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洪水氾濫・高潮複合災害の被害額と伊勢湾台風被害額との比較

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Academic year: 2022

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洪水氾濫・高潮複合災害の被害額と伊勢湾台風被害額との比較

東北大学工学部 学生会員 ○秋間 将宏 東北大学大学院 正 会 員 風間 聡 東北大学大学院 正 会 員 小森 大輔

1.はじめに

地球温暖化に伴う気候変動及びそれに伴い発生する 水災害に対する適応策や緩和策に社会の関心が寄せら れている.日本は洪水氾濫・高潮複合災害の被害を受け てきた.1959 年に発生した伊勢湾台風は河川洪水と高 潮が同時に発生し,甚大な被害を及ぼした.Oouchi et al.

(2006)は,現在気候実験と比較し,温暖化実験におい て,最大風速が45 m/sを超える台風の頻度は増加する と推定した.規模の大きい台風の頻度の増加により,台 風に伴う洪水氾濫や高潮被害が将来的に増加すると展 望される.したがって,複合水災害として,洪水氾濫と 高潮災害における被害額の定量的評価は重要である.

複合災害の既往研究として,著者ら(2016)は洪水氾 濫・高潮複合災害の被害額を日本全土で推定した.しか し,複合災害被害額における実現象の再現性評価はさ れていない.

したがって,本研究は,洪水氾濫・高潮複合災害被害 額推定手法に基づいて得られた被害額と,実現象(伊勢 湾台風)における被害額との再現性の検証を目的とす る.

2.洪水氾濫・高潮複合災害被害額推定手法

以下,洪水氾濫と高潮の同時生起した災害を複合災 害と定義する.複合災害は台風により発生することが 多いことから,台風時の低気圧に着目し,複合災害の発 生確率は,ある再現期間における低気圧とした.各観測 地点別に,年最小気圧と潮位偏差,年最小気圧と日降水 量の関係性を求めた.一例として,鹿児島における年最 小気圧と潮位偏差,年最小気圧と日降水量の関係を図- 1 に示す.R2 は決定係数,pは有意確率である.図-1 から,年最小気圧と潮位偏差,年最小気圧と日降水量は 負の相関を持つことが見て取れる.この回帰式から,各 地点別に複合災害を引き起こす潮位と日降水量を求め た.得られた潮位と日降水量を,逆距離荷重法を用いて 日本全土に分布させた.両者を洪水氾濫モデルに入力

した後,治水経済調査マニュアル(案)を用いて複合災 害における被害額分布を推定した.

3.複合災害被害額検証

以上の洪水氾濫・高潮複合災害被害額推定手法が実現 象をどの程度再現出来ているか検証した.対象とした 事例は1959年に発生し,愛知県や三重県を中心に被害 を及ぼした伊勢湾台風である.伊勢湾台風報告書によ ると愛知県と三重県における伊勢湾台風の被害額は,

当時で5050億円である.この2県の伊勢湾台風におけ る被害額と,2章において説明された手法を用いて推定 された被害額を比較する.潮岬上陸時の伊勢湾台風の

気圧は930hPaである.潮岬気象台における低気圧の頻

度解析の結果,930hPaの低気圧の再現期間は200年か ら500年に相当する.したがって,愛知県と三重県にお いて再現期間200 年と 500年の複合災害被害額と,伊 勢湾台風の被害額を比較した.

また,1959 年の被害額の価値を,現在の価値に補正 する必要がある.内閣府国民経済計算によると,伊勢湾

0 50 100 150 200 250 300

950 960 970 980 990 1000

降水量(mm/day

年最小気圧(hpa

年最小気圧ー日降水量

0 20 40 60 80 100

950 960 970 980 990 1000

潮位偏差(cm

年最小気圧(hpa

年最小気圧ー潮位偏差

0 50 100 150 200 250 300

950 960 970 980 990 1000

降水量(mm/day

年最小気圧(hpa

年最小気圧ー日降水量

0 20 40 60 80 100

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潮位偏差(cm

年最小気圧(hpa)

年最小気圧ー潮位偏差

図-1 鹿児島における年最小気圧と潮位偏差,年最小気 圧と日降水量の関係

キーワード:低気圧 同時発生 浸水深 災害外力

水環境システム学研究室 http://kaigan.civil.tohoku.ac.jp/kaigan/index.html

土木学会第71回年次学術講演会(平成28年9月)

‑247‑

Ⅱ‑124

(2)

台風発生時の名目 GDPは,17兆円,現在の名目 GDP は,492兆円と算出された.両者の名目GDPの比を用 いて,伊勢湾台風発生時の価値を現在価値に補正した ところ,伊勢湾台風の現在価値における被害額は 14.5 兆円と推定された.

4.結果

再現期間200年と 500年における愛知県と三重県の 被害額を図-2,図-3に示す.愛知県名古屋市中心部に被 害額が集中している.愛知県単体の被害額は,再現期間 200年で10.8兆円,再現期間500年で11.6兆円となり,

大部分の被害額を愛知県が占める事が示された.愛知 県と三重県における複合災害の被害額は再現期間 200

年で14.3兆円,500年で15.7兆円と推定された.これ らの値は伊勢湾台風の現在価値における被害額は 14.5 兆円と非常に近い値を示す.したがって,著者らが示し た洪水氾濫・高潮複合災害被害額は,概ね実現象を再現 出来ている事が確認された.

再現期間200年と500 年の低気圧と回帰式から推定さ れた名古屋における降水量は115mm/dayと131mm/day,

潮位偏差は360cmと384cmと推定された.伊勢湾台風 時の名古屋の降水量は 131mm/day,潮位偏差は 350cm となり,回帰式から推定された外力もおおよそ再現可 能であると示された.

5.結論

本研究から,以下の結論を得た.

1) 愛知県と三重県における複合災害の被害額は再現 期間200年で15.2兆円,500年で16.3兆円と推 定された.

2) 伊勢湾台風の被害事例を用いて検証したところ,

複合災害被害額推定手法は概ね実現象を再現出来 ている事が確認された.

謝辞

本研究は,環境省の環境研究総合推進費(S-14)と気 候変動適応技術社会実装プログラム(SI-CAT)の支援 により実施された.ここに記して,感謝の意を示す.

参考文献

1) Kazuyoshi OOUCHI, Jun YOSHIMURA, Hiromasa YOSHIMURA, Ryo MIZUTA, Shoji KUSUNOKI, Akira NODA : Tropical Cyclone Climatology in a Global-Warming Climate as Simulated in a 20 km-Mesh Global Atmospheric Model: Frequency and Wind Intensity Analyses, Journal of the Meteorological Society of Japan, Vol. 84, No. 2, pp. 259--276, 2006.

2) 秋間将宏,風間聡,小森大輔:再現確率にもとづく 洪水氾濫・高潮複合災害潜在被害額推定,水工学論 文集,Vol.60,2016.

3) 内閣府,1959 伊勢湾台風報告書,

http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/kyoukunnokei shou/rep/1959--isewanTYPHOON/pdf/03_mokuji.pdf , 2015.

4) 内閣府,国民経済計算,

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html,2015. 図-2 再現期間200年複合災害被害額(愛知県三重県)

図-3 再現期間500年複合災害被害額(愛知県三重県)

土木学会第71回年次学術講演会(平成28年9月)

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参照

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