教材学研究第 26 巻(2015) 1. はじめに 筆者が初めて竹楽器の演奏に心を動かされ たのは、鑑賞の授業研究を進める際に東南ア ジアの諸民族の音楽を聴いたときである。竹 楽器の乾いた音色やいろいろな種類の楽器の 組み合わせによる響きが何ともいえず心地よ く、不思議な音の空間として心に響いた。 授業でもこの竹を使って音楽を奏で、アン サンブルや合奏ができたら子どもたちは新し い学びを発見するであろうと考え、いろいろ な音源を探り、実践研究に取り組んだ。 本研究は、これまで学んだ竹楽器作りと指 導法の研究1)が基盤となっている。竹楽器の みのアンサンブルの実践経験を踏まえ、さら にいろいろな既存の楽器を組み合わせた竹楽 器の器楽曲の教材化について論を展開する。 2. 研究の目的と内容 本研究の目的は、手作りの竹楽器を取り入 れた器楽合奏を通して、音楽的な感受と表現 の工夫の視点から、新たな教材としての価値 について明らかにすることである。 主な研究の内容は、次の 3 点である。 (1) 東南アジアの音楽や竹楽器の音色、リ ズムなどに親しむ。 (2) 竹そのものの素材から楽器としての価 値を見い出し、竹楽器の音色やその組み 合わせによる響きを感じ取る。 (3) 既存の竹楽器の楽曲を基にリコーダー、 木琴などの楽器を組み合わせ、旋律やリ ズム、即興的な表現の工夫を通して、楽 曲の教材としての可能性を探る。 3.研究の方法 東南アジアの竹楽器に親しみ、竹楽器作り から演奏発表までの一連の学習過程を通し て、研究の目的に迫る。 (1) 東南アジアの音楽と竹楽器との関連 東南アジア地域は温暖な気候により、種類 こそ異なるが、日本同様に竹の植生が多く見 られる2)。この風土や歴史から、儀礼・儀式 と竹楽器との関わりについて密接なつながり があり、また芸能や音楽には、竹楽器を取り 入れた曲が見られる。 儀式・儀礼との関係では、大きく分けると 精霊信仰や豊作の儀式3)などである。例えば バリ島のヌガラ地方で有名なジェゴグは、精 霊に音を捧げる意味があり、その大音響や複 雑なリズムは周りの空気を揺さぶるような迫 力がある。このジェゴグは、現在は伝統的な 芸能としても大変高い人気を博しており、日 本でもその公演に接することができる4)。 本研究においては、これらの芸能や音楽の 中からいくつかの演奏を視聴し、竹楽器の組 み合わせによる響きやリズムに親しんだり、 簡単な竹楽器のアンサンブルに親しんだりす る。 (2) 竹を生かした楽器作り 竹は比較的手に入りやすく、真竹、孟宗竹、 黒竹など種類も豊富である。また、中が空洞 という特徴を生かし、削る、切る、穴を空け るなど、素材の減衰加工5)により、楽器と しての製作が比較的容易である。また、竹の
世田谷区立給田小学校 大湊 勝弘
小学校音楽科における竹楽器を取り入れた
器楽合奏の教材化について
―音楽的な感受と表現の工夫を通して―
〈実践研究〉直径や長さを変えたり、節を抜いたり保存し たりして、音色や音程の変化を工夫すること ができる。 本研究では、竹楽器の種類である体鳴楽器・ 膜鳴楽器・弦鳴楽器・気鳴楽器6)のうち、主 に比較的製作も容易である体鳴楽器の中から 子供が作りたい楽器を選択し、製作した楽器 を組み合わせて演奏の可能性をも追究する。 なお、竹素材は植生している竹(主に孟宗 竹)をそのまま切って使用すると、乾燥後に ひび割れを起こしてして使えなくなるため、 予め都内の竹専門店より必要な素材を購入し て製作することとする。 (3) 竹楽器を取り入れた楽曲の教材化 既存の竹楽器の曲を、筆者が小学生でも演 奏可能な曲に編曲した。子供自作の竹楽器(ス リットドラム、バリンビン、サゲイポ、レイ ンスティック、クロンプト)や、筆者が製作 したバンブーマリンバなどの東南アジアの竹 楽器を取り入れる。また、併せて既存の楽器 (リコーダー、木琴などの打楽器)を組み合 わせて音色や響きを豊かにする。 楽曲構成では、入れ子式のインターロッキ ングのリズム7)やケチャのリズムの要素を 取り入れたり、数名からなる2つのグループ による竹楽器の即興的なアンサンブルを取り 入れたりして、楽曲構成を工夫する。 詳細は以下の(4)1 の「楽曲について」 に詳しく記す。 4. 学習過程と演奏発表 (1)楽曲について 尺八等の旋律楽器と竹楽器を組み合わせた 「Nigiwai no Mori」(矢吹 誠作曲)、竹楽器 を幾つか組み合わせたオリジナルの楽曲「竹 の大地」(作曲 橘 政愛)の 2 曲を、筆者が 小学生でも演奏可能な曲に編曲した。 原曲の楽器構成は次の通りである。 「Nigiwai no Mori」※ <楽器名>尺八・パンフルート、竹ボラ、 マリンバ(1 〜 7 パート)、竹ベラ ※楽譜に記されている楽器名はローマ字 表記となっているが、本稿では日本語 表記とする。 このうち、尺八と竹ボラは気鳴楽器で、旋 律を演奏するが、小学生が製作したり演奏し たりするには難しいので、子供にも吹きやす いリコーダーで代用した。 また、ここで使用されるマリンバは竹で製 作されたバンブーマリンバであるが、本研究 の演奏では既存の木琴(バス、テナー木琴な ど)を 5 つのパートに分けて演奏することと する。 「竹の大地」 <楽器名>スタンプ(1 〜 5)、スーパー マウイ(1 〜 4)、バリンビン(1 〜 4) この曲は旋律が無く、体鳴楽器が主体と なっている。スタンプは長い竹筒を床に垂直 に打ち下ろす楽器で、打撃音が印象的である。 スーパーマウイやバリンビンもそれぞれ異な る大きさで、音高に違いが見られる。 編曲に当たっては原曲の構成を生かしなが らも次の点に考慮して編曲をした。 ・ 難しいパートは人数を分けて演奏する。 ・ 5音音階を基盤とした伴奏や旋律を挿入 する。 ・ グループによる即興的な部分を加えたり ケチャのリズムを加えたりする。 ・ 全体合奏と少人数でのアンサンブルを対 比させる。 なお、この曲は、東京都小学校音楽教育研 究大会(2006)8)にて、研究演奏(5 年生全員) として披露したものである。 (2) 音楽的な感受と表現の工夫による学習過 程 ①音楽的な感受 音楽的な感受は、音楽の諸要素であるリズ ム・旋律・音色・強弱などを知覚し、それら
の関わり合いから醸し出される曲の気分や雰 囲気を感じ取るものである。また、音楽の形 式的側面を知覚し、内容的側面を感じ取る能 力9)である。 本研究では、これまで音楽の授業で学習し てきた楽曲とは異なる様々な音楽を視聴する ことにより、世界には多くの種類の音楽があ ることに気づいたり、感じ取ったりすること により、音楽的な感性を広げたいと考える。 そのための教材として、主に東南アジアの 音楽を用いて研究を進めていく。 ア)東南アジアの音楽との出会い 東南アジアの様々な音楽から一例としてガ ムランを聴く。聴く際には、予め ・どのような楽器で演奏しているか ・各楽器の基本的なリズムはあるのか ・指揮者はいるのか、等である。 いずれもCDやDVD、LD等の視聴覚の 音源である。ガムランを含め授業で取り上げ た東南アジアの音楽を挙げると、次のような 楽曲を教材として使用した。 他にも、地域はアジア全体に広がるが、 <歌>と<箏>について、のど歌のホーミー (モンゴル)、カヤグムとチャンゴの演奏(朝 鮮半島)などについて視聴した。 イ)竹楽器を中心とした曲との出会い 前述の東南アジアの音楽との関連で、竹楽 器の演奏やその種類に焦点を絞る。次のよう な演奏との出会いを設定した。 これらの音楽を聴き、子供たちは、始めは 「なんだろう」という疑問から授業が展開さ れる。 様々なリズムや音色の変化、また音の重な りや響きなどから、曲想の変化を豊かに感じ 取ったり親しんだりすることにねらいを置く。 この東南アジアの音楽はこれまで親しんで きた西洋音楽の音階、長調や短調などの調性、 拍節的なリズム、和声感などとは異なり、今 まで体験したことのない音楽との出会いに、 驚きをもって接することになる。 <器楽> ○ガムラン(インドネシア) 青銅製の打楽器に笛(スリン)や太鼓を 加えて演奏する。 <合唱劇> ○ケチャ(インドネシア バリ島) 宗教的な踊りにラーマーヤナという物語 が組み込まれてできた。 ○トガトン(フィリピン) フィリピンのカリンガ族が演奏する。 竹筒の一方の節を残して切り、一人一人 が長さの異なる竹筒を持って床などに打 ち付けるようにして音を出す。 異なるリズムを6人一組で演奏する。 ○バリンビン(フィリピン) トガトンと同じくフィリピンのカリン ガ族が演奏する竹の楽器で、細めの竹筒 に縦に2本の切れ目を入れる。 片手に持った筒をもう一方の手に打ち つけることにより音が鳴り、インター ロッキングのリズムを組み合わせたり変 化させたりして演奏する。 ○トガリ-鼻笛(フィリピン) 横笛。唇を当てて吹くのではなく、鼻 を吹き口に当てて音を出す。鼻で息を入 れることが神聖であるといわれている。 図 1 竹の楽器 左から、バリンビン (4)、トガトン (2) スリットドラム、ギロ (2)、 竹素材
ウ)竹楽器によるアンサンブルの体験 鑑賞の授業から、トガトンやバリンビンな どの組み合わせによるアンサンブルの体験を 行い、そのリズムや響きを感じ取る。 トガトンの体験は、入れ子式によるイン ターロッキングのリズムの面白さや竹楽器の 響きを感じ取るのに、大変適している。 下の図 2 は、トガトンを最初に体験すると きの基本的なリズム譜である。左の縦項がト ガトンのパートで、下の 1 が一番低い音を受 け持ち、数字が増えるほどに竹筒が短くなり、 音が高くなる。 また、横項の数字は拍の流れ(拍子)で、 子供たちにも分かりやすいように 4 拍(拍子) で区切っている。ここでは、このフレーズが しばらく続いていると想定する。 ○が打つところ(1 拍)で、空欄が休みで ある。 図 2 基本形のリズム10) 右の図 3 は、図 2 の基本形を変化させたリ ズムパターンである(例)。紙面の都合で全 体像が見えにくいリズムではあるが、◆は○ を 2 分割(8 分音符)したものとする。また、 ●は、もう一方の手で筒に蓋をするような感 じでミュートをする。こもった音がして、音 色に変化をもたらす。 図 3 基本形をもとに変化させたリズム トガトンで経験したように、同じくバリン ビンでも行う。さらに、トガトンとバリンビ ンを組み合わせて音色に変化を持たせたり、 リズムを変化させたりしてその響きを感じ取 るようにする。このようなアンサンブルを通 して竹楽器に親しむ。 ②表現の工夫 前述の 4(1) で示した 2 曲の楽曲演奏につ いて、表現の工夫の仕方など、以下に述べる こととする。 ア)異なる種類の竹の活用 孟宗竹・真竹・黒竹などの種類の竹を使用 し、楽器の特徴によって直径や長さを変える。 主に真竹や孟宗竹は体鳴楽器(スリットドラ ム、バリンビン、レインスティック、スタン プ、ギロ等)に使用し、黒竹は気鳴楽器(サ ゲイポ)に使用する。 イ)音の出し方の工夫 打つ、擦る、 振る、 叩く、 吹くなどいろい ろな奏法で行ったりマレットや撥の選定をし たりする。 ○クロンプト…筒の切り口(空洞部分)を スポンジなどで叩く ○スタンプ…楽器本体を床に打ち付ける ○レインスティック…楽器を振る(ゆっく り、速く) ○ギロ…撥で擦る ○スリットドラム…マレットで叩く ○サゲイポ…唇の当て方をいろいろ試して よく鳴る吹き方を習得する 図 2 基本形のリズム10)
ウ)竹楽器の組み合わせ 同種類(バリンビン同士)、及び異種の竹 楽器(バリンビンやスリットドラムなど)の 組み合わせによる音色や響きの違いを表現す る。 エ)竹楽器と既存の楽器との組み合わせ 竹楽器と、リコーダーや木琴などとの組み 合わせや音の重なりなど構成を工夫する。 この留意点のウ)、及びエ)では、竹楽器 の素朴な響きを大切に同種類の楽器群で演奏 したり、異種類の楽器群で演奏したりと、音 色や響きの変化を持たせるようにした。 併せてソプラノからバスまでの4種類のリ コーダーや木琴、テナードラムや銅鑼などの 打楽器を加え、曲全体の響きを豊かに表現で きるように工夫した。 オ)即興的な演奏 編曲に当たっては新たに 2 つのグループに よる即興的な演奏の部分を加味した。全体で の合奏、そして途中に即興的なアンサンブル を加えることにより、楽曲の構成全体に変化 をもたらせるよう工夫した。 なお、この工夫の仕方は、これまで学んで きたリズムパターンや楽器の演奏の順番、組 み合わせ方などを意識して、子供たちが作っ て表現をすることとした。 このようにア)〜オ)の様々な表現媒体・ 表現要素を組み合わせながら楽曲表現の工夫 を試みた11)。 図 4 合奏練習の様子 5.結果と考察 -音楽的な感受から- ア)東南アジアの音楽との出会い 様々な音源を用いて視聴する活動を通し て、東南アジアの音楽にはこれまで聴いたり 演奏したりしてきた楽曲とは異なる多様なリ ズムや音色、豊かな響きを感じ取ることがで きた。 子供達は、初めて聴いたとき、「変な曲」「何 かのお祈りか儀式みたい」「今まで聴いたこ とがない感じ…」などの反応が見られた。前 述したインドネシアのガムランでは、「自分 達がやっているドレミ(音階)じゃない」、「鉄 琴に似た楽器がある」、「儀式で演奏するよう な曲だ」、「合っていないようでよく合ってい る」等の感想が出された。 実際に映像を視聴すると、「日本にはない 楽器が多くある」、「指揮者がいない」、「衣装 が特徴的」等の発言があり、演奏形態や服装 の違いなどにも気づくことができた。 このような学習から今まで聴いたり見たり したことのない演奏に、新しい“音楽の発見” を感じた。また、世界には自分達の知らない いろいろな伝統や文化がある、ということを 理解する一歩となったと考える。 イ)竹楽器を中心とした曲との出会い 竹は生活に身近な存在であるが、子供たち にはこれが楽器として演奏されるとは思って はみなかったようである。トガトンの演奏を 音だけで聴いてみると、「何かを打ち付けて いる」、「とんかち?ハンマー?」「木材かな…」 など、いろいろと意見が出されたが、竹素材 にたどり着くには少々時間がかかった。 「これも楽器なの?」の発言は、多くの子 供たちの思いを代弁している。 一つの竹が長さや打ち方、リズムを変える だけでこれだけ不思議で且つおもしろい音楽 に変わっていくことが、子供たちにとっては 新鮮であった。 ウ)竹楽器でのアンサンブルの体験 インターロッキングのリズムアンサンブル
の体験では、鑑賞活動から表現活動への導入 として有効であった。カリンガの人々が演奏 するトガトンは、6人がそれぞれ演奏するリ ズムが異なり、全体の様子を見渡すのに多少 の難しさがあったが、実際に自分たちで体験 することにより、 ・ リズムの組み合わせ方 ・ 始め方や終わり方 ・ 強弱の変化の付け方 ・ 同じ楽器や異なる楽器の音色や響きの変 化 ・ 互いの息の合わせ方など、音楽の諸要素 をはじめ多くのものを学ぶことができた。 このように、実際の竹楽器を用いての活動 体験は、東南アジアの竹楽器の音色の変化や リズムの組み合わせ方などを感じ取るのに有 効な学習となった。 -表現の工夫から- 2 曲の合奏曲の演奏では、竹楽器はリコー ダーや木琴など既存の楽器とも違和感なく融 け合い、これまでに経験のない響きや音の空 間を作り出すことができたのではないかと考 える。以下、その要因について述べる。 ア)竹の性質と役割 前述したように竹楽器には真竹や孟宗竹、 黒竹を主に用いたが、真竹や孟宗竹は体鳴楽 器として活用した。これは、比較的丈夫で打っ たり叩いたりしてもさほど竹素材の負担が大 きくないことが分かり、乾いた心地よい音が する。 黒竹は他の竹に比べて直径が細いため、笛 として適しており、音も比較的出しやすい。 また、バリンビンの製作には初めは細めの 真竹を使用していたが、堅くて鳴りにくい点 があった。そこでいろいろ調べたところ、女 竹の素材が柔らかく、よく鳴ることが分かっ たので、この素材を活用することとした。残 響が比較的長く、演奏するのに効果的であっ た。 イ)奏法やマレットの選択 それぞれの楽器固有の奏法は、楽器の音を 素直に引き出すことができた。マレットや撥 については、竹楽器の耐久性や叩く位置等を 考慮して選んだ。 スリットドラムでは木琴の毛糸巻きあるい はレースの糸巻きのマレットが一番適してい た。 1本の竹からいくつか楽器を製作するの で、同じ楽器でもそれぞれ節の長さが異なっ たり堅さが異なったりする。打つ位置につい ては一様ではないので、よい音を探し、一番 よく鳴る箇所を選ぶことが重要である。 なお、竹の表面は滑りやすく円形になって いるので、同じ打面を打ち続けることが比較 的難しいことも分かった。 ウ)竹楽器の組み合わせのよさと難しさ 竹楽器の組み合わせでは同じ楽器でも大き さ・長さなど異なる点があるので、音高・響 き等に違いが見られる。また、異なる竹楽器 の組み合わせでは音色や響きの違いが顕著 で、組み合わせにより現れる音の響きも多様 である。 大勢の人数で演奏する部分では、全体で同 じ竹楽器で同じリズムを奏でると、個々の楽 器が持つ音色などのよさが失われがちにもな る。その楽器の特徴を表現するには少人数で 表現するか、異なるリズムにしたり、組み合 わせを考えたりすることが大切である。 エ) 既存の楽器との組み合わせの効果-「竹の 大地」を例に― 既存の楽器との組み合わせでは、竹楽器の 素朴さと木琴やリコーダーとの相性は比較的 心地よい響きとなっていた。旋律を演奏する リコーダーはソプラノとテナーの2種類を1 オクターブ重ねて演奏することにより、音の 豊かさや広がりが感じられた。 また伴奏の役割をする木琴は、2種類の伴 奏型を重ねて奏で、音の重なりに変化をもた
らすことができた。これらの楽器に対して、 竹楽器はリズム伴奏的な役割を担うのである が、合奏全体のバランスに配慮しながら拍節 的なリズムを中心に据えることにより、曲全 体を引き締めることにも効果的であった。 オ) 即興的な部分の演奏から曲の終末に向けて ―「竹の大地」を例に― 2 つのグループによる子供達の即興的な演 奏は、楽曲構成を豊かに構成することに大き な役割を果たした。フレーズは短いながらも スリットドラムやレインスティック、バリン ビンを用いて一人一人の楽器の音色やリズム が際だって聞こえるよう演奏した。2 つのグ ループが順に演奏し、最後は一緒にリズムを 合わせて即興部分の演奏を閉じた。 紙面では表しにくいが、トガトンの体験で 学んだリズムやその変化を生かして表現した り、互いの思いや息を感じ取ったりしながら 演奏できたのではないかと考える。 この即興的な部分の後は、リコーダーと木 琴の演奏と合わせて竹楽器の全体合奏へと進 むが、終わりの部分に向けてケチャのリズム 形で表現した。演奏では前列に構えている子 供たちは全員竹べらを持ち、細かいリズムを 奏でながら途中で入る「チャッ チャッ チャッ」 のかけ声とともに、徐々にクライマックスへ と曲を盛り上げていった。 カ)楽曲の全体の構成から 「竹の大地」の楽曲構成は次のようになる。 □の記号等は楽譜の記号である。 Allegro 4 / 4 拍子 前奏 竹楽器全 体→ A いくつかのリズムパターンの部 分→ E つなぎの部分→ F 即興的な演奏 の部分→ G 旋律を主体とした部分→ J 竹楽器のリズム伴奏が加わる部分→ L 竹楽器の拍節的な部分→ M ケチャのリ ズムの部分 楽曲表現の工夫として○強弱、速度に変化 を持たせたこと、○楽器の組み合わせを全体、 竹楽器、既存の楽器など、音色や響きに変化 を持たせたこと、○拍節的・即興的な部分を 組み合わせたことなどが挙げられる。 このようにリズムを主体とした竹楽器にも 旋律や伴奏を加えることにより、原曲のよさ を生かしながら新しい楽曲と生まれ変わり、 音楽的な教材として価値のあるものとなる。 図 5 ケチャの部分のスコア ―竹楽器作りについて― 竹素材の加工の難易については、子供自身 の道具を使う経験値と製作楽器の種類による 違いが見られるが、「自分でも楽器を作るこ とができた」「自分だけの楽器!」という愛 着と活動への満足感が得られた。一方で、必 要な道具をそろえること、破損した場合の道 具の補充(特にのこぎりや切り出しナイフ) なども考慮する必要がある。 竹は乾燥などに弱く割れやすい素材なの で、保存の仕方に注意が必要である。また、 竹材の購入時によく見ないとわずかなひびが 入っていたり、虫食いなどの材料もあったり するので、この点も考慮したい。 今回は筆者が製作したバンブーマリンバ(5 音音階)以外は、竹琴(音程のある竹木琴) を製作しなかった。一つ一つの竹の音程を調 律することが難しく、また製作してもなかな かいい響きを得ることが難しいという問題が ある。製作の仕方など今後の課題として検討 していきたい。
6.おわりに -竹の楽器としてのよさと教材性- 竹は身近な素材であり、楽器製作において 小学生でも十分可能である。また、同種・異 種の竹楽器の組み合わせや、既存の楽器との 組み合わせにより、音色や響き、音の色彩感 を豊かに表現することができる。 このように合奏教材としての可能性を追究 する視点として次の 2 点が考えらえる。 ①既存の合奏教材をベースに竹の楽器を取り 入れ、既存の楽器との音色や重なり合う響 きを味わう。 ②竹楽器によるオリジナルの合奏曲を作曲す ることにより、音楽教材としてのジャンル が新たに広がり、子供たちにとっても新鮮 な音楽との接点が生まれる。 本研究を通して、いろいろな種類の竹楽器 から生み出される音色や響きを感じ取ると共 に、リズムの組み合わせによる面白さや表現 の多様さを学ぶことができた。このことは、 教科書教材等の既存の合奏曲には見られない 新たな教材としての価値があり、さらに、こ れまで経験のない新たな音楽観の拡大に繋が る可能性を大いに秘めている。本研究での経 験を基に、今後さらに研究を積み重ねていく。 注・引用文献 1)大湊勝弘「竹を音素材とした東南アジア の音楽の教材化と指導法の研究―素材を生 かした楽器作り・音楽づくりの実践を通し て―」東京学芸大学大学院修士論文 2004 2)室井綽(農学博士)は竹とバンブーを分 け、地下茎があって稈(かん)がある物を 竹、地下茎がほとんど無く群がって生える 熱帯産の物をバンブーとした。室井綽「竹 の世界」地人書館 1996 3)ポール・コラール「東南アジア」『人間と 音楽の歴史』音楽之友社 1986 4)スアール・アグンの来日公演によるジェ ゴグの演奏 2003 すみだトリフォニーホー ル ジェゴグは、最重低音楽器の名前で、 かつアンサンブル形態を表す。全体の音域 は約 5 オクターブある。 5)郡司すみ「民族楽器の地域的特質について」 『研究紀要第 12 集』国立音楽大学 1977 6)島崎篤子・加藤富美子「授業のための日 本の音楽・世界の音楽」音楽之友社 1999 7)一般に入れ子式のリズムと言われている。 相手の一定のリズムパターンの間に自分の リズムパターンを入れて幾つかのパターン を組み合わせる。組み合わせによるリズム や重なる音の響きがおもしろい。 8)東京都小学校音楽教育研究大会 山の手 D ゾーン大会 大会主題「かかわりの中で -学ぶ楽しさ 深まる音楽」 世田谷区・ 渋谷区・町田市の各小学校音楽教育研究会 が合同で研究をおこなったもの。国立オ リンピック記念青少年総合センターカル チャー棟にて 2006 9)西園芳信 小島律子「小学校音楽科の指 導と評価」暁教育図書 2004 p32 「音楽の形式的側面〜」について引用した。 10)島崎篤子・加藤富美子「授業のための日 本の音楽・世界の音楽」音楽之友社 1999 p98 ここで示されている基本のリズムの 表を参考にした。 11)本演奏については、筆者のみならず区内 の他校の先生方、指導助言の内山澄孝(国 立音楽大学教授 当時)先生の指導も仰い だ。