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食餌性状の違いは

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食餌性状の違いは Myh 遺伝子群の発現を変化させ マウス咬筋の筋線維の種類と下顎骨形態に影響を及ぼす

河野 加奈

Kana KONO

(平成26年12月10日受付)

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緒言

歯科疾患実態調査の結果によると, 過去 20 年間で不正咬合を有する患児の割

合は増加している1)。しかし不正咬合の成立要因は, 原因遺伝子が明らかないく

つかの先天疾患以外ほとんど明らかになっていないため, 不正咬合を有する患

児の割合が増加している原因は今のところ不明である。不正咬合の原因を説明で

きない理由のひとつは, 先天的要因だけでなく後天的要因が顎骨の形態変化に

影響を及ぼしているからであると考えられる2)。一方, 現代社会では食生活の変

化に伴い咀嚼機能が低下して顎骨が退化縮小した結果, 不正咬合が増加したと

いう報告もある3)。しかし, 食生活のような後天的要因が, どのような機序で骨

格形態に影響を及ぼすのかという点に関しては不明な部分が多い。近年, 分子生

物学的解析手法を用いた研究によって, 咬合関係の違いにより咬筋の遺伝子発

現が異なることなどが報告され, 顎態の変化と骨格筋の相互関係が注目されて

きている4,5)

これまで, 食餌性状などの後天的環境因子が顔面骨格の成長にどのような影

響を及ぼしうるのか, 様々な研究がなされてきた。ラットを性状の異なる餌で飼

育した後, 単純 X 線撮影を行い骨格形態の解析を行った実験により, 食餌の性

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3

状が顎骨の形態に影響を与えることが知られている3)。しかし, 従来は単純 X 線

にて頭部を撮影していたため, 上下の顎骨が重なって撮影されており, 上下の

顎骨を別々に解析することは困難であった。近年, 画像解析技術の向上に伴い,

小動物でも上下の顎骨を別々に測定することが可能となり, 成長が早く, 効率

的に実験をすすめることができる利点から, マウスを用いた研究も行われるよ

うになってきた。これらマウスを用いた研究でも, これまでの試みと同様に食餌

の影響により顎骨に概形の変化をもたらすことは報告されてきている5)。しかし,

顎骨の各部分における形態変化を詳細に解析する手法は未だ確立されておらず,

もちろん数値的に比較検討した報告はない。一方, 食餌性状の変化が咬筋におけ

る筋細胞の発達に影響を及ぼすことが報告されており3), 食餌性状の変化が咬筋

に何らかの影響を及ぼす可能性が示唆されている。しかし, 食餌性状の変化と,

骨格変化及び咬筋の筋線維の種類の変化という三者の関連性を同時に観察し明

確にした研究は未だ報告されていない。

そのため本研究ではまず, マウスを用いて食餌性状という後天的な影響によ

って顎骨形態が変化するモデルを作製した。また, 食餌性状を変化させた時のマ

ウス下顎骨の形態変化を, 歯科矯正学的な分析手法であるセファログラム分析

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4

法を応用し数値的に比較検討し, 詳細に分析することができるかどうか試みた。

さらに, 食餌性状を変化させることで咬筋の筋線維の種類に影響が生じるのか,

つまり咬筋において速筋と遅筋の割合が変化するのか調査するとともに, 遺伝

子 発 現 に お い て も 速 筋 と 遅 筋 の 筋 構 成 タ ン パ ク で あ る MHC-IIa, MHC-IIb,

MHC-IId/x, MHC-I をそれぞれコードする Myh 遺伝子群の発現に違いが生じてい

るかどうかを調べることで, 食餌性状の変化と下顎骨形態の変化及び咬筋の特

性変化の三者の相互的な関連性を調査することとした。

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5

材料ならびに方法

1.実験動物の条件

生後 3 週齢で離乳させた 14 匹の雄の ICR マウスを, 粉末餌群, 固形餌群の 2

群に分け, 生後 9 週齢まで飼育して実験に用いた。餌の成分は同じで形状の違う

固形餌と粉末餌 (CE-2, CREA, Tokyo, Japan) をそれぞれの群に与えた。また,

全てのマウスは室温 23 ℃ 1 ℃, 昼夜サイクル 12 時間の条件下で飼育した。

飼育した餌の影響によってマウスの発育そのものに影響が生じていないことを

確認するため, 生後 9 週齢で体重を測定し有意差が生じないことを確認した

(図 1)。

尚, 本研究は岡山大学動物実験委員会の承認を受けて行った。(承認番号

OKU-2013228)

2.マイクロ CT を用いたマウス下顎骨の 3 次元形態解析

生後 9 週齢の段階でマウスを屠殺して頭部を採取した。採取した検体を 4 %

Paraformaldehyde (PFA) 溶液にて 4 ℃で 12 時間浸透固定し, 実験動物用 X 線

CT 装置 (Latheta LCT-200, Hitachi Aroka, Tokyo, Japan) にてマウス頭部を

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6

撮影した。撮影条件は管電圧 90 kV および管電流 110 mA, 1 ボクセルサイズを

96x96x96μm の条件で行なった。撮影したデータを 3D 解析ソフト (VG Studio

MAX 2.0, Volume Graphics, Germany) を用いて立体構築し, 各群の筋突起, 下

顎頭, 下顎角部の形態を比較した。

また, 実験動物体組成解析ソフト (Latheta LCT-200) を用いて, 目視にて下

顎骨の範囲指定を行い, マウス下顎骨の全骨密度, 皮質骨密度, 海綿骨密度を

調べた。

3. セファログラム分析法を用いたマウス下顎骨の形態比較

3D 解析ソフト (VG Studio MAX 2.0) を用いて立体構築したマウス下顎骨を,

左右の下顎第 1 大臼歯の近心部 (Ml) が一致するように重ね合わせて二次元に

投影した。その後, 下顎骨の外形線をトレースし, 外形線上の凹部と凸部の頂点

に計測点を設定した。計測点のひとつである Pg 点を座標の原点 (0, 0) , Gn 点

を X 軸上に配置し, それぞれの点を座標化した。計測点間の角度計測及び距離計

測を行い unpaired-t 検定を用いて有意差検定を行った。また, それぞれの群に

おいて計測点を平均化して外形線の模式図であるプロフィログラムを作製し,

(7)

7

粉末餌群と固形餌群での形態比較を行った。プロフィログラムの比較には Cor,

Con, Pg, Gn, Cd 点を基準として用い, 重ね合わせを行った。これまでに用いら

れてきた計測点に加えて下顎骨の形態を詳細に解析するためにいくつかの新た

な計測点 (図 2 に下線で示す) を追加して計測点を設けた (図 2) 。各計測点の

詳細を以下に示す。尚, 既存の計測点は Kiliaridis ら 2)の論文に基づいて作製

した。

Ii : 下顎前歯切端の最突出点

Bl : 下顎前歯上面と歯槽骨最前方部との交点

Md : 切歯部歯槽骨上面の最も窪んでいる部位

Ml : 下顎歯槽骨と第一大臼歯近心縁との交点

Rd : Ml を通り筋突起前面に接する直線から最も離れた上行枝上の点

Cor: 筋突起の前方傾斜部の最突出点

Ri : 筋突起後方の最も窪んでいる部位

Con: 下顎頭表面の最上方点

Cd : 下顎頭の最後方点

Ag : Cd と Go を結んだ線から最も離れた下顎枝後縁上の点

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Go : 下顎角の最後方点

Gn : 下顎角の最下点

Mn : Pg と Gn を結んだ線から最も離れた下顎下縁上の点

Pg : 下顎下縁前方部の最下点

Id : 下顎前歯下面と歯槽骨最前方との交点

4. Nicotinamide adenine dinucleotide - Tetrazolium reductase

(NADH-TR) 染色を用いたマウス咬筋の筋線維の種類の解析

生後 9 週齢で回収したマウス右側の咬筋を 4 % PFA 溶液にて 4 ℃で 12 時間浸

透固定した。その後 Phosphate buffered saline (PBS) 溶液にて 4 ℃で 30 分

間の洗浄を 3 回行い, さらに 30 % Sucrose を用いて標本の洗浄を行った。

O.C.T.Compound (Sakura Finetek, Tokyo, Japan) を用いて包埋した後, クリオ

スタット (MICROM HM500, GMI, Minnesota, USA) を用いて 10 μm 厚の凍結切片

を作製した。0.05 M Tris hydroxymethyl aminomethane - Hydrochloric acid (Tris

- HCl) 緩衝液 (pH7.4) に Nitroblue tetrazolium (NBT, 最終濃度 1mM) , β -

Nicotinamide adenine dinucleotide (β - NADH, 最終濃度 1mM) を加えた試薬

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9

に 37 ℃で 30 分間反応させた後, 30 %, 60 %, 90 %, 60 %, 30 %の順でア

セトンに浸して洗浄し, さらに水道水にて洗浄した。グリセリンゼリーにて封入

し, 倒立顕微鏡 (BZ-X710, KEYENCE, Osaka, Japan) を用いて, 同条件下で観察,

撮影を行った。濃染部位と淡染部位の比較には, 画像解析ソフト (BZ-H2C,

KEYENCE) を用いて, 染色の濃淡を明確に区別するために閾値 170 に設定し, 領

域内の全筋線維の断面積における濃染している筋線維の断面積比率を算出した。

尚, 切片作製時の破れ等により破損した 1 細胞と見なされない領域 (250 μm2

下の領域) は除去した。

5. 定量的 PCR 法を用いたマウス咬筋の遺伝子発現解析

生後 9 週齢で回収したマウス左側の咬筋組織から ISOGEN (Nippon Gene, Tokyo,

Japan) を用いて Total RNA を単離した。逆転写反応には ReverTra Ace qPCR RT

Kit (Toyobo, Osaka, Japan) を使用した。得られた cDNA は遺伝子特異的プライ

マ ー と SYBR Green Realtime PCR Master Mix (Toyobo) を 用 い て 増 幅 し ,

LightCycler System (Roche Diagnostics, Mannheim, Germany) にて定量解析を

行った。Glyceraldehyde - 3 - phosphate dehydrogenase (GAPDH) を内部標準

(10)

10

として用いた。本研究で用いた遺伝子特異的プライマーの塩基配列を表 1 に示す。

6. 統計処理

各実験データの有意差検定には unpaired-t 検定を用いた。数値の有意差は *P

<0.05, **P<0.01, ***P<0.001 で示した。

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結果

1. マウス下顎骨の立体画像の特徴

各群における筋突起, 下顎頭, 下顎角部に見られる典型的な像の比較を図 3

に示す。

粉末餌群, 固形餌群の各群の下顎骨を立体構築し, 左側面の形態比較を行っ

たところ, 筋突起部位では粉末餌群と固形餌群で形状に大きな違いはないもの

の, 粉末餌群において筋突起の太さは細くなっていた。また, 立体画像を矢状方

向後方より観察し筋突起の厚みを比較したところ, 粉末餌群において厚みも薄

くなっていた (図 3A) 。また, 下顎頭部位では粉末餌群と固形餌群で形状が大

きく変化しており, 粉末餌群において下顎頭の頬側の隆起は小さく, 下顎頭の

大きさも小さくなっていた (図 3B) 。さらに, 下顎角部の突起は固形餌群では

鈍角であったのに対し, 粉末餌群では鋭角になっており, 突起の幅自体も細く

なっていた (図 3C) 。

2. マウス下顎骨の骨密度変化

全骨密度, 海面骨密度は粉末餌群において有意に低くなっていた。皮質骨密度

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12

については粉末餌群と固形餌群で有意な差は認められなかった (図 4) 。

3. マウス下顎骨の形態変化

基準平面に対するマウス下顎骨の回転を観察するために, Cor と Con 点を同一

線上で合わせ, 前後的には Cd 点を一致させて重ね合わせを行い比較した結果,

下顎骨の前後長にはほとんど変化は認められなかったが, 粉末餌群では下顎切

歯が下方に傾くような形状に変化した。また, 下顎角部の形態は粉末餌群と固形

餌群で大きく異なっていた (図 5A) 。さらに, 基準平面に対するマウス下顎骨

の垂直的な形態変化を観察するために, Pg と Gn 点を同一線上で合わせ, 前後的

には Cd 点を一致させて重ね合わせを行い比較した結果, 粉末餌群においては下

顎枝の高さが固型餌群に比較して低く, また, 歯槽骨の高さが高くなった (図

5B) 。

プロフィログラムの比較にて違いが生じていた部位に関しては, 角度計測及

び距離計測の点からも有意な差が認められた (表 2) 。角度計測においては

Go-Gn-Mn, Gn-Go-Ag, Cd-Go/Pg-Gn, Go-Ag-Cd, Con-Ri-Cor, Ri-Cor-Rd,

Rd-Ml/Pg-Gn, Ii-Pg/Cd-Go の計測項目において有意差が認められ, 距離計測に

(13)

13

おいては Cor-Ri, Cor/Mand.p, Con/Mand.p, Cd/Mand.p, Go/Mand.p の計測項目

において有意差が認められた。Go-Gn-Mn, Gn-Go-Ag は粉末餌群で大きい値を示

した。つまり, 粉末餌群において下顎角の角度が大きくなった。 Cd-Go/Pg-Gn

は粉末餌群で大きい値を示した。つまり, 粉末餌群では下顎下縁平面と下顎後縁

平面のなす角度が大きくなった。Ii-Pg/Cd-Go は粉末餌群で大きい値を示した。

つまり, 粉末餌群では下顎後縁平面と下顎切歯のなす角度が大きくなった。上記

の事項は, プロフィログラムの比較で示された, 粉末餌群では下顎切歯が下方

に傾くような形状に変化するという結果と同様の結果を示唆している。また,

Cor/Mand.p は粉末餌群において小さい値を示しており, 粉末餌群では下顎下縁

平面から筋突起までの距離が短くなった。Con/Mand.p は粉末餌群において小さ

い値を示しており, 粉末餌群では下顎下縁平面から下顎頭までの距離が短くな

った。上記の事項はプロフィログラムの比較で示された, 粉末餌群においては下

顎枝の高さが低くなるという結果と同様の結果を示している。また, Ri-Cor-Rd

は粉末餌群で小さい値を示した。つまり粉末餌群では筋突起先端の角度が小さく

なった 。

(14)

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4. マウス咬筋の筋線維の種類の変化

NADH-TR 染色では遅筋線維は濃染し, 速筋線維は淡染する。生後 9 週齢におけ

るマウス咬筋の横断面切片を染色したところ, 粉末餌群では濃染した線維の断

面積比率が 2.27 %, 固形餌群では 24.89 %であり, 粉末餌で飼育することで濃染

する筋線維が減少した (図 6) 。このことから, マウス咬筋は速筋であるが, 粉

末餌で飼育することで, より速筋の性質が増すことが明らかとなった。

5. Myh 遺伝子群の発現様態

マウス咬筋の組織染色より, 食餌性状の変化により咬筋の筋線維の種類の変

化 (粉末餌飼育による咬筋筋線維の速筋化) が示唆されたため, 遺伝子発現と

の関連性を確認するために, マウス咬筋にて発現が報告されているMyh1, Myh2,

Myh4 6,7)の発現様態を生後 9 週齢のマウス咬筋を用いて RT-PCR により調査した。

この結果, 粉末餌群において Myh4 遺伝子の発現量は増加, Myh1, Mh2 遺伝子の

発現量は減少した (図 7) 。この事から, 食餌性状を変えることで遺伝子発現が

変化することが明らかとなった。尚, 本研究においては遅筋線維にて発現が確認

されているMyh7の発現は認められなかった8)

(15)

15

考察

1. 下顎骨の形態変化

過去の報告から, 食餌性状を変化させることで下顎骨の形態に変化が生じる

ことは示されているが, 数値的な比較を行うような詳細な解析はなされていな

かった9-13)。本研究ではマイクロ CT を用いた解析により, 新たに食餌性状の変化

に伴うマウス下顎骨の詳細な形態変化が明らかとなった。特に, 粉末餌を与える

ことで固形餌を与えた場合と比較して筋突起の幅が細く, 厚みが薄くなること,

下顎頭頬側の隆起が小さくなり, 下顎頭の大きさ自体も小さくなること, 下顎

角部の突起の先端の形状が鋭角になり, 突起の幅も細くなることが示された。

これらの部位は主に咀嚼筋の付着部位であることから, メカニカルストレス

が直接的もしくは間接的に骨のリモデリングを調節した結果, 食餌性状の変化

に伴い局所的に下顎骨の形態変化が生じたと考えられる。また, ヒトを対象とし

た研究では下顎角部の劣成長と咬合力の脆弱化との関連が報告されており, 今

回の結果の妥当性を裏付けている14-18)。さらに, 今回の研究で局所的に形態差の

認められたこれらの部位では, 成長様式が骨添加と骨吸収のリモデリングによ

って起こるという共通点があり, 食餌性状の変化に伴うメカニカルストレスの

(16)

16

減少が, 骨添加の抑制もしくは骨吸収の増加に作用している可能性が示された。

尚, 飼育した餌の影響によってマウスの発育そのものに影響が生じていない

ことを確認するため, 生後 9 週齢で体重を測定し有意差が生じないことを確認

したが (図 1), 5 週, 7 週の各段階では粉末餌群と固形餌群において体重差が認

められた。しかし, 固形餌群に比較して粉末餌群の体重が軽くなるという今回の

結果は, 過去の論文と同様の結果であり, 妥当な結果であると予測される19)。よ

って, 粉末餌群の発育不良による形態差ではないと考えられる。

2. 下顎骨の骨密度変化

生後 9 週齢のマウス下顎骨では固形餌群と比較して粉末餌群で海綿骨密度が

有意に低かった。このことから食物の硬さの変化が, 下顎骨へ加わるメカニカル

ストレスに影響を及ぼし, 海綿骨の骨リモデリングに強い影響を与えることが

明らかとなった。メカニカルストレスに対して皮質骨と比較し, 海綿骨の方が大

きな影響を受けた原因に関しては, 海綿骨が皮質骨に比べ代謝速度が 5~8 倍高

く, 環境に敏感に反応するためであると予測されるが 20), 大腿骨で行われたメ

カニカルストレスと海綿骨のリモデリングに関する研究でも同様の報告があり

(17)

17

21-23), 下顎骨においても大腿骨と似た現象が生じている可能性が示された。

3. 下顎骨プロフィログラムの重ね合わせ変化

粉末餌群においては下顎切歯が下方に傾くような形状に変化しており, また,

下顎枝高が低く, 歯槽骨高が高く変化していた。このような粉末餌群の下顎骨形

態の特徴は, ヒトにおけるいわゆる骨格性ハイアングル, オープンバイト (開

咬) の傾向と一致していた。ヒトにおけるハイアングル, オープンバイト症例で

は, 一般に咬合力が減少することで臼歯の挺出が亢進し, 歯槽骨高の増加と,

これに伴う下顎骨の後方回転が生じている。この特徴は, 筋ジストロフィーのよ

うな筋力が低下する疾患でも認められ, 一般に後天的で間接的な影響によるも

のと考えられている。そのため今回の結果から, 筋ジストロフィーのような筋肉

の疾患の 2 次的な影響として, 顎骨の形態変化に伴う骨格性の不正咬合が生じ

うる可能性が示唆された。また, ヒトでは成長期に下顎頭と下顎枝上縁での骨形

成によって下顎枝の高さが増大するが, それを打ち消すように咬筋と内側翼突

筋付着部である下顎角部では骨吸収, 歯槽部では歯の萌出に伴う骨形成が認め

られる24)。下顎骨における重要な成長の場である下顎頭部では, 長管骨の成長板

(18)

18

(骨端軟骨) にみられるような一定の方向性をもった成長は見られず, 特異的な

多方向性を持つ成長や骨改造が営まれている25,26)。この下顎頭の特徴が, 下顎骨

の成長様相, あるいは形態形成に多様性をもたらしていると考えられる。さらに

今回の結果から, 粉末餌で飼育したマウスでは下顎枝高が低くなっていたが,

これまでに下顎頭部の成長抑制により下顎枝高が低くなることが報告されてい

18,27-31)。よって上記より, 粉末餌で飼育することで, メカニカルストレスが減

少し, その結果として下顎頭の成長抑制が生じ, 下顎枝高が低くなった可能性

が示唆される。

4. 咬筋の筋線維の種類の変化

咬筋は食物を咀嚼するために最も重要な筋肉であると考えられている 32)

NADH-TR 染色の結果より, 粉末餌群では固形餌群より速筋の性質が強くなること

が示された。これまでの研究において, 成長期においては軟食でラットを飼育す

ることで咬筋の大きさが小さくなること, 筋線維細胞の成長が抑制され, ミト

コンドリアの密度が低下することが示されている32-35)。筋線維は速筋線維 (Type

II 線維) と遅筋線維 (Type I 線維) に大別される。これらは, 筋構成タンパク

(19)

19

であるミオシン重鎖のアイソフォームの違いとして定義される6)。一般に遅筋線

維は赤筋線維とも呼ばれ, ミトコンドリアを豊富に含む一方で, 速筋線維は白

筋線維とも呼ばれ, ミトコンドリアの密度が低いため解糖系酵素活性が高く,

収縮速度が速く疲労しやすいため, 無酸素状態での代謝に依存している36)。この

ことから, 粉末餌で飼育することでミトコンドリアの密度が低下し, 筋線維の

性質が変化したと考えられる 3)。 また, その結果として粉末餌で飼育した群に

おいては筋線維の性質が, 瞬発力に富む反面で持久力がないものへと変化して

いる。これはメカニカルストレスが小さい状況下においては筋持久力が低下し,

瞬発力を発揮する筋が優位になることを表していると考えられる。

5. 咬筋の遺伝子発現の変化

咬筋の遺伝子発現に関して, 粉末餌群では Myh4 遺伝子が増加し, Myh1, Myh2

は減少する傾向が認められた。筋構成タンパクの収縮速度はミオシン ATP 分解酵

素活性が高い程速く MHC-IIb (Myh4) >MHC-IId/x (Myh1) >MHC-IIa (Myh2) > MHC-I (Myh7)の順に速いことが知られている 37)。Type IIb 線維は速筋線維であ り, ミトコンドリアの密度が比較的少なく解糖系による敏速な収縮が可能であ

(20)

20

る。逆に Type IIa 線維は速筋線維であるがやや持続的収縮に向いたものであり,

中間線維とも呼ばれる。このことから, 遺伝子発現においても筋線維の性質と同

様に粉末餌で飼育することにより, 瞬発力が高く持久力が低くなってきている

ことが示唆された。

臨床研究において, 外科矯正治療を行った患者の咬筋サンプルのマイクロア

レイ解析では, 筋機能を反映すると言われている myh 遺伝子群の発現に差異が

認められ, ヒトにおいては myh1, myh2 が咬み合わせの深いディープバイト症例

において多く発現した38)。一方, 咬み合わせの浅いオープンバイト症例ではその

傾向は見られなかった38)。今回の実験結果では, 粉末餌で飼育することで咬筋に

おける Myh1, Myh2 の発現が減少した。また骨格はハイアングル, オープンバイ

ト症例に類似した形態となった。よって, ヒトにおいてもマウスにおいても顎態

の変化に Myh1, Myh2 の発現が関与しており, とくにハイアングル, オープンバ

イト症例においてMyh1, Myh2は減少することが示唆された。

今回の研究では粉末餌で飼育することにより, 下顎骨に加わるメカニカルス

トレスが減少し, 筋の発達が抑制され, その結果として筋突起は細く, 下顎頭

は小さく, 下顎角部の突起は鋭角に変化したと予測される。また, 粉末餌で飼育

(21)

21

することで速筋の比率が増加した。これまでの研究として, ラットにおける微小

重力環境における非荷重シミュレートモデルでは, 非荷重状態における筋萎縮

と筋線維の速筋化が特徴付けられている39)。これらのことから, 粉末餌群におい

ては筋にかかる荷重が減少した結果, 筋萎縮に伴う筋力の低下と筋線維の速筋

化が生じたと予測される。筋線維の種類の変化が咬合力に及ぼす影響としては,

瞬発力が高く持久力が低いという速筋の性質が強い場合には咬合時間が短くな

り, 逆に持久力が高く瞬発力が低いという遅筋の性質が強い場合には咬合時間

は長くなると考えられる。よってこれらのことから, 粉末餌で飼育することによ

り, 筋萎縮に伴う筋力低下と咀嚼時間の短縮化が生じることとなり, 咬合力の

面では粉末餌群では固形餌群と比較して低下すると予測される。

近年, 後天的な遺伝子制御メカニズムであるエピジェネティクス制御が様々

な疾患の原因であることが注目されており, 後天的な顎骨形態変化をもたらす

メカニズムにおいてもエピジェネティクス制御が関与しているのではないかと

いうことが示唆されている10)

今回の研究では後天的に食餌性状を変化させることで Myh 遺伝子群の発現が

変化した。よって, 食餌性状の変化に伴う何らかのシグナルがMyh遺伝子群の発

(22)

22

現を変化させている可能性が考えられる。つまり, Myh遺伝子群が直接的または 間接的にエピジェネティクス制御のターゲットとなっている可能性があると考

えられる。

今回の研究結果より, 成長期に食餌性状を変化させることで, 下顎骨の形態

変化及びマウス咬筋の筋線維の種類, Myh遺伝子群の発現様態が変化することが 示された。このような変化が生じる要因としては, 食餌性状を変化させることで

メカニカルストレスが変化し, これが直接的に下顎骨の骨リモデリングに影響

を与え下顎骨の形態変化を生じさせた可能性や, メカニカルストレスが変化し

たことで骨格筋の性質が変化し, 筋の性質変化により, 何らかのシグナルを介

して骨格変化が生じた可能性, これらが合い重なって生じている可能性が示唆

される。しかし近年, 骨に近接する筋から産生されるミオスタチンが恒常的に骨

形成に関係していることが示唆された4)。これまでの研究として, ミオスタチン

は速筋にて多く発現し, 速筋の発達を抑制し, 遅筋の発達を促進することが知

られている40,41)。今回の実験より, 粉末餌で飼育することにより, 咬筋はより速

筋の性質が強くなることが明らかとなった。このことから, 粉末餌で飼育するこ

とで速筋の割合が増加し, 筋肉から産生されるミオスタチンの量が増加し, そ

(23)

23

の結果として下顎角部の突起は細く, 鋭角なものとなったのではないかと予測

される。

今後は後天的な要因がどのような機序で形態形成に影響を及ぼしているのか

をエピジェネティクス制御との関係性を含めて解析していく必要がある。また,

エピジェネティックな制御システムが作用しているのであれば, 後天的な環境

変化に伴なう何らかのシグナルが末端の器官まで伝達される過程において, 骨

と筋肉間の相互作用がどのように働いているのかを解明していきたい。さらに,

顎骨と咬筋の発育過程での相互作用がどのように働いているのかを解明してい

くとともに, 骨格筋から産生されるミオスタチンの挙動に関しても詳細に観察

していく必要がある。

(24)

24

結論

今回の実験から, 食餌性状の違いがマウス咬筋における Myh 遺伝子群の発現

を変化させ, 筋線維の種類と下顎骨形態に影響を及ぼすということが示唆され

た。

(25)

25

謝辞

稿を終えるにあたり, 本研究を行う貴重な機会を与えて頂き, 終始御指導と

御校閲を賜りました, 岡山大学医歯薬学総合研究科歯科矯正学分野, 上岡寛教

授, 大阪大学大学院歯学研究科顎顔面口腔矯正学教室, 山城隆教授に深甚なる

謝意を表します。さらに, 様々な面にわたり貴重な御協力と御助言を下さいまし

た, 岡山大学病院 矯正歯科, 柳田剛志助教, 中村政裕医員に心から謝辞を表

します。最後に, 本研究を行うにあたり, 多くの御援助と御協力を頂きました長

坂佳世さん, 石本和也先生をはじめとする岡山大学医歯薬学総合研究科歯科矯

正学分野の諸先生方に心から御礼申し上げます。

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26

参考文献

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(33)

33

表題脚注

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 機能再生・再建科学専攻 口腔・顎・顔面

機能再生制御学講座 歯科矯正学分野(主任:上岡 寛)

本論文の要旨の一部は以下の学会において発表した。

・第 32 回日本骨代謝学会学術集会 (2014 年 8 月, 大阪)

・第 73 回日本矯正歯科学会大会 (2014 年 10 月, 千葉)

(34)

34

図表の説明

図1. マウスの体重変化

離乳直後の生後3週齢から生後9週齢までのマウスの体重変化を示す。

図2. マウス下顎骨の計測点

生後9週齢で回収したマウス下顎骨を, 左右の下顎第1大臼歯の近心部 (Ml)

が一致するように重ね合わせ二次元に投影した (A) 。 その後外形線をトレース

し, 外形線上の凹部と凸部の頂点に計測点を設定した (B) 。 計測点は, これま

でに用いられてきた点に加えて下顎骨の形態を詳細に解析するためにいくつか

の新たな点 (図中に下線で示す) を追加して作製した。

図3. マウス下顎骨の立体画像の特徴

固形餌群, 粉末餌群の各群における筋突起, 下顎頭, 下顎角部に見られる典

型的な像の比較を示す。

(A) 筋突起では粉末餌群と固形餌群で形状に大きな違いはないものの, 粉末

餌群において筋突起の太さは細く, 厚みも薄くなった。

(35)

35

(B) 下顎頭では粉末餌群と固形餌群で形状が大きく変化しており, 粉末餌群

において下顎頭の頬側の隆起は小さく, 下顎頭の大きさ自体も小さくなった。

(C) 下顎角部の突起は固形餌群では鈍角であったのに対し, 粉末餌群では鋭

角になっており, 突起の幅自体も細くなった。

図4.マウス下顎骨の骨密度変化

生後9週齢におけるマウス下顎骨の骨密度の変化を示す。

*P<0.05, **P<0.01

図5. マウス下顎骨の形態変化

固形餌群, 粉末餌群の各群における, プロフィログラムの重ね合わせを示す。

(A) CorとCon点を同一線上で合わせ, 前後的にはCd点を一致させて重ね合わ

せを行い比較した。

(B) PgとGn点を同一線上で合わせ, 前後的にはCd点を一致させて重ね合わせ

を行い比較した。尚, PgとGnを結んだ直線をMand.pとする。

(36)

36

図6. マウス咬筋のNADH-TR染色像と濃染した筋線維の断面積比率

(A, B) 固形餌群の咬筋横断面組織切片のNADH-TR染色像を示す。

(C, D) 粉末餌群の咬筋横断面組織切片のNADH-TR染色像を示す。

(E) 固形餌群, 粉末餌群の各群における, 全筋線維の断面積における濃染し

た筋線維の断面積比率(%)を示す。

A,C: Bar=200μm, B,D: Bar=100μm

図7. マウス咬筋の遺伝子発現様態

生後9週齢におけるマウス咬筋のMyh遺伝子群の発現様態を示す。

*P<0.05

参照

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