化合物半導体デバイス―限りなき可能性を求めて(その2)―

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全文

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特別論文

特にワイドバンドギャップ半導体※1を用いた次世代パワー デバイスを中心に述べる。

2. パワー半導体デバイス

1948 年のベル研究所でのトランジスタの発明以来 60 有 余年の間に、非常に多種の半導体デバイスが発明・開発さ れ、実用化されてきた。その応用分野は、パソコン、携帯 電話、液晶テレビ等の家電製品、ハイブリッド車、電車、 新幹線等の輸送機器、情報機器、医療機器、産業用重機械、 等々挙げればきりがないほど多くの分野で用いられている。 半導体デバイスは、半導体レーザ(LD)、発光ダイオー ド(LED)等の光デバイスとトランジスタに代表される電 子デバイスに大別される。さらに電子デバイスは、マイク ロプロセッサや各種メモリなどの集積デバイスと電力を制 御するパワーデバイスとに分類される。 パワーデバイスとは、ダイオード、トランジスタ、サイ リスタなど電力の変換や制御を行う半導体デバイスであ り、パワーエレクトロニクスの根幹となる部品である。ト ランジスタが発明された 1947 年以前は、交流から直流、 直流から交流への電力変換には水銀整流器が用いられてい

1. 緒  言

2 種類以上の元素から構成される化合物半導体は、その 元素の組み合わせにより多くの種類の化合物半導体が構成 できる。また 2 種類以上の化合物半導体の混ざり合った混 晶半導体では、その混合比を変えることにより物性値を連 続的に変えることができる。さらに異種の化合物半導体や 混晶半導体の薄膜を多層に積層させることにより、無限と 言える種類の半導体構造が形成でき、それによって多種多 様な機能、特性を持った半導体デバイスが実現できる。こ こが Si 半導体とは全く異なる点であり、化合物半導体の魅 力でもある。 当社では、約半世紀前から化合物半導体材料の開発・事 業化に取り組んできた。通信用や民生用の GaAs 基板、 InP 基板とそのエピタキシャルウェハが主な製品であった が、最近ではブルーレイディスクに使われる青紫レーザ用 の GaN 基板の開発・製品化を実現させており、世界最大 の化合物半導体材料総合メーカとなっている。 一昨年本誌に掲載した「化合物半導体デバイス―限りな き可能性を求めて―」で当社のこれまで四半世紀の化合物 半導体デバイスへの取り組みについてレビューした(1)。本 論文では、その続編(その 2)として 21 世紀に入り益々そ の重要性が高まっている半導体パワーデバイスについて、

Development of Common Platform for ITS Devices II─ by Hideki Hayashi ─ Many different compound s e m i c o n d u c t o r s c a n b e f o r m e d b y c h a n g i n g t h e c o m b i n a t i o n o f c o n s t i t u e n t e l e m e n t s . P r o p e r t i e s o f a l l o y semiconductors, mixture of multiple compound semiconductors, can be changed in a continuous fashion by changing the mixing ratio. Very thin alloy semiconductor multilayers, which show interesting properties, can be formed by sophisticated epitaxial growth method such as MOVPE (metalorganic vapour phase epitaxy) or MBE (molecular beam epitaxy). Based on these matters, uncounted numbers of compound semiconductor devices with a wide variety of functions and characteristics have been developed. This fact is the most fascinating feature of compound semiconductors compared with silicon semiconductors.

Sumitomo Electric has developed various kinds of compound semiconductors for about half a century and is the world’ s biggest company on compound semiconductors. GaAs and InP substrates and their epitaxial wafers for consumer and communication markets have been the lead products. Recently, GaN substrates for blue-violet lasers have been developed for the new generation optical disk market.

In this paper, power semiconductor devices, especially those by using wide-bandgap semiconductors, are reviewed, as the sequel of the paper entitled “ Development of Compound Semiconductor devices for Pursuit of Infinite Possibilities” in SEI Technical Review No.173.

Keywords: compound semiconductor, MOVPE, MBE, wide-bandgap semiconductor, power semiconductor device

化合物半導体デバイス

―限りなき可能性を求めて(その 2)―

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た。水源整流器は真空中の水銀の放電現象を応用したもの であり、その信頼性に問題があった。1960 年頃から整流 機能を持つ Si ダイオードが実用化され、その電圧、電流定 格の増加とともに大容量の直流、交流間の電力変換に用い られるようになってきた。 また、1950 年台に 2 個のトランジスタを組み合わせる とベース電流によりオン状態が持続できるということが見 いだされ、後ほどサイリスタと呼ばれるデバイスが生まれ、 小電力の制御に使用されるようになった。その後、シリコ ン半導体デバイス技術の進展によって、ダイオード、トラ ンジスタ、サイリスタの電圧・電流定格は大きくなり、動 作特性は大幅に改善されてきた。パワーデバイスは、今や 送配電などの電力システム、新幹線を初めとする各種電気 鉄道、ハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車など各種 電動自動車、無停電電源(UPS)を初めとする各種電源、 産業用ロボットなどの AC サーボ、エアコン等の家電製品、 各種 OA 機器など極めて幅広い分野で使用されており、そ の世界市場規模は 2 兆円とも 3 兆円とも言われている。 電力の変換、制御を行うのがパワーデバイスであるが、 電力の変換で言えば変換に伴うエネルギー損失は最小であ ることが望ましく、変換効率 100 %が理想である。現在全 世界で使用される全エネルギーの数パーセントがパワーデ バイスで消費されており、今後の省エネ社会の実現のため にはパワーデバイスの低損失化は必須となっている。また 電力の制御というと、できる限り小さい制御入力で、必要 な電力が正確に遅れなく制御できることが理想となる。 パワーデバイスでは、これら二つの要求を満足させるた めに、繰り返し高速でオン・オフできるデバイス技術の向 上が図られてきた。現在使用されているパワーデバイスは、 Si(シリコン)を材料としたデバイスであり、Si 技術の進 展に伴い上記理想に向かって進化してきたわけであるが、 Si という材料物性による限界に近づきつつあるというのが 現状である。 繰り返しオン・オフさせるパワーデバイスでの損失は、 オン時のオン抵抗による損失、オフ時の漏れ電流による損 失、それとスイッチング時の電圧、電流の過渡損失の合計 となる。これらの損失を少なくするには、デバイスのオン 抵抗値が小さくでき、高速で動作できるものであればよい。 これらの条件を満たすものとしては、Si より広いエネル ギーバンドギャップを持った材料をデバイスの構成材料に 用いればよく、次節で述べる SiC や GaN といったワイドバ ンドギャップ半導体を用いたパワーデバイスの研究開発が 進められている。これらワイドバンドギャップ半導体パ ワーデバイスは、従来の Si パワーデバイスに比べて、その バンドギャップの広さが故に高耐圧、低消費電力、高速動 作、高温動作などが可能となるため、次世代パワーデバイ スとしての期待が大きい。 3 − 1 ワイドバンドギャップ半導体 これまで実用 化されてきたパワーデバイスは、集積デバイスと同様に使 用されている半導体材料は、ごく一部を除き、Si である。 Si パワーデバイスとしては、ダイオード、サイリスタや MOSFET※2、IGBT※3等のトランジスタなどの多くのデバ イスが開発され、極めて広い分野で数多く使用されており、 年々その数も増大を続けている。 パワーデバイスの使用数量の増大に伴い、その消費電力 も増加の一途を辿っている。前節でも述べたように、近年、 特に地球温暖化防止の観点から省エネルギー指向がますま す高まってきており、パワーエレクトロニクス機器に対す る更なる低損失化、高効率化が望まれている。上記要望に 応えるためには Si よりエネルギーバンドギャップが広い SiC、GaN 等のワイドバンドギャップ半導体によるパワー デバイスの実現が不可欠になってきている。 ワイドバンドギャップ半導体は、表 1 に示すように、Si に比べて広いバンドギャップを持った半導体であり、SiC、 GaN などはそのバンドギャップは、Si に比べて約 3 倍と大 きい。広いバンドギャップを持つことは、電界印加時の破 壊が起こりにくいことになり、SiC、GaN の絶縁破壊強度 は、Si のそれの約 10 倍の値となっている。また速い飽和 ドリフト速度、高い熱伝導度などの優れた物性も有してい る。パワーデバイスの消費電力は、電流が流れているオン 時の抵抗(オン抵抗)での損失と、スイッチング時の損失 が主であり、消費電力低減のためにはオン抵抗を下げるこ とが重要になる。パワーデバイスのオン抵抗は、デバイス の種類によっても異なるが、ドリフト層(パワーデバイス の耐圧を保持する層)と呼ばれる半導体層の抵抗が大きな 部分を占める。SiC を用いるとその絶縁破壊電界が Si のそ れの約 10 倍であるので、ドリフト層の厚みを Si に比べて 約 1/10 に低減できる。また、半導体内部の電界強度は ドーピング濃度の 1/2 乗に比例するので、ドーピング濃度 は電界強度の 2 乗に比例した値まで調整できる。すなわち 絶縁破壊電界が 10 倍である場合は、ドーピング濃度を 100 倍という高い値にすることができる。ドリフト層の抵 表 1 各種半導体の物性値­­­­­­­­

3. ワイドバンドギャップ半導体パワーデバイス

Si 4H-SiC GaN AlN ダイヤモンド

バンドギャップ (eV) 1.1 3.3 3.4 6.2 5.5 電子移動度 (cm2/Vs) 1,400 1,020 2,000 1,090 2,000 絶縁破壊電界 (MV/cm) 0.3 3.0 3.3 12.0 8.0 飽和ドリフト速度 (cm/s) 1.0×107 2.0×107 2.7×107 2.2×107 2.5×107 熱伝導率 (W/cmK) 2 5 1 3 20

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抗の値は、その厚さに比例し、濃度に反比例するので、 SiC を用いるとその抵抗は、Si のそれの約 1/1000 にする ことができる。オン抵抗には、ドリフト層抵抗以外の抵抗 も加わるが、絶縁破壊電界の値が大きい SiC 等のワイドバ ンドギャップ半導体を用いると、Si に比べてパワーデバイ スのオン抵抗の値を大幅に下げることができ、パワーデバ イスの損失を下げることができる。 ワイドバンドギャップ半導体の絶縁破壊電界は Si のそれ に比べて十分に大きいので、デバイスの厚さを最適化する ことにより、Si パワーデバイスに比べて高耐圧、低消費電 力のパワーデバイスが実現できることになる。 3 − 2 SiC パワーデバイス SiC はワイドバンド ギャップで高温耐性があるということで 1950 年代には世 界的規模で精力的に研究開発が進められたが、高品質な単 結晶製造が困難であるという問題があり、その後あまり研 究されなくなった。ところが、1970 年代終わり頃に「種 付け昇華法」と呼ばれる結晶成長手法がロシアで見出され、 また 1980 年代後半には高品質エピタキシャル成長法であ る「ステップ制御エピタキシー技術」が日本で報告された(24) これら 2 つの大きな技術開発により、1990 年代に入って SiC パワーデバイス開発への機運が一気に高まった。 SiC パワーデバイスとしては、まずショットキーバリア ダイオード※4が開発され、2001 年から市販されるように なっている。現在の研究開発の対象は、スイッチング用の 各種トランジスタであり、国内外で盛んに研究開発が進め られている。当社では、通信機器、産業用機器、各種電源、 ハイブリッド車等の電動自動車や民生機器への搭載を目指 し、SiC の特長を最大限に生かしうるパワーデバイスとし て RESURF(REduced SURface Field :表面電界緩和) 型接合型電界効果トランジスタ(JFET※5(2)〜(6)と MOS 型 電界効果トランジスタ(MOSFET)(7)の開発を進めている。 前者の JFET は、チャンネル部分の電流経路が半導体内 部にあるので、MOSFET などとは異なり SiC 材料固有の移 動度をチャンネル移動度として活用できることとなり、 SiC 材料物性を十分に生かすことができるデバイスである と言える。デバイスの構造を工夫することにより、既存の Si パワーデバイスでは得られない高速動作、低損失、高耐 圧の性能を兼ね備えたユニークなデバイスが実現できる。 写真 1 に RESURF 型 JFET の顕微鏡写真を、図 1 にその 断面構造図を示す。 図中のソース電極、ドレイン電極間の n 型チャンネル層 を流れる電流をゲート電極の電位で制御する構造である が、n 型チャンネル層は p 型層で挟まれた構造となってい る。この構造は、ゲート、ドレイン間の電界強度のピーク を抑え、同時にチャンネル層の高キャリア密度化による低 抵抗化を図るものであり、デバイスの低抵抗、高耐圧性能 の両立を実現させている。チャンネル長 1um のデバイスの スイッチング特性としては、立ち上がり、立ち下がりとも 約 3ns という値が得られている。このような数百 V 耐圧領 域において高速スイッチングが可能であるという特性か ら、スイッチング電源や省エネ型の携帯基地局電源への応 用が期待できる。 一方、後者の MOSFET に関しては、ノーマリオフ※6 作か可能で、高耐圧、低損失が期待できるデバイスである が、MOS 界面の不完全さで未だ十分な電子移動度が得ら れていないのが実情である。当社では、特殊なプロセスを 施すことにより、表面が原子層レベルで平坦な SiC 表面を 形成し、この表面に形成した MOS 構造で高電子移動度が 得られることを示した(7)。この SiC MOSFET は高耐圧、 低損失、大電流動作が期待できるため、Si パワーデバイス のうちでも比較的大容量向けの IGBT の置き換えとして電 力機器用や自動車用への応用が期待されている。

3 − 3 GaN 系電子デバイス GaN は SiC とほぼ同じ

バンドギャップのワイドバンドギャップ半導体であり、そ の材料特性は似通っているが、GaN 電子デバイスは SiC 電 子デバイスに比べて同一構造ではそのオン抵抗の値を数分 の 1 に下げることができるため、省エネデバイスとして期 待されている。 GaN 系デバイスとしては、白色 LED や青紫レーザ等の 光デバイスがまず市場に出たが、電子デバイス用の大口径 GaN 基板の入手が困難であったため、基板としては格子不 整合系の SiC や Si が用いられた。SiC 基板上の GaN 電子デ バイスとしては、無線通信用のデバイスとしての GaN チップサイズ 2mm×2mm source gate 1.9mm 0.48mm drain gate source 150mm drain 写真 1 RESURF-JFET の顕微鏡写真 注入層(p型) 注入層(n型) 第4エピ層(p型) 第3エピ層(n型) 第2エピ層(p型) 第1エピ層(p +型) SiC基板(n型) ゲート ソース ドレイン ゲート ソース 図 1 Resurf 型 SiCJFET の模式断面図

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HEMT※7を SEDI(住友電工デバイスイノベーション㈱) がいち早く開発・製品化を実現させ、市場でリードしてい る。いわゆるパワーデバイスとしては、GaN 基板上の GaN デバイスが高性能パワーデバイスとしての期待が大き いが、低コストで良質の GaN 基板が未だ得られないこと もあり、Si 基板上の GaN パワーデバイスの研究開発が広 くなされている。基板が低コストの Si 基板であり低コスト デバイスの期待が持てるが、基板とデバイス動作層の材料 が全く異なるヘテロデバイスであるため縦方向に電流を流 すことには適していないこと、基板材料の Si の熱伝導率が GaN や SiC に比べて低いことなどにより、大容量のパワー デバイスには適しておらず、小容量の Si パワー MOSFET の置き換え等が考えられている。 当社では当社で開発した高品質 GaN 基板上の GaN 系電 子デバイスの研究開発を進めている。先ず、GaN 自立基板 上に GaN ショットキバリアダイオードおよび PN 接合ダイ オードを形成した。GaN ショットキバリアダイオードでは、 GaN 基板上の電子移動度 930cm2/Vs といった高品質 n 型 GaN 層を用いており、ダイオードの特性オン抵抗値は、 0.71mΩcm2、耐圧は 1100V といった良好な値が得られて いる(8)。一方、GaN PN 接合ダイオードにおいても、p 型 GaN 層の Mg のドーピング密度を十分下げることにより、 特性オン抵抗 6.3mΩcm2、耐圧 925V というダイオードが 得られている(9) GaN 基 板 上 の GaN ト ラ ン ジ ス タ と し て は 、 当 社 は AlGaN/GaN 系 2 次元電子ガス※8をチャンネルとした縦型 ヘテロ接合 FET を試作した(10)。このトランジスタの模式断 面構造図を図 2 に示す。作製プロセスとしては、GaN 基板 の上に形成した n−-GaN、p-GaN、n+-GaN の積層構造を

斜め研磨し、AlGaN/GaN 構造を再成長させた後、オー ミック電極、ゲート電極を形成している。ノーマリオンデ バイスでは、耐圧 672V、特性オン抵抗 7.6mΩ で GaN 系 縦型トランジスタではこれまで報告された中で最も高い Figure of Merit( VB2/RonA) の 値 が 得 ら れ て い る 。

AlGaN 層の厚さを変えることにより FET の閾値電圧を制 御することができ、ノーマリオフ動作デバイスも得られて いる。 3 − 4 AlN 系パワートランジスタ AlN は、表 1 でも 示すように、そのバンドギャップは 6.2eV と大きく、光デ バイス用途としては紫外光源の基板が考えられるが、電子 デバイスとしては、SiC や GaN より高温動作が可能でより 堅牢なパワーデバイスが期待される。ただし、AlN は、 SiC や GaN よりさらにその結晶成長が難しく、未だウェハ と呼ばれるような口径の単結晶基板は得られていない(写 真 2 参照)。 当社では、90 年台後半より AlN の基板技術、エピタキ 1mm (0002) (1011) 写真 2 AlN 単結晶の写真

Source/p–-GaN Ohmic

n–-GaN GaN Substrate Electrons Flow Re-grown AlGaN/GaN (2DEG) Drain n+-GaN p–-GaN Gate Gate 図 2 GaN 基板上の AlGaN/GaN­2 次元電子ガスをチャンネルとした 縦型ヘテロ接合 FET の模式断面構造図 (a) Drain Voltage VDS [V] 1 2 3 4 5 6 7 8 9 140 120 100 80 60 40 20 0 0 Drain Current I D [mA] 160 180 10 200 300ºC LG=3µm WG=515µm RT LG=3µm WG=515µm VGS=+2V =+1V = 0V =-1V =-2V (b) (d) (c) Drain Voltage VDS [V] 2 4 6 8 10 12 14 16 18 70 60 50 40 30 20 10 0 0 Drain Current I D [mA] 80 90 20 100 VGS=+2V =+1V = 0V =-1V =-2V =-3V VGS=+2V =+1V = 0V =-1V =-2V =-3V =-4V Drain Voltage VDS [V] 2 4 6 8 10 12 14 16 18 70 60 50 40 30 20 10 0 0 Drain Current I D [mA] 80 90 20 100 Drain Voltage VDS [V] 1 2 3 4 5 6 7 8 9 140 120 100 80 60 40 20 0 0 Drain Current I D [mA] 160 180 10 200 VGS=+2V =+1V = 0V =-1V =-2V =-3V 300ºC LG=3µm WG=515µm RT LG=3µm WG=515µm 図 3 Drain­I-V­characteristics­for­GaN-channel­HEMT­(a,­b)­and AlGaN-channel­HEMT­(c,­d)(13)

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シャル成長技術開発を進めており(11)、(12)、2007 年から参画し ている新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プ ロジェクトでは、当社作製の基板、エピを用いたトランジ スタをプロジェクトの共同研究者が試作し、評価を行って いる(13)。このデバイスは、AlN 自立基板上に形成された (Al0.24Ga0.76N チャンネル層と Al0.51Ga0.49N アンドープ層 からなる)初めての HEMT である。Vgs = 2V での最大飽 和電流は、0.13A/mm で最大 gm は、25mS/mm であった。 また、比較のために GaN をチャンネル層とする標準構造 の HEMT の作製も行い、この 2 種類のトランジスタの特性 の温度依存性を評価している。図 3 にこれらのトランジス タの室温および 300 ℃におけるドレイン I-V 特性を示す。 またドレイン電流の温度依存性を図 4 に示す。オン抵抗、 ゲート漏れ電流、および閾値電圧の温度依存性をそれぞれ 図 5、図 6、図 7 に示す。ドレイン電流の温度依存性につい ては、AlN 基板上の AlGaN チャンネル HEMT の温度依存 性は、GaN チャンネル HEMT のそれに比べて約 1/2 であ り、AlN 基板上のデバイスが高温特性に優れていることが 初めて示された。 3 − 5 ダイヤモンドパワーデバイス ダイヤモンド は、炭素単体の結晶であり化合物半導体ではないが、ワイ ドバンドギャップ半導体ということでパワーデバイス用材 料として期待が大きいものであり、本稿で述べることとす る。ダイヤモンド結晶は、硬さ・強度等の機械的特性が優 れており、また熱伝導率が高い、といった材料物性により、 線引きダイスや精密バイト等の加工工具やヒートシンク等 に用いられてきたが、ワイドバンドギャップ半導体材料と しての応用は未だない。 ダイヤモンドの半導体材料としての性能では、そのバン ドギャップの大きさからくる高絶縁破壊電界強度と高熱伝 導度が最大の特長である。パワーデバイスとしての性能指 数では他の材料を圧倒する値となっており、ダイヤモンド パワーデバイスへの期待は大きい。 ダイヤモンドパワーデバイスの実用化に向けての大きな 課題は、結晶成長技術とデバイスプロセス技術の高度化が 挙げられる。前者の結晶成長に関しては、不純物や結晶欠 陥の少ない大型の高品質な単結晶ダイヤモンドを然るべき 製造コストで作製することが必須となる。ダイヤモンドの 合成法としては、超高圧合成法や気相合成法があるが、半 120 100 80 60 40 0 0 100 200

Normalized drain current (%)

300 400 Temperature (ºC) 20 LG=3µm V VVVDSGS = 10V = 0 V AlGaN Channel GaN Channel 図 4 Normalized­drain­current­vs­temperature(13) 300 0 100 200 300 400 LG=3µm Temperature (ºC)

Normalized on-state resistance (%)

250 200 150 100 50 0 GaN Channel AlGaN Channel 図 5 Normalized­on-state­resistance­vs­temperature(13) 0 100 200 300 400 LG=3µm Temperature (ºC) Th re sh ol d vo lta ge (V ) GaN Channel AlGaN Channel -5 -4 -3 -2 -1 0 図 7 Threshold­voltage­vs­temperature(13) 0 100 200 300 400 LG=3µm Temperature (ºC) G at e le aka ge cu rr en t ( A/ m m ) GaN Channel AlGaN Channel 10-8 10-7 10-6 10-5 10-4 10-3 VGS=-7V 図 6 Gate­leakage­current­vs­temperature(13)

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導体デバイス用の基板としては、プラズマ CVD 法などの 気相合成法が適している。産業技術総合研究所(以下産総 研と略す)では、従来から気相合成法によるダイヤモンド 単結晶作製技術の研究を進めてきているが、最近では、大 型結晶が得られる成長面を変えて気相成長する結晶成長技 術「繰返し成長技術」、種結晶から板状に成長したダイヤ モンドをロスなしに分離する技術「ダイレクトウェハ化技 術」の開発に成功し、これらの技術の適用により大型ウェ ハの作製が可能となっている(14)。産総研はさらに、ダイレ クトウェハ法を使って性質のそろった単結晶ダイヤモンド 薄板を複数作製し、これらの薄板同士を接合して 1 インチ 角程度の大面積ウェハを作製した(15)(写真 3)。この成果は、 ダイヤモンドデバイスの製造に必要な大型ダイヤモンド基 板の量産可能性を示したものと言える。 ダイヤモンドを用いたデバイスとしては、これまで SAW(表面弾性波)デバイス※ 9、電子エミッタ、紫外 LED(発光ダイオード)やショットキバリアダイオード、 MOSFET(MOS 型電界効果トランジスタ)等のパワーデ バイスが研究開発されている。 SAW デバイスはいわゆる半導体デバイスではないが、 ダイヤモンドの表面を伝搬する弾性波の高速性を活用す べく、当社でも GHz 帯の高周波 SAW デバイスへの応用 開発を行った(16)、(17)が、実用化へは至っていない。ダイヤ モンドは電子を引き出しやすい性質があり低電圧、大電流 の電子エミッタが可能となるため、電子ビーム露光装置、 電子顕微鏡、電子線照射装置などの電子銃への応用が期待 されている。当社では、高濃度にリンをドープした n 型ダ イヤモンドで優れた電子放出性能を示すことを見いだし、 1mm2のデバイスから 1103mA の大電流電子放出を得るこ とに成功している(18)(写真 4)。また、NEDO プロジェクト としてエリオニクス社、産総研とで行った共同開発では、 ダイヤモンド電子源による電子線描画でレジスト上に世界 最狭線幅となる 4nm の電子線描画に成功しており(19)、また、 電子顕微鏡用電子銃モジュール(写真 5)を作製し、観察 倍率 10 万倍での金粒子の二次電子像の撮影に成功してい る(写真 6)。 さて本論のパワーデバイスであるが、ダイヤモンドを用 いたパワーデバイスとしては、ショットキバリアダイオー ドとトランジスタの研究が進められている。当社が産総研 と共同で行ったショットキーバリアダイオードの研究で 10mm 写真 3 ダイヤモンドウェハの写真(15) 写真 6 ダイヤモンド電子銃で撮影した観察倍率10 万倍の金粒子二次電子像 写真 5 電子源モジュール 写真 4 ダイヤモンド電子エミッタアレイ(5µm ピッチアレイ)

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は、耐電界強度は 3.1MV/cm と SiC を超える高い値が得ら れている(20)。ダイヤモンドはそのエネルギーバンドギャッ プが大きく、高温動作デバイスが期待できるが、産総研は Ru(ルテニウム)という材料をショットキ電極に用いるこ とにより、400 ℃、500 ℃という高温で動作するダイオー ドを開発している(21)。また、このダイオードの高速スイッ チング特性についても報告がなされている(22) ダイヤモンドを用いたトランジスタの研究に関しては、 1990 年代から始まっている。水素終端したダイヤモンド 表面にはホールの蓄積層が生じ、このホール蓄積層をチャ ンネルとしたトランジスタが多く報告されている。早稲田 大学からは、ゲート長 0.15µm のトランジスタでカットオ フ周波数として 45GHz という高い値が報告されている(23) ダイヤモンド半導体は、これを用いたパワーデバイスの 性能指数としては、他の半導体材料デバイスのそれを圧倒 する値を示し、高耐圧、低消費電力、高温動作デバイスと しての期待が大きく、また上記したようにダイオード、ト ランジスタの研究も進められている。しかし、これらのデ バイスの実用化のためには、高品質、大口径のダイヤモン ドウェハは必須であり、産総研が成果を挙げつつはあるが、 今しばらくの開発期間がかかるものと予想される。

4. 結  言

SiC、GaN 等の化合物半導体やダイヤモンドなどのワイ ドバンドギャップ半導体を用いたパワーデバイスは、その 材料物性により、現在市場で広く用いられている Si パワー デバイスに比べて、低消費電力、高耐圧、高周波動作、高 温動作が可能となるため、多くの市場分野で次世代パワー デバイスとしての期待が大きい。 これらのワイドバンドギャップ半導体パワーデバイスの 実用化に向けての最大の課題は、如何にして Si パワーデバ イス並の製造コストで生産できるかであり、その鍵は高品 質、低コストの大口径基板の実現だと思われる。基板結晶 の成長が難しく、未だ低コスト、大口径の基板が得られて いないのが実情である。この課題へのソルーションを見い 出したものが市場参入の一番乗りになるものと予想され、 当社もこの難しい課題を解こうと種々の検討を進めている。 一旦でも化合物半導体デバイスの開発に携わった技術者 は、その魅力に取り付かれ、寝ても覚めても新しいデバイ スの実現に向けて行動することになる。筆者も化合物半導 体材料メーカに入社して以来この魔物に取り付かれ、一貫 して化合物半導体デバイスの研究開発を行ってきた。今は、 来るべき省エネルギーの社会の実現に向けて、ワイドバン ドギャップ半導体を何とか手なずけようと奮闘している。 用­語­集ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※ 1 ワイドバンドギャップ半導体 SiC、GaN、ダイヤモンドといったそのエネルギーバンド ギャップが Si のそれより大きい半導体。次世代パワーデバ イス用の半導体材料として期待されている。 ※ 2 MOSFET

Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor :電界効果トランジスタ(FET)の一種で、ゲート部は ゲート電極と半導体層との間に酸化物を挿入した MOS (金属/酸化物/半導体)構造。LSI の中で最も一般的に使

用されているデバイス。 ※ 3 IGBT

Insulated Gate Bipolar Transistor :バイポーラトランジ スタのベース部に MOSFET を付けた複合デバイス。中容 量のパワートランジスタとして広く用いられている。 ※ 4 ショットキバリアダイオード 金属と半導体との接合(ショットキ接合)によって生じる ショットキ障壁を利用したダイオード。 ※ 5 JFET

Junction Gate Field Effect Transistor : pn 接合により生 じる空乏層をゲートに印加する電圧によって変化させ、 ソース−ドレイン間に流れる電流を制御するトランジスタ。 ※ 6 ノーマリオフ型 トランジスタのゲート電極に電圧を印加しない時は、ソー ス−ドレイン間に電流が流れないタイプ。反対にゲート電 極に電圧を印加しない時も電流が流れるデバイスは、ノー マリオン型と呼ばれる。 ※ 7 HEMT

High Electron Mobility Transistor :半導体ヘテロ界面

に生成される二次元電子ガス※8をチャンネルに用いる高速 トランジスタ。 ※ 8 二次元電子ガス 半導体のヘテロ界面に生成される電子が二次元的に分布し ている状態。※ 7 の HEMT は、この二次元電子ガスをチャ ンネルに応用したもの。 ※ 9 SAW デバイス

固体の表面を伝搬する表面弾性波(SAW: Surface Acoustic Wave)を利用してデバイス。バンドパスフィルタ等が実 用化されている。

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参 考 文 献 (1)林秀樹、「化合物半導体デバイス−限りなき可能性を求めて−」、SEI テクニカルレビュー第 173 号、PP14-24(2008) (2)K. Fujikawa, S. Harada, A. Ito, T. Kimoto and H. Matsunami,“600V 4H-SiC RESURF-type JFET”, Material Science Forum, 457, p.1189 (2004) (3)T. Masuda, K. Fujikawa, K. Shibata, H. Tamaso, S. Hatsukawa, H. Tokuda,  A.  Saegusa,  Y.  Namikawa  and  H.  Hayashi,“ Low  On-Resistance in 4H-SiC RESURF JFETs Fabricated with Dry Process for Implantation Metal Mask”, Material Science Forum, 527, p.1203 (2006) (4)K. Fujikawa, K. Shibata, T. Masuda, S. Shikata and  H. Hayashi,“800V 4H-SiC RESURF-Type Lateral JFETs”, IEEE Electron Device Letters, 25, p.790(2004) (5)H. Tamaso, J. Shinkai, T. Hoshino, H. Tokuda, K. Sawada, K. Fujikawa, T. Masuda, S. Hatsukawa, S. Harada and Y. Namikawa,“Fabrication of a Multi-chip Module of 4H-SiC RESURF-type JFETs”, Materials Science Forum, 556, P.983(2007) (6)K. Fujikawa, K. Sawada, T. Tsuno, H. Tamaso, S. Harada and Y. Namikawa,“Fast Swetching Characteristics of 4H-SiC RESURF-type JFET”, International Conference on Silicon Carbide and Related Materials(2007) (7)T. Masuda, S. Harada, T. Tsuno, Y. Namikawa and T. Kimoto,“High Channel Mobility of 4H-SiC MOSFET Fabricated on Macro-Stepped Surface”, International Conference on Silicon Carbide and Related Materials (ICSCRM)(2007) (8)Y. Saitoh, K. Sumiyoshi, M. Okada, T. Horii, T. Miyazaki, H. Shiomi, M. Ueno, K. Katayama, M. Kiyama and T. Nakamura,“Extremely Low On-Resistance and High Breakdown Voltage Observed in Vertical GaN Schottky Barrier Diodes with High-Mobility Drift Layers on Low-Dislocation-Density GaN Substrates”, Appl. Phys. Express 3, 081001(2010) (9)Y. Yoshizumi, S. Hashimoto, T. Tanabe and M. Kiyama,“High-breakdown-voltage pn-junction diodes on GaN substrates”, J. Crystal. Growth, 298, pp.875-878(2007) (10)Okada, Y. Saitoh, M. Yokoyama, K. Nakata, S. Yaegassi, K. Katayama, M. Ueno, M. Kiyama, T. Katsuyama and T. Nakamura,“Novel Vertical Heterojunction Field-Effect Transistors with Re-grown AlGaN/GaN Two-Dimensional Electron Gas Channels on GaN Substrates”, Appl. Phys. Express 3, 054201(2010) (11)M. Tanaka, S. Nakahata, K. Sogabe, H. Nakahata and M. Tobioka, “Morphology and X-ray diffraction peak widths of Aluminium Nitride single crystals prepared by the sublimation method”, Jpn. J. Appl. Phys., Vol.36, L10621(1997) (12)宮永倫正、水原奈保、藤原伸介、嶋津充、中幡英章、「昇華法による AlN 単結晶成長」、SEI テクニカルレビュー第 168 号、p.p.103-106 (2006) (13)M. Hatano, N. Kunishio, H. Chikaoka, J. Yamazaki, Z.B. Makhzani, N. Yafune, K. Sakuno, S. Hashimoto, K. Akita, Y. Yamamoto and M. Kuzuhara,“Comparative high-temperature DC characterization of HEMTs  with  GaN  and  AlGaN  channel  layers”,  CS  MANTECH Conference, p.101(2010) (14)産総研プレスリリース(2007.03.20)  (15)H. Yamada, A. Chayahata, Y. Mokuno, H. Umezawa, S. Shikata and N. Fujimori,“Fabrication off 1 Inch Mosaic Crystal Diamond Wafers”, Applied Physics Express 3, 051301(2010) (16)鹿田真一、「ダイヤモンドの特性を活用したデバイスの開発」、化学、 Vol.62、No.6(2007) (17)藤井知 他、「ダイヤモンド SAW デバイスの進展」、NEW DIAMOND、 Vol.25、No.2(2009)

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(23)平間一行、川原田洋、「ワイドギャップ半導体ダイヤモンドを用いた 高周波高出力 MOSFET の開発」、科学と工業 Vol.83、No.4(2009) (24)N. Kuroda, K. Shibahara, W. S. Yoo, S. Nishino and H. Matsunami,

“ Step-Controlled VPE Growt  of  SiC  Single  Crystals  at  Low Temperatures,” Ext. Abstr. 19th Conf. on Solid State Devices and Materials, p. 227(1987) 執 筆 者---林  秀樹 :フェロー 博士(工学) 情報通信・システム事業本部 技師長 IEEE フェロー 電子情報通信学会 評議員 応用物理学会 フェロー 輻射科学研究会理事 日本工学アカデミー会員 1978 年入社以来一貫して化合物半導体デバイスの研究開 発 およびその実用化に従事。 オプトエレクトロニクス研究所長、デバイス技術センター 長、半導体技術研究所長、パワーデバイス開発室長、材料 技術研究開発本部 技師長を経て、現職

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