エンタテインメントの実践と評価についての考察
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(2) Vol.2010-EC-18 No.7 2010/12/12. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. エンタテインメント性に関する被験者実験を全くしなくて良いとまでは考えないが,重視し. 将来の方向性を示すもの.. ない(コンテンツの善し悪しに依存しているので参考程度)とするのが望ましいと考える.. 実践論文:デジタルゲームの開発に関する実践的な研究成果で,開発実践の新しい試み・方. 実際そのような考え方で査読を行っている査読者はいると思われる.ではそれは明文化され. 法やその成果を明確に記述したもので,ゲーム開発・研究の発展に役立つものや将来の方向. ているのか?実際の論文査読基準を見てみると,Entertainment Computing 関連学会の採. 性を示すもの.. 択基準は以下のようになっている.. この実践論文は分野がゲームに限られているものであるが,評価というよりは開発の経験. 3.1 ACM Computers in Entertainment. を重視するように思われる.過去の掲載実績(2009 年まで)を確認すると実践論文はまだ. CiE (Computers in Entertainment) は ACM の論文誌である.Call for Papers⋆1 によ. 事例がない.評価報告的なものは原著論文として採録されている.. ると,academic papers と multimedia submission のカテゴリがある.前者の採択基準は. 3.5 提. academic であるということ以外に具体的な記述はない.後者は作品応募用である.. このように Entertainment Computing 関連学会では,論文と作品の応募枠があるが,論 文の採択基準について評価の観点から検討している例は少ない.評価実験をどこまで重視す. 3.2 ACE ACE 2010 の Call for Papers. ⋆2. で,Full Papers の採択基準は以下のように書かれて. るかはその時の編集長,プログラム委員長,査読委員等の判断になるだろう.. いる.. 著者は前述の理由から,被験者の主観に基づく評価実験に関しては,技術の善し悪しを判. Full Papers present significant and novel contributions in the technical,. 断する参考としては重視できないことがあると考える.しかし一方で,どうしたら楽しかっ. design, theory or social aspects in any of the above areas in relation to. た,どうしたらエンタテインメント性が増したといったことは,この分野の研究者にとって. interactive entertainment.. たいへんに興味深いことであろう.技術はそれほど新しくないが,こういうコンテンツを. また他にデモ展示も行われている.. 作ったら被験者に受けた.ちょっとした工夫や失敗で被験者の評価が大きく変わったという ことは,知りたいことの一つである.. 3.3 ICEC ICEC 2010 の Call for Participation. ⋆3. によると,同会議では. そこでこのような論文の発表機会を提供するため, 「エンタテインメント実践論文」とい. ICEC2010 will cover not only technical but also artistic, empirical and the-. うカテゴリを提案する.ここでの「実践」は日本デジタルゲーム学会の実践論文で対象とし. oretical issues regarding entertainment practices and we invide submission. ているような開発実践だけでなく,実用化,マーケティング,評価を含めた実践とする. 参考になる他学会事例を次章で紹介する.. of .... と書かれているように経験的 (empirical) な観点を明示している.しかしこれ以上詳しくは. 4. 他分野学会の事例. 示されていない.. 3.4 日本デジタルゲーム学会. 分野の近い他学会における,新規性を主要な採択基準とせず,実践的な体験を重要視する 論文カテゴリの例を紹介する.. 日本デジタルゲーム学会には原著論文の他に実践論文の投稿区分がある.それは以下のよ うに説明されている.⋆4. 4.1 電子情報通信学会. 原著論文:デジタルゲームに関係のある学術的な研究成果,新しい試み・方法やその成果を 明確に記述したもの.新規性・信頼性が認められ,ゲーム研究・開発の発展に役立つものや ⋆1 ⋆2 ⋆3 ⋆4. 案. 電子情報通信学会の情報・システムソサイエティでは, 「システム開発論文」という論文 種別を設けている.これは主に企業におけるシステム開発成果を対象としたものである.査 読基準は以下のように説明されている.⋆5. http://cie.acm.org/#call http://ace2010.ntpu.edu.tw/call for participation.html http://icec2010.or.kr/ http://www.digrajapan.org/modules/tinyd5/. ⋆5 http://www.ieice.org/iss/jpn/Publications/080702.SystemDevelopmentPapers.html. 2. ⓒ 2010 Information Processing Society of Japan.
(3) Vol.2010-EC-18 No.7 2010/12/12. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. なる.これにより,萌芽的な技術の積極的な投稿・採録が行われることが期待できる.. システム開発論文は,一般論文と採録基準を別にして査読する.システム開発論文では,(1) システムの新規性(性能・機能の新規性,構成の新規性,開発手法の新規性など),(2) シ. • 一方,技術的新規性は必ずしも高くなくとも,エンタテインメントの実践による有用な. ステムの有効性,(3) 論文の信頼性,(4) 論文の了解性,が査読の対象となる.システムを. 知見を論文化することが可能ということが明示できる.これにより,大学だけでなく実. 構成する個々の理論,手法が公知のものであっても,それらの新たな組合せにより新たなシ. 業界や芸術系研究者にも門戸が広がる.芸術系研究者にとっては作品以外にペーパーが 書けるチャンスが増える.これにより研究コミュニティの拡大が期待できる.. ステムが構築されたことを評価する.また,同様の機能を持つ既存システムが存在する場合. • 研究コミュニティは「技術としてどうか」「エンタテインメントしてどうか」という二. でも,当該システムとの性能比較が, (カタログ,マニュアルを参照するなどにより)定量的. つの議論を独立しても融合しても行うことになり,議論が深まりが期待できる.. に行われている必要はなく,既存システムとの相違点が論文中に明示されていれば良い.. 一方,課題としては「実践論文」にどの程度技術の関与を要求するかという点があると思. すなわち,新規性は査読基準には入っているものの,その重要性は相対的に低い.むしろ. われる.. システムを構築した実践が重視されている.. 4.2 教育システム情報学会. 参. 教育システム情報学会では「原著論文」の他に「実践論文」のカテゴリを設けている.こ. 考. 文. 献. 1) 垂水浩幸,鶴身悠子,横尾佳余,西本昇司,松原和也,林勇輔,原田泰,楠房子,水 久保勇記,吉田誠,金尚泰:携帯電話向け共有仮想空間による観光案内システムの公開 実験,情報処理学会論文誌,Vol.48, No.1, pp.110-124 (2007) 2) 山田敬太郎,垂水浩幸,大黒孝文,楠房子,稲垣成哲,竹中真希子,林敏浩,矢野雅 彦: ケータイムトラベラー:過去世界の訪問を実現する携帯電話による歴史学習シス テム,情報処理学会論文誌,Vol. 50, No. 1, pp.372-382 (2009) 3) 中野裕介,豊嶋克行,垂水浩幸,土井健司,高橋恵一,林敏浩: twitter を用いた地 方都市における商業クラスタの形成支援,情報処理学会第 76 回グループウェアとネッ トワークサービス研究会,2010-GN-76,No.14 (2010).. れは以下のように説明されている.⋆1 情報システム・機器を利用した教育実践の結果をまとめたもので,その仕組みや条件が明確 に記述され,汎用性の高い知見や方法が客観的な形式で導出されており,有用性,信頼性が 高いもの.あるいは,情報システム・機器利用教育に関わるデータを包括的にまとめたもの で,有用性,信頼性が高いもの.高い新規性は要求されないが,研究の位置づけが関連研究 との比較検討により明確になっていること.. 教育工学の場合は特に現場での教育実践が重視される.この実践論文カテゴリでは参考に なる実践事例で位置付けが明確で汎用性があるものが対象になる.エンタテインメントの実 践も同様に位置付けられると考えられる.最も参考とすべき採択基準ではないかと思われ る.例えば, 「教育」を「エンタテインメント」に置換することで採択基準案とすることが できる.. 5. お わ り に 本稿では「エンタテインメント実践論文」とでも呼ぶべき,新しい論文カテゴリについて 提案を行った.このような論文を一般の論文と別枠で募集評価することにより,以下の効果 があるものと考える.. • 一般論文では実践評価を必ずしも重要視しないという立場が明確になる.すなわち,エ ンタテインメント分野で使用できる可能性のある技術が提示されればよいということに ⋆1 http://www.jsise.org/ed/Subguide.html. 3. ⓒ 2010 Information Processing Society of Japan.
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