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3. 巨大な福祉団体の役割と移民の自助団体の限界

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変わる移民政策 : ドイツの移民政策における自治 体と中間的組織 : 1990年代後半からの政策転換と

統合 から締め出される「事実上の定住者」

著者 久保山 亮

雑誌名 国立民族学博物館調査報告

巻 83

ページ 257‑278

発行年 2009‑03‑31

URL http://doi.org/10.15021/00001180

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ドイツの移民政策における自治体と中間的組織

1990 年代後半からの政策転換と 統合 から締め出される「事実上の定住者」

久保山 亮

1. はじめに

―進む統合政策の転換と置き去りにされる セカンド クラス の定住者たち

日本では,ドイツの地方・地域レベルでの移民政策に関してまとまった報告はこれ までなかった。そこで本章では,先進的な都市の施策の紹介ではなく,ドイツの平均 的な自治体での移民政策のありかたを,移民が最も多く居住してきた州の 1 つ,ノル トラインヴェストファーレン州を例に,著者によるミュンスター市(同州)での調査

(2007 年・継続中)をまじえ,ドイツの移民政策全体のなかに位置づけ,1 つ 1 つの アクターとその政策ネットワークに触れながら体系的に説明してみたい(2・4 節)1) そのうえで,ドイツの移民統合政策を担ってきた中間的組織の役割とそうしたシステ ムの他の諸国との比較(3 節),1990 年代後半から進んできた統合政策の変動と自治 体側の姿勢の変化に焦点をあてる(5 節)。

さらに,統合政策の対象から外され,忘れられている「事実上の定住者」たちの存 在(6 節)をとりあげる。私たちが先進諸国の移民政策や移民の定住を論じるとき, 古 典的な 合法移民(1950〜1970 年代初頭に来た労働移民とその家族)を対象としてい ることが多い。しかしドイツを初めとするヨーロッパの受け入れ諸国では,そうし た「古典的な移民」の法的地位の安定化や国籍取得制度の改善の一方で,主に難民か ら構成される法的地位の弱い定住者が増加することで,定住移民の間で,滞在資格や 権利享受で格差が広がっている(久保山 2003)。後者の人たちは,合法と非合法の境 界というべきグレーゾーンに置かれることで,滞在や就労が容易に「非合法化」しや すい状況にある(久保山 2007)。この人たちを「グレーゾーンの移民」と名づけてお くことにする。特に,冷戦終焉後,民族紛争の増加や体制変動による難民の増加と,

EUぐるみで進められた難民受け入れの制限,そして東欧諸国からの労働移動も加わ り,ドイツでは,グレーゾーンの移民と非合法移民とからなる「セカンドクラスの定 住者」の層が広がってきた。

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2. ドイツの移民政策

―権限を握る連邦・州に対して自治体行政の限界

ドイツの移民政策は,中央政府が政策の決定や予算・施策の管理を行い,それを地 方レベルにおろしてゆく集権的なシステム(例えば,フランスやスウェーデン)に対 して,州政府の存在や半官半民的な中間的組織(intermediary organizations)の介在に みられるような分権性の強いシステムに担われており,なかでも特異な点は,州政府 の権限の強さにある。連邦制をとるドイツでは,連邦政府は立法権の多くを握るが,

州にも連邦と競合しない範囲で大幅に立法権が認められているほか,連邦法の執行も 州が行い,その際に州政府はさらに独自の行政規則や指針を設けている。これらの点 は,移民政策でも同様である(久保山 2003)。連邦参議院や内務大臣会議を通じて,

州政府が結束して中央政府である連邦の方針をくつがえすことで,事実上の「拒否権 行使」を行うことも可能となっており,州政府の行動は,ドイツの移民政策のキーポ イントともいえる2)

ローカルレベルでも,自治体は,州が定める自治体法(Gemeindeordnung)の枠内で,

与えられた政策課題を執行するのが基本で,この点は,移民政策でも変わらない。移 民の社会統合で何が施策の柱となるかは,教育や社会サービスを含めた広義での福祉 国家制度の違いに左右される。賃金協定など労使関係に対する法的な保護と規制の強 さ,長期の安定就労に支えられる社会保険,伝統的な職業訓練制度,男性稼得者世帯 に照準を合わせた移転支出といった特徴をもつドイツの福祉国家制度のもとでは,移 民の社会統合は,若者の職業教育と労働市場への統合が鍵を握ると考えられており,

連邦の社会統合向け予算も,その多くが職業教育関連に振り向けられてきた。住宅市 場への政府介入の強いヨーロッパでは,住宅供給(セグリゲーションの防止など)も 社会統合の重要課題の 1 つとされる。しかしドイツの場合,前者は連邦の労働行政(労 働市場政策の専門機関)に,後者でも社会住宅や公社住宅の建設は連邦と州が担当し ており,大都市といえども,自治体が独自に社会住宅の建設を行う権限や予算はない。

日本でも知られている「外国人会議(Ausländerbeirat)」も,州が,自治体法で,メ ンバー選出方法・活動内容・権限などをかなり細かく定めている。ドイツの教育政策 はほぼ全面的に州の文部科学省が握っており,準備学級の設置や母語教育,宗教教育 の扱いなども州政府が枠組みや内容を決めている。自治体が行う統合政策上の措置 も,実際には,州政府が企画・統括するプログラムや枠組の一環として行われる(州 政府からおろされたプロジェクト)のが通常で,それも中間的組織に委託されること が多い。

しかも,統合政策や移民に対する施策でも,州政府(州の政権の構成)の政治的意 向に左右されやすい傾向がある。典型的な例として,母語教育の推進,帰国を前提と

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した統合政策か,積極的にドイツ社会への参加を目指す政策か,国籍取得者の率,送 還者の数などで,州政権が保守政権か,社会民主党(以下SPDと略す)・緑の党の参 加する政権かで,違いが出てくる。統合政策を担当する部局も,リベラルな州(ノル トラインヴェストファーレン州,ブレーメン都市州など)では社会(労働)省や家族・

青少年省が,保守的な州(バーデンビュルテンベルク州など)では,内務省に置かれ ている。入国管理を主たる任務とする内務省よりも,住民への社会政策を担当する省 庁のほうが,定住化を肯定的に捉え,統合政策に積極的に取り組むことになる。ドイ ツでは,査証から滞在資格への切り替えや滞在資格の延長は,自治体の外国人局が行 うが,実際には州の内務行政の出先として,州内務省の統率と指揮に従って行うため,

自治体それ自体―リベラルな市長がいる,あるいはSPDと緑の党が市議会をおさえ ているにしても―としての影響力行使はほぼ不可能となっている。

こうした事情のもと,ドイツでは,一部の大都市を除き,自治体行政がとれる政策 には限界があるいう見方が多く,自治体の移民政策に関する研究や調査も非常に少な い。これに対して,ローカルな意味で重要な役割を果たしているのは,むしろ中間的 組織,なかでも巨大な予算・人員・組織規模をもつ全国ネットの福祉団体である。

3. 巨大な福祉団体の役割と移民の自助団体の限界

―ドイツの特異なシステム

ドイツの政治システムでは,国家と民間の間に,幅広く 半官半民的 な中間領域 が広がっている。公共政策の多くの分野で,国家が,①準公的な地位を認め,全国的 な組織として集権化された既存の中間的組織に多くの業務や権限を委託し(プロジェ クトの委託や補助金の交付),②また政策決定や行政内の協議に参加させてきた。特 に,労組・教会・五大福祉団体などがそれにあたる。特に五大福祉団体は,他の諸国 であれば行政が直接担うような各種の社会サービス(例えば高齢者や障害者のケアや 介護,社会教育,それらの施設建設と運営,救急サービスなど)を,連邦と州の委託 により,地域レベルで供給してきた。

五大福祉団体とは,ユダヤ系の頂上福祉団体を除く,①カトリック教会のもとで組 織され,保守政党CDU(キリスト教民主同盟)とつながりの深いカリタス(Deutscher Caritasverband),②プロテスタント系のディアコニー(Diakonisches Werk),③SPD系で,

労働運動と社会主義運動を源とするAWO(労働者福祉協会・Arbeiterwohlfahrt),④ド イツ赤十字(Deutsches Rotes Kreuz),⑤全国各地のさまざまな福祉・社会活動団体が 結集したドイツ超教派福祉団体(Deutscher Paritätischer Wohlfahrtsverband)を指す。そ のなかでも,超教派団体を除く 4 つが,移民に対する活動で重要な役割を果たしてき 3)。最大規模で,最も古い歴史をもつカリタスは 19 世紀半ばの社会主義運動に対抗

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する形での保守主義勢力による救貧活動から発展してきたが,そのほかの団体は,第 一次大戦前後の不安定な時期に,社会問題や福祉供給の必要性への覚醒とともに創設 された。

人員,活動,予算規模で,カトリック系のカリタスとSPD系のAWOが抜き出てい る。1980 年代初めの時点でカリタスは,家電コンツェルンのジーメンス社の従業員を 上回る人員を抱えてすらいた(Thränhart 1983)。それぞれ 2 大政党であるCDU,SPD と実質的な系列関係をなしており,各自治体でも政党のヘゲモニー関係が活動に影響 している。例えば,SPDが強いルートヴィヒスハーフェン市では,市長も議会もSPD がおさえていたため,AWOはプロジェクトの実施や政策への関与などで優位に立ち

(AWOのトップはSPD会派の議員でもあった),SPDはプロテスタント教会の活動団 体とも協力関係にあったのに対し,カリタスは明らかに不利な立場に置かれていた

(Filsinger 1992)。戦後一貫してCDUの牙城で,カトリック教会の司教座が置かれて いるミュンスター市では,カリタスが他の団体を圧倒する形で市街地をほぼおさえ,

他の団体は周縁部や郊外地区での活動をカリタスと分け合う形になっている。

財政面では,①連邦や州からの委託費用のほか,②寄付や有料の社会サービス,③ 教会系の場合は,教会税からの配分収入もある。教会系のカリタスとディアコニーの 場合,教会税を管理する司教区が配分するため,その司教区の方針や税収入でかなり の差が出る4)。司教座のあるケルンやミュンスターの場合,カリタスに有利になる。

予算のほぼ半分を占める連邦や州からのプロジェクトの獲得は,財政や人員の維持に も影響するため,各団体はかなりのライバル関係にある5)。全国ネットで広がり,自 治体ごとに各地区に相談所や事務所を構えると同時に,傘下に各種の小団体を抱える 一方,連邦政府とも太いパイプをもつ巨大な福祉団体は,きわめてローカルな存在で もある。福祉団体は,連邦と州から事業の委託を受けるほか,連邦・州レベルでの政 策決定や協議機関にも必ず参画しており,地域レベルでも,自治体の社会局などと連 携を密にし,議会の各政策分野の委員会で,専門委員として参加していることが多く,

当然,移民政策でも自治体の重要なパートナーとなっている。カリタスやAWOは政 党を通じて自治体議会に議員を出していることもある。

地域レベルでの移民政策での福祉団体の役割は,次の 3 つに分けられる。①主に連 邦と州からの委託や独自予算で,カウンセリングやプログラム,講習会などの実施,

②(地域によって)自治体からの委託による難民や帰還ドイツ人の受け入れ業務・ケ ア,③自治体行政,議会委員会,円卓会議で,政策決定に間接・直接に関与。実際に は福祉団体が,自治体レベルでの統合政策の実行主体となっており,自治体は,一部 の先進的な大都市(ベルリン,エッセン,フランクフルト,ミュンヘン,ケルンなど)

を除き,福祉団体に任せる形で,あるいは何かのプロジェクトを立ち上げるにしても 福祉団体や他の関係機関に実施・運営を委ねる形で進めてきた。著者が調べている

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ミュンスター市の場合でも,管轄の社会局では 10 人に満たない人員で,ほとんど法 で定められた帰国者(Aussiedler)の統合政策にしか関与しておらず,相談窓口も移民 の若者や女性のためのプログラムも福祉団体が担っていた。

国家が,受け入れた移民のケアや福祉を,教会や福祉団体に委託するというドイツ の方式は,19 世紀後半のポーランド人,イタリア人労働者の時代からの伝統ともされ る(Thränhardt 1983)。終戦後の難民や東欧からの被追放民へのケアも福祉団体が担い,

1960 年代のゲストワーカーの受け入れと家族合流でも,連邦政府はこの慣例を踏襲し 6)。準公的な地位を与えられた中間的組織が社会的資源の配分や政策決定への関与 におけるメンバーシップを独占する,こうした国家コーポラティズムでは,新たな組 織や移民の自助団体(self-help organization)が参入する余地は少ない。歴史的に見て も,中間的組織の選択や公認,組織への国家活動の一部委託や補助金・税収の配分は,

公正・中立な政治的過程を経たものではなく,福祉団体の指定や特権的地位,福祉供 給市場の寡占は,民主主義的な手続きの正統性から多くの疑義を残している。国家と 社会の双方に公認された全国組織が,行政の官僚組織的弊害や入管政策的な利害を超 え,統合政策の中核を担い,連邦・州・自治体の各行政レベルとの太いパイプを生か し,移民への規制的な政策への歯止めや行政への圧力団体としても機能するという長 所がある一方で,他の組織(組織的利害)や移民団体のシステムへの参入を阻む排他 性が問題となる。

このドイツのシステムの特異性は,他の移民受入れ国と比較するとよくわかる。こ こで,Soysal(1994)の移民の“Corporation Regime”Schmid(1990)が分類した福 祉供給の類型をふまえて,次のような比較を試みた。国家の福祉供給のタイプと,移 民の自助団体もしくはエスニック団体の統合政策への関与という軸を交差させること で,ヨーロッパの伝統的な移民受け入れ国の,定住者政策(immigrant policy)での中 間的組織・移民団体関与のパターンを,次の 4 つに分けることができる(表 1 参照)。

1 つは,スウェーデン(表右下)のように,国家が福祉供給を独占する一方(中間 的組織が介在する余地はほとんどない),エスニック団体が移民政策に大幅に参画す るタイプがある。中間的組織ではなく,エスニック団体を通して,予算やプロジェク

表 1 定住者政策(Immigrant Policy)と,移民団体および福祉団体の関与度(著者作成)

定住者政策の決定 定住者への施策で

移民団体の役割が限られている

定住者への施策で 移民団体の役割が大きい 福祉供給の傾向

分権的 

ドイツ オランダ アメリカ(?)

民間・中間団体の関与が強い 集権的

フランス イギリス スウェーデン 民間・中間団体の関与は弱い

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トをおろし,エスニック団体は政策協議にも参加する。次に,福祉供給の民営化や多 元化が進むイギリス(表左下)も,もともとは国家による直接供給が伝統で,地域行 政のカラード移民への差別や不利な扱いが論争の的となってきた。国家集権の強いフ ランスとともに,中間的組織も移民の自助団体もその役割は限られている。イギリス とアメリカは,自由主義的な政治文化が強く,団体組織それ自体が,国家による認知 や補完主義的な原則からは独立した形で発展してきた一方,移民の社会統合への国家 の関与が比較的弱いタイプでもある。

民間に対して国家の福祉供給が限られているアメリカでは,社会サービスなどで自 助組織やボランティア団体の活動のウエイトが高い。民間団体による難民へのケア活 動の財政負担も,公共資金ではなく,個人や法人からの寄付・基金が中心となってい る(Tress 1998)。連邦でも地方でもエスニック団体のロビー活動は活発で,地域の労 働市場や経済活動でエスニック・コミュニティの果たす役割も大きい。3 番目のパ ターンとして,「列柱社会」のオランダ(表右上)は,国家と中間的組織との関係で ドイツと似た歴史展開を経ているため,宗教と政党の位置関係に沿って組織された中 間的組織の役割は大きく,それら系列団体の福祉供給に占めるウエイトも高い(近年 は変化している)。国家は逆にこの伝統を生かして,エスニック団体の育成や組織化 を推進し,既存の中間的組織と同様の役割を負わせるシステムを形づくり,エスニッ ク団体は政策決定にも参与してきた。スウェーデンやオランダに比べ,保守主義の強 いドイツ(表左上)は,既存のシステムへの新規参入を認めず,移民を新たなアクター として育てるよりも,福祉団体の新たなクライエントに位置づけ,福祉団体による移 民へのパターナリスティックな福祉供給というパターンを定着させてきた。

4. 地域レベルの移民政策

―多様なアクターの存在と役割

地域レベルの移民政策に占めるアクターとその役割を,連邦・州・自治体の 3 つの レベルから,図 1 にまとめてみた。ドイツの自治体行政では通常,社会局が外国人の 受け入れと統合を担当している。さらに青少年局,住宅局,学校局もそれぞれの分野 で統合政策に関与している。他方で,労働局は連邦レベルの雇用行政に組織され,学 校局や外国人局は州の上位機関により統制され,自治体行政からの独立性が強い。議 会の各政策分野別の委員会には,議会外のメンバーも加わる。行政の各部局,外国人 会議の代表や福祉団体,民間の専門家などで,議決権はなく,あくまでも専門家とし ての説明役かつオブザーバーにとどまる。大都市のような一部の自治体には,社会局 の内局あるいは外局として,移民統合政策の専門部局―ベルリン,ブレーメン,マ ンハイムなどの委任官(Beauftragte)やフランクフルトの多文化局,ケルンの(市長 直属の)異文化間政策室,ミュンヘンの社会局異文化間協力部など―が設けられて

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いることもある。連邦の委任官の権限は弱いが,自治体の場合は,ベルリンのように,

プロジェクトの立案や推進はもちろん,各部局や他のアクターとの調整・統合の機能 を果たしていることもある。こうした専門部局の重要な役割の 1 つとして,移民の訴 えの受理や地域住民との対立の仲裁(例えばモスク建設)がある7)

近年では,これらのアクターと,労組と経済団体,政党の代表,一部の支援組織な どが集まって,統合政策の各分野に,作業グループを設置する自治体が増えている。

しかしここでも,実働体である福祉団体が多くの役割を担っている8)。福祉団体には,

図 1 ドイツの連邦・州・自治体レベルの移民統合政策のアクターとその相関関係

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過去数十年にわたる経験とノウハウの蓄積があり,委員会や会合,プログラムの作成 などさまざまな場面で自治体の担当者との長年のコンタクトがあり,都市の郊外部な ど規模の小さい自治体ではコンタクトはさらに密になる9)

入管行政を担う外国人局は,同じ自治体組織のなかに位置している(社会局もしく は内務・秩序局のなかに置かれていることが多い)にもかかわらず,その業務の特異 性や州内務省の指揮下に置かれている事情から,自治体の他の部局(外国人の受け入 れや統合に対応・担当する部局を含めて)とはかなり独立した関係にある。自治体は,

外国人局の事務組織化や人事面で裁量をふるうことができるにとどまる(Scheffer 1999)。

地域レベルでの統合政策に対する連邦政府の役割は 2 つあり,1 つは各福祉団体へ のプロジェクトや相談窓口の委託,補助金の交付で,連邦と州の共同税の一定割合の 拠出という形で州政府も財源を負担している。もうひとつは,2004 年に旧難民認定庁 を鞍替えした連邦移民・難民庁による統合講習の委託や統合政策の研究・モニタリン グ,プロジェクトのコーディネイトである。移民・難民庁は調整役とシンクタンクの 役割を果たしているが,分権性の強い連邦行政のなかで,移民政策の専門省庁ではな いことを強調しておきたい。

州レベルでは,ノルトラインヴェストファーレン州を例にすると,統合政策を担当 するのは社会(・労働)省で,州の内閣府にはこの社会省を中心に横断的に統合政策 のコーディネイトを行う作業グループが 1994 年から設置されており,これらの予算 で決定権を握っているのが,州議会の移民政策の委員会である(Rütten 2001)。州社 会省は州文部科学省とともに,地域レベルでの定住者向けの施策(義務教育への就学,

学校教育での補習的措置,職業教育での支援など)を福祉団体,市民大学などに委託 している。特に,各学校での母語教育・準備学級の設置,ドイツ語の補習・宿題手伝 いの実施,福祉団体に委託される親へのカウンセリングはいずれも州によるもので,

自治体行政はほとんど関与していない。州は,自治体を対象に都市開発や住宅供給で の移民支援のプロジェクトなども実施してきた。

図の左側には,ドイツで(高等教育への進学者を除く)すべての義務教育修了者を 対象にした職業教育に関わるアクターが位置している。ドイツの職業教育は,いわゆ OJTによる事業所レベルでの訓練と職業学校での受講との二元システムで構成さ れ,資格取得が就職で不可欠となる。連邦雇用エージェントと州労働局は,労組や経 済団体と協力しながら,親をまじえたカウンセリングや事業所での訓練先が見つから ない移民の若者などを対象にした特別なプログラムを実施したり,地元の事業主に移 民の訓練生の受け入れ枠を割り振るなどの策をとっている。ここも労使及び労働行政 の管轄にあるため,自治体の入る余地はほとんどないが,ケルンやハンブルク,ビー レフェルトなど一部の都市では,自治体がイニシアティブをとって,地域の労働行政

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や労使,社会教育施設と協力して,受け入れ先の見つかりにくい外国籍の若者に特化 した,訓練応募に必要なスキルやドイツ語能力の向上などを内容とする時限的プログ ラムを組んだり,相談の窓口を開いたりしてきた。

こうしたことから明らかなように,自治体行政は,連邦の予算で自治体に課せられ る帰国者への措置を除けば,統合政策それ自体にはほとんどタッチしてこなかった。

例えば,2003 年の外国人の相談窓口やカウンセリングの財政負担は,連邦が 47.5%,

福祉団体が 28%,州が 23%だったのに対し,自治体は 1.5%に過ぎなかった(BAMF 2004)。日本で私たちが想像するのと違い,ドイツの平均的な自治体にとって(特に 保守政党が首長や議会を占める自治体),①帰国者及び旧ソ連圏からのユダヤ系移民 の受け入れと統合,②紛争難民と(審査の長期化した)庇護申請者の受け入れが,移 民政策上のトップ課題というよりも,そのほとんどをなしている10)。これらは,連邦 の庇護手続法,州の自治体法で各自治体に義務づけられており,いかなる理由があっ ても自治体は拒否できない。このため,多くの自治体では,社会局のなかに,必ず帰 国者と難民の受け入れを担当する部局があり,この部局が,定住者の統合政策や外国 人会議への対応を兼任するというパターンになっている。一部の大都市などリベラル な自治体では,「委任官」など,定住者への政策を担当する部局を別に設けることが 多く,州からおろされる政策もここが担うことになる。しかし外国人委任官(近年で は,「移民委任官」などの呼称も)を置いていないところが多く,大都市や先進的な 自治体以外では,役所には,外国籍者が気軽に相談に訪れることができる窓口は少な いか皆無なのが実情で,むしろ主要福祉団体が各地に開いている相談窓口が中心的役 割を果たしてきた11)。福祉団体は,連邦・州からの委託予算や独自資金で,ソーシャ ルワーカーや専門家を雇い,ドイツ語,子どもたちの補習や放課後,若者への文化活 動の提供,ニューカマー女性の社会的スキル習得など,地域でのさまざまな移民向け プロジェクトを実施するほか,相談窓口では,内容に応じて,プログラムや制度の紹 介・申請の手伝い,各機関(社会局,保健局,労働局,あるいは病院や学校など)の 担当者に取り次いだりしている。2004 年の移民管理法(Zuwanderungsgesetz)施行後は,

連邦からニューカマーへの相談窓口を委託されている。

こうしたなかで,自治体にとれる数少ない施策として,住宅供給への統合政策的な 介入をあげることができる。移民のおよそ 8 割は,人口・規模上位 100 の都市に居住 しており(Barth 2001),平均して,農村部と比べると,都市はその 2 倍,中核都市に なると 3 倍の外国人比率(約 15%)を抱えるとされる(Schfffer 1999)。そうした移民 の居住比率の高い,比較的規模の大きい都市が,独自の裁量で,間接的に統合政策を リンクさせることのできる政策として住宅政策がある。自治体には,住宅建設の財源 や権限はないが,住宅供給の段階で一定の,また中・大都市ならば都市計画を利用し て,介入する余地はあり,住民層の偏りや外国籍住民のセグリゲーションを抑止する

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ような施策を打つことは可能であり,この点で自治体側の姿勢が問われている

(Feldhoff und Scheffer 1994; Krummacher und Waltz 1999)。一部の自治体で実際にとられ てきた施策は,2 つあり,1 つは,法で認められた自治体の社会住宅や公社住宅の供 給・入居者の選抜の権限を利用して,特定のエスニック集団に偏らないように工夫す るというものがある。公的資金が多く投入されている場合,自治体行政の介入余地も 大きくなる。もうひとつは,ブレーメン市が先進的に導入して成功したもので,民間 の住宅会社から住宅供給権(賃貸者選択の権利)を自治体に委ねてもらい,代わりに,

管理人業務,入居者へのサービス,家賃不払い時の保証者を行政が引き受けるという 施策である(Feldhoff und Scheffer 1994)。さらにこのヴァリエーションとして,民間 会社への優遇的な融資と引き換えに,住宅探しでも家賃や住宅の質でも圧倒的に不利 な立場にある住民層,特に外国籍者や障害者,公的扶助の受給者の人たち優先的に割 り当てる契約を結ぶという方法がとられることもある(Feldhoff und Scheffer 1994)。

外国人会議は,ノルトラインヴェストファーレンを含む 3 つの州では,自治体法で 一定人口の自治体に設置が義務づけられており,州の自治体法は選出法や法的な権限 まで規定していることが多い12)。その“Beirat”という言葉(=直訳すれば「補佐会議」,

英語に直せば,“Advisory Council/Board”)が指すように,あくまでも提言や説明を行 う補佐的な役割にすぎないが,主力のメンバーは行政の各部局とつながりがあり,多 くの自治体で議会委員会にも出席している。自治体では,外国人だけでなく,こうし た補佐的な,提言と協議を行う会議は,多くの政策分野で設けられている。カッセル,

ドルトムント,マンハイム,シュトゥットガルトなどの中規模都市では,10 名程度の 市議会議員と(行政から代表者が加わる都市もある),ほぼ同数(1 名少なくされてい ることが多い)の外国人会議メンバーが参加して,協議機関として,委員会を構成し ている。しかし外国人会議は権限の弱さに加え,予算が少なく,オフィスもないこと が多く,メンバーの自治体政治や政策に関しての知識不足,内部での政治的対立(地 方参政権のあるEU市民の参加が少ないために,各地で人口比率の高いトルコ系移民 団体がドミナントになっている)などのために,政策決定への影響力が弱い場合が大 半で,議会との関係が断絶しているケースすらある(Krummacher 1998; Liebau 1999)。

この状況自体は現在も変わらない。

他方で,政治参加への第一歩もしくはその暫定的なオータナティブとして出発した はずの外国人会議は,行政や福祉団体と移民とをつなぎ,時にはそのコーディネイト にあたるという新しい役割を果たしつつある。同じ同胞が参加する外国人会議は,(と くに外国人が直接駆け込める窓口の少ない自治体で)外国人にとって,駆け込みやす い機関となっており,メンバー(連絡先などは当然公開される)は,地域の定住者の 相談相手や案内者の役割も果たすようになっている。行政や福祉団体の側も,現場へ の水先案内や移民の側との手近なコーディネイター的な役割を,認めつつある。特に,

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社会局や青少年局,学校などの各機関が問い合わせ先として利用するようになってお り,政治参加や意思決定に参画できないという問題を残しながら,行政側から移民政 策分野の「補助的」的役割を担わされつつある。

移民団体は,プロジェクトなどの経験を通じて,社会局や福祉団体の担当者とコン タクトを築いているが,その公式的な関与は,円卓会議などの中立な協議機関への参 加にとどまっていることが多い。いくつかの先進的な都市では,移民の側の行政への 影響力も強く,ベルリンのように移民団体が委任担当官の協議パートナーであったり,

上記のように外国人会議のメンバーと,議会,行政が協議機関を構成していることも ある13)

こうした多様なアクターの存在は,政策ネットワークの構築という課題を残してい る。行政レベルでは,専門部局(委任担当官や多文化局)のある先進的な都市(フラ ンクフルトやエッセン,ベルリン,ミュンヘンなど)が,行政内の各部局(社会局,

青少年局,学校局,首長直属の部局など)をつなぐ,統合政策上のネットワークを進 めてきたが,多くの自治体では,統合政策上の横のつながりの弱さを抱えていること が指摘されてきた(Krummacher 1998; Krummacher und Waltz 1999; Rütten 2001)。しか し,上記のように作業グループや円卓会議の設置がこの数年増えており,状況は変わ りつつある。

5. 1990 年代後半から進む転換

―一方向的政策から双方向的政策へ,統合から平等へ

ドイツの地域レベルの移民政策は矛盾に満ちたものだった。一方では,1978 年に早 くも連邦に委任官が設置され,研究者やジャーナリズム,市民運動,福祉団体,ソー シャルワーカー,労組,緑の党やSPD,連邦・州・一部の自治体の担当者たちの間で,

遅くとも 1980 年代初頭から,社会統合や多文化政策,異文化間教育が活発に論じら れ(その象徴が有名なキューン・メモだった),地域レベルの取り組みの重要性が強 調されていた。しかし現実には,戦後初めて迎えた大量失業と福祉国家の危機,連邦 の保守政権への転換,1980 年からの難民の急増という動きとともに,連邦と州は基本 的に移民の定住を制限する入管政策を続け,大半の自治体行政にとって,移民の統合 政策は最も優先度の低い(というよりも無関心の)課題の 1 つだった。外国人会議の

「看板」と「現実」は,この矛盾をまさに体現してきた。

自治体行政の消極姿勢は,1990 年代に入っても変わらず,逆に一部の地域では増え る難民の存在と各地で目立つ低家賃住宅の不足を結びつけて,政党政治家がキャン ペーンに利用するなど,移民排外的なショービニズムの動きすらあった(久保山 2005)。福祉団体の側も,自治体の多くは移民の統合や彼らが定住の過程で抱える問

(13)

題に,ほとんど取り組んでこなかったと評価している14)。これには,連邦の給付が切 れた失業者に扶助(日本の生活保護にあたり,大量失業で増大している)を給付しな ければならないなど,1980 年代から顕在化する自治体の財政危機,すでに述べてき た制度や権限の限界もあるが,自治体側にとって差し迫った課題ではなく,政党に とっても票にはならず,福祉団体任せですませる問題としてしか受け止められていな かった。

1990 年代後半から変化が訪れる。まず先進的な自治体や州政府の担当者たちのコン セプトや考えが変わる。それは,一方向的に「統合」を進める政策から,平等の達成 を目標に掲げる双方向的な「マイノリティ政策」という視点への転換だった。それに 伴い,①就学前の施策,学校と職業訓練といった橋渡しに重点を置く施策,②(マイ ノリティとしての視点から)反差別という新しい施策,③移民を,統合すべきクライ エントとしてではなく,専門家として育てる,移民団体の結成をむしろ支援・奨励し,

団体の関与を強める,ドイツ人住民よりも平均して起業意欲の高い移民の自営業や投 資を勧奨し,移民の多い地区の経済発展に寄与させるなど,移民コミュニティのもつ 自助能力や資本を積極的に生かす政策などが提案されている(Filsinger 2002; Rütten 2001; Krummacher und Waltz 1999)。

この変化は,明らかに連邦と州の動きと連関していた。すなわち,一方で 1998 年 からのSPDと緑の党の連立政権下で,移民の側に寄った政策転換―出生地主義を加 味した新しい国籍付与制度,他の受け入れ国でも進む移民政策での選別的政策へのパ ラダイム・シフト(久保山 2003; 2005),連邦の統合政策への踏み込み―がある。一 貫して入管政策に偏っていた保守のCDUも,移民管理法の制定をめぐる論議の中で,

2001 年に初めて統合政策の総合的な指針や構想を発表した。他方で州の政策にも似た 動きが現れ,ノルトラインヴェストファーレン州では,やはり 1990 年代後半から,

差別防止的措置と,州内の 2,400 の移民団体の社会・文化活動を促進させる新しいプ ログラムをスタートさせている(Rütten 2001)。

ドイツでは,定住外国人は,都市のなかでも(郊外でも旧市街でも),長期失業者,

低所得層や公的扶助の受給者,単身の中・低所得層,単親世帯,高齢者・年金生活者,

大学生,職業訓練中もしくは訓練を受けていない若者の多い,インフラや住宅の質が 悪く,経済活動も停滞気味の地区に集中していることが多い。そうした移民の空間的 セグリゲーションを,1980 年代〜1990 年代前半までのように,一方的に移民たちの 社会文化的孤立や統合意欲の欠如に帰したりするのではなく,住宅政策や都市計画そ れ自体の見直しや,逆に住民のニーズと購買力に適した移民の自営業を生かしての活 性化など,双方向的な考え方をとるようになってきた。住宅供給の問題と住宅市場で の移民への差別に原因があることを認め,公共の資金援助で建設された住宅への外国 籍者の入居を容易化したり,地域の住宅供給のアンバランスに手を打つような施策

(14)

(Rütten 2001)へと,次第に焦点が移ってきている。

戦後のドイツでは,外国人への差別や排外的言動を言い表すことばが,「外国人に 敵対的・友好的(ausländerfeindlich/-freundlich)」という表現に限られ,「レイシズム

(Rassismus)」は,政治的左翼の典型的用語もしくはナチズムを暗示するにとどまり,

どちらかといえばタブーに近い扱いを受けてきた。複数の自治体が,差別対策

(Antidiskriminierung)に強い意欲をもつようになったことは,初めて「差別の存在」

を公に認め,政策として打ち出すということであり,これは問題認識上のかなり大き な転換といえる。EUが差別防止の「命令」を出したこと15)も追い風になり,福祉団 体や労組も差別対策活動を始めている。具体的内容としては,ミュンヘン市が設置し た差別対策ビューロー(Anti-Diskriminierungsbüro)のように,①個人からの訴えを受 理し,支援措置や当事者双方へのカウンセリングを提供するほか,②構造的・制度的 差別にも恒常的モニタリングで取り組み,③広報活動や公共部門の職員への反差別教 育などを行っている(Krummacher und Waltz 1999)。

パイオニア的存在であるケルン市の差別対策ビューロー(ADB)の場合,1995 年 から市とノルトラインヴェストファーレン州政府の援助を受けながら,民間組織とし て活動している。ADBは,ミュンヘン市などのように,個人の訴えの受理,構造的・

制度的差別への取り組み,広報・啓発活動のほか,州の公認を受けてカウンセリング など差別対策活動の基準やメソードの作成,市及び州内のさまざまな統合政策上のア クターとの差別対策面でのネットワークの構築にあたっており,特に州内の差別対策 ビューローのネットワークの中心となっている(Larroussi 2004)。1998 年には,市議 会の決議に基づき,市行政(異文化間政策室),福祉団体(カリタスの差別対策ビュー ロー),NGO(ADB)の三者協力が制度化され,2001 年にはドイツで初めて差別対策 委任官(Antidiskriminierungsbeauftragte)が設置された。委任官を通じて,三者は情報 交換,差別行為の記録・蓄積・分析,カウンセリング法の体系化を図ってきたほか,

差別対策の行政指針の制定,2004 年には,各機関への差別対策の普及のため,青少年 局,警察,市異文化間政策室,福祉団体,労組,ADB,フォード社の代表などが集ま る差別対策の作業グループを発足させた(Larroussi 2004)。

これらの先進的な自治体の動きとともに,2000 年に入り,自治体全体として行政の 移民政策への姿勢に少しづつ変化が起きている。1 つは,行政の関心の高まりで,第 2 に,上記のようにコンセプトの転換や見直し,それに伴う新しいタイプの施策の導 入があり,さらに作業グループや以前にはわずかな自治体にしかみられなかった円卓 会議の設置である。ノルトラインヴェストファーレン州では,州政府が自治体に移民 統合政策に取組むよう圧力をかけるようになっており,ミュンスター市を初めとする それぞれの自治体では,コンセプトの見直しのほか,従来のように「ただ意見を述べ 合うだけで終わるのでなく,それぞれのアクターに何らかの役割や責任を負わせる」

(15)

(Krummacher 1998)という意味での役割分担,アクター間のネットワーク化なども課 題として論議されている16)。特に作業グループへの政党や議会の取り込みは重要で,

自治体側の消極姿勢の一因は,経済団体を含む議会以外のアクターが一致して統合政 策への取り組みを進めようとしても,予算や条例制定の決定権を握る議会が動かな かったり,行政の担当者が福祉団体や外国人会議の協力を得て,何かのイニシアティ ブを起こしても,議会レベルで頓挫するといったパターンにもあった。こうした変化 の背景には,移民とドイツ人住民双方の世代交代がある。ドイツで生まれ育った世代 が大多数を占めるに至って,連邦議会や政党の幹部職を含め,社会の各分野に移民の 2,3 世が進出するようになり,制度や法を熟知した彼らが影響力を強め,効果的に問 題や要求をアピールできるようになってきた一方,ドイツ人住民の側も,子どもの時 から移民の存在を当たり前の現実として育ってきた世代へと代わってきたことがあ 17)。平等を求めるマイノリティ政策や移民の能力や資本の活用はまさにこの現れで あり,1 世とナチ時代に育った人々を含む旧世代の時代と違い,地域の生活者として 自治体に取り組みを求めるようになったのは自然の成り行きといえる。

そうしたなかで,2004 年の移民管理法施行で,連邦政府は統合政策のコンセプト を大幅に変えた。「移民国」としてのアイデンティティを事実上受け入れ,連邦政府 が移民の社会統合に責任を負うことを初めて認め(それまでは統合に予算を出して も,責任の所在は定めていなかった),2005 年から統合講習を連邦の費用で実施して いる18)。しかし,連邦は,帰国者(Aussiedler)を含む渡独後 3 年以内のニューカマー の移民だけを対象とすると責任範囲を限定し,このため州政府が長期定住者を対象と することになった。これに従い,福祉団体は,新たにニューカマーへの無料の相談窓 口を連邦から委託されるようになり,州政府は福祉団体におろすプロジェクトを定住 者対象のものへと焦点をあてるようになる。しかしここに 統合 の対象から締め出 され,社会の隅に追いやられた定住者たちがいる。

6. 転換の陰で

―統合政策から締め出され,住民扱いされない

「グレーゾーンの移民」

1980 年代初頭から段階的に続けられてきた難民の社会的権利の制限と 1991 年の外 国人法によって,ドイツに居住する外国籍者は,滞在権の安定性や社会的権利の異な る層へと分断されるようになった(久保山 2003)。一方にはEU市民,権利付与の進 んだ旧ゲストワーカーとその家族,庇護権を得た難民がおり,彼らは 1998 年の国籍 取得制度の改正でさらに有利になった。他方で,庇護権の申請者,紛争難民,滞在目 的・期間が限定された移民,国外退去を猶予する「滞在黙認」という資格でとどまっ ている人たちがおり,彼らは逆に,家族合流や連邦の給付,就労活動などの社会的諸

(16)

権利を制限され,永住への道がほぼ閉ざされている。2003 年末の統計によれば,約 770 万人の在住外国籍者のうち,およそ 100 万人近くがそうした「セカンドクラスの 移民」だった。特に,庇護申請者,紛争難民,滞在黙認の所持者は,法的に正式な「合 法滞在者」とはみなされておらず,彼らの滞在資格は(移民管理法を構成する)外国 人滞在法には規定されていない。法的地位の弱さや就労制限のゆえに,彼らの生活や 定住は「非合法化」へと追い込まれやすい状態にある19)。こうした「合法」と「非合法」

の境界に置かれている定住者の人たちを「グレーゾーンの移民」と呼んでおきたい。

彼らのなかには明らかに定住化している人たちも多いが,移民管理法の施行後も,居 住歴の長さにかかわらず,統合政策の対象から厳格に外されている20)。彼らに対する

「統合政策」は,福祉団体とNGOの独自資金による限られた努力にとどまっている。

難民は,定められた自治体の区域内での居住を強いられ,区域外への訪問や旅行に は,地域の外国人局の許可が必要となる。法的に正式な滞在資格とはみなされていな いために,統合政策の対象外となっており,彼らもまた地域の居住者でありながら,

上記で述べたような地域の統合政策上のプログラムにも一切参加できない。自治体の 難民の受け入れは福祉団体に委託されることもあるが,彼らの定住や社会統合に関し てとなると,福祉団体側では,予算の限界のため(彼らのドイツ語講習や社会統合に 関しては,連邦も州も補助や委託を一切出していない),打つ手は限られ,法的側面 でのアシスト(費用や弁護士・通訳の確保)と,カウンセリングが多かった21)。福祉 団体は,自前の予算で彼らへの数少ないプロジェクトを賄ってきた。ミュンスター市 のカリタスの場合,難民のドイツ語学習への意欲は他の定住者よりも高いにもかかわ らず,統合講習を受ける権利もなく,希望者の中から,予算の許す範囲内で,限られ た少数にドイツ語講習を提供している22)

就労活動も極端に制限されており,現在は 1 年間の待機後に就労が認められるよう になったが,ドイツ人・EU市民・滞在権をもつ外国人,つまり彼らよりも法的地位 の「高い」外国人が受けない,かつ使用者が正当な理由で雇用しない仕事に限って,

就労できることになっている。地域の労働局での手続きは時間を要し,数ヶ月かかる こともあるうえ,「滞在黙認」を受けている人の場合,数ヶ月単位での延長が多く,

使用者は,事務手続きの負担と時間,滞在権の不安定ゆえに雇用できる期間の見通し がたたず,彼らを雇用する動機を弱めることになる。会社側が短期期限の労働許可の 更新をひんぱんに申請しなければならないケースも多く見られる(Kühne und Rüßler 2000)。難民・滞在黙認所持者の就労先は,求職者が容易に見つからない建設業,清 掃業,造園土木,飲食業,クリーニング業,タクシー会社及びマクドナルド(いずれ も深夜業務)などが多く,非合法での就労も避けられなくなる。

このため,彼らに特化された給付(庇護申請者給付法という法で細かく規定されて いる)に依存せざるをえない状況に追い込まれている。この給付の水準は,日本でい

(17)

う生活保護にあたる給付の 7 割以下におさえられ,現物給付が中心で,給付を担当す る自治体には,なるべく現金給付を少なくするように法で求められている。自治体に よっては業者に食料袋の配布を委託しており,非人間的な水準のケースが見られるこ とは,ソーシャルワーカーや福祉団体から指摘されてきた。スーパーでクーポン券を 使わされるのも当事者にはつらいことである。滞在資格の意味で―「庇護申請者」

「滞在黙認」という名称はスティグマ化され,ドイツ人や外国籍者の間で蔑視すら生 んでいる―そして,国家からの給付に頼らざるをえない地位に追い込まれることで,

彼らは二重の意味で「存在の正統性」を剥奪され,ショービニストの視点からは,高 度福祉国家への「寄生」とみなされ,外国人への暴力の対象になりやすい。これらの 点は,労組が強く雇用や賃金水準が比較的安定していた製造業や建設業で現業労働者 として働くことが多く,そのために福祉給付の受給率が低く,しかも統合政策の対象 でもあった旧ゲストワーカーとその家族の定住化とは対照的である23)

就労制限のために社会保険への加入も難しく,医療は,この給付法とそれに基づく 行政内での指針及びそれに基づく現場(自治体の社会局)での裁量で許された範囲に 限られている。具体的には,がまんできない痛みを伴う場合や妊娠時などで,眼鏡や

(義歯[ぎし]や義肢などの)人工補装具の支給も許されないことがある。さらに,

難民の子どもたちに就学義務が適用されていない州(バイエルンなど)すらあり,ノ ルトラインヴェストファーレン州のように適用されていても学校局はドイツ人の児童 に比べ,就学義務の徹底には取組んでいない24)。学校に通う子どもたちは,自治体の 施策にも参加できず,学校を卒業しても,例外的なケースを除き,高等教育も職業教 育も受けられない。職業教育の代替的なプログラム(ドイツ語授業が中心)が福祉団 体や教会によって限られた範囲で提供されている。市民大学での受講も数少ないオー タナティブの 1 つで,リベラルな姿勢の自治体が市民大学などと協力して行うケース もまれにある(ビーレフェルト市など)。ミュンスター市での複数の福祉団体への問 い合わせでも,団体の担当者たちは打つ手のない状況だった。ミュンスター市内では,

ドイツ超教派福祉団体に加盟している難民支援団体(GUAA)が,そうした行き場の ない難民の若者たちに職業教育の代替的なプログラムを提供しているが,予算のため に受け入れ人数が限られ,「焼け石に水」の状態となっている25)。医療では,近年非合 法移民やこうした立場のグレーゾーンの移民たちに医療を原則的に無料で提供する活 動が,医師や活動家たちのネットワークと福祉団体とによって広がっている(久保山 2007)。しかし連邦側は,彼らへの統合政策を拒否する姿勢を続けている26)

7. おわりに

―中間的組織の活動と意味

最後に,NGOへの関心が高い日本であまり関心がもたれていない中間的組織の活

(18)

動について参考になりそうな点をいくつかピックアップしておきたい。一口に地域レ ベルといっても,政治的・行政的権限の配分,利益媒介の構造などは,各国の社会に より異なり,どのようなアクターとその関係がポイントとなるかに,注意を払う必要 がある。ドイツの場合,自治体行政の行動には限界があり,逆に,民間領域と公共領 域をつなぐ中間的組織の活動(補完主義)がポイントとなる。日本も道州制がかなり 現実味を帯びた議論の対象となってきており,統合政策で強いイニシアティブを握っ てきた州政府の役割や成果にも着目する必要があろう。福祉団体の活動は,一方で小 規模のNGOの参入を阻み,公共の事業やプロジェクトを寡占するという問題がある が,他方でその人的資源や全国レベルの組織化,現場経験を生かし,意見や提言の集 約力が高く,政策決定への影響力も強いという長所がある。福祉団体は,教会や労組 とともに,その影響力の強さを生かして,ドイツの移民政策に人道的な局面を加え,

制限化への歯止めとなる役割を果たしてきた。

日本の赤十字を見てもわかるように,ドイツの福祉団体は,全国各地域に広がり,

さまざまな分野の専門家を抱え,現場をよく知る巨大な組織である。現場での活動だ けでなく,大学で資格をとったソーシャルワーカーや臨床心理士が,実際の活動のな かで,経験やケースを集め,分析したり,大学や行政と協力したりして研究調査など も行っている27)。いわば,民間や現場の側からの「頭脳」(情報収集・分析力,提言能 力)ともいえる。また,日ごろの活動のなかで,行政側と太いパイプができており,

行政側も現場を知る専門・活動家として中間的組織に信頼を置いている。また,中間 的組織としての柔軟性を生かして,移民を積極的に雇用している(移民 2・3 世にとっ ての就職先の 1 つ)。ゲストワーカーの高齢化に伴い,福祉団体に勤務する同じエス ニック・コミュニティの 2・3 世のソーシャルワーカーがケアするなどの例もある。

また自治体や中間的組織の従事者に,統合政策での再教育の機会を州政府が設けてい る。経験の収集や研究者の成果,政策策定をリンクさせ,従事者を育てており,著者 がたずねた中間的組織や難民支援団体でも専門家としての訓練の機会を多く設け,提 供していた。日本でも,大学と自治体との間で,そうした教育プログラムを発展させ てゆくことは考えられないだろうか。

他方で,限られた数の中間的組織が「市場」を寡占する国家コーポラティズムでは,

移民団体と,伝統や権威のないNGO組織の参入困難という構造的な問題がある。移 民自身の自助団体は増え,ローカルレベルでは自治体や福祉団体とともに協議のテー ブルにつくことはできても,連邦や州の政策決定ではほとんど関与できず,個々のエ スニック集団ではなく,既存の中間的組織を通じて,意思や利害を伝達してゆくこと になる。NGOでは,例えば,難民政策で政府を厳しく批判してきたPro Asyl(全国組 織)が,現場や出身国の状況をよく知る専門家として,行政や中間的組織から評価さ れており,近年は,緑の党などを通して行政への影響力も強め,滞在資格の正規化を

(19)

審査する州の委員会(これについては,久保山 2003)のメンバーにもなっている。

1) ここでいう移民政策は,“immigration policy”よりも“immigrant policy”を意味する。

2) 連邦と州との関係を円滑化し,各州が足並みをそろえるという意味から,移民政策上の重要

な決定は,①州政府の代表が集まる連邦参議院,②連邦と州の内務大臣から構成される会議 で決定される。連邦の法案や計画も,人口や経済規模が大きい州(バイエルン州,ノルトラ インヴェストファーレン州)が決定に反対すると,決定には至らないこともある。あるいは 特定の州のオプトアウトが認められることもある。

3) 傘下に多くの系列の地域団体や市民団体を抱えていることが多く,超教派福祉団体は,教会

などと無縁の,また比較的新しく結成された小団体が多く加盟し(障害者福祉から託児グ ループ,難民保護,社会教育などさまざまな分野の団体),これらの団体の利益や意向を中 央にくみ上げる役割を果たしている。

4) ミュンスター市カリタスの移民部門統括責任者・Barbara Klein-Reidさんへのヒアリング

(2007 年 4 月 30 日)。

5) 福祉団体の担当者はこの点を認めたがらないことが多いが,Klein-Reidさんは逆に強調して

いた。同様の指摘は,Thränhardt(1983)もしている。ミュンスター市のカリタスでは,お およそ 45%が連邦と州からの補助及び委託予算による収入で,55%が教会税からの収入と なっており,Klein-Reidさんによれば,各地域の福祉団体のほぼ同様の割合だという。

6) 1962 年にゲストワーカーとその家族へのケアについて,連邦政府は赤十字を含む 4 福祉団体

への委託を開始した(Barth 2001)。その際にナショナリティ別におおよその割り当てが決め られた。カリタスが,カトリックがほとんどを占めるクロアチア人や南欧諸国の国籍者を受 け持ち,(実はSPDの支持者の多い)トルコ人やそのほかのムスリム系移民はAWOに,正 教会のギリシャは,プロテスタント系のディアコニーというように,委託やプロジェクトの 策定では,一定の割り当て的な基準が存在してきた。しかしこれはあくまでも連邦政府の委 託事業についての取り決めであって,制度的に定められているものでは決してなく,シュ レーダー政権が 1999 年に出した連邦の統合政策指針でこの国籍別の振り分けは正式に廃止 された(Barth 2001)。移民はどの団体にも駆け込むことができる。しかしこの慣例自体は,

長年の福祉団体の活動や事業委託のなかで半ば固定化している面もあり,今もこの国籍区分 は残っている。

7) 連邦首相府に置かれ,オンブズマン機能をもたない連邦の委任官との大きな違いである。

8) Klein-Reidさんへのヒアリング。

9) ミュンスター市外国人局内で相談窓口を担当するカリタス職員Christoph Tebel氏へのヒアリ

ング(2007 年 3 月 20 日)及びKlein-Reidさんへのヒアリング。

10) 帰国者の受け入れコストは連邦が負担するが,庇護申請者の場合は,州の補助以外はほとん

どが自治体の負担となる。

11) ミュンスターでは長くカリタスは外国人が駆け込める唯一の窓口だった(Klein-Reidさんへ

のヒアリング)。市社会局には外国人住民が直接接触できるような窓口は一切ない。

12) 古い数字だが 1997 年にノルトラインヴェストファーレン州で 142,ヘッセン州で 129 の自治

体が設置していたが,そうした法規定のない保守的なバイエルン州は,外国籍者比率の高い 州の一つでありながら,わずか 16 の自治体にとどまっていた(Liebau 1999)。

13) ブレーメン(都市州)のように,外国人の文化団体の頂上団体を結成させ,そこから,市の

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