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Rainbow and Market : Symbolism of Boundary and Market Exchange

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虹 と市 一 境 界 と交 換 の シ ンボ リズ ム

小 野 地

は じめ に

本 稿 は 虹 と い う 自然 現 象 に対 して 抱 か れ て き た様 々 な社 会 的 な観 念 を 考 察 の 対 象 とす る。 虹 は実 に 多 様 な シ ン ボ リズ ム の 様 相 と結 び っ い て い るが 、 そ れ ら諸 々 の様 相 は相 互 に ど う関 連 し合 って い る の か を 明 らか に した い 。 特 に本 稿 で 中心 的 テ ー マ とす る の は、 日本 中 世 の、 虹 の立 った 所 に市 を た て ね ば な らな い とい う、 不 思 議 な慣 習 で あ る。 つ ま り、 虹 と 市 と が シ ンボ リズ ム に お い て 、 な ぜ 結 び っ くの か 。 そ の 論 理 と は何 か を 文 化 記 号 論 と構 造 人 類 学 の 方 法 で 読 み 解 き、 明 らか に す る。 こ れ が 本 稿 の 目 的 で あ る。 そ して そ の分 析 の 諸 過 程 で 、 人 間 が 「自然 」 に対 して 抱 く観 念 と経 済 活 動 は 、 相 互 に浸 透 的 で あ り 「全 体 的 社 会 事 象 」 と して 多 層 的 な論 理 で 結 びっ い て 世 界 観 を 形 成 して い る こ とを 示 した い。

1.虹

の 学 説 史

分 析 の 出発 点 と して、 虹 に関 して抱 か れ て きた様 々 な社 会 的観 念 を取

り上 げて考究 した主要 な研究 を簡 潔 に取 り上 げ、 この作業 を通 じて本 稿

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の 論 点 の確 認 を行 い た いQ そ の よ うな 研 究 に は、 先 ず 民 俗 学 者 の 宮 良 当 壮 や 柳 田 國 男 の もの が あ る。 彼 らは主 に虹 の呼 称 の 語 源 を探 り、 虹 と い う言 葉 と他 の言 葉 が ど の よ う に関 連 し変 遷 して い った か を推 測 す る こ とで 、 虹 に まつ わ る観 念 の 歴 史 を 明 らか に しよ う と した。 宮 良 当 壮 は大 正 九 年(1920)頃 か ら、 南 島 を フ ィ ー ル ドとす る民 俗 語 彙 の 研 究 を 行 い 「虹 の 語 学 的 研 究 」 と い う論 文 で 南 島 を 中 心 と した多 様 な 虹 の 習 俗 を紹 介 した。 そ して 、 結 論 と して 「ニ ジの 語 源 は、 蛇 類 の 総 称 で あ る ナ ギ(ナ ジ)に 求 あ る こ とが で き る」 と い う 「虹=蛇 」 説 を 独 自 に唱 え た[宮 良1981]。 同 時 期 に 民 俗 学 者 のN・ ネ フ ス キ ー も同 様 の 説 を 唱 え た と い う(1)。 柳 田 國 男 は 『西 は何 方 」 に収 録 さ れ た 「虹 の 語 音 変 化 な ど」 「青 大 将 の 起 原 」 の 論 文 に お い て 、 虹 の 名 称 の 分 析 を 行 った[柳 田1990]。 柳 田 に よ れ ば ニ ジの 名 称 は五 つ に 分 類 で き る。1ノ ジ、2ネ ジ、3ミ ョー ジ、4ジ ュ ー ジ、 ヂ ュ ー ジ、5ビ ョー ジ、 で あ る。 この う ち ニ ュ ー ジが 本 来 の 形 で 、 他 の 語 形 に派 生 した と考 え た の で あ っ た。 そ して 、 柳 田 に よれ ば 、 ニ ュ ー ジに は畏 るべ き霊 物 とい う意 味 が あ った とい う。 ま た、 柳 田 は蛇 の名 称 の 分 析 か ら、 虹 と蛇 との 関 連 性 を 指 摘 した。 西 行 が 虹 を 歌 った と い わ れ る 「さ らに 又 そ り橋 わ た す こ こ ち して を ふ さか か れ る葛 城 の 山 」 の歌 中 で 、 虹 を 示 す 「を ふ さ」 の語 は蛇 の古 語 で あ る ナ フサ と同 系 の言 葉 で 、 大 き な蛇 の こ とで あ る と推 測 を行 い 、 ま た、 池 沼 の 「ヌ シ」 と い う語 もニ ジの語 と一 っ で あ って 、 人 々 は ヌ シ(竜 ・蛇 等 の霊 物)が 顕 れ て ニ ジ とな る と信 じた 、 と言 う。 つ ま り、 虹 と蛇 と は 語 の レベ ル で 密 接 な 関 連 が あ り、 ニ ジは も と長 虫 の一 種 の 名 で あ り、 ウ ナ ギ ・ア ナ ゴ と も関 連 して 、 ナ ブ サ ・ノ ロ シ に な っ た と い う。 「虹 が 古 人 の信 仰 で は蛇 類 の一 つ で あ り、 そ の 名 の ヌ ジ ・ミ ョウ ジ等 も ウ ナ ギ ・

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虹 と市 一境 界 と交 換 の シ ンボ リズ ム31 ア ナ ゴ と と もに、 最 初 は一 つ の 語 で あ っ た ら し き こ と、 及 び淵 池 の 主 と い う ヌ シの 語 の ご と き も、 そ の 残 留 」[柳 田1990:272]と い うの で あ る。 柳 田 は 、 こ の よ う な語 源 の 推 定 と派 生 、 隣 接 関 係 に よ って 「ニ ジ= 虹 」 が 蛇 類 全 体 と密 接 に重 な る もの と観 念 され 、 特 に霊 物 と して超 自然 的 側 面 を 持 っ て い る とい う こ とを 明 らか に した。 そ の後 、 虹 を対 象 と して 総 合 的 な研 究 を展 開 した の は、 安 間 清 で あ る [安 間1978]。 安 間 は 自 らの 出身 地 で あ る長 野 県 で は、 虹 が川 、 池 、 沼 、 湖 、 海 な ど水 か ら出 現 す る、 と い う俗 信 が あ る こ と に注 目 し事 例 を広 く 日本 全 国 か ら収 集 した。 そ して 、 虹 が 水 か ら出現 す る と い う俗 信 は 日本 古 代 か ら歴 史 的 に存 在 し、 そ の 由来 と して 虹 を竜 蛇 とみ な す信 仰 が あ っ た と主 張 した。 す な わ ち 「虹 が 水 か ら出 る とい う俗 信 を端 緒 と して 、 同 じ こ とが 日本 全 体 に通 じて 行 わ れ る こ とを想 定 し、 この俗 信 が 太 古 の 時 代 か ら存 在 した で あ ろ う と考 え 、 次 に この俗 信 の 由来 が古 く虹 を 水 神 竜 蛇 と す る信 仰 が あ っ た こ と に 基 づ く も の と 考 え た 」 の で あ る[安 間 1978:25]o 安 間 は さ ら に世 界 的 に事 例 を 求 あ て 比 較 分 類 し、 全 世 界 に 共 通 す る虹 に まっ わ る観 念 の特 徴 と して 、 ① 虹 は水 か ら出 る、 ② 虹 は竜 蛇 と考 え ら れ た、 ③ 虹 は天 地 を っ な ぐ橋 と み られ た 、 ④ 虹 の 下 に は財 宝 が あ る と信 じ られ た、 と い う四 点 を指 摘 した。 安 間 の 分 析 は、 虹 が 竜 蛇 で あ る とい う俗 信 を 「最 も原 始 の 信 仰 」 と し て 考 え 、 「虹 は竜 蛇 と考 え られ た」 こ と を虹 の 諸 観 念 の 中 で 最 も重 視 し て お り、 そ れ 以 外 の観 念 は そ の 派 生 や発 展 と して 位 置 づ けて い る。 例 え ば 虹 が 水 か ら出 現 す る の は、 竜 蛇 が そ の 水 に住 む 主 だ か らで あ り、 虹 が 橋 と観 念 され る の は 「竜 蛇 そ の もの で あ っ た虹 が 、 い っ か や が て 虹 は竜 蛇 が そ れ に よ って 昇 天 し、 ま た 天 降 る橋 で あ る と考 え られ る よ う に な っ

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た ら しい」 か らで あ り[安 間1978:50]、 一 方 で は 虹 の 下 に 財 宝 が あ る とい わ れ るの は竜 神 が 財 宝 を もた らす と い う観 念 が あ るか らで あ る、 と説 明 す る。 そ の結 果 、 安 間 の論 旨で は虹 そ の もの よ り も、 竜 蛇 の 信 仰 上 の 位 置 づ け の ほ うが 重 要 な課 題 と な って い る。 こ う して、 虹 は単 に竜 蛇 を 象 徴 す る もの で しか な くな り、 虹 固 有 の シ ン ボ リズ ム の分 析 が 不 明 と な って し ま っ た と い う問 題 が あ る ②。 以 上 の よ うな虹 に 関 す る民 俗 的 研 究 を 総 合 して 、 さ らに全 世 界 の虹 に 関 す る膨 大 な事 例 を加 え て 、 そ れ らを民 族 学 の立 場 か ら詳 細 に比 較 検 討 した の が 、 大 林 太 良 『銀 河 の 道 虹 の 架 け橋 』[大 林1999]で あ る。 大 林 は世 界 各 地 の 多 彩 な虹 の シ ンボ リズ ム の基 調 と して 「不 気 味 さ」 を あ げ る。 世 界 の 多 くの 民 族 に と って 、 虹 は不 気 味 で あ り恐 ろ しい もの と して 観 念 さ れ て い る と言 う。 日本 の 近 代 以 前 に は虹 の美 し さを讃 え る 文 学 作 品 は ほ とん ど存 在 せ ず 、 中 国 で も六 朝 以 前 は 同 様 で あ った 。 虹 の 不 気 味 さ は具 体 的 に は、 不 幸 な恋 、 死 、 殺 害 、 血 、 蛇 、 異 常 な性 、 過 剰 な 性 と して 虹 の伝 承 に現 れ 、 虹 が 不 気 味 な こ とが 繰 り返 し強 調 さ れ語 ら れ て い る とい う。 大 林 に よ れ ば、 「不 気 味 さ」 こそ が 、 元 来 、 虹 に 対 す る人 類 共 通 の 観 念 ・感 覚 で あ り、 そ れ は 「自然 的 」 な 基 礎 を 持 って い る。 虹 は天 と地 の 中 間 に立 っ ど っち っ か ず の もの で あ る こ と、 出現 が 予 測 で きず 立 って も す ぐに消 え て しま う傍 い もの で あ る こ と、 色 彩 と形 状 が 自然 界 に類 例 の な い もの で あ る こ とが 、 そ の 「自然 的 特 性 」 で あ る。 これ らの 自然 的特 性 に よ って 導 か れ た虹 の 「不 気 味 さ」 が 、 そ れ ぞ れ の 地 域 ・民 族 の文 化 的 伝 統 に よ って 、 不 幸 な恋 、 死 、 殺 害 、 血 、 蛇 、 異 常 な性 、 過 剰 な性 と い った様 々 な現 象 形 態 を と るの だ と い う。 大 林 の分 析 は、 多 様 な相 を持 つ 数 多 くの 事 例 の 分 類 を行 い、 個 々 の事

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虹 と市 一 境 界 と交 換 の シ ンボ リズ ム33 例 間 の 類 似 点 を指 摘 す るだ けで な く、 分 類 さ れ た諸 特 徴 に通 底 す る論 理 の 抽 出 を試 み て い る点 で 、 本 稿 の 問 題 意 識 と大 き く重 な る もの で あ る。 大 林 の 分 析 は後 に詳 細 に再 検 討 を 行 い た い。 民 俗 学 ・民 族 学 か ら 目を 転 ず る と、 国 文 学 の 分 野 で は、 荻 野 恭 茂 が文 献 資 料 を網 羅 的 に 収 集 ・紹 介 しな が ら、 精 力 的 に研 究 を発 表 して い る。 荻 野 の 研 究 は 日本 、 中 国 の 古 代 の 文 献 は も と よ り、 安 間 、 大 林 が ほ とん ど分 析 しな か った 現 代 の文 学 作 品 に登 場 す る虹 を も扱 って お り、 虹 の 研 究 に 時 代 的 広 が りを与 え て い る 以 上 の よ うに、 虹 の 文 化 的 研 究 は、 優 れ た研 究 が 積 み重 ね られ 、 特 に 資 料 的 に は安 間 、 大 林 、 荻 野 各 氏 の 手 に よ って 膨 大 な蓄 積 が 行 わ れ た。 本 稿 は、 この先 学 諸 氏 の 資 料 的 蓄 積 に多 くを負 って い る。 一 方、 筆 者 が 行 うの は、 文 化 記 号 論 お よ び構 造 人 類 学 の 視 点 か らの 分 析 で あ る。 特 に本 稿 で は、 従 来 の 研 究 で ア ポ リア とな って い た虹 と市 と の 関 係 を 「全 体 的 社 会 事 象 」 と して 読 み解 く こ と を 中心 的 テ ー マ とす る。 全 体 的 社 会 事 象 と は、M・ モ ー ス の 概 念 で あ り多 様 な 社 会 事 象 を 個 別 の 次 元 に お い て で は な く、 全 体 性 か ら理 解 しよ う とす る概 念 で あ る[モ ー ス1985a、1985b]。 本 稿 で は、 この 概 念 に立 脚 す る と共 に、 人 間 が 言 語 を使 用 して分 節 と差 異 の 論 理 に よ って 文 化 秩 序 を構 築 して い る と い う、 「言 語 の 人 類 学 的 側 面 」[リ ー チ1976]か ら虹 の シ ンボ リズ ム の 問 題 を 捉 え て 分 析 を行 う。 この 際 、 重 要 に な る の は、 虹 と は単 な る 自然 現 象 で は な く、 社 会 現 象 で あ る と い う こ とで あ る。 虹 は人 間 が 言 語 に よ って 構 築 した文 化 に よ っ て認 識 し、 意 味 の世 界 の 中 へ 位 置 づ け た現 象 で あ り、 この意 味 に お い て 、 虹 に まっ わ る社 会 的 諸 観 念 と は、 記 号 的 な 意 味 作 用 を持 つ シ ンボ リズ ム で あ って、 記 号 論 的 分 析 の 対 象 と な る。 この視 点 か らの虹 の シ ンボ リズ ム の分 析 と は、 虹 の社 会 的 な位 置 づ け の あ り方 の論 理 を探 る もの で あ る。

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従 来 の 研 究 に よ って虹 の 多 様 な シ ンボ リズ ム は個 々 に明 らか に な って い るが 、 な ぜ 虹 が そ の よ う な多 様 な シ ン ボ リズ ム を 持 っ もの と して 社 会 的 に位 置 づ け られ る の か 、 ま た そ れ らの 多 様 な シ ンボ リズ ム を相 互 に 関 連 させ て い る論 理(例 え ば虹 と市 と の 関 連 の 論 理)は 何 か 、 に つ い て は再 検 討 の 余 地 が あ る の だ 。 そ して 筆 者 は、 虹 の シ ン ボ リズ ム を 扱 う際 、R・ ニ ー ダ ム の提 唱 す る 多 配 列 的 分 類(polythetic)を 採 用 す る(3)。 虹 の シ ン ボ リズ ム は、 微 妙 に ず れ な が ら も重 な り合 う、 こ の 重 な り は 単 配 列 的 分 類(mono-thetic)の 視 点 で は捉 え られ ず 、 ば らば らに な って し ま う。 しか し、 シ ンボ リズ ム と は一 元 的 か っ 排 他 的 に分 類 で き る も の で は な く、 隠 喩 と換 喩 に よ って 多 層 的 に結 び っ き、 あ る シ ン ボ リズ ム の分 類 の 外 延 は 、 ま た 別 の シ ンボ リズ ム と溶 け合 って い る よ う な織 物 状 の もの で あ る。 この よ うな認Qに お い て は、 シ ン ボ リズ ム の ま と ま り は、 ゆ るや か な多 配 列 的 分 類 と して 捉 え るべ きで あ る。

2.虹

の シ ンボ リズ ム と タ ブ ー の 両 義 性

以 上 の観 点 に立 っ と虹 の シ ン ボ リズ ムを 分 析 す る上 で 最 も重 要 な の は、 大 林 太 良 の議 論 で あ る。 な ぜ な ら、 虹 の シ ンボ リズ ム の事 例 紹 介 や 分 類 だ け に留 ま らず 、 そ れ らに通 底 す る論 理 に踏 み 込 ん だ 分 析 を 示 した の は 彼 だ か らで あ る。 ゆ え に、 虹 の シ ン ボ リズ ム の考 察 を 進 め る に は、 今 一 度 大 林 の理 論 を再 検 討 す る必 要 が あ る。 大 林 が 「不 気 味 さ」 を虹 の シ ン ボ リズ ム の 基 調 と した こ と は先 に述 べ た。 大 林 は、M・ ダ グ ラ ス の稼 れ論 を 踏 ま え て 、 虹 は ど っち っ か ず の あ い ま い な 境 界 現 象 で あ るか ら、 不 気 味 に感 じ られ 、 恐 れ られ る と指 摘 し て い る。 この 大 林 の指 摘 は基 本 的 に は正 しい と考 え る。 確 か に大 林 の 指

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虹 と 市 一 境 界 と 交 換 の シ ン ボ リズ ム35 摘 す る よ う に、 虹 は世 界 の多 くの 民 族 で 不 気 味 と され て 恐 れ られ て い る こ と は彼 自身 の提 出 した膨 大 な事 例 に よ って 裏 付 け られ る し、 そ れ は虹 が 天 と地 、 雨 と晴 の 中 間 に 出 現 し、 空 間 的 に も時 間 的 に も境 界 的 で あ る こ と に 由来 す る と思 わ れ る。 しか し、 大 林 が 「不 気 味 さ」 を 虹 の シ ン ボ リズ ム の 基 調 と し、 境 界 性 を そ の0部 を 説 明 す る論 理 と して 限 定 的 に使 用 して い る こ と、 そ して 虹 の 「不 気 味 さ」 や 色 彩 の 「異 常 」 を 人 類 共 通 の元 来 の 観 念 ・感 覚 で あ り、 「自然 的 」 な基 礎 と して い る こ と に は、 再 検 討 の 余 地 が あ る。 な ぜ な ら、 境 界 に対 す る恐 れ や不 気 味 さ、 異 常 とい う感 情 は、 自然 的 、 実 体 的 な も の で は な いか らで あ る。 こ こで 、E・ リー チ の理 論 に 代 表 さ れ る文 化 人 類 学 の境 界 論 を 敷 術 す る な らば 、 境 界 とは 自然 の 中 に実 体 と して 存 在 して い る もの で は な い。 そ れ は、 人 間 が 分 節 と差 異 に よ って世 界 を 不 連 続 化 して 文 化 秩 序 を造 る と き に、 不 可 避 的 に発 生 す る もの な の で あ る。 な ぜ な らば、 も と も と人 間 の外 部 環 境 と して の 自然 は区 切 りの な い連 続 体 で あ る。 人 間 は連 続 性 に区 切 りを 入 れ て 不 連 続 化 し、 且 っ 重 複 部 分 を タ ブ ー の対 象 とす る こ と で 排 除 して 、 明 確 な 同0性 を も った対 象 と して カ テ ゴ リー を生 成 す る。 分 類 秩 序 を画 定 す る た め に は、 この よ う に カ テ ゴ リー の重 複 部 分 を タ ブ ー と して 排 除 し な け れ ば な らな い の だ[リ ー チ1976] 。 中 間 的 カ テ ゴ リー で あ る境 界 が タ ブー と して 忌 避 さ れ る の は、 こ う した分 類 秩 序 との 関 係 か らで あ って 、 実 体 的 な理 由 に よ る もの で は な い。 っ ま り、 虹 が 不 気 味 な の は、 あ らか じめ 天 と地 、 晴 と雨 と い う区 分 が あ って 、 そ の境 界 に虹 が 発 生 す るか らで は な い。 人 間 が 天 と地 、 晴 と雨 と い うカ テ ゴ リー と して 自然 を分 節 ・差 異 化 し、 文 化 秩 序 と して の世 界 を 生 成 して い る か ら こそ、 そ の カ テ ゴ リー に う ま くあ て は ま らず 、 撹 乱 させ る虹 が タ ブ ー と して不 気 味 に感 じ られ るの で あ る。 大 林 の い う 「不

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気 味 」 さや 「異 常 」 は文 化 秩 序 に 対 す る逸 脱 や 混 乱 か ら もた ら され る も の で あ る。 こ の よ う に、 「自然 的 特 性 」 や 人 間 の 元 来 の感 覚 もす で に、 文 化 の 位 相 に お い て 捉 え られ位 置 づ け られ た社 会 的 特 性 と して 捉 え るべ き な の で あ る。 そ して 、 タ ブ ー の 対 象 と な る も の は分 類 を撹 乱 す る不 気 味 で 恐 ろ しい も の で あ りな が ら、 コ ン テ ク ス トに よ って は、 望 ま しい もの に もな る と い う、 両 面 性 ・両 義 性 を持 って い る。 な ぜ な ら、 タ ブ ー は カ テ ゴ リーを 画 定 す るた め に排 除 され る の で あ るか ら、 隔 て られ た カ テ ゴ リー 間 を 溶 解 させ 、 そ の 間 の近 接 ・交 流 を は か りた い と き に は、 逆 に タ ブ ー の 対 象 と さ れ る事 象 を カ テ ゴ リー問 に導 入 す る こ とが 論 理 的 に適 切 な の で あ る。 実 際 、 タ ブ ー 的事 象 で あ る椴 れ に よ って 、 豊 饒 を もた らす 事 例 が あ る こ と は、 レ ヴ ィ=ス トロ ー ス[レ ヴ ィ=ス トロ ー ス1997]や 波 平 恵 美 子 [波 平1988]が 報 告 して お り、 日本 で は雨 乞 い の 儀 礼 で 竜 神 を 怒 らせ て 雨 を 降・らせ る た め と称 して 、 動 物 の死 体 を竜 神 の 池 に投 げ込 ん だ り、 雨 乞 い儀 礼 の現 場 に生 理 中 の 女 性 を 連 れ て行 く こ とが 知 られ て い る[小 馬2004]。 以 上 の 考 察 を踏 ま え る と、 虹 の シ ンボ リズ ム の基 調 は、 不 気 味 さ で は な くそ れ を生 み 出 して い る タ ブ ー の論 理 と捉 え るべ き で あ る。 虹 の 「不 気 味 さ」 が 実 体 的 な基 調 と して他 の シ ンボ リズ ム を 結 び 付 け て い るの で は な く、 「不 気 味 さ」 そ れ 自体 が 分 節 と差 異 に よ って 発 生 す る文 化 秩 序 と タ ブ ーが 生 み 出す 現 象 の バ リエ ー シ ョ ンに過 ぎ な い。 大 林 の 理 論 の 問 題 点 は、 タ ブ ー の 片 面 で あ る マ イ ナ ス の面 、 つ ま り分 類 を 混 乱 さ せ る 「不 気 味 さ」 を 強 調 して しま っ た こ と で 、 不 気 味 さ を 持 っ 虹 が 一 面 で は、 豊 饒 性 や 幸 運 、 財 宝 と い う好 ま しい側 面 に 転 換 す る可 能 性 と射 程 を う ま く位 置 づ け る こ とが で きな か っ た こ と に あ る と思 わ れ る。

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虹 と 市 一 境 界 と交 換 の シ ン ボ リズ ム37 この タ ブ ー の両 面 性 ・両 義 性 とい う観 点 か ら大 林 の論 を再 検 討 す る と き、 虹 の 特 徴 と して 大 林 が 強 調 した 「ど っ ちっ か ず で 曖 昧 」 と い う タ ブ ー の 消 極 的 な側 面 か らだ けで は な く、 反 対 に 「カ テ ゴ リー 同 士 を 過 剰 に 近 接 させ る」 と い う、 タ ブ ー の 積 極 的 な 側 面 か ら考 察 して み る こ と に大 きな 可 能 性 が あ るだ ろ う。 実 際 、 「カ テ ゴ リー同 士 を 過 剰 に近 接 させ る」 と い う側 面 か ら虹 を 見 る こ とで 、 よ り整 合 的 か っ 全 体 的 に虹 の シ ンボ リ ズ ム を解 釈 す る事 が で き る と思 わ れ る。 そ の 例 を次 節 で 見 て い こ う。

3.過

剰 性 と して の 虹 の シ ンボ リ ズ ム

3-1.虹 の過 剰 性 そ の1色 虹 の シ ンボ リズ ム の一 っ は色 彩 に関 す る観 念 で あ る。 虹 の 色 を 何 色 と す る か が 、 文 化 に よ って 異 な る事 は知 られ て い る。 現 代 日本 で は七 色 が 一 般 的 で あ るが、 ア メ リカ、 イ ギ リス で は 六 色 、 ドイ ツで は五 色 、 ア フ リカ の シ ョナ 語 で は三 色 、 バ ッサ 語 で は 二 色 で あ る[鈴 木2003]。 さ らに そ れ ぞ れ の 地 域 の 中 で も、 時 代 や 階 層 に よ って も異 な り、 古 代 ギ リ シ ャで は三 色 も し く は四 色 で 、 ア リス トテ レス は虹 を 四 色 と して お り、 ア メ リカ ・イ ギ リス で は民 衆 レベ ル で は六 色 と さ れ る が 、 学 校 教 育 の場 で は七 色 と教 え る[鈴 木2003]。 中 国 で は伝 統 的 に五 色 で あ り、 日本 で も 『吾 妻 鏡 」 建 保 六 年 六 年 六 月 十 一 日 に 「西 方 見 五 色 虹 。 上0重 黄 、 次 五 尺 余 隔 赤 色 、 次 青 、 次 紅 梅 也 。 其 中 間 又 赤 色 」[黒 板(編)1964:736]と あ り、 中 世 で は 虹 を 五 色 と み る観 念 が あ っ た。 近 年 で も研 究 者 で あ る宮 良 当 壮 は 自身 の 論 文 の 中 で 「五 彩 の 虹 の 出 現 す る の を 見 る こ とは屡 々吾 々 の経X11す る と こ ろ で あ る」 [宮 良1981:11]と 当 然 の よ う に述 べ て い る の は興 味 深 い。 ま た長 田須 磨 は、 奄 美 大 島 で は虹 を二 色 とす る観 念 が あ った とい う仮

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説 を 提 出 して お り[大 林1999:238]、 登 山 修 は奄 美 で は 虹 は テ ィ ンナ ギ ャ(天 の 長 虫)と 呼 ば れ るが 、 赤 と黒 の 斑 を 持 っ 赤 又 蛇 もま た テ ィ ン ナ ギ ャ と呼 ば れ る事 か ら、 虹 を 暖 色 系 の赤 と寒 色 系 の 藍 の 二 色 か 三 色 に 見 て い た の で は な いか と指 摘 した[登 山1996]。 この よ うに虹 を何 色 とす るか は、 社 会 や 時 代 に よ って ま ち ま ち で あ る。 よ く知 られ て い る よ う に、 科 学 的 に は色 は連 続 した ス ペ ク トル の波 長 で あ って 、 色 の 境 目 は存 在 しな い。 そ の連 続 して い る もの を ど う分 節 して 、 色 を 同 定 す るか は、 す ぐれ て 社 会 的 な分 節 で あ るの だ 。 従 って 、 ど の色 数 が 絶 対 正 し く、 あ る い は間 違 って い る と い う こ と は な い 。 ま た 個 々 の色 に は そ れ ぞ れ の 文 化 に よ る強 い 象 徴 的 意 味 が 付 与 さ れ て い る こ と は、 従 来 の 研 究 に よ って 指 摘 さ れ て い る こ とで あ る。 例 え ば 、 中 国 を 発 祥 と し、 日本 な ど東 ア ジァ全 体 に大 き な影 響 を 与 え た 陰 陽 五 行 思 想 で は、 五 行(木 火 土 金 水)が 、 五 色(青 赤 黄 白黒)に 配 され て 対 応 して い た。 文 化 人 類 学 者 のV・ タ ー ナ ー は、 白 ・赤 ・黒 の 三 色 の 対 立 原 理 を 普 遍 的 な もの とみ な した。 タ ー ナ ー の 研 究 した ア フ リカ の ンデ ン ブ族 で は、 白 は生 ・善 ・浄 ・男 ・精 液 な ど を表 し、 赤 は血 ・女 ・戦 争 な ど を表 し、 黒 は死 ・悪 ・不 浄 ・病 気 な ど を 表 し、 互 い に対 立 し世 界 観 を把 握 す る根 源 的 認 識 原 理 と な って い る[夕 一 ナ ー1996]。 た だ し、 そ れ ぞ れ の 色 彩 が 具 体 的 に何 を象 徴 す るか は、 文 化 に よ って異 な るの で あ り、 夕 一 ナ ー の 論 に は一 定 の留 保 が 必 要 で あ る。 む しろ重 要 な の は、 そ れ ぞ れ の色 の 内 容 よ り も、 色 が 他 の色 との 記 号 的 な 関係 の 中 で 意 味 を 与 え られ る文 化 的 カ テ ゴ リーで あ る と い う こ と な の で あ る。 以 上 の よ う に、 色 の 分 類 は単 な る視 覚 上 の認 識 とい う次 元 を 超 え て 、 広 く世 界 を 分 類 す る原 理 で あ り、 虹 が何 色 に分 類 さ れ るか は、 当該 社 会 の 価 値 観 と も結 び っ く問 題 な の で あ る。 例 え ば 、 虹 の 色 数 とそ の社 会 に

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虹 と市 一 境 界 と 交 換 の シ ン ボ リズ ム39 お け る支 配 的 な 分 類 原 理 に は相 同 性 が み られ る こ とが あ り、 中 国 の五 行 思 想 と虹 の五 色 、 キ リス ト教 の神 学 に お け る三 機 能 説 と近 代 以 前 の ヨ ー ロ ッパ で の虹 の 三 色 や 、 ニ ュ ー トンの 『光 学 』 に お け る虹 の 七 色 分 類 も 神 学 的 な価 値 観 の影 響 を うけ て い る とい う。 大 林 が 指 摘 す る よ う に 「虹 の色 数 は、 大 き な包 括 的 な分 類 の体 系 の一 部 」[大 林1999:711]な の だ 。 こ こで 、 色 数 や そ の分 類 の比 較 を試 み る こ と は興 味 深 い が 、 本 稿 で 確 認 した い の は も っ と基 本 的 な部 分 で あ る。 そ れ は、 これ らの 虹 に対 す る 観 念 が 証 明 して い る の は、 何 色 の分 類 で あ ろ う と、 全 世 界 に お い て 、 虹 は異 な る色 の 並 存 と して 観 念 され て い る と い う こ とで あ る。 っ ま り、 虹 は赤 、 青 、 白、 黄 な ど と い う複 数 の 色 の カ テ ゴ リー が 、 「虹 」 と い う一 っ の カ テ ゴ リー の 中 に過 剰 に近 接 して 存 在 す る もの な の だ。 虹 が 多 色 で あ る と観 念 さ れ る こ と は、 複 数 の カ テ ゴ リー の 並 存 と して 虹 が 捉 え られ て い る とい う こ と を意 味 す る。 虹 と呼 ば れ る現 象 は複 数 の カ テ ゴ リー を 含 み こん だ 現 象 な の だ。 例 え ば 、 虹 の語 源 を 説 明 す る次 の事 例 を見 て み よ う。 『日本 釈 名 』:虹 に は丹 な り、 あ か き也 、 しは 白也 、 に じは紅 白 ま じはれ り[神 宮 司 廉(編)1995:311] 『さ へ づ り草 松 の落 葉 』:按 ず る に ニ ジ は二 字 の意 な るべ し、 又 は 二 児 にや 、 そ れ 何 れ まれ 二 筋 の 色 に よ りて 号 け た る もの な る こ と は 論 な か るべ し、 そ は天 地 陰 陽 男 女 雌 雄 の 両 義 に よ りて 、 お のつ か ら 二 字 の 形 色 を なせ る もの な るべ し 〔宮 良1981:44]。 以 上 の よ う に、 虹 は異 な る色 の並 存 と して 観 念 され て お り、 特 に 『さ

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へ づ り草 松 の 落 葉 」 で は色 と い う次 元 の カ テ ゴ リー の 並 存 に と ど ま らず 、 「天 地 陰 陽 男 女 雌 雄 の両 義 に よ りて 」 と、 世 界 を 分 節 す る あ らゆ る二 項 対 立 カ テ ゴ リー の 並 存 の 隠 喩 と して 解 釈 さ れ て い るの だ。 これ らの二 項 は本 来 、 適 切 な距 離 を 保 って 存 在 す べ き もの で あ り、 そ れ を一 っ の カ テ ゴ リー に含 み こん で い る虹 は 「カ テ ゴ リー 同 士 を 過 剰 に近 接 させ る」 も の と い え るだ ろ う。 0方 、 虹 の 多 色 性 の 例 外 と して 「白虹 」 と い う観 念 が あ る。 白 虹 と は 現 代 の気 象 現 象 の 分 類 と して は 「量 」 等 に 同 定 さ れ る よ うな 現 象 で 、 白 っぽ い帯 状 の霧 が 発 生 す る も の ら しいが 詳 細 は不 明 で あ る。 しか し、 こ の 白虹 と名 づ け られ た現 象 は、 古 代 中 国 に お い て 災 異 を もた らす もの と さ れ、 特 に 「白虹 、 日を貫 く」 こ と は、 臣 下 が 君 主 を 害 す る予 兆 と して 強 く忌 避 さ れ た 。 日本 に も古 代 よ り 白虹 思 想 は流 入 し、 中 世 の 「吾 妻 鏡 」 で は度 々 、 白虹 の 発 生 が 記 述 され る な ど、 権 力 側 に と って 大 きな 関 心 を 引 く出来 事 で あ った。 しか し、 白 虹 と は語 を見 れ ば わ か る よ う に、 「白 い 虹 」 で あ って 、 虹 が 白単 色 で は な い か ら こ そ、 わ ざわ ざ虹 の 語 に 白 とっ け て い るの で あ り、 そ れ は逆 に虹 は単 色 で は な く、 多 色 が 基 本 認 識 で あ る こ とを裏 付 け て い る。 記 号 論 的 に い え ば 、 虹 にお いて は多 色 が 無 徴 項 で あ って、 単 色 が有 徴 項 な の だ。 で あ るか ら こそ 、 「白 虹 」 と い う単 色 の虹 が 、 通 常 の 虹 と の 対 比 に よ っ て、 特 に異 常 と さ れ 不 吉 な前 兆 と さ れ る の で あ る。 この よ うに、 虹 の色 彩 の シ ン ボ リズ ム を カ テ ゴ リー の過 剰 の 近 接 性 か ら解 釈 す る こ とで 、 虹 と 白虹 の 差 異 の位 置 づ け も明 確 に な る の で あ る。 3-2.虹 の 過 剰 性 そ の2性 虹 と性 の 問題 に関 して は従 来 よ り、 虹 が 性 的 関 係 、 陰 陽 和 合 を表 す と さ れ て き た。M・ グ ラ ネ は男 女 の婚 礼 を 陰 と陽 の 婚 姻 と捉 え 、 虹 も陰 陽

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虹 と市 一 境 界 と交 換 の シ ン ボ リズ ム41 の 結 合 、 天 と地 の 接 合 を 表 す と し た[グ ラ ネ ー2003:382-390]。 以 下 の 例 を み よ う。 て い とう 『釈 名 』 巻 一:虹 は攻 な り、 純 陽 の 陰 気 を 攻 む る な り。 又 畷 煉 と 日 ふ 。(中 略)ま た 美 人 と 日 ふ 。 陰 陽 和 せ ず 、 婚 姻 錯 乱 し、 淫 流 行 し、 男 は女 に美 し と され 、 女 は男 に美 しと さ れ 、 恒 に相 奔 りて これ に 随 ふ 。 時 則 と此 気 盛 ん 、 故 に盛 時 を 以 て これ を名 つ くる な り[大 林1999:256]。 て い と う r月 令 章 句 」:虹 は綴 煉 な り。 陰 陽 交 接 の氣 の、 形 色 に著 は る る者 な り。 雄 を 虹 と い ひ、 雌 を蜆 と いふ 。 夫 れ 陽 陰 和 合 せ ず 、 婚 姻 序 を 失 へ ば 、 即 ち此 の氣 を生 ず[森1969:219]。 大 林 は これ らの 事 例 に対 して 、 グ ラネ の 説 を 受 け、 虹 は 「陰 陽 交 接 の 気 と い う説 明 と、 婚 姻 序 を 失 う と い う説 明 が 出 て い る。 正 常 で は な い 交 接 の 印 だ とい う こ と に な ろ うが 、 あ る い は た ん な る交 接 の 印 だ っ た と い うの が 本 来 の 意 味 で は な か っ た ろ うか?」[大 林1999:257]と して い るが 、 これ は疑 問 で あ る。 虹 の シ ンボ リズ ム が 象 徴 す る の は単 な る陰 陽 の 和 合 や 通 常 の性 的 関 係 で は な い。 事 例 が 示 す よ うに 「陰 陽 和 せ ず 、 婚 姻 錯 乱 」 し、 「婚 姻 序 を失 」 う よ うな 、 過 剰 な性 関 係 な の で あ る。 虹 の 過 剰 性 は性 に 関 す る近 親 相 姦 や 両 性 具 有 と い う観 念 に も示 さ れ る。 盤 古 説 話 で は、 盤 古 が 妹 と夫 婦 に な る と き天 空 に虹 が 出 た とい い 、 ス マ トラの バ タ ク族 で は伯 父 と近 親 相 姦 を侵 した姪 が虹 に な っ た と い う伝 承 が あ る と い う[大 林1999]。 虹 は この よ う に近 親 相 姦 や 婚 姻 錯 乱 す る よ うな 淫 乱 と結 び っ く。 大 林 も虹 が 正 常 で な い性 関 係 、 過 度 の性 関 係 と 結 び っ く事 、 虹 は認 め られ な い男 女 の仲 を結 びっ け よ う とす る事 を指 摘

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して い る が 、 そ れ を 虹 の 「不 気 味 さ」 の観 念 と結 びっ く もの と して しま っ た。 しか し、 本 稿 の 主 張 す る よ う に、 虹 は 「カ テ ゴ リー同 士 を 過 剰 に 近 接 させ る」 と い う原 理 を 持 って い る と考 え れ ば、 虹 こそ が 通 常 の 分 類 秩 序 か ら逸 脱 した過 剰 な 関 係 、 っ ま り カ テ ゴ リー 間 の近 す ぎ る距 離 の性 関係 と して の近 親 相 姦 、 淫 乱 を 表 して い る と解 釈 で き、 そ れ に よ って 広 汎 な事 例 を統 一 的 に理 解 で き る の で あ る。 「カ テ ゴ リー 同 士 を 過 剰 に近 接 させ る」 虹 の原 理 は、 虹 が 性 転 換 や 両 性 具 有 の観 念 と結 びっ くこ とか ら も裏 付 け られ る。 バ ル カ ン半 島 や 西 ア ジア で は虹 の下 を通 る と男 は女 に、 女 は男 に な って しま う とい い、 ル ー マ ニ ア で は 虹 が 出現 した川 の 虹 が 触 れ て い る部 分 の 水 を 飲 む と性 が変 わ る と い う[安 間1978:80]。 ま た 、 虹 は両 性 具 有 で あ る と され た り、 双 頭 の 蛇 と さ れ る こ とが 多 い[大 林1999]。 これ らは い ず れ も、 カ テ ゴ リー の過 剰 な 近 接 を 表 して い る。 両 性 具 有 や 双 頭 で あ る こ とが カ テ ゴ リー 間 の過 剰 な 近 接 ・並 存 で あ る こ と は い う ま で もな く、 性 転 換 す る と い うの も性 の カ テ ゴ リー が 近 接 しす ぎて 、 そ の 混 乱 を介 して 、0方 か ら 他 方 へ と移 行 して しま う こ とで あ る。 通 常 で あ れ ば、 男 と女 と い う適 切 に 分 離 さ れ て い て 入 れ 換 え 不 可 能 な性 カ テ ゴ リー も、 カ テ ゴ リー を 過 剰 に近 接 さ せ る虹 の原 理 に よ って 、 転 換 可 能 な もの に な って しま うの だ。 ま た 、 男 女 が 死 ん で 結 ば れ た り、 身 分 違 い の 恋 、 悲 劇 的 恋 愛 や 、 地 上 人 と天 人 と い う人 間 と他 界 の者 と の恋 な ど に 際 して 虹 が 結 び っ き出 現 す る の も、 本 来 結 び っ くべ きで な い、 あ る い は結 び つ くは ず の な い社 会 的 に 離 れ た カ テ ゴ リー 同 士 が 結 びっ い た こ と を虹 が表 して い る と考 え られ る。 そ の よ うな 恋 愛 の 語 りは 「カ テ ゴ リー 同士 を過 剰 に近 接 させ る」 と い う虹 の原 理 に媒 介 され る こ と に よ って 可 能 に な る の だ 。 ま た この 視 点 に お い て 興 味 深 い の は、 地 上 で 結 ば れ な か った 男 女 が 天 上 に行 った 後 に結 ば れ て 、 後 に虹 が 出 た と い う タ イ プ の伝 承 で あ る。 日

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虹 と市 一 境 界 と交 換 の シ ン ボ リ ズ ム43

本 で は虹織 姫 の伝承 が それ に あた る。

虹 織 姫:山 奥 に虹 織 姫 が お り、 淵 の 中 で 機 を織 って い る。 姫 は天 の 織 姫 で あ っ たが 地 上 に降・り た の で あ る と い う。 姫 の住 む淵 に は い っ も 霧 が 立 ち、 虹 が 半 分 だ け 出 て い た。 あ る 日櫛 作 りの職 人 の 若 者 が姫 の 姿 を見 た くな り、 朱 塗 りの櫛 を淵 へ 投 げ込 む。 若 者 は父 か ら 「人 間 の 男 が そ ん な こ とを す る と取 り返 しが っ か な い」 と忠 告 され る。 若 者 は 恐 ろ し くな るが 、 再 度 淵 へ い く と、 淵 か ら姫 が 現 れ 、 頭 に は櫛 を 挿 し て い た。 男 は そ の 後 行 方 不 明 に な り、 淵 か ら姫 の姿 も消 え 、 淵 か ら見 事 な虹 が 山 の 向 こ うま で か か る。 里 の 人 た ち は、 織 姫 が 若 者 を 婿 に し て 天 に 連 れ て 行 っ た の だ と う わ さ し た。(筆 者 要 約)[稲 田 、 小 澤 (編)1985:187-188]。 これ は適 切 で な い過 剰 な近 接 行 為(人 間 と天 人 の恋 愛)と 、 そ の行 為 の他 界(外 部)へ の排 除 が 物 語 と して 語 られ て い る の だ 。 そ して 、 そ の 過 剰 な近 接 を し る しづ け象 徴 す るの が 、 山 の 向 こ う ま で か か っ た見 事 な 虹 で あ る(二 人 が 結 ば れ る前 は 「半 分 の 虹 」 で あ っ た こ と に注 意)。 こ の伝 承 に は、 「カ テ ゴ リー同 士 を過 剰 に 近 接 さ せ る」 もの と して の 虹 と い う論 理 が鮮 明 に示 され て い る の で あ る。 3-3.虹 の過 剰 性 そ の3橋 ・道 虹 の表 象 に広 く見 られ る の は、 虹 を橋 ・道 とみ な す 観 念 で あ る。 安 間 清 は虹 の 世 界 的 特 徴 の 一 っ と して、 「虹 は天 地 を っ な ぐ橋 と み られ たJ こ と を指 摘 した。 こ の観 念 は東 ア ジア を 中 心 に多 く存 在 し、 橋 と親 縁 的 な道 の観 念 と合 わ せ れ ば 、 世 界 的 な 分 布 を示 す[大 林1999]。 日本 で は 「虹 は竜 の 女 神 が 渡 る橋 」、 「虹 は竜 が 天 に昇 る道 」、 「虹 は天

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の 姫 君 の 橋 で あ る」、 「虹 は 天 の 橋 」、 「虹 は川 か ら川 へ か け て 出 る 橋 」 [安 間1978:50、57]な ど と い う観 念 が あ り、 ま た 『古 事 記 』 に み え る天 浮 橋 を虹 に比 定 す る こ とが ア ス ト ンに よ って 主 張 され て い る[ア ス トン1988:90]o 安 間 は、 虹 の 橋 の観 念 を 、 先 に記 した よ う に 「竜 蛇 そ の も ので あ っ た 虹 が 、 い っ か や が て 虹 は竜 蛇 が そ れ に よ って 昇 天 し、 ま た 天 降 る橋 で あ る と考 え られ る よ う に な っ た ら し い」[安 間1978:50]と 、 竜 蛇 信 仰 の残 存 説 か ら説 明 して い るが 、 これ に は疑 問 が あ る。 橋 と は二 っ の カ テ ゴ リー 間 を 媒 介 して つ な ぐ もの で あ り、 ま さ に虹 が 「カ テ ゴ リー 同 士 を 過 剰 に近 接 さ せ る」 論 理 の典 型 と して 読 み 解 け る の で あ る。 この 観 点 か らす れ ば、 虹 が 死 者 の道 や霊 魂 の道 と観 念 さ れ る こ と もス ム ー ズ に解 釈 で き る。 そ れ は、 虹 が ど っ ちっ か ず の 曖 昧 さ と い う 消 極 的 な 属 性 で は な く、 カ テ ゴ リー の近 接 に よ って天 と地 、 現 世 と他 界 とい う異 な る カ テ ゴ リー を結 ぶ 積 極 的 面 を持 つ こ との 証 明 で あ る。 虹 が 海 や 川 の水 を飲 ん で 吸 い上 げ る と い う観 念 も、 ま た、 カ テ ゴ リー の 過 剰 な近 接 で あ る。 沖 縄 の与 那 国 島 で は、 虹 は 「ア ミ ・ヌ ミ ャー(雨 を 飲 む 者)」、 新 城 島 で は 「ア ミフ ァイ ・ム ヌ(雨 を 食 う者)」 と呼 ぶ と い う[宮 良1981]。 この よ う な、 虹 が 地 上 の水 を 飲 む 、 汲 む と い う観 念 は、 中 国 、 ヨー ロ ッパ に も見 られ る[大 林1999]。 虹 が 水 を 飲 む と い うの は、 地 上 の水 が 虹 を 媒 介 とす る こ とで 、 天 へ と移 行 す る こ とで あ る。 天 と地 と い う二 項 の 空 間 カ テ ゴ リー の 距 離 間 で モ ノ(こ の 場 合 は 水)が 移 行 す る た め に は、 そ の 間 が 近 づ い て い な け れ ば な らな い。 虹 は そ の 間 を近 づ け る論 理 を持 つ 現 象 と観 念 され た の で あ る。 虹 が カ テ ゴ リー の 間 隔 を狭 め て過 剰 に近 接 させ る こ と に よ って 生 じる 空 間 媒 介 性 を 代 表 す る の が 、 ギ リ シ ャ神 話 の 虹 の 女 神 で あ る イ ー リス (ア イ リス)で あ る。 イ ー リス は ゼ ゥ ス を は じめ とす る神 々 の言 葉 を 伝

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虹 と市 一 境 界 と交 換 の シ ンボ リズ ム45 え る使 者 で あ り、 あ らゆ る もの を媒 介 す る。 イ ー リス は世 界 の0方 の 端 か ら他 方 の端 ま で 、 そ れ ど ころ か 下 界 の 川 ス テ ユ ク スへ も、 ま た 海 の 底 に も進 ん で い く。 も し も使 者 の 役 が 終 わ る と、 彼 女 は女 主 人 へ 一 レー の玉 座 の片 端 に坐 り、 しば ら く頭 を傾 け る。 そ して へ 一 レー が 眠 り に襲 わ れ る と、 イ ー リス も眠 り込 む が 、 決 して 帯 とサ ン ダ ル は外 さ な い。 女 神 が 急 い で 彼 女 に命 令 を与 え るか も知 れ な い か らだ 。 後 世 の 詩 に よ る と、 彼 女 は女 性 た ち が 死 ん だ と き、 そ の魂 を身 体 か ら分 離 して 他 界 に案 内 す る役 目 を も って い る とい う。 この 資 格 に お い て 彼 女 は霊 魂 を導 く もの ヘ ル メ ー ス と相 触 れ る もの が あ り、 した が っ て 彼 女 も ヘ ル メ ー ス の 杖 を 持 っ て い る の だ。[大 林 1999:523]0 以 上 の よ うに、 虹 の女 神 イ ー リス は世 界 の 端 か ら端 ま で 媒 介 し、 そ れ ど ころ か 他 界 へ の案 内役 と して生 と死 の媒 介 を もは たす 。 ま さ に 「カ テ ゴ リー 同 士 を過 剰 に近 接 させ る」 もの と して の 虹 を 象 徴 的 に具 現 化 した のが イ ー リス な の だ。 そ して 、 そ の媒 介 性 は空 間 的 な もの だ け で な く、 生 と死 の 移 行 と い う 時 間 的 媒 介 性 を も持 って い る。 そ もそ も虹 は、 「雨 」 か ら 「晴 」 へ と い う天 候 的 カ テ ゴ リー の移 行 に よ る時 間 の推 移 を 媒 介 す る現 象 で あ る。 虹 が 出 現 す るの は、 晴 と雨 の境 界 な の だ 。 宮 良 当 壮 が 「虹 の最 も多 く出現 す る 時節 は、 小 満 芒 種 の交 で あ って 、 朝 轍 夕 陽 の 光 を 斜 に 受 け た 八 重 山 方 言 で 云 ふ テ ィ ダ ・ア ー ミ 〔ti-daami〕(太 陽 即 ち 日 の 光 を 受 けて 降 る雨 の義)即 ち 『狐 の嫁 入 』 若 く は そ ば え(日 照 雨)な ど と称 す る雨 の 場 合 で あ る」[宮 良1981=12] と述 べ るの は示 唆 的 で あ る。

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なぜ な ら、 狐 の嫁 入 り ・日照 り雨 と虹 を 同 じ もの と観 念 す る社 会 が 存 在 す るか らで あ る。 熊 本 県 で は狐 の 嫁 入 り は虹 の異 称 で あ り、 ケ ニ ア の メ ル 人 は 日照 り雨 と虹 を 同一 視 して お り、 東 ア フ リカ で は 日照 り雨 と虹 は 強 い連 想 関 係 を持 って い る と い う[小 馬1996]。 以 上 の よ うに 、 虹 の 「カ テ ゴ リー 同 士 を過 剰 に近 接 させ る」 論 理 は、 空 間 的 に は天 と地 を 結 びっ け る橋 ・道 と して 、 他 方 で は狐 の 嫁 入 り ・日 照 り雨 と い う時 間 ・天 候 の混 乱 ・移 行 を 表 す シ ンボ リズ ム と重 層 的 に結 び っ き、 空 間 だ け で な く時 問 と人 間 との 関 係 ま で も包 摂 して い る こ と を 指 摘 で き るの で あ る。 3-4.虹 の 過 剰 性 そ の4蛇 及 び指 差 し禁 忌 しば しば、 世 界 各 地 で 、 虹 と蛇 の シ ンボ リズ ム は密 接 に結 び っ く。 そ の 結 び っ きが あ ま りに も強 固 で あ る た あ に、 蛇=虹 の 結 び っ きを 本 源 的 、 原 始 的 認 識 と して 特 権 視 す る こ とが 主 張 さ れ る。 だ が 、 私 は蛇 と虹 と の 関 係 を 実 体 視 し、 特 権 化 す る こ と は反 対 で あ る。 虹 が 実 体 的 に蛇 と結 び つ き、 そ の 蛇 信 仰 の残 存 と して 、 虹 の シ ン ボ リズ ム が あ る の で は な い。 ニ ー ダ ム 流 に言 え ば、 蛇 は 虹 を 考 え る の に 適 した 表 象 で あ る が ゆ え に (逆 に言 え ば 虹 は蛇 を考 え る の に適 した表 象 と い う こ と で もあ る)、 選 好 さ れ て 、 虹 と結 びっ い て い る要 素 な の だ と捉 え るべ き で あ る。 蛇 も特 権i 的 な要 素 で は な く、 虹 と結 び っ く他 の 表 象 と の範 列 的 な変 換 関 係 に あ る の だ。 蛇 は そ の 線 的 な形 状 と蛇 行 す る動 き な どが 、 虹 が 帯 状 で 湾 曲 した弧 の 形 状 を 持 つ こ と と類 似 す る。 加 え て 、 色 彩 で は縞 や 斑 、 色 鮮 や か な鱗 、 背 と腹 が 対 照 的 な 色 を 持 っ な ど の 特 徴 が 、 虹 の多 色 性 と類 似 す る。 先 に 記 した よ うに 、 奄 美 で は虹 は テ ィ ンナ ギ ャ(天 の長 虫)と 呼 ば れ る が 、 赤 と黒 の斑 を持 っ 赤 又 蛇 も ま た テ ィ ンナ ギ ャ と呼 ば れ る[登 山1996]。

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虹 と市 一 境 界 と交 換 の シ ン ボ リズ ム47

蛇 の中で も、 斑 や縞 の色彩 を持 っ ものが特 に選 好 され るので あ る。 念 の

た め に確認 す ると、 ここで私 が指摘 して い るの は蛇 と虹 の即物 的 な対 応

関 係 で は な く、 両 者 の 社 会 的 カ テ ゴ リー と して の位 置 づ け の類 似 で あ る。 この 面 か ら さ らに 指 摘 す る と、 蛇 は水 辺 と い う陸 と水 との境 界 領 域 に現 れ る こ と、 陸 の 生 物 な の に魚 の よ うに鱗 を 持 つ こ と、 通 常 の 陸 上 の 生 物 が脚 を 持 って 歩 くの に対 し、 脚 が 無 く這 っ て進 む こ と等 、 分 類 を撹 乱 す る境 界 的 存 在 で あ り、 境 界 的 事 象 で あ る虹 と よ く重 な る。 蛇 と虹 と の 結 び っ き は この よ うな多 層 的 な シ ンボ リズ ム の重 な りの ゆ え な の で あ り、 実 体 的 で は な く社 会 的 な位 置 づ け の類 似 に よ る も の な の だ 。 ま た 、 世 界 各 地 に広 く虹 を指 差 す 事 の禁 忌 が 存 在 す る。 沖 縄 の久 高 島 で は虹 を 「シ ー ・キ ラ ー一」 「テ ィ ー ・キ ラ ー」 と言 い、 これ は 「手 の 切 れ る も の」 の意 で あ る と い う[宮 良1981]。 長 野 県 で も虹 を 人 差 し指 で 指 す と手 が 腐 る と い う 「安 間1978」 。 大 林 に よ れ ば 、 こ の 禁 忌 は地 域 に よ る濃 淡 の差 は あ るが 、 中 国、 朝 鮮 、 東 南 ア ジ ア、 メ ラ ネ シア、 ヨ ー ロ ッパ な ど に見 られ る、 い わ ば世 界 的 な 現 象 で あ る。 これ と類 似 す る もの と して 、 蛇 を指 さ す と指 が 腐 る とい う禁 忌 が あ り、 特 に 日本 に は広 く分 布 して い る。 この こ とか ら、 虹 を 指 差 す こ とが 危 険 な の は、 「虹 が 竜 蛇 と観 ぜ られ た こ と の証 拠 の0つ 」[安 間1978]と 、 そ の 共 通 性 が 指 摘 さ れ て い る。 しか し、 そ れ で は な ぜ 指 差 す こ とが 禁 忌 な の か と い う論 理 の説 明 に は な って い な い 。 宮 良 当 壮 は 「虹 は神 で あ る か ら、 これ を 指 させ ば 、 失 礼 に あ た り、 指 さ した 指 の尖 端 か ら段 々 と腐 っ て 来 て 、 遂 に は 手 が 切 れ て しま ふ と云 ふ こ と で あ る」[宮 良19811 42]と 言 うが 、 神 に対 して 失 礼 だ か ら とい う経 験 的 次 元 で の 推 測 に留 ま って い る。 蛇 の 指 差 し禁 忌 にっ い て 記 号 論 的 に考 え るな らば 、 脱 皮 とい う肉 体 的 分 節 を 繰 り返 す 蛇 を指 差 す こ とに よ って 、 指 差 した手 が 現 在 の 適 切 な 状

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態 か ら分 節 さ れ不 適 切 な状 態 へ と移 行 して しま う危 険 が あ る と解 釈 で き る。 この観 点 か ら分 析 す る と、 虹 の指 差 し禁 忌 で も、 虹 は0時 的 で す ぐ に この 世 か ら外 部 へ と消 え て しま うの で 、 虹 を指 差 す と指 もす ぐに、 現 在 の 「この 世 に あ る状 態 」 か ら切 り離 さ れ て外 部 の異 常 な 状 態 へ 移 行 し て しま う と解 釈 す る こ と もで き よ う。 0方 、 タ ブ ー論 と して 考 え る な らば 、 過 剰 な カ テ ゴ リー の近 接 で あ り 文 化 秩 序 を 撹 乱 させ る虹 を 指 さ して 指 し示 し(指 差 す と はす ぐれ て 特 定 の 個 体 を 選 別 して 分 節 す る行 為 で あ る)、 社 会 の 中 に 改 め て 引 き込 ん で しま う事 は文 化 秩 序 に と っ て根 本 的 脅 威 で あ る。 虹 は 世 界 か ら隠 さ れ、 速 や か に消 え 去 る もの で な け れ ば な らな い。 奄 美 大 島 の人 々 は虹 が 出 る と畏 怖 と恐 怖 を 感 じ、 そ の 消 滅 を願 うユ ム グ ト ゥを 唱 え た と い う[登 山 1996]。 虹 を 指 差 す こ とを 戒 あ る こ との 根 本 に は、 虹 の 過 剰 な カ テ ゴ リ ー の 近 接 性 と い う側 面 が 作 用 して お り、 文 化 秩 序 に お け る タ ブ ー の 論 理 が 、 こ こで も通 底 して い る の で あ る。 3-5.虹 の 過 剰 性 そ の5神 と の 契 約 の虹 そ して 、 この視 点 か ら、 虹 に 関 す る最 も知 られ た伝 承 で あ る 『旧約 聖 書 」 の 「創 世 記 」 の 事 例 も解 釈 で き る。 「創 世 記 」 に よ れ ば 、 神 は大 洪 水 を起 こ して 、 ノ ア の家 族 と彼 らが積 み 込 ん だ生 き物 た ち の 乗 る箱 舟 だ け を残 して 世 界 を 破 滅 させ る。 洪 水 が お さ ま った 後 、 神 は ノ ア と息 子 た ち に対 して 、 も う二 度 と洪 水 を起 こ して地(上 の もの)を 滅 ぼ す こ と は な い と契 約 す る。 そ の 契 約 の 証 しが 虹 な の で あ る。 長 くな るが 引 用 しよ う。 「わ た しは、 あ な た た ち と、 そ して 後 に続 く子 孫 と、 契 約 を 立 て る。 あ な た た ち と共 に い るす べ て の 生 き物 、 ま た あ な た た ち と共 に い る鳥

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虹 と市 一 境 界 と交 換 の シ ンボ リズ ム49 や 家 畜 や 地 の す べ て の獣 な ど、 箱 舟 か ら出 た す べ て の もの の み な らず 、 地 の す べ て の 獣 と契 約 を 立 て る。 わ た しが あ な た た ち と契 約 を立 て た な らば、 二 度 と洪 水 に よ って 肉 な る もの が こ と ご と く滅 ぼ され る こ と は な く、 洪 水 が 起 こ って 地 を 滅 ぼ す こ と も決 して な い。」 更 に神 は言 わ れ た。 「あ な た た ち な ら び に あ な た た ち と共 に い る す べ て の 生 き 物 と、 代 々 と こ しえ に わ た しが 立 て る契 約 の しる しは こ れ で あ る。 す な わ ち、 わ た しは雲 の 中 に わ た しの虹 を置 く。 これ はわ た し と大 地 の 間 に立 て た 契 約 の しる しと な る。 わ た しが 地 の 上 に雲 を湧 き起 こ らせ 、 雲 の 中 に虹 が 現 れ る と、 わ た しは、 わ た し とあ な た た ち な らび に す べ て の生 き物 、 す べ て 肉 な る もの との 間 に立 て た契 約 に心 を留 め る。 水 が 洪 水 とな って 、 肉 な る もの を す べ て 滅 ぼ す こ と は決 して な い。 雲 の 中 に虹 が 現 れ る と、 わ た しは そ れ を 見 て 、 神 と地 上 の す べ て の生 き物 、 す べ て の 肉 な る もの と の 間 に立 て た永 遠 の 契 約 に心 を留 め る。」 神 は ノ ア に言 わ れ た。 「これ が 、 わ た し と地 上 の す べ て 肉 な る もの と の 間 に立 て た契 約 の し る しで あ る。」 [共 同 訳 聖 書 実 行 委 員 会(編 訳)1987、1988:11-12]。 以 上 に見 る よ う に、 キ リス ト教 徒 に と って 虹 の 出現 と は神 との 契 約 の 証 しが 確 認 さ れ る聖 な る 出来 事 で あ った 。 これ を 本 論 文 で の 「カ テ ゴ リ ー の近 接 性 」 の象 徴 と して の 虹 とい う視 点 か ら解 釈 して み よ う。 一 般 に あ い だ 契 約 と は様 々 な 人 と人 と の 「間 」 で 取 り交 わ され る もの で あ り、 カ テ ゴ リー 間 の接 触 現 象 で あ る。 特 に神 と契 約 す る と い う こ と は、 神 と い う 外 部 カ テ ゴ リー と人 間 と の接 触 と交 感 と い う、 神 の世 界 と人 間 の 世 界 と い う異 な る世 界 の 「間 」 の 関 係 を も含 み こむ こ と に な る。 っ ま り、 虹 が

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神 と の契 約 の証 し と して この世 に現 わ れ る と い う こ とは、 神 の 意 思 が 神 の 世 界 と人 間 の世 界 と い う カ テ ゴ リー を越 え て 顕 現 す る もの で あ り、 二 っ の世 界 の接 触 と交 感 が 虹 に よ って 示 され る とい う こ と な の だ 。 や は り、 虹 は こ こで も、 神 と人 間 と い う異 な る カ テ ゴ リー の 間 の近 接 性 を あ らわ す もの と して観 念 さ れ て い るの で あ る。 さ らに、 こ こで は虹 に よ る カ テ ゴ リー の 近 接 は 、 神 が 人 間 や 生 き物 を 滅 ぼ さ な い こ とを契 約 した 望 ま しい証 しと して 受 け と め られ て い る。 重 要 な こ と は、 この契 約 が 行 わ れ た の は洪 水 と い う破 滅 の後 で あ る こ とだ 。 神 が 大 洪 水 を 起 こ して 、 ほ とん ど の 生 き物 が 死 滅 す る と い う 「神 」 と 「生 き物 」 の 関 係 の 過 剰 な分 離 が 原 初 に設 定 さ れ る こ と に よ って 、 虹 の 近 接 性 は そ の分 離 を 調 停 し、 媒 介 す る適 切 な接 近 と して 、 位 置 づ け られ て い る の で あ る。 こ こで は、 タ ブ ー の両 義 性 は巧 み に 中 和 さ れ 、 調 停 さ れ て い るの だ。 これ と類 似 す る構 造 を持 つ 事 例 と して 日本 に お け る橋 杭 岩 の 伝 承 が あ る。 雑 賀 貞 次 郎 が 『牟 婁 口碑 集 』 に報 告 す る例 を要 約 す る と以 下 で あ る。 昔 、 大 嶋 に與 兵 衛 とい う漁 師 が い た。 與 兵 衛 は毎 年 秋 に な る と海 が 荒 れ て 、 本 土 との 行 き来 が 出 来 な くな る こ と憂 い、 神 に 祈 った。 神 は 「今 夜 、 鶏 の 鳴 くま で に橋 杭 を っ くれ ば 橋 を か け て や ろ う」 と告 げ る。 與 兵 衛 は喜 ん で 山 か ら石 を運 ん で 、 杭 を 作 り始 め た が 、 そ れ を知 った 海 の 神 様 が そ れ を止 め させ る た め 鶏 の 鳴真 似 を して與 兵 衛 を騙 す 。 與 兵 衛 は そ の 鶏 の 鳴 声 を 聞 い て、 望 み 叶 わ ぬ と悲 観 して 海 に身 を投 げ て 死 ぬ。 今 に残 る橋 杭 岩 は與 兵 衛 の 作 りか け た 橋 杭 で あ る。 神 は與 兵 衛 の 志 を 憐 れ ん で 、 折 々 巌 の 上 へ 虹 の 橋 を か け る の だ と い う(筆 者 要 約)。[雑 賀1976:59-60]。

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虹 と市 一 境 界 と 交 換 の シ ン ボ リズ ム51 與 兵 衛 が 作 ろ う と した橋 と は、 い わ ば 本 土 と島 と い う二 っ の カ テ ゴ リ ー を結 び近 接 さ せ る もの で あ る。 しか し、 そ れ は海 の神 に は許 さ れ な い もの で あ っ た。 そ の 許 さ れ ざ る近 接 を 行 お う と した與 兵 衛 は伝 承 の 中 で 死 を 与 え られ た。 そ の 後 、 神 は 與 兵 衛 を 憐 れ ん で 折 々 虹 の 橋 を 架 け る ω。 こ こ で は、 虹 は與 兵 衛 の 架 け よ う と した 橋(許 され ざ る近 接) に 置 き換 え られ て い る。 この伝 承 で も虹 は本 来 で あれ ば許 さ れ な い近 接 、 過 剰 な 近 接 と して位 置 づ け られ て い るの で あ る。 しか し、 過 剰 な近 接 と して の 虹 の 不 気 味 な両 義 性 は、 與 兵 衛 の 死 に対 す る神 の憐 れ み を示 す も の とい う位 置 づ けを 与 え られ る こ とで 、 弱 め られ て い る。 つ ま り、 與 兵 衛 の死 と い う悲 劇 を あ らか じめ 設 定 す る こ と に よ って 、 虹 の 出 現 は不 気 味 な もの で は な く、 神 が 神 の世 界 か ら人 間 の 世 界 に対 し、 憐 れ み の メ ッ セ ー ジを顕 現 さ せ る尊 い現 象 に な って い るの で あ る。 プラス 思 い 切 っ て 記 号 化 す る な ら ば、 虹 の 過 剰 な 近 接 性 は い わ ば(+、 プラ ス +)で あ り、 そ の ま ま で は 過 剰 で あ る。 そ れ に対 しあ らか じめ 架 橋 の マ イ ナス マイ ナ ス 失 敗 、 與 兵 衛 の 死 とい う(一 、 一)の 悲 劇 的 状 況 を作 って お く こ と で 、 虹 の 出 現 は そ の 過 剰 な マ イ ナ ス に対 応 して ±0の 状 態 を導 く適 切 な 位 置 づ け を 得 る の で あ る。 以 上 の二 っ の 事 例 で は、 神 とい う外 部 カ テ ゴ リー と人 間 との接 触 と交 感 と して 虹 が あ り、 神 の意 思 が 神 の 世 界 と人 間 の世 界 と い う カ テ ゴ リー を 越 え て顕 現 し、 二 っ の世 界 の 接 触 と交 感 が 虹 に よ って 示 さ れ て い る。 そ れ は虹 が 「カ テ ゴ リー の 過 剰 な 近 接 」 と い う性 質 を持 つ こ とか ら導 か れ て い る の だ。 そ して 、 聖 書 の 大 洪 水 、 與 兵 衛 の死 と い う悲 劇(過 剰 な 分 離)を あ らか じめ設 定 し、 そ れ を 媒 介 し調 停 す る も の と して 虹 を 位 置 づ け る こ と で、 虹 の 過 剰 な 近 接 性 が 持 っ 不 気 味 な両 義 性 も、 中和 さ れ調 停 さ れ て い るの で あ る。

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3-6.「 カ テ ゴ リー の過 剰 な 近 接 」 と して の 虹 一 ま と め 以 上 の 例 か ら考 え て み る と、 虹 は 「カ テ ゴ リー 同士 を過 剰 に近 接 させ る」 とい う側 面 を 強 く持 っ こ と は明 らか で あ る。 虹 は色 彩 カ テ ゴ リー の 近 接 で あ り、 性 的 カ テ ゴ リー の近 接 で あ り、 ま た 空 間 的 カ テ ゴ リー の 近 接 で あ り、 時 間 的 カ テ ゴ リーの 近 接 で あ る。 そ して そ の過 剰 な近 接 の ゆ え に 文 化 秩 序 に脅 威 を もた ら し、 虹 を指 さす の は禁 忌 と な る。 つ ま り虹 は 「ど っ ちっ か ず で 曖 昧 」 ど こ ろか 、 この 場 合 ど っち の カ テ ゴ リー を も積 極 的 に 結 び 付 けて しま う象 徴 な の で あ る。 そ して そ れ ゆ え に、 虹 は望 ま しい もの を 結 び っ け る プ ラ ス の 面 が 強 調 さ れ る こ と もあ れ ば 、 反 面 、 望 ま し くな い もの を結 び付 けて しま うマ イ ナ ス の面 と して も 作 用 す る。 そ れ は、 タ ブ ー の 両 義 性 の性 質 か らき て い る と指 摘 で き る だ ろ う。 虹 に 関 す る伝 承 は 多 層 的 な 縮 約(5)に よ っ て 、 虹 が 「カ テ ゴ リー 同士 を 過 剰 に 近 接 さ せ る」 と い う こ と を繰 り返 し示 して い る の で あ り、 虹 に 付 与 さ れ る、 多 色 、 過 剰 な性 、 橋 ・道 、 蛇 、 指 差 し禁 忌 な ど の観 念 は、 そ の ど れ が 本 源 的 な 象 徴 とい うわ けで は な く、 虹 が 「カ テ ゴ リー 同 士 を 過 剰 に近 接 させ る」 こ とを 示 す 範 列 的 な 類 似 関 係 を構 成 して い る。 そ し て 、 この 点 で 、 虹 も ま た 構 造 の上 で 天 気 雨 、 双 子 、 こだ ま、 人 魚 、 縞 模 様 な ど の カ テ ゴ リー の 過 剰 ・重 層 を 強 く表 す 現 象 との 範 列 的 関 係 に あ る の だ 。 こ の よ う に、 虹 の 様 々 な シ ンボ リズ ム は、 虹 が 「カ テ ゴ リー 同士 を 過 剰 に 近 接 さ せ る」 もの で あ る と考 え る事 に よ って 、 総 体 的 に一 貫 した論 理 の も と に解 釈 で き る の で あ り、 そ れ ぞ れ の表 現 の 違 い は、 「カ テ ゴ リ ー 同 士 を 過 剰 に近 接 さ せ る」 こ と の、 そ れ ぞ れ の 社 会 、 時 代 に お け るバ リエ ー シ ョ ンで あ る。 これ が 本 節 の結 論 で あ る。

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虹 と市 一 境 界 と交 換 の シ ンボ リズ ム53

4.交

換 と境 界

4-1.虹 と財 宝 前 節 ま で の考 察 を踏 ま え 、 虹 と財 宝 そ して 、 市 との 関 係 の 考 察 へ と進 み た い 。 まず 、 虹 と財 宝 の 関 係 か ら考 察 しよ う。 安 間 清 が 虹 の 四 っ の 特 徴 の最 後 に 「虹 の 下 に は財 宝 が あ る と信 じ られ た」 と指 摘 す る よ う に、 虹 に は富 を もた らす 側 面 が あ る。 ア イ ル ラ ン ド に は、 虹 が 大 地 と接 す る 「脚 」 の下 に黄 金 が 埋 ま って い る とい う昔 話 が あ り、 ギ リシ ャ神 話 の 虹 の 女 神 イ ー リス(ア イ リス)は 、 虹 の脚 の下 に 黄 金 の壺 を埋 め た とい う。 日本 で も東 北 地 方 を 中 心 に虹 の根 元 に は黄 金 や 宝 が あ る と い う俗 信 が 存 在 し[安 間1978]、 奄 美 に も多 く存 在 す る [登 山1996]。

岩手 県岩 手郡 江 刈村:昭 和 二十 八年 の夏 、岩 手 県岩 手郡 江刈 村 の地

で、岩 泉頼 八 とい う当 時七 十 六歳 の老 翁 に話 を きいた とき、岩 泉翁 な

ど も幼 い ころは虹 の立 っ処 に黄 金 が あ ると信 じ、 み ずか らそれ を掘 り

出 しに走 った覚 えが あ る と語 られ た。[安 間1978:62]。

の ず 『羽 前 小 国 昔 話 集 」 銭 の 降 る虹:昔 ア、 虹 が か が っ た 時 、 其 の 虹 の 橋 の 下 さ行 って 見 る ど、 銭 ア降 って る な らけ ド。 ほん で 、 み ん な 。 わ ら かます わ ら ど臥 な の腰 籠 な の 持 って、 虹 の 立 って る内 、 銭 拾 い行 ぐげ ド[佐 藤(編)1976:213]。 しか し、 この虹 と財 宝 の 関 係 は、 従 来 の 研 究 で は蛇 の シ ンボ リズ ム と の 複 合 か ら発 生 す る二 次 的 な もの と して捉 え られ る傾 向 が あ った 。

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例 え ば 、 安 間 清 は虹 と市 と の 関 係 にふ れ な が ら、 虹 の下 に財 宝 が あ る こ と の 理 由 に つ い て以 下 の よ う に述 べ て い る。 「得 難 い 神 宝 の 与 え られ る市 は尊 貴 な る水 辺 の 聖 地 に定 め られ た もの で あ ろ う。 そ して そ こ に は 畏 き神 竜 が 潜 み 隠 れ る と信 じ られ た の で あ る。 昇 天 す る神 竜 す な わ ち虹 の 脚 下 は か く して 正 に 財 宝 の あ る所 と考 え られ た の で は な か ろ うか 」 [安 間1978:119-120]。 ま た 、 大 林 太 良 は虹 の財 宝 の 表 象 と蛇 が 宝 物 の番 を す る と い う観 念 は、 分 布 が 重 な って お り、 そ れ は竜 や蛇 が 宝 物 を守 って い る と い う信 仰 と関 係 が あ る と い う。 そ して 、 「虹 の下 の 財 宝 」 の 観 念 は 「虹 が 水 を 吸 い上 げ る、 汲 み上 げ る」 観 念 か ら派 生 した もの で あ り、 日本 本 土 の よ うに虹 が 水 を飲 む表 象 が 少 な い所 で の 、 虹 の 財 宝 の 考 え 方 は 中 国 ・欧 州 か らの 借 用 で は な い か とす る[大 林1999]。 っ ま り、 本 質 的 に財 宝 の観 念 と結 び っ い て い る の は蛇 な の で あ って 、 蛇 の シ ンボ リズ ムが 虹 と結 びっ い た と き に、 虹(で あ る蛇)と 財 宝 が 結 びっ くと い う こ とに な る。 しか し、 は た して 虹 と財 宝 の 結 びっ き は、 蛇 を介 した二 次 的 な もの で あ った り、 派 生 的 な 関 係 に過 ぎ な い の で あ ろ う か 。 私 は、 虹 と財 宝 の 観 念 は、 虹 の 固 有 の シ ンボ リズ ム に よ って 結 びっ い て い る と考 え る。 そ して 、 そ の 虹 と財 宝 の 結 びっ き の うえ に、 蛇 の シ ン ボ リズ ム が(構 造 的 な類 似 の ゆ え に)重 ね 合 わ され て 強 調 さ れ て い る と い う関 係 と して 捉 え るべ きだ と考 え る。 っ ま り、 蛇 を媒 介 と しな く と も、 虹 と財 宝 の関 係 は説 明 で き る の で あ る。 財 宝 を得 る と は ど うい う こ とか考 え て み よ う。 民 俗 学 者 の佐 野 賢 治 が 柳 田 國 男 、 小 松 和 彦 らの研 究 を 踏 ま え て 、 民 俗 的 世 界 観 にお いて 宝 と は 「他 か ら」 の もの だ っ た と指 摘 す る よ う に、 宝 と は外 部 か ら もた ら され る とい う観 念 が 強 くみ られ る[佐 野2001]。 例 え ば 「笠 地 蔵 」 「竜 宮 童 子 」 「大 歳 の客 」 「ね ず み 浄 土 」 な ど 日本 の民 話 で は、 外 部 や 異 人 と の接

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虹 と市 一 境 界 と交 換 の シ ンボ リ ズ ム55 触 に よ って 富 が もた ら され る こ とが 、 繰 り返 し語 られ る。 ま た、 小 松 和 彦 に よ れ ば、 「福 」 と は神 な どか ら直 接 に 授 け られ た 富 や 仕 合 せ を 意 味 して お り、 「福 引 」 「福 袋 」 「福 相 」 な ど福 を 用 い た言 葉 の 背 後 に は、 神 的 な も の、 異 界 的 な も の、 神 秘 的 な もの が 隠 さ れ て い る と い う[小 松 1998:9]o 論 理 的 に整 理 す る と、 富 の 獲 得 と は、 外 部 との 接 触 に よ って 既 存 の カ テ ゴ リー(貧 しい状 態)か ら望 ま しい状 態(富 め る状 態)へ と社 会 的 地 位 が 移 行 す る こ とで あ り、 逆 に いえ ば、 人 の社 会 的地 位 を 激 変 させ る よ うな 富 の 獲 得 は 、 人 間 の 力 を 超 え た外 部 か らの力 の介 入 と して 観 念 さ れ た の で あ る。 この よ うに 、 元 々財 宝 に代 表 さ れ る富 の 獲i得は、 外 部 性 と 結 び っ い て い るの だ 。 で は、 これ を 踏 まえ て 虹 と財 宝 と の関 係 を考 え て み る と、 虹 は 「カ テ ゴ リー を 過 剰 に 隣 接 」 させ る論 理 を持 ち 、 そ れ が 拡 大 され れ ば、 天 と地 、 この 世 と あ の 世 、 人 の 世 界 と神 の 世 界 と い う、 世 界 観 に お け る 内部 と外 部 の カ テ ゴ リー 問 の 過 剰 な接 近 と交 通 を象 徴 す る事 象 と な る。 だ か ら こ そ、 虹 の 出 現 す る と こ ろ は人 間 の 力 を超 え た 外 部 か らの力 が接 触 し顕 現 す る場 で あ り、 外 部 か らの 富 と して の財 宝 が 現 わ れ る の だ 。 虹 と財 宝 が 結 び っ く論 理 的 蓋 然 性 は、 この よ う に虹 の タ ブ ー と して の外 部 性 と財 宝 の外 部 性 の観 念 か ら全 体 的 に解 釈 で き る の で あ る。 そ して 、 財 宝 とい って も農 作 物 で は な く、 特 に黄 金 や銭 と い う、 貨 幣 や 市 場 交 換 の媒 介 物 と虹 が 結 び っ い て い る こ と は重 要 で あ る。(こ の こ と は、 貨 幣 や 市 場 交 換 の 外 部 性 と して 改 め て 説 明 す る)こ の 、 虹 と貨 幣 ・市 場 交 換 の結 び っ き を最 も劇 的 に表 し、 虹 の シ ンボ リズ ム の 中 で 最 も特 異 で 興 味 深 い現 象 が 「虹 が 立 っ た と こ ろ に市 を た て る」 とい う虹 と 市 と の 関 係 で あ る。 い よ い よ この 問 題 の考 察 へ と移 ろ う。

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4-2.虹 と市 、 売 買 の 結 び つ き を 語 る 諸 事 例 よ うや く、 本 稿 の 中 心 的 テ ー マ で あ る、 虹 と市 との 関 係 の考 察 へ と入 る。 こ こで は 「虹 が 立 った と ころ に市 を たて る」 とい う諸 事 例 を提 示 す る。 『日本 紀 略 』 長 元 三 年(1030)七 月 六 日丁 巳:関 白併 春 宮 大 夫 家 虹 立 。 依 二世 俗 之 説 一、有 二売 買 事 一[黒 板(編)2000:277] 「百 錬 抄 』 寛 治 三 年(1089)五 月 三 十 日:上 皇 六 條 中 院 前 池 虹 立 。 可 レ 立 レ市 之 由錐 レ有 レ議 。 公 所 依 レ無 二先 例 一被 レ止 レ之 。 上 皇 渡 二御 他 所 一[黒 板(編)2000:40]

『中右 記 」寛 治 六 年(1092)六

月 七 日己未:雨 下 、 或得 晴、 申時禁 中

(堀川 院)、 殿 上小 庭 併南 池東 頭 有虹 見事 、則 召外 記被 間 先例 、大 外記

定俊 勘 申前例 、承 平 、康 保 、正暦 、長 元 年 中、度 々禁 中虹立 、随 御 ト

趣或 奉 幣、或 読経 者 、但 不被 行軒 廊 御 ト也、 イ

乃同十 日召 陰陽 頭賀 茂成

平有 御 卜、 占云 、御薬 事 頗非 軽者 、 候蔵 人所 陰 陽師道 言朝 臣、近 日有

假不 出仕 也、 イ

乃次 人 召 陰陽 頭成平 、於 便 所有 御 占也、 抑世 間 之習 、虹

見之 処 立 市 云 々、 若 是 本文 欠 欺 如 何、 件 由内 々被 尋 諸 道紀 伝 、(文 章

博士 敦 基 朝 臣、 正 家、 行 家 朝 臣依 為上A也)、

同成 季 朝 臣、 此外 明経

陰 陽道(道 言 朝 臣)、 己上 六 通、 今 日虹 又賀 陽 院 立 也、 而 長 元年 中宇

治御 時、 此処 有 虹見事 、 被立 市 也、 イ

乃後 被立 市也 、御 占同大 内、

中殿 下御 物忌 合 也[増 補 「

史 料大 成 」刊 行会1982:85-86]

『中右 記 」寛 治 六 年(1092)六

月八 日:諸 道 勘 文皆 虹 見 之 処 無 立 市之

文、 是只 俗語 歎[増 補 「

史料 大 成」 刊行 会1982:86]

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