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マレーシア債券市場の改革と成果

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柏原編『「アジア域内金融協力」再考:進展と課題』調査研究報告書 アジア経済研究所 2012 年

第6章

マレーシア債券市場の改革と成果

中川 利香 要約 本稿の目的は、2000 年以降のマレーシアの債券市場改革とその成果を明らかにする ことである。債券市場の改革は、2001 年に証券委員会が発表した『資本市場マスター プラン』に沿って進められた。その結果、債券市場にはさまざまな変化が観察された。 発行残高は増加傾向にあり、その GDP 比率も 2010 年には 99.7%にまで拡大した。内訳 をみると、コンベンショナル債の比率が低下したのに対し、イスラーム債の比率が拡大 していた。特に民間企業によるイスラーム債の発行が積極的なことが明らかになった。 国債保有者構造については、外国人の割合が拡大した。社債は、金融・不動産・ビジネ スサービスや建設業の新発債が増加した。流通市場に関しては、国債の流動性は大きく 改善したが社債については課題が残った。マスタープランに基づく改革が 2010 年に終 了すると、翌年に『資本市場マスタープラン2』が発表され、改革を継続する意思が示 された。マスタープラン2では成長とガバナンスの2つの柱を掲げ、マレーシアを高所 得国へと発展させるために資本市場の役割を強化するとしている。また、国際経済環境 の不確実性の高まりからリスク管理および監督の強化に重点が置かれ、ガバナンスに関 する改革を行うとしている。 キーワード: 資本市場マスタープラン マレーシア

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はじめに マレーシアでは、2001 年から資本市場改革を進めてきた。その契機となったのは、 1997 年にタイで発生した通貨危機である。周辺のアジア諸国と比較すると、通貨危機 の影響はそれほど大きくなかった。ところが、外国で発生したショックに対する金融市 場の混乱と、その経済的影響の大きさを目の当たりにした政府は、強い金融市場の構築 を目指して改革に取り組むこととなった。 資本市場の改革は、2001 年に発表された『資本市場マスタープラン』(Capital Market Master Plan: CMP)に沿って行われた。CMP には、2010 年までの 10 年間を3つのフェ ーズに区切り、段階的な改革のスケジュールと概要が提示されている。フェーズ1(2001 ~2003 年)では国内金融機関の能力強化のための改革に集中し、フェーズ2(2004~ 2005 年)では重要部門の更なる強化と段階的市場開放を進める。そしてフェーズ3(2006 ~2010 年)は、市場インフラの整備と国際市場におけるマレーシア資本市場の知名度 の向上を目指す期間とした。改革の範囲は市場制度、株式市場、債券市場、デリバティ ブ市場、イスラーム資本市場、証券仲介業、投資顧問業、コーポレートガバナンス、規 制、技術・電子商取引、人材育成の 11 分野が対象となっている。証券委員会の報告に よると、合計 152 の改革のうち 2010 年末時点で 95%の改革を実行したとのことである (Securities Commission Malaysia [2011: 2])。

2010 年までの改革で、市場における制度面の整備や金融商品の多様化、市場の自由 化が進められてきたが、マレーシア経済は2つの大きな課題に直面した。ひとつは、中 所得のわなに陥ったことである。1990 年にマハティール首相(当時)が発表した「ビ ジョン 2020」を達成するには、高所得国へと成長しなければならない。経済成長を実 現するために、資金循環を効率的にする必要がある。そこで政府は、資本市場の役割強 化に着目したのであった。そしてもうひとつは、経済における不確実性への対応である。 リーマンショックに端を発した金融危機は世界中に波及し、リスク管理の強化が必要と なった。このような事情を踏まえ、証券委員会は 2011 年に『資本市場マスタープラン 2』(Capital Market Master Plan 2: CMP2)を発表し、改革を継続する意思を示した。

以上の背景を踏まえ、本章の目的は 2000 年以降のマレーシアの資本市場の改革とそ の成果を整理することである。研究会の趣旨であるアジア域内金融協力の再考にあたり、 本稿では特にマレーシアの債券市場改革に焦点をあてる。アジア通貨危機の経験を踏ま えて始まったアジア域内金融協力では、域内貯蓄の効率的利用を促すために債券市場に 注目した。そのためアジア各国における債券市場の改革は、地域的取り組みであるアジ ア債券市場育成イニシアチブ(Asian Bond Markets Initiatives: ABMI)とアジア債券ファ ンド(Asian Bond Fund: ABF)が目指す方向と逆行してはならない。アジア地域の中で 比較的よく発展した資本市場を持つマレーシアは、今後、域内金融協力においてある程

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度の牽引役を担うべき存在になることが予想される。本稿は、それらの視点を念頭に置 きつつ、予備調査としてマレーシアの債券市場の変化を明らかにする。 本章の構成は次のとおりである。次節では CMP に基づく改革の動向を整理する。若 干のスケジュールの遅延はあったが、確実に改革を実行してきた様子について言及する。 第2節では改革の成果を明らかにする。マレーシアの債券市場は順調に拡大しているが、 課題もまだ残っていることを示す。第3節では CMP2 の改革内容をまとめる。成長とガ バナンスという2つの改革の柱を提示し、それぞれの内容について触れる。最後に本章 をまとめ、今後の研究課題を述べ、結論とする。 1.CMP における改革の取り組み―債券市場を中心に―1 1.1 コンベンショナル債市場2 債券市場の改革スケジュールをみると、その内容は大きく4つに分類できるだろう (表1)。第1に市場全般の制度整備である3。国債発行の促進や社債発行時の情報公開 を徹底したほか、2001 年には資産担保証券募集のためのガイドライン4を作成し、ルー ルの明確化を図った。また、取引の迅速化と合理化を進めるために入札システムをアッ プグレードし、2005 年にウェブベースの入札システムを導入した5 第2に発行市場の拡大である。2001 年に資産担保証券の発行が、2004 年には国際機 関や多国籍企業によるリンギ建債券の発行が許可された。これにともない、国内債券に 対する国際格付け機関の格付け取得も認められた。発行市場の拡大は発行体や商品の多 様化だけでは達成できず、投資家層の拡大も欠かせない。この点の改革として、証券委 員会は 2002 年にユニバーサル・ブローカーに対する債券の相対取引への参入を許可し た。また、2005 年にはアジア域内金融協力の一環で進められているアジア債券インデ ックスファンド(ABF Malaysia Bond Index Fund)が上場した6。このファンドを通じて

1 銀行部門の改革は中央銀行が 2001 年に発表した『金融セクターマスタープラン』に沿って行 われている。詳しくは中川[2007]を参照されたい。 2 イスラーム金融の分野では、非イスラーム金融のことをコンベンショナル(conventional)と表 現することが多い。本稿でもその意味で使用する。コンベンショナル債(conventional bond)は、 利子が発生する一般的な国債、財務省証券、社債等を指す。 3 証券取引に関する法整備については中川[2008]が詳しい。 4

ガイドラインの名称は“Guidelines on the Offering of Asset-backed Securities”。

5 自動入札システムが最初に導入されたのは 1996 年9月である。当時は国債と中央銀行債に限

定されていた(Bank Negara Malaysia [2007a: 42])。

6 ABF Malaysia Bond Index Fund はマレーシアで最初の上場投資信託である。リンギ建て国債お

よび準政府債(quasi government debt securities)に投資を行うファンドで、ファンドマネジャー は AmInvestment Services Bhd.である(Bursa Malaysia ウェブサイト、www.bursamalaysia.com/

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マレーシア国内の投資家層を広げ、アジア域内金融協力への貢献も果たそうとしている。 第3に流通市場の拡大である。例えば、国債先物や空売り制度の導入、レポ取引の活 性化、被雇用者年金基金(EPF)の国債投資枠の緩和7などがこれに該当する。2001 年、 証券委員会は証券貸借に関するガイドラインを発行し、レポ取引のルールを示した8 これにより、プリンシパル・ディーラーは中央銀行が指定した証券の貸借取引が可能と なった。2002 年から 2003 年にかけて国債先物取引が導入され、また年限の異なる国債 も導入された。これは、投資家のリスク管理を促すのと同時に流通市場の発展にも貢献 する。2004 年、中央銀行は機関投資家が長期に保有している証券を流通させるために、 証券カストディアンプログラム(Institutional Securities Custodian Program)を導入した。 翌年にはレポ取引が導入され、国債空売り規制も緩和された(Bank Negara Malaysia [2006: 205])。また、2006 年に満期前償還条項付国債(callable MGS)が導入され、2007 年には国債のスイッチオークションを実施した。このように、流通市場の発展を促す改 革は当初のスケジュールより若干遅れたものの、確実に実行された。

第4に税制改革である。債券発行にかかる費用控除を認めたほか、非居住者の利子所 得に対する源泉徴収税を廃止した(Securities Commission [2001a: 160])。また、個人や投 資信託、クローズドエンド型ファンドに対しても利子所得税の免除を適用している。政 府は、資産担保証券の発行促進を目的として、特別目的会社に対する印紙税と不動産譲 website/bm/products_and_services/equities_resources/exchange_traded_fund/abfmy1.html、2012 年2月 17 日アクセス)。 7 EPF は 1951 年に始まった強制貯蓄制度である。2011 年9月末現在、1,300 万人以上が加入して いる。加入者は雇用者と掛け金を分担して納める仕組みになっている。給与水準によってその割 合が異なっており、過去何度か改訂されてきた。2011 年1月より従業員と雇用者の負担割合は それぞれ 11%と 12%であるが、2012 年1月より給与水準が 5,000 リンギ以下の従業員に対する 雇用者負担が 13%に変更された。2012 年2月より、給与水準が 5,000 リンギ以下かつ 55~75 歳 ま で の 従 業 員 に 対 す る 雇 用 者 負 担 が 6.5 % に 引 き 下 げ ら れ た ( EPF ウ ェ ブ サ イ ト 、 www.kwsp.gov.my/、2012 年2月 10 日アクセス)。EPF による投資は、法律で国債への投資割合 が定められている。ところが、1990 年代に財政が黒字に転換すると EPF は規制を順守すること が難しくなった。1991 年被雇用者年金基金法(Employees Provident Fund Act 1991)では、大臣 の同意を条件として国債への投資割合が 70%から 50%に緩和された(26 条 B(1))。ただし、50% という割合は財務大臣が変更することができる(26 条 B(2))。こうして EPF の国債への投資割 合は次第に減尐し、実態は 30~40%程度にまで縮小した。Thillainathan [2003]は、1991 年 EPF 法は改正されていないにもかかわらずこのようなことが可能なのは、財務大臣が 70%規制の免 除を毎年許可しているからであると指摘する(Thillainathan [2003: 25-26])。 8

ガイドラインの正式名称は、“Guidelines on Securities Borrowing and Lending Programme Under RENTAS”。このガイドラインでは、証券貸借取引が可能なのはプリンシパル・ディーラーのみ とされ、中央銀行が指定した証券に限定される(Bank Negara Malaysia [2001: 10], 8.1)。担保は現 金ではなく、RENTAS に預託している証券でなければならない(同 [2001: 10], 8.2 および 8.3)。 なお、RENTAS(Real Time Electronics Transfer of Funds and Securities)とは、1999 年に導入され た大口の即時決済システムである。銀行間送金システムと証券預託システムの2つから構成され ており、資金と証券の振替が可能である(Bank Negara Malaysia ウェブサイト、www.bnm.gov.my/

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渡益税を 2000 年に撤廃していたが、それを継続するとした。2003 年には資産担保証券 の発行に関する費用を控除対象とする措置も講じた。2004 年、非居住者が受け取る全 てのリンギ建て債券に対する利子の源泉徴収税も免税とした(Bank Negara Malaysia [2007b: 94])。 表1 債券市場の改革スケジュール 2001 年 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 フェーズ1 フェーズ2 フェーズ3 国内金融機関の能力強化 重要部門の強化 市場インフラの強化 潜在的部門の発展 段階的市場開放 国際市場での地位確立 社債発行時の情報公開の整備 国際金融機関および多国籍企業のリンギ建債券発行 社債の自主登録制度の導入 社債格付け義務の撤廃 資産担保証券の導入 債券の集中決済システム 特別目的会社および資産担保証券発行に関 の導入 する印紙税および不動産譲渡税の撤廃 国内債券に対する国際格 流動性ベンチマークの確立 付け機関による格付けの 国債発行の促進 の許可 債券空売りの許可 非金融機関のレポ取引参加の許可 国債先物取引の導入 雇用者年金基金の国債投資枠の緩和 相対取引可能な機関の拡大 ファンドを通じた個人向け社債投資の奨励 債券発行および購入に関する税制改革

(出所)Securities Commission [2001a]より筆者作成。ただし邦語訳は筆者による。

1.2 イスラーム資本市場の改革 イスラーム金融取引は比較的古くから存在するが、同分野が注目されるようになった のは、原油価格の高騰に対する関心が高まった 2000 年以降のことである。マレーシア は憲法第3条でイスラーム教を国教と定め、金融市場も開発途上国の中では比較的発展 しているため、イスラーム金融に対する国内の需要が見込める。また、オイルマネーの 運用という面で外国の需要も期待できる。政府は、イスラーム金融の分野でマレーシア の国際的地位を確立するためにも改革を急ぐ必要があった。CMP でイスラーム資本市 場を分別しているのは、マレーシアがイスラーム資本市場の振興に本気であるという姿 勢を示そうとしたとも推測できる。 前項で述べた債券市場の改革の多くは、イスラーム債市場の発展にも大きく寄与する ため、改革の方向性が大きく変わるものではない。しかし、イスラーム債は発行の際に

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裏付けとなる資産が必要な場合が多いため、別途、イスラーム債の発行を円滑に進める 制度整備が必要となる。まず、証券委員会は 2004 年にイスラーム債募集のガイドライ ンを発行した9。このガイドラインは、2000 年に導入された負債証券募集のガイドライ ンからイスラーム債に該当する部分を切り離したものである。証券委員会によれば、イ スラーム債のガイドラインを独立させたのは、国内外(特に中東)の投資家のニーズに 合うイスラミック証券の開発を促進することが目的であるとしている( Securities Commission [2005: 2-25])。関連する法律や財務諸表の作成に関するルール等、イスラー ム債の発行・流通に必要な制度も徹底して整備した。また、イスラーム金融商品として 適切か否かを判断するシャリーア諮問委員会も設置した。 発行市場と流通市場の改革として、イスラーム金融商品およびそのサービスの提供が 掲げられ、2001 年以降、さまざまなタイプのイスラーム債が発行された。また、イス ラーム債の投資家層を拡大する改革が示された。イスラミック証券に対する集団投資ス キーム(collective investment scheme)の導入や、タカフル産業の投資規制の自由化も掲 げられている。マレーシアでは 2001 年から外貨建イスラーム債の発行が可能であるが、 機関投資家が外貨建イスラーム債の取引を行う際には、証券委員会の事前承認が必要で あった。この規制を 2006 年に撤廃し、取引が自由化された。 税制改革については、コンベンショナル債に対する税の免除および控除措置がイスラ ーム債にも適用されている。それに加え、2007 年にイスラーム債を発行するために設 立された特別目的会社の所得税も免除の対象とした。同年、イスラーム債発行にかかる 費用の控除が認められた。このように、イスラーム債の方がコンベンショナル債よりも 手厚いインセンティブが付与されている。 以上の他に特徴的な点は、国際化の推進に早期から取り組んでいることである。マレ ーシアのイスラーム金融市場は国際市場におけるハブを目指しているため、積極的な国 際化を進めてきた。例えば、外国のイスラーム資本市場との提携や、国際市場でのイス ラーム債発行などがあげられる。2002 年には、政府が6億ドルのドル建イスラーム債 を発行した。これは世界でも初となるグローバルソブリン債である。2004 年、ラブア ン国際金融取引所はバハレーンの国際イスラーム金融市場と提携することに合意した。 2006 年に政府系投資会社のカザナ・ナショナルが 7.5 億ドルの他社株転換スクーク (exchangeable sukuk)を発行した。イスラーム金融における他社株転換債は世界でも初 の試みである(MIFC ウェブサイト)10 9

ガイドラインの名称は“Guidelines on the Offering of Islamic Securities”。このガイドラインが発表

される前は、“Guidelines on the Offering of Private Debt Securities”(2000 年導入)に従う必要があ

った。参考までに、イスラミック資産担保証券は 2001 年に導入された資産担保証券募集のガイ ドライン(“Guidelines on the Offering of Asset-backed Securities”)が適用される。

10 http://www.mifc.com/index.php?ch=menu_foc_suk&pg=menu_foc_suk_iss、2012 年2月 28 日アク

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表2 イスラーム資本市場の改革スケジュール 2001 年 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 フェーズ1 フェーズ2 フェーズ3 国内金融機関の能力強化 重要部門の強化 市場インフラの強化 潜在的部門の発展 段階的市場開放 国際市場での地位確立 競争力があり革新的なイスラーム金融商品および同サービスの提供 イスラーム集団投資スキームの導入とその促進 タカフル産業の投資規制の自由化 証券化を通じたイスラーム金融取引に利用可能な資産の流動化 イスラーム資本市場に関する専門知識を有する人材育成 イスラーム金融部門におけるシャリーア諮問委 員会の設置 税と法的フレームワークの構築 財務諸表フレームワークの作成 国内外におけるマレーシアのイスラーム資本市場の知名度向上 外国のイスラーム資本市場との戦略的提携 政府および政府関連企業による国際市場で のイスラーム債発行 イスラーム・エクイティ・ファンドの海外 市場における上場 外国機関およびイスラーム資本市場ビジネスの 専門家に対するインセンティブ付与 家 (出所)表1に同じ。ただし邦語訳は筆者による。 2.資本市場の変化 第1節でまとめたように、マレーシアは 2000 年から資本市場の改革を行ってきた。 では、改革の成果として市場にはどのような変化が生じたのだろうか。第2節ではその 点に着目してみよう。 2.1 債券市場の規模 図1は 2000 年から 2010 年までの債券発行残高の推移を示したものである。2000 年 以降、コンベンショナル債もイスラーム債も金額ベースで年々増加している。対 GDP 比(合計)では、2000 年の 73.9%から 2003 年には 87.1%に拡大したものの、その後は 2007 年まで 80%台を推移しており大きな変化はみられない。2008 年は 70%台に若干縮 小したが、2009 年と 2010 年はそれぞれ 94.7%と 99.7%に拡大した。2000 年から約 25% もの拡大をもたらしたのは、イスラーム債の発行が増加したためである。コンベンショ ナル債の対 GDP 比は緩やかに縮小しているのに対し、イスラーム債の比率は 2000 年の

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10.8%から 2010 年には 38.4%にまで拡大した。この背景には、政府がイスラーム資本 市場の活性化を目指し、コンベンショナル債よりも多くの税のインセンティブを付与し たことが関係していると考えられる。 図2および図3は、債券発行主体別の残高推移を示したものである。コンベンショナ ル債(図2)の発行で大きな割合を占めるのは連邦政府(Gov’t)11であり、次いでその 他(Others)である。その他には民間企業と政府系企業が発行した債券が含まれるが12 その推移は 2000 年からあまり大きな変化はみられない。イスラーム債をみると(図3)、 残高の総額はコンベンショナル債よりも尐ないが、その増加が顕著である。特に、その 他の伸びが大きいことがわかる。 図1 債券市場の規模

(出所)Bank Negara Malaysia, Bond Info Hub ウェブサイト(bondinfo.gov.my, 2011 年 12 月 4 日アクセス)、 同 [2011] Monthly Statistical Bulletin, August より筆者作成。

11 2011 年 12 月 5 日、中央銀行にメールにて確認。 12 脚注 11 に同じ。 0 20 40 60 80 100 120 0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 GDP 比 (%) 百万 リ ン ギ 年 コンベンショナル イスラミック コンベンショナル(対GDP比) イスラミック(対GDP比) 合計(対GDP比)

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図2 発行主体別残高推移:コンベンショナル債

(出所)Bank Negara Malaysia, Bond Info Hub ウェブサイト(bondinfo.gov.my、 2011 年 12 月 4 日アクセス) より筆者作成。 図3 発行主体別残高推移:イスラーム債 (出所)図2に同じ。 0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 百万リ ン ギ 年 Gov't BNM Others 0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 300,000 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 百万リ ン ギ 年 Gov't BNM Others

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2.2 国債保有者構造の変化

図4は国債保有者の変化をとらえたものである。国債を最も多く所有するのは、社会 保障機関である。銀行部門や保険会社も国債を多く保有しているが、2006 年頃を境に 外国人の保有比率が高まった。外国人の国債保有比率は 2001 年には 0.3%であったが、 2007 年には 14.3%にまで拡大したのである(Bank Negara Malaysia [2008: 78])。2010 年 には 30%に迫る比率となった。外国人による国債投資の増加要因として、マレーシア 工業開発金融公庫(MIDF)チーフエコノミストのアンソニー・ダス氏は、リンギ高の 進展や社債よりも低リスクであることをあげている(Leong [2010])。マレーシア格付け 会社(MARC)チーフエコノミストのノル・ザヒディ・アリアス氏は、景気が低迷して いる日欧米から高成長を続けるアジア地域に資金が流れているためであると分析した (Leong [2010])。外国人の国債への投資は 2005 年に外国為替管理が緩和され、ポート フォリオ投資が自由化されたことも大きく関係しているだろう。なお、図4にはイスラ ーム債は含まれていないが、中央銀行によると政府投資証書(GII)の主要な保有者は 銀行、イスラーム金融機関、保険会社となっている(Bank Negara Malaysia [2011])。

図4 国債保有者構造

(注)イスラーム債は含まれていない。「社会保障機関」には、被雇用者年金基金、社会保険、その他社会 保障機関が含まれる。

(出所)Bank Negara Malaysia [2011] Monthly Statistical Bulletin, August より筆者作成。

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 年 外国人 その他金融部門 銀行部門 保険会社 社会保障機関 その他公的部門 政府

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2.3 民間企業の資金調達 民間企業の資金調達は、株式発行によるものよりも負債調達の方が多い(図5)。2003 年までは普通社債とイスラーム債が大きな割合を占めている。投資商品の多様化を図る ため、証券委員会は 2001 年に資産担保証券を導入した。また同様の目的で 2003 年にミ ッド・ターム・ノート(MTN)が導入され、2004 年以降その発行が急速に増加してい る。特に 2007 年以降の MTN の増加が著しい。その一方で普通社債が減尐しているの は、満期構造が短期化していると理解することもできよう。その背景には、経済の不確 実性が高まり長期債を嫌う発行体が増加したのではないかと考えられる。 イスラーム債市場の利用状況は中川[2010a]で指摘されているように、普通社債と ミッド・ターム・ノートがほぼ同じ割合で発行承認を受けている。また、イスラーム債 とコンベンショナル債を混合して発行するケースもある。 図5 資本市場を通じた民間企業の資金調達(グロス) (出所)図4に同じ。 2.4 部門別新規債券発行 民間企業の新規債券発行を部門別でみた場合、建設業、金融・不動産・ビジネスサー ビスの2部門の変化が目立つ。この背景には、証券委員会が負債調達による資金の使途 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 90,000 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 百万 リ ン ギ 年 資産担保証券 ミッド・ターム・ノート イスラーム債 普通社債 転換社債 ワラント債 株式・ワラント

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図6 部門別新規債券発行 (出所)図4に同じ。 に関する規制を緩和したことが関係していると考えられる。元来、この規制は1戸あた り住宅価格が

25

万リンギを超える住宅(サバ、サラワクを除く)や商業施設(ホテル、 オフィスビル、ゴルフコース、ショッピングモール等)の建設事業にかかる資金の負債 調達を制限するものであった(Securities Commission [2001b])。これを順次緩和して いったのである。まず

2001

年に1戸あたり 25 万リンギ超の住宅とショップハウスの 建設事業にかかる資金調達が認められた13。また、指定された都市・地域14の住宅、シ ョップハウス、オフィスビル、商業ビル、ショッピングモールの建設資金の調達も許可 された。住宅開発のための土地購入代金の調達は、国内企業のみに認められることとな った。

2003

年になると一定の条件15を満たしたハイパーマーケットの建設事業にかかる 資金の調達が認められた。そしてついに

2005

年には全ての規制が撤廃された。このよ うな規制緩和は不動産業や建設業の起債を促進する効果があったものと推測できる16 。

13 ただし、調達金額の上限は損益分岐点売上高(break-even sales in value terms)までと制限され

ている(Securities Commission [2001b])。 14 プトラジャヤ、サイバージャヤ、クリムテクノロジーパークが指定されている。 15 例えば、(1)関係省庁から操業許可が下りていること、(2)発行体のビジネスとして営むこ と、(3)債券調達金額を超えて建設された部分を第三者に貸し出さないこと、(4)発行体は規制 監督機関の規制が変更された場合でもそれに従うこと、の4つが条件として示されている (Securities Commission [2003])。 16 この他に、金融機関の起債が増加している可能性を指摘しておこう。他のアジア諸国では金 融機関の社債発行の増加という共通点が観察されている。中央銀行の統計には「金融・不動産・ 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 百万 リン ギ 年 卸売・小売・ホテル・レストラン 政府・その他サービス 金融・不動産・ビジネスサービス 運輸・倉庫・通信 電気・ガス・水道 建設業 製造業 鉱業 農林水産業

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2.5 債券市場の流動性 債券市場の流動性をみる指標のひとつである売買回転率を確認してみよう(表4)。 政府債(MGS、GII、MTB、MITB)と社債(BOND)は 2005 年から 2006 年にかけて上 昇したが、その後は低下した。政府債に関しては、多くの年で売買回転率が1を超えて いることから流動性は高いといえよう(Callable MGS を除く)。それに対し、社債の売 買回転率は大きな改善がみられない。CMP では、レポ市場や債券貸借取引、年限の異 なる MGS の導入など、政府債の流通市場に関する改革に重点が置かれていた。もちろ ん、売買回転率はその時々の景気に左右されることもあるが、制度面などの構造的問題 があるか否かを究明する必要があるだろう。社債市場の流動性については CMP2にお いても継続して取り組むべき課題である。 表4 流動性指標:売買回転率 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 MGS 1.22 1.66 1.81 2.94 4.27 3.08 2.64 1.84 1.97 Callable MGS 0.28 0.86 0.15 0.06 0.21 GII 0.67 3.81 2.99 4.29 2.17 1.96 0.69 0.86 1.32 MTB 0.38 3.4 3.96 4.65 5.01 3.51 2.68 MITB 1.22 2.23 2.96 3.26 4.03 2.39 3.12 BOND 0.24 0.43 0.41 1.23 1.24 0.63 0.14 0.15 0.17 I-BOND 0.61 0.79 0.71 0.79 0.52 0.43 0.16 0.12 0.28 (注)1. 略称の意味は次のとおり。MGS:国債、Callable MGS:満期前償還条項付国債、GII:政府投資証 書、MTB:財務省証券、MITB:イスラミック財務省証券、BOND:社債、I-BOND:イスラミック 社債 2. MITB は 2004 年に、Callable MGS は 2006 年に導入されたため、それ以前のデータはなし。なお、 MTB については売買高の統計が公表されていないため、算出不可能であった。 (出所)残高については FAST ウェブサイト(https://fast.bnm.gov.my/fastweb/public/MainPage.do、"Historical Outstanding Amount"、2012 年 2 月 6 日ダウンロード)、売買高については Bond Info Hub ウェブサイ ト(http://bondinfo.bnm.gov.my/portal/server.pt、"Historical Turnover"、2012 年 2 月 6 日ダウンロード) を参考に筆者作成。 3.CMP2が目指す改革 3.1 CMP2の2つの柱 冒頭で述べたように、CMP2 はマレーシアが中所得国から高所得国への転換できるか 否かを左右する重要な改革と位置づけられている。CMP で達成できなかった改革を確 ビジネスサービス」の内訳が公表されていないため断言することは難しいが、同様の現象がマレ ーシアに発生している可能性は否定できない。

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実に実行し、マレーシア経済の課題を克服するために、CMP2 では成長とガバナンスの 2つを柱としている(Securities Commission Malaysia [2011])。

成長戦略については、次の5点が掲げられた(表3)。第1に、資本形成の促進であ る。マレーシアが高所得国に転換するには、新興企業や中小企業、高リスクの事業、社 会的責任を果たすプロジェクト等に資本を提供する環境を創りだす必要がある。ここに は、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティ、債券市場の活性化などが含まれ る。第2に、仲介の効率性と範囲の拡大である。マレーシアでは民間部門で貯蓄超過と なっており17、それが一部の低リスクの金融商品に投資が集中しているという問題があ る。これを解決するために、投資商品の多様化や投資顧問業務の活性化などを進めると している。第3に、市場の流動性とリスク仲介を促進することである。デリバティブ商 品を多様化し、市場参加者を拡大することで市場の流動性を高めようとするものである。 第4に、国際化の推進である。マレーシアの経済成長は市場の大きさに制約を受けるた め、国際化を視野に入れる必要がある。マレーシアが比較優位を持つイスラーム金融を さらに発展させ、同分野が国際的なハブとして不動の地位を確立することをねらってい る。第5に、将来のニーズを踏まえた能力構築と情報インフラの強化である。前者は、 官民連携、金融分野における教育・訓練のハブ化に、後者は電子取引や情報公開、通信 などのインフラ強化を掲げている。 一方、ガバナンスに関する戦略は次の6つの項目があげられている。第1に、リスク 管理のための商品規制の強化である。近年は金融商品の複雑化にともない、リスクも複 雑化している。情報の非対称性への対処や公平な行動規範を強化し、場合によっては規 制を強化する必要がある。とりわけ、ここには商品開発に関する資金調達、情報公開の 徹底なども対象となっている。第2に、仲介範囲拡大に伴う説明責任の強化である。内 部統制の強化、取締役会や経営者のリスク管理および法令順守における監督、などが含 まれる。第3に、市場展望の変化に即した規制フレームワークの強化である。市場の「質」 を向上させるため、ここには各種規制や自主規制機関、取引監視のあり方等を見直すと している。その他、相対取引の透明性の確保も対象となる。第4に、効果的なリスク監 督の追求である。規制範囲や投資家保護の方法を強化することはもとより、金融取引に ともなう諸リスクの監督を強化する改革を行おうとしている。第5に、コーポレートガ バナンスの強化である。取締役会の改革、株主の経営参加権の拡大、内部統制や外部統 制の強化、情報公開の徹底などを通し、コーポレートガバナンスを強化する。第6に、 ガバナンスへの参加拡大である。投資家教育の範囲を拡大し、投資家が利害関係者とし てガバナンスに関与することを奨励する。また、企業が社会的責任を果たすために利害 17 マレーシアの貯蓄・投資バランスは、通貨危機以後、貯蓄超過となっていることが明らかに なっている。投資については通貨危機前の水準に回復しておらず、とりわけ地場企業の投資があ まり増加していないという問題を抱えている。詳しくは中川[2010b]を参照されたい。

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関係者の役割を強化することを目指している。 先述のとおり、マレーシアは中所得のわなから脱するために、経済成長における資本 市場の役割を強化することを目指している。CMP の成果として課題が明らかになった 債券市場(特に社債市場)の流動性を高めることも必要である。そのために CMP2 では 投資顧問業の債券市場への投資促進や、個人投資家による債券投資の活性化などが課題 となる。投資家層の拡大という観点では、外国人投資家による社債購入は既に可能であ る。しかし、社債投資に向かわないのは国債に比べてリスクが高いことが理由であろう。 投資家の判断を補完する十分な情報を開示し、必要書類作成にかかる手続き等の簡素化、 倒産時のプロセスの明確化などが求められる。CMP2 においては、これらの点も改革を 行うとしている(Securities Commission Malaysia [2011])。

イスラーム債市場に関しては、引き続き商品の多様化を進めること、商品開発に関す る国際的な提携の強化を進めること等が掲げられている。債券市場の対外開放が進むと いうことは、投資家は国内外に散在することになる。したがって、リスク管理は厳格に 行う必要があり、ルールも明確化しなければならない。情報公開やガバナンスの強化は 市場の健全な発展を促すばかりでなく、投資家を保護することにもつながる。 表3

CMP2

の戦略 成長 ガバナンス 資本形成の促進 リスク管理のための商品規制の強化 仲介の効率性と範囲の拡大 仲介範囲拡大に伴う説明責任の拡大 流動性とリスク仲介の深化 市場環境の変化に応じた規制フレームワークの強化 国際化の推進 リスク監視の効率化 能力構築と情報インフラの強化 コーポレートガバナンスの強化 ガバナンスへの参加の拡大

(出所)Securities Commission Malaysia [2011: 17]より引用。ただし、邦語訳は筆者による。

むすびにかえて―資本市場改革の課題― 以上、本稿ではアジア通貨危機後にマレーシアで進められた資本市場の改革と、その 成果について明らかにしてきた。マレーシアでは 2001 年から CMP に基づいて漸進的な 改革を進めており、当初の予定をほぼ達成する形で CMP の終了を迎えた。債券市場に 関する改革は大きく分けて、(1)市場全般の制度整備、(2)発行市場の拡大、(3)流通 市場の改善、(4)税制改革を中心に進められてきた。(1)については、証券発行に関す るガイドラインを定め、ルールを明確化した。また、入札システムを改善するなど、市 場インフラの整備も行った。(2)に関しては、商品の多様化を進めた。その結果、資産 担保証券が導入されたほか、国際機関や多国籍企業がマレーシアで起債できるようにな

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った。そして投資家層の拡大に関しては、各種ファンドを通じて個人投資家も国債に投 資することが可能となった。アジア債券インデックスファンドが証券取引所に上場し、 アジア域内金融協力に関連した変化もみられる。(3)については債券貸借取引やレポ取 引などが導入され、流動性は改善されてきたものの依然として課題が多いことを本稿で も示した。(4)に関しては、債券発行を促すための改革が行われた。まず、債券発行に 関する費用控除の適用や、利子所得税の免除、特別目的会社に対する印紙税および不動 産譲渡益税の免除など、大胆な税のインセンティブを発行体や投資家に与えた。これら の改革はイスラーム債市場にも共通する内容であった。以上に加え、イスラーム債市場 にのみ特徴的な改革も行われた。例えば、国際化の推進である。マレーシアの場合、金 融部門の対外開放を視野に入れて改革を進めてきたが、特にイスラーム資本市場の国際 化は積極的に行われた。 CMP における改革の結果、債券市場にはさまざまな変化が観察された。債券発行市 場の規模は金額ベースでは拡大し、GDP 比率も 2000 年から 2010 年にかけて約 25%拡 大した。その内容をみるとコンベンショナル債の比率が低下傾向にあるのに対し、イス ラーム債の比率が拡大していた。イスラーム債市場の発展は比較的順調であり、政府の 目的を達成したと思われる。イスラーム債の最大の発行主体は民間部門であることも明 らかになった。また、民間企業の資金調達の方法として、近年では償還期間が長い普通 社債よりもミッド・ターム・ノートの発行が増加してきたことも明らかになった。部門 別では、建設業や金融・不動産・ビジネスサービスの増加が顕著であった。これは規制 緩和の効果であると考えられる。そして、債券市場の流動性については、国債市場は改 革の成果がみられたが社債市場の流動性は課題が残る結果となった。 CMP2(2011~2020 年)の改革は、成長とガバナンスに焦点を当てている。その目的 は、資本市場の役割とリスク管理の強化を通じてマレーシアが中所得のわなから脱却し、 国経済環境の変化に翻弄されない資本市場を構築することである。資本市場の対外開放 と国際資本移動の活性化にともない、国内金融機関および金融当局のリスク管理と監督 についての機能強化を図ることが欠かせない。この点を実現しない限り、国内市場は外 からのショックに影響を受けやすく、市場の混乱が経済に波及することが避けられない からである。CMP の実施状況をみると、CMP2 も計画通り着実に改革を進めることが 期待できる。 最後に今後の研究課題について述べることとしたい。本章は、まずマレーシアの債券 市場の発展動向を把握することを意図したため、研究会の趣旨であるアジア域内金融協 力との関連についてはあまり触れていない。債券市場改革がどのように ABMI と ABF に貢献したのか、マレーシアの金融当局が ABMI および ABF にどのように関与しよう としているのか、等の観点からマレーシアの債券市場改革を捉えることが必要だろう。 これらの点に関する分析は今後の課題としたい。

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〔参考文献〕 <日本語文献> 中川利香[2007]「マレーシア」、アジア経済研究所(編)「アジア金融セクターの規制 緩和に関する法制度研究」、アジア経済研究所、pp. 261-281。 ――[2008]「マレーシア」、アジア経済研究所(編)「アジア資本市場育成と消費者保 護制度に関する法的考察」アジア経済研究所、pp. 271-288。 ――[2010a]「マレーシアにおけるイスラーム証券市場の発展と企業の資金調達」、濱 田美紀・福田安志(編)『世界に広がるイスラーム金融―中東からアジア、ヨーロ ッパへ』アジア経済研究所、pp. 185-203。 ――[2010b]「マレーシアにおける経済構造の変化―金融部門改革との関係を中心に」、 国宗浩三(編)『国際資金移動と東アジア新興国の経済構造変化』アジア経済研究 所、pp. 251-276。 <外国語文献>

Bank Negara Malaysia [2001] “Guidelines on Securities Borrowing and Lending Programme Under RENTAS,” Kuala Lumpur: Bank Negara Malaysia.

―― [2006] Annual Report 2005, Kuala Lumpur: Bank Negara Malaysia.

―― [2007a] “A Guide to Malaysian Government Securities,” Kuala Lumpur: Bank Negara Malaysia.

―― [2007b] Financial Stability and payment Systems Report 2006, Kuala Lumpur: Bank Negara Malaysia.

―― [2008] Financial Stability and Payment Systems Report 2007, Kuala Lumpur: Bank Negara Malaysia.

―― [2011] Monthly Statistical Bulletin, August, Kuala Lumpur: Bank Negara Malaysia. Leong, Hung Yee [2010] “Foreigners Invest More in Malaysian Government Securities,” The

Star, November 29, 2010.

(biz.thestar.com.my/news/story.asp?file=/2010/11/29/business/7504375&sec=business, 2012 年 2 月 22 日ダウンロード)

Securities Commission [2001a] Capital Market Master Plan, Kuala Lumpur: Securities Commission.

―― [2001b] “Further Relaxation of Restrictions on Use of Proceeds from Issuance Private Debt Securities,” Press Release on December 3, 2001.

(www.sc.com.my/eng/html/resources/press/pr_20030801.html、2012 年 2 月 16 日ダウン ロード)

(18)

on August 1, 2003.

(www.sc.com.my/eng/html/resources/press/pr_20030801.html、2012 年 2 月 16 日ダウン ロード)

―― [2005] Annual Report 2004, Kuala Lumpur: Securities Commission.

Securities Commission Malaysia [2011] Capital Market Master Plan 2, Kuala Lumpur: Securities Commission Malaysia.

Thillainathan, R. [2003] “The Employees Provident Fund of Malaysia: Asset Allocation, Investment Strategy and Governance Issues Revisited,” A note prepared for the World Bank Conference on “Public Pension Fund Management” held Washington D.C. on May 3-6,2003.

(www1.worldbank.org/finance/assets/images/Thillainathan--malaysia_epf--doc.pdf 、 2012 年 2 月 22 日ダウンロード)

参照

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2002 2003 2004 2005 2006 年度 (ppm).

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 地点数.

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 地点数.