平成 21 年度
中東地域における廃水再生利用可能性調査報告書
平成 22 年 3 月
一般財団法人 造水促進センター
目 次
頁 1.緒言 --- 1.1 調査の目的 --- 1.2 調査の内容 --- 1.3 調査の方法 --- 1.4 調査対象国 ---
2.調査結果 ---4- 2.1 文献等調査結果 --- 2.1.1 カタール --- (1)国の概況 --- (2)水に関わる行政機関 --- (3)カタールにおけるZero liquid discharge(ZLD)--- (4)下水処理 --- 2.1.2 UAE(アラブ首長国連邦)--- (1)国の概況 --- (2)水に関わる行政機関 --- (3)UAEの水事情および海水淡水化 --- (4)ドバイにおける下水の再生利用 --- (5)ドバイにおけるMBRの大型案件 --- 2.2 海外現地調査結果 --- 2.3 日本企業の中東地域への進出 --- (1)最近の状況 --- (2)国内における海外進出のための取り組み ---
3.結言 --- 4.引用文献 ---
5.添付資料 --- 添付資料1 委員会議事録 --- 添付資料2 カタールおよび UAEの水・電力の組織 --- 添付資料3 海外訪問調査結果 --- 添付資料4 石油随伴水の処理関連資料 ---
1 1 1 1 2
4 4 4 4 6 8 10 12 12 13 15 18 19 20 21 21 24 31 33
35 37 43 75 85
英 文 略 語 集
英文略語 正式語 日本語の意味 頁
AADC Al Ain Distribution Company アルアイン供給公社 54
ADDC Abu Dhabi Distribution Company アブダビ供給公社 54
ADNOC Abu Dhabi National Oil Company アブダビ国営石油会社 55
ADWEC Abu Dhabi Water and Electricity Company
アブダビ水・電力会社 54
ADWER Abu Dhabi Water and Electricity Authority
アブダビ水・電力公社 54
AED Arab Emirates Dirham UAEの通貨単位(1AED=約25円) 67
AMPC Al Mirfa Power Company アルミルファ電力会社 54
APC Arabian Power Company アラビア電力会社 55
ATPC Al Taweelah Power Company アルタウィーラ電力会社 54
BOO Build, Own, Operate 所有者自身が建設、維持管理を行う方式 16
BOT Build, Operate, Transfer 建設し、一定期間運転したのち設備の管
理を移管する方式
6
BPC Bainounah Power Company バイヌナ電力会社 54
DEWA Dubai Electricity and Water Authority
ドバイ電力・水庁 56
ECPC Emirates CMS Power 首長国CMS電力会社 55
EPC Engineering, Procurement, Construction
設計、機器購入および建設 68
ERWDA Environmental Research and Wildlife Development Agency
環境調査・野生動物進化庁 55
FEWA Federal Electricity and Water Authority
連邦電力・水庁 57
GTTPC Gulf Total Tractebel Power Company 湾岸トタル・トラクテベル電力会社 55
IWP Independent Water Project 独立造水事業 69
IWPP Independent Water and Power Project 独立発電造水事業 6
Kahramaa Qatar General Electricity & Water Corporation
カタール電力・水公社 45
lpcd Litter per cubic meter per day 一人一日当たりの水使用量 49
MIGD Million Gallon per Day 1日当たりの水使用量の単位
(百万ガロン)、約4,500m3/日
6
PPP Public Private Partnership 官民パートナーシップ 58
PWA Public Works Authority 公共事業庁 45
PWPA Power and Water Purchase Agreement
電気および水の購入契約 45
QEWC Qatar Electricity & Water Co. カタール電力・水会社 45
QP Qatar Petroleum カタール石油 45
QR Qatar Riyal カタールの通貨単位(1QR=約25円) 6
RLPC Ras Laffan Power Co. Ltd. ラス・ラファン電力会社 45
SCIPCO Shuweihat CMS International Power Company
シュベイハトCMSインターナショナル 電力会社
55
SDD Sanitary Drainage Department 下水道局 55
SEWA Sharjah Electricity and Water Authority
シャルジャ電力・水庁 57
SPC Sewage Projects Committee 下水道プロジェクト委員会 55
Transco Abu Dhabi Transmission and Dispatch Company
アブダビ給水・送電会社 54
TSE Treated Sewage Effluent 下水処理放流水 45
UFW Unaccounted-for-water 漏水(料金に反映できない水) 66
UWEC Union Water and Electricity Company ユニオン水道電力会社 57
1 1.緒言
1.1 調査の目的
平成 20 年度に、財団法人 JKA(旧・(財)日本自転車振興会)の機械振興等補助事業 で「中東地域における海水淡水化需要調査」を行い、カタールとバーレーンにおける 海水淡水化の需要調査を行った。その調査の結果、中東諸国においては、海水淡水化 装置の新規建設を進める一方で、海水淡水化よりも省エネルギーである廃水再生利用 への要望も大きいことが明らかとなった。特に日本では近年浸漬膜を用いた下水処理 水の再利用やビル廃水の再利用が各地で行われているが、中東各国でも増大する水需 要に対して、浸漬膜を用いた廃水再利用で対応したいとの希望の強いことが明らかと なった。
浸漬膜による廃水処理技術は国内の水処理エンジニアリング会社が先駆的に開発し た技術であり、設備の中核をなす膜素材も国内の主要な化学会社により開発されたも のであることから、本技術の海外進出は国内の機械産業の振興に大いに寄与するもの と思われる。
こうしたことを背景に、本調査においては、中東諸国のなかでも近年産業発展の著 しいカタールと UAE(アラブ首長国連邦)をとりあげ、水需給の実態を調査するととも に、下水処理水等廃水再生利用の可能性を調査し、浸漬膜処理技術を用いた廃水再生 利用導入の可能性、日系水処理企業の進出の可能性を検討し、報告書にとりまとめる こととした。
1.2 調査の内容
調査内容としては下記のとおりである。
(1) 国外調査として、カタールと UAE を訪問し、それぞれの国における水需給の現状 を調査し、下水処理水等廃水再生利用の可能性を調査する。
(2) 国内調査として、近年急速に普及している膜技術を用いた再生利用設備のメーカ ーを訪問し、再生利用装置としての可能性に関する調査を行う。
(3) 浸漬膜を利用した再生利用の需要以外にも日本企業が進出できる水処理技術の 需要調査を行う。
(4) 調査を円滑に進めるために、学識経験者、中東の水事情に詳しい企業関係者から なる委員会を組織し、委員各位の意見を参考に調査を進める。調査期間中、2回程 度の委員会を開催する。
(5) 文献調査も行い、現地調査結果と合わせて報告書を作成する。
1.3 調査の方法
調査は、(財)造水促進センター職員が中心になって行った。また、委員会を組織し、委 員の意見を参考に調査を進めた。委員会の構成は以下のとおりである。
2
平成 21 年度中東地域における廃水再生利用可能性調査委員会
氏 名 所属・役職
委員長 松本幹治 横浜国立大学大学院工学研究院 教授
委員 大熊那夫紀 ㈱日立プラントテクノロジー環境エンジニアリング事業部副事業部長 委員 岡崎陽介 (財)中東協力センター 参事
委員 芝谷 清 東レ㈱水処理システム事業部 水処理システム課長 委員 本堀俊彦 ㈱クボタ 膜システム営業部海外営業第 2 グループ長
委員 吉田俊明 旭化成ケミカルズ㈱膜・水処理事業部 マイクローザ営業第一部部長 事務局 秋谷鷹二 (財)造水促進センター 常務理事
事務局 長澤末男 (財)造水促進センター 国際協力部長
事務局 菅野健夫 (財)造水促進センター 国際協力部 主任研究員 事務局 小池壯一郎 (財)造水促進センター 水処理技術部 首席研究員
委員会は、平成 21 年 8 月 21 日(金)と平成 22 年 3 月 11 日(木)の 2 回行った。会議 の議事録は添付資料1に掲載している。
1.4 調査対象国
調査対象国としては、近年経済発展の盛んなカタールと UAE をとりあげることとした。
これらの国では、経済発展に伴い水の需要も増大し、廃水再生利用の需要も多いと思われ たためである。
カタールと UAEの位置を図1.1に示す。
3
図1.1 調査対象地域の位置図1) 2)
4 2.調査結果
2.1 文献等調査結果 2.1.1 カタール
(1)国の概況 3)4)
カタール国の基本データは以下のとおりである。
面積:11,437km2
人口:1,400,000人(2008年)
国内総生産(GDP):1,023億ドル(2008年)(世界55位)
1人当たりGDP:85,000ドル(2008年)(世界64位)
日本とカタールの貿易バランスは表 2.1のとおりである。
表 2.1 カタールと日本の貿易バランス(単位:100万 ドル4) 日本の輸出 日本の輸入 バランス
2003 473 6,496 △6,023
2004 592 7,876 △7,284
2005 994 10,687 △9,693
カタールはアラビア半島東部のカタール半島のほぼ全域を領土とする半島の国であり、
アラビア湾に面している。南はサウジアラビアと接し、北西はアラビア湾を挟んでバーレ ーンに面している。
石油と天然ガスに依存する経済体制で、輸出の大半が石油・天然ガス及びその関連製品 で占められている。インド、パキスタン、イランなどからの外国人労働者が、カタール国 籍を持つ総人口より多く、外国人労働者に労働力を大きく依存している。
既存の工業都市は、「メサイード工業都市」、「ラスラファン工業都市」、「ドハーン石油都 市」の3市、工業団地としては「ドーハ工業団地」がある 3)。
工業では、石油精製、石油化学が最も規模が大きく、次が鉄鋼業である。その他の工業 はあまり発達しておらず、食肉加工、窒素肥料の製造、セメント製造などが小規模に営ま れている段階である。輸出に占める工業製品の割合は 2002年の段階で石油製品6.7%、プ ラスチック3.1%、鉄鋼 2.8%となっている。
カタールにおける主要な製造企業を表 2.2に示す5)。 また、カタールの主要都市の位置を図 2.1に示す5)。
5
表2.2 カタールにおける主要操業会社5)
会社名 生産品 工業地区
Qatar Petroleum NGL メサイード
Qatar Petroleum Refining LPG, 同
Qatar Petrochemical Co. エチレン、ポリエチレン、硫黄 同
Qatar Fertilizer Co. アンモニア、尿素 同
Qatar Chemical Co. ポリエチレン、ヘキサン 同
Qatar Fuel Additives Co. メタノール、MTBE 同
Qatar Vinyl Co. ニ塩化エチレン、塩化ビニール 同
Qatar Steel Co. 建築用棒鋼 同
Qatar Plastic Product Co. プラスチックバッグ、シート 同
Qatar Lubricants Co. 潤滑油 同
Qatar National Navigation Transport Co. 船舶修理業 同
Qatar Liquefied Gas Co. LNG ラスラファン
Ras Raffan Liquefied Natural Gas Co. LNG 同
Qatar Petroleum 原油、コンデンセート、NGL ドハーン
図2.2 カタールの主要都市位置図5)
6
(2)水に関わる行政機関 6)
カタールの水に関わる行政機関に関する資料を添付資料 2に掲載している。
カタールの年降水量は 50mm 前後(日本は 1,700mm)であるため、降雨に頼った農業 は不可能である。しかしながら灌漑などを利用した農業が営まれているが、農地面積は国
土の 0.7%(日本は12%)にすぎない。
カタールの水の料金は、1m3当たり4.40QR(約130 円)である。
カタールでの電気と水のほとんどは、ラス・アブーアブドとラス・アブフォンタス A お よび Bの発電・造水プラント、アル・サイリーヤ、アル・ワジュバ、ドーハ・サウスの各 発電プラント、およびドハーン造水プラントなどによって生産されている。
カタールでは、従来、発電・海水淡水化プラントの計画および操業を、電気・水省が担 当していたが、非効率な運営を改善するために、1999 年 1 月に、電気・水省はエネルギ ー・工業省に統合されるとともに、実質的な業務は 2000 年に設立された政府系独立機関 で あ る 「 カ タ ー ル 電 気 ・ 水 公 社 (Qatar General Electricity & Water Corporation: Kaharamaa)に引き継 がれた。今後の海水淡 水化プロジェクトの計 画立案の実施機関は Kaharamaaである。
カタールでの電力・水に関わる現在の組織体制は図 2.1に示すとおりである。
Kaharamaa はエネルギー・工業省からの委託を受けて、発電・造水プラントの設備計
画を作成し、実行している。Kaharamaa は配電網と水供給網を保有し、カタール国内に 電気と水を供給している。また、Kaharamaaは、QEWC(Qatar Electricity and Water Co.)
およびIWPP(Independent Water & Power Producing Company)から、電力・水を購 入するカタールで唯一の購入者の役割を務めている。
QEWC は、1990年に設立された民間資本57%の民間企業であり、発電プラントと淡水 化プラントの保有と運転を行い、電気と水を生産する会社である。
2001年5月に、新ラスラファン工業都市に建設されたコジェネレーション方式の発電・
造 水 プ ラ ン ト(750MW,40MIGD)の 開 発 ・ 操 業 プ ロ ジ ェ ク ト に 対 し 、 カ タ ー ル 初 の BOT(Build, Operate, Transfer)プロジェクトが成立し独立発電・造水会社(Independent Water & Power Producing Company:IWPP)が契約を獲得した。Kaharamaaは長期契約 に基づき IWPPから電気と水を購入するバイヤーとなった。
カタールにおける電気と水に関する現在の組織図を、図 2.2に示す。
7
図2.2 カタールの電気・水に関する現在の組織図
カタールにおける水需要量は、2001年から2005年においては年平均 5.06%の割合で増 加していたが、2006年には11%の増加を示した。その状況を図2.3に示す。
2001 02 03 04 05 06 年
図 2.3 カタールにおける水需要量の増加率の推移 7)
また、カタールにおける淡水化による生産水量(供給量)および要求量(需要量)の推 エネルギー・工業省
Kaharamaa
(Qatar General Electricity & Water Corporation)
QEWC
(Qatar Electricity Water Co.)
1990年に民間資本57%で発足
1998年にRas Abu Fontas B プラント 操業を電気・水省から引継ぐ
2002年にRas Abu Fontas A プラント をKaharamaaから取得する
IWPP
Ras Rafan 工業地域に建設された 発 電 ・ 造 水 プ ラ ン ト の 開 発 ・ 操 業 の BOTプロジェクトを実施
(1999年に電気・水省を統合)
2000年より設備計画の実行、
発 電 ・ 造 水 プ ラ ン ト の 操 業 を
長期契約で電力・水を購入 電力・水の購入
12 10 8 6 4 2 0 水需要量の増加率(%)
8 移を図2.4 に示す。
2009年のRAF-A1(Ras Abu Fontus A1)の建設および2010年のFacilityCの建設により、
一時供給量に余裕ができるが、2014 年には需要量と供給量が均衡し、2015 年以降は需要 量が供給量を上回るという予測が示されている。
Facility C:Las Raffan C, RAF A1:Ras Abu Fontus A1, RLA:Ras Laffan A Rafasat & B:不明
図 2.4 カタールにおける海水淡水化生産水量と要求量(需要量)7)
(3)カタールにおける Zero Liquid Discharge(ZLD)8)
カタール政府は、近い将来国内の全企業に Zero Liquid Discharge(ZLD)を実施させる予 定である、という情報がある。ZLDは以前から使われていた言葉であり、日本国内でも付 近の住民との取り決めや、付近に河川がないからという理由で、ZLDを実施している工場 が数社存在している。
ZLDは、単に廃水を敷地外に排出しない、ということであり、一般に廃水再利用とは異 なるところを出発点としているが、水を使用している工場にとっては ZLD を実施するた めには、廃水再利用は最も必要な技術であると考えられる。
ZLDのための水のクローズドシステムの例を図2.58)に示す。
ZLD を実施するためには、膜プロセスと熱処理プロセスの両方を考慮する必要がある。
膜プロセスには MF(Microfiltration)と RO(Reverse Osmosis)の2つのプロセスが含 まれる。MF は数ミクロンの大きさの粒子を分離するものであり、RO は食塩など水に溶 解しているイオンを分離するものである。また、ZLDにおける熱処理プロセスには、蒸発 装置(Evaporator)や結晶化装置(Crystallizer)および乾燥機(Dryer)等が含まれる。
Future Demand
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 Year
km3/d
Facility C RAF A1 RAF B2 RL B RL A Rafasat & B
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
要求量
9
どちらのプロセスにおいても、分離された水はできる限り再利用される。しかしながら、
塩分濃度の高くなった廃液や、汚濁度の高くなった廃液は、ZLDにおいては結晶化される ことになる。
図 2.5に示すとおり、ZLDの最初のプロセスでは再利用水は冷却塔の補給水として再利 用される。冷却塔への利用はあまりコストはかからないために、再利用は受け入れられや すい。また、塩分濃度も高くない場合には RO処理してプロセス用水やボイラー用水に再 利用することも可能である。ただし RO 処理をするとコストはアップする。また、RO に おいては回収率は 60%から80%のであり、残り(濃縮水)は他の水と混合して再利用する か、蒸発機でさらに蒸発濃縮させる。
蒸発濃縮させた濃縮液は蒸発池で自然蒸発させるか、結晶化装置で固形物にし、廃棄物 として排出する。
Surface condenser
Make up
Salt solids
Dry cake solids
HRSG: Heat recovery steam generator BF: Boiler feed
Source: Degremont Co.
図 2.5 Zero Liquid Discharge の一般的廃水処理フロー
カタールで ZLD を実施する目的は、政府が環境問題に積極的に取り組んでいることを 対外的にアピールすることが本当の理由のようであるが、海水淡水化の濃縮水はどうする のか、サウジアラビアや UAE など他の湾岸諸国が実施しないのに、カタールのみ実施し て国益を損ねることにはつながらないのか等、現時点では多くの疑問点があることに加え、
HRSG blow-down BF make-up Waste
Plant Wastewater sump Cooling
tower
Sidestream clarifier
Sludge press
Pressure filter
Reverse osmosis
Brine
concentrator Crystallizer
10
この国では法律は作るが罰則はないという情報もあり、ZLDが現実的にどこまで実用化さ れるのか今後注視していく必要がある。
また、現在、カタール石油メサイード精油所で行われている総合廃水処理フローを図 2.6 に示す。活性汚泥処理水をさらに砂ろ過、活性炭吸着を行った後、電気透析で脱塩してい る。電気透析での回収率は 70%であり、処理水は冷却塔の補給水として再利用されている。
30%の濃縮水は現在、海に放流しているが、ZLDが実施されると海に捨てられなくなるた
め、これをどうするか、当工場では現在検討中である。
現在すでに 70%の回収を実施しているとの話であるが、実際には電気透析膜の目詰まり により、膜の洗浄頻度が高く 70%の回収は行われていない模様である。
総合廃水
図 2.6 カタール石油メサイード精油所の廃水処理フロー
いずれにせよ、図 2.5に示すとおり、ZLDが実施された場合には、廃水再利用を進める 必要があり、その場合には膜処理が有力な手段となることが予想される。
(4)下水処理
カタールにおける下水処理の調査として、ドハーン下水処理場を訪問した。
処理フローを図 2.7に示す。
原水は、タンクローリーで運ばれてくる。
処理には薬品は使用していない。pH調整はせずに、高pH(8以上)および低pH(6以下)
の水は、処理施設には送らず、蒸発池に放流する。
処理水の水質は、表に示すとおり比較的よい水質である。処理水は散水用に利用してい る。この送水にもタンクローリーが利用されている。
曝気槽の運転はバッチ処理であるが、運転は 24時間運転である。
調整槽 曝気槽
沈殿槽
砂ろ過 活性炭吸着
電気透析
処理水(70%) 冷 却 塔 へ 再 利
濃 縮 水 (30%)
11
原水および処理水の水質
原 水 処理水
pH 6.1-7.9 6.1-7.9
SS(NTU) 200 1.0
COD(mg/l) 300-400 20-40
BOD(mg/l) 150-200 1-2
図 2.7 ドハーン下水処理場の処理フローと水質
なお、2008 年 8 月の日本経済新聞に、丸紅㈱がカタールの下水処理関連設備の工事を 400 億円で受注したという記事が掲載された。発注元はカタール公共事業省であり、現在 同省がドーハ市の北側郊外に日量 44 万 m3の下水処理施設を建設中であり、丸紅は 2011 年までに市内の廃水を同施設に送るためのポンプと送水管、および処理水を灌漑用に市内 に戻す送水管の敷設工事を請負うものである。処理施設は、完成するとドーハ市の人口の 約 6 割に当たる 90 万人分の生活排水を処理できる中東最大の下水処理網になるというこ とである。
中東における水関連のインフラ整備の需要は、これまで造水施設と水道網の整備が先行 してきたが、今後は下水処理にも需要が広がるものとみられる。
受水槽 曝気槽 処 理 水槽
連続砂ろ過 紫外線殺菌
処理水 散水用 貯水槽 2,500-2,900m3/d
原水
12 2.1.2 UAE(アラブ首長国連邦)
(1)国の概況 3) 4)
UAEの基本データは以下のとおりである。
面積:83,600km2 (日本の 0.22倍)
人口:4,320,000人(2004年の推定)
国内総生産(GDP):1,031億ドル(2004年) 1人当たりGDP:23,900ドル(2004年)
GDP の産業別構成(2004 年):製造業(13.1%)、石油(32.5%)、商業(10.2%)、運輸通 信(7.2%)、不動産(7.8%)
UAEと日本の貿易バランスは表2.3のとおりである。
表2.3 UAEと日本の貿易バランス(単位:100万ドル)4) 日本の輸出 日本の輸入 バランス
2003年 3,622 14,276 △10,654
2004年 4,605 18,320 △13,715
2005年 4,869 25,312 △20,443
現在の UAEの基礎となる首長国は17 世紀から18世紀頃にアラビア半島南部から移住 してきたアラブの部族によってそれぞれ形成された。18 世紀から19 世紀にかけては、こ の地域の人々は海上勢力としてアラビア湾を航行するヨーロッパ勢力と対立し「アラブの 海賊」として恐れられた。それに対してイギリスはインドへの航路を守るために 1819 年 に海賊退治に乗り出し、1820 年にこの地域の海賊勢力と休戦協定を結んだ。それにより、
この地域は一時休戦海岸と呼ばれた。その後 1892 年までにすべての首長国がイギリスの 保護下におかれた 3)。
1971年のイギリスの撤退に伴い、アブダビ、ドバイ、シャルジャ、アジュマン、ウルム・
アル・カイワン、フジャイラの各首長国が集合して連邦を建国した。翌 1972 年ラス・ア ル・ハイマが加入して現在の7首長国による連邦の体制が確立した。
各首長国の国名は、それぞれの首都となる都市の名前に由来しており、最大の国である アブダビ首長国の首都のアブダビが、連邦全体の首都として機能している。近年は、外国 資本の流入によるドバイの急激な発展によって、政治のアブダビ、経済のドバイと言われ るようになってきている。
各首長国別の人口および面積を表 2.4に示す。
13
表2.4 UAEの各首長国別人口(2008年) 首長国名 人口(千人)
アブダビ 897
ドバイ 1,771
シャルジャ 846
アジュマン 373
ウルム・アル・カイワン 70
フジャイラ 108
ラス・アル・ハイマ 172
合計 4,237
住民は、在来のアラブ人からなる UAEの国民は全体の19%を占めるにすぎない。その 他は外国籍の住民であり、他のアラブ諸国から来た人々や、イラン人、南アジア系、東南 アジア系、欧米系、東アジア系の人々などがいる。
GDP の約 40%が石油と天然ガスで占められ、日本がその最大の輸出先である。原油確
認埋蔵量は世界 5位の約 980億バレルであり、天然ガスの確認埋蔵量は6兆600 億m3で あり、世界の 3.5%を占めている。近年は、産業の多角化を進め、石油などの天然資源の掘 削に対する経済依存度を低め、東南アジアにおける香港やシンガポールのような中東にお ける金融と流通、観光の一大拠点となることを目標にしている。1981年にドバイに設立さ れたジュベル・アリ・フリーゾーン(JAFZ)には、外国企業への優遇制度があるため、
近年、各国からのドバイへの進出が急増して、物流の拠点となっている。
UAE進出の邦人企業も、近年ドバイを中心に急増している。2005年5月末現在176 社 に上がり、そのうち約半数が、ドバイの JAFZに集中している。最近の日本企業の大型案 件受注例は、大成建設のドバイ、パームアイランドの海底トンネル建設約 120億円、日揮・
丸紅連合のアブダビ独立発電・海水淡水化事業約 30 億ドル、三菱商事ら 5 社企業連合の ドバイ鉄道事業約 34億ドルなどがある。
(2)水に関わる行政機関 9)
UAEの水に関わる行政機関に関する資料を添付資料 2に掲載している。
ADWEA(アブダビ水・電力公社:Abu Dhabi Water and Electricity Authority)は、
政府の水資源政策を履行する機関である。国が保有する公社であり、商業ベースで運営さ れている。1996年に民営化された。
1998年に制定された法律 No.2により、ADWEAに規制と監督の権限を持つ部署(RSB: Regulation and Supervision Bureau)を設置することが規定された。また、新たに4つ の会社(ADWEC、Transco、ADDC および AADC)と4つの「水と発電」の会社を作る ことを決めるとともに、従来の水電気部門を廃止した。
2005年に制定された法律 No.17はADWERの役割をさらに拡大し、アブダビとアルア イン市の公共下水道と廃水処理の施設とその維持管理を ADWER に移管することを規定
14
し た 。 そ の 法 律 に 基 づ き ADWER は 、100%子 会 社 の ADSSC(Abu Dhabi Sewerage Services Company)を設立した。
アブダビにおける水道・電力部門の構成図を図 2.8に示す。
Procurer Transmission
Distributer
図2.8 アブダビ水道・電力部門の構造
2005 年 9 月に ADWER は新しい Holding Company(TAQA:Abu Dhabi National
Energy Company)を設立し、IWPPの所有権60%のうちの90%をTAQAに移管した。
TAQAはアブダビ証券取引所に上場された。
ADWEA の民営化は、以下の5項目を目的として発足したものである。
1) 水と電力の供給を安全かつ確実に行うこと。
2) サービスを向上させるとともに経済効率を追求すること。
3) 国内の投下資本と海外の投下資本の参画を促すこと。
4) UAEの国民に雇用とトレ-ニングの機会を増やすこと。
5) UAE政府が建設した設備を用いて最大限の税収を得ること。
ADWEA Regulation & Supervision Bureau
Al Taweelah Power Co. Shuweihat CMS
International Power Co.
Emirates CMS Power Co.
Al Mirfa Power Co.
Bainounah Power Co. Arabian Power Co. Gulf Total Tractebel Power Co.
ADWEC
Single Buyer/Seller of Water & Electricity
Transco
(Abu Dhabi Transmission Co.)
Abu Dhabi Distribution Company
Al Ain Distribution Company
15
(3)UAEの水事情および海水淡水化 2)
UAE は水需要の多くを蒸発法による海水淡水化で賄い、一部を地下水に依存している。
表 2.6 に示すとおり、近年では RO による大型の淡水化設備も建設されるようになってい るが、現在のところは蒸発法による淡水化施設が飲料水の主力である。2003年の全生産水
量は約 2,164 億ガロン(9.7億 m3)であった。大型海水淡水化プラントは、アブダビ国内の
ウンム・アル・ナール、タウィーラおよびドバイ国内のジュベール・アリに集中している。
海水淡水化による造水量はサウジアラビアに次いで世界第 2位にランクされている。
大型海水淡水化プラントは IWPP(Independent Water & Power Project:独立発電造 水事業)として行われている。IWPPの契約形態(組織構造)を図2.9に示す。
図2.9 UAEにおけるIWPPの構成機関
UAEにおけるIWPP(Independent Water & Power Project:独立発電造水事業)の位 置を図2.10に示す。
ADWEA
IWPP Proejct Company
(Private Joint Stock Company) EPC
Contractor
Consultant
60%
Local Holding Company
40%
100%
ADWEC
TRANSCO Lenders
ADWEA
ADWEA (on behalf of
Govt.) Lump sum Turkey
Agreement
Land Lease Agreement Shareholder
Agreement
PWPA
Facility Agreement Foreign Holding
Company
Strategic Investor (Bidder)
O&M Contractor
Long Term Maintenance
Contractor
100%
Insurer
ADNOC O&M Contract
LTS Agreement
Owners' Engineer Contract Insurance Policy
Shared Facilities Co.
(SFCo)
Other Project Companies
on site Connection Agreement
SF S hareh
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ent
Direct Agreements Security Assignments
Shared Fac.
Land Lease
Credit Support Fuel Supply
Agreement
- Commercial Tranche - Islamic Trance
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17 ①事業形態:20年間の IWPP方式、
②電力と水の販売先:アブダビ水電力会社(ADWEA)
③出資比率:丸紅・日揮連合が 40%、ADWEAが60%を出資 ④完成時期:2008年7月(一部事業開始2005年4月)
⑤総事業費:30億ドル(約 3,300億円)
総事業費のうち 20億ドルを国際協力銀行(JBIC)及び国際商業銀行団(8 カ国より 15行が参画)。
国際協力銀行は 12億ドルの融資を供与。
国際協力銀行のプロジェクトファイナンス案件での融資額では、過去最大級 ⑥発電規模:100 万kW+100万 kW
⑦造水施設規模:45万 m³/日+30万m³/日(新規分)
⑧淡水化方式:MSF
⑨淡水化プラントメーカー:Fisia Italimpianti 社
表 2.6に、UAEにおける脱塩設備の一覧を示す。かつては蒸発法が主流であったが、近 年は ROによる脱塩設備も増えてきていることがうかがわれる。
表 2.6 UAEにおける脱塩設備一覧 11) No. プラント
設置場所
生産水量 (m3/日)
方式 原水 プラント 建設会社
1 Abu Dhabi 400 RO Seawater AquaTreat
2 Abu Dhabi 400 RO Seawater AquaTreat
3 Abu Dhabi 1,000 RO Seawater Metito
4 Abu Dhabi 15,152 RO Seawater
5 Abu Dhabi 15,152 RO Seawater
6 Ajman 27,250 RO Seawater Aqua Eng.
7 Ajman 1,135 RO Seawater Corodex Ind.
8 Dubai 240 RO Seawater Aqua EPC
9 Dubai 960 RO Seawater Aqua EPC
10 Dubai 960 RO Seawater Aqua EPC
11 Dubai 180 RO Seawater Corodex Ind.
12 Dubai 23,000 RO Seawater GE Water
13 Dubai 30 RO Seawater ITT Aquious
14 Dubai 30 RO Seawater ITT Aquious
15 Dubai 2,300 RO Brackish Water Metito
16 Dubai 18,000 RO Brackish Water Metito
17 Dubai 20,000 RO Seawater Metito
18 Falcon 120 RO Brackish Water Aqua EPC
19 Falcon 120 RO Brackish Water Aqua EPC
18
20 Hamriah 1,440 RO Seawater Grundfos
21 Hamriah 91,000 RO Seawater Aqua Eng
22 Jebel Ali 159,110 MSF Seawater Fisia Itali 23 Jebel Ali 159,110 MSF Seawater Fisia Itali
24 Kalba 318,220 MSF Seawater Fisia Itali
25 Kalba 34,000 Hybrid Seawater CH2M Hill
26 Qidfa 136,260 RO Seawater OTV
27 Qidfa 454,200 MED Pure Water VWS Sidem
28 Ras Al Khaimah 22,000 RO Seawater Aqualyng
29 Sharjah 150 RO Seawater
30 UAE 114 RO Seawater Corodex Ind
31 UAE 500 RO Seawater Corodex Ind
32 151 RO Seawater
33 151 RO Seawater
34 38,875 RO Seawater
35 38,877 RO Seawater
計 1,580,587
出典:IDA:Desalination Year book, 2008-2009
アブダビでは生産水のほとんどが家庭、緑化、農業用として消費されている。1980年代 から、1990 年代半ばまでの間、アブダビの水需要は1桁台の増加率であったが、1996 年 からは 2 桁台の伸びとなっている。需要増に伴い、造水プラントの能力は年々増強され、
1970年の 400万ガロン/日(1.8万 m3/日)が、2003年には 4億4,900 万ガロン/日(201
万 m3/日)まで拡大されている(出典が異なるために、表 2.6の合計値と異なっている)。
また、送水パイプラインとポンプ・ステーションの増設工事も行われ、パイプラインの
総延長は 1,300km(2003年)となり、ポンプ・ステーション数は 34(2003年)にそれぞ
れ増加し、これによって、ポンプ・ステーションの能力は 12 億 4,500万ガロン/日(55.8
万 m3/日)に拡大されている。
これら海水淡水化施設の拡充に加え、地下水の有効利用のため、水資源の管理・開発、
既存の水井戸の調査や新規掘削などが行われているほか、貯水用ダムも建設されている。
(4)ドバイにおける下水の再生利用
ドバイには現在2か所に下水処理場があるが、うち1か所は最近稼働したばかりであり、
約 20年のあいだ、アウィール下水処理場1か所で生活廃水の処理が行われてきた。
アウィール下水処理場の設計上の処理能力は 260,000m3/日であるが、多い時には設計 基準の倍近い 480,000m3 の生活廃水を処理することもあったようである。処理水の管理
水質は BOD:10mg/l 以下、SS:10mg/l 以下となっており、処理水量の多い時にも、この
基準値は守られてきているようである。
処理方式は
19
スクリーン 脱臭処理(NaOH) 活性汚泥 沈殿池 砂ろ過 塩素滅菌 放流(再利用)
であり、処理水の大部分は下水処理水再利用施設に送られ、そこから市内の緑化や地域冷 房施設に送られ再利用されている。
また、沈殿汚泥は、嫌気性硝化、遠心脱水、乾燥の工程で処理され、乾燥汚泥は一部肥 料として利用されている。
下水処理水が地域冷房用に再利用されている状況は、アブダビでも同じ状況であるとの ことであるので、UAE ではかなりの割合で下水処理水が再利用されていると考えられる。
下水処理水の再利用先は、日本ではビルのトイレフラッシュに使われることが多いが、ド バイでは地域冷房用と市内の緑化用に利用されるというところが、日本と異なっている。
アウィール下水処理場の訪問結果は添付資料3に掲載している。
(5)ドバイにおける MBRの大型案件12)
公表された資料によると、ドバイにおいて MBR が導入されているケースは表 2.7 に示 す通りである。UAEの他の首長国においてもMBRが導入されているケースは多くあると のことである。
表2.7 ドバイにおけるMBR大型案件
プロジェクト名称 処理量 (m3/d)
コントラクタ ー
膜メーカー 稼働時期
Palm Jumeirah 17,000 Veolia ノリット/クボ
タ
08年
Dubai Sports City 25,000 Eagle ゼノン 08年
International City 110,000 Metito クボタ/東レ 07年一部稼働 Jumeirah Golf Estate 220,000 Degremont ? 10年
Jebel Ali Free Zone 140,000 Metito クボタ/東レ 07年一部稼働
Palm Jebel Ali 220,000 (未定) 未定 10年
Palm Deira 50,000 (Corodex) ? 10年
表 2.7に示したMBRの納入事例では、今までは、高度処理として下水処理水を砂ろ過、
塩素滅菌処理をして散水等に再利用していたが、近年、ユーザーがさらに高度な処理水質 を希望するようになり MBR の設置が要望されるようになったものと思われる。生活レベ ルの向上とともに、処理水質の向上も要求されるので、MBR の要求は今後も続くものと 思われる。
しかしながら、MBR はあくまで活性汚泥と一体のものであるので、現在すでに下水処 理施設が完備されているところにおいては、MBR ではなく、加圧式の MF 処理でも十分 利用可能であり、こちらのほうがコスト的には有利であると思われる。
20 2.2 海外現地調査結果
海外現地調査は以下のとおり行った。
第 1回目
時 期:平成 21年9月27日(日)~10月1日(木)
訪問先:カタール
1)ドハーン下水処理場 2)カタール石油本社 3)カタール大学 第 2回目
時 期:平成 22年1月31日(日)~2月5日(金)
訪問先:ドバイ
1)㈱日立プラントテクノロジー ドバイ支店 2)アウィール下水処理場
3)下水再生水供給施設 4)再生水地区循環処理施設 カタール
1)カタール石油ドハーン石油基地
調査結果の詳細については、添付資料3に示した出張報告書を参照されたい。
第 1回現地調査においては、カタール国内をまわることとし、ドハーン下水処理場 で、
カタールにおける下水処理の状況を調査した。ドハーンは地方の都市であり、当地の下水 処理場がカタールの代表的な下水処理場ではないが、ここを訪問することで、カタールの 他の一般的な処理場における廃水処理状況、処理水の再利用の様子などがわかるものと思 われた。また、カタールでは、近い将来、工場に対してゼロエミッションが施行されると いう情報があるため、カタール石油とカタール大学を訪問し、ゼロエミッションに対する 情報収集を行うとともに、対応策についての情報収集を行った。
第 2回現地調査においては、ドバイを中心に訪問した。ドバイでは㈱日立プラントテク ノロジーが数年前から事務所を構え、レーバーキャンプの生活廃水の処理・再利用の事業 を行っており、最近ではさらに事業の拡大が図られているとの情報があったため、同社の ドバイ事務所を訪問するとともに、同社のご尽力によりアウィール下水処理場、下水再生 水供給施設および同社の地区循環処理施設を見学させていただいた。また、同社からアブ ダビの環境局の訪問もお願いしていたが、先方のアポイントメントがとれなかったために、
アブダビの訪問はとりやめた。
第 2回訪問調査の直前に、カタール石油のドハーン石油基地から石油随伴水の再利用に 関する技術相談があったため、ドバイからカタールに移動し、ドハーンの石油基地を訪問 した。石油随伴水の処理に関する技術資料は添付資料4に掲載している。
21 2.3 日本企業の中東地域への進出
(1)最近の状況
JETROから発表されたデータによれば、現在 UAEには351 社の日系企業が進出してお
り、約 3,500 人の在留邦人が滞在しているとのことである。また、JETRO リヤド事務所
の資料によれば、31社の日本・サウジアラビア合弁企業が活動しているとのことである。
こうした流れを受けて水処理各社も海外で攻勢を強めている、という新聞記事も出され
ている 13) 14)。記事の一部を表2.8に示す。また、関連する新聞記事等は一括して添付資料
5に掲載している。
表 2.8 日本企業の中東での水事業強化の動き 14)
会社名 活 動 内 容
㈱日立プラントテクノロ ジー UAEで現地企業と合弁で水処理事業に参入 日立造船㈱ UAEに支店を開設
㈱ササクラ バーレーンにエンジニアリングセンター開設 東洋紡㈱ サウジアラビアで淡水化用逆浸透膜を受注 東レ㈱ UAEで水処理膜受注
日東電工㈱ サウジアラビアで淡水化用逆浸透膜を受注 丸紅㈱ カタールで下水処理施設向けの送水管など建設
とくに、原油高を背景に経済成長と人口の増大が続くアラビア湾沿岸の産油国では水や 電力の供給能力増強が急務になっており、相次ぐ大型プロジェクトにプラントや素材技術 に強みを持つ日本企業の商機が広がる一方、巨大市場への参入を急ぐ欧米勢との競争も激 しさを増している、といわれている。
水道、海水淡水化、下水の処理・再利用などを含む世界の水ビジネスの市場規模は 2005 年の 60兆円から2025年には100兆円に拡大すると予測されている。水ビジネスの事業分 野は、契約・資金調達、部材供給、EPC(設計・調達・建設)、運営・管理(運転管理、
メンテナンス、顧客管理)など多岐にわたる。しかしながら、こうしたなかで世界全体か らみた日本企業の存在感は残念ながら薄いということが言われて久しい。部材供給部門で は膜やポンプで高い競争力を有するが、EPC(設計・調達・建設)部門では海外企業に対 し、価格競争力に劣ることから、受注は低水準にとどまる。また、市場規模が大きい運営・
管理部門では、我が国の体制が維持管理は官の業務であったために民間企業の国内での実 績が乏しく、それがそのまま海外での実績の乏しいことにつながっている。
水ビジネスでは、プラント建設から運営・管理まで一括して受注できる体制を構築する ことが求められている。中東諸国での海水淡水化事業においても、プラント価格ではなく プラントで作られる水単価を入札基準とすることが多い。これは今後下水再利用の分野で もこうした方式に変わっていくかもしれない。入札後の流れは、元請企業が受注後にエン ジニアリング企業へ発注、さらにエンジニアリング企業が部材メーカーへ発注を行う。水 ビジネスでは運営・管理部門で寡占化を進める欧米企業が強い主導権を有するため、プラ
22
ントメーカーや部材メーカーは厳しい競争環境に晒されることになる。
サウジアラビアにおいて、日本企業がサウジアラビアの企業と合弁企業を形成している 事例の一覧を表 2.9 に示す。企業数は 31 社であるが、このうち水に特化した企業は以下 の 3社であると思われる。
1) Arabian Company and Sasakura for Water & Power
海水淡水化プラント改修工事請負、新規プラント建設、保守用部品供給
2) Xenesys Arabia Co., Ltd.
排水温度差発電・淡水化システムの販売 3) Suido Kiko Middle East
廃水処理プラントのエンジニアリング
これらのなかで、ササクラの合弁企業(上記 1))は、中東諸国において 20 年以上前に 建設された海水淡水化設備のリハビリを中心に業務を行っている。
また、水道機工㈱の合弁企業(上記 3))は、現在、おもにサウジアラビアにおいてMBR を利用した下水処理水の再利用設備を売り込んでいる。サウジアラビアでは、下水処理施 設が未だ完備されていないため、下水処理を必要としている機関に対し、設備がコンパク トで維持管理が容易な MBR の利点を前面に出して販売を進めているとのことである。そ れほど大規模な設備ではなく、現地の中堅の設備建設会社が受注するレベルの設備を、現 地企業と競争して受注している。サウジアラビアでは、処理水は必ず灌漑等に再利用する ために必ず 3 次処理設備(砂ろ過)を必要とするが、MBR を用いれば一般的な下水処理 で必要とされる沈殿地に加え砂ろ過も不要となるため、機器としてはかなりコンパクトに なるという利点がある。同社は、以前アブダビでも MBR を受注したことがあるが、現在 はアブダビでの業務は休止状態にある。
この他に、水処理のエンジニアリング会社で、中近東で合弁企業を形成している企業と してはドバイに進出している㈱日立プラントテクノロジーがある。同社は、3,4年ほど前 のドバイの建設ラッシュ時にレーバーキャンプの生活排水の処理および再利用をてがけて 以来、ドバイを拠点に下水の再利用等の事業で規模を拡大している。同社の状況は添付資 料3を参照されたい。
水道機工㈱と㈱日立プラントテクノロジー㈱が、公示の出た案件に対して競争入札に参 加して、その結果プラント建設を受注するのに対し、ゼネシス社(上記 2))の場合は、同 社の開発した技術である「排水温度差発電・淡水化システム」を、希望する企業等を探し て紹介するという形の営業を行っている。
また、㈱クボタは、ドバイに支店を開設して MBRの膜売りの業務を行っている。
23
表 2.9 日本・サウジアラビア合弁企業一覧
24
(2)国内における海外進出のための取り組み
上記のような日本企業にとって厳しい状況を打破していくために日本国内において様々 な取り組みが行われている。そうした取り組みの一例として、以下に、民間企業が中心に なって組織した「有限責任事業組合海外水循環システム協議会」、および官民一体の共同体 組織である「チーム水・日本」の動きを以下に見ていくことにする。
A. 有限責任事業組合海外水循環システム協議会
世界の水環境問題の解決に向けて、資源確保から水供給、再利用までの循環システムの 提供が世界各国で求められている状況を背景に、国内の関連分野の企業が結集し、官・学 とも連携を取りながら、わが国が有する技術・ノウハウを活用して同システムの開発・海 外展開を図ることをめざして、2008年 11月に本協議会が設立された。
参加企業は、当初は 14 社で発足したが、のちに 24社が加わり現在 38 社で活動してい る。
業務としては、経済産業省や NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機 構)の提案公募に応募して研究費を得て活動している。
国内開発拠点のひとつとして、山口県周南市において下水高度処理と海水淡水化を統合 した膜処理プロセスの開発に向けた取り組みをスタートさせている。また NEDOの 21年 度「省水型・環境調和型水循環プロジェクト」の公募に応募し、採択された以下の4件の テーマの研究開発を実施している。
出典:JETROリヤド事務所(2009年 8月)
25
1) 競争力のあるプロセスと要素技術の強化による海外水ビジネス展開の研究開発(ウォ ータープラザ構想)
2) 通常型下水処理設備に高度処理設備を付加することによる高水質な中水の製造と、そ の工業用水利用による水循環システムの構築と、同システムの運営管理の実証
3) 海外振興地域における小規模分散型水循環事業の実証研究 4) 国内外成果普及活動(調査検討)
1)ウォータープラザ構想では、国内に研究開発・情報発信等を行う拠点として海水淡水 化や下水統合システムのデモプラントと水処理要素技術の開発・実証できるテスト装置を 備えたウォータープラザの設置を提案しているものである。
2)高水質な中水の製造と水循環システムの構築、および3)海外振興地域における小規模
分散型水循環の実証研究は、それぞれ中国唐山市およびドバイにおいて下水処理水を工業 用水に再利用するシステム等を提案するもので、国際水ビジネスのビジネスモデルを構築 していくものである。
これらの事業は、わが国が強みを持つ膜技術を始めとする水処理技術を強化しつつ、こ うした技術を活用した水循環システムを構築して、国内外での実証・導入支援等を推進し、
省水型・環境調和型の水資源管理技術を海外に普及することを目的として行っているもの である。
本協議会の事務局は㈱日立プラントテクノロジーのなかに置かれている。組織としては 理事会の下に運営委員会があり、そのなかに調査部会、開発部会および企画部会がおかれ ている。組織形態および業務内容を図 2.11に示す
本協議会は、発足後まだ間もないにもかかわらず、上記のように活発に活動を開始して おり今後の海外への展開が期待される。
図 2.11 有限責任事業組合海外水循環システム協議会の組織図 理事会 運営委員会
<諮問委員会>
・関係省庁・自治体・大学・研究機関 民間団体・金融機関・シンクタンク
<後援団体>
・各種財団・協会など
事務局
調査部会(市場調査、国 際交流、政策提言)
開発部会(技術開発・国内開発拠点)
企画部会(モデル事業の企画・検証)
26
なお、「海外水循環システム協議会」のメンバーでもある JFEエンジニアリング㈱は、
2009年度、NEDOから「分散型水供給システム」の実証プロジェクトを受託した。これ はオーストラリアクイーンズランド州に 2010年度末までに雨水を飲料水などにリサイク ルする実証プラントを建設し、同州と連携しながら一般家庭に水を試験供給するというプ ロジェクトである。3年間の実証運転後2014年度からの事業開始を目指す。このシステ ムは、膜ろ過による雨水の飲料水化と生活排水の膜浄化や再生利用を組み合わせ、エネル ギー源を太陽光発電により賄うことを特徴としている。また、このプロジェクトは川崎市 とクイーンズ州政府の支援のもと、公民連携による実施体制で臨むものであり、水質。水 量管理や課金システムは川崎市水道局が指導し、実証プラントのサイト選定や事業化の条 件設定はクイーンズランド州政府が出資する研究機関が協力することになっている。JFE エンジニアリング㈱としては、将来的には、オーストラリアの他州やアジアを中心とした 他国へも広く展開する考えである 15)。
B. 「チーム水・日本」および「水の安全保障戦略機構」16)
2008年中頃から、海外における水資源に着目する動きが日本で活発化し、2009年1月 に経済界、政界および学会のトップが発起人となり、水問題解決に向けて行動するための 組織「チーム水・日本」が発足した。チーム水日本の組織構成は、図 2.12に示すとおり、
政府の水関連機関がすべて網羅された組織となっている。水の問題は分野が広く技術的に も多岐にわたるため、水資源の用途や技術など特定の課題、専門テーマごとに、政府機関、
企業、経済団体、事業者団体、学会、NPO・NGOの市民団体などが行動チームを立ち上 げ活動している。現在 25の行動チームが登録されている。行動チームの分布図を図2.13 に示す。
27
図2.12 チーム水・日本の組織構成
図 2.13 チーム水・日本行動チーム分布図
28
「チーム水・日本」は主に三つの主体からなる。中核機関となる「水の安全保障戦略機 構」、水の関係省庁からなる「連絡会議(政府)」、およびテーマを設定して課題の改善要望 を議論する「協議会・チーム」である。
水資源に関連する何らかの課題を設定する際、関係する民間企業・学会・NGOなどが 自由に集まり、協議会・チームを編成する。このチーム内での議論が水の安全保障戦略機 構に報告されると、同機構は対策を議論し、必要に応じて関係省庁への助言・提案・支援 を行うことになっている。
「水の安全保障戦略機構」の委員には業界団体や大学、水分野に関する国内有数の有識 者が名を連ねるほか、企業、自治体、労働組合、NPOなど多様なメンバーで構成されてい る。
前述の「海外水循環システム協議会」も行動チームの一つとして位置づけられているが、
現時点では企業の独自な活動の範囲内で行われており、「水の安全保障戦略機構」に相談す るような状況には至っていないようである。ほかに、日本水道工業団体連合会が中心とな り、加盟する各企業とともに海外進出の可能性を探る「チーム水道産業日本」も活動を広 げているようである。
「水の安全保障戦略機構」の規約を表 2.10に示す。
29
表2.10 水の安全保障戦略機構 規約
30
上記のような最近の流れを受けて経済産業省では大手商社やプラント会社、国際協力銀 行など官民でつくる新たな研究会を発足させた。同研究会では、中東や中国など水の需要 が増大するとみられる地域を対象に、飲み水の不足や水質汚濁など各国が直面する課題を 分析し、日本企業が海水の淡水化や廃水の浄化など現地でどのような事業を展開すべきか を検討する。そのうえで、国の資金で現地調査を行ったり試験プラントを建設したりする 地域を選定することにしており、こうした戦略を 2010年3月までにまとめることにして いる。また、そうした戦略を推進する窓口として、製造産業局内に「水ビジネス・国際イ ンフラシステム推進室」を設置し、水ビジネスの海外展開を支援することとしている。
31 3.結言
2009年11月にドバイにおいて IDA(International Desalination Association)の国際 会議が開催され、大勢の水処理に関する研究者が集まった。会議のテーマは Desalination
and Water Reuse であり、海水の淡水化等脱塩技術に関する発表とともに、多くの廃水再
利用に関する研究発表が紹介された。改めて、中東においては海水淡水化のみならず、廃 水再利用も重要な技術であることが知られた。
また、23項設けられたセッションのなかの1項として「Water Resources Management
and Zero Liquid Discharge」のタイトルのセッションが設けられ、17種類の研究発表が
紹介された。発表者の多くは USAやヨーロッパの国々であり、それを見た限りではZLD はまだ中東では一般的ではないようであるが、本報告書で紹介したように、今後カタール では ZLDが施行される可能性が高く、数年先にはこうした国際会議で、中東発のZLDの 研究発表が多くみられるようになるのではないかと想像される。
本調査では、カタールとUAEを対象として廃水再生利用の可能性を調査するとともに、
日本発の技術である MBR(Membrane Bio Reactor)の同地域における今後の需要可能性 調査を行うことを目的に調査を進めた。
本調査を通じて、㈱日立プラントテクノロジーではドバイにおいて下水の再利用に関し て、MBRとRO による再利用を着々と進めている状況を見ることができた。また、水道 機工㈱では、サウジアラビアを中心として MBRによる下水再利用の事業が順調に育って いる状況を見ることができた。
中東の産油国では、現在は一時期ほどの勢いはないとはいえ、今後さらに経済的に発展 する余地はあるものと思われる。また、それに伴い現在普及率の低い下水道が今後急激に 普及することが予想されるとともに、現在未処理のまま貯留されている下水湖において、
廃水処理・再利用の設備の導入が予想されている。その場合、再利用のための水質として は、より良い水質が望まれるところから、既存設備と比べて処理水質がよく、また維持管 理の容易なMBRの需要が今後増えていくことが予想される。
また、㈱日立プラントテクノロジーの行っている再利用は、RO 処理水のみならず、RO 濃縮水を MBR処理水と混合して、すべて再利用するシステムであり、こうしたシステム は ZLDにも適用可能なシステムであり、単に再利用のための技術ではなく、今後カター ルの ZLDへの対応技術としても大いに推奨されるべきシステムであると考えられる。
また、本調査ではカタール石油からの依頼に基づき、石油随伴水の再利用のための処理 技術について検討した。今まで石油随伴水の多くは蒸発池に蓄えられるのみであったが、
環境問題の高まりとともに、今後、随伴水の処理・再利用が検討課題としてとりあげられ ることが増えるものと予想される。
石油随伴水は、掘削場所によって水質は大きく異なるために、その処理方法は、再利用 先にも関連して個々に検討されるべきものと思われる。本報告書では処理方法の一つとし て凝集加圧浮上を提案したが、今後ユーザーの意向も勘案して、実現可能な処理方法が検