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マーケティングと文化 Marketing and Culture

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マーケティングと文化

Marketing and Culture

田  中  利  見

はじめに      第1章 コミュニケーションとしての 極めて散文的ないい方をすれば,戦後日本の生      文化とマーケティング 活は,満されない要求をひたすら埋めてきたよう   ω文化とは?

である。20年代は をいっぱいにするための   文化からマーケティングを語ることはかなり困 生活であった。30年代は, 家 をいっぱいにす  難である。というのは,文化とは何かに対する るマイホーム主義の時代であった。40年代は 社  パーフェクトな答えが用意されていないからであ 会〃をいっぱいにした。豊かな社会とその結末と  る。よく,学者の数ほど文化の定義があると笑い

       竪

オての過密汚染社会。そし}て,50年代の成熟社会  話になるくらいである。

において私達の満たすべき空白は, 精神 しか   しかし,多くの社会科学の用語がそうであるよ 残されていない。      ・うに,誰れをも納得させる定義は,ある意味で・

これからのマーケティング研究は,この精神の  一般的すぎて,具体的な現象の説明力を欠くかも 創造つまり 文化 の問題を抜きにしては本質か  しれない。ここでは,あくまでマーケティング現 らそれていく。       象の説明力としての効めがあれば,文化の定義を

さて第1章で詳述するが,これまでのマーケテ  よしとしたい。

イング研究において,文化が登場するのは消費者   それにしても,マーケティング研究において・

行動の説明変数のひとつとしてである。というの  「文化」は,フロイドの提示した「潜在意識」よ もマーケティングが消費者の欲求で始まり満足で  りももっとポピュラーな用語であるはずなのに,

終るプロセスを志向していたからである。そこで  その実体となると,「潜在意識」よりも確定しに は,個人としての消費者に主な関心があり,全人  くいのが現状である。

としての消費者が問題になっていなかった。だか   文化は,人間の所産に対して与えられた言葉で ら,個人の欲望こそ問題になれ,それらの共通の  ある。文化とは何かを考える場合,したがって私 下支体である文化が正面からとりあげられること  達は,人間と人間以外の動物を区別する行為にま が少なかった。しかし,ごく最近になってその可  で遡って,その芽を見つけることになる。

能性を指摘する声がでてきている。        道具を使う。火を使う・言葉を話す・これが周 そこで第∬章においてr文化」という視点から  知の通り,よく引きあいに出される文化の芽であ マーケティングの諸概念をもう一度見直し,再構  る。現在のところ,人類学の研究でも・何時の時 成してみたいと思う。       代からどのようにしてこれらの行為が開始された

そして最後に,第皿章においてそれらの諸概念  かは推量の域を出ていないようである・

の上に,具体的に商品化の問題をとりあげてみる。   しかし,人間が,真の意味で人間になったのは 題材としては「水」を想定した。最も基本的で,  言語がセきたからであるといえる。言語によるコ 物質の最初の存在であるからである。       ミュニケーションがあることによって,「火」の

(2)

16      茨城大学政経学会雑誌  第40号

使用にしろ,「道具」き2製作にしろ,人々の間に,   ところでEl本語の「文化」は元来,ラテン語 世代から世代へ,慣習,つまりあるひとつの生活  のクルトウラ(耕やす)からでてきたドイツ語の の様式(away of Living)が成立し,長く文化と  Kultureの訳語といわれている。したがって,文

して受けつがれていくようになるからである。   化というと,なんとなく舶来のハイカラな教養の そこで,人間の文化の発芽を言語によるコミュ  イメージがしてくる。それもいたしかたがないよ ニケーションに求めることができる。しかし,人  うな気がするが,ここではむしろ,英語のCulture 間の出す言葉と動物の出す声とはどこが違うので  (away of nving)生活の仕方ぐらいで考えてい あろうか。      くことにしたい。

文化人類学では,その差をシンポル化に求めて   というのは,教養はひろい意味で,文化の一形 いる。       態であり,より一般的な形で話をすすめたいから

「人間の言語だけがいろいろの音声の組合せに  である。

よってそれぞれ特定の意味をもった幾つもの単語   また,第二に,教養といっても中味が歴史的に を作り出し,しかもその単語がさらに一定の法則  あるいは国によっても違うからである。

によって複雑に組合わされたり句や文をつくりあ   さらに,第三に,マーケティングは,消費者と げているからだ」。)        いう知的であれ,知的でなかろうと,「市」井の

@これが言語のシンポル化と呼ばれる。一般にあ  人々を相手にするものであり,特定の教養人のた るもの(A)が他のもの(B)のもつ意味を代り  めのものではないからである。

にあらわすとき「AはBのシンボルである」とい   しかし,前者の教養の意味の文化がマーケティ う・このことによっていろいろの意味を自分の思  ングにおいて重要でないというわけではない。む うままに,単語や句や文によってあらわすことが  しろ日本ではその逆である。そのことについては できる。      詳しい説明を省くが,商品に文化と名前がついた

動物の言語は単なる「合図」(signa1)であって,  だけで売れる時代もあったし,また,現代の消費 それによって,遠い過去や将来の事物に対して意  生活においても外国の商品いわゆる舶来商品に対 味づけを与えようとするものではない。      する崇拝が根強く,その普及にあたって文化人一 したがって,文化の起源をシンボル使用に求め  とりわけ外国の生活と消費スタイルに詳しい人々 ることが可能になると,文化とは「シンポルと意  が果している役割が無視できないからである。

味の一体系」といいきることもできる。       それも日本文化(人)の大半が外国からの借り      (2) したがって,商品のもつ文化的意味あいにメス  ものによって成立しているからかもしれない。い

を入れるとするならば,商品のもつくシンボルと  ずれにせよ,ここでは文化に教養的な意味あいを 意味〉を覗くことが欠かせないテーマになる。   もたせないことにする。

ところで,第1章においてマーケティング研究   (2)マーケティング研究と「文化」の処遇 における文化の処遇について・「文化」概念の流   ごく大雑把に文化の概念的な流れを整理したの れに沿って追跡してみたいと思うが,その前に,  が図1である。

文化の意味について,若干の混乱を除くために,   まず,R・リントンの勧めるように,文化を考 すこしばかり説明を加えておきたい。       える際には予備的に「生活の様i式」(away of Hfe)

たとえば「文化」といわれた場合,「文化人」  という理解から入っていく。

「文化国家」「文化事業」「文化財」とかいったな ところで,生活様式の識と、・っても,文化人 にか崇高なイメージを抱くかもしれない。知的な  類学の当初は,その民族の特徴的な奇習慣習,文 教養のような意味にとられることが多いようであ  化財などに専ら関心があり,しかも断片的であっ

る。       た。

(3)

田 中:マーケティングと文化       17 マーケティング研究における最初の体系的な著  してきている。「顕在の文化」と「隠在の文化」

書,A・W・ショウの『市場配給の若干の問題点』  がそれである。

(1918年)においても同様に,文化の取扱いにつ  前述したように,A・W・ショウは文化を体系 いては次のように断片的であった。       的にはとらえていなかったけれども,需要という

「環境,教育,社会的慣習,個人的慣習,および  人間行動については構造的分析がみられる。彼は 物心両面の変化のすべてが人間にさまざまな欲求  広告と需要との関係に言及して,次のように指摘

を生み出させる傾向にある」      する。

      (4)

P871年文化についての最初の体系的定義がE・  「広告を論じる場合,販売努力によって喚起され B・タイラーによってなされたが,マーケティン  る三種類の需要について区別する。(1)明確に意識 グ研究自体まだ体系的に行なわれていなかったわ  された需要 (2)明確には意識されていない需要 けだから,当初の段階で隣接諸科学の研究を体系  (3)潜在意識的需要である。販売努力の直接的およ 的に取り込むなど不可能だったかもしれない。   び即時的成果は,明確に意識された需要のみに限

因みにテーラーの『科学的管理法』の影響で,  ぎるが,ビジネスマンは明確に意識されない需要

『市場配給の若干の問題点』は書かれている。   や潜在意識的需要についても配慮しなくてはなら E・B・タイラーは,文化を「社会の成員とし  ない。」

      (7)

ト,人間によって獲得された技能と慣習の複合的   A・W・ショウは以上のようにフロイドの潜在

全体」としてとらえている。      意識概念をとり入れ,それが人間の需要に影響を       (5)

また,R・リントンは,文化をr特定の社会の  与える点を認めている。

成員によって分有され,かつ受け継がれた知識,   やがて,クラックホーンは,これまでの多くの

態度および習慣的行動の総体」と定義している。  文化の定義を吟味整理し,「文化とは,ある与え      (6)

そこでは,タイラー同様に,文化のもつ統創生  られたときに,人間の行動にとって潜在的指針と が注目されている。しかし,リントンはタイラー  して存在するあからさまな,また,暗黙的な合理 の総合性に加えて,文化を目に見える文化と目に  非合理的,また無合理的な一一切の歴史的に創造さ

見えない文化というように,その構造1生を鮮明に  れた生活様式である。」と定義した。       (8)

図1 「文化」概念の流れ

生 活 様 式

顕在的      隠在的 社会の成員としての人間によって獲得

された技能と慣習 (知識・信念・信仰価値感)

慣     習  ll

。合体全体 観   念

\\E・B・Tyler 1871

、、 、

@、、  、、

習慣的行動         態  度    知  識       (総体)

ハースコビッツ

R.Linto 1940 環境の中の人 人間行動)

間によってつ

くられた部分 f

潜在的指針 SJquckhorn 1948

(学習⊃

(内在的、 外撚合騎非合理的・駿騨

L.A.WL蓋te 1949

シンボルの使用    シンボルによる伝達     意昧づけ

Mai…nowskl Schneider

個人の生理的心理的

E.T.Han1959 シンボルと意昧のシステム 欲求を充足する装置

コミュニケーション

(4)

18       茨城大学政経学会雑誌  第40号      」

また,彼によると「文化は,シンボルによって  質に関係するものである。」

獲得され罐されるものである」ともいわれる。 この文章からわかるよ乳ライフスタイル1ま,       (9) クラックホーンにょる文化の定義をまとめると  集団の個有の文化っまりサブカルチャーについて

次のようになる。      語っている。

①生活様式である       文化は第一義的には部族または民族に特徴的な

②暗黙的文化と明示的文化の2つの次元がある  生活様式の総体を意味するが,性別,年令,地域

③人間行動そのものではなくそれを指針するも  等の社会的セグメントにもとつく特殊的な文化が のである      ある。これをサブカルチャー(下位文化)と称す

④歴史的に創造されたものである       る。

⑤シンボル作用によって伝達される       サブカルチャーは,全体的な統一文化(universe マーケティング研究においても・これらの視点  cnltuse)に属しながらも,それから派生するヴァ がそれぞれのアングルから入り込んできている・  リエーションと見なすことができる。

①生活様式としての文化       マーケティング研究ではライフスタイルはサブ たとえば,P・M・マザーは,流通とは,生活  カルチャーの中でも特に消費行動を動かす要因と 標準(Standard of Living)の配達という説を述べ  して注目されてきている。

てい需)       レイザーは,文化とラィフスタイル,消費行動 流通はその時代に望ましく・かつ取得可能な財  を図2のような関係に想定している。

とサービスを消費者に提供しているわけだから,       図2W・レイザーのラィフスタイル概念

それは,その時代の生活の標準を提供していると

W.Lazer いえる。

生活の標準と生活の様式とは無関係ではない。     スタイル 文 化 と 社 会 生活様式というものは,個人また集団また国民に

特有のパターンを指し,標準とは,その努力すれ

集団および個人の期待

ば達成可能な平均像を指しているといえる。 と  価  値  観 生活の様式という視点では,ライフスタイル研

究のマーケティングへの適用を除外するわけには ライフスタイル・パターン

いかない。ライフスタイルは生活様式の差別的特 お よ び価値観 P

性に注目し,それをシステム的に再構成するもの i

である。 購  買  決  定 1

マーケティングにおけるライフスタイル研究の

先駆者,W・レイザーはライフスタイルについて 消費者の市場反応 一_」

次のように説明している。

「ライフスタイルはシステム概念であり,生活の     W レイザ胴 ライフスタイル概念と       マーケティング マネジリアルマーケ

差別的様式ないしは特性的様式に関係するもので     ティング(上)E・J・ケリー/W・レ ある。生活の意味を総合的にかつ最広義にとらえ      イザー編片岡・村田他訳・μ28

れば,全社会ないしは,社会のセグメントについ   ここで留意してほしい点は,ライフスタイル概 ての差別的ないしは特性的様式である。この概念  念の前提にはサブカルチャー概念があるというこ はある種の文化ないし集団のスタイルを表現し,  とである。

かつその文化ないしは集団を他の文化ないしは集   わが国のライフスタイルマーケティングがやや 団から区別するようなユニークな因子ないしは特  もすれば,上滑りな言葉遊びに走りがちであるの

(5)

田 中:マーケティγグと文化      19

も,この点を忘れてしまうからだ。(図3参照)  一ケティング理論構造の構築において,経営管理

       行動を規定する最基底部の理論として文化志向的図3 ライフスタイルとサブカルチャー

理論を想定し経営管理行動を指針するものとして

・   『の文化の可能性が指摘されている。(図4参照)

(12)

(1),圏    (m      図4マーケテイィング理論の階層

L.S        L.S

一  一  鱒  齢一  脚  殉  鯛  一   一  一     一  一  一  ロ  ー  一  一  一  鞠  翰 SC(1)    I   SC(π)     8

UC 経営管理

Life Style Subculture 制約条件

フローとシステム

Univers Cult凹re

市 場 構 造

② 暗黙文化と明示文化 社会構造 と 行動

文化に,暗黙的次元と明示的次元があることは 文  化  志  向  性 前述の通りであるが,マーケティング研究におい

トはこの点はまだ,十分に検討されていない。

        General Theory of Marketing o所R.Bartles       Journal of Marketing V32

@       (January. 1968)

マーケティングの暗黙的次元と明示的次元につ

いては(3)のコミュニケーションとしてのマーケ   また,1{・K・キャサリジャンとT・S・ロバ ティングで後述するつもりではあるが,恐らく,  一トソンは,消費行動を指針する最も基本的な要 十分な検討は, 今後の研究をまたなければなるま  因として文化を位置づけている。

(13)

い,      彼等によると,消費者の意思決定プロセスは 消費者の価値観あるいは潜在意識はもちろんの  図5のように,問題認識→情報探索→代案評価→

こと,流通における取引関係においても明示され  購買意思決定→購買意思決定購買後の評価という た契約書以上に・しきたりとか不文      図5 消費者行動の概略的モデル

律がそれ以上の効力をもっているこ       社会文化  社    会  個  人   意 思 決 定  マーケティング

とがある。

プロセス プロ セ ス プロセス プ ロ セ ス 要    図

「タテ社会」とか「甘えの構造」

等々,流通における制度的関係を説

明する際に多いに参考になる部分が

少なくないと思うが準備不足のため 問題認識 ノ残念ながら今回は割愛したい。

@しかしながら,この面において幾

文 化 社会

K級

家    族

?衷W団 l的影響

v新の普及

動機づけ m  覚w   習 ヤ   度 l  格

情報探索 繹ト評価

w買意思決定

製  品 Tービス L  告 ソ  格 ャ  通@etc

購買後の評価

つかの刺激的な研究が重ねられてき

ている。

③ 人間行動の指針としての文化 文化が人問行動の指針になるとい

う見解はマーケテ・ング磯におい・L脇的一L。鮪 一\.外部的ノ て最も多く見られる視点である。     影響力        影響力    影響力

たとえば,R・バーテルズは,マ       出所)}LK Kassa「ili趣n&T°s會R°悦 ts°n      中er8pecti讐es in Cons㎜ler Behavior」1968 P4

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20       茨城大学政経学会雑誌  第40号

プロセスを経る。       酒を飲む習慣,椅子にすわる習惧洋服を着る習 この意思決定に直接影響を与える,内部要因(個  慣等々,学校からの新しい文化が企業のマーケテ 人的プロセス)としては,動機づけ,知覚,学習,  イング努力によって普及してきた事例は数えきれ 態度,人格がある。外部要因特にマーケティング要  ないほどある。

因としての製品゜サービス・広告・価格・流通そ      図6マ_ケティングマネジャ_の の他のいわゆるマーケティングミックスがある。        フレームワーク

しかし外部的影響力はマーケティング要因だけ

ではなく・個人的プ゜セス樋して間接的影響を    づ・・°一ルで餓。与える家族・準拠集団,人的影響i,革新の普及と      文化的、いった社会的プロセスがある。      的 環

社会的

さらに,これは,社会階級の影響をうけ,その      政治的

最も基本的構造には文化がある。文化の型によっ

トはこれらは大きく変型していく。 量律農◎ 会社の資源

④ 歴史的創造物としての文化 マーケティング

ミックス

 マーケティングにおいて特に,歴史的視点から

フ系的に文化との関連を分析した研究はない。         経済的環境 驪ニの現況現在の競争 しかし・日常のマーケティング業務において,

ひとつの商品なり,あるいはサービス形態がどの

搬雛難野成されてきたかについ  騰離       「ベーシックマーケティング」

そして,文化については歴史的創造物であって P.31

現在は所与のものとしてとらえる視点が根強く浸   文化の次元でマーケティング戦略を考えた場 透しているといえる。       合,短期戦略としては,既存の習慣に商品を適合 たとえば,M・マッカーシーに代表されるよう  していった方がいいかもしれないが,長期戦略と に・戦略的に文化要因を管理不可能と限定してい   しては,新しい使用習慣をつくることも不可能で る。      はないし,いったん成功すれば,その市場におい

「文化的環境を変化させる可能性について,まず  ては圧倒的位置を築くことができる。

基本的態度の変化は緩漫に起るものだという事実   ⑤ シンボルと意味作用としての文化

を認識することが重要である。個別の企業は短期   マーケティング研究において,まだ文化のシン 的に大きな変化を促すということは期待できな  ポルと意味が本格的に分析されていない。

い温)      わずかに,商品のステータス・シンボルが検討 M・マッカーシーは,図6のように,企業をと  されているにすぎない。

りまく要因を管理可能要因と管理不可能要因とに   日本においては,不思議にもこの方面の研究は 分割し・管理不可能要因のひとつに文化を置いた。  理論分析を志向する学者よりも実務志向のマ_ケ

確かに・マーケティング戦略の視点からすれば  ティングリサーチャーやコンサルタントによって 文化は歴史的な遺産であって,所与の要因として  先駆的な業績があげられている。

取扱うことの方が戦略的にクリアになるかもしれ   以上①一⑤の視点は多かれ歩姿かれ,

ない。       イング研究に顔を出しては来ている。

しかし,マーケティングの長期戦略を考えた場   しかし,その視点は分散しており,マーケティ 命文化は必ずしも所与とばかりはいえない。洋  ングのまわり舞台としての文化のメカニズムをむ

(7)

田 中:マーケティングと文化       21

き出しにしていない。      マーケティングコミュニケーションにおける一 マーケティング研究における文化はこのように  次と二次の分類を提唱したのは,早稲田大学の小 蜥片的であって,文化という衣を身にまとって動  林太三郎教授である。

き回っている人間が浮ぴあがってこない。      彼は,従来のプロモーションとしてとらえられ 次章において,マーケティング,そして商品の  る次元を一次的マーケティングコミュニケーショ もつ文化一意味とシンポルーの分析的枠組を考え  ンと称する。

(17)

てみたい。      さらに,M・ウエン・デロジア教授の指摘する というのも,これまで見た通り,マーケティン  「消費者の知覚する企業の全活動」を二次的コミ グ研究において文化を取り扱う場合,文化につい  ユニケーションと称した。

(18)

ての体系的な枠組が欠けていたからである。      たとえば,広告,販売促進,人的販売,パブリ ところで,この文化の体系的な枠組の可能性と  シティは一次的コミュニケーションに属する。一 して,コミュニケーションが想定できる。     次的コミュニケーションにおけるそれぞれの特徴

文化は人間の全生活であって,人々は,その中  は表1のとおりである。

にあって,それの指針するシンボルと意味をわか  

       表1一次コミュニケーションの体系ちあって暮している。その意味で,文化は生活の

意味とシンポルのコミュニケーションシステムそ 主観的コミュニケーション

蝉讐1ウ…酷

のものであるからである。       一次マ_ケティ エドワードT・ホールの指摘したように,コミ  ングコミュニケ

蝉聾喜ラ…人的販売

二;;7協繰儲贔議繁ヒ!趨販)一ション 事物的コミュ_狭義の販ニケーション売促進

にする。 客観的コミュ_事実的コミュ..ノくブリニケーション ニケーション シティ

第狂章 コミュニケーションとしての       広義の販売促進である一次マーケティングコミ

マ嗣ケテイング ミックス   ユニケ_シ。ン}こは滴品のセールスポイントを ω意識されざるマーケティング・ミックス   多分に期待を込めて主観的に伝える場合と企業の マーケティングがどのように定義されようと,  事実に基づき客観的に報道する場合がある・後者 消費者の生活にかかわりあっているかぎり,商品  は通常パブリシティと呼ばれる。

とサービス,流通,販売促進,価格等に代表され   また,前者の主観的コミュニケーションの中に るマーケティング・ミックスもまた,生活の中に  は,情報(アナログ,デジタルであれ)をして語 包合されるものであり,生活のシンボルと意味を  らせる広告,人間をして語らせる人的販売,事物 具現化したものであるはずである。その意味で,  をして語らせる狭義の販売促進がある。

マーケティングミックスはコミュニケーションと   しかし,マーケティング活動におけるコミュニ しての存在である。      ケーションは上記に限ぎるわけではない。商品自 私達は,ここでマーケティングコミュニケーシ  体,たとえば,ブランド名,パッケージ名,デザ ヨンについて,三段階の階層を区別することがで  イン,カラー,サイズ,形,トレードマークなども きる。      消費者にコミュニケーションされるものである。

①一次的マーケティングコミュニケーション     また,よく知られている例では,コカコーラの

②二次的マーケティングコミュニケーション    ポトルデザインがある。女体を連想させる流麗な

③三次的マーケティングコミュニケーション    ラインは,1シンボリックなコミュニケーション媒 の3っである。      体として,中味にふさわしいある種の刺激的な快

(8)

22       茨城大学政経学会雑誌  第40号

感を伝えるのに十分である。       一次的,二次的コミュニケーションともに,知        、

Tントリーオールドの黒いまるみのあるボトル  覚できる,あるいは意識できる次元のコミュニケ はまた,高級感とまろやかな味をシンボライズし  一ションであるが,文化として,マーケティング

、・トいる。      ミックスを考えた場合,意識されないコミュニケ あるいは・洗剤に例示されたような・ブルー,  一ションの次元を無視することは出来ない。

白さ・香りもまた,清潔感と無縁ではない。     エドワード・T・ホールは,これをコミュニケ スーパ「マーケットで見かける999円のような  一ションとしての文化が持つ「かくれた次元」あ 端数価格も,安売りのシンボルである。      るいは「沈黙のことば」と命名している。

さらに,流通もまたコミュニケーションする。   たとえば,時間ひとつとりあげても,国によっ 立地さμる商店街,立地地点,店舗の型,陳列がい  て民族によって,地域によってその感覚が異なっ

かに消費者の心に訴えていくか・マクドナルドの  ているし,時間の意味するところも違ってくる。

店・吉野屋の店・あるいはパルコいずれをとって  あるいはまた,時間が言葉以上に有弁に物語るこ も,そこはひとつのコミュニケーション媒体とし  ともある。どんなていねいな言葉で応待していて て・消費者へある種の意味とシンボルを伝えてい  も十分な時間をかけることを避け,短時間でさっ る。たとえば・QSC(Qualtiy Service Cleanness)  さと切りあげている場合,客は,この店員が自分 がファーストフードストアのコミュニケーション  を大切にあつかっていないことを察知するであろ の3原則であるともいわれる。         う。時間がコミュニケーションしているのであ

小林教授は,これらを二次的マーケティングコ  る。

ミュニケーションと呼んだ。       同様に空間もまたコミュニケーションする。米 私達は・さらに・この上に・三次的マーケティ  国のスーパーで気づく人が多いが,あちらの売場 ングコミュニケーションをのせることができる。  は,ちょっと問伸びして閑散な感じを抱く。通路

(図7参照)       もゆったりととってある。 

図7コミュニケーションとしての       これに対して日本の小売店の売場は,たいてい マーケティングミックス       商品が所狭しと積みあげられている。上野のアメ

楓あるいはデパートのバーゲン場のように,客

ぎ冠イy ミ勤、エ と客の肩がぶつかりあう程の商店街の方が結構客

商   品

iプロダクト) 転       を集めている場合が多い。もちろん,欧米のマー

  ,腫{ コミ妬

Y    へ、.

     ケットにもその雰囲気がある。買いものがホット A   な楽しみであり,ゲームであるかぎり,獲物を追

的    、       的

壽了

一次的マーケティングコミュニケーション

象讐 了コ

「}

いかける興奮性をシンボライズする空間構成が考 ヲられるかもしれない。

τ多ン 享へ

プロモーション

歩ナ

狩ン E・T・ホールは空間を次の4つに分けている。

9価

?場        (19)

@密接距離

才乙格 窒ρ, 塩、  %、加へ    ド !qマぜ皿Ψ 才ろ所

②    他の人間の存在がはっきりととらえられ,感覚

@    入力の電圧が極めて高い。視覚,嗅覚,相手の体 温,息の音,におい,感じなどがすべて結合して 他人の身体と密接に関係しているというはっきり

とした信号になる。これは愛撫,格闘,慰め,保

{注にの図は小林太三鰍授の作図「アドバ舛ジング」   護の距離になる。 ユ977.7P36.に一部加筆したものである。

マーケティングコミュニケーションにおいては

(9)

田 中:マーケティングと文化       23 一部のセックス産業,プロスポーツ,バーゲンイ  ニュアンスや顔のこまかい表情や動きも感じとれ ベント,デスカウントストア,祭りなどの空間構  なくなる。演説などにみられるように,コミュニ 成がこの密接距離に基づくコミュニケーション空  ケーションの大部分が身ぶりや姿勢に移ってい 問をつくりあげている。      く。劇場,映画館,教室,ステージ,球場などに また,最寄品のような日用品や電気製品のよう  おけるコミュニケーションのあり方と関係してい な耐久消費財のように,ディスカウントの対象に  く。

なる商品と客との距離も,このような密接空間に   もちろん,これらの空間距離における感覚は多 した方が,量感や,割安感をコミュニケーション  小民族によって違ってくるであろう。

できるかもしれない。      日本人やフランス人,イタリア人などは,接触

②個体距離       性の強い民族であり,たとえば,ラッシュアワー 非接触i生の種のメンバーを恒常的に分かつ距離  の電車の中のような高密着空間は,通常,敵対す を示す。小さな防衛領域と考えてもよい。たとえ  るか,愛しあうかの距離であるのに・たいていの ば,喫茶店のテーブルとテーブルの間は少なくと  日本人はかなり許容している部分がある。

も,片手を伸ばしてさわらない範囲から,両方が   詳しくは,E・T・ホールの著書を読んでいた 手を伸ばして触れ合える範囲内にあれば,孤立感  だきたいが,要するに,時間とか空間がしばしば もなくかつ,テリトリーを確保できる。      言語以上のコミュニケーション効果をもつこと。

その他,レストランやバーのカウンターの客と  そして,それは「完全に意識された状態から意識 店のマスターの距離あるいは,客と買回品との距  外の状態に至る,意識のさまざまなレベルにおい

離などもこの中に入れることができる。      て同時におこなわれる」ことを示唆している・       (20)③社会的距離       ② コミュニケーションとしての商品構造

「私に見えるようにちょっと離れてごらん」とい   商品もまたコミュニケーションする・商品が物 われたときに取る距離である。オフィスにおける  理的特性と非物理的特性の両面の価値を持ってい 職員椅子の配置,客とマネキンガールとの距離な  ようと,それは生活における意味とシンボルの代

どにあらわれる。       弁者である。

この距離では,顔のこまかいディティールは見   私達は,商品のもつコミュニケーションの構造 てとれないし,特劉な努力をせずに相手に触れた  を図8のように3段階に想定できる・

り触れようとしたりはできない。         ① 感じられる次元

まさに,高級な専門品の場合などこのケースで   品質と呼ばれる次元で,主として物理化学的特 あって,店の奥からショウ        図8 コミュニケーションとしての商品構造

ウィンドーの中に商品が置 かれていて,客は,店員に ィねがいして,取ってもら

、とか,倉庫からもってこ

 麟されないを蛎⑨ .な・・臆1哉㍉ 働℃      ♂ 主として潜在意識、文化構造にもとつくもの

iエギ、アイ慌ンティティ、ナショナルティ etc)

蛯ニして物理的特性にもとつくもの

させるかして特別の努力を

5   亀

(品質、サイズ、カラー、デザイン     ー

払って実物を見ることがで {1)感じられる

パッケージネームetc)

(品 質) 主として効用にもとつくもの

きる。また,それゆえに, (便益、経済性、不満、イメージetc)

高級品なのである。

④公共距離

規定

この距離では,普通の声 で話される意味のこまかい

(10)

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性にもとつくものである。人間の五官によって感   また,商品の本質を規定するものとし,商品の じられる,品質,サイズ,デザイン,パッケージ,  神話性一意識されない文化的構造が指摘されるか ブランドネームなどである。       らである。

② 感じられないが・意識される次元      「我々は%インチのドリルを買うのではなく%の 便益(Bene∬t)に代表されるように,主として  穴を買うのである。」とT・レビットは語った。

効用(Utl1五ty)にもとつくものである。五官に  彼によれば,商品の本質は効用あるいは便益にあ よって感じられないが・意識によって察知される。  り,品質はそれを具現化しているにすぎないので 便益,経済性,不満,イメージなどがこれに入る。  ある。この見解は今では広く受け入れられてい

③ 意識されない次元      る。

商品の神話性を意味する。主として潜在意識,・   しかし,ここで,消費者は%インチの穴を欲し 文化構造にもとつくもので,エゴ,アイデンテ柔  ていることは意識しているにしても,なぜこうも ティ,ナショナルティ,パーソナリティに関係し  %ではなく%インチの穴が自分達の生活の様式に ている。       おいて必要になってきているのかについては意識

たとえば,酒ひとっとりあげてみても,そこに  されてはいないのである。

はアルコールの強さ,味,香り,色,という次元   消費者は通常,何が(whaの必要かは意識して の他に・自分が解放されるとか,コミュニケーシ  いても何故(why)かは意識されていない場合が ヨンが円滑になる・あるいは食欲が増す,熟睡で  多い。結局,インチという言葉が生活の素材の測 きる・人に見せてカッコよいなどの効用が意識さ  定単位になっているから,長さや幅に対する需要 れる。       がインチで表現されるのである。ドリルの生産者

また,さらに,その上に,人間の心の深い次元  はその需要に合わせて製品をつくる。

において関係してくる神話の構造がある。サント   別ないい方をすれば,インチという言葉が,生 リーオールドの場合には,日本人としての共通の  活のサイズの認識の仕方を教え,%,%という言 意識あるいはアイデンティティに関係してくるも  葉がまた,その分割法を知らせる。私達日本人の のがある・       場合は,メートル単位で世界を認識しているので

私達のマーケティング計画においては,通常に  ある。もちろん年寄には尺単位もいる。

は,①の次元は「製品計画」において,②の次元   商品のサイズの認識にあたって,消費者は自由 は,マーケティング計画において検討される。   に好きに,インチとかメートルで生活をとらえる しかし,商品のもつ神話性(シンボルと意味)  ことはできない。そのように訓練されていないか については,当初からプランニングされるという  らである。すでにインチという規定,%,%と吟 よりも,消費者がそれをつくりあげていくことが  う規定は,言語を通じて,私達が意識していない 多かった。この次元をメタ・マーチャンダイジン  子どものうちに,私達の意識下に入り込んでいる グと呼ぶことにする。       からである。言語作用によって意識されない構造 メタ・マーチャンダイジングは,これからのマ  (言語構造)が意識される構造(インチ単位の世 ターになるものと思われる5.競合企業間のマーケ   B・ワープが以上のような大胆な考え方をだレ ティング競争力が大きく違わず,製品の品質面,  た時,理解したのはほんの少数であった。

効用面において差別化は難かしくなり,商品のも   彼によれば,言語とは,単に思想を表現する媒       覧

ツシンポルと意味の文化的位置付けの差が消費者  体以上のものなのである。事実,言語は思想形成 の漠然とした銘柄意識を動かすようになるからで  の一つ②主要な要素なのである。

ある。      英語のbrotherは日本語の「アニ」「オトウト」(2D

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田 中:マーケティングと文化       25

に対応する。日本語そは「アニ」「オトウト」と  う。RとLが区別できないように,微妙なスモ白 いう年長年少の区別がそれぞれ社会的に意味を持  『キーフレーバーを楽しむ習慣がないからである。

っ。       例として,ウイスキーをとりあげたが,香りに また,英語ならsnowとひとつの語ですますと  関係している商品だけでも香水,オーデコロン,

ころを,エスキモー語ではく降りつつある雪〉  口臭剤,消臭剤等々あるが,苦戦している商品も

〈積った雪〉〈住居用に固められた雪〉はそれぞ  ある。とりわけ香水やオーデコロンのように,香 れ別の言葉で区別されている。         渉強く感じるものが日本では難し、<。人間につい こうした区別は私達の意譲馨れていない構造に  そは香りとかにおいとかはあまりしない方が好ま 多く潜んでいる場合が多い。      れるからである。

商品の本質を決定ずる時に,その文化的構造を   文化的構造,いいかえれば,商品の意識されない 前提にしないと普及が難しい。         構造を無視した商品の拡売は失敗するであろう。

・いま,サントリーウイスキーを考えてみよう。   (5)意識されない商品構造への接近法 その商品上の基本的特徴は「味」にあるといって   これまでの説明から意識されない商品構造が商 もよい。      、       品開発の基本的ポジショニングを左右することが

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スコッチウイスキーの特徴は「香」である。ビ  おわかりいただけたと思うが,問題は,そこへど 一トの乾燥したものを焼くことによってモルトに  のようにして接近するかである。

つくスモーキーフレーバーは,ズコッチに欠かせ   これまで,このような無意識的な構造への接近 ない要素である。       は,主としてモチベーションリサーヂによって展

これに対して,サントリーのいうジャパニーズ  開されてきた。

タイプのウイスキー一には,このスモーキーフレー   しかし,モチベーションリサーチは現在,それ バーが薄いのである,そのかわり,微妙な日本人  ほどの評価をうけていない。いきづまりの状況と の舌に合わせて味がつくられてある。「香」のウ  いってもよい。

イスキーに対して「味」のウイスキーといっても   確かに,モチベーションリサーチによづて意識 まい。       されない構造の中から,本能,性,エゴあるいは

特別の訓練を受けないかぎり,私達日本人は,  幼児体験などをピンホールからかい間見ることが 英語のRとLの区劉が出来ない。特別の注意をし  できたが,構造的に,体系的にとらえられること ないかぎり,Nを有声音で発音しない。その区別  が少なかったために,マーケティング戦略の構造 が私達の生活にとつて意味がないし,そのような  の中に組み入れることが困難であった・

茸や口で自然をとらえるように習慣づけられてい   この欠点を埋めるものとして,文化的接近の可 ないからである。      能性が指摘できる。

これとは反対に,香りについては,英語の言葉   文化的接近法として次の二つが考えられる・

は実に豊富で,明確に区別して使っている。アロ  ①言語の意味構造の分析

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マ(aroma),フレーバー(flavor),パーヒューム  ②文化への構造主義的接近

(perfUme),スメル(Smell),フレグランス(fya   ①は,これまでも説明したように・語彙の意味 grance),アダー(odour),セント(Scent)    の収集分類を通じて国民特有の商品認識のパター

日本語では,香り とにおいの二種類ぐらいしか  ジを探る方法である。たとえば,英語と日本語に       (を5)

ネく,あとは,良い悪いの区別である。      おける「香」に対する言葉の多寡・あるいは相違 ウイスキーという香りの商品が日本文化のなか  などを通じて,生活における意味内容を分析する。

にポジショニングされるとするならば,「味」、の   ②は,レビィ=ストロース的な分析方法を援用 ウイスキーがまずもって適当な位置といえるだう  し.商品の神話=文化構造を解明しようとするも

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のである。       商品というモノを一度物質に還元し,そこから宿

(26)

構造言語学者,ロランバルドやS・1・ハヤカワ  命的に派生する文化一シンボルと意味の一体系一

(27)         (28)

は現代の神話作用として広告をとりあげているが  の問題を考えることにしたかったから,まず「モ 商品の広告コピーの中に,商品の文化構造的側面  ノ」の代表として水をとりあげた次第である。

を見い出すことができるかもしれない。      (2)生命,母性,思恵,創造,休養

たとえば上下,天地,左右,白黒といった二   Whiskyの語源はケルト系のスコット人が使っ 項対立構造は,各民族にとって共通に区別されて  ていたゲール語のVisqe Beatha(ウシュクベハ いることが多くの文化人類学者によって指摘され  一)で,それはく生命の水〉の意味を持つそう ている。仮説的ではあるが,右という言葉は正,  である。BrandyもまたEaレdゆvie(オード・ヴ 強,吉,労働に結びつき,左が邪,弱,不吉,暇,  イ)生命の水と命ばれている。

遊に結びついていることが指摘されている。     いうまでもなく,酒でなくとも「水」は生命の

く29)

酒飲みを「左きき」といったりするが,ノミを  水である。これなくしては生理的にも生きていけ つかう手,という意味以上の意味を暗示すること  ないし,生活も成立しない。

はいうまでもない。      ・「都会は住みやすい」といえるために。……

文化構造的分析は商品コンセプトの開発に重要   「水キキンのない」暮らし,「水洗トイレ完備」

な示唆を与える可能性がある。         の暮らし,「ゴミは焼く」という暮らし,(昭和 次章において,これらの分析法を土台に,商品  40年久保田鉄工)

の意味構造への接近を試みてみよう。       の広告コピーに見られるように水は暮らし,都

第騨水の文化摘品     会的暮らしにとって冬偲ない擁である・      タイの大河メナム川は母なる川と呼ばれ,その

(D 最初の物質「水」      流域は世界的な米の大産地であり,タイの人々に        ●   ■

アれまで商品の意味構造への接近の可能性を検  恵みをもたらす最大の恩人であることは地理で学 討してきたが,ここでは,具体的に,「水」をと  んだとうりである。

りまく商品を文化構造的接近によって姐上にあげ   水は母性である。恵みの象徴である。子どもは てみたい。       母の羊水で育ち,母乳で大きくなる。また,雨が

題材としては,「水」でも「火」でもよかった  降らなければ作物はできない。入水権は農村の生 のであるが,「水」は生命の根源でもあり,必須  命線であった。

の物質でもあるからである。       子どもが胎内できく音は,波の音に近いといわ また,ガストン・バシュラールは,言語的にも  れている。ラ・メール,海は女性形である。水は 水は最初の物質の徴を持つと次のように語る。   やすらぎである。イギリスの動物学者,ライアル

「母音のa〔アー)は水の母音である。……それ  ・ワトソンによれば,どの動物も,水飲み場にい はaqua(ラテン語の水)apu(ルーマニア語の水)  る時の方が餌場にいる時よりもずっとリラックス wusser(ドイツ語の水)に命令する。それは水に  しているそうである。

(32)

よる創造の問題となる。aは最初の物質のしるし   人間も同様であって,食卓では緊張感をおぼえ だ。」      るが,パブ,バー,喫茶店という水飲み場ではく

(30)

私達の子どももまた,水を「アコ」と呼ぶ。水は  つろぎややすらぎを求めていて,ずっとリラック

(3且)

種々の物質の質の中においてもその精神作用は日  スしているのが普通だ。

常的なものから神聖な次元までゆきわたり,しか   相撲でも休みを入れることを水入りというよう も代替できない不可欠の要素であるからである。  に,水は休養の象徴である。

なお,商品の文化的意味あいを探るにあたって   また,水のなかでも温かいものは,もっとあた

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田 中:マーケティングと文化       27

たかい感清を与えてくれる。       ある。

ところで,日本語ではr水」と「湯」とが区別   宗教学者ミルチャ・エリアーデは「水はどんな されているが,英語ではともに「ウォター」であ  宗教的連関の中に登場しても,その機能は常に同 る。ちょうど英語では兄弟がブラザーであり,日  一である。すなわち,それは分解し,形を破棄し 本語のように「アニ」「オトウト」が名詞として  く罪を洗い流し,〉同時にかつ再生する」・と水 区別されていないのと同じである。つまり,英語  の意味を指摘する。

(33)

では湯はホット・ウォターである。        汚染のもつ恐ろしさを示した最初は水であっ 日本では昔から温泉が多く,湯は自然そのもの  た。水のもつ清浄化作用が限界に達したことから であり,水とは始めから区別された個別の意味を  生命の,自然の,そして地球の危機を直観した・

形成されていたからであろう。         これが.生命の,物質の始源である「水」でなか 因みに,中国語の湯はスープのことであり,日  ったら,あれほどの危機感はもりあがらなかった 本語の湯とは同じではない。もっと人工的文化的  であろう。

な存在である。中国語でも,英語でも,湯はわか  ・「みどり」失調(昭和42年,栗田工業)

されるものである。もちろん,日本でも日常の暮  ・「人間の心に流れる川。産業ノ水源。社会の水 らしの場に,温泉がそれほど多くあったわけでは  源」 (昭和45年,栗田工業)

ないし,温泉では料理や飲み水,農業用水に使え  ・「『水をきれいに……』低リン化を目ざすライ ないわけだから,お湯をわかすことについては,   オン油脂の洗剤です」

特別の文化的意味が含まれてくることは,英米と   これらの商品は水の清浄化作用の回復をポイン 同じである。      トにした商品の発想である・

ところで,お湯は温泉のお湯に代表されるよう   ところで,化粧品ほど日頃から水の清浄化機能 に,いこいの機能をもち,休養を提供するもので  をはっきりと唱っているのも少なくない。

ある。古来から湯治場が農民や町人のあるいは老  ・「夏,メークアップも水で仕上げましょう」(資 人のレジャーセンターになってきた。こうしてお   生堂)

温の文化は「浮世風呂」にみられるように,日本  ・「お肌,狙らわれています。クレンジングクリ       o  ●  ●

独特のレジャー文化をきづきあげてきた。      一ムで油性の汚れや化粧を落し・アクアクリー 家庭においても温かいお湯がいつもふんだんに   ンで見えない汚れまですっきりと洗い流しま 使えることは家庭の暖かさの象徴でもある。「日   す。」(昭和53年,ボーラ・ポシリマ)

本の湯パロマの湯」(パロマ瞬間ゆわかし器)   化粧品の広告メッセージには,水:油=清:汚 のCMや日曜午後パロマ提供「家族そろって歌合  =軽:重=若さ:老いの二項対立的構造がよく登 戦」にみられるような暖かい家庭のふん囲気こそ  場する。

平凡だが,まじめな庶民のマイホームなのであり   この点について,ロランバルドは次のように 労働のつかれをとり,明日への意欲を回復するこ  語っている。

とができるのである。水はこのように,肉体だけ   「若い肌はみずみずしい。しかし美がつくられる でなく,精神も生活もそして自然さえも再生させ  肌の深部へ到達するにはあまりにも気化しやすく

る。       軽く辛抱強くない。この点,油性の物質は長持ち

(3)清めとしての水       し,重みがあり,ゆっくりと表面に喰い入り,ひ 水は恵みだけでなく,清める働きがある。水で  たし,あともどりなしに,〈毛孔〉に滑り込む。

からだを清めることを「みそぎ」という。インド  しかし,さっぱりせず柔かさは極端で人工的だ。」

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のガンジス川も聖なる川としてあがめたてまつ   そこで「化粧品の宣伝は,すべて敵対する二つ られている。キリスト教においても聖水の観念が  の液体をたがいに補うものとみなし,奇績的に組

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