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J-STAGE Advance Published Date: December 4, 2009 Original Article 没入型 3 次元映像呈示におけるテニス打球に対する知覚 1) 2) 2) 2) 1) Perception of Tennis Ball

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没入型 3 次元映像呈示におけるテニス打球に対する知覚

井田博史

1)

・福原和伸

2)

・高橋まどか

2)

・石井源信

2)

・井上哲理

1)

Perception of Tennis Ball Flight in an Immersive Three-dimensional Visual Display

Hirofumi Ida

1

, Kazunobu Fukuhara

2

, Madoka Takahashi

2

,

Motonobu Ishii

2

and Tetsuri Inoue

1 Abstract

The Cave Automatic Virtual Environment (CAVE), which is a computer-simulated 3D virtual reality (VR) system, is expected to provide sport learners with interactive and immersive learning materials. The purpose of this study was to reveal perceptual characteristics of tennis players when they viewed the tennis ball flight reconstructed in CAVE. The visual stimuli of this study were reconstructed based on the actual measured values of the tennis court and the ball flight. Perceptual performances, subjective impression scoring and shot type discrimination (flat, topspin and slice), were assessed by varying the conditions of three visual VR settings: binocular disparity, screen number, and viewpoint.

The augmented-disparity setting was likely to induce a higher sense of discomfort than the no-disparity and normal-no-disparity settings. The four-screen condition was more likely to induce a correct response than the one-screen condition. The viewpoint of the umpire induced a significantly higher sense of discomfort than the field player viewpoints, and the viewpoint close to the approaching ball made it more difficult to discriminate the shot type. This research was a pilot study on sport perception in VR, and the results will contribute to the construction of sport-simulating VR systems.

Key words: CAVE, virtual reality, computer graphics, tennis, binocular disparity

1) 神奈川工科大学 〒243-0292 神奈川県厚木市下荻野1030 2) 東京工業大学 〒152-8552 東京都目黒区大岡山2-12-1 連絡先:井田博史 E-mail: [email protected]

1 Kanagawa Institute of Technology

1030 Shimo-ogino, Atsugi, Kanagawa, 243-0292 JAPAN 2 Tokyo Institute of Technology

2-12-1 Oh-okayama, Meguro, Tokyo, 152-8552 JAPAN Corresponding author: Ida Hirofumi

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序  論 スポーツにおいて,知識の獲得には書籍教材 や視聴覚教材が使われるが,その一方,スキル の獲得はフィールド上での実践トレーニングを 通して行うのが一般的である.しかしビデオ映 像に代表される視聴覚メディアについては,疑 似実践的に知覚スキルトレーニング教材として 利用することが可能である.テニスを例にとる と,中級プレーヤーがビデオ映像を用いた知覚 トレーニングを行ったところ,実際のサーブリ ターンに対するパフォーマンスの向上がみられ た と 報 告 さ れ て いる(Scott et al., 1998).また, 高齢プレーヤーに対しても知覚トレーニングの 効果があることが実証されている(Caserta et al., 2007).さ ら に , ビ デ オ 映 像 は サ ー ブ 動 作 の フィードバック学習をするためのメディアとし ても利用されている(Emmen et al., 1985;Van Wieringen et al., 1989).視聴覚メディアは,知 覚トレーニングやフィードバック学習に関して スポーツの分野でもその活用が期待されている. コンピュータグラフィクス(Computer Graphics, 以下CG)映像を用いたヴァーチャルリアリティ (Virtual Reality, 以下VR)技術は,単なる娯楽 やエンターテイメントにとどまらず,ドライヴィ ングシミュレータなどの疑似体験装置としても 活用されている比較的新しい視聴覚メディア技 術である.スポーツを模擬したVR空間も,野 球(Andersson, 1993),ハンドボール(Bideau et al., 2004),卓球(Brunnett et al., 2006)など においてシステム開発例が報告されている.卓 球の打法教示においてVRフィードバックの有 効性が示唆され(Todorov et al., 1997),また VRの利用とスキル獲得の促進(Liebermann et al., 2002)やVRの実在感とパフォーマンス発揮 の関係(Witmer and Singer, 1998)などさまざ ま議論されているものの,スポーツにおける VR利用の効果についてはまだ検証例が多いと はいえない.

Cave Automatic Virtual Environment(以下CAVE) は,Illinois大学のElectronic Visualization研究室 のグループによって最初に報告された没入型 VR呈示システムである(Cruz-Neira et al., 1992). CAVEは, 3 ∼ 6 面の大型スクリーンによって 囲まれており,立体視メガネなどと複数のプロ ジェクタおよび複数のスピーカーを利用して映 像と音声を3 次元的に呈示するシステムの呼称 である.サッカーなどのチーム競技はもちろん のこと,テニスのラリーや野球のバッティング のような対峙型の状況においても,ボールの軌 道がプレーヤーの正面だけでなく横方向や上下 後方までおよぶため,多くの球技スポーツでは プレーヤーの周囲多方向への知覚活動が必要と なる.このような状況を呈示するためには, ユーザーを包囲するCAVEの多面スクリーンは 有用である.Zaal and Michaels(2003)は飛来 するボールをCAVEシステムに呈示し,前額部 を用いたボールのインターセプト課題でVR空 間でも現実空間と類似したパフォーマンスを発 揮することを報告した.スポーツ場面でも, CAVEにおけるユーザー入力と呈示が連動する 双方向性(interactive)やユーザー自身が呈示 環境内に入り込む没入性(immersive)を活か した利用が期待されている. 本研究では,CAVEにおいて構築したテニス 環境,特に打球されたテニスボールに対する ユーザーの知覚活動を分析の対象とする.テニ ス場面における知覚活動は,相手プレーヤーの 動作に内在する予測や判断のための視覚手がか りに関して多く調べられてきた.これについて は,現実空間やビデオ映像(例えば,Williams et al., 2002など)だけでなくCGアニメーショ ン(Fukuhara et al., in press;井田ほか,2006; Pollick et al., 2001)の利用もみられる.その一 方で,打球に対する知覚パフォーマンスに関し てはほとんど議論されてきていない.一般に, 飛来するボールの知覚に関する研究は,Chapman 方略(Chapman, 1968)に代表される知覚−動 作カップリング理論の検証が中心となっており (例えば,McBeath et al., 1995など),VR環境の利用 もみられるが(McLeod et al., 2008;Zaal and Michaels, 2003),個々の競技における知覚スキルやパフォー マンスを解明することは主題となっていなかっ た.その中で,Craig et al.(2006)はサッカーの

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フリーキックにおけるゴールキーパーの知覚パ フォーマンスを調べ,ボールがサイドスピンに よりカーブする場合,最終到達位置の予測判別 精度が低下することを明らかにした.Craig et al.の研究では,ヘッドマウントディスプレイ上 にヴァーチャルスタジアムとボールのCGアニ メーションが呈示されており,相手キッカーの 動作情報を除外したボールの運動のみに対する 知覚活動を解明することを可能としている. ボールのみの呈示はChapman方略の検証に関す る研究でも一般的な手法であり,野球の外野手 の捕球(McBeath et al., 1995)やサッカー選手の ヘディング(McLeod et al., 2008)などを対象に 用いられている.本研究ではCraig et al.に倣 い,テニスコートとボールのみをCAVEに呈示 し,相手動作情報を除外した打球のみに対する 知 覚 パ フ ォ ー マ ン ス を 調 べ た.Farrow and Abernethy(2002)の報告を参考にすれば,ビ デオ映像呈示によるテニスサーブ打球の左右の 予測課題において,インパクト直前に60%程度 であった正答率が,インパクト後ボールがネッ ト付近に到達するまででは70−90%にまで向上 することが分かる.インパクト後のボールはプ レーに重要な視覚情報を多く含んでおり,例え ば初期段階のテニスプレーヤーが,トップスピ ンショットやスライスショットなど打法により 多様に異なる打球の軌道パターンを学習するこ とは有益であると考える. 我々は本研究を,スポーツ体験環境として VR空間を利用するための試験的研究と位置付 ける.CAVEに呈示する映像は,実際のテニス の打球データを参照して制作を行った.これを 用いて,ユーザーの基本的知覚特性を明らかに することを目的として,テニスプレーヤーを対 象に評価実験を行った.実験課題を3 つ設定 し,それぞれ視差条件,スクリーン条件,視点 条件が知覚に与える効果を調べるものとした. 視差条件では,視差設定値(物体の飛び出し量 に関係)を操作しそのときのユーザーの主観的 印象評価を調べることにより,立体効果とユー ザー感覚との関係性を検証することを目的とし た.スクリーン条件では,呈示するスクリーン 数を操作しそのときの打球タイプ判別能力を調 べることにより,没入呈示の有効性を検証する ことを目的とした.視点条件では,ユーザーの 視点位置を操作しそのときの主観的印象評価と 打球タイプ判別能力を調べることにより,知覚 パフォーマンスの視点依存性を検証することを 目的とした. 方  法 1.VR呈示映像 呈示映像はヴァーチャルテニスコートおよび テニスボールのCGアニメーションとし,実測 の大きさおよび運動データに基づいて作成し た.ボールアニメーションの運動データを収集 するため,男子テニスプレーヤー(年齢23歳, テニス歴10年,以下実演者)が打球するとき の,一連のボール位置を計測した(Fig. 1).実 演者には,送球されたボールを実演者から向 かって左側サイドに設置されたターゲットエリ ア(2 m× 2 m )を目指して, 3 種類のグラウ ンドストローク打法(フラット,トップスピ ン,スライス)で打球するように指示した.映 像の撮影は,サンプリング速度250Hzで,同期 した2 台のハイスピードカメラ(HSV-500c3 nac社,東京)により行った.ターゲットエリ ア内に正しく打球され,かつ実演者の内省報告 で打球感が良好であった試技を成功とし,1 種 類の打法につき成功試技3 回分の映像データを 収集した.ボールのディジタイジングは,動作 解析ソフトウェア(Frame-DIAS II,DKH社,東 京)上で行い, DLT(Direct Linear Transformation) 法により3 次元座標データを求めた(Abdel-Aziz and Karara, 1971).座標較正における標準誤差は それぞれ ,X=0.036m ,Y=0.054m ,Z=0.017mで あり,それぞれ較正空間の0.4%,0.2%,0.7% の値であった.ディジタイジングは離散的に行 い(離散ディジタイジング),送球開始,送球 のバウンド,実演者のインパクト,打球のバウ ンド,最終視認可能コマおよびそれらを1/4に 時間分割したコマを対象とした(Fig. 1,白丸 および黒丸).1 試技あたりのキャプチャ時間 (M±SD) は そ れ ぞ れ, フ ラ ッ ト 打 法3.71±

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0.35s,トップスピン打法3.59±0.13s,スライ ス打法3.85±0.16sであった.また,打球のバウ ンドから最終視認可能コマまでの時間について はそれぞれ,フラット打法0.59±0.10s,トップ ス ピ ン 打 法0.52±0.02s, ス ラ イ ス 打 法0.57± 0.09sであり,いずれも 2 回目のバウンドの前 であった. CGおよびVR空間の構築は,CGモデリングソ フトウェア(3ds Max, Autodesk Inc., San Rafael, CA, USA)およびVR構築ソフトウェア(OmegaSpace, ソリッドレイ研究所,横浜)により行った.これ らのソフトウェアでは,多くの設定値や関数が 用意されているが,以下では特に断らない限り デフォルトの設定値を用いた.3ds Maxにおい て,オブジェクトはすべて標準プリミティブに より作成し,ボール座標データの補間にはキー フレーム機能を用いた.ここで250Hzにおいて ディジタイジングしたコマ番号は30Hzの番号に 近似変換した.次に,データをOmegaSpaceにイ ンポートし,視点カメラおよびアニメーション の実行制御を設定した. フラット打法1 試技について,離散ディジタ イジングおよび連続ディジタイジング(すべて のコマをディジタイジング)した場合の時系列 変化を3ds Maxのカーブエディタ上で比較した (Fig. 2).離散ディジタイジングにおける補間 は,デフォルトのベジェコントローラを利用し たため,スプライン曲線による座標データの平 滑化がみられた.一方,連続ディジタイジング では,画像をレンダリングした際に不自然な ボール飛行が観察された.ベジェ変換における 接線タイプを手動で調節することは可能である が,本研究では,作業の低減および自動性を優 先したためこの調節は行わなかった. 2.CAVEシステム 使用したCAVEは前,右,左,床(各2.5m× 2.5m)の計 4 面からなる立体スクリーンを持 ち(Fig. 3a),各面に左右眼用それぞれ 2 台, 計8 台のプロジェクタが映像を投影する.各プ ロジェクタ1 台にはPC 1 台が割り当てられて おり,これに1 台のメインPCを加えて計 9 台 のPCにより制御されている.使用したCAVEで は円偏光方式が採用されており,プロジェクタ

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投影部に円偏光フィルタが設置され,ユーザー は円偏光メガネ(Fig. 3b)を装着して映像を観 る.スクリーンには左右各眼それぞれの視点位 置に対応する2 つの偏光像が呈示され,その両 眼像差(視差)が立体感・奥行き感を与える. デフォルトの視差設定値は0.064であり,これ はヒトの標準的な左右眼間の距離(単位:m) に基づいて規定されている.標準のユーザー視 点位置は,CAVE床面中央部の鉛直上方1.6mに 設定されている. 3.実験課題 実験刺激は,「1.VR呈示映像」で作成した 映像とし音声は用いなかった(Fig. 3c).被験 者はすべて,実験前に内容の説明を受け実験参 加に同意した.3 つの実験課題それぞれの詳細 は以下の通りである. (1)視差条件 本課題では,立体効果とユーザー感覚との関 係性を検証する.被験者は,テニスプレーヤー 12名(年齢22.0±4.0歳)であり,日常的にテニ スの練習をした経験は7.1±1.9年であった.実 験刺激はフラット打法のグラウンドストローク 3 試技とし,視差設定値を変えた 3 条件を用意 した.設定値0 (視差なし)をD0条件,0.064 (デフォルト)をD1条件,0.128(デフォルトの 倍値)をD2条件とした.呈示面数は全 4 面, 視点はラリー中のプレーヤーの位置を想定して コート中央後方(Fig. 3c,FVに相当する位置) に設定した.打球のインパクトはCAVE前面, バウンドは前面と右面との境界付近でそれぞれ おこり,バウンド後は右面内を後方に向かって 移動した.被験者は,それぞれの視差条件でグ ラウンドストローク3 試技を観た後,その都度 「立体感」,「速度感」,「距離感」,「物理感」, 「違和感」,「総合的な現実感」の6 項目の印象 評価項目に対して回答した.評点尺度にはVAS (Visual Analog Scale,視覚的アナログ尺度)を 用い,コンピュータスクリーン上に呈示される 100段階のスライダーバーをマウスで操作する ことにより得られたスコア値を解析データとし た.このうち,「立体感」は映像における立体 感覚・奥行き感覚の強度(0 :弱い−100:強 い),「速度感」はボールに対する速度感覚の強 度(0 :弱い−100:強い),「距離感」と「物 理感」はボールに対するそれぞれの感覚の現実 空間との類似度(0 :似ていない−100:似て いる),「違和感」は映像における不調和度・不 快度(0 :弱い−100:強い),「総合的な現実 感」は現実感・実在感の総合的な再現度(0 : 低い−100:高い)と定義した. (2)スクリーン条件 本課題では,没入呈示の有効性を検証する.

Figure 2 X (a), Y (b) and Z (c) coordinate data of

tennis ball flight obtained by discrete digitizing and interpolation and sequential full digitizing .

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被験者は「(1 )視差条件」と同じテニスプ レーヤー12名であり,そのうち 6 名(年齢22.2 ±4.4歳,日常的な練習経験7.7±1.4年)はスク リーン4 面の全面に呈示を受けるS4群,残り の6 名(年齢21.4±3.6歳,日常的な練習経験 6.3±2.4年)は 4 面のうち前面のみに呈示を受 けるS1群にそれぞれ配置された.実験刺激に は,フラット打法3 試技,トップスピン打法 3 試技,スライス打法3 試技計 9 試技の映像を用 いた.視差設定値はデフォルト(D1)とし, 視点はコート中央後方(Fig. 3c,FVに相当す る位置)とした.打球は「(1 )視差条件」と 同じくCAVE前面から右面後方へと移動する が,S1群では前面のみの呈示であったため右 面呈示分は遮蔽されている.実験刺激は3 打 法×3 試技の全 9 試技が繰り返しなしのランダ

Figure 3 Experimental environment in CAVE (a), polarized stereo glasses (b), and viewpoint setting and the

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ムな順序で呈示され,被験者は刺激呈示1試技 が終わるたびに打球タイプを口頭で回答した. (3)視点条件 本課題では,知覚パフォーマンスの視点依存 性を検証する.被験者は,「(1 )視差条件」お よび「(2 )スクリーン条件」の被験者とは異 な る テ ニ ス プ レ ー ヤ ー12名( 年 齢21.4±1.1 歳,日常的な練習経験7.3±2.3年)であった. 実験刺激には,「(2 )スクリーン条件」と同じ フラット打法3 試技,トップスピン打法 3 試 技,スライス打法3 試技計 9 試技の映像を用 い,視点を変えた3 条件を用意した.コート中 央後方からの視点を送球者視点FV(Feeder s View)条件,コート斜め後方(打球飛来方向) からを捕球者視点IV(Interceptor s View)条 件, 審 判 台 か ら を 審 判 者 視 点UV(Umpire s View)条件とした(Fig. 3c).視差設定値はデ フォルト(D1),呈示面数は全 4 面とした.打 球は,FVにおいては前面から右面後方へ,IV では前面のみ,UVでは右面,前面,左面の順 で移動した.被験者は,「(1 )視差条件」およ び「(2 )スクリーン条件」とそれぞれ同様の 方法で主観的印象評価と打球タイプ判別を行っ た.ただし本課題では,被験者は実験刺激に慣 れるため実験前に十分な予備試行を行い,続い てフィードバックによる学習効果を検証するた め1 つの視点条件についてそれぞれ 3 つのセッ ションからなる本番試行を行った.第1 セッ ションでは,被験者に対して打球タイプの正答 を教示しなかった.第2 セッションでは, 1 試 技終わるごとに正答の教示を行った.第3 セッ ションでは,再び正答を教示しなかった. 4.統計処理 得られたデータの統計処理は,統計解析ソフ トウェア(SPSS17.0,エス・ピー・エス・エ ス社,東京)により行った.主観的印象評価に おけるスコアおよび打球タイプ判別における正 答率は,いずれも逆正弦変換を実施した値を用 いた.ただし,以下で計測値を記述する際に は,逆正弦変換をしていない値を用いることと する.統計比較における有意水準は1 %もしく は5 %に設定した. 結果と考察 1.視差条件 視差条件が主観的印象評価に及ぼす効果を Pillaiのトレースを用いた多変量分散分析(MANOVA) により検討した.また,LSD(Least Significant Difference)法により視差条件間の多重比較を 行った.「立体感」,「速度感」,「距離感」,「物 理感」,「総合的な現実感」の5 項目において, 多変量分散分析および多重比較のいずれにおい ても視差条件間に有意差はみられなかった.し かし「違和感」においては,多変量分散分析で 視差条件間の有意差はみられなかったものの (F(2,10)=2.68,p=.12),多重比較ではD2条件 (60.8±33.5)がD0条件(32.4±25.2)およびD1条 件(35.9±26.1)より有意に大きいことが示され た(ともにp<.05). 「違和感」について,多変量分散分析では有 意ではないものの多重比較でD2条件が他の 2 条件に比べて有意に高かったことにより,ユー ザーの不快感を低減するためには,視差設定値 はD0条件の 0 とD1条件の0.064との間にするこ とが無難と考えられる.ただし,D0条件では

Figure 4 Percentage of correct responses in the

discrimination of stroke type for each screen number condition.

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そもそも両眼における像差がないため,立体効 果を与えない通常の平面呈示に相当することに なる.そのため,立体呈示を前提としつつユー ザーの不快感を低減したい場合はD1条件のデ フォルト設定近傍がよいと考えられる.また, 「違和感」が強いことは,いわゆる「VR酔い」 (Lin et al., 2007;Tanaka and Takagi, 2004)と

よばれる不快症状を与える可能性を考慮するこ とも必要である.「距離感」,「物理感」,「総合 的な現実感」の現実空間との類似度に関する項 目で視差条件間の有意差を見出すことはできな かった.例えば,「総合的な現実感」の結果を みると,D0条件,D1条件のスコアはそれぞれ 51.1±24.0,51.0±26.0と 同 程 度 の 値 を 示 し, ユーザーに与える現実感は平面呈示と立体呈示 の間で差が小さいことを示唆している.立体呈 示の現実感が高くならない理由として,ユー ザーは日常生活において平面呈示に慣れている こと,CAVEが与える立体知覚の手がかりも現 実空間と完全に同じではないこと,などがあげ られる.後者については,絵画的,動眼的,網 膜像差および運動視差による手がかりが相互に 関係しあっているため原因を1 つに決定するこ とはできないが(金子,2007),CGモデリング およびスクリーン呈示による制限上,現実空間 との相違は免れない. 2.スクリーン条件 Fig. 4に,打球タイプ判別における正答率を 示す.正答率についてチャンスレヴェル(33.3%) と比較する1 サンプルの t 検定を行ったところ, S1群(38.9±11.7%)では有意でなかったものの (t(5)=1.10,p=.16),S4群(46.2±13.0%)では有意 に大きかった(t(5)=2.45,p <.05).しかしなが ら,S1群とS4群の間には有意差はみられなかった (t(10)=1.05,p =.16). 打球のバウンドは前面とS1群で遮蔽されて いる右面の境界付近でおこったため,S4群の 方がバウンド近傍以降の視覚情報を多く呈示し ていることになる.そのため,S4群がS1群と 比較して平均正答率が高いことは妥当な結果と

Figure 5 Score of the subjective impression evaluation for each viewpoint condition.

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言えるが,群間の有意差を検出するには至らな かった.打球タイプの判別は,呈示したボール アニメーションの質に大きく依存していると考 えられる.本研究では,ボールのアニメーショ ン作成に平滑化された補間操作を行ったため, 特にバウンドの質が正答率に影響を与えた可能 性がある.3ds Maxにおいて補間方法の調節は 基本的に手作業で行うため,作成者の恣意性が 反映されること,多量の実験刺激を作成する際 に労力がかかること,などの問題がある.ま た,本研究ではボールのスピンを再現していな いが,これも十分な正答率を得られなかった理 由の1 つと考えられる.これは,超高速ビデオ 撮影によりボールの挙動データを計測するなど の方法(川副ほか,2005)によって解決できる であろう. 3.視点条件 Fig. 5に,主観的印象評価におけるスコアを 示す.視差条件課題と同様に,まず,視点条件 が 主 観 的 印 象 評 価 に 及 ぼ す 効 果 をPillaiのト レースを用いた多変量分散分析により検討し た.また,LSD法により視点条件間の多重比較 を行った.多変量分散分析では,「立体感」, 「距離感」,「物理感」,「総合的な現実感」の4 項目においていずれも視点条件間に有意差はみ られなかった.しかし,「速度感」(F(2,10)=5.57, p <.05),「違和感」(F(2,10)=4.75,p <.05)の 2 項 目においては視点条件間に有意差がみられた. また多重比較では,「速度感」においてUV条件 (65.7±23.1)が,FV条 件(47.0±20.8)お よ びIV 条件(45.7±14.2)より有意に大きい値であるこ と が 示 さ れ た( と も にp<.05).さらに,「 違 和 感 」に お い て もUV条件(57.7±22.3)がIV条件 (36.9±23.0)より有意に大きかった(p<.01). ボールの「速度感」はUV条件で他の 2 条件 より高くなった.FV条件では打球は前面から 右面に,IVでは前面にのみ投影される一方, UV条件では右面,前面,左面と 3 面にわたっ て呈示される.また,FV条件とIV条件では, ともに打球がユーザーの手前に近寄ってくるた め,ボールが呈示される領域(ピクセル数)が 時間にともなって大きくなる.その一方,UV 条件では,ボールはユーザーの右から左へ飛来 するため,ボールの呈示領域の時間的な変化は 比較的小さい.このようなUV条件の呈示特性 が,強い「速度感」と何らかの関係があると考 えられる.また「違和感」についても,UV条 件はIV条件より高くなった.UV条件において ともに強い「速度感」と「違和感」が互いに関 係していることも考えられるが,その詳細は不 明であり今後の課題として残る. Fig. 6に,打球タイプ判別における正答率を 示 す. 正 答 率 に つ い て1 サ ン プ ル のt検 定 を 行ったところ,チャンスレヴェル(33.3%)と 比べて,IV条件の第 1 セッションおよびUV条 件の第1 セッションでは 5 %水準で有意に大き く,またそれ以外の各条件各セッションそれぞ れにおいていずれも1 %水準で有意に大きかっ た.ともに反復測定における被験者内要因であ る視点条件およびセッションについて,打球タ イプ判別に及ぼす効果をPillaiのトレースを用 いた多変量分散分析により検討した.また, LSD法により視点条件間およびセッション間の 多重比較を行った.2 要因分散分析(視点× セッション)の結果,交互作用は検出されな

Figure 6 Percentage of correct responses in the

discrimination of stroke type for each viewpoint condition.

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かった(F(4,8)=0.84,p=.54).また,主効果 については,視点条件では有意傾向にとどまっ たものの(F(2,10)=3.59,p=.06),セッション 間での有意差は確認された(F(2,10)=7.08, p<.05).一方,視点条件間での多重比較では, FV条件がIV条件より有意に高かった(p<.05). また,セッション間の多重比較では,第1 セッ ションおよび第2 セッションのいずれよりも第 3 セッションが有意に高かった(ともにp<.01). 視点条件間では,多変量分散分析により有意 差は確認されなかったものの,多重比較ではIV 条件でFV条件より正答率が有意に低いことが 示された.FV条件およびUV条件は,IV条件よ りボールの移動範囲が広いため,ユーザーは頭 部や眼球の運動を積極的に利用する必要があ る.逆に,IV条件は,打球がユーザー自身に向 かってくる映像条件であるため,頭部や眼球の 運動は比較的小さくてもよいが,物体の奥行き 方向の運動に対する知覚が打球の判別に重要で あると考えられる.奥行き方向の知覚は両眼像 差とも深く関係しており,今後視差設定値とも あわせてさらに視点依存性を検証する必要があ ろう.以上より,審判者視点ではユーザーの違 和感が強く,また捕球者視点では打球判別が困 難である可能性があり,例えば打球の軌道パ ターンを違和感なく学習する目的では送球者視 点を利用することが望ましいと考えられる.第 1 セッションと第 2 セッションには正答率に有 意差はなかったものの,第3 セッションでは正 答率が上がった.これは,第2 セッションにお けるフィードバックが学習を促進させたためと 考えられる.CAVEにおける映像呈示と教示に より正の学習効果が発現したといえるが,学習 後の正答率でも60%台前半にとどまった.より 高い正答率が必要な場合は,ボールのスピン情 報,マテリアル情報(ボール表面の目地や起毛 フェルト)なども再現する必要があると考えら れる.一方,一般にVRを用いる場合,呈示す るボールの軌道データにはシミュレーション値 が用いられるが(Craig et al., 2006),本研究で は実測データを用いたためボール軌道はより忠 実に再現されていると考えられる. 結  言 本研究では,VRメディアを利用したスポーツ 学習に関する試験的研究として,CAVEに呈示 されたテニス打球アニメーションに対するテニ スプレーヤーの知覚特性の評価を行った.視差 条件課題では,ユーザーの違和感を抑えるため にはOmegaSpaceのデフォルト設定値以下の視差 で使用することが無難であることを示唆した. スクリーン条件課題においては,4 面没入スク リーンの有効性を示唆した.視点条件課題で は,審判者視点は違和感が高いことを実証し, また捕球者視点は打球タイプ判別パフォーマン スが悪くなる可能性を示した.この結果は,例 えば体験や学習用の映像として利用する場合に は,目的に応じて視点位置を設定することによ りパフォーマンスや学習効果に影響があること を示唆するものである.また,打球タイプの教 示により学習効果が発現することを示した. 今後の発展としては,総合的テニス環境コン テンツの制作が挙げられる.今回はボールに対 する知覚特性のみを調べたが,テニスにおいて は相手プレーヤーの動作も多くの予測や判断の ための視覚手がかりを含んでおり(Williams et al., 2002),学習支援コンテンツとしての応用 を目指すには相手プレーヤーの呈示も重要な意 味を持つ.相手プレーヤーの動作データや打球 の基本的な運動データを多く収集しておけば, VR環境において半無限的に様々なテニス状況 を作ることができ,コンテンツとしての拡張性 は格段に高まるであろう.以上,本研究はス ポーツ学習支援装置としてのCAVEシステムの 応用性を探り,またスポーツ知覚研究と体験型 VR教材との相互的発展へと寄与するものと考 える. 謝  辞 本研究は,財団法人ミズノスポーツ振興会2007年度 スポーツ学等研究助成を受けて行われました.ここに 記して感謝申し上げます.

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文  献

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Figure 1  Filming setup for the collection of the coordinate data of tennis ball flight.
Figure 2    X  (a), Y  (b)  and Z  (c)  coordinate  data  of  tennis  ball  flight  obtained  by  ʻdiscrete  digitizing  and  interpolationʼ  and ʻsequential  full digitizingʼ.
Figure 3   Experimental  environment  in  CAVE  (a),  polarized  stereo  glasses  (b),  and  viewpoint  setting  and  the  front image for each viewpoint (c).
Figure 5   Score of the subjective impression evaluation for each viewpoint condition

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