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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title 著者 Author(s) 掲載誌 巻号 ページ Citation 刊行日 Issue date 資源タイプ Resource Type 版区分 Resource Version 権利 Rights DOI

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Academic year: 2021

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タイトル

Title

回想された両親の養育スタイル認知が青年期の愛着表象に与える影

響(The influence of perceived retrospective parenting style on

attachment representation in the adolescence)

著者

Author(s)

山口, 正寛

掲載誌・巻号・ページ

Citation

神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要,1(2):1-9

刊行日

Issue date

2008-03

資源タイプ

Resource Type

Departmental Bulletin Paper / 紀要論文

版区分

Resource Version

publisher

権利

Rights

DOI

JaLCDOI

10.24546/80060018

URL

http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/80060018

PDF issue: 2019-06-18

(2)

回想された両親の養育スタイル認知が青年期の愛着表象に与える影響

The Influence of Perceived Retrospective Parenting Style on

Attachment Representation in the Adolescence.

山 口 正 寛

Masahiro YAMAGUCHI

* 要約:本研究では,回想された両親の養育態度認知が,一般的な愛着表象と関係特異的な愛着表象に与える影響について検討する ことを目的とした。また,一般的な愛着表象が関係特異的な愛着表象に与える影響についても検討した。大学生256名を対象に, 就学前における両親の養育態度を評定する尺度と,一般他者と関係特異的他者(恋人,友人)に対して,愛着の2次元(“親密性 回避”,“見捨てられ不安”)で構成される愛着尺度を実施した。愛着尺度の相関分析からは“親密性回避”と“見捨てられ不 安”は関係性によらず関連していることが示され,個人の愛着表象は特定の関係性に関わらず一貫した傾向を示すと考えられた。 パス解析の結果からは,就学前における両親の養育スタイルが肯定的であるほど,現在の一般他者と関係特異的他者への“親密性 回避”傾向と“見捨てられ不安”傾向はいずれも低くなることが示された。また,一般他者への“親密性回避”傾向が高くなるほ ど,友人,恋人への“親密性回避”傾向と“見捨てられ不安”傾向は高くなることが示された。    キーワード:愛着,養育態度認知,IWM *神戸大学大学院総合人間科学研究科博士後期課程

2007年10月1日 受付 2007年11月1日 受理

問題  現在の成人愛着研究は,内的作業モデル(Internal Working Models;以下IWM)に焦点を当てた研究が主流となっている。そ して,青年期では恋人がその愛着対象と選択される傾向にあり,恋 人に対するIWMが乳幼児期における早期母子関係を反映すると考 えられている(Hazan & Shaver, 1987)。Hazan & Shaver (1987)は,現在の恋人との関係と過去における親との関係に有意 な関連があることを指摘し,彼らの研究以降,青年期における恋人 を対象とした成人愛着研究が数多く行われるようになった。その中 で,恋人を愛着対象と想定した質問紙も多く開発,作成されてきた (Hazan & Shaver, 1987;Brennan, Clark, & Shaver ,1998; Collins, & Read, 1990;Trinke & Bartholomew, 1997; Bartholomew & Horowitz, 1991)。また,酒井(2001)は回想さ れた就学前の母子関係と,青年期の恋愛関係は類似する特徴が見ら れ,就学前の母子関係が安定していると,IWMは安定した傾向を 示すという研究結果を発表している。一方で,愛着理論が早期母子 関 係 を 重 視 す る と い う 立 場 か ら , 成 人 愛 着 面 接1( A d u l t Attachment Interview;AAI)を利用して,過去の早期愛着対象と の関係と,青年期における愛着関係や社会的適応性,パーソナリ ティとの関連を検討した研究も多く見られる。このように,青年期 における愛着研究については,質問紙,面接法のいずれにしても, 過去の早期愛着対象との関係を回想的に想起させることで,現時点 での愛着表象を評価し,他の変数との関連を検討するという手法が 主流となっている。  ところで,Bowlbyは乳幼児期において形成された自他の表象の 形成について“望まれない子どもは,両親によって望まれていない と感じるだけではなく,自分は本質的に望まれるに値しない,つま り誰からも望まれないと信じるようになる。逆に,愛されている子 どもは両親の愛情に対する確信だけではなく,他の人すべてからも 愛されると確信して成長する”(Bowlby, 1973, p226)と指摘し, 乳幼児期における母子関係が一般的な表象となって自他の認識の枠 組みとなる可能性を主張している。また,中尾・加藤(2004)は, “初対面の段階から対人関係を形成していく場合,親密さが明確で ない状況で愛着行動を行う場面,あるいは対人場面で他者とストレ スのかかるやりとりをしなければならない場面で,他者との相互作 用パターンを予測することは,従来の恋人を対象とした愛着スタイ ル尺度では困難であろう”と指摘し,特定他者への愛着のみならず 青年期においては一般化された他者に対する愛着表象を測定するこ との重要性を主張している。 神戸大学大学院人間発達環境学研究科 研究紀要第1巻第2号 2008 研究論文

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 このような理由から,中尾・加藤(2004)は,一般他者への愛着 と重要他者への愛着の関連を検討し,一般他者の愛着と親密な他者 への愛着表象との関連を示している。また,Pierce, & Lydon (2001)は,愛着の包括的表象モデルと関係特異的表象モデルとの 関連について検討し,包括的表象モデルが関係特異的表象モデルの 形成に重大な役割を果たすと指摘している。一方で,過去の親子関 係と現在の親密な関係における愛着の関連を検討した研究もいくつ かある(Hazan & Shaver, 1987;Collins, & Read, 1990;Owens, Crowell, Pan, Treboux, O'Connor, & Waters ,1995;Crowell, Treboux, & Waters, 1999;Shaver, Belsky, & Brennan, 2000; Fraley, & Davis, 1997; 酒井,2001)。しかし,過去の親子関係と 青年期における一般的な愛着表象との関連を検討した研究はみられ ない。Pierce, & Lydon(2001)の研究では,一般的な愛着表象と して包括的モデル(Global model)を想定しているが,彼らの研究 において測定された包括的表象モデルは,調査対象者における現在 の最も重要な人物を想起させて得られた表象モデルであり,関係特 異的他者と同一人物が想定されている可能性が考えられる。そして また,最も重要な人物を想定させることで,厳密には一般的な愛着 表象を測定しているとは言えない。また,山口(2007a)は,一般 他者に対する愛着表象と関係特異的な愛着表象が社会的適応性に与 える影響について検討し,社会的適応性に対して一般他者への愛着 表象が関係特異的な愛着表象に比べて,より強い影響を与えること を示唆している。この結果からは,一般他者に対する愛着表象が社 会的適応性に影響を与えることが示されたが,一般的表象が乳幼児 期における早期母子関係を反映して形成されたという因果関係につ いては検討されていない。  IWMは階層構造性が仮定されており,愛着の一般的表象は主た る養育者との相互作用から抽出された自他に対する一般的な表象で あるとされている(Crittenden, 1990;Feeney, Noller, & Roberts ,2000;Shaver, Collins, & Clark ,1996)。一般的表象とはすなわ ち,個人が普段感じている,他者への接近可能性や応答可能性,ま た自己確信や自己信頼感を規定する認知的枠組みである。Bowlby の主張に沿って時系列的に考えると,最初に主たる養育者との関係 特異的な表象が形成され,それが一般化されることで一般的表象が 形成される。そして,一般化された表象を基盤に再び新たな対人関 係について関係特異的表象が形成されていくと考えられる。このよ うなIWMの形成過程は,IWMの世代間伝達や,IWMの変容可能性 の議論に関わる問題であろう。そして,このようなIWM形成の一 連のプロセスについて検討することは,現在の成人愛着研究の重要 な課題である。  そこで,本研究では,幼児期の親子関係が,愛着の一般的表象モ デルに与える影響について検討し,さらに,愛着の一般的表象モデ ルが関係特異的表象モデルに与える影響について検討することを目 的とする。成人愛着研究においてBowlbyの愛着理論に立脚するな らば,成人の愛着スタイルやIWMの測定に用いられる尺度は,早 期母子関係と一般他者をも含む様々な関係性における愛着のあり方 との整合性が確かめられた上で初めて有益なものとなるであろう。 また,Bowlbyの主張する仮説に従うならば,青年期や成人期にお いても,早期母子関係は,一般他者や関係特異的他者への愛着表象 の形成に影響を与えていることが推測される。 方法  調査対象者 調査対象者は大学生・大学院生256名(年齢範囲; 18歳~48歳,男性57名,女性198名,不明1名)であった。なお,本 分析では30歳以上の被験者データ,不完全なデータは除外した。そ の結果,本分析で使用したデータは,計226名(年齢範囲;18歳~29 歳,平均年齢19.7歳,男性49名,女性176名)であった。  調査手続き 調査は,兵庫県内にある大学2校で行われた。質問 紙は大学の講義等で配布され集団実施された。なお,調査時期は 2007年7月であった。  質問項目 質問項目は,(a) 両親に対する養育スタイル認知尺 度,(b)一般他者ECR (Brennan, et al, 1998;Fraley, Waller, & Brennan, 2000),(c) 関係特異的ECRを使用した。

 (a)両親に対する養育スタイル認知尺度は,Collins & Read (1990),Hazan & Shaver (1987)による,Attachment History Scale を参考に作成した多項目式質問紙である。Attachment History Scale の原法では,3次元(Warm/Responsive,Cold/ Rejective,Ambivalent/Inconsistent)で合計3項目であり,1項目 のなかに複数の養育態度要素が含まれており,母親と父親の区別が つけられていなかったため,各項目を母親と父親のそれぞれについ て1次元につき3~4項目を作成した。“応答的養育態度”(4項 目),“拒否的養育態度”(3項目),“アンビバレント的養育態 度”(4項目),各9件法で構成されている。先行研究によると,成 人愛着スタイルと両親への養育態度との関連や(Hazan & Shaver, 1987),両親への認知した養育態度は個人の対人関係における依存 性や不安傾向との関連(Collins & Read, 1990)が指摘されてい る。なお,本研究では,調査対象者の幼児期における両親の養育ス タイル認知を測定するために,小学校入学前の母親と父親の関係を 思い浮かべながら評定してもらった。

 (b)一般他者ECRは,一般的表象における愛着表象を測定する ために用いられた。ECR(Experiences in Close Relationships inventory)は,Brennan, et al.(1998)が開発した愛着の2次元, すなわち“親密性回避(Avoidance)”次元と“見捨てられ不安 (Anxiety)”次元を測定する愛着尺度であり,各因子18項目,合 計36項目で構成されている。愛着の2次元的アプローチを提唱した Bartholomew(1990)によると,“親密性回避”次元は,対人志向 性と関連し,IWMの他者モデルを反映しているとされている。一 方,“見捨てられ不安”次元は,対人関係にまつわる不安と関連 し,IWMの自己モデルを反映しているとされる。Brennan, et al. (1998)によるECRは,Fraley, et al.(2000)によって,項目反応 理論に基づいた分析により改訂され(ECR-R),高い信頼性が期待 できると考えられている。ただし,本研究では,関係特異的愛着表 象を測定するために同一項目を複数の関係性でも用いることから, 調査対象者の疲労や飽きが予想された。それらのバイアスに配慮し て,本研究では,Brennan, et al.(1998)のECRの項目から, ECR-Rでも識別力の高かった上位10項目(“親密性回避”5項目, “見捨てられ不安”5項目)について和訳し,7件法で実施した。

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 (c)関係特異的ECRは,関係特異的表象における愛着次元を測 定するために実施された。個別対象の特定は,同性友人・恋人とし た。これらの特定した個別対象に対するECRの項目は,上の一般他 者ECRと同様の項目で,項目中の「人」という記述部分を空白下線 に変更し,当該の対象を想定してもらうよう教示し実施した(以 下,友人ECR,恋人ECRと表記する)。ただし,恋人がいない者 についても,恋人がいた場合を想定して回答してもらった。評点方 法は,7件法であった。なお,各対象に対するECRは,すべて同一 の質問項目で回答者の疲労や飽きによるステレオタイプ的回答が予 想されたため,予想されるバイアスを回避するためにカウンターバ ランシングを行った。 結果  両親に対する養育スタイル認知尺度の因子分析 母親に対する養 育スタイル認知尺度の11項目について,主因子法による因子分析を 行なった。各因子に含まれる項目の内容妥当性を考慮し,因子数を 3因子解とし,プロマックス回転を行った。また,父親に対する養 育態度認知尺度11項目についても同様の手続きを行った。  母親に対する養育態度認知尺度の因子分析の結果,全ての項目の 因子負荷量が.40以上であった。各下位尺度に含まれる項目内容か ら,第Ⅰ因子を“拒否的養育態度”(4項目),第Ⅱ因子を“応答 的養育態度”(4項目),第Ⅲ因子を“アンビバレント的養育態 度”(3項目)と命名した。ただし,当初 “アンビバレント的養育 態度”項目に想定していた項目3「母は確かに私を愛していたが, 母は私を愛していることをうまく表現してくれなかった」は“拒否 的養育態度”因子として抽出された。なお,3因子解による累積寄 与率は70.2%(FⅠ=53.2%;FⅡ=9.3%;FⅢ=7.6%)であった。因 子間相関を見てみると,“応答的養育態度”因子は他の因子と中程 度以上の負の相関が,“拒否的養育態度”因子は“アンビバレント 的養育態度”因子と比較的強い正の相関が示された。  父親に対する養育態度認知尺度の因子分析の結果も母親の尺度と 同様に,全ての項目の因子負荷量が.40以上であった。各下位尺度 に含まれる項目内容から,第Ⅰ因子を“拒否的養育態度”(4項 目),第Ⅱ因子を“アンビバレント的養育態度”(4項目),第Ⅲ 因子を“応答的養育態度”(3項目)と命名した。ただし,当初 “拒否的養育態度”項目として想定していた項目22「父は,よそよ そしくて,近づきがたく,私のすることにはあまり応えてくれな かった」は,因子分析により“アンビバレント的養育態度”因子と して抽出され,また,“応答的養育態度”項目と想定していた項目 4「父は,いつ私の支えとなるべきか,また,いつ私に一人でさせ るべきかを分かっていた」と“アンビバレント的養育態度”項目に 想定していた項目3「父は確かに私を愛していたが,父は私を愛し ていることをうまく表現してくれなかった」は“拒否的養育態度” 因子として抽出された。なお,3因子解による累積寄与率は71.6% (FⅠ=55.9%;FⅡ=8.9%;FⅢ=6.9%)であった。因子間相関を見 てみると,“応答的養育態度”因子は他の因子と比較的強い負の相 関が,“拒否的養育態度”因子は“アンビバレント的養育態度”と 比較的強い正の相関が示された。  これらの結果から,両親に対する養育スタイル認知尺度は,母親 と父親の養育態度因子の各因子の因子寄与率と項目数は異なってい るが,母親と父親ともに,因子間相関は類似した傾向を示してお り,項目内容も概ね類似していることから,ともに3因子構造であ ると判断した。また,本尺度の因子分析の結果から,母親と父親と もに当初“アンビバレント的養育態度”として想定していた項目 「母(父)は確かに私を愛していたが,母(父)は私を愛している ことをうまく表現してくれなかった」は,ともに“拒否的養育態 度”として抽出され,先行研究(Collins & Read, 1990;Hazan & Shaver ,1987)で想定された養育態度次元とは異なっていた。こ の結果の差異は文化的背景によるものとも考えられるが,日本の青 年期においては愛情を感じてはいるが,それを両親が適切に表現で きないと認知した場合,アンビバレントな態度として認知するとい うよりも,拒否的なものと認知するということであろう。  両親に対する養育スタイル尺度の内的整合性の検討 続いて,因 子分析から得られた結果をもとに,両尺度の下位尺度における Cronbachのα係数を算出した。母親に対する養育スタイル認知尺 度は,“拒否的養育態度”因子は4項目でα=.88,“応答的養育態 度”因子では4項目でα=.81,“アンビバレント的養育態度”因子 では3項目でα=.75であった。父親に対する養育スタイル認知尺度 は,“アンビバレント的養育態度”因子は4項目でα=.86,“拒否 的養育態度”因子では4項目でα=.81,“応答的養育態度”因子は3 項目でα=.82であった。以上の結果から,各下位尺度のα係数は.75 ~.88の範囲であり,これらの尺度の内部一貫性の信頼性は適度に 保たれていると判断した。なお,最終的に残った項目の因子負荷量 と因子間相関行列及び,α係数をtable1に示す。  各ECRの因子分析 各ECRの各10項目について,主因子法によ る因子分析を行なった。各因子に含まれる項目の内容妥当性を考慮 し,因子数を2因子解とし,プロマックス回転を行った。その結 果,因子間相関が一般他者ECRは.11,恋人ECRは.12,友人ECR は.21であったため,因子間相関はほとんどないと判断して,バリ マックス回転による因子分析を行った。一般他者ECRについては, 全ての項目の因子負荷量が.40以上であり削除された項目はなく, 第Ⅰ因子は5項目,第Ⅱ因子は5項目が抽出された。各下位尺度に含 まれる項目内容から,第Ⅰ因子を“見捨てられ不安”因子,第Ⅱ因 子を“親密性回避”因子と命名した。なお,2因子解による累積寄 与率は50.9%(FⅠ=28.0%;FⅡ=22.9%)であった。恋人ECRにつ いても同様に,全ての項目の因子負荷量が.40以上であり削除され た項目はなく,第Ⅰ因子は4項目,第Ⅱ因子は6項目が抽出された。 各下位尺度に含まれる項目内容から,第Ⅰ因子を“見捨てられ不 安”因子,第Ⅱ因子を“親密性回避”因子と命名した。ただし,当 初“見捨てられ不安”因子として想定していた項目3「私の気持ち と同じくらい(恋人が)私のことを強く想っていてくれればいい な,としばしば願う」については,“親密性回避”因子として抽出 された。なお,2因子解による累積寄与率は52.8%(FⅠ=29.2%;F Ⅱ=23.6%)であった。友人ECRについては,因子負荷量が.40に満 たない項目を削除した上で再度バリマックス回転を行ったところ, 最終的に第Ⅰ因子は5項目,第Ⅱ因子は3項目が抽出された。各下位 尺度に含まれる項目内容から,第Ⅰ因子を“親密性回避”因子,第

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Ⅱ因子を“見捨てられ不安”因子と命名した。ただし,当初“見捨 てられ不安”因子として想定していた項目3「私の気持ちと同じく らい(友人 が)私のことを強く想っていてくれればいいな,とし ばしば願う」については,“親密性回避”因子として抽出された。 なお,2因子解による累積寄与率は59.3%(F1=34.8%;F2=24.6%) であった。  各ECRの内的整合性の検討 因子分析から得られた結果をもと に,各ECRの各下位尺度におけるCronbachのα係数を算出した。 その結果,一般他者ECRの“見捨てられ不安”因子は5項目で α=.75であった。“親密性回避”因子は項目1「人と個人的な考え や感情を共有することは心地よい」と項目2「人と親しくなること は,とても心地よい」を削除したときにα係数が最も高くなり,最 終的に3項目でα=.72であった。恋人ECRにおける“見捨てられ不 安”因子は4項目でα=.75であり,“親密性回避”因子は,項目3 「私の気持ちと同じくらい,人が私のことを強く想っていてくれれ ばいいなとしばしば願う」を削除したとき,α係数が最も高くな り,最終的に5項目でα=.71となった。友人ECRにおいては,“親 密性回避”因子は5項目でα=.71であり,“見捨てられ不安”因子 は,3項目でα=.73であった。  以上の結果より,各ECRの下位尺度におけるα係数の範囲は.71 ~.75の範囲となり,内部一貫性の信頼性は適度に保たれていると 判断した。最終的に残った項目の因子負荷量とα係数をtable2に示 す。 両親の養育スタイル認知と愛着次元の関連 両親に対する養育スタ イル認知尺度における各下位尺度と,各ECRにおける愛着の2次元 についての相関分析を行った。その結果をtable3に示す。母親の養 育態度次元は一般他者における“見捨てられ不安”と値は低いもの の,有意な相関を示し,その他のECRについても弱い有意な相関を 示していた。一方で,父親の養育態度次元は,“アンビバレント的 養育態度”のみが一般他者の“見捨てられ不安”と有意な正の関連 table1  両親に対する養育スタイル認知尺度の因子分析結果(主因子法・プロマックス回転) 母親 父親 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅰ Ⅱ Ⅲ 私は母(父)にあまり大事にされなかった .99 .02 - .11 .62 - .21 .09 母(父)は,よそよそしくて,近づきがたく,私のすることにはあま り応えてくれなかった .91 .05 - .03 .33 .43 - .13 母(父)は私のことを一番には考えてくれなかった .64 - .13 .05 .92 .05 - .01 母(父)は確かに私を愛していたが,母(父)は私を愛していること をうまく表現してくれなかった .62 - .06 .15 .41 - .10 .24 母(父)との関係について大きな疑問や不平は持たなかった .17 .94 .00 .05 - .07 .77 母(父)との関係は,大体いつも満足なものだった - .13 .74 .01 - .22 - .09 .66 母(父)はたいてい,私がすることに温かく応えてくれた - .22 .48 - .12 - .24 .07 .68 母(父)は,いつ私の支えとなるべきか,また,いつ私に一人でさせ るべきかを分かっていた - .16 .47 .05 - .44 .14 .24 母(父)の私への態度はいつも同じではなかった - .12 .02 .82 - .12 .66 - .13 母(父)の私への態度は,時に温かくなったり,時に冷たくなったりして, 私を混乱させた .28 .02 .54 - .14 .78 - .20 母(父)は,自分の悩みが原因で,しばしば,私の要求を受け止めたり, 応えたりすることができなかった .15 - .16 .46 .23 .72 .25 αa) .88 .81 .75 .81 .86 .82 因子間相関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅰ 1 1 Ⅱ - .68 1 .71 1 Ⅲ .71 - .74 1 - .73 - .71 1 a) 縦列 bold 表記のα係数を示している

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table3 両親に対する養育スタイル認知尺度と愛着次元の相関 一般不安 一般回避 恋人不安 恋人回避 友人不安 友人回避 母親拒否 .16* .34*** .23*** .23*** .28*** .23*** 母親応答 - .16* - .26*** - .29*** - .23*** - .27*** - .24*** 母親アンビバレント .17* .37*** .33*** .28*** .31*** .27*** 父親拒否 .11 .22** .19** .08 .24*** .17** 父親応答 - .11 - .19** - .25*** - .14* - .28*** - .23*** 父親アンビバレント .17** .25*** .27*** .21** .30*** .22** ***p<.001 **p<.01 *p<.05 table2 各 ECR についての因子分析結果 ( 主因子法・バリマックス回転 ) 見捨てられ不安 親密性回避 一般 恋人 友人 一般 恋人 友人 私が気にかけているのと同じくらい,人は私を気にかけてくれていな いのではないかと心配だ .83 .79 .66 - .03 .02 - .13 人間関係についてかなり心配している .66 .62 .75 .19 - .06 .02 私が望んでいるほど,人は私と親しくなろうとは思っていない .56 .65 .66 .24 .22 .21 人に見捨てられるのではないかと,心配になることはあまりない .53 .52 - - .03 - .03 - 私の気持ちと同じくらい,人が私のことを強く想っていてくれればい いなとしばしば願う .51 .33 .17 - .37 - .56 - .60 人に何でも話をすることは私にとって心地悪い .21 .31 .37 .71 .48 .60 私が本音ではどういうふうに感じているかを人に見せるのは好きでは ない .27 .33 .33 .55 .48 .41 人に頼ることに抵抗がある .07 .32 - .48 .46 人と個人的な考えや感情を共有することは心地よい .27 - .07 .01 .43 .69 .68 人と親しくなることは,とても心地よい - .08 - .08 .07 .56 .74 .77 αa) .75 .75 .73 .72 .71 .71 a) 縦列 bold 表記のα係数を示している

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が示され,その他のECRとは母親の養育態度次元と同じように,低 い値ながらも有意な関連が認められた。ただし,父親の“拒 否的 養育態度”は恋人への“親密性回避”傾向と関連が認められず, “応答的養育態度”は恋人への“親密性回避”と有意であるが相関 係数は極めて小さいものであった。  以上の結果より,回想された両親の養育態度認知と愛着次元との 関連は,母親と父親とでやや異なる傾向が示されたが,両親の養育 態度認知次元は一般他者と関係特異的他者への愛着と関連している ことが示された。 関係性による愛着次元の相関分析 各ECRにおける下位尺度につい て相関分析を行った。その結果をtable4に示す。全てのECRの同一 次元において0.1%水準で有意な正の相関が認められ,それぞれ中程 度の正の相関が示された。また,一般他者の“親密性回避”と友人 と恋人の“見捨てられ不安”はそれぞれ弱い正の相関を示し,恋人 の“親密性回避”は友人の“見捨てられ不安”とも弱い相関を示し ていた。  これらの結果より,愛着の“見捨てられ不安”および“親密性回 避”は,各関係性間の同一次元において関連し,さらに,“見捨て られ不安”と“親密性回避”も関係性によらず関連していることが 示された。 両親の養育スタイル認知が愛着次元に与える影響 本研究の仮説に 基づき,回想された両親の養育スタイル認知が一般他者の愛着の2 次元に影響を与え,また,一般他者の愛着次元が恋人と友人の愛着 次元に影響を与えるというモデルを共分散構造分析により構成し た。構成したモデルをfigure1に示す。観測変数は各尺度について 因子分析及び信頼性分析をして残った項目の合計得点とした。すな わち,母親に対する養育スタイル認知尺度の下位尺度(“拒否的養 育態度”,“応答的養育態度”,“アンビバレント的養育態 度”),父親に対する養育スタイル認知尺度の下位尺度(“拒否的 養育態度”,“応答的養育態度”,“アンビバレント的養育態 度”),各ECRにおける下位尺度(“見捨てられ不安”,“親密性 回避”)である。また,潜在変数はそれぞれの外生変数に対応する 因子とした。なお,その際に観測変数が潜在変数に対して1つであ るため,モデル識別のために各潜在変数から観測変数へのパスを各 観測変数のα係数を用いて,√pSx,同様に誤差分散を(1-p)S2x に固定した。さらに,両親に対する養育スタイル認知尺度は,母 親,父親ともに因子間相関が高かったため,“母親養育態度”と “父親養育態度”の上位の潜在変数を想定した。そして,“母親養 育態度”と“父親養育態度”が一般他者の“見捨てられ不安”と “親密性回避”に影響を与え,さらに,一般他者の“見捨てられ不 安”が友人と恋人の“見捨てられ不安”および“親密性回避”に, また,一般他者の“親密性回避”も友人と恋人の“見捨てられ不 安”と“親密性回避”に影響を与えると仮定して分析を行った。な お,母親と父親の養育態度については,相関分析の結果から関連が あることが示されていたため,“母親養育態度”と“父親養育態 度”の間には共分散を仮定した。その結果,適合度指標としてχ2 (32)=41.49,p=n.s.,GFI=.97,AGFI=.93,CFI=.99, RMSEA=.04が得られ,モデルは十分に適合していると判断した。 パス図を見ると,“母親養育態度”と“父親養育態度”はともに, 下位の潜在変数(“拒否的養育態度”,“応答的養育態度”,“ア ンビバレント的養育態度”)のそれぞれに強い影響を与えていた。 また,母親養育態度は一般他者に対する“親密性回避”に中程度の 影響を,一般他者の“見捨てられ不安”に弱い影響を与えていた。 父親養育態度も一般他者の愛着次元に弱い影響を与えていた。さら に,一般他者の“親密性回避”と“見捨てられ不安”は,友人と恋 人の同一の愛着次元に中程度以上の影響を与えていた。  母親と父親の養育態度が恋人と友人の愛着次元に与える間接効果 についてみてみると,母親の養育態度は友人の「親密性回避」に は.31,「見捨てられ不安」には.32,恋人の「親密性回避」に は.35,「見捨てられ不安」には.27の影響が認められた。また,父 親の養育態度は友人の「親密性回避」に.20,「見捨てられ不安」 には.25,恋人の「親密性回避」には.24,「見捨てられ不安」に は.21の影響を与えていた。これらのことから,母親と父親の養育 態度は,一般他者への愛着次元のみならず,友人や恋人への愛着次 元にも弱いながらも間接的な影響を与えていることが明らかとなっ た。 考察    ここまで,青年期において回想された幼児期の親子関係が,愛着 の一般的表象モデルに与える影響について検討し,さらに,愛着の 一般的表象モデルが関係特異的表象モデルに与える影響について検 討してきた。  両親に対する養育スタイル尺度と各ECRの相関分析からは,母親 の“拒否的養育態度”,“アンビバレント的養育態度”は一般他者 の“見捨てられ不安”と,恋人,友人の愛着次元と有意な弱い正の table4 各 ECR における“見捨てられ不安”と“親密性回避”の相関 一般不安 一般回避 恋人不安 恋人回避 友人不安 一般回避 .17** 恋人不安 .51*** .20*** 恋人回避 .13* .48*** .25*** 友人不安 .60*** .25*** .62*** .29*** 友人回避 - .07 .49*** .09 .47*** .20** ***p<.001 **p<.01 *p<.05

(8)

相関が認められた。そして,父親の“アンビバレント的養育態度” も同様に,一般他者の“親密性回避”と恋人,友人の愛着次元と有 意な正の相関が示された。つまり,回想された両親への否定的な養 育スタイルと,現在における一般他者と関係特異的他者への否定的 な愛着次元に関連があることを示している。  一方で,母親の“応答的養育態度”は,一般他者の“見捨てられ 不安”以外の愛着の2次元と弱い負の相関が認められ,父親の“応 答的養育態度”は,一般他者と友人への“親密性回避”と恋人と友 人への“見捨てられ不安”と小さい値であるが有意な正の相関を示 していた。つまり,回想された両親への肯定的な養育スタイルと, 現在の一般他者および関係特異的他者における肯定的な愛着表象と は関連していることを示している。  さらに,回想された両親に対する養育スタイルと現在の一般他者 および関係特異的他者への愛着次元に相関関係が認められたことか ら,本研究で作成された,回想された養育スタイル認知尺度の併存 妥当性も確認されたということができる。  ところで,両親の養育態度認知の各次元と一般他者への“見捨て られ不安”との関連は“親密性回避”と比べて非常に小さいもので あった。関係特異的他者との“見捨てられ不安”との関連の強さと を考え合わせると,回想された両親の養育態度認知は,一般的な対 人関係にまつわる不安との関連は小さく,関係特異的な他者との間 での関係不安とより関連していると言える。そもそも,“見捨てら れ不安”とは特定の他者との関係の間でより強く喚起されると考え られることから,養育態度認知が一般他者への“見捨てられ不安” よりも関係特異的他者への“見捨てられ不安”と関連することは当 然の結果とも考えられる。また,母親の養育態度認知の各次元が各 ECRの愛着次元と関連していた一方で,父親の“拒否的養育態度” と“応答的養育態度”はともに一般他者への“見捨てられ不安”と 関連がなく,“拒否的養育態度”は恋人への“親密性回避”とも関 連が認められなかった。この結果は,回想された母親の養育態度認 知の方が父親のそれよりも一般他者や関係特異的他者における愛着 次元との関連が強いということを示している。Paterson, Field, & Pryor (1994)は,青年期女性が父親とは比較的距離の離れた関係 にあると指摘し,若尾(2001)やHazan & Zeifman(1994)も,母 親に対する愛着の安全基地機能が青年期においてなお残されること を示唆している。したがって,本研究の結果からは父親よりも母親 との関係の方が,一般的な愛着表象や関係特異的な愛着表象を形成 するためのプロトタイプ的な役割を果たしていることが推測され る。しかし,養育スタイル認知尺度の因子分析の結果からは,母親 と父親の養育態度認知次元は多少異なっていることが示されてい た。つまり,回想された養育態度は母親と父親で多少異なって認知 されており,子どもが青年期に至るまでの母親と父親の愛着形成に 果たす役割が異なっていることが考えられる。このことに関して は,今後更に検討することが必要だろう。 一般不安 一般回避 恋人不安 恋人回避 友人不安 友人回避 拒否 応答 アンビバレント 拒否 応答 アンビバレント 母親養育態度 父親養育態度 .87*** ‑.88*** .94*** .95*** ‑.92*** .89*** .66*** .78*** .76*** .29* .23* .51*** .35† .67*** .28** .20** .15†

χ

2

(32)=41.49,

p

=n.s.,

GFI

=.97

AGFI

=.93,

CFI

=.99,

RMSEA

=.04

有意なパスのみを表示

外生変数と誤差項は省略

***

p

<.001

**

p

<.01

*

p

<.05

p<.10

(9)

 各ECRについての相関分析の結果からは,先行研究(山口, 2007b)と同様に,“親密性回避”と“見捨てられ不安”は関係性 に関わらず同一次元で関連していることが示された。そしてまた, 関係性間での“親密性回避”次元と“見捨てられ不安”次元との関 連も示されていた。すなわち,個人の愛着表象は特定の関係性に関 わらず,一貫した傾向を示していることが考えられる。Bowlbyも 主張しているように,この結果は,個人内に形成された自他の愛着 表象は広く一般化されることを示唆しているといえる。  “親密性回避”と“見捨てられ不安”という愛着の2次元が個人 内,関係性間で相関が見られたという本研究の結果は,先行研究 (中尾・加藤,2004;山口,2007b)と異なっていた。中尾・加藤 (2004)の研究では,個人内における“親密性回避”次元と“見捨 てられ不安”次元に相関がないことが示されており,また,山口 (2007b)の結果でも,個人内および関係性間での“親密性回避” 次元と“見捨てられ不安”次元の相関は低いものであった。しか し,愛着の自己モデルと他者モデルの形成は理論的には独立したプ ロセスを辿るが,実際には相互に影響を与え合いながら形成されて いくと考えられている(繁田,1994)。したがって,本研究で示さ れた愛着の2次元間の関連は,IWM構造をより正確に示すものと考 えられる。しかし一方で,本研究における各ECRの因子分析の結果 についても,両親への養育スタイル認知尺度と同じように,関係性 によって因子項目に若干の差異が認められた。つまり,想起対象に よって愛着次元も異なった構造を有していることが考えられる。し たがって,今後は異なる関係性における愛着構造について更に検討 する必要があるだろう。  パス図(Figure1)を見てみると,“母親養育態度”と“父親養 育態度”から“応答的養育態度”へのパス係数が負の値を示し,他 のパス係数は正の値を示していることから,“母親養育態度”と “父親養育態度”は否定的な意味を含む潜在変数であると考えられ る。また,母親と父親の養育態度が一般他者への愛着次元に与える 影響はともに正の値を示していた。つまり,一般他者への愛着次元 への影響については,母親と父親の養育態度が肯定的なものである ほど,一般他者への“親密性回避”傾向と“見捨てられ不安”傾向 は低くなることを示している。  両親に対する養育スタイル認知が恋人と友人の愛着次元に与える 間接効果を見たところ,いずれも.20から.35の範囲で影響を与えて いることが示されていた。また,母父の養育態度が一般他者の愛着 次元に与える影響の標準化推定値をみると,恋人と友人の愛着次元 への間接効果の値と大きく異なっていなかった。この結果は,先行 研究(Hazan & Shaver, 1987;Collins, & Read, 1990;Owens, et al.,1995;Crowell, et al., 1999;Shaver, et al., 2000;Fraley, & Davis, 1997; 酒井,2001)が示しているように,過去の親子関係 が,一般他者への愛着次元のみならず,同程度の影響力をもって, 現在の友人や恋人などの関係特異的な他者への愛着次元にも影響を 与えうるということを示しているのであろう。  以上の結果より,幼児期における両親の養育スタイルが肯定的で あるほど,現在の一般的愛着表象と関係特異的愛着表象は自己モデ ルと他者モデルともに肯定的な影響を受け,さらに,一般他者への 愛着の自他のモデルも同じように肯定的であるほど,友人,恋人へ の愛着の自他モデルも肯定的なものになると考えられた。そしてま た,本稿冒頭で主張したように,回想された両親に対する養育スタ イルが愛着の一般的表象に影響を与え,さらに,愛着の一般的表象 が,愛着の関係特異的表象にも影響を与えるという仮説が支持され た。ただし,本研究では恋人がいない者も,恋人がいることを仮定 して調査を行ったものであり,現在までに恋愛経験の無い者も含ま れている。また,過去に恋愛経験があっても現在は恋人がいない者 が,どのような対象との恋愛経験を想起しているかは不明である。 したがって,現時点で恋人がいる者といない者では,恋人ECRには 何らかの差異があることが予想されるため,本研究から得られた結 果はこれらの問題が含まれていることを踏まえた上での結論である ことに注意が必要だろう。  ところで,本研究では両親に対する養育スタイルを測定するため に,青年本人による回想に基づいた質問紙を使用した。しかし,現 時点において回想された両親に対する養育スタイル認知は,現在に おける両親との関係が影響することが十分に考えられる。したがっ て,本研究において回想された養育スタイル認知と,実際の両親の 養育態度にはいくらかのズレがあることも考えられる。また,青年 期に至るまでに形成されてきたIWMや両親以外の関係特異的表象 が養育態度認知に影響を与えていることも考えられる。愛着は,主 たる養育者と子どもとの相互作用によって形成されると仮定されて いることから,ペアデータなどを利用した養育者自身からの報告に よる,子どもと養育者の双方からの愛着の評価が必要であろう。ま た,本研究では,一般的愛着表象が関係特異的愛着表象に影響を与 えると仮説を立てているが,山口(2007b)は関係特異的愛着表象 もまた,一般的愛着表象に対して影響を与えうることを示してい る。IWMの変容可能性や臨床的な意味を考慮した場合,一般的な 表象と関係特異的な表象は完全に独立しているわけではなく,互い に影響を与えあっていると考える方が妥当なことであろう。した がって,今後の成人愛着研究においては,関係特異的愛着表象が一 般的愛着表象に与える影響についても検討する必要があるだろう。 <付記> 本論文の作成にあたって,神戸大学大学院人間発達環境学研究科教 授播磨俊子先生に丁寧なご指導を,神戸親和女子大学教授大島剛先 生には調査依頼に関してご尽力頂きました。厚く感謝申し上げま す。 引用文献

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AAIは,Main, Kaplan, & Cassidy (1985)によって開発された成

人の愛着評価のための半構造化面接で,被験者となる成人に対し て,幼児期での母親や父親との経験や現在の両親との関係について 質問を行い,それらの反応から個人の愛着スタイルを分類するもの である。AAIにおいて愛着スタイルは,自律型,愛着軽視(拒絶) 型,とらわれ型,未解決型と分類される。なお,自律型の愛着スタ イルを有する者だけが,養育者と安定した関係にあるとされ,社会 的適応性が高いとされている(Kobak & Sceery, 1988)。一方,そ れ以外の愛着スタイルを有する者は養育者と不安定な関係であると され,対人関係様式や自己または他者イメージに問題を抱えるとさ れている(Cassidy, 1988;Hazan & Shaver, 1987)。

参照

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