立教大学 教職課程 2021 年 3 月
「総合的な学習(探究)の時間」と各教科等の往還
-指導計画の作成過程に即した考察-
竹内 久顕
Ⅰ はじめに
1998・99 年告示の『学習指導要領』で「総 合的な学習の時間」が新設されたが、当時、総 合的な学習と各教科、とりわけ社会科との関連 について多くの議論がなされた。たとえば、山 根栄次は、「総合的な学習の時間」のねらいが 初期社会科のものと似ている点に着目し、「社 会科と総合的な学習の時間の連携を考えること は当然のことである」と前向きにとらえた
1。
しかし、解決すべき様々な課題も指摘されて おり、たとえば、中村時雄は、社会科と総合的 な学習には「教材や学習活動、学習方法など、
授業を構成する要素に多くの共通性」が見られ るため、かえって「相互にどう関連づければよ いのか、また、違いをどのように際立たせれば よいのか」という問題が生じると指摘した。そ して、社会科と総合的な学習の「目標はそれぞ れ別個に存在している」という点に着目し、 「両 者を安易に関連づけることによって、どちらと も言えない学習が展開」することとなり、その 結果、社会科に関していえば、「子どもたちに 定着させたい基礎・基本が不明確なもの」にな ることを懸念した
2。
「総合的な学習の時間」の「探究的な学習の 過程(探究のプロセス)」として示されている「課 題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・
表現」は、社会科で従来から取り組まれて来た
「調べ学習」の手順と似ている。また、「探究課 題」として挙げられるもののうち、「国際理解、
情報、環境、福祉・健康などの現代的な諸課題」
や「地域や学校の特色に応じた課題」は社会科 の学習課題でもある
3。こうした事情もあって、
社会科と総合的な学習の共通点と相違点や関連 付けについて多くの議論が展開されてきたので あろうが、同様の問題はすべての教科等にもあ てはまる。 「総合的な学習の時間」の目標として、
「横断的・総合的な学習」「自己の生き方を考え る(考えていく)」といった文言は、当初の『学 習指導要領』(1998・99 年版)以来常に掲げら れてきたが、これらはすべての教科等を含む学 校の教育課程全体を通じて期待されるものでも ある。したがって、「総合的な学習の時間」は、
本来的にすべての教科等との関連を意識したう えで構想せざるを得ない。そして、このことは、
『学習指導要領』の今次改訂の根拠となった中 教審答申
4においても、「総合的な学習の時間」
の今後の改善課題として、「これまで以上に総 合的な学習の時間と各教科等の相互の関わりを 意識」すべきであることがあげられていること からも、今日的課題としてなお検討すべきであ るといえる。
そこで、本稿では、「総合的な学習の時間」
の指導計画の作成過程に即して、各教科等との
関連付け(往還)の方法を考察することとする。
まず、『学習指導要領』と『学習指導要領解説』
を手掛かりに指導計画の位置づけと作成方法に ついて概観する。次に、指導計画作成に際して、
各教科等との関連付けを考えるうえでキー概念 となる「資質・能力」のとらえ方を整理する。
こうした検討を踏まえ、最後に、教職課程履修 学生が考案した授業構想を素材として、「総合 的な学習の時間」と各教科等の関連付け(往還)
の一例を考えてみたい
5。
Ⅱ 「総合的な学習の時間」の指導計画
『学習指導要領』では、「総合的な学習の時 間」で作成すべき指導計画として、「全体計画」
「年間指導計画」「単元計画」の 3 種をあげてい る。これら指導計画に関しては、『学習指導要 領』では「第 3 指導計画の作成と内容の取扱 い」の「1 指導計画の作成に当たっては、次 の事項に配慮するものとする」に次のように記 されている
6。
(1) 年間や、単元など内容や時間のまとまりを見 通して、その中で育む資質・能力の育成に向 けて、生徒の主体的・対話的で深い学びの実 現を図るようにすること。(以下略)
(2) 全体計画及び年間指導計画の作成に当たって は、学校における全教育活動との関連の下に、
目標及び内容、学習活動、指導方法や指導体 制、学習の評価の計画などを示すこと。(以 下略)
(3) 他教科等及び総合的な学習の時間で身に付け た資質・能力を相互に関連付け、学習や生活 において生かし、それらが総合的に働くよう にすること。その際、言語能力、情報活用能 力など全ての学習の基盤となる資質 ・ 能力を 重視すること。
3 種の指導計画の位置づけと内容について、
『解説』を手掛かりに整理してみよう。
•
全体計画:学校として、この時間の教育活 動の基本的なあり方を概括的・構造的に示 したもの。具体的には次の 6 要素を記載す る(①②は必須事項、③~⑥はそれぞれの 概要を記述する)。①目標、②内容(探究 課題、資質・能力)、③学習活動(具体的 事項は、年間指導計画と単元計画に示す)、
④指導方法、⑤学習の評価(指導計画自体 の評価を含む)、⑥指導体制。
•
年間指導計画:1 年間の流れの中に、単元 名とその学習活動・活動時期・時間数など を配列したもの。作成に際しての配慮事項 として次の 4 点があげられている。①生徒 の学習経験、②季節や行事など学習時期の 活用、③各教科等との関連(後述)、④外 部の教育資源の活用及び異校種との連携・
交流。
•
単元計画:一連の学習活動のまとまりであ る単元についての指導計画。具体的には、
次の 5 項目を学習指導案に記載する。①単 元名、②単元目標、③生徒の実態、④教材、
⑤単元の展開。
上記のうち、年間指導計画の配慮事項③につ いて、『解説』では要旨次のように説明されて いる。「総合的な学習の時間」と各教科等との 関連を示すための書式として、両者の単元名、
学習活動や資質・能力を互いに線で結ぶといっ
た工夫があり得る。そうすることで、「総合的
な学習の時間」と各教科等のそれぞれで育成さ
れた資質・能力を互いの学習場面で発揮し活用
することができ、「汎用的な資質・能力」へと
高めていくことができる。
「総合的な学習の時間」と各教科等との関連 については、引用した『学習指導要領』の(3)
にもある通り、それぞれの「資質・能力」を「相 互に関連付け」ることで「学習や生活において 生かし」ていくことが求められている。この点 に関しては、中教審答申(2016 年 12 月)第 2 部の「第 2 章 各教科・科目等の内容の見直し」
「17 総合的な学習の時間」においても、改訂 へ向けての課題の一つとして、「総合的な学習 の時間で育成する資質・能力についての視点」
の明確化が指摘されている。そこでは、「総合 的な学習の時間を通してどのような資質・能力 を育成するのか」という点や、「総合的な学習 の時間と各教科等との関連を明らかにする」と いう点について学校差があると指摘したうえ で、「総合的な学習の時間と各教科等の相互の 関わり」に留意したうえで「学校全体で育てた い資質・能力に対応したカリキュラム・マネジ メント」の充実を求めている。
こうして、「総合的な学習の時間」と各教科 等との関連を考えるうえで、資質・能力がキー 概念とされていることがわかった。そこで、次 に、それぞれの資質・能力をどのように関連付 ければよいかという課題を検討する。
Ⅲ 「総合的な学習の時間」と各教科等の「資質・
能力」
先述した中教審答申(2016 年 12 月)の「第 5 章 何ができるようになるか−育成を目指す 資質・能力」において、 「育成を目指す資質・能力」
が “3 つの層 ” と “3 つの柱 ” でもって示されて いる
7。
“3 つの層 “ とは次のものである。
(i) 各教科等において育まれる資質・能力:
国語力や数学力のように、伝統的な教科 等の枠内で育成される。
(ii) 教科等を越えた全ての学習の基盤として 育まれ活用される資質・能力:言語能力、
情報活用能力、問題発見・解決能力のよ うに、教科等の違いに関わらず育成され る。
(iii) 現代的な諸課題に対応して求められる資 質・能力:安全で安心な社会をつくる力 や自然の有限性の中でよりよい社会をつ くる力のように、教育課程の全体を通し て育成される。次のようなものが例示さ れている。主権者として求められる力、
新たな価値を生み出す豊かな創造性、グ ローバル化の中で多様性を尊重し多様な 他者と協働しながら目標に向かって挑戦 する力、地域創生等に生かす力、持続可 能な社会をつくる力。
一方、“3 つの柱 ” は、既によく知られている、
「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学 びに向かう力・人間性」である。この両者を組 み合わせて整理・例示してみると、表 1 のよう に資質・能力を構造化することができる。
表 1 は、石井英真が作成したものを参考に、
簡略にまとめたものである
8。この石井の整理・
分類の図表は中教審答申の「補足資料」でも紹 介されており、『学習指導要領』の今次改訂に おける資質・能力の議論で参照されたものと思 われる。そこで、石井の議論の中から、“3つの層”
と “3 つの柱 ” に関わるものをまとめてみよう。
まず、石井は、海外の先行研究を踏まえて能
力の階層性を次のように整理する。
•
認知システム:知識の習得・活用(知って いる・できる→わかる→使える)。
•
メタ認知システム:自律的な課題設定、持 続的な探究、情報収集・処理など。
•
行為システム:異質の他者との対話・協働、
社会関係を民主的に組織化し再構成する力 など。
そして、教科学習は「認知システム」を主た る指導対象とし、教科外学習のうち総合的な学 習では主に「メタ認知システム」を、特別活動 では主に「行為システム」を指導対象とすると 位置付ける
9。
ここでいう「認知システム」は答申の “3 つ の層 ” のうちの(ⅰ)に、「行為システム」は
(ⅲ)にあたり、「メタ認知システム」はその内 容から(ⅱ)に当たると考えられる。したがって、
(ⅰ)(ⅱ)は主に教科学習で、(ⅱ)(ⅲ)は主 に教科外学習で育成されるものと理解すること ができる。
次いで、石井は、資質・能力の「トリプルス タンダード」について次のように論じる。今次 改訂の過程で論じられてきたコンピテンシー概
念が、「他者との対話・協働や主体性といった、
非認知的能力も含め、知識を使いこなしたり創 造したりする力」といった汎用的なものであり、
従来の学力概念を超えたものであることに着目 し、こうした資質・能力を各教科や学校教育全 体でどのように位置付ければよいかが問題であ ることを指摘する。そして、教科指導において、
「教科の知識・技能」「教科固有の思考力・判断 力・表現力」「汎用的スキル」のトリプルスタ ンダードを追求することになれば、「授業の煩 雑化や形式化をもたらしかねない」ということ を危惧する。そこで、「汎用的スキル」に関し ては、教科というよりも「カリキュラム全体を 覆うアンブレラとして、学校教育目標のレベル で位置付けることが有効」ではないかと指摘す る
10。
この「汎用的スキル」は、その説明内容から、
資質・能力の “3 つの柱 ” のうち「学びに向か う力、人間性」に当たると考えられる。した がって、「知識・技能」「思考力・判断力・表現 力」は教科学習における目標とすることができ るが、「学びに向かう力、人間性」(汎用的スキ ル)は教科学習の目標とするより、学校の教育
知識・技能 思考・判断・表現力 学びに向かう力・人間性
教 科
(ⅰ) ①文法・公式の知識、計算・
工作の技能
②歴史的思考・数学的推論、
鑑賞、美的表現
③学習内容自体に対する関心 に発する意欲
(ⅱ) ④言語や情報機器を使いこな す知識・技能
⑤データの読み取り、情報の 収集・活用
⑥学習行為自体への意欲・関 教 心
科
外 (ⅲ) ⑦環境や安全に関する知識、
主権者意思を実現する方法
⑧企画立案、紛争解決、合意 形成、対話
⑨社会的責任や正義感に発す る内発的動機
表 1
活動全体を通じて目指すものとした方が現実的 ではないかということになる。すなわち、教科 学習では「知識・技能」「思考力・判断力・表 現力」の育成に主眼を置き、教科外学習におい て「学びに向かう力、人間性」(汎用的スキル)
をその固有の目標とするのが現実的であると考 えられる。
さて、以上の石井の整理・分類を手掛かりに、
“3 つの層 ” と “3 つの柱 ” から構成した先の表 1 を検討すると、教科では①②④⑤に、教科外で は⑤⑥⑧⑨に焦点が当てられるということにな る。このように、 「育成を目指す資質・能力」を、
カリキュラムのすべての領域において均等にと らえるのではなく、教科では主に「知識・技能」
「思考力・判断力・表現力」の育成に焦点を当て、
教科外(総合的な学習、特別活動)では「学び に向かう力、人間性」に焦点を当てる。また、 「行 為システム」に含まれる現代的な諸課題の解決 に向かう実践的な力の育成は、教科外、とりわ け特別活動に期待されるということになるだろ う。このことは、『学習指導要領』のカリキュ ラムが、教科は系統学習の原理に基づき、総合 的な学習と特別活動は経験主義的な問題解決学 習の原理に近いということを踏まえても、合理 的なとらえ方であるといえる。
次に、教科及び教科外それぞれの資質・能力 を関連付けるための参考資料として、『中学校 学習指導要領』の各教科等に記された資質・能 力の “3 つの柱 ” の要点をまとめてみる。
表 2 は指導計画を構想する際の参考資料とし て作成したものだが、次節では、これを手掛か りにしながら、「総合的な学習の時間」と各教 科等の関連付けを試案的に検討してみよう。
Ⅳ 事例検討
筆者が担当する立教大の「社会公民教育法2」
では、平和教育・人権教育・開発教育などの広 領域テーマに関する社会科・公民科の授業づく りを取り上げている。そこで行なっている学生 のグループ発表では、これら広領域テーマに関 する単元を設定し、その社会科・公民科として の授業構想と「教科等横断的な視点」を示すこ とを求めている。2020 年度の授業での発表の うち、本稿で論じた課題に関わる優れた発表を 2 件紹介し検討する。
(1)単元名「核兵器と軍縮-高校生平和大使 としてスピーチをしよう」
高校生平和大使(被爆地ヒロシマ・ナガサキ の声を世界に伝えるために、公募で選ばれた高 校生が国連の軍縮会議に派遣されスピーチを行 なう試みで、1998 年以来行なわれている)と しての模擬体験で、公民科(現代社会)で核兵 器と軍縮に関する学習、情報科で情報の収集、
特別活動(修学旅行)で広島学習、総合的な探 究でスピーチづくりという構想の発表であっ た。
<検討>高校生平和大使の模擬体験への着目 は面白い。しかし、国連で世界に訴えかけるス ピーチづくりのためには、さらに多くの教科・
科目の学習が必要となる。
前節で検討した資質・能力のあり方を踏まえ ると、次のような指導計画を構想することがで きる。①各教科・科目で表 3 に列記したような
「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」を身
につけ、それらを活用して「総合的な探究の時
間」にスピーチを作成する。その際、疑問や不
明なことが生じた場合、教科・科目の既習事項 を振り返ったり、教科担当教員の指導のもとで 新たな学習に取り組んだりする。②「総合的な 探究の時間」の単元として「高校生平和大使と してスピーチをしよう」と設定し、「探究的な
学習の過程」(表 2 の「思考・判断・表現力」
の項)に即して、協働的にスピーチ原稿を作成 する(表 2 の「学びに向かう力・人間性」の 項)。その際、表 3 に列記した学習事項を総合 することで原稿を作成することになる。③特別
知識・技能 思考・判断・表現力 学びに向かう力・人間性
教 科
国 国語の特質を理解し適切に使
う 伝え合う力、思考力や想像力 豊かな言語感覚、国語を尊重
社
国土・歴史・政治経済・国際 関係等を理解、調査や資料活 用の技能
社会的事象の考察、社会的課 題を判断・説明・議論する力
課題を解決しようとする態度、
国民主権を担う公民としての自 覚
数
概念・原理・法則を理解、数 学的な解釈・表現・処理する 技能
論理的・統合的・発展的に考 察する力、簡潔・明瞭・的確 に表現する力
数学を生活や学習に生かそうと する態度
理 自然の事物・現象の理解、観察・
実験の技能 科学的に探究する力 科学的に探究しようとする態度 音 音楽の構造・背景の理解、音
楽表現の技能
音楽表現の創意工夫や音楽の よさを味わう
音楽を愛好する心情、音楽に親 しんでいく態度
美 造形的な視点の理解、表現方 法の創意工夫
美術の働きを考える、豊かな 発想・構想、美術文化の見方 を深める
美術を愛好する心情、心豊かな 生活を創造していく態度
保 各種の運動の技能、生活にお ける健康・安全
運動や健康の課題の発見・解 決に向けて思考
運動に親しむ、健康の保持増進 と体力の向上
技 生活と技術についての理解と 技能
生活や社会の課題を設定、解 決策を構想・実践
生活を工夫し創造しようとする 実践的な態度
外
音声・語彙・表現・文法を理解、
コミュニケーションで活用す る技能
情報や考えを理解・表現する 力
背景の文化を理解、主体的にコ ミュニケーションを図ろうとす る態度
総合 課題の解決に必要な知識及び 技能、課題に関わる概念
課題の設定、情報の収集・整理・
分析、まとめ・表現
探究的な学習に主体的・協働的 に取り組む、積極的に社会に参 画しようとする
特別 活動
集団活動の意義、活動を行う 上で必要となること、行動の 仕方
集団・自己の課題を見いだす、
合意形成を図る、意思決定を する
集団・社会生活や人間関係をよ りよく形成する、生き方につい ての考えを深める、自己実現を 図ろうとする
表 2
活動(ホームルーム活動、文化的行事)で、国 連会議での発表を想定した模擬体験を行なうこ とで、グループでの合意形成・意思決定の成果 を示すことができる(表 2 の「思考・判断・表 現力」の項)。また、それをコンテスト形式で 行なえば、国際社会に参画し平和な世界を形成 する模擬的な体験が可能となる(表 2 の「学び に向かう力・人間性」の項)。
(2)単元名「ジェンダーについて考える」
ファミリーマートの「お母さん食堂」問題を 題材にジェンダー的固定観念について考える。
TV ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(2021 年 1 月放送)を題材に男性の育休について考え る。トランスジェンダーのアーティスト中村中 の作品「友達の詩」を題材に LGBTQ 当事者の 苦悩や社会の偏見について考える。これら 3 つ の小単元で、女性・男性・LGBTQ それぞれの 固定観念や偏見に気づくとともに、「自分には 何ができるかまで考える」と授業のねらいを設
定する発表であった。
<検討> 3 つの題材ともジェンダー問題を考 えるうえで有意義であり、公民科の学習として 効果的といえる。しかし、発表では、授業のね らいにある「自分には何ができるかまで考える」
に関しては明確には示されなかった。公民科に おける資質・能力の “ 第 3 の柱 ”(学びに向か う力、人間性)に、「よりよい社会の実現を視 野に、現代の諸課題を主体的に解決しようとす る態度を養う」との文言があるので、ジェンダー 的な偏見・差別に対して「主体的に解決しよう とする」ことを授業のねらいとして立てること は望ましい。しかし、今回のテーマに関しては、
公民科の授業の中で「主体的に解決」まで求め るのは難しいのではないだろうか。そこで、前 節で検討した資質・能力のあり方を踏まえると、
次のような指導計画を構想することができる。
まず、各教科・科目では、表 2 の資質・能力 の “ 第 1 の柱 ”(知識・技能)と “ 第 2 の柱 ”(思 考力・判断力・表現力)に焦点を当てる。たと
教科・科目 学習事項 “3 つの柱 ”
国語科 説得力ある文章の作成技法 思考・表現
地歴科
(日本史・世界史) 原爆投下に至る歴史的背景と経緯 知識・思考 公民科 核軍縮の国際的取り組み、日本国憲法の平和主義 知識・思考
数学科 統計の読み取りと作成 技能・思考・表現
理科(物理) 放射能について 知識・思考
保健体育科(保健) 原爆症(放射線障害)とその援護システム 知識・思考 芸術科(美術) スピーチに際して用いる効果的なポスターの制作 技能・表現 外国語科(英語) 英語スピーチの文章作成技法と発音等 思考・表現
表 3
えば、公民科では人権にかかわる知識の理解や ジェンダー的な固定観念に対して多面的・多角 的に考察し判断する力、保健体育科(保健)で は LGBTQ についての知識と考察、家庭科では 家庭内のジェンダー問題についての知識と考察 といった学習が考えられる。次に、「総合的な 探究の時間」では、その資質・能力の “ 第 3 の柱 ” に、「新たな価値を創造し、よりよい社会を実 現しようとする態度を養う」との文言があるの で、ジェンダー的偏見・差別を乗り越えた「新 たな価値」を創造し、そうした「よりよい社会 を実現」するための具体的な道筋を探究する。
こうして、公民科などの教科で学んだ知識等を 総合・活用して、「総合的な探究の時間」にお いて「自分には何ができるか」までを考えるこ とができるのではないだろうか。
(3)おわりに
本稿冒頭に引用した中村時雄は、社会科と総 合的な学習の「目標はそれぞれ別個に存在して いる」ため、「両者を安易に関連づけることに よって、どちらとも言えない学習が展開」する ことを危惧していた。ここで中村は「目標」と いう語を用いているが、当時は、今日の『学習 指導要領』でキーワードとなっている「資質・
能力」の用語はまだ登場していなかったため、
中村のいう「目標」は今日の「資質・能力」に 置き換えて読み解くことができる。すると、中 村の指摘は、社会科と総合的な学習の資質・能 力の違いに留意し、「安易に関連づけること」
がないような指導計画上の工夫が必要であると いうこととなる。さらに、社会科に限らず各教 科等と総合的な学習の関連の課題と読み替えれ
ば、先に紹介した中教審答申(2016 年 12 月)
があげる今後の課題
11とも符合する。
総合的な学習が発足して以来 20 年を経たが、
この課題はいまだ解決の途上にあるということ だろう。本稿では、石井の学力・能力論を手掛 かりに一つの試案を考察してみた。
1
山根栄次「社会科と『総合的な学習の時間』
との連携の可能性」『三重大学教育実践総 合センター紀要 第 21 号』2001 年、9 ~ 16 頁。なお、山根の指摘については別稿 で改めて考察することとする。
2
中村時雄「小学校社会科と総合的な学習」
『大阪信愛女学院短期大学紀要 第 38 集』
2004 年、1 ~ 6 頁
3
竹内久顕「ICT を活用した探究的な学習過 程の考察−『総合的な学習(探究)の時間』
に即して」『教職研究 第 35 号』立教大 学教職課程、2021 年
4
中央教育審議会『幼稚園、小学校、中学校、
高等学校及び特別支援学校の学習指導要 領等の改善及び必要な方策等について(答 申)』2016 年 12 月。引用箇所は、第 2 部の「第 2 章 各教科・科目等の内容の見直し」「17 総合的な学習の時間」。
5
2018 年告示の『高等学校学習指導要領』で
は、名称が「総合的な探究の時間」と改まっ
たため、本来「総合的な学習(探究)」と
表記すべきところだが、本稿では小中高合
わせて「総合的な学習」と略記する。ただ
し、特に高校について言及する時には「総
合的な探究」と記す。
6
ここに引用したものは『中学校学習指導要 領』だが、『高等学校学習指導要領』でも、
引用の(3)が(4)となっている点と、 「総 合的な学習の時間」が「総合的な探究の 時間」となっている点以外はほぼ同一で ある。
7
この問題については、次の拙稿で検討した ことがある。竹内久顕「コンフリクト解 決教育の視点から『資質・能力』を考える」
トランセンド研究会編『トランセンド研 究 第 14 巻第 2 号』2017 年 4 月
8
石井英真『今求められる学力と学びとは』
日本標準、2015 年、23 頁(表 3)
9
前掲書、22 ~ 25 頁
10
石井英真「コンピテンシー・ベースの社会 科カリキュラム・デザイン」『社会科教育 No.688』明治図書、2016 年 8 月号、36 ~ 39 頁
11