14 Newsletter of the National Museum of Modern Art, Tokyo [Aug.-Sep. 2013]
新
し い コ レ ク シ ョ ン
尾藤豊(1950-1998)
《シベリア紀行》
1958年 油彩・キャンバス 162.1×130.3cm 平成24年度寄贈
大な緑の大地のほぼ中央に︑赤と
白に塗り分けられた
建造物
が描
かれています︒そこに
直交
する
上下 左 右
の軸が画面を四分割し︑大地の中に忽然
と現れる
都市
の
秩序
を表しています︒一
見してわかるように︑
実際
の
風景
を
再現
描写した絵画ではありません︒尾藤豊は︑
東京美術学校で建築を学んだという異色
の
経歴
をもつ
作家
ですが︑
都市
が有する
ダイナミズムを︑
複数
の
視点
を織り込ん
だ
展開図
のようなイメージとして
表現
し
ようとしています︒
赤い城壁の間から画面の中央を縦に延
びていく
鉄塔
のようなかたちに
着目
する
と︑それは
屹立
する塔を
真横
から描いて
いるようにも見えますし︑また
大地
に刻
まれた道を上空から捉えたようにも見え
ます︒
先端
へと向かって
収斂
していく塔
の
形状
は︑
遠近法
によって描かれた道の
それと重なり︑塔であれば垂直の高さを︑
道であれば大地の深い奥行きを観る者に
想像
させます︒このような
両義的
な塔=
道の先には︑地平線に浮かぶ黒い太陽が
連なります︒
画面の上部にわずかに顔をのぞかせた 地平
線を頼りにすると︑この
作品
は︑は
るか上空から俯瞰的に地上を眺めたもの
だということがわかります︒この
地平 線
が確固たる上下の軸を画面に与えている
のに比べて︑中央の建造物は複雑に切り 刻まれ︑多視点で再構成されています︒赤
い城壁にうがたれた開口部に注目すれば︑
その
位置
が
回転
していることに気づくで
しょう︒まるでその
視点
の
転換
を
予告
す
るように︑緑の大地にふたつの矢印が描き
こまれています︒
建造物の赤と白の色彩の対比を解き明
かすには︑尾藤が一九五七年に﹁世界青年
学生 平和友好祭
﹂参加
のために旧ソ連の
首都
モス
クワ
を訪問し︑その体験をもとに
本作品
が
制作
されたという
事実
に触れな
ければなりません︒発表時の題名は︽建築
場︾ ︑ ︽
シベリア
紀行
︾は
後年
の
改称
です︒
おそらく赤
レン
ガの
古い城壁はモスクワの
クレムリン宮殿を指しています︒そこにモ
ザイク状に絡み合う白い
部分
は︑
鉄道
の
信号
や
巨大
なクレーンが
示唆
する鉄とコ
ンクリートによる
近代的
な
構築物
を表し
ているのでしょう︒初出時の題名は新旧が
交錯
する
歴史的都
市モスクワの
力動
に焦
点をあてたもの︒しかし︑背景をなすのは︑
シベリア
鉄道
の
車窓
から眺めたと
想像
さ
れるシベリアの雄大な自然︒両者への感銘
が︑この作品に縫合されているのです︒
地上の世界を
鳥瞰
する
視点
で︑
都市
と
そこに生きる
人間
の
状況
を
把握
し︑それ
を箱庭のような複雑な空間の構造に置き
換える
尾藤独自
のスタイルがここに
完成
しました︒
︵美術課主任研究員 鈴木勝雄︶
尾 藤
豊