海洋性発光細菌を用いた微生物実験教材キットの試作と試用
和田 実
*1,湯 玲子
*2,今田 千秋
*3Use of a marine bioluminescent bacterium to develop teaching materials for basic microbiological experiments
Minoru W
ADA*1, Reiko Y
U*2and Chiaki I
MADA*3Our objective of this research is to make safe and easy access for students to basic microbiological experiments at high schools and universities. We used a marine bioluminescent bacterium,
Photobacterium phosphoreumstrain OC2-1 at four classes, one in a high school in 2005 and other in 2008, and other two in a university in 2006. At the beginning of each class, all students learned the principle of obtaining bacterial single colonies by dilution, and practiced streaking and spreading OC2-1 cultures onto agar media after serial dilution. University students further conducted three kinds of experiments to study the effects of oxygen depletion, osmotic stress and immobilization by alginate calcium on the bacterial luminescence. In 2008’s practice, a hand-made luminometer which was comprised of a solar battery and a voltmeter was used to monitor the light output from the bacterial culture. According to the results of the questionnaire to ask students for their opinions on the practice, we concluded that the experiments with bioluminescent bacterium captured students' interests, and fostered better understanding of microorganisms.
Key Words:微生物実験,理科教材,海洋性発光細菌
細菌は地球上のほとんどすべての環境に存在するが,個々 の細胞を観察するには高倍率の顕微鏡を必要とするため,実 際の生き物としてその存在を身近に感じることが少ない対象 である。しかし,細菌に関する正しい認識と理解は,公衆衛 生の改善,維持や向上にとって必須であるとともに,バイオ テクノロジーなどを通した産業振興,生態系の保全や環境修 復の推進にとって不可欠であり,
1)現代社会における生物学 リテラシーを構成する重要な事柄の一つと言える。
細菌に関する生物学的知識は,おもに高校生物Ⅰの「細胞」,
「生殖と発生」と「遺伝」,生物Ⅱの「分子からみた生命現象」,
「分子からみた遺伝現象」,「生物の多様性と進化」と「生物 の集団」などで学習される。具体的には,細菌は核を持たな い単細胞の微生物であること,二分裂によって増殖すること 等を学ぶとともに,光合成や窒素固定,硝化など多様なエネ
ルギー代謝を行う種類がいること,環境中の炭素や窒素等の 元素循環に重要な役割を果たすこと,人を含めた他の生物に 対して病原性を示す種類がいる一方で,分子生物学の発展に 貢献し,遺伝子クローニングなどバイオテクノロジーに利用 されること等を学ぶ。
2)これらの内容は細菌に関する基礎的かつ重要な知見を含 み,個々の単元理解を目指した教材研究も行われているが,
3)現実には授業時間や実験設備,準備等の制約など,様々な理 由によって,細菌を材料にした生物学実習の機会を持つこと は容易ではないと考えられる。
このような背景のもと,我々は光を放つ細菌(発光細菌)
に注目し,その理科教育における応用を試行してきた。
4)発 光細菌は海水や海底泥,海産動物の体表等から,目に見える 光を放つコロニーとして容易に分離・培養されるので,細菌
*1 長崎大学大学院生産科学研究科・海洋資源動態科学講座
Graduate School of Science and Technology, Nagasaki University, Nagasaki 852-8521
*2 元 パレス化学(株)(現 (株)三菱化学科学技術センター)〒227-8502 神奈川県横浜市青葉区鴨志田町1000 Palace Chemical Corp (*present affiliation; Mitsubishi Chemical Corp.) Yokohama, Kanagawa 227-8502
*3 東京海洋大学大学院・海洋科学技術研究科・応用微生物講座 〒108-8477 東京都港区港南4-5-7
Graduate School of Marine Science and Technology, Tokyo Univ. of Marine Science and Technology, Tokyo 108-8477
和田,湯,今田:海洋性発光細菌実験教材の試作と試用 20
教材の好例として,これまでにも紹介され,生徒の興味を強 く引くことが示されてきた。
5-8)したがって,発光細菌を活 用すれば,細菌を用いる体験的な学習の機会を容易に提供し,
細菌や微生物に関連する単元学習への意欲も強く喚起するこ とできると期待される。
しかし,これまでの発光細菌の教材化の試みにも関わらず,
その普及が進んでいないのが現状である。その背景として,
幾つかの克服すべき課題があると考えられる。まず,発光細 菌の分離源として適当な,鮮度の良い海産魚介類を安定して 確保することは必ずしも容易ではないこと,そして無菌操作 の経験が無い場合には,発光細菌の分離および純化は難しい ことが挙げられる。また,菌株の純化が成功しても,その後 の継代培養や冷凍保存中に菌株の発光能力が低下しやすく,
一度低下した菌株の発光はほとんど回復しない等の難点があ る。さらに,教材に用いる発光細菌株の種同定や,病原性の 有無の確認を行った例も無く,教育現場において安心して用 いるために必要な情報が不足していると考えられる。
そこで,本研究ではあらかじめ筆者らが分離した発光細菌 株について,その種同定と病毒性の有無の確認を行ない,そ の菌株を培養するために必要な最小限の材料をキット化する ことにより,一般的な高等学校以上の生物実験室において,
簡単・確実に細菌の無菌操作と生物発光の実験ができるかを 検証し,将来的な発光細菌教材キットの普及,定着に向けた 改良点の抽出を目的とした。
具体的には,これまでに筆者らが海洋環境から分離,純化 した多数の発光細菌株の中から,安定して強く光る菌株を1 つ選び出し,16S リボソーム RNA 遺伝子配列に基づく同定 を行うとともに,急性病毒性の有無について,マウスを用い た確認試験を実施して安全性を確認した。その株を用いて都 内の普通科の高校生(1~3年生)ならびに理科系の大学生
(3年)に対して実習授業を行った。実習実験の結果と実習 後のアンケート調査結果に基づいて,本教材キットの普及の ために改良すべき点や発光細菌教材キットの将来性について 議論した。
材料および方法 1.発光細菌の分離,選定,同定
海水や海底泥等の試料を Nealson の原法
9)からグリセロ ールを除いた1/2 SWC 寒天培地(750ml 海水(塩分34パーミ ル程度),250ml 蒸留水,2.5g Bacto-peptone(Difco 211677, Sparks, MD),1.5g Bacto-yeast extract(Difco 212750, Sparks, MD),15g Bacto-agar(Difco 214010, Sparks, MD),1N水酸化ナトリウムで pH7.5に調整)に塗抹,25
℃で培養した。寒天培地上に増殖した発光細菌コロニーの中 から,発光が強く,暗所において発光が肉眼で明瞭に認めら れる OC2-1株を選別した。OC2-1株の同定のため,1/2 SWC 液体培地中で培養した細胞を遠心集菌し,DNeasy Tissue Extraction kit(Quiagen, Valencia,CA)を用いて DNA を抽出後,細菌の16S リボソーム RNA 遺伝子の共通配列プ ライ マー(27f ;AGAGTTTGATCCTGGCTCAG およ び
1429r;TACGGYTACCTTGTTACGACTT)を用いて PCR 増幅した。得られた PCR 断片のうち,1,406塩基対の配列を 決定した。 PCR 増幅の条件および塩基配列の決定については Wada et al.,
10)に準じた。決定された塩基配列について,
BLAST プログラムを用いて最も近縁な既知の発光細菌との 相同性を調べた。
11)2.病毒性試験
5週齢の ICR 系雌マウスを1週間予備飼育し,一般状態に 異常のないことを確認した後,試験に供した。試験動物はポ リカーボネート製ケージに各5匹収容し, 室温23℃ (誤差;
±2℃),照明時間を12時間/日に設定した飼育室において飼 育した。飼料(マウス,ラット用固形飼料;ラボ MR ストッ ク, 日本農産工業(株))及び水(水道水)は自由に摂取させ た。菌株の投与前に約4時間,試験動物を絶食させ,体重を 測定した後 OC2-1株培養濃縮液を3.2×10
8cfu/ml になるよう に調製したものを,20ml/kg の投与容量で胃ゾンデを用いて 強制単回経口投与した。これにより試験群の各試験動物個体 に投与される生菌数は6.4×10
9cfu/kg となった。対照群には,
滅菌海水を同様に投与した。観察期間は14日間とし,投与日 は頻回,翌日から1日1回の観察を行った。投与後7日およ び14日目に体重を測定し,t-検定により有意水準5%で群間 の比較を行った。観察期間終了時に試験動物すべてを剖検し た。これらの動物試験は,すべて財団法人日本食品分析セン ターに委託,実施した。
3.発光細菌を用いた教材キットの構成
マイナス80℃に保存してある OC2-1株を実習の2,3日前 に,1/2 SWC 寒天培地に塗抹し, 暗所25℃で2, 3日間培養 後,培地上に現れるコロニーの発光を肉眼で確認した。発光 が強い単一コロニーを分離しておき,実習前夜に新鮮な1/2 SWC 液体培地(約5ml)に接種して,25℃で約14時間振と う培養した。実習の開始3時間ほど前に,受講者の人数に応 じて菌液を新しい1.5ml 試験管に0.5ml ずつ分注した。なお,
実習が始まる直前まで,菌液は冷蔵もしくは氷中保存した。
OC2-1株の濃縮菌液は,1/2 SWC で液体培養した菌体を冷却
遠心機(Hitachi CR-21F)で遠心集菌(約4,000g,4℃,15
分間)した後に上澄みを捨て,培養時の1/10容量になるよう
に残した培養液中に菌体を再懸濁して調製した。この濃縮菌
液も受講者の人数に応じて,1.5ml のポリプロピレン製マイ
クロチューブに0.5ml ずつ分注し,使用直前まで冷蔵もしく
は氷中保存した。 基本実験に必要な1/2 SWC 液体培地, 同寒
天培地,希釈用の塩溶液 (1%NaCl)とともに,ポリプロピ
レン製の試験管(10ml),マイクロチューブ(1.5ml),スポ
イト(3ml),植菌用ループ,およびスプレッダー(ニッス
イ製)を用意した.これらのプラスチック製品は滅菌済みの
ものを使用した.この他,応用実験に用いる炭酸水(日本生
活協同組合連合会,co-op ただの炭酸水),2%アルギン酸ナ
トリウム,20%塩化カルシウム溶液および5MNaCl を実習
の受講者の人数に応じて調製した(Fig.1,Table1)。炭酸
水を除き, 試薬類は一級以上の純度のものを使用して調製し,
高圧蒸気滅菌(オートクレーブ;121℃,20分)した。予定し ている実験内容を記述した実験書を作製し,受講者全員に当 日配布した。
4.実習授業の実施
2005年11月7日および10日に,東京大学教育学部附属高等 学校の理科(生物)の授業で,高校3年生,12名を対象に本 教材キットの基本実験および応用実験の一部を行った。2006 年4月26日および同年9月4日には,東京海洋大学海洋科学 部海洋生物資源学科開講の応用微生物学実験において,学部3 年生(初回27名および2回目14名,合計41名)を対象に本教 材キットの基礎実験および応用実験を行った。2008年9月14 日には,東京農業大学附属中学高等学校において,中学1年 生から高校3年生までの19名に対して応用実験の一部を行な
った。いずれの場合にも,2〜4名ごとのグループ単位で実 験を進めた。
消毒用エタノール(70%v/v)で手先や実験台,実験器具 等を殺菌消毒した後,1/2 SWC 寒天培地上にあらかじめ培養 した OC2-1株のコロニー1つを植菌用ループで新しい液体培 地ならびに寒天培地へ接種した。寒天培地では,単一コロニ ーが得られるように定法に従って画線塗抹した。高校におけ る細菌数の測定実験では,寒天培地上の発光コロニー1つを ループで1ml の滅菌塩溶液(1%NaCl)に接種,振とう混 和した後,その0.1ml をスポイトで0.9ml の1%NaCl 溶液に 懸濁した。その後,0.1ml の菌懸濁液を0.9ml の1%NaCl 溶 液で希釈する操作を繰り返し,10
-6まで段階的な希釈列を作 らせた。大学における実習では,OC2-1株を12時間以上培養 した菌液0.1ml と0.9ml 滅菌塩溶液を混合した後,高校での実 習と同様に10
-6まで段階的な希釈列を作らせた。各希釈段階 の菌懸濁液0.1ml を,新しい寒天培地に滴下後,スプレッダ ーで塗抹させ,室温(約20℃)もしくは25℃の恒温室内で遮 光下で培養した。2-3日後に寒天培地上に生じた発光コロ ニーを暗所で観察・計数した。
応用実験として2005年および2006年には,(1)発光の酸素要 求性試験,(2)発光に対する浸透圧の影響試験, (3)アルギン酸 カルシウム法による発光細菌の固定化実験を行った。2008年 には,(2)の実験とともに,(4)太陽電池を用いた発光測定試験 を行った。
発光の酸素要求性試験では,あらかじめ0.1ml の OC2-1株 濃縮菌液を分注した2本のマイクロチューブを用意し,その 発光を確認した後,一方の濃縮菌液には炭酸水0.5ml を加え,
もう一方には同量の蒸留水を加えた。この時, 各菌液の NaCl 濃度は約0.1M となった。直ちにマイクロチューブの蓋を閉 め,強く振とうした後,両者の発光を観察した。5分程度経 過した後,マイクロチューブの蓋を開けて観察を継続した。
同様の実験を筆者らが行った際には,炭酸水を加えてから8 分後にスポイトを用いて菌液に通気した。
発光に対する浸透圧の影響試験では,0.1,0.5,2.5および 5M 塩化ナトリウム溶液を各1ml ずつ調製した後, マイクロ チューブ内で OC2-1株の濃縮液20µl と各塩化ナトリウム溶液 を混合した。蒸留水(1ml)にも同様に濃縮菌液を分注し,
最終的な塩濃度を0.01M とした。各菌液の発光を暗所で観察 するとともに,発光測定装置(GENE LIGHT 55,マイクロ テックニチオン (株))を用いて各試料から得られる10秒間の 発光強度 (積分した値)を測定した(室温22-23℃)。その際,
菌体を含まない蒸留水をブランクとし,各塩濃度における定 量値から差し引いた。
発光細菌の固定化実験では,0.5ml の2%アルギン酸ナト リウム溶液と同量の OC2-1株濃縮液をマイクロチューブ内で よく混合し,その混合物を20%塩化カルシウム溶液(2ml 以上)に滴下して撹拌した。 ゲルの生成は10ml の試験管もし くは200ml のビーカー中で行った。生成したアルギン酸カル シウムゲルをカルシウム溶液から取り出してプラスチック製 シャーレ上に置き, 新鮮な1/2 SWC 液体培地を少量加えてか ら暗所で発光を観察した。筆者らは同様の実験を行い,生成
Fig. 1.Items provided to each student in the laboratory
practices. They will be packed as an educational materials kit for delivery.
A: Agar plates (1/2 SWC),B: T-shaped spreaders,
C: Inoculation loop,D: Dropper pipette (sterile),
E: Culture Broth(1/2 SWC, in a sterile 50ml tube),F: Micro tubes (1.5ml)
㪚 㪛
㪜
A
B
C
D
E
F
1 cm
Table 1.
List of main items used per person in the laboratory practice
Name of items
Over night culture of strain OC2-1 Strain OC2-1 cell suspension
(5X concentrated) Agar plate㧔1/2 SWC㧕 Culture broth㧔1/2 SWC㧕 Sterile saline solution㧔1%
NaCl) Carbonated water
Distilled water 5M NaCl solution 2% Sodium alginate solution
20% CaCl2 solution Inoculation loop
Dropper Microtube (1.5ml)
Approximate amount used per person 1.0 ml
1.0 ml
1.0 ml
10 5 plates㧔20ml㧛plate㧕
5.0 ml㧔in 10ml tube㧕 8.0 ml㧔in 10ml tube㧕
3.0 ml 1.0 ml 0.2 ml 2.0 ml 10㧛package 10㧛package
和田,湯,今田:海洋性発光細菌実験教材の試作と試用 22
したゲルの発光強度を定量するとともに,タイタープレート
(48ウェル)上に置いて,写真撮影した(Nikon CoolPix 4500)。実験が終了した後,菌体および使用した器具は,すべ てオートクレーブまたは煮沸により滅菌した。
太陽電池を用いた発光測定試験では, 鉄製の暗箱 (150×150
×300mm)内に太陽電池(60×110mm, L−500M,ケニス)
を設置しておき,その受光面に接するように寒天培地上の発 光コロニーもしくは1.5ml マイクロチューブに入った発光菌 液を静置して,得られる電圧値(mV)をデジタルマルチメ ーター(PC-20,サンワ)で測定した。
5.アンケート
2005年および2006年の実習においては,参加した生徒,学 生全員にアンケートを配布し,本教材キットの有用性を評価 するために次の4つの設問,(1)「生物(微生物)の学習上,
役に立ったかどうか」,(2)「受験あるいは理科教材キットと して役立つかどうか」,(3)「実習は面白かったか」,(4)「学校 教育において本教材キットを導入する時期はいつが適当か」
を尋ねた。各設問に対する回答は,3ないし5つの選択肢か ら選ばせ,その理由を記述させた。また,基本実験の具体的 な実習内容を7項目に分け(1.「培養した発光細菌が放つ光 の観察」,2.「発光細菌の生態に関する講義」,3.「実験の 説明」,4.「無菌操作練習」,5.「寒天培地への植え付け」,
6.「段階希釈操作」および7.「希釈菌液の寒天培地への塗 布」),それぞれについて「必要性」, 「興味の高さ」および 「理 解度」を4段階で評価させた。大学生に対しては,この7項目 に加えて基礎実験に関わる3項目 (8.「培養した発光コロニ ーの観察」,9.「コロニーのカウント」および10.「1コロニ ーあたりの菌数の計算」)と,3種類の応用実験(11.「酸素 要求性試験」,12.「浸透圧実験」および13.「固定化実験」)
の合計13項目について同様にアンケートで評価させた。アン ケートは実習を終えてから2週間以内に回収した後,「必要 性」,「興味の高さ」および「理解度」の各4段階評価に対し て0から+3の得点を与えて数値化した。2008年の実習時に おいては,実験内容(塩分変化および太陽電池を用いた簡易 発光測定装置の評価)に関しての理解度を問うとともに,細 菌についての予備知識や興味を問う記述式アンケートを実施 した。
結 果
1.教材キットに用いる発光細菌の同定ならびに病毒性試験
海洋環境試料から分離した発光細菌株のうち, 強く発光し,
凍結保存から再び培地に増殖させた際にも,安定して同様の 強い光を放つ OC2-1株を教材キットに用いることにした。
OC2-1株は,岩手県大槌湾の海底泥から分離された発光細菌 株である。本株の16S rRNA 遺伝子配列(1,406塩基対)は,
既存のデータベースに対する Blast 検索の結果,既知の海洋 性発光細菌
Photobacterium phosphoreumと99%の相同性を示 した。このことから OC2-1株は
P. phosphoreumと同種である と考えられた。得られた塩基配列は,国立遺伝学研究所の遺
伝子塩基配列のデータベース (DDBJ/EMBL/GenBank)に 登録した(登録番号:AB304085)。
雌マウスを用いた急性経口毒性試験の結果,OC2-1株をマ ウスの体重1kg あたり6.4×10
9cfu 投与した一群は,14日間 の観察期間中に対照群と同様の体重増加を示し(Table2),
両群の間に認識しうる行動の差や疾病,死亡例は認められな かった。このことから,検体のマウスにおける単回経口投与 による LD50値は,雌では6.4×10
9cfu/kg 以上であると判断 された。通常の OC2-1株培養菌液が1ml あたり最大でも10
9細胞程度であることから,この試験結果を体重50kg の人に適 用すると,少なくとも10ml 以上の菌液を一度誤飲しても, 著 しい健康被害は生じないことが示唆された。
2.発光細菌を用いた基本実験
基本実験では,細菌の培養操作の基本手技を学ぶことを目 的として,菌体の接種,培養,段階希釈による生菌数(コロ ニー数)の測定を行った(Table3)。実習内容のマニュアル の配布と主旨説明の後,消毒用エタノール(70%v/v)によ る手先および実験台,実験器具等の殺菌消毒を行い,実験台 上で約3分間ガスバーナーに火をつけ,無菌操作上の意義を 説明した。 次に1/2 SWC 寒天培地上に増殖した OC2-1株の単 一コロニーを,新鮮な液体および寒天培地へ無菌的に接種し
Table 2.Results of acute oral toxicity of strain OC2-1
against female rodents
Before
administration 7 days after administration
14 days after administration Administrated rodents
(n=5) 25.4±1.7 28.4±1.6 30.3±2.6
Non-administrated
rodents (n=5) 25.4±1.8 28.4±1.7 30.3±2.7
Body weight (g) (mean ± standard deviation)
Table 3.
Typical time schedule of the laboratory practice using strain OC2-1
Category Activity
Basic experiments
Colony pick, Inoculation of cells on to agar plates with loop Inoculation of cells into culture broth
Serial dilution of a single colony
㧖 Counting of bacterial colonies grown on agar plates
Advanced experiments
Assessment of the bioluminescence output from strain OC2-1 cells suspended in carbonated water
Assessment of the bioluminescence output from strain OC2-1 cells suspended in different concentrations of NaCl solution
Preparation and observation of the immobilized cells of strain OC2-1
Lecture
Learning ecological topics on bioluminescent bacteria Intermission
Total
㧖 Colony counting was conducted under the dark condition within 2 days after the inoculation.
Approximate time required㧔min㧕 30
20
40
240
* 30
30
40
30
30
20
た。高校では OC2-1株の単一コロニーを段階希釈にも用いた が,大学では培養菌液を段階希釈した。OC2-1株1ml を接種 した液体培地,ならびに0.1ml を塗抹した寒天培地は,いず れも暗所で静置した。基本実験が終了するまでに,高校と大 学のどちらの実習においても,合計約1時間30分を要した
(Table3)。実習の2,3日後には,各希釈サンプルを塗抹 した寒天培地上のコロニーはすべて強く発光していた。高校 生が段階希釈法で推定した1コロニーあたりの生菌数は2.3
×10
4-1.0×10
7cfu(平均8.3×10
5cfu)であった(Table4)。
同様に大学生が測定した培養菌液1ml 中の生菌数は1×
10
8-4.5×10
9cfu(平均1.7×10
9cfu/ml)となった。
3.発光細菌を用いた応用実験
発光の酸素要求性を調べる実験では,OC2-1株濃縮液に炭 酸水を加えた直後から,発光は急速に減衰し,やがて見えな くなった。一方,蒸留水を加えた直後の菌液は,水の添加前 と比べて若干光が弱まったが,発光を確認できた。著者らが 発光量の変化を定量した結果を Fig.2に示す。 スポイトから 菌液に空気を吹き込むと,炭酸水を加えた菌液からの発光量 が急速に増加した。マイクロチューブのふたを開けて,菌液 を放置しておいても,緩やかに発光が回復した。
浸透圧が発光へ及ぼす影響を調べる実験では,最終塩化ナ トリウム濃度が0.01,0.1,0.5,2.5および5M の中で,0.5M の時に最大の発光値を示した(Fig.3)。 塩濃度が0.01M ある いは2.5M 以上では,発光は顕著に低下した。一方,0.5M と 0.1M の発光値の差は小さく (t 検定の p 値=0.022),0.1M の 発光値が0.5M より高い場合もあった。各試料の発光強度を 暗所において肉眼で観察した結果と,発光測定装置を用いて 定量した結果とは,よく一致していた。
3番目の応用実験では,アルギン酸カルシウム法によって 固定化された OC2-1細胞が,生理活性を維持するかどうかを,
発光によって確かめた。OC2-1濃縮菌体とアルギン酸の混合 物を塩化カルシウム溶液中にスポイトで滴下すると,直ちに
student A student B student C student D student E student F student G student H student I
1 UNC UNC UNC UNC UNC UNC UNC UNC UNC
- - - - - - - - -
0.1 UNC UNC UNC UNC UNC UNC UNC UNC UNC
- - - - - - - - -
0.01 23 254 76 UNC 215 UNC UNC UNC UNC
2.3E+04 2.5E+05 7.6E+04 -
2.2E+05 - - - -
0.001 9 28 0 100 83 89 76 23 49
9.0E+04 2.8E+05 0 1.0E+06 8.3E+05 8.9E+05 7.6E+05 2.3E+05 4.9E+05
0.0001 7 4 2 11 12 16 15 7 1
7.0E+05 4.0E+05 2.0E+05 1.1E+06 1.2E+06 1.6E+06 1.5E+06 7.0E+05 1.0E+05
0.00001 0 0 0 0 0 2 2 0 0
- - - - - 2.0E+06 2.0E+06 - -
0.000001 0 0 0 0 0 1 0 0 0
- - - - - 1.0E+07 - - -
UNC㧦uncountable
㧖Following equation was used to estimate the number of cells derived from a single colony of OC2-1.
N = (n/0.1)×1/D
n = number of colonies on each agar plate D = dilution factor
Dilution (D)
Number of colonies on agar plate (n: upper䋩䇭䇭䇭䇭 䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭Estimates of absolute cell numbers from a single colony of OC2-1*䋨N: lower䋩
Table 4.
Estimates of absolute cell numbers of a single colony of strain OC2-1 by serial dilution method
Fig. 2.
Changes in the bioluminescence output from strain OC2-1 cells suspended in carbonated water.
Ventilation of the cell suspension was made at the time point indicated by an arrow (↓). Error bars indicate the ranges of the output from duplicate samples.
Fig. 3.
Changes in the bioluminescence output from strain OC2-1 cells suspended in different concentrations of NaCl solution. Error bars indicate standard deviation of the outputs (n=9 for each treatment).
Bioluminescence (counts/10 sec)
Incubation time (min)
Carbonated water DW
NaCl concentration (M) Bioluminescence (counts/sample)
和田,湯,今田:海洋性発光細菌実験教材の試作と試用 24
直径 5mm 程度の球状もし くは円盤状のゲルが生成した
(Fig.4)。生成したゲルをシャーレ等の平坦な容器に回収後,
新鮮な1/2 SWC 液体培地を10ml 程度加えて静置した。ゲル の発光は固定化直後には極めて弱かったが, 速やかに回復し,
5分ほど経過すると肉眼で確かめることができた。培地を加 えた直後からゲルの発光量は増加したが,海水のみを加えた 場合でも同様に発光量が増加した(Fig.5)。
2008年に行なった太陽電池を用いた発光測定試験では,強 く光る発光細菌液を発光電池パネルの前に設置した場合に最 大で0.7mV の電圧が得られた。一方,海水のみを設置した場 合には,電圧は0mV であった。
4.実習のアンケート結果
2005年および2006年に本教材キットによる実習授業を受講 した高校生12名のうち9~10名,大学生41名のうち,36~41 名からアンケートの回答を得た(Table5,6,7)。本キッ トの有用性について尋ねたアンケートの結果,Table5に示 すように7割(7/10)の高校生が本教材キットを用いた実習 を生物の学習に役立つと答え,9割(33/36)の大学生が微 生物学の学習に役立つと答えた。高校生は「生物のすごさに 触れられるから」,「教科書で見たことを実際にできたから」,
「受験では使わないけれど,大学に行ってから役立つと思っ たから」などをその理由として挙げ,大学生は, 「細菌にも多 様なものがいることを知るきっかけになった」,「目で見て確 認できる」。「微生物は生物学を学ぶ上で重要な生き物だが,
高校等では実際に扱う機会があまりないので,この教材キッ トはよい」などを理由に挙げた。
過半数(5/9)の高校生は本教材キットが受験に役立たな いと判断したが,その理由として「教科書にのっていない」,
「生物 II を使わない」,「実際の研究に役立つことであり,受 験で使うことではない」などの意見が挙げられた。
本教材キットが理科教材キットとして役立つかどうかの問 いに対して,大学生の約7割(24/36)は理科教材キットと して役立つと答えた。その理由として「視覚的に感動する,
安全で操作しやすい,内容が適度である,失敗し難い,判り 易く興味がもてる」等の意見が挙げられた。一方, 「どちらと も言えない」あるいは「不向き」の回答理由として,筆者ら の説明の不手際や,実験の合間の待機時間が長かったこと等 が挙った。
高校生の7割(7/10)および大学生のほぼ全員(35/36)
が,実習を「まあまあ面白かった」あるいは「面白かった」
と答えた。その理由として,「細菌が光る様子に感動した」,
「自分で光る菌を培養し,目で確認できるのが楽しい」,「発 光を数値化する驚き,実験内容(結果)を一つ一つ確認しな がら進められる」などが挙げられた。
高校生の9割(9/10)が,本教材キットの効果的な導入時 期として,生物 I で原核生物に関する基礎的な知見(二分裂 による増殖,肺炎双球菌における形質転換(グリフィス,エ イブリーらの実験),大腸菌ファージの増殖(ハーシーとチェ イスの実験等)を学習する際が良いと回答した。6割の大学 生(25/41)も,本教材キットを高校生物で導入するのが適 当だと回答した。
Table6に示すように,10名の高校生が体験した基本実験 の7項目について,教材としての必要性と興味の高さ,およ び理解度に応じてアンケート結果に得点を与え,数値化した ところ,必要性において最も高い得点を得たのは3.「実験の 説明」であり(9名からの合計=22点),最低得点は4.「無 菌操作練習」に与えられた(合計=19点)。 同様に,興味の程 度では7.「希釈菌液の寒天培地への塗布」が最高得点(23 点)を得たのに対して,2.「発光細菌の生態に関する講義」
が最低点(16点)となった。理解度からみると,6.「段階希 釈操作」と7.「希釈菌液の寒天培地への塗布」が共に最高得 点(23点)を得たが,3.「実験の説明」,4.「無菌操作練習」
Fig. 5.
Changes in bioluminescent output from the immobilized cells of strain OC2-1 during the incubation.
Black circle: Cells were incubated with culture broth. Open circle: Cells were incubated with sterile seawater.
Error bars indicate the ranges of the duplicate samples.
Fig. 4.
Appearance of immobilized cells of strain OC2-1 with calcium alginate gel. Left: Bright field image, Right: Bioluminescent image
Bioluminescence (counts/min)
Incubation time (min)
+ medium + seawater
および5.「寒天培地への植え付け」の3項目は同じ最低得点 となった(19点)。
一方,大学生36名が基本実験中の10項目と応用実験の3項 目の合計13項目について評価した結果を Table7に示す。ま ず高校生が体験したものと同じ7つの基本実験項目に対し て,必要度が最も得点が高いものは4.「無菌操作練習」 だっ た(101点)が,最低点は2.「発光細菌の生態に関する講義」
の91点だった。前者の項目に対する評価は,高校生によるア ンケートで最低だったことと対照的である。高校生へのアン ケートには無い基本実験の3項目まで含めると,大学生自身 が寒天培地に発光細菌を接種後に行なった8.「培養した発光 コロニーの観察」が,必要性で最も高い得点 (103点)を得た のに対し,10.「1コロニーあたりの菌数の計算」と13.「固
定化実験」が最も低い得点となった(84点)。
実験に対する興味の高さでは,基本実験と応用実験の何れ においても,1.「培養した発光細菌が放つ光の観察」が95 点と最も高い得点を示す一方で,10.「1コロニーあたりの菌 数の計算」が必要性の評価と同じく最低点(61点)だった。
2008年の実習では,応用実験のうち,浸透圧実験を行う前 に細菌の細胞壁の存在について教授したところ,57%の生徒
(4/7)がその教授内容を実験結果と関連づけて理解できた と回答した。太陽電池を用いた発光計測については,発光に よる発電量をより大きくするための工夫として「電池の数を 増やす」,「鏡を利用する」などの改良点を挙げる生徒も見ら れた。
Table 5. Results of questionnaires (I) Results from high school students
1: Do you think will this kind of practice using the bioluminescent bacteria help you learn
biology?
7 0 3 10
2: Do you think is this practice useful for
entrance exams? 0 5 4 9
3: Did you enjoy the practice? 7 0 3 10
BiologyΣ BiologyΤ other total
Reply from university students䋪
1: Do you think will this kind of practice using the bioluminescent bacteria help you learn
biology?
33 0 3 36
2: Do you think is this practice appropriate for
high school students? 24 1 11 36
3: Did you enjoy the practice? 35 1 0 36
Junior high school High school University Others Total
The numbers represent those responded to the questionnaire.
㧖This is a summary of questionnaires made twice in 2005.
1
Questionnaire Yes
4: When do you think is appropriate to use the biominescent bacteria in biology class?
5 4: When do you think is appropriate to use
the biominescent bacteria in biology class?
9
Questionnaire Yes No Not sure
No
41 total
1 total
10 Not sure
25 10
0
和田,湯,今田:海洋性発光細菌実験教材の試作と試用 26
Table 6.
Results of questionnaires (Ⅱ) from high school students
Table 7.
Results of questionnaires (Ⅱ) from university students
Highly necessary
(3) Moderately necessary (2)
Less necessary
(1)
Unnecessary
(0) total Very much
interested (3) Moderately
interested (2)
Less interested
(1) Boring
(0) total Nearly
100% (3) About 50% (2)
Less than 50 % (1)
Nearly 0 %
(0) total
No. 1
Observation of bioluminescence from cultured luminescent bacteria
4 (12) 3 (6) 2 (2) 0 (0) 9 (20) 3 (9) 5 (10) 1 (1) 0 (0) 9 (20) 3 (9) 6 (12) 0 (0) 0 (0) 9 (21)
No. 2 Lecture 4 (12) 4 (8) 1 (1) 0 (0) 9 (21) 2 (6) 3 (6) 4 (4) 0 (0) 9 (16) 4 (12) 4 (8) 1 (1) 0 (0) 9 (21)
No. 3 Explanation of the
practice 4 (12) 5 (10) 0 (0) 0 (0) 9 (22) 1 (3) 6 (12) 2 (2) 0 (0) 9 (17) 2 (6) 6 (12) 1 (1) 0 (0) 9 (19)
No. 4 Aseptic manipulation 2 (6) 6 (12) 1 (1) 0 (0) 9 (19) 2 (6) 6 (12) 1 (1) 0 (0) 9 (19) 2 (6) 6 (12) 1 (1) 0 (0) 9 (19)
No. 5
Inoculation of the bacteria onto Agar plates
3 (9) 5 (10) 1 (1) 0 (0) 9 (20) 4 (12) 5 (10) 0 (0) 0 (0) 9 (22) 1 (3) 8 (16) 0 (0) 0 (0) 9 (19)
No. 6 Serial Dilution 2 (6) 7 (14) 1 (1) 0 (0) 10 (21) 2 (6) 6 (12) 2 (2) 0 (0) 10 (20) 3 (9) 7 (14) 0 (0) 0 (0) 10 (23)
No. 7
Spreading of diluted cell suspension onto agar plates
2 (6) 6 (12) 2 (2) 0 (0) 10 (20) 4 (12) 5 (10) 1 (1) 0 (0) 10 (23) 3 (9) 7 (14) 0 (0) 0 (0) 10 (23)
*Numbers represent those responded to each questionnaire, whereas the numbers in parenthesis represent scores given to each response.
This is a summary of questionnaires made twice in 2005.
Apprehension
Practice Menu
Necessity * Interests *
Highly necessary
(3)
Moderately necessary
(2)
Less necessary
(1)
Unnecessary
(0) total
Very much interested
(3)
Moderately interested
(2) Less interested
(1) Boring
(0) total
No. 1
Observation of bioluminescence from cultured luminescent bacteria
25 (75) 9 (18) 2 (2) 0 (0) 36 (95) 24 (72) 11 (22) 1 (1) 0 (0) 36 (95)
No. 2 Lecture 22 (66) 11 (22) 3 (3) 0 (0) 36 (91) 12 (36) 19 (38) 5 (5) 0 (0) 36 (79)
No. 3 Explanation of the
practice 30 (90) 4 (8) 2 (2) 0 (0) 36 (100) 17 (51) 16 (32) 3 (3) 0 (0) 36 (86)
No. 4 Aseptic manipulation 29 (87) 7 (14) 0 (0) 0 (0) 36 (101) 8 (24) 16 (32) 12 (12) 0 (0) 36 (68)
No. 5
Inoculation of the bacteria onto Agar plates
26 (78) 8 (16) 2 (2) 0 (0) 36 (96) 16 (48) 18 (36) 2 (2) 0 (0) 36 (86)
No. 6 Serial Dilution 23 (69) 12 (24) 1 (1) 0 (0) 36 (94) 5 (15) 25 (50) 5 (5) 1 (0) 36 (70)
No. 7
Spreading of diluted cell suspension onto agar plates
26 (78) 9 (18) 1 (1) 0 (0) 36 (97) 14 (42) 17 (34) 4 (4) 1 (0) 36 (80)
No. 8
Observation of bioluminescent colonies grown on the agar plates
33 (99) 2 (4) 0 (0) 1 (0) 36 (103) 20 (60) 16 (32) 0 (0) 0 (0) 36 (92)
No. 9 Counting colonies 19 (57) 13 (26) 2 (2) 2 (0) 36 (85) 1 (3) 27 (54) 8 (8) 0 (0) 36 (65)
No. 10
Calculation of cell abundance in a single colony
17 (51) 15 (30) 3 (3) 1 (0) 36 (84) 4 (12) 17 (34) 15 (15) 0 (0) 36 (61)
No. 11
Oxygen requirement of bacterial bioluminescence
25 (75) 10 (20) 1 (1) 0 (0) 36 (96) 19 (57) 12 (24) 5 (5) 0 (0) 36 (86)
No. 12
Effects of osmotic stress on the bioluminescence
23 (69) 12 (24) 1 (1) 0 (0) 36 (94) 15 (45) 21 (42) 0 (0) 0 (0) 36 (87)
No. 13
Immobilization of bacterial cells into calcium alginate
17 (51) 14 (28) 5 (5) 0 (0) 36 (84) 18 (54) 14 (28) 4 (4) 0 (0) 36 (86)
*Numbers represent those responded to each questionnaire, whereas the numbers in parenthesis represent scores given to each response.
This is a summary of questionnaires made twice in 2005.
Practice Menu
Necessity * Interests *
考 察
1.本教材キットの特徴および評価
本教材キットで用いる発光細菌 OC2-1株は,寒天培地上お よび液体培地中のどちらでも, 目に見える強い光を放つので,
暗所で容易に存在を確認できる。寒天培地上に増殖した発光 細菌のコロニーを計数する際には,仮に空気中の落下細菌や その他の細菌,カビ等(雑菌類)のコンタミネーションが起 きたとしても,発光するのは OC2-1株だけであり,無菌操作 が適正に行われたかどうかを容易に判定できる。高校と大学 で合計3回行った基本実験の結果,いずれの場合も雑菌類の コンタミネーションはほとんど無く,実質的に受講者全員が 無菌操作を誤りなく行えたと考えられる。各計数結果は,所 定の希釈率から大きくはずれる場合もあったが(Table4),
概ね期待どおりの計数値が得られた。
本教材キットの応用実験では,濃縮菌体を使用するので,
コンタミネーションの影響を実質的に無視できた。無酸素状 態や,極度の低張あるいは高張塩溶液中に置かれた OC2-1株 の発光は,肉眼で認識できるほど顕著に低下したので,外部 環境の変化が細菌の生理機能へ与える影響を全ての受講者が 直接認識できた。同じサンプルの発光をフォトメーターで測 ることにより,観測結果を容易に定量化できた。
アンケートの結果,高校生および大学生の多くが本教材キ ットで行った基本および応用実験を,生物あるいは微生物の 学習にとって有益なものと捉え,興味を示していたことが判 った。
坂本6)や坂田
7)も,発光細菌を用いる実験に対して生 徒が強い興味と関心を示すと報告しており,今回のアンケー ト結果によってそのことを確認できた。教材キットの使用時 期として,高校生物学習時が最も多くの支持を得たが,中学 校の理科実験として実施しても良いという意見も少なからず あった。このことから,中学校から大学に至る幅広い教育現 場において,発光細菌教材キットが有効に活用され得ると考 えられた。
2.発光細菌を用いた教材キットの事例と問題点
発光細菌を教材として利用する試みはこれまでにも行われ てきた。国内においては,羽根田
5),坂本
6),坂田
7)および
渋谷8)が,イカや魚を用いた発光細菌の簡便な分離, 培養方 法を報告し,発光細菌を用いた発光ランプの作製や,発光と 酸素の関係について実験案も提案している。しかし,細菌の 取扱いに習熟していない場合,細菌株の単離,保存や培養等,
実際の準備段階でコンタミネーションの影響を受け易く,教 育現場での実践を困難にしていると考えられる。一方,本教 材キットは,既に純化された発光細菌株と事前に作製した培 地を用いるため,特別な無菌設備をもたない通常の生物実験 室でも,確実に実験を行うことができた。また,本教材キッ トで使用した OC2-1株を体重1kg あたり10
9細胞以上という 高濃度でマウスに与えても,病毒性は認められなかったこと から,実質的には人に対しても誤飲や誤食による明らかな健 康被害は生じないと考えられた。
本教材キットで使用した OC2-1株と近縁種と考えられる
Photobacterium histaminum
には, アレルギーの原因物質の一つ であるヒスタミンの生合成能力を持つ株が知られている。
12-14)しかし, 本教材キットの OC2-1株は実習で用いた培地中(1/2 SWC)でヒスタミン産生をしないことが判っており(湯ら,
未発表),少なくとも実習時間内に生徒および教員がヒスタミ
ンに起因するアレルギー症状を示すことは無いと考えられ る。ただし,万一の誤飲や皮膚への付着の際には,消毒用エ タノールなどですみやかに殺菌するなどの対策が必要だと考 えられる。
国外においても, 本教材キットの OC2-1株と同種と考えら れる
P. phophoreum株を生物教育に用いる試みが複数あり,
15-17)インターネットサイトを介して発光細菌の実験例について記 述した pdf
ファイルをダ ウンロードすることもできる (http://cibt.bio.cornell.edu/programs/archive/0608alum/
lumos.pdf)。これらの事実は,発光細菌が理科教育材料の一 つとしてすでに海外でも認められ,実践的に用いられている ことを示している。しかし,これらの海外で開発された微生 物教材や教育プログラムの多くは,すでに無菌操作など微生 物の取扱い技術に習熟しているか,あるいは微生物実験の基 礎知識をすでに学んでいる指導者の下で実施することを前提 としており,本論文で示したような基礎的手技の教授に重点 を置く教材と比べて,微生物実験を初めて経験する教員には 活用しにくいと予用される。また,海外からの微生物のか入 は,手続きに要する労力と費用の負担が大きいと考えられる ので,本教材キットは国内における微生物学の実習環境を整 備するためにも役立つと期待される。
3.本教材キットの課題と展望
本研究の目的の一つは,発光細菌教材キットを用いた場合,
高校生など,微生物に関する初学者が容易に細菌の無菌操作 と生物発光の実験ができるかを検証することにあった。すべ ての実習において,殆どの生徒が寒天培地とループを用いた 基礎的な無菌操作を間違えずに行うことができたうえ,応用 的な実験においても,浸透圧や酸素濃度変化に対する発光量 の変化を定量観察し,用定された範囲の実験結果が得られた ことから,概ね本研究の目的の一つは達成されたと考えられ る。
今回実施した実験内容は,高校生物で学習する単元項目に 必ずしも準拠したものではないが,塩濃度の変化や酸素濃度 の変化が発光量に及ぼす影響を調べる実験は,生物Ⅰにある
「環境と生物の反応」などの単元学習
2)と関連付けることが できる。つまり,生物の応答を発光量の変化として容易に観 察し,記録できるので,体験的にこれらの関連単元項目の理 解を深めることに繋がると考えられる。
さらに,本実習時に,海洋性発光細菌の生態や生理,分子
生物学的な知見について簡単な解説を行ったところ,教科書
の学習範囲を超えた内容にも関わらず,高校生の過半数が興
味を示し,ほぼ全員が理解したと判断された。一方,すでに
細菌の取り扱いについて基礎的な知見や技法を習得している
大学生にとっては,本教材キットの実習内容が平易過ぎると
感じる意見もあったが,基本操作を確認できるので役立つと
和田,湯,今田:海洋性発光細菌実験教材の試作と試用 28
の答えが多数を占めた。このことから,細菌を専門的に学ぶ 大学生にとっても,本教材キットを有効に活用できることが 示された。一方,より高度な分子生物学実験の設備が整った 環境であれば,本教材の発光細菌株を用いて発光遺伝子の増 幅や検出,解析等も可能である。
また,2008年に用いた簡易発光測定装置は,太陽電池と電 圧計と暗箱を用意すれば生徒が自作可能なものであり,高価 な市販の発光測定装置に頼らなくても発光細菌の活性を定量 できる点で,教育現場での発光細菌の利用・普及を促す効果 が期待される。そのような観点から,今後は,簡易発光測定 装置に必要な部品,もしくは組み立て方の解説等をキットに 同包することは有益だと考えられる。
無菌操作の基礎技法の一つとして,白金耳(ループ)等を
炎にかざして滅菌する火炎滅菌操作があるが,本教材キットでは火気取り扱いのリスクを回避し,安全性を優先したため に,使い捨ての滅菌済みプラスチック器具を用いている。こ のために,実験後には多くの廃棄物が出ることは避けられな いが,火気が使用できない教室でも無菌操作を行なえる点は 今後の教材キットの普及にとっても重要だと考えられる。
教育現場における本教材キットの実践を支援する上で,キ ットの内容の充実とともに,細菌や微生物の専門的な教育と
訓練を受けていない教員のためには,特に事前説明を充実させる必要がある。その意味からも,今後はインターネット等 を活用して,本教材キットのマニュアルの公開や,関連する 事項について質疑応答ができるような態勢を整えることが重 要だと考えられる。
おわりに
Photobacterium phosphoreum
と同定された海洋性発光細菌 OC2-1株は安全な生物教材キットであり,本株を用いること によって,多くの生徒が細菌の基本的な培養操作方法を容易 に習得することができた。さらに本株の発光活性を指標にし て,酸素濃度や浸透圧など外部環境の変化が細菌に与える影 響を,視覚的に認識し,簡単に定量できた。
謝 辞
本教材キットの実習を行うにあたり,東京大学教育学部附 属高等学校 前田香織教諭,東京海洋大学大学院生 高正秀氏,
片岡渉氏,長岡正恵氏のご協力を頂戴しました。この場を借 りて御礼申し上げます。また,本論文を作成するにあたり,
宮城教育大学の島野智之准教授および,東京都教育委員会東
部学校経営支援センター経営支援室の降幡高志主事には,貴 重な議論ならびにご意見,ご批判を頂戴しました。愛知教育 大学の川上昭吾教授には,発光細菌教材キットについて貴重 な文献を頂戴しました。 心より厚く御礼申し上げます。なお,
本研究の一部は,財団法人日産科学振興財団の理科/環境教 育助成(2007年度分)を受けて実施しました。
文 献
1)井上明(2005):微生物学の概論と歴史,堀越弘毅監修,
井上明編,ベーシックマスター 微生物学,2-13頁,東京,
オーム社。
2)文部科学省 高等学校学習指導要領(平成11年3月告示,
14年5月,15年4月,15年12月一部改正)第5節 理科.
3)岩本昌之,篠沢隆雄:日本科学教育学会誌,15,48-54
(1991) .
4)和田実:月刊 海洋/号外,51,119-121(2009) . 5)羽根田弥太:
Sci. Rep. Yokosuka City Museum 28,79-83
(1981) .
6)坂本元五郎:採集と飼育,39,307-308(1977).
7)坂田恵一:生物研究14, 1-5(1990).
8)渋谷章(1988):植物の不思議な力,
鈴木皇編著,とくべつ面白い理科,岩波ジュニア新書 No.143,131-150頁,東 京,岩波書店
9)K. H. Nealson:Methods Enzymol., 57, 153-166(1978) . 10)M. Wada, A. Kamiya, N. Uchiyama, S. Yoshizawa, K.
Kita-Tsukamoto, K. Ikejima, R. Yu, C. Imada, H.
Karatani , N. Mizuno, Y. Suzuki, M. Nishida and K.
Kogure: FEMS Microbiol., 260, 186-192(2006).
11)S.F. Altschul, L.M. Thomas, A.A. Schaffer, J. Zhang,
Z. Zhang, W. Miller and D.J. Lipman: Nucleic Acids Res.,
25, 3389-3402(1997).12)P. Dalgaard, O. Mejlholm, T.J. Christiansen and H.H.
Huss:
Lett. Appl. Microbiol., 24, 373-378(1997).
13)M. Kanki, T. Yoda, M. Ishibashi and T. Tsukamoto:
Int. J. Food. Microbiol