13 │ Newsletter of The National Museum of Modern Art, Tokyo [Jul.- Sep. 2018]
新しいコレクション
加 藤 清 之 ︽ 灰 陶
81 - 5 ︾
加藤清之(1931– )
《灰陶81-5》
1981年 陶器
高さ51.0、幅81.5、奥行20.0cm 平成29年度寄贈
撮影:エス・アンド・ティ フォト
加 藤清之が一九八〇年を前後して制作した灰陶シリーズのひとつ︽灰陶 81-
5︾︒
奥行きのある板状の形体︑内部の入り組んだ空間︑土で覆われていな
い部分は窓や出入り口を思わせ︑シリー
ズの中では際立って建築的な造形をして
います︒一方で︑まだらに広がる鈍い色
みや凸凹した表面は︑人の手が離れて︑暫く放置されたような︑廃虚と化したビ
ルを連想させます︒しかし︑加藤はこの作品に具体的なモチーフを持たせていませ
ん︒作品の解釈が狭まらないようにと︑陶の種類と制作年月を表す数字のみで作品名をつけている点に︑その考えが顕著に現れています︒鑑賞者によって︑ほか
の灰陶シリーズの作品もしばしば︑住居跡や遺跡といった〝人間が過去にいた場所〟を示す言葉で形容されるのですが︑そ
れは︑いつか見た荒れはてた建物の姿を想起するからでしょう︒
ところが︑この作品の制作工程を振り返ると︑〝廃虚感〟が単に造形の類似によ
るものではなく︑その造形を生み出す過程における人間の存在と関係している
ように思えてきます︒たとえば︑素材に
ついて︒この作品が粗い独特の風合いを持っているのは︑精製されていない︑つま
り人間の手を加えていない越前土を練っ
て作られているからです︒加藤はこの土
を紐状にし︑積み上げていくことで外部 を成形し︑同時に内部の複雑な構造も下
から順々に構築していきます︒直感に従
いながら︑時に余分なものを切り捨て︑自身を﹁土と一体化﹂していくのです︒作品の表面に刻まれた指の跡︑四角や円と
いった形は︑加藤が存在した痕跡なので
す︒特徴的な鈍い色みは︑鉄分を多く含
む越前土の特性を活かして︑焼成の具合
で引き出されたものです︒複雑に入り組
んだ構造により︑熱の入り方が一律では
ないため︑ひとつの作品で多様な色合い
を見ることができます︒また︑所々に灰
が吹きつけられています︒それが焼成に
よって溶け︑塵や錆のような独特の質感
となり︑作品に表情を加えています︒加藤は色の変化を予測しながらも︑最後の仕上げを素材の性質と炎に委ねているの
です︒
このように制作の一連の流れを通じて︑加藤は作品における自身の存在の有無を決定しています︒たとえ︑それが作品の意図とは別の次元で行われていたとしても︑鑑賞者は︑作品の造形としてその軌跡を見ることになります︒それらに︑人間が生
み出した建造物が放置され︑自然の力に
よって退廃していく様子を重ね合わせ︑〝廃虚感〟を感じ取ることができるのでは
ないでしょうか︒
︵工芸課客員研究員 野見山桜︶