博 士 ( 農 学 ) ル リ ー ジ ョ ン ユ ア メ リ ン グ
学 位 論 文 題 名
Greenhouse gas fluxes from tropical peatland of Sarawak, MALAYSIA
(マレーシアサラワクの熱帯泥炭からの温室効果ガスフラックス)
学位 論文内容の要旨
主 要 温 室効 果 ガ ス(GHG)で あ るC02、CH4お よびN20の 大 気 濃度 は 、 産 業革 命 以 来 、年間 そ れぞれ0.5%、0.8% および0.3%ず つ上昇し ている 。大気中の温室効果ガスの濃度はほぼ正確に 押さえ られて きてい るが、個 々の生 態系か らの温 室効果 ガスの 発生程 度は十 分ではなく、とく に熱 帯 泥 炭 での 測 定 例 は断 片 的 で ある 。 熱 帯 泥炭 は 世 界 の泥 炭地( 約4億ha; 全陸地 面積の 3% ) の8%に過 ぎない が、泥 炭地全 体が持 つ炭素 (約3500億t;陸地 炭素の25%)の20%を占 め、地 球の炭 素循環 に大きな 影響を 与えて いると されて いる。
熱帯泥 炭は、 東南ア ジアと くにインドネシア、マレーシアに広がっている。これらの国では、
現在、 熱帯泥 炭森林 を主にサ ゴヤシ やアブ ラヤシ のプラ ンテー ション に開発 している。それら の生態 系での 土壌か らの温室 効果ガ スフラ ックス の報告 例はな い。こ のこと が世界の温室効果 ガスの 収支に 大きな 不確実性 を与え ている 原因の ーっと されて いる。 その発 牛、吸収量とそれ ら の 支 配 因 子 を 知 る こ と は 、 世 界 の 温 室 効 果 ガ ス の収 支 を 見 積も る た め に重 要 で あ る。
以上か ら、本 研究で は、熱 帯泥炭 の森林、 サゴヤ シ、ア ブラヤ シ生態 系土壌 からの年間を通 した温 室効果 ガスフ ラックス を測定 し、そ れらの 生成吸 収プロ セスと それを 支配する環境因子 を 決 定 す る こ と を 目 的 と し た 。 地 球 温 暖 化 ポ テ ン シ ャ ル も 見 積 も っ た 。 1.温 室 効 果ガ ス フ ラ ック ス は 、 閉鎖 系 チ ャ ンバ ー 法 で 測定 し た。測 定した3つの生 態系は マ レ ー シア 、 サ ラ ワク 州 の ム カ地 区 の 半 径10km以 内 に あ る。 測 定 は 毎月1度2002年 の8月 か ら2003年の7月までの1年間行った。
土 地利用変 化の環 境因子 への影 響を理 解する ため、 土壌お よび環境 因子に 主成分分析を適用 した 。主成 分析の 結果は 森林を サゴヤ シ、ア ブラヤシ のプラ ンテー ション ヘ転換 した影響を良 く表 してい た。森 林の転 換はサ ゴヤシ 、アブ ラヤシと もに有 意に相 対湿度 を下げ 、地温を上げ た。これはサゴヤシとアブラヤシの林冠が小さく、十分に閉じていナょいことによると思われた。
部分 的に泥 炭表面 が大気 にさら されて いるこ とにより 、地表 面近く の大気 と土壌 温度変化を大 きく した。 またサ ゴヤシ の栽培 は地下水位と土壌水分を上げ、より嫌気的な環境を作り出した。
2.土 壌 か らのC02フ ラ ック ス は 森 林で 最 も 高 く(2.1 kgCm‑2 yrl)、 続 いてア ブラヤ シで (1.5 kgCm" yr・|)、サゴヤシ(1.1 kgCm" yrl)であり、アブラヤシとサゴヤシの土壌からのC02 フ ラ ッ クス は 森 林 にく ら べ 、 それ ぞ れ29% 、48% 低下した 。森林 土壌か らのC02フ ラック ス は過 去の報 告のな かで最 大であ り、ア ブラヤ シ、サゴ ヤシは ポルネオの水田やアマゾンの草地 で報 告され た値と 類似し ていた 。C02フラ ックス への環 境因子 の影響 の程度に 応じて 階層的に C02フラックスを抽出する樹形回帰分析(tree regression analysis)の結果、森林では相対湿度、サ ゴ ヤ シ では 土 壌 温 度、 ア ブ ラ ヤシ で は 土 壌水 分 がC02フラ ックス を説明 する最 も主要 な環境 因 子 で あっ た 。 こ のこ とは 、土地利 用変化 に伴う 微気象 と土壌 環境の 変化が 熱帯泥 炭からの C02フラックスに強く影響していることを示している。
3.森 林 と サゴ ヤ シ はCH4の 発 生 源であ り、そ れぞれ 、18.3 mgCm12yr・I、180 mgCm‑2 yr"
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のフラッ クスを示した。アブラヤシ だけが、CH4の吸収源であり、‑15.1 mgCm‑2 yr・|を示した。
こ れら の値 は 、IPCCで 用い ら れて いる54750 mgCm‥yrIIよ り小 さか っ た。 樹形 回帰 分析の結 果 、森 林で は 相対 湿度 が、 サ ゴヤ シと アブラヤシでは地下水位が主 要な環境因子であることを 示 し て い た 。 森 林 から サゴ ヤシ への 転 換は 地下 水位 の 上昇 によ り約10倍CH4放出 量 を増 加さ せ 、 反 対 に 、 ア ブ ラ ヤ シ へ の 転 換 は 地 下 水 位 を 下 げ る た めCH4を 吸 収 す る こ と に な る 。 4.す べ て の 生 態 系 はN20を放 出し た。N20放出 はサ ゴ ヤシ で最 も大 きく 、3.3 kgNha‑ly.1 であり、つい でアブラヤシの1.2 kgNha‑l y‑Iで森林では0.7 kgNha‑l y‑lだった。これらの値は、
IPCCで 用 い ら れ て い る16kgNha"y‑lよ り 著 し く 小 さ か った 。N20の 放出 は複 雑な 過 程を たど る と思 われ た。 そ れは 単一 の土 壌環 境 因子 で決 定さ れて お らず 、分 離できなかった。N20生成 に 関わ る土 壌因 子 が相 互に 同時 に影 響 しあ っていると考えられた。 それゆえ、重回帰分析によ り そ の 支 配 因 子 を 推 定 し た とこ ろ、 そ れぞ れの 生態 系 で異 なる 因子 がN20放 出を 支 配し てい た 。 主 要 因 子 は 森 林 で は 、 地 下 水 位 、25‑50 cm層 のNH゛‑N濃 度 で あ り 、 サ ゴ ヤシ では5cm の 地 温 、0‑25 cmのNH3. ‑N濃 度 で あ り 、 ア ブ ラ ヤ シ では 土壌 水分 、5cmの 地温 、0‑25cmの NH4゛‑N濃 度で あっ た。 施肥 が 行わ れる アブ ラ ヤシ の増 加は 森林 の71%増加していたが、地下 水 位 が 高 ま る サ ゴ ヤ シ へ の 転 換 に よ りN20放 出 量 は 森 林 と 比 べ て371% 増 加 し た 。 5.本 研 究 で は 熱 帯 泥 炭 の 土 地 利 用 変 化 に よ る 温室 効果 ガス 放 出はIPCCで報 告さ れ たも の よ り大 き くな ぃこ とが 示さ れ た。 おの おのの温室効 果ガスへの支配因子の統計的 手法を用いた 決定は それぞれの生態系において温 室効果ガス発生の温室効果 ガスの支配因子が異なっており、
同 一の も ので はな いこ とを 示 して いる 。すなわち、 熱帯泥炭での温室効果ガスの 大気と土壌に お ける 交 換は 異な る土 地利 用 によ り異 なる影響を受 ける。土壌環境因子を実質的 に変化させる 熱 帯泥 炭 の農 地へ の転 換は 土 壌か らの 温室効果ガス 発生を変化させる。したがっ て、熱帯泥炭 の 生態 系 タイ プは 温暖 化ポ テ ンシ ャル を見積もる上 で考慮しなければならない。 本研究で示し た3つ の 生 態 系 の 温 暖 化 ポ テ ン シ ャ ル はC02フ ラ ック スに 支配 さ れて いた 。こ のこ と は熱 帯 泥 炭森 林 土壌 が世 界レ ベル に おい て大 気C02.の 重 要な 発生 源と し て機 能し てい るこ と を示し て い る 。 今 後 の 課 題 は、 生態 系のC02収支 の ため の熱 帯泥 炭森 林 の年 間炭 素固 定量 の 見積 も りであ る。
学位論文審査の要 旨
学位論文題名
Greenhouse gas fluxes from tropical peatland of Sarawak .MALAYSIA
(マレーシアサラワクの熱帯泥炭からの温室効果ガスフラックス)
本 論 文 は10章 から な り、 図43、表17、引 用文 献442を 含む200ぺー ジの 英文 論 文で ある 。 他に参考論文5編が 添えられている。
京 都 議 定 書 は 地球 温 暖化 抑止 のた め に温 室効 果ガ ス排 出 量の 正確 な見 積も り を要 求し て い る 。 土 壌 は 主 要 温 室 効 果 ガ ス(GHG)で あ るC02、CH4お よ びN20の 主要 排出 源 であ り、 土 地利 用 変化により、 その排出量は変化することが 知られている。しかし、個 々の生態系からの 見積 も りは十分では なく、とくに熱帯泥炭での測 定例は断片的であり、この ことが世界の温室 効果 ガ スの 収支 に大 きな 不 確実 性を 与え て いる 原因 のー っとされている。 熱帯泥炭は、東南 アジアとくにイン ドネシア、マレーシアに広が り、これらの国では、現在、熱帯泥炭森林を主に サゴヤシやアプラ ヤシのプランテーションに開 発している。
本 研 究で は、 熱帯 泥炭 の 森林 、サ ゴヤ シ 、ア ブラ ヤシ 生態系土壌からの 年間を通した温室 効果 ガ スフラックス を測定し、それらの生成吸収 プロセスとそれを支配する 環境因子を決定す ることを目的とし た。地球温暖化ポテンシャル も見積もった。
1. 土 地 利 用 変 化 の 環 境 因 子 へ の 影 響を 理解 する ため 、 土壌 およ び環 境 因子 に主 成分 分 析を 適用した結果、 森林に比べ林冠が小さく十 分に閉じていないサゴヤシ、 アブラヤシでは有 意に 相 対湿 度が 低下 し、 地 温が 上昇 して い た。 さら にサゴヤシは森林に比 べ地下水位が上昇 し 、 土 壌 水 分 が 増 加 し 、 よ り 嫌 気 的 な 環 境 で あ っ た こ と を 明 ら か に し た 。
2. 土壌 か らのC02フ ラ ック スは 森林 で 最も 高く(2.13 kgCDl‑2 yfi)、続いてアブラヤシで (1.54 kgCm:fl)、サゴヤシ(1.11kgCnl一2yfl)であり、アブラヤシとサゴヤシでは、森林にく ら べ 、そ れぞ れ29%、48%低 下し てい た 。森 林土 壌か らのC02フラ ッ クス は過 去の 報告のな か で 最大 であ った 。C02フ ラッ ク スへ の環 境因 子の 影 響の 程度に応 じて階層的にC02フラック ス を抽出する樹形回帰分析(tr・ecregressionanaりsis)の結果、森林では相対湿度、サゴヤシで は 土 壌温 度、 アブ ラヤ シ では 土壌 水分 がC02フ ラッ ク スを 説明 する 最 も主 要な 環境 因子であ っ た 。こ のこ とは 、土 地 利用 変化 に伴 う 微気 象と 土壌 環境 の 変化 が熱 帯泥 炭か ら のC02フラ ッ クスに強く影響していること を示している。
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介
満
一
隆
周
野
崎
川
多
谷
波
大
長
授
授
授
教
教
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査
査
査
主
副
副
3, 森 林 と サ ゴ ヤ シ はCH4の 発 生 源 で あ り 、 そ れ ぞ れ 、18.3 mgCm‑2 yr‑'、180 mgCm‑2 yflのフ ラッ クスを 示した。アブラヤシだけが 、CH4の吸収源であり、‑15.1 mgCm‑2 yr"を示し た。 これ ら の値 は、IPCC報告 書 に引 用さ れて い る熱 帯泥 炭林 からの放出 量見積もりの原単位 (4106 ‑ 27000 mgCm‑2 yfl)より著しく小さか った。樹形回帰分析の結果 、森林では相対湿度 が、 サゴ ヤ シと アブ ラヤ シで は 地下 水位 が主 要 な環 境因 子で あった。森 林からサゴヤシへの 転 換 は 地 下 水 位 の 上 昇 に よ り 約10倍CH4放 出 量 を増 加 させ 、反 対に 、ア ブ ラヤ シへ の転 換 は地 下水 位 を下 げる ためCH4を吸 収し た 。
4. す べ て の 生 態 系 はN20を 放 出 し た 。N20放 出 は サ ゴ ヤシ で最 も 大き く、330 mgNID12 yrIlで あ り 、 つ い で ア ブ ラ ヤ シ の117n培Nm12rlで森 林で は70.2mgNm.2リ・lだ った 。こ れらの値は、IPCCで用 いられている16kgNhオly一1より著しく小さかった。N20の放出は複雑な 過程 をた ど ると 思わ れた 。そ れ は単 一の 土壌 環境因子で決定 されておらず、分離できなか っ た。重回帰分析により その支配因子を推定したと ころ、森林では、地下水位とN也゛‐N濃度、
サゴヤシでは地温とNH3.‐N濃度、アブラヤシでは土壌水分と地温、NH4゛.N濃度であった。ア プラヤシは施肥により 、サゴヤシは地下水位が高まることにより、森林にくらべ、放出量はそれ ぞれ、71%、371%増 加した。
5. 本 研 究 で は 熱 帯 泥 炭 の 土 地 利 用変 化に よる 温室 効 果ガ ス放 出はIPCCで 報告 され たも の より 小 さか った 。た だ し、 統計 的解 析の 結 果、それぞれ の生態系において温室効果ガ ス放 出 の支 配 因子 は異 なっ て おり 、熱 帯泥 炭で の 温室効果ガス 放出は異なる土地利用により 異な る影 響を受けることになり、熱帯 泥炭の生態系タイプは温暖 化ポテンシャルを見積もる上 で考 慮 すべ き 要因 であ った 。 本研 究で 示し た3つの 生態 系 の温 暖化 ポテ ンシ ャルを見積もっ た結 果 はC02フ ラッ ク スが90% 以上 を占 め てい た。 この こ とか ら熱 帯泥 炭森 林土壌は世界規 模で の 大気C02.の 重要 な発 生 源で ある こと を示 し てい る。 今後 の課 題 は、 生態系のC02収支 のた め の熱 帯 泥炭 森林 の年 間 炭素 固定 量の 見積 も りで ある 。
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