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ii 沿岸海洋生態系の保全と持続的漁業の共存 ~ 人もアザラシも共存できる道を拓く ~ 漁業資源動態 個体群動態モデル 保護管理シナリオの策定 社会経済的評価 持続可能な漁業のための具体的提言 被害対策技術 保護と管理 ( 個体数管理 被害防除 ) 人間活動 資源の減少 サケ 気候変動

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課 題 名 4-1301 親 潮 沿 岸 域 のゼニガタアザラシと沿 岸 漁 業 の共 存 に向 けた保 護 管 理 手 法 の開 発 課 題 代 表 者 名 桜 井 泰 憲 (国 立 大 学 法 人 北 海 道 大 学 水 産 科 学 研 究 院 資 源 生 態 学 分 野 資 源 生 態 学 グ ループ) 研 究 実 施 期 間 平 成 25~27年 度 累 計 予 算 額 126,056千 円 (うち平 成 27年 度 :42,019千 円 ) 予 算 額 は、間 接 経 費 を含 む。 本 研 究 のキーワード 野 性 動 物 管 理 、希 少 種 、沿 岸 生 態 系 、漁 業 被 害 、被 害 防 除 、行 動 、ゼニガタアザラシ、 定 置 網 、親 潮 沿 岸 域 、 研 究 体 制 (1)移 動 生 態 と遺 伝 的 交 流 の有 無 による個 体 群 構 造 と地 域 特 性 の解 析 (学 校 法 人 東 京 農 業 大 学 ) (2)鰭 脚 類 による漁 業 被 害 と資 源 動 態 との関 連 の評 価 (独 立 行 政 法 人 水 産 総 合 研 究 センター北 海 道 区 水 産 研 究 所 ) (3)飼 育 および野 生 環 境 下 における個 体 の採 餌 行 動 解 明 (国 立 大 学 法 人 北 海 道 大 学 フィールド科 学 研 究 セ ンター) (4)混 獲 ・漁 業 被 害 軽 減 手 法 の開 発 と持 続 型 漁 業 の社 会 経 済 的 評 価 (国 立 大 学 法 人 北 海 道 大 学 水 産 科 学 研 究 院 ) 研 究 概 要 1.はじめに(研 究 背 景 等 ) 近 年 、北 海 道 東 部 沿 岸 に生 息 するゼニガタアザラシによる漁 業 被 害 (漁 獲 物 の食 害 )が大 きな問 題 になって いる。北 海 道 東 部 沿 岸 (以 下 、道 東 沿 岸 )の親 潮 海 域 は、世 界 でも生 産 力 の高 い海 域 の一 つである。海 洋 生 態 系 の高 次 捕 食 者 である鰭 脚 類 (トド・オットセイ・アザラシ類 )は、当 該 沿 岸 域 を採 餌 場 として利 用 している。 本 研 究 で対 象 とするゼニガタアザラシは、道 東 沿 岸 に周 年 生 息 して繁 殖 している唯 一 の鰭 脚 類 である。本 種 は 1970年 代 始 めまでに過 度 な狩 猟 や生 息 地 の破 壊 により激 減 し、絶 滅 の危 機 に瀕 した。現 在 では、個 体 数 は回 復 傾 向 にあるが、本 種 が出 産 ・育 子 、休 息 する上 陸 場 の数 は増 加 しておらず、2か所 (えりも岬 /厚 岸 大 黒 島 ) に上 陸 個 体 数 の70%以 上 が集 中 おり、いまだ希 少 種 として保 護 されている。道 東 沿 岸 は北 太 平 洋 ・大 西 洋 にま たがるゼニガタアザラシの分 布 の端 にあたり、北 方 四 島 の個 体 群 とともに1亜 種 として扱 う説 もある。しかし、既 往 研 究 から、えりも岬 上 陸 群 は独 立 個 体 群 である可 能 性 が示 唆 されており、絶 滅 リスクの評 価 に耐 えうる情 報 は不 足 している。また、個 体 数 の増 加 に伴 って、漁 業 被 害 の増 加 が報 告 されており、ゼニガタアザラシの保 護 管 理 と持 続 的 沿 岸 漁 業 との共 存 が喫 緊 の課 題 となっている。そこで、本 種 の保 護 管 理 と漁 業 との共 存 を目 指 して、1)「道 東 から北 方 四 島 までの本 種 の生 息 地 の保 全 」、および2)「共 存 可 能 な持 続 的 漁 業 の創 成 」を課 題 として、様 々な手 法 から問 題 解 決 に挑 む。

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個体群動 態モデル 被害対策 技術 保護管理 シナリオ の策定 社会経済 的評価 漁業資源 動態 持続可能な漁業のた めの具体的提言 保護と管理 (個体数管理・被害防除) アザラシ 人 サケ ツーリズム (局所的に)増加傾向 混獲 漁業被害 生態系 人間活動 経済的リスク 絶滅リスク 漁獲 捕食 気候変動 資源の減少 絶滅危惧種 競合 地域経済 への負荷 孵化放流 事業 沿岸海洋生態系の保全 (環境収容力) 図 1 研 究 開 発 のイメージ 2.研 究 開 発 目 的 本 研 究 は、本 種 の保 護 管 理 と沿 岸 漁 業 との共 存 を目 標 に、道 東 ~北 方 四 島 までの生 息 地 の保 全 および共 存 可 能 な持 続 型 沿 岸 漁 業 の創 成 を挙 げる。これまで蓄 積 されてきた北 海 道 のゼニガタアザラシの長 期 個 体 数 カ ウントデータ、主 要 漁 業 資 源 の長 期 漁 獲 量 ・資 源 量 データ、水 温 などの海 洋 環 境 の基 礎 的 データに加 えて、北 方 四 島 海 域 においてもロシア人 研 究 者 と協 力 して個 体 数 ・分 布 調 査 、遺 伝 学 的 調 査 を行 い、最 新 の小 型 発 信 機 を用 いて個 体 の移 動 ・行 動 圏 データを取 得 することで、現 在 の生 息 状 況 を明 らかにする。繁 殖 ・栄 養 ・(遊 泳 ) 行 動 などの生 物 学 的 特 性 を明 らかにするとともに、個 体 群 のリスク評 価 を行 う。漁 業 被 害 軽 減 の技 術 的 対 策 を 模 索 し、沿 岸 漁 業 の管 理 のために不 可 欠 な高 次 生 態 系 の変 動 予 測 手 法 の開 発 と精 度 向 上 のための基 礎 的 知 見 を得 る。これらから、生 産 性 の高 いホットスポットである当 該 海 域 の沿 岸 海 洋 生 態 系 の生 物 多 様 性 の保 全 に 大 きく寄 与 することを目 的 とする。 3.研 究 開 発 の方 法 (1)移 動 生 態 と遺 伝 的 交 流 の有 無 による個 体 群 構 造 と地 域 特 性 の解 析 本 研 究 で は 、 遺 伝 様 式 お よ び 遺 伝 速 度 の 異 な る 2つ の 遺 伝 子 、 ミ ト コ ン ド リ ア DNA( 以 下 、 mtDNA) と マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト を 使 い 、 北 海 道 ( 北 方 四 島 を 含 む ) の ゼ ニ ガ タ ア ザ ラ シ の 集 団 遺 伝 構 造 を そ の 歴 史 的 背 景 、 近 年 の 個 体 数 変 動 、 雌 雄 の 定 着 性 の 違 い を 考 慮 し 解 明 す る こ と を 目 的 と す る 。 サ ン プ ル に は 、北 海 道( 北 方 四 島 を 含 む )の ゼ ニ ガ タ ア ザ ラ シ の 主 要 繁 殖 上 陸 場 を 含 む 4地 域 、襟 裳 、厚 岸 、浜 中 、 根 室 ( 北 方 四 島 由 来 ) の 定 置 網 で 混 獲 、 捕 獲 ま た は 漂 着 し た 個 体 の 筋 肉 サ ン プ ル を 使 用 す る 。 加 え て 、 生 体 捕 獲 や 混 獲 個 体 に 発 信 機 を 装 着 し て 、 北 海 道 に 生 息 す る ゼ ニ ガ タ ア ザ ラ シ の 行 動 圏 と 移 動 距 離 に つ い て 調 べ る 。

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シを取 り巻 く餌 生 物 環 境 を明 らかにするために上 陸 場 周 辺 において継 続 的 な魚 類 採 集 調 査 を実 施 すると共 に、 より広 域 の調 査 結 果 を利 用 して餌 生 物 環 境 の時 空 間 的 変 化 を明 らかにする。ゼニガタアザラシおよび餌 生 物 の 食 性 分 析 を行 い、定 常 的 モデルにより本 種 を中 心 とした食 物 網 の構 造 を明 らかにすると共 に、本 種 による餌 資 源 の消 費 量 を推 定 する。更 に、環 境 変 動 がゼニガタアザラシおよび地 域 漁 業 の重 要 資 源 に及 ぼす影 響 を明 らか にする。 (3)飼 育 および野 生 環 境 下 における個 体 の採 餌 行 動 解 明 漁 場 周 辺 での行 動 を調 べるためにバイオロギング手 法 を用 いる。まず、海 域 での行 動 圏 を明 らかにするため、 精 度 の良 いGPS衛 星 発 信 器 を個 体 に装 着 する。次 に、定 置 網 周 辺 での行 動 をモニタリングするため、音 波 発 信 器 を個 体 に装 着 し、定 置 網 周 辺 に受 信 機 を複 数 台 設 置 することにより、個 体 の位 置 を定 位 する。また、襟 裳 岬 で生 体 捕 獲 をした個 体 を水 族 館 に搬 入 し、生 きたサケに対 して、どのように反 応 するのかを明 らかにする。さらに は擬 似 漁 具 を投 入 し、物 理 的 な防 除 法 が効 果 的 かどうかを検 証 する。 (4)混 獲 ・漁 業 被 害 軽 減 手 法 の開 発 と持 続 型 漁 業 の社 会 経 済 的 評 価 4-1)混 獲 ・漁 業 被 害 軽 減 手 法 の開 発 本 研 究 では、対 象 とする定 置 網 において、適 切 な被 害 防 除 法 を検 討 するため、1)定 置 網 の操 業 環 境 (網 への 水 深 ロガー装 着 による操 業 時 刻 のモニタリングと漁 獲 状 況 の調 査 )、2)定 置 網 に侵 入 するアザラシの行 動 調 査 (水 中 カメラ、音 響 カメラ)を行 う。その結 果 をもとに、3)漁 具 改 良 法 (①箱 網 内 への仕 切 り網 (遮 断 網 )装 着 、② 箱 網 入 口 への格 子 網 装 着 )を考 案 し、海 上 試 験 によりその効 果 を評 価 する。 4-2)持 続 型 漁 業 の社 会 経 済 的 評 価 個 体 群 動 態 モデルの作 成 :過 去 から現 在 までのゼニガタアザラシの個 体 群 増 加 率 を算 出 し、国 内 最 大 の上 陸 場 であるえりも岬 のゼニガタアザラシ個 体 群 について、将 来 予 測 を行 う。推 移 行 列 により本 種 の生 存 率 を推 定 する。 社 会 経 済 学 的 評 価 :地 域 住 民 および高 校 生 に、持 続 型 漁 業 について聞 き取 り調 査 を行 う。 4.結 果 及 び考 察 (1)移 動 生 態 と遺 伝 的 交 流 の有 無 による個 体 群 構 造 と地 域 特 性 の解 析 mtDNAの分 析 の結 果 、16のハプロタイプが検 出 され、そのうち4タイプは襟 裳 とその他 の地 域 の両 方 で確 認 さ れ、9タイプは1地 域 からしか見 られない地 域 特 異 的 ハプロタイプであった。mtDNAのハプロタイプ多 様 度 および塩 基 多 様 度 は襟 裳 で両 指 標 とも低 く、過 去 に長 期 のボトルネック後 に集 団 が回 復 していないことが示 唆 された。そ れ以 外 の地 域 では、ハプロタイプ多 様 度 は高 いが塩 基 多 様 度 が低 く、ボトルネック後 に一 斉 放 散 した集 団 である と推 定 された。一 方 、マイクロサテライト解 析 の多 様 度 は、地 域 ごとに有 意 差 が見 られなかったことから、各 集 団 内 で自 由 交 配 していることが考 えられた。 遺 伝 的 分 化 係 数 は、mtDNA、マイクロサテライトともに襟 裳 とそれ以 外 の地 域 での異 なることを示 したため、北 海 道 のゼニガタアザラシは、雌 雄 ともに襟 裳 とそれ以 外 の地 域 間 での移 入 ・移 出 が少 ないと判 断 された。 また、ゼニガタアザラシに発 信 機 を装 着 して移 動 範 囲 を調 べた結 果 、移 動 範 囲 は成 長 段 階 ごとに異 なるが、数 十 kmと非 常 に狭 いことが明 らかになった。 これらのことから、北 海 道 のゼニガタアザラシは、襟 裳 とそれ以 外 の地 域 で遺 伝 的 に異 なる集 団 であるため、 両 地 域 の集 団 は別 々に個 体 数 管 理 が必 要 と判 断 された。 (2)鰭 脚 類 による漁 業 被 害 と資 源 動 態 との関 連 の評 価 道 東 沿 岸 域 東 部 に分 布 するゼニガタアザラシを対 象 に広 域 航 空 センサスを実 施 し、陸 上 センサスの成 果 と併 せて、当 該 域 の本 種 生 息 数 は670頭 (95%C.I.:504−835頭 )と推 定 した。根 室 海 峡 トド、道 東 東 部 のゼニガタア ザラシの何 れも陸 上 からの継 続 的 なセンサスにより相 当 の精 度 が保 証 されるが、新 規 上 陸 場 の形 成 や不 可 避 的 な死 角 の発 生 に対 処 するためには、数 年 に一 度 の航 空 センサス実 施 が好 ましいと結 論 された。えりも上 陸 場 周 辺 の魚 類 群 集 ではカジカ類 が圧 倒 的 に優 占 しており、特 異 な魚 類 相 を形 成 していた。カジカ類 がゼニガタアザ ラシ類 の餌 として好 ましくないために、これら魚 種 が上 陸 場 周 辺 で卓 越 している可 能 性 が指 摘 された。ゼニガタア ザラシによる消 費 量 が最 も多 かったのはタコ類 であり、周 辺 地 域 での漁 獲 量 の1/4程 度 に上 った。一 方 、サケに 対 する捕 食 圧 は限 定 的 であった。食 物 網 構 造 を分 析 したところ、えりも岬 上 陸 場 周 辺 域 では最 上 位 捕 食 者 であ るゼニガタアザラシの密 度 が特 異 的 に高 く、これが過 剰 な捕 食 圧 を通 じて漁 業 への直 接 ・間 接 的 な影 響 を及 ぼし ている可 能 性 が指 摘 された。

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衛 星 発 信 器 による追 跡 では、襟 裳 岬 周 辺 海 域 の行 動 圏 についてGPSによる詳 細 なデータを得 ることができた。 また、個 体 に音 波 発 信 器 を装 着 し、定 置 網 周 辺 に音 波 受 信 機 を複 数 台 設 置 することにより、定 置 網 に入 る行 動 と入 らなかった行 動 を区 別 することができた。この結 果 、漁 期 前 からアザラシは定 置 網 周 辺 を通 過 しており、通 り 道 として利 用 していることが示 唆 された。また、1個 体 のみが何 回 も同 じ網 に来 ていたが、この個 体 はモニタリング していた網 で混 獲 された1歳 以 上 の個 体 であることが判 明 した。次 に、水 族 館 において飼 育 実 験 を行 ったところ、 生 きたサケなど、見 たことのない物 体 についての反 応 では、個 体 による行 動 特 性 の違 いが確 認 できた。さらに、 経 年 的 な飼 育 実 験 の結 果 、同 じ個 体 でも経 験 や文 化 の伝 搬 によって、餌 のサケに対 するハンドリング反 応 が変 化 することが明 らかとなった。加 えて、本 種 の漁 業 被 害 を防 除 するため、物 理 的 に網 に入 れなくするような格 子 網 の開 発 を進 めるため、飼 育 下 において、どれくらいの格 子 目 の幅 を通 り抜 けられることができるのかを実 験 した。 この結 果 、肩 甲 骨 の幅 よりも小 さい格 子 では、アザラシは通 り抜 けられないことが明 らかとなった。 (4)混 獲 ・漁 業 被 害 軽 減 手 法 の開 発 と持 続 型 漁 業 の社 会 経 済 的 評 価 4-1)混 獲 ・漁 業 被 害 軽 減 手 法 の開 発 1)操 業 環 境 対 象 とした定 置 網 の操 業 時 間 は、待 ち時 間 約 7時 間 、約 13時 間 の2パターンが主 であった。この 時 間 をもとに、CPUE(単 位 時 間 あたり漁 獲 量 )を求 めて時 期 ごとの変 動 を調 べた。その結 果 、CPUEは9月 に最 大 値 を示 し、その後 10月 下 旬 に向 けて減 少 していた。箱 網 の水 深 平 均 値 は、10月 中 旬 までほぼ15m程 度 で安 定 していたが、それ以 降 は平 均 水 深 と最 大 水 深 の差 が4m程 度 になることが頻 繁 となった。このことから、漁 具 改 良 では潮 流 による流 体 抵 抗 をできるだけ抑 え、かつ軽 量 な構 造 とすることが必 要 と判 断 した。 2)アザラシ行 動 調 査 カメラ観 測 により、サケは時 刻 に関 わらず入 網 していることがわかった。また、音 響 カメ ラにより、アザラシの定 置 網 への侵 入 頻 度 が夕 方 前 から夜 間 にかけて増 加 することがわかった。特 に、日 没 後 の 薄 明 時 に網 内 で活 発 に行 動 していた。観 測 されたアザラシのサイズ範 囲 は60~200 cm程 度 であり、100~150 cmの個 体 が優 占 していた。遊 泳 速 度 は特 に日 没 前 後 に速 くなり、この時 間 帯 に活 発 にサケを捕 食 していること が推 察 された。 3)漁 具 改 良 法 ①仕 切 り網 (遮 断 網 ):定 置 網 網 の箱 網 内 部 にアザラシに追 われたサケが逃 避 できる区 画 を 設 けるために仕 切 り網 を装 着 し、海 上 試 験 により被 害 軽 減 効 果 を確 認 した。その結 果 、試 験 網 よりも対 照 網 で サケの総 尾 数 は多 かった。ただし、生 きたサケの尾 数 は試 験 網 で多 く、食 害 割 合 は試 験 網 で40 %、対 照 網 で89 % と顕 著 な差 が認 められた。一 方 、仕 切 り網 装 着 は揚 網 時 の負 荷 を増 加 させるなど問 題 点 も見 られた。②格 子 網 (ロープ格 子 ):箱 網 入 口 の漏 斗 部 にダイニーマ製 ロープ(直 径 2.3mm)で製 作 した格 子 (格 子 目 サイズ:20x20cm, 20x40cm)を装 着 して海 上 試 験 を行 い、水 中 カメラ観 測 によりその効 果 を確 認 した。その結 果 、20x20cm格 子 で は、アザラシの侵 入 防 除 率 は87%であった。一 方 、サケの格 子 に対 する通 過 率 は約 20%と、多 くのサケが格 子 を 忌 避 して箱 網 に入 らない状 況 が観 測 された。しかし、操 業 期 間 中 の格 子 の有 無 による漁 獲 状 況 の比 較 では、 “格 子 あり”での平 均 漁 獲 尾 数 は“格 子 なし”よりも1割 ほど多 く、平 均 被 害 率 も“格 子 なし”の0.27から0.02と大 幅 に減 少 した。なお、調 査 終 了 後 も漁 業 者 は自 主 的 に格 子 網 を使 用 していた。このことから、考 案 ・試 作 した格 子 網 の効 果 と運 用 上 の実 用 性 は十 分 なものと判 断 した。 4-2)個 体 群 動 態 モデルの作 成 と持 続 型 漁 業 の社 会 経 済 的 評 価 個 体 群 動 態 モデルの作 成 :長 期 モニタリングデータから個 体 群 増 加 率 を算 出 したところ、年 平 均 3~7%で増 加 していたが、諸 外 国 と比 較 すると低 く、混 獲 による影 響 と推 察 された。えりも岬 におけるゼニガタアザラシの生 息 数 の将 来 予 測 を行 ったところ、これまでのところのK値 (環 境 収 容 力 )は、1,500頭 程 度 であることが示 唆 された。 また、生 息 数 が400頭 以 下 になった場 合 は、絶 滅 リスクが高 まることが明 らかになった。年 平 均 生 存 率 は、成 獣 では90~99%、幼 獣 では10~60%であり、1年 に1子 の本 種 は、子 どもの死 亡 率 が高 いが、成 長 した後 はほとん ど死 なないことが明 らかになった。これらのことから、今 後 の本 種 の管 理 政 策 としては、えりも町 における本 種 の 目 標 生 息 数 は700~1500頭 とし、海 洋 環 境 の変 化 に対 応 した順 応 的 管 理 を行 っていくことが提 案 される。また、 個 体 群 の保 護 のためには、成 獣 のメスの保 護 が重 要 である。サブ(3)およびサブ(4)の結 果 により、定 置 網 内 に 侵 入 し、サケを捕 食 しているのが特 定 の個 体 があることをふまえると、今 後 、個 体 管 理 が重 要 であると提 案 され る。 社 会 経 済 学 的 評 価 :えりも町 民 約 100名 にアンケート調 査 の結 果 では、漁 業 を営 むにあたり不 満 な点 の第 一 位 は“収 入 ・漁 獲 量 が安 定 していないこと(約 52%)”、であった。ゼニガタアザラシ被 害 対 策 に求 めること第 一 位 は “駆 除 (個 体 数 調 整 )(約 56%)”であったが、同 時 に観 光 への影 響 が懸 念 されていた。ただし、アザラシの絶 滅 を 望 む町 民 は一 人 もいなかった。定 置 網 漁 業 者 からは、“1定 置 網 あたり、年 間 7千 万 円 から1億 円 の売 り上 げで安 定 的 にやっていける。しかし、近 年 はゼニガタアザラシによる漁 業 被 害 で年 間 売 り上 げが5千 万 円 程 度 であり赤 字 経 営 である”といった声 も聞 かれた。“金 額 的 に、観 光 収 入 による被 害 金 額 の補 てんは厳 しい(1万 人 から一 人

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は、“銀 聖 サケ(地 域 )ブランドの拡 充 ”、“(アザラシ捕 食 から生 き延 びた)幸 運 のサケ”などのアイデアが挙 げられ た。 漁 業 者 を含 む各 ステークホルダー(利 害 関 係 者 )は、「未 来 の世 代 が継 続 して活 用 できるように漁 業 資 源 を保 全 する」ことの重 要 性 に、現 在 では必 ずしも気 づいていないと推 定 された。漁 業 資 源 を適 切 に管 理 しながら持 続 的 に利 用 して行 くためには、各 地 域 の漁 業 協 同 組 合 や自 主 的 な漁 業 種 組 織 などが、それぞれ主 導 する効 率 的 な漁 業 管 理 をより実 行 して行 くことが重 要 であると考 えられた。 5.本 研 究 により得 られた主 な成 果 (1)科 学 的 意 義 サブテーマ1)では、こ れ ま で mtDNAの み で し か 行 わ れ て こ な か っ た 北 海 道 ( 北 方 四 島 を 含 む ) ゼ ニ ガ タ ア ザ ラ シ の 集 団 遺 伝 構 造 解 析 を 、mtDNA、 マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト の 両 者 を 利 用 し て 行 っ た 。そ の 結 果 、 襟 裳 と そ れ 以 外 の 地 域 で 遺 伝 的 集 団 が 異 な る 可 能 性 が 高 く 、 北 海 道 ( 北 方 四 島 を 含 む ) の ゼ ニ ガ タ ア ザ ラ シ は 、雌 雄 と も に 襟 裳 と そ れ 以 外 の 地 域 で 遺 伝 的 交 流 が 少 な い こ と が 明 ら か に な っ た 。ま た 、ゼニガ タアザラシに発 信 機 を装 着 して移 動 範 囲 を調 べた結 果 、移 動 範 囲 は成 長 段 階 ごとに異 なるが、数 十 kmと非 常 に 狭 いことが明 らかになった。こ れ ら の こ と か ら 、 今 後 ゼ ニ ガ タ ア ザ ラ シ 個 体 群 の 保 護 管 理 を 進 め る た め に は 、 襟 裳 と 道 東 の 2集 団 に 分 離 し た 保 護 管 理 を 提 案 し た 。 サブテーマ2)では、根 室 海 峡 〜北 海 道 南 東 岸 (厚 岸 以 東 )沿 岸 海 域 にいたる広 域 において、鰭 脚 類 を対 象 と した航 空 機 センサス調 査 をはじめて実 施 した。また、えりも岬 においてはじめて資 源 量 調 査 を行 い、ゼニガタアザ ラシを高 次 捕 食 者 とする沿 岸 海 洋 生 態 系 の解 明 に向 けて、基 礎 的 なデータを収 集 することができた。さらには、 食 物 網 のモデルを作 成 した。 サブテーマ3)では、発 信 機 を装 着 した個 体 が、繰 り返 し定 置 網 に出 入 りしていることを明 らかにした。また、えり も岬 で生 体 捕 獲 したゼニガタアザラシ5頭 を、青 森 県 営 あさむし水 族 館 に輸 送 し、飼 育 を実 施 した。野 外 でのフィ ールド研 究 に飼 育 下 での研 究 結 果 を融 合 することで、漁 業 被 害 軽 減 に向 けて本 種 の生 態 解 明 を進 めるとともに、 サブテーマ4の被 害 防 除 手 法 の開 発 に貢 献 した。 サブテーマ4)では、サブテーマ3)の飼 育 実 験 データをもとに、日 本 ではこれまで全 く実 施 されていなかった、ゼ ニガタアザラシの漁 業 被 害 ・混 獲 軽 減 のための漁 具 の改 良 に着 手 した。定 置 網 に鉄 格 子 を設 置 して物 理 的 なア ザラシの侵 入 阻 止 を試 みた結 果 、大 型 個 体 の侵 入 は阻 止 し、被 害 軽 減 に成 功 した。過 去 40年 間 に蓄 積 された 個 体 数 調 査 (センサス)データを整 理 ・解 析 することで、本 種 の分 布 と個 体 群 の増 加 率 を算 出 し、基 礎 的 な生 態 学 的 パラメータを得 ることに成 功 した。IUCNレッドデータブックにおいて、”UNKNOWN(情 報 なし)”とされていた千 島 列 島 から北 海 道 東 部 沿 岸 に生 息 するゼニガタアザラシについて、生 息 状 況 を明 らかにした。 (2)環 境 政 策 への貢 献 <行 政 が既 に活 用 した成 果 > 環 境 省 の中 央 環 境 審 議 会 における「えりも地 域 ゼニガタアザラシ特 定 希 少 鳥 獣 管 理 計 画 」の検 討 において、 ゼニガタアザラシ個 体 群 動 態 の分 析 結 果 、餌 資 源 動 態 調 査 、および漁 業 被 害 防 除 策 の研 究 成 果 を提 示 し、中 央 環 境 審 議 会 の答 申 作 成 に貢 献 した。具 体 的 には、管 理 計 画 のp3に個 体 群 動 態 に関 する論 文 成 果 、p7に餌 資 源 動 態 の調 査 結 果 が引 用 されている。また、p36に被 害 防 除 策 の検 討 結 果 が示 されている。 環 境 省 による「平 成 28年 度 環 境 省 えりも地 域 ゼニガタアザラシ管 理 事 業 実 施 計 画 」の検 討 において、以 下 の 項 目 に関 して調 査 結 果 を提 示 し、計 画 案 の作 成 に貢 献 した。1)漁 業 被 害 防 除 策 の検 討 結 果 :20cm×20cmの 格 子 網 による被 害 軽 減 効 果 に関 する情 報 を提 示 (えりも地 域 の協 議 会 に環 境 省 が示 した実 施 計 画 案 のp1に記 載 。)した。2)ゼニガタアザラシの個 体 群 構 造 解 析 の結 果 :「えりもの個 体 群 は閉 鎖 性 が高 い」情 報 を提 示 (同 実 施 計 画 案 のp4に記 載 。)した。 環 境 省 のレッドリスト検 討 会 における「環 境 省 レッドリスト2015」の検 討 において、本 研 究 によるゼニガタアザラ シの個 体 群 動 態 に関 する基 礎 的 情 報 が提 示 され、絶 滅 危 惧 種 の再 評 価 に貢 献 した。 <行 政 が活 用 することが見 込 まれる成 果 > ・環 境 省 によるゼニガタアザラシの個 体 群 管 理 に関 する平 成 28年 度 事 業 の実 施 において、本 研 究 で用 いた格 子 網 を装 着 することによるゼニガタアザラシの捕 獲 が見 込 まれる。 ・環 境 省 による漁 業 被 害 防 除 に関 する平 成 28年 度 事 業 の実 施 において、本 研 究 で効 果 を明 らかにした格 子 網

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分 析 結 果 の活 用 が見 込 まれる。 ・環 境 省 による平 成 28年 度 のタコ漁 被 害 の実 態 調 査 において、本 研 究 のゼニガタアザラシ摂 餌 量 推 定 の結 果 の 活 用 が見 込 まれる。 6.研 究 成 果 の主 な発 表 状 況 (1)主 な誌 上 発 表 <査 読 付 き論 文 > 1) 小 林 由 美 、風 呂 谷 英 雄 、石 川 恭 平 、桜 井 泰 憲 :野 生 生 物 保 護 14(1・2):53-60 (2013) 北 海 道 東 部 厚 岸 湾 におけるアザラシ類 による漁 業 被 害 -漁 業 者 アンケートの解 析

2) Y. KOBAYASHI, T. K4-1RIYA, J. CHISHIMA, K. FUJII, K. WADA, S. BABA, T. ITOO, T. NAKAOKA, M. KAWASHIMA, S. SAITO, N. AOKI, S. HAYAMA, Y. OSA, H. OSADA, A. NIIZUMA, M. SUZUKI, Y. UEKANE, K. HAYASHI, M. KOBAYASHI, N. OHTAISHI and Y. SAKURAI:Endangered Species Research24(1): 61-72 (2014) http://dx. doi.org/10.3354/esr00553

Population trends of the Kuril harbour seal Phoca vitulina stejnegeri from 1974 to 2010 in southeastern Hokkaido, Japan

3) E. A. SWEKE, Y. KOBAYASHI, M MAKINO and Y. SAKURAI: Ocean & Coastal Management, 120, 170-179 (2016)

Comparative job satisfaction of fishers in northeast Hokkaido, Japan for coastal fisheries management and aquaculture development

<査 読 付 論 文 に準 ずる成 果 発 表 > 特 に記 載 すべき事 項 はない。 <その他 誌 上 発 表 (査 読 なし)> 1) 小 林 由 美 、小 林 万 里 、桜 井 泰 憲 、藤 森 康 澄 、駿 河 秀 雄 、成 ケ沢 重 一 、白 石 智 泰 、石 川 昭 :えりも研 究 11: 31-34 (2014) 「秋 サケ定 置 網 におけるマンボウMola spp.を中 心 とした海 洋 生 物 の偶 発 的 捕 獲 」 2) 三 谷 曜 子 :鰭 脚 類 の回 遊 行 動 と食 性 . 日 本 水 産 学 会 漁 業 懇 話 会 報 63: 1-3 (2014) 3) 小 林 由 美 、増 渕 隆 二 、蔵 本 洋 介 、藤 森 康 澄 、駿 河 秀 雄 、成 ケ沢 重 一 、白 石 智 泰 、小 林 万 里 、桜 井 泰 憲 、 石 川 昭 :えりも研 究 12:15-19 (2015) 「秋 サケ定 置 網 における海 洋 生 物 の偶 発 的 捕 獲 2014」

4) Y FUJIMORI: Second Interim Report of ICES-FAO Working Group on Fishing Technology and Fish Behaviour (WGFTFB) /ICES WGFTFB REPORT, 102-103 (2015)

“Coexistence of Fishery and Harbor Seal along the Coast of Hokkaido, Japan”

5) 小 林 由 美 : (社 )水 産 資 源 ・海 域 環 境 保 全 研 究 会 (CoFRaME) メールマガジン第 42号 , 1-3 (2015) 「希 少 種 で観 光 資 源 かつ害 獣 であるゼニガタアザラシの管 理 」 (2)主 な口 頭 発 表 (学 会 等 ) 1) 磯 野 岳 臣 、米 田 豊 、和 田 昭 彦 、服 部 薫 、山 村 織 生 :哺 乳 類 学 会 大 会 (2013) 「上 陸 場 モニタリングシステムにより確 認 されたトド焼 印 個 体 の滞 留 と移 動 」 2) 山 村 織 生 :横 浜 国 立 大 学 公 開 コロキウム「減 る水 産 物 、増 える海 獣 」(2013) 「絶 滅 危 惧 種 から外 れたトドの未 来 」

3) M. KOBAYASHI: 20th Biennial Conference on Marine Mammals, New Zealand (2013)

“Changes in the haul-out behavior and home range of harbor seals as a result of population recovery” 4) Y. MITANI, T. HAKUMAN, K. SAKAGUCHI and K. MIYASHITA: International Symposium "Dolphin

acoustics, behavior and cognition", Shizuoka, Japan (2014)

“Feeding ecology and foraging behavior of harbor seal (Phoca vitulina) in-situ and ex-situ: Systematic conservation and management planning for the coexistence of harbor seals and fisheries along the coast of Oyashio.”

5) 小 林 万 里 :ゼニガタアザラシシンポジウム(環 境 省 主 催 )、招 待 講 演 (2014) 「ゼニガタアザラシとは?―えりも地 域 を例 に―」

(7)

「北 海 道 東 部 えりも岬 の秋 サケ定 置 網 におけるゼニガタアザラシの食 害 」 8) 服 部 薫 、磯 野 岳 臣 、山 村 織 生 :日 本 哺 乳 類 学 会 2014年 度 大 会 (2014)

「北 海 道 日 本 海 沿 岸 におけるトドの来 遊 状 況 の変 化 」

9) 磯 野 岳 臣 、服 部 薫 、山 村 織 生 :日 本 哺 乳 類 学 会 2014年 度 大 会 (2014) 「上 陸 場 自 動 撮 影 システムによるトド焼 印 個 体 の出 自 」

10) E. A. SWEKE, R. OKAZAKI, Y. KOBAYASHI, M. MAKINO and Y. SAKURA: Annual Meeting: Scientific program- PICES - North Pacific Marine Science Organization(2014)

“Social-ecological studies towards integrated management of local fisheries in the North-Eastern Hokkaido, Japan”

11) 白 曼 大 翔 、葛 西 広 海 、田 中 寛 繁 、山 村 織 生 、小 林 万 里 、宮 下 和 士 、三 谷 曜 子 :平 成 26年 度 日 本 水 産 学 会 北 海 道 支 部 大 会 (2014)

「ヒゲの安 定 同 位 体 比 分 析 によるゼニガタアザラシの食 性 履 歴 の推 定 」

12) K. HATTORI, T. ISONO and O. YAMAMURA: Marine Mamamls of the Holarctic 2014 (2014)

“Decadal change of spatial distribution of wintering Steller sea lions around Hokkaido Island, Japan” 13) 服 部 薫 、磯 野 岳 臣 、山 村 織 生 :2014年 度 勇 魚 会 シンポジウム(2014) 「北 海 道 におけるトドの分 布 と資 源 」 14) 山 村 織 生 、服 部 薫 、磯 野 岳 臣 、浅 見 大 樹 :第 45回 北 洋 研 究 シンポジウム(2015) 「2000年代におけるトド来 遊 動 向 の変 化 」 15) 小 林 万 里 :第 45回 北 洋 研 究 シンポジウム(2015) 「アザラシ類 の生 態 変 化 に伴 う漁 業 への影 響 」 16) 山 村 織 生 、服 部 薫 、磯 野 岳 臣 :2015年 日 本 水 産 学 会 春 季 大 会 (2015) 「襟 裳 岬 ゼニガタアザラシ上 陸 場 近 傍 における底 魚 類 の種 組 成 と季 節 変 化 」 17) 藤 森 康 澄 、川 本 雄 平 、小 林 由 美 、伊 藤 遼 平 、桜 井 泰 憲 、三 谷 曜 子 、蔵 本 洋 介 、関 口 泰 治 :2015年 日 本 水 産 学 会 春 季 大 会 (2015) 「北 海 道 えりも地 域 のサケ定 置 網 におけるゼニガタアザラシによる食 害 防 除 を目 的 とした漁 具 改 良 の検 討 」 18) 越 智 洋 介 、山 﨑慎 太 郎 、伊 藤 遼 平 、川 本 雄 平 、藤 田 薫 、藤 森 康 澄 、桜 井 泰 憲 :2015年 日 本 水 産 学 会 春 季 大 会 (2015) 「音 響 カメラを用 いた定 置 網 内 でのゼニガタアザラシの行 動 観 察 の試 み」 19) 三 谷 曜 子 、阪 口 功 喜 、小 林 万 里 、中 野 江 一 郎 :2015年 日 本 水 産 学 会 春 季 大 会 (2015) 「ゼニガタアザラシ腸 内 容 物 のDNA分 析 による餌 生 物 推 定 」

20)T. HAKUMAN, T. HORIMOTO, H. KASAI, H. TANAKA, O. YAMAMURA, M. KOBAYASHI, K. MIYASHITA and Y. MITANI: Vth International Wildlife Management Congress, Sapporo, Japan (2015)

“Stable Isotopes In Harbor Seal Whiskers As Indicators Of Seasonal Feeding Patterns”

21)Y. FUJIMORI, Y. OCHI, S. YAMAZAKI, K. FUJITA, R. ITOO, Y. KAWAMOTO, Y. KOBAYASHI and Y. SAKURAI:Non-Visual Observation of Marine Mammals Using Innovative Technology, Session37,Vth International Wildlife Management Congress, Sapporo, Japan (2015)

“Under water Observation of Harbor Seal Behavior in a set net Using an Underwater camera and Acoustic Sonar”

22) Y. KOBAYASHI: Migration and Distribution of Pinnipeds in Japanese-Russian Waters, Round Table Round Table46, Vth International Wildlife Management Congress, Sapporo, Japan (2015)

“Harbor Seals in Hokkaido, Japan”

23) Y. FUJIMORI, Y. OCHI, S. YAMAZAKI, K. FUJITA, R. ITOO, Y. KAWAMOTO, Y. KOBAYASHI. and Y SAKURAI: A New Strategic Plan for Management of The Kuril Harbor Seal Aiming at the Coexstencw vetween the Seals and Local Fisheries in Erimo Area, Southern Hokkaido, Round Table84. Vth International Wildlife Management Congress, Sapporo, Japan (2015)

“Under water Observation of Harbor Seal Behavior in a set net Using an Underwater camera and Acoustic Sonar”

24) O. YAMAMURA, T. KITAKADO, K. HATTORI and T. ISONO: Vth International Wildlife Management Congress, Sapporo, Japan (2015)

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“Mitochondrial DNA of Japanese Harbour Seal(Phoca vitulina stejnegeri) reveals their unique colonisation history in Pacific”

26) 山 村 織 生 、小 岡 孝 司 : 2015 年 水 産 海 洋 学 会 研 究 発 表 大 会 (2015) 「北 海 道 南 東 沿 岸 域 における底 生 魚 類 群 集 構 造 」

27) 磯 野 岳 臣 、Vladimir Burkanov、服 部 薫 、後 藤 陽 子 、和 田 昭 彦 ,山 村 織 生 : 2015 年 水 産 海 洋 学 会 研 究 発 表 大 会 (2015)

「焼 印 再 確 認 情 報 に基 づいた北 海 道 ・ロシア間 におけるトドの季 節 移 動 (予 報 )」

28) S. KATAYAMA, K. MIYASHITA and Y. MITANI: 21st Biennial Conference on the Biology of Marine Mammals, The Hilton San Francisco, San Francisco, USA (2015)

“Overlap of juvenile harbor seals (Phoca vitulina) foraging areas and salmon fishing grounds around Cape Erimo, Japan”

29) 伊 藤 遼 平 、藤 森 康 澄 、小 林 由 美 、桜 井 泰 憲 、三 谷 曜 子 、蔵 本 洋 介 :H28年 度 日 本 水 産 学 会 春 季 大 会 (2016) 「北 海 道 襟 裳 地 域 のサケ定 置 網 内 におけるゼニガタアザラシとサケの行 動 観 測 」 30) 三 谷 曜 子 ・宮 下 和 士 ・山 本 潤 ・片 山 誓 花 ・小 林 万 里 :H28年 度 日 本 水 産 学 会 春 季 大 会 (2016) 「VPS 測 位 システムによるゼニガタアザラシの行 動 追 跡 ~北 海 道 襟 裳 岬 のサケ定 置 網 周 辺 への出 現 ~」

31) O. YAMAMURA, K. HATTORI and T. ISONO: ESSAS Annual Science Meeting (2016)

“Management of Steller sea lions off the western coast of the Hokkaido Island: mitigating the threat to the sustainability of local fishery”

7.研 究 者 略 歴 課 題 代 表 者 :桜 井 泰 憲 北 海 道 大 学 大 学 院 水 産 科 学 研 究 科 博 士 課 程 修 了 、水 産 学 博 士 、現 在 、北 海 道 大 学 名 誉 教 授 、函 館 頭 足 類 科 学 研 究 所 所 長 研 究 分 担 者 1)小 林 万 里 北 海 道 大 学 獣 医 学 部 卒 業 、博 士 (獣 医 学 )を取 得 、現 在 、東 京 農 業 大 学 生 物 産 業 学 部 教 授 2)山 村 織 生 北 海 道 大 学 大 学 院 水 産 科 学 研 究 科 博 士 課 程 修 了 、 水 産 学 博 士 、 現 在 、 国 立 研 究 開 発 法 人 水 産 総 合 研 究 セ ン タ ー 3)宮 下 和 士 北 海 道 大 学 水 産 学 部 卒 業 、 北 海 道 大 学 大 学 院 水 産 科 学 研 究 科 修 了 、 東 京 大 学 大 学 院 農 学 生 命 科 学 研 究 科 修 了 、 博 士 ( 農 学 ) 取 得 、 海 洋 水 産 資 源 開 発 セ ン タ ー 職 員 、 北 海 道 大 学 水 産 学 部 助 教 授 、 現 在 、 北 海 道 大 学 北 方 生 物 圏 フ ィ ー ル ド 科 学 セ ン タ ー 教 授 4) 三 谷 曜 子 総 合 研 究 大 学 院 大 学 数 物 科 学 研 究 科 博 士 課 程 修 了 、 博 士 ( 理 学 ) 、 現 在 、 北 海 道 大 学 北 方 生 物 圏 フ ィ ー ル ド 科 学 セ ン タ ー 准 教 授 5) 山 本 潤 北 海 道 大 学 大 学 院 水 産 科 学 研 究 科 博 士 前 期 課 程 修 了 、 博 士 ( 水 産 科 学 ) 、 現 在 、 北 海 道 大 学 北 方 生 物 圏 フ ィ ー ル ド 科 学 セ ン タ ー 助 教 6)藤 森 康 澄 東 京 水 産 大 学 漁 業 生 産 学 科 卒 業 、 水 産 学 博 士 、 現 在 、 北 海 道 大 学 大 学 院 水 産 科 学 研 究 院 教 授

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4-1301 親潮沿岸域のゼニガタアザラシと沿岸漁業の共存に向けた保護管理手法の開発 (1) 移動生態と遺伝的交流の有無による個体群構造と地域特性の解析 学校法人東京農業大学生物産業学部アクアバイオ学科水産資源管理学研究室 小林 万里 平成25(開始年度)~27年度累計予算額:42,215千円(うち平成27年度:14,040千円) 予算額は、間接経費を含む。 [要旨] 本研究では、遺伝様式および遺伝速度の異なる2つの遺伝子、ミトコンドリアDNA(以下、mtDNA) とマイクロサテライトを使い、北海道のゼニガタアザラシの集団遺伝構造をその歴史的背景、近 年の個体数変動、雌雄の生活様式(定着性の違いなど)を考慮し解明することを目的とした。 サンプルには、北海道(北方四島を含む)のゼニガタアザラシの主要繁殖上陸場を含む4地域、 襟裳、厚岸、浜中、根室の定置網で混獲、捕獲または漂着した個体の筋肉を用いた。mtDNAの分 析の結果、16のハプロタイプが検出され、そのうち4タイプは襟裳とその他の道東地域(厚岸、浜 中、根室)の両方で確認され、1地域からしか見られない地域特異的ハプロタイプも9タイプが検 出された。mtDNAのハプロタイプ多様度および塩基多様度は襟裳で両指標とも低く、過去に長期 のボトルネック後、集団が回復していないことを示唆した。道東地域では、ハプロタイプ多様度 は高いが塩基多様度が低く、ボトルネック後に一斉放散した集団であることを示唆した。一方、 マイクロサテライト解析の多様度は地域ごとに有意差が見られなかったことから、各集団内で自 由交配していることを示した。 遺伝的分化係数はmtDNA、マイクロサテライトともに襟裳とそれ以外の地域で異なっていたこ とから、北海道のゼニガタアザラシは、雌雄ともに襟裳と道東地域で行き来が少ないことが明ら かになった。 また、ゼニガタアザラシに発信機を装着して移動範囲を調べた結果、移動範囲は成長段階ごと に異なるが、数十kmと非常に狭いことが明らかになった。 これらのことから、北海道のゼニガタアザラシは、襟裳とそれ以外の地域で遺伝的に異なる集 団であるため、両地域は別々に管理するべきだと考えられた。 [キーワード] ゼニガタアザラシ、ミトコンドリアDNA、マイクロサテライト、歴史的背景、集団遺伝構造 1.はじめに (1)歴史的背景 ゼニガタアザラシ(ハーバーシール Phoca vitulina)はバルト海から日本を含む北半球全域に生 息する半水棲の動物である(図(1)-1-1)。450万年前にグリーンランド海およびバレンツ海間で

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Halichoerus属、Pusa属およびPhoca属の共通祖先から分岐して1)大西洋に最初に定着した後、ベーリ ング海峡を通って太平洋に移入し、170~220万年前に海氷と大陸氷河が形成されてべーリング海 峡が封鎖されると、大西洋集団と太平洋集団の交流がなくなり、遺伝的に大きく分化したと考え られる2)

図(1)-1-1 ゼニガタアザラシ(Phoca vitulina stejnegeri)の主要繁殖上陸場を含む4地域. サンプルは各地域から採集 その後、ゼニガタアザラシが太平洋に移入後どのように分布を広げたかには諸説ある。 Stanleyら2)は、初めてゼニガタアザラシの全生息域における系統関係を明らかにした。日本を含 む北西太平洋の集団は太平洋の中でも初期に定着した基盤集団であり、太平洋ゼニガタアザラシ は西から東方向に分布を広げたことを示唆した。Burgら3)も同様に、日本集団はベーリング海を通 って太平洋に移入した基盤集団の1つとしたが、ワシントン州の一部の集団も同時に移入したとし、 さらにその後東太平洋において分布域は南下したことを示唆した。

Westlake and O’Corry-Crowe4)

は、東太平洋のゼニガタアザラシの方が西太平洋のゼニガタアザ ラシよりも系統群数が多いことから、本種は、初期に東方向に定着し、その後から西へ広がり日 本には後期に定着した仮説を提唱した。 このように、日本とその他の地域のゼニガタアザラシの系統関係にはさまざまな仮説が混在し ており、近年の研究では4)、日本のゼニガタアザラシにはいくつかの系統群があることが示唆され ている。さらに、先行研究2, 3, 4, 5)の中では、DNAの抽出領域も混在している。 (2)北海道内における集団遺伝構造 ゼニガタアザラシは鰭脚類の中で最も広い分布域を持ち、その広さは北半球1万6千kmにも及ぶ。 本種は、長距離遊泳が可能であるにも関わらず、休息、換毛、出産および子育てを同じ上陸岩礁 で行い、定住性が高く、他の哺乳類と同様にオスよりもメスで定住性が高いことが知られている。

日本に生息するゼニガタアザラシ(Phoca vitulina stejnegeri)は1亜種であり、北海道からロシア のコマンドル島まで生息する集団を示す6)(図(1)-2-1)。北海道には、ゼニガタアザラシの上陸場

が襟裳、厚岸、浜中および根室 (図(1)-2-1)の4地域に11か所が存在し、そのうちの8か所が繁殖 上陸場として知られている。中でも、襟裳はゼニガタアザラシの西太平洋における生息域最南端

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であり、北海道でも最大の繁殖上陸岩礁で2010年には上陸頭数403個体が確認されている7)。襟裳 から最も近い生息域は厚岸で、襟裳からは直線距離で150㎞離れている。厚岸には、襟裳に次いで 2番目に上陸頭数が多い大黒島があり、2010年の調査で169個体が確認されている7)。厚岸から根室 地域にかけては複数の上陸場が存在しており、地域ごと(厚岸―浜中、浜中―根室)では、それ ぞれ直線距離で約30㎞ずつ離れている8)。他の地域のゼニガタアザラシと同様に、日本のゼニガタ アザラシのメスはオスよりも繁殖場に対する執着が強く、毎年同じ岩礁で出産していることが報 告されている9)

図(1)-2-1 北海道におけるゼニガタアザラシ(Phoca vitulina stejnegeri)の分布域(右上)と主 要繁殖上陸場を含む4地域:襟裳、厚岸、浜中および根室.黒丸は上陸場11ヶ所を、赤丸 は既知の繁殖上陸場および2010年の繁殖期に観察された個体数を示す7) オスに偏った遺伝子流動は、陸上および海棲ほ乳類では一般的であり、東太平洋ゼニガタアザ ラシでも報告されている。一方、定住性の高いメスでは遺伝子流動が少ないため、通常母型列で 遺伝するミトコンドリアDNAの方が、両親から遺伝するマイクロサテライトよりも集団の細分化 が起こりやすい3, 10)。しかしながら、ゼニガタアザラシの遺伝研究の中には、両遺伝マーカー共に 同様の集団の遺伝的分化を示すものもあり、この定説に沿わないことがある2, 11, 12, 13)。ゼニガタア ザラシの定住性の臨界距離は300-500㎞といわれているが14)、集団の中には300㎞以内で明確な遺伝 的分化を示す場合もある12, 14)。地域で定住性の違いがある要因として、歴史的な氷期の氷による 集団の分断および孤立と近年の個体数の減少が考えられている14, 15, 16) このように、雌雄で分散形式に違いがある海棲ほ乳類で集団遺伝を調べるには、両遺伝マーカ ーを使用することが重要である。しかしながら、日本のゼニガタアザラシでは各遺伝子を使用し た研究はまだ行われていない。 北海道のゼニガタアザラシは、現在の集団に影響するような大きな個体群の増減を過去に2度経 験している。一つは、数百万年前に起こった歴史的イベントで、最終氷期に氷が北太平洋沿岸を 覆い、季節的海氷が襟裳付近まで南下し集団が分断されたことである。二つめに、日本のゼニガ タアザラシは、1940年代以降に毛皮を目的とする乱獲や、藻場を増幅のための上陸場の爆破によ

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り1970年代までに個体数が激減し、絶滅の危機に瀕した。1980年代以降、個体数は回復し、現在 は1,000頭以上が北海道に生息していると言われている。これら近年の個体数変動もまた現在の集 団遺伝に影響していると考えられる。 ミトコンドリアDNA(mtDNA)と比較して、マイクロサテライトは進化速度が速く近年の個体 数変動を研究するのに適している。しかしながら、過去に日本のゼニガタアザラシの遺伝を調べ た研究では、mtDNAのチトクロムb領域を使用したものがあるのみである。この研究では、襟裳 と厚岸地域で共通ハプロタイプがなかったことから、日本のゼニガタアザラシは南(襟裳)と東 (厚岸、浜中、根室)の2集団に分かれ、これら集団間で遺伝子流動がないことを示唆した5)。し かしながら、この研究ではいくつかの地域はサンプル数が極めて少なく、べての繁殖上陸場を含 む地域のサンプルを使用していない。また、変異の比較的少ないmtDNAのチトクロムb領域を使用 している。 (3)北海道本土における混獲個体の回収および発信機装着調査 ゼニガタアザラシは長距離遊泳能力が可能でありながらも、繁殖期には同じ上陸場に戻る回帰 性の高い動物であることがわかっている。衛星発信機追跡及び電波発信機追跡では当歳獣で 26.7.km、1歳以上で22.6kmと報告されている。また、別の衛星発信機追跡結果からは、本亜種の 行動距離は、上陸場から平均19.31kmであり、主に上陸場から近い海域で採餌していることが報 告されている。北方四島でゼニガタアザラシの繁殖が確認されていること、さらに、北方四島の 歯舞群島のハルカリモシリからと道東の最東のユルリ・モユルリ間の直線距離は、40kmほど離れ ている。このことから、タグ等調査等で北方四島のアザラシが両島間を行き来している事実はあ るものの、遺伝的に道東の集団と遺伝的に独立している可能性が考えられる。さらに、道東全域 においても、各地域の中心的な上陸場間の距離は、それぞれ20km以上離れており、繁殖集団は分 離している可能性もある。 2.研究開発目的 (1)歴史的背景 過去の太平洋ゼニガタアザラシの系統の混乱は、日本の個体群を1集団として扱っていたこと によるものと考えられる。そこで、他地域の先行研究と同様に、mtDNAの調節領域を使用して解 析し、太平洋における日本のゼニガタアザラシの遺伝的な系統から見た集団の位置を明確にする ことを目的とした。 (2)北海道内における集団遺伝構造 日本のゼニガタアザラシの集団遺伝をmtDNAとマイクロサテライト両マーカーを使用すること により、分化の歴史、1970年代の個体数減少及び遺伝子流動の雌雄差を考慮し、現在の集団構造 を研究することを目的とした。 (3)北海道本土における混獲個体の回収および発信機装着調査 発信機装着による移動生態を明らかにして、両者により地域特性を把握することを目的とした。

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3.研究開発方法 材料と方法 (1)歴史的背景 1)サンプル サンプルは主要繁殖上陸場を含む全4地域;襟裳(n=50)、厚岸(n=50)、 浜中(n=28)、 根室 (北方四島の個体を含む)(n=50)(図(1)-1-1)、サケ定置網漁で混獲された個体および漂着個体 の筋肉サンプル、またはタグ付けの際回収された皮膚片を使用した。サンプルは抽出されるまで 70%エタノールで保存した。 2)DNA抽出、PCRおよびシーケンシング

Green and Sambrook(2012)に従い、フェノール・クロロホルム法を用いてDNA抽出を行った後 作成した2つのプライマーPvsF (5’-GTACTCATACCCATTGCCAGC-3’)とPvsR

(5’-GCGCGGAGGCTTGCATGTAT-3’)を使用してmtDNAの調節領域全域を増幅した。PCRはDNA テンプレート1.0µl、10X buffer 2.5µl、dNTP(0.2mM)2.0 µl、Taq polymerase (5U/ µl) 0.1 µl、フォワ ードおよびリバースプライマーそれぞれ1.25µl(1mM)ずつとMili-Q water 16.9µlを含む25µl反応液 で行い、94°C, 5分で熱処理後、94°C、1分、63°C、72°C1分半を30サイクル繰り返す条件で行った。 PCR産物は電気泳動後アガロースゲルで増幅を確認し、BigDye terminator cycle sequencing kit v3.1 (Applied Biosystem)を用いて配列決定した。その際、PCRで使用した際と同様のフォワードプラ イマーと新しく作成したリバースプライマーPvsFR (5’-GTAACGTAACTATGTCCCGC-3’)を使用 して配列を両側から読んだ。配列の編集およびCLUSTALWを使ったアラインメントには、 MEGA620)を使用した。 3)解析 a.遺伝的多様度 サンプルを採取した4地域の遺伝的多様度を比較するために、ハプロタイプ数(Ns)、ハプロタ イプ多様度(H)と塩基多様度(π)をArlequin version 3.5.1.217)を用いて算出した。 b.地域間での遺伝的分化 地域間での遺伝的分化を評価するため、Arlequin version 3.5.1.217)を用いてペアワイズFst値を算 出した。 c.系統樹 日本産ゼニガタアザラシのハプロタイプとその他の地域のハプロタイプの系統関係を検討する ため、GENBANKに登録されている既存の太平洋および大西洋ゼニガタアザラシのmtDNAの調節 領域を使用して系統樹を作成した。 これまでに登録されている配列は、ほとんどが本研究で得られた配列よりも短く、情報が少な かったため、登録された配列の中でも最も長い調節領域を持つStanleyら2)のデータを使用した

(GenBank accession numbers: U36342-U36375)。最適な塩基置換モデルおよび系統樹の作成は MEGA 6 20)を用いて行い、Baysian Information Criteion(BIC)をもとにBICの値が最も低かった K2+G+I モデルを選択、使用しMaximul Likelihood(ML)法で系統樹を描いた。

d.Median-joining network

日本のゼニガタアザラシの分布パターンおよび他地域のハプロタイプとの関係を検討するため、 median-joining(MJ)法でネットワークを作成した。図の作成にはNetwork 4.6.1.318)を使用し、各

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パラメータは初期設定で行った(epsilon=0 and weight=10)。日本以外のデータは系統樹と同様 Stanleyら2)の配列を使用した。 e.地域間でのクレードの割合の比較 地域ごとの各クレードの割合を比較するため、R-studio(version 0.99.484.)を使用した。 f.個体数の歴史的変化 過去の個体数の変動を調べるため、ミスマッチ解析を行った。ミスマッチ分布は、それぞれの 個体のもつハプロタイプ同士の違いを頻度分布で表したもので、解析にはArlequin version 3.5.1.217)

を用いて行った。予測値と観測値の当てはまりの良さはsum of squared deviation(SSD)および Harpending's raggedness index(Hrag)を用いて検証した。

(2)北海道内における集団遺伝構造 1)ミトコンドリアDNA a.サンプルとmtDNAマーカー 遺伝的多様性を比較するため、比較的変異の多いmtDNAの調節領域を使用した。 サンプルは主要繁殖上陸場を含む4地域全ての個体を含む178個体分使用した(襟裳(n=50), 厚 岸(n=50), 浜中(n=28)と根室(n=50)、図(1)-1-1)。 サンプルには、サケ定置網漁で混獲さ れた個体および漂着個体の筋肉サンプル、または生体捕獲でタグ付けの際に回収された皮膚片を 使用した。サンプルは、抽出されるまで70%エタノールで保存した。 b.DNA抽出、PCRおよびシーケンシング

Green and Sambrook19)に従い、フェノール・クロロホルム法を用いてDNA抽出を行った後、mtDNA

調節領域全域を作成した2つのプライマーPvsF(5’-GTACTCATACCCATTGCCAGC-3’)と PvsR (5’-GCGCGGAGGCTTGCATGTAT-3’)を使用して増幅を行った。PCRはDNAテンプレート1.0µl、 10X buffer 2.5µl、dNTP(0.2mM)2.0 µl、Taq polymerase(5U/ µl)0.1µl、 フォワードおよびリバ ースプライマーそれぞれ1.25µl(1mM)ずつとMili-Q water16.9µlを含む25µl反応液で行い、94°C, 5 分で熱処理後、94°C、1分、63°C、72°C1分半を30サイクル繰り返す条件で行った。PCR産物は、 電気泳動後にアガロースゲルで増幅を確認し、BigDye terminator cycle sequencing kit v3.1(Applied Biosystem)を使用して配列を決定した。その際、PCRで使用した際と同様のフォワードプライマ ーと、新しく作成したリバースプライマーPvsFR(5’-GTAACGTAACTATGTCCCGC-3’)を使用し て配列を両側から読んだ。配列の編集およびCLUSTALWを使ったアラインメントにはMEGA620) 使用した。 2)解析 a.地域ごとのハプロタイプ頻度 各ハプロタイプの割合を地域で比較するため、R-studio(version 0.99.484.)を使用して地図上に 割合をプロットした。 b.遺伝的多様度 遺伝的多様性の指標としてハプロタイプ数(Ns)、ハプロタイプ多様度(H)と塩基多様度(π) をArlequin version 3.5.1.217)を用いて算出し、地域間でその違いを比較した。 c.集団の分化 地域間で遺伝的分化の有無を調べるため、Arlequin version 3.5.1.217)を用いてペアワイズFst値を

(15)

算出した。

3)マイクロサテライト

a.マイクロサテライト解析・核DNA遺伝子型決定

計102個体の9遺伝子座について解析を行った。使用したマイクロサテライト遺伝子座およびプ ライマーは、Pvc19、Pvc78, Pvc3021)、SGPV16、 SGPV1111)、Hg3.7, Aa422)、SGPV924)、そして M11A

(unpublished data by Rus Hoelzel referred in Gemmellら22))の9遺伝子座で、PCRの温度設定は各論

文に従って行った。各プライマーの5’末端に、FAM、 TET、 HEX もしくは NEDのいずれかで蛍 光標識をした。 b.マイクロサテライト多型解析 ⅰ.遺伝子型決定および検証 アリルドロップアウト、ヌルアリル、およびスタッターバンドなどのスコアリングエラーの有 無は、MICROCHECKER 2.2.3.23)を用いて行った。 ⅱ.遺伝子多様度 ハーディーワインベルグ平衡(HWE)および連鎖不平衡からの逸脱の検定はGENEPOP25)を使用

し、有意差はsequential Bonferroni correctionで補正した。遺伝的多様度の検討にはARLEQUIN17)

使用し、指標として各集団における平均対立遺伝子数(mean number of allele (MNA))、対立遺伝子 多様度(Allelic richness (AR))、ヘテロ接合体の観察値(observed heterozygosity (Ho))、および 期 待値(expected heterozygosity (He))を求めた。各集団内で近親交配によるヘテロ接合度の減少の 度合いを調べ、自由交配しているか調べるため、FSTAT26)を用いて近郊係数(inbreding coefficient

(FIS))を算出した。 ⅲ.個体群分化 地域で遺伝的分化があるか確認するため、Arlequin version 3.5.1.217)を用いてペアワイズRst値を Arlequin version 3.5.1.217)を使用し算出した。 北海道のゼニガタアザラシの個体群分化について詳細を調べるため、STRUCTURE 2.3.427)を用 いてベイズ法を使ったクラスター解析を行い集団数の推定をした。STRUCTUREの設定は、burn-in periodおよび Morkov chain Monte Carlo(MCMC)simulation をそれぞれ100,000と1,000,000 に設定 した。また、admixture model with correlated allele frequencies を使用し、サンプルの採取地を初期 値として与えた(LOCPRIOR)。値K は、1 から 5 まで変化させて、解析は各Kで10回ずつ繰り返し た。Evannoら28)に従い⊿Kが最も大きいときのKを集団数として採用した。 (3)北海道本土における混獲個体の回収および発信機装着調査 厚岸地域の白糠漁協から厚岸漁協、および浜中地域の散布漁協と浜中漁協の全7箇所においては、 2013年~2015年の5月15日~11月の春定置網および秋定置網で、さらに根室地域の落石漁組と根室 漁協、納沙布地域の歯歯舞漁組の3箇所には、9月~11月の秋定置網において、ゼニガタアザラシ の混獲があれば連絡を頂き、回収した(図(1)-3-1)。 死亡個体は、外部計測の後に遺伝子用サンプリングを行った。生きた個体においては、麻酔処 理を施し、外部計測後に発信機(Wildlife Computer MK-10AF)を装着して放獣した。麻酔薬は 体重に応じて塩酸メデトミジン (ドミトール、日本全薬工業株式会社)が1kg当り60μg、塩酸ケ タミン (ケタミン注10%「フジタ」、フジタ製薬株式会社)が、1kg当り3mgになるように混合し

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て使用した。発信機装着等の作業後、拮抗薬である塩酸アチパメゾール(アンチセダン、日本全 薬工業株式会社)を麻酔薬使用量と等量になるように投与した。捕獲個体が麻酔の影響から十分 に回復したことを確認した後、港から放獣した。さらに、生きた個体の確保については、根室海 峡から太平洋側においては、船を利用した積極的な捕獲も試みた。 図(1)-3-1 ゼニガタアザラシの回収場所 4.結果及び考察 (1)歴史的背景 解析には、北海道のゼニガタアザラシの主要繁殖上陸場を含む4地域から集めたサンプルのうち 178個体を使用した。mtDNAの調節領域の始まりから719塩基を読みとり、32の変異サイト(表 (1)-1-1)、16のハプロタイプが検出された (表(1)-1-2)。

表(1)-1-1 本研究で検出された北海道のゼニガタアザラシ(Phoca vitulina stejnegeri)のハプロ タイプ16種と変異サイト.変異サイトの番号はArnason and Johnsson29)に従った

1 6 3 7 2 1 6 3 7 6 1 6 4 1 2 1 6 4 1 5 1 6 4 5 3 1 6 4 6 0 1 6 4 6 2 1 6 4 6 4 1 6 4 7 1 1 6 4 7 2 1 6 4 7 6 1 6 4 7 7 1 6 4 7 9 1 6 4 8 5 1 6 4 9 5 1 6 5 0 0 1 6 5 5 1 1 6 5 5 2 1 6 5 5 4 1 6 5 7 1 1 6 5 7 2 1 6 5 8 0 1 6 5 8 1 1 6 5 8 2 1 6 5 9 0 1 6 5 9 6 1 6 6 0 9 1 6 6 1 7 1 6 7 3 9 1 6 7 7 8 1 6 7 8 1 1 6 7 9 1 P.v.v A A G C T C T G G C C C C - C - G A G T A T A A A T T T G A T T Jp1 G G A T C . . . . T . T . - . - A G . C . C . G G . . C . . G . Jp2 G G A T C . . . . T . T . - . - A G . C . C G G G . . C . . G . Jp3 G G A T C . . . . T . T . - . - A G . . . C G G G . . C . . G . Jp4 G G A T C . . . . T . T . - . C A G . C . C G G G . . C . . G . Jp5 G G A T C . C A A . T . . - . - A G . C G C G G . . . C . . G . Jp6 G G A T C . . . T . T - . - A G A . . C . . G . . C . . G . Jp7 G G A T C . . . T . . - T - A G . C G C G G G . C C A . G . Jp8 G G A T C . . . T . . - T - A G . C G C . G G . C C A . G . Jp9 G G A T C T . . . T . T . - . - A G . C . C G G G . . C . . G . Jp10 G G A T C . . . A . . . - C . - A G A . . C G G . C . C . G G C Jp11 G G A T C . . . T . . C T - A G . C G C G G G . C C A . G . Jp12 G G A T C . . . A . . . T C . - A G A . . C G G . C . C . G G C Jp13 G G A T C . C . A . T . . C . - A G . C . C G G . . . C . . G . Jp14 G G A T C . C . A . T . . - . - A G A C G C G G . . . C . . G . Jp15 G G A T C . . . T . . - T - A G . C G C G . G . C C A . G . Jp16 G G A T C . C . . . T . . - T - A G . C G C G . G . C C A . G . Variable sites

(17)

表(1)-1-2 地域毎の検出されたハプロタイプの数。各ハプロタイプ名は左に示した.コードは GENBANK に登録予定名.クレードは、初期(Ⅰ)と後期(Ⅱ)とした

ハプロタイプ数および地域特異的ハプロタイプ数は地域で異なり、7ハプロタイプ(D, F, G, I, J, K & L)は1個体からのみ検出された (表(1)-1-2)。襟裳地域では、全部で7つのハプロタイプ(A, B, C, D, M, N & O)が検出され、そのうち3ハプロタイプ(B, C & D)は、襟裳地域でしか見られ なかった。一方、厚岸地域からは全部で7ハプロタイプが検出され(A, E, F, H, M, N & O)、地域特 異的ハプロタイプはFの1つのみであった。浜中については、全部で6ハプロタイプ検出され(A, E, G, M, N & P)、浜中でしか見られないハプロタイプはGのみ検出された。 最もハプロタイプの種類 が多かったのは根室で、9ハプロタイプ見られ(E, H, I, J, K, L, M, N, O & P)、地域特異的ハプロタ イプ数も根室で最も多かった(I, J, K & L)(表(1)-1-2)。 ハプロタイプMとNは、16種類の中で最も高い頻度で表れ、Mが56個体、Nが37個体とそれぞれ 全体の31%と21%を占めた。さらに、これらハプロタイプの頻度を4地域で比較してみると、地域 で頻度に違いが見られ、ハプロタイプNは襟裳地域では2個体からしか見られなかった。これに対 し、厚岸(n=20)、浜中(n=13)、そして根室(n=21)では比較的高い頻度で見られた。一方、ハ プロタイプMは根室で最も頻度が高く(n=17)、その他の地域では10個体以下からしか見られなか った。 襟裳地域では、多くの個体がハプロタイプAだったが(50個体中35個体)、他の地域でこのハプ ロタイプは4個体からしか見られなかった。具体的には、厚岸で49個体中3個体、浜中で29個体中1 個体、そして根室ではハプロタイプAは検出されなかった。また、襟裳以外の道東の3地域:厚岸・ 浜中・根室では、ハプロタイプMとNの頻度が最も高かった。 1)塩基多様度 厚岸、浜中、根室の3地域は、ハプロタイプ多様度が高く塩基多様度が低いという同じ傾向を示 した(それぞれH= 0.738, 0.719と0.712。π= 0.0057, 0.0056と0.0050)。一方で、襟裳は両指標ともに 低い値を示した(H=0.501, π=0.0054)(表(1)-1-3)。 ハプロタイプ 襟裳 厚岸 浜中 根室 合計 クレード 1 A 35 3 1 0 39 JP1 Ⅰ 2 B 3 0 0 0 3 JP9 Ⅱ 3 C 2 0 0 0 2 JP10 Ⅱ 4 D 1 0 0 0 1 JP4 Ⅰ 5 E 0 13 7 4 24 Jp2 Ⅰ 6 F 0 1 0 0 1 JP12 Ⅱ 7 G 0 0 1 0 1 JP13 Ⅱ 8 H 0 1 0 3 4 JP8 Ⅱ 9 I 0 0 0 1 1 JP5 Ⅰ 10 J 0 0 0 1 1 JP14 Ⅱ 11 K 0 0 0 1 1 JP15 Ⅱ 12 L 0 0 0 1 1 JP16 Ⅱ 13 M 5 9 6 17 37 JP7 Ⅱ 14 N 2 20 13 21 56 JP6 Ⅱ 15 O 2 2 0 0 4 JP3 Ⅰ 16 P 0 0 1 1 2 JP11 Ⅱ total 50 49 29 50 178 コード

(18)

表(1)-1-3 北海道のゼニガタアザラシの各遺伝的多様度指数.各地域のサンプル数(Ns)、ハプロ タイプ数(Nh)および括弧内に地域特異的ハプロタイプ数、ハプロタイプ多様度(H)± SD と塩基多様度(π)± SDを示した 2)個体群分化 遺伝的分化係数Fstは、襟裳とそれ以外の地域(p<0.001)および厚岸と根室間(p<0.01)で有意 に異なった。しかしながら、遺伝距離は厚岸と根室間に比べて、襟裳とそれ以外の地域で高かっ た(Fst>0.3)。これらのことから、襟裳とその他の地域は遺伝的に大きく異なることが示唆された (表(1)-1-4)。 表(1)-1-4 北海道集団のペアワイズ Fst 値.対角線より上が有意水準、下がFst値を示す 3)ハプロタイプネットワーク 太平洋ゼニガタアザラシは大きく分けて3つのグループに分類された。1つ目は大西洋に直結し 日本のみを含むグループ、2つ目はそこから東太平洋およびサンフランシスコ沿岸に枝分かれする グループ、そして3つ目は日本及びロシアの太平洋の北西部とアラスカのブリストル湾を含むグル ープに分かれた (図(1)-1-2)。

(19)

図(1)-1-2 太平洋および大西洋ゼニガタアザラシのmtDNA調節領域を用いたハプロタイプ ネットワーク図.小さい白丸は、今回検出されなかった仮想的ハプロタイプを示して いる.日本産のハプロタイプは太線の円で示し、円の大きさは観察されたハプロタイ プ数に比例する。日本以外のデータはStanleyら2)のものを引用した 4)系統樹 MEGA 6 20)を使用して、最尤法による系統樹推定を行った。最適な塩基置換モデルは、Baysian Information Criteion(BIC)の最も低かったK2+G+I モデルを使用した。 太平洋ゼニガタアザラシは、地理的分布に一致しないワシントン、日本1、そして日本-ブリス トル湾-コマンドル島の3つの系統に分かれ、これらは多分岐である事が示された(図(1)-1-3) 。 日本産ゼニガタアザラシの1つは日本のハプロタイプのみを含んでいた(日本1)。もう一方は、ア ラスカのブリストル湾とコマンドル島のハプロタイプと単系統を組んだことから、日本のゼニガ タアザラシは側系統であることを示した(図(1)-1-3)。 図(1)-1-3 mtDNAの調節領域をもとにML法で作成した系統樹

(20)

外群としてゴマフアザラシ(Phoca largha)を使用。日本以外のデータはStanleyら2)を用いた。

ブートストラップ値が50< だったもののみ示した。

5)歴史的な個体群動態の推定

過去の個体群動態の推定を行うため、Arlequin version 3.5.1.217)を用いてミスマッチ解析を行った。

日本のゼニガタアザラシは、過去に集団の2次接触を示す2山モデルと一致することが明らかにな った (図(1)-1-4)。さらに、SSDとHrag両検定とも、spatial distribution modelに当てはまったこと から(SSD: P=0.1; Hrag: p= 0.42)、日本集団は過去に個体群が増加した後にボトルネックが起き、 その後異なる集団の移入があったことを示した。 6)クレードの地域ごとの割合 各クレードに属するハプロタイプの割合は地域で傾向に違いが見られ(図(1)-1-5)、襟裳でクレ ード1に属するハプロタイプが多く、反対にクレード2に属するハプロタイプは根室地域で多かっ た。また、それぞれのクレードの割合は、北もしくは東部へ行くに従って徐々に減少していた。 図(1)-1-5 ハプロタイプネットワークで検出された各クレードの地域毎の割合 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 頻度 ペアワイズ比較 observed 図(1)-1-4 北海道のゼニガタアザラシの主要繁殖場陸上を含む4地域のミスマッチ分布

(21)

(2)北海道内における集団遺伝構造 1)ミトコンドリアDNA a.ミトコンドリアDNAの調節領域を元にした集団遺伝 サンプルには、北海道のゼニガタアザラシの主要繁殖上陸場を含む4地域から計178個体を使用 した(襟裳n=50(オス=25, メス=25); 厚岸n=49(オス=24, メス=25); 浜中n=39(オス=11, メス =18); 根室n=50(オス=25, メス=25)。使用した配列はmtDNAの調節領域の始まりから719塩基と した。その結果、32の変異サイト(表(1)-2-1)、16のハプロタイプが検出され (表(1)-2-2)、検出 されたハプロタイプの種類及び数は地域によって異なる傾向を示した(図(1)-2-2)。 表(1)-2-1 ミトコンドリアDNAおよびマイクロサテライトから算出した北海道のゼニガタ アザラシの遺伝的多様度.ミトコンドリアDNAについては、各地域のサンプル数(Ns)、 ハプロタイプ数(Nh)および地域特異的ハプロタイプ数(unique)、ハプロタイプ多 様度(H)±SDと塩基多様度(π)±SDを示した。マイクロサテライトについてはサン プル数(N)、平均対立遺伝指数(MNA)、アリルリッチネス(AR)、ヘテロ接合度の 観測値(Ho)、ヘテロ接合度の予測値、および 近交係数(FIS)を示した 図(1)-2-2 主要繁殖上陸場を含む4地域における各ハプロタイプの割合 襟裳地域では70%の個体がハプロタイプAを持ち、それ以外のハプロタイプB, C, D, M, N および Oは10%以下で、そのうちの3つは(B, C & D)、襟裳地域のみで見られた。 厚岸地域ではハプロタイプN が最も多くみられ、全体の41%がこのハプロタイプだった。 次い

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