日本管理会計 学会誌
管理会 計 学 1996 年第4 巻 第1号
論 文
補助部 門で 相互 に用役 授 受が 無い 場 合の 変動製造間接 費差異分析につ い て
今林 正 明 *
〈論 文要旨〉
変 動 製 造 間 接 費の 原 価 差 異 分 析をお こ なう場 合,従来の方 法で は, 総 差 異 を単に能率 差 異, 予 算 差 異に区 分す る に と ど まっ て い る.こ れ は, 製 造 部門活 動 量に対して変動原 価が線形 的に変 化 する こ と を仮 定 し, かつ 暗 黙 的に補 助部門活 動 量 と製 造部門活動 量 も
また線 形 的に変化するこ とを仮 定 してい るた めで ある.し か し, こ れ らの仮 定が満た さ れ無い 場合,例 え ば,補助部門の不能率に よっ て補助部 門に投入 さ れ た原 価 要 素が無駄 に消費さ れ るとその 浪費額が 予算差 異に含まれ,従来の 方法は誤っ た原 価 情 報 を与 える
こ とになる.
そこ で , 本 論 文で は補 助 部 門 相 互 間に用 役の 授 受が無い 場 合につ い て ,製 造 部門 か ら 補 助 部 門にい た る複 数の活 動 量を考 慮 し た,変 動 製 造 間接 費 差 異 分 析の 方 法 を提 案 する
もの で ある.
本 論 文では,以下の 3 モ デ ル につ い て差 異 分 析 法を提 案 する.
モ デル 1 製 造部門 に投入 さ れ た変 動製造 間 接 費 要 素と製 造 部 門 活 動 量お よ び製 品生 産 量 との関 係で 差異分析 を試み るモ デル .
モデル 2 1補助部門 と1製 造部門 が存在する場 合につ い て,補助部門に投人 さ れ た変動 製 造 間 接費要 素 と補 助 部門活動量,製 造部門活動量 お よび製品 生 産 量との関係で差 異 分 析を試み る モデル.
モ デ ル 3 1か らm まで の m 補 助 部 門と1か らn まで の n 製 造 部 門 が 存在する場 合につ い て ,補 助 部 門に投入 さ れ た変 動 製 造 間 接 費 要 素と補 助 部 門 活 動 量, 補 助 部門 か ら製 造 部 門へ 提 供 さ れ る用 役の提 供 比 率,製 造 部 門 活 動 量お よ び製 品生産 量 との関 係で差 異 分 析 を試み るモデル .
これ らの モ デ ル に よっ て示さ れ た変 動 製 造 間接 費 差 異 分 析 法に よっ て , 原 価 管 理に有 用 な情報が得ら れ ること を 示 し た.
〈 キーワー ド〉
標 準 原 価 計 算,差 異 分 析,補 助 部 門 費 配 賦,複 数 基 準 配 賦 法, 直 接 配 賦 法 1995年11月 受付
1995 年12月 受理
* 東 京理科 大 学 諏 訪 短 期大学 卑 任 講 師
管 理 会計学 第4巻 第1号
1.. はじめに
製造 間接 費は現実 には複 雑 な関 数に よ りあら わ される に もか か わ らず, 標 準 原価 計 算に
よ る原 価 統 制 方式で ある製 造 間接 費差異分 析で は,従 来は単に単純な線形性を仮定して 予 算差 異, 能率差異お よび操 業度差 異に区分 する方法にとどまっ てい る. したがっ て, こ こ で 変動製 造 間接費差 異 分析 につ い て議論 を限 定 する な らば, 従 来の 方 法で は製 造 部 門の 活 動量 (操業度)と して は単 純 に直接作業時 間や機械運転 時間 がと ら れて い る にす ぎず ,そ れ らの差 異の 中に は活動量 に対 する補 助 部門投入材 料の消費能 率 差 異や投 入 要 素 価 格 差 異 などが 混 在 してい る が, 必 ず し も差 異 発 生 原 因 別に原 価 差 異 を識 別 して る と はい え ない . また, 部 門 別 変 動 製 造 間接 費は各部 門の製 造 部 門 変動 固 有 費 と関 連 諸 部 門変 動 費か らの配 賦 額の和との 合計か ら なっ て い る か ら, 各補 助 部 門か ら各製 造 部 門に提 供 さ れ る用役の 消 費能率等の 諸 要 因の変化か ら生 ずる差 異 を把 握 す る必 要がある. その た め に, 補 助部門か
ら製造 部 門に用 役が提 供 さ れ, 良品お よ び仕 損 品が 産 出 さ れ る過 程を 正確に跡づ け る こ と によ っ て , 原因別の 差 異 を求め る方 法が必 要と なる であろ う.
標準 原 価計 算に おける製 造 間接 費 差 異 分 析の伝 統 的 方 法は, 簡 便で はあるが どちら か と
い え ば粗 略である とい える.これ まで に, 変動 直接材料費の差異 分析につ い て は片 岡 [2], 変動直接労 務費の 差 異 分 析 につ い て は, 片岡, 今林 [4]に よっ て原 因別 差 異 分析が提案
さ れ て きて い る.ま た, 配賦は因 果 関 係 配 賦 と合 目的 的 配 賦の 2つ に大 きく分 類 さ れて い る (片岡[1】). 因果 関係配 賦 は , 財 貨用 役の 流れの 因果 関係 を物 量によ り測 定 し その 比率
で 配賦 する方 法をい い , 投 入 量 と産 出量の 因 果 関 係を重 視 する た め, 変 動 費がその対 象と な る.一 方, 合 目的 的配 賦は,投 入 量と産 出 量に因 果 関 係の無い 原 価を 目的 適 合 的ない し 政策 的にい かに製 品に負担させ る方法で あ り, 固定費がその 対象で ある.変動製造間接費 差 異分析に おい て も因果 関係配賦 を前提 として 財貨と用役の 流 れ を正確に跡づ ける方法を 用い るこ と がで き る.
そこで ,本 論 文で は補助部門相互 間の用役の授受が無い 場 合の 変 動 製 造 間接 費 差 異 分析 につ い て , 各 部門別, かつ 差 異 発 生 原 因 別に 原価 差 異 を識別する方 法 を提 案 する こ と を目
的とする.
本論文の構成は以 下の とお りで ある.第2節で は製造 間接 費差 異分析の 従来の 方法とそ
の 問題 点を示 し, 第 3節で は提 案 する差 異 分 析 方 法 を説 明 するた め に用い る 3モ デル を提 示 し,第4節か ら第6節で は各モ デル に対 する具 体 的な差異分 析 方 法 を提案 し, かつ モ デ ル の 概 要 を示 し た各図 の数値に もと づ き差 異 分 析の 計算例 を示す. 第 7節は ま と めで あ
る.
補助部 門で柑互に用 役 授 受が無い場 合の変 動 製 造 間擾 費 差 異 分 析につ い て
2. 変 動製 造間 接費差 異 分 析の従 来の 方法 と その問 題 点
本節で は, 変動製造間接 費 差異分析の 従 来の方法の 問 題 点 を検 討 する.
V Va
Vs
:変 動費予 算 差 異 :変動 費能率差異
o h hs ha
図 1 従 来の差 異 分析
従来の方法で は, 図 1の ように横軸に製造部門活動量, 縦軸に変 動 原 価 をとる と, 変動 製造 間接 費は,能率差異 と予算差異 に分離さ れ る. その 問 題点は, 補 助 材料費を例に
とっ て片 岡 [1]に示 されて い る と お り, 補 助 材 料 費が本 来 的に は材料消費量 基 準 に よっ
て, 価 格 差 異 と数 量 差 異に差 異 分 析 さ れるべ きとこ ろを, 他の製 造 間接費を一・−t括 して直 接 作 業 時間 (もし くは機械 運転時 間) あた りの 配 賦率で 配賦 さ れ,予算差異 と能 率差 異に分 解 さ れる こ とで ある. 片 岡 [2]で は, 補 助 材 料 費につ い て , 価 格 差 異と予 算 差 異が一致 するの は , 直接作 業時間 (もしくは機械 運転時 間)と 生産数量が正比例する場合の みであ
り,その 仮定が満た さ れ ない 場 合は原 価 管 理上 の意 味は少 ない と して い る.
横軸 に製造部門活動量 (直接作 業時間, 機械運転時間等)を と り変 動 製 造 間接 費の 差異 分 析 をおこなう伝 統 的方 法で は, まず ,補 助部門活動量 と製 造部門活動量の 関係を明 ら か
にする こ と を怠っ て い る. その こ と を数 値 例に よっ て示そう.
変動費の標準は以下 の ように与えら れる,以 下の 数値例で は,用水部 門は外部購入 した 電 力 によ っ て揚 水ポンプによっ て井戸水を汲み上 げ,製造部門 に送っ てい る.
(物 量につ い て)
機 械 運 転 時 間標 準 (h/Q)
用水消 費量標 準 (q/Q)
補助 部門用 役 産 出 能 率 標 準 (λ)
補助部門電力消費量標準 (U )
(原 価につ い て )
補 助 部 門 電 力 消 費 価 格標 準 (p)
1 h/個
O.Ol kV個
1 h/kl O.5 kwh/h
200 円/kwh
管理会 言1学 第4巻 第1号
補 助 部 門消 費 電 力費標 準(U )
200 (円塩wh )XO .5(kwh /h)= 補 助部門 (用 水 部 門) か ら製 造 部 門へ 送 ら れる用 水振 替 原価 用水費 標 準
100 円th
100 円/kl
1円/個
こ こで, 補 助 部門変 動費の 要 素は , 電力費の み で ある とする .次に実 際 値が次 の よう
に あ らわされる. (物量につ い て)
製 品生 産数 量 (Q 。)
製造 部 門実 際 活 動量 (h) 製 造部門実際 用水消費量 (y ) 補助 部門用 役 実 際 投入能 率 (ε)
補助部門実際活動量 (h)
補 助 部 門用 役 実 際 産 出能 率 (λ)
(原 価 につ い て) 標準原価
補助 部門実 際 消費電 力 価 格 (p)
補助 部 門 実 際 消 費 電 力費 (Cs)
100 100 1 0.8
100 1
個
h kl kwh /h h h/kl
(補助 部門で用 水 1(kD を汲み 上 げ る た めの標 準) 200 円/kwh
200 (円血wh )× 0.8 (kwh /h)× 1(h/kl)× 1(kl)= 160 (円)
こ の例 における差 異 を従 来 説 に よっ て求め る と 以 下 の ように なる.
総差 異 用水費実 際 原価 一用 水 原 価 標準× 生産 量 = 160 −1× 100 = 60 円 (不 利 ) 変動 製 造 間接 費予算差 異 60 円 (不 利 )
変動 製 造 間接費能 率差 異 0 円
数値例に あ る ように, 標 準 に対 して 実 際で は, 補 助 部 門揚 水ポン プの不 具 合に よっ て ,
ポ ン プの単 位 運 転 時 問 あた りの水 の 消費量が増 加して い る. し か し, 従 来の 方 法で は,
こ の差 異 は, 予 算 差 異 に含 まれて し ま う. また, 補 助 部 門変 動固有費の標 準 原 価 と実 際 原 価の 中にも, 固 有 費 に含ま れ る個々 の 原 価 要 素 につ い て の価 格差 異, 数 量 差 異 が 混 在
して い る.
片 岡 [1]に おい て も述べ ら れ てい る ように, 補助部門 原価要素投入量, 補助部門活動 量 , 製造 部 門活動量,生 産数量 の 間に線 形 性の仮 定が成 り立つ と き以外 は, 予 算 差 異 と 能率差 異の み によ る差 異 分析が意味をな さ ない こ とと な る..
また, 製 品 数 量 と製 造 部 門活 動 量 の 間に線 形 性の 仮定が満た さ れ てい る場 合で も, 能
補 助 部 門で 相彑 に用 役 授 受が無い場 合の変 動 製 造 間 接 費 差 異 分 析につ い て
率差 異の 中に, 製 造 部 門が標準よ り多 くの 用役 提 供を要 求 し たこ とに起 因する部 分 と, 補 助 部 門が製 造 部 門 要 求量以 上の 用役を無 駄に提 供 し たこ とに起 因 する部 分が混 在 して し ま
うとい うように, 性 質の 異 な る原因に よ る差異が一つ の差異 に よっ てあ ら わ さ れ る. 以 .ヒの ように, 伝 統 的方 法で は, 生 産 活動にお ける用役の 無駄 な消費を予 算 差 異 もしく
能率差 異で あら わ して も原 価統制に有用 な情報を得るこ と は困 難で あろ う. そこ で , 補 助 部門 間相互 の用役提 供 量, 補 助 部門 から製造部門へ の用 役 提 供量, 製造 部門活 動 量 と生 産 数量の 3段 階につ い て , 変動 製造 間接 費差異分 析の方 法の検 討 を お こ な う必 要が あ ろ う.
3. 変 動 製 造 間 接 費 差 異 分 析 法モデル の構 築
本論文で は,3つ の モ デル を用い て新 しい 差 異分 析 方法 を提 案 する.
以下の 3つ の モ デ ル では, 製 造部 門 もしくは補 助 部 門に投 入さ れ る多 くの変 動 原価 要 素
の うち,一つ の 変 動原価 要 素 に着 目 し,その 各々 につ い て各活 動量 (総 生 産 量 Q 。 ,製 造
部門機械運転時間h)との 関係で 差 異 分 析 を進め て い く. なお, 各モ デ ル で は , ある部 門
に投入 さ れ る原 価 要 素は1種類で ある と仮定 する が,
一般式を しめす式 (1)か ら式 (20)に おい て は複 数の原 価 要 素の 種類 を示 す添字iを付して分 析 を進 め る.
な お, 本 論 文で 用い ら れる変 数に添 字 s を加 えた場 合は その値 が標 準 値で ある こと を示 し, a を加え た場 合は実 際値で あるこ と を示 す .
告1亅」1 衣 口口
Q。s冨Q、、+Qds
= LOOO+ 100= 1,100 1 製 造 部 門
j=1
(活 動量 hs=LlOO (時 間) )
変 動 製造問接 費 投人要 素i 価 格Pls × 数 量qls ニ1,000 ・550
=550,000
bQ製 品
。sニQG+Qds
= 1,000+ 105= 1,105 I
I 1 1
i
.
製 造 部 門 j=1
I I
i l
I (活 動量 ha=1,220 〔時 間)〕
変 動 製 造間接 費 投入要 素 i 価 格Pl 、× 数 量ql、
=1.050 ・577
=605,850
図2 モ デル 1 (左図は標 準 ,右図は実際)
モ デル 1で は,製造部門 に投入 さ れ るある一つ の変動製造間接費要 素iと, 製 造部門活 動量 hお よび仕損 じ品 数量 Qdを含 む総 生 産 数 量 Q 。 との 関係 に着 目し た差 異 分 析 方 法 を