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安全性・信頼性向上のための鉄道信号

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(1)

安全性・信頼性向上のための鉄道信号 システムの設計手法に関する研究

Study on Design Techniques of Railway Signalling System for Enhancing Safety and Reliability

2008 年 2 月

早稲田大学大学院 理工学研究科

電気・情報生命専攻 コンピュータ援用電磁工学研究

奥 谷 民 雄

(2)

目 次

第1章 序論 1

1.1 研究の背景 1

1.1.1 鉄道を取り巻く環境と鉄道の社会的意義 1 1.1.2 鉄道信号システムの使命と構成装置の歴史的変遷 3

1.1.3 列車間隔制御 4 1.1.4 ATSとATC装置 7 1.1.5 列車進路制御 13 1.1.6 鉄道信号システムの安全性確保手法 15

1.1.7 鉄道信号システムの信頼性確保手法 17

1.2 本研究の目的と概要 19

1.2.1 本研究の目的 19 1.2.2 本研究の概要 20

第2章 安全性と信頼性の向上を図った連動装置の開発 25

2.1 はじめに 25

2.1.1 第三セクター鉄道に求められる信号システム 25

2.1.2 本研究の対象とした井原鉄道の概要 26

2.2 単線区間の信号システム 30

2.2.1 自動閉そく装置と連動装置 30 2.2.2 指令所からの遠隔進路制御のためのCTC装置 33

2.3 線区集中電子連動装置の開発 35

2.3.1 まえがき 35

2.3.2 線区集中電子連動システムの構成 36 2.3.3 SM光ケーブル対応電子端末用伝送部の開発 37

2.3.4 新しい方式による閉そくの確保と安全性の向上 38

2.3.5 サブシステムによる保全性の向上 42 2.3.6 安全性評価手法と評価結果 44

2.4 まとめ 48

第3章 高速・高密度線区用ATC装置の開発 49

3.1 はじめに 49

3.2 ATCに対する要求事項とATC方式の選定 50

(3)

3.2.1 つくばエクスプレス線の概要 50

3.2.2 信号設備に対する要求 50 3.2.3 ATC/TDの軌道回路方式と信号波数 51

3.2.4 ATCの必要情報量 51 3.2.5 ATC方式の選択 51 3.3 ATC・TDの妨害耐量 52

3.3.1 EMCに関する最近の状況 52 3.3.2 従来の交流き電区間での手法 52 3.3.3 従来の直流区間での手法 52 3.3.4 本線区での搬送周波数と伝送方式の選定 53

3.3.5 妨害波の経路 53 3.3.6 ATC/TDの妨害電流限度値 54

3.3.7 ATCの伝送帯域 54

3.4 起妨害電流の算出手法 55

3.4.1 交流き電区間での高調波電流 55 3.4.2 直流き電区間での高調波電流 59 3.5 ATC信号の搬送周波数と変調諸元の決定手法 60

3.5.1 ATC/TDの基本前提条件 60 3.5.2 ATC/TD信号の搬送波周波数の決定手法 60

3.6 実現したATC装置の機能と性能 63

3.6.1 ATC/TD伝送の主要諸元 63

3.6.2 ATC情報内容 63 3.6.3 実現した運転性能 64 3.6.4 ATC/TD装置の経済性 64

3.7 車両側への信号妨害許容値と試験方法の提示 65

3.7.1 妨害限度値と測定方法の提示 65 3.7.2 提示した妨害限度値と測定回路 65

3.8 実車走行試験 67

3.8.1 交流区間の車両高調波電流の実測 67

3.8.2 変電所での実測 69

3.9 まとめ 71

第4章 北陸新幹線のATC装置に対する異周波妨害対策法の開発 73

4.1 はじめに 73

4.2 ATC装置への異周波妨害 75 4.2.1 ATC装置の構成と機能 75 4.2.2 電源同期SSB方式のATC装置の耐妨害性 76

4.2.3 北陸新幹線での高調波発生量と妨害量 79

4.2.4 ATC装置の妨害電流限度値 79 4.2.5 異周波対策の検討手法 79

(4)

4.3.2 北陸新幹線での異周波妨害対策の基本回路 81

4.3.3 簡易モデルを用いた検討 81 4.3.4 全体き電回路シミュレーションによる検証 87

4.4 妨害電流の計算法 89

4.4.1 多線条回路網解析手法 89 4.4.2 き電回路計算の特徴 90 4.4.3 ATC地上装置に対する妨害量の算出 91

4.4.4 ATC車上装置に対する妨害電流の算出 92

4.5 実設備を用いた現地試験による評価 94

4.5.1 試験の目的と方法 94 4.5.2 各部電流・電圧の実測値と計算値の比較 94

4.5.3 妨害電流の実測値と計算値の比較 97

4.5.4 本対策法の総合評価 98 4.5.5 実車試験の結果 98

4.6 まとめ 100

第5章 トンネルの電磁誘導における遮蔽効果 103

5.1 はじめに 103

5.2 新幹線での実測 104

5.2.1 新幹線車両を使用した実測 104 5.2.2 試験設備による実測(1)-設備が完成したトンネルでの試験- 107

5.2.3 試験設備による実測(2)-トンネル単独での試験- 109

5.3 数値計算による解析 111

5.3.1 き電回路の数値計算法 111 5.3.2 トンネル遮蔽効果の過去の検討例 111

5.3.3 支保工等をモデル化した誘導予測計算 112

5.3.4 支保工接地抵抗等の実測と解析 115

5.4 トンネルの遮蔽効果 118

5.4.1 トンネル遮蔽効果の従来の適用法 118 5.4.2 簡易式の適用が出来ない実例 119 5.4.3 トンネルの遮蔽効果の検討 119

5.5 まとめ 123

第6章 高架橋の電磁誘導における遮蔽効果 125

6.1 はじめに 125

6.2 高架橋の遮蔽効果 126

6.2.1 交流き電回路での誘導障害 126

6.2.2 接地導体の遮蔽効果 126

(5)

6.2.3 高架橋遮蔽効果の過去の検討 128 6.2.4 高架橋遮蔽効果の検討手法 128

6.3 建設途上の新幹線高架橋を用いた実測 130

6.3.1 新幹線高架橋を用いた遮蔽効果の実測 130

6.3.2 試験結果 131 6.3.3 実測結果に対する予備的な考察 132

6.3.4 高架橋の接地抵抗と接続抵抗の実測 132

6.4 数値計算による高架橋遮蔽効果の解析 134

6.4.1 大地帰路回路の数値計算 134 6.4.2 高架橋のモデル化の基本構成 134 6.4.3 高架橋接地抵抗と高架橋接続抵抗の遮蔽効果への影響 137

6.5 高架橋基礎の接地抵抗 139

6.5.1 高架橋基礎の接地抵抗の解析 139 6.5.2 高架橋基礎杭の接地抵抗の実測と解析 140

6.6 高架橋遮蔽効果の検証 142

6.6.1 高架橋遮蔽効果実測結果の検証手順 142

6.6.2 供試高架橋の等価導体化 142 6.6.3 実測値と計算値の比較 143 6.6.4 供試高架橋の遮蔽効果 145 6.6.5 標準高架橋と供試高架橋との比較 146

6.7 まとめ 148

第7章 結論 151

7.1 研究成果の要約 151

7.2 今後の課題 154

謝辞 155

参考文献 157

研究業績 163

(6)

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000

S50 55 60 H4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

合計 JR 民鉄

(件)

(年度)

図1.1 運転事故統計

Fig. 1.1. Transition of the number of railway accidents.

第 1 章 序論

1.1 研究の背景

1.1.1 鉄道を取り巻く環境と鉄道の社会的意義

近年,地球温暖化防止の環境問題を背景に鉄道の利用率と輸送効率向上の期待が高まっ ている。新幹線は,都市間輸送を担う高速輸送機関であり,都市圏における在来線は,通 勤・通学のための高密度大量輸送を担っている。海外においても,欧州各国では高速鉄道 の建設が着実に進められ,アジアでも台湾新幹線が開業し,中国においても高速鉄道の建 設と在来線の高速化が大規模に進められている。さらに,経済成長が著しいアジア各国を 中心に多数の都市内鉄道計画が進められている。このように,国内のみならず世界各国で 鉄道の需要は拡大している。さらに,鉄道は自動車や航空機に比較してエネルギー効率が 良く,輸送部門での利用向上により二酸化炭素排出の削減が期待されている。より一層の 利用向上には,高速化と運転頻度の向上による利便性の向上が必要である。

鉄道の利用拡大が,環境への負荷低減に有効だとしても,安全で安定した輸送を実現す ることが重要である。図1.1に1975年以降の運転事故(乗客・乗員の死傷および物的損害 が発生した列車運転に起因する事故)件数の変化を示す。運転事故は30年間で 1/4に減少 しているが,最近10年間で見ればその減少割合は低下し,一定件数が発生する状態が続い ている。図 1.2に運転事故原因を示す。事故原因の大部分は踏切障害(43.2[%])と線路内 立入り等に起因する人身障害(45.1[%])で占めているが,鉄道事業者内部に原因があると 考えられる列車衝突と列車脱線等の列車事故(2.2[%])も存在する[1.1]。

1987年の国鉄民営化後の重大事故としては,信楽高原鐵道列車衝突事故(1991年5月,

死傷者数656名(死者42名))と福知山線列車脱線事故(2005年4月,死傷者数669名(死 者 107名))が発生したが,両事故は後世まで永く伝えられる歴史的規模の事故である。両

(7)

道路障害 72件 8.5%

ホームから転落 56件 6.6%

ホーム上で接触 105件 12.4%

物損 8件0.9%

列車事故 列車衝突 3件 19件 列車脱線 14件 2.2% 列車火災 2件 その他

17件 2.0%

踏切障害 367件

43.2%

線路内立入 205件 24.1%

総件数

人身障害 849件

383件 45.1%

図1.2 事故種類別の運転事故発生状況(JR(在来線+新幹線)+民鉄(鉄道+軌道)) Fig. 1.2. Phenomena of railway accidents (JR and private railway).

事故は,一方は小規模な第三セクター鉄道事業者,他方は国内第2位の規模を誇る旅客鉄 道事業者と,著しく異なった規模の鉄道事業者であるが,直接の原因は前者にあっては信 号装置故障時の代用閉そく施行に係る手続違反,後者は曲線制限速度超過であり,両者と も運転従事者の運転取扱い誤りに起因している。両事故は,大きな社会的反響だけでなく 鉄道関係者には大きな衝撃を与えた。こうした運転取り扱いの誤りが巨大な事故に容易に 繋がらない設備であることが強く望まれる。信楽高原鐵道列車衝突事故においては,信号 設備の不備が原因で,進路制御取扱い時に特定の状態となったときに,出発信号機が停止 現示の赤ままとなった。このため,信号機の故障等の場合に,列車を運行させる方法であ る代用閉そくの施行により,列車を出発させた。この場合,対向する出発信号機を赤にし,

対向列車の出発を抑止させることが絶対の必要条件であるにも関わらず,これを行わない で列車運行を行ったために,列車の正面衝突が発生した。[1.2]。出発信号機が正常に機能 するように信号設備が設備されていれば,このような事故には繋がらなかったと考えられ る。また,福知山線列車脱線事故では運転士が制限速度を大幅に超え曲線区間に進入した ことが直接の原因である[1.3]。列車速度を自動的に曲線制限速度以下に制御する機能は,

既に各種方式が実用化している。当該箇所にこうした設備が設けられていれば,この事故 は防げたと考えられる。

鉄道における安全の確保とは,乗客・乗務員の死傷者や第三者の財産に損害を発生させ ないことである。鉄道における信頼性確保とは,列車ダイヤの乱れ等の安定輸送の阻害事 象を発生させないことである。鉄道運行の安全性と信頼性の向上することが鉄道システム に求められる要求であり,交通機関として第一義的に考慮しなければならないものと考え る。

(8)

TR

電池 リレー

列車

車軸 R G

TR

レール

レール 信号機

図1.3 軌道回路原理 Fig. 1.3. Principle of track circuit.

1.1.2 鉄道信号システムの使命と構成装置の歴史的変遷

(1)初期鉄道の信号装置

鉄道の実用化は1825年にEnglandのNew Stockton & Darlingtonにおける蒸気機関車によ る営業用貨物輸送に始まり,1830年 Liverpool Manchester 鉄道が営業用旅客輸送を開始し たことに始まると言われている。初期の列車運転の安全を確保するための信号装置は,電 磁現象を産業に利用する以前の19世紀であったため,機械構造による方式が用いられてい た。信号機は機械式の腕木信号機であり,腕木の傾斜角度で信号を表し,夜間の確認のた めには,腕木信号機の腕木下部に色レンズを設け,この後方に石油ランプを置き,この灯 火により信号現示を確認していた。閉そく方式に至っては隣接駅との連絡手段がないため,

時間間隔法が用いられていた。これは,先発列車が発車した後,一定時分が経過後に続行 列車を発車させ,列車追突を防止する方式であった。駅での進路制御を司る連動装置も,

連動連鎖は切込みを設けた複数の金属棒(駒(Dog))の嵌め合いの組合せで,特定の組み 合わせのみ取扱えるようにした機械機構により鎖錠する方式であった。こうした方式は,

機械連動装置と呼ばれ,今日でも古い設備には使用されている。

1837年にモールスによる電信機が発表され,この電信機を使用して両駅間で打ち合わせ て,駅間には1本の列車しか存在させないことにより,列車運転の安全を確保する空間間 隔法による閉そく法が採用された。

鉄道信号における電磁利用として大きな進展は,米国のウイリアム・ロビンソンが1870 年に開電路式の軌道回路を発明し,これを発展させた閉電路式の軌道回路を1872年に発明 したことである[1.4]。この軌道回路の発明により,列車の存在を検知する列車検知機能が 実現された。軌道回路の原理は,図 1.3 に示すように電気的に区分した線路の一端の左右 のレールに電池を接続し,他端の左右のレールにはリレーを接続する。区間内に列車が存 在しない場合には励磁電流がリレーに流れ,リレーは動作する。区間内に列車が存在する と,列車の両車輪間の車軸は低抵抗であるので,左右のレールは車軸により短絡され,リ レーには励磁電流が流れずにリレーは復旧する。この列車検知に使用されるリレーは特に 軌道リレーと呼ばれる。軌道リレーの動作接点により信号機に進行現示を点灯し,復旧接 点により停止現示を点灯する信号機の灯制御回路を構成する。この回路では電源からの電

(9)

流はレールおよびリレーによる閉回路を構成しているので,閉回路式軌道回路と呼ばれる。

閉回路式の軌道回路の特長は,回路を構成する各素子の機能が低下もしくは喪失した時に は,列車を停止させる状態に遷移することである。すなわち,軌道回路の送電用電源の出 力低下,レールとの接続線の断線または短絡,レールの破断,軌道リレーのコイル断線等 の故障時には軌道リレーは復旧側に動作し,信号機は進行(G)から停止(R)の点灯に動 作する。このように,軌道回路には当初から安全性に配慮した構成方法を採用していた。

軌道回路の実現により,列車間隔制御での閉そく機能のための列車検知が可能となった。

また,連動機能においては転てつ機区間に列車在線中の転てつ機の転換鎖錠と,列車が目 的地点に到着するまで,進路を鎖錠する進路鎖錠を機械式または扱者の目視確認に換えて,

これを自動化し,扱い者の誤扱いや機械部分の磨耗による誤動作による事故の防止が可能 となり,列車運転の安全性が高まった。

(2)日本の初期における鉄道信号装置

日本における最初の鉄道は,1872年に新橋・横浜間に開業した。その時の信号設備とし て,相図柱(セマホヲル)が設備されている。相図柱は今日でいう腕木式信号機(Semaphore)

の一種で,場内信号機と遠方信号機の2種が各駅に設備されていた。その現示(信号の表 示)は,無難,注意,危害の三種であり,駅への進入について列車に指示するものであっ た[1.5]。この相図柱の現示により,駅構内へ列車が進入時の列車衝突を防止していた。こ の現示は,今日の色灯信号機の進行,注意,停止に相当する。一方,列車を出発させる場 合は,隣接する相互の駅で電信機により打合せを行い,駅長が直接列車に出発を指示して いた。したがって,今日でいう出発信号機は存在しなかった。日本における信号設備の原 形は,この相図柱と電信機である。日本の初期の鉄道は英国の技術により建設されたので,

当初は英国式の設備と運転方式が採用されていたが,その後,米国,ドイツ等の世界各国 の技術が導入されるとともに,国産化され,1930年代にはほぼ全て国産品により設備の構 築が可能となった。運転方式も英国式から輸入した方式から,各国方式の利点を組合わせ た日本独自の方式に変化した。

日本の鉄道の大きな転換点になったのは,1906年に鉄道国有法が公布され,これまで官 営鉄道と私鉄が並存していたものを,主要幹線の私鉄 17社を買収し,国有鉄道が発足した ことである。国有鉄道化により全国的な組織,統一的な規定の整備が進み,これ以降,運 転設備と運転取り扱いも全国的統一がなされた。

信号設備は,列車衝突を防ぐための列車間隔制御機能と,駅等での複数の線路への分岐 および集合のために分岐器が設備されている箇所での,所定の進路を確保し,列車間の衝 突を防ぐための列車進路制御機能とに大別される。

1.1.3 列車間隔制御

鉄道の運転取扱いでは,複線区間の運転方向が定まっている駅間に列車を同一方向に出 発させる場合,英国方式では,隣接する駅の駅長が打合せて,駅間に列車が存在しないこ とを確認し,列車に出発を指示する。即ち,図1.4(a)に示すように,駅間には1個列車 しか存在させない駅間1閉そくである。このため,先行A列車がY駅に到着しない限り,

次 B列車は出発できない。列車本数の増加には駅の増設が必要となる。一方,米国方式で は駅間を複数の閉そく区間に分割し,それぞれの区間の始端に閉そく信号機を設けるので,

(10)

閉そく区間数だけの列車を続行して出発させることが可能となり,運転頻度の増加が可能 である。図1.4(b)では,駅間閉そくを 3区間に分割し,閉そく信号機を2機構建植して あるので,A列車が出発後にB列車を出発させ,さらにC列車も出発させることが可能で ある。この方式の実現のためには,閉そく区間ごとに列車の存在を検知する列車検知機能 が必要で,列車検知機能は1872年に米国で発明された軌道回路が使用される。つまり,列 車が閉そく区間に進入すると,これを軌道回路により検知し,信号機を自動的に停止現示 に切り替えることにより,閉そく区間内にただ1本の列車しか存在させない。

初期の信号機は図 1.4 に示す,腕木の形および傾斜角度(水平,斜向)により信号の種

X 駅 Y 駅

場内信号機 遠方信号機

B列車 A列車

(a)英国式列車間隔確保法

(a)UK type.

X 駅 Y 駅

場内信号機 遠方信号機 閉そく信号機

閉そく信号機 出発信号機

B列車 A列車 C列車

(b)米国式列車間隔確保法

(b)USA type.

図1.4 英国式と米国式の列車間隔制御方式 Fig. 1.4. Typical types of block system.

G Y R

G Y R Y

G Y R Y Y

R:停止

YG:減速

YY:警戒

(a) 三位式三現示 (b) 三位式四現示 (c) 三位式五現示

G:進行

Y:注意

G:進行 Y:注意

R:停止 YG:減速

G:進行 Y:注意 R:停止

図1.5 色灯信号機の灯配列と現示 Fig. 1.5. Lights arrangement and possible aspects.

(11)

Y

R

(下1T)

TR DR

TR DR TR

DR

TR

GY

R

TR DR

下2信号機 TR

TR TR

TR

GY

R

下3信号機

G

下4信号機 DR

TR DR TR DR

(下2T) 列車

(下3T)

(下4T)

GY

R

TR DR

下1信号機 軌道リレー

前方条件リレー 軌道リレー

前方条件リレー 軌道リレー

前方条件リレー

図1.6 信号機の制御

Fig. 1.6. Signal aspect control circuit.

別を現示する腕木信号機であったが,電池および電球の発明により,電球による色灯信号 機に替わった。現在使用されている色灯信号機は,図 1.5 に示すものが大半である。一般 の箇所では図1.5(a)の三位式三現示色灯信号機が使用され,必要に応じて図1.5(b)の 減速現示付の三位式四現示色灯信号機や図 1.5(c)の警戒および減速現示付の三位式五現 示色灯信号機が使用される。図1.5(b)および(c)に示すYGおよびYYと表記した現示 は,2灯を同時に点灯させるもので,通常,電球は単独点灯のG灯およびY灯と共用され る。各現示は前方の区間の状態を示しており,停止(R)現示の場合は内方に列車があり,

注意(Y)現示の場合は,内方の区間には列車はなしだが,さらに1区間内方に列車あり,

進行(G)現示の場合は,内方 2 区間が開通しており,制限なしに進行できることを示し ている。また,各現示にはその信号機を超えて進行できる速度が線区ごとに定められ,先 行列車への衝突を未然に防止し,安全を確保している。しかし,この指示速度の指定だけ では,乗務員の意識喪失等の場合には衝突を防止できない。

具体的な信号機の灯制御方法を図 1.6 に示す。線路沿線の信号機の建植位置には,信号 灯制御用リレーと列車検知用軌道回路電源および軌道リレーを収容する信号制御ユニット が設置される。また,レールには信号機建植位置に合わせてレール絶縁が挿入される。下 1 信号機の箇所では軌道回路(下2T)の電源が左右のレールに電圧が加圧している。下2 信号機箇所では軌道リレー(TR:Track rely)が左右のレールに接続されている。列車は軌 道回路(下2T)に在線しているので,列車の車軸により左右のレールが短絡され,軌道リ レーにはリレーを動作させるのに必要な電流は流れないので,軌道リレーは復旧している

(下 2の TRの右側に↓が記載されているが,これはリレーが復旧していることを示す)。

下 2信号機の灯制御回路ではTRが復旧しているのでR(停止)灯が点灯している。

下 3 信号機の箇所にも下 2 信号機と同様な設備がなされている。下 3T の軌道回路には 列車が存在していないので TR は動作している(下 2 の TR の右側に↑が記載されている が,これはリレーが動作していることを示す)。さらに,下 2 信号機箇所には当該箇所の TR動作を後方の信号機の伝えるためにTRの動作接点を介してその条件を送っている。こ の下 3信号機箇所の前方条件リレー(DR)は,下2Tに列車が在線しているために復旧し ている。下3信号機の灯回路では,TR動作,DR復旧であるためY(注意)灯が点灯して

(12)

いる。

下 4信号機箇所では,下4Tと下3Tに列車が存在していないのでTRと DRが共に動作 しているので,下4信号機はG(進行)が点灯している。このような信号装置の構成によ り,列車の進行に合わせて自動閉そく信号機の灯回路は制御される。なお,信号関係者間 では,リレーの動作接点については扛上接点,復旧接点を落下接点と呼ぶ。これは,信号 リレーの原型が,重力を利用した接点の上下動作形リレーに由来し,動作接点は上側に,

復旧接点は下側に動作することから,現在でもリレー接点の名称として使用されている。

1.1.4 ATSとATC装置

軌道回路と信号機により,列車の間隔列車を制御し安全を確保していたが,列車を停止 させるのは,あくまで信号機の現示に従った乗務員のブレーキ操作に依存していた。その 後の列車運転速度の高速化と高密度化の過程で,列車の衝突事故が多発したことから,続 行列車を停止信号機の前までに自動的に停止させるために,自動列車停止装置(ATS: Automatic Train Stop equipment)や列車速度を自動制御する自動列車制御装置(ATC:

Automatic Train Control equipment)が開発された。

(1)ATS

日本で最初に ATS を導入した線区は地下鉄銀座線(上野・浅草間,2.2[km],1927 年開 業)であり,このATSは機械式であった。この方式は,信号機が進行を示す現示の場合は,

信号機の直前のレール近傍に設けた梃子(トリップアーム)を水平の状態として列車の運 転には影響を与えない。信号機が停止現示の場合には梃子を垂直の状態に制御し,列車が 誤って停止区間に進入すると,垂直となった梃子が車両のタッチレバーに接触して,ブレ ーキ管の空気圧を排気して低下させ,これにより非常制動を制御する方式であり,打子式 と称された。東京,大阪の地下鉄に1960年代までに建設された路線に導入され,東京地下 鉄の銀座線および丸の内線では1990年代まで使用されていた。

旧国鉄では,1950年代には一部の過密線区に列車が停止現示に接近すると,運転台に警 報を発する車内警報器と称する装置が導入されていたが,他の大部分の路線には導入され ていなかった。ところが,貨物線と旅客貨物共用線の合流地点での場内信号機冒進を原因 とする列車二重衝突事故が発生した。常磐線三河島事故(1962年,死者160人,負傷者296 人)である。これを契機に,赤信号に接近すると車内に警報を発するとともに,その後確 認ボタンを一定時分以内に扱わないと非常ブレーキを自動的に制御する ATS-S 形の ATS が全国全線で導入された。1964 年から 1968 年にかけて民鉄線でも重大事故が多発したた め,民鉄線においても旧運輸省の通達により,ATSが高密度線区から順次整備された。

ATS-S 形の動作は,図1.7 に示すように,停止現示の信号機から制御されるATS-S地上

子は,停止信号機に接近する当該列車が地上子上を通過する時に,車上のATS-S受信器に 停止現示であることを伝送する。ATS-S 受信器は直ちに音と発光により乗務員に警報を発 する。乗務員が5秒以内に確認ボタンを圧下し,ブレーキを扱えば,何ら動作を行わない が,5 秒以内に確認ボタンを圧下しなければ,直ちに非常ブレーキが動作し,停止現示の 信号機の手前に列車は停止する。

国鉄在来線ではATS-S等を導入した結果,信号冒進に起因する列車衝突等が,一旦は減 少したが,その後,再び列車衝突事故が増加する傾向が現れ,過密線区を中心に重大な列

(13)

先行列車

列車速度

0km/h 運転最高速度

5sec

警報鳴動開始 非常制動開始

列車停止

当該列車 ATS-S地上子

列車運転軌跡

停止現示

図 1.7 ATS-S形の動作原理

Fig. 1.7. Train protection principle of ATS-S.

停止現示 先行列車

車速度

0km/h 運転最高速度

警報鳴動開始

常用ブレーキ制動開始

列車停止

当該列車地上子1(600m)

信号制御 ユニット 符号処

理器

地上子2(180m) 地上子3(30m)

ブレーキ自動緩解 走行パターン

実際の列車運転軌跡

図 1.8 ATS-P形の動作原理

Fig. 1.8. Train protection principle of ATS-P.

車衝突事故が発生した。この原因は,ATS動作時の確認動作を行った後の乗務員の注意力 のみによる運転中に運転取り扱いを誤るものであり,ATS-S では防護されていない領域で の事故であった。このため,後述するように,特に高過密運転線区である山手線および京 浜東北線に ATS-Sより安全性が高い車内信号方式の ATCが導入された。しかし,ATC 方 式は導入コストが高く,国鉄時代には特定の線区に導入されただけで,他の高密度線区に は拡大導入されなかった。

JR 化後に乗客死亡を伴う中央線東中野列車衝突事故(1988 年)が発生した。この事故

原因も,ATS-Sとその機能が同一のATS-Bの確認操作後,その停止機能が喪失される時に,

運転操縦を誤ることに起因するものであった。このため,警報後の確認操作が不要で,連 続的に速度照査を行う新たなATSとしてATS-P形が,高過密度運転線区に導入することと なった。図 1.8 に ATS-P の動作概要を示す。各信号機の外方には,ATS-P 地上子(TP:

Transponder)が信号機から600[m],180[m]および30[m]の位置に標準的に3個設備される。

各信号機に対応して符号処理機(EC:Encoder)が設備される。ECには,予め現示条件に 対応した停止位置情報(停止現示信号機までの距離等)が記憶されている。列車が停止現

(14)

先行列車

30 210 160

常用ブレーキ動作

列車停止 210

160

30 0

速度km/h

当該列車

ATC信号 160 160 110

110

列車の実際の運転軌跡

D2 D1 D3

D4 D5

D6 D7

ATC防護速度段 常用ブレーキ緩解

常用ブレーキ動作 常用ブレーキ緩解

常用ブレーキ動作

図1.9 新幹線ATCの動作原理

Fig. 1.9. Train control profile of SHINKANSEN ATC (multi step braking).

示の信号機に近づくと,信号機から600[m]離れた位置にある地上子1から停止信号機まで の距離および線路勾配等の情報をATS-P車上受信器が受信する。車上装置は,この情報か ら停止位置までの走行パターンを作成し,列車の車軸に取付けた速度発電器から列車速度 と走行距離を算出して,走行パターンを常時比較する。走行パターンに列車が近づくと,

運転台に設けた車内表示器が点灯するとともに警報を発生する。列車がなお減速せずに,

列車速度が走行パターンを超えると,自動的にブレーキが作用する。列車速度が低下し,

走行パターン以下の速度になったならば,ブレーキは自動緩解する。乗務員は,走行パタ ーン以下で走行している場合は,何ら警報等は受けない。地上子は通常3個設けられるが,

これは走行パターンの精度を確保するためと,信号機の現示が先行列車の進行等により停 止現示から注意現示または進行現示に変化した場合に,走行パターンを更新するために設 備される。また,曲線や分岐器速度制限のように信号現示と関係しない速度制限に対して は,曲線用および分岐器用の専用地上子が設備される。この場合の情報は,速度制限区間 の制限速度,制限区間長が伝送される。ATS-P 形は,ATS-S に比較して,速度を連続的に 照査している点,乗務員の確認扱が不要な点等により,乗務員の注意力だけに頼る確率が 少なくなったために格段に高い安全性を有している。この方式は,JR東日本の首都圏およ び JR西日本の関西圏の高密度線区を中心に整備が進められている。

(2)新幹線ATC

国鉄における ATC は,新幹線に最初に導入された。東海道新幹線(東京・新大阪間,

515.4[km],1964年開業)は,在来線の運転最高速度が100[km/h]前後であった時期に,そ

の約 2倍の 200k[m/h]を運転最高速度として計画された。新幹線の高速性から,地上信号機

による乗務員の目視確認運転は困難である。レールを伝送路として軌道回路に1,000[Hz]

帯の音声周波数(AF:Audio Frequency)を搬送波として6種類の速度信号波を伝送し,車 内の運転台に車内信号を現示する方式を設備した。ATC地上装置は,先行列車の位置等の 条件に基づいて作成される信号波をレールに伝送する。車上 ATC装置では,この ATC信 号を左右のレール直上に設けた受電器(ピックアップコイル)によりレール電流を電磁結 合により誘起させ,この電圧を受信復調して,車内信号機に現示する。さらに,自列車速 度を車軸に設けた速度発電器で得てATC速度信号と比較して速度超過している場合は,自 動的にブレーキを制御する方式である。新幹線の ATC 方式における列車運転の概要を図 1.9に示す。列車がD6区間に進入するとこれまで受けていた210信号から160信号に変化

(15)

先行列車 常用ブレーキ動作

常用ブレーキ弱め動作

列車停止 210

160

30 0

速度km/h

当該列車

ATC信号(自位置,停止位置)

D1 D2 D3 D4 D5 D6 D7 D8 D9

D2,D2 D3,D2 D4,D2 D5,D2 D6,D2 D7,D2 D8,D2 D9,D2 260

ブレーキパターン

列車の実際の運転軌跡

D1,X 常用ブレーキ強め動作

図1.10 新幹線車上主体型一段ATCの動作原理

Fig. 1.10. Train control profile of SHINKANSEN ATC (assured braking).

する。それまで列車速度は205[km/h]前後で走行していたが,照査速度が160[km/h]となっ たために自動的にブレーキ指令が出力され,列車速度は 160 信号の最終区間である D4 区

間内で 160[km/h]以下となる。ブレーキ指令は停止されブレーキは自動緩解し,列車速度は

一定となる。さらに,D3区間に進入すると110信号を受け,再度自動的にブレーキ指令が 出力され,同様な制御が繰返されD2区間で最終的な30信号を受け,列車は先行列車の後 方区間で停止する。新幹線での運転は,乗務員は速度低下させるときは何ら操作を行わず に,制御装置のブレーキ指令により速度低下させる。乗務員がブレーキ操作を行うのは,

駅での列車位置の最終調整を行うために30[km/h]以下の速度になった場合と,異常時の対 応により列車を停止させる場合だけである。新幹線の ATC方式は,その後開業した山陽新 幹線(新大阪・岡山間 160.9[km],1972年開業,岡山・博多間 553.7[km],1975年開業),

東北新幹線(大宮・盛岡間505[km],1982年開業,東京・大宮間30.3[km],1991年開業),

上越新幹線(大宮・新潟間 303.6[km],1982年開業),北陸新幹線(高崎・長野間117.4[km], 1997年開業)と順次建設され,各線区では安全性と信頼性の向上のための各種改良が行わ れたが,速度信号を車上に伝送する基本方式は継続された。

2002年12月に開業した東北新幹線(盛岡・八戸間,96.6[km])では,これまでの速度信 号に替わり,停止すべき列車位置を伝送する方式に変更した。これまでの速度信号が変化 する区間ごとにブレーキが掛かり,これが一旦緩解した後に,再度新たな区間でブレーキ が掛かる多段ブレーキ動作から,滑らかな曲線に沿って停止する一段ブレーキに替えた。

到達時間の短縮と乗り心地の改善を図った車上主体型と称するディジタル符号伝送による 一段 ATC である。図 1.10 に車上主体形の一段ATC 方式の動作原理を示す。当該列車は,

ATC 信号として止まるべき区間(D2)および自区間(D7)を含む情報を受けて,車上の ATC論理部に保有するデーベースとこれらの情報から,停止区間を終点とするブレーキパ ターンを選択する一方,自列車の位置を区間境界および特定点に設備される地点情報と速 度発電器からの速度情報から算出し,自列車速度とブレーキパターンを照査し,列車がブ レーキパターンに沿って減速するようブレーキ指令を行う。このATCでは 1.5[kHz]前後の

(16)

先行列車

01

65

常用ブレーキ手動動作 常用ブレーキ手動緩解

列車停止 90

65

0

速度km/h

当該列車

ATC信号 90 45

45

列車の実際の運転軌跡

90 90

ATCの防護速度段 常用ブレーキ手動動作

常用ブレーキ手動緩解 常用ブレーキ手動動作

D1 D2

D3 D5 D4

D7 D6

図1.11 在来線ATCの動作原理

Fig. 1.11. Train control profile of ATC for commuter lines (multi step braking).

AF帯を搬送周波数とし,MSK(Minimum Shift Keying)変調によりディジタル符号を伝送 する方式が採用され,伝送情報量を大幅に拡大することにより新たな機能を実現した。従 来のアナログ伝送では20種類程度しか情報を伝送できなかったが,ディジタル符号伝送の 採用により 250≒1×1015程度の情報量を伝送可能となった。情報量の増加は,より高機能 な制御とともに安全性と信頼性の向上に寄与している。その後開業した九州新幹線(新八 代・鹿児島中央間,127[km],2004年開業)でも類似の方式が採用されている。

(3)在来線ATC

在来線で速度信号により列車を制御するATCが最初に使用されたのは,帝都高速度交通 営団(現東京地下鉄(株))日比谷線(北千住・中目黒間,20.3[km],全線開業 1964 年)

である。この方式は,3[kHz]前後の搬送波に100[Hz]以下の周波数をFS変調による速度信 号をレールを伝送路として車上に伝送する方式である。指示速度信号を列車速度が超えた ときには自動的にブレーキが掛かる方式は,新幹線のATCと同様である。初期の日比谷線,

東西線(中野・西船橋間30.8[km],全線開業1969年)では,従来と同様に,地上信号機が 建植されていたが,それ以降に建設される地下鉄線区では,信号を運転台に表示する車内 信号方式が採用されている。営団千代田線の建設に当たり,北千住以北は常磐線の線路増 設として国鉄が建設することとなったため,常磐線の運転保安方式は千代田線と統一した 車内信号方式の ATCが導入され,国鉄在来線として初めてATC が導入された。その後,

国鉄では,総武快速線および横須賀線地下ルートの建設に当たり,当ルートは地下トンネ ル区間で曲線半径が小さく勾配変更が多いため地上信号機の目視確認が困難なことと高密 度線区であるため,車内信号方式のATCが導入された。

一方,国鉄在来線ではATS-S等を導入した結果,信号冒進に起因する列車衝突等は減少 したが,過密線区を中心に重大な列車衝突事故が増加した。この原因は前述したようにATS 動作時の,確認動作を行った後に乗務員の注意力のみによる運転中の事故であり,ATS-S 等では防護されていない領域での事故であった。このため,特に高過密運転線区である山 手線および京浜東北線に ATS-S より安全性が高い車内信号方式の ATC が導入された。図 1.11 に山手・京浜東北線に導入された ATC 方式の概要を示す。ATC 信号には停止を示す 01 信号,速度信号である25~90信号が割当てられる。当該列車が D5~D7 区間を進行中 は,運転台の車内信号機には90信号が点灯し,90[km/h]以下での走行を許容している。D4 区間に進入すると,車内信号機は65を示すとともに現示変化があったことを示す警報ベル

(17)

先行列車

01 列車停止

90

速度km/h

ATC信号

D1

02 20

20 40 55 55 75 75 75 90 90 90

D2 D3 D4 D6 D5

D7 D9 D8

D10 D12 D11

D14D13

常用ブレーキ手動動作 80

70 60 50 40 30 20 10 0

ATCの防護速度段

列車の実際の運転軌跡

当該列車

図1.12 在来線一段ATCの動作原理

Fig. 1.12. Train control profile of ATC for commuter lines (assured braking).

が鳴動するので,乗務員は,直ちに手動でブレーキ手配を取り,列車速度を65[km/h]以下 まで低下させる。列車速度が 65[km/h]以下になればブレーキを手動で緩解し,さらに D3 区間に進入すると45信号に変わるので同様な取り扱いをし,D2区間で停止する。このよ うに,在来線では乗務員の手動ブレーキにより速度制御するのが原則であるが,乗務員の ブレーキ手配が遅れた場合には,ATC装置の速度照査によりブレーキ指令が自動的に出力 し,速度制御が行われる。ATCの導入により安全性は格段に向上し,列車衝突等の事故の 発生は大幅に減少した。

一方,東京圏の通勤線区の民鉄線区では,旅客数の増加から混雑率(乗客定員に対する 乗客数割合)が増加し乗客の受忍限度を超える200[%]もの路線が多数発生し,輸送力の増 強が望まれた。根本的な輸送力の増加には複々線化または新線建設が最善の解決法である が,複々線化には多額の設備投資と長期間の工事期間が必要となるため,緊急の課題とし て輸送力を増加する新たなATC方式の開発が行われた。その結果開発された方式が一段制 御 ATC方式である。この方式により,従来ATCの最小運転時隔 2 分 10秒(停車時間 50 秒)を 1分 50秒(停車時間50秒)に短縮可能となり,時間当たり輸送力を1.17倍程度に 増加可能となった。この一段ATC方式は,東京急行電鉄・田園都市線・新玉川線(渋谷・

長津田間,25.6[km])に従来の多段 ATC 方式を置換え 1991 年に導入された。その後,本 方式は,地下鉄線等の ATC 方式の標準として多数の線区に導入されている。図 1.12 に一 段 ATC方式の概要を示す。最小運転時隔の短縮には,駅近傍での列車検知単位(閉そく区 間)を従来の200[m]程度から50[m]程度の短小区間に区間分割するとともに,ATC速度信

号を5[km/h]刻みとしている。当該列車がD14~D12までは90信号を受け走行していたが,

D11区間に進入すると75信号を受けるので,ブレーキ制御を行うが75信号区間の最終区 間の D9区間でもまだ速度は 75[km/h]以上であり,D8 区間に進入するとさらに低い55 信 号を受ける。同様にD5区間では20信号をD3区間では01信号を受け,D3 区間で停止す る。このように一段ATC方式の特長は,速度信号が低下した区間の終端までには指示速度 以下に速度が低下せず,そのためブレーキの自動緩解が発生しないために,一段パターン での減速が可能となる。この,方式の実現のためには,ATC信号の種類を従来の十数種か ら 3倍以上の40種程度が必要となる。また,軌道回路の区間分割が必要となるので,ATC

(18)

送受信器数が増加し信号設備としての初期コストは増加する。しかし,最小運転時隔およ び駅間走行時分の短縮による輸送力の増加が図れるとともに,列車編成数と乗務員の削減 が可能となるので,総合コストを考慮すると経済的である。

1.1.5 列車進路制御

列車進路制御の機能としては,分岐器を設けた駅等で列車を所定の線路に到着させる場 合,途中にある分岐器を所定の方向に転換し,列車が到着するまでは,途中の分岐器を転 換させないよう保持することが必要である。また,駅構内を走行中に列車相互を衝突させ ないために,同一の到着線路に複数の列車を進入させないこと,衝突の恐れのある進路間 では同時に進路が構成されないことが必要である。このため,信号機相互間と信号機と分 岐器を転換させる転てつ機間には連動連鎖(Interlocking)機能が必要である。所定の地点 までの進路(Route)を構成するために,進路内の転てつ機を所定の方向に転換し,信号機 に進行を現示したならば,この進路に関係し支障する他の信号機は停止現示とし,列車が 通過するまで転てつ機は転換してはならない。こうした列車進路制御のための連動機能は,

連動装置により実現している。

信号機および転てつ機相互間の連動・連鎖関係は,連動図表により表現される。連動図 表は,信号機,転てつ機および軌道回路等との配置関係を示す図と,相互の連動・連鎖関 係を示す表部により構成される。図 1.13に連動図の概略を示す。この連動図は JR線の小 規模駅に多くある線路配線線形であり,上下本線のほかに特急列車が追い越す際,各駅停 車や貨物列車が退避する中線がある。ここで,下り場内信号機1RBは下り本線から中線(B) に列車を進入させる信号機で,1RB を進行にさせるには転てつ機 11 号を反位側(矢羽の 向きと反対側)に,12号は定位側(矢羽の向き側)に転換し,列車が中線に収容されるま で保持されなければならない。一方,上り場内信号機1LBは,上り本線から中線(B)に 列車を進入させる信号機である。1RBと1LBは同一線路に列車を進入させる信号機である から 1RB に進行を現示した場合は 1LB に進行を現示してはならない。両信号機間は連動 連鎖関係にある。また,1RBに進行を現示している場合には,この進路と競合関係にない 上り場内信号機1LC は自由に進行現示を点灯させなければならない。このような,信号 機と転てつ機の関係と信号機相互間の関係を表したものが図 1.14 に示す連動図表の表部 分である。連動に関係する信号機,転てつ機等の全ての関係設備が記載されている。

連動連鎖の基本的関係は,「鎖錠欄」に記載される。場内信号機 1RA の行では,鎖錠欄 には 11号転てつ機のみが記載されている。これは,1RAは11号転てつ機だけが定位に鎖 錠されることを示している。これに対して,同じく場内信号機 1RB の鎖錠欄には,11 が 丸で囲まれ,さらに 12 と 1LB と記載されているが,これは転てつ機 11 号は反位に,12 号は定位に鎖錠され,さらに場内信号機1LBも鎖錠され扱えないことを示している。

「信号制御又はてっ査鎖錠」欄は,信号機の行にあっては信号機の現示条件を示し,記 載のある軌道回路名称に列車が在線する場合には停止を現示することを示す。転てつ機の 行にあっては,てっ査鎖錠に関係する軌道回路名称を示し,その軌道回路内に列車が在線 中は転てつ機は鎖錠され転換できないことを示している。場内信号機1RAの行では「11T

1RAT」と記載されているが,これは11Tまたは1RATに列車が存在する場合には停止信号

を現示することを示している。また転てつ機の 11号の行には「11T」と記載を図示されて

(19)

11

12

13 21

22 23 1RA

1RB

1LC 1LB

下り本線

上り本線

下り本線 (A)

中線 (B)

上り本線 (C) 下りホーム

上りホーム 下り場内信号機

上り場内信号機 1RA

1RB 信号機

信号機名称

凡例 分岐器番号 分岐器定位側の表示

定位側方向

反位側方向 11

(11T) (1RAT)

(1RBT) (23T)

(13T) (1LCT) (21T)

(12T

) (22T

)

(11T)

軌道回路名称

図 1.13 連動図概要

Fig. 1.13. Example of interlocking diagram.

1RA

名 称 鎖 錠

11 12 1LB 11 1RB 下り場内信号機

同 上

1LC 1LB 上り場内信号機

同 上

21 21 22 1RB

番号 信号制御又は

てっ査鎖錠

11 12 21 22 X駅方-下り本線 X駅方-中線

進路鎖錠 接近鎖錠

Y駅方-上り本線 Y駅方-中線 転てつ器

同 上 同 上 同 上

11T 1RAT 11T 12T 1RBT 21T 1LCT 21T 22T 1RCT

(11T)

(11T 12T)

(21T)

(21T 22T)

11T 12T 21T 22T

(省略)

(-〃-)

(-〃-)

(-〃-)

図 1.14 連動表概要

Fig. 1.14. Example of interlocking table.

いる。これは,11Tに列車が在線している場合には11号転てつ機を転換させないよう鎖錠 することを示している。

「進路鎖錠」欄は,信号機から到着線までの途中の軌道回路名が記載され,記載の軌道 回路を列車が通過し終わらない間は当該進路が保持されていることを示している。すなわ ち,1RAの進路では11Tを列車が進入して,さらに進行して11Tの区間を抜けて,下り本 線に進入し切らなければ1RAの進路は解錠されないことを示している。最右欄は接近鎖錠 を示す欄である。この欄は一旦進路を構成し信号機に進行を現示した場合,その進路を何 らかの理由で取り消しても,一旦進行を確認して進行する列車は,直ちに止まれないこと から,一定時分その進路を保持する機能であるが,ここでは内容の記載を省略する。

このように,連動図表は駅における信号機・転てつ機相互間の連動・連鎖関係を明示す るもので,駅における運転取り扱いの基本を示すものである。さらに,信号設備の設計・

製作・試験に直接関与する基本的文書でもある。

(20)

列車間隔制御 閉そく装置 - 列車検知(軌道回路)

車内信号機 - 自動列車制御装置(ATC)

地上信号機 - 自動列車停止装置(ATS)

列車進路制御 連動装置 - 転てつ装置 - 列車検知(軌道回路) - 遠隔進路制御装置(CTC)

信号装置

図1.15 列車間隔制御と列車進路制御の関係 Fig. 1.15. Basic architecture of signalling system.

電磁利用の発展により,軌道回路の実現だけでなく,信号用リレーを用い電気結線で連 動・連鎖機能を実現する継電連動装置(Relay interlocking device)が1930年代に実現した。

継電連動装置の機能は,軌道回路による列車検知が基本となっている。一方,米国の大陸 横断鉄道等では,人口の少ない地帯を走行する長大線区が特長であり,欧州のような各駅 に運転取扱い要員を配置するのは困難であることから,1920年代から駅の進路制御を中央 の指令所から遠隔制御する列車集中制御装置(CTC:Centralized Traffic Control device)が 通信回線とリレーにより実現していた。

1950 年代に確立した日本における信号設備の基本構成は,図 1.15 に示すように列車間 隔を制御する装置と進路制御装置に大分類され,列車間隔制御は閉そく装置,列車検知,

信号機等のサブシステムにより構成される。また,列車進路制御は,連動装置,転てつ装 置,列車検知等のサブシステムにより構成される。

1.1.6 鉄道信号システムの構成と安全性確保手法

信号設備を構成する各装置には,正常時のみならず故障時においても安全性を確保する ための技術が特に求められる。鉄道分野における安全性の確保とは,乗客,鉄道従事員お よび第三者の生命および財産に損害を与えないことである。

鉄道における故障時の安全性確保(フェイルセーフ性:Fail-safe,以下FSと略)は,装 置故障時に,列車の速度を停止または制限側に動作させるように動作する機能を実現する ことである。一般の産業分野では,FSとはシステムに単にバックアップ系や多重系構成と することを指す場合もあるが,鉄道信号の場合とは同一ではない。これは,鉄道信号では,

列車が停止した状態が安全側との基本的思想に立脚しているからである。例えば,自動閉 そく信号機では,軌道回路により閉そく区間内に列車が存在せず,信号機に進行信号を現 示している場合に,軌道回路が故障したならば,信号機は停止信号を現示し,列車を停止 させるよう動作する。こうした FS 性は,特別に設計製作された信号用電磁リレー(以下 信号リレーと略)によって確保されていた。すなわち,信号リレーは高信頼度ばかりでは なく,故障時に動作接点(扛上接点)が構成されたままとなる確率を極低くなるように,

溶着しにくい接点材質,接点用ばね材料および構造に配慮し,故障時は動作接点が開放さ れ復旧接点(落下接点)が構成されるように設計製作されている。こうしたリレーをセイ フティリレー(Safety relay)またはバイタルリレー(Vital rely)と呼んでいる。継電連動 装置の電気結線も列車速度がより高く制御するには,動作接点により条件を構成する。こ

(21)

図1.16 信号システムの構成例

Fig. 1.16. Block diagram of signalling system.

のように,信号設備の FS 性は信号リレーの故障時の非対称性すなわち,動作接点が故障 する確率より復旧接点が故障する確率が圧倒的に高い信号リレーを使用して,その安全性 を確保している。信号リレーの故障時に動作接点が構成される確率は,復旧側の 1/100 以 下である。一般に信号リレーの故障率は,復旧接点側故障が 1×10-6~1×10-7[h-1]であり,

動作接点側故障は1×10-8~1×10-9[h-1]である。

信号設備を構成する各サブシステムは,それぞれ FS な構成として,それら装置を相互 に接続して信号設備を構成している。各サブシステムは FS なものであるので,装置全体 も FSなものとなる。したがって,信号設備は多層多重的にFSな装置が結合していると言 える。また,このことが信号装置を複雑な構成にしている原因の一つとなっている。図1.16 に近郊線区での地上信号機方式を採用した信号装置の各サブシステムとの結合状態の例を 示す。各駅に設備される信号システムは,連動装置が中核的設備となり,軌道回路による 列車検知機能,転てつ装置による転てつ機の転換と鎖錠,信号機の現示制御およびATS装 置等により構成される。進路制御は指令所から行われる。進路制御は,以下の順序で実行 される。

① 指令所で指令員が,予め定められている列車運行図表(列車ダイヤ)と列車位置に基 づき,各駅の進路の制御を取扱う。

② 進路制御情報は,CTC中央装置からCTC伝送回線を介してCTC駅装置に伝送される。

③ CTC駅装置は,連動装置に進路情報を伝達する。

(22)

④ 連動装置は,進路制御情報が,当該進路に支障する他の進路がすでに制御されていな いかを確認し,連鎖関係の支障進路がない場合は,関係する転てつ機を定められた方 向に転換する。また,軌道回路からの列車検知条件により,関係する区間に列車が在 線していないことを確認して,信号機に進行を現示する条件を信号装置に出力する。

⑤ 信号装置では連動装置からの進行現示条件により信号機等回路を制御して,進行現示 を点灯させる。

⑥ 列車の乗務員は,信号機の現示を目視で確認する。

⑦ 信号装置は,それぞれの信号機に付属するATS地上装置へ現示条件を出力し,車上装 置へ現示条件を伝送する。

⑧ ATS車上装置は,停止現示を受信した場合,乗務員のブレーキ手配を行わないか,も しくは遅れている場合に,列車を自動的に停止させる指令を出力する。

⑨ 転てつ機の開通方向,信号機の現示状態および列車検知状態等は,連動装置と CTC 駅装置を介してCTC中央装置に伝送さる。

⑩ CTC中央装置は,列車位置,各駅の信号機の動作状態等を指令所に設けた運行表示盤 に表示する。

この様な一連の信号システムの制御と表示により,列車の運行が行われている。列車の 安全を確保する機能は,連動装置とそれに接続される各サブシステムにより確保されてい る。また,多くの線区では指令所からの進路制御は,電子計算機による制御が主流となっ ており,ダイヤ変更時や運行乱れ時にのみ指令員が介入する方式が多数である。しかし,

それは,単にダイヤに基づいて手動操作していた指令員の操作を,電子計算機に置き換え たものであって,進路制御の伝達や各駅における進路制御の方法は同一である。

1.1.7 鉄道信号システムの信頼性確保手法

(1)信号設備に求められる信頼性

列車運行の高い安全性が確保されたとしても,信頼性が低く頻繁に故障しその機能を停 止するならば,列車運行の安定性に欠け,公共輸送機関としての使命を達成できない。鉄 道における信頼性とは,他産業分野と同様に「機器や設備が機能する確率」と定義されるが,

鉄道での機能の第1は,予定通り列車が運行されることである。安定的な列車運行を確保 するために,信号設備は必要な信頼性を確保する必要がある。信頼性を向上するには,装 置そのものの信頼性を向上する必要があり,そのためには使用する部品の信頼性の向上が 必要である。また,鉄道設備は線路沿線に線状に設備されるのが特長で,信号設備も線路 沿線の信号機建植箇所に設備されるだけでなく,線路に沿って布設されるケーブルにより 制御条件を伝送する場合や,軌道回路のようにレールに直接接続して制御条件を得るため,

外乱としての雷害やき電電圧の地絡等により信号装置に異常電圧が入力されることを考慮 する必要がある。また,車上装置や線路沿線の設備は列車走行に伴う振動が直接加わるた め,振動による信頼度の低下を考慮することが重要である。こうしたことから,信号装置 の機器設計に当たってはこれらの外乱の各要素についての充分な考慮が必要であり,一般 の産業用機器と比べて,厳しい環境における高い信頼性を確保するための設計手法が採用 されている。

(23)

(2)信頼性確保手法

1960年代までの信号設備は,主要構成部品である信号用リレーにより,その安全性と信 頼性を確保する手法が採用されていた。したがって,制御回路に多重系構成を採用するこ とが回路構成,寸法・形状から困難であるとともに,軌道回路のように検知対象のレール 自体が一重系であるため,装置の基本構成は一重系構成が採用され,装置を構成する各部 品個々の信頼性を向上する手法が採用されていた。特に制御の基本素子である信号用リレ ーの小形化と信頼度向上の開発がなされた。また,軌道回路に使用する部品もトランス,

抵抗器等の電磁部品が主体であったので,構成部品の設計に当たっては,電圧・電力・熱 等の容量に対して充分な余裕を持たせた設計手法を採用するとともに,短い保守周期での 点検と部品交換によりその機能の維持を図っていた。

1960年代以降には,交流電化が実用化され,信号分野にも真空管やトランジスタを用い た電子回路方式が使用され始めた。その後,ATCの実用化を契機に電子回路方式が主に使 用されるようになった。電子回路に使用される素子は故障時に短絡,開放またはその中間 の値のいずれかとなり,信号リレーのような故障状態の非対称性を有していないことから,

故障時に出力が低下する回路設計により FS な構成を採用してきた。しかし,電子回路で 構成した信号設備は,多数の電子部品で構成するため一定の信頼度を確保するには一重系 では困難であるため,二重系もしくは三重系の冗長系構成が採用されている。

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1.2 本研究の目的と概要

1.2.1 本研究の目的

鉄道における信号システムは,列車の衝突および脱線を防止する安全確保とともに列車 運転間隔を短縮させ線路の利用効率を向上させると言う,トレードオフの関係にある目的 を持っている。信号システムに適用する技術には,これらの目的を達成するために,その 時代の最先端の技術を導入して発展してきた。

一方,鉄道は,車両,施設,電気,運転等多くの系統の技術で構成されるとともに,実 際の運行に当たっては,多数の系統ごとの職員により運営されている。さらに,鉄道線路 および車両の初期投資コストに多額の費用が必要であり,新線建設線では例え通勤線区で あっても何らかの公的支援なしに運営コストとともに,建設コストを運賃収入だけで償還 するのは困難であることを近年開業した多くの線区が示している。したがって,信号シス テムの設計には,安全性,信頼性に加えてコストの低減について考慮しなければならない。

コストは,単に建設コストだけでなく運営・保全コストおよび廃棄コストを考慮したライ フサイクルコスト(LCC:Life Cycle Cost)としての低減に考慮し,信号システム以外の鉄 道を構成する設備および運営業務との協調を図ることが必要である。しかし,信号システ ムにとっての重要度は,

安全性:乗客等の生命,財産に損害を与えないこと 信頼性:定時列車運行の確保

経済性:初期コスト+運営コスト+廃棄コスト(=LCC)

の 3者を比較すれば,

安全性>信頼性>経済性

として考慮すべきである。すなわち,まず,第1に優先して考慮すべき事項は安全性であ り,必要な安全性を設定しこれを確保する方式を確立する。第2に考慮すべき事項は信頼 性であり,必要な信頼性を設定しこれを確保する方式を選択する。そして,これらの方式 を実現する手法の中で最も経済的な方式を選定する。

安全性については,新たな手法で安全性を確保する場合は,その安全性手法の評価を実 施し,システムの取扱におけるヒューマンエラーについても考慮する必要がある。特に,

乗客・鉄道従事員・第3者の人的および財産的損害を低減する方策を考慮することが重要 である。

信頼性についても,新たな手法を採用する場合には,信頼性評価を実施し,システムの 故障時に列車運転の阻害となる事象の発生確率を設定した許容値以下とする必要がある。

経済性については,単に初期投資コストだけでなく保全コスト,廃棄コストを含めた LCCの最小化を図るのが妥当である。また,信号システムは,車両,軌道およびき電等の 鉄道内の他システムと相互に影響を与えるので,信号システム以外のコスト増減要素も合 わせてコスト計算を実施するのが妥当である。

参照

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