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南タイの土地所有 : タイ・イスラム村落におけるケース・スタディ [Land Tenure in Southern Thailand : A Case Study in a Thai-Islam Community]

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タ イ ・イ ス ラ ム 村 落 に お け る ケ ー ス ・ス タ デ ィ

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-by ToruYANO は じ め に タ イ社会 の土 地制 度 は, さほ ど深 刻 な社会 問題 とな らな いままに,従来 あま り学 問的研 究 の 対 象 とされ な い傾 向 に あ った。土 地所有 の具体 的諸 法 則 にせ よ,実証 的 な調査 がな され な いわ りに, いた って安 易 に法則化 され, それが通説 と して通用す る傾 きが強 か った。 よ うや く最近 にな って,小 作化 問題 な どの社会 問題 の噴出 とと もに, タ イ国 内外 の関心 が タイの土 地制 度 の 問題 に寄せ られ るよ うにな ったの は喜 ば しい ことで あ る。 土 地制 度 の問題 は, たん に小 作化現象 な どの農 地制 度 の問題 と してだ けで な く, さ らに進ん で, あるい は社会 的流 動性 と結 びつ け, あ るい は慣 習法 の近代 化 とい う観 点 において,今 後 よ り深 く, よ り柔軟 に検討 が進 め られ ねばな らない。 また, タ イの中部地方 だ けに限 って問題 視 す るので はな く,各地方 につ いて基 礎 的な研 究 の積 み重 ねが な されね ば な らない。 本稿 は, ソ ンク ラー県 にお け る実態調査 を もとに した,南 タ イにおけ る土 地所有 の傾 向 を探 る一 つ のケー ス ・ス タデ ィで あ るol) 本稿執 筆 の趣 旨を示 す意 味で , と りあえず は じめに,現在 の タ イの土 地制 度 が どのよ うな問 題 を もって い るかを述 べ てみた い。 ここで い う問題 とは, たん に社会 問題 とい う意 味 で は な く,社会 科学 的研 究 の将 来 の課 題 とい う意 味 を ももって い る。 1) 筆者は,京都大学東南アジア研究センターの第1次5カ年計画の一環であるタイ ・ビルマ中核計画 に加わり,1964年 5月か ら1966年3月にかけて南部タイ,ソンクラー県の-タイ ・イスラム集落に定 着 して,社会人類学的村落調査を行なった0本稿執筆の資料の一切は,その調査を通 じて得 られたも のである。本稿の概要は,1966年10月28日に,京都大学東南アジア研究センター研究例会において, 研究報告のかたちで発表 した。 804 2

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-矢野 :南 タ イ の 土 地 所 有 1 タイの 土地 制 度 の 間男琵点 タ イ国 の土 地 制 度 の もつ 問題J和 ま,法 制 上 の問題 点 と社会 学 的 問題 点 の二 つ にわ けて考 え る ことがで き る。 それ ぞれ 多数 の問題 を含 ん で い る と思 われ るが , ここで は と りあえず ,法制 上 の問題 点、と して二 つ,社 会 学 的 問 題点 と して二 つ , しめて四 つ の問題 を提 出 して お きた い。 1 占有 と所有 の混乱 タイの土 地所有 の法 的形 態 は,長年 にわ た って形 成 され きた った もので あ り, い た って特 殊 な 内容 を示 して い る。現 代 の土 地 法 の体 系を み る と,二 種 の歴 史 的 な法 観念 の刻印 を みて とる ことがで きる。す な わiJ,,一 つ は, シ ャム社会に 古 来

承 され て きた土 地所有 につ いて の慣習 法 的観念 (1atthi-thamniam) の残 存 で あ り, も う一 つ は, 20世 紀 初頭 に始 ま る土 地 法近 代 化 の強 い影 響 で あ る。 この 二つ が うま く織 り合 わ され て い る と ころに, タ イの4-ill-子土 地 法

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/j特 色 が あ る。 しか しな が ら, 慣 習 法 と近代 的 法観 念 とは, た とえ法 律 上 は うま く融合 した と して も, 農民 の意 識 面 で は, む しろ対 立 競 合 す るので あ る。 古 来 , シャムで は,土 地 は基 本 的 に は国 王 の所有 に属 したが,農 民 に は,事 実上 の占有 お よ び耕 作 をなす こ とを条 件 に,自由に土 地 を獲 得 す る ことが 許 され て い た。事 実 上 の 占有 が ,耕 作の既

幸美 を介 して,所有 権 を発 生 させ ,法 的保 護 の対 象 とな る, とい i)慣 習が成立 して か らはや久 しい。 しか し,1901年 に, ラーマ 5世 は,土 地 の 占有 と所有 との法律 的取扱 いを 峻別 す る近代 的所 有 観 念 を土 地制 度 に導 入 し, たん な る占有 は保護 せ ず,所有 権 だ け法 的保 護 の対 象 とす る システ ムに切 り換 え た。 しか し, これ以 来, シ ャムの土 地所有 制 度 は混乱 を は じ め た01936年 に至 って, たん に所有 桁 のみ に拘 泥 しな い, よ り柔軟 な土 地 法 が制 定 され , それ以 後 は比 較 的安定 をみ て きて い る。2) 現行 土 地 法 は,1954年 に制定 され た もので あ るが,基 本 的 には1936年 法 の精 神 に則 って お り,土 地 獲 得 に, 占有 ・利用 ・所 有 の 3段 階 を認 め, それ ぞれ の状態 を別 個 に確 認 し, それ を なん らか の形 で 法 的 に保護 す る システ ムを と って い る。 現 行 法 は,表 1の よ うに 5通 りの土 地証 書 の発行 を定 めて い る。3)

この うち,soo.kho0.

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を除 いて は,す べ てが nangstitisamkhan (権 利 発 狂 に関係 す る

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接 関係 の な い書 類 で あ る。

2) タイの土地制度の歴史では, レンガ-の 『タイ国法制史』の土地法の項がす ぐれている。 cf・Ro° LeengkaaPrawatsaatkodmaaithai-kodmaaithiidin,1940,pp・1-90・

3) 現行土地法に関する記述はNiitiweet版 (1964)のZ)ramuankodmaaithiidin

,

♪hoo.Coo.2497 による.これには,土地法施行にともなうい くつかの省令や布告まで収められていて便利である。そ の他, ソンクラ-県土地局で入手 した kaanthiiiisitthinatthiidin(土地権の保有) という小冊 子をもあわせて参照する。

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東 南 ア ジ ア 研 究 第4巻 第5号 (tJ.fT.d

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図 1 三種 あ るchanoodthiidinの うち,moo.soo.4koo.といわれ るもの の書式。 国王 の名が記載 されていない点が注 目され る。現在chanood

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矢野 :南 タ イ の 土 地 所 有 II.a .f 鏑 . zEK tJl1 --I -・・ - --1 謡 ;:、 ふ 叩爪′ - ◆ 7%ld 芯 磁 歪 1品 n1 % 耶 捌 ,Th 礼 1I y 貞l{ I 胤 ' i.A . ___.如 監 遊 芸 空 電 聖 ∵ 霊 ・:.・.警 護 禦 聖 霊 塩 /I ・ノ M M8mJ 舶 r./uw l泌ふ tJJe 1九._..__...."._..._..._,___...叫..._.●小 ..__ .... 1れ...…‥.‥…_...叫_....かい_..._.州.∼.‥.一._I_‥."..-._ 勺■_...….‥...‥._...".__∩_.._-.‥川..__.._I._..._...。‥∼ 碗′ 叩 .___… ._..._ 珊 m品1,仰よ「醸 ‰cnふふ ふ 定 義 よ読 F'I l 惑瓜 ふ 恕 琵 l.き 輔 ′嘩 ・',-:-I.-ii 紙 背 慧 -脅 急 患 意 &./SL.忠 ● ● l 珊‰ふ 唱肌 ん 触 nl 触 血.ん ぷ仙 鮎 心 血 J ふふ舶 融 峨k.iL," ふ・pJi'・舶 毒 虫 .1一・・-3恥 -- ∴ ・・- - -.・

図 2 三種ある chanoodthiidin のうちの noo・soo・4khoo・の書式。国王 レつ名が記載され,旧式のスタイルである点が興味深い。

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東 南 ア ジ ア 研 究 第4巻 第5号 表 1 土 地 に 関 す る 証 書 の 種 #'!' 杏 発 行主 体 」 ; soo.khoo.1 j・いかなる原因によるものであれ,土 ;. 那 1受ける確認証 ・ ba主coong moo.soo.3

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chanoodthiidin 遊休の土地を一時的に占有する許可 1 郡 証 証書 実 地 検 分 土地処 分 権 発 生 な し な し E な し r三 警誓 あ り あり あり !〝 5 法的所有権を国家が正式に認める証 書 至宝副 あ り ・ あり . 15以上 あり l初回20ラ .イ まで40 資料 :タイ国土地法 (pramuankodmaaithiidinphoo.soo.2497) および土地法施行に関する

省令 第10号 (kodkrasuangchababthii10,2497)にもとづいて作成 問題 は,農 村 部 に お いて は,依 然 と して, 占有 の既 成 事 実 を,す な わ ち法 的所有 権 発 生 の原 因 と考 え る, 古 来 の慣 習法 的観念 が根強 く残 って お り,土 地 法 の定 め る所 有 権 設 定 の ため の手 続 きが行 な われ な い傾 向 に あ る点 だ。soo.kho0.1 は, 税 務行 政 上 の必 要 もあ り, す べ て の 農 家 が備 え て い るが ,土 地 の権 利発 生 消滅 と関係 のな い この書 類 が, あ たか も本 来 の地券 で あ るか の よ うに通 用 して い るのが実状 で あ る。 ときに は ,占有 の事 実 だ け に安 ん じて, なん らの 登 録 さえ行 な われ な い事例 を み る。soo.khoo.1 しか な い地 域 にお いて は, それ が一 種 の権 利 証書 の よ うな規 範 性 を もって通 用 して い る。 そ して ,土 地 が公 式登 録 を必 要 とす る とい う社会 通 念 もす で に成 立 して い る。 それ に して も,慣 習法 的観 念 と近 代 法 的理 念 との柏

が これ か ら も続 くと した ら,近 代 的 ・合理 的 な土 地制 度 の確 立 は望 まれ え な い。 いず れ にせ よ, 現在 は, 土 地 は特 定 の登記 に よ って のみ所有 権 が発 生 し,法 的保 護 を受 け る, とい う観念 の,一 つ の啓 蒙 期 に さ しか か って い る感 じで あ る。 2 無 断耕 作 (cab coong) の伝 統 遊休 の無 主 の土 地 に立 ち入 って 開墾 を行 な い,土 地獲 得 を図 りうる慣行 を, タ イで は,

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ャプ ・チ ョー ン (Cab coong)

とい う。 この無 断耕 作者 権 利 の伝 統 は, 耕 地 人 口密 度 の低 い タ イに お いて ,古 来 か ら存在 した 。4' そ して土 地 法近代 化 の過 程 にお い て , この慣行 は制 定 法 に も取 り入 れ られ , それ は現行 法 に まで 及 んで い る。 しか し, そ の過 程 に お いて,古 来 の慣行 は近代 法 的処理 を受 け, そ の結 果 ,制 定 法上 の厳 密 な規 定 と伝 統 的慣行 に お け る方 式 とに は, い くぱ くか の ズ レが生 じた。従 って,現在 で は,法律 的 に有 効 な無 断耕 作 と無 効 な もの との差

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'J三野 :南 タ イ の と 地 所 有 が 歴然 とな って い る。 現 行土 地法 をみ る と, 第2条 は, 無 主 の土 地 が国家 (raat)の もので あ る ことを 規定 し, 第30,33条 にお いて, 「チ ャプ ・チ ョ- ン」 を規定 して い る。 「チ ャプ ・チ ョ- ン」 を行 な う た めに は, 当該土 地 の検 分 ・測量 を闇 係官 庁 に依新 し,公示 を30日間行 な って,異 議 の 申立 て が な い と きに, 当該土 地 の 占有 開墾 許可 証 (ba主coong)の交 付 を受 け る。 許 可 を受 けて6カ 月以 内 に開墾 を開始 し, 3年 以 内 に実用性 を 実現 し (tham prayoot)な くて はな らな い。 そ こで改 めて,利 用済 証 [甘苦で あ る noo.so0.3の交付 を受 け, や っと土 地 の権 利 は確定 的 に成 立 す るので あ る。 現行 の無 断耕 作 の制 度 は,少 な くと も二 つ の点 で問題性 を もって い るO第 - に,法律 の定 め る規 則手 続 きが繁 雑 で,農 民一 般 が これ にな じまな い点 で あ るO 古来 の慣行 に よれ ば, 遊休 の 土 地 を 占有 す るに は, そ の土 地 に あ る種 の示 しをつ け, その土 地 の所 在 す る村 の村長 に一

届 け るだ けで よか った。 この慣行 は, い まで も行 な われ て い る。無 断耕 作 に,土 地 局 の許可 計 が 必要 と され るよ うに な った の は,1936年 以 来 の ことで あ り, そ の歴 史 は まだ浅 い。 古来 の方 式 にな じん だ農 民 は,法 律 的手 続 きを忌 避す るのが実情 だ。第 二 に,現行 土 地 法 の27-29条 は, 国家 が, 公共 目的 に供 す るた め,遊 休 の無主 の土 地 を確 保 で きる ことを定 めて い る。 この条 功 に応 じて ,現在 , 厚生局 や土 地協 同組 合 局 な どが, それ ぞれ の趣 旨で土 地 を確保 し,公 共 目的 に使 用 して い る。各局 の土 地 委 員会 は,一 定 条 件 を備 え た遊 休 の土 地 を求 め る と,公示 した上 で入 植者 を定 め, baicoong を交付 す る。 この 種 の土 地 を thiidin saathaaranasombat khoongpheendin(国家 の福祉 目的土 地) とい うが,す なわ ち, 農 民 の無 断耕 作 にふ さわ しい 土 地 が政 府 に よ って公共 目的 の た め に確保 され るケ ー スが増 え て い るので あ るO蒙 昧 な

民 に は,一 見無 断耕 作可能 な土 地 にみ え,椿事 に開墾 を開始 し,中途 で追 い指 しを喰 う事 例 が少 な くな い。農 民一 般 に は,貢 の無主 の土 地 を それ と識別 で きな いので あ る。 この ほか, 開墾 可能 未墾 地 の絶 対 面積 が減 って い る こと,残存 未 墾 地 が地 勢 的 に制約 の多 い ことな ど も, あ わせ 考 えね ば な らな い問題 で あ ろ う。要 す るに, 古来 の気楽 な方 式 に よ る無 断 耕 作は,今 後 ます ます 窮屈 な もの に な る こ とが予測 され る。 5' しか し, そ の窮 屈 さに対 応 す る 能 力を農 民一 般 が備 え て いな い と ころ に一 つ の悲 劇 が あ る といえ よ う0 3 小 作 制 度 の 進 展 従 来 タイの土 地所有 に「美ル て書 かれ た文献 のお おか た は, タ イ国農 林省の公 刊 にな る

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に もとづ いて, タ イは基 本 的 に 自作農社 会 で あ る と 結 論づ け て い る。

5) 「チ ャプ ・チ ョー ン」の古典的方式が もはや法律的に許 されない以上 「チ ャブ ・チ ョ- ン」の時代 は終 ったという声 もある。今後は,政府が無主の土地を農民に分配するthiidinsaathaaranasombat の方式がますます優越 して くるだろう。

(7)

東 南 ア ジ ア 研 究 第4巻 第 5号 この従来 の通 説 にた い して は,最 近 い くつ か の反論 が提 起 され て い る。6) 中部 タ イにお け る 小 作制 度 の普 及 は, い まや 常識 化 して い る。 従 来 の通説 にた いす る問題 提起 と して あげ られ て い る諸 点 のな かで ,農 地 制 度 の地 域 差 を考 慮 す べ き点 の指 摘 と,急激 な人 口増 に よ る土 地 に た いす る人 口圧 力 の増 加 の指 摘 とは留 意 に値 す る。 農 地保 有 制 度 の地 域 差 は, これ まで まだ充 分 実 証 的 に研 究 され た とはいえ な い。後 に指摘 す るよ うに,均分 相 続 制 の具体 的 ケ ー ス ・スタデ ィす ら怠 られ て い る とい う具合 に,土 地獲 得 そ の他 土 地 に関す る慣行 を調 べ るケ ー ス ・ス タデ ィが致命 的 に欠 けて い る。 人 口増 加 に関 して は, それ が ど うい う契 機 を介 して小 作 化現 象 に至 るの か,人 口圧 力 に た い す る適 応 の メ カニ ズ ムを考 え る社会 学 的考 察 が怠 られ て はな らな い。 定 着 農 業 型 社会 で あ り,村 落形 態 も watを 中心 とす る "klum (集 ま り)''とい う 形 状 を と り,流 動化性 向 もさほ ど高 くな い タ イ社 会 にお いて ,人 口圧 力 の限 界 影 響 力 は低 い。す な わ ち 一 つ の klum の住 民 が伝統 的 に耕 作す る区画 は限 られ て お り,細 分 化 が あ る限 度 に達 す る と直 ちに別 のか た ちの補 完 現 象 が生 じな くて はな らな い。 歴 史 的 にみ る と, 派 生 村 の形 成 ("baan mai"formation)は,土 地細 分 化 を補 う一 つ の適 応 現 象 で あ った と考 え られ る.7) 派 生 村 形 成 は,無 断耕 作 の伝 統 が あ る限 り, きわ めて容 易 で あ った。 しか し, あ る地 域 にお いて派 生 村 形 成 が行 な われ え な いば あい, あ るい は個別 的 な無 断耕 作 に よ る移 動 が行 な われ な くな ったは あ い,人 口圧 力 はい た って深 刻 な もの にな らね ば な らな い。 こ うい うば あ い に は,土 地 細 分 化 は,行 きつ くと ころ,小 作 化現 象 に結 びつ く。 小 作現 象 につ いて は, そ うい う小 作 化 の社 会 経 済 的背 景 の考 察 とと もに,小 作理 由 を よ り柔 軟 に考 え る こ と も必 要 で あ ろ う。土 地 窮乏 化 に よ る小 作 化 と地理 的便宜 を求 めて の土 地 の賃 貸 借 とで は意 味 が違 う。 この点 は, 中部 平 原 以外 の地 域 に関 して , と くに留 意 を要 す る点 で あ る。 この点 は, 自小 作別 経営 形 態 と経営 規 模 の相 関 関係 を考 え る うえ か らも大 事 な点 で あ る。 そ の他 ,小 作慣行 の変 化 に着 眼 す る こ と も肝 要 で あ る。小 作 料 の物納 か ら金 納 - の変 化 , あ るい は小 作 料減 免 の法 則 な どの小 作条件 の変 化 は,小 作現 象 自体 に劣 らず含蓄 す る と ころ は大 きい。 いず れ にせ よ, タ イの小 作制 度 の研 究 は, まだ今 後 の大 きな課 題 と して残 され た ま まの よ う だ 。 そ して今 後 の研 究 は,親 族 制 度, 土 地相 続 , 土 地 を め ぐる慣 習法 (無 断耕 作 も含 めて), 6) 本間武教授の 「タイ国における農地問題 と農地制度改革」『東南アジア研究』第2巻第4号は,タイ の小作制度への関心を喚起 した画期的な論考であろう。またタイ語で公刊 された国家開発省土地開発 局による中部5県の標本調査は,具体的数値で小作制普及の事実を裏付けている (cf・友杉孝 「タイ 中部平野の農家経済に関する-資料」『アジア経済』第7巻第10号). 中部以外の地方の小作化に関す る資料はほとんど得 られない。 7) 派生村形成 と土地保有 との関係については,いずれ筆者の調査地を素材にケース ・スタデ ィを試み たい。基本的発想は本稿の後半に示 してお く。なお"baanmai"は新 しい衆落を意味 し, タイの村落 にはたいていみ られる。

(8)

矢野 :南 タ イ の 土 地 所 看 村 落形成 史 ,農 民 の技 術 (社会 的 移 動 との関連 に お いて) な どに まで考 慮 にいれ た,総 合 的 な 研 究 にな らな くて はな らな い よ うに思 え る。 4 均 分 相 続 の 態 様 タ イに お け る土 地相続 の原 則 は, 均分 相 続 で あ る といわれ て い る。す なわ ち,土 地 は,一 戸 の家 計 に お いて,父 の所 有 で あ り,父 が死 ん だば あい, それ は母 の所有 に移 り, そ の母 が死 亡 した あ と子 供 に均等 に分 割 され る。8' この均等分 割 の法 則 は, タ イの全 地 域 に 及ぶ一 つ の伝 統 的慣 習 とい われ て い る。 この法 則 自体 の確認 は,す で にな され て い る とい って よい。 しか し,均等 分 割 の具体 的態 様 を細 か く検討 した ケ ー ス ・ス タデ ィは, い まの と ころ皆 無 で あ るO均等 が質 量 いず れ の均等 を 意 味す るか は問 わ ぬ と して も,分 割 の具体 的手 続 きは どの よ うにな され るのか , さ らに は極 度 に土 地 が細 分 化 した状 態 で は ど うい う代 替 措 置が と られ るか, な どを主 題 と した研 究 が ,今 後 な され ね ば な らない。 と くに イス ラム文 化 を もつ南 部 タ イに関 して ,土 地 相続 の問 題 は,別 種 の問 題性 を もってい る。す な わ ち, イス ラム法 に よ る土 地相 続 が どれ ほ ど土 地 の慣 習法 に優 越 して い るか検討 され ね ば な らな い。南 タ イの ム ス リム は,文 化 的 に二 つ の範 暗 に わ け られ る.一 つ は, マ レ-文 化 圏 に属す る南 部4

(ヤ ラ- ・ナ ラー テ ィワ- ト ・パ ターニ ー ・サ トー」7- ン) に い るマ レー ・ イス ラム, も う一 つ は ソ ンク ラー/i,Ei以 北 に散在 す る タ イ ・イス ラムで あ るl 09) タ イ ・イス ラム の諸 村 落 は,仏 教 圏 に所在 し, そ の住 民 は タ イ語方 言 を話 し,仏教 文 化 の影 響 を受 けやす い環 境 に あ る。 全 国 的 な教 団組 織 を欠 いて い る こ と もあ り, タ イ ・イ ス ラムに よ る イス ラム法 の遵 守 はか な りル ー スで あ る と考 え られ るo Lか し,従来 , タ イ ・イス ラム に関す る調 査 研 究 は完 全 に怠 られ て い た。 また タ イ国 内のマ レー ・イス ラム に関す る研 究 も,遺 産 相 続 に闇 して は い た って不完 全 な ま まで あ るC10' 土 地 に関す る タ イ間有 の慣 習法 が どの程 度 の分 布 と地 域別 の差 異 を示 して い るか とい う問題 と関連 して ,商 タ イの イス ラムの研 究 は,今 後 も っと深 く進 め ら れね ば な らな い。 いずれ にせ よ, タ イにお け る土 地相 続 の具 体 的態様 は, まだ不 明確 な ので あ る。土 地細 分 化 の問 題 と結 びつ くだ け に,均等 分 割 の実 証 的 ・具体 的 な事 例 蒐集 が重 ね られ ね ば な らな い。 以 上 , 四 つ の問 題点 を指 摘 した と ころで ,本論 に移 ろ う。 8) Wendell Blanchard (ed.)Thailand(HRAF),1958,p.305.

9) I-bid・,pp.60-62において, 「マ レー ・イスラム」と 「タイ ・イスラム」とが異な った文化某団で あるとして区別 されている。

10) パターニー県でマ レー ・イスラム村落の社会人類学的調査を行なった Frazer

,J

r.に して も,土地 相続については,多 くを語 っていない. cf.Frazer

,J

r.Rusembilan,1960.

(9)

東 南 ア ジ ア 研 究 第4巻 第5号

2

調 査 地 の 特 質 と土 地 保 有 の 基 礎 資 料 1 調 査 地 の 概 況 筆 者 が 定 着 調 査 を行 な った ドー ン ・キ レ ク (DoonKhilek)は, マ レ イ半 島東 岸 の ソ ン ク ラ ー県 に所 在 す る, 比 較 的 に歴 史 の 古い 11)タ イ ・イ ス ラム集 落 で あ るol2' ドー ン ・キ レ クは , 一 つ の 独 立 した 部 落 (muubaan) で あ り, 行 政 的 に は ソ ン ク ラー県

(cangwat)ア ンパ ー ム ア ン郡 (amph93)パ ウ ォ ン 行 政 村 (tambon)に属 す る。 ソ ン ク ラー県 は, ラノ ー ト, サ テ ィ ンプ ラを 含 む 平 坦 な半 島 部 米 作 地 箱 , - ジ ャ ィ, サ ダ オ を 含 む ゴ ム 園 の 優 越 す る地 帯 , テ ー パ ー , チ ャ ナ を 含 む 多 角 農 業 地 帯 に わ か れ るが , ア ンパ ー ム ア ン郡 は , そ ll) ドー ン ・キ レクの歴史 については,有効な資料 を得 に くいOパ ターニー県か ら北上 して来 た一族が 定着 して部落を開いた とい うが,地形的に判断す ると, マ レー半島西海岸 のケダー州あた りに住民の 起源を求め ることもで きる。 とにか く歴史 は古いようだ。 100年あま り以前の部落 は, バー ンヤイ衆 落だけか らな り,五つの衆落 はまだ成立 していなか った。住民 は米を作 り,牛 ・鶏 を飼い,そ して部 落の周囲には虎が抜思 していたとい う.70年 ほど前 に衆落が複数化す る。50年 ほど前 に, ゴムの需要 が高 ま り,そ して野菜栽培 がは じま るとともに,現在の クア ンヒンに移住がは じま って,そ こに一つ の ムス リム集落 が形成 され た。30年 ほど前に,それまでは熱帯樹林のなかの踏み分 け路であ った, ク ア ンヒンと ドー ン ・キ レクのあいだの通路が, は じめて道 らしい道 にな った。道がで きると,ア ロー ルスターまで牛を連れて行 って売 った り,部落の外で働いた りす ることができるようにな った。 それ と同時 に, クア ンヒンに過 に一度ではあれ定期市場が開かれ,貨幣経済の影響 は急激 に強 ま った。17 年前 に,部落には じめて 自転車を もつ ものがあ らわれた。 9年前に,政府 の地方開発計画の一環 と し て, クア ンヒンへの道が,雨季に も使用でき,小型 自動車 も通れ るような幅の ものに変え られ た。 自 転車 の数 も20台以上 に増え,7年前 にはは じめて ラジオが入 り,5年前 には, あ る青年が小型 の改造 バスを買い,- ジ ャイ市 に毎 日通いは じめた0 9年前にその新 しい道路一村民 は地方開発道路 と呼ぶ -が完成 してか らこのかた, ドー ン ・キ レクは歴史 の新 しい段階に入 ったとい って よい。 12) ドー ン ・キ レクの住民 は, 日常会話 には, タイ語南部方言を話 し, タイ ・イス ラムと呼ばれ る文化 集団 に属す る。 タイ国内のムス リムは,言語 その他の文化的特色を規準 として, マ レー ・イス ラムと タイ ・イス ラムとにわけ られてい る。 ソ ンクラー県人 口の18%はムス リムだが, これ はすべて タイ ・ イス ラムと考え られ る。表 2のように, タイ ・イス ラムは, ソ ンクラ-県 のなかで, ア ンバ-ムア ン 郡 ・チ ャナ郡か らサダオ郡 ・- ジ ャイ郡 にかけて,西南 に流れ る一つの圏をな してい る. これを仮に, ソ ンクラー ・タイ ・イス ラム ・ベル トと呼ぶ ことができる。 この圏内のムス リムは,通常 この地方の 先住民族 と見な されてお り,マ レ一系人種固有の文化を備え,マ レーよ り北上 して来 た もの と考え られ てい る。 ソンクラー地方の仏教徒 は, 中部平原か ら南下 して来 た もの と,別の経路か ら半島部 に流れ て来 たモ ン族な どの混清 といわれてい る。 しか しなが ら, タイ ・イス ラムは,文化的には仏教文化の 影響を強 く受 けてお り, イス ラム固有文化に仏教 および土着 アニ ミズムの文化要素が吸収 されている。 蓑 2 ソンクラー県 内タイ ・イス ラム集落郡別分布(総数 169部落) ア ンパームア ン郡 20 ラ タ ブ ム 郡 11 ハ ジ ャ イ 郡 28 テ ー パ ー 郡 サ ダ オ 郡 15 サパ ー ヨーイ郡 ラ ノ ー ト 郡 1 チ ャ ナ 郡 * * 4 7 9 2 1 3 サ テ ィ ン プ ラ郡 3 ナ∼ タウ ィー郡 11* 荏 :*印を付 した3郡は,bilingual地 帯で住民 はマ レー語 とタイ語 の双方を解 す る。 その意味では厳密 にはタイ ・イス ラムではないか もしれない

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矢野 -.南 タ イ の L 地 所 fj うい う性 格 を あ わせ 含 む 多彩 な地 域 を構 成 して い る。 全 体 と して , 低 い丘 陵 の多 い平 坦 な地 帯 で あ り, 河 川 に乏 し く, 地 質 は砂 分 を 多 く 含 ん で い る。 11月 か ら始 ま る集中 的 な

季 が 水 田耕 作 を可能 に し, 各 地 に水 田 を み る。 そ して , 零 細 な ゴ ム林 ,各 種 の郁子 林 が 遍在 し て い る。 ド- ン ・キ レ ク部 落 は,県 庁 所 在 地 ソ ン ク ラー 市か らマ レー シア に通 ず るサ イ ブ リー道 路 ぞ い に

西

に 14km 行 き, クア ン ヒ ン部 落で】抑 こ折 れ ,村 道 を さ らに4km 南下 した と ころ に 位 揖す る. 部 落 の属 す るパ ウ ォン行政 村 は,東 西 に 5km, 南 北 に 7km ひ ろが っ て お り, 七 つ の部 落 (muubaan) - それ ぞ れ70-300の戸 数 を有 す る- か ら構成 され て い る。 ド ー ン ・キ レク と クア ン ヒ ンを除 く と, 成 りは五 つ と も完 全 な仏 教 邦 図 3 ソ ン ク ラ ー 県 分 郡 図 落で あ る。 クア ン ヒ ンに は, 仏教 徒 とム ス リムが 混 在 して い るの に た い し, ドー ン ・キ レ クは ム ス リム の み属 住す る 邦藩 で あ フ /:,j o ドー ン ・キ レ クは, ア ンバ - ム ア ン郡 の最 西 端 に位 謹呈し,西 側 で - ジ ャ イ郡 と按 して い る。 部落 は,東 西 に約3.5km, 南 北 に約3kmの拡 が りを もち,図 4の よ うに, 三 方 を 仏教 徒 の集 落 に囲 まれ ,残 る一 方 で クア ン ヒ ンにつ な が って い る

部 落 は五 つ の小 異 落 (klum)よ りな り た ち, 析 庸堂 (masjit)と茶 店 の あ る中央 衆 落 (klum baan yai)を , それ ぞ れ 0.5km 離 れ て残 り四 つ の衆 落 が 取 り囲 む形 に な って い る. 中央 集 落 と他 の衆 落 とは田 中の畦 道 で 結 ばれ て

い る。

ドー ン ・キ レ クの戸 数 は296軒 , 人 口 は1,492名 で あ る (1965年 6月現 在 )。 人 口 は, 1961年 統 計 に よ る と, 当時 1,310名で あ った こ とが 知 られ る。 離 村者 は い た って 稀 で あ り, 人 口 増

(11)

東 南 ア ジ ア 研 究 第4巻 第 5号 は・ もっぱ ら自然増加 で あ る。筆者 が本 調査 の ため滞在 した,1964年 7月 か ら1965年 6月 に か けて, 出生42件 ,死亡 7件 を数 え た。人 口構成 の特 色 をみ る と,20才未満 の人 口が ち ょうど全 体 の40% を 占め,60才以上 の人 口は12% で あ り, その中間層 は48% とい う比 率 を示 して い る。 ドー ン ・キ レクの職業 構成 は,比較 的単純 で あ る。 ほ とん ど全世 帯 が 自給 自足 目的で稲 作 を 行 な い,現金収 入 の源泉 と して , ゴム,

子 類 , そ の他 の果樹 を もち, また,豆 , う り等 の栽 培 を行 な って い る。職業分 化 は未発 達 で ,農 業 以外 の職 業 と して は,茶店 経営 1例 ,小 間物販 売2例 , 自動車運転 2例 , トイマ ム (導 師) 1例 ,学 枚教 師 1例 ,小 規模 精米 所 2例 を み る が,非耕 作貸 出地主 は 2例 をみ るだ けで あ る。 そ の点 , きわめて等 質 的 な社会構 成 をみ る。 ドー ン ・キ レクの人 口構 成 ・職 業構 成 につ いて は,別 の機会 に詳説 す る と して,早 速 , ドー ン ・キ レクに おけ る土 地 保有 の態 様 の展望 に移 る ことに しよ う。 図 4 ドー ン ・キ レ ク周 辺 衆 落 配 置 概 念 図 814

- 1

(12)

2-矢 野 :南 タ イ の 土 地 所 fj

2 ドー ン ・キ レクの土 地保 有 に関す る基 礎 資 料

ドー ン ・キ レクの住民 は, 土 地 を用途 に応 じて, 屋 敷 地 (thiidin baan),水 田 (thiidin naa),庭 地 ・畑 地 (thiidin suan),未 利用 地 (thiidin waan) と基 本 的 に い って 4種 類 に区別 す る。 この うち, thiidinsuan は, 林 地 ・畑地 ・牧 畜 用草 地 な ど多様 な土 地 を一 括 して そ う 呼称 す る。 住 民 の念頭 で 区別 が 明確 で な い以上 , これ を よ り細 か く範 暗 化す る ことは賢 明で は な い。 こ こで も一 括 して suan 地 と呼 ぼ う。 君田受所 に よ る土 地 の登 録 もおおむ ね上 記 の4区分 を そ の ま ま容 認 して い る。 土 地 は,他 人 の土 地 に囲 まれ た1区画 が 1単位 と して観念 され,これ を 1プ レー ン (pleeng) とい う。水 田 の ば あい は, 畔 で 囲 まれ た 1区画 を 1単位 と考 え, これ を 1ビン (bing)と呼ぶ 。 通 常 1raiは 4bing に分 け られ て い る。 面積 を測 る単 位 と して は, ライ (rai) が広 く用 い られ , ライが さ らに ワ- (waa) に細 分 さ れ る。 1ライ (

-0

.

4エ ー カー)は 400ワ-で あ るO しか し, ドー ン ・キ レク住民 は, ワ-を用 い る と き,100 ワー とか200ワ- とか い うか わ りに, 5ワ- とか10ワ- とかい う。20ワ-の

方 が1ライで あ るので , 5ワ-は 400平方 ワ∼の 1/4とい う意 味で ,25ワ-の ことで はな く, 100 ワ-の ことで あ る。 タ イ国 社会 の土 地保有 を諭 ず る と き,所有 と占有 の区別 をつ け るだ けで な く,両 方 を あわせ 呼 ぶ 言 葉 と して保 有 とい う概 念 をか え りみ る必要 が あ る。 占有 (kaan pI10kkhroong) は, 串 実上 の土 地 占有 を意 味 す るだ けだ が, 伝統 的 に は, 占有 す るだ けで 法 的保 護 を受 け る権 利 を認 め られ た た め, 占有 と所有 の区別 が つ け難 か った。現 在 に お いて は,土 地 法 上所有 (kaan dai maa s也ng kammasit) は, 占有 と厳 密 に 区 別 され て い る。 しか しな が ら, 土 地法 の規 定い か ん を 問 わず ,前 述 の よ うに農 民 の観 念 に お いて, 占有 と所有 の 区別 は不完 全 で あ る。 そ の意 味 で , そ の不完 全 な状 態 を所有 と称 す るの は妥 当で な く,む しろ保 有 (kaan thtiti-khroong) と =平ぶ ほ うが望 ま しい。 ドー ン ・キ レクにお いて も,土 地 保有 の実 情 は,厳 密 な法律 的意 味 で の所 有 とは認 め難 く, そ こで以下 ,土 地 所有 の言 葉 は避 けて,土 地 保有 と呼 ぶ ことに しよ う。 以下 の記 述 の参 考 まで に, ド- ン ・キ レクの土 地 保有 に関す る基 礎 的統 計 を い くつ か検 討 し て お こ う。 ド- ン ・キ レクは,五 つ の小 米 落 よ りな るが,本稿 で は, ド- ン ・キ レクの中心 を なす もっ と も歴 史 の古 い中 央釆 落 (klum baan-yai) と,部落 の北 部 に位 置 し,都 市 や市 場 - のアプ ロ ーチ もよ く,2番 目に大 きい第 4衆 落 (klum baan-nook), お よび, 部落 の最南 端 に位 指 し, 市 場 へ の ア プ ローチ の悪 い第 1衆 落 (klum baan-phru) の 3衆 落 , 計201世 帯 か ら得 た資 料 を整理 して用 い る。 (残 りの2衆 落約 90世 帯 に 関す る資 料 は, 目下 整理 中で あ る。他 日完 全 な 形 で発 表 した い. しか し, この3衆 落 で ド- ン ・キ レ クの基 本 的性 格 は充 分 推 し測 る ことはで - 13- 815

(13)

東 南 ア ジ ア 研 究 第4巻 第5 弓-きよ う。) 各世 帯 の土 地保 有 に関す る数 値 は,各戸 の土 地保有者 に たいす る数 次 の面接 で 得 た ほ か, 1966年2- 3月 に, ソ ンク ラー最 下 で土 地保 有 に関す る調査 が行 なわれ た際 ,村長 の もとに公 式 に集 め られ た資 料 を も参照 し, 正確 を期 した。 (もっと も, この調査 は,各戸 の soo.khoo. 1記載 事項 を写す だ け の作業 に留 ま った ため,soo.kho0.1のつ くられ て いな い未登 録 の土 地 保有 量 を捉 えて いな い。公式資 料 は, そ の点 , いた って不完 全で あ るよ うな印象 を受 けた。) こ こで は,保 有 面 積 と利 用面積 お よび保有 面 積 と経営面 積 の区別 はつ けず に, と りあえず , 保 有 面積 だ け考 えて, 全体 の傾 向 を示 す に留 め よ う。保有土 地 と利用土 地 の区別 は, タ イ社会 で は問題 にす る必要 はない。 なぜ な らば,土 地所有 の前 提 に は,土 地 を継続 して利用す る こと (than prayoot)が不可欠 で あ り,未 利用 の まま長期 間放 置す る ことは, 制定 法上 も社会通念 上 も不 当視 され て い るか らで あ る。(土 地法上 は,chanood登記 の土 地で 5年,moo.so0.3 な どの仮所 有 登記 の土 地 で3年 間 が未 使用 の限 度 で あ る。)保 有 面積 と経営 面積 の差 は, ド- ン・ キ レクにお いて は, さ して問題 とす るに 当た らな い。小 作地 の全体 比 は あ とに述 べ るよ うに, わず か 1.8% で しか な く, またか な り大 きな規 模 の土 地保有 者 で さえ も借 地 こそす れ ,大規模 な貸 出 しは行 なわ な いので あ る。 また,土 地経 営 の問題 は, 「経営 」 の概 念規 定 が明確 にな さ れ ね ば な らず, そ のために は,親 族共 同体 の農 業従事 のあ り方 か ら見 究 め る必要 が あ り,別 の 機会 に親 族構成 の問題 とか らませ て,論 ず る ことに したい と思 う。 ドー ン ・キ レクを一 つ の領 域 と考 え る と, い うまで もな く住民 全体 の土 地保 有 総 面積 以上 の 土 地 が存在 す る。 なぜ な らば, ここで屋 敷地 ,水 田な ど考慮 に入 れ た土 地 以外 に,祈商堂 ,共 同墓地 や道路 な どの共 用地 , お よび, ドー ン ・キ レクの南端 に, (thiidinsaathaaranaso m-bat)の指 定 を受 け た公 用地 が あ り, また南東 側 お よび西 側 の仏教 部 落 と接す るあた りには, ド- ン ・キ レク部 落 の領 域 内で あ りなが ら,仏教徒 に よ る土 地所有 もあ るO逆 に,仏教 部落蝕 域 内に ドー ン ・キ レク住民 は土 地保有 を行 な って い る。 ドー ン ・キ レク 部 落 の 占め る 総 面 積 は,郡役所 に も統計 はな く,推 定 で しか算定 す る方法 はな い。 表 3に,各世帯 の土 地保 有 の総 面積 ,表4に,水 田保有 の態様 ,表 5に保 有 地 の態様 を,也 積値別 分布 で それ ぞれ示 して お いた。 これ を もとに, ド- ン ・キ レク一戸 平 均 の土 地保 有 を調 べ る と,表6の よ うにな るo 自給 自足 の手段 と して の水 田は, 5人家 族 で 5ライが標準 と考 え られ る。suan地 の用途 は 多様 で あ り, もっと も大事 な もの と して, ゴム林 ,郁子林 , その他 の果樹 園,野菜 畑 な どが あ る。 これ らは, お おむね現金収入 の源泉で あ り,suan地 の寡多 が貧富 の 差 をわ けて い る とい って よい。 suan地 を保有 しな い家 計 は,201サ ンプル 中12件 あ るが , いずれ も結 婚 に よ り分 岐 したばか りの,家 族 構成員 の少 な い核 家 族 で あ り,本家 と労 働 関係 を分 離 させ な い ままの状 態 に留 ま って い る。

(14)

L )三野.'情 タ イ 0) I.地 L】IT TIノ 表 3 総 土 地 保 有 税 模 l

0-

3.9 4- 6.9 7- 9.9 10- 12.9 13- 15.9 16- 19.9 20以上 計 世 帯 数 面積 (ライ) 14 30.5 33 184.5 39 337.5 31 358 32 456 25 442.5 27 755.5 201 2564.5 表 5 suan地 保 有 規 模 直情値 (ライ) 世帯数 面もti・(ライ)

0-

2.9 3- 5.9 6- 8.9 9- ll.9 12-- 14.9 15以上 計 8 1⊥ 7 6 4 5 4 6 3 2 1 1 6 3 252.5 268 263 176.5 346.5 1369.5 表 4

根保 有 規 模 面積借 (ライ) 世 帯 数 面積 (ライ)

0-

1.9 2- 3.9 4- 5.9 6-- 7.9 8- 9.9 10以上 計 0 9 5 2 0 5 1 2 4 5 4 2 1 0 2 14.5 ユ33.5 258.5 274.5 ユ73 202 1056 表 6 -戸平均土地 保有規模 個所 数 保有 面積 (ライ) 屋 敷 地 1 0.8 水 田 2.3 5.2 suan地 3.2 6.8 計 6.5 12.8 こuj三 つの表 の細 かい /I,j

L

軒 は断念 して,艮 ト ド- ン ・キ レクに お け る土 地 保有 の問題 点

o

j検

に 移る ことに しよ う。

3

ドー ン ・キ レクの土地 保 有 にみ る間銀 点 1 土 地 登 録 の 方 式

土 地 登録 の ことを ドー ン ・キ レクの住民 は, "tham sookhoo (sookhooを作 る)日と 表 現 してい る。 この ことは,son.kho0.1が土 地 登記 様式 のす べ てで あ るか の よ うに考 え られ てい る事実 を暗示 す る。soo.kho0.1は,3年 に 1回 ,郡 役所 の土 地 課 の役 人 が来 て名義書換 え の 機 会 を 作 る。 l酎 妾郡役所 に行 って もいいの

だが, ほ とん ど行 くものはない。 住民 は,

moo.so0.3や chanoodの ことな ど知 らな い 。またな か に は,soo.kho0.1の登 録 さえ 行 なわれ て いな い土 地 もあ る (表 7参照)。 住民 が sookhoo登 録 を怠 るの は, 怠 慢 か らで もあ り, 税 金逃 れ の 目的 か らで もあ 表 7 ドー ン・キ レクにおける土地登録方式 種 別 Chanood moo.soo.3 soo.khoo.1 無 登 録 計 - 1 5-比率 (%) 0 0 89.2 10.8 100.0 817

(15)

東 南 ア ジ ア 研 究 滞 4巻 第 5号 る。soo.kho0.1のない土 地 の大 部分 は,近年 村外 において獲 得 され た土 地 で あ る。す なわ ち, 無 断耕 作 によ り,未墾 地 とおぼ しき土 地 に入 り開墾 を は じめた土 地 で あ る。 しか し,soo.kho0. 1がない と した ら, 公式 には 占有 の事 実 さえ確認 され え な い ことにな り, 現行 法 の たて まえ か らす る と,法 的保 護 の対 象 とはな りえな い。善意 あ るい は悪 意 の第三者 が そ こに勝 手 に所有 権 を設 定す る こと も技術 的 に は可能 で あろ う。 soo.kho0.1の制 度 自体 が別種 の危 険 を学 んで い る。soo.kho0.1は, あ くまで も単 な る申告 に基 づ いて な され る無 検分 ・無測 量 の登 録で あ り, いか な る状態 の土 地 で あれ, 占有 した とい う事 実 を 口頭 で 申 し立 て たば あい,soo.kho0.1は発行 され うる。従 って,村外 の土 地 に関 し て は,第三者 所有 の土 地 を無主 の土 地 と誤 認 し,占有 を開始 したば あい に も,や は りsoo.kho0. 1が発行 され る こともあ りうるわ けだ。地租 の徴税 は,soo.khoo.1記載 の保 有土 地面積 に応 じてな され るので , あ るば あい に は不 当に多 額 の納税 が行 なわれ る ことに もな る。 soo.kbo0.1が万能 視 され る事実 は, ドー ン ・キ レクに正式 に実測 され た土 地 が ない ことを 暗示 す る。土 地面積 値 は,過 去 か ら伝 え られ た ものに従 って い る。従 って住民 の 申告 に応 じて soo.kho0.1に記 載 され る数 値 は,おおむ ね不 正確 な概 数 で しかな い。 ドー ン ・キ レクにおいて,土 地 の売買 や抵 当入 れが な され るは あい,soo.kho0.1が授受 さ れ てい る。土 地保有 は官 庁 に登 録 しな けれ ばな らない とい う観念 が常識 化 して か ら久 しいが, 住民 は,登 録方 式 につ いて の知 識 に乏 し く, "than sookhoo"だ けで安 ん じて い るのが実状 だ。 これ はたん に ドー ン ・キ レクだ けの現 象で はな く,南 タイ農 村部一 般 に共通す る事 態 で あ る。 2 無 断耕 作 (cabcoong)の実情 ここで検討 して い る201世帯 の うち, ドー ン ・キ レク境界 外 に土 地 を保有 す るの は46戸 ,総 面積 は557.5ライに及 んで い る (表 8参照 )。 この うち現世代 に よ って無 断耕 作で得 られ た とお ぼ しき土 地 は379ライを 占めて い る. この事 実 は二 つ の ことを物語 る. 一 つ は, 無 断耕 作 が現 表 8 部 落 境 界 外 の 土 地 保 有 1 I.-I::I:二二 三t: 二一 三 二丁 三 計 件 数

1

面 積 00 8 2 1 注 :木表において,遠隔地域とはバスに乗 って行かねばならない遠隔地を漠然とさし,近接地域 と は,徒歩で容易に往復できる距離内の土地をいう。部落の境界は,仏教部落に囲まれているた め,比較的明確にそれ と判別できるようにな っている。

(16)

上野:琉 タ イ U')上 地 叫 ,T3 在 に おい て も依 然技 術 的 に 可能 で あ る こ と, も う一 つ は,住

の矧 析耕 作- の

待 が少 な くな い こ とで あ る。

断耕 作 を行 な った とい う

1

6

を検 討 して み る と,無 断耕 作 の動機 と して ,二 つ

の・

J

油 が 棚 唱す る。第 一 に,家 族 内労 働人 口が多 く, そ の わ りに土 地 保有 量 が僅少 で あ るば あい,矧 断 排 作- の志 向 は強 い.例 を あげ る と, あ る7人家 /LJjiの世 帯 で は 4人 の労 働 可能 人口を有 しな が ら,総土 地 保有 量 はわず か5ライで しか な く, そ C/j結 果 ,他 郡 に20ライの土 地 を無 断耕 作 で 得 た。 第二 に,家 族 構 成 や 土 地 保有 総量 の い かん を問 わず ,

樹園

・菜 園 目的 の suan 地 の保 有 量 が僅少 で あ るば あい, や は り無 断耕 作 が行 な われ て い る。 例 え ば あ る4人家 族 の

世帯

は, 労 働 人 口2人 で 6ライの水 田を有 しなが ら, suan 地 が1ライ しか な い た め,他 部 に40ライの 無 断耕 作 を行 な った。 矧 析耕 作 が行 な われ る方 式 と して は,二 つ のや り方 が あ る。一 つ は, い わ ば正統 的 な方 式 と もいえ よ うが, まず親 類 友 人 な どか らの伝 え聞 きに よ って, あ る土 地 に赴 き, それ ら しき土 地 の見 当をつ け た うえで ,現 地 の カム ナ ンにそ の 旨を伝 え る。 そ こに小 屋 掛 け して定着 し, 開墾

作業 を行 な う。 そ して soo.kho0.1を作成 し,土 地税 を納 め, 納税 証 明 (ba主setpoo.boo. thoo.)を保 存す る。 もう一 つ のや り方 は,や は り聞 き伝 えに よ って大規 模 な未墾 地 開墾 の公式 許可 を受 け た もの の所 在 を知 り, そ の人 物 に頼 ん で土 地 聞墾 を させ て もらう方 式 で あ る。 無 断 耕 作許可 証 (ba主 coong) のお りた土 地 は,一定期 間 第三者 に譲渡 で きない以上 , この種 の土 地 を譲 り受 け る こ とは難 しい。 従 って このは あ い は

,一種

の借 地 闇 係 あ るい はよ り正雅 に は扉

労 働 関 係が成立 す るだ け な ので あ る。 ふ つ う,一 定 金額 の手数 料 を住 民 の側 か ら払 うことで 開墾 が始 ま る。 面 白 い ことに, ときに は, この種 の契 約 関 係 に よ って 占有 した土 地 で あ りなが ら,住 民 は soo.khoo.1登 録 を行 ない,納税 す ら行 な うので あ る。 無 断耕 作 を開始 す る と,住 民 は, そ の土 地 に粗 末 な小 屋 を掛 け, 食料 品 を運 び,単 身住 み込 む。 この出作 りの慣行 を ,現 地 で は "than nan" とい う。家 族 は, ドー ン ・キ レクに残 り, め った に同行 しな い。 田植期 な ど男手 の必要 な時期 や 断 食 月な どに のみ帰 村 し, しば ら くの あ いだ家 族 と共 に暮す が, や が て ま た開墾 地 に戻 る。 この よ うに して行 な われ る無 断耕 作 の システ ム は, い くつ か の問題 を秘 めて い る。 第 一 に,住 民 は,無 断耕 作を行 な う土 地 につ いて, 郡役 所 に赴 いて,第 三者 の所有 権 設 定 の 有 無 や な ん らか の 公示 の有 無 の確認 な どは行 なわ な い。 かれ らが晴好 す る土 地 は,一見 無主 の 土 地 の よ うに見 え な が ら, そ の実 , 国家 が公共 目的 の ため に公示 を行 な い,無 断耕 作 を禁 じた 土 地 で あ る ことが少 な くな い。 もっ と も thiidin saathaaranasombatな どに指定す るに は,

1単位 1,000ライ以 上 の土 地 で な けれ ば な らな い。 こま ざれ の無 主 の土 地 は無 断耕 作可 能 の

地 と して残 るわ けだO しか し, た とえ1,000ライ以下 で も面積 の 大 きい土 地 は, 資本投下 の対 象 と して ,都 市 在 住 の人 間 の所有 に帰 す るば あい もあ り,無 断耕 作 の真 の可能 地 を確認 す る こ

(17)

東 南 ア ジ ア 研 究 軍 4巻 第5号 とは,住民 の能 力で は必 ず しも容 易で はない。特 に ドー ン ・キ レク周辺 の土 地 は開墾 しつ くさ れ ,遠 隔 の他 郡 ・他 県 に土 地 が求 め られ るよ うにな った現在 , そ の危 険 の度合 は増 して い る。 第二 に,第三者 が未墾地 開墾 許可 (ba主coong)を得 た土 地 を 手数 料 を支 払 って 開墾す るは あい,住 民 の思 惑 は ど うで あれ,究極 的 にそ の土 地 が住 民 の保有 に帰 す るか ど うか は, あ くま で も許可 を有 す る当人 の意思 いかん に よ る。 その意味 で, い た って便 利 なため普 及 しつつ あ る ものの, この方 式 によ る開墾 は,土 地獲得欲 の強 い住民 の願望 を究極 的 に満 た しえない とい う 危 険 を もって い る。 第三 に,無 断 開墾 は,通常 ,少 な くと も20ライ多 くて50ライ とい うかな り広 大 な規模 で な さ れ るので,住民 は,納税 の負 担 を怖 れ て, 占有 の事実 を 申告 しない ば あいが少 な くない。表 7 に記 載 したよ うに,soo.khoo.1す らな い土 地保有 は, ドー ン ・キ レク住民 の総土 地保有 面積 の10%以上 に及 んで い る。善 意 ・悪 意 の第三者 は, これ らの土 地 を無 主 の土 地 とみな して,餐 記 す る ことが法律 技術 的 に は可能 で あ る。 この危 険を ,住民 は さほ ど切実 に考 えて はいない よ うだ。 いずれ にせ よ, これ らの問題 点 は,農 民一般 の側 に,土 地法体 系 の近代 化 に対 応 しうるだ け の啓 蒙 が欠 けて い る ことに原 因 して い る。農 民 の無 断耕 作 の考 え方 や技 術 が, 「無主 の土 地に 示 しをつ け,naairawaangにその 旨通 じる」 だ けで よか ったアユ タヤー時代 か ら,一 歩 も進 歩 していない点 に問題 が あ りそ うだ。 3 土 地保有 税槙 の歴史 的変 化 土 地保有 の将 来 の趨勢 を 占 う手 が か りを得 る うえで ,現在 の土 地所有者 世代 と一世代前 の旧 世代 との あい だ に, どれ だ け保有 に差 が あ るか探 る試 み は きわ めて有 効 で あろ う。 もっと も, 旧世代 に属す る ものはす で に死亡 した り老 齢化 した りして,虐 接面 接調査 を行 な うことがで き な いので, 旧世代 の土 地保有 に関す る数 値 は, 現世代 の記憶 に頼 るはか な い。 その意 味 で , か な らず Lも正確 な数 値 は得 られ ないが , それ で もお お よその傾 向 を さ ぐる ことは 可 能 で あ る。 本稿 が調査対 象 と した201世帯 の戸主 は, お よそ60の旧世代 の世帯 か ら分 岐 した もので あ る。 その60人 の旧世 代 の土 地保有 者 に関 して ,保有 面積 の概数 を求 め,一戸 平 均 の面積値 を求 めて み る と,約23ライ とな る。 旧世代 の土 地保有 に関 して は,以上 の よ うな三 つ の法則性 を見 出す ことがで きる。 (1) 各戸 の保有規模 が,お しなべ て,現世 代 よ りも大 きい。 (2) 世 帯 間で保有規 模 の 隔差 が大 きい。 す なわ ち, 大規 模所有 と小 規 模所有 との差 が 著 し い 。

(

3

)

プ レー ン (

1

区画) 比面 積 が大 きい。す な わ ち,土 地 の

1

区画 の広 さが大 で あ る。

(18)

矢 野 :南 タ イ の 土 地 明 石 こ うい う法 則性 が生 じた理 由 は,基 本 的 に は, 旧世 代 の時 代 に,土 地 が まだ きわ めて自由に獲 得 で き る状態 に あ った事 実 に求 め られ る.す な わ ち, ド- ン ・キ レクに比 較 的近 い地帯 にお い て,無 断 耕 作が可能 で あ った わ けで ,欲 求 と勤 勉 さの 度合 に応 じて , か な り大 きい区画の土 地 が入手 で きた もの と想 像 され る。 現在 で は, もはや ドー ン ・キ レクの周囲 に は,無主 の土 地 を求 め る こ とは不 可能 で あ り,土 地 はす で に値段 を生 じ,克 買 の対 象 とされ るに至 って い る。矧 析耕 作 は,遠 隔 の他 郡 ・他 県 に 赴 かね ばで きな い。 ドー ン ・キ レク内の土 地 に 関 して い え ば,土 地細 分 化 の傾 向 は否定 で きな い し, 同時 に, プ レー ン比 面 精 は小 さ くな り,相 帯 問 の保有 差 も従 来 よ りは相対 的 に平 均 化す る傾 向 を示 して い る。

な い ことは,派 生衆 落形 成 ("baan mai"formation)の歴 史的 展 開で あ る. す な わ ち, トー ン ・キ レクは, かつ て は

甲一

乗 落 よ りな る部落 で あ ったが,現在 で は5衆 落 よ りな って い る。 さ らに ドー ン ・キ レクの境 界 外 に も2, 3の派/i衆 落 が形 成 され て い る。 このklum の 複数 化

o

)

過 程 は,土 地獲 得機 会 を求 め る一 つ の適 応過 程 で あ った と考 え られ るが , ド- ン ・キ レクにお い て はお お よそ以下 の よ うに段 階 区分 で き る。 第 1期 単 一 klum

(100年 前以 前 ) この段 階 に は, ドー ン ・キ レクは,現 在 の申央 衆 落 だ け しか な か った。 申央 衆 前 は焼 付 形態 を と り, そ の 周囲 に水 田や suan地 が あ った。 第

2期

klum 複数 化期 (100-70年前) lIl央 衆 落 が あ る程 度 まで 膨張 した とき, お よそ 1ない し 0.5km 離 れ た地 点 に 新 し い klum が 形成 され は じめ たo これ らの 新米 落 は, は じめ はそ の地 点 に 無 断耕 作 した1戸 が 定 着 し, その周辺 に粗族 が集 ま る とい う貝 合 に形 成 され て い った。新 衆落 は, 中央 衆 落 の 四方 に四 つで き, そ して それ ぞれ ス ラオ (祈商 所 ) を もつ に至 った。

第3

期 部 落外 流 動期 (70-50年前) ドー ン ・キ レク周辺 で の無引析耕 作 が一 つ の限界 に逢 した と き,一 部 の住民 は, ド- ン ・ キ レクの境 界 を越 えて ,

4

な い し6km 離 れ た地 点 に,新 衆 落 を形 成 しは じめ た。仏 教 徒 を さは ど うとん じな い気楽 な性 格 が, かれ らの流 動性 を 助 長 した。 第 4期 土 地細 分 化 期 (過 去30年 ) ドー ン ・キ レクか ら 口帰 りで 耕 作で き る地帯 に無 断耕 作 の余 地 が な くな った と き,土 地 細 分 化 の傾 向 は

にな った。 同時 に,土 地 は価 格 を もち は じめ, それ と と もに,遠 隔地 で の矧 析耕 作 が は じま り,現在 に至 って い る。 以上 の過 程 を概 念図で表 わす と,図 5の よ うに な る。 次期世 代 にお い て どの よ うな現 象 が生 じるか は大 きな問題 で あろ う。 表9の土 地保有 規模 と 一一19-- 821

(19)

東 南 ア ジ ア 研 究 第4巻 第5号 表 9 土 地 保 有 規 模 と 家 族 員 数 相 関 (I,:rJ・・・lL.lf・.:1 m m 】 、_- __ 】 3 4 5 6 7以上 L 計

(

%)

2 8 r 1 4.1- 7 2 . 5 7 12 7.1- 10 4 loll- 13 : 1 1 13.1- 16 : 1 20.1以 上 i 3 1 1 12 7 2 10 3 7 . 8 2 4 【 6 家 族 数 相 関 が示 す よ うに, 6割 以 上 が13ラ イ以下 の保有 を示 し, 次 世 代 に お い て,1 世 帯 平 均 の土 地保 有 税 模 が, 現在 の12.8ラ イを下 まわ る こ とは明 白で あ る。 と くに現 在 7ライ以下 の保 有 しか な い層 に 関 し て は, 次世 代 に お いて, はや一 つ の過 少 の限 界 に達 す る こ とが予想 で き る。 人 口増 と世 帯数 の増 加 は も はや必 然 的 な趨勢 で あ り, か な り厳 密 な均分 相 続 の慣 習 と あ い ま っ て ,次世 代 あ た りが , ドー ン ・キ レクの土 地保 有 形 態 の -一つ の大 きな転 換 期 と考 え て よか ろ う。 現在 の土 地細 分 化期 に続 けて , どの よ うな現 象 が 生 じるか今 後注 目す べ き 課題 で あ る。 4 土 地 の 賃 貸 借 調 査 サ ンプル 201世 帯 の土 地保 有 の形 態 を分 類 す る と,表10の よ うにな る。 自作農 家 は全世 帯 の78.6% を 占め, 自小 作 ・自小 作 貸 出 あわせ て20.4% にな る。 しか し, 小 55 l 1 4 5 5 7

6

18( 8.9) 4 . 31( 15・4) 6 40( 19.9) l 冒 i ≡55'(;22'.:3 29 ! 37 . 201(100・0) - 歩 道 ・ マワジット(祈肩空) ----一踏 品わけ適 ○ 家 集蓬 森

7

L

く田

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-

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-

I-ー■- 小 川 森 森 森 I;長 相 芸 ..,.@/相 / /⊂〇 森 ? ..}

図 5 ドーン ・キ レクにおける派生集落 形成 の概念 図 自作 お よび小 作 だ け行 な う家 計 は存在 しな い。非 耕 作 地 主 の2件 は, いず れ もバ スの運転 手 を して い る。土 地貸借 の総件数 延 べ81件 を検討 して み る と,貸借 の

1

件 平 均 面積 は

2.

5

ライ にす ぎず ,小 作 され て い る土 地 の全体 比 は1.8%で しか な い。 ドー ン ・キ レクにお いて,小 作現 象 は まだ一 般 化 して い る とはい え な い。

(20)

矢野 :南 タ イ の 土 地 所 有 土 地 を賃 借 りす る個 々の ケ ー スを 精 し く 調査 して み る と, か な らず Lもす べ て の事 例 が土 地 の不足 に も とづ くもので な い こと が わ か る 。 す な わ ち , 小 作 農 家 の 土 地 保 有 規 模 を表示 す る と表11のよ うにな り, 保 有 規模 と小 作 との 相 関 関係 は認 め られ な い。 借 地 ・貸 出を 同時 に行 な う 家 計 も 2 件 あ る。 これ らの事 実 を考 慮 す る と, ド- ン ・ キ レクにお け る土 地賃 貸 借 の 少 な くと も一 雄分 は, あ る種 の便宜 的Ⅰ里山 (土 地 の地理 的遠 近 ,土 地 の形 質 な ど) に よ って行 な わ れ て い る ことが想∴像で き る。 土 地 の賃 借 は, 家 族 員数 に比 べ て水 田保 有 面積 が少 な い ケ ー スに生 じや す い. 小 作 農 家 の平 均水 田所 有 は4.3ライで , ドー ン・ キ レク全体 平 均 の5.2ライを 下 まわ って い 蓑 10 土 地 保 有 形 態 形 態 件 数 小 作 作 一 計 ・り1 =ド 貸 地 作 出 作 山 王 0 8 9 2 2 2 3 3 1 \1. % 7 禦 5 9 4 0 0 8 9 1 1 1 1 00 0 日 リ 表 11 土地保有規模 と小作の相関 保 有 面 積 (ライ) 件 下 7 10 13 16 20 上 以 へ へ へ へ へ 以 計 0 1 1 1 1 l 1 4 4 7 0 3 6 0 1 1 1 2 4 9 1 4 6 5 2 1 数 る。 ドー ン ・キ レクで賃 貸 借 され る土 地 は, こと ご と く水 田で あ り, suan 地 の貸 借 は な い (ゴ ム樹林 の貸 借 の例 を み るが, これ は土 地 の貸 借 で はな い)0 ド- ン ・キ レクにお け る土 地賃 貸 借 に闇 して注 目す べ き事 柄 は,比 較 的 に水 Lfl保有量 が少 な い世 毒 にお いて土 地 貸 出 を み る こ とで あ る. 表12で 示す よ うに, 水 LEl保 有 面積 が5ライ以下 の家 計 に,11件 の貸 出 しの例 をみ る。極端 な例 で は, わず か 3ライあま りしか水 田を 保有 しな いの に貸 出 しを行 な って い るケ ー スす らあ る. これ らの家 計 に共 通 す る特 色 は, (1)家 族 数 が 少 な い こ と (平 均3.3人),(2)現 金収 入 の源泉 に乏 しい こと, の 2点 で あ る. 具 体例 を あげ る 表 12 水 田 保 有 規 模 と 土 地 賃 出 の 相 関 \ へ へ へ 以 ⋮ 計

0

2 5 8 10 3 1 9 6 2 1 3 6 4 1 1 一 〇

0

1 7 1 .hJ 7 1 1 0 1 0 3

0

8 4 1 8 1 3 3 5 823

(21)

東 南 ア ジ ア 研 究 第4巻 第5号 表 13 小 作 契 約 期 間 件 日 26 1 4

3 ; 1 : 7 _L 41 ら・suan 地 を有 しな いため現 金収入 に不足 し, 水 田 1カ所 (1‡ ライ) を年 額200バ ー ツで賃 貸 しして い る家 計 が あ る。 これ な ど典型 的 な事例 で あ る。 南 タイにおいて ほ,水 田耕 作 はあ くまで も自給 自足 の方 便 と しか観念 され な いので,水 田耕 作 に よ る稲米 収量 を必要 以上 に確保す る必要 は感 じな い。家 族員数 お よび労働 可能 人 口に見 合 った面 積規模 のみ耕 作すれ ば よ く,余 分 な土 地 は賃 貸 し して現 金収入 源 に まわす こ とが可能 で あ る。 小 作契約 は,稲 の収獲 後 つ ぎの水 田耕 作 開始 まで の期 間 に, 口頭 で な され る。文書 で貸借契 約 を行 な う事例 は皆 無 で あ る。 小 作条件 をみ る と,契約年 限 は表13の通 りで , 1年 契約 が通例 で あ る。表 の不 明 とい う項 目 のなか には,別段年 限 を定 めて いな いケ- スが含 まれ て い るO しか し,庸 タイ水 田地帯 におい て ほ, 1年契約 の優 越 は, あまね くみ られ る現 象 のよ うで あ る。 小 作料 の支払形態 は,9割 以上現 金支 払 いで な され て お り,土 地賃 借 りの41例 中,38例 が現 金納 で ,残 る3例 が刈分小 作で あ る。小 作料 は,契約 に際 して, あ らか じめ収穫見 込 み高 を推 定 し, それ に見合 った相場通 りの金額 を きめて お く。 口頭 契約 に際 して,"daikhaaw_mrian, chaaibia- baat"(米 を リア ン13)得 た ら,か ねを_ _バ ー ツ払 う) とい う簡 潔 な表現 で確認 され る。 そ して,米 の実際 の出来具 合 をみて,小 作料 が支払 われ る し くみで あ る。 しか し,これ は小 作料 の減 免 の比 率 を あ らか じめ予定 す るわ けで はな い。 小作 料 の減免 は事 実行 な われ て お り,一 部減免 か ら全額減免 まで多様 な ケ ー スをみ る. しか し,減 免 に関す る取 り決 め は,貸 借 契約 に際 して行 な われ る ことはな く,万 が一米 作が住民 の常識 的判断 にお いて収 穫不良 に終 っ た と考 え られ たば あい, 当事者 間 の話 合 いで適 宜行 なわれ る。減免 の具体例 に,筋 の通 った法 則性 を求 め る こ とは困難 で あ る。 小 作料 の平均 金額 は,1965年 現在 ,稲300リア ンにたい して150バー ツがふ つ うで あ る (ライ 当た り平均 収量 は,ふつ う200ライ と計算 され る)。 しか し,借 地面積 が大 き くな り, それ相 応 に予想 され る収量 が多 いば あい には,小 作料比 率 は低減 し, た とえば,600リア ン200バ ー ツ, 13) リアン (rian)は,南タイ米作地帯で広 く用いられている米の収量をはかる単位である。 しか し, 1リアンは1束の稲を意味するだけで, 収量を正確にはかるうえでは不便である。 南タイの官庁は 1リアンを 1kgと換算する習慣である。

図 1 三種 あ る c hanoodt hi i di n の うち ,moo.s oo.4koo. といわれ るもの の書式。 国王 の名が記載 されていない点が注 目され る。現在 c hanoo d の書式 は, この型 に統一 されつつ あ る。
図 2 三種ある c hano odt hi i di n のうちの noo・s oo・4kh o o・の書式。国王 レ つ名が記載され,旧式のスタイルである点が興味深い。

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