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(昭 和 59 年 11 月 日本 造 船 学 会 秋 季 講 演 会 に お い て 講 演)
疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タを 用 い た寿 命 予 測
正 員
二
瓶
正
俊*
P.
Heuler**
Ch. Boller***
T. Seeger***
Fatigue Life Prediction by Use of Damage Parameters
by Masatoshi Nihei, Member P. Heuler Ch. Boller T. Seeger
Summary
Cyclic stress-strain curves, strain-life curves, and notch evaluation procedure are the basic features of the local strain concept which allows predictions of initiation lives for fatigue cracks of an engineering size of the order of 0.5 mm•`1 mm. For variable amplitude loading
situations, the cumulative damage rule has also to be adopted mostly being a linear damage rule because of a lack of known shortcomings. Under constant amplitude loading and par-ticularly for variable amplitude loading histories following a stress-strain path on a
cycle-by-cycle basis, hysteresis loop with varying values of mean stress and mean strain have to be evaluated with respect to their damage contribution based on an appropriate strain-life curve.
In common practice, this is carried out by use of the damage parameters. In this report,
the capability and accuracy of several damage parameters to predict the mean stress effect on fatigue life of smooth specimens are evaluated using the results of strain controlled fatigue tests with and without mean strains and mean stresses. By combining two proposals from the literature, an improved damage parameter is obtaind and presented.
記
号
σ : 応 力 ε : 歪
σf',b : εea = σf'/E (2NA)b の 係 数 お よ び 指 数 εf',c : εpa = εf'(2NA)c の 係 数 お よ び 指 数 κ',n' : σa = K'εpan' の 係 数 お よ び 指 数
S : 公 称 応 力 E : 縦 弾 性 係 数 NA : き裂 発 生 寿 命
PSWT, εeq, Zd,. AH, AT, Pk, Peff, PHAI : 本 報 告 で 用 い た 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タ k,γ : 材 料 定 数 R : 応 力 比 (= σmin/σmax) Kt : 応 力 集 中 係 数 PE : 実 験 デ ー タ か ら得 ら れ る 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タ の 値 PR : 両 振 り疲 労 デ ー タ か ら 求 め た 定 数 を 用 い て 得 ら れ る 予 測 直 δ : 伸 び ⊿ : 範 囲 添 字 max : 最 大, min : 最 小, a : 振 幅, m : 平 均, e : 弾 性, p : 塑 性
1 ま
え
が
き
近 年, コ ン ピ ュ ー タ技 術の 発 達 に伴 い,各 種 の 疲 労 強 度 評 価 シ ス テ ム が 開 発 され て い る。こ れ らの シ ス テ ム で は 従 来 か らの 公 称応 力 に 基 づ く評 価 と, Topper らが 提 案 した 局 所 応 力 に 基 づ く評 価 とが,そ れ ぞ れ 用 い られ, 対 象 構 造 物 に よ り使 い 分 け られ て い る。 後 者 の局 所 応 力概 念 は,材 料 の 繰 返 し応 カ ー歪 曲 線, 歪 一疲 労 寿 命 曲線 お よ び 切 欠 部 の 応 カ ー歪 関 係 が 求 ま れ ば, 小 形 平 滑 材 の疲 労 デ ー タか ら構 造 物 の寿 命 予 測 が で き,よ り汎 用 性 の あ る概 念 と考 え られ,最 近 の海 洋 構 造 物 の 疲 労 設 計 規 程 等 に も取 り入 れ られ て い る。 この概 念 を用 い て,変 動 荷 重 下 で疲 労 損 傷 を 受 け る構 造 物 の 寿 命 予 測 も また,多 くの 研 究 者 に よ り行 わ れ て い る1)。変 動 荷重 下 で は,応 力 と歪 の履 歴 が 時 間 と と も に変 化 し,そ れ に 伴 い 疲 労 損 傷 の 原 因 とな る ヒ ス テ リシ ス ル ー プ も, そ の 形 状,平 均 応 力,平 均 歪 等 が 変 化 す る 。 正 確 な 寿 命 * 科 学 技 術 庁 金 属 材 料 技 術 研 究 所 ** IABG Ottobrunn, FRG470 日本 造 船 学 会 論 文 集 第 156 号 予 測 を 行 お う とす る な らば,こ れ ら瞬 間 値 と も言 え る応 カ ー歪 履 歴 を用 い た 損 傷 解 析 が 必 要 とな る 。 そ の た め に は,あ る平 均 応 力 ま た は 平 均 歪 ご と の歪 一寿 命 曲 線 を 必 要 と し,多量 の基 本 デ ー タ曲 線 群 を 必 要 とす る。そ こで, 多 くの 場 合,平 均 応 力 ま た は 平 均 歪 が あ る 場 合 の 応 カ ー 歪 履 歴 を両 振 りの状 態 に 置 き直 した疲 労 損 傷 解 析 が 行 わ れ て い る。 こ の両 振 りの 状 態 に 置 き直 す 際 用 い られ るの が 応 力 振 幅,歪 振 幅,平 均 応 力,平 均 歪 等 を あ る関 数 関 係 と仮 定 して組 み合 わ せ た 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タで あ る。 一 般 に ,変 動荷重 下にあ る構造物 あるいは構造部材 につ い て,上 述 の局 所 応 力概 念 を 用 い,本 報 告 で 取 り扱 う よ うな 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タ を 用 い た 寿 命 予 測 で も, Factor of 10以 上 の 誤 差 が あ る と言 わ れ る が,そ の 誤 差 の うちで も,用 い る ベ き疲 労 損 傷 パ ラ メー タの 寿 命 推 定 精 度 の 占 め る割 合 が 少 な くな い と考 え られ る。 本 報 告 は,著 者 の1人 が 西 ドイ ツ,ダ ー ム シ ュタ ッ ト 工 科 大 学 に滞 在 中 に 行 った 研 究 の一 部 で,種 々の 文 献 に 提 案 され て い る い く つ か の 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タ に つ い て,そ の寿 命 推 定 精 度 を 平 滑 小 形 試 験 片 を 用 い た歪 制 御 疲 労 試 験 結 果 か ら検 討 した も の で あ る。
2疲
労 損 傷 パ ラ メー タ
も し も,疲 労 過 程 中 の繰 返 し応 カ ー歪 関 係 が完 全 に 両 振 りの状 態 に あ るな らば,寿 命 予 測 に 用 い る基 準 曲 線 と して は,通 常 用 い られ て い る εta-NA あ る い は εpa-NA 曲線 で十 分 と考 え られ る。し か し,平 均 歪(ま た は 平 均 応 力)が 負 荷 され た 場 合(実 際 の 変 動 荷 重 下 で は 大 部 分 そ の よ うに な る),Fi9.1 に 示 す よ うに,平 均 歪 レベ ル に よ り異 な った 歪 一寿 命 曲 線 が 得 られ る。 そ の た め,寿 命 予測 に 用 い る基 準 曲線 と し て は,解 析 対 象 と な る応 カ ー歪 履 歴 と同 一 の も の が必 要 と な り,そ の 組 み合 わせ は 膨 大 な 数 に 達 す る こ とが 考 え られ る。そ こで,そ れ ら の平 均 値 が 負 荷 さ れ た 時 の応 カー歪 履 歴 を 平 均 値が 無い 状 態 に 置 き直 す た め に,種 々の疲 労 損 傷 パ ラ メー タが提 案 さ れ て い るが,こ れ ら の疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タでは,平 均 応 力 の 効 果 の み を考 慮 して い る 。 これ は,平 均 歪が材 料 の 破 断 延 性 値 に近 い か,あ る い は,冷 間 加工 等 に よ り,よ ほ ど強 い加 工 硬 化 を 受 け な い 限 り,平 均 歪 その も の の 効 果 は 無 視 で き る こ とに よる と考 え られ る。 も ちろ ん,こ の 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タは,事 実 上,繰 返 し数依 存 性 が 無 い,安 定 した 応 カ ー歪 関 係 が 存 在 す る こ と を前 提 と して い る。 い ま,疲 労 損 傷 パ ラ メー ター寿 命 曲 線 を 次 式 の よ うに 表 わ す 。(1)
これ は,(1)式 の 左 辺 で 表 わ され る デ ー タ の組 が ある 値 に 達 した 時,そ の 寿 命 がNAと な る こ とを 示 してい る。 も し,定 常 状 態 の 繰 返 し応 カ-歪 曲線 と して,(2)
を 考 え,こ れ を(1)式 に 代 入す る と,(1)式 は,応 力 範 囲,平 均 応 力 と寿 命 との 関 係 を表 わ す 式 と な り,通 常,設 計 に 良 く 用 い ら れ て い る σa-σm曲 線 あ るいは σmax-σmin 曲 線 と一 致 す る こ とに な る。 も し,疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タが 正 し く平 均 応 力 の影 響を 評 価 して い る な らば,種 々 の平 均 応 力 が あ る場 合 の疲 労 デ ー タ を 疲 労 損 傷 パ ラ メー タを 用 い て整 理 した値 は,両 振 りの疲 労 デ ー タの 結 果 と一 致 す る はず で あ る。 本 報 告 で は,種 々の 疲 労 損 傷 パ ラ メー タの平 均 応 力評 価 精 度 に つ い て,比 較,検 討 を行 い,パ ラ メー タの 関数 形 と して,何 が 最 も適 当 な の か を 検 討 した もの で ある。 本 報 告 に お い て 検 討 した疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タを次 に示 す 。a) PswT : Smith, Watson, Topper2) に よ り提案
され た 。Neuber 則3)か ら 次 の よ うに 導 び く こ とが で き
る。
(3)
(3)式 中 で,σa の 代 りに最 大 応 力 σmax を 用 い る こと
に よ り,平 均 応 力効 果 を考 慮 した 。
b) εep: Morrow4) に よ り提 案 さ れ た 。
Manson-Cofnn 式 と同 様 に,全 歪 を 弾性 歪 成 分 と塑 性 歪 成分 とに 分 け,弾 性 歪 成 分 の み が Fig.2 に 示 す よ うに,平 均応 力 の 影 響 を受 け る と した 。 また,ほ とん ど同 じ仮定 の下 に,Landgraf6)は(4)式 の よ うな パ ラ メ ー タを提 案 し て い る が,本 報 で は, Morrow の 提 案 したパ ラ メータ とそ の 値 が ほ とん ど変 わ らな い た め,用 い なか った。
(4)
Fig.1 Illustration
of mean strain effect
疲 労 損 蕩 パ ラ メ ー タを 用 い た寿 命 予 測 471 c) Zd : Heitmannら6) に よ り提 案 さ れ た 。Wuth。 rich7) が疲 労 に対 して 各 積 分 と呼 ん だ ⊿J積 分8) か ら 求め た。 これ は,後 述 す る 弾 性 ポ テ ン シ ャル エ ネル ギ ー を も含 め た全 歪 エ ネ ル ギ ー と同 様 な 物 理 的 意 味 を持 ち, Schilve9) に よる 疲 労 き裂 開 閉 口挙 動 に対 す る 平 均 応 力 の効果 を,数 式 中 で 考 慮 して い る(Fig.3参 照)。 d),e) ヒス テ リシ スル ー プか ら 求 ま る ヒ ス テ リシ a) AH and AT b) Zd -Integral c) Haibach-Parameter ス エ ネ ル ギ ー, AH お よ び 全 歪 エ ネ ル ギ ー, AT は,と も にFig.3 か ら も わ か る よ うに,平 均 応 力 の 影 響 は 考 慮 さ れ て い な い 。 し か し, AH に つ い て は,完 全 両 振 り の デ ー タ に つ い て,そ の 妥 当 性 が,疲 労 破 壊 の ク ラ イ テ リ オ ンの 面 か ら検 討 さ れ て お り鋤,本 報 告 で は,こ れ ら の パ ラ メ ー タ も 取 り上 げ た 。
f) pk : Bergmannら11) に よ り, 'individual para-meter' と 呼 ば れ, PSWT の 数 式 表 示 の 中 で,σmax の 代 りに,σk = σa+kσm と し て 用 い られ た 。kの 値 は 材 料 定 数 と 考 え ら れ,個 々 の 材 料 の 平 均 応 力 感 受 性 に よ り異 な る と さ れ た 。 g) Peff : 新 た に,本 報 告 で 提 案 す る パ ラ メ ー タ で あ る。 Erdogan ら12) に よ り用 い られ た(5) 式 の 有 効 応 力 σeff を 用 い,こ れ を Smith ら2) の パ ラ メ ー タ の 中 で 用 い た 。
(5)
(5) 式 は,疲 労 き裂 伝 播 に 対 す る 平 均 応 力 の 影 響 を 考 慮 す るた め 用 い られ た が,著 者 の1人13)に よる 荷 重 制 御 疲 労 デ ー タの 整 理 の際 も,平 均 応 力 の 効 果 を(5)式 で 良 く表 わ す こ とが で き た。 h) pHAI : Haibach14)が,ラ ンダ ム荷 重 下 に お け るFig. 2 Schematical illustration of Morrow's
parameter
Fig. 3 Schematical illustration of
strain-energy-based damage parameters
472 日本 造 船 学 会 論 文 集 第 156 号 荷 重 順 序 の 影 響 を評 価 す る た め に 提 案 した。こ の パ ラ メ ー タの 定 義 につ い て はFig.3 に 示 し匹。 3 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タ に よ る 解 析 手 順 前 節 で述 べ た疲 労 損 傷 パ ラ メー タ を一 括 して Table 1 に 示 した。 表 の 左 側 の 欄 に は用 い た疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タ を,右 側 に は対 応 す る解 析 式 を示 した 。 この 解 析 式 中 の 材 料 定 数 は,両 振 りの 疲 労 デ ー タに つ い て,(6) 式 の Manson-Coffin 式 を用 い た 回 帰,お よび (7) 式 の繰 返 し応 カ ー歪 曲線 か ら得 られ る 。
(6)
(7)
た だ し,(6)式 中 の σf',εf'の 値 は,NA = 1/2 回 の 時 の 値 と し て 求 め て い る 。 Fig.4 に 解 析 手 順 を 示 した 。 Table.1 に 示 す 解 析 式 か ら予 測 値 を 求 め る た め,(6)式 お よび(7)式 の回帰を 完 全 両 振 りデ ー タ に つ い て 行 い,各 種 損 傷 パ ラ メータに つ い て の 予 測 値,PRを 求 め た。 これ と,実 測 した応力 振 幅,歪,平 均 応 力 か ら求 ま るパ ラ メ ー タの 値,PE と を 比 較,検 討 した(Fig.5 参 照)。 4 解 析 に 用 い た デ ー タ お よ び 解 析 結 果 4.1 解 析 に 用 い た デ ー タ 6 種 の 鋼 材 お よび2種 の アル ミ合 金 を供 試 材 と した疲 労 試 験 結 果 を 用 い た 。 そ れ ら供 試 材 の化 学 成 分,機 械的 性 質 を,そ れ ぞ れTable 2, Table 3 に 示 した。 42 CrMo 4 は Cr 鋼 で JIS-SCr 440材 に 相 当, 49 Mn Vs 3 は JIS に対 応 す る規 格 は な い が, Mn-V 鋼,CK 45 は JIS-S 45 C相 当, StE 690 お よび
NAXTRA-70 (17 MnCrMo 33) は 80 キ ロ 級 高 張 力 鋼,GS 13
MnNi63 はMn-Ni鋳 鋼,AIMg 4.5Mn は JIS-A5083,
AIMg 1 は JIS-7000 系 Al 合 金 に そ れ ぞ れ対 応 してい る。
疲 労 試 験 は Table 4 に 示 す よ うな 平 均 歪 を 与 えた軸
歪 制 御 で 行 った 。 疲 労 試 験 中,応 カ ー歪 履 歴,お よび平
均 応 力 の 変 化 を 記 録 し,0.5NA 時 の応 カー歪 履 歴を求め
Fig. 4 Flow-chart for analytical procedure
Fig. 5 Schematical illustration of PE and PR
疲 労 損 傷 パ ラ メー タを 用 い た 寿 命 予 測 473 た 。 ま た,試 験 中,適 宜,50倍 の 実 体 顕 微 鏡 を用 い て 試 験 片表 面 の観 察 を行 い,試 験 片 表 面 で 疲 労 き裂 長 さ が 約0.5mmに な った 時点 を NA と定 義 した 。 4.2 解 析 結 果 本 報 告 で 検討 し た,各 種 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー ター寿 命 曲 線 を,例 と して低 合 金 鋼, 42 CrMo4 に つ い て, Fig.6 に示 す 。 図 中,○ 印 は平 均 歪 εm が 零 の デ ー タ, ▲ 印 は εm = +1.5%, □ 印 は-1.5% の デ ー タで,種 々の 損 傷 パ ラ メ ー タ に つ い て 一 括 して 示 した。 図 中 に 示 す 実 線 は,Table 1 の右 側 の欄 の 式 で,εm = 0 の デ ー タか ら得 られ た もの で あ る。 前 述 した よ うに, ▲ 印 お よび ■ 印の デ ー タが 図 中 の実 線 に 近 い ほ ど,そ の パ ラ メ ー タの 推 定 精 度 が 良 い こ とに な る。 これ か ら,各 々の 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タの 平 均 応 力 評 価 精 度,言 い換 え る と寿 命 予 測 精 度 が 比 較 で き る。 歪 エ ネ ル ギ ーを 基 礎 とす る Zd, AT, AH, PHAI の各 パ ラ メ ー タは,高 サ イ クル 領 域 で の ば らつ き
Table 3 Mechanical properties
474 日本 造 船 学 会 論 文 集 第 156 号 が 大 き く,平 均 応 力 効 果 を 十分 に 評 価 して い る とは 言 え な い。PSWT お よび Morrow パ ラ メー タ は,ほ ぼ 同程 度 の ば らつ きを 示 して い る 。Peff お よび Pk は,今 回 用 い た種 々の 疲 労 損 傷 パ ラ メー タ の 中 で,最 も良 い結 果 を 示 して い る。 これ らの こ とを,種 々の 材 料 に ついて比 較,検 討 す る た め, Fig.5 に 示 した よ うに PE/PR の値 を 各 デ ー タ点 につ い て 求 め,そ の 平 均 値 を 示 し た の が Fig7で あ る。 横 軸 は 本 報 告 で 用 いた 疲 労 損 傷 パ ラ メー タ,縦 軸 は解 析 に 使 用 した 供 試 材 で あ る。図 中 の3つ の コ ラ ム は,そ れ ぞ れ 平 均 歪 が 零,正 お よび 負 の デ ー タに 対 す る結 果 で あ り,コ ラ ム の高 さ が1に なれ ば,PE = PRで あ る こ とを 示 して い る。 図 中,εm = 0 の デー タが 1 よ り外 れ て い る もの が あ るが,こ れ は疲 労 損 傷 パ ラメ ー タ と疲 労 寿 命 に 対 す る回 帰 で は な く,(6)式 お よび (7) 式 の 回 帰 デ ー タか ら Table 1 の 解 析 式 を用 いてPR を 求 め て い る こ とに よ る。
5 検
討
Fig.8 に,本 報 告 で用 い た 種 々の 疲 労 損 傷 パ ラ メータ が 持 って い る平 均 応 力 依 存 性 を 図 示 した 。 用 い た パ ラメ ー タは 平 均 応 力依 存 性 が 零(AT,AH)か ら,強 い依存性 を 示 す も の(Haibach)ま で 種 々あ る 。 図 か ら もわ か るTable 4 Mean strain levels of fatigue
tests
Fig. 7 Comparison
of result for damage parameters;
columns indicate mean values of
PE/PR for zero,
tensile and compressive
mean strain,
respectively
疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タを 用 い た 寿 命 予 測 475 ように,PSWTとMorrowパ ラ メ ー タは ほ とん ど 同 じ 傾 向 を 示 し,Peff, Pk, Zdパ ラ メー タ も また 類 似 の 平 均 応 力 依 存 性 を 示 して い る。 したが って,本 報 告 で 用 い た 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タを 大 別 す れ ば,平 均 応 力 依 存 性 に 関 して4つ の グル ー プに 分 け られ る。 以下,こ れ らの グル ー プ ご と(た だ し,Zdは AT, AH と同 じグル ー プに 入 れ た)に,Fig。7を 用 い て 検 討 し てみ る。 a) 良 く 用 い られ て い る 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タ PSWT と εep は,材 料 ご とに 多 少 異 な るが,平 均 歪(平 均 応 力)の 違 い に よるPE/PR の 値 の 変 動 は,ほ ぼ ±10% の 範 囲 に あ る。,これ は,105回 近 傍 に おけ る推 定 寿 命 の 誤 差 と して は,ほ ぼ フ ァ ク タ ー3に 相 当 して い る 。 もち ろん,図 か ら も明 らか な よ うに,材 種 に よ って は,こ の 値 が 大 き くな り,推 定 寿 命 と実 際 の 寿 命 との 誤 差 が フ ァ クタ ー7に な る よ うな 場 合 もあ った 。 b) 歪 エ ネル ギ ーを 基 とす る 損 傷 パ ラ メー タの 中 で も,AH の 変 動 が 一 番 大 きか った 。 一 方, Zd お よびAT の変 動 も,他 の パ ラ メ ー タに 比 較 す る と大 き な変 動 を 示 す が, Fig.5 か ら もわ か る よ うに,疲 労 損 傷 パ ラ メ ー ター寿 命 曲 線 の 勾 配 が, 他 の パ ラ メ ータ よ り急 に な って お り, この 勾 配 の 差 を 考 慮 す る と,PE/PR の値 が ±50% 変 動 した と して も,そ れ は 推 定 寿 命 で わ ず か フ ァ クタ ー3の 違 い に しか な らず,結 局 の と こ ろ,こ れ らの パ ラ メ ー タは,上 述 の PSWT, εeq と同程 度 の推 定 精 度 を 示 して い る ことに な る 。 また, AT は Fig.8 か らもわ か る よ うに,本 質 的 に 平 均 応 力 の影 響 を 評 価 で き るパ ラ メ ー タ では な いの に もか か わ らず, AH よ りもず っ と良 い推 定 精 度 を 示 した。こ れ は,AT の 方 が 弾 性 歪 成 分 も式 の 中 に 含 まれ て お り,塑 性 歪 成 分 の み の AH よ りも PE/PRの 変 動 が 薄 ま っ た た め と考 え られ る。 c) Peff と Pk パ ラ メー タ は,本 報 告 で 用 いた 疲 労 損 傷 パ ラ メー タ の 中 で 最 も良 い寿 命 推 定精 度 を 示 した。 これ らの パ ラ メ ー タは,そ の 中 に材 料 定 数 と して γお よ びkの 値 を 含 む(Table 1参 照)。 各 材 種 ご とに 求 め た, これ ら の値 を Table 5 に 示 した。 しか し, Fig.7 には, これ ら Table 5 に 示 す 値 の 代 り に,γ = 0.5, K = 0.4 の 値 を 用 い た 。 これ か ら,こ の よ うに 材 種 に よ らず,一 定 の値 を用 い て も十 分 な推 定 精 度 を 持 って い る こ とが わ か る。 d) Haibach パ ラ メ ー タは,ほ ぼ す べ て の 材 種 に つ い て,ま た 用 い た 種 々の 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タの 中 で最 も 大 きな変 動 を 示 した 。 これ は, Fig.8 に 示 す よ うに,こ の パ ラ メ ー タの 持 つ 高 い平 均 応 力依 存 性 に 起 因 して い る と考 え られ る。 した が っ て,こ の パ ラ メ ー タは,平 均 応 力 効 果 を 評 価 す る疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タ と して は 不 適 当 で あ るが,変 動 荷 重 下 に お い て,荷 重 順 序 の 影 響 も含 め て 評 価 しな けれ ば な らな い よ うな時 は,有 効 に な る もの と 考 え られ る15)。 低 サ イ クル 領 域 に お いて は,疲 労 過 程 中 に 生 じる塑 性 変 形 の結 果,平 均 応 力 の リラ クセ ー シ ョンが 起 き る。 し た が っ て,そ の よ うな 場 合,平 均 応 力 の影 響 は 小 さ くな る こ とに な る 。 つ ま り,疲 労 に よる 損 傷過 程 は 完 全 両 振 りの 状 態 に近 づ く こ とが 予 想 され る。 本 報 告 の 解 析 の 中 に は,そ の よ うな 低 サ イ クル 領 域 の疲 労 デ ー タ も含 まれ て お り,Fig.7に 示 した 結 果 に影 響 を及 ぼ して い る可 能 性 が あ る。 そ こ で,次 に 平 均 応 力 が σm≦0.15σaの デ ー タを 除 外 して ,各 損傷 パラ メータについて同様な解析 を 行 っ た。Fig.9 に, StE 690 鋼 につ い て の 結 果 の 例 を
示 した。 Fig.7 の結 果 と比 較 す る と,Zd, AH, Haibach
各 パ ラ メー タが よ り悪 い 方 向 に な って い る が,他 の パ ラ メー タ は ほ とん ど影 響 され て い な い 。 した が って,全 体
Fig. 8 Mean stress effect as predicted by use
f different damage parameters
476 日本 造 船 学 会論 文 集 第 156 号 と して, Fig.7 か ら得 られ た結 論 を 変 え る必 要 は な い と 考 え られ る。 6 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タ の 利 用 に 関 す る 考 察 Fig.10 に局 所 応 力概 念 に よ る 疲 労 寿 命 予 測 の プ ロ ヅ ク図 を 示 す 。 図 中,左 側 の 部 分 が 局 所 応 力 お よび 歪 の 推 定 に か か わ る部 分,右 側 の 破 線 に囲 まれ た 部分 が,そ れ ら推 定 した 応 力,歪 か ら疲 労 寿 命 予 測 を 行 う 部 分 で あ る。 従 来,こ の 疲 労 寿 命 予 測 に 用 い られ る基 準 曲 線 と し て は,応 力 また は 歪 の どち らか 一 方 の み を 用 い た σ-NA 曲線,あ るい は ε-NA 曲線 が 用 い られ て き た。 しか し, 本 報 告 で も指 摘 した よ うに,変 動 荷 重 下 で の寿 命 予 測 の 場 合,あ るい は,残 留 応 力 等,平 均 値 成 分 が 無 視 で きな い よ うな 場 合,さ ら に は,負 荷 条 件 が 両 振 りで は な い よ うな場 合,104 回 を 超 え る よ うな 寿 命 予 測 を 行 う際 は, 平 均 応 力効 果 が 無 視 で き な くな る 。 そ の よ うな場 合,用 い るべ き寿 命 予 測 の 基 準 曲線 と し て は,(1)式 で示 し た 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー ター寿 命 曲 線 が 適 当 と考 え ら れ る。 本 報 告 の解 析 手順 か ら も容 易 にわ か る よ うに,両 振 りの 疲 労 デ ー タ か ら (6) 式 お よ び (7) 式 を 用 い て,諸 定 数 を 求 め て お け ば,任 意 の 平 均 応 力 が あ る 場 合 の 寿 命 予 測 が 可 能 とな る 。 本 報 告 で用 い た 疲 労 損 傷 パ ラ メー タ は,一 部 を 除 き, 厳 密 な意 味 で の疲 労 損 傷 量 と して の物 理 的 意 味 を 検 討 し た もの は な い。 大 部 分,単 に 平 均 応 力 効 果 を 評 価 す るた め の 応 力 と歪 とを 組 み 合 わ せ た 関 数 と して用 い られ て い る。 本 報 告 で も,そ の 点 につ い て は触 れ て お らず,単 に パ ラ メー タ と して 用 い た 。 今 後 の問 題 と しては,こ れ ら 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タ と疲 労 破 壊 の ク ライ テ リオンとの関 係 を調 べ る こ とが あ る。 そ れ に よ り,単 に平 均応力効果 を 評 価 す る た め の パ ラ メ ー タ と い う位 置 付 け か ら,疲 労 破 壊 の ク ライ テ リオ ン と直 接 に結 び つ い た定 義が可能と な ろ う。 7 結 論 平 均 応 力 効 果 を評 価 す る た め,用 い られ て い る疲労損 傷 パ ラ メ ー タ につ い て,鋼 お よび アル ミ合 金 の歪制御疲 れ試 験 結 果 を 用 い,そ れ らパ ラ メ ー タの 寿 命推 定精度を 検 討 した 。 得 られ た結 果 を 以下 に 示 す 。 (1) Smith らに よる 疲 労 損 傷 パ ラ メ ー タ, PSWT は 実 測 寿 命 と推 定 寿 命 との間 に フ ァ ク タ ー 3 の誤 差があっ た。 材 種 に よ って は,こ の値 が も っ と大 き くなる場合も あ った 。 (2) Morrow パ ラ メ ー タ,εeq は, PSWT とほ とん ど同程 度 の 寿 命 推 定 精 度 を示 した。 (3) 繰 返 し歪 エ ネル ギ ー に 基 づ くパ ラ メー タ,る, AH, AT は, PE/PR の 値 が 平 均 応 力 に よ り大 き く変動 した。 しか しな が ら,こ れ ら の パ ラ メー ター寿命 曲線の 勾 配 が 急 な こ とを 考 慮 す る と,こ れ らの パ ラ メータの う ち,Zd と AT は,ほ ぼ PSWT と 同程 度 の寿 命推定精度 を 持 っ て い る と考 え られ る。 (4) Haibach パ ラ メー タ, PHAI は,本 報 告 で用い た 疲 労 損 傷 パ ラ メー タの 中 で,.PE/PE の値 が 最 も大 き く変 動 した。 しか し,こ の パ ラ メ ー タの 持 つ ユ ニー クな 特 性 か ら,ラ ン ダム荷 重 下 に お い て,荷 重順 序 の影響が 生 じる よ うな場 合 に は有 効 に な る もの と考 え られ る。 (5) Pk お よび 本 報 告 で 新 た に用 い た Peff は,両 者 と も,最 も良 い寿 命 推 定精 度 を 示 した 。 ま た,両 者の 寿 命推 定 精 度 の 間 に は有 意 な 差 は 認 め られ なか った。 . (6) Pk お よ び Peff は,そ の数 式表 示 の 中に材料 定 数 を 含 む た め,基 本 的 に は,各 材 種 ご とにそ の材料定 数 を 求 め る必 要 が あ る。 しか しな が ら,本 報 告 で示 した よ うに,K = 0.4 お よび γ = 0.5 の値 を用 いて も十分な 寿 命推 定 精 度 が 得 られ る。
参
考
文
献
1) 例 え ば E.Haibach and D.Schutz : Fatigue
Life Evaluation with Particular Attention
to Local Strains and Stress Time Histories;
Conference on Designing against Fatigue,
9 th Oct. 1974, London.
例 え ば P.Heuler und T. Seeger :
Betriebsla-stenversuche
zur Analyse des ortlichen
Kon-zepts, Bericht FD-12/1981,
Fachgebiet
Werk-stoffmechanik,
T. H. Darmstadt
(1981) (in
Fig. 9 Influence of mean stress magnitude on
mean values of PR/P,
Fig. 10 Schematical block diagram for fatigue
疲 労 損 傷 パ ラ メー タを 用 い た 寿 命 予 測 477
German).
2) K. N. Smith, P. Watson and T. H. Topper: A Stress-Strain Function for the Fatigue of
Metals, J. of Materials, JMLSA, 5-4 (1970), 767•`778.
3) H. Neuber: Theory of Stress Concentrations for Shear-Strained Prismatical Bodies with
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5) R. W. Landgraf : Cumulative Fatigue Damage
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Anriss-lebensdauer unter Berucksichtigung des Ver-haltens von Mikrorissen, Dissertation an der TH Aachen, 1983 (in German).
7) C. Wuthrich: The Extension of the J-Integral Concept to Fatigue Cracks, In t. J. of Frac-ture, 20(1982), R35•`37.
8) N. E. Dowling and J. A. Begley : Fatigue Crack Growth During Gross Plasticity and the J-Integral, American Soc. Mech. Eng., ASTM STP590(1976), 82•`103.
9) J. Schijve: Some Formulas for the Crack Opening Stress Level, Eng. Fract. Mech., 14
(1981), 461•`465.
10) 例 え ば S. Klee : Das zyklische
Spannungs-De-hnungs-und Bruchverhalten verschiedener
Statile, Veroffentlichung des Instituts fur
Statik und Stahlbau der Technichen
Hochsch-ule Darmstadt, Heft 22, 1973(in German). 11) J. W. Bergmann and T. Seeger: On the
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13) M. Nihei, E. Sasaki and M. Kamakura: Effects
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Traut-mann: Comparison of Actual and the Predi-cted Crack Initiation Life Behavior of
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16) J. W. Bergmann: Zur Betriebsfestigkeitbemes-sung gekerbter gekerbter Bauteile auf der Grundlage
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