不 登 校 の親 子 関係 につ い ての 一考 察

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林:不 登校 の 親 子 関 係 につ い て の 一 考 察

不 登 校 の親 子 関係 につ い ての 一考 察

子 ど もの思 春 期 課題 と親 の 中 年 期 課 題 との 相 互作 用 か ら

林 郷

子*

AStudyontheRelationshipbetweenParentsandChildren inNon‑attendanceatschool

‑lnteractionbetweenProblemsinAdolescenceandProblemsinMid ‑life一

KyokoHayashi

不 登 校 につ い て 、思 春 期 の 子 ど も と 中年 期 の親 の心 理 発 達 的 な課 題 か ら 、 と くに分 離 不 安 に焦 点 を当 て て 検 討 し た。 思 春 期 は 、 親 か らの 心 理 的 自立 が 中心 課 題 とな る時 期 で あ り、 中 年 期 は 、子 ど もの 自立 に伴 い 、 養 育 役 割 の 喪 失 を体 験 す る 時 期 で あ る。 こ の過 程 で生 じる 双 方 の 分 離 不 安 が 様 々 な要 因 に よ り 強化 され る と、親 子 の 分 離 は 困難 な もの と な り、時 に は不 登 校 の 長 期 化 の 一 因 と もな りう る。 本論 で は 、 思 春 期 の 子 ど もが不 登 校 と な っ た 母 親 の 事 例 を提 示 し、 こ の 分 離 不 安 の絡 ま り合 い につ い て 考 察 した 。 そ の 中 で 、 分 離 に伴 う喪 失 感 や 寂 し さの 感 情 を 、 特 に親 の 側 が 、 い か に気 づ き抱 え るか と い う こ とが 、 依 存 的 な融 合 状 態 か ら抜 け 出す た め に重 要 で あ る こ とが 見 い だ され た 。

1.は じ め に

不 登 校 児 童 ・生徒 の 割 合 は、 こ こ30年 近 くもの 間 、増 加 の 一 途 をた どっ て い る。 平 成14年 度 か らは若 干 の 減 少 が 見 られ は じめ た もの の 、18年 度 に は再 び増 加 を示 した 。平 成14年 度 か らの 減 少 も、不 登 校 が社 会 現 象 に な りつ つ あ る の を受 け て 、別 室 登 校 な どに よる受 け入 れ体 制 が 整 って き た り、フ リ ース ク ー ル等 の 学 外 へ の通 級 も出席 扱 い と され る よ うに な っ て きた り して い る 中で は、

「登 校 」 とい う概 念 自体 が 広 が っ て きて い る と も考 え られ る 。 い わ ゆ る 「教 室 に入 れ ない 」 「学 校 に行 け ない 」 子 ど もの数 が 本 当 に減 少 した の か ど うか につ い て は十 分 な検 討 が 必 要 だ。不登校 は 依 然 現 代 の学 校 教 育 にお け る大 き な問 題 を呈 してい る とい え る。

不 登 校 の 要 因 と して は、 様 々 な ものが 考 え られ る 。 学校 生 活 にお け る要 因 、 家庭 内 の 問 題 、社 会 的 な風 潮 等 々 、 で あ る。 様 々 な要 因が 複 雑 に絡 み合 っ て い る た め 、 どれ か一 つ だ け を取 り上 げ て不 登 校 の要 因 とす る こ と はで き ない が 、 思 春 期 の心 理 発 達 的 な課 題 もそ の要 因 の一 つ と して抜 きに して は考 え られ な い だ ろ う。 この こ と は、 中学 校 で の不 登 校 が 多 い こ と と も関係 して い る と 平 成19年9月28日 受 理*社 会 学 研 究科

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奈 良 大 学 大 学 院研 究 年 報 第13号(2008年)

思 わ れ る。 い わ ゆ る"中1ギ ャ ップ"と い わ れ る 問題 な ど、 小 学 校 との ギ ャ ップ の大 き さに付 い て い け ない とい う側 面 も否 め な い が 、 彼 らが 必 ず し も小 学校 の 時 か ら何 ら か の課 題 を呈 して い た

とは 限 ら ない こ とを考 え る と、 や は り、 こ の時 期 に特 有 の 課 題 の 影 響 も大 きい と思 わ れ る。

子 ど もが 思 春 期 とい わ れ る揺 ら ぎの 多 い 発 達 段 階 に あ る頃 、 多 くの 親 は 中年 期 とい わ れ る 時期 に達 して い る。 中年 期 は 「第二 の思 春 期 、あ る い は第 二 の疾 風 怒 濤 期 」(Jung,1916)と もい わ れ、

思 春 期 の 次 に訪 れ る 、揺 ら ぎの 多 い 時 期 で あ る と され て い る。 子 ど もが 学 校 に行 か な い 、 も し く は 行 き た くな い とい う状 態 に な った と き、 そ こ に ど う向 き合 うか と い う こ とは親 の側 の 課 題 で も あ る。 昨 年 度 、不 登 校 の児 童 ・生 徒 の 割 合 が 増 加 した 背 景 の 一 つ と して、 同年 度 に連 続 して 発 生 したい じめ の 問題 が挙 げ られ て い る。 そ ん な辛 い 思 い を して まで 学 校 に行 か な くて い い と親 の 側 が 判 断 した た め で は な い か とい う こ とで あ る。 この よ う に、 親 の 態 度 と い う もの が 、 子 ど も を守 る場 合 も含 め て 、 影響 を与 えて い る。 子 ど もの側 と同 様 、 親 の 態 度 につ い て も様 々 な背 景 や 要 因 を考 え な くて は な らな い が 、 こ こで も親 が 抱 え て い る心 理 発 達 的 な課 題 を無 視 は で きな い と思 わ れ る。 子 ど もの"思 春 期 の 課 題"に は、 実 は親 の 側 の"中 年 期 の 課 題"が 絡 ま っ て い る こ とが 多 い の で は な い だ ろ うか 。

本 論 で は不 登 校 につ い て 、 この 親 子 双 方 の心 理 発 達 課 題 を、 特 に分 離 不 安 の観 点 か ら検 討 して み た い と思 う。

皿.思 春 期 の 分 離 一固 体 化

Mahlerら(1975)は 乳 幼 児 の 自律 の獲 得 の過 程 を 、分 離 一個 体 化 の段 階 と して理 論 化 して い る 。

生 後 間 も ない 乳 児 は、 母 子 一 体 の共 生 的融 合 の 状 態 に あ るが 、 しだ い に母 親 と 自分 は 別 個 の 存 在 で あ る こ と を認 識 す る よ うに な っ て くる 。 そ して 移 動 能 力 が 拡 大 して くる と、母 親 を安 全 基 地 と しな が ら、 外 界 と積 極 的 に 関 わ ろ う とす る 。 しか し外 界 と関 わ る こ と、 自分 と母 親 が 分 離 して い る こ と を意 識 化 す る こ と は、同時 に様 々 な不 安 や 心 細 さ を生 じ させ る。こ れが 分 離 不 安 で あ る。

そ の た め 、 乳 幼 児 は母 親 を単 な る安 全 基 地 と して で は な く、 か けが え の な い依 存 対 象 と して 、 再 度 そ の愛 情 と承 認 を 強 烈 に求 め る の で あ る 。Mahlerは 、 この 時 期 を再 接 近 期 と して 、 分 離 一 固 体 化 過 程 の 中で も特 に重 視 して い る 。 この 時期 に愛 情 や承 認 の要 求 が満 た され な か っ た り、 母 親 の 応 答 性 が 不 適 切 で あ っ た りす る と、 見捨 て られ 不 安 に駆 られ る な ど、再 接 近 期 危 機 と呼 ば れ る よ う な不 安 定 な状 態 に 陥 りや す くな る 。 再接 近 期 を経 て 、不 安 や心 細 さを な だ め 、安 心 させ て く れ る母 親 の機 能 を 自分 の 内面 に と りこむ こ とが で き る 、 す な わ ち母 親 に対 して一 貫 した 愛 着 を保 持 す る対 象 恒 常 性 が確 立 され る と、幼 児 は 母 親 か ら の分 離 に耐 え られ る よ うに な り、 安 定 した 母 子 分 離 が 可 能 に な る の で あ る。

Blos(1962)は 、 この 乳 幼 児 期 の 分 離 一固 体 化 理 論 に な ぞ らえ て 、青 年期 とは 、子 ど もが 親 か ら心 理 的 に分 離 し、 一 個 の独 立 した 個 体 と な る プ ロ セ ス と して 、 第二 の 分離 一 固体 化 期 と と ら え た。 この 青 年 期 の分 離 一 固 体 化 過 程 に も再 接 近 期 が存 在 す る。 この 再 接 近 期 は、 青 年 期 の 前 半 、 す な わ ち思 春 期 とい わ れ る時 期 に相 当 す る。 前 思 春 期 に 、 同性 の友 人 を 中 間対 象 と しつ つ 少 しず

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つ 母 親 か らの 分 離 が 始 ま る が 、 第 二 次 性 徴 に伴 い 身体 の急 激 な変 化 、 そ れ と関 連 して心 理 的 な変 化 が 生 じる中 で 、 不 安 定 な状 態 とな り、 や は り分 離 不 安 が 生 じる。 物 理 的 に は 母 親 と距 離 を お く が 、 心 理 的 に は母 親 に退 行 を示 した り、 依 存 と独 立 の ア ン ビバ レ ン トな感 情 を示 した りす る。 思 春 期 に入 っ た子 ど もが 、 急 にべ た べ た と甘 え る よ うに な る こ とが あ る が 、 これ も再 接 近 期 特 有 の 行 動 の 表 れ とい え る か も しれ な い。 こ こで 必 要 な安 心 感 を得 る こ とで 、友 人 を移 行 対 象 と しつ つ 、 分 離 に伴 う孤 独 感 や 悲 哀 感 に耐 え られ る よ う に な っ て い き、 親 との一 定 の物 理 的 ・心 理 的距 離 を 保 った 関係 が 形 成 され て い くの で あ る。

乳 幼 児 期 と同 様 に、 青 年 期 の再 接 近 期 にお い て も、 こ こ で愛 情 や承 認 、 依 存 の 要 求 が 満 た され ない と、 不 安 の 方 が 大 き くな り、 次 な る分 離 へ とス ム ー ズ に進 む こ とが 困 難 に な る と思 わ れ る 。 また 、 思 春 期 に は、 こ れ ま で積 み 残 して き た課 題 、 と くに乳 幼 児 期 に お け る課 題 が 再 燃 す る とい われ て い る。 乳 幼 児 期 の分 離 一 固 体 化 過 程 で 、 再 接 近 期 や そ の後 の対 象 恒 常 性 の確 立 に課 題 を残 した ま ま思 春 期 を迎 え た子 ど もほ ど、 第 二 の 再 接 近 期 に お け る親 へ の承 認 欲 求 が 、 い わ ゆ る"甘 え直 し"の よ う な意 味 も込 め て 強 く出 る可 能 性 が あ る。 親 の側 に とっ て も、 この 欲 求 を満 たす の は よ り大 き なエ ネ ル ギ ー を要 す る こ と と な るで あ ろ う。 さ らに、 分 離 へ 向 か う過 程 にお け る、 本 来 移 行 対 象 と な りう る友 人 との 関 係 の 欠 如 や 挫 折 は、 分 離 不 安 を支 え る機 能 を失 う こ とにつ なが る。 小 坂(2005)は 思 春 期 の 不 登 校 につ い て次 の よ う に述 べ て い る 。 「親 、特 に母 親 か らの 情 緒 的 分 離 の 達 成 と、 個 人 と して の社 会 的 ア イ デ ンテ ィテ ィの探 求 が 課 題 とな る 。 この 次 元 で は、 進 路 選 択 な ど、 周 囲 か ら求 め られ る 社 会 的 課 題 に対 し、 親 か ら自立 的 で あ ろ う と して 、 バ ラ ンス を 崩 す こ とが み られ る。 学 校 は 、 もは や 幼 児 的 万 能 感 が 許 され る世 界 で は な く、現 実 の 自分 に直 面 させ ら れ る世 界 とな る 。Sullivan(1976)は 、 そ こ に 『良好 な チ ャム シ ッ プ(同 性 ・同 年 齢 の 特 定 の 相 手 との 親 友 関 係)』 の 重 要 性 を主 張 して い る。"横 の 関係"の チ ャ ム シ ップ に 内 在 す る、 無 償 の 親 しみ とお 互 い を認 め 合 う体 験 の 欠落 は 、『第 二 の 分 離 一固 体 化 』(Blos、1962)を 難 し くし、

『登 校 』 を お び や かす 」。

この よ う に、 同年 代 の友 人 との 関 係 、 乳 幼 児 期 の 課 題 の積 み 残 し、 親 の 側 の応 答 性 な どの 課 題 は、 相 互 に絡 ま り合 い な が ら、 思 春 期 の 親 か らの心 理 的 分 離 を妨 げ る。 そ れ は時 に は"不 登 校"

とい う形 で 現 れ るの で は ない だ ろ う か。

皿.中 年 期 の 自我 同 一性 の問 い直 し

次 に、 親 の 側 の 発 達 課 題 につ い て考 え て み た い 。

Jung(1916)は 、 人 生 を太 陽 の 動 きに例 え て い る。 正 午 まで を 人生 の前 半 と し、 そ の 間 は太 陽 が 上 昇 す る よ う に成 長 し、伴 侶 を得 、 家 庭 を持 ち、 子 供 を産 み 育 て、 仕 事 を持 っ て社 会 的 足場 を 得 る。 しか しそ の上 昇 は正 午 を も って ピ ー ク に達 した あ とは、 下 降へ と移 り、 人生 の 後 半 の 課 題 が 始 ま る の だ とす る 。 中年 期 は この 上 昇 か ら下 降 へ の転 回期 に あ た り、 様 々 な変 化 が生 じる時 期 と され てい るの で あ る。

まず 、 身体 的 な変 化 が訪 れ る 。 体 力 の 低 下 や 体 型 の変 化 な ど、 老 化 が 確 実 に始 まる 。 生 殖 力 が 衰 え、 女 性 の場 合 は 閉経 とい う形 で 生 む性 と して の終 わ りを迎 え る。 これ は思 春 期 とは 反対 の 形

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で あ るが 、身体 的変 化 を通 して の 新 しい 自己 へ の 出会 い で あ り、 これ まで の 自己 へ の 別 れ で あ る。

そ して必 然 的 に、 こ れ らは 自分 の 死 へ の 意 識 に つ な が る もの で あ る 。 そ れ に は 自分 の 親 との死 別 とい う こ と も関 連 してい る だ ろ う。死 が 身近 な もの と して 強 く意 識 され る こ と も多 い で あ ろ う し、

ま た 、"親 の子 ど も"と して の 自分 の死 を意 味 す る こ とで も あ る 。 い ず れ に して も、 人生 の 有 限 性 とい う もの に、 突 き当 た る こ とに な る と思 わ れ る。

ま た、 社 会 的 に も様 々 な 変 化 が 生 じる。 例 え ば 職 場 で は 、 一 般 的 に はそ れ ま で よ り責 任 あ る役 割 機 能 を担 う こ とが増 え て くる。 しか し一 方 で 、 そ の 後 も更 に責 任 が 増 す 方 向 に な る の か 、 あ る い は軽 減 され る こ と にな るの か の 岐 路 に立 つ 時期 と もい え る。 周 囲 か ら どの よ うに評 価 され て き た か とい う こ と と も併 せ て 、 自 分 と し て の 職 業 上 の 限 界 感 の 認 識 とい う体 験 も さ れ る だ ろ う。

様 々 な可 能性 に開 か れ て い た こ れ ま で に 、 喪 失 感 と と も に別 れ を告 げ る こ とが 出 て くるか も しれ な い 。

そ して も う一 つ 、 家 庭 にお け る変 化 が あ る。 先 に述 べ た よ う に、 子 ど もは思 春 期 か ら青 年 期 へ と移 行 す る に伴 い 、 親 か ら心 理 的 に 分 離 し、 実 際 に家 族 空 間か ら独 立 す る とい っ た 事 態 も生 じて くる。 この よ う な子 ど もの変 化 成 長 に伴 って 、 親 の 養 育 役 割 は減 少 ・終 結 を 余儀 な くさ れ る。 こ の 養 育 役 割 の 減 少 は、 そ れ ま で の役 割 か らの 解 放 感 と と もに、 喪 失 感 も生 じ させ るで あ ろ う。 こ れ は特 に母 親 にお い て 顕 著 で あ る と思 わ れ る。

この よ う に、 中年 期 に は様 々 な 喪 失 感 を体 験 す る。 喪 失 感 は 同 時 に 、 これ まで 選 ん で きた 人生 に対 して 「これ で よ か っ た の だ ろ うか 」 「も っ と別 の生 き方 が あ っ た の で は ない か」 とい う迷 い を生 じさせ る。 青 年 期 に一 旦 確 立 した はず の 自我 同一 性 に対 す る 問 い 直 しが 迫 られ 、 今 後 の 人生 後 半 の生 き方 へ の模 索 を 強 い られ るの で あ る。 平 木(2006)は 中年 期 を 「青 年 期 に続 い て 、 第三

の分 離 固体 化 、 自立 の再 定 義 の 時期 と と ら える こ とが で き るか も しれ な い 」 と述 べ て い る。

乳 幼 児 期 や青 年 期 が そ うで あ っ た よ うに 、安 定 した分 離 一 固体 化 が 達 成 され る た め に は 、 も う 一 度 自分 を支 え て くれ る存 在 の 愛 情 と承 認 を確 認 した り、移行対象 を得た りす る中で 、分離 に伴

う不 安 や孤 立 感 に耐 え う る よ う に な る必 要 が あ る。 中 年期 の場 合 も、 第 三 の 分 離 一 固体 化 を達 成 す る 上 で は、 こ の不 安 をい か に乗 り きる か とい う こ とが 重 要 に な る と思 わ れ る。 「養 育 役 割 の終 了 の 時期 、 家庭 に い る女 性 が 取 る行 動 と して 、 しば しば パ ー トや 再 就 職 を考 え る か 、 これ まで子 育 て等 で 遣 り残 した 勉 強 や 趣 味 を再 び 学 び は じめ る、 あ るい は、 宗 教 に帰 依 す る とか 、 家庭 外 の 社 会 的 な集 団 に参 加 す る な どの 行 動 が 示 され る こ とが あ る」(乾 、2006)が 、 これ は母 親 役 割 の 喪 失 感 を埋 め 、 紛 らせ る役 割 を果 た して い る とい え る。 職 業 を持 って い る女 性 に とっ て も この こ とは 当 て は まる で あ ろ う。

た だ し、 養 育 役 割 の 喪 失 とい う点 か ら見 て も、 実 際 に は子 ど もが 自立 を果 た した あ と に親 の 中 年 期 が 始 ま るわ け で は な い。 子 ど もが 分 離 と再 接 近 を繰 り返 してい る最 中 に、 親 の側 も様 々 な喪 失 体 験 を し、 今 後 の 生 き方 に つ い て の 模 索 を始 め る ので あ る。 晩 婚 化 と長 寿 化 の 中 で 子 育 て が 人 生 の 後 半 に な りつ つ あ る現 代 に お い て は、 と くに こ の傾 向 は強 くな っ て きて い る で あ ろ う。 そ の よ う な中 で 様 々 な喪 失 感 を抱 え られ ず 、 これ ま で の 自分 に しが み つ こ う とす る心 の動 きが 起 こる と き、 子 ど も を 自立 させ まい とす る力 が働 い て 、親 子 の分 離 を妨 げ る こ とに な り うる 。

ま た、 思 春 期 に乳 幼 児 期 の課 題 が 再 燃 さ れ る よ うに、 中年 期 に は思 春 期 に積 み残 した 課 題 が再

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燃 す る と され る 。 目の前 にい る思 春 期 の 子 ど もは 、親 の 未 解 決 な思 春期 の 課 題 を刺 激 す る こ と に も な る。 親 が 自分 の 思春 期 の 分 離 一固 体 化 の過 程 に課 題 を残 して い る場 合 、 子 ど も と の分 離 は 更 に困 難 な もの に な る か も しれ な い 。

V.分 離 の 遅 延

思 春 期 ・青 年 期 の 延 長 が い わ れ て 久 しい。 こ の 時期 の 始 ま りは、 第 二 次性 徴 の よ う な生 物 学 的 な要 因 に よっ て 決 定 づ け られ るの に対 し、 終 わ りは 、職 業 を持 つ 、 家庭 を持 つ とい っ た よ うな社 会 的 な要 因 に よっ て決 定 づ け られ る こ とが多 い か らで あ る。高度 経 済 成 長 時 代 を経 て 、高 学 歴 化 、 晩 婚 化 の進 ん だ現 代 は、 必 然 的 に思 春 期 ・青 年 期 の終 わ りを長 引 か せ る。最 近 で は、 ひ きこ も り や ニ ー トと称 され る よ うな 、 学 生 を卒 業 した後 も社 会 に出 て い か ない 人 々 が 注 目 され る よ う に な っ て きて い る。 高石(2003)は 、 「思 春 期 の 子 ど も を 『生 物 学 的 に は大 人 、 で もい まだ社 会 の 内 に 自 らが 何 者 か と して生 きて い け る場 を もた な い 、大 人社 会 に とっ て の外 部 者 、中 間世 界 の 住 人 』 と仮 に定 義 す る な らば 、早 熟 な場 合 は9、10歳 ごろ か ら、 上 は30歳 前 後 くらい まで が 含 ま れ て く る。 近 頃 は 成 人 して 、心 身 に特 別 な障 害 が な い に もか か わ らず 、 自室 に 引 き こ も り、 親 か ら衣 食 住 を与 え られ て 、大 人 社 会 へ の参 入 を消 極 的 に拒 否 し続 け る 一 群 の 人 々が 問 題 に な って い る が 、 彼 らは 言 っ て み れ ば 『終 わ ら な い 思 春 期 』 を生 きて い る 人 々 な の で あ る」 と述 べ て い る。 ま た 、 職 業 は 持 っ て い て も、 親 の 援 助 の も と に暮 ら して い る 、 パ ラサ イ トシ ング ル と い わ れ る よ う な 人 々 も増 え て きて 、青 年 と成 人 との境 界 線 は ます ます 曖 昧 に な りつ つ あ る。

思 春 期 の延 長 は 、 中 年期 の 方 も延 長 され て きて い る こ とが 影響 して い る よ うに 思 わ れ る。 中年 期 か ら老 年 期 へ の 移行 が 、 例 えば 子 ど もの 独 立 の時 期 や 職場 の 定 年 退 職 の時 期 に左 右 され る こ と を考 え る と、 子 ど もの社 会 へ の 参 入 が 遅 くな り、仕 事 か ら退 く時期 が 遅 くな っ て きて い る今 日 に お い て は 、 中年 期 の 終 わ りも また 延 長 して きて い る とい え る 。 親 が仕 事 を続 け 、経 済 的 に も余 裕 が あ り、 また 、核 家 族化 、 少 子 化 が 進 んで い る現 代 で は 、 子 ど もが 親 か ら分 離 しな くて は な ら な い 必 然 性 が 、少 な くと も物 理 的 に は消 失 して しま っ た の で あ る。 この よ うな思 春 期 ・中年 期 双 方 の 延 長 や 、親 子 の 分 離 の物 理 的 な 必 然 性 の 消 失 は、 当然 親 ・子 そ れ ぞ れ の分 離 一 固体 化 の 課 題 を 長 引 か せ る 。子 ど もが 親へ の依 存 心 を断 ち切 れ な い だ け で は な く、親 は養 育 役 割 に しが み つ き子 ど もを 手 元 に置 い て お きた い とい う願 望 を持 ち続 け る こ とに もな りうる 。 「中年 に な っ て も まだ 元 気 な母 親 の 、子 ど も に対 す る見 え ない 支 配 力 は増 し、子 ど もが きち ん と巣 立 つ こ とが で きな く

な っ て い る よ うに も見 え る」(豊 田 、2006)の で あ る。

不 登 校 の子 ど もた ち の 中 には 、 な か なか 外 界 へ と関 わ っ て い く こ とが で きな い ま ま長 期 化 して ひ き こ も りに な っ て くケ ー ス もあ る が 、 そ の 背 景 に は、 こ うい っ た親 子 双 方 の 課 題 が 絡 ま り合 っ て い る場 合 もあ る の で は ない だ ろ うか 。

V.事 例

そ れ で は、事 例 を も と に、不 登 校 にお け る思 春 期 と中年 期 の課 題 の絡 ま り合 い を考 え て み た い 。

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と くに親 の 側 の 心 の 動 きを検 討 す る た め 、母 親 面接 の 事 例 を挙 げ る 。 い ず れ も筆 者 が 関 わ っ た事 例 で あ る が 、 プ ラ イバ シー の 保 護 の た め 、 本 質 に は差 し障 りの な い 程 度 に事 実 を改 変 して あ る。

1.事 例1Aさ ん43歳 専 業 主 婦

Aは 、 小6の 長 男Bの 不 登 校 の こ とで来 談 した。Bは 小 さい 頃 か ら気 の 優 しい 子 で 、1年 ほ ど前 にAの 母 親 が 亡 くな っ た と き も、Bが 親 戚 の 中 で 一 番 落 ち 込 んで い る よ う に見 え た とい う。 夏 休 み の 終 わ り に、Bが 外 か ら帰 っ た と き、 た ま た まAが 不 在 とい う こ とが あ った 。 そ の 時 、Bは 腹 痛 を起 こ して し ま った の だ が 、Aに 電 話 を して もつ な が らな い と い う こ とが あ っ た 。 そ の翌 日か ら 「自分 が い ない 間 に お母 さん が い な くな るの で は な い か 」 「自分 を置 い て い っ て し ま うの で は な い か 」 とい っ た不 安 に襲 われ 、Aが 自分 の 目の 届 か な い と こ ろ に行 くの を嫌 が り、 新 学 期 が 始 ま っ て も学 校 に 行 く こ と を拒 む よ う に な っ た 。 困 っ たAが 、Bを 伴 っ て カ ウ ンセ リ ン グ に訪 れ 、 母 子 並 行 面 接 を行 う こ と とな っ た。

Aは 「どこ に も行 か な い で」 と言 うBに 対 して 、 「専 業 主婦 は た だ で さ え家 に縛 られ て い る。 放 って お い て も ど こに も行 か な い の に、 更 に縛 ろ う と さ れ て い る よ う な気 が す る」 と腹 立 た しさ を 述 べ た。Aは 元 々 は福 祉 関 係 の 専 門職 に就 い て い たが 、Bよ り2歳 上 の 長 女 の 出 産 を機 に退 職 し て い た 。 「この ま ま終 わ っ て し ま うの も ど うか と思 っ て 」Bが 中 学 に上 が っ た ら仕 事 を再 開 し よ う と考 え て い たが 、今 のBの 状 態 で はそ れ も叶 わ な い と溜 息 混 じ りに話 した 。

Aは 、 なぜBが こ ん な に 自分 を頼 りに す る の か と考 え る 中で 、 自分 の 小 中学 生 時代 を振 り返 っ た。Aの 生 家 は 自営 業 を して い て 両 親 と も忙 しか っ た た め 、 あ ま り両 親 を 頼 らず 、 自分 で 何 で も や っ て きた との こ とだ った 。 そ して 、 跡 継 ぎで あ り、 少 し体 も弱 か った 兄 の 方 が 、 大 事 に さ れ て い た よ うに 思 う と話 した。 カ ウ ンセ ラ ー が1年 前 の 実 母 の 死 につ い て触 れ る が 、Aは どこか 淡 泊 に受 け止 め て い る よ うな 印象 で あ っ た。

一 方Bは 、友 達 か らの 誘 い や 、 担 任 の 熱心 な関 わ り もあ って 、 休 み時 間 に家 に 電 話 を して 母 の 在 宅 を確 か め て よい とい う配 慮 の も と、 ほ ど な く学 校 に 通 い 出 す 。 しか し、 最 初 の 内 は帰 宅 後 や 休 み の 日 な どは 、Aが 勝 手 に外 出す る こ と を許 さ なか っ た 。Aは 、 せ め て 夫 がBと 一 緒 にい て く れ れ ば そ の 間 自由 に して い られ るか も しれ な い が 、夫 は 仕事 で 多 忙 で 、 休 日 も含 め ほ とん ど家 に い る こ とは な い と、不 満 げ で あ った 。

Bは や が て 、 放 課 後 も友 達 と遊 ん で くる よ う に な り、 帰 宅 時 間 も遅 くな っ て きた 。 休 み 時 間 に 家 に 電話 を しな くて もそ れ ほ ど気 に な ら ない よ うで あ った 。Aは 、 長女 が 中 学 生 に な っ てか ら友 人 関係 につ い て全 くわ か らな くな っ て しま っ た こ と、Bも 学 校 に行 か な くな る 前 は 、 どん ど ん行 動 範 囲 が 広 が っ て い て 、 把 握 しに く くな っ て きて い た こ とを話 した 。Bが また 以 前 の 状 態 に戻 っ て きた こ とに対 して は、 うれ し さ と安 堵 の 反 面 、 「何 を して い る の か わか らな い」 とい う心 配 も あ る よ うで 、 行 動 範 囲 を 制 限 す る よ う な動 き も見 られ た。 「い ず れ は わ か ら な くな る ん だ け ど」

と苦 笑 され て い た 。

Bは 友 達 と遊 ぶ 時 間 が 増 え て きた た め 、Aに 「勝 手 に どこ か行 か ない よ うに」 と言 う こ と は あ るが 、 実 質 的 に はAの 行 動 を縛 る こ と は減 っ て きた 。 休 日な どはAが 外 出 す る と付 い て き たが る が 、Aが 夫 に頼 み 込 ん だ こ と もあ っ て夫 も時 間 が とれ る と きに は 一 緒 に外 出 して くれ る よ う に な

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林:不 登 校 の 親 子 関 係 につ い て の 一 考 察

り、 夫 がBと 一 緒 に い る 問 にAは 自分 の 用 を済 ます とい うこ とが で きる よ う に な っ て い っ た 。

考 察

Aは 専 門 職 の仕 事 を出 産 を機 に退 職 した あ と、 主 に 「母 親 」 と して の役 割 が 自己 の多 くを 占 め る よ う に な っ て い た と思 わ れ る 。 そ れ が 、子 ど もが 自分 か ら離 れ て 自立 して い くの を 見 越 して 、

「自分 に は も っ とや れ る こ とが あ る の で は な い か 」 「自分 は この ま まの 生 き方 で い い の か 」 と、

「個 」 と して の 生 き方 に つ い て 考 え始 め た の で あ る 。 そ れ に は 、 実 母 の 死 とい う こ と も影 響 して い た だ ろ う。 「娘 」 と して の 自己 が 一 つ 終 わ りを告 げ た こ と、 また、 自分の死 とい うことをそれ まで よ り も身 近 に意 識 した こ と な どが 、 「残 され た 人生 」 の 方 に 目 を向 け させ る きっ か け とな っ た と思 わ れ る・ しか し、Aが 自 らの 「個 」 と しての 生 き方 に 向 き合 お う と し始 め た 頃 、Bの 方 は、

む しろ 自立 に 向 け て再 度Aと の 接 近 を 求 め て い た時 期 にあ っ た の で はな い だ ろ う か 。Bが 接 近 し よ う と して い た ま さ に そ の時 にAは 分 離 し よ う と して い た わ け だ か ら、Bの 不 安 は 増 大 し、非常 な しが み つ き を呈 す る こ とに な っ た と思 わ れ る。Bの しが み つ き は、 最 初 はAに と っ て は 自分 の 自立 を妨 害 す る もの で しか な く、 非 常 に迷 惑 な もの で あ っ た。 子 ど もの 頃 「一 人 で や って きた」

Aは 、Bに も 「一 人 で や っ て くれ る」 子 ど もで あ る こ とを期 待 して い たの で あ る 。 しか しお そ ら くは 、AがBを ふ りほ どこ う とす れ ば す る ほ ど、Bは 不 安 を か き立 て られ 、 必 死 に しが み つ こ う と した の で は な い だ ろ うか。

しか しAの 方 も、 長 女 はす で に 自分 の 手 の届 か な い とこ ろ に行 きつ つ あ り、 加 え てBも 自分 か ら離 れ て行 きつ つ あ った こ とに 、 不 安 や 寂 しさ を覚 え て い た よ うで あ った 。 この こ とが 、 無 意 識 的 にBを 引 き留 め 、 しが み つ き を強 くさ せ て い た可 能 性 は あ る。 「一 人 で や っ て きた 」 背 後 に は

「もっ と甘 え た か った 」 とい う願 望 が あ っ た か も しれ な い 。 実 母 の死 に よっ て そ れ は永 久 に叶 え られ な い もの と な っ た。 そ の よ う な 中 でAの 潜 在 的 な 依 存 欲 求 や愛 着対 象 の 矛 先 が 、 一気 にBに 向 い た と も考 え られ る 。 夫 はAの そ うい っ た 欲 求 を満 た す存 在 で は なか った こ と も関 係 して い る で あ ろ う。Aは 子 ど もが 自分 か ら離 れ て い く不 安 や 寂 し さに つ い て 、 そ れ ほ ど明確 な意 識 化 や 感 情 表 出 を示 して は い ない 。 実 母 の 死 も、 む しろBがAの 不 安 を肩 代 わ り して い る よ う に思 え る。

そ れ で もAが 面 接 の 中 で 、"Bに つ い て の心 配 を語 る"と い う安 全 弁 に守 られ なが ら 自分 の こ とに 触 れ て い っ た こ とは 、 潜 在 的 に で は あ るがAの 気 づ き を促 した 側 面 はあ る と推 測 され る。Bの 不 安 を 自分 の 中 に もあ る もの と と らえ る こ とで 、単 にBを 邪 魔 者 扱 い す る こ とが な くな り、Bも 安 心 して分 離 に 向 か っ て い け たの か も しれ な い 。

ま た、 最 終 的 に は夫 の果 た した役 割 も大 きか っ た と思 わ れ る 。BがAを 離 さ な くな っ た こ とで 、 Aは 却 っ て 夫 に頼 る こ とが で き た とい え る。 こ の こ と は、Bが どん どん友 達 との 結 びつ き を強 く

して い っ た こ とで生 じ るAの 孤 立 感 を支 え る と と もに 、AのBか らの 分 離 を促 す は た ら き を担 っ た の で は な い だ ろ うか 。

2.事 例2ク ラ イ エ ン トCさ ん45歳 パ ー ト勤 務

Cの 長 女Dは 、弟 と妹 の い る3人 き ょ うだ い の長 子 と して 、 しっか りした子 と して 育 って き た。

小 さ い 頃 、 下 の2人 に比 べ る と、 身体 接 触 を求 め る よ う な甘 え方 を して くる こ とが 少 な か っ た と

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奈 良大 学 大 学 院研 究 年 報 第13号(2008年)

い う。 中1に な り、運 動 が苦 手 なDは 、球 技 大 会 で た び た び ミス をす る こ とが 重 な り、 そ の こ と で ク ラス メ ー トか ら非 難 され る とい う こ とが あ っ た 。悪 口 を言 わ れ た と落 ち込 ん で い た が 、 や が て 特 に 「死 ね」 と言 わ れ た こ と を ひ ど く気 に しだ し、 「自分 は死 ん だ 方 が い い ん じ ゃ ない か 」 「私 は生 きて い る価 値 が あ る の か 」 と泣 くよ う に な っ た 。 学校 に もほ どな く行 け な くな っ た 。 家 で は 夜 、Cと 一 緒 の布 団 で 寝 たが っ た り、 お風 呂 に一 緒 に入 りた が っ た りす る よ う に な っ た 。CはD の 不 登 校 は もち ろ ん の こ と、突 然 の甘 え に戸 惑 い 、 カ ウ ン セ リ ング に通 うこ と とな っ た。

Dは ま るで 幼 児 の よ う にCに 甘 え 、 身体 接 触 を 求 め て きた 。 と きお り自分 を本 当 に好 きか ど う か を 問 う こ と もあ っ た 。Cは"し っ か り した長 女"の 突 然 の 変 貌 ぶ りに戸 惑 い を覚 え な が ら も、

Dの 接 触 を受 け 容 れ 、 安 心 す る よ う な言 葉 か け を心 が け た 。Cは パ ー ト勤 務 で美 術 関 係 の仕 事 に 就 い て い た が 、 こ の 間、Dの そ ば にい て あ げ た 方 が い い の で は な い か とい う思 い か ら、仕 事 も休

み を とっ た 。 「ど うせ たい した仕 事 で は な い」 「この ま まや め て しま っ て もいい 」 と話 した。

学 校 の 定 期 テ ス トの 時期 に な り、Cは せ め て テ ス トだ けで も受 け に行 って ほ しい と、 自分 が 学 校 ま で 送 迎 す る こ と、 テ ス ト中 は 別 室 で 待 機 して い るの で しん ど くな っ た ら来 て もい い こ と をD

に約 束 し、 半 ば無 理 矢 理 にDを 学 校 に連 れ て い っ た 。 とこ ろ が 久 しぶ りに教 室 に 入 っ たDは 、 思 い の外 ク ラス メー トが 暖 か く迎 え て くれ た こ と もあ って 、 テ ス ト終 了 後 も続 け て登 校 す る よ う に な っ た の で あ る 。

本 来 こ れ はCに と っ て は嬉 しい 出来 事 の はず だ っ た 。 しか しCはDを 心 配 し、 授 業 中 に別 室 で 待 機 す る とい う こ とを続 け た の で あ っ た。D本 人 は 「も う一 人 で も大 丈 夫 」 と言 っ て い る そ う な の だ が 、 「強 が っ て い る の で は な い か 」 と気 に な る との こ とだ っ た。 実 際 、Dは 学 校 で 何 か嫌 な こ とが あ る と、Cに 訴 え学 校 へ 行 くの を嫌 が る こ と も あ っ た の で 、 そ の こ とがCのDへ の 心 配 を 断 ち切 れ な くさせ て い た 面 もあ った 。 面 接 の 中 で 「Dの強 が り」 につ い て も う少 し話 して も ら う と、C自 身 も長 女 と して 育 って き た 中で 、 本 当 は 寂 しか っ た り悲 しか っ た りす る こ とが あ っ て も、

母 に 甘 え て はい け な い と思 い 、 我 慢 して きた 、 だ か らDも 自分 と同 じよ う に甘 え まい と頑 張 っ て い る の で は な い か と思 えて しま うの だ 、 との こ と だ っ た。

そ う こ う して い る 内 に、 仕 事 でCも 関 わ っ た作 品 が 賞 を取 り、雑 誌 に掲 載 され る と い う こ とが 起 こ った 。 そ の た め 注 文 が 増 え、 仕 事 に戻 っ て き て くれ な い か とい う依 頼 が 入 っ た。Cは 少 し迷 うが 、 自分 の 関 わ っ て きた仕 事 が 第 三 者 に認 め られ た とい うこ とに 「ち ょっ と誇 りを感 じた」 こ と もあ り、 学校 の 別 室 で 待 機 す る こ と をや め 、 仕 事 を再 開す る こ とを決 め た。

Dは 、 友 達 とい さ か い が あ った あ とな ど、 時 々行 き渋 っ た り、Cに 甘 え た りす る こ とは あ っ た が 、 な ん とか 登 校 を続 けた 。

考 察

小 さい 頃 か ら甘 え る こ とが 少 なか っ た とい うDは 、 幼 少 期 の 愛 着 の 形 成 や 信 頼 感 の 確 立 に若 干 の課 題 を残 して い た の か も しれ な い 。 思春 期 に入 り、 親 か らの分 離 を は じめ る時 期 に な っ て 、 本 来移 行 対 象 と な る はず の 同年 代 の友 人 か らの拒 否 と非 難 は 、単 に分 離 を脅 かす もの とな っ た だ け で な く、 幼 少 期 の 課 題 を再 燃 させ 、 自己 の存 在 基 盤 を危 う く させ る もの に な っ た と思 わ れ る 。 こ れ らの こ とが 、 母 親 へ の 再 接 近 を強 化 す る こ と とな っ た の で あ ろ う。

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林:不 登校 の親 子 関係 に つ い て の 一 考 察

Cは こ のDの 急 な接 近 に戸 惑 い つ つ も、 な ん とか 受 け 容 れ よ う とす る。Dも そ こ で あ る程 度 の 安 心 感 を得 た の で あ ろ う、Cが 無 理 矢 理 学 校 に 連 れ て い っ た あ と は、 再 度 友 人 を移 行 対 象 と して 外 界 に向 か お う と踏 み 出 した の で あ る。 と こ ろが 、 今 度 はCの 方 が 子 ど もへ の しが み つ き を見 せ る 。Cも ま た 、 実 母 との 愛 着 形 成 が 確 固 た る もの で は な か っ た 可 能 性 が あ り、"甘 え る こ との 少 な い しっ か り した長 女"と い う点 で も、Dと 似 た よ うな 子 ど もで あ っ た。 この こ と はCのDへ の 同 一 視 を引 きお こ し、Dも ま たCか らの 「強 が らず 甘 え た い 」 と い う無 意 識 の 願 望 を引 き受 け さ せ られ 、 母 娘 の密 着 関 係 が 強 まる 中 で 、 母 子 の 分 離 が 困難 に な っ て い た とい え る 。Cが 「強 が っ て 我慢 して い た」 の は 自分 で あ る と語 る こ とで 、 自分 の 感 情 を 自分 の もの と して 引 き戻 す こ とが で きた の で は な い だ ろ うか 。

Cが 子 ど もに しが み つ きを 見 せ た 背 景 と して は 、 も う一 つ 、Cの 仕 事 に対 す る 迷 い も考 え られ る 。Cは こ れ まで ず っ と続 け て きた 仕 事 に対 して 、 「この ま ま続 け て い て も意 味 が な い の で は な い か」 と虚 しさ を感 じる よ うに な っ て きて い た 。仕 事 に対 す る 限界 も感 じ、 今 後 どの よ うに進 ん で い くか とい う岐 路 に立 た され て い た と思 わ れ る 。子 ど もの 不 登 校 は、 仕 事 を休 む い い 口 実 を与 え 、虚 し さ を埋 め つ つ 迷 い を保 留 す る とい う役 割 を 果 た して い た と も言 え るの で あ る。 仕 事 を諦 め 、子 ど も に も去 られ て しま っ て は 、Cは 拠 り所 を 失 う こ と に な る。 た ま た ま仕 事 が 社 会 的 に認 め られ る と い う出 来 事 が あ り、Cは 自分 の 仕 事 に積 極 的 な 意 味 を見 い だ す よ う に な って い っ た 。 こ の こ と も、子 ど もが 分 離 して い くCの 寂 しさ を支 え た こ とに な った の で は な い だ ろ うか 。

V【.「 寂 し さ」 を 抱 え る こ と 〜 ま と め に 変 え て

思 春 期 と中年 期 は そ れ ぞ れ 、 これ まで の 自分 に別 れ を告 げ 、新 しい 自分 に 出会 って い くプ ロセ ス を経 る時 期 で あ る 。当 然 そ こ に は様 々 な次 元 にお け る喪 失 体 験 を伴 う。子 ど もの親 か らの分 離 、 親 の 子 ど もか らの分 離 もそ の 一 つ で あ る。 分 離 が 可 能 に な る に は 、 そ の前 提 と して し っか りと し た 一 体 体 験 が 必 要 だ 。 この 一 体 感 を味 わ った 体 験 が 欠 如 した ま ま何 とな く分 離 した よ うに あ る時 期 をや り過 ご した と して も、 再 び分 離 が 課 題 と な る時 期 に は 、積 み残 され た課 題 が再 燃 す る こ と に な るの で あ る 。過 去 と現 在 の 二 重 の 分 離 不 安 を喚 起 させ 、 安 定 した分 離 を妨 げ る こ とに つ な が る。 分 離 不 安 が 自 らが対 象 か ら離 れ る こ と に対 す る不 安 だ け で は な く、対 象 が 自 ら離 れ て い くこ と に対 す る不 安 で もあ る こ と を考 えれ ば 、 親 ・子 そ れ ぞ れ の 課 題 が絡 ま り合 うこ とで、 こ の分 離 と 自立 の プ ロセ ス は、 よ り一 層 複 雑 な様 相 を呈 す る こ とに な る 。

事 例 に も見 られ た よ う に、 親 が 自分 の 人 生 後 半 の 生 き方 、 「親 役 割 」 と して で は な く 「個 」 と して の 生 き方 を模 索 し始 め る こ とは 、 時 に思春 期 の 子 ど も に は支 え を必 要 と してい る と きに親 が 自分 か ら離 れ て い っ て し ま う体 験 と して 受 け 止 め られ 、 不 安 を生 じさせ るか も しれ ない 。 そ こ に 子 ど もの 乳 幼 児 期 の課 題 が重 な る と、不 安 は さ らに 増 大 され る だ ろ う。 一 方 、 子 ど もが 自立 に 向 か い親 か らの 分 離 を は じめ る と き、 親 は あ る種 の喪 失 感 を味 わ う こ とに な る。 と くに親 自身 が 自 分 の親 との 分 離 や そ れ以 前 の一 体 体 験 に課 題 を残 して い た り、 中年 期 に生 じる他 の 様 々 な喪 失 感 が 重 な っ た りす れ ば、 こ の喪 失 感 は さ らに大 きな不 安 感 や孤 立 感 につ なが って い くだ ろ う。 そ し て親 子 そ れ ぞ れ が こ の不 安 に耐 え られ ず 、不 安 を解 消 させ る 方 策 と して 、 自分 か ら離 れ て い こ う

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奈良 大 学 大 学 院研 究 年 報 第13号(2008年)

とす る対 象 そ の も の に しが み つ く形 を とる と、 分 離 とそ の 引 き戻 し とい う綱 引 き状 態 は、 いつ ま で も終 わ ら な くな り、 そ こに 依存 的 な 融 合状 態 が 生 じる。 長 期 化 して い る不 登校 の 中 に は、 こ の 綱 引 き状 態 に陥 っ て い る ケ ー ス や 、 綱 を引 き合 う こ と もや め て もた れ あ っ て しま った よ う な ケ ー ス が 含 まれ るの で は な い だ ろ うか 。 で は この状 態 に 陥 ら ない た め に どの よ うな こ とが 大 切 で あ ろ

うか 。

一 つ に は、 親 の 側 が こ の 分 離 に伴 う喪 失 感 や 寂 し さ とい っ た感 情 を、 自覚 す る こ とで あ ろ う。

この 寂 し さが 自覚 さ れ な い と、子 ど も を無 意 識 的 に 自分 の 手 元 に置 こ う とす る心 の動 き につ なが る お そ れ が あ る。 こ の よ うな 感情 を 自分 の もの と して 引 き受 け る こ とで 、子 ど も を 自分 と は別 の 存 在 と して 認 識 し、 分 離 して い く こ とが 可 能 に な っ て くるの で は な い だ ろ うか 。 そ の た め に は親 は まず 自分 の 課 題 に しっ か り と向 き合 う必 要 が あ る 。 高 石(2003)が 「親 は まず 自 らの 思 春 期 を 振 り返 り、 自分 が 親 か ら どの よ うに 分 離 した か 、 あ る い は ま だ分 離 し得 て い な い か を吟 味 す る こ とで あ る」 「子 別 れ の 喪 失 に耐 え う るた め に は 、親 が 自分 の 人生 の 仕 事 に し っか り取 り組 む こ と 以外 にな い の で は なか ろ うか」 と述 べ る よ うに 、 これ まで の 自分 の あ り方 、 そ して これ か らの あ り方 に 向 き合 う中 で 、 寂 し さを 自 分 の 中 に あ る もの と して と ら え、 抱 え る こ とが可 能 に な る の で あ ろ う。 仮 に仕 事 や 夫 との 関係 な どで この喪 失 感 を補 う にせ よ、 そ れ はや は り 自分 の 中 にそ うい っ た 感 情 が あ る こ と を引 き受 け た後 に、 建 設 的 な意 味 を持 つ の で は な い だ ろ うか。

した が って 、 こ こで 心 理 面 接 に お け る 治療 者 の大 切 な 機 能 の 一 つ は、 下 手 をす れ ば 本 人 も気 づ か ず に い る この 寂 しさや 喪 失 感 を 、 い か に 汲 み と り、 い か に一 緒 に抱 え て い くか とい う こ とに な る の で は な い だ ろ うか 。

一 方、子 ど もの 側 は、 親 の側 ほ どは っ き り した喪 失 感 は 、 少 な くと も意 識 的 に は感 じて い な い よ うに見 え る 。 岩 宮(1997)は 、治 療 の終 結 に つ い て 、 思 春 期 の ク ラ イエ ン トの場 合 、 きっ ち り と した終 結 を迎 え る、 と い うパ タ ー ンが とれ る こ とば か りで は ない と して 、 次 の よ う に述 べ て い る。 「そ れ は思 春 期 が 、 『自立 』が 大 きな テ ー マ に な る 時期 で あ る こ と と も関 係 が 深 い よ う に思 う。

治 療 者 か らの 『自立 』 と い う こ と も、 とて も重 大 な課 題 に な って くるた め 、 ク ラ イエ ン トの 中 に は 、 そ の 自立 に伴 う大 き な不 安 を 、治 療 者 を 自分 の方 か ら切 る こ と に よ って 乗 り越 え よ う とす る こ と もあ る の で は ない だ ろ う か。 そ の時 、治 療 者 は 、切 り捨 て られ た よ う な寂 しさ を感 じる こ と に な る。 しか し、 自立 に伴 う痛 み を 、 そ う い っ た形 で 治療 者 側 が 背 負 う こ と も、 思 春 期 の ク ラ イ エ ン トとの 治 療 の 終 結 時 に は必 要 なの で は な い か と思 う」。 こ の こ とは 子 ど もの親 か らの 自立 に つ い て も、 い く らか 当 て は まる よ う に思 う。 子 ど もの 側 の寂 し さや 喪 失 感 を 親 が 背 負 うこ とで 、 子 ど もは分 離 をむ し ろ 自立 と い う肯 定 的 な意 味 で と らえ る こ とが 可 能 にな って い るの か も しれ な い。 しか し 自分 の 寂 しさ に加 え て子 ど もの寂 しさ も背 負 うの は 、 親 に と って は時 に厳 しい 作 業 と な る。 や は り、 この 寂 しさ を と もに抱 え、 と もに背 負 う機 能 を 果 た す存 在 が あ る こ とが 、 重 要 で あ る と思 わ れ る。

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林:不 登 校 の 親 子 関 係 につ い て の一 考 察

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