「預金通貨」とそのサービス対価としての「金利」 (その 2)
─サービス対価の分担の問題に関する考察─
石田 和彦
はじめに
1. 問題の所在:サービス対価支払者とサービス享受者の乖離 2. 市場取引を通じたサービス対価の分担の実現
3. 結論といくつかのインプリケーション
はじめに
現代経済において支払い・決済手段として機能しているのは、伝統的な経済学が暗黙に想定 しているような「商品貨幣」(ないし、その便宜的な代替品としての「兌換紙幣」)や、政府が 何の裏づけもなく発行する「不換紙幣」などではなく、銀行の信用供与により供給される「預 金通貨」である。石田[2011-a]は、こうした「預金通貨」や、その供給主体としての銀行業・
中央銀行の機能を、理論的な見地から整理・理解した。さらに、石田[2011-b]では、「預金通 貨」の供給費用をカバーする仕組みとして、銀行が貸出を行うに際に徴求する「金利」ないし
「利子」を、銀行が提供する「預金通貨による支払い・決済」というサービスの「対価」と(一 種のサービス価格)と捉えることを提示した。そこでの結論は、以下のようなものであった。
① 銀行が信用供与により「預金通貨」を創出する際に借り手に課す「金利」(手形割引料、
ないし、貸出金利)は、「預金通貨」が提供するサービスに対して、その生産者である銀 行が求める一種の「対価」であると考えられる。
② 借り手は、「預金通貨」サービスを銀行から購入する(=物々交換や、商品貨幣による 交換に代えて、預金通貨を用いて交換を行う)ことによって、円滑な交換の実現やそれ に伴う効用水準の向上といったメリットを得るが、その対価として「金利」を銀行に支 払う。
③ サービス対価としての「金利」の支払の結果、交換過程にある財の一部、ないし、投資 の成果として得られた財の一部が銀行に引き渡されるので、その分、(銀行以外の)一般 経済主体の効用水準の向上幅は抑えられることとなる。言い換えれば、銀行の「預金通
貨」サービス自体も、交換過程に組み込まれた財の一種であり、「金利」は決して、「無 から有を生み出している」訳ではない。
④ 銀行は、「預金通貨」サービスの生産に関わる費用(審査・モニタリング費用や、預金 移転システムの構築・維持・運営費用、等)を、サービスの対価である金利収入(=一 定量の財の獲得)によってカバーすることで、初めて「業」として成立し得る。
このように理解することで、「金利」や「利子」に対する様々な誤解が解かれ、「金利」も含 めた「預金通貨」のシステムが合理的な存在であることが示されたものと考えられる。
本稿の課題は、石田[2011-b]での考察をさらに推し進め、この「サービス対価」としての
「金利」、「利子」が、「預金通貨」サービスの利用者間で分担される仕組みを考察することであ る。すなわち、通常、「金利」は、最初に銀行から借入を行って、支払・決済に用いる預金通貨 を調達した借り手によって、貸出期間中を通じ銀行に支払われる。言い換えれば、銀行に直接
「サービス対価」を支払うのは、最初の借り手のみである。しかし、借入れられた「預金通貨」
自体は、その後、交換(売買取引)に用いられることにより最初の借り手の手を離れ、以降は、
交換プロセスを転々と流通していくのが通例である。従って、「預金通貨」の「サービス」を実 際に享受しているのは、最初の借り手だけではなく、この「預金通貨」を用いた交換プロセス に参加するすべての経済主体である。こうした「サービス」の利用者と、その「対価」の支払 者の乖離が、何らかの合理的なメカニズムで埋められない限り、サービスが安定的に需要され、
消費されるとは考えにくい。
本稿では、石田[2011-a]、及び、同[2011-b]で提示した、3財の簡単な交換モデル1を引続 き使用して、この乖離が、市場での取引とそこでの財の価格変化を通じて埋められるメカニズ ムを検討する。本稿の構成と議論の概要は以下の通りである。
まず第1章では、石田[2011-b]で提示した、「預金通貨の借入による交換のモデル化」を例 にとって、問題の所在を明らかにし、さらに、概念的に考えられる解決策として、①契約によ る分担、②預金通貨サービスの「転売」による分担、の可能性を考察する。第2章では、現実 の経済においては、このうちの預金通貨サービスの「転売」による分担が暗黙裡に実現されて いるものと考えて、市場取引を通じて分担が行われるプロセスを検討する。最後に、第3章で は、これらの考察から得られた結論と、その現実経済へのインプリケーションを簡単に述べる。
1. 問題の所在:サービス対価支払者とサービス享受者の乖離
議論の出発点として、まず、石田[2011-b]で提示した、サービス対価としての「金利」の 支払も含めた交換のモデルを簡単に振り返っておこう(第1図)。
(第1図)預金通貨の借入れによる交換のモデル化(金利9%)
<第 1 図における交換のプロセス>
① 経済主体Bは借入(金利9%)により銀行から預金通貨100円を入手。
② 経済主体Bは預金通貨100円でAから財a・100円分を購入。
③ 経済主体Aは預金通貨100円でCから財c・100円分を購入。
④ 経済主体Cは預金通貨100円でBから財b・100円分を購入。
⑤ 経済主体Bは財bのCへの販売で入手した預金通貨100円を手許に保有している が、それでは銀行に金利9円を支払うことが出来ないため、金利相当分の財a・9円 分の消費を諦めて銀行に提供(実際には、この取引は、銀行がBに預金通貨9円を 支払って財a ・9円分を購入し、その上でBが銀行に預金通貨109円を支払って金 利も含めた借入の返済を行う形を取るものと考えられるが、本質的には同様である)。
⑥ 銀行は購入した財a・9円分を自らの費用のカバーに当てて、交換のプロセスは終 了(銀行自身の費用カバーのためには財a以外の財が必要な場合には、銀行自身がさ らに交換取引を行う必要があるが、本質は変わらない)。
ここでは、経済主体Bが銀行から借入を行って預金通貨を調達することによって、交換のプ ロセスが開始され、最後に、すべての交換が終了したところで、Bが銀行に利子を付して借入
経済主体B
経済主体A 経済主体C
財a100円 財b100円
財c100円
銀行
預金通貨100円
預金通貨100円 預金通貨100円
預金通貨100円 +財a・9円分
(返済)
預金通貨100円
を返済している。このプロセスを通じた各経済主体の、各財の保有量(=消費量)の変化は、
以下の表のようにまとめられる。
(交換開始前)
A B C 銀行
財a 100 0 0 0
財b 0 100 0 0
財c 0 0 100 0
(交換完了後)
A B C 銀行
財a 0 91 0 9
財b 0 0 100 0
財c 100 0 0 0
この表から明らかなように、最初に借入を行って交換を主導した経済主体Bだけが、交換前 に比べて財の消費量を減少させている。これは、預金通貨サービスの対価として、銀行に金利 の形で、交換で入手した財の一部を引き渡したためである。銀行の「貸出」自体がサービスで あると考えれば、そのサービスを需要した経済主体(借入を行った経済主体)がその対価を払 うことは当然かも知れないが、借入の目的が、交換を円滑に行うための預金通貨の入手であり、
その恩恵は、最初に借入を行った経済主体(この場合B)だけではなく、交換に関わるすべて の経済主体(この場合、B に加えて A、C)が享受しているとすれば、サービス対価の負担も 交換にかかわる経済主体間でシェアされることの方が妥当と考えられる2。
この簡単なモデルにおいて、経済主体間でサービス対価の負担をシェアする、最も確実な方 法は、A、B、C間でそのような「契約」を結ぶことである。この場合、各経済主体は、それぞ れ1回ずつ預金通貨を用いた交換を行っているので、サービスの消費量は均等であると考えら れる。従って、対価の支払も均等になるように、A、Cが交換により入手した財の中から、3円 ずつをBに引き渡す契約を結んで、それを実行すればよい。このような契約が実行された後の、
各経済主体の財保有量(=消費量)は下表のようになる3。
(契約による負担均等化後の財保有状況)
A B C 銀行
財a 0 91 0 9
財b 0 3 97 0
財c 97 3 0 0
しかし、言うまでもなく、現実の経済においては、このような「契約」による負担の分担は 行われていない。これは、①契約によるサービス対価負担分の財の引渡しの分だけ、余分な財 の移動が生ずるので非効率である、②交換に参加する経済主体が4人以上になった場合、本来 の交換においては接点のないはずの経済主体間でも契約を結ぶ必要があるが、その実現は困難、
等の理由によるものと考えられる4。そもそも、直接の接点がない経済主体も含めて、多数の経 済主体間で交換が円滑に行われるようにすることが、通貨の基本的な機能であることを考える と、これらは致命的な欠陥と言えよう。
こうした「契約」とそれに伴う別途の財引渡しによらず、あくまでも本来の交換取引を通じ て負担の分担を実現する1つの方法は、サービスの「転売」を想定することである。すなわち、
最初の借り手は、借入により預金通貨を入手することで、銀行から「預金通貨サービス」を購 入するが、そのうち、自らが交換で使用しなかった分は、取引相手に転売するものと考える。
このような仮想的な取引を例示したのが、第2図である。
(第2図)預金サービスの転売による負担分担の可能性(金利9%)
<第 2 図における交換のプロセス>
① 経済主体Bは、100円の借入を行って預金通貨を調達することで、銀行から、「預 金通貨サービス」9円を購入(その対価は、借入返済時に支払われる金利9円)。
② 経済主体Bは、Aから財a・100円分を購入すると同時に、自らが消費した預金サ ービス<総量の1/3と想定>の残り6円をBに転売し、差額の94円を預金通貨でB に支払う。
③ 経済主体Aは、Cから財c・97円分を購入すると同時に、自らが消費した預金サ ービス<同>の残り3円をCに転売し、差額の94円を預金通貨でCに支払う(この 取引の結果、Cの手許には、財c・3円が残る)。
④ Cは、預金サービスをすべて消費し、手持ちの預金通貨94円で、Bから財b・94 円分を購入。
⑤ Bは入手した預金通貨94円と手許の6円を併せて、銀行に預金通貨100円を返済 し、さらに金利相当分として手許の財b・6円分と財a・3円分を銀行に支払(銀行 は預金通貨でこの財を買い取り、Bはその預金通貨で利子を支払う)。
経済主体B
経済主体A 経済主体C
財a100円 財b94円
財c97円
銀行
預金通貨94円 +預金サービス3円
預金通貨94円 預金通貨94円+
預金サービス6円
預金通貨100円 +財a・3円分 +財b・6円分
(返済)
財c手許残り3円 預金通貨100円+預金サービス9円
以上のような預金通貨サービスの転売取引を想定すると、交換完了後の、各経済主体の最終 的な財保有量(=消費量)は下表のようになり、サービス対価の均等な負担が実現しているこ とがわかる。
(預金通貨サービスの転売も含めた交換完了後の財保有状況)
A B C 銀行
財a 0 97 0 3
財b 0 0 94 6
財c 97 0 3 0
このように、預金通貨サービスの転売という、一種の擬制的な取引を考えれば、負担の問題 は解決する。無論、現実の経済では、「預金通貨サービス」が1つの商品として認識されてはお らず、その明示的な転売取引が行われている訳でもないことは言うまでもない。しかし、本稿 の立場は、こうした預金サービスの転売が、市場での取引価格の変化を通じて暗黙の内に行わ れ、その結果として、サービス対価の負担の分担が実現している、と言うものである。
元々、交換前の状況では、財a、b、cは等価と想定されていた。しかし、例えば、上図で経 済主体BがAから財aを購入する取引を、預金通貨と財の交換だけの部分でみてみる(預金通 貨サービスの転売を含めない)と、預金通貨94円と、財a・100円分が交換されている。次に、
AがCから財cを購入する取引をみると、ここでは、預金通貨94円と、財c・97円分が交換 されており、表面上は(預金通貨サービスの転売を含めない形で、通貨と財の交換比率だけを みれば)、財cの価格が上昇したことになる。さらに、CがBから財bを購入する際にも、価 格は上昇している。現実の経済においては、このような取引価格の変化を通じて、預金サービ スの転売と、サービス対価の支払の分担が、暗黙裡に実現しているものと考えられる。
次章では、同様の交換モデルを用いて、この暗黙のプロセスを、より現実に近い形で、明確 に提示することを試みる。その際に鍵となるのは、「銀行はサービス供給の対価とし金利を受け 取ると同時に、サービスの生産のために必要な財を市場から購入する」という、ごく自然な想 定である。
2. 市場取引を通じたサービス対価の分担の実現
本章では、市場での取引を通じて、預金サービスの転売とその対価の支払が「暗黙裡」に実 行され、その結果として、交換に参加するすべての経済主体間での、預金通貨のサービス対価 の分担が実現するメカニズムを、石田[2011-a]、[2011-b]と同様の3財モデルを用いて、図式
化して描写することを試みる。最初に、時間の概念や投資とその収益率等を含まない、最も単 純な交換の場合を検討し(「預金通貨の借入による交換」のモデル)、次に、それらを含めたよ り現実的なケース(「預金通貨による投資のファイナンス」のモデル)を考察する。
その際、「サービスの対価」として銀行が受け取る財(サービス生産に投入される財)を、
明示的に交換プロセスに組み込む。これは、銀行のサービス生産への財投入も、市場において はその財に対する「需要」であり、その限りおいて、銀行も、交換プロセスに参加する経済主 体の1つであるためである。また、財の価格変化を明示的に捕えるため、当初(交換開始前)
は、Aは財a、Bは財b、Cは財cをそれぞれ100個保有し、それらは1個=1円で等価であっ たものと想定しておく。
2-1. 「銀行借入による交換」のモデルにおけるサービス対価の分担
第1図に掲げた「銀行借入による交換」のモデルにおいては、預金通貨サービスの対価であ る金利は、借り手である経済主体Bによって、借入返済時に銀行に支払われる(金利相当分の 財aを銀行に引き渡す)ものと想定していた。しかし、銀行が求めるサービス対価は、銀行の サービス生産費用をカバーするためのものである(言い換えれば、銀行がサービスの対価とし て受け取った財が、生産に投入される)ことを考えると、銀行は、貸出の実行=サービス供給 の開始時に、投入財を必要とするものと想定したほうが、より現実に近いであろう。そこで、
金利等の条件は第1図と同様とした上で、銀行は、貸出実行と同時に、金利相当分の財aを保 有者(経済主体A)から購入すると考えて、交換プロセスを図式化してみたのが、第3図であ る。
(第3図)預金通貨の借入による交換のモデル化における分担の実現(1)(金利9%)
<第 3 図における交換のプロセス>
① 銀行は経済主体Bの求めに応じて貸出100円を行うと同時に、サービス生産に必 要な投入財、Aから財a・9個(この時点の価格で金利9%に相当)を9円で購入(こ の時点では、財a・1個=1円である)。銀行からAへの支払は預金通貨で行われるが、
銀行は預金通貨を作り出すことができるので、この支払に問題はない5。この時点で、
Bは財b・100個と預金通貨100円を保有、また、Aは財a・91個と預金通貨9円を 保有。
② 経済主体Bは手持ちの預金通貨100円で、Aから財a・100個を購入しようと目論 んでいるが、Aは、9個を銀行に売り渡してしまったため、財aを91個しか保有し ていない。このため、結果として、財a・91個=100円(1個=100/91≒1.10円)で 売買が成立するはずである(この時点では、これが経済における<通貨に裏付けられ た>需要と、供給のすべてであることに注意)。
③ 経済主体Aは手持ちの預金通貨109円(Bから受け取った100円+銀行から受け取 経済主体B
経済主体A 経済主体C
財a91個
(1個=1.10円)
財b100個
(1個=1.09円)
財c100個
(1個=1.09円)
銀行
預金通貨109円
預金通貨109円 預金通貨100円
預金通貨109円
(金利を含む返済)
預金通貨9円
(経済主体Aへ)
財a・9個
(銀行へ)
預金通貨100円
(貸出)
った9円)で、Cから財c・100個を購入。結果として、財c・1個=1.09円で売買成 立(この時点でも、これが経済における需要と供給のすべてである)。
④ 経済主体Cは手持ちの預金通貨109円で、Bから財b・100個を購入。結果として、
財b・100個=109円(1個当たり、1.09円)で売買成立。
⑤ 最後に経済主体Bは入手した預金通貨109円で、金利を付した銀行への返済を実 行して、交換プロセスは完了(預金通貨は消滅する)。
以上の交換プロセスの前後での、各経済主体の財保有状況を整理すると、下表のようになる。
(交換開始前)
A B C 銀行
財a 100 0 0 0
財b 0 100 0 0
財c 0 0 100 0
(交換完了後)
A B C 銀行
財a 0 91 0 (9)6
財b 0 0 100 0
財c 100 0 0 0
この表をみると、やはり、預金通貨の借り手である経済主体Bだけが、意図した財の消費を 実現出来ない(サービス対価としの金利相当分を1人で負担する)形となっており、市場取引 を通じたサービス対価の分担は実現していないようにみえる。しかし、このような結果になっ たのは、実は、第1図の想定では、Bが入手したいと考えていた財aは、同時に銀行のサービ ス生産過程に投入される財であったためと考えられる(その分需要が多い→価格が上昇→当初
<銀行がない状態で>目論んでいた交換比率での交換が出来なくなる→需要者Bの消費量は減 少、というメカニズムが働く)。
このような、一種の「非対称性」がサービス対価の分担に与える影響を取り除いてみるため に、銀行のサービス生産には財a、b、cが均等に必要であると想定してみよう。引続き、金利
=サービス価格=銀行のサービス生産への投入費用=9%として、この場合の交換プロセスを図 式化したのが、第4図である。
(第4図)預金通貨の借入による交換のモデル化における分担の実現(2)(金利9%)
<第 4 図における交換のプロセス>
① 銀行は経済主体Bの求めに応じて貸出100円を行うと同時に、預金通貨サービス 生産への投入として、Aから財a・3個、Bから財b・3個、Cから財c・3個をそれ ぞれ3円で購入(計9円=9%、この時点では、どの財も価格は1個=1円であること に注意)。ここでも、銀行は預金通貨を創出できるので、この支払に問題はない。こ の時点で、Bは財b・97個と預金通貨103円を保有、Aは財a・97個と預金通貨3円 を保有、Cは財c・97個と預金通貨3円を保有。
② 経済主体Bは手持ちの預金通貨103円で、Aから財a・100個を購入しようとする が、Aは、3個を銀行に売り渡してしまったため、財aを97個しか保有していない。
結果として、財a・97個=103円(1個=103/97≒1.06円)で売買が成立するはずで ある(この時点では、これが経済における<通貨に裏付けられた>需要と供給のすべ てであることに注意)。
③ 経済主体Aは手持ちの預金通貨106円(Bから受け取った103円+銀行から受け取 経済主体B
経済主体A 経済主体C
財a97個
(1個=1.06円)
財b97個
(1個=1.12円)
財c97個 (1個=1.09円)
銀行
預金通貨106円
預金通貨109円 預金通貨103円
預金通貨・各3円
(経済主体A、B、Cへ)
財a・3個
(銀行へ)
預金通貨109円
(金利を含む返済)
財c・3個
(銀行へ)
(銀行へ)
財b・3個
預金通貨100円
(貸出)
った3円)で、Cから財c・100個を購入しようとするが、Cは財cを97個しか保有 していない。その結果、財c・97個=106円(1個=106/97≒1.09円)で売買が成立 するはずである(この時点でも、これが経済における需要と供給のすべてである)。
④ 経済主体Cは手持ちの預金通貨109円(Bから受け取った106円+銀行から受け取 った3円)で、Bから財b・100個を購入しようとするが、Bは97個しか保有してい ない。その結果、財b・97個=109円(1個=109/97≒1.12円)で売買が成立するは ずである(同)。
⑤ 経済主体Bは入手した預金通貨109円で、金利を付した銀行への返済を実行して、
交換プロセスは完了。
以上のプロセス完了後の各経済主体の財保有状況をまとめると、下表のようになり、今度は、
市場での取引を通じて、預金通貨サービスの対価の均等な負担が実現していることがわかる。
(交換完了後)
A B C 銀行
財a 0 97 0 (3)
財b 0 0 97 (3)
財c 97 0 0 (3)
ここで注意を要するのは、交換開始前に比べ、交換完了後では物価が上昇していることであ る。これは、銀行が、サービス生産に必要な投入財(ここでは、財a、b、c各3個)を購入す るに際して、貸出の実行とは別に、追加的な預金の創出を行っているためである(逆に言えば、
こうした、銀行の投入財購入のための追加的な預金創出→物価上昇がなければ、預金通貨での 金利の支払は出来ないはずである)。
ここでは、各財がすべて均等に銀行のサービス生産に投入されるものと想定しているので、
交換プロセスの進捗=時間の経過とともに、交換に用いられる預金通貨の量が均等なペースで 増加し、それに連れて価格も均等なペース上昇して行っている。そして、この均等な価格の上 昇を通じて、各経済主体の財購入量が均等に抑えられて、結果として、サービス対価の均等な 負担が実現している。
価格の上昇は、同じ名目額の「預金通貨」が提供できる預金通貨サービスの減少を意味する ことを考えると、この過程で、財の市場取引と、それに伴う各時点での財の価格の変化を通じ て、預金通貨サービスの一部消費と残りの転売という(第2図)でみたような擬制が、暗黙裡
に実現していることが理解されるであろう。
因みに、サービス生産に要する銀行の投入が非対称(各財を均等には必要としない)場合に は、(第4図)に示したような均等な負担は実現しない。(第3図)はその極端な場合(財aし か投入されない)であるが、もう少し現実的に、銀行のサービス生産には財a、b、cが4:3:
2で不均等に必要であると想定してみよう(生産費用=サービス対価=金利は、引続き9%とす る)。図は同様になるので省略するが、交換プロセスの概要は以下のようになる。
<銀行の投入が不均等な場合の交換のプロセス>
① 銀行は経済主体Bに貸出100円を行うと同時に、預金通貨サービス生産に必要な 投入として、Aから財a・4個を4円、Bから財b・3個を3円、Cから財c・2個を 2円で、それぞれ購入し、預金通貨で支払を行う。この時点で、Aは財a・96個と預 金通貨4円を、Bは財b・97個と預金通貨103円を、また、Cは財c・98個と預金通 貨2円を保有している。
② 経済主体Bは、手持ちの預金通貨103円で、Aから財a・100個を購入しようとす るが、Aは財aを96個しか保有していないため、結局、財a・96個=103円(1個=
103/96≒1.07円)で売買が成立。
③ 経済主体Aは、手持ちの預金通貨107円(Bから受け取った103円+銀行から受け 取った4円)で、Cから財c・100個を購入しようとするが、Cは98個しか保有して いないため、結局、財c・98個=107円(1個=107/98≒1.09円)で売買が成立。
④ 経済主体Cは、手持ちの預金通貨109円(Aから受け取った107円+銀行から受け 取った2円)で、Bから財b・100個を購入しようとするが、Bは97個しか保有して いないため、結局、財b・97個=109円(1個=109/98≒1.11円)で売買が成立。
⑤最後に、経済主体Bは、入手した預金通貨109円で、金利を付した銀行への返済を 実行して、交換プロセスは完了。
このプロセス完了後の、各経済主体の財保有量は、下表のようになる。
(交換完了後の各経済主体の財保有状況)
A B C 銀行
財a 0 96 0 (4)
財b 0 0 97 (3)
財c 98 0 0 (2)
ここでも市場での取引を通じて、サービス対価の各経済主体間での分担が実現しているが、
分担は均等でなく、銀行が預金サービスの生産に多く必要とする財を需要する経済主体が、サ ービス費用を多く負担する結果となっている。こうした不均等な負担は、①各財に対する需要 の強弱(銀行の投入需要の多寡)と、②交換過程での通貨量の増加に伴う価格上昇が相俟った 形で実現している。やや大雑把な言い方になるが、①は相対価格の変動、②は一般物価の変動 とみなすことができよう。従って、銀行のサービス生産への財投入が不均等な場合には、(第4 図)でみたような価格(一般物価)上昇により実現される「預金通貨サービス」の暗黙裡の消 費と転売の分担に、相対価格の変化による負担の変動が付加されて、最終的なサービス対価の 分担割合が、市場取引を通じて実現されるものとみなされよう7。
2-2. 「預金通貨による投資のファイナンス」のモデルにおけるサービス対価の分担
以上の考察を踏まえて、次に、「預金通貨による投資のファイナンス」のモデルにおける、サ ービス対価の分担の問題を検討しておく。上述した、銀行の投入需要の多寡による相対価格変 化の影響は除いてみるため、ここでもサービス生産には財a、b、cが均等に必要であると想定 し、かつ金利は9%、投資の収益率も9%であるとする。銀行による投入財の購入も含めた、「預 金通貨による投資のファイナンス」のプロセスは、(第5図)のようなものになる8。
(第5-1図)預金通貨による投資のファイナンスのモデルにおける分担の実現:投資実 行時点
<第 5-1 図における交換のプロセス>
① 銀行は、投資を行おうとしている経済主体Bに貸出100円を行うと同時に、預金 通貨サービス生産への投入として、Aから財a・3個、Cから財c・3個をそれぞれ3 円で購入し、Bとの間では、投資結実時に財b・3個を3円で購入する契約を結ぶ(計 9円=金利9%、この時点では、各財の価格はすべて1円と想定されていることに注 意)。なお、このモデル化では、財bは、投資の成果として将来時点で生産されるも のと想定されているため、この時点ではまだ存在せず、Bと銀行の間の財bの取引は、
契約だけで実際の交換は行われないものと想定している9。この時点で、B は預金通 貨100円を保有、また、Aは財a・97個と預金通貨3円を保有、Cは財c・97個と預 金通貨3円を保有している。
② 経済主体Bは、手持ちの預金通貨100円で、Aから財a・100個を購入しようとす るが、Aは、3個を銀行に売り渡してしまったため、財aを97個しか保有していな い。結果として、財a・97個=100円(1個=100/97≒1.03円)で売買が成立(この 時点では、これが経済における<通貨に裏付けられた>需要と供給のすべてであるこ とに注意)。
経済主体B
経済主体A 経済主体C
財a97個
(1個=1.03円)
銀行
預金通貨103円 預金通貨100円
預金通貨100円
財c97個
(1個=1.06円)
③ 経済主体Aは、手持ちの預金通貨103円(Bから受け取った100円+銀行から受け 取った3円)で、Cから財c・100個を購入しようとするが、Cは財cを97個しか保 有していない。結果として、財c・97個=103円(1個=103/97≒1.06円)で売買成 立(この時点でも、これが経済における需要と供給のすべてである)。
④ C は、貯蓄超過主体(自ら保有する財は手離すが、現時点で、何らかの財を交換 で入手して消費しようとは考えていない)と想定されているため、手持ちの預金通貨 106円(Aから受け取った103円+銀行から受け取った3円)を、投資結実時点まで 保有する。
(第5-2図)預金通貨による投資のファイナンスのモデルにおける分担の実現:投資結 実時点
<第 5-2 図における交換のプロセス:第 5-1 図の続き>
⑤ 投資結実時点で、Bは財bを105.7個保有している(投資の収益率9%をと想定し ているので、財aの投入97個×1.09)。当初の契約に従って、このうち3個は銀行に 3円(1個=1円)で売却。
⑥ 経済主体Cは、Bから財b・102.7個を、手持ちの預金通貨106円で購入(1個当 経済主体B
経済主体A 経済主体C
財b(投資成果)
102.7個(1個=1.03円)
銀行
預金通貨106円 預金通貨109円
(返済)
財b・3個 預金通貨3円
たり、106/102.7≒1.03円)で購入
⑦ 経済主体Bは、入手した預金通貨109円(Cから受け取った106円+銀行から受け 取った3円)で、金利を付した銀行への返済を実行して、交換プロセスは完了。
以上の、投資を含む交換のプロセス前後での各経済主体の財保有状況を取りまとめると、下 表のようになる。
(交換開始前の財保有状況)
A B C 銀行
財a 100 0 0 0
財b 0 0 0 0
財c 0 0 100 0
(投資結実・交換完了後の財保有状況)
A B C 銀行
財a 0 (97) 0 (3)
財b 0 0 102.7 (3)
財c 97 0 0 (3)
ここでは、2-1の結果とは異なり、銀行はサービス生産にすべての財を均等に投入しているに も関わらず、経済主体Cだけが消費の増加を享受している。これは、Cが、貯蓄超過主体とし て、預金通貨を保有したまま投資の結実を待ち続けたことによるものである。すなわち、投資 結実の時点では、投資収益率の分だけ財(この場合は財b)が増産され、存在している預金通 貨の量に比べて財の取引量が増加している。この結果、物価が再び下落し、Cが同額の預金通 貨で購入できる財の量が増加したことによるものと考えられる。
さらに興味深いのは、経済主体Bは銀行から借入を行って財aを購入し、これをプラスの収 益率(ここでは9%と想定)の投資に投入して、より多くの財bを生産したにも拘らず、最終 的には、投資の成果はすべて貯蓄超過主体であるCに属する結果となっている点である。そし て、この結果は、実は投資の収益率が金利よりも高いものと想定しても、変わらない。例えば、
上記のケースで投資の収益率が15%であったと仮定すると、投資結実時点での交換のプロセス は、以下のようになる。
<投資結実時点における交換のプロセス:投資収益率が 15%だった場合>
⑤ 投資結実時点で、Bは財bを111.6個保有している(投資の収益率15%をと想定 しているので、財aの投入97個×1.15)。当初の契約に従って、このうち3個は銀行 に3円(1個=1円)で売却。
⑥ 経済主体Cは、Bから財b・108.6個を、手持ちの預金通貨106円で購入(1個当 たり、106/108.6≒0.98 円)で購入(この時点では、これが経済における需要と供給 のすべてであるので、このような交換が成立せざるを得ない)。
⑦ 経済主体Bは、入手した預金通貨109円(Cから受け取った106円+銀行から受け 取った3円)で、金利を付した銀行への返済を実行して、交換プロセスは完了。
このケースで、投資を行った経済主体Bがこのような不利な立場に置かれてしまうのは、当 初の約束どおりに銀行に借入の返済を行うためには、売買によってCから預金通貨を入手せざ るを得ないためである10。
最後に、石田[2011-a]の最後の提示されている「定期預金」を導入した「預金通貨による 投資のファイナンスモデル」で、この結論がどのように修正されるかを簡単に見ておきたい11。 第5図のモデルとの違いは、銀行はCに一定の利子の付いた「定期預金」をオファーし、経済 主体Cは投資結実時点まで預金通貨を保有する代わりに、この利子付の定期預金を保有するこ とだけである。ここでは、定期預金の金利を 3%とし、その分、銀行は預金通貨サービスの生 産費用を圧縮するが、引続き財a、b、cは均等に投入するものとする。
<定期預金のモデル化における交換のプロセス>
① 銀行は、投資を行おうとしている経済主体Bに貸出100円を行うと同時に、預金 通貨サービス生産への投入として、Aから財a・2個、Cから財c・2個をそれぞれ2 円で購入し、Bとの間では、投資結実時に財b・2個を2円で購入する契約を結ぶ(計 6円=金利9%‐定期預金金利3%、この時点では、各財の価格はすべて1円と想定 されていることに注意)。この時点で、Bは預金通貨100円を保有、また、Aは財a・
98個と預金通貨2円を保有、Cは財c・98個と預金通貨2円を保有している。
② 経済主体Bは、手持ちの預金通貨100円で、Aから財a・100個を購入しようとす るが、Aは、2個を銀行に売り渡してしまったため、財aを98個しか保有していな い。結果として、財a・98個=100円(1個=100/98≒1.02円)で売買が成立。
③ 経済主体Aは、手持ちの預金通貨102円(Bから受け取った100円+銀行から受け
取った2円)で、Cから財c・100個を購入しようとするが、Cは財cを98個しか保 有していない。結果として、財c・98個=102円(1個=102/98≒1.04円)で売買成 立。
④ C は、貯蓄超過主体(自ら保有する財は手離すが、現時点で、何らかの財を交換 で入手して消費しようとは考えていない)と想定されているため、手持ちの預金通貨 104円(Aから受け取った102円+銀行から受け取った2円)を、投資結実時点まで、
利子(3%)付の定期預金の形で保有する。
⑤ 投資結実時点で、Bは財bを105.7個保有している(投資の収益率9%をと想定し ているので、財aの投入97個×1.09)。当初の契約に従って、このうち2個は銀行に 2円(1個=1円)で売却。
⑥ また、経済主体Cは、定期預金の満期により、預金通貨を107.1円(=104×1.03、
なお定期預金の金利は預金通貨で支払われるが、銀行は預金通貨を創出できるので、
支払に問題はない)保有している。
⑦ 経済主体Cは、Bから財b・103.7個を、手持ちの預金通貨107.1円で購入(1個 当たり、107.1/103.7≒1.03円)で購入
⑧ 経済主体Bは、入手した預金通貨109.1円(Cから受け取った107.1円+銀行から 受け取った2円)のうち、109円で金利を付した銀行への返済を実行して、交換プロ セスは完了。Bの手許には、預金通貨0.1円が残る。
この一連のプロセスの前後での各経済主体の財保有状況をまとめると、下表のようになり、
投資の最終的な成果を貯蓄超過主体であるCが享受していることには変わりはない。ただし、
一連の取引の結果として、Bの手許には預金通貨0.1円が残っていることが違いである。ここ での設例では僅かな金額に過ぎないが、これがBの投資成果となる。(第5図)のモデル化と 異なる結果になったのは、投資結実時点で、銀行が定期預金金利支払のために、新たな預金通 貨の創出を行っているためである。その分だけ、投資成果による財の増加に伴う物価の下落が 抑制され、物価下落によるCの利得が一部分だけ抑えられたものと理解される。
(交換開始前)
A B C 銀行
財a 100 0 0 0
財b 0 0 0 0
財c 0 0 100 0
(投資結実・交換完了後)
A B C 銀行
財a 0 (98) 0 (2)
財b 0 0 103.7 (2)
財c 98 0 0 (2)
3. 結論といくつかのインプリケーション
以上の考察から得られた本稿の結論を改めて簡単に要約すると、以下の通りである。
① 「預金通貨」のサービス対価としての金利は、直接的には借入主体のみによって銀行に 支払われるが、サービスは交換に参加するすべての経済主体が享受するので、対価は最終 的には経済主体間で分担される必要がある。交換に参加する経済主体間の契約、サービス の転売等を想定すれば分担は可能であるが、これらは現実性に乏しく、市場メカニズムを 通してその分担が実現するか否かが大きな問題である。
② 銀行が、サービス生産に必要な投入財を、預金通貨を用いて各経済主体から購入する(銀 行は、預金を作り出すことが出来るので、この過程で新たな資金調達等は必要としない)
ものとすると、銀行のこの行動によって、経済全体に流通する預金通貨の量が増えるので、
交換が進むに連れて財の価格(通貨と財の交換比率)は上昇する。
③ この財価格の上昇を通じて、預金サービスの対価としての金利は、借り手からすべての 交換参加者に移転され、市場メカニズムによる負担の分担が実現する。
④ 同一時点での交換の場合(投資とその収益を考慮しない場合)には、銀行のサービス生 産意要する投入財が均等であれば、サービス対価の負担も均等になる。そうでない場合に は、銀行の投入需要の多寡による価格変化が生ずる(相対価格の変化)ので、負担は均一 ではなくなるが、市場メカニズムを通じた分担自体は実現する。
⑤ 投資収益を考慮した場合も、投資結実時点で、投資成果である財の供給が増大し価格が 低下するので、均等な負担は実現しないが、分担自体は市場で達成される。
なお、以上の考察から、現在の日本においてしばしば生じている、金利と、成長率やインフ レ率の関係に関する一種の「誤解」が解かれる可能性があることに注意しておきたい。すなわ ち、金利付の貸出が行われた場合、返済時点で、借り手は借り入れた以上の預金通貨を返済し なければならない。この事実から、しばしば、「返済時には、より多くの通貨が存在することが 必要であり、そのためには経済が成長していなければならない」との主張がなされる。すなわ ち、プラス金利は、プラスの成長に対応しているとの主張である。
しかし、以上の考察が示すように、金利を銀行の預金通貨サービスに対する対価と考える限 り、競争経済では、その対価は銀行のサービス生産費用に見合ったものになるはずである。そ して、その生産費用は、銀行の預金通貨創出による財購入の形で、経済主体に支払われる。こ れらが交換取引の結果、最終的には、当初の借り手の下に集まって、返済時の金利支払の原資 になるので、その時点で経済が成長している必要は、必ずしもない。
また、確かに、交換プロセスの途中では、銀行の投入財購入のために支払われた預金通貨の 分だけ通貨が増加するので、物価の上昇が発生するが、貸出の返済とともに、作り出された預 金はすべて消えるので、こうしたプロセスがインフレーション(持続的な物価上昇)を意味す るわけではなく、プラス金利がプラスのインフレ率に対応するというのも、「誤解」と考えられ る。金利分の通貨増加は、サービス対価の分担が市場取引を通じて実現されるための「手段」
に過ぎない。なお、この点は、交換に時間差を導入し、さらに投資の収益率を考慮しても、基 本的には変わりはない。
最後に、この点を、前出の「銀行預金の借入による交換」のモデル化を拡張した、一種の「繰 り返しモデル」で確認しておこう(前提等は、第4図のモデルと同様、但し、計算を簡単にす るために、毎期の各経済主体の財保有量<endowment>は、それぞれ 103 個とした)。このモ デルは、実質金利と名目金利の区別等を一部簡略化しているため、近似的なものではあるが、
毎期一定のendowment(すなわち、経済成長のない状況)とプラス金利、及び、交換過程での 一時的な物価上昇(持続的なインフレーションではない)が、持続的に並存しうることが、看 取されるであろう。
<繰り返し交換のプロセス>
① 銀行は、経済主体Bに貸出97円を行う(毎期、同様の交換が繰り返される「繰り 返し」モデルでは、Bは銀行が投入財として財b・3個を購入してくれることを知っ ているので、100 円の借入は不要となる)と同時に、サービス生産への投入として、
Aから財a・3個、Bから財b・3個、Cから財c・3個をそれぞれ3円で購入(計9
円=9%)。この時点で、Bは財b・100個と預金通貨100円(借入97円+財bの銀行 への売却代金3円)を保有、また、Aは財a・100個と預金通貨3円を保有、Cは財 c・100個と預金通貨3円を保有
② 経済主体Bは、手持ちの預金通貨100円で、Aから財a・100個を購入(この時点 では、これが経済における<通貨に裏付けられた>需要と供給のすべてであることに 注意)。結果として、財a・100個=100円(1個=1円)で売買が成立。
③ 経済主体Aは、手持ちの預金通貨103円(Bから受け取った100円+銀行から受け 取った3円)で、Cから財c・100個を購入。その結果として、財c・100個=103円
(1個=1.03円)で売買が成立。
④ 経済主体Cは、手持ちの預金通貨106円(Aから受け取った103円+銀行から受け 取った3円)で、Bから財b・100個を購入。その結果、財b・100個=106円(1個
=1.06円)で売買が成立。
⑤ 経済主体Bは、入手した預金通貨106円で、金利を付した銀行への返済(=97×
1.09=105.73円)を実行して、当期の交換プロセスは終了。
⑥ 翌期初にも、経済主体Bは財a・100個の購入費用として、Bは銀行から借入を行 う。前期の財a・100個の価格は100円であるが、Bは銀行が生産費用として財b・3 個を3.18円(前期の財bの価格は1個=1.06円であることに注意)で購入すること を知っているので、借入額は100-3.18=96.82円で済む。
⑦ 銀行のサービス生産費用(実質)は引続き財a、b、c各3個が必要とすると、前 期の価格での書く経済主体への銀行の預金通貨支払額はAに3円、Bに3.18円、C に3.09円となる。
⑧ 経済主体Bは、手持ちの預金100円で、Aから財a・100個を購入(1個=1円で売 買成立)。
⑨ 経済主体Aは、手持ちの預金通貨103円で、Cから財c・100個を購入(財c・100 個=103円、1個=1.03円で売買成立)。
⑩ 経済主体Cは、手持ちの預金通貨106.09円で、Bから財b・100個を購入(財b・
100個=106.09円、1個=1.061円)で売買成立
⑪ Bは入手した預金通貨106.09円で、金利を付した銀行への返済(=96.82×1.09=
105.73円)を実行して、交換プロセスは終了。
翌々期以降も、この繰り返しが続く。交換の過程で、銀行による投入財購入分だけ預金通貨 が増加するので、一時的に物価は上昇するが、持続的な上昇(インフレーション)になる訳で
はないことがわかる。
無論、本稿での考察は、石田[2011-a]、同[2011b]と同様に、最もシンプルな「3 経済主 体・3 財のモデル」における交換を図式化したものに止まっている。こうした単純化されたモ デルを用いて交換のプロセスを考察することで、逆に、「預金通貨」や「金利」等の本質が純化 されてより的確に捉えられたものと思われるが、一方で、得られた結論をより一般性のあるも のとするためには、モデルの多経済主体・多財モデルへの拡張や、より厳密なモデル化等が必 要であろう。これらについては、今後の課題としたい。
注
1) ①Aは財aを保有しているが、それを手放して財cが欲しい、同様に、②Bは財bを保有しているが財aが欲しい、
③Cは財cを保有しているが財bが欲しい、というのがここで想定されている状況である。経済全体で見れば全ての 財について需要と供給が一致しており、かつ交換が成立することによって全ての経済主体の効用水準が高まるにも かかわらず、AとB、BとC、CとAのいずれの組が市場でであっても「欲求の二重の一致」は成り立たず、交換は成 立しない。銀行の貸出による「預金通貨」の創出により、金等の商品貨幣に依存することなく、この困難が克服される というのが、石田[2011-a]での議論であり、本稿の考察の出発点でもある。
2) 石田[2011-b]では、「このような事態が生ずるのは、B に、銀行に金利を支払ってでも交換を実現したいだけのイン センティブがある場合(例えば、それだけ財 aの効用が高い)場合に限られる」とした上で、その脚注で、「仮にどの 経済主体も交換に関して同程度のインセンティブしか有していないような場合には、市場取引の結果として財の交 換比率等が変わり、金利の負担が各経済主体に均等になることも考えられる。実際、現実の経済取引では、金利負 担は販売者の原価の一部として、販売価格にある程度転嫁されるのが通例である。」と述べている。本稿は、この
「市場取引の結果として財の交換比率等が変わり…」の部分を、より具体的・明示的に考察することを試みるもので ある。
3) 厳密に言えば、この契約の履行によりBが手に入れているのは、Bが交換で入手したいと考えていた財a ではなく、財b、cであるので、Bの効用は、なおA、C並みには回復されてない(まだ、負担の完全な均 等化にはなっていない)。完全な均等化を実現するには、交換比率の変動が必要と考えられる。
4) そもそも、各経済主体と財の所在、および交換の需要に関して、「完全情報」を想定しなければ、このよう な「契約」自体が困難であることにも注意しておく。一般的には、手許の預金通貨が、その後、何回交換過 程に用いられるか(すなわち、サービスの対価が、何人の経済主体間で分担されるべきか)は、不明である 場合が大半であろう。
5) 現実の銀行の会計上では、この取引は、銀行が未収利息を収入として計上し、そこから生産に必要な財の購 入費用を支出することで実行されるものと考えられる。なお、この時点では、経済全体に存在する預金通貨 の量が、貸出による創出分100円から、銀行の支払分を加えて合計109円に増加していることに注意してお く。以下で述べる分担実現のメカニズムにとっては、この点が決定的に重要である。
6) ここで銀行の財保有量を( )内に入れているのは、銀行は、預金通貨サービスの生産過程、即ちそれまで の交換過程で、既に財を生産のための投入物として消費してしまっていると想定しているためである。以下 の表でも同様。
7) 但し、ここでは、経済主体Aは財c、Bは財a、Cは財bしか需要しないという、いわゆる「三角交換」の 状況を考えているので、事態はやや単純化されている点には注意が必要であろう。実際には、銀行の投入財 需要により各財の相対価格が変化すれば、A、B、Cの各財に対する需要も変化するはずである。しかし、
そのようなより複雑な状況を加えても、通貨増加による一般物価の変化に、相対価格変化の影響が重なって、
各経済主体のサービス対価負担割合が、市場取引を通じて決定されるという状況には、変わりはないものと 考えられる。
8) (第5図)は、石田[2011-a]、[2011-b]における「預金通貨による投資のファイナンス」のモデル化を、
銀行のサービス生産における投入財の需要を明示的に含める形で、拡張したものである。モデル化の詳細に ついては、同[2011-a]の(第7図)、及びそ関連する説明、同[2011-b]の(第8図)~(第11図)、及 び関連する説明、を参照。
9) 財bも銀行の預金通貨サービス生産への投入財と考えると、現時点では契約だけで、実際の交換は投資結実 時点で行うとの想定は、やや無理があるかも知れない。その場合には、銀行は、(ここには登場しない他の 経済主体から)一時的に現物で財bを借り、投資結実時点でBから財bを購入して、現物で返済するもの と考えれば、ここでの結論には大きな修正は要しないであろう。
10) 因みに、石田[2011-b]では同様の設定から、投資収益率が金利よりも高い場合には、投資を行った経済主 体Bの手許に両者の差の分だけ投資成果である財bが残るとの結果を歩導いたが、これは、①銀行自身の 投入財購入による預金通貨の増加がなく(従って、価格変動もない)かつ、②金利相当分は当初の価格で財 で銀行に支払えると想定したためである。
11) このモデル化の詳細に関しては、石田[2011-b]の第2-3節を参照。
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Deposit Money and Interest Rate as its Service Charge (vol.2)
―Further Consideration on the Sharing of Service Charges―
ISHIDA Kazuhiko
This paper tries to further develop the model proposed in Ishida[2011-b]1, which introduced an “interest rate” to a model of exchanges of goods as the “service charge” of using deposit money. In that model, an interest rate is assumed to be paid by the original borrower of deposit money from banks as its service charge. However, the service provided by deposit money is consumed not only by the original borrower, but also all the economic agents involved in the process of exchange of goods using deposit money. Thus, the service charge should also be shared by all the agents involved, and the model needs a mechanism that actually realizes such sharing.
The main conclusions of the paper can be summarized as follows:
1) The simplest way to realize the sharing is to make a “contract” to do so among all the agents. However, it is very inefficient and hence unrealistic to make and actually implement such a “contract” in the real economy.
2) Another way is to assume resale of services provided by deposit money. It is actually possible to create a model of realizing proper sharing of charges through resale of services.
However, a market for such resale of service of deposit money is not observed in the real economy. This is because a similar sharing can implicitly be realized through more simple market transactions.
3) The key factor of realizing the proper sharing through market transactions is banks’
purchase of goods in the market as inputs for their service production. Banks’ purchase of goods creates additional deposit money in the economy, and in the competitive market, the amount of banks’ purchase, and hence additional deposit money is equal to the service charge, that is, an interest rate.
4) This additional deposit money causes a rise in the prices of goods, and hence reduces the amount of the purchase and consumption of goods by the agents involved in the exchange of goods. Sharing of service charges can be realized through this decrease in consumption.
5) The model of sharing charges proposed in this paper also suggests that zero growth of the economy and a positive interest rate are not contradicting with each other.
1) Ishida, K., 2011-b, “Deposit Money and Interest rate as its Service Charge”, ‘Area and Culture Studies 83’, Tokyo University of Foreign Studies (in Japanese)