水樹奈々の歌詞の表現特性

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(1)

キーワード:歌詞,語彙,テキストマイニング,頻出度,コレスポンデンス分析

要 旨

本研究は水樹奈々という一人のアーティストの歌詞に着目し,その特徴について分析 を試みたものである。テキストマイニングの手法にて歌詞を数量化したデータに統計的 手法を適用し考察を加えた。作詞家別の使用語特徴分析では有意差分析やコレスポンデ ンス分析を用いた。その結果,使用頻度の高い語彙には各作詞家に有意差があり,同じ アーティストに提供された歌詞にも作詞家の個性が表れることがわかった。一方,作詞 家を超えて多用される共通語,いわばアーティストらしさが意識されたと思われる語と して「夢」,「信じる」,「輝く」,「変わる」,「言葉」,「見上げる」を見出すことができた。

時期別特徴分析では時期が進むにつれ語彙を多用する傾向が見て取れた。また全時期を 通じ「感情」を表す語彙が最も高い割合を占めていることがわかった。加えて「人生の 目標」を示す語彙は時期が進むにつれ割合が高くなっていくとともに,特に作詞家や時 期を超えたアーティストらしさを示す語として「夢」が位置づけられることがわかった。

1.  

はじめに

歌詞研究において,流行歌の時代的変遷による特徴の変化をその世相と結び付けて論 ずることは大出・松本・金子(2013)や小林・狩野・鈴木(2013)が行っており,一人 のアーティストやグループの楽曲に着目した分析は渡辺(2014)や富永(2015)などが 行っている。一方,あるアーティストに着目して行われた先行研究は,楽曲全体を一つ の対象として捉えて分析を行っている事例が多く見られ歌詞の年代的な変遷に踏み込ん だ分析は少ない。上記より本論文では水樹奈々1)(以下水樹)という一人のアーティス トに着目し先行例との比較を踏まえつつ,楽曲全体としての特徴を明らかにするととも に,楽曲の各年代に表れる歌詞の変化を読み取り,各時期におけるそのアーティストの 成長過程での変化に分析を加えることを試みた。

水樹奈々の歌詞の表現特性

山 下 良 奈

94

〈平成二十七年度鈴木賞受賞論文〉

(2)

本論文で取り上げた水樹という人物であるが,声優でありながらオリコンチャート1 位を獲得しまたNHK紅白歌合戦2)に6年連続で出場するなど,日本のアニメソングが 今の音楽業界である程度認知され市民権を得つつあるきっかけを作った先駆者の一人で あると私は考えている。

なお,アーティストの特徴を歌詞分析のみから論ずることには限界があるが,極力客 観的かつ数量的な裏付けを持たせるために,統計学的手法を用い分析や考察を補完する こととした。

研究方法

1.1. 

対象楽曲について

まず,水樹の公式サイトのディスコグラフィや歌詞タイム3)を利用して本人が歌って いる楽曲タイトルおよび歌詞を収集した。対象楽曲数は特徴分析によって異なるが,一 部キャラクターソング4)を含めた228曲を対象楽曲とみなした。

1.2. 

分析手法

本論文では目的である水樹の歌詞を分析するにおいて,歌詞の特徴として,1.楽曲数 だけでなく歌詞を提供している人物が比較的多いこと,2.声優による史上初の東京ドー ム公演の実施や紅白への連続出場など,活躍度合いに時期的にターニングポイントが あったと思われること,3.特殊なルビを多用すること,などから作詞家別の使用語特徴 分析と時期別特徴分析という二大方針で分析していく方針とした。

具体的には,上記の228曲分の全歌詞をテキストにしたものを対象データとし,この 文字情報を自然言語処理などで分析し有用な情報を抽出する技術,いわゆるテキストマ イニングの手法を用いた。対象となるテキストを形態素に分解しそれを数量化していく ツールとして,先行研究でも用いられている,奈良先端科学技術大学院大学松本研究室 で開発された形態素解析ソフトであるChaSen(茶筌)5),また樋口耕一氏(立命館大学産 業社会学部現代社会学科)の開発したKH Coder6)というフリーソフトを使用し,歌詞に 見られる語彙を抽出し分析していくこととした。また,抽出された語と作詞家別,時 期別のクロス集計表に基づき,χ二乗検定7)による有意差分析を行うとともに質的デー タのクロス集計表を視覚化して分析・考察できるコレスポンデンス分析8)を用い,アー ティストに提供された歌詞を通して,作詞家の個性の特徴や時期的な変遷の有無を分析 することを試みた。

1.3. 

分析対象について

先に述べたように,水樹が歌手として歌う228曲を対象とし,その歌詞を分析対象,

手法ごとにテキストデータ化したファイルを用いた。なお,KH Coderで形態素解析を 行った結果,全文字数109,422字,延べ語数55,492語,異なり語数5,675であった。

(3)

なお,ここでいう各分析対象,手法におけるテキストデータは以下の通りとした。作 詞家別分析においては,まず,各作詞家の歌詞の特徴を調べるため,ある作詞家が作詞 した全曲を一つのテキストにまとめたものを作成した。作詞家11人に対して11のファ イルを作成し有意差分析に用いた。

また,年代別の歌詞分析においては,これまでの活動期がデビューから約15年ある ことから第一期(2000〜2005年),第二期(2006〜2010年),第三期(2011〜2015年)

のほぼ三等分にすることとした。したがって,各期間における全曲を一つのテキスト ファイルとした。

なお,それらのテキストファイルは,「意味を持つ最小の言語単位」である形態素に 分解した上で,頻出語を抽出しその結果を集計 ・ 解析した。

また,作詞家については,公式サイトより水樹に歌詞を提供している人物は48人(2015 年現在)存在することがわかった。ただし,作詞家によって提供した楽曲数にばらつき があることや曲数が少ないと作詞家の特徴を十分に見出すことが困難だと考えたため,

本論文では,提供作詞数によって作詞家をランキング付けし,上位10人について水樹 本人とともに分析を行うこととした。その結果本人を除くと,矢吹俊郎,Hibiki,村野

直球,SAYURI,上松範康,藤林聖子,志倉千代丸,園田凌士,ゆうまお,しほり(敬称略)

の全10人が多く作詞を手掛けていることがわかったため,以下では上位10人に水樹本

人を含めた計11人を作詞家と呼び,分析対象とする。各分析において対象とした楽曲 数を表1に示す。

92 表1 各分析対象楽曲数一覧

順位 作詞家 総楽曲数

(共同作品数)

作詞家別分析 での使用曲数

時期別分析 での使用曲数

1 水樹奈々 61 61 59

2 矢吹俊郎 28 28 28

3 Hibiki 19 19 17

4 村野直球 14 14 14

5 SAYURI 9(12) 9(12) 9(12)

6 上松康範 10 10 1

6 藤林聖子 10 10 9

8 志倉千代丸 9 9 9

9 園田凌士 7 7 5

9 ゆうまお 7 7 7

9 しほり 7 7 5

  その他 47   42

  合計 228(231) 181(184) 205(208)

*カッコ内で示しているのは,共同作品数を含めた数9)である。

(4)

2.  

作詞家別使用語の特徴分析および結果

2.1. 

作詞家別使用語の特徴分析−各作詞家の頻出語有意差分析

まず,本人を含め各作詞家11人によく見られる語彙を抽出することとした。具体的 には,水樹の歌詞を作詞家ごとに一つのテキストにまとめ,KH Coderでデータ中から 語を自動的に取り出して,その結果を集計・解析した。歌詞中に見られる語で一語であ るが別の語として分解され解析されるものもあるため,語の取捨選択機能を用い,強制 抽出するとともに不使用語の指定も行った。具体的には,特に目的のない限り助詞・助 動詞をはじめとする,どのような文書の中にでも出現し本目的に利用しにくいであろう 一般的な語(「僕」,「私」,「〜でない」,「〜のような」など)は分析から排除できる設定 を用いた。例として,水樹の作詞した曲は全部で61曲あるが,これを一つのテキストファ イルにまとめて解析を行った。結果の出力は,KH Coderのコマンドで上位頻出150語と 品詞別という機能があるため,双方を抽出語のリストとして得ることとした。今回は頻

出150語に含まれる語彙のうち,曲中に見られる語彙で出現回数が多いものから順に上

位10語を取り出してみた。その結果,水樹の作詞した曲中で一番多い語は「夢」という

語で61回出現していた。次いで「今」という語がよく使われ,「知る」,「未来」,「心」,「声」,

「手」,「星」,「想い」,「行く」,「自分」という語も歌詞中に頻出していることがわかった。

同様に他の作詞家10人でも抽出を行い,各作詞家に見られる上位頻出10語とその出現 回数の11枚の表2を作成した。表には延べ語数も併記した。

ここで,作詞家一人一人を比較するためには,一人の作詞家に見られる語彙が他の作 詞家でどのように使用されているのか見ていく必要があると考えた。そのため,作詞家 一人の上位頻出10語の出現回数をそれぞれ他の作詞家10人の品詞別抽出語リストから 探して比較することとした。しかし,各作詞家によって作詞した楽曲数が異なり,作詞 した曲数が多いほど自然と出現回数が多くなることが想定され比較しにくいことから,

各作詞家に対しその他の作詞家10人が作詞した楽曲の歌詞をひとまとめにしたテキス トを集計 ・ 解析することとした。一例として,先ほどの水樹作詞の歌詞に見られる語,

抽出語上位10語について見ていく。水樹以外のその他10人の作詞家の歌詞をひとまと めにしたテキストを集計 ・ 解析し,その結果得られる抽出語リストから水樹の上位10語 に見られる語を探し出し,その語と出現回数とを比較する。ただし,出現回数は楽曲の 数に比例して増えるものであり,延べ語数が違うことから単に出現回数のみを比較する ことには意味はないと考えられる。そこで延べ語数を考慮した上でx二乗検定により,

その出現が統計的に意味があるものかどうか検討した。

クロス集計表の分割数は,作詞家の変数が対象とする作詞家とその他の作詞家10人 をひとまとめにしたものの2種類,語の変数が対象とする語と延べ語数からそれを差し 引いた合計数の2種類ある。そのため,クロス集計表の自由度は1になる。一例として,

水樹と水樹以外で計算したクロス集計およびχ二乗値などを表3に示す。

(5)

) 0 2 9 , 2 ( )

8 1 9 , 5 ( )

4 2 4 , 7 ( )

5 5 3 , 5 1 (

抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数

1 61 1 24 1 26 1 22

2 43 2 19 2 25 2想い 15

2 知る 43 3 いつ 18 3すべて 15 3 14

4 未来 40 3 自分 18 3 15 4 12

5 37 5 未来 17 5強い 12 5 11

5 37 6 16 5 12 6 10

7 36 7 行く 14 5 12 7願い 9

7 36 8 13 5 12 8いつ 8

7 想い 36 8 13 9 11 8いつか 8

10行く 34 10言う 12 9信じる 11 8いま 8

10自分 34 10日々 12 9 11 8 8

8

8 2

1 0

1

8 8

) 2 5 7 , 2 ( )

4 0 6 , 2 ( )

8 9 0 , 3 ( )

6 6 7 , 2 (

抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数

1 15 1 12 1 11 1 13

2 いつ 9 2 11 2 9 2 10

2 9 3 10 3あした 8 2 10

2 世界 9 3 10 3 8 4 9

5 自分 8 5 9 5見る 7 5気持ち 8

6 知る 7 5 信じる 9 5言葉 7 5描く 8

6 7 5 9 7願う 6 7居る 7

8 輝く 6 8 過去 8 7好き 6 7行く 7

8 6 8 強い 8 7信じる 6 7小さな 7

8 6 8 8 7探す 6 7場所 7

8 6 8 8 7届く 6

6

7 6

8

6

7 6

8

6

7 6

8

7 6

) 2 9 8 , 1 ( )

1 0 1 , 2 ( )

4 8 0 , 2 (

抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数

1 12 1 強い 8 1 9

2 見る 9 2 見える 7 2 8

2 9 2 好き 7 3何度 6

4 世界 7 2 笑う 7 4 5

4 7 5 6 4願い 5

6 感じる 6 5 6 4輝く 5

6 未来 6 5 6 7 4

9 甘い 5 5 6 7覚悟 4

9 5 9 いつか 5 7奇跡 4

9 5 9 行く 5 7強さ 4

9 5 7好き 4

9 自分 5 7 4

9 新しい 5 7続く 4

9 抱きしめる 5 7待つ 4

9 5 7 4

7 4

d.村野直球

e.SAYURI f.上松範康 g.藤林聖子 h.志倉千代丸

i.園田凌士 j.ゆうまお k.しほり

a.水樹奈々 b.矢吹俊郎 c.Hibiki

合計138語(うち異なり語数68 表2 各作詞家別上位頻出10語とその出現回数一覧 ( )は延べ語数

90

(6)

計算したx二乗値が5%水準の基準値3.8415よりも大きい値を示したのは「知る」,「未 来」,「声」,「手」,「星」,「想い」,「行く」,「自分」の8語であり,これらの語の延べ語 数に対する出現頻度には有意な差があると言え,表4に上位10語のx二乗値とともに示 す。なお表中で有意差の認められる語は表中で強調して示した。

その他10人についても同様の分析を行い,計11人について有意差をもって使用の多 い語を抽出した10)。その結果を表5に示す。なお表中の語彙は出現数の多い順に示した。

これらをまとめると,上位頻出語のうちいくつかの語彙は各作詞家の特徴となってい る一方,一部は複数の作詞家に共通するものもあることがわかった。次にこれらの語が 各作詞家にとってどのような意味を持つ語なのかについても分析を試みることとした。

2.2. 

作詞家別使用語の特徴分析−有意に多い語彙を用いたコレスポンデンス分析

有意差ありの語はおそらく各作詞家にとって意味を持つ語であることは想像できる が,これらの語と作詞家の間にどのような関係があるのか考察を進めるため,これらの

表3 上位語「知る」についてのχ二乗検定(水樹の場合)

知る 水樹 水樹以外 合計

知るの出現回数 43 38 81

知る以外の出現回数 15312 34908 50220

延べ語数 15355 34946 50301

知るの期待値 25 56 −

知る以外の期待値 15330 34890 −

x二乗値 19.470

表4 上位頻出10語におけるx二乗値一覧(水樹の場合)

語 水樹 それ以外の作詞家 x二乗値

夢 61 (0.40%) 109 (0.31%) 2.300 今 43 (0.28%) 109 (0.31%) 0.359

知る

43 

0.28

%)

  38 

0.11

%)

 19.439**

未来

40 

0.26

%)

  51 

0.15

%)

  7.739**

心 37 (0.24%) 73 (0.21%) 0.502

37 

0.24

%)

  34 

0.10

%)

 15.600**

36 

0.23

%)

  47 

0.13

%)

 6.460*

36 

0.23

%)

  37 

0.11

%)

 12.151**

想い

36 

0.23

%)

  44 

0.13

%)

  7.902**

行く

34 

0.22

%)

  46 

0.13

%)

 5.408*

自分

34 

0.22

%)

  42 

0.12

%)

  7.237**

*は5%水準比較で有意差あり

**は1%水準比較で有意差あり

(  )は延べ語数に対する比率

(7)

語と作詞家とのクロス集計表を作成しコレスポンデンス分析を行うこととした。コレ スポンデンス分析とは,アンケート結果や本論文で扱うテキストデータなどの質的デー タを対象とし,クロス集計表の行と列に記載するそれぞれの項目で,集計の結果が相 対的に似通っているものが近い値になるように数値化する手法である。詳しくは,内田

(2006)や高橋(2005)などを参照いただきたい。ここでは,行に頻出語を,列に作詞家 をとったクロス集計表を作成する。この際,有意差を持って多く出現する語は重複を除

き59語あることから,作詞家ごとの歌詞ファイルよりその59語の出現回数を改めて抽

出した。

このクロス表を用いてコレスポンデンス分析を行った。その分析には社会システム 分析プログラム College Analysis11)を用いた。頻出語と作詞家のクロス集計表にコレス ポンデンス分析を行い得られた結果の一部を抜粋して表6に示す。また,作詞家11人と 有意差を持つ59語の使用頻度のクロス集計を用いたコレスポンデンス分析の結果から,

成分1を横,成分2を縦にとった散布図およびその原点近傍の拡大図を図1,2に示す。

コレスポンデンス分析を活用するに際し,小木(2005),石田(2009)を参考にした。

88 表5 各作詞家の有意差をもって使用の多い語彙一覧

作詞家名(上位11人)

有意差ありの語彙

水樹 奈々

矢吹

俊郎 Hibiki 村野

直球 SAYURI 上松

康範 藤林 聖子

志倉 千代丸

園田

凌士 ゆうまお しほり

知る いつ 見る 強い

未来 すべて 想い 曖昧 過去 願う 気持ち 見る 見える 何度

好き 描く 好き 願い

言う 探す 居る 世界 笑う

日々 届く 小さな 感じる いつか 覚悟

想い 願い 忘れる 場所 甘い 奇跡

行く いつか 理想 新しい 強さ

自分 いま あした 抱き

しめる 続く

待つ

8語 5 2 8 2 2 8 6 6 9 11語

    合計67語(うち異なり語数59語)

表6 作詞家11人と有意差を持つ59語の使用頻度に対するコレスポンデンス分析の成分   成分1 成分2 成分3 成分4 成分5 成分6 成分7 成分8 成分9 成分10 固有値 0.093 0.082 0.073 0.064 0.054 0.047 0.044 0.035 0.028 0.020 寄与率 17.2 15.2 13.6 11.9 10.0 8.7 8.1 6.6 5.1 3.7 累積寄与率 17.2 32.4 45.9 57.8 67.8 76.5 84.7 91.2 96.3 100

(8)

表中で示される寄与率とは,各成分の固有値をその総和で割ったものであり,情報縮約 の度合いを示す指標とされる(大隅[2005年セミナー資料])。つまり,寄与率が高いほ どその成分がクロス表の数値の大小に大きく関わっていることを示している。ただし,

一般的にコレスポンデンス分析を適用するに際しての留意すべき事項として,2次元上 䛒䛧䛯

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-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

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図1 作詞家11人と有意差を持つ59語の使用頻度に対するコレスポンデンス分析(布置図)

図2 コレスポンデンス分析(図1の原点近傍の拡大図)

(9)

に描かれた散布図の情報は “ そこで今眺めている二つの成分軸へ射影した図” であり,

全情報ではないということである(大隅[2015年講座資料])。 

図1,図2は布置図と呼ばれる二軸の成分に対する散布図である。一般にコレスポン デンス分析図中の各点の距離はその近似性を示しているとされる。

例えば,成分1において,矢吹は「道」,「人」,「日々」に他の作詞家に比べかなり近 いため,相対的に関連性がある語と考えることができる。なお,これらの語彙は矢吹に とって有意差がある語彙でもあった。また他の作詞家についても見てみると,水樹に対 して「声」,Hibikiに対して「愛」,SAYURIに対して「前」,村野に対して「胸」など,布 置図で相対的に近い語彙は,その作詞家にとっては出現度が高く有意差がある語彙が多 くなっていたことから,有意差分析の結果を反映していると言える。

次に作詞家11人の位置関係に着目して分析してみる。上記のコレスポンデンス分析 において,11人の作詞家のみの位置関係をプロットした布置図を図3から図7に示す。

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-4 -3 -2 -1 0 1 2 3

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図3 各作詞家の布置図(成分1,2)

図5 各作詞家の布置図(成分5,6)

図7 各作詞家の布置図(成分9,10)

図4 各作詞家の布置図(成分3,4)

図6 各作詞家の布置図(成分7,8)

86

(10)

図3〜7より,相対的に遠い作詞家は,使用する語の傾向が異なる可能性がある。具 体的には相対的に近い距離にある作詞家同士は多用する語彙の傾向が似ており,遠い作 詞家同士はその傾向が異なることが考えられる。そこで,成分1-10までの布置図にお

いて11人の距離を求め,近い作詞家の組合せと遠い作詞家の組合せについて有意差の

ある語彙を比較することとした。その際,各成分の寄与率が異なることから距離の計算 時に寄与率ごとの重みづけを行った上で計算してみることとした。具体的には,比較す る作詞家間の成分1-10までの同一成分値差の二乗和にその成分の寄与率の二乗をかけ,

10個足し合わせたものの二乗根をとった。作詞家ごとのコレスポンデンス分析の成分 値を表7に,それを用いて計算した各作詞家間の相対距離を表8に示す。

表7 作詞家ごとのコレスポンデンス分析の成分値(成分1-10)

  成分1 成分2 成分3 成分4 成分5 成分6 成分7 成分8 成分9 成分10 水樹奈々 -0.403 0.030 -0.308 0.749 -0.189 -0.018 -0.763 0.529 0.467 0.117 矢吹俊郎 1.202 -0.284 0.860 0.557 1.740 -0.093 -0.526 -1.239 -0.232 0.264 HIBIKI -0.710 0.471 -0.494 -0.810 0.005 -1.209 0.586 -0.278 -1.025 1.774 村野直球 0.199 1.164 -1.426 -1.558 -0.210 2.120 -0.731 -1.171 -0.224 -0.528 SAYURI 0.065 0.267 0.267 1.222 0.578 1.793 1.958 1.716 -2.223 -0.418 上松範康 -1.153 0.578 0.564 -0.489 0.134 -1.714 -0.023 -0.418 -0.849 -2.962 藤林聖子 0.688 -3.732 -0.984 -0.604 -1.223 -0.065 0.088 -0.310 -0.872 -0.470 志倉千代丸 2.730 1.069 1.123 -0.864 -1.750 -0.722 -0.032 1.172 0.164 -0.034 園田凌士 0.226 -0.552 -0.922 -1.866 2.348 -0.261 1.792 1.648 2.589 -0.456 ゆうまお -0.009 0.401 -0.097 1.600 -1.511 0.089 2.750 -2.297 1.726 -0.175 しほり -2.014 -0.895 3.679 -1.590 -0.642 1.642 -0.076 -0.078 0.742 0.729

表8 コレスポンデンス分析布置図での各作詞家間の相対距離

  水樹奈々 矢吹俊郎 HIBIKI 村野直球 SAYURI 上松範康 藤林聖子 志倉千代丸 園田凌士 ゆうまお

矢吹俊郎 0.396      

HIBIKI 0.279 0.488      

村野直球 0.434 0.561 0.409      

SAYURI 0.349 0.433 0.447 0.532      

上松範康 0.327 0.514

0.252 

0.528 0.494      

藤林聖子 0.648 0.678 0.710 0.795 0.749 0.788        

志倉千代丸 0.651 0.542 0.678 0.655 0.667 0.726 0.870       園田凌士 0.499 0.518 0.444 0.529 0.549 0.546 0.676 0.739     ゆうまお 0.395 0.527 0.457 0.576 0.431 0.505 0.758 0.679 0.657   しほり 0.705 0.785 0.709 0.861 0.753 0.621

0.923  0.973 

0.841 0.818

(11)

この結果から,相対的に最も近い作詞家は「HIBIKI」と「上松」であり,最も遠い作 詞家は「志倉」−「しほり」,「藤林」−「しほり」であり,これらの組合せは表8中にハ イライトして示した。よって,この組合せにおいて有意に使用する語彙の差が表れるの ではないかとの仮定の下,これらの作詞家の組合せについて,有意差のある59語の出 現回数を調査し,その傾向差を見るとともにその差が統計的に意味を持つものかχ二乗 検定によって確認した。その結果に関し,有意差のあった語彙をχ二乗値の大きさ順に したものを表9から表11に示す。

この結果から,コレスポンデンス分析で相対的に遠い作詞家同士の有意差のある語彙 の数は,相対的に近い作詞家同士のそれに比べて多くなる傾向が見られた。すなわち,

相対的に近い作詞家同士は多用する語彙の傾向が似ており,遠い作詞家同士はその傾向 が異なるという仮説がある程度成り立つという結果となった。

2.3.

 作詞家別使用語の特徴分析−有意差のない語彙

上記の結果は,言い換えると,ある同じアーティストに提供された歌詞にも作詞家の 個性が表れるということを意味している。一方,頻出上位語のうち有意差のない語彙に ついては,作詞家を超えて共通する語があり,いわばアーティストらしさが表れている

84 表9 上松とHIBIKIの有意差のある語彙

(相対距離 0.252)

語 上松範康 HIBIKI x二乗値

覚悟 4 0 7.538

過去 8 3 7.035

表11 藤林としほりの有意差のある語彙

(相対距離 0.923)

語 藤林聖子 しほり x二乗値

何度 0 6 7.953

あした 8 0 6.035

下 0 4 5.302

覚悟 0 4 5.302

奇跡 0 4 5.302

力 0 4 5.302

見る 7 0 5.281

願う 6 0 4.526

理想 6 0 4.526

表10 志倉としほりの有意差のある語彙

(相対距離 0.973)

語 志倉千代丸 しほり x二乗値

心 1 9 9.910

風 10 0 6.959

下 0 4 5.748

覚悟 0 4 5.748

奇跡 0 4 5.748

次 0 4 5.748

続く 0 4 5.748

居る 7 0 4.871

行く 7 0 4.871

場所 7 0 4.871

(12)

と解釈できるのではないかと考えたためその語彙を見ておくこととした。11人から上位 10語を抽出した総数のうち,異なり語数は68語であり,そのうち有意差のある語彙は 59語で有意差のない語彙は9語であった(表12)。また,この9語の各作詞家の使用頻度 のクロス集計表を表13に示す。

このうち,「剣」,「天」は出現頻度が小さくそのために有意差が現れなかった語彙で あると考えられることから除外すると,全員が使っている語彙は,「夢」,「今」の2語,

11人中10人が使っている語彙は「信じる」,「変わる」,「言葉」,8人が使っている語彙は

「輝く」,「見上げる」であった。

ここで取り上げた語彙は,作詞家を超えて共通する語彙であり,いわば水樹らしさが 表れている語彙とみなすことができると考えられる。そのことを裏付けるためには,水 樹以外の歌手の歌詞との比較やより一般的な歌詞の語彙集のようなものとの比較が必要 である。そこで本論文では,その一つの便法として,国立国語研究所の語彙調査のうち,

テレビ放送の語彙調査[語彙表]12)との比較を試みることとした。

この中にあるhon_ons.dat(本編〔音声〕五十音順語彙表)というファイルには,1989年 4月2日(日)から同年7月1日(土)までの3か月間,全国放送網の7つのチャンネル(NHK

表12 11人の作詞家の上位10語(異なり語数)の分類

有意差のある 語彙(59語)

愛,下,胸,空,時,次,手,心,人,星,声,前, 道,風,目, 力,

涙,恋,いつ,いま,何度,過去,覚悟,甘い,願い,願う,奇跡,居る,強い,

強さ,見る,言う,好き,行く,自分,笑う,場所,世界,想い,続く,待つ,

探す,知る,届く,日々,描く,未来,理想,曖昧,あした,いつか,すべて,

感じる,気持ち,見える,小さな,新しい,忘れる,抱きしめる 有意差のない

語彙(9語) 剣,今,天,夢,輝く,言葉,信じる,変わる,見上げる

表13 有意差のない語彙のクロス集計表   水樹

奈々 矢吹

俊郎 HIBIKI 村野

直球 SAYURI 上松 範康

藤林 聖子

志倉 千代丸

園田

凌士 ゆうまお しほり 夢 59 19 25 13 7 11 11 9 7 4 4 今 43 24 13 7 15 12 9 15 5 4 8 信じる 32 7 10 6 3 9 6  0 1 1 1 輝く 26 3 5 1 6 7  0  0  0 2 5 変わる 14 7 7  0 1 4 2 5 3 1 1

言葉 29 5 8 2 4  0 7 5 1 2 1

見上げる 3  0 2 8 1 3 1 0   0 1 1 剣 1  0 2  0  0 8  0  0  0 1  0 天 8  0 9  0 0 8  0  0  0  0 3

(13)

総合,NHK教育,日本テレビ,TBS,フジテレビ,テレビ朝日,テレビ東京)のテレビ 番組調査で得られたすべての見出し語(26,033語)に一連の番号が付与されており,そ の中に「夢」,「今」,「見上げる」など,今回取り上げた語彙が入っている。そこで,そ れの母数に対する出現率と本論文における分析結果の出現率を比較してみた。

その結果を表14に示す。

この結果によると,水樹の歌詞において多用される語のうち,「今」を除く,「夢」「信 じる」「輝く」「変わる」「言葉」「見上げる」の6語は,明らかに水樹の歌詞における出現 率が高いと見なせる。言い換えると,日本語の歌詞で一般的に用いられるような基本的 な語彙を除外して抽出された水樹の特徴的な語彙と解釈できる。

よって,これらの語彙は作詞家を超えて共通する語彙であり,いわば水樹のアーティ ストらしさが表れている語彙とみなすことができる。

2.4. 

作詞家別使用語の特徴分析−まとめ

以上,作詞家別の使用語についていくつかの手法を用いて分析を試みた。作詞数の多 い上位11人による歌詞分析の結果より,以下のことが分かった。

1. 出現回数の上位10語を作詞家ごとに取り出し,比較・分析した結果,11人それぞれ で使用頻度に有意差がある語彙は異なるものが合計59個存在した。それらの延べ語 数に対する出現回数で見たところ,いずれもその作詞家が有意に多用していること が分かった。

2. 上位頻出語の出現数と作詞家のクロス集計表からコレスポンデンス分析を試みたと ころ,布置図において,作詞家に近接する語彙は,有意に多用する語彙が位置する

82 表14 多用される語彙の出現率比較

語彙 度数 出現率 (千分率)

水樹奈々歌詞 テレビ放送語彙集 水樹奈々歌詞 テレビ放送語彙集

夢 169 43 3.455 0.417

今 155 451 3.169 4.375

信じる 76 22 1.554 0.213

輝く 55 7 1.124 0.068

変わる 45 ※− 0.920 −

言葉 64 47 1.308 0.456

見上げる 20 1 0.409 0.010

出現率は各々出現度数/延べ語数にて算出       延べ語数は水樹歌詞48,914,テレビ放送語彙集103,081

※「変わる」はテレビ放送語彙集には存在しなかった

(14)

傾向が見てとれ,有意差分析の結果を反映している結果となった。

3. コレスポンデンス分析による布置図において相対的に離れている作詞家同士には,

お互いが使う語の出現度が異なる傾向を持つという推定が成り立つ結果となった。

つまり,ある同じアーティストに提供された歌詞にも作詞家の個性が表れるという ことを意味していると言える。

4. 一方,上位頻出語の中には,作詞家を超えて多用される共通する語彙がある。これ らはいわばアーティストらしさが意識されたと思われる語彙とみなすことができ,

それは「夢」,「信じる」,「輝く」などがある。

3.  

時期別特徴分析および結果

3.1. 

時期別特徴分析−時期別に見られる語分析

次に水樹がこれまで活動している期間にはいくつかの変化点があり,それが水樹の歌 詞の変質と連動している可能性を検討するため,活動時期をほぼ三等分し楽曲205曲を 各時期に分割して見ていく13)。ここでは2000年から2005年を第一期,2006年から2010 年を第二期,2011年から2015年を第三期とすることとした。楽曲について,第一期は 69曲,第二期は77曲,第三期は59曲を対象とし,KH Coderを使用して分析を試みる。

それぞれの時期の抽出語比較のため,各時期の中で頻出語上位25語を表15に示す。

各時期を比較すると,まず明らかに「夢」,「今」はどの時期においても最も多用され ている語彙であることがわかる。なお,「夢」は前段での各作詞家の特徴分析を通じて,

作詞家を超えて共通し多用される,いわばアーティストらしさを示す語であるとの結果 が得られている。この語が作詞家のみならず,期を超えて多用される語であることは水 樹という歌手の楽曲において大きな特徴であり,意味を持つことと言える。

次に各時期の傾向をより詳細に比較していくと,第一期の語彙は,第二期,第三期で 順位および使用回数が変わっているものも多いが,上位語としてよく使用されているこ とがわかる。その他頻度がより下位の語に関しても同様の傾向が見られた。第一期に見 られる上位25語のx二乗検定を行い確認したところ,有意差を示したのは「行く」,「恋」,

「見つめる」,「知る」,「人」の5語であった。これらのことから水樹の楽曲においてよく 使用される語彙には時期によって大きな変化はないものだと考えられる。しかし,単独

の上位25語のみでなく,抽出された語彙全体を分析してみると時期差があることも考

えられる。そのため,大出・松本・金子(2013)にならい,歌詞に見られる語彙をコーディ ングいわば意味分類し,コードと時期をクロス集計することで,各時期に見られる語彙 の傾向や変化についての分析を試みたい。

3.2. 

時期別特徴分析−コーディングと時期の特徴分析

大出ら(2013)はKH Coderを使用することによって,恣意的な操作を避けてデータ

(15)

を計量的に分析することができ,さらにコーディングルールを作成することで,分析者 が主体的かつ明示的にデータを分析することが可能であるとしている。本論文において も同様にKH Coderを用いコーディングを行った上で分析を試みることとした。

まず,計量テキスト分析をする前に分析対象とする全曲の歌詞を通覧した上で,全楽 曲の上位頻出150語を含め,歌詞に見られる語彙で489語を意味分類していくこととし た。

その際,感情を表す語彙や時制を表す語彙,自然を表す語彙などの一般的な分類の他,

試行錯誤の末,水樹の歌詞から筆者が感じたことを反映してみた。人との関わりを表す 語彙や人に働きかける動作を表す語彙などを,分類語彙表増補改訂版データベース(国 立国語研究所2004),幻想ネーミング辞典(新紀元社編集部2009),Weblio辞典14)などを

80 表15 各時期における上位頻出25語

第一期 第二期 第三期

抽出語 出現回数 抽出語  出現回数 抽出語  出現回数

1 夢 54 1 今 82 1 夢 63

2 今 51 2 夢 72 2 今 47

3 胸 46 3 心 55 3 未来 45

4 行く 42 4 空 50 4 心 41

5 恋 41 4 手 50 5 声 38

6 空 36 6 強い 44 6 信じる 36

7 想い 35 7 言葉 41 6 知る 36

8 自分 33 7 未来 41 8 愛 35

9 心 31 9 愛 38 8 空 35

10 いつ 30 10 変わる 37 10 胸 34

10 未来 30 11 自分 36 11 世界 33

12 愛 29 12 胸 34 12 明日 30

13 涙 28 12 想い 34 13 強い 28

14 見える 27 14 声 33 14 いつ 26

15 強い 26 14 明日 33 14 見える 26

15 信じる 26 16 見る 32 14 涙 26

15 風 26 16 恋 32 17 自分 25

18 気持ち 25 18 光 30 17 手 25

18 手 25 19 世界 29 17 想い 25

20 消える 24 19 星 29 20 輝く 24

21 笑顔 23 19 風 29 20 見る 24

22 人 22 22 行く 28 20 星 24

22 知る 22 22 伝える 28 23 変わる 23

24 願い 21 24 感じる 27 24 言葉 21

25 見つめる 20 25 見える 26 25 すべて 20

25 涙 26 25 光 20

25 風 20

25 忘れる 20

25 恋 20

(16)

使用しつつ,KH Coder の機能であるKWICコンコーダンスでその語の前後文脈を見な がら行うこととした。また当初,感情を「ポジティブ的な感情」と「ネガティブ的な感情」

に区分しようとしたが,同じくKWICコンコーダンスを使って,前後文脈から考察して みたところ,どちらの意味でもとれる語が多数見受けられたため「感情」というひとく くりのコードを作ることとした。

最終的にはコード名として,「人生の目標(到達点)」「感情」「ツールとなるもの」「時」

「アプローチ」「周りの環境」「自然」「感性」「関係性」という9個のコードを選定すること とし,合計で489語を抽出,9個に分類した。以下,表16にコード名が割り振られた語 彙の代表的なものを示す。また,コードと時期のクロス集計をしたものを表17に示す。

各時期を比べるとどの時期も「感情」が最も多くを占めており,「自然」「周りの環境」

というのは合わせても5%未満ほどしか見られないということがわかる。次に時期別に

表16 コード名がつけられた語彙一覧(代表例を抜粋)

コード名 水樹の歌詞に見られる語彙

感情 喜び 嘘 笑う 悲しい 幸せ 淋しい 泣く

人生の目標(到達点) 夢 辿り着く 答え 叶う あこがれ 終止符 先 アプローチ 伝える 踏み出す 越える 歌う 頑張る 乗り越える 耐える

時 今 現実 歴史 時 永遠 昔 日々

感性 触れる 見る 感じる 覚える 聴こえる 知る 気づく

関係性 二人 一人 共に 側 恋人 君 僕

ツールとなるもの 声 言葉 歌 カギ 羽根 旅路 道 周りの環境 世界 全て すべて 街 宇宙 夜空 景色

自然 風 花 海 波 薔薇 華 桜

表17 コードと時期のクロス集計表

コード名 第一期 第二期 第三期 合計

感情 704 (26.9) 809 (22.9) 686 (24.7) 2199 (24.6)

人生の目標(到達点) 451 (17.2) 655 (18.5) 583 (21.0) 1689 (18.9)

アプローチ 398 (15.2) 608 (17.2) 458 (16.5) 1464 (16.4)

時 289 (11.0) 409 (11.6) 285 (10.3) 983 (11.0)

感性 266 (10.2) 329 (9.3) 233 (8.4) 828 (9.3)

関係性 205 (7.8) 285 (8.1) 186 (6.7) 676 (7.6)

ツールとなるもの 187 (7.1) 292 (8.3) 215 (7.7) 694 (7.8)

周りの環境 62 (2.4) 92 (2.6) 83 (3.0) 237 (2.7)

自然 58 (2.2) 58 (1.6) 50 (1.8) 166 (1.9)

合計 2620 (100) 3537 (100) 2779 (100) 8936 (100)

数値は出現回数 ,( )内は%

(17)

比較する際,x二乗検定を行うこととした。時期の変数は第一期から第三期までの3種 類で,各語彙の変数はそのカテゴリーとそれ以外の2種類であるため,クロス表の自由 度は2となる。計算したχ二乗値が5%水準の基準値5.9915よりも大きい値を示したの は,「感情」,「人生の目標(到達点)」の二つであった。図8のグラフで割合を示してい るコードが有意差のあるコードである。

「感情」については第一期から第二期にかけて26.9%から22.9%へと減少傾向が見ら れ,第三期では24.7%と増えていることがわかる。「人生の目標(到達点)」については 第一期の17.2%から第三期の21.0%にかけて漸増していることがわかる。第一期から第 二期への変化として,今回のコーディングに使った語数が35%増えており分母が増え た効果によって「感情」の割合が減ったと考えられる。なお,曲数の増減についていえ ば,曲数は12%増えていることから曲数以上に語数が増えている。言い換えると,曲 あたりで見ると語彙が多用されてきていると分析することができる。第二期から第三期 に関しては,コーディングに使った語数が79%に減っているものの,曲数も77%に減っ ているため曲数あたりの使用語数(語彙の多用性)は同等以上だと考えられる。一方,

「人生の目標(到達点)」はそれらを加味しても,時期が進むにつれて割合が大きくなる 傾向が見られている。言い換えると,意識してか無意識のうちにか,歌詞の中に「人に 道しるべを示すような語彙」を多用する傾向が表れていると言えるのではないであろう か。

なお,時期分析においてもコレスポンデンス分析を試みた。205曲と表17に示した9 つのカテゴリーで分類,抽出した語彙のクロス表を用いて行った。

しかし,いくつかの考え方で分析を試みたところ,多少時期に関わる傾向も垣間見え

26.9

22.9

24.7 17.2

18.5

21.0

0% 20% 40% 60% 80% 100%

➨୍ᮇ (2000㹼2005ᖺ)

➨஧ᮇ (2006㹼2010ᖺ)

➨୕ᮇ (2011㹼2015ᖺ)

ឤ᝟

ே⏕ࡢ┠ᶆ㸦฿㐩Ⅼ㸧

࢔ࣉ࣮ࣟࢳ

᫬ ឤᛶ 㛵ಀᛶ

ࢶ࣮ࣝ࡜࡞ࡿࡶࡢ

࿘ࡾࡢ⎔ቃ

⮬↛

㸦ᩘᏐࡣ㸣㸧 図8 コードと時期についてのグラフ

78

(18)

たものの残念ながら明確な分析には至らなかった。これは1曲ごとの,9つのカテゴリー の現れ方がさまざまであるため,いくつか特定の曲とカテゴリーの関係が傾向に大きく 影響を及ぼす。その結果,時期による語彙の傾向差が見えにくくなってしまうというこ とが考えられる。この結果のさらなる考察は,大出他(2013)との比較を含めた詳細な 分析が必要であり今後の課題とする。

3.3. 

時期別特徴分析−まとめ

以上,時期別歌詞の特徴分析の結果をまとめると,

1.どの時期も通じて,「感情」というカテゴリーが最も比重が大きかった。

2. カテゴリーの中で時期に対して有意差があるのは,「感情」と「人生の目標(到達点)」

であった。

3. 着目した頻出語総数および曲数の増減から判断すると,一曲当たりの語数は第一期 に比べて第二期,第三期では増えており,第二期,三期ではほぼ同等であった。こ れはいわば語彙の多用化と捉えることができる。

4. 有意差のあった語のうち,「感情」は第一期から第二期で一旦微減し,第三期で増加 していた。

5. 「人生の目標(到達点)」については,総語数の増減に関わらず期が進むに従い割合 は増えている。

6. 以上の分析結果を踏まえて推察すると,水樹の歌においては,時期が進むにつれて 人生の目標を表現しようとする気持ちがより強く反映されていると捉える事ができ る。

4.  

今後の課題

本論文では,計量言語学で用いられる統計的分析手法を活用しつつ,一人のアーティ ストの歌詞における語の特徴分析を試みた。取り扱った質的データが膨大になったこと からいくつかのカテゴリー分けを行ったが,その手法にいかに論理性や客観性を持たせ るかをさらに考えていく必要がある。

また,今回は多用される頻出語に特徴があるという仮定の下で分析を進めていった が,低頻出語であっても,実はキーとなる語彙が埋もれていないかという懸念は残され る。しかし,データが膨大になってくる中では,分析効率化の観点からもすべての語を 完全に網羅することは難しい。頻出度の低い語彙の中から頻度だけでなく,いかに意味 のあるキーワードを発見し分析に活かしていくかは大きな課題であると考える。

また,質的データの分析については,いかに恣意的な操作を避けて計量化できるかは 重要なポイントであるため,カテゴリー分け,意味分類等については,極力その過程を 明らかにすることなどは心がけたつもりであるが,より客観的な指標があればよかった と考えている。

(19)

1)本人公式サイト(NANA PARTY)による。

URL:http://www.mizukinana.jp/ (最終閲覧日 2016年9月19日)

2) NHKが放送する年末歌番組。12月31日にNHKで放送される,おおみそか恒例の歌番組。

出典:Weblio辞書 URL:http://www.weblio.jp/ (最終閲覧日 2016年9月19日)

3) JPOP,アニメ,ゲームソングの歌詞が見られる歌詞サイト。

4)俳優や声優などが,テレビドラマ・映画・アニメ・ゲームなどで演じた役柄として歌唱し た楽曲。出典:Weblio辞書 URL:http://www.weblio.jp/ (最終閲覧日 2016年9月19日)

5) URL:http://chasen-legacy.osdn.jp/ (最終閲覧日 2016年9月19日)

6)アンケートの自由記述・インタビュー記録・新聞記事など,さまざまな社会調査データの 分析を目的とし,「計量テキスト分析」または「テキストマイニング」と呼ばれる方法に対 応している。URL:http://khc.sourceforge.net/ (最終閲覧日 2016年9月19日)

7)複数のグループの数値の間に有意差があるかどうかを検証するための統計学的な操作とし て,χ二乗値を用いた手法。本論文ではexcelによる計算を用いたため関連のURLを参照 した。

URL: http://imnstir.blogspot.jp/2012/02/excel.html (最終閲覧日 2016年9月19日)

8)クロス集計表の行と列のそれぞれの項目で,集計の結果が相対的に似通っているものが近 い値になるように数値化する手法。

9)本来はカッコ内の曲数であるが,そのうちSAYURIの一部(3曲)は水樹と共同で作詞した ものである。なお,分析では(  )の曲数を用いた。

10)同じデータに対してχ二乗検定を繰り返すことによって,帰無仮説が棄却されやすくなる,

すなわち有意差の判断を誤るリスクがあるとする考え方がある。

11)福山平成大学福井正康研究室のHPで公開されているプログラム。

URL:http://www.heisei-u.ac.jp/ba/fukui/analysis.html(最終閲覧日 2016年9月19日)

本論文をまとめるに当たり最新版Ver6.3を用いて再分析を行った。 

12)『国立国語研究所言語処理データ集8 テレビ放送の語彙調査[語彙表]付/中学校・高校教 科書の語彙調査[語彙表]』として刊行された電子データのうち,テレビ放送の語彙調査の 部分を抜き出したもの。URL:http://pj.ninjal.ac.jp/corpus_center/files/TVhousou.zip

(最終閲覧日 2016年9月19日)

13)時期別分析の傾向を見るため,水樹のこれまでの活動時期とイベントの開催等を踏まえ,

筆者の独断で5年をベースにほぼ三等分とした。

14)ウェブリオ株式会社が運営する日本語圏向けの統合型オンライン百科事典の類語辞典。約 410万語の類語や同義語・関連語とシソーラス。URL:http://thesaurus.weblio.jp/

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引用・参考文献

石田 淳(2009)「人はどのような言葉で幸福を語るのか?幸福理由のテキスト・マイニング」

『関西学院大学社会学部紀要』107巻 2009年3月号,pp.241-248,関西学院大学社会学部 研究会

内田 治(2010)『数量化理論とテキストマイニング Excel/R/StatWorks』,日科技連出版社 大出 彩・松本文子・金子貴昭「流行歌から見る歌詞の年代別変化」『じんもんこん2013論文集』

2013巻4号,pp.103-110,情報処理学会 大隅 昇「対応分析法・数量化法III類の考え方」

テキスト・マイニング研究会第3回WordMiner活用セミナー2005年5月19日−20日 URL: http://www.wordminer.org/wp-content/uploads/2013/04/63_19.pdf

(最終閲覧日 2016年9月19日)

大隅 昇「対応分析法とは(概要)」2015年度版 JRMA「質的データのマイニングのための対応 分析法」講座資料

URL:https://www.jmra-net.or.jp/seminar/pdf/2015bunsekitext.pdf (最終閲覧日 2016年9月19日)

小木しのぶ(2005)「ことばによる感性と映画テキストマイニングによる感性の抽出」『感性工学 研究論文集』5巻3号,pp.43-47,日本感性工学会

真田治子(2007)『現代日本語学入門』p.49,語種による分類,p.112,文字と表記 荻野綱男編 片山秋作(2010)「コブクロの歌詞の表現特性」大阪教育大学平成22年度卒業論文

URL: http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~kokugo/nonami/2010soturon/katayam.htm (最終閲覧日 2016年9月19日)

小林佳織・狩野恵里奈・鈴木崇史 (2013)「女性グループの歌詞の計量テキスト分析」言語処理 学会 『第19 回年次大会 発表論文集』

高橋 信(2005)『Excelで学ぶコレスポンデンス分析』,オーム社

田島勇樹(2006)「多変量解析―数量化3類―」茨城大学情報工学部情報工学科 URL:http://nlp.dse.ibaraki.ac.jp/~shinnou/zemi2006/mva/tajima2.pdf (最終閲覧日 2016年9月19日)

富永 愛(2015)「いきものがかり・水野良樹と山下穂尊の歌詞に関する文体的特徴分析:計量 言語学的手法による」 『日本文學』111巻,pp. 235-252,東京女子大學日本文學研究會 中川雅央「付表 カイ2乗分布表χ²(chi-square) distribution」 滋賀大学教育学部 URL: http://www.biwako.shiga-u.ac.jp/sensei/mnaka/ut/chi2disttab.html

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分類語彙表−増補改訂版データベース

新紀元社編集部(2009)『幻想ネーミング辞典』新紀元社

付記

本稿は,四章から成る著者の卒業論文(平成二十七年度)の第一章,第二章を大幅に加筆,修 正したものである。三章(ルビの分析),参考資料等の詳細は卒業論文に掲載されている。また,

著者の力量不足を懇切丁寧にご指導くださった荻野綱男教授や有用なアドバイスをいただいた 特殊研究ゼミナールのメンバー各位に心から感謝を申し上げるとともに,このような栄えある 寄稿の機会を与えてくださった,本大学国文学会の関係各位に心より御礼を申し上げる。

(やました らな,平成二十七年度国文学科卒業生)

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