九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
超離散特異点閉じ込めテストと方程式の可積分性に ついて
三村, 尚之
青山学院大学理工学研究科
礒島, 伸
青山学院大学理工学部
村田, 実貴生
青山学院大学理工学部
薩摩, 順吉
青山学院大学理工学部
他
https://doi.org/10.15017/23388
出版情報:応用力学研究所研究集会報告. 22AO-S8 (4), pp.23-29, 2011-03. Research Institute for Applied Mechanics, Kyushu University
バージョン:
権利関係:
応用力学研究所研究集会報告No.22AO-S8
「非線形波動研究の新たな展開 — 現象とモデル化 —」(研究代表者 筧 三郎)
共催 九州大学グローバルCOEプログラム
「マス・フォア・インダストリ教育研究拠点」
Reports of RIAM Symposium No.22AO-S8
Development in Nonlinear Wave: Phenomena and Modeling Proceedings of a symposium held at Chikushi Campus, Kyushu Universiy,
Kasuga, Fukuoka, Japan, October 28 - 30, 2010 Co-organized by
Kyushu University Global COE Program
Education and Research Hub for Mathematics - for - Industry
Research Institute for Applied Mechanics Kyushu University
March, 2011 Article No. 4 (pp. 23 - 29)
超離散特異点閉じ込めテストと方程式 の可積分性について
三村 尚之( MIMURA Naoyuki ),礒島 伸( ISOJIMA Shin ),村田 実貴生( MURATA Mikio ),薩摩 順吉
( SATSUMA Junkichi ), Grammaticos Basil
( GRAMMATICOS Basil ), Ramani Alfred ( RAMANI Alfred )
(Received 15 January 2011)
超離散特異点閉じ込めテストと方程式の可積分性について
青山学院大学理工学研究科 三村尚之 (MIMURA Naoyuki) 青山学院大学理工学部 礒島伸 (ISOJIMA Shin) 青山学院大学理工学部 村田実貴生 (MURATA Mikio) 青山学院大学理工学部 薩摩順吉 (SATSUMA Junkichi) Universit´e Paris VII & XI Basil Grammaticos (GRAMMATICOS Basil) Ecole Polytechnique Alfred Ramani (RAMANI Alfred)
概 要 符号が一定でない解を持つ差分方程式を超離散化する手法として,符号付き超離散化[1]
を導入する.この手法を用いて超離散特異点閉じ込めテスト[2]を定式化し,超離散方程式に対する可 積分性判定法を提案する.また,線形化可能な超離散方程式に対してこのテストを適用し,その結果を 方程式の解の構造から説明する.
1 符号付き超離散化
差分方程式
xn+1=axn (1.1)
を考える.ただし, a∈R\{0}はパラメータである. (1.1)の一般解は,初期値x0を用いて
xn=anx0 (1.2)
で与えられる.方程式(1.1)に対する符号付き超離散化は,以下の手順に従う.
1. 符号変数ρ,σn∈ {−1,1}と振幅変数a,˜ x˜n>0を導入し, a=ρa, x˜ n=σnx˜nと書く. 2. 符号変数をρ=s(ρ)−s(−ρ),σn=s(σn)−s(−σn)と書き直す.ただし,関数sは
s(k):=
{
1 (k=1のとき)
0 (k=−1のとき) (1.3)
で定義される.
3. パラメータεを導入し, s(ρ) =eS(ερ), s(σn) =eS(σεn), ˜a=eAε, ˜xn=eXnε と変数変換する. ただし, 関数Sは
S(k):=
{
0 (k=1のとき)
−∞ (k=−1のとき) (1.4)
で定義される.
4. 負の項を移項した後,極限操作limε→+0εlogを施す.このとき,公式
εlim→+0εlog (
eKε +eLε )
=max(K,L) (1.5)
を用いる.
1
以上の操作により, (1.1)は
max[Xn+1+S(σn+1),A+Xn+max{S(ρ) +S(−σn),S(−ρ) +S(σn)}]
=max[Xn+1+S(−σn+1),A+Xn+max{S(ρ) +S(σn),S(−ρ) +S(−σn)}] (1.6)
となる. (1.6)は陰的な方程式であるが,σnとXnに対する陽的な方程式
σn+1=ρσn (1.7)
Xn+1=A+Xn (1.8)
に書き直すことができる. (1.7)と(1.8)の一般解は,初期値σ0とX0を用いて
σn=ρnσ0 (1.9)
Xn=nA+X0 (1.10)
で与えられる. (1.9)と(1.10)は(1.2)を直接符号付き超離散化しても得られ, (1.2)の全ての定性的 特徴を保存している. 特に,ρ =−1のときσnは振動し, (1.2)でa<0の場合の振動解を再現する (図1参照).
図1: (1.9), (1.10)のプロット(ρ=−1, A=1,σ0=1, X0=0)
2 超離散特異点閉じ込めテスト(uSC)
差分方程式
xn+1=axn+1
xn−1x2n (2.1)
を考える. (2.1)は保存量を持ち,可積分である. (2.1)の特異点はxn=−1/aであり,特異性パターン は{−1/a,0,∞,0,−1/a}で閉じ込められている.よって, (2.1)はSCに通る.
以降,Xn:= (σn,Xn)と書く. (2.1)を符号付き超離散化し,σnとXnに対する陽的な方程式に書き 直すと
σn+1= { σ
n−1
2 {σn+1+ (σn−1)sgn(A+Xn)} (Xn6= (−1,−A)のとき)
不定 (Xn= (−1,−A)のとき) (2.2)
Xn+1
{
=max(A−Xn,−2Xn)−Xn−1 (Xn6= (−1,−A)のとき)
≤2A−Xn−1 (Xn= (−1,−A)のとき) (2.3)
となる. このように,符号付き超離散方程式ではσn+1とXn+1の値が一意に定まらない場合がある. 定義. 任意の初期値Xn−1= (σn−1,Xn−1)に対し,Xn+1= (σn+1,Xn+1)が不定になる特別な点Xn= (σn,Xn)を符号付き超離散方程式の特異点と定義する.また,不定なXn+1に依存する点Xn+k(k≥1) を特異性と定義する.
この定義より, (2.2)と(2.3)の特異点はXn= (−1,−A)である. 初期値X0= (σ0,X0)と特異点 X1= (−1,−A)を与えると,X2= (σ2,X2),σ2=不定, X2≤2A−X0となる. ここで, X2の取り得る 値の範囲はX0の大きさによって変わり,この範囲内におけるX2の選び方によってX3以降の値は 変わることに注意する.
以降, A>0とする. (2.2)と(2.3)の特異性パターンは以下の通りである. 1. X0>3Aの場合,以下の特異性パターンが得られる.
X0= (σ0,X0) X1= (−1,−A)
X2= (σ2,X2), ただしσ2=不定,X2≤2A−X0
X3= (−1,A−2X2) (2.4)
X4= (−σ2,X2) X5= (−1,−A)
X6= (σ6,X6), ただしσ6=不定,X6≤2A−X2 特異性X2が消え,新たな不定性X6が現れる.
2. −A<X0<3Aの場合, X2<−Aと−A<X2≤2A−X0に応じて以下の2つの異なる特異性パ ターンが得られる.
X0= (σ0,X0) X0= (σ0,X0) X1= (−1,−A) X1= (−1,−A) X2= (σ2,X2), X2= (σ2,X2),
ただしσ2=不定,X2<−A ただしσ2=不定,−A<X2≤2A−X0
X3= (−1,A−2X2) X3= (−σ2,2A−X2) X4= (−σ2,X2) X4= (−1,−A) X5= (−1,−A) X5= (σ5,X5),
ただしσ5=不定,X5≤X2 X6= (σ6,X6),
ただしσ6=不定,X6≤2A−X2
(2.5)
X2<−Aのときは(2.4)と同じである. −A<X2≤2A−X0のとき,特異性X2が消え,新たな 不定性X5が現れる.
3. X0<−Aの場合, X2<−A,−A<X2<3A, 3A<X2≤2A−X0に応じて以下の3つの異なる特
3
異性パターンが得られる.
X0= (σ0,X0) X0= (σ0,X0) X0= (σ0,X0)
X1= (−1,−A) X1= (−1,−A) X1= (−1,−A)
X2= (σ2,X2), X2= (σ2,X2), X2= (σ2,X2), ただしσ2=不定, ただしσ2=不定, ただしσ2=不定,
X2<−A −A<X2<3A 3A<X2≤2A−X0 X3= (−1,A−2X2) X3= (−σ2,2A−X2) X3= (−σ2,2A−X2) X4= (−σ2,X2) X4= (−1,−A) X4= (σ2,−4A+X2) X5= (−1,−A) X5= (σ5,X5), X5= (−1,3A)
ただしσ5=不定,X5≤X2
X6= (σ6,X6), X6= (−σ2,2A−X2) ただしσ6=不定,X6≤2A−X2
...
(2.6) X2<3Aのときは(2.5)と同じで,特異性X2が消える. 3A<X2≤2A−X0のとき,特異性X2
は消えない. 次に,差分方程式
xn+1=axn+1
xn−1x3n (2.7)
を考える. (2.7)は,代数的エントロピーが0でなく,可積分でない. 特異点はxn=−1/aであり,特 異性パターンは{−1/a,0,∞,0,∞, . . .}で閉じ込められていない.よって, (2.7)はSCに通らない.
(2.7)を符号付き超離散化し,陽的な方程式に書き直すと
σn+1= { σ
n−1
2 {1+σn+ (1−σn)sgn(A+Xn)} (Xn6= (−1,−A)のとき)
不定 (Xn= (−1,−A)のとき) (2.8)
Xn+1
{
=max(A−2Xn,−3Xn)−Xn−1 (Xn6= (−1,−A)のとき)
≤3A−Xn−1 (Xn= (−1,−A)のとき) (2.9)
となる. 特異点はXn= (−1,−A)である.
以降, A>0とする. X0>4Aの場合, (2.8)と(2.9)の特異性パターンは X0= (σ0,X0)
X1= (−1,−A)
X2= (σ2,X2),ただしσ2=不定,X2≤3A−X0
X3= (−σ2,A−3X2)
X4= (σ2,−A+5X2) (2.10)
X5= (−1,2A−12X2) X6= (σ2,−2A+19X2) X7= (−σ2,4A−45X2)
...
であり,特異性は消えない. X0<4Aの場合はX2の選び方に応じて異なる特異性パターンが得られ るが,その全てにおいて特異性は消えないことが確かめられる.
以上の結果より,図2のようにuSCを定式化する. さらに, uSCを超離散方程式の可積分性判定 法として提案する.つまり, uSCに通る超離散方程式は可積分であり, uSCに通らない方程式は可積 分でないと主張する.
図2: uSC
3 超離散特異点閉じ込めテストと方程式の解との関連
差分方程式
xn+1=axn−1
xn+a
xn+1 (3.1)
を考える. (3.1)の特異点はxn=−1とxn=−aであり,特異性パターンはそれぞれ{−1,∞,−a}と {−a,0,−a3,0,−a5,0, . . .}である. よって, (3.1)はSCに通らない.
(3.1)は,連立差分方程式
xn= yn
xn−1+1−a (3.2)
yn+1=ayn+a(1−a) (3.3)
5
に書き換えられる. (3.3)の一般解は,初期値y1を用いて
yn=an−1y1+a−an (3.4)
で与えられる. (3.2)は(3.4)を係数に持つ差分Riccati方程式であり,離散Cole-Hopf変換 xn= un+1
un −1 (3.5)
により
un+1+ (a−1)un−ynun−1=0 (3.6) と線形化される. つまり, (3.1)は線形化可能という意味で可積分である.
(3.1)を符号付き超離散化し,陽的な方程式に書き直すと
σn+1=
σn−1
2 {σn+1+ (σn−1)sgn(Xn)sgn(A−Xn)} (Xn6= (−1,0)かつXn6= (−1,A)のとき)
不定 (Xn= (−1,0)のとき)
不定 (Xn= (−1,A)のとき)
(3.7) Xn+1
=A+Xn−1+max(Xn,A)−max(Xn,0) (Xn6= (−1,0)かつXn6= (−1,A)のとき)
≥A+Xn−1+max(A,0) (Xn= (−1,0)のとき)
≤2A+Xn−1−max(A,0) (Xn= (−1,A)のとき)
(3.8)
となる. (3.7)と(3.8)の特異点はXn= (−1,0)とXn= (−1,A)である.
以降, A>0とする. X0>−Aのとき,特異点Xn= (−1,0)に対応する特異性パターンは X0= (σ0,X0)
X1= (−1,0)
X2= (σ2,X2), ただしσ2=不定,X2≥2A+X0 (3.9) X3= (−1,A)
X4= (σ4,X4), ただしσ4=不定,X4≤A+X2
であり,特異性X2が消える. X0<−Aのとき, X2>Aと制限すると特異性が消えることが確かめら れる.
また, X0<−2Aのとき,特異点Xn= (−1,A)に対応する特異性パターンは X0= (σ0,X0)
X1= (−1,A)
X2= (σ2,X2), ただしσ2=不定,X2≤A+X0
X3= (−1,3A) (3.10)
X4= (σ2,A+X2) X5= (−1,5A) X6= (σ2,2A+X2)
... であり,特異性X2が消えない.
よって, (3.7)と(3.8)はuSCに通らない.つまり, uSCに通ることは超離散方程式が可積分である
ための必要条件ではない.
ところで, (3.4)-(3.6)を符号付き超離散化することで(3.7)と(3.8)の解を得ることができる. 特
に,初期値X0= (σ0,X0),σ0=任意, X0>0と特異点X1= (−1,0)を与えたときの解は
σn=
不定 (n=2のとき)
−1 (n=3,5,7, . . .のとき)
−σ0 (n=4,6,8, . . .のとき)
(3.11)
Xn
≥2A+X0 (n=2のとき)
=n−21A (n=3,5,7, . . .のとき)
=n+22 A+X0 (n=4,6,8, . . .のとき)
(3.12)
となる. (3.11)と(3.12)は特異性パターン(3.9)に対応しており, n=4で初期値X0が回復している ことが確かめられる.
4 結論
本稿で定式化したuSCに通ることは,超離散方程式が可積分であるための必要条件でも十分条件 でもないことが既に確認されている[2]. これは, uSCは超離散方程式の特異点付近の解の情報を与 えるが,可積分性の判定には大域的な解の様子も知る必要があるためだと考えられる.
線形化可能な超離散方程式(3.7), (3.8)の解を求めると,特異性が消えるパターンで初期値X0が 回復していることが確かめられた.他の超離散方程式についても同様の結果が得られるかを調べる ことは,今後の課題である.
参考文献
[1] N Mimura, S Isojima, M Murata and J Satsuma: “Singularity confinement test for ultradiscrete equations with parity variables”, J. Phys. A: Math. Theor. 42 (2009), 315206 (7pp).
[2] N Mimura, S Isojima, M Murata, J Satsuma, B Grammaticos and A Ramani: “Do ultradiscrete systems with parity variables satisfy the singularity confinement criterion?”, Submitting to J. Phys.
A: Math. Theor.
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