PDP
RIETI Policy Discussion Paper Series 07-P-001
マネジメント・バイアウト (MBO) における
経営者・取締役の行為規整
北川 徹
経済産業研究所
独立行政法人経済産業研究所RIETI Policy Discussion Paper Series 07-P-001 マネジメント・バイアウト(MBO)における経営者・取締役の行為規整※ 経済産業研究所 リサーチ・アシスタント 北川 徹 要 旨 マネジメント・バイアウト(MBO)は、経営者による企業買収という深刻な利益相反の 側面を有しているが、同時に、経営者に対して、経済効率的な組織再編を促すインセンテ ィブを与える。従来、経営者と株主間の利益相反問題は、少数株主の保護の観点から検討 されてきたが、本稿は、経営者の有するインセンティブの観点から、取引保護条項を効果 的に付与することによって、経営者・取締役の行為規整のあり方を検討するものである。 かかる検討の前提として、売主と買主の価格交渉の場が存在するかどうかという客観的 な視点と、経営者がMBO を行う動機・目的が何かという主観的な視点から、MBO を 4 つ の類型に分けて考察し、米国における行為基準を参考に、とりわけ利益相反性の程度に応 じた行為規整のあり方を提示する。 ※本稿は、2006 年 12 月提出の学位論文に、最小限の加筆・修正を施したものである。とり わけ、2006 年 12 月以降、法改正の影響や、実務的にも興味深い事例が登場しており、マ ネジメント・バイアウトをめぐる議論が盛んである。かかる近年の状況等についての検討・ 考察については、近日公刊予定の拙書に譲りたい。
マネジメント・バイアウト(MBO)における経営者・取締役の行為規整 目 次 第1章 序論 1. 研究の趣旨 2. 研究の分析枠組み 3. 本稿の展開 第2章 マネジメント・バイアウトの仕組みと特徴別による分類 1. マネジメント・バイアウトの概説とその仕組み 2. 類型別のマネジメント・バイアウト (1) 議論の前提 (2) 分類 3. マネジメント・バイアウトの仕組みから抽出できる問題点 ―問題提起― (1) マネジメント・バイアウトに対する「Revlon(レブロン)基準」適用の可否 (2) マネジメント・バイアウトにおける企業価値と既存株主の取り分 (3) 他の組織再編行為との比較における法的手続の整合性をめぐる問題点 (4) 各々の類型別マネジメント・バイアウトに特有の視点から (A)非公開化目的型MBOの有する問題点 (B)分割(暖簾分け)型MBOの有する問題点 (C)企業再生型MBOの有する問題点 (D)企業買収防衛策型MBOの有する問題点 4. 小括 第3章 マネジメント・バイアウトと買収プレミアム 1. マネジメント・バイアウトに関する経済的分析と実証研究からの示唆 (1) エージェンシー・コストの削減効果とフリーキャッシュフロー (2) 税制上の控除による効果
(3) 既存の利害関係者からの富の移転による効果 (A)既存債権者からの富の移転の可能性 (B)従業員からの富の移転の可能性 (4)上場維持コストの削減 (5)敵対的買収からの防衛目的、情報非対称、その他の効果 2. 小括 第4章 マネジメント・バイアウトに内在する本質的な利益相反の問題 1. 株主に対する経営者・取締役の忠実義務 (1) 信認関係と忠実義務 (2) 残余請求権者である株主と株主利益最大化 2. エージェンシー問題とマネジメント・バイアウト 3. 経営者―既存株主間の利益相反 ― 誰が誰の利害を代表して交渉の代理人となるのか (1) 上場会社による非公開化目的型MBOと利益相反問題 (2) 分割(暖簾分け)型MBOと利益相反問題 (3) 補論 4. 経営者―債権者間の利益相反 (1) レバレッジド・バイアウト(LBO)の議論の背景 (2) 米国の詐欺的譲渡(Fraudulent Conveyance)とその要件 (3) 考察 第5章 米国にみるマネジメント・バイアウト規整の変遷と評価 1. マネジメント・バイアウトの原則的禁止の主張と反論 2. マネジメント・バイアウトの手続規整 (1) フェアネス・オピニオン(Fairness Opinions)
(3) 少数株主の救済
(A)株式買取請求権(the right of appraisal) (B)株式買取請求権以外の少数株主に対する救済 (C)対抗買付 (D)情報開示規制 第6章 日本法への示唆 1. わが国のマネジメント・バイアウトにおける経営者・取締役の行為基準 2. マネジメント・バイアウトの進行過程に応じた株主の救済枠組の検討 第7章 結語
マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト ( M B O ) に お け る 経 営 者 ・ 取 締 役 の 行 為 規 整 第 1 章 序 論 1 . 研 究 の 趣 旨 本 稿 は 、企 業 買 収 方 法 の ひ と つ で あ る マ ネ ジ メ ン ト・バ イ ア ウ ト( M B O )1― 経 営 者 等 に よ る 自 社 企 業 買 収 ― の ス キ ー ム に 内 在 す る 諸 問 題 に 関 心 を 集 約 し 、 当 該 取 引 に 関 与 す る 様 々 な 利 害 関 係 者 、 な か で も 必 然 的 に 利 益 相 反 的 立 場 に 立 ち 、 取 引 の 中 心 的 役 割 を 担 う 当 該 M B O に 参 画 す る 経 営 者 ・ 取 締 役 の 行 為 規 整 を 主 と し て 検 討 す る も の で あ る 。 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト は 、 出 資 者 で あ る 株 主 ( 委 任 者 ) か ら 企 業 経 営 に つ い て 委 任 を 受 け た 経 営 者 ( 受 認 者 ) が 、 自 ら そ の 発 行 済 株 式 を 取 得 し 、 当 該 会 社 の 支 配 権 を 取 得 す る 企 業 買 収 の 一 形 態 で あ る 。 そ し て 、 多 く の 場 合 、 企 業 の 買 収 過 程 に お い て 、 少 数 株 主 の 排 除 を と も な う 非 公 開 化 取 引 ( ゴ ー イ ン グ ・ プ ラ イ ベ ー ト /going private)である。 と こ ろ で 、 会 社 な い し 株 主 に 対 し て 忠 実 義 務 (duty of loyalty)2を 負 っ て い る 経 営 者 ・ 1 マネジメント・バイアウト(MBO) に 限 定 し て言 及 し た 邦 語 文 献 は 、 さ ほ ど 多 く な い 。 本 稿 の 中 心 的 関 心 を 同 じ く す る 問 題 点 に 言 及 す る 先 行 研 究 と し て 、 内 間 裕 = 佐 粧 朋 子 「 日 本 に お け る MBO の普及・活性化に向けて〔上〕商事法務 1537 号 20 頁(1999 年)、同〔中〕 商 事 法 務 1538 号 11 頁(1999 年)、同〔下〕商事法務 1540 号 31 頁(1999 年)、矢崎淳司 「 ア メ リ カ 法 に お け るMBO(Management Buyout)に関する一考察」大阪市立大法学雑 誌 45 号 2 巻 57 頁(1999 年)、三島徹也「マネジメント・バイアウトとイギリス会社法」 近 畿 大 学 法 学 51 巻 3・4 号 23 頁参照。また、マネジメント・バイアウトの解説書として、 丹 羽 哲 夫 「 図 解 で わ か る MBO」(日本能率協会マネジメントセンター、2000 年)、片庭浩 之「 図 解 MBO(マネジメント・バイアウト)のしくみがわかる本」( 中 径 出 版 、2000 年)、 上 野 正 裕 「 第 13 章第 3 節 MBO」西村総合法律事務所編『M&A 法大全』831 頁(2001 年 ) 等 参 照 。 ま た 、 本 稿 の 中 心 的 関 心 で あ る MBO に内在する関係当事者間の利益相反に つ い て 、そ の 利 益 相 反 の 少 な い 組 織 構 築 の 重 要 性 を 、実 務 家 の 視 点 か ら 論 じ た も の と し て 、 松 木 伸 男 = 大 橋 和 彦 = 本 多 俊 毅 『 バ イ ア ウ ト フ ァ ン ド ― フ ァ ン ド に よ る 企 業 価 値 向 上 の 手 法 』( 中 央 経 済 社 、2004 年)参照。 2 日本では、会社法 330 条、民法 644 条の「善管注意義務」と、会社法 335 条の「忠実義 務 」 の 区 別 に つ い て は 、 判 例 で 後 者 は 「 善 管 義 務 を 敷 衍 し 、 か つ 一 層 明 確 に し た に と ど ま る の で あ っ て 、・・通 常 の 委 任 関 係 に 伴 う 善 管 義 務 と は 別 個 の 、高 度 な 義 務 を 規 定 し た も の と は 解 す る こ と が で き な い( 最 判 昭 和 45 年 6 月 24 日民集 24 巻 6 号 625 頁)」として、「 わ が 国 で は 両 者 の 要 件 ・ 効 果 を 截 然 と 区 別 す る 発 想 は 乏 し く 、 会 社 と の 利 害 対 立 状 況 に お い て 私 利 を 図 ら な い 義 務 も 善 管 注 意 義 務 の 一 部 に 過 ぎ な い と 解 さ れ て お り 」( 江 頭 憲 治 郎『 株 式 会 社 法 』390 頁)とされている。しかしながら本稿では、マネジメント・バイアウトが も っ ぱ ら 取 締 役 ・ 経 営 者 等 が 利 益 相 反 状 況 に 置 か れ た 中 で の 取 引 で あ る こ と に 鑑 み 、 両 者 の 義 務 を ア メ リ カ の 州 法 の よ う に 、 利 益 相 反 の 有 無 に よ っ て 区 別 し て 検 討 す る こ と を 前 提 と し て 議 論 を 展 開 す る 。
取 締 役 は 、 第 一 に 、 自 社 株 式 の 自 身 に 対 す る 売 却 行 為 自 体 の 可 否 の 判 断 に つ い て 、 忠 実 義 務 の 観 点 か ら 問 題 が 生 じ 得 る 。 こ の よ う な マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト 自 体 に つ い て 、 忠 実 義 務 の 観 点 か ら そ の 妥 当 性 を 吟 味 す る 研 究 は 、 従 来 あ ま り さ れ て こ な か っ た よ う に 思 わ れ る 。 第 二 に 、 経 営 者 ・ 取 締 役 は 、 株 式 の 売 り 手 と し て 、 当 該 株 式 を で き る だ け 高 い 価 格 で 売 却 す る と い う 株 主 に 対 す る 義 務 を 有 す る 一 方 で 、 自 ら は 株 式 の 買 手 と し て 、 で き る だ け 安 い 価 格 で の 取 得 を 欲 す る 私 的 利 益 が 存 在 す る と い え 、 株 主 と 経 営 者 ・ 取 締 役 ら の 利 害 は 衝 突 す る 。 そ の 意 味 に お い て 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト は 究 極 的 な 利 益 相 反 取 引 で あ る と い え る 。 か か る 経 営 者 等 の 利 益 相 反 行 為 に よ っ て 株 主 が 損 害 を 被 る 危 険 性 か ら 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト は 禁 止 さ れ る べ き 取 引 で あ る と の 主 張 が 1970 年代以降の米国で論じられてい た3。 特 に そ れ は 、 ゴ ー イ ン グ ・ プ ラ イ ベ ー ト 取 引4の 一 環 と し て の 文 脈 か ら 議 論 さ れ て い た も の で あ る 。 し か し な が ら 他 方 で 、1980 年代以降の米国は、空前の企業買収ブームに突入し、被買収 会 社 ( あ る い は 対 象 会 社 ) の 株 主 は 、 所 有 す る 株 式 の 市 場 価 格 を 超 え る 買 収 プ レ ミ ア ム を 手 に い れ 、 当 該 株 式 を 企 業 買 収 者 に 譲 渡 す る こ と で 、 経 済 的 利 益 を 手 中 に す る 時 代 で あ っ た 。 当 時 よ り 、 企 業 買 収 や 支 配 権 市 場 の 創 造 は 、 企 業 経 営 の 効 率 性 の 観 点 か ら 奨 励 さ れ る べ き 取 引 で あ る と の 主 張 も 極 め て 有 力 で あ っ た5と と も に 、マ ネ ジ メ ン ト・バ イ ア ウ ト に つ い て も 、 企 業 買 収 の 一 形 態 と し て 、 経 済 効 率 性 を 有 す る 取 引 で あ る こ と に 何 ら 変 わ る こ と は な い と し て 肯 定 す る 議 論 も 一 般 的 で あ っ た6。 こ の よ う に 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト は 、 一 方 で 、 買 収 対 象 会 社 の 既 存 株 主 へ の 一 定 の 配 慮 が 要 請 さ れ 、 他 方 で 、 少 な く と も 株 式 を 売 却 し た 対 象 会 社 株 主 に 対 し て は 、 買 収 プ レ ミ ア ム を 加 算 し た 利 得 を 生 じ さ せ る 。さ ら に マ ネ ジ メ ン ト ・バ イ ア ウ ト は 、被 買 収 会 社 自 体 の 効 率 性 を 改 善 し 、 企 業 価 値 を 向 上 さ せ る 可 能 性 を 有 す る 。
3 Victor Brudney, A Note on “Going Private”, 61 VA.L.REV.1019(1975) ; Victor Brudney
& Marvin A. Chirelstein, A Restatement of Corporate Freezeouts, 87 YALE L.J. 1354,
1366-68(1978).
4 ゴーイング・プライベート取引(going private transaction)は、「会社の株式が、証券
市 場 か ら 上 場 廃 止 さ れ 、 も は や 取 引 さ れ な く な っ た 後 に 、 公 開 株 式 の 全 て の 株 式 が 獲 得 さ れ る 買 収 」 と 定 義 さ れ る (STEPHEN M. BAINBRIDGE, MERGERS AND
ACQUISITIONS,16(2003).)。
5 Frank H. Easterbrook & Daniel R. Fischel, Corporate Control Transactions, 91 YALE
L.J. 698,705-08 (1982).
6 See e.g., Yakov Amihud, Leveraged Management Buyouts and Shareholders’ Wealth,
そ こ で 、 こ の よ う な マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト か ら 生 じ る 利 得 の 源 泉 は 何 で あ ろ う か 。 そ し て そ れ ら の 利 得 は 、 実 質 的 な 価 値 ― パ レ ー ト 効 率 性 の 意 味 で ― の 創 出 と い え る の で あ ろ う か 。 本 稿 で は 、 主 と し て 経 営 者 ・ 取 締 役 の 行 為 規 整 に 着 目 し 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト が も た ら す 価 値 の 源 泉 を 探 求 す る と と も に 、1980 年代以降のアメリカにおける議 論 や 裁 判 例 を 概 観 す る こ と に よ っ て 、 い か に し て 経 営 者 ・ 取 締 役 が 直 面 す る 利 益 相 反 の 問 題 が 解 決 な い し 回 避 さ れ て き た の か を 、 明 ら か に し た い 。 ま た 、 近 年 日 本 に お い て も 増 加 し て き た マ ネ ジ メ ン ト・バ イ ア ウ ト7に 対 し て 、様 々 な 視 点 か ら 示 唆 を 与 え る こ と を 企 図 す る も の で あ る 。 ま た 、各 々 の 利 害 関 係 者 の イ ン セ ン テ ィ ブ に 着 目 し 、コ ー ポ レ ー ト ・ガ バ ナ ン ス の 観 点 か ら 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト を 概 観 す る と 、 非 常 に 興 味 深 い 。 な ぜ な ら 、 企 業 規 模 の 拡 大 に よ り 、 企 業 内 部 の 交 渉 が 複 雑 に な っ て し ま い 、 そ れ が あ る 水 準 を 越 え る と 、 イ ン セ ン テ ィ ブ 構 造 を 改 変 し て 、交 渉 の 単 純 化 を 指 向 す る と の 指 摘 が あ る か ら で あ る8。そ の 意 味 で は 、公 開 会 社 で あ り 続 け る こ と は 、将 来 に わ た り 経 営 者 ら が 常 に 他 の 利 害 関 係 者 と の 間 に 、 利 益 相 反 関 係 を 有 し 、 そ れ ゆ え に 法 的 責 任 を 回 避 す る コ ス ト が 存 在 し 続 け る 。 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト は 、 そ う し た 将 来 予 測 さ れ る コ ス ト を 一 度 に 解 消 さ せ て し ま う 取 引 と い え る か も し れ な い 。換 言 す れ ば 、マ ネ ジ メ ン ト・バ イ ア ウ ト か ら 生 じ る 利 得 の 一 部 に は 、「 利 益 相 反 解 消 コ ス ト 」 ― そ れ は 測 定 困 難 で あ る が ― が 含 ま れ て い る と も い え よ う 。 2 . 研 究 の 分 析 枠 組 み マ ネ ジ メ ン ト・バ イ ア ウ ト は 、会 社 の 支 配 権 の 取 得 と い う 極 め て 重 要 な 局 面 で 、経 営 者 ・ 取 締 役 の 利 益 相 反 が 顕 在 化 す る 取 引 で あ る 。 そ し て 、 当 該 取 引 に 関 与 す る 株 主 や 債 権 者 等 の 利 害 関 係 者 に 大 き な 影 響 を 与 え る 。 本 稿 で は 、 検 討 に あ た っ て ま ず 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト に 内 在 す る と 考 え ら れ る 問 題 点 を 以 下 4 つ の 基 本 的 な 枠 組 み に 置 き 換 え て 、 そ れ ぞ れ の 視 点 か ら 検 証 す る 。 7 近時における日本の MBO の状況については、後掲・注 25-28 参照。 8 宍戸善一『動機付けの仕組としての企業―インセンティブ・システムの法制度論』338 頁 、383-384 頁(有斐閣、2006 年)。宍戸教授は、企業を物的資本の拠出者(株主・債 権 者 ) と 人 的 資 本 の 拠 出 者 ( 経 営 者 ・ 従 業 員 ) と の 間 の 動 機 付 け 交 渉 と し て 議 論 を 展 開 す る 。そ し て 、M B O は 、「 イ ン セ ン テ ィ ブ 構 造 の 改 変 を 図 る 組 織 再 編 で あ る 」と す る 。さ ら に 、 そ の 特 色 を 「 人 的 資 本 の 拠 出 者 の 再 編 も 、 資 産 の 移 動 も な く 、 物 的 資 本 の 拠 出 者 の 改 組 の み が お こ な わ れ る と こ ろ 」 に あ る と し た う え で 、 動 機 付 け 交 渉 が 、 ベ ン チ ャ ー 企 業 的 な 二 当 事 者 間 交 渉 へ 回 帰 す る こ と を 指 摘 さ れ る 。
第 一 に 、 当 該 取 引 を 遂 行 す る 経 営 者 が 必 然 的 に 双 方 代 理 的 な 立 場 に 置 か れ る こ と に よ る 、 利 益 相 反 取 引 の 観 点 か ら の 検 討 で あ り 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト が 有 す る 法 制 度 上 の 構 造 的 な 問 題 と も い え る 。 第 二 に 、 経 営 者 ら が 取 得 す る 株 式 の 価 格 が 公 正 で あ る か 否 か と い う 、 よ り 実 質 的 な 問 題 が あ る 。 と く に 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト 時 の 買 収 プ レ ミ ア ム を 、 キ ャ ッ シ ュ ア ウ ト さ れ る 株 主 に 分 配 す べ き か 否 か が 問 題 と な る 。 第 三 に 、 経 営 者 等 が お そ ら く は 保 有 す る 会 社 の 内 部 情 報 に つ い て 、 そ の 情 報 の 開 示 と イ ン サ イ ダ ー 取 引 に 関 す る 問 題 で あ る 。 も っ と も こ れ は 、 上 記 第 二 の 株 式 の 売 却 価 格 の 公 正 さ の 問 題 と 密 接 に 関 連 す る 。 以 上 の 三 つ は 、基 本 的 に は 、当 該 取 引 に 関 与 す る 利 害 関 係 者 の 中 で も 、あ く ま で 経 営 者 ・ 取 締 役 等 と 、 株 主 と の 間 に 生 じ る 問 題 に 焦 点 を 当 て た 枠 組 み か ら 整 理 し た も の で あ る が 、 第 四 の 枠 組 み と し て 、 経 営 者 ・ 取 締 役 等 と 会 社 債 権 者 間 に 生 じ る 問 題 が 存 在 す る 。 こ れ は 従 来 、詐 欺 的 譲 渡(fraudulent conveyance)の可能性の有無が指摘されてきたところであ る 。 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト は 、 多 額 の 株 式 取 得 資 金 を 外 部 の 投 資 銀 行 等 か ら の 借 入 に よ っ て 調 達 し 、 株 主 資 本 に 対 す る 負 債 比 率 を 高 め 、 レ バ レ ッ ジ を 利 か せ る こ と で 、 資 本 効 率 を 向 上 さ せ る レ バ レ ッ ジ ド・バ イ ア ウ ト( L B O )9で あ る こ と が ほ と ん ど で あ る10。そ 9 レバレッジド・バイアウト(leveraged buyout, LBO)の定義 として、「買収の資金 調 達 に 、 買 い 手 が 負 債 、 典 型 的 に は ジ ャ ン ク ボ ン ド を 利 用 す る 買 収 。 し ば し ば 、 そ れ に 起 因 す る 負 債 の 支 払 の た め に 、 バ ス ト ア ッ プ 取 引 ( 買 収 に 成 功 し た 者 は 、 買 収 に 要 し た 負 債 の 支 払 の た め に 対 象 企 業 の 子 会 社 や 、 他 の 資 産 を 売 却 す る ) が 付 随 す る 。」STEPHEN M.
BAINBRIDGE, MERGERS AND ACQUISITIONS,14,16(2003).
日 本 に お い て は 、ニ ッ ポ ン 放 送 新 株 予 約 権 発 行 差 止 保 全 抗 告 事 件( 東 京 高 決 平 成 17 年 3 月 23 日判例時報 1899 号 56 頁)において、裁判所は、経営支配権の維持・確保を主要な 目 的 と す る 新 株 予 約 権 の 発 行 が 不 公 正 発 行 に 該 当 し な い 例 外 的 な 場 合 と し て 、4 類型を提 示 し た 。 そ し て 、 そ の う ち の 第3 類型として、「会社経営を支配した後に、当該会社の資 産 を 当 該 買 収 者 や そ の グ ル ー プ 会 社 等 の 債 務 の 担 保 や 弁 済 原 資 と し て 流 用 す る 予 定 で 株 式 の 買 収 を 行 っ て い る 場 合 」、ま た 、第 4 類型として、「会社経営を一時的に支配して当該会 社 の 事 業 に 当 面 関 係 し て い な い 不 動 産 、 有 価 証 券 な ど 高 額 資 産 等 を 売 却 等 処 分 さ せ 、 そ の 処 分 利 益 を も っ て 一 時 的 な 高 配 当 を さ せ る か あ る い は 一 時 的 高 配 当 に よ る 株 価 の 急 上 昇 の 機 会 を 狙 っ て 株 式 の 高 価 売 り 抜 け を す る 目 的 で 株 式 買 収 を 行 っ て い る 場 合 な ど 」 と し 、 前 者 が L B O に 、 後 者 が バ ス ト ア ッ プ 取 引 に 該 当 す る 可 能 性 が 注 目 さ れ た 。 し か し な が ら 、 本 保 全 抗 告 決 定 で 示 さ れ た 類 型 は 、 判 示 の 文 脈 か ら 特 殊 事 例 を 念 頭 に お い た も の と し て 、 限 定 的 に 理 解 す べ き で あ る と の 指 摘 ( 藤 田 友 敬 「 ニ ッ ポ ン 放 送 新 株 予 約 権 発 行 差 止 事 件 の 検 討〔 下 〕」商 事 法 務 1746 号 5 頁(2005 年))が妥当と思われる。もっとも、藤田教授も、 LBO に対する企業防衛に対して、当該類型部分の表現を引き合いに、経済合理性を有する 企 業 買 収 を も 含 ま れ る か の ご と く 読 ま れ る 可 能 性 に つ い て 、 懸 念 を 示 さ れ て い る 。
10 RONALD J.GILSON &BERNARD S.BLACK, THE LAW AND FINANCE OF CORPORATE
ACQUISITIONS, CH.11,,399 (2d ed.1995). 「対象会社の経営者が参加するレバレッジド・
こ で 、既 存 の( 一 般 )会 社 債 権 者 と し て み れ ば 、一 時 的 に 多 額 の 負 債 を 背 負 う こ と に な り 、 こ う し た 負 債 の 返 済 原 資 と し て 、 買 収 対 象 会 社 の 所 有 す る 資 産 等 が 生 み 出 す キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 、 あ る い は 資 産 そ の も の が 事 実 上 の、 、 、 、担 保 と な っ て い る こ と に 鑑 み れ ば 、 当 該 会 社 が 多 額 の 負 債 を 負 う こ と 自 体 の 法 的 意 味 が 問 わ れ る 。 ま た 、 経 営 者 ら は 、 当 該 借 入 資 金 を 調 達 す る 投 資 銀 行 等 の 新 た な 債 権 者 と の 間 に お い て も 、 当 該 取 引 の 組 成 に あ た り 、 金 利 の 設 定 や 返 済 計 画 等 に つ き 、 利 益 相 反 の 要 素 を 有 す る 立 場 に 置 か れ る こ と に な る 。 以 上 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト に 内 在 す る 利 益 相 反 的 な 問 題 点 を 見 て み る と 、 結 局 、 従 来 会 社 法 が 規 整 し て き た 諸 般 の エ ー ジ ェ ン シ ー 関 係11が 、 あ る 一 時 点 、 す な わ ち プ リ ン シ パ ル で あ る 株 主 の 資 金 を 委 託 さ れ て い る エ ー ジ ェ ン ト で あ る 経 営 者 自 ら 、 当 該 株 式 を 購 入 し て 自 社 の 買 収 を 意 思 決 定 し た 時 点 、 に お い て 顕 在 化 す る こ と に マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト の 大 き な 特 徴 が あ る と い え る 。 そ し て 、 株 式 会 社 の 場 合 、 エ ー ジ ェ ン ト に よ る 利 益 相 反 行 為 を 原 則 禁 止 す る こ と は 適 当 で は な く 、 利 益 相 反 行 為 自 体 は 認 め つ つ 、 そ の 公 正 を 確 保 し な け れ ば な ら な い と こ ろ に 問 題 の 複 雑 さ が あ る と の 指 摘 が あ る12。 顕 在 化 し た 、 よ り 複 雑 な エ ー ジ ェ ン シ ー 関 係 を 紐 解 く う え で 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト は 格 好 の 教 材 と な る と い え よ う 。 さ ら に 本 稿 で は 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト を そ の 有 す る 特 徴 別 に 4 つ の 類 型 に 分 類 す る 。 こ の 4 類 型 は 、 ① 非 公 開 化 目 的 型 M B O 、 ② 分 割 ( 暖 簾 分 け ) 型 M B O 、 ③ 企 業 再 生 型 M B O 、 ④ 企 業 買 収 防 衛 策 型 M B O で あ る 。 も っ と も 、 こ れ ら 4 類 型 は 、 あ く ま で 本 稿 に お け る 分 析 の た め の 便 宜 上 の も の で あ り 、 実 際 の 取 引 に は 、 複 数 の 特 徴 が 同 時 に 内 在 す る 可 能 性 が あ る こ と に 注 意 を 要 す る 。 こ の よ う に 、 エ ー ジ ェ ン シ ー 関 係 が も た ら す 利 益 相 反 の 観 点 で あ る 先 の 四 つ の 枠 組 み か ら の 問 題 点 の 検 討 が な さ れ た 後 、改 め て 4 類 型 ご と に 再 検 証 し た い 。か か る 検 証 を 通 じ て 、 各 々 の 類 型 別 の マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト に よ っ て 、 経 営 者 や 取 締 役 等 が 考 慮 す べ き 行 為 規 範 に 変 化 が み ら れ る の か 、 そ し て か か る 変 化 が あ る と す れ ば 、 ど の 程 度 の 範 囲 の も の で あ る か が 明 ら か と な ろ う 。 以 上 、 筆 者 は 本 稿 で 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト を 分 析 す る に あ た っ て 、 4 つ の 枠 組 み な わ ち 、 ほ と ん ど の L B O は 、 M B O で あ る 。」 11 エージェンシー理論に言及しつつ、会社法を広く経済的に考察 、 分 析 し た も の と し て 、 柳 川 範 之 = 藤 田 友 敬 「 会 社 法 の 経 済 分 析 : 基 本 的 な 視 点 と 道 具 立 て 」 三 輪 芳 郎 ほ か 編 『 会 社 法 の 経 済 学 』1 頁以下(東京大学出版会、1998 年)参照。 12 宍戸善一「会社における利益相反関係」法学教室 139 号 102 頁(1992 年)。
と 4 つ の 類 型 か ら 整 理 、 検 討 し 、 最 終 的 に は 、 包 括 的 な 構 図 を 描 く こ と を 試 み よ う と す る も の で あ る 。 そ し て 、 利 益 相 反 の 典 型 的 事 例 と し て の マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト を 題 材 に 用 い る こ と で 、 米 国 の よ う に 、 経 営 者 ・ 取 締 役 等 の 有 す る 利 益 相 反 の 程 度 に 応 じ て 異 な っ た 行 為 規 整 が 、 わ が 国 に お い て も 必 要 と さ れ る こ と を 、 主 張 す る も の で あ る 。 3 . 本 稿 の 展 開 本 稿 は 、 以 下 の よ う に 展 開 さ れ る 。 ま ず 、 第 2 章 に お い て 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト が ど の よ う な 取 引 行 為 で あ り 、 い か な る 利 害 関 係 者 が 登 場 す る の か 、 そ し て 、 当 該 行 為 が 実 践 さ れ る こ と に よ っ て 各 々 の 利 害 関 係 者 に ど の よ う な 影 響 を も た ら す も の で あ る か 、 そ の 仕 組 み の 全 体 像 を 提 示 す る 。 次 に 、マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト の 有 す る 特 徴 別 に 4 つの類型に分けて概説する。特に こ こ で は 、 従 来 わ が 国 で は さ ほ ど 意 識 さ れ て こ な か っ た と 考 え ら れ る 、 上 場 会 社 に よ る 非 公 開 化 を 指 向 す る M B O( ― 筆 者 は 、こ れ を「 非 公 開 化 目 的 型 の M B O 」と 定 義 す る )と 、 か ね て か ら 日 本 で も 企 業 の リ ス ト ラ ク チ ャ リ ン グ の 一 環 と し て 実 践 さ れ て き た 、 非 中 核 部 門 の 分 離 ・ 独 立 に よ る M B O ( ― 筆 者 は 、 こ れ を 「 分 割 ( 暖 簾 分 け ) 型 M B O 」 と 定 義 す る ) を 明 確 に 分 け て 考 察 す る こ と は 極 め て 意 義 が あ る こ と を 提 示 し た い 。 特 に 、 本 稿 の 中 心 的 関 心 事 で あ る 経 営 者 等 の 利 益 相 反 的 観 点 か ら の 行 為 規 整 を 検 討 す る に あ た っ て も 重 要 で あ る 。 続 い て 第 3 章 は 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト が 経 済 的 な 効 率 性 を 向 上 さ せ る と い う 意 味 に お い て 、 実 質 的 な 企 業 価 値 を 創 出 す る も の か 否 か と い う 問 題 意 識 に 対 し て 、 主 に 1980 年 代 以 降 に 紹 介 さ れ て き た 米 国 に お け る 議 論 や 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト を め ぐ る 実 証 研 究 結 果13を 踏 ま え て 整 理 ・ 考 察 す る 。 も っ と も 、 所 与 の 条 件 に 依 拠 し た 実 証 研 究 は 、 そ の 前 提 条 件 が 各 々 異 な っ て お り 、 実 証 研 究 同 士 を 単 純 に 比 較 で き る も の で は な い 。 し か し な が ら 、 少 な く と も 、 実 証 研 究 結 果 か ら 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト が 価 値 を 創 出 す る の か 、 も し す る と す れ ば 、 そ の 仮 定 さ れ る い く つ か の 諸 要 因 に つ い て 、 そ の 傾 向 を 捉 え る こ 13 MBOやLBOにおける実証研究は、大きく二つの方法に分けられる。ひとつは、経営 者 ら に よ っ て バ イ ア ウ ト が ア ナ ウ ン ス さ れ た 時 点 を 基 点 と し て 、 そ の 一 定 期 間 前 後 の 株 価 の 当 該 企 業 の 株 価 変 動 率 を 分 析 す る も の( い わ ゆ る イ ベ ン ト・ス タ デ ィ )で あ り 、他 方 は 、 バ イ ア ウ ト 時 を 基 点 と し て 、 バ イ ア ウ ト 前 の 当 該 企 業 の 売 上 高 、 営 業 利 益 等 と 、 バ イ ア ウ ト 後 一 定 期 間 経 過 後 の 時 点 に お け る 売 上 高 、 営 業 利 益 等 の 業 績 数 値 の 推 移 か ら バ イ ア ウ ト の 効 率 性 を 推 定 す る も の で あ る 。
と は 可 能 で あ り 、そ の よ う な 先 行 実 証 研 究 を 比 較・考 察 し た 有 益 な 研 究 も 既 に 存 在 す る14。 第 4 章 は 、 本 稿 の 中 心 的 関 心 の ひ と つ で あ る 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト に 内 在 す る 本 質 的 な 利 益 相 反 の 問 題 に 集 約 し て 議 論 を 展 開 す る 。 こ こ で は 、 会 社 の 利 害 関 係 者 が 有 す る 様 々 な エ ー ジ ェ ン シ ー 関 係 、 ― と り わ け 、 経 営 者 ― 株 主 間 ( あ る い は 、 新 規 株 主 と 既 存 株 主 間 と も 換 言 で き る ) の 関 係 が 、 前 章 で 類 型 別 に 分 け た M B O の 特 徴 に よ っ て 、 ど の よ う な 影 響 を 受 け 、変 化 す る こ と に な る の か 考 察 す る 。そ し て 、か か る 影 響 の 違 い が 、経 営 者 ・ 取 締 役 等 の 利 益 相 反 行 為 を 規 整 す る 法 的 ル ー ル の 適 用 自 体 に 異 な っ た 枠 組 み を 必 要 と す る 可 能 性 を 示 唆 す る も の で あ る 。 第 5 章では、マネジメント・バイアウトがエージェンシー・コストを削減する長所を有 す る と 考 え ら れ る 一 方 で 、 い か に し て 利 益 相 反 関 係 が も た ら す 短 所 を 解 消 し よ う と し て き た の か 、 米 国 の 歴 史 か ら そ の 変 遷 を 整 理 す る 。 そ し て 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト を 実 践 す る 経 営 者 等 に と っ て 、 そ の 意 図 す る と こ ろ が ま さ に 利 益 相 反 コ ス ト の 解 消 な い し 削 減 に あ り 、 顕 在 化 し た 利 益 相 反 関 係 を 解 消 す る こ と に よ る 将 来 的 な 利 得 の 確 保 に あ る と の 仮 説 を 提 示 す る 。 公 開 企 業 と も な れ ば 、 内 在 す る 利 害 関 係 者 の 利 害 を 個 々 に 処 理 す る に は 、 極 め て 多 額 の コ ス ト を 必 要 と す る 。 ま た 、 概 し て 、 利 益 相 反 を 有 し て い る 経 営 者 ・ 取 締 役 ら の 違 法 行 為 に つ い て は 、 利 益 相 反 関 係 を 有 し て い な い 場 合 に 比 し て サ ン ク シ ョ ン が 相 対 的 に 高 い 。 そ う で あ る な ら ば 、 経 営 者 ら は 、 利 益 相 反 関 係 を 顕 在 化 さ せ て 、 最 終 的 に は 、 価 値 の 支 払 ― す な わ ち 価 格 の 公 正 さ ― の レ ベ ル で 各 利 害 関 係 者 の 利 害 を 調 整 す る と い う 方 策 の ひ と つ の 選 択 肢 が マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト で あ る と い え よ う 。 そ し て 、 米 国 で は 、 か か る 利 益 相 反 を 解 消 ・ 削 減 す る た め に 、 い か に し て 公 正 、 か つ 実 効 的 な 手 続 規 整 が な さ れ て き た の か そ の 変 遷 を 紹 介 し た い 。 第 6 章は、本稿の具体的な結論と、かかる考察から得られた、わが国の現行法への示唆 で あ る 。 何 よ り も 、 取 締 役 等 の 利 害 関 係 の 有 無 に よ っ て 、 行 為 基 準 を 分 け て 検 討 す る 米 国 の 考 え 方 は 、 わ が 国 で も 、 十 分 に 機 能 し 、 と り わ け 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト の よ う な 究 極 と も い え る 利 益 相 反 的 関 係 を 内 在 し て い る 取 引 の 場 合 に は 、 極 め て 有 力 な 行 為 基 準 と な る こ と を 主 張 し た い 。 本 章 で は 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト に 適 し た 取 締 役 等 の 行 為 基 準 を 、 筆 者 の 提 示 し た
14 See e.g., Luc Renneboog, Tomas Simons, Public-to-private Transactions:LBOs,
各 類 型 の 特 徴 を 考 慮 し つ つ 検 討 す る 。 こ こ で は 、 取 引 を 行 う 経 営 者 等 の イ ン セ ン テ ィ ブ を 阻 害 し な い 仕 組 み と 、 キ ャ ッ シ ュ ア ウ ト さ れ る 既 存 株 主 の 利 益 の 保 護 を い か に 確 保 ・ 調 整 す る か と い う 視 点 が 重 要 で あ る 。ま た 、少 数 株 主 の 保 護 の 観 点 か ら は 、わ が 国 の 現 行 法 上 、 ど の よ う な 実 効 的 な 救 済 策 が と ら れ て い る の か 、 近 時 の 会 社 法 の 改 正 を も 踏 ま え て 考 察 し た い 。 第 7 章 は 、 結 語 で あ る 。
第 2 章 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト の 仕 組 み と 特 徴 別 に よ る 分 類 1 . マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト の 概 説 と そ の 仕 組 み15 米 国 で は 、1980 年以前には、その概念は存在していなかった16レ バ レ ッ ジ ド・バ イ ア ウ ト( L B O )/ マ ネ ジ メ ン ト・バ イ ア ウ ト( M B O )17は 、1970 年代中頃に新しい取引形 態 と し て 登 場 し 、1980 年代には組織化され、その総額規模は 1986 年から 1989 年の間に お よ そ 年 間 500 億ドルにまで成長した。また、1980 年から 1989 年の間に、企業の長期負 債 の 対 総 資 産 比 率 は 16.6%から 24.2%へと増加した18。そ し て L B O フ ァ ー ム と し て 著 名
な コ ー ル バ ー グ ・ ク ラ ビ ス ・ ロ バ ー ツ (Kohlberg Kravis Roberts & Co/ KKR)19が 手 掛
け た 、 食 品 た ば こ 大 手 の R J R ナ ビ ス コ 社 の 買 収 の あ っ た 1989 年の 670 億ドルを最盛期
15 本節における米国のマネジメント・バイアウト(MBO)/レバレッジド・バイアウト
( L B O ) の 一 般 的 な 仕 組 み の 説 明 の 多 く は 、 下 記 に 拠 っ て い る 。RONALD J.GILSON&
BERNARD S.BLACK, LEVERAGED BUYOUTS AND RECAPITALIZATIONS, THE LAW AND
FINANCE OF CORPORATE ACQUISITIONS, CH.11, 398-401(2nd ed.1995).
16 もっとも初期のレバレッジ・バイアウトは、ブートストラップ取引、またはブートスト
ラ ッ ピ ン グ と 呼 ば れ て い た 。 歴 史 上 最 初 の レ バ レ ッ ジ ド ・ バ イ ア ウ ト が い つ 起 き た の か を 決 定 づ け る こ と は 難 し い と し つ つ も 、1980 年 以 前の 事 例 (下 記 ① ~ ③ )が 紹 介 さ れて い る。 Tom Ablum& Mary Beth Burgis, Leveraged Buyouts: The Ever Changing Landscape,
13 DEPAUL BUS.L.J.109(2000-2001).
① 1933 年に United Parcel Service(UPS)社の経営陣によって全ての会社株式を買 戻 す こ と に よ っ て な さ れ た の が 米 国 歴 史 上 で 最 も 成 功 し た レ バ レ ッ ジ ド・バ イ ア ウ ト の ひ と つ で あ る 。U P S 社 は 、1999 年まで非公開化を続け、持分の約 10%をおよそ 60 億ドルという、その当時でもっとも大型の新規株式公開を行った。 ② サ ン フ ラ ン シ ス コ の 弁 護 士 で 投 資 銀 行 家 で あ る Louis O. Kelso による従業員持株制 度 (ESOP)もまたLBOの原型と考えられている。Kelso は、1956 年に ESOP を 考 案 し 、小 さ な 新 聞 チ ェ ー ン 店 を そ の オ ー ナ ー か ら 従 業 員 等 が 買 収 す る こ と を 可 能 と し た 。
③ 1965 年に Progressive 社の CEO である Peter B. Lewis は、売上が 6 百万ドルのク リ ー ブ ラ ン ド 州 の 小 さ な 保 険 会 社 を 自 ら 支 配 下 に い れ 、そ れ 以 後 は 他 の 企 業 買 収 を す る こ と な く 、 そ れ か ら 30 年を超えた 1999 年には、Lewis はこの会社を売上 161 億 ド ル の 保 険 会 社 へ と 成 長 さ せ た 。
17「 対 象 会 社 の 経 営 陣 が 加 わ る レ バ レ ッ ジ ド ・ バ イ ア ウ ト は 、 し ば し ば マ ネ ジ メ ン ト ・ バ
イ ア ウ ト ( M B O ) と 呼 ば れ る 。 ほ と ん ど の L B O は M B O で あ る 。」(GILSON&BLACK,
supra note 15 at 399)。したがって、本稿では、特に注記をしないかぎりは、マネジメン ト ・ バ イ ア ウ ト ( M B O ) の 用 語 を 主 と し て 用 い る が 、 必 ず し も 両 者 を 厳 密 に 区 別 し て い な い 。 18 ポール・ミルグロム=ジョン・ロバーツ『組織の経済学』545 頁(NTT出版、1997 年 )。 19 コールバーグ・クラビス・ロバーツの金融手法や、当時の米国のレバレッジド・バイア ウ ト を め ぐ る 状 況 等 は 、G.P.ベーカー=G.D.スミス『レバレッジド・バイアウト― KKR と企業価値創造―』(東洋経済新報社、2000 年)に詳しい。
に 、 そ の 後 1991 年の 55 億ドル、1992 年の 70 億ドルと、10 分の 1 の規模へと急落して い く 。 こ の 時 期 に 米 国 企 業 の 負 債 の 増 加 傾 向 が 止 ま っ て い る の は 、 レ バ レ ッ ジ ド ・ バ イ ア ウ ト の 組 成 に 重 要 な 役 割 を 有 し た ジ ャ ン ク ・ ボ ン ド(junk bonds)の新規発行市場が消滅 同 然 に な っ た の が 理 由 の ひ と つ と 指 摘 さ れ る20。1980 年代後期にはLBOを経験した多く の 企 業 が 倒 産 な い し は 、法 的 整 理 外 で の 財 務 の リ ス ト ラ ク チ ャ リ ン グ を 余 儀 な く さ れ た21。 そ の 後 、1990 年代の半ばまで、非公開化の動きは低調のまま推移するが、1997 年を 境 に 再 び 急 上 昇 し 、2002 年までの間の 5 年間で総額 650 億ドルの規模となる。その理由と し て 、 比 較 的 小 規 模 な 企 業 が 、 ナ ス ダ ッ ク 市 場 の 取 引 規 模 の 少 な さ や 、 上 場 廃 止 に 脅 か さ れ る こ と を 経 験 し 、 ま た 、 サ ー ベ ン ス ・ オ ク ス レ ー 法 (Sarbanes-Oxley Act of 2002) の 施 行 が 、 実 質 的 な 上 場 維 持 コ ス ト の 増 大 を 想 起 さ せ た こ と が あ げ ら れ て い る22。 1990 年代の米国では、GDPに占める買収規模は、かつてないほどに拡大する一方で、 全 体 に 占 め る 競 合 買 付 申 入 れ の 割 合 は 、1980 年代前半の 40%を超える状況から、1990 年 代 以 降 は 、ほ ぼ 10%前後で推移しているように、多くの企業買収は、友好的な組織再編と し て 行 わ れ て い る こ と が 見 て と れ る 。 そ れ は 、 買 収 さ れ な か っ た 企 業 の 経 営 者 の 多 く が 、 買 収 対 象 企 業 と さ れ な い よ う に 、 敵 対 的 な 圧 力 下 で 、 自 ら リ ス ト ラ ク チ ャ リ ン グ を 行 っ た も の と さ れ 、 L B O の ス キ ー ム が 有 す る 構 造 的 な 利 点 を 率 先 し て 取 り 込 ん だ も の と 理 解 さ れ て い る23。 ま た 、2006 年 7 月には、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)等の投資家連 合 が 、 米 国 大 手 の 病 院 チ ェ ー ン で あ る H C A を 負 債 引 き 受 け 分 も 含 め た 買 収 総 額 と し て は 1989 年のRJRナビスコ社の買収総額を超える、米国で過去最大規模の 330 億ドル(負 債 引 き 受 け 分 を 除 く と 、212 億ドル)で、LBOによる買収を行うことを公表するなど、 近 年 、 投 資 フ ァ ン ド を 中 心 と す る 大 型 の 買 収 案 件 が 増 加 し て い る24。 20 ミルグロム=ロバーツ・前掲注 18、545-547 頁。ジャンク・ボンド市場の創設者であ る ド レ ク セ ル ・ バ ー ナ ム ・ ラ ン バ ー ト 社 の マ イ ケ ル ・ ミ ル ケ ン は1990 年に証券取引法違 反 に よ る 有 罪 判 決 を 受 け 、 同 社 も 、1988 年に倒産した。
21 GILSON& BLACK, supra note 15 at 398.
22 Luc Renneboog & Tomas Simons, Public-to- Private Transactions: LBOs, MBOs,
MBIs and IBOs, Tilburg University and ECGI, 4 (Discussion Paper, August 2005).
23 See Bengt Holmstrom & Steven N. Kaplan, Corporate Governance and Merger Activity in the U.S.: Making Sense of the 1980’s and 1990’s,J.ECON. PER. 15,
121(2001). また、森田果「ファイナンスからみた企業買収」商事法務 1728 号 24 頁(2005 年 ) 参 照 。
昨 今 の 日 本 に お け る マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト を 取 り 巻 く 状 況 1990 年代後半から 2000 年代初めにかけて、日本において行われたマネジメント・バイ ア ウ ト の 件 数 は 、 年 々 増 加 し て い る25。 そ の 多 く が 長 期 に わ た る 景 気 の 低 迷 期 に あ っ て 、 経 営 資 源 の 集 約 が 避 け ら れ な い 状 況 下 で 、 保 有 事 業 の 取 捨 選 択 に 迫 ら れ た 経 営 陣 が 投 資 会 社 等 か ら の 投 融 資 を 得 て 、 実 行 し た も の で あ る26。 と こ ろ が 、 近 時 日 本 に お い て も 従 来 と は 特 徴 を 異 に し た マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト が 登 場 し て い る 。 そ れ は 事 業 部 門 の 分 離 ・ 売 却 を 目 的 と し た も の で は な く 、 主 と し て 株 式 市 場 か ら の 退 出 を 意 図 し た 会 社 の 非 公 開 化 を 目 指 す 動 き が 相 次 い で い る こ と で あ る27。 こ う し た 非 公 開 化 は 、 会 社 が 上 場 し て い る こ と か ら 生 じ る 様 々 な コ ス ト を 削 減 で き る 一 方 で 、 あ ら た め て 会 社 が 上 場 す る こ と 自 体 の 意 義 が 問 わ れ る こ と に な る 。 ま た 、 過 去 に お い て 、 事 業 再 編 の 一 環 と し て 行 わ れ た マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト に よ っ て 独 立 し た 会 社 が 証 券 取 引 25 株式会社レコフ「日本企業の M&A データブック 1988~2002」(2003 年)及び、内 閣 府 経 済 社 会 総 合 研 究 所 「 わ が 国 企 業 の M&A 活動の円滑な展開に向けて―M&A 研究会 報 告 ― 」2004 年 9 月 16 日公表資料 55 頁によれば、1996 年以降 2004 年 1-6 月期までの マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト の 総 件 数 は 、152 件であり、その公表金額総計は、362,423 百 万 円 で あ る 。な お MBO 件数自体は、2002 年の 42 件(公表金額 76,645 百万円)以降、頭 打 ち 傾 向 に あ っ た 。し か し な が ら 、2005 年には、MBO件数は 67 件(公表投資金額 2975 億 円 ) と 増 加 し 、 さ ら に 、2006 年は、1 月から 10 月までのMBO件数で 66 件(同 5019 億 円 )― ち な み に 上 半 期 で は 42 件(同 2641 億円)と、近年急激な増加傾向にある(株式 会 社 レ コ フ 資 料 )。 26 このような親会社からの分離・独立型のマネジメント・バイアウトの具体的実施例とし て 、 系 列 関 係 か ら の 独 立 に よ っ て 事 業 拡 大 を 目 指 す 、 日 産 陸 送 の 事 例 や 、 従 業 員 の 持 つ ノ ウ ハ ウ が 重 要 な 事 業 ゆ え に M B O を 選 択 し た 、 リ ク ル ー ト 子 会 社 の ザ イ マ ッ ク ス 等 の 事 例 が 紹 介 さ れ て い る ( 日 経 ビ ジ ネ ス 2001 年 6 月 11 日号 52 頁参照)。 27 東京、大阪両証券取引所に上場するアパレル大手のワールドは、2005 年 7 月 25 日、 MBO としては過去最大の 2200 億円程度の買収金額での非公開化を公表した。事業再生を 目 的 と し な い 、 優 良 企 業 に よ る 非 公 開 化 で あ る ( 日 本 経 済 新 聞 2005 年 7 月 25 日夕刊 1 頁 等 )。そ の 後 、公 開 買 付 の 結 果 が 公 表 さ れ 、発 行 済 株 式 の94.99%の応募があり、成立条 件 を 達 成 し た ( 日 本 経 済 新 聞 2005 年 9 月3日朝刊 11 頁)。 ま た 、飲 料 大 手 の ポ ッ カ コ ー ポ レ ー シ ョ ン は 、2005 年 8 月 22 日、投資ファンドと組み、 買 付 総 額 160 億円強をかけて MBO の実施を発表した(日本経済新聞 2005 年 8 月 23 日朝 刊 1 頁 )。 さ ら に 、 新 興 市 場 の ジ ャ ス ダ ッ ク に 上 場 し て い る プ レ ス 部 品 製 造 の テ ク ノ エ イ ト は 、 2005 年 11 月、会社会長とその親族が出資する投資会社によるMBOを発表した。買収額 は 、66 億円程度、金融機関から 70 億円の融資を受ける。同社の株価は解散価値を下回り、 増 資 に よ る 資 金 調 達 が 難 し い た め 、 市 場 か ら 退 出 し 、 事 業 構 造 を 転 換 す る と の こ と で あ る ( 日 本 経 済 新 聞 2005 年 11 月 11 日朝刊)。 2006 年 6 月には、東京証券取引所に上場する、国内最大の外食チェーンである、すか い ら ー く は 、先 の ワ ー ル ド の 買 収 金 額 を 超 え る 、2600 億円程のMBOを実施の方針である こ と が 報 道 さ れ た ( 日 本 経 済 新 聞 2006 年 6 月 8 日朝刊 1 頁ほか)。 以 上 の 企 業 は 、 い ず れ も そ の 後 M B O が 成 立 し て い る 。
所 に 上 場 を 果 た す ケ ー ス も 登 場 し て い る28。 こ の こ と は 、 株 主 と 経 営 者 ・ 取 締 役 と の 間 に 生 じ る エ ー ジ ェ ン シ ー ・ コ ス ト が 解 消 さ れ る こ と や 、 経 営 者 が 長 期 的 視 点 か ら の 経 営 を 志 向 す る こ と を 可 能 と す る 等 、 従 来 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト を 説 明 す る 上 に お い て 、 長 所 に 掲 げ ら れ て き た こ と に 対 し て 、な ぜ 、非 公 開 化 し た 企 業 が 再 び 上 場 を す る の か と い う 、 率 直 な 疑 問 に 答 え な け れ ば な ら な い で あ ろ う 。 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト の 仕 組 み 典 型 的 な マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト の 仕 組 み ・ 特 徴 は 次 の と お り で あ る 。 ま ず 、経 営 者・投 資 フ ァ ン ド 等 、マ ネ ジ メ ン ト・バ イ ア ウ ト を 主 導 す る 買 収 グ ル ー プ が 、 買 収 の た め の 買 収 目 的 会 社 を 設 立 す る29。 こ こ で 、 買 収 目 的 会 社 が 利 用 さ れ る 理 由 は 、 買 収 に 際 し 、 金 融 機 関 等 か ら の 借 入 れ の 主 体 を 買 収 目 的 会 社 に 限 定 す る こ と で 、 借 入 れ の ノ ン ・ リ コ ー ス ( 非 遡 及 ) ロ ー ン30の 性 格 を 明 確 に で き る た め で あ る31。 そ し て 、 買 収 目 的 会 社 は 買 収 対 象 会 社 な い し 事 業 部 等 が 所 有 す る 資 産 、 あ る い は 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を 担 保 に 、 投 資 フ ァ ン ド 等 の 出 資 金 や 金 融 機 関 等 の 借 入 れ 資 金 を 得 て 、 買 収 対 象 会 社 株 主 の 株 式 を 買 取 る 。 そ の 後 、 買 収 目 的 会 社 は 、 買 収 対 象 会 社 を 吸 収 合 併 等 す る こ と に よ り 、 当 該 対 象 会 社 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を 、 借 入 れ 資 金 の 返 済 に 充 て る こ と に な る 。 こ こ で 、 法 的 な 問 題 点 と し て は 、 既 存 の 少 数 株 主 を 当 該 対 象 会 社 か ら い わ ば 強 制 的 に 締 28 2001 年に、日産自動車の系列企業であったゼロ(旧・日産陸送)は、MBO によって独 立 。4 年後の 2005 年 8 月 2 日、東京証券取引所第二部に上場した(日本経済新聞 2005 年 8 月 3 日朝刊 13 頁)。 29 改正前商法では、会社がその成立後 2 年以内にその成立前から存在する財産で営業のた め に 継 続 し て 使 用 す る も の を 資 本 の 20 分の 1 以上に当たる対価をもって取得する契約を す る 場 合 に は 、 特 別 決 議 と と も に 、 裁 判 所 選 任 の 検 査 役 の 調 査 が 必 要 と さ れ て い た が ( 改 正 前 商 法 246 条)、会社法では廃止された。事後設立の規制が、実務上の障害となってい た 。 な お 、 吉 原 和 志 「 株 式 会 社 の 設 立 」 ジ ュ リ ス ト 1295 号 17 頁(2005 年)参照。もっ と も 、1999 年 10 月 1 日施行の産業活力再生特別措置法で、「事業再構築を円滑化するた め の 措 置 」 と し て 「 従 業 員 ・ 経 営 者 に よ る 株 式 取 得 ( M B O 、 E B O ) へ の 支 援 」 が 掲 げ ら れ て お り 、 同 法 で 検 査 役 調 査 の 緩 和 措 置 が と ら れ て い る 。 30 買収ファイナンスにおけるノン・リコースローンの返済は、後に買収目的会社と合併す る 買 収 対 象 会 社 の 収 益 力 で 行 う も の で あ る 。 自 己 資 金 及 び 借 入 金 で 購 入 し た 不 動 産 の 賃 料 収 入 と そ の 売 却 金 で 借 入 れ を 返 済 す る 、 不 動 産 の ノ ン ・ リ コ ー ス ロ ー ン や 、 自 己 資 金 と 借 入 金 で 建 設 し た 工 場 に お い て 製 造 さ れ る 製 品 等 を 販 売 す る こ と で 得 ら れ る 収 益 か ら 借 入 れ を 返 済 す る 、 プ ロ ジ ェ ク ト ・ フ ァ イ ナ ン ス に 類 似 す る 。 も っ と も 、 対 象 と な る 事 業 が 単 一 で あ る か 、 複 合 事 業 で あ る か 等 の 状 況 の 違 い に よ っ て 、 収 益 の 予 測 可 能 性 の 精 度 が 異 な っ て く る ( 笹 山 幸 嗣 = 村 岡 香 奈 子 『 M & A フ ァ イ ナ ン ス 』( 金 融 財 政 法 務 事 情 研 究 会 、2006 年 )6-9 頁参照。 31 西村総合法律事務所編『M&A法大全』833 頁(商事法務研究会、2001 年)参照。借 入 れ の 主 体 は 、 経 営 者 等 で は な く 、 買 収 目 的 会 社 で あ る 。
め 出 す(squeeze-out)ことの是非が、従来議論がなされていたところである。当該会社の 将 来 的 な 収 益 機 会 に 期 待 し て 投 資 し た 株 主 を 、 強 制 的 に 排 除 す る こ と が そ も そ も 可 能 で あ る の か 、 ま た 、 可 能 で あ る と す れ ば そ の 論 拠 と な る こ と は 何 か 、 特 に 、 締 め 出 し の 対 価 と し て 、 既 存 株 主 に 支 払 わ れ る 「 対 価 の 公 正 性 」 を ど の よ う に 担 保 す る の か が 、 中 心 的 な 論 点 と な る 。 か か る 問 題 点 は 、 支 配 株 主 と 少 数 株 主 と の 利 害 調 整 の 問 題 と し て 、 と り わ け 、 支 配 会 社 に よ る 従 属 会 社 の 吸 収 合 併 の 局 面 に お い て 典 型 的 と い え る が 、 非 公 開 化 を 目 的 と す る マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト で は 、 買 収 者 が 公 開 買 付 を 行 っ て 支 配 権 を 取 得 し た 後 に 、 連 続 し て 、 交 付 金 合 併 を 行 う こ と を 予 定 し て い る の で あ る か ら 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト 全 体 の ス キ ー ム の 中 の ひ と つ の 局 面 と し て 、 喚 起 さ れ る 法 的 な 問 題 点 は 共 通 す る 。 ま た 、 投 資 フ ァ ン ド は 、 全 て の 買 収 資 金 を 拠 出 す る 必 要 が な く 、 そ の 多 く を 金 融 機 関 等 か ら の 融 資 に よ り 資 金 調 達 す る こ と に よ り 、レ バ レ ッ ジ を 効 か せ た 投 資 効 率 が 期 待 で き る 。 ノ ン ・ リ コ ー ス ロ ー ン は 、 金 融 機 関 等 が 買 収 し た 会 社 の 将 来 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を 担 保 に 取 る た め 、 対 象 会 社 の 事 業 リ ス ク を 新 規 株 主 で あ る 経 営 者 ・ 投 資 フ ァ ン ド だ け で な く 、 新 規 の 債 権 者 に 転 嫁 で き る こ と で 、 投 資 フ ァ ン ド は リ ス ク を 限 定 で き る が 、 融 資 契 約 条 項 に よ っ て 、 経 営 者 ・ 投 資 フ ァ ン ド 等 の 事 業 執 行 者 の 経 営 判 断 に 制 約 が 課 さ れ る の が 通 常 で あ り 、 そ の 範 囲 に お い て 、 投 資 フ ァ ン ド に 意 思 決 定 の 面 で の デ メ リ ッ ト が 生 じ る32。 そ の た め 、 新 規 の 株 主 と 新 規 債 権 者 と の 間 の 利 益 相 反 関 係 は 、 バ イ ア ウ ト 後 も 依 然 と し て 継 続 す る わ け で あ る が 、 会 社 な い し 経 営 者 の 個 人 資 産 を 上 限 に 、 当 該 資 産 を 被 担 保 と し た 旧 来 型 の 融 資 を 行 う 債 権 者 と 比 較 す れ ば 、 買 収 対 象 会 社 の 将 来 に お け る 事 業 の 成 功 へ の 利 害 は 、 投 資 フ ァ ン ド 等 の 新 規 株 主 と 、 新 規 債 権 者 と の 間 で あ る 程 度 共 有 さ れ て い る と も い え る 。 米 国 に お け る マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト の 主 た る 特 徴 は 、 第 一 に ( 1 ) 買 収 会 社 が 、 当 該 買 収 を 行 う た め だ け に 作 ら れ る 、事 業 を 有 さ な い 買 収 目 的 会 社 で あ る こ と 、第 二 に 、( 2 ) 買 収 目 的 会 社 は 、 買 収 に 必 要 と さ れ る 資 金 の ほ と ん ど を 、 投 資 銀 行 等 か ら 、 高 レ バ レ ッ ジ を 効 か せ た 借 入 に よ っ て 調 達 す る こ と で あ る 。こ れ ら 二 つ の 特 徴 に 加 え て 、( 3 )取 引 を 構 成 す る 投 資 フ ァ ン ド 等 が し ば し ば 買 収 目 的 会 社 の 絶 対 多 数 を 支 配 す る こ と に よ る 、 集 約 し た 株 式 所 有 、 そ し て ( 4 ) 事 業 を 行 う 経 営 者 に よ っ て 、 相 当 の 株 式 所 有 が な さ れ て い る こ と が 典 型 で と さ れ る33。 特 に 、 か か る う ち の ( 2 ) ~ ( 4 ) の 特 徴 は 、 負 債 の 有 す る 経 営 者 等 に 対 す る 規 律 付 け の 効 果 や 、 経 営 者 等 に 対 す る 株 式 所 有 の イ ン セ ン テ ィ ブ 付 与 が 、 会 32 上野正裕「MBO(マネジメント・バイアウト)」ジュリスト 1218 号 54 頁(2002 年) 参 照 。
社 の 業 績 指 標 に ど の よ う な 影 響 を 与 え る か 等 、 エ ー ジ ェ ン シ ー 理 論 を め ぐ る 経 済 学 的 視 点 か ら の 研 究 が 蓄 積 さ れ て い る 。 企 業 経 営 者 に と っ て 、 潤 沢 な フ リ ー キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を 有 す る こ と は 、 と か く 株 主 の 利 益 の た め で は な い 、 経 営 者 自 身 の 選 択 に 依 拠 し た 非 合 理 的 な 投 資 ― 時 に は 、 投 資 と も い え な い 経 営 者 自 身 の 便 益 向 上 の た め の 浪 費 ― に 会 社 の 資 金 が 投 入 さ れ る 危 険 性 が 高 い 。 そ こ で 、 経 営 者 が 自 社 株 式 を 保 有 す る こ と に よ っ て 生 じ る 、 株 主 と 経 営 者 間 の エ ー ジ ェ ン シ ー ・ コ ス ト の 削 減 効 果 は 、 よ り 効 率 的 な 投 資 機 会 を 選 択 す る 誘 因 を 経 営 者 に 与 え る34。 た だ し 、 興 味 深 い こ と に は 、 経 営 者 に よ る 自 社 の 株 式 所 有 は 、 こ う し た プ ラ ス 面 の ア ラ イ ン メ ン ト 効 果 を 有 す る 一 方 で 、 効 率 的 な 経 営 を 確 保 す る 最 後 の 手 段 と も い え る 、 買 収 に よ っ て 経 営 者 を 取 り 替 え る と い っ た 機 能 を 妨 げ て し ま う し 、 経 営 者 が 、 一 定 数 の 議 決 権 を 確 保 す る こ と に よ っ て 、 事 実 上 の 経 営 者 支 配 を 可 能 と す る35と い っ た 、 マ イ ナ ス 面 の 効 果 を 発 生 さ せ る こ と で あ る 。こ の よ う な 効 果 を エ ン ト レ ン チ メ ン ト 効 果 と い う 。日 本 に お け る 、 経 営 者 の 自 社 株 式 所 有 が も た ら す 上 記 の 二 つ の 効 果 が 企 業 の 業 績 に ど の よ う な 影 響 を 及 ぼ す か を 検 討 し た 実 証 研 究 で は 、 先 行 の 欧 米 に お け る 実 証 研 究 と 同 様 に 、 企 業 経 営 者 の 持 株 比 率 の 増 大 に と も な っ て 、 企 業 の 業 績 は 上 昇 し ( す な わ ち ア ラ イ ン メ ン ト 効 果 が 観 察 さ れ る )、あ る 領 域 に お い て 下 降 す る( す な わ ち エ ン ト レ ン チ メ ン ト 効 果 が 支 配 的 と な る )と い っ た 、 山 型 の グ ラ フ が 導 か れ る と の 結 果 が 示 さ れ て い る36。 こ の よ う に 、 仮 に 上 場 会 社 に お い て 、 経 営 者 に よ る 自 社 株 式 の 効 率 的 な 持 株 比 率 の 最 適 解 が 存 在 す る と す れ ば 、 そ れ は コ ー ポ レ ー ト ・ ガ バ ナ ン ス の 視 点 か ら は 、 経 営 者 の 業 績 向 上 へ の 誘 因 に よ る オ ー ト ノ ミ ー の 確 保 と 、 市 場 の 他 の 株 主 に よ る 当 該 会 社 へ の モ ニ タ リ ン グ が 適 度 に 均 衡 し て い る 状 態 で あ る と い え よ う 。 他 方 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト に よ る 非 公 開 化 が な さ れ た 後 の 当 該 会 社 に お い て は 、 経 営 者 と 株 主 間 の エ ー ジ ェ ン シ ー ・ コ ス ト は 構 造 上 消 滅 す る 。 ま た 市 場 か ら の モ ニ タ リ ン グ は 基 本 的 に は 存 在 せ ず 、 経 営 者 に よ る オ ー ト ノ ミ ー と 、 債 権 者 な い し 投 資 フ ァ ン ド 等 に よ る モ ニ タ リ ン グ に 全 て を 委 ね る 組 織 形 態 で あ る と い え る 。 そ の た め 、 非 公 開 化 を と も な う マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト は 、 経 営 者 に
34 See Michael C. Jensen& William H. Meckling, Theory of the Firm: Managerial Behavior, Agency Costs and Ownership Structure, 3 J. FIN.ECON. 305(1976).
35 See Rene M.Stulz, Managerial Control of Voting Rights: Financing Policies, 20 J.
Fin. Econ. 25(1988) ; Engene F. Fama, Agency Problems and the Theory of the Firm, 88 J.POL.ECON.288(1980); 小佐野広『コーポレート・ガバナンスの経済学』79 頁(日本経
済 新 聞 社 、2001 年)参照。
36 手嶋宣之『経営者のオーナーシップとコーポレート・ガバナンス ―ファイナンス理論
よ る 経 営 の 自 由 度 が 増 す と い っ た 利 点 や 、 究 極 的 な 敵 対 的 企 業 買 収 防 衛 策 と な る こ と が 一 般 的 に 指 摘 さ れ る 。 も っ と も 、 次 節 で 触 れ る よ う に 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト の 買 収 者 が 経 営 陣 の み で 構 成 さ れ て い る 場 合 と 、 買 収 グ ル ー プ に 投 資 フ ァ ン ド が 関 わ っ て い る 場 合 と で は 、 利 害 が 一 致 し な い 場 合 も 出 て く る こ と が 予 想 さ れ 、 必 ず し も 経 営 者 の 完 全 な オ ー ト ノ ミ ー が 保 証 さ れ て い る わ け で は な い 。 特 に 、 出 口 (exit)戦略 をめぐっては、当該 企 業 の 再 上 場 、 株 式 の 売 却 、 経 営 者 に よ る 再 度 の 買 収 等 が 選 択 肢 と し て 考 え ら れ る が 、 投 資 家 の 受 託 者 た る 投 資 フ ァ ン ド の 立 場 と 、 経 営 権 を 保 持 し た い 等 の 、 単 に キ ャ ピ タ ル ゲ イ ン と は 異 な る 別 の 利 害 を 有 す る 経 営 者 の 立 場 と の 間 に 、利 害 の 対 立 が 起 き る 可 能 性 が 大 き い 。 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト の 構 成 員 に よ る 分 類 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト を 遂 行 す る に あ た っ て は 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト を 主 導 す る 買 収 グ ル ー プ の 構 成 員 の 違 い に よ っ て 、 以 下 の よ う な 分 類 が な さ れ る37。 ① ( 狭 義 の ) M B O(Management Buy-Out) ② E B O(Employee Buy-Out) ③ M B I (Management Buy-In) ④ I B O(Institutional Buy-Out) ( 狭 義 の ) M B O は 、 従 来 の 子 会 社 や 事 業 部 の 経 営 者 ・ 事 業 部 長 等 の 経 営 陣 の み で 新 会 社 の 経 営 陣 を 構 成 す る 場 合 で あ る 。 当 該 会 社 内 部 の 状 況 を 十 分 把 握 し て い る 元 々 の 経 営 陣 が 引 き 続 き 経 営 を 担 う た め に 、 買 収 後 の 事 業 計 画 の 見 通 し も 立 て や す い 。 E B O は 、 旧 経 営 陣 は 参 画 せ ず に 、 従 業 員 が 買 収 グ ル ー プ の 一 員 と な る 場 合 で あ る 。 主 に 、 従 業 員 持 株 制 度 (Employee Share Ownership Plan(ESOP))が利用される。買収対象会社に経営陣が い な い 更 生 会 社 の 買 収 に も 用 い ら れ る 。( 狭 義 の )M B O も E B O も 、当 該 事 業 を 熟 知 し て い る 者 が 継 続 し て 新 会 社 に 残 る た め に 、 他 の 企 業 買 収 方 法 と 比 較 し て 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト の 雇 用 維 持 の 側 面 が 強 調 さ れ や す い と い え る 。 そ の た め 、 従 来 の 日 本 の 企 業 の よ う に 、 終 身 雇 用 制 度 や 年 功 序 列 賃 金 を 基 盤 と す る 組 織 慣 行 の 下 で は 、 組 織 再 編 に 伴 う 会 社 内 部 の 軋 轢 も 少 な い こ と が 予 想 さ れ る 。 こ の こ と は 、 従 業 員 ら が 既 に 先 行 投 下 し た 企 業 特 37 丹羽哲夫『図解でわかるMBO』20 頁(2000 年)、村上勝=北村元哉『MBO入門』 20 頁以下(2000 年)、松木伸男=大橋和彦=本多俊毅『バイアウトファンド―ファンドに よ る 企 業 価 値 向 上 の 手 法 』9 頁(2004 年)参照。
殊 的 な 資 産38を 回 収 す る 機 会 を 確 保 す る こ と が 可 能 で あ る 一 方 で 、 組 織 再 編 が も た ら す 当 初 の 効 果 が 必 ず し も 十 分 に 発 揮 さ れ な い 可 能 性 も 残 さ れ る 。 そ こ で 、 買 収 フ ァ ン ド 等 が 投 資 の み な ら ず 、 自 ら 主 体 的 に 経 営 に 関 与 す る 場 合 が I B O で あ る 。 ま た 、 買 収 グ ル ー プ が 新 た な 経 営 陣 を 送 り 込 む の が M B I で あ り 、 い ず れ も 、 事 業 の 再 生 の プ ロ 等 、 財 務 知 識 に 強 い も の が 経 営 の 主 導 的 役 割 を 務 め る の が 通 常 で あ る 。 も っ と も 、 旧 経 営 陣 等 の 有 し て い る 当 該 企 業 の 内 部 情 報 を 十 分 に 活 用 す る た め に 、 旧 経 営 陣 と 新 規 の 経 営 陣 が 共 同 で 、 新 会 社 の 経 営 を 担 う 形 態 の B I M B O( Buy-In Management Buy-Out)も選択される。
そ こ で 、 ど の よ う な 構 成 を 選 択 す る か は 、 当 該 企 業 の 置 か れ た 内 的 ・ 外 的 要 因39に 大 き く 左 右 さ れ る こ と と な ろ う 。 し か し な が ら 、 マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト が 「 イ ン セ ン テ ィ ブ 構 造 の 改 変 を 図 る 組 織 再 編 で あ る40」 特 徴 を 有 す る こ と に 鑑 み れ ば 、 買 収 対 象 会 社 に 対 し て 、 既 に 投 下 さ れ て い る 資 本 ― 必 ず し も 金 銭 等 の 物 的 資 本 に 限 ら な い ― の 資 本 提 供 者 、 あ る い は 新 規 に 資 本 を 拠 出 す る 提 供 者 の 、 そ れ ぞ れ 事 前 の イ ン セ ン テ ィ ブ を 最 大 限 に 確 保 す る こ と が 、 バ イ ア ウ ト 後 の 事 業 の 成 功 に と っ て 重 要 で あ る 。 本 稿 の 中 心 的 関 心 事 で あ る 経 営 者 ・ 取 締 役 の 利 益 相 反 の 観 点 か ら は 、 上 記 の よ う な マ ネ ジ メ ン ト ・ バ イ ア ウ ト に お け る 買 収 グ ル ー プ の 構 成 員 の 違 い が 法 的 問 題 に 影 響 を 及 ぼ す か 否 か に つ い て は 一 応 、 次 の 点 が 指 摘 で き る 。 す な わ ち 、 M B I や I B O で は 、 主 に 投 資 フ ァ ン ド 等 が 主 体 的 に 経 営 を 執 行 な い し 、 新 し い 経 営 陣 を 買 収 対 象 会 社 に 送 り 込 む 。 そ れ ゆ え に 、 少 な く と も 形 式 上 は 、 株 式 の 売 買 に あ た り 、 買 収 対 象 会 社 の 旧 経 営 者 が 、 売 り 手 か つ 買 い 手 と い う 直 接 の 利 益 相 反 の 立 場 に 置 か れ る わ け で は な い の で は な い か と の 見 方 で あ る 。 旧 経 営 陣 が 、 取 引 に 当 た っ て 直 接 の 利 害 関 係 者 と な る M B O41や B I M B O と は 、 異 38 企業特殊的な人的資産の拠出と従業員のインセンティブ付与については、伊藤秀史「現 代 の 経 済 学 に お け る 株 主 利 益 最 大 化 の 原 則 ― 契 約 の 不 完 備 性 と 人 的 資 本 の 見 地 か ら ― 」 商 事 法 務 1535 号 8 頁(1999 年)参照。 39 必ずしも明確に定義できるわけではないが、とりわけ内的要因としては、業種や事業と し て の 成 熟 度 合 い 等 の 違 い が 指 摘 で き よ う 。例 え ば 、「 す り 合 わ せ 」の 技 能 が 重 要 な 業 界 で は 、 企 業 特 殊 的 な 資 産 が 蓄 積 さ れ て い る こ と が 予 想 さ れ 、 旧 経 営 陣 ・ 従 業 員 等 が 継 続 し て 新 会 社 に 残 る こ と は 、 よ り 効 率 的 な 結 果 と な る 可 能 性 が 高 い 。 ま た 、 外 的 要 因 と し て は 、 敵 対 的 企 業 買 収 の 可 能 性 が あ げ ら れ る 。特 に 成 熟 産 業 に お い て は 、新 規 の 投 資 機 会 が な く 、 社 内 に 資 金 が 過 剰 に 蓄 積 さ れ て い る 企 業 は 、 敵 対 的 買 収 の タ ー ゲ ッ ト と な り や す い 。 そ の た め 、 投 資 効 率 を 高 め る た め に 、 し が ら み の な い 新 し い 経 営 者 を 外 部 か ら 招 き 入 れ る こ と は 好 ま し い 結 果 と な る 可 能 性 が 一 般 的 に は 高 い と 考 え ら れ る 。 40 宍戸善一「動機付けの仕組としての企業―インセンティブ・システムの法制度論」383 頁 (2006 年)。 41 先のワールドのMBO(前掲注 27)では、買収会社は、経営者個人が 100%の持分を 有 す る 会 社 が 100%出資する会社である。また、公開買付成立後には、買収対象会社の取 締 役 に よ る 株 式 の 取 得 お よ び 買 収 会 社 等 の 役 員 へ の 就 任 の 可 能 性 が あ る こ と が 公 表 さ れ た 。