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戦略マップとBSC導入の促進要因と阻害要因

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戦略マップと BSC 導入の促進要因と阻害要因

はじめに

米国では,キャプランとノートン(Kaplan and Nor-ton, 1993, 1996, 2000)によって,モービルやケミカ ル・リテール・バンク,ロックウォーター事業部など 好業績に転換した企業の事例を取り上げられている。 ところが,日本企業に BSC 導入を薦めたとき,バラ ンスト・スコアカード(Balanced Scorecard ; BSC) を導入するとどのような効果があるのかと問われる。 つまり,BSC を導入することによって財務的成果に 結びつくのかという問いである。日本企業でも,戦略 実行することで最終的に財務業績が好転することをね らっているが,なかなかその効果がでないのは,BSC の導入の仕方が間違っている可能性もある。 BSC の導入の仕方を議論する前に,BSC の原点に 戻って,BSC は何を目的として構築されたのかとい う点から BSC の効果について検討する。BSC の目的 は,キャプランとノートン(Kaplan and Norton, 1992, 1993)によって戦略的業績評価システムとして考案さ れた。その後,戦略マップが考案され,戦略マップと BSC によって戦略実行のマネジメント・システムと なった(Kaplan and Norton, 2000, 2004)。今日では,

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財務

顧客

内部

学習と

成長

目標

尺度

目標値

戦略的実施項目

収益性増大 定刻出発 迅速な地上業務 最低の価格 原価の削減

戦略テーマ :

卓越した業務

ROAの最大化 顧客へのアピー ルと定着 地上スタッフ の訓練 ・迅速な地 上業務 ・ゲート待ち 時間 ・定時保守率 ・30 分 ・90 分 ・継続的な改善によるサ イクル時間の短縮 戦略が達成すべ きこと,戦略の 成功にとって重 要なことを記述 戦略の成功 度合いを測 定し,跡づ ける尺度 要求される 業績レベル もしくは改 善率 目標値達成 に必要な戦 略プログラ ム 導入の意義と導入上の促進要因と阻害要因を検討す る。戦略マップと BSC の正しい理解をしないことが そもそも阻害要因となるため,第 1 節では,戦略マッ プと BSC の基本的な構造を明らかにする。第 2 節で は,戦略マップと BSC の促進要因 に つ い て 整 理 す る。第 3 節では,戦略マップと BSC の阻害要因を整 理する。第 4 節は,BSC の目的を達成するために, BSC をどのように進めればいいかについて,導入プ ロセスという視点から促進要因と阻害要因を整理す る。最後にまとめをおこなう。 1 BSC の目的とその効果

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戦略的実施項目がある。

戦略マップと BSC が考案されるまで,戦略の成功 は 10% 以下でしかなかった(Kaplan and Norton, 2000, p.1)。逆に,戦略マップと BSC を用いて成功した企 業は,戦略志向の組織になっているという。そのため キャプランとノートン(Kaplan and Norton, 2000, p.26) は,戦略マップと BSC の目的を戦略志向の組織を構 築することにあるという。すでに指摘したように,キ ャプランとノートン(Kaplan and Norton, 1992)では, 戦略的業績評価システムを構築することが目的であっ た。これを戦略実行のマネジメント・システムへと移 行した(Kaplan and Norton, 2000, p.17)。

櫻井(2003, p.29)によれば,戦略マップと BSC の 構築の目的は 7 つあるという。第 1 に,戦略策定と実 行のマネジメント・システムである。キャプランとノ ートンのこれまでの主張を包含するだけでなく,戦略 マップを利用することで戦略の策定もできると指摘し ている。第 2 は,業績評価システムである。さらに, 第 3 として,経営品質向上のためにも利用できるとし ている。日本経営品質賞はアセスメント基準でしかな く,戦略マップと BSC は具体的にアセスメントを向 上するツールとなるからである。これ以外の 4 つの目 的として,IR,コミュニケーション,システム投資の 評価,ビジネスの共通言語がある。IR としては,財 務資料だけでなく,戦略マップや BSC を添付するこ とで戦略を投資家に理解させるには重要である。社内 のコミュニケーションとしては,トップの戦略を現場 に伝えるのに戦略マップは効果的である。システム投 資の評価としては,複数の尺度で評価できる BSC の アイディアが重要である。また,グローバル企業では ビジネスの共通言語として BSC を活用できる。 要するに,戦略マップと BSC を導入するのは,組 織変革や成果,言い換えれば戦略実行や業績評価だけ でなく,経営品質の向上,IR,コミュニケーション, システム投資の評価,ビジネスの共通言語といった目 的にも役立つ。このような 7 つの目的を実現するため に,戦略マップと BSC を導入する必要がある。導入 目的が不明確なままでは,戦略マップと BSC の構築 にいくら時間をかけても目的の達成には至らない。 2 戦略マップと BSC の促進要因 BSC の導入に当って,どうしたら成功するのか, あるいは失敗しないようにできるのかを検討しよう。 BSC の導入が成功するのかあるいは失敗してしまう のかを判断するには,BSC をどのような目的で導入 するのかに依存する。すでに検討したように,われわ れは BSC の目的を戦略実行,経営品質の向上,業績 評価,IT 投資の評価,IR などにあるとした。このよ うな目的を成功に導く要因,あるいは成功を阻害する 要因を検討する前に,これまでの研究成果を整理して おく。

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ている。 第 1 は,トップ・マネジメントの関与不足である。 戦 略 実 行 を 行 う の は,現 場 で あ る。現 場 が BSC を TQM のような改善プログラムと同一のものと考えて はいけない。改善プログラムは,事を正しく行うこと である。一方,戦略は正しいことを行うことである。 したがって戦略的に何が正しいかについてトップの強 い支持が成功の促進要因であるとともに,阻害要因に なるため,表裏一体の関係である。 第 2 は,BSC の関係者が極端に少ないことも阻害 要因になるとしている。トップやリーダー・チームが 直接 BSC を構築しても,組織変革は起こらない。ト ップから事業部やビジネス・ユニット,部門へと落と し込み,組織全体を巻き込むことが重要である。 第 3 は,トップ・レベルの戦略マップと BSC だけ に止めてカスケードしないこととしている。トップ・ レベルだけでは戦略目標や目標値を設定し戦略実行の 責任を持つことはできるが,実際に戦略を日常業務と して実行するのは第一線で働く現場の人々である。そ のため,カスケードがうまくできなければ,組織全体 が戦略志向にはならない。 第 4 は,戦略マップと BSC の構築が長期にわたっ たり,あるいは一過性のブームのひとつとして扱うこ とも阻害要因となる。キャプランとノートンによれ ば,完璧な戦略マップと BSC を目指して構築に 18 ヶ 月も経っているのに,トップが戦略マップと BSC を 議題として取り上げない場合,戦略志向の組織には変 革しない。実行することによって学習が導かれ,それ が組織変革のパラダイム・シフトを起こすからであ る。 第 5 は,戦略マップと BSC をソフトウェア・プロ ジェクトとして導入することは間違いである。外部 IT ベンダーは,BSC のためにソフトウェアを構築し たがる。相当の時間と人と金額を費やすことになる。 システム構築は重要ではあるが,システムがないとし ても BSC 導入の阻害要因になるわけではない。BSC は,システム構築の前に,戦略策定や戦略目標,尺 度,目標値,戦略的実施項目を検討することの方が重 要である。ただし,戦略マップと BSC を効果的に実 行するには,ソフトウェアが有効であることも事実で ある。 第 6 は,経験のないコンサルタントに依頼すること は危険である。コンサルタントに頼ることなく自らの 努力で戦略マップと BSC を導入することは,時間が かかるだけでなくしばしば成功の阻害要因となる。そ のためコンサルタントを雇うことは重要であるが,経 験不足のコンサルタントは戦略マップと BSC 構築そ のものを理解しないで自らの方法論を提供したり,戦 略マップと BSC の勘所を理解しないまま導入するこ とがあるからである。 第 7 は,BSC を報酬制度と連動するためだけに用 いることは戦略志向にならないと指摘する。非財務尺 度を報酬と関係づけることに重点が置かれ,顧客の視 点や財務の視点の業績が向上するように関連づけられ ないことがあるからである。たとえば,目標値のタイ トネスがパフォーマンス・スラックを考えて低めに設 定してしまう。これでは戦略志向とはならない。 一方ニーブン(Niven, 2003)は,BSC の阻害要因 として,10 個の要因について優先順位をつけて指摘 している。もっとも重要な要因は,トップの支持がな いことである。第 2 に,戦略マップと BSC の教育不 足では組織変革ができないとしている。第 3 は,戦略 が な い と 成 功 を 阻 害 す る。第 4 は,戦 略 マ ッ プ と BSC の目的が不明確であると失敗するという。第 5 は,尺度が設定できないうちに導入すべきではなく, 導入のタイミングを間違えると失敗するという。第 6 は,一貫した経営管理を行うことである。戦略実行の ために非財務尺度が重要だとしながらも,報酬システ ムを財務尺度だけで行っていては,非財務を重要視し なくなるからである。第 7 は,尺度としてこれまで収 集してきたものだけでなく,革新的な尺度を設定でき なければ組織変革はできないという。第 8 は,戦略マ ップと BSC の専門用語を確実に理解することが肝要 である。第 9 は,カスケードができなければ組織変革 はできない。第 10 は,他の経営ツールと統合するこ とが重要である。 4 戦略マップと BSC の目的および促進要因と阻 害要因

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触媒要因 ・利益への圧迫 ・個人 動機づけ要因 ・グローバリゼーション ・製品革新 推進要因 ・IT ・会計担当者 変革の 可能性 リーダー 変革の活性化 要因 変革の阻害要因 ・順位づけの変更 ・会計担当者の異動 ・変革への会計担当者の態度 変 革 よれば,会計の変革には 3 つの要因があるという。第 1 は,一般的に用いられるもので,競争市場,組織構 造,製品技術と い っ た も の か ら な る 動 機 づ け 要 因 (motivator)である。第 2 は,直接的に会計変革に関 わるもので,財務業績の悪さ,マーケットシェアの減 少,競争製品の市場参入などからなる触媒要因(cata-lysts)である。第 3 は,それだけでは変化を起こすも のではないが,変革に欠くことのできないもので,会 計 担 当 者,会 計 処 理 技 法(accounting computing re-sources),親会社からの自由度(degree of autonomy) などからなる推進要因(facilitators)である。

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戦略マップと BSCの導入目的 動機づけ要因 推進要因 触媒要因 リーダー要因 活性化要因 阻害要因 は以下のようになる。 動機づけ要因は,競争市場,組織構造,製品技術, 市場のグローバル化,事業環境の複雑化,製品ライフ サイクルの成熟化,財務尺度の問題がある。他にも, 戦略を現場の言葉に置き換えること,組織全体を戦略 に向けて方向づけること,戦略を全社員の日々の業務 に落とし込むこと,価値観や文化,組織変革のねら い,BSC のねらい,導入の目的を明確化などが挙げ られる。 推進要因は,会計の変革であれば,会計担当者,会 計処理技法,親会社からの自由度である。BSC の推 進要因に限定すると,迅速な BSC 導入,戦略的にう まく構築された状況,組織変革を支援するリソースと 支援システム,従業員の信頼,BSC 事務局が手綱を 緩めないこと,BSC エキスパートの育成などが含ま れる。 触媒要因は,財務業績の悪さ,マーケットシェアの 減少,競争製品の市場参入,戦略を担当するビジネ ス・ユニットのマネジャー,実施された戦略分析であ る。リーダー要因は,変革者,事業部長,トップであ る。また,活性化要因は,変化し続けると期待される ことである。他にも,戦略分析のプロセス,パートナ ーシップ・プロジェクト,戦略を継続的なプロセスと すること,戦略マップと BSC を導入することを十分 納得させること,トップのコミットメントなども考え られる。 会計変革の阻害要因としては,優先順位の変更,会 計担当者の異動,スタッフの態度の変化,トップ・マ ネジメント の 関 与 不 足 な ど で あ る。戦 略 マ ッ プ と BSC に限定すれば,BSC の関係者が極端に少ないこ と,トップ・レベルの BSC だけに止めてカスケード しないこと,BSC の構築に長くかかったりブームの ひとつとして扱うこと,BSC をソフトウェア・プロ ジェクトとして導入すること,経験のないコンサルタ ントに依頼すること,BSC を報酬制度と連動するた めだけに用いること,トップの支持,戦略マップと BSC 教育不足,戦略がない,戦略マップと BSC の目 的が不明確,導入のタイミング,一貫した経営管理を 行うこと,革新的な尺度の設定,専門用語の確実な理 解,他の経営ツールとの統合など数多くある。 要するに,第 1 節で検討したように,戦略マップと BSC を導 入 す る こ と に よ っ て,最 終 成 果 が 達 成 で き,変革する組織になり,経営品質が向上し,IT 投 資が評価でき,そして IR 目的に役立つ。このような 目的のために,動機づけ要因,推進要因,触媒要因, 活性化要因,リーダー,そして阻害要因がある。これ らを目的と手段の関係からなる特性要因図として示す と,図表 3 となる。 図表 3 より,単に促進要因と阻害要因を列挙するだ けでは意味がない。むしろ,何のためにこのような要 因を取り扱う必要があるのかを理解する必要がある。 このような意味で,戦略マップと BSC の導入目的を 明らかにしておく必要がある。 4.2 戦略マップと BSC の導入プロセスにおける促進 要因と阻害要因

クオンとツムドゥ(Kwon and Zmud, 1987)やアン ダースン(Anderson, 1995)によれば,IT の導入プロ セスは,開始,採用,適応,認知,日常化,導入から なる。このプロセスは,IT に限らず会計変革のプロ

図表3 戦略マップと BSC 導入のメリットを実現するための特性要因図

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た。その結果,戦略マップと BSC の目的は,最終成 果,変 革 す る 組 織,経 営 品 質 の 向 上,IT 投 資 の 評 価,そして IR 目的への役立ちにあるとした。これら の目的の中で,特に戦略実行のマネジメント・システ ムとして機能するように変革する組織となるために は,ダブル・ループの学習を前提にすべきであると考 えた。導入目的を明確にし,ダブル・ループ学習の意 義を正しく理解しておく必要があることを明らかにし た。これらを正しく理解しないとそれが導入の阻害要 因になってしまうからである。 また,戦略マップと BSC の目的を達成するために 促進要因と阻害要因を検討した。これらの関係を因果 関係として明らかにすることもできるが,ここでは目 的・手段関係による特性要因図として示すとともに, プロセスごとに促進要因と阻害要因を明らかにした。 促進要因と阻害要因は,動機づけ要因,推進要因, 触媒要因,活性化要因,リーダー要因,そして阻害要 因に細分した。このように細分した要因を,次に,開 始,採用,適応,認知,日常化,導入という導入プロ セスにあてはめて整理した。この整理によって,導入 プロセスごとにどのような促進要因と阻害要因がある のかに注意を向けることができるようになる。併せ て,日常化と導入のプロセスには,促進要因も阻害要 因もないことがわかった。つまり,日常化して完全な 導入となれば,戦略マップと BSC の目的は完全に達 成できたことになる。 参考文献

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参照

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