戦略形ゲームにおける最大整合性と個人合理性
著者
升田 猛
著者別名
Takeshi Masuda
雑誌名
経済論集
巻
41
号
1
ページ
121-124
発行年
2015-12
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00008061/
東洋大学「経済論集」 41巻1号 2015年12月
戦略形ゲームにおける最大整合性と個人合理性
升 田 猛
1 はじめに 2 戦略形ゲームにおける個人合理的な帰結 3 戦略形ゲームにおける最大整合集合 4 最大整合性と個人合理性 5 結論と今後の研究課題1
はじめに
戦略形ゲームにおいて,各個人がどの戦略を選択するかについて,全員で話し合えるとしよう。 ある個人が,他の個人の戦略に対して,ある戦略を提案する。そのような提案に対して,別の個人 が,自分以外の個人が戦略を変更しないならば,戦略を変更すると異議を唱える。同様にして,各 個人は異議を唱え続けることができる。このような状況は,Greenberg (1990
)により,個人による 条件付きの脅し状況(individual contingent threats situation)と呼ばれる。提携による異議を許容す る場合は,提携による条件付きの脅し状況(coalitional contingent threats situation)という。 Chwe (1994
)は,個人による条件付きの脅し状況と提携による条件付きの脅し状況に,遠視眼的 な安定性(farsighted stability)の概念を応用し,戦略形ゲームにおける遠視眼的に安定な帰結として, 最大整合集合(the largest consistent set)を定義した。戦略形ゲームの帰結が最大整合集合に属する とき,そこからどのような提携を形成しどのような異議を唱えても,その後に続く話し合いにおい て,異議を唱えた提携に所属するある個人の利得が改善されないような最大整合集合に属する帰結 に到達する可能性がある。最大整合集合に属する帰結が,全員による話し合いにより,最大整合集 合に属する他の帰結にくつがえることはない。これを内部整合性という。また,戦略形ゲームの帰 結が最大整合集合に属さないとき,そこからある提携がある異議を唱え,その後の話し合いにおい て,最大整合集合に属する帰結に到達するならば,異議を唱えた提携に所属するすべての個人の利 得が改善される。最大整合集合に属さない帰結は,全員による話し合いにより,最大整合集合に属合集合という。
Chwe (
1994
)は最大整合集合が一意に存在することを示した。しかし,最大整合集合は,戦略形 ゲームの数多くの帰結から成る巨大な集合になる可能性があり,戦略形ゲームにおいて,どの帰 結が実現するかについてほとんど予測できないときがある。例えば,Masuda (2002
)が示すように, 平均収穫ゲーム(average return game)において,最大整合集合は個人合理的な帰結の集合に等しい。 個人合理的な帰結は無数に存在し,平均収穫ゲームの帰結を正確に予測することは不可能である。 ただし,最大整合性を満たすという意味で遠視眼的に安定な帰結において,個人合理性は保証され る。 この論文では,Masuda (2002
)の補題5
.7
を拡張し,平均収穫ゲームだけでなく,すべての戦略形 ゲームに対して,最大整合集合が個人合理的な帰結の集合に含まれることを示す。個人による条件 付きの脅し状況と提携による条件付きの脅し状況において,最大整合性を満たすという意味で遠視 眼的に安定な帰結として,必ず個人合理的な帰結が実現する。 これ以降の論文の構成は以下の通りである。2章で,戦略形ゲームを定義し,戦略形ゲームにお ける個人合理的な帰結を定義する。3章で,提携による条件付きの脅し状況と個人による条件付き の脅し状況を定義し,戦略形ゲームの帰結に関して,最大整合集合を定義する。4章で,任意の戦 略形ゲーム対して,最大整合集合が個人合理的な帰結の部分集合であることを証明する。5章で, 結論と今後の研究課題について述べる。2
戦略形ゲームにおける個人合理的な帰結
非空な有限集合 をプレイヤーの集合とする。各プレイヤー に対して,非空な集合 を プレイヤー の戦略集合とする。各プレイヤー に対して,帰結の集合 上に定義さ れた実数値関数 をプレイヤー の利得関数とする。ここで, は実数の集合である。プ レイヤーの集合 ,各プレイヤー の戦略集合 ,各プレイヤー の利得関数 から成る を戦略形ゲーム と呼ぶ。 帰結 が個人合理的であるとは,任意のプレイヤー に対して, が成り立つときをいう。ここで, である。個人合理的な帰結の集合を と表記する。戦略形ゲームにおける最大整合性と個人合理性
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戦略形ゲームにおける最大整合集合
Greenberg (1990
)に従い,戦略形ゲーム において,提携による条件付きの脅し状況を考える。プ レイヤーの集合 の非空な部分集合 を提携と呼ぶ。提携 が帰結 に対して帰結 と異議 を唱えるとは,提携 に属さない任意のプレイヤー に対して, であるときをいう。こ のような異議を と表記する。各提携は,その提携に属さないすべてのプレイヤーが戦略を変 更しないという条件を付けて,脅しをかけることができる。 帰結 と提携 に対して, と表記する。帰結 と帰結 と提携 に対して,すべての に対して であるとき, と 表記する。 帰結 が帰結 を間接支配するとは,帰結の点列 と提携の点列 が 存 在 し て, か つ , 任 意 の に 対 し て, か つ であるときをいう。このような間接支配を と表す。異議を唱 える各提携に属する各プレイヤー は,最終的に利得が改善されるが,利得の一時的な減少 を許容する可能性がある。 戦略形ゲーム において,個人による条件付きの脅し状況とは,提携による条件付きの脅し状況 において,異議を唱える提携を個人だけに制限するときである。 Chwe (1994
)に従い,戦略形ゲーム に伴う提携による条件付きの脅し状況において,最大整合 集合を定義する。 定義 帰結の部分集合 が整合集合であるとは,内部整合性と外部整合性を満たすときであ る。内部整合性:任意の ,任意の ,任意の に対して, ならば, が存在して, あるいは ,かつ, である。外部整合性:任意の に対して, と が存在して, であり,任意の に対して, あるいは ,ならば, である。帰結の部分集合 が最大整合集合で あるとは, が整合集合かつすべての整合集合を含むときをいう。 上記の定義において,異議を唱える提携を個人だけに制限すれば,戦略形ゲーム に伴う個人に よる条件付きの脅し状況における最大整合集合の定義が得られる。4
最大整合性と個人合理性
定理 任意の戦略形ゲーム に対して,提携による条件付きの脅し状況と個人による条件付きの脅 し状況において,最大整合集合 は個人合理的な帰結の集合 の部分集合である。 証明 提携による条件付きの脅し状況について考える。 が存在して, かつ と 仮 定 す る。 よ り, が 存 在 し て, で あ る。 任 意 の に 対 し て, と す る。 任 意 の に対して, であるから,任意の に対 して, である。ゆえに, が成り立つ。 と お く と, か つ で あ る。 任 意 の に 対 し て, な ら ば, を示す。任意の に対して, である場合を考える。 で あ る か ら, で あ る。 が 存 在 し て, で あ る 場 合 を 考 え る。 と す る と, で あ る。 より, であるから, が成 り立つ。 の内部整合性に矛盾する。 上記において,提携 を個人 に制限すれば,個人による条件付きの脅し状況についても明 らかに成り立つ。(証明終)
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結論と今後の研究課題
任意の戦略形ゲームに対して,提携による条件付きの脅し状況と個人による条件付きの脅し状況 を考え,最大整合性を満たすという意味で遠視眼的に安定な帰結が個人合理的であることを示し た。Masuda (2002
)により,最大整合集合が個人合理的な帰結の集合と一致するような戦略形ゲー ムの例として,平均収穫ゲームが挙げられる。今後の研究課題として,最大整合集合が個人合理的 な帰結の真部分集合であるような戦略形ゲームのクラスを見つけることは,戦略形ゲームにおける 帰結の予測という観点から非常に重要である。 参考文献Chwe, M.S.-Y. (1994). Farsighted coalitional stability, Journal of Economic Theory 63, 299-325.
Greenberg, J. (1990). The Theory of Social Situations: An Alternative Game-Theoretic Approach, Cambridge University Press.