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商業科高校科目「マーケティング」の学習内容 : 大学の経済・経営系科目との接続性

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Academic year: 2021

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Ⅰ.はじめに

 本稿は,商業科高校科目「マーケティング」の学習 内容を考察し,大学の経済・経営系科目との接続性に ついて検討する。また,平成 25 年度より高等学校で 正式に始まる学習指導要領改訂に伴い,学習内容がい かに変化するかについても確認する。  大学においては,マーケティングは一般に経営・商 学系学部において学習される科目である。高校公民の 経済分野においてはほとんど学習されない内容である が,商業高校においては専門科目の一つとして配置さ れている。また,大学の経営・商学系科目のみならず, 経済学の学習内容との接続性も強い。ただし,大学で 学習するほど詳細には説明されていないケースもあり, どのように補足して教授すべきかについては注意を要 する。  本稿の構成は以下の通りである。第Ⅱ節においては, 新・旧指導要領における商業高校のカリキュラムを概 観し,科目「マーケティング」の位置づけについて確 認する。第Ⅲ節では需要の価格弾力性を例にとり,ま た第Ⅳ節では右上がりの需要曲線を例にとり,大学の 経済・経営系科目との関係性について解説する。第Ⅴ 節においては,指導要領改訂前後で「マーケティン グ」において学習内容が変化した項目をいくつか例示 する。第Ⅵ節は本稿の内容をまとめつつ,今後の課題 にも言及する。

Ⅱ.商業科「マーケティング」の概要

 平成24年度までの学習指導要領(平成15年度改訂) のもとでは,「商業に関する科目」は全 17 科目からな り,「流通ビジネス分野」「国際経済分野」「簿記会計 分野」「経営情報分野」の四分野に分類される。1)科目 「マーケティング」は,「商品と流通」「商業技術」と ともに,「流通ビジネス分野」を構成している。  平成 25 年度からの新学習指導要領では,新設科目 もあり全 20 科目で構成される。従来通り四分野で構 成されるが,「流通経済分野」は「マーケティング分 野」に名称変更され,「マーケティング」「広告と販売 促進」「商品開発(新設科目)」の三科目で構成され る。2)従来の「商品と流通」・「マーケティング」の内 容が分類整理され,「広告と販売促進」・「マーケティ ング」となっているため,科目の名称が不変であって も内容に変更があることに注意されたい。この点は, 第Ⅴ節で改めて解説する。なお,本稿では,平成 24 年度までの学習指導要領対応のものを「旧課程」,平 成 25 年度からのものを「新課程」と表現して区別す る。  「マーケティング」は必履修科目ではなく,選択科 目である。1 年生で必履修科目「ビジネス基礎」を学 習した後に,2 〜 3 年生で履修することが多いようで ある。指導要領改訂後も同様である。  教科書は,旧課程最終年度の平成 24 年度には実教 出版からのみ刊行されていたが,新課程では東京法令 出版からも刊行される。3)第Ⅲ・Ⅳ節においては,旧 課程の「マーケティング」にもとづき記述するため, 本文内での参照ページ数などは当該の教科書(実教出 版,商業 027)について言及している。これらは,新 課程の教科書にも記載されている学習内容である。

Ⅲ.需要の価格弾力性に関して

1.「マーケティング」における弾力性の説明  「マーケティング」では,需要の価格弾力性および 需要の所得弾力性が変化率を用いて解説される。まず, 「(前略)価格や所得の変化に対する消費者の反応は, 需要の弾力性としてとらえられ,その大きさは,商品 の種類によって異なる。」と説明される。そして,「あ

商業科高校科目

「マーケティング」の学習内容

─大学の経済・経営系科目との接続性─

The Journal of Economic Education No.32, September, 2013

The Study Content of “Marketing” in Commercial High School : Articulation with Subjects about Economics and

Business Management in University

Kaneko, Kouichi

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る商品の需要について,下の式で計算された弾性値が, 1 より大きければ,弾力性が大きい。逆に 1 より小さ け れ ば, 弾 力 性 が 小 さ い と い う。」 と 定 義 さ れ る (p.96)。言及される式は,以下の通りである。 需要の価格弾力性=需要の変化率 価格の変化率 需要の所得弾力性=需要の変化率 所得の変化率  これらは変化率の比であるため,理解しやすい表現 である。また,「価格(あるいは所得)が 1% 変化し た際に,需要量が何 % 変化するかを示す指標」と別 の表現で説明することで,さらに理解が深まることが 期待できる。  同書では,さらに弾力性と総収益・純利益の関係に ついてもグラフや数値例を用いて解説している。例え ば,数値例の一つについては,原価 7 万円のクーラー を用いている。12 万円のとき 150 台の取引があり,10 万円のとき 300 台の取引があるとして,表 1 のように まとめられている。需要の価格弾力性が大きく,価格 の引き下げにより収入が増加するケースを示している。 「値下げをしたら需要量が急増し,総収益・総利益と もに増加したので,値下げは成功である。」とし,「売 上高の増加にともなう,営業費の増加や単位あたりの 仕入費用の減少などをいっさい考えない場合である。」 と注意書きもなされている(p.97)。本稿では省略す るが,弾力性が小さく,価格の引き下げが収入を減少 させるケースも同時に解説されており,様々な考察が 可能な数値例となっている。 表 1 値下げにより増収増益となる数値例 「マーケティング」p.97 の右側の表より   値下げ前 値下げ後 総収益 12 万円× 150 台= 1,800 万円 10 万円× 300 台= 3,000 万円 純利益 (12 万円- 7 万円)× 150 台= 750 万円 (10 万円- 7 万円)× 300 台= 900 万円 2.微分による弾力性の定義  大学の経済・経営系科目では,投資の利子弾力性や マーケット・シェアの弾力性など,4)種々の弾力性が 定義される。経済学においては,弾力性を微分演算を 用いて定義し,説明することが多い。また,需要関数 をグラフ上で図示し,需要曲線上の任意の一点から描 かれる三角形により説明されることもある。5)   商 業 高 校 科 目 と の 接 続 性 の 観 点 か ら は, 丸 山 (2005)の説明がわかりやすい。唐突に微分の定義を 用いることをせず,価格 p と需要量 q の変化分を用い て,以下のように解説している。6) 需要の価格弾力性=− 価格の変化率 Δpp 需要の変化率 Δqq 極限をとれば,微分演算による定義− dqdp qp になる。  微分を用いて説明する場合には,「弾力性が 1 より 大きいか否かで,値下げが収益に及ぼす影響が変わる こと」も直接証明できる。需要が価格 p の関数 q( p) であるとして,収益 pq( p)を p で微分すれば以下の 式を得る。 dpq( p) dp =q( p)+p dq( p)dp = q( p) 1 − −dq( p)dp q( p)p よって,弾力性− dqdp qp が 1 より大きい(小さい) 場合に,この式の値は負(正)となる。これは,表 1 の数値例における変化を数理的に解説したものである。 3.高大接続教育に適した数値例の応用  商業科「マーケティング」における弾力性の説明は, 収益に及ぼす影響を四則演算で考察しうる数値例も交 えており,大学初年次教育でも活用しうる内容である。 さらに,先述の表 1 の原価を変えることで,収益に及 ぼす影響と利益に及ぼす影響との違いを検討すること が可能である。  たとえば表 2 のように原価を 12 万円から 9 万円に変 更するとよい。この場合,需要曲線上では変化がない ので,需要の価格弾力性も不変である。よって,収益 も変化しない。しかし,純利益には変化が生ずる。値 下げすることにより,純利益は減少する。いわゆる増 収増益の現象から増収減益の現象へと変化する。これ により,収益が増えるからと言って必ずしも純利益が 増えるわけではないことが伝わりやすくなる。  初年次教育では,これらの平易な数値例を検討した うえで,微分演算による定義を説明すると効果的であ ると思われる。値下げが収益に与える影響が変化する 弾力性の境界値がなぜ 1 であるか,厳密に確認するこ

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とができる。 表 2 値下げにより増収減益となる数値例 表 1 の数値を一部変更し筆者が作成(変更部分を網かけにした)   値下げ前 値下げ後 総収益 12 万円× 150 台= 1,800 万円 10 万円× 300 台= 3,000 万円 純利益 (12 万円- 9 万円)× 150 台= 450 万円 (10 万円- 9 万円)× 300 台= 300 万円

Ⅳ.右上がりの需要曲線に関して

1.「マーケティング」における説明  需要曲線は高校公民科目でも必ず言及されるが,そ の形状が右下がりであるケースのみ描かれる。実際に は,大学の経済学では様々な形状の需要曲線について 解説される。  「マーケティング」では,図 1 のように部分的に右 上がりになっている需要曲線が描かれ,「(前略)ぜい たく品はある程度価格の高いことが購買意欲の刺激に なっているので,右図のように価格が低すぎても需要 量は減る。」と説明される(p.103)。 価格 需要量 図 1 一部が右上がりの形状になる需要曲線(A) 「マーケティング」のぜいたく品の図(p.103 の右図)より  ただし,これらの説明と図解には注意すべき点があ る。大学の経済学では,需要曲線が右上がりになる現 象は,その財が(ぜいたく品ではなく)下級財である 場合に生じると解説されることが多い。また,図 1 の グラフの原点付近においては,「価格が 0 に近づくと き,需要量が減り続ける」ことを意味しているが,こ れも現実には考えにくい。価格の低下により需要が減 少する現象は,ある価格帯においてのみ生じると考え られる。これらの点は,次項以降で検討する。 2.代替効果・所得効果を用いた説明  大学の経済学では,一定の所得制約のもと二財を消 費する消費者行動の分析がしばしばなされる。その際 にスルツキー方程式が定義され,需要曲線が右上がり になる現象を説明することが多い。そして,その現象 は当該財が下級財である場合に生じることが示される。  スルツキー方程式は厳密には偏微分を用いて表現す るが,接続教育を鑑み,以下では丸山(2005)を参考 に直観的説明を行う。7)価格が変化した際に需要に与 える効果は,以下のように二つに分解される。 価格効果=代替効果+所得効果  ある一定の所得で二種類の財を購入している状況で, ある財の価格が下落したケースを想定する。結果とし て,この財の需要が増加するのが通常想定されるケー スであるが,逆にこの財の需要が減少するケースもあ りえる。いずれになるかは,代替効果と所得効果の大 小関係に依存する。以下,ある財の価格が下落したと して直観的な解説を行う。  代替効果は,ある財の価格が下落した際に,(消費 者の満足度が変化しないという条件下で)その財の需 要の増減がどうなるかを表わすものである。二財モデ ルのケースでは,一般に(他方の財ではなく)安く なった財の購入量を増やす。つまり,代替効果は需要 量を増加させる方向にはたらく。  所得効果は,所得が変化した際の需要量の増減を表 す。価格が下落した際には,(本来は変化していない) 所得が実質的に増加することになり,価格が下落した 財の需要を増やすか否かを検討する。この効果は財の 種類により異なる。実質的に所得が増加している場合, (ぜいたく品のような)上級財であれば需要量が増え る方向にはたらく。逆に,下級財であれば需要量が減 る方向にはたらく。  価格効果は,この二つの効果の総合の効果である。 二財のケースでは,代替効果では需要量は増える。こ れに加え,所得効果がどうなるかを考察する必要があ る。上級財であれば所得効果でさらに需要量が増える ため,総じて需要は増加することになる。下級財であ れば所得効果で需要量が減るため,その度合いにより 総合の効果は異なる。所得効果の需要減の影響が大き い場合には,需要量は総じて減ることになる。  このように所得効果の需要減の影響が大きく,価格 の下落(増加)が需要の減少(増加)をもたらすよう な財を,大学の経済学ではギッフェン財とよぶ。これ

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は,所得が増加した際に需要が減少する下級財のケー スで生じる。これは「マーケティング」で説明された 「ぜいたく品」とは正反対の財である。  なお,新課程での商業科新設科目「ビジネス経済」 においては,このような内容が盛り込まれる可能性が ある。教科書はまだ公刊されていないが,学習指導要 領解説によれば,「需要と供給」において「所得効果 及び代替効果」の用語が記載されているため,商業高 校でもこれらの内容をある程度理解できるようになる ことが期待される。 3.種々の解釈  このように需要関数が部分的に右上がりになる現象 は,理論的には証明されているが,直感的な解釈の仕 方は多岐にわたる。本稿では,大学で説明される種々 の図解も含め,検討する。  まず,図示の仕方は著者により異なり,右上がりの 部分だけを描いて説明する場合もある。8)図 2 のよう に,傾きの正負が 2 回変化する需要曲線もしばしば描 かれる。9)これであれば,ある価格帯では右上がりに なることはあっても,価格が 0 に近づくにつれて需要 は増加していくという状況を理解することができる。 価格 需要量 図 2 一部が右上がりの形状になる需要曲線(B)  ある条件下で下級財がギッフェン財になる現象とし ては,飢饉に直面したアイルランドのジャガイモの取 引が例示されることが多い。ジャガイモ(下級財)の 価格が上昇しても,さらに需要が増えたという現象で ある。ただし,これには懐疑的な見解もある。10)また, 価格の低下が需要減少をもたらすケースが,個人の需 要で生じたとしても,市場全体の需要では生じにくい という指摘もある。11)  その他にも,価格の下落が需要を減少させるケース はいくつか想定される。たとえば,商品の品質が不確 実である場合に,価格の低下がむしろ需要を減少させ るケースがありえる。12)また,デフレの際に,価格の 低下から消費者がさらなる値下げを期待し,需要を控 える状況も考えられる。13)  このように,大学の経済学では需要関数が右上がり になる状況について,理論的にはスルツキー方程式で 標準的に学習されるものの,図解の方法や直感的解釈 はさまざまである。「マーケティング」では,そのう ちの一部を解説しているだけであるので,初年次教育 では注意が必要である。

Ⅴ.学習指導要領改訂に伴う学習内容の変

1.改訂の概要  商業科目「マーケティング」は,先述の通り指導要 領改訂による科目名変更はなかったが,分類整理の関 係で内容は多少変化している。学習指導要領解説では, 「「商品と流通」及び「マーケティング」の内容を分類 整理し,主として市場調査や商品の流通等を系統的に 学習する内容を「マーケティング」にまとめるととも に,広告や商品の販売促進等に関する基礎的・基本的 な知識と技術に重点を置く「広告と販売促進」とす る。」とある。14)  なお,「広告と販売促進」は平成 26 年度以降の刊行 のため教科書は未確認であるが,企業・消費者間のコ ミュニケーション活動や販売に関する活動を学習する ことを目標としている。「マーケティング」から削減 された内容は,「広告と販売促進」に移行している可 能性もある点に注意されたい。  まずは,教科書の目次から内容の変更を概観する。 双方の課程で出版している実教出版の「マーケティン グ」の目次は,表 3 のようになっている。双方で重複 していない項目を網かけにしている。  ただし,「9. 顧客満足の実現」の一部は新課程の 3 章へ移行し,「10. マーケティング実習」の一部は新 課程の 4 章へ移行している。単純に削減されたわけで はない。  また,新設章の「3. 消費者行動」についても,旧 課程で記載されていた内容が多い。解説される用語で いえば,「AIDAS 理論」「理性的購買動機」「製品のラ イフサイクル」「オピニオンリーダー」など,旧課程 のいくつかの章で説明されていたものである。

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表 3  指導要領改訂前後の実教出版「マーケティン グ」の目次の比較 旧課程 新課程 1. 現代市場とマーケティング 1. 現代市場とマーケティング 2. 市場調査 2. 市場調査 3. 販売計画 3. 消費者行動 4. 製品計画 4. 販売計画 5. 仕入計画と商品管理 5. 製品計画 6. 販売価格 6. 仕入計画と商品管理 7. 販売経路 7. 販売価格 8. 販売促進 8. 販売経路 9. 顧客満足の実現 9. 販売促進 10. マーケティング実習 2.学習内容の変更点  教科書全体としては,「マーケティング」科目の学 習内容は大きくは変化していない状況である。しかし ながら,同じ学習項目に見えても,新たな概念が付記 されていたり,説明が簡素化されていたりする場合が ある。本項では,参照する教科書の課程について,そ の頁数の前に新・旧を付記して区別する。  新しく記載されるようになった内容の一つに,「マ ズローの欲求の階層構造(欲求のピラミッド)」があ る。新課程では,「3. 消費者行動」の「問題認識(動 機づけ)」において参考図として解説される(新 p.64- p.65 参照)。旧課程では,「8. 販売促進」の「購買動機 と購買心理」において,同様に購買動機について言及 されていたが(旧 p.143-p.145),新課程では「生理的 購買動機」「心理社会的購買動機」など新しい概念も 紹介され,マズローのピラミッド図が示されている。  これは,大学のマーケティングでも学習される項目 である。たとえば,小原(2004)では,マズローの欲 求 5 段階説を,「①生理的欲求→②安全→③帰属意識 →④名声と地位→⑤自己実現の欲求」と表現し,15) 「感情的購買動機」や「合理的購買動機」について説 明している。  新課程になって,説明が簡素化されたケースもある。 たとえば,旧課程の「6. 販売価格」の「販売価格の 意味」において,「競争価格」について次のように説 明していた。「(前略)競争価格 多くの小規模な売り 手が,同じような商品を扱って価格競争を行っている 場合に,全体の需要動向により形成される価格で,完 全競争市場に近い状況において成立する。」とし,注 において「力関係にほとんど差のない小規模な売り手 が多数存在し,価格競争を行いながらほぼ同質の商品 を取り扱っている市場をいう。ただし,この市場形態 は,きわめて理論的なものであり,厳密に言うと,現 実には存在しない。」と,さらに完全競争市場につい ても補足していた(旧 p.93)。新課程では,「7. 販売価 格」の「販売価格の種類と構成」で,「(前略)競争価 格 多くの小規模な売り手が同じような商品を扱って 価格競争を行い,その結果,全体の需要動向により形 成される価格。」と定義しているが,完全競争市場に ついての補足は記載されなくなっている(新 p.118)。  完全競争市場は,大学の経済学でも説明され,企業 が公正に競争している望ましい市場である。その結果 成立する競争価格は,最適な資源配分をもたらすこと になる。今回記載されなくなった点について,商業高 校でもこれまで通り補足説明することで,適切な接続 教育が維持されていくと思われる。

Ⅵ.まとめ

 本稿では,商業高校科目「マーケティング」のカリ キュラム上の位置づけを説明し,需要の価格弾力性や 右上がりの需要曲線など具体的に学習内容を取り上げ て,大学教育との接続性について考察した。また,指 導要領改訂に伴う学習内容の変更点についても検討し た。  本稿では取り上げなかったが,他にも大学の経営学 で学習されるプロダクト・ライフサイクル仮説や損益 分岐点などについて言及される。大学で学ぶ項目のあ くまで一部であることには注意が必要であるが,接続 教育上,有効活用しうるトピックが多い。新課程でも 内容の大きな変化はなく,普通科目に比べた接続教育 上の優位性は今後も保たれると思われる。  ただし,先述のとおり「マーケティング」は選択科 目である。そのため,すべての生徒が履修しているわ けではなく,また履修していても単位数は学校により 異なる。そのため,商業高校のどの程度の割合の生徒 が,どこまでの分野を学習しているかは,定かではな い。16)大学での初年次教育においては,念頭に置く必 要がある。  商業高校における履修実態などについては,平成 24 年度末にアンケート調査を行っており,今後分析 し,公表していく予定である。また,学習指導要領は 年次進行のため,商業高校科目のすべての教科書の内 容を確認できるのは平成 27 年度になる。今後も継続 して研究を続け,実態を交えた調査・考察を進めてい きたい。

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謝辞  本研究は,文部科学省科学研究費補助金・若手研究(B)(課 題番号 23730841,平成 23 年度〜平成 24 年度)の助成による成 果の一部である。記して謝意を表したい。 註 1) 文部科学省(2005)の p.18 を参照。なお,その前の学習 指導要領からの改訂(平成 6 年度)における変更点の概 要については,吉田(1995)などを参照されたい。 2) 文部科学省(2010)の p.10 を参照。 3) 文部科学省のホームページ「教科書目録,高等学校用」 の平成 24 年度(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/ kyoukasho/mokuroku/24/__icsFiles/afieldfile/2013/ 02/18/1320021_03.pdf)の p.63,平成 25 年度(http:// www. mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/mokuroku/23/__ icsFiles/afieldfile/2013/02/18/1305342_03.pdf)の p.28 を 参照(2013 年 3 月 18 日にアクセス)。 4) 前者は井堀(2003)の p.77 などを,後者は池尾・青木・ 南・井上(2010)の p.275 などを参照。 5) 井堀(2004)の図 2.10(p.37)などを参照。 6) 丸山(2005)の p.25 を参照。 7) 丸山(2005)の p.36 を参照。なお,偏微分によるスルツ キー方程式は,所得効果の前の符号が一般にマイナスに なるので注意されたい。 8) 西村(1995)の図 4.7(ⅱ)を参照(p.63)。 9) 倉澤(1988)の図 4.8(b)では,価格・消費曲線と並べ て解説している(p.67)。 10) Krugman・Wells(2007)の p.296 などを参照。 11) たとえば,次のような解釈がある。「(前略)ある特定の 消費者にとっては考察する財がギッフェン財であって, 価格の下落が彼の需要量の減少に導いたとしても,その ような特異現象が市場需要曲線のうちに現われるとは思 われない。他の大多数の人々にとってはその財が正常財 であるか,仮に下級財であるとしても負の所得効果の絶 対値がそれほどに大きくないならば,大海の一滴に過ぎ ないある個別消費者の需要曲線が変則性を示そうとも, 市場需要曲線にまでそのような変則性が痕跡を残すこと は,まずありえないと思われるからである。このように, 理論的には確かに生じうるギッフェンの逆説も,市場需 要曲線の観察者にその影を見せる蓋然性は,きわめて低 いというべきなのである。」奥野・鈴村(1985)の p.175 より引用。 12) 丸山(2005)の p.38 を参照。 13) 浅子・玉手(2004)の p.177 を参照。 14) 文部科学省(2010)の p.4 を参照。 15) 小原(2004)の p.91 より引用。 16) これらの点については,経済教育学会第 28 回全国大会の 発表の際に指摘を受けた。 参考文献 [1] 浅子和美・玉手義朗『経済入門』ダイヤモンド社,2004 年 [2] 池尾恭一・青木幸弘・南知惠子・井上哲浩『マーケティ ング』有斐閣,2010 年 [3] 井堀利宏『入門マクロ経済学 第 2 版』,2003 年 [4] 井堀利宏『入門ミクロ経済学 第 2 版』,2004 年 [5] 奥野正寛・鈴村興太郎『ミクロ経済学Ⅰ』岩波書店, 1985 年 [6] 小原博『マーケティング 第 2 版』新世社,2004 年 [7] 倉澤資成『入門 価格理論 第 2 版』日本経済評論社,1988 年 [8] 西村和雄『ミクロ経済学 入門 第 2 版』岩波書店,1995 年 [9] 丸山雅祥『経営の経済学』有斐閣,2005 年 [10] 文部科学省『高等学校学習指導要領解説 商業編 一部補 訂』実教出版,2005 年 [11] 文部科学省『高等学校学習指導要領解説 商業編』実教出 版,2010 年 [12] 吉田豊「商業高校における経済学の導入教育をめぐって」 『経済教育』第 14 号,1995 年,p.19-p.24

[13] Paul Krugman・Robin Wells(原著),大山道広・石橋孝 次・塩澤修平・白井義昌・大東一郎・玉田康成・蓬田守 弘(翻訳),『クルーグマン ミクロ経済学』東洋経済新報 社,2007 年

表 3  指導要領改訂前後の実教出版「マーケティン グ」の目次の比較 旧課程 新課程 1. 現代市場とマーケティング 1. 現代市場とマーケティング 2. 市場調査 2. 市場調査 3

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