• 検索結果がありません。

水資源の保全を考慮したラムゼイ料金

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "水資源の保全を考慮したラムゼイ料金"

Copied!
20
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

水資源の保全を考慮したラムゼイ料金

著者 原田 禎夫

雑誌名 經濟學論叢

巻 55

号 3

ページ 63‑81

発行年 2003‑12‑20

権利 同志社大学経済学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004643

(2)

水資源の保全を考慮したラムゼイ料金

原 田 禎 夫

は じ め に

経済活動は水資源を消費財,あるいは生産活動のための資源として利用する ことで,便益を受けており,同時に経済活動は将来の水資源にも影響を与えて いる.つまり経済活動と水資源は互いに密接な関連があり,水資源はフローと してだけではなく,ストックそのものが社会的厚生に対して直接的に影響を及 ぼしている1)

現在,わが国では過疎や高齢化,外国産材などの影響を受け中山間地の農林 業が衰退したことによる水源地の荒廃,工業用水をはじめとした都市用水の確 保や大規模水力発電を目的としたダムや堰の影響による河川の減水や地下水位 の低下2),あるいは水質汚染などの問題,また世界的にも水資源をめぐる紛争が 各地で起こる一方で,欧米企業による発展途上国の水資源の囲い込みが行われ る3)など,さまざまな問題が引き起こされている.

いわゆる上流下流問題とよばれるような水源地と水の消費地の間の問題は,

1)萩原(1990)は,環境が住民の選好あるいは効用関数の変数となっている場合,住民の効用水 準への環境の影響は直接的であるといえると指摘した.

2)たとえば新潟県・信濃川では上流部に2 つの大規模水力発電所が設置されており,この影響で途

中減水区間が発生している.生態系への影響だけではなく,十日町市の生活用水である信濃川伏流 水の枯渇の危険性が指摘されている.この問題については国土交通省信濃川工事事務所(2002),

西澤・永井・藤堂(2002)に詳しい.

3)ヨーロッパやアフリカでは,ミネラルウォーターの水源地をめぐる囲い込みが問題視されている.

また,現在水をめぐって紛争中の地域は8 地域,水質や環境問題などをめぐる問題は各地で頻発し ている.これらの問題については「第3 回世界水フォーラム事務局」(http://www.worldwater- forum.org/)などに詳しい.

(3)

従来の水資源市場において,水資源の価値が水道料金をはじめとした水の価格 に明示的に関連づけられることなく,持続的な水資源の保全にかかる費用が内 部化されなかったために,引き起こされてきたのではないだろうか.そこで本 稿では水資源市場のうち,とくに上水道市場について社会的厚生と水資源の将 来にわたる関係を考慮した料金について考える.

本稿の構成は以下の通りである.第1 章では,水資源の特性に関する基本的 概念について整理する.第2 章では,第1 章の議論をもとに,水資源のモデル について説明する.第3 章では,水資源の保全を考慮した場合のラムゼイ料金 について動学的な分析を行うことで,再生可能資源としての水資源の上水道シ ステムにおける最適な料金水準について検討する.動学的ラムゼイ料金に関す

る分析はBrock and Dechert(1985)によってなされた.しかし,ここでは動学体

系における限界費用とラムゼイ料金の乖離についての分析はなされたが,上水 道事業のように再生可能資源を生産要素とした事業と,その資源との関係につ いて料金の面から分析されたものではなかった.そこで本稿では水資源の保全 を明示的に考慮した動学的ラムゼイ料金について分析する.第4 章では第3 章 で提示したモデルの均衡の安定性について分析する.最後に,本稿での議論の 結果について検討し,まとめとする.

1 水資源の基本的概念

一般に空気や水といった自然界に無尽蔵に存在する財は「自由財」として定 義されている.いうまでもなく,これらは我々にとって必要不可欠なものであ り,ただ無尽蔵に消費されるだけではなく,経済市場で取引されるケースも多 く見受けられる.そしてまた,歴史的にも政治的にも重要な問題であり,中で も水資源の開発と安定的な経営は公共部門の重要な機能と位置付けられている.

Howe(1979)は水資源供給の特徴的な要素として次の3 点を指摘している.

① 水需要の相互依存

②水道事業の規模の経済性と巨額の固定資本

(4)

③水資源の量と質における各経済主体の権利(水利権)

公共部門の問題として水道事業をとらえたとき,Howe(1979)は所得配分機 能を有した問題として考えている.すなわち,水資源供給の費用は料金制度の みならず税体系を通じて納税者全体に課せられるが,便益に関してはそれを享 受する者が限られているということである.萩原(1985,1990)などにおいては 水源地と水資源供給者の間の問題,いわゆる上流下流問題として地域間所得再 配分の観点からも考察を加えた.

水資源は環境経済学の分野においては「環境資源」であるとDasgupta(1982)

によって定義された.Dasguputa(1982)は「環境資源」は「共有的資源」であ ると述べている.これは「社会共通資本」(宇沢,1971)4)などと似た概念であ る.「共有的資源」についてはさまざまな定義づけがなされているが,共通する ことは使用者(権利者)間で何らかの協調が実現されない場合,資源の枯渇や荒 廃による外部性が発生するということである5).萩原(1990)は,従来の外部性 の議論だけでは環境資源の問題について正確に取り扱うことが出来ないことを 指摘した.すなわち外部性とは利用の結果としての影響に関する考え方であり,

①利用に際しての不可逆性

②環境への影響の蓄積性

③環境への影響の不確実性

が存在するために,利用方法自体を見直す必要性を唱え,環境資源の枯渇可能 性や物質収支原則を考慮して質の側面だけではなく,量の側面も同時に扱うこ

4)社会共通資本は,さらに自然的なものと社会的なものとに分けられる.これらは再生産のための 社会的な限界費用によって分類される.この分類に従うと,水資源は自然的共通資本,上水道サー ビスは社会的共通資本とされる.

5)したがって,Hardin(1968)で指摘されたいわゆる「コモンズの悲劇」は,所有形態が共有であ るがゆえに発生する問題ではなく,資源がオープンアクセスであるが故に発生する問題であり「オ ープンアクセスの悲劇」といえよう.また近年,環境問題,特に資源管理問題の議論においてコモ ンズとは,単に共有的資源そのものを指すのではなく,その資源に対し共同利用する権利を有する 者が,資源の枯渇や乱獲を回避するための様々な規則を設けることによって持続的な管理・運営を 図っていこうとする制度や組織そのものと考えられている.コモンズについての詳細はOstrtom

(1990)などを参照せよ.

(5)

とが重要であることを指摘した.

水資源の利用に関する負の外部性としては,水資源の利用による,他の水利 権所有者への供給量の減少による負の便益の発生,河川水量や地下水位の低下,

魚類をはじめとした水生動植物への影響,あるいは住民のレクリェーションへ の影響が考えられる.ここで問題になるのは,第1 には資源利用の社会的費用

(外部経済あるいは外部不経済)の算定が困難であるということである.また,第 2 には誰がそれを負担すべきなのか,という問題である.

Bromley(1991)は,外部不経済が発生する場合,最適な資源配分が歪められ

ることを環境資源の問題において示した.水資源の配分に伴って発生する社会 的費用がすべて貨幣価値に換算できるなら,市場を通じた取引により,水源保 有者と水資源利用者の間で水資源の配分がなされる.しかし,一般に水資源利 用者である水道事業者は,その構造的な特性により水市場において市場の失敗 が生じることが分かっている.そのために,水資源市場において均衡が必ずし も達成されるとは限らない.

このように生態系全体の水資源の再生能力を考慮に入れた水資源の最適配分 問題を考えることは,実は水資源が,従来の自然独占産業という枠組みだけで はとらえきれない性格のものであることを示唆しているのである.

2 水資源循環モデル

鉱石や化石燃料のような枯渇性資源とは異なり,水や大気は,自己再生的で あると同時に枯渇的という性質を持ち,再生可能資源に分類される.再生可能 資源とは環境が整えば自ら再生可能な資源であり,野生動物や耕地,牧草地,

大気などがこれに分類される.

水資源は,流域や地球全体を通じた水循環システムにより,常に循環し,ま た汚染物質などによる負荷が与えられても,自然の浄化作用や,人為的な作用 により回復可能であり,再生可能資源であるといえる.

流域に降った雨はいったん流域に貯えられて流出する.いま,t期における流

(6)

域の水資源をX(t)=Xtとする.降雨などによる流入量は,t期の水資源と,季節 的な要因など,時間に依存していると考えられ6),i (t, X(t))=itとする.一方,

流域に降った雨は河川や地下への浸透によって流域外へ流出する.このため流 出量については,流域に貯えられた雨水の量に依存すると考えるのが妥当であ り,o (t, X(t))=otとする.ここで,純流入量を以下のように定義する.

I (t, X(t))=It(Xt)=i (t, Xt)−o (t, Xt) なお,It(Xt) は凹関数であると仮定する.

t 期の水需要をQ (t)=Qtとすると,流域の水循環システムの状態方程式は次 のように定義される.

X

=It(Xt)−Qt (1)7)

(1)式より,水資源の再生可能性は,t期の水資源と水需要に依存していること がわかる.純流入量と同じか,少ない消費量であった場合に水資源は再生可能 であり,自然増分以上に消費された場合,水資源は最終的に枯渇する.

このような条件のもとで,事業者は最終時点Tにおける水資源量X (T) が望 ましい水資源量−X (T) と等しくなるよう事業を運営する8)

3 上水道料金モデル

3. 1 生産関数と費用関数

上水道料金を分析するためには,事業者の費用関数を明らかにする必要があ るが,その前提として,事業者の生産関数を明らかにする必要がある.

ここで,上水道事業者はt期において資本K と労働L を用い,Ytの水道水を 生産するとする.また,水資源の利用が進み,枯渇が進むと取水が困難になり,

6)ただし,実際には流入量は全地球的な問題を考えない限り,季節による変化はあるものの,流域 の水資源の変化による増減は無視しうると考えられるため,局地的あるいは短期的な問題において は時間のみに依存するものとするのが一般的である.

7) 水文・水資源学会(1997)およびBromely(1995)をもとにしている.

8)このとき実際には瞬時に水資源量を変化させることは不可能であると考えるのが妥当であろう.

したがって,この問題が実現可能であるためには でなければならない.すなわち のような許容範囲が存在するとすると, となる.詳しくは河合(1975)を参照 せよ.

T≧Tmin* X・ |  θ−  Tmin*=|XTmin−X0|/θ− 

(7)

生産活動に影響を及ぼす9).このような資源枯渇が生産に及ぼす影響は,生産関 数において水資源Xtを外生変数として示すことで分析が可能である.

Yt=ft(K, L ;Xt) (2)

ここで,生産関数ftKLに関して一次同次であると仮定する.また,水 資源Xtも生産性に影響すると考えられ,利用可能な水資源が多いほど,事業者 の限界生産力は高く,∂ft/∂Xt>0,かつ逓減的∂2ft/∂X2t<0 とする.また,資 本Kおよび労働Lと水資源Xtは互いに補完的,すなわち∂2ft/∂K∂Xt>0,∂2ft /∂L∂Xt>0 とする.

この生産関数から導出される費用関数は(3)式に示すとおりである.ここ で,資本と労働の要素価格は時間に関して一定であり,それぞれr,wとする.

また,費用は水資源Xtにも依存する.すなわち,

Ct=C (Yt;Xt, r, w) (3)

なお,費用関数は生産関数のK とLに関する一次同次性より,r とw に関して 一次同次である.また費用関数は水資源Xtの関数でもある.これは水資源が渇 水などにより枯渇すると取水が困難になり生産費用を高めるからである.した がって∂Ct/∂Xt<0 とする.また,∂2Ct/∂YtXt<0,∂2Ct/∂Xt∂r<0,∂2Ct/

∂Xt∂w<0 とする.なお,費用関数のヘッセ行列は正値定符号であることから,

2Ct/∂Y 2t>0,∂2Ct/∂X 2t>0,∂2Ct/∂r2>0,∂2Ct/∂w2>0 である.

3. 2 水資源保全を考慮したラムゼイ料金

上水道事業者が直面する水の料金の決定は非常に複雑な問題であり,とくに 料金政策が市場の需給関係にもとづくものであるほど,市場における適正料金 に適合させるのは困難である.なぜならば,事業者は家庭用,非家庭用,ある いは需要のピーク時とオフピーク時といったように,sub-marketがいくつも存在 する.このような場合の代表的な料金設定方式としてラムゼイ料金が挙げられ

9)これをストック効果という.

(8)

る.ラムゼイ料金とは,企業が異なる複数のサービスを提供するときに「収支 均衡を制約条件として経済的厚生を最大化する」ための料金設定方式と定義さ れる.換言すれば,最小の社会的損失にとどめながら,事業者の収支均衡を達 成する限界費用料金からの「最適な乖離」と考えられる.

上水道事業においては計画期間のはじめにおいて,予測された需要量Qtを満 足する供給量Ytを決定する.すなわち,Qt≡Yt=ft(K, L; Xt) である.そして,

この条件のもとで事業者は費用最小化行動を行うものとする.いま,上水道水  に対する逆需要関数を, とすると10),t期の社会的厚生は,

St=R (Qt)−C (Qt;Xt, r, w)と定義される.

政府の目的は,最終時点のT 期にXTの水資源を確保しつつ,この社会的厚 生を計画期間を通じて最大化することである.簡単化のために割引率をゼロと すると,計画期間における社会的厚生関数はt期の水の総消費量とT期の水資 源のストックからなり,(4)式で示される.なお,操作変数はQt(t= 0 ,…, T),状態変数はXt(t= 0 ,…, T)である.

(4)

また,Sは準凹関数であるとする.事業者の収支均衡は常に達成されている必 要があり,(5)式のように定義される.

(5)

以上より,社会にとっての最適化は次の動学的最大化問題として表される.

(6)

R(Qt)= P (Q) dQ

∫ 

Qt

0

S= {R (Q

∫ 

t)−C(Qt ; Xt, r, w)}dt

0 T

Π=P (Qt)・Qt−C (Qt ; Xt, r, w)  0

max  {R (Q

∫ 

t)−C (Qt ; Xt, r, w)}dt

0 T

Qt

10)ただし,逆需要関数Pについては以下の仮定をおく.(1)PQについて2 階連続微分可能.

(2)P´<0.(3)P´´Qt+P´<0.(3)の仮定は需要曲線に沿ってQが増加するにつれて,需要の価 格弾力性が小さくなっていくということを意味している.

(9)

subject to

なお,第1 期の水資源X0=X−

0は所与である.

この問題はPontryagin-Arrow の解法によって解かれる11).ここで,Hをハミル トン関数とすると

H=R (Qt)−C (Qt;Xt,r,w)+λt(It(Xt)−Qt)

である.ただしλtは補助変数である.したがってラグランジュ関数Lは L=H+μt(P (Qt)・Qt−C (Qt;Xt, r, w))

=R (Qt)−C (Qt;Xt, r, w)+λt(It(Xt)−Qt) (7)

+μt(P (Qt)・Qt−C (Qt;Xt, r, w))

となる.ただし,μtはラグランジュ乗数である.したがって,最適解をもつた めの必要条件は以下のようになる.

(8)

(9)

(10)

(11)

(12)

また,X・*

=0 とおくことにより,

  =P−  −λ∂L t+μt  P+Q・   −    =0t

Qt

Ct

∂Qt

Pt

Qt

Ct

∂Qt

μt  0,    =P∂LQt−C 0, μ・   =μt t (PQt−C)=0

∂μt

∂L

∂μt X=  =I∂L t−Qt

∂λt

・ 

λ=−  =(1+μ∂L t)   −λ・ t

∂Xt

∂C

∂Xt

It

Xt

・ 

λ(T) 0, λ(T)・[XT−XTmin]=0

11)Arrow(1968)を参照せよ.

Xt =It (Xt)−Qt X0 =X0 XT  XTmin

Π=P (Qt)・Qt−C (Qt ; Xt, r, w) 0

− 

・ 

(10)

すなわち,定常状態においてQt=It(Xt)であることがわかる.

さて,本稿では水道料金の分析が目的であるので,(8)式を次のように変形 する.

(13)

ここで,R=(μt/ 1+μt) を用い,需要の価格弾力性をε=−(P (Qt) / Qt)・(∂Qt

/∂P)(ただしε>0),∂C/∂Qt=MC とおくことで,(13)式をラムゼイ料金に

適合させるべく変形すると,

(14)

あるいは

(15)

以上の条件を経済学的に解釈すると,ラグランジュ乗数と同様にして,λtは 水資源に関する動的制約のシャドウ・プライスであり,水資源が1 単位変化し たときの社会的厚生関数の最適水準の変化として解釈できる.均衡においては

(11)式においてλ・

= 0 となるため,λt

(16)

と表すことができる.ここで費用関数の性質より∂C /∂Xtは負である.一方λt については水資源の純増分∂I/∂Xtが正である際には,λt<0,純増分が負であ

る際にはλt>0 となる.ここで, とす X*=ItQt=0

・ 

P=  +λ∂Ct t−μt P+Q・  −t

Qt

P

∂Qt

∂Ct

Qt

      =R  +P−MC P

1 ε 

λt

P・μt

P= MC

1 ε 

λt P・μt 1−R  +

λt=(1+μt)

Ct

Xt

I

Xt

1 ε 

λt P・μt

1−R  + P=     ,PMC *=  MC

1 1−R  ε 

(11)

ると,以下のような関係が成立する.

すなわち,水資源の純増分(∂I/∂Xt)がゼロ以下である場合,λt>0 である ため,水資源の保全を考慮した社会的に最適な料金は,従来の事業者の収支均 衡のみを制約としたラムゼイ価格と比べて限界費用との乖離幅を大きくする必 要があるため,より高くなる必要があることがわかる.一方,水資源の純増分 が正である場合,λt<0 であるために,従来のラムゼイ価格の水準よりも低くす ることが可能である.

このように,水の料金が水供給の限界費用と,収支均衡制約を達成するため の限界費用,そして水資源の社会的限界費用から構成されるべきであるとする ならば,従来の料金水準では現在および将来の水資源の価値を算入していない ため,社会的に望ましい水準から乖離していることがわかる.

また,水資源の純増分に応じて料金水準を変化させることが必要であること が示された.換言すれば,水資源が減少しているとき,従来の水資源の保全を 明示的に考慮していない料金制度のもとでは,水資源の水準に応じた料金設定 がなされていないため料金が適正水準を下回り,過剰な利用を招いている可能 性も考えられる.

将来にわたって持続可能な水資源の利用を考慮するのであれば,料金算定に おいても水資源の保全を明示的に考慮すべきであることはいうまでもないだろ う.実際に,水資源の純増分は季節的な要因や地理的な要因,あるいは原水の 種類,また他の用水などと複雑に関係している.社会的に最適な料金は水資源 の保全をも考慮したものであるべきとするならば,水資源をめぐるこれらの要 因をも考慮したものであるべきであろう.このことは,水資源の保全を目的と したときの水道料金におけるピークロード・プライシングなどの導入の可能性

P*>P  if     0∂It (Xt)

Xt

P*<P  if     0∂It (Xt)

Xt

(12)

も示唆するものであるといえよう.

4 均衡の安定性と一意的最適経路の分析 ここでは前章で示された均衡の安定性について調べる.

ここでμt>0 なので12),(9)式よりP (Qt)・Qt=C (Qt; Xt, r, w) となるため,Q=

Q (Xt) である13).また,(8)式より,μt=μ(Xt, λt) なので,(10)式および(11)

式より

(17)

(18)

を得る.以上の微分方程式によってこの問題の動学体系は構成される.

局所的な安定性を調べるために(17)式と(18)式を均衡点の近傍で線形近似 すると,以下のようなヤコビ行列が得られる.

ただし,

(19)

(20)

(21)

(22)

Xt=It (Xt)−Qt (Xt)

・ 

λt=(1+μt (Xt, λt))       −λ・ t ∂It (Xt)

∂Xt

∂Ct (Q (Xt), Xt)

∂Xt

・ 

J= a11 a12

a21 a22

a11=  =  −∂X

Xt

It

Xt

∂Qt

Xt

・ 

a12=  =0∂X

∂λt

・ 

a21=  =  ・  +(1+μ∂λ t)    +     ・   −λ・ t

Xt

∂μt 

Xt

Xt

∂Qt 

Xt

2It 

X2t

2Ct 

∂X2t

2Ct 

Xt∂Qt

・ 

Xt

It 

Xt a22=  =  ・  − ∂λ

∂λt

∂μt 

∂λt

・ 

12)(9)式より,P・Qt−C>0 のときμt=0 である.したがって,(8)式よりP−CQtとなる.一 方,P・Qt−C=0 のときμ 0 であるので,(8)式よりP−CQt/(1+μt) となる.これにμt=0 を 代入するとP−CQtとなり,P−CQtと矛盾する.すなわち,μt>0 でなければならない.

13)以下ではrとwについては省略する.

(13)

となる.Jの各要素の符号条件はa11 0,a12=0,a21 0,a22 0 である14).ここ で,∂I (Xt) /∂Xt<0 の場合,a11 0, a21 0,a22 0 となり,体系の安定性はた だちには分からないため,以下では∂I (Xt) /∂Xt>0 の場合についての分析を行 う15)

Jの特性方程式は φ2+A1φ+A2=0 となり,A1,A2の値は,

A1=tr. J=a11+a22 A2=det. J=a11a22−a12a22

である.体系が安定になるための必要条件は,

A1<0, A2>0

さて,動学体系の安定条件は,tr. J<0,det. J>0 であるが,a11<0 のときに はこの安定条件はつねにみたされるため均衡点はつねに安定的である.したが ってここではa11>0 の場合における体系の安定性について分析する.

いま,a11>0 であるためtr. J<0,det. J<0 である.したがって,このときに は特性根は符合の異なる 2 つの実数であり均衡点は鞍点であることがわかる.

以下ではこの場合における最適経路が存在するかどうかについて分析する.

さて,位相図を用いて分析するために,水資源の増減がゼロ,すなわち水資 源の水準が一定であるような,水資源の状態方程式の軌跡(以下ではX= 0 線と よぶ)と水資源の純増分のシャドウ・プライスが時間を通じて一定であるときの 軌跡(以下ではλ・

= 0線とよぶ)を求める.まず,X・

= 0 線の勾配はa12=0 よりX 軸に対して垂直となることがわかる.また,

(23)

Xt

・    =a11>0

14)補論参照.

15)なお,It(Xt) は凹関数なので∂2I(Xt) /∂X2t<0 である.

(14)

となり,X・

=0 線の右側では増加し,左側では減少することが分かる.

同様にしてλ=0 線の勾配は

(24)

となり,正である.また,

(25)

となり,λ=0 曲線の上側では減少し,下側では増加する.

以上を示したのが第 1  図である.この場合の均衡は鞍点となるため,均衡 点に収束する曲線と均衡点から発散していく曲線を有する.

また,X0XTminXTmin< X0<X*(第 2 図参照),あるいはX*< X0< XTmin(第

3  図)となるように与えられた場合,最適経路は一意的に存在する.一方,

X0<XTmin<X*あるいはX*<XTmin< X0のような場合,最適経路は存在しない.

また,微分方程式は均衡点の近くほど運動が緩慢になるため均衡点に近い領 域を通る経路ほど同じ長さの経路を通過するのに必要な時間は多くなる.すな

第 1 図

∂λt 

Xt

    =−   >0a21 a22

・ λ=0

∂λ 

∂λt

・    =a22<0

(15)

わち計画期間が十分に長いとき,つまりT の値が十分に大きければ最適経路は 均衡点 X*の近傍で多くの時間を過ごすことが知られている(佐藤(1968),三土

(1990)).このことは充分に長い計画期間のもとで水資源の保全を考慮した料金 設定を行った場合,水資源の自然増分と水資源の限界生産物の大小関係にかか わらず均衡は安定的であることを意味している.

お わ り に

上水道による水資源の利用は,何らかの影響を環境に与えている.したがっ て消費者は本来は水環境に対して自ら保全する責任を有しているが,実際には 十分な認識を持っているとは言いがたい.これは,水道料金が環境に対する外 部性を考慮していないためともいえよう.そこで,本稿では社会的に最適な水 資源の消費を達成するための水道料金モデルについて考察を試みた.

水資源の保全,すなわち将来においても水資源がある一定の水準で存在する という制約のもとで,計画期間を通して社会的厚生関数を最大化することで,

水の料金をラムゼイ料金の体系で表した.最大値原理によって導出された社会 的に最適な水道料金は水資源のシャドウ・プライスを反映したものであり,そ

第 2 図 第 3 図

(16)

の料金水準は従来のラムゼイ料金と比較して水資源の増減によって変化しうる ことが示された.また,水資源の水準に応じて事業者の生産量,すなわち需要 量を適切に操作する必要がある.さらに,上水道事業において収支均衡を制約 として上水道を供給し安定的な均衡を実現するためには,水資源の純増分が増 加していることが条件となりうることが示された.水資源の自然増分と限界生 産物の大小関係によっては均衡の安定性はみたされない場合があるが,計画期 間を充分に長くとることにより,安定的な均衡を達成しうることがわかった.

すなわち,水資源の保全については長期的な計画のもとで枯渇を招かないよう 保全につとめる必要があるということである.以上が,本稿において導き出さ れた重要な結論である.

水資源の価値を料金体系に導入することにより,水道料金は水資源の保全の ための社会的費用を反映したものになる.再生可能な範囲において水資源の適 切な配分がなされるものであるならば,市場均衡は安定的となり,水資源の枯 渇を料金政策により事前に防ぐことが可能である.このことは,水資源のシャ ドウ・プライスを反映するものが最終的には消費者に転嫁されることとなり,水 源保全のための資金を生み出すことも可能なことを意味する.

水資源の価値が,実際にどれほどのものになるのか測定することは非常に困 難であるが,近年,さまざまな手法が考案されている.水資源の価値を正確に 評価した料金決定が可能になれば,水資源の配分によって発生する外部費用負 担の問題に関しても生態系全体を考慮した,より実効性のある政策提言が可能 になるであろう.しかし,実際に水資源のシャドウ・プライスがどの程度の大 きさになるのか,また水道事業において水資源やそのシャドウ・プライスに対 する限界生産物がどの程度の大きさになるのかによって料金水準や均衡経路は 変わりうる.これらについての分析は今後の課題としたい.

補  論

P・Q−C=0,すなわち収支均衡を考えるならば(8)式は ∂L

Qt

∂Ct

Qt   =P−  −λt=0

(17)

となる.これより,

を得る.なお,添え字は各変数での偏微分を表す.また,(8)式より

となる.したがって,限界収入(MR)>限界費用(MC)を仮定すると

となる.しかしμは収支均衡のためのシャドウ・プライス,すなわち費用であ ると考えるならば∂μ/∂X<0 と考えるのが経済学的に妥当であろう.

  =        0

∂μ

X

(1+μ)(PQ−CQQ)+μ(PQQQ+PQ) QX−(1+μ)CQX P+PQQ−CQ

  =        > 0

∂μ

∂λ 

1 P+PQQ−CQ   =    >0

Q

X

CQX PQ−CQQ   =    <0

Q

∂λ  1 PQ−CQQ

P (Q (Xt))−C (Q (Xt), Xt)−λt+μt P (Q (Xt))+Qt・      −          =0∂Pt (Q (Xt))

∂Qt (Xt)

∂Ct (Q (Xt), Xt)

∂Qt (Xt)

(18)

【参考文献】

Arrow, K.J.,(1968) Application of Control Theory to Economic Growth , Mathematics of the Decision Sciences Part 2, Lectures in Applied Mathematics, 12, p. 85-119.

Brock W. A. and W. D. Dechert,(1985) Dynamic Ramsey Pricing , International Econom- ic Review, Vol. 26, No. 3, pp. 569-591.

Bromley, D. W.,(1991)Environment and Economy: Property Rights and Public Policy, Blackwell.

Bromley, D. W.,(1995)Handbook of Environmental Economics, Blackwell.

Dasgupta, P.,(1982)The Control of Resources,Blackwell.

Howe, C. W.,(1979)Natural Resource Economics: Issues, Analysis, and Policy, John Wiley

& Sons.

Kneese, A. V., R. U. Ayres, and R. C. d Arge,(1970)Economics and the Environment: A Materials Balance Approach, The Johns Hopkins University Press, (宮永昌男訳『環 境容量の経済理論』所書店, 1974).

Ostrom. E.,(1990) Analyzing long-enduring, self-organized, and self-governed CPRs. , Governing the Commons, Cambridge University Press, pp. 58-102.

宇沢弘文,(1971)「公共経済学に関するノート(1)」『季刊現代経済』3, pp. 78-95.

河合宣孝,(1975)「独占企業と最適価格政策」『季刊理論経済学』Vol. 26, No. 3, pp. 184- 198

佐藤隆三,(1968)『経済成長の理論』勁草書房.

菅原正巳,(1972)『流出解析法』水文学総論7,共立出版.

西澤輝泰・永井雅人・藤堂史明,(2002)「信濃川水環境に関する十日町市民アンケート について」,新潟大学『新潟県の流域自然環境と環境管理についての学際的研究』,

pp. 57-87.

萩原清子,(1981)「地域的公共財の供給と費用負担」『経済学論集』(筑波大学)第8号, pp. 17-36.

萩原清子,(1990)『水資源と環境』勁草書房.

三土修平,(1990)「最適制御理論の教育的解説の一試案」『愛媛経済論集』第10巻 第1 号.

(19)

国土交通省信濃川工事事務所,(2002)『信濃川中流域の水環境改善に向けて』. 水文・水資源学会編,(1997)「水文・水資源ハンドブック」朝倉書店.

(20)

The Doshisha University Economic Review Vo.55 No.3 Abstract

Sadao HARADA, Ramsey Pricing Concerned with Conservation of Water Resource This paper examines dynamic Ramsey pricing which maximizes the social surplus subject to the constraint that the budget of waterworks department is bal- anced and that water resources are conserved within the planned period. It shows that the Ramsey price of water should be related to the shadow prices of water resources. Also, the price should be adjusted depending on rise and fall of water resources level. Furthermore, we analyze the stability of equilibrium by using the phase diagram for this system. We derive a relationship between the level of water resources and the shadow price of variation of water resources.

参照

関連したドキュメント

Furuta, Log majorization via an order preserving operator inequality, Linear Algebra Appl.. Furuta, Operator functions on chaotic order involving order preserving operator

With the passage of the Resource Conservation and Recovery Act (RCRA), and the subsequent amendments to RCRA, eorts to provide tighter controls on the transportation and disposal

With the passage of the Resource Conservation and Recovery Act (RCRA), and the subsequent amendments to RCRA, eorts to provide tighter controls on the transportation and disposal

This approach is not limited to classical solutions of the characteristic system of ordinary differential equations, but can be extended to more general solution concepts in ODE

Oscillatory Integrals, Weighted and Mixed Norm Inequalities, Global Smoothing and Decay, Time-dependent Schr¨ odinger Equation, Bessel functions, Weighted inter- polation

Keywords: continuous time random walk, Brownian motion, collision time, skew Young tableaux, tandem queue.. AMS 2000 Subject Classification: Primary:

We shall see below how such Lyapunov functions are related to certain convex cones and how to exploit this relationship to derive results on common diagonal Lyapunov function (CDLF)

Key words and phrases: Optimal lower bound, infimum spectrum Schr˝odinger operator, Sobolev inequality.. 2000 Mathematics