Title
Prevalence of Mental Illness, Cognitive Disability, and their
Overlap among the Homeless in Nagoya, Japan( 内容と審査の
要旨(Summary) )
Author(s)
西尾, 彰泰
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(医学) 乙第1485号
Issue Date
2016-02-17
Type
博士論文
Version
none
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/54360
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏名(本籍) 学 位 の 種 類 学位授与番号 学位授与日付 学位授与要件 学位論文題目 審 査 委 員 西 尾 彰 泰(愛知県) 博 士(医学) 乙第 1485 号 平成 28 年 2 月 17 日 学位規則第4条第2項該当
Prevalence of Mental Illness, Cognitive Disability, and Their Overlap among the Homeless in Nagoya, Japan
(主査)教授 藤 崎 和 彦 (副査)教授 塚 田 敬 義 教授 犬 塚 貴 論 文 内 容 の 要 旨 ホームレスでは精神疾患の有病率が高いことが欧米諸国の調査で報告されているが,知的/認知 障害に関する調査は少なく,精神疾患と知的/認知障害の重複に関する報告は,我々が知る限り存 在しない。また,本邦ではホームレスの精神疾患の有病率に関する調査が1件あるのみで,知的/ 認知障害に関する報告はない。そこで,我々はホームレスの精神疾患,知的障害,およびその重複 の有病率を測定し,それら障害がホームレス生活に与える影響について分析を行った。 【対象と方法】 対象者は,”ホームレス”の国際的な定義「住居を持たない者。シェルター等,一時的な居住施設に 入所している者を含む」を満たす名古屋市内の者114 人(男性 106 人,女性 8 人)。精神疾患につ いては,半構造化面接を作成し,DSM-IV に従って精神科医が診断を行った。知的/認知障害につ いては,WAIS-III 簡易版と JART-25 により診断した。現在の IQ と JART25 によって測定されるピ ーク時のIQ の比較することで,生来の知的障害であるか,後天的な認知障害であるかも判断した。 また,「あなたは,ホームレス生活から抜け出したいですか」という質問に対して「非常に抜け出し たい」から「全く抜け出したくない」までの5 段階の中から回答を選んでもらい,この回答とそれ ぞれの障害の有無との関連を分析した。 【結果】 対象者の背景は,年齢が 20~78 歳(平均年齢 54.0 ± 12.6 歳),居住形態については,路上生 活が72 人,一時施設 35 人,無回答か,それ以外の場所が 7 人であった。精神疾患を有すると診断 された者は 42.1%であり,その内訳は,精神病性障害が 4.4%,気分障害圏が 17.5%,不安障害が 2.6%,アルコール依存症・乱用が 14%,人格障害が 3.5%であった。また,対象者の平均 IQ は 79.2 ± 21.0 であった。34.2%の者が知的障害圏(IQ<70)であり,うち 20.2%が軽度知的障害圏,14%が中 等度以上の知的障害圏であった。また,精神疾患と知的/認知障害の重複は15.8%であり,いずれ の障害も持たないものは39.5%に過ぎなかった。WAIS-III と JART-25 で測定した IQ の比較から, 知的障害圏であった者のうち,およそ 50%が後天的な認知障害であることがわかった。「ホームレ ス生活から抜け出したいですか」という質問と,障害との関連では,知的/認知障害を持つ者は, 29%が「全く抜け出したくない」と答えたのに対し,精神障害のみを持つ者,障害を持たない者で [ ]
は,「全く抜け出したくない」と答えたのは,それぞれ 4%,0%であり,知的障害を持つ者は,ホ ームレス生活から抜け出したがらない傾向が認められた。 【考察】 本稿は,日本語で書かれた報告を含めても,日本のホームレスの精神病有病率に関する2 件目, 知的障害に関する最初の報告である。調査により,名古屋市のホームレスの精神疾患・知的障害の 有病率は,日本人の一般成人と比較すると非常に高いことがわかった。また,欧米諸国の報告と比 較すると,日本人のホームレスでは,うつ病の有病率が高く,アルコール依存症,薬物依存症,人 格障害の有病率が低かった。また,欧米と比べて,日本では知的障害圏の低IQ の者の多く,そのう ち約半分が,後天的な認知障害であることがわかった。日本のホームレスの平均年齢は,他の国と 比較して高いため,加齢や精神疾患による変化の影響を受けている可能性が高いことが推察された。 知的/認知障害を持たないものは,ホームレス生活から抜け出すことを希望したのに対して,知的 /認知障害を持つものは,ホームレス生活から抜け出したがらない傾向が見られた。これは,ホー ムレス者による支援の拒絶が,障害に起因する社会的適応への困難さに由来している可能性がある ことを示しており,行政や支援者は,当事者が何らかの障害を持っているという視点を持って,関 わる必要があると考えられる。 【結論】 本調査の結果,ホームレス生活を営む対象者のうち,およそ60%が,精神疾患か,知的/認知障 害を有しているという事実は,ホームレスへの支援を考える上で重く受け止めなければならない。 彼らを支援するには,精神疾患や知的/認知障害が,ホームレス生活に至った原因や,抜け出せな い理由となっているという視点を持つことが重要であることが示された。 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 申請者 西尾彰泰は,名古屋市内のホームレスを対象とした精神医学的調査を行い,精神疾患, 知的障害,およびその重複の有病率をわが国で初めて測定し,精神疾患を有する者が42.1%,知的 障害を有する者が34.2%,また両者の重複が 15.8%あり,6 割の者が何らかの障害を有しているこ とを明らかにした。さらに,それらの障害がホームレス生活に与える影響についての分析を行い, 知的障害を持つ者に,ホームレス生活から抜け出したがらない傾向があることを見いだした。本研 究の成果は,精神医学ならびに社会医学の進歩に,少なからず寄与するものと認める。 [主論文公表誌]
Akihiro Nishio, Mayumi Yamamoto, Ryo Horita, Tadahiro Sado, Hirofumi Ueki, Takahiro Watanabe, Ryosuke Uehara, Toshiki Shioiri : Prevalence of Mental Illness, Cognitive Disability, and their Overlap among the Homeless in Nagoya, Japan