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裁判例における役務提供型契約と《雇用類似概念》 利用統計を見る

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裁判例における役務提供型契約と《雇用類似概念》

著者

芦野 訓和

著者別名

ASHINO Norikazu

雑誌名

東洋法学

61

3

ページ

119-132

発行年

2018-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00009673/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止

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《 論  説 》

裁判例における役務提供型契約と《雇用類似概

念》

芦野 訓和

はじめに  周知の通り、わが民法典には13種類の典型契約が定められているが、人の役 務の提供が債務の内容となっているものには、雇用、請負、委任がある( 1 ) 。こ の中で、雇用契約については、近時の体系書・教科書で詳述するものはあまり みられず、その記述も条文の内容を概説するにとどまるものも少なくない( 2 ) 。 さらには、雇用に関する民法の規定は「時代的な意味しかな」く、民法の規定 を廃止して、労基法に一切任せてもよいと述べるものもある( 3 ) 。その理由とし て、第 2 次世界大戦後、労動関係の立法化が進み、これらの法律は民法雇用規 定の特別法であり、雇用関係に優先的に適用されることから、「民法雇用規定 は、それゆえ、ほとんど適用される場面がない」( 4 ) ことがあげられている。  民法典における人の役務の提供を目的とする契約(以下、本稿では、雇用、 請負、委任に該当するものも含め、「役務提供型契約」と総称する)規定のあ り方については、今回の債権法改正論議の際にも議論されていたが、契約の性 質決定・条文適用に関する部分については今回の改正では変更はなく、それぞ ( 1 ) 寄託について、ここに含めるか否かについては争いがあるが、寄託は積極的な行為を必ずしも 必要としないことから、本稿では含めない。この点につき、林信雄「雇用契約と労働契約」『契 約法大系Ⅳ』(有斐閣、1963年) 1 頁を参照。 ( 2 ) たとえば、山本敬三「民法講義Ⅳ― 1  契約法」(有斐閣、2005年)など。 ( 3 ) 平野裕之『契約法』(信山社、第 3 版、2008年)539頁。 ( 4 ) 近江幸治『民法講義Ⅴ 契約法』(成文堂、第 3 版、2006年)241頁。

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れの定義規定は維持されている。  一方で、裁判上、役務提供型契約が問題となった際に、その契約が「雇用類 似」のものであるかが争われる場合も少なくない。このような裁判例におい て、この「雇用類似」という概念はどのような意味を持つのであろうか。ひい ては、民法における雇用規定の現代的存在意義はどこにあるのだろうか。本稿 では、若干の裁判例を検討することにより、そこにおける「雇用類似」概念お よび雇用規定の意味・機能について明らかにしたい。  その検討方法として、まず、これまでもすでに行われている検討ではある が、民法典における「雇用」概念の解釈上の変遷について本稿に必要な範囲で 概観し(一)、次いで、「雇用類似」の契約に関する裁判例を挙げ(二)、その 意味・機能について検討する(三)。 一 民法典における「雇用」概念の解釈上の変遷( 5 )  雇用の定義規定である民法623条は、「雇用は、当事者の一方が相手方に対し て労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを 約することによって、その効力を生ずる」と定める。1898年に施行された民法 では「労務ニ服スルコトヲ約シ」と表現されていたが、2004年のいわゆる民法 の現代語化により現行の表現になった。「労務」が「労働」に、「服スル」が 「従事する」に変更されたが、これは内容の変更を伴うものではなく、現在一 般には用いられていなくなっている古めかしい表現を一般かつ平易な表現に改 められたものであるとされている( 6 ) 。  この「労務に服する」という表現は、いわゆる高等労務者である「医師、弁 護士および学術教師」を雇用人に含まないとしていた旧民法の考え方を改め、 現行民法では「高等ノ労務トカ劣等ノ労務トカ云フヨウナ区別」をせずに623 ( 5 ) 本章における起草過程および学説の分析は、すでに、鎌田耕一「雇傭・請負・委任と労働契約」 横井芳弘ほか編『市民社会の変容と労働法』(信山社、2005年)151頁、とりわけ159頁以下で詳 細に行われており、本稿もそれに負うとことが大きい。 ( 6 ) 池田眞朗編『新しい民法 現代語化の経緯と解説』(有斐閣、2005年)30頁、130頁。

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条はすべての労務を対象とすること、そして、仕事の結果を目的とする請負と の区別を明確にする観点から、「雇傭ト云フモノハ其労務自身ガ即チ其ノ契約 ノ目的デアルト云フ」ため( 7 ) であった( 8 ) 。すなわち、雇用を労務そのものと報 酬とを交換する契約として規定したのである。この定義により請負との区別は 概念上つけられることになったが、一方で、歴史上、委任に含まれるとされて いた「高等労務」を雇用に含めたことにより、委任と雇用との区別が不明確に なった。そこで、雇用と委任とを明確に区別するために、原案では委任は法律 行為に限定すると定義した( 9 ) が、後に、実際上の都合から委任の目的を法律行 為に限定せずに、法律行為でない事務の委託、いわゆる準委任にも委任規定を 準用する規定を追加した結果(10) 、雇用と委任との区分が再度不明確になった。  その後、第 2 次世界大戦前の主要な民法学説は、民法起草者の見解と同じ く、請負との対比では、請負はその目的が仕事の完成にあり請負人は仕事が完 成しない限りは報酬請求ができないのに対し、雇用では労務の提供が行われれ ば労働者に報酬請求権が発生するところに違いがあり、委任との対比では、委 任は当事者間の信頼関係にもとづき委任者の事務を処理するという点で、労務 そのものの供給を目的とする雇用とは区別されるとした(11) 。  しかしながら戦後の労働基準法制定後に、委任と対比した雇用の特質は使用 者の指揮命令に服することにあるとする説が現れた(12) 。その後、我妻が、「労 務者の労働を適宜に配置・按排し一定の目的を達成させることは、その労働を 利用する者(使用者)の権限とされ、そこに使用者の指揮命令の権限を生ず る。そして、この点が雇傭の重要な特色となる」(13) として、使用者の指揮命令 権を雇用の特色としてあげ、さらには、「民法が雇傭の定義的な規定で『労務 ( 7 ) 『法典調査会 民法議事速記録 四』(商事法務、1983年)458頁。 ( 8 ) このことを指摘するものとして、鎌田・前掲注( 5 )159頁。 ( 9 ) 前掲注( 7 )584頁。 (10) 廣中俊雄編著『民法修正案(前三編)の理由書』(有斐閣、1987年)735、736頁。 (11) 鎌田・前掲注( 5 )161―164頁。 (12) 山中康雄「労働契約の本質」季刊労働法 7 号(1953年)24―26頁。 (13) 我妻栄『債権各論 中間二(民法講義Ⅴ3)』(岩波書店、1962年)532頁。

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ニ服スル0 0 0』といっているのは、そのこと――労務自體の供給を目的とする結果 として使用者に労務についての指揮監督命令権を生じ、その意味において従属 関係を生ずること――を示す趣旨であろう」(14) と述べ、これが623条の解釈とし てその後通説化した。この見解は、前述の民法現代語化により「労働に従事す る」と表現が変更された後も同様であり、たとえば近時の体系書も、我妻説を 引用するかたちで、「請負は、ある仕事の完成を目的とし(632条)、委任は、 受任者の裁量のもとに委任者の事務を処理することを目的とし(643条・644 条・656条)、……。これらに対し、雇用は、『労働に従事すること』自体を目 的とするものである。さらに、現在では、雇用は、使用者が労働者に対し指揮 命令をしうること(労働者の従属性)が特徴であると理解されている」と説明 している(15) 。  このように、民法起草者は雇用を「労務の提供」を目的とする契約の一般規 定として規定する意図であったが、準委任概念が規定され、さらには、解釈上 「使用者の指揮監督命令権」が雇用の特色とされることにより、雇用の当初の 性質は変ぜられることになった。代わって、委任の規定が「他人の事務を処理 する法律関係の通則」(16) として考えられるようになったが、この見解は、「他人 を信頼して事務の処理を委託する関係」(17) において妥当するものであり、必ず しもすべての役務提供型契約に妥当するわけではない、そこで、債権法改正の 議論の際には、役務提供契約に関する総則規定の立法が学者から提案され(18) 、 その後の法制審議会民法(債権関係)部会においても、「準委任に代わる役務 提供型契約の受皿規定」新設の要否が当初検討され、それと同時に、「将来的 には民法典から『雇用』の規定を切り離して『労働契約法』に統合する」こと (14) 我妻・前掲注(13)541頁。 (15) 中田裕康『契約法』(有斐閣、2017年)487頁。 (16) 我妻・前掲注(13)666頁。 (17) 我妻・前掲注(13)667頁。 (18) 松本恒雄「サービス契約」山本敬三ほか『債権法改正の課題と方向(別冊 NBL51号)』(商事 法務研究会、1998年)202頁。

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も提案された(19) が、この「受皿規定の創設」は中間試案の段階で断念された。 代わって、受任者の知識、経験、技能その他の属性が主要な考慮要素となって いない事務処理の委任には、当事者の信頼関係を背景とする651条、653条を準 用しないとして、準委任には様々な事務処理が広く含まれるとする規定を656 条に付け加えることにより準委任に受皿的な機能を持たせることが検討された が(20) 、この提案も要綱仮案の段階で見送られることになり、結局、各役務提供 型契約の定義規定も変更されていない(21) 。  したがって、役務提供型契約については、今後も各契約の関係がこれまでと 同様に問題となることに変わりはない。 二 裁判例における「雇用」と他の役務提供型契約 1  請負契約における安全配慮義務  ある契約がいかなる典型契約に該当するかということと、その契約にいかな る規定が適用(ないし類推適用)されるかは、必ずしも直ちに結びつくもので はない(22) 。具体的な役務提供型契約の性質決定についても、それぞれの区別基 準を通説のように立てたとしても、役務提供過程における独立性と従属性とい う規準は相対的で程度の差に過ぎず、仕事の完成という概念もかなり相対的 で、ときとして曖昧であるからである(23) 。このような観点からは、「雇傭・請 負・委任のいずれかに類型的に区分しても、実際の法適用にあたってはあまり (19) 民法(債権法)改正検討委員会編『詳解 債権法改正の基本方針Ⅴ 各種の契約( 2 )』(商事 法務、2010年)244頁。 (20) 法務省民事参事官室「民法(債権関係)の改正に関する 中間試案の補足説明」499―505頁(第 41、 6 )。 (21) この間の議論を検討するものとして、鎌田耕一「雇用、労働契約と役務提供契約」法時82巻11 号(2010年)12頁。長谷川貞之「役務提供型の契約(雇用、請負、委任、寄託)総論」円谷峻編 『民法改正案の検討』(成文堂、2013年)252頁などがある。 (22) この点については、鎌田・前掲注( 5 )165頁以下、役務提供型契約との関係では、166頁以下 を参照。また、契約の性質決定との関係については、芦野訓和「契約法における契約の性質決定 と法規の性質」笠原俊宏編『日本法の論点 第 2 巻』(文眞堂、2012年)111頁以下も参照。 (23) 『新版 注釈民法(16) 債権( 7 )』[幾代通](有斐閣、1989年) 4 、 5 頁。

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大きな意味はない」(24) ことになる。  実際に、請負契約関係にある当事者に安全配慮義務を認める裁判例において は、その際、問題となる契約を雇用契約あるいは労働契約と類似なもの(それ らに同視しうるもの)として安全配慮義務を認めるものがある一方で、契約の 性質から結論を導き出すのではなく(直接の契約関係にない者の間であって も)、問題となる当事者間の関係(使用従属関係あるいは指揮監督関係)から 安全配慮義務が認めるものがある。  前者の例としては、①作業場、材料の供給、設備の使用等につき下請負人に は選択の自由がないことなど(=物的環境)及び下請負人は元請負人の指揮命 令下にあったことなど(=人的関係)から、両者の間には民法上の請負契約に とどまらず労働契約と同視すべき契約が成立していたとして、元請負人は自己 の従業員に対するのと同様に、下請負人に対し労働災害を防止しその危険から 生命及び身体を保護すべき労働契約上の義務に類する義務(これを「安全保護 義務」と呼んでいる)を負うとしたもの(山口地下関支判昭50・ 5 ・26判時 806号76頁)、②問題となる契約は請負契約の形式を取っているが、実質は使用 従属の関係にある労働契約と見ることが出来るとして安全配慮義務を認めたも の(東京地判昭57・ 3 ・29判時2057号82頁、判タ475号103頁)、さらには、③ 「基本的には請負契約の性質を帯びつつもその実質は労務の提供という色彩の4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 強い契約4 4 4 4であ」(傍点筆者)ることから元請人の下請人に対する安全配慮義務 を認めるとしたもの(東京高判平18・ 5 ・17判タ1241号119頁)(25) などがある。  後者の例としては、④問題となる契約は請負契約の色彩の強い契約関係であ ると認めたが、当事者間の実質的な使用従属関係に着目し安全配慮義務を認め たもの(浦和地判平 8 ・ 3 ・22判タ914号162頁、労判696号56頁)、⑤工事請負 人は、単に利益を享受するということだけから工事に従事するすべての者に対 (24) 鎌田・前掲注( 5 )170頁およびそこで引用される、来栖三郎『契約法』(有斐閣、1974年) 743頁。 (25) 本判決の評釈として、芦野訓和「判批」『私法判例リマークス(37)〈2008(下)〔平成19年度 判例評論〕〉(法律時報別冊)』26―29頁。

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し信義則上当然に安全配慮義務を負うのではなく、契約上の地位に基づいて工 事の現場を支配し、下請負人などが事実上請負人の指揮監督下で作業に従事し ている場合に安全配慮義務を認めるとしたもの(横浜地判平 2 ・11・30判タ 764号194頁、労判594号128頁)(本事案については否定)、⑥元請負人の従業員 が工事現場の指揮監督権限を有することから工事全般について事故が起こらな いように配慮する注意義務(安全配慮義務)を元請負企業に認めたもの(前橋 地判平14・ 3 ・ 7 最高裁 HP)などがある。 2  当事者の任意解除(解約)  契約の解除については、契約締結後に当事者の合意によって行う合意解除の ほか、契約締結の際にあらかじめ解除原因を契約によって定めておく約定解 除、法律が解除原因を定める法定解除がある。約定解除と法定解除では、一定 の解除原因が発生しなければ契約の解除は認められないが、役務提供型契約で は、当事者が一定期間拘束されるという継続的な契約関係という点を考慮し て、解除原因を必要としない任意解除権が認められている。雇用では626条か ら628条が各当事者の任意解除を定め、請負では641条が注文者の任意解除権を 定め、委任では651条が各当事者の任意解除権を定めている。  現行651条は、当事者双方の任意解除を原則とし(同条第 1 項)、相手方に不 利な時期になされたときに限り相手方の損害賠償請求を認めている(同条 2 項)。この規定をそのまま適用するならば、委任者はいつでも理由なく即時に 解除できることになり、受任者は自らに不利な時期に行われたことを立証しな い限り損害賠償も請求できなくなり、他の役務提供型契約と比べて著しく不利 な規定であるとの批判があり(26) 、この任意解除権はこれまで判例や学説などの 解釈によって修正・制限されてきた(27)(28) 。(なお、様々な役務提供型契約の受 皿としての機能が準委任に与えられたことから、多くの役務提供型契約が有償 (準)委任とされることになった。しかし、実際上は使用従属要素との関係 (26) 鎌田・前掲注( 5 )167頁。

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で、一般に準委任とされるものであっても労働契約ないし雇用契約との類似が 問題とされていることは周知の通りであるが、本稿では、その点は取り上げな い。)  雇用では、① 5 年を超える期間を定めた雇用あるいは終期が不確定の雇用は 5 年経過後は各当事者はいつでも契約を解除することができ(626条)、②期間 の定めのない雇用は各当事者はいつでも解約申入れすることができ(627条)、 さらには、③期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、 いつでも解除できる(628条)。これらの雇用規定については、もっぱら使用者 側からの解雇が問題とされ、この場合には労働契約法16条が適用されることに なるが、前述の通り民法の規定は各当事者の任意解除権を認めており、労働者 が望まない雇用関係から任意に離脱できるかも問題となる。このような、被用 者側からの解除が争われた裁判例として、例えば芸能人と所属タレントとの関 係について以下のものがある。①当事者間で主張の異なる契約の期間更新後の 契約につき、タレント側が627条 1 項による解除を主張したのに対し、芸能に 関する役務の提供を内容とする契約は、役務提供義務者において、業界におい て期待されている芸能上の才能を具有することを前提として締結されているの が通常であり、通常一般の雇用契約とは異なるとして、627条 1 項の適用を認 めていつでも解約の申入れをすることができるとするのは認められないとした もの(ただし、書面による更新拒絶の意思表示を認め、期間満了による終了を 認めた)(東京高判平 5 ・ 6 ・30判時1467号48頁)、②アダルトビデオ出演者か (27) 本稿の問題意識との関連では、鎌田・前掲注( 5 )167、168頁を参照。判例について、簡単に は、芦野訓和「委任における解除権放棄特約」椿寿夫編『強行法・任意法でみる民法』(日本評 論社、2013年)233頁を参照。本規定を詳細に検討する近時のものとして長谷川貞之「委任にお ける任意解除権の規範的性質」日本法学80巻 3 号769頁がある。 (28) これを受け、2017年の民法改正では、これまでの651条を基礎としつつ、判例法理を基礎とし た規律が第 2 項に組み込まれた。すなわち、これまであった①相手方に不利な時期に解除したと き( 1 号)に加え、②委任者が受任者の利益をも目的とする委任を解除したとき( 2 号)は、や むを得ない事由がない限り、解除をした者は相手方の損害を賠償しなければならないと規定され た。

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らの解除につき、アダルトビデオ出演の専属契約は、タレントが芸能事務所の 専属タレントとして出演等の業務を行うこと、事務所はタレントに出演料およ び契約料を支払うことを内容としており、事務所は委任者として受任者である タレントに出演等の事務を委任し、これに対して報酬を支払うとの準委任関係 であるとみることが可能であり、タレントからみれば、委任者として受任者で ある事務所に、仕事のマネージメント事務を委任したともみることができる委 任の要素が含まれる準委任に類似した無名契約であり(ただし、出演料はタレ ントからではなく製作会社から受領しているので本来の委任契約関係とは言い 難いとした)、651条の適用ないし類推適用により認めたが、不利な時期になさ れたことから同条 2 項による損害賠償を負うとしたもの(東京地判平12・ 6 ・ 13判タ1092号199頁)、③タレントと事務所との力関係、契約締結に至る経緯の ほか、契約の内容などを考慮し、タレント中心の契約ではなく、事務所がタレ ントを抱え、その指示の下に事務所が決めた企画等に出演させることを目的と する雇用類似の契約であると判断し、タレント側からの解除を認めたが、損害 賠償義務を負うとしたもの(裁判例②の控訴審、判決年月日不明、前記裁判例 のコメントによる)、④歌手と芸能事務所との間で締結されたアーティストマ ネジメント契約につき、活動における従属性、活動に関して発生した知的財産 権が事務所に帰属すること、出演料の支払先が事務所であること、歌手は給与 のほかわずかな印税報酬を受けとるにすぎないことなどから、歌手は、芸能事 務所の一定の指揮下において、アーティスト活動という労務を供給し、そのこ と自体または完成した仕事に対してその対価を得るという側面もあることか ら、雇用または請負契約としての性質も有しており、委任契約のほか、雇用ま たは請負契約としての性質が混合した無名契約とし、このような契約の性質に かんがみ、651条、628条等の規定の趣旨を踏まえ、契約の基礎となるべき信頼 関係が破壊されたというやむを得ない事由の存在を理由として歌手の側からの 解除を認めたもの(東京地判平13・ 7 ・18判時1788号64頁)、⑤タレントの専 属契約につき、報酬決定権限が事務所にあること、タレントが事務所を介さず に芸能活動を行うことについて厳しい制限が課されていることなどから、本件

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契約は準委任契約ではなく労働契約であり、事務所は労働契約に基づく賃金の 支払義務を負っているにもかかわらずそれを支払っていないことから、タレン トからの解約申し入れを有効としたもの(東京地判平25・ 3 ・ 8 労働判例1075 号77頁)、⑥アダルトビデオ出演にかかる AV 女優と芸能事務所との契約につ き、出演作品については事務所が決定していたこと、報酬についての明確な基 準が契約では定められていないことから、AV 女優が事務所に対してマネージ メントを依頼するというような AV 女優中心の契約ではなく、事務所が所属タ レントないし AV 女優として抱え、その指示の下に事務所が決めたビデオに出 演させることを目的とする雇用類似の契約であると評価し、契約上の規定にも かかわらず、「やむを得ない事由」があるときは直ちに解除することができる として解除を認めたもの(東京地判平27・ 9 ・ 9 賃金と社会保障1649・1650号 39頁)、⑦アイドルと芸能プロダクションとの間の専属マネージメント契約に つき、本件契約は、アイドルが事務所に対してマネージメントを依頼するとい うようなアイドルが主体となった契約ではなく、事務所が、所属の芸能タレン トとしてアイドルを抱え、事務所の具体的な指揮命令の下に事務所が決めた業 務にアイドルを従事させることを内容とする雇用類似の契約であったと評価す るのが相当であり628条に基づきやむを得ない事由があれば解除することがで き、報酬支払等の活動状況、契約書に定められた損害賠償条項などから、アイ ドルとしての活動を望まない者にとっては、その契約による拘束を受忍するこ とを強いるべきものではないから、契約を直ちに解除すべき「やむを得ない事 由」があったとして解除を認めたもの(東京地判平28・ 1 ・18判時2316号63 頁、判タ1438号231頁)、⑧タレントとしての芸能活動の一切を事務所に専属さ せる内容のタレント所属契約は、雇用、準委任または請負などと類似する側面 を有するものの、そのいずれとも異なる非典型契約の一種であり、雇用契約そ のものではないから労働基準法附則137条に基づく解除は認められないが、芸 能活動は、タレント自身の人格とも深く結びついた業務であり、タレントがそ のような業務の一切を所属先に委ねるものである以上、当事者の信頼関係がき わめて重要な意味を持ち、契約上規定のあるようにタレントが信頼を損なう行

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為をした場合による解除だけでなく、事務所側が同様に信頼関係を破壊したよ うな場合にも、当事者の契約の合理的意思解釈によりタレント側からの解除が 認められるとしたもの(東京地判平28・ 9 ・ 2 D 1 ―Law)、などである(29) 。 四 検討 1  請負契約における安全配慮義務と民法上の雇用規定  安全配慮義務は、密接な社会的接触関係に基づき信義則上認められるもので あり、民法上の雇用契約に基づいて直ちに認められるものではないのであるか ら、雇用契約との類似性を安全配慮義務の根拠とすることは必ずしも必要では ない。労務供給という過程において当事者間に使用従属関係が認められる場合 には、労務受領者は労務供給者に対し安全配慮義務を負うとすべきであろ う(30)。すなわち、使用従属的な労務供給者を利用する者は、債務者が〈労務の 供給〉という履行を行う際には、当事者の契約からではなく、使用従属的な関 係故に、債権者の支配領域にある事情により債務者の生命・身体等に危険を及 ぼすことのないように配慮すべき信義則上の義務を負うべきである。このよう に考えるならば、請負の安全配慮義務の場面では、「雇用類似」という概念を 持ち出す必然性はないといえる。 2  役務提供者からの任意解除と雇用規定  請負契約における安全配慮義務と異なり、役務提供者からの任意解除が問題 となった場合には、ほとんどの裁判例において民法典の規定の適用ないしは類 推適用が問題となっており、この点で、典型契約のいずれに当てはまるのか、 あるいは、いずれに類似するのかの検討は不可欠である。一方で、そのような 場合であっても、実際に行われる契約の多くは、定義規定にあげられている要 素のみで締結されるものは少なく、種々の要素・合意を含むことから、当事者 (29) 裁判例⑧の評釈、および他の類似する裁判例について、芦野訓和「判批」『私法判例リマーク ス(56)〈2017(下)〔平成29年度判例評論〕〉(法律時報別冊)』を参照。 (30) 高橋眞『安全配慮義務の研究』(成文堂、1992年)144頁。

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の合意や債務の内容からの単純な当てはめは困難である。そこで、解決にあ たっては、問題となる規定の立法趣旨や現代的機能から、事実に即した規定の 適用を検討することが重要である(31) 。より具体的には、問題となる契約におけ る当事者の関係、権利・義務の内容、法的地位の優劣や力の強弱、役務提供の 状況、問題となる場面およびそこでの当事者の利益状況などを総合的に考慮 し、適用ないしは類推適用の可否を検討すべきである。したがって、役務提供 者から任意解除の主張がなされた場合には、指揮監督命令などの当事者の関 係、契約で定められた権利・義務の内容、契約当事者の地位の優劣や力の強 弱、具体的な役務の提供などを踏まえ、当事者の利益状況などを総合的に考慮 し、具体的な条文の適否を判断すべきである。  前述の裁判例⑦(二 2 )は、このような考察をした上で、当事者が明示的に 主張していないにもかかわらず、裁判所が「雇用契約類似」という観点から 628条に基づいて役務提供者からの解除を認めている。すなわち、事案に現れ た具体的事情から一方の当事者の主張する「契約関係の解消」を認めることが 妥当であるとされる場合に、「雇用契約類似」という契約形式を当てはめ、関 連する628条を適用ないし類推適用している点に大きな特徴がある。この点 で、628条に役務提供契約の総則規定的な意義が与えられているといえよ う(32) 。この意味では、「雇用類似」という概念、そして民法典の雇用規定は重 要な意義を有するといえる。 3  雇用契約の強行法規性  民法典における「雇用」概念および雇用契約の規定の意義を考えるにあたっ ては、その法規の性質も検討する必要がある。 (31) この点につき、広中俊雄『債権各論』(有斐閣、第 6 版、1994年)329頁、鎌田・前掲注( 5 ) 166頁を参照。 (32) このような法的思考方法検討にあたっては、ドイツにおける「法形式強制」の議論が参考にな ろう。鎌田耕一「契約の性質決定と法形式強制」『流通経済大学法学部開校記念論文集』六九頁 以下は、同議論をわが国に紹介・検討する貴重な論文であり、その完成が期待される。

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 契約自由の原則から、財産法とりわけ契約に関する規定の多くは任意規定で あり、それは一定の基本的な契約につき、当事者の意思が欠けていたり、曖昧 だったりして争いが生じたときに裁判官が依るべき規定を定めているのであ り、補充的な性格を有するものであって、91条により当事者の合意が規定に優 先するとされる。しかし、資本主義社会が高度に発展・専門化することによ り、経済的な力の格差、情報力の格差などの種々の格差が契約当事者間に生 じ、本来民法で予定されていた「自由で対等な当事者間」という前提が崩れる ようになり、そのような状況で契約当事者間の自由な意思を過度に尊重するこ とは経済的な強者による支配につながりかねないことから、契約自由の原則の 過度の尊重に対する反省や批判が強まるようになり、法規上も解釈上も一定の 場合には契約自由を制約すべきとの考えが生まれるようになった。その制約原 理として強行法規が挙げられる(33)  このように考えるならば、雇用契約では当事者間の関係が対等ではないこと から、その規定の多くは強行法規と解されるであろう。学説上も、雇用関係の 終了に関する規定は強行規定であると主張するものがある。すなわち、期間の 定めのある雇用の解除権を定める626条は、これを排除する特約は当事者を不 当に拘束することになるという理由から強行規定である(34) 、627条の解約申入 れの猶予期間・予告期間は、労働者の生活の安定をはかるために、労働者に とっては強行規定である(35) 、そして、やむを得ない事由による解約権を定める 628条は、これに反する特約を認めることは当事者を不当に梗塞することにつ ながるから強行規定である(36) と。  雇用における役務提供者からの任意解除権に関する規定をこのように考える ならば、その機能は役務提供者の保護という観点から非常に重要なものである (33) 芦野「概説」椿編・前掲注(27)188頁。 (34) 我妻・前掲注(13)589、590頁 (35) 我妻・前掲注(13)590頁。本規定の強行法規性につき検討するものとして、西島良尚「労働 基準法からみた雇用規定と特約」椿編・前掲注(27)227頁以下がある。 (36) 芦野・前掲注(29)。

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といえ、役務提供型契約を考察する際には、《雇用類似》という概念および民 法典のこれらの規定の意義は非常に重要なものであるだろう。 おわりに  本稿は、鎌田耕一教授のこれまでの役務提供型契約および労働契約という 「契約」に関する検討を踏まえ、若干の裁判例をもとに考察を行ったに過ぎ ず、筆者がこれまで直接・間接に受けた鎌田教授の学恩に応えるに足るものと はなっていない。さらには、このような検討を行うにあたっては、民法典にお ける「雇用契約」と労働法における「労働契約」との関係の検討も不可欠であ るが、その点については留保している(本稿は、民法典における雇用規定に一 定の意義を認め得るという観点から、鎌田耕一教授が主張する「新たな峻別 論」(37)を支持する立場になる)。  今後、鎌田教授のさらなる研究に教えを受けながら、少しずつ研究を進めて いくことを期し、稿を閉じることにする。 ―あしの のりかず・東洋大学法学部教授― (37) 鎌田・前掲注( 5 )、同旨のものとして、村中孝史「労働契約概念について」『京都大学法学部 創立百周年記念論文集第 3 巻』(有斐閣、1999年)485頁。民法学の立場から本見解を支持するも のとして、中田・前掲注(15)489―491頁。

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