原
著
乳幼児を子育て中の母親の気質と
「愛着–養育バランス」尺度との関連
The relationship between the temperament of child-rearing mother
and attachment-caregiving balance scale
武 田 江里子(Eriko TAKEDA)
*木 村 幸 恵(Yukie KIMURA)
* 抄 録 目 的 子育て支援として母親の内的要因への支援の必要性が示唆されている。本研究では内的要因の中でも 母親の気質と「愛着–養育バランス」に着目し,その関連を検証することを目的とした。 対象と方法 産後1か月健康診査,市町村の6か月児健康相談,1歳6か月児健康診査に来所した母親に自記式質問 紙調査を行った。「愛着–養育バランス」尺度6要素と母親の属性および6つの気質との関連を多元配置分 散分析を用いて分析した。 結 果 923名から回収(回収率 61.5%),有効回答の得られた 794 名(有効回答率 86.0%)を分析対象とした。 「愛着–養育バランス」6要素は愛着的要素が養育的要素に比べ低い傾向にあり,愛着的3要素間ならびに 養育的3要素間では中等度~高い相関がみられた。6つの気質の分布では属性による差はみられなかっ た。【適応:愛着】【敏感性:愛着】【親密性:愛着】の愛着的要素には《自閉気質》以外の5つの気質が関 連しており,養育的要素では【適応:養育】【敏感性:養育】が《不安気質》と関連していた。【親密性: 養育】は交互作用では出産歴において《粘着気質》,《執着気質》と有意な関連がみられた。初産婦では 《粘着気質》《執着気質》ともに高発現者が低発現者に比べて【親密性:養育】が低かった。経産婦では 《粘着気質》高発現者は逆に【親密性:養育】が高く,《執着気質》では有意差はみられなかった。 結 論 乳幼児を子育て中の母親の気質と「愛着–養育バランス」との関連が明らかとなった。愛着的要素には 《自閉気質》以外の気質の高発現が関連していたことから,高発現している気質を察知し,その気質に 応じた支援をしていくことが養育システム発達を促進し,子育て支援に繋がることが示唆された。その 中でも《不安気質》は養育的要素にも関連するため,特に《不安気質》高発現者への支援が望まれる。 キーワード:愛着,養育,子育て支援,母親,気質 2017年3月7日受付 2017年10月27日採用 2017 年12月15日早期公開Abstract Purpose
The necessity of support for a mother's internal factors has been suggested in parenting support. This study focuses on the internal factors of the temperament in mothers and attachment-caregiving balance scale with the aim of examining that relationship.
Methods
A self-administered questionnaire was given to mothers during the 1-month infant health check-up, the city's 6-month infant health consultation, and the 1½ -year-old infant check-up. A multi-way analysis of variance was conducted on the relationship among 6 factors of the attachment-caregiving balance scale, maternal attributes, and 6 tempera-ments.
Results
There were 923 questionnaires collected (collection rate: 61.5%), and 794 valid responses (valid response rate: 86.0%) were analyzed. There was a lower tendency toward attachment factors than caregiving factors in the 6 attach-ment-caregiving balance factors, while a moderate-to-high correlation was seen among 3 attachment and 3 caregiving
factors. No difference was seen in attributes in the distribution of the 6 temperaments. Excluding the“introversion
temperament,” there was a relationship with 5 of the temperaments in the attachment factors of
“adaptation/attach-ment,” “sensitivity/attachment,” and “intimacy/attachment.” In the caregiving factors, “adaption/caregiving” and
“sensitivity/caregiving” were related to the neuroticism temperament. For “intimacy/caregiving,” a significant rela-tionship in reciprocal action was seen in tenacity and persistence temperaments within birth history. Primipara with a
high expression of both tenacity temperament and persistence temperament had low“intimacy/caregiving” compared
to mothers with low expression. Multipara with a high expression of the tenacity temperament conversely had high “intimacy/caregiving,” and no significant difference was seen in the persistence temperament.
Conclusion
The relationship between the temperament and attachment-caregiving balance in mothers caring for infants was clarified. In caregiving factors, based on the relationship with a high expression of temperaments other than the introversion temperament, this study suggests that perceiving highly expressed temperaments and providing support accordingly will promote development of the caregiving system and link to parenting support. Since the neuroticism temperament is also related to caregiving factors, support for mothers with a high expression of the neuroticism temperament is especially desirable.
Key words: attachment, caregiving, parenting support, mother, temperament
Ⅰ.緒 言
「健やか親子 21」の最終報告書(厚生労働省,2014) では,69 指標の 74 項目について分析されており,策 定時と比較して改善がみられたのは全体では 60 項目 (81.1%)であったが,課題 4 の「子どもの心の安らか な発達の促進と育児不安の軽減」では改善がみられた のは55.6%と全体に比べて低い値であった。その中の 育児不安対策においては,父親の育児参加に関する指 標は改善傾向を示したが,母親の育児に関する指標は 変わらないという評価であった。育児不安に対しては 行政や民間で様々な支援策を講じているが,それでも 母親にとって育児不安は変わらないという現状がある と言える。 育児不安には,その人が持つ元々の気質,自分自身 への自信のなさ(自己価値観の低さ),母親役割に対 する他者の評価,支援に対する認知(原口他,2005; 眞﨑他,2012)や満足度(大森,2010)が関連してい ることが明らかとなっている。そして,母親自身を支 援する視点の必要性(今井他,2011)や母親自身のサ ポート認知(金岡他,2002)を促す支援の必要性等が 報告されている。しかし,支援者側は同じように支援 をしていると思っていても,対象による支援認知は異 なる。さらに同じ育児不安の内容であっても,単独で 育児不安の要因となるものは少なく,またその捉え方 は異なる(武田他,2013)。つまり,母親個々の感じ 方やそれに影響する要因(内的要因)を捉えていかな いと,その母親にとって有益な支援とはならないこと が示唆されている。 そのような背景から 2015 年に「健やか親子 21(第 2 次)」が策定された。その重点課題の一つとして「育て にくさを感じる親に寄り添う支援」(厚生労働省,2015)が掲げられ,子育て支援はサポート体制や物理 的環境等の外的要因への支援だけでは十分ではないこ とが示されている。育てにくいと感じるのは母親の主 観(認知)であり,先に述べたように育児不安への支 援として母親の内的要因への支援が「育てにくさを感 じる親に寄り添う支援」に繋がっていくと言える。こ れまでの子育て支援は,子育てをどこかが肩代わりす る方向に進んでいることが問題であるという指摘もあ り(松野,2006),母親を子育てから解放する・負担 を軽減することと子どもの成長のための支援が主に なっている。これらの支援状況を踏まえ,今後は もっと母親の成長を支援する視点が必要であることが 示唆されている(今井他,2011)。つまり,母親自身 の特性に注目していくことが必要であり(酒井他, 2008),母親の支援に対する認知や対処能力感・自己 効力感の認知を高めていくことが子育て支援として望 まれる(金岡他,2002;武井他,2008)。そこで,本 研究では母親自身の特性として,母親の気質と「愛 着–養育バランス」(武田他,2012a)に着目した。 気質は,外部の刺激に対してどのように情動反応す るかに大きく影響する(宗像他,2007)ことから,内 的要因の中核をなすものと考えることができる。 Prior & Glaser(2006/2008)は子どもの気質は親の養育 に影響することを指摘しているが,逆に親の気質が子 どもの愛着の不安定性や非体制化を形成させるリスク 要因になる可能性も述べている。このことは,子ども の愛着に応える親の養育に親自身の気質が影響してい る可能性を示唆していると言える。 「愛着–養育バランス」は,養育者としての発達を養 育システムの発達と捉え,尺度として開発されたもの である(武田他,2012b)。養育システムとは,子ども の不安・脅威等から生ずる愛着行動(愛着システム) に対して,養育者(ここでは母親)の適切な養育に よって安心を与えるというものである(Prior & Glas-er, 2006/2008)。この母子間のやりとりは「愛着–養育 プログラム」とされ,母子関係において重要なプログ ラムとされている(Bowlby, 1982/1991, p.445)。つま り,母親が子どもに適切に応答していくには養育シス テムが発達していることが必要と言える。母親の養育 システムの発達状況と,そこに影響する要因がアセス メントできれば,個々の母親の状況に応じた支援に繋 がると期待できる。 ここで本研究における「愛着」「養育」の捉え方につ いて整理しておく。愛着理論の原義の「愛着」はネガ ティブな動機付け(不安,脅威等)により喚起され, 「養育」はネガティブな状態をポジティブな状態にし たいという動機付け(保護,安心をもたらす)により 喚起される(Bowlby, 1982/1991)。しかし,現在は原 義と離れて,「愛着」は愛情全般,「養育」は子育て全般 を指し示し,母子相互において愛着という言葉を用い て い る こ と が 多 い。 こ れ ら の こ と に つ い て 遠 藤 (2010)は,愛着と名のつく実践の中にはほとんど愛 着理論(Bowlby, 1982/1991)とは無縁のものも少なく ないこと,そして厳密にはアタッチメントの構成概念 とは言い難い研究が多いと指摘している。さらに原義 から言うと「愛着」は通常は強い者から弱い者へは生 じないことから,「子どもに対する親の愛着とか,親 と子どもの間の愛着という使い方は誤っている」 (Prior & Glaser, 2006/2008, p.8)という意見もある。 「愛着」「養育」の捉え方については様々でありここで
論議するものではないが,本研究では「愛着」「養育」 は Bowlby(1982/1991)の 示 し た 愛 着 理 論 の 原 義 に 則って解釈し使用している。
Prior & Glaser(2006/2008)は子どもに対する親の愛 着という使い方は誤っていると述べていたが,「親に なった時にはアタッチメントシステムは我が子に対す る保護を目的として再組織され,養育システムへと統 合される」(数井他,2005,p.181)ことから,愛着と 養育が混在する時期がある。養育者として発達する過 程,つまり養育者である母親自身の「愛着システム」 と「養育システム」が混在する時期においては,母親 の愛着(母親としての不安)に子どもの反応(泣き止 む,笑顔を返してくれる等)は大きく影響する。つま り,子どもの反応は母親としての自信(不安の軽減) に影響することから,母親から子どもへの愛着も存在 すると考えられる(武田他,2012a,2012b)。 養育システムの発達を測定する「愛着–養育バラン ス」に,養育者の内的要因の中核である気質がどのよ うに影響しているかを明らかにすることは,養育者 (本研究では母親)の内的要因への働きかけへの示唆 となり,子育てのしやすさへの支援に繋がっていくと 考えた。
Ⅱ.研 究 目 的
乳幼児を子育て中の母親の気質と「愛着–養育バラ ンス」尺度との関連を検証することである。Ⅲ.用語の操作的定義
・気質:個人の示す情動反応の特徴であり,人の性 格や行動特性の核となる人格気質(循環気質,粘着 気質,自閉気質)と,その人格気質の発現のし方や その程度を決めているストレス気質(執着気質,不 安気質,新奇気質)の6つの気質で示される(宗像, 2007a)。 ・母親の子どもに対する「愛着」:母親としての自信 が持てるようになるまでは,自分は母親として大 丈夫か,自分が一番大変なのではないかと感じや すく,母親であることに不安を感じる。母親の不 安は子どもの反応で左右され,反応が良ければ不 安は軽減する。つまり,自分の不安(ネガティブな 状態)を子どもの反応を通して軽減させる(ポジ ティブな状態にする)こと,支えを必要とすること (武田他,2012b)。 ・母親の子どもに対する「養育」:子どもに関心を示 し,子どもの持つ(潜在的なものも含む)不安や脅 威に対して,保護し安心や慰めを与えて子どもの 不安や脅威を軽減させ,欲求(衣食住,愛情)を満 たしてあげること。母親としての自分を受容する こと(武田他,2012b,p.24)。 ・愛着–養育バランス:愛着理論(Bowlby, 1982/1991) で示されている養育システムの発達を母親から子 どもへの愛着と養育のバランスで示す(武田他, 2012a)。本研究では愛着–養育バランス尺度の点数 で表示する。Ⅳ.概念枠組み
図1に本研究の概念枠組みを示した。子育てに関す る様々な出来事は,同じ出来事でも本人がそれをどう 捉えるかという認知の仕方がストレスとなるかならな いかを決める(宗像,1997)。様々な出来事は自分で 決められない外的要因(子育て環境やサポートの有無 等)の影響も受けるが,その影響をどう感じるかも 個々の内的要因(認知)で異なる。その内的要因の中 でも中核をなす気質が,どのように「愛着–養育バラ ンス」に影響しているかを明らかにすることで,養育 者としての発達を促し,育てやすさに繋がる支援に繋 げていきたいと考えた。本研究では外的要因としては 多くの人が共通する「出産歴」「子どもの月齢」を取り 上げて検討することとした。Ⅴ.研 究 方 法
1.調査対象者 調査同意の得られた総合病院2施設および産婦人科 診療所1施設の産後1か月健康診査,A市の6か月児健 康相談,A 市および B 市の 1 歳 6 か月児健康診査に来 所した母親 1,500 名とした。A 市と B 市は同県内で隣 接した市であり,生活圏は重なっている。 親の発達は子どもの発達と深く関わっている(朴, 2006;林,2007)ことから,子どもの愛着の発達と同 時期に養育者も養育者としての発達を遂げていると考 え,子どもの愛着の発達(Bowlby, 1982/1991)の段階 に合わせた月齢の児を持つ母親を対象とした。生後1 か月は第 1 段階(人物弁別をともなわない定位と発 信),生後6か月は第2段階(ひとり,または数人の弁 別された人物に対する定位と発信)から第 3 段階(発 信ならびに動作の手段による弁別された人物への接近 の維持)に移行する時期であり,生後18か月は第3段 階の中でも第 4 段階(目標修正的な協調性形成)に近 づく時期である。 2.調査期間 2014年12月~2015年7月 3.調査方法 産後1か月健康診査および6か月児健康相談では受付 にて依頼文,調査票,返信用封筒を配布してもらい, 調査同意が得られた場合は1週間を目途に投函を依頼 図1 本研究の概念枠組みした。1歳6か月児健康診査では,事前の問診票と一緒 に本研究の依頼文と調査票を一緒に送ってもらい,同 意の得られた方の調査票は当日受付にて回収した。 4.調査内容 1)属性:出産歴(初産・経産),子どもの月齢(1か 月,6か月,18か月) 2)「愛着–養育バランス」尺度短縮版(武田,2014): 親の養育者としての発達を「親になった時には, 愛着システムは我が子に対する保護を目的とし て再組織され,養育システムへと統合される」 (数井他,2005,p.181)ことから保護される側か ら保護する側へという認知のシフトと捉え,そ の移行する過程において母親は「愛着」「養育」の バランスを変化させ発達していく。「愛着–養育バ ランス」尺度はそのバランスから発達状況を測定 する尺度である。尺度は,構成概念を【適応】【敏 感性】【親密性】の 3 つの視点から捉え,3 因子そ れぞれの「愛着的因子」「養育的因子」を抽出し 3 因子6要素の30項目(1要素5項目の計30項目)で 構成される。短縮版は,より簡便に使用できる よう作成されたものであり,1要素2項目の計12 項目で構成された 4 件法(4:当てはまる,3:ど ちらかと言えば当てはまる,2:どちらかと言え ば当てはまらない,1:当てはまらない)の尺度 である(表1)。愛着的要素の得点は低く,養育的 要素の得点が高いほど発達していることを示す。 信 頼 性 と 妥 当 性 は 確 認 済 み で あ る(武 田 他, 2012b; 武 田, 2014)。 本 研 究 に お け る ク ロ ン バックの α 係数は愛着的因子 6 項目で.722,養育 的因子6項目で.816であった。 3)気質チェックリスト(宗像,2007b,p.91):人格 気質として《循環気質》《粘着気質》《自閉気質》, ストレス気質として《執着気質》《不安気質》《新奇 気質》の計6つの気質で示す。各気質は5項目の質 問により構成され計30項目となっている。その人 がもつ気質は変わるものではないが,環境の変化 によって発現の仕方が変化する(宗像,2007b)こ とから,本研究では「あなた自身に該当する」と いうように時期を限定しない問い方とした。3択 であるが,「いつもそうである」「まあそうである」 は1点,「それはない」を0点として各気質を合算す るようになっている。各気質 4~5 点を高発現と し,0~3 点を低発現とした。6 つの気質の特徴 (宗像,2007a)については表2を参照。 5.分析方法 出産歴と子育てしている子どもの月齢で気質の発現 割合に偏りがないかを確認した。「愛着–養育バラン ス」6要素をそれぞれ従属変数とし,固定因子(独立変 数)を出産歴,子どもの月齢,各気質の発現とした多 元配置分散分析を行った。一例をあげると,「愛着–養 表1 「愛着–養育バランス」尺度6要素の定義と短縮版の質問項目 定義 尺度の質問項目 適応 愛着 母親になったことに自信が持てず「子どもへの依存」 子どもとの関係性が不安定な状態 5 子どもに嫌われているように感じる 6 子どもに裏切られたように感じて悲しくなることがある 養育 子どもとの関係性の安定と「役割受容」 子どもの成長・発達を考えられること 8 子育ては大変ではあるが,それ以上にやりがいを感じる 7 母親であることが好きである 敏感性 愛着 「自分への関心」自分への関心が より強くなっていること 10 自分のその時々の気分で抱っこすることがある 11 育てにくいと感じることがある 養育 「子どもへの関心と理解」子どもの状態を察知し, 欲求を満たしてあげられること 9 子どもが何を求めているのかはわかる 12 自分と子どもはいい関係を保てていると思う 親密性 愛着 「自分に対する支え」自分への支えや助け, 癒しが必要な状態 1 つらく感じて誰かに支えてもらいたい 2 気の休まることがなくてホっとしたい 養育 「子どもへの愛情と支え」子どもを愛し, 支えたいと思うこと 4 子どもがそばにいるとホッとする 3 子どもを持って今までにないくらい愛する気持ちが強くなった 文献:武田(2014)
育バランス」の【適応:愛着】を従属変数とし,独立 変数 として 出産歴,子 どもの 月齢, そして「気 質 チェックリスト」の《循環気質》を投入した。従属変 数は「愛着–養育バランス」6要素を入れ替え,独立変 数の出産歴と子どもの月齢はいずれの場合も投入し, 気質は6つ全ての気質を一度に投入せず一つずつ投入 したため,6要素ごとに6気質を入れ替えて計36回の 多元配置分散分析を行った。有意差のみられた項目に ついてはその後の検定を行い,さらにその効果量を算 出した。出産歴(初産・経産)と気質(高発現・低発 現)については効果量(r),月齢と交互作用について は効果量(η2 )を用いた。効果量の大きさの目安は, (r)は「.10を効果小」,「.30を効果中」,「.50を効果大」, (η2 )は「.01を効果小」,「.06を効果中」,「.14を効果大」 (水本他,2008,p.62)とした。統計処理には PASW Statistics 18.0を用い,有意水準は5%未満とした。 6.倫理的配慮 所属する大学の倫理委員会(第E14-165)と調査協力 先の承諾を得て実施した。研究目的,プライバシーの 保護,研究協力は自由意志であること,辞退に際して 不利益のないことを書面にて説明し,調査票の返信を もって同意を得たこととする旨を明記した。
Ⅵ.結 果
923名(回収率61.5%)から返信があり,うち出生数 が双胎以上を除き,有効回答の得られた 794 名(有効 回答率86.0%)を分析対象とした。 1.対象の背景 出 産 歴 は 初 産 婦 372 名(46.9%), 経 産 婦 422 名 (53.1%)で あ り, 子 ど も の 月 齢 は 1 か 月 163 名 (20.5%), 6 か 月 387 名(48.8%), 18 か 月 244 名 (30.7%)であった。初産婦・経産婦のそれぞれの内訳 は表3に示した通りである。 2.「愛着–養育バランス」6要素の分布と相関 6要素の平均値(SD)は,【適応:愛着】2.80(1.19), 【適応:養育】6.76(1.20),【敏感性:愛着】4.25(1.48), 【敏 感 性 : 養 育】6.41(1.07),【親 密 性 : 愛 着】4.60 (1.70),【親密性:養育】7.08(1.16)と,愛着的因子よ り養育的因子が高い傾向を示した。愛着的3要素間の 相 関 は r=.419** ~.521** , 養 育 的 3 要 素 間 の 相 関 は r=.481**~.672**であった(ピアソン積率相関係数: ** p<.001)。 3.気質の分布(図2) 各気質の割合は,人格気質の中では《自閉気質》 (443 名:55.8%)が最も多く,ストレス気質では《執 着 気 質》(547 名 : 68.9%)と《不 安 気 質》(518 名 : 65.2%)が多く6割を超えていた。属性との関連をみる 表2 6つの気質の特徴 気質 特徴 人 格 気 質 循環気質 外交的で周りから良く見られたいという願望が強く,寂しがり屋で人に囲まれていたいタイプ 粘着気質 上下関係を好み,柔軟性に欠け,こだわりが強く,几帳面で世話好きで非常に愛情深い一面, 善意を押し付ける面もあるオセッカイタイプ 自閉気質 対人緊張を避け,利害や規範にとらわれず自己世界に閉じこもることで生じる鈍感さがあり, 単独性をもつマイペースタイプ ス ト レ ス 気 質 執着気質 きまじめで責任感が強く,自分にも他人にも完璧を求めるタイプ 不安気質 たえず不安の中におり,常に最悪の事態を予期して,それを避けようとする行動特性をもつタ イプ 新奇気質 新奇なことや興味のあることに目を輝かせ,短気で深く考えずにいきなり行動するタイプ 文献:宗像(2007a)を参考に一部抜粋 表3 対象者の背景 初産 経産 n=372 n=422 年齢 30歳以下 184(49.5) 126(29.8) 31~35歳 118(31.7) 183(43.4) 36歳以上 70(18.8) 113(26.8) 子どもの 月齢 1か月 88(23.6) 75(17.8) 6か月 171(46.0) 216(51.2) 18か月 113(30.4) 131(31.0) 就業 育児休業中 126(33.9) 111(26.3) 就業 57(15.3) 71(16.8) 専業主婦 187(50.3) 235(55.7) 不明 2(0.5) 5(1.2) 名(%) 図2 各気質の発現割合と,各気質と出産歴とのファイ係数は.035~.085とい ずれの気質も出産歴とは関連がみられなかった。各気 質と子どもの月齢でもクラメールのVは.023~.12と関 連はみられなかった。 4.「愛着–養育バランス」6要素と属性・気質との関連 (表4) 「愛着–養育バランス」6 要素を従属変数とし,固定 因子を出産歴・子どもの月齢・各気質とした多元配置 分散分析を行った。「愛着–養育バランス」の6要素で, 属性の主効果がみられ,かつ効果量小以上だったのは 【親密性:養育】の出産歴(F=6.98,p=.008:η2 =.10) であった。この要素については出産歴と月齢の交互作 用はなかったが,月齢ごとに出産歴で比較をすると, 18か月児を持つ母親において初産婦が経産婦より有 意 に 高 い(t=2.28 , p=.024: r=.15)と い う 結 果 で あった。 気質の主効果で効果量小以上を示したのは,【親密 性:養育】を除く 5 つの要素であった。【適応:愛着】 では《循環気質》(F=5.23,p=.022:r=.10),《粘着気 質》(F=9.88,p=.002:r=.16),《執着気質》(F=5.76, p=.017: r=.12),《不 安 気 質》(F=26.37 , p<.001: r=.22),《新奇気質》(F=13.35,p<.001:r=.17)であ り,いずれもその気質の高発現者が有意に高かった。 【適応:養育】では《不安気質》(F=12.46,p<.001: r=.12)であり,高発現者が有意に低かった。【敏感 性 : 愛 着】で は《循 環 気 質》(F=15.0 , p<.001: r=.14),《粘着気質》(F=8.32,p=.004:r=.10),《不安 気 質》(F=51.36 , p<.001: r=.30),《新 奇 気 質》 (F=26.04,p<.001:r=.22)であり,いずれもその気 質の高発現者が有意に高かった。【敏感性:養育】では 《不安気質》(F=16.01,p<.001: r=.12)で あり,高 発現者が有意に低かった。【親密性:愛着】では,《粘 着 気 質》(F=16.71 , p<.001: r=.16),《執 着 気 質》 (F=15.63 , p<.001: r=.13),《不 安 気 質》(F=52.81 , p<.001: r=.24),《新 奇 気 質》(F=7.14 , p=.008: r=.10)であり,いずれも高発現者が有意に高かった。 【親密性:養育】では気質の主効果はみられなかった。 交互作用がみられ効果量小以上であったのは【親密 性:養育】のみで,出産歴・《粘着気質》(F=9.43, p=.002:η2=.01), 出 産 歴 ・《執 着 気 質》(F=6.67 , p=.010:η2=.01)であった。【親密性:養育】の平均値 (SD)は,《粘着気質》においては初産婦では高発現者 が 7.07(1.06),低発現者が 7.29(.99)と低発現者が高 く(t=2.12,p=.035:r=.11),経産婦では高発現者が 7.14(1.43),低発現者が6.87(1.12)と高発現者の方が 高かった(t=−2.14,p=.033:r=.10)。《執着気質》に おいても,初産婦は高発現者が7.10(1.08),低発現者 が 7.45(.83)と 低 発 現 者 が 高 く(t=3.34 , p=.001: r=.21),経産婦は高発現者が 7.00(1.32),低発現者が 6.91(1.10)と 気 質 の 発 現 に よ る 差 は な か っ た (t=−.663,p=.506)。
Ⅶ.考 察
1.「愛着–養育バランス」6要素と気質の分布 「愛着–養育バランス」6 要素において,愛着的因子 が養育的因子より低いという傾向は,これまでの研究 結 果(武 田 他, 2012; Takeda, et al. 2013; 武 田, 2014)と同様であった。気質の分布においては《自閉 気質》《執着気質》《不安気質》の割合が高いというの は,宗像(2007a)が示している日本人の傾向と同様で あった。これらのことから,愛着–養育バランスと気 質という本研究で焦点を当てている母親の内的要因に ついては,大きな偏りのない母親たちの集団と考える ことができる。さらに,気質の分布が出産歴や子ども の月齢とは関連がないというのは,気質は性格のコア であり,個人の示す情動反応の特徴である(宗像, 2007a)ことから,属性によって変わるものではない ということを示している。 2.「愛着–養育バランス」6 要素に関連する属性およ び気質 1)愛着的3要素との関連 【適応】【敏感性】【親密性】の愛着的 3 要素は,気質 の主効果において似た傾向を示した。愛着的 3 要素 (「子どもへの依存」「自分への関心」「自分に対する支 え」)は慈愛願望欲求(宗像,2007a;武田他,2016)と 捉えることができるため,他者から認められたい気持 ちの強い《循環気質》が高発現していると,自分に関 心が向くことになる。【親密性:愛着(自分に対する支 え)】については効果量中以上の値は得られなかった が,同様の傾向は示していた。さらに,《粘着気質》は 世話好きであり慈愛欲求が強いが,高発現であると自 分の秩序観の中でという自己中心的なところも持つた め,愛着的要素を高める要因となっていたと考えられ る。《自閉気質》は3要素のいずれとも関連がみられな かった。《自閉気質》は高発現していても,自己満足や表 4 「 愛 着 –養 育 バランス」 6 要 素 に 対 する 出 産 歴 ・ 子 どもの 月 齢 および 各 気 質 の 発 現 度 の 主 効 果 と 交互 作 用 N=794 適 応 敏 感 性 親 密 性 愛 着 養 育 愛 着 養 育 愛 着 養 育 平 均 値 ( SD ) F 値 効 果 量 平 均 値 ( SD ) F 値 効 果 量 平 均 値 ( SD ) F 値 効 果 量 平 均 値 ( SD ) F 値 効 果 量 平 均 値 ( SD ) F 値 効 果 量 平 均 値 ( SD ) F 値 効 果 量 出 産 歴 初 産 2.80 ( 1.24 ) .01 ~ .29 6.81 ( 1.17 ) .33 ~ 2.28 4.17 ( 1.47 ) .86 ~ 5.34 6.44 ( 1.09 ) .001 ~ .58 4.51 ( 1.73 ) .98 ~ 3.37 7.20 ( 1.03 ) 3.74 ~ 11.92 ** .10 経 産 2.79 ( 1.14 ) 6.72 ( 1.22 ) 4.32 ( 1.48 ) 6.39 ( 1.05 ) 4.69 ( 1.66 ) 6.97 ( 1.25 ) 月 齢 1 か 月 2.77 ( 1.01 ) .17 ~ 1.06 6.69 ( 1.32 ) 1.64 ~ 2.80 4.34 ( 1.44 ) 3.52 * ~ 5.72 ** .001 ~ .01 5.96 ( 1.17 ) 16.85 ** ~ 20.25 ** .003 4.75 ( 1.71 ) .87 ~ 2.17 7.08 ( 1.44 ) .26 ~ 1.06 6 か 月 2.87 ( 1.28 ) 6.85 ( 1.15 ) 4.09 ( 1.47 ) 6.46 ( 1.02 ) 4.65 ( 1.71 ) 7.11 ( 1.05 ) 18 か 月 2.73 ( 1.15 ) 6.67 ( 1.17 ) 4.43 ( 1.49 ) 6.63 ( 0.98 ) 4.43 ( 1.66 ) 7.02 ( 1.09 ) 気 質 循 環 高 発 現 2.91 ( 1.27 ) 5.23 * .10 6.71 ( 1.18 ) 2.07 4.46 ( 1.45 ) 15.0 ** .14 6.40 ( 1.05 ) .14 4.72 ( 1.66 ) 4.30 * .07 7.10 ( 1.02 ) .19 低 発 現 2.69 ( 1.10 ) 6.81 ( 1.21 ) 4.04 ( 1.48 ) 6.42 ( 1.08 ) 4.49 ( 1.72 ) 7.06 ( 1.04 ) 粘 着 高 発 現 3.01 ( 1.29 ) 9.88 ** .16 6.76 ( 1.18 ) .07 4.44 ( 1.45 ) 8.32 ** .10 6.37 ( 1.06 ) .22 4.94 ( 1.63 ) 16.71 ** .16 7.10 ( 1.26 ) .68 低 発 現 2.66 ( 1.10 ) 6.76 ( 1.21 ) 4.13 ( 1.49 ) 6.44 ( 1.07 ) 4.39 ( 1.70 ) 7.06 ( 1.08 ) 自 閉 高 発 現 2.88 ( 1.19 ) 3.43 6.78 ( 1.20 ) .001 4.28 ( 1.41 ) .93 6.44 ( 1.07 ) .26 4.68 ( 1.66 ) 1.22 7.11 ( 1.21 ) .18 低 発 現 2.70 ( 1.17 ) 6.74 ( 1.20 ) 4.20 ( 1.56 ) 6.37 ( 1.07 ) 4.51 ( 1.74 ) 7.04 ( 1.09 ) 執 着 高 発 現 2.87 ( 1.24 ) 5.76 * .12 6.75 ( 1.19 ) .75 4.31 ( 1.48 ) 4.53 * .06 6.39 ( 1.07 ) 1.61 4.75 ( 1.66 ) 15.63 ** .13 7.05 ( 1.21 ) 1.59 低 発 現 2.64 ( 1.05 ) 6.79 ( 1.21 ) 4.11 ( 1.46 ) 6.47 ( 1.06 ) 4.27 ( 1.72 ) 7.15 ( 1.02 ) 不 安 高 発 現 2.96 ( 1.28 ) 26.37 ** .22 6.66 ( 1.20 ) 12.46 ** .12 4.53 ( 1.49 ) 51.36 ** .30 6.32 ( 1.06 ) 16.01 ** .12 4.90 ( 1.67 ) 52.81 ** .24 7.06 ( 1.19 ) .67 低 発 現 2.49 ( 0.91 ) 6.95 ( 1.17 ) 3.72 ( 1.30 ) 6.58 ( 1.05 ) 4.05 ( 1.60 ) 7.11 ( 1.09 ) 新 奇 高 発 現 3.03 ( 1.35 ) 13.35 ** .17 6.74 ( 1.24 ) .59 4.62 ( 1.55 ) 26.04 ** .22 6.42 ( 1.07 ) .01 4.82 ( 1.75 ) 7.14 ** .10 7.11 ( 1.29 ) .21 低 発 現 2.66 ( 1.06 ) 6.78 ( 1.17 ) 4.03 ( 1.39 ) 6.40 ( 1.06 ) 4.47 ( 1.65 ) 7.06 ( 1.07 ) 交互 作 用 出 産 歴 ・ 粘 着 4.53 * .006 月 齢 ・ 循 環 3.34 * .009 出 産 歴 ・ 粘 着 9.43 ** .01 出 産 歴 ・ 執 着 6.67 * .01 ** p<.01 , * p<.05 ※ 多 元 配 置 分 散 分 析 : 従 属 変 数 は「 愛 着 –養 育 バランス」 の 各 要 素 , 固 定 因 子 は 出 産 歴 , 月 齢 , 各 気 質 の 発 現( 要 素 ごとに 6 つの 気 質 を 入 れ 替 えて 分 析 )とした。 各 要 素 の F 値 は , 気 質 を 入 れ 替 えて 行 った 6 回 の 多 元 配 置 分 散 分 析 の 結 果 の 最 小 値 ~ 最 大 値 を 示 す。 効 果 量 は 有 意 差 のあったもののみ 示 し , 効 果 量 の 指 標 は 出 産 歴 と 気 質 の 発 現 は( r) , 月 齢 と 交互 作 用 は( η 2 )で 示 している。 「 効 果 量 小 」以上 のものを で 示 した。 太 字 はその 気 質 の 低 発 現 者 の 方 がその 要 素 の 得 点 が 高 かった ものを 示 す。
他者への慈愛による自己報酬で快感を得ようとするた め(宗像他,2007),愛着的要素のような慈愛願望欲 求には影響しないということが示された。 《執着気質》《不安気質》《新奇気質》のストレス気質 はいずれも愛着的要素に関連があったことから,スト レス気質の高発現は慈愛願望欲求を助長すると捉える ことができる。【敏感性:愛着】(自分への関心)につ いては,《執着気質》の効果中以上の値は得られな かったが,同様の傾向は示していた。心の欲求の3段 階(宗像,2007a,p.8)では,慈愛願望欲求が満たさ れないと自己信頼欲求や慈愛欲求は生じない。母親の 愛着が満たされないと母親から子どもへの養育に目が 向きにくいことから,ストレス気質の高発現者にはそ の気質のセルフケアを支援していくことが慈愛願望欲 求を満たし,母親の愛着を満たし,子どもへの養育に 目が行くことにつながると言える。ストレス気質は欲 求の強さや感受性を決めており(宗像,2007b,p.83), 《執着気質》は完璧さ,《不安気質》は予期不安から損 害回避,《新奇気質》は今すぐに欲求を手に入れたいと いうように,いずれも自分の欲求に対してどう考える かということを示す。つまり,逆に慈愛願望欲求でも ある愛着的要素が高いから,より欲求が強くなったり (執着気質高発現),見通しを持って不安を減少させた いと感じたり(不安気質高発現),今すぐにどうにか したいという欲求(新奇気質高発現)が高く発現する とも捉えることができる。 自閉気質以外の気質の高発現者の愛着的要素への関 連は高く,気質が養育者としての発達に関係すること が示唆されたと言える。どの気質が良い悪いというこ とではなく,自閉以外のいずれの気質も,強く発現す ることが養育システムにはマイナスに作用するのでは ないかと考えられる。 2)養育的3要素との関連 養育的3要素(「役割受容」「子どもへの関心と理解」 「子どもへの愛情と支え」)は,自己信頼欲求,慈愛欲 求ととらえることができる(宗像,2007a;武田他, 2016)。養育的要素は,妊娠期から出産,育児期を通 して培われていく(Rubin, 1984/1997)ことから,どの ような人格気質を持つ母親であっても,その経過の中 で個々のもつ人格気質に応じた発達をしていくことに なる。そのため,養育的要素には人格気質による主効 果がみられなかったと考える。【親密性:養育】(子ど もへの愛情と支え)においては出産歴の主効果がみら れたが,その出産歴で有意差がみられたのは 18 か月 児を持つ母親のみであった。18 か月児は言葉も出始 め,初産婦は可愛さが増す時期であるが,複数の子ど もを育てている経産婦では 18 か月という目の離せな い時期においては,可愛いとばかりは言っていられな い状況なのではないかと推測する。他の養育的要素 【適応】【敏感性】の値をみると,この【親密性:養育】 は経産婦が低いというより初産婦が高いと解釈した方 が妥当と言える。また,この【親密性:養育】におい ては出産歴と《粘着気質》の交互作用がみられた。初 産婦では《粘着気質》が高発現であると【親密性:養 育】が低かった。これは《粘着気質》の自分の秩序観 の中で世話することを好むという特徴から,18 か月 児という思い通りにいかない時期での子育てに子ども を可愛いと思う気持ちがやや低くなっていたと捉える ことができる。逆に経産婦では 世話好きという側面 が強調され,複数の子育ての中でも子どもを支えたい という気持ちが高まるのではないかと考える。 ストレス気質の中では《不安気質》だけが養育的要 素と関連がみられ,《不安気質》が高発現である方が養 育的要素が低かった。これは,不安の感受性が高 まっている状態では悪い予期をしやすく,子どもに関 心が向きにくいということを示している。ただし【親 密性:養育】においては《不安気質》との関連はみら れなかったことから,子どもへの愛情を示す気持ちに は気質は関連していないと言える。この【親密性:養 育】は先に述べたように出産歴の主効果がみられた が,さらに出産歴とストレス気質《執着気質》の交互 作用もみられていた。初産婦の子どもが一人という状 況で,《執着気質》高発現という自分にも他者にも完璧 を求めるという特徴が現れると,子どもへの愛情にや やブレーキがかかると捉えることができる。 3.子育て支援への示唆 Hirschler-Guttenberg, et al.(2013)は母親の気質や 育児スタイルは子どもの情動表出コントロールに影響 すると述べている。また,Prior & Glaser(2006/2008) が述べているように,母親が子どもの愛着にどのよう に応答(養育)するかということが,子どもの愛着ス タイルに大きく影響する。つまり,母親の気質を理解 し母親の養育システムに適切に支援することは,母親 への支援だけではなく,子どもにとっても有益な支援 となるということである。子育てに影響する内的要因 への支援の必要性については緒言で述べたが,今回の 研究ではその内的要因の一つとした「愛着–養育バラ
ンス」と気質との関連が明らかになった。愛着的要素 には《自閉気質》以外の気質との関連がみられた。《自 閉気質》が高発現であるとマイペースで自分の世界に 閉じこもる傾向があり,支援者としては大丈夫かと心 配になりそうであるが,他者と比較せずにマイペース でいられるということはマイナスではないことが示さ れた。しかし,この気質の特徴として独自性が保てな いと情緒不安定になったり,発言を遠慮しやすいこと がある(宗像,2007a)ため,支援者としてはその母親 のペースを大切に話しやすい関係性を持つことが必要 である。他の気質については,高発現している気質を 察知し,その気質に応じた対応をしていくことで愛着 的要素である慈愛願望欲求を叶えていくことがまず必 要である。さらに養育的要素については,関連した気 質が《不安気質》のみであったことから,《不安気質》 が高発現にならないようコントロールしていくことが 支援として必要となる。《不安気質》が高発現の人はた えず不安の中にいることを理解し(表2参照),思い込 みやすいので,悪いことは起こっていないということ に気づかせてあげること,予期不安が強いことから長 期のリスクマネジメントに強いという利点を活かした 支援が望まれる。《不安気質》は日本人の 70% が持ち (宗像他,2007,p.5),本研究でも65.2%の母親が高発 現していた。さらに,《不安気質》は【親密性:養育】 以外の5つの要素に関連していたことから,特にこの 気質に応じた対応を支援者として身につけておくこと は子育て支援として有用と言える。 気質は表情,生活態度,行動特性からも判断できる ため,必ずしもチェックリストをしなくても,気質に 応じた支援を講じることは可能である。また,いくつ もの気質を併せ持っている重複気質の人も少なくない が,その場合でも,「その人の現在の状況に応じた行 動パターンを決定している中心的な役割を果たしてい る中核気質がある」(宗像,2007b,p.74)ので,その 中核気質に応じた対応をしていくことが支援となる。 子育て支援の際には,まず初産婦か経産婦か,子ど もの年齢はいくつかということを情報として得ようと することが多いのではないだろうか。しかし,今回の 気質との関連をみると,主効果でも交互作用でも関連 はみられても効果量は小かそれ以下であった。属性を 情報として得るのは必要であり,子育てにおいては影 響してくる場合もあるが,その人の気質にも今後着目 していくことが,より個別性のある子育て支援に繋が ると考える。
Ⅷ.研究の限界と今後の課題
今回の研究デザインは縦断調査ではないため,個人 内での変化については明らかにできていない。重複気 質は環境によってその中核となる気質の発現が変わる ことも指摘されていることから,今後は縦断的な変化 をみていくことで,より継続的な支援に繋げていくこ とが課題である。気質は高発現であることが良いとか 悪いということではなく,その気質の特徴を自己およ び支援者が認識して関わることが重要であることから, 支援者の育成プログラムの構築を目指していきたい。Ⅸ.結 論
愛着的要素には《自閉気質》以外の気質が関連し, 養育的要素は【親密性:養育】以外で《不安気質》と関 連があった。【親密性:養育】は出産歴と関連し初産婦 と経産婦では《粘着気質》《執着気質》において同じ気 質でも異なる傾向がみられた。「愛着–養育バランス」 と気質との関連がみられたことから,今後は個々人の 気質にも着目し,その気質に応じた支援を構築してい くことが養育者としての発達を促す支援として望まれ る。特に,《不安気質》は【親密性:養育】以外の要素 と関連がみられたことから,《不安気質》高発現者への 支援の必要性が示唆された。 謝 辞 本研究をすすめるにあたり,調査にご協力ください ました対象者の皆様,研究の主旨を理解しご協力いた だきました施設の皆様に感謝いたします。なお,本研 究 は 平 成 26 年 度 科 学 研 究 費 助 成 事 業(基 盤 C: 26463375)の助成を受けて行った調査の一部である。 利益相反 本論文内容に関連する利益相反事項はない。 文 献 朴信永(2006).子育てにおける認知の改善が養育態度・ 育児ストレスに及ぼす効果.保育学研究,44(2), 222-234. Bowlby, J.(1982)/黒田実郎,大羽蓁,岡田洋子,黒田聖 一訳(1991).母子関係の理論I 愛着行動(新版).東 京:岩崎学術出版社. 遠藤利彦(2010).アタッチメント理論の現在 ― 生涯発達と臨床実践の視座からその行方を占う ―.教育心理 学年報,49,150-161. 原口由紀子,松浦治代,矢倉紀子,佐々木くみ子,笠置網 清(2005).母親の個人としての生き方志向と育児不 安との関連.小児保健研究,64(2),265-271. 林昭志(2007).親を生涯発達の観点から捉える試み(その 3)― 親の発達権と家族の発達 ―.上田女子短期大学 紀要,(30),19-28.
Hirschler-Guttenberg, Y., Feldman, R., Ostfeld-Etzion, S., Laor, N., & Golan, O. (2013). Self- and Co-regulation of Anger and Fear in Preschoolers with Autism Spectrum Disorders: The Role of Maternal Parenting Style and Temperament. Journal of Autism & Developmental Dis-orders, 45(9), 3004-3014. 今井充子,常盤洋子(2011).我国の行政による子育て支 援の視点と課題に関する文献検討.The Kitakanto Medical Journal,61(3),377-386. 金岡緑,藤田大輔(2002).乳幼児をもつ母親の特性的自 己効力感及びソーシャルサポートと育児に対する否 定的感情の関連性.厚生の指標,49(6),22-30. 数井みゆき,遠藤利彦(2005).アタッチメント ― 生涯に わたる絆(初版).pp.174-194,京都:ミネルヴァ書 房. 厚生労働省(2014).健やか親子 21(最終評価報告書). http:// www.mhlw.go.jp / file /05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka /0000030082.pdf 厚 生 労 働 省(2015). 健 や か 親 子 21(第 2 次). http:// w w w . m h l w . g o . j p / f i l e / 0 5 S h i n g i k a i 1 1 9 0 1 0 0 0 -Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka / s2.pdf 松野裕子(2006).子育ての現状と支援のあり方に関する 一考察~A 産科医院・母子教室の実践から~.中部 学院大学・中部学院大学短期大学部研究紀要,(7), 27-34. 眞﨑由香,田村知栄子,奥富庸一,池田佳子,岡野眞規 代,中村多恵子他(2012).SAT 療法による乳幼児を もつ母親の育児不安への支援.ヘルスカウンセリン グ学会年報,(18),1-9. 水本薫,竹内理(2008).研究論文における効果量の報告 のために ― 基礎的概念と注意点 ―.英語教育研究, 31,57-66. 宗像恒次(1997).行動科学からみた健康と病気(第 1 版). 東京:メヂカルフレンド社. 宗像恒次(2007a).SAT 法を学ぶ(初版).東京:金子書 房. 宗像恒次(2007b).自分のDNA気質を知れば人生が科学的 に変わる(初版).東京:講談社α新書. 宗像恒次,田中京子,小林由実(2007).SAT 気質コーチ ングによる人間関係のコラボレーション.ヘルスカ ウンセリング学会年報,(13),1-11. 大森彩子(2010).母親の育児不安およびパーソナリティ と有効な子育て支援の関連.日本女子大学人間社会 研究科紀要,(16),173-188.
Prior, V. & Glaser, D.(2006)/加藤和生監訳(2008).愛
着と愛着障害(初版).京都:北大路書房. Rubin, R.(1984)/新道幸恵・後藤桂子訳(1997).母性論 母性の主観的体験(第1版).東京:医学書院. 酒井佐枝子,牧田潔,加藤寛(2008).養育行動の変化に 必要な視点.心的トラウマ研究,(4),61-68. 武田江里子(2014).「愛着–養育バランス」尺度短縮版の作 成と信頼性・妥当性の検討 乳幼児健診での<気に な る>母親 と の関 連か ら. 小児 保健 研 究,73 (6), 783-789.
Takeda, E. & Kobayashi, Y. (2013). The development of a maternal caregiving system: Based on changes in the attachment-caregiving balance scale up to 6-7 months postpartum. Journal of Japan Academy of Midwifery, 27 (2), 237-246. 武田江里子,小林康江,加藤千晶(2012a).母親の子ども に対する「愛着–養育バランス」尺度の開発 第1報― 母親から子どもへの「愛着」「養育」の構成因子の抽 出.日本看護科学会誌,32(1),30-39. 武田江里子,小林康江,加藤千晶(2012b).母親の子ども に対する「愛着–養育バランス」尺度の開発 第 2 報 ― 尺度としての信頼性と妥当性―.日本看護科学会誌, 32(4),22-31. 武田江里子,小林康江,加藤千晶(2013).産後1ヵ月の母 親のストレスの本質の探索 テキストマイニング分 析によるストレス内容の結びつきから.母性衛生, 54(1),86-92. 武田江里子,小林康江,弓削美鈴(2016).乳幼児を子育 て中の母親から子どもへの「愛着–養育バランス」に 影響する内的要因 ― 母親の被養育体験と内的作業モ デルの影響―.日本看護科学会誌,36,71-79. 武井祐子,寺崎正治,高尾堅司,門田昌子(2008).養育 者との面接からとらえた育児不安についての質的研 究.川崎医療福祉学会誌,18(1),219-225.