑営業令︱二

0

条が定めている保護設

備設置・維持の義務から︑労働者に右設備の適切な使用のために必要な指図を与えることについて配慮すべき工場主の

6‑2  ‑233  ' 8 6 )

(18)

( 8 8 )  

︵ ⑧  

RG 

N 4

 23

 (1

88 1.  4 . 

8︺︶︒これは︑現場で安全な方法による作業が行なわれておら

ず︑特別な指図がなければ未経験な労働者が危険な方法で作業することが予見できたとの前提の下で︑保護設備の適 切な使用につき教示すべき義務を認めたものである︵但し︑本件では責任法二条に基づく責任が︑従って企業主また

︑︑

︑︑

︑︑

はその代理人が注意を払ったか否かが問題とされている︶︒更に︑少し後の判決である

3 0

S e

u f f .

  A

r c h .   B d .  

43 

r .  

266 

RG

18 88 .  4.   13

︺においては︑﹁被傭者に危険と結びついた仕事が委ねられた場合︑彼が既に卜分教示を受けたので

ない限り︑相当な指図を与えるのは使用者の義務である﹂と明言している︒しかし他方で︑営業令の規定の文言によ れば作業場の物的設備の適切な配置のみが問題であって︑その適切な監督・使用は右規定の関係するところではない

( 8 9 )  

とする判決もある︵⑥

S e u f

f .  

A r c h .   B d .   36 

N r .  

149 RG

18 80 . 

1 0 .  

9︺︶︒そこでは右設備が適切に使用されなかった場

合︑そのことが企業主自身の過責または責任法二条にいう指導監督者等の過責に基づく限りで企業主の責任が生じう 右の対立においては︑保護設備が適切に使用されるよう指示・監督する義務が︑営業令の規定の文言から導き出さ

れうるかという問題と︑右指示・監督を現実に誰が行なうか︑

それが適切に為されなかった場合に企業主が責任を負

うか否かという問題とが同時に扱われている︒前者の問題については︑

確保するために必要な業務の秩序と労働者の態度に関する諸規定﹂の公布が義務づけられたため︑保護設備の適切な

5 9 0 )  

使用のために必要な指図を為す義務が認められることは明らかとなった︒後者の問題については︑安全配慮義務にお

︵後

述山

︶︒

ける指揮監督者の過責に対する使用者の責任の問題として別に取扱う

沿

h

以上のように︑使用者は︑労働者を生命・健康の危険から可能な限り保護するために︑営業の性質から見て客観的 必要な保護設備の認識について

るが︑営業令の規定はこれらの場合と関係がない︑

とされている︒

義務を導き出した判決がある

一八九一年改正において﹁危険のない業務を

六四

(19)

ドイツ民法典における使用者の安全配慮義務規定の生成について(中)(高橋)

に必要とされる設備を設け︑それによって安全な状態が継続的に確保されるよう配慮すべき義務を負う︒この義務の

不履行の場合使用者は損害賠償責任を負うことになるが︑几帳面な

( o r d

e n t l

i c h )

事業経営者が有すべき最大の注意及

( 9 1 )  

び専門知識を用いても︑事故当時右の状態が実現できなかった場合には責任は生じない︒従って責任追及の前提とし

て︑使用者による事故防止措置が可能であったことが必要である︒

判例において︑安全配慮義務の不履行の責任を追及するためには︑ある設備が労働者を可能な限り保護するために

必要であることを使用者が知り︑

六五

しかし使用者は必要な保護設備を設ける義務を独立して負うのであるから︑営業警察官吏によって保護設備の欠訣を

( 9 4 )  

指摘されなかったことは右設備を設けなかったことについて免責の理由とはならず︑また他の同種の事業所において

( 9 5 )  

右設備が設けられていないという事情も免責の理由となるものではない︒

③ 証 明 責 任 に つ い て

使用者の安全配慮義務違反による損害賠償責任を︑不法行為でなく雇傭契約に基づくものとする法理の形成の中で︑

損害賠償責任を基礎づける事実の証明についていかなる規律が為されていたか︑はひとつの問題である︒この問題の 検討のため︑参照しえた判決のうち︑判例集・雑誌に掲載されるに際し︑表題において証明責任に関する判決として

( 9 6 )  

扱われているものを紹介する︒

2 0  

S e u f

f .   A

r c

h .

  B d

.   4

0.

N  

r .

  142 

O

LG

z u

a  H

mb

ur

18 84 . 

1 .  

19: RG 

18 84 .  9 .  29 .

建築作業の足場が崩れて また知りえたことが必要とされている︒そして︑当該事業所において労働者保護の

( 9 2 )  

ためにいかなる設備が必要であるかについて︑使用者は専門家に問合わせる等して独自に

( s e l

b s

t a

n d

i g

)

調査しなけ

ればならないものとされる︵照会の義務︶︒従って︑必要な保護設備を知らなかったというだけでは責任を免れること

( 9 3 )  

ができないが︑使用者が作業の危険とその除去手段を知らなかったことについて十分な理由があれば免責されうる︒

6‑2  ‑235  ' 8 6 )

(20)

怪我をした労働者が︑当該建築の請負人

( U

n t e r n e h m e r )  

た︒控訴審は以下の理由により︑被告に損害賠償を命じた︒

被告は︑足場が堅固であって︑

らない︒そのためにいかなる手段を用いるべきかは︑官庁の特別の定めがなければ被告の裁量に委ねられる︒

しかし足場がたやすく崩壊したという結果自体︑被告が卜分に安全な足場の建造を事実として達成せず︑従っ て彼の法律上の義務を果たさなかったことを示している︒被害者たる原告に︑事故の原因たる特別の欠陥の調

査・

証明

︑ ( d

a r t u n )  

と異

なる

その目的の範囲内の負荷に対しては完全に安全であるよう配慮しなければな

それが被告の責に帰すべきものであることの証明を期待することはできない︒

本件では︑被告側の免責立証も︑

また被告に特別の技術的過誤があったことを証明しようとする原告の試み も成功していない︒しかし営業令︱二

0

条三項に基づく訴は︑後者の証明が要求されない点でアクイリウス法

アクイリウス法に基づく訴の場合︑

であり︑指揮者である被告に対して損害賠償を請求し

︵例えば︑ある労働者が足場を故意に傷つけた︑

その基礎づけを為しうるのは︑被告の過責の実証のみである︒

しかし営業令︱二

0

条三項に基づく訴の場合︑営業令は︑労働者の生命・健康を可能な限り保護するために適切

な設備の設置という積極的行為を義務づけている︒従って完全に安全な設備が卜分に可能であったにもかかわ

らず︑それが欠けていた場合には︑卜分な免責立証に成功するまでは営業経営者に答責性

( V

e r a n t w o r t l i c h k e i t )   アクイリウス法の限界を超えて営業令が労働者に与えようとし

労働者は予め足場の構造と材料の十分さを調べる状況にない︒営業令によれば︑ ている保護が達成されうる︒ が

ある

そしてこのような方法によってのみ︑ のは被告の役目である︒

被告の責任外の事情によって惹起されたこと

これについては経営者が配

むしろ︑右の結果が

など

六六

を示す

(21)

ドイツ民法典における使用者の安全配慮義務規定の生成について(中)(高橋)

それにもかかわらず労働者が足場の崩壊のために損害を被った場合には︑被告は︑足

場の建設の際に自己に過責のなかったことを証明するまでは︑

看倣さるべきである︒この証明は被告の責任であって︑原告に︑被告の過責の証明責任が課せられるのではない︒

何故なら︑原告は被告の契約外の過責に基づく請求をしているのではなく︑契約の履行を︑ないしは不履行につ

いての損害賠償を求めているのであり︑契約は確定しているのであるから︑被告は自己の義務を正当に果たした

という証明によってのみその請求を免れうるものだからである︒

2 5   RG

1

4 84  ( 18 85 . 

9 .

 

18︺車ナ案は不明であるが︑次のように述べる︒

営業令︱二

0

条に基づいてであれ︑雇傭関係自体に基づいてであれ︑営業主が労働者に対して可能な限りの安

る義務があった︒従って︑ 被告には︑建築作業に必要な足場を︑

六七

慮すべきであり︑労働者はそれについて経営者を信頼して良いというべきである︒しかし仮に︑事故に遇った

労働者が賠償を請求するために︑結果をそれ自体として主張するだけで良いとするのでなく︑経営者自身の有

被告の上告は棄却された︒ の趣旨かーー筆者註︶は殆ど無に帰するであろう︒

それは︑ライヒ最高裁判所が原判決の理由づけを正当と認めたためであるが︑

しカ

し﹁但し営業令︱二

0

条によって特別の︑その他の芙約及び不法行為の訴とは異なる訴が取り入れられたという

上級ラント裁判所の解釈の正当性については疑問がある﹂と付け加えられている︒

2 3   S e u f f .  

A r

c h

.  

B d

.  

40 

N  r .  

231 RG

18 85 . 

1 .  

9︺右と同様︑建築作業の足場が崩壊した事例のようであるが︑

次のように述べる︒

それを登ることにより生命・健康の侵害を生じない状態で労働者に供す

それについて責任がある

( v e r a n t w o r t l i c h )

ものと 護を与えようという営業令の目的︑ 責な特別の過誤をまず証明しなければならないとすれば︑この目的︵労働者にアクイリウス法による以上の保

参照

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