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表現論と分割定理

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(一本記事)

表現論と分割定理 (2)

土岡俊介

◎東京工業大学情報理工学院

本稿は,筆者が「第39回数理の翼セミナー」にお いて2018年8月10日に行った講義の,佐藤僚亮さん

(当時九大数理,現在名大多元数理)による講義録に,

筆者が手を加えたものを,NPO法人「数理の翼」の許 可をえて2回にわけて公開するものの後半である.

観察1

G1(q) := ∏

n=0

1

(1−q5n+1)(1−q5n+4), G2(q) := ∏

n=0

1

(1−q5n+2)(1−q5n+3) と定義したとき,任意のn>=1に対して

Gn+2(q) := Gn(q)−Gn+1(q)

qn = 1 +O(qn+2) が再帰的に成り立つ.

ヤコビ三重積

前回は観察1を仮定して,ロジャーズ-ラマヌジャン 分割定理の証明を行った.観察1は,次のヤコビ三重 積からしたがう.実際,ロジャーズ・ラマヌジャン分割 定理の証明が載っているたいていの整数の分割の教科 書では,その証明のどこかにヤコビ三重積を使ってい るはずである.これはオイラー分割定理の証明で

1 +q+q2+· · ·= 1 1−q

という「飛び道具」が役割をはたしたことに似ている.

定理2(ヤコビ)

n=1

(1−q2n)(1 +zq2n1)(1 +z1q2n1)

= ∑

n=−∞qn2zn

左辺の意味について簡単に注意をしておこう.

(1−q2n)(1 +zq2n−1)(1 +z−1q2n−1) = 1 +O(q2n−1) なので,これのn= 1,2,· · ·, mまでの積のq2m2以 下の係数は「zz1 の多項式として」確定する.こ のm→ ∞の極限が左辺の意味である.右辺が主張し ているのは,この「zz1の多項式」は(1 =z0q0 以外では)zn+znの形でしか現れず,そのqの肩は n2だということである(n>=1).

3 := ∏

n=1

(1−qn)について G1(q) =1

n=−∞(−1)nq5n

2 2 n2, G2(q) =1

n=−∞

(1)nq5n

2 2 +3n2

.

証明 ヤコビ三重積で(q, z)を(q5/2,−q1/2),(q5/2,−q3/2) と特殊化すればよい.

この講義ではヤコビ三重積は証明しない(ボゾン・

フェルミオン対応(boson-fermion correspondence) というアイデアによるボーチャーズ(Borcherds)の証 明[Cha,§5]を紹介する予定であった).

G

3

(q) についての予備考察

G1(q), G2(q)はを掛けると,qはまばらにしか現 れず,係数も±1しか現れない.∆·G1(q), ∆·G2(q)は ともに「すかすか」なのだから,G3(q) =q1(G1(q) G2(q))にをかけたものもまた「すかすか」である.

しかし∆·G3(q)が「きれい」になるかどうかについ て,ラマヌジャンやヤコビの時代にはなかった計算機 を用いて実験をしてみよう.SageMathで

(2)

var(’q’)

G1=prod(1/((1-q^(5*n-1))*(1-q^(5*n-4))) for n in (1..10)) G2=prod(1/((1-q^(5*n-2))*(1-q^(5*n-3))) for n in (1..10)) Delta=prod(1-q^n for n in (1..45))

G3=(G1-G2)/q

view((G3*Delta).series(q,30))

と打つと(O(q30)で)次の出力がえられる:

1 + (−1)q+ (−1)q2+ 1q3+ (−1)q6+ 1q8+ 1q10 +(1)q12+ 1q17+ (1)q20+ (1)q23+ 1q26. ここで「まばらに」現れる「かたまり」に注目し

1−q−q2+q3= (1−q)(1−q2) q6−q8−q10+q12=q6(1−q2)(1−q4) q17−q20−q23+q26=q17(1−q3)(1−q6) という因数分解の規則性からG3(q)は

1

n=0

(1−qn+1)(1−q2(n+1))(1)nq6n+5(n2) と等しいと予想される.これは証明が,前回の??節 (AB-2)の意味でMotivateされるところだ.

この予想が真であることをいうには

qG3(q) =G1(q)−G2(q) を確かめればよいので

q

n=0

(1−qn+1)(1−q2(n+1))(1)nq6n+5(n2)

= ∑

n=−∞(1)n (

qn(5n−1)2 −qn(5n+3)2 )

を示せばよい.この式を思いつくのは難しいが,提示 されれば(そして正しければ)証明できる.これは示 したい式が「無限積=無限和」ではなく,「簡単な無限 和=簡単な無限和」という形だからである.

G

4

(q) についての予備考察

G4=(G2-G3)/q^2

view((G4*Delta).series(q,40))

と続いて入力すると,G4(q)がq35まで表示される.詳 細は省略するが,G3(q)のときと同様にしてG4(q)は

1

n=0

(1−qn+1)(1−qn+2)(1−q2n+3)(1)nq8n+5(n2) と予想される.もちろん,これもq2G4(q) =G2(q)

G3(q)の確認を行えばよい.

G

n

(q) についての予備考察

さてG3(q), G4(q)を眺めていると,さらに進んで i>=3についてGi(q)は

1

n=0

(−1)nq2in+5(n2)(1−qn+1)· · ·(1−qn+i2)(1−q2n+i1) ではないかとも予想される.これも正しく予想さえさ

れてしまえば,

qiGi+2(q) =Gi(q)−Gi+1(q)

を確認することで,帰納法により証明可能である.

これは前回の(H2)に相当するか所なので,それな りに大変な計算になる.しかし先と同様,結論が「無 限和=無限和」という形をしていて,計算機によって 非常に確からしいことのお墨付きをもらえば,安心し て計算を進められる.詳細は原論文[AB]にあるが,ロ ジャーズ・ラマヌジャン分割定理の証明をやり遂げて みたい!という方は是非一度挑戦してみよう.

観察 1 の証明

最後にGi(q)の予想式から,観察1が証明できる.

実際,n= 0の寄与は 1

(1−qi)(1−qi+1)· · ·

だが,これは1 +O(qi)で,残りのn >= 1の寄与は O(q2in+5(n2))なので,Gi(q) = 1 +O(qi)となる.

表現論

セミナー直前の2018年8月1日に,筆者の指導教員 だった柏原正樹さんがチャーン賞を受賞された.ICM による紹介動画(https://www.youtube.com/watch?

v=yw4KifIg3R0で視聴可能)の中に,次の言葉がある

(researchという単語を見落とさないように!).

To find what is important and what is not important–I think that’s the most difficult part of the research of mathematics.

以下では, ロジャーズ・ラマヌジャン分割定理に関 連する数学の広がりを,表現論の視点からみていこう.

(3)

SU(2) =A1 α 1

A(1)1 1⇔ ◦1 SU(ℓ+ 1) =A α

1− ◦α

2− · · · − αℓ−1− ◦

αℓ A(1)

−− 1−−−

1− ◦ 1− · · · − ◦

1 SO(2ℓ+ 1) =B α

1− ◦α

2− · · · −αℓ

−1⇒ ◦αℓ B(1) 1

1

|

2− ◦2− · · · − ◦2⇒ ◦2 USp(2ℓ) =C α

1− ◦α

2− · · · −αℓ

−1⇐ ◦αℓ C(1) 1⇒ ◦2− · · · − ◦2⇐ ◦1 SO(2ℓ) =D α

1− ◦α 2− · · · −

αℓ−1

| αℓ−2

αℓ−1 D(1) 1

1

| 2− ◦

2− · · · −

1

| 2− ◦

1

E6 α 1− ◦α

2

α6

| α3− ◦α

4− ◦α 5

E(1)6 1− ◦2

1

|2

| 3 − ◦2− ◦1 E7 α

1− ◦α 2

α7

| α3− ◦α

4− ◦α 5− ◦α

6

E(1)7 1− ◦2− ◦3

2

|

4− ◦3− ◦2− ◦1 E8 α

1− ◦α 2− ◦α

3− ◦α 4

α8

| α5− ◦α

6− ◦α 7

E(1)8 1− ◦2− ◦3− ◦4− ◦5

3

6| − ◦4− ◦2 F4 α

1− ◦α 2⇒ ◦α

3− ◦α 4

F4(1) 1− ◦

2− ◦ 3⇒ ◦

4− ◦ 2 G2 α

1α 2

G(1)2 1− ◦23 A(2)2

1

2 D(2)ℓ+1

1⇐ ◦ 1− · · · − ◦

1⇒ ◦ 1 A(2)2ℓ

1⇒ ◦ 2− · · · − ◦

2⇒ ◦

2 D(3)4

1− ◦ 2

1 A(2)2ℓ−1 1

1

|

2− ◦2− · · · − ◦2⇐ ◦1 E(2)6 1− ◦2− ◦3⇐ ◦2− ◦1

整数論が整数を研究するのだとすれば,表現論は対 称性を研究する分野である.ギリシャ時代,人々は水 や火といった基本的な要素を正多面体と関係づけ,理 解しようとした.16世紀にケプラーは,当時知られ ていた5つの惑星を正多面体と対応づけ,具体的な計 算をしようとした.このような考えは現代では数秘術

(numerology)とされるが,対称性を通じて物事を理

解しようとする考え方は現代数学や物理学のいたると ころに見受けられる.

代数的リー理論(algebraic Lie theory. 以下,リー 理論)という表現論の一分野がある.リー理論ではデ ィンキン図形とよばれるものから出発し,さまざまな

「正多面体」のような奇跡的な対象が構築される.リー 理論的対象は現代版正多面体(modernized Platonic solids)といってよいだろう.柏原クリスタル(Kashi-

wara crystal)もまさしくその一種なのだが,本講義

と関係のある話に戻ろう.ロジャーズ・ラマヌジャン 分割定理のMotivated proofでは,が役割をはたし た.ガウスによって次の公式が知られている.

3= ∑

n=0

(1)n(2n+ 1)qn(n+1)/2.

では,kがきれいになるkにはどのようなもの があるだろうか?

リー理論の主要な研究対象は,ディンキン図形Xか ら定義されるカッツ・ムーディー・リー環g(X)である

([Tan]は日本語による教科書である).

1970年代初等に,マクドナルド(MacDonald) は

dimg(X)には「きれいな無限和の展開」があることを 示した(マクドナルド恒等式[Mac]).ここでXは有限 型ディンキン図形であり(ちなみに3 = dimg(A1)),

対応するアフィン型ディンキン図形X(1)に付随する g(X(1))の表現論が証明を与える.このような初等的 な話題にさえ,表現論が背景にあると考えられる.な お,マクドナルド恒等式については,著名な物理学者 であるダイソン(Dyson)のエッセイ[Dys]が面白い.

ラマヌジャンの映画より

映画『奇蹟がくれた数式』(The Man Who Knew

Infinity)で,入院中のラマヌジャンが

(4)

神の御心でなかったら方程式など何の意味もない.

とハーディに詰め寄るシーンがある.二人が共同で行っ てきた「真理探究としての数学研究」ではなく,お互 いの人生観や数学観をぶつけあう初めてのシーンだ.

たぶん彼は正しい.それこそわれわれが純粋数学 の根拠とするものでは?

と,映画の終盤でハーディはそのときのやりとりを省 みた.数学の定理は,証明によって正しさを確認する ことができる.たとえば本講義ではまさに,ロジャー ズ・ラマヌジャン分割定理について(ヤコビ三重積を認 めて)証明を行った.それで数学としてはある意味で 完成である.しかし,なぜ成り立つのか,どこからく るのか,人は理解しようと試みる.「証明の確定」以上 の「理解」が純粋数学では重要で,言い換えれば「神 の御心」を知ることではないだろうか.

実際にラマヌジャンによる人をびっくりさせる公式 のいくつかが,表現論・保型形式・等式証明(たとえ

ば[PWZ]を参照されたい)といった現代的視点によっ

て理解できることは興味深い.今回扱った分割の理論 では,表現論(=対称性の理論)のレンズをとおして眺 めることで,多くのことが理解できる.逆に,ロジャー ズ・ラマヌジャン分割定理のような印象的な定理(やそ の証明)は,背後にある深い理論の存在を予感させる.

ロジャーズ・ラマヌジャンから頂点作用素へ

1978年,レポウスキー(Lepowsky)とミルン(Milne) は,A(1)1 型ディンキン図形に付随する「レベル3標準 加群V(2Λ0+Λ1)」(ここでは正多面体のようなもの だと思えば十分である)の指標chV(2Λ0+Λ1)が

n=0

1

(1−q2n+1)(1−q5n+1)(1−q5n+4)

であることを見出した [LM].右辺はG1(q)とわずか にしか違っておらず,ロジャーズ・ラマヌジャン恒等 式の「(A(1)1 型)リー理論的な証明」の存在を示唆す る.そして,この着想を実現する中 [LW]で頂点作用 素(vertex operator)の理論へ到達するのである.

この理論は,リー理論の重要なテーマである.筆者

は学部生のときに[Kac,§14]で学んだのだが,論理的 にはフォローできてもいまひとつ腑に落ちず,また弦 理論の考察からえられた構成[FK, Seg]であると聞い ていたので,「証明の確認」以上の理解をあきらめてい た.最近,ひょんなことから整数の分割理論の研究も するようになり([TW]が柏原クリスタル理論を応用 した一つの成果です),2年前に初めて頂点作用素の理 論が,ロジャーズ・ラマヌジャン分割定理にも由来し ていることを知ったとき,その射程の広さに感銘を受 けた.ロジャーズ・ラマヌジャン分割定理から,わかり やすい意味や目的を見いだすことは難しい.しかし純 粋で印象的な主張だったからこそ,アフィン・リー環 の表現論という一見,整数の分割とは何の関係もなさ そうな数学分野の研究者にもインスピレーションを与 えたのではないだろうか.このことは,数学が社会で 思わず役に立ってしまうことと,相似形をなしている.

対称性

対称性を 想起させる

←−−−−−−−−−

「影」としての 現象が背後にある

数学

表現論 整数の分割

リー理論

対称性を 用いた類似物

−−−−−−−−−−→

現象の理解・証明,

そして別の

ロジャーズ・

ラマヌジャン 分割定理

表現論からえられる分割定理の例

以上のことは上図の←−に対応する.いったんA(1)1 を用いたロジャーズ・ラマヌジャン分割定理の証明がで きてしまえば,他のディンキン図形に適用できる.た とえばA(2)2 に理論を適用し,Capparelliは次の分割 定理をえた[Cap].これは上図の−→に対応する.

定理4(Capparelli) C⊆Parを,分割λ= (λ1,· · ·, λ) で次の条件を満たすものからなる部分集合とすると,

分割論的同値CPT T2,3,9,10(12) が成立する.

( 1 ) 1<=∀i < ℓ, λi−λi+1>

=2,

( 2 ) 1<=∀i < ℓ, λi−λi+1= 2⇒λi31, ( 3 ) 1<=∀i < ℓ, λi−λi+1= 3⇒λi30, ( 4 ) 1<=∀i<=ℓ, λi̸= 1.

(5)

Kanade-Russell 予想

2014年に提唱されたKanade-Russell予想(の一部)

を紹介する[KR].これはロジャーズ・ラマヌジャン分 割定理によく似たみかけをしており,興味深い.

予想5(Kanade-Russell) K(⊆Par)を,条件 ( 1 ) 1<=∀i<=ℓ−2, λi−λi+2>=3

( 2 ) 1<=∀i < ℓ, λi−λi+1<

=1⇒λi+λi+13 0 を満たす分割λ= (λ1,· · ·, λ)のなす集合とすると

T1,3,6,8(9) PT K,

T2,3,6,7(9) PT K∩ {λ∈Par|m1(λ) = 0},

T3,4,5,6(9) PT K∩ {λ∈Par|m1(λ) =m2(λ) = 0}. ロジャーズ・ラマヌジャン分割定理と同値な恒等式 があったように,Kanade-Russell予想にも,同値な恒 等式versionが2018年8月4日に公表された[Kur].

定理6 (Kur¸sung¨oz) 予想9.2.1∼9.2.3は,それぞ れ以下のq-級数の等式が成り立つことと同値である.

1

(q, q3, q6, q8;q9) = ∑

n1,n20

q3n22+n21+3n1n2 (q;q)n1(q3;q3)n2

, 1

(q2, q3, q6, q7;q9) = ∑

n1,n20

q3n22+3n2+n21+n1+3n1n2 (q;q)n1(q3;q3)n2

, 1

(q3, q4, q5, q6;q9) = ∑

n1,n20

q3n22+3n2+n21+2n1+3n1n2 (q;q)n1(q3;q3)n2

.

ここでq-ポッホハマー記号(q-Pochhammer sym- bol)とよばれる記法を用いている.

(a;q)n= (1−a)(1−aq)· · ·(1−aqn1), (a1, a2,· · ·, ak;q)n= (a1;q)n(a2;q)n· · ·(ak;q)n. いくつかの状況証拠から,Kanade-Russell予想は D(3)4 型リー理論と関係していると考えられている[Sil,

§5.2].筆者は,∆·∆(q3k)/(q, q3, q6, q8;q9)の考察 から,A(1)2 型または(A(1)1

A(1)1 )型リー理論と関係 があるのではないかと推測している(k= 1,3).

おわりに

最後にいくつか数学者の言葉を紹介する.

公式は創るものではなく既に存在し,ラマヌジャ ンのような類まれなる知性が発見し証明するのを 待っている

と映画の中でハーディはいっているが,ヴェイユの名 言を少し脚色して異議を唱えてみたい.

アイデアを持ってガウスのように始めてみよう.

すぐに自分がガウスでないことに気づくだろう.

それでも構わない.ガウスのように始めてみよう

とにかく「やってみること」が重要である.今回の ようなセミナーに参加して,数学が面白いと感じたの なら,何でもよいので数学をともなったことをやって みてほしい.ちなみにヴェイユの名言に対しては,数 学者の久賀道郎による次のような「返歌」がある.

あなたがガウスになれるかどうかは神のみが知り たまう.そして,どうしてもガウスになれるんで なければイヤだ,さもなければ数学なんかやって もしょうがないといわれる方には,こう申し上げ ます:あなたは数学が好きなのではない,何か別 のものが好きなのです

ところで,よく「健康に気をつけてがんばってね」と 言われることがあるが,ここでいう健康に,数学では 腕力が対応するのではないだろうか.数学を学び,実 際に研究するにつれて,腕力が重要であると感じる.

フェルマーの定理への寄与(谷山・志村予想)でも有 名な谷山豊は,ヴェイユ(およびジーゲル)の腕力に ついて次のように評価している.

独創的な深みに達するには,腕力の強さは不可欠 なのではあるまいか

(6)

腕力の例として,柏原正樹さんの話に戻る.チャー ン賞の受賞講演は柏原クリスタル(と圏論化)に関す るものだったが,その存在証明では14個の仮定を同時 に回す数学的帰納法が用いられた[Kas]([Nak]で日本 語による説明を読むことができる).この有名な論文 の冒頭に久我道郎への献辞がある.

To the memory of Professor Michio Kuga who taught me the joy of doing mathematics

「joy of mathematics」ではないことに,そしてmath- ematicsの前にある「doing」という単語に価値を見出 してしまうのは,深読みのしすぎだろうか?

質疑応答

Q形式的べき級数Gi(q)の非負な係数には組合せ論的 な意味はありますか?

Aあります.実際i>=1について

Ri:=R∩ {λ∈Par|1<=∀j < i, mj(λ) = 0}

とすると(R1=R, R2=Rです)fRi(q) =Gi(q)で あることが,G1(q), G2(q)と同様に証明されます.つ まり「隣り合ったパートの差が2以上で,もっとも小さ いパートがi以上」であるような分割の母関数がGi(q) だ,というわけです.これが示せれば観察??は明らか なのですが,注意してほしいのは,Motivated proof の論理では「観察1を用いて,いま述べたfRi(q) = Gi(q)(よって,観察??)が証明される」ということ です.i= 1,2「のときは」(おそらく「に限って」),

Gi(q)が印象的な無限積を持つ,というのがロジャー ズ・ラマヌジャン分割定理だといえます.

Q表現論のどういうところが面白いですか?

A表現論的な理解が進むと,一般化された事実や統一 された視点をえることがあります.今回の話でいえば,

ヤコビ三重積がいったん示され,A(1)1 型ディンキン図 形との関連が発見されると,他のアフィンディンキン 図形に対しても「ヤコビ三重積」に相当するものがえ られることになります.たとえば,A(1)1 型の「分母公 式(denominator formura)」というものがあって

n1

(1−unvn)(1−un1vn)(1−unvn1)

= ∑

mZ

(1)mum(m1)/2vm(m+1)/2

なのですが,これでu=−zq, v=−z1qと特殊化し たものが,ヤコビ三重積そのものです.A(2)2 型の分母 公式を計算すると

n1

(1−u2nvn)(1−u2n−1vn−1)(1−u2n−1vn)(1−u4n−4v2n−1)(1−u4nv2n−1)

= ∑

m∈Z(u3m22mv(3m2+m)/2−u3m24m+1v(3m2m)/2) となります.これを適当に特殊化したものはワトソン 五重積(Watson quintuple product)として1929年 から知られていたものでした.

参考文献

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CapS. Capparelli, Trans.Amer.Math.Soc. 348 (1996) 481–501.

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DysF.J. Dyson, Missed opportunities, Bull.Amer.Math.Soc. 78 (1972), 635–652.

(部分的な翻訳が[FT]3.9節にある)

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FTD.フックス, S.タバチニコフ著,蟹江幸博訳『ラ マヌジャンの遺した関数』,岩波書店,2012年

KacV. Kac.Infinite dimensional Lie algebras. Cam- bridge University Press, (1990).

KasM. Kashiwara, On crystal bases of the Q-analogue of universal enveloping al- gebras, Duke Math.J. 63 (1991), 465–

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(7)

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PWZM.ペトコブセク, W.ウィルフ, D.ザイルバーガー 著,小林ゆう治,伊藤尚史訳『A=B :等式証明とコ ンピュータ』,トッパン,1997年(http://www.

math.upenn.edu/~wilf/AeqB.htmlで,原著が入 手可能)

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2012

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section/algebra/algsymp_past/algsymp17_

files/group-theory/18.Tsuchioka.pdfで,日 本語による解説が入手可能)

[つちおか しゅんすけ]

参照

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