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Ⅰ 資産除却債務の会計処理

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FASB 長期資産除却債務会計の 認識・測定構造とその特徴

──金額と支払時期が不確実なキャッシュ・アウトフローの認識と測定の枠組──

加 藤 盛 弘

はじめに

資産除却債務の会計処理

FASB会計基準書第143号の主要な変更点

資産除却債務会計処理法についての設例による考察

資産除却債務会計の内容上の特徴──不確実な債務計上を支える枠組の進展──

2001年6月にアメリカ財務会計基準ステイトメント第143号『資産除却債務の会計』

が公表され

1

た。これはある種の長期資産除却のための,金額および支払時期が不確実な 将来見積キャッシュ・アウトフローを,負債として認識・計上するための会計基準であ り,それは1996年の当初公開草案『長期資産の閉鎖または除去に係わる負債の会

2

計』, およびその改訂公開草案である『長期資産の除却にかかわる債務の会

3

計』(2000年2 月)の最終ステイトメントとして出されたものである。それは,たとえば原子力発電施 設や,石油プラットフォーム,あるいは石油貯蔵施設のような将来,除去を義務づけら れる施設を撤去・除去するために必要な見積キャッシュ・アウトフローを,金額および 支払時期ともに不確実な状況のもとで,資産除却のための負債として,財務諸表に計上 することを義務づける会計基準として定められたものである。

2000年の改訂公開草

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案は,資産除却債務の範囲を当初公開草案と同様に,FASB財

────────────

Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting Standards No. 143 : Accounting for Asset Retirement Obligations, June 2001.以下,本基準からの引用注は,(FASB〔2001〕)と示す。

Financial Accounting Standards Board, Proposed Statement of Financial Accounting Standards : Accounting for Certain Liabilities Related to Closure or Removal of Long-Lived Assets, May 1996.以下,本草案からの 引用注は,(FASB〔1996〕)と示す。

Financial Accounting Standards Board, Proposed Statement of Financial Accounting Standards : Accounting for Obligations Associated with Retirement of Long-Lived Assets, February 2000.以下,本改訂草案からの 引用注は,(FASB〔2000〕)と示す。

筆者は,2000年改定公開草案を対象として,FASBの資産除却債務会計基準の処理内容を中心に,以 下の2つの論文において考察した。加藤盛弘「長期資産除却債務の会計−除却コスト・負債の認識・測 定と将来予測−」『會計』第160巻第5号(200111月)「資産除却債務の会計処理と将来予測」『同 志社商学』第532・3・4号(200112月)

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務会計概念ステイトメント第6号の負債の定義にしたがって,法的債務のみならず,解 釈的債務をも含むものとしていた。しかし,FASB は改訂公開草案に対するコメント・

レターを受け取り,その対応を検討するなかで,負債の範囲を「法的に強制力のある

(legally enforceable)債務に限定することに決め

5

た」ことを,FASB Status Reportにおい て報じた。つまり,FASB は最後の段階で,負債の範囲に大きな変更を加えたのであ る。FASBステイトメント第143号は,改訂公開草案にそのような修正を施して会計基 準化されたものである。

そこで本稿では,最終的にGAAP化された資産除却債務の認識・測定基準および会 計処理方法について考察した上で,ステイトメント143号と改訂公開草案との主要な変 更点を明らかにしたい。そのことを通して,143号資産除却債務会計基準が,支払金額 および時期の不確実な債務(将来の見積キャッシュ・アウトフロー)を認識・測定する 会計枠組みの先端的な例となっていることを見出すものである。

資産除却債務の会計処理

資産除却債務会計の基本的処理構造は,有形長期資産の将来の除却に係わるキャッシ ュ・アウトフローを見積もり,その現在価値(公正価値)を測定し,その公正価値額を もって <借方:関係長期資産(除却原価)××× 貸方:資産除却負債×××> と して,当初認識時に両建て計上することを義務づけるものである。

その後の期間においては,負債については現在価値の測定に用いた信用調整リスク・

フリー利子率を負債の期首帳簿価額に乗じて得た金額をもって <借方:利子費用××

貸方:資産除却負債××> と計上し,資産除却負債を毎期利子費用額分だけ増額し てゆく。したがって,期間が進むにつれて負債帳簿価額が増加するため,利子費用額お よび資産除却負債への付加額は増大することになる。また借方側に計上された除却原価 は,関係資産の耐用年数にわたって <借方:減価償却費×× 貸方:減価償却累計額

××> として減価償却されてゆく。

仕訳の形式としては,当初認識時の <借方:資産××× 貸方:資産除却負債××

×> はリースの借り手側の処理に似ているが,リースが約定キャッシュ・フローの現 在価値をもって,その金額を測定するのに対して,資産除却負債は典型的には支払金額 も時期も不確実なキャッシュ・フローの公正価値によって測定するところに,不確実性 の程度において,また,その見積に組み入れられる仮定の要素において,質的ともいえ る違いがある。資産除却債務会計はきわめて不確実な環境のもとで生ずる将来キャッシ ュ・アウトフローの見積を基礎とする会計である(FASB〔2001〕,par. 5.)。

────────────

FASB, Financial Accounting Series, Status Report, No. 335, April 13, 2001, p. 7.

FASB長期資産除却債務会計の認識・測定構造とその特徴(加藤) 169)1

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1 資産除却債務の当初認識と測定

FASB資産除却債務会計基準第143号は,資産除却のための負債とそれに照応する借 方項目としての除却原価(それは当然,除却負債の金額と同額であり,負債金額によっ て決められる)を,認識測定するための会計基準である。143号はまず,会計上の負債 として計上すべき資産除却負債の範囲の規定から始めている。

(1)対象となる資産除却負債の範囲

143号で認識の対象となる負債は,「長期資産の取得,建設,開発および(または)

通常の運転から生ずる長期有形資産の除却に係わる法的債務(legal obligation)である」

(FASB〔2001〕,par. 2.)。そして「本ステイトメントによる法的債務は,(a)法律,法 令,規則のような政府の行為,(b)文書または口頭による実体間の契約,(c)約束的禁 反言(promissory estoppel)の原則によって,遂行を合理的に期待させる第三者に対し てなされる約束,から生ずる(Ibid., par. A 2.)」としている。このように143号では,

解釈的債務(constructive obligation)を包含していた改訂公開草案(FASB〔2000〕, pars. 5 and 59−63.)よりも負債の範囲を縮小し,法的義務を課する債務に限定してい る。しかし,第三者への約束が約束的禁反言の原則のもとに,法的義務を課すかどうか は注意深い考察が必要なようである(FASB〔2001〕,par. A 3.)。約束的禁反言の原則 による約束についての法的解釈の結果,その約束が第三者に対して法的義務を持つもの となれば,解釈的債務も法的債務を構成することになる。143号は,「法的債務は本ス テイトメントで用いられるように,……法的強制力のある債務と解釈的債務の両者を包 含する」(Ibid., par. B 16.)としている。

また,履行日が不確実な(あるいは決定できない)除却債務や,履行の遂行が不確実 な条件付き債務についても,対象たる負債範囲に入ることが以下のように主張されてい る。

143号では,財務会計概念ステイトメント第6号の負債の定義の中で,負債とは「発 生の可能性の高い(probable)将来経済便益の犠牲である」とされているが,そこで用 いられている「発生の可能性の高い(probable)」という用語の意味を,概念ステイトメ ント第6号パラ35の注21を用いて,つぎのように述べている。probableという用語を 定義に含めることの意味は,「事業その他の経済活動は,確実な結果のほとんどない,

不確実性によって特徴づけられる環境のもとで起きることを,認めることを意図してい る」(Ibid., par. 5.)と。

このような説明を行うことの意味は,probable という用語が負債の定義の中で用いら れているが,それは不確実性(uncertainty)が高く,発生の確率が低いとしても,その ことをもって負債の認識を排除するものではない,ということであろう。

同志社商学 第54巻 第1・2・3号(22年12月)

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143号はこれをうけて,履行日を決定できない債務(Ibid., par. A 14.)も,あるいは また,除却活動に関する条件付き債

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務(Ibid., par. A 14.)も,法的債務であり,負債の 範囲に入ることを主張している。

履行日についての不確実性も,除却活動の遂行を求められるか否かの不確実性も,負 債の認識を遅らせるものではない。不確実性は「キャッシュ・フローの確率の決定を通 じて負債の公正価値を測定する要素となる」(Ibid., par. A 17.)のであって,「公正価値 についての合理的な見積を行うことを妨げるものであってはならない」(Ibid., pars. A 17 and A 18.)というのである。

(2)債務の当初認識

企業は資産除却債務の発生時に <借方:資産 貸方:負債> と両建て計上するこ とによって,負債を当初認識する。その計上金額は負債の公正価値による(Ibid., pars.

3 and A 19.)。

公正価値はその負債が意思のある当事者間で,現在の取引において決済される金額で ある。活発な市場がある場合には,上場市場価格が公正価値の最善の証拠であるが,市 場価格が利用できない場合には,類似の負債についての価格や現在価値技法によって算 定される(Ibid., par. 71.)。現在価値技法は,負債の公正価値を見積もるためには多く の場合,利用可能な最善の技法である(Ibid., par. 8.)という。概念ステイトメント第7 号は現在価値技法として,伝統的なアプローチと期待キャッシュ・フロー・アプローチ を検討しているが,143号は資産除却債務については,「期待キャッシュ・フロー・ア プローチが通常唯一妥当な技法」(Ibid., par. 8.)である,としている。

資産除却債務についての負債の公正価値を,期待現在価値法(期待キャッシュ・フロ ー・アプローチ)を用いて見積もるにあたって,企業は義務づけられる除却活動を遂行 するためのコストとタイミングに対して,市場の査定を反映するキャッシュ・フローの 見積から始め,可能な限り以下のすべての項目について,開発された具体的で明示的な 仮定を含めなければならない:

a.当該資産の除却に必要な作業を遂行するにあたって,第三者に被るであろうコス ト。

b.たとえば,インフレーション,間接費,設備費,利益マージンおよび技術の進歩 などを含めて,第三者が履行価格を決定するにあたって含めるであろうa項以 外の金額。

c.将来の異なる展開のもとで,第三者のコスト金額,あるいはそのコストの発生時

────────────

たとえば政府機関が当該企業に除却活動を義務づけるオプションを保有しているが,政府はその除却活 動の遂行を求めるかどうか不確実な場合である。

FASB長期資産除却債務会計の認識・測定構造とその特徴(加藤) 171)1

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期に変化が生ずるであろう程度,およびその展開の相対的可能性。

d.その負債に付随する不確実性および予測できない状況(それを市場リスク・プレ ミアムという)について負担することに対して,第三者が要求し,受け取ると予 想される価格。(Ibid., par. A 20.)

このように,キャッシュ・フローの見積には,第三者に履行を依頼するならば,その 第三者が要求するであろうリスクや利益マージンなど,多様な要素(不確実な要素も含 めて)を含めるべきものとしている。また,条件付き除却の遂行をとりまく不確実性 も,その遂行が求められる可能性を査定することによって,見積キャッシュ・フローの 測定因子に入れられる(Ibid., par. 24.)。つまり将来キャッシュ・フローの金額と時期 についての不確実性は,見積キャッシュ・フローの測定にあたって含められ,「期待キ ャッシュ・フロー技法を用いて調整できるし,公正価値の合理的見積の決定を妨げな い」(Ibid., par. A 20.)というのである。

ついで,そのようにして測定された未割引の将来見積キャッシュ・フローは,当該企 業の信用状態を修正したリスク・フリー利子率(信用調整リスク・フリー利子率)をも って割り引くものとされる(Ibid., par. A 21.)。

(3)公正価値の測定技法としての期待現在価値法

143号は上述のような不確実性をともなうキャッシュ・フローの見積に基づく資産除 却債務の公正価値の測定には,期待現在価値法が,通常唯一妥当な測定技法であるとし ている(Ibid., par. 8.)。143号によると,財務会計概念ステイトメント第7号は負債の 測定を扱い,負債の履行に必要な将来キャッシュ・フローの金額と時期についての不確 実性を,負債の公正価値の決定に組み入れている(Ibid., par. 6.)。その技法が期待現在 価値法である。

将来キャッシュ・フローの現在価値を測定する技法として,単一の可能性の高い見積 キャッシュ・フローを単一の利子率(リスクに見合った利子率)を用いて割り引く伝統 的なアプローチも存在するが,そこでは不確実性が利子率に組み込まれ,支払金額や支 払時期ともに不確実な資産除却債務の測定には,その方法は不可能でないとしても困難 であるという(Ibid., par. 8.)。

それに対して期待現在価値法は,可能性のある幅をもつ多様なキャッシュ・フローと 信用調整リスク・フリー利子率を,公正価値評価のために用いる(Ibid., par. 8.)。

概念ステイトメント7号は以下のような例を示している。たとえば,キャッシュ・フ ローが,10%,60%,30% の確率で,それぞれ$100, $200, $300であるとすると,期待 キャッシュ・フローは$220〔($100×0.1)+($200×0.6)+($300×0.3)=$220〕であ

7

る。

────────────

Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting Concept No. 7 : Using Cash Flow 同志社商学 第54巻 第1・2・3号(22年12月)

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また,この測定技法はキャッシュ・フローのタイミングが不確実な場合の測定法とし ても用いることが出来る。たとえば,$1,000のキャシュ・フローがそれぞれ10%,60

%,30% の確率で,1年目,2年目,3年目に受け取られるとすると,その期待現在価 値は以下のように$892.36になる(FASB〔Concept 7, 2000〕,par. 46)。

5% の利子率で,1年目に$1,000の現在価値 $952.38

確率 10.00% $ 95.24

5.25% の利子率で,2年目に$1,000の現在価値 $902.73

確率 60.00% $541.64

5.5% の利子率で,3年目の$1,000の現在価値 $851.61

確率 30.00% $255.48

期待現在価値 $892.36

このようにして,金額や支払時期の不確実な状況のもとでのキャッシュ・フローの現 在価値測定が,期待現在価値法によって正当化されるのである。

2 資産除却債務の爾後認識と測定

143号はつぎに,負債の発生当初において <借方:資産除却原価 貸方:資産除却 負債> と認識した資産・負債項目の,その後の期間の認識と測定について規定してい る。すなわち,当初認識後の期間においては,実体は,資産除却負債の期間変化を,

(a)時の経過,および(b)当初見積キャッシュ・フローについての支払時期および金 額の変更,の2つの要素について認識しなければならない(FASB〔2001〕,par. 13.), とする。

(a)の変化は,時の経過による除却負債の利子であり,それは利子配分法によって,

期首の負債金額に当初認識時の信用調整リスク・フリー利子率を乗じて算出される

(Ibid., par. 14.)。この負債変化額は,借方は利子費用,貸方は除却負債金額の増加とし て認識される(Ibid., par. A 25.)。

(b)の要素は,未割引キャッシュ・フローの当初見積の時期または金額の改定によっ て生ずる変更である。したがって当初見積時と同様に,除却負債と関係資産簿価の増減 として処理される。なお,143号では未割引見積キャッシュ・フロー金額の上方への改 訂は現在の信用調整リスク・フリー利子率を用いて割引き,下方への改訂は当初負債が 認識された時点の信用調整リスク・フリー利子率を用いて割り引かなければならない

────────────

Information and Present Value in Accounting Measurements, February 2000, par. 45.以下,本概念ステイト メントからの引用注はFASB〔Concept 7, 2000〕と示す。

FASB長期資産除却債務会計の認識・測定構造とその特徴(加藤) 173)1

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(Ibid., pars. 15 and A 26.),としている。

なお,借方側の資産(除却原価)については,見積キャッシュ・フローの改訂によっ て増額された部分も含めて,関係資産の耐用年数にわたって減価償却される。

3 開示と移行規定

(1)開示

実体は資産除却債務について以下の情報を開示することを義務づけられる。

a.資産除却債務および関係長期資産についての一般的説明。

b.資産除却債務を決済する目的で法的に拘束されている資産の公正価値。

c.報告期間において,以下の4項目の1つまたは複数に重要な変化がある場合には,

(1)当期に発生した負債,(2)当期に決済された負債,(3)利子費用,(4)見積 キャッシュ・フローの改訂,についての変化を別々に示すことによる資産除却債 務の期首および期末帳簿金額の調整。

なお,資産除却債務の公正価値が合理的に見積もれない場合には,その事実およびそ の理由を開示しなければならない(Ibid., par. 22.)。

このように開示規定は,あくまでも除却債務の公正価値表示を基本とするあり方とな っている。

なお,143号の発効日は2002年6月15日後に始まる会計年度について発行される財 務諸表からとされている(Ibid., par. 24.)。

(2)移行規定

移行に伴う会計処理については以下のように規定している。

「本ステイトメントの最初の適用に際して,実体は以下の項目を財政状態表におい て認識しなければならない:(a)本ステイトメントの最初の適用日までの累積増加 額を修正した資産除却債務についての負債,(b)関係長期資産簿価への増額として 資本化された資産除却原価,および(c)その資本化された原価についての減価償 却累計額。本ステイトメントの最初の適用によって生ずる金額は,現在の(すなわ ち,本ステイトメント適用日現在の)情報,現在の仮定,および現在の利子率を用 いて測定されなければならない。」(Ibid., par. 25.)

すなわち,除却負債が発生したときに,143号が発効していたかのように,143号の 最初の適用日に測定した(ただし適用日現在の仮定,利子率等を用いて)(a)資産除却 負債,(b)資産除却原価,(c)減価償却累計額である。そして,それらの金額と,143 号適用以前の財務諸表において認識されている金額(当該実体が適用してきた方法によ る金額)との差額を,累積的影響修正(cumulative-effect adjustment)として,最初の適

同志社商学 第54巻 第1・2・3号(22年12月)

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用期間の損益計算書において報告することを義務づけている(Ibid., pars. 26 and B 86.)。

FASB 会計基準書第 143 号の主要な変更点

これまで第143号の資産除却債務に関する会計処理の内容について考察してきたが,

その内容およびあり方をより明らかにするために,2000年改定公開草案から最終ステ イトメントである第143号にかけて変更された主要な点について考察してみよう。

変更点(1):対象負債を法的債務に限定

1996年の当初公開草案も,2000年改定公開草案も,資産除却債務(あるいは閉鎖債 務)の範囲に法的債務と解釈的債務の両者を含めていた。

当初公開草案では,法的債務と解釈的債務を区別していた(FASB〔1996〕,pars. 6 and 7.)。多くの回答者が解釈的債務の負債としての確認に,より多くのガイダンスが必要 であることを指摘したという。審議会も解釈的債務の確認は,法的債務の確認よりもは るかに難しいことを強調した(FASB〔2000〕,par. 62.)。

そこで改訂公開草案においては,法的債務と解釈的債務の区別よりも,概念ステイト メントの負債定義および負債の3つの特徴への合致に焦点を合わせた(Ibid., par. 63.)

が,回答者たちはなお,さらに改善された指針がない限り,基準の適用にあたって不一 致が生じやすいことを表明した。審議会もまた,解釈的債務がどの時点で存在するかを 決めることは,きわめて主観的であることを認めた(FASB〔2001〕,par. B 16.)。

そこで,最終ステイトメントである第143号においては,資産除却債務の範囲を法的 債務(legal obligation)に限定したのである(Ibid., pars. 2 and A 10.)。しかし,ここで いう法的債務は,法律や契約によって拘束される債務のみではなく,正式な法的手続

(formal legal action)によらなくとも,約束的禁反言の原則によって法的債務(法的義 務を課された)と解釈される債務を含む(Ibid., par. B 5.)とした。したがって,法的 な手続きをとらない解釈的債務であっても(たとえば,ある取締役の約束),そのこと によってその会社に法的義務が課されると解釈されるならば,143号でいう法的債務に 入るということである(Ibid., pars. B 16 and B 23.)。

したがって,資産除却債務の法的債務への限定は確かに,一面では資産除却債務の対 象になる負債の限定・縮小であるが,他面では約束的禁反言の原則の解釈による拡大の 側面も持っている。

また,法的債務へのシフトが,「履行日の不確実性は,実体が法的債務を持っている 事実を変えるものではない」(Ibid., par. B 19.)という表現にみられるように,履行期 日や金額の不確実な債務や条件付き債務を,負債として認識する根拠を強めているよう

FASB長期資産除却債務会計の認識・測定構造とその特徴(加藤) 175)1

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に思える。

変更点(2):負債たる条件の緩和

改訂公開草案は以下の3つの条件がすべてみたされる期間に,資産除却債務に対する 負債を認識しなければならない,としていた。

a.FASB概念ステイトメント第6号『財務諸表の要素』のパラ35の定義に合致す ること。

b.その債務にかかわる資産を将来において引き渡す可能性が高い(probable)こ と。

c.負債金額が合理的に見積もり可能であること。(FASB〔2000〕,par. 5.)

bの「可能性が高い」(probable)には以下のような脚注がつけられていた。それは,

「probable」という用語は,FASBステイトメント第5号『偶発事象の会計』における

probableの意味,すなわち,「将来事象の発生の可能性が高い」という意味で用いられ

ている,ということである。

143号ではこのbを削除した。その理由はつぎのようなところにある。すなわちステ イトメント5号と概念ステイトメント7号は,不確実性(uncertainty)を別の意味で扱 っている。前者は負債が発生しているかどうかの不確実性であり,後者は将来キャッシ ュ・フローの金額とタイミングについての不確実性である。143号では,審議会は資産 除却債務の測定に確率を組み入れることを決めているので,「可能性が高い」(ほぼ確 実)というステイトメント5号の意味で,その指針を適用することは出来ない(FASB

〔2001〕,pars. 13 and 35.)とし,そのうえでつぎのように説明している(Ibid., par. B 36.)。

資産除却債務の公正価値を認識するためには,将来の履行可能性がゼロよりも高 く,概念ステイトメント5号の見通しよりも低い可能性の資産除却債務を認識する ことになる。「第三者は将来の犠牲の可能性が probableより低くとも,その不確実 な負債を引き受ける価格を課するであろう。同様に,将来の犠牲の可能性が確実な 場合にも,第三者が債務を引き受けるために課する価格には,probableよりも低い 将来事象についての期待(expectation)が組み入れられるであろう。したがって,

本ステイトメントは債務にかかわる資産の引き渡しがprobable であるという規準

(パラB 33(b))を保持しない。」(Ibid., par. B 36)

これは明らかに,資産除却債務の公正価値の決定にあたって,不確実な,履行の可能 性の低い債務(支払金額や時期の不確実な,あるいは条件付き債務)をも含めるための 負債認識条件の変更であろう。

変更点(3):キャッシュ・フローの見積変更にあたって適用される利子率の変更 資産除却債務を履行するための未割引キャッシュ・アウトフローの当初見積額が,そ

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の後の期間において,支払金額および時期の改訂から,変更されることがある。この未 割引見積キャッシュ・フローの変更額を,改訂公開草案では当初の公正価値測定におい て用いた信用調整リスク・フリー利子率によって割り引いて,現在価値を計算すること にしていた(FASB〔2000〕,pars. 25 and 97.)。

143号はそれを,未割引キャッシュ・フローの上方への改訂の場合と,下方への改訂 の場合に分け,上方への改訂には現在の信用調整リスク・フリー利子率を用い,下方へ の改訂には当初時点の信用調整リスク・フリー利子率を用いて割り引かなければならな いことに変更した(FASB〔2001〕,par. 15)。その理由は,上方への改訂を新しい負債 として扱い,下方への改訂を資産除却債務の減少として扱おうとするところにあるよう である(Ibid., pars. A 26 and B 54.)。

変更点(4):開示内容

開示につては改訂公開草案では,以下のように規定されていた(FASB〔2000〕,par.

31.)。

実体は資産除却債務について以下の情報を開示する:

a.資産除却債務と関係長期資産についての一般的説明。

b.資産除却債務に対する負債の公正価値が,たとえば期待現在価値法またはその他 の評価技法を用いて,どのように決定されたかについての説明。

c.もしあるならば資産除却債務についての拠出方針。

d.もしあるならばその負債を決済するために拘束されている資産の公正価値。

e.(1)当期に発生した負債,(2)当期に決済した負債,(3)利子費用,(4)期待キ ャッシュ・フローの改訂による変化を別々に示すことによっての,期首と期末の 負債簿価の調整。

f.本ステイトメントで義務づけられる別の開示において,明らかにされない資産除 却債務の重要な変化についての説明。

143号では改訂公開草案の開示項目のうち,a, d, eの3項目のみが残された。これは 公正価値を重視する立場からの簡素化の表れである(FASB〔2001〕,pars. B 74 and B 76.)。

資産除却債務会計処理法についての設例による考察

以上,143号による資産除却債務会計処理規定の内容を,2000年改定公開草案からの 変更点も含めて考察してきた。それは資産除却債務を公正価値によって測定し,資産・

負債の両建て計上によって当初認識する。また,それは支払金額および支払時期ともに 不確実な見積キャッシュ・フローの認識・測定をともなう新しい複雑な会計基準であ

FASB長期資産除却債務会計の認識・測定構造とその特徴(加藤) 177)1

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る。そこで,若干の設例によって,その会計処理法の考察を補完しよう。

設例A:当初認識後に見積キャッシュ・フローの変化のないもっとも基礎的な設例

A社は2001年1月1日に原子力施 設 を 建 設・設 置 す る。耐 用 年 数 末 の2005年 末 に,当該施設を解体撤去することを法律によって義務づけられている。

現在の市場条件に基づいて算出され5年後の資産除却債務履行のための期待キャッシ ュ・フロー(発生の可能性のあるキャッシュ・フローに発生確率を乗じて測定した金 額)は$100,000であり,信用調整リスク・フリー利子率は8% とする。減価償却は定額 法により,残存価額は0とする。

設例についての考察

必要な数値の算出過程は以下のとおり:

2001年1月1日 の 資 産 除 却 負 債 の 現 在 価 値 は$68,058〔100,000÷(1+0.08)5〕で あ る。各年度の利子費用は以下の利子配分表のようになる。

利子配分表

年 度 負債(期首) 利子増加 負債(期末残高)

2001 $68,058(×0.08) $5,445 $ 73,503

2002 73,503 5,880 79,383

2003 79,383 6,351 85,734

2004 85,734 6,859 92,593

2005 92,593 7,407 100,000

減価償却費は年々$13,612(68,058÷5)である。そこで,年々の仕訳は以下のように なる。

2001年期首(当初認識):

長期資産(資産除却原価) 68,058

資産除却負債 68,058 2001年末の費用計上:

利子費用 5,445

資産除却負債 5,445

減価償却費 13,612

減価償却累計額 13,612 2002年末〜2005年末:

利子費用は利子配分表による。

減価償却費は各年度とも同じ。

設例B:見積キャッシュ・フローの上方への改訂を伴う多様な要素を入れた設例

(設例およびその仕訳はFASB〔2001〕,pars. C 8〜C 9による)

同志社商学 第54巻 第1・2・3号(22年12月)

8(178

(12)

某企業は2003年12月31日に原子力施設を設置し,20年後の耐用年数末に当該施設 を退役させることを法的に義務づけられている。本ステイトメントの要件に基づいて,

企業は資産除却債務に対する負債を認識し,汚染が発生するにつれて施設の耐用年数に わたって,資産除却原価額を資本化する。以下のスケジュール(表)は,施設が90% 汚 染される2005年12月31日までの,未割引期待キャッシュ・フローおよび,負債の各 部分を測定するために使用される各々の信用調整リスク・フリー利子率を示している。

日 付 未割引期待キャッシュ・フロー 信用調整リスク・フリー利子率

12/31/03 $23,000 9.0%

12/31/04 1,150 8.5

12/31/05 1,900 9.2

2005年12月31日に,企業は2003年12月31日および2004年12月31日に認識し た負債の測定に使用した未割引期待キャッシュ・フローの見積額を10% 増加させる。

その変化が未割引見積キャッシュ・フローの上方への改訂をもたらすので,追加見積キ ャッシュ・フローは現在の信用調整リスク・フリー利子率9.2% で割り引かれる。その 結果,$2,300($23,000の10%)プラス$115($1,150の10%)プラス$1,900(2005年の 汚染によって)の合計$4,315の追加未割引キャッシュ・フローが,そのときの信用調整 リスク・フリー利子率9.2% で割り引かれ,2005年12月31日に負債として記録され る。

設例についての考察

発 生 日

12/31/03 12/31/04 12/31/05 資産除却負債(ARO)の当初測定:

市場リスクで調整した期待キャッシュ・フロー $23,000 $1,150 $1,900 信用調整リスク・フリー利子率 9.00% 8.50% 9.20%

割引年数 20 19 18

期待現在価値 $4,104 $244 $390 2005年12月31日に発生する期待キャッシュ・フロー改訂の測定:

期待キャッシュ・フローの改訂(10% の増加)

[($23,000×10%)+($1,150×10%)] $2,415

信用調整リスク・フリー利子率 9.20%

割引残存年数 18

期待現在価値 $495

2003年に発生した負債の帳簿金額

年 度 負債残高1/1 増加(9.0%) 新 負債 負債残高12/31

2003 $4,104 $4,104

FASB長期資産除却債務会計の認識・測定構造とその特徴(加藤) 179)1

(13)

2004 $4,104 $369 4,473

2005 4,473 403 4,876

2004年に発生した負債の帳簿金額

年 度 負債残高1/1 増加(8.5%) 新 負債 負債残高12/31

2004 $244 $244

2005 $244 $21 $265

2005年に発生した負債帳簿金額プラス見積キャッシュ・フローの変化の影響 年 度 負債残高1/1 増加(9.2%) 見積キャッシュ・フローの変化 新 負債 負債残高12/31

2005 $495 $390 $885

負債合計の帳簿金額

年 度 負債残高1/1 増 加 見積キャッシュ・フローの変化 新 負債 合計帳簿金額12/31

2003 $4,104 $4,104

2004 $4,104 $369 244 4,717

2005 4,717 424 $495 390 6,026

仕 訳 12/31/2003 :

長期資産(資産除却原価) 4,104

資産除却(ARO)負債 4,104

当期に発生したARO負債の当初公正価値を記録 12/31/2004 :

減価償却費($4,104÷20) 205

減価償却累計額 205

資産除却債務について定額法で減価償却費を記録

利子費用 369

ARO負債 369

ARO負債について費用増加を記録

長期資産(資産除却原価) 244

ARO負債 244

当期に発生したARO負債の当初公正価値を記録 12/31/2005 :

減価償却費[($4,104÷20)+($244÷19)] 218

減価償却累計額 218

資産除却債務について定額法で減価償却費を記録

利子費用 424

ARO負債 424

ARO負債について増加費用を記録

同志社商学 第54巻 第1・2・3号(22年12月)

0(180

(14)

長期資産(資産除却原価) 495

ARO負債 495

見積キャッシュ・フローの改訂によって生ずる負債の変化を記録

長期資産(資産除却原価) 390

ARO負債 390

当期に発生したARO負債の当初公正価値を記録

この設例には,除却債務の発生および不確実な見積キャッシュ・フローの改訂に伴う 処理方法がよく示されている。なお,キャッシュ・フローの見積に多くの予測・仮定が 組み込まれる状況については,143号の設例1(FASB〔2001〕,pars. C 3〜C 4)を参照 されたい。

設例C:移行規定に基づく移行時の会計処理の設例──FASB ステイトメント第19

号にしたがって処理していた企業──

(設例およびその仕訳はFASB〔2001〕,pars. D 5〜D 7による)

本設例はFASBステイトメント第19号の規定によって資産除却債務に係わる金額を 認識してきた某企業を想定する。本ステイトメントの適用前には,資産除却債務に係わ る金額は減価償却累計額として財政状態表において認識されてきた。当該企業はステイ トメント19号の規定にしたがって,損益計算書において費用を認識していたであろ う。

設例における仮定は以下のごとし:

a.資産除却債務が関係する長期資産は1999年1月1日に取得され,15年の耐用年 数をもつものと見積もられた。

b.資産除却債務は100% 取得時に生ずる。

c.実体は定額法減価償却を用いる。

d.移行時の2003年1月1日時点で,2014年に ARO負債を履行するために必要と される未割引の期待キャッシュ・フローは7,500万ドルである。8.5% の信用調 整リスク・フリー利子率で割り引くと,1999年1月1日のARO負債の現在価

値は2,206万ドルである。それは本ステイトメントが発効していたならば,取得

時に長期資産の帳簿金額への増加として資本化されたであろう金額である。

e.ステイトメント19号の規定による見積(未割引)除却債務は6,700万ドルであ った。実体は15年間にわたって,年4,467千ドルを定額法で費用として認識 し,減価償却累計額に貸記することによって,その金額を計上してきた。

FASB長期資産除却債務会計の認識・測定構造とその特徴(加藤) 181)1

(15)

設例についての考察

利子配分表,本ステイトメントの規定によって測定される金額,ステイトメント19 号の規定によって認識・測定されていた金額,およびその移行金額を記録するための仕 訳は以下のようになる(単位1,000)。

利子配分表

(8.5% の信用調整リスク・フリー利子率)

年 度 負債残高1/1 増 加 負債残高12/31

1999 $22,060 $1,875 $23,935

2000 23,935 2,035 25,970

2001 25,970 2,207 28,177

2002 28,177 2,395 30,572

2003 30,572 2,599 33,171

2004 33,171 2,820 35,991

2005 35,991 3,059 39,050

2006 39,050 3,319 42,369

2007 42,369 3,601 45,970

2008 45,970 3,907 49,877

2009 49,877 4,240 54,117

2010 54,117 4,600 58,717

2011 58,717 4,991 63,708

2012 63,708 5,415 69,123

2013 69,123 5,877 75,000

AROステイトメントの規定によって義務づけられる移行金額

1999 2000 2001 2002

負債1/1 $23,935 $25,970 $28,177

増加 $ 1,875 2,035 2,207 2,395

発生した負債 22,060 ── ── ──

負債12/31 $23,935 $25,970 $28,177 $30,572

資産1/1 $22,060 $22,060 $22,060

資本化金額 $22,060 ── ── ──

資産12/31 $22,060 $22,060 $22,060 $22,060

減価償却累計額1/1 $ 1,471 $ 2,942 $ 4,413 減価償却費($22,060÷15) $ 1,471 1,471 1,471 1,471 減価償却累計額12/31 $ 1,471 $ 2,942 $ 4,413 $ 5,884

ステイトメント19号の規定によって記録されていた金額

1999 2000 2001 2002

減価償却累計額1/1 $ 4,467 $ 8,934 $13,401 発生費用(6,700万ドルの見積原価) $ 4,467 4,467 4,467 4,467

同志社商学 第54巻 第1・2・3号(22年12月)

2(182

(16)

減価償却累計額12/31 $ 4,467 $ 8,934 $13,401 $17,868 移行時に要求される仕訳(1/1/03)

減価償却累計額(ステイトメント19) 17,868 長期資産(ステイトメント143) 22,060

減価償却累計額(ステイトメント143) 5,884 資産除却負債(ステイトメント143) 30,572

累積的影響修正 3,472

この設例には,移行規定の処理法とともに,本基準設定以前の処理法,たとえばステ イトメント19号の規定に基づく除却費用・負債の処理法と対比しての,新会計基準第 143号の会計処理法の違いとその会計上の意味がよく示されていると思われる。

資産除却債務会計の内容上の特徴

──不確実な債務計上を支える枠組の進展──

これまで考察してきたように,FASB 143号資産除却債務会計の会計処理構造上の特 徴は,資産除却のための見積キャッシュ・アウトフローの現在価値を資産と負債に両建 て計上し,資産については減価償却によって費用化し,負債については,負債たること を論理として利子費用を計上し,その利子費用金額をもって負債を増額することであ る。この処理方式は現代会計の一つの新しい方式であると思われる。

一方,そこに盛り込まれる数値の内容からみれば,それは金額や支払時期の不確実な 将来のキャッシュ・フローの見積額であり,その会計基準は不確実な債務の計上を支え る枠組の展開である。143号は改訂公開草案と比較して,そのことを一層進展させてい ると考えられる。

それは規定の具体的な変更からみれば,さきの変更点(2)でみたように,資産除却 負債計上の条件として改訂公開草案が規定していた「b.その債務にかかわる資産を将 来,引き渡す可能性が高いこと(probable)」,を削除したことである(FASB〔2000〕,

par. 5.)。それは資産除却債務が典型的には支払金額および時期ともに不確実であり,

将来の履行可能性が低くとも,そこに法的義務が存在するならば,負債としての認識対 象とされる(FASB〔2001〕,par. B 36.),とするからである。不確実性や債務履行の可 能性の低さも,認識対象たる負債に含めることを妨げる要素ではない。測定に影響を与 える要素とされている(Ibid., par. 19.)。

143号の論述の仕方も,不確実性を支える枠組の進展を示しているように思える。143 号の論述の展開は改訂公開草案と比較した場合に,かなり大きな違いがある。すなわ

FASB長期資産除却債務会計の認識・測定構造とその特徴(加藤) 183)1

(17)

ち,改訂公開草案でのその規定の論述は,認識すべき資産除却債務の範囲(FASB

〔2000〕,pars. 2〜4),認識すべき負債の条件(Ibid., pars. 5 and 6),負債の認識を義務 づける義務事象の確認(Ibid., pars. 7〜10)というように,資産除却債務の性質,内容 に向けられている。それに対して143号の論述は,資産除却負債の範囲(法的債務であ ること)(FASB〔2001〕,par. 2)とそれを公正価値で認識すべきこと(Ibid., par. 3)の 規定に続いて,143号の対象とする資産除却負債との係わりで,概念ステイトメント第 6号の負債の定義でいうprobable は,「確実な結果のほとんどない環境で経済活動が起 きる」ことを認めることを示している(Ibid., par. 5)とか,概念ステイトメント第7号 は将来キャッシュ・フローの金額と時期の不確実性を扱い,履行金額および時期の不確 実性を負債の公正価値の決定に組み入れるものであることを指摘し,除却負債を,概念 ステイトメント7号の測定基準で算出される公正価値で認識すべきことを規定する展開 となっている(Ibid., par. 8)。

このような143号の論述の展開は,公正価値による資産除却債務の測定が,金額や時 期の不確実な,また履行の可能性の低い債務を認識から排除することなく,それを測定 に組み入れるべきことを改訂公開草案よりもいっそう強く主張するものとなっていると いえる。

このように考察してくると,143号において,不確実な将来キャッシュ・アウトフロ ーを取り入れる枠組みの展開を支える重要な要素は,一つには負債の定義に関して用い

られるprobable の解釈であり,一つには概念ステイトメント第7号において測定技法

の一つとして位置づけられた期待キャッシュ・フロー・アプローチによる公正価値の見 積であると考えられる。

FASB第143号の会計処理とその理論展開の内容は,支払時期も支払金額もともに不 確実な将来キャッシュ・フローをも,見積によって負債として(そのことによって費用 として)計上しようとする現代の会計状況をよく示すものといえる。 (2002. 9. 30)

同志社商学 第54巻 第1・2・3号(22年12月)

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参照

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