電磁気学で使う数学:第
12
回
1 月 21 日 清野和彦 数理科学研究科棟 5 階 524 号室 (03-5465-7040) [email protected] http://lecture.ecc.u-tokyo.ac.jp/~nkiyono/index.html3
マックスウェル方程式の積分形と微分形
前章で学んだ「場における微積分の基本定理」たちを使って(真空中の)マックスウェル方程式 の積分形から微分形を導いてみましょう。なお、物理的な意味には一切触れませんので、その点に は期待しないで下さい。 第 2 章では場は位置に対してスカラーなりベクトルなりを対応させる写像としてきましたが、 マックスウェル方程式の積分形を見たときにもそうだったように、微分形を述べるにも位置だけで なく時刻にも依存する場を考えなければなりません。位置と時刻を決めるごとにスカラーなりベク トルなりが決まる場を考えるということです。つまり、スカラー場とは空間のすべての点に数が対 応している、ベクトル場とは空間のすべての点からベクトルが生えていると考えてきましたが、こ こでは、その数や生えているベクトルが時間と共に増えたり減ったり伸びたり縮んだり方向を変え たりしていると考えます。とは言え、マックスウェル方程式の積分形に時刻を定数として考えた線 積分、面積分、体積分しか出てこなかったように、マックスウェル方程式の微分形には時刻を定数 として考えた場の微分と位置を定数として考えた時刻による偏微分(つまり、時刻のみの関数とみ なしたときの 1 変数関数としての微分)しか出てきません。3.1
マックスウェル方程式
まず、マックスウェル方程式に登場する場の記号を思い出しましょう。スカラー場は 電荷密度 ρ(P, t) の一つだけ、ベクトル場は 電場 ⃗E(P, t) 磁束密度 ⃗B(P, t) 電流密度 ⃗J (P, t) の三つです35。すべて位置 P と時刻 t に依存する場です。空間に座標系 xyz を固定すれば、これ らは xyz と時刻 t の 4 変数を持つことになります。なお、方程式に出てくる ε0 は「真空の誘電 率」という定数、µ0 は「真空の透磁率」という定数です。 以下、空間の領域 D の表面(ガウスの発散定理のところで説明した向き付き)を ∂D と書き、 曲面 S の縁(ストークスの定理のところで説明した向き付き)を ∂S と書くことにします。この 35物理的な意味から考えると電束密度 ⃗D と磁場 ⃗H というベクトル場も考えるべきなのでしょうが、これらは真空中で は ⃗D = ε0E および ⃗⃗ B = µ0H というように ⃗⃗ E と ⃗B の定数倍として表せるので、ここでは登場させないことにします。とき、「真空中のマックスウェル方程式の積分形」とは ∫ ∂D ⃗ E• d⃗S = 1 ε0 ∫ D ρdV ガウスの法則 ∫ ∂D ⃗ B• d⃗S = 0 単磁極の非存在36 ∫ ∂S ⃗ E• d⃗l = − ∫ S ∂ ⃗B ∂t • d⃗S ファラデーの法則 1 µ0 ∫ ∂S ⃗ B• d⃗l = ∫ S ( ε0 ∂ ⃗E ∂t + ⃗J ) • d⃗S アンペール・マックスウェルの法則 という 4 つの等式のことでした。空間についての積分を施しているので、これらの式の左辺と右 辺はすべて時刻のみを変数とする関数になっています。この 4 つの等式はすべて物理的な観測や考 察で得られたものを数式を使って表したもの、すなわち物理法則です。「物理なんだから当たり前 じゃないか」と思われるかも知れません。ところが、「真空中のマックスウェル方程式の微分形」 div ⃗E = 1 ε0 ρ ガウスの法則 div ⃗B = 0 単磁極の非存在 rot ⃗E =−∂ ⃗B ∂t ファラデーの法則 1 µ0 rot ⃗B = ε0 ∂ ⃗E ∂t + ⃗J アンペール・マックスウェルの法則 は物理的な考察だけからは得ることができない37のです。これらは対応する積分形の式にガウス の発散定理やストークスの定理という物理とは全く関係のない純粋に数学の定理を適用することで 得られたものなのです。 それでは、マックスウェル方程式の微分形を積分形から純粋に数学的に導いてみましょう。
3.2
積分形から微分形へ
3.2.1 「ガウスの法則」「単磁極の非存在」とガウスの発散定理 まず最初の二つを積分形から微分形になおしてみましょう。どちらでも全く同じですので「ガウ スの法則」の方で説明します。 積分形のガウスの法則 ∫ ∂D ⃗ E• d⃗S = 1 ε0 ∫ D ρdV (72) は、この等式が ⃗ E が存在する領域(数学風にいえば ⃗E の定義域)内の任意の領域 D について成立する 36第 1.8.4 節でも注意しましたが、この等式を「単磁極の非存在」と呼ぶのはもしかすると的はずれなのかも知れませ ん。しかし、名前がないと不便なのでこうしておきます。 37本当に得られないかどうかは物理の先生に聞いて下さい。ということを主張する物理法則です。一方、数学の方のガウスの発散定理は、 ∫ D div ⃗EdV = ∫ ∂D ⃗ E• d⃗S (73) がやはり ⃗ E が存在する領域内の任意の領域 D について成立する ということを主張する数学の定理です。物理法則 (72) の左辺と数学の定理 (73) の右辺は同じ式で すので、この二つを合わせると、 ∫ D div ⃗EdV = 1 ε0 ∫ D ρdV (74) がやはり ⃗ E が存在する領域内の任意の領域 D について成立する という結論が得られます。 この結論から等式 (74) の左辺と右辺の「被積分場」が同じ場であることが次のようにして証明 できます。 背理法で示します。すなわち、 div ⃗E(P0, t0)̸= 1 ε0 ρ(P0, t0) となる点と時刻 (P0, t0) があったとすると矛盾であることを示します。 まず、 div ⃗E(P0, t0) > 1 ε0 ρ(P0, t0) としてみましょう。すると、 ⃗E も ρ も連続であることから38P 0 を含むある領域 D0 内の任意の P について div ⃗E(P, t0) > 1 ε0 ρ(P, t0) が成り立つことになります。よって、時刻 t0 において ∫ D0 div ⃗EdV > 1 ε0 ∫ D0 ρdV となってしまって (74) に矛盾します。不等号の向きが逆でも同様です。以上により、物理的な考 察を一切せずに、ガウスの法則の積分形から微分形 div ⃗E = 1 ε0 ρ を導くことができました。 逆に、ガウスの法則の微分形の両辺を D で体積分し左辺にガウスの発散定理 (73) を使えば積分 形のガウスの法則 (72) が得られます。結局、ガウスの法則の積分形と微分形は全く同値であるこ とがわかります。 同様にして、「単磁極の非存在」 ∫ ∂D ⃗ B• d⃗S = 0 にガウスの発散定理を適用することでこれと同値な微分形の式 div ⃗B = 0 が得られます。 38ある物体だけが帯電している場合のように ρ が不連続なことは普通にあり得るわけですが、このゼミではそのような 場合までは扱わないことにします。以下の議論は、適当な修正のもとに ρ が不連続な場合にも適用できるようになります。
3.2.2 「ファラデーの法則」「アンペール・マックスウェルの法則」とストークスの定理 次に残りの二つの方程式について考えてみましょう。これもどちらでも同じことですので「ファ ラデーの法則」で考えてみます。 積分形のファラデーの法則 ∫ ∂S ⃗ E• d⃗l = − ∫ S ∂ ⃗B ∂t • d⃗S (75) は、この等式が ⃗ E が存在する領域内の任意の曲面 S について成立する ということを主張する物理法則です。一方、数学の方のストークスの定理は、 ∫ S rot ⃗E• d⃗S = ∫ ∂S ⃗ E• d⃗l (76) がやはり ⃗ E が存在する領域内の任意の曲面 S について成立する ということを主張する数学の定理です。物理法則 (75) の左辺と数学の定理 (76) の右辺は同じ式で すので、この二つを合わせると、 ∫ S rot ⃗E• d⃗S = − ∫ S ∂ ⃗B ∂t • d⃗S (77) がやはり ⃗ E が存在する領域内の任意の曲面 S について成立する という結論が得られます。 この結論から等式 (77) の左辺と右辺の「被積分場」が同じ場であることが次のようにして証明 できます。 背理法で示します。すなわち、 rot ⃗E(P0, t0)̸= − ∂ ⃗B ∂t(P0, t0) となる点と時刻 (P0, t0) があったとすると矛盾であることを示します。t による偏微分とマイナス 記号が目障りなので、しばらくの間 −∂ ⃗B ∂t = ⃗F と書くことにしましょう。 さて、 rot ⃗E(P0, t0)̸= ⃗F (P0, t0) とは「ベクトルとして違う」ということです。ベクトルとして違うということは、成分表示をした ときに少なくとも一つの成分は異なるということを意味します。そこで、適当に正規直交座標系 xyz を入れて、その座標系による rot ⃗E の成分表示と ⃗F の成分表示をそれぞれ R1(x, y, z, t) R2(x, y, z, t) R3(x, y, z, t) F1(x, y, z, t) F2(x, y, z, t) F3(x, y, z, t)
としたときに R3(x0, y0, z0, t0) > F3(x0, y0, z0, t0) となっていたとしましょう。((x0, y0, z0) は点 P0 の座標です。)すると、rot ⃗E や ⃗F が連続である ことから39、P 0 を含むある領域 D0 内の任意の P において R3(x, y, z, t0) > F3(x, y, z, t0) が成り立ちます。((x, y, z) は P の座標です。)そこで、P0を含み xy 平面と平行な小さな平面 S0 を D0内に取ると、S0 が xy 平面に平行であることから、S0におけるベクトル場の面積分は z 成 分の積分なので、時刻 t0において ∫ S0 rot ⃗E• d⃗S > ∫ S0 ⃗ F• d⃗S となってしまい、(77) と矛盾します。もちろん不等号の向きが逆でも同様です。以上により、物理 的な考察を一切せずに、ファラデーの法則の積分形から微分形 rot ⃗E = ⃗F =−∂ ⃗B ∂t を導くことができました。 逆に、ファラデーの法則の微分形の両辺を S で面積分し左辺にストークスの定理 (76) を使えば 積分形のファラデーの法則 (75) が得られますので、結局、ファラデーの法則の積分形と微分形は 全く同値であることがわかります。 同様にして、「アンペール・マックスウェルの法則」 1 µ0 ∫ ∂S ⃗ B• d⃗l = ∫ S ( ε0 ∂ ⃗E ∂t + ⃗J ) • d⃗S にストークスの定理を適用することでこれと同値な微分形の式 1 µ0 rot ⃗B = ε0 ∂ ⃗E ∂t + ⃗J が得られます。 以上のように、どこまでが「物理的な考察」でどこからが「純粋に数学の部分」なのかを常に意 識しながら物理学を学んで行くことが大切だと思います。
3.3
電磁波
前節では積分形から微分形を導くと同時に、積分形と微分形が全く同値であることも説明しまし た。だから「微分形に変形して何が嬉しいのかわからない」と感じるかも知れません。そもそも積 分形は物理法則そのものを直接表現したものですので物理的な意味もわかりやすい表し方ですが、 微分形は純粋に数学的な操作を施してしまっているので物理的な意味がわかりにくくなってしまう というマイナス面があるようにさえ思えてきます。そこで、「微分形にして嬉しいこと」の例とし て電磁波の方程式を導いてみましょう。 39脚注 38 を参照して下さい。面倒なので、微分形のマックスウェル方程式において電荷 ρ も電流 ⃗J もないとしてみます。す ると、 div ⃗E = 0 (78) div ⃗B = 0 (79) rot ⃗E =−∂ ⃗B ∂t (80) rot ⃗B = ε0µ0 ∂ ⃗E ∂t (81) となります。最後の式 (81) を t で偏微分してみましょう。すると、 rot∂ ⃗B ∂t = ε0µ0 ∂2E⃗ ∂t2 が得られます40。これの左辺に式 (80) を代入すると、 − rot(rot ⃗E) = ε0µ0 ∂2E⃗ ∂t2 (82) となります。空間に右手正規直交座標系 xyz を導入し、電場 ⃗E を成分で表して(それを E = E1 E2 E3 と書くことにします)rot(rot ⃗E) の成分表示∇ × (∇ × E) を計算してみると、 ∇ × (∇ × E) = ∇ × ∂E3 ∂y − ∂E2 ∂z ∂E1 ∂z − ∂E3 ∂x ∂E2 ∂x − ∂E1 ∂y = ∂2E 2 ∂y∂x− ∂2E 1 ∂y2 − ∂2E 1 ∂z2 + ∂2E 3 ∂z∂x ∂2E 3 ∂z∂y − ∂2E 2 ∂z2 − ∂2E 2 ∂x2 + ∂2E 1 ∂x∂y ∂2E 1 ∂x∂z− ∂2E 3 ∂x2 − ∂2E 3 ∂y2 + ∂2E 2 ∂y∂z = ∂ ∂x ( ∂E1 ∂x + ∂E2 ∂y + ∂E3 ∂z ) −(∂2 ∂x2 + ∂2 ∂y2 + ∂2 ∂z2 ) E1 ∂ ∂y ( ∂E1 ∂x + ∂E2 ∂y + ∂E3 ∂z ) −(∂2 ∂x2 + ∂2 ∂y2 + ∂2 ∂z2 ) E2 ∂ ∂z ( ∂E1 ∂x + ∂E2 ∂y + ∂E3 ∂z ) −(∂2 ∂x2 + ∂2 ∂y2 + ∂2 ∂z2 ) E3 =∇(∇ • E) − ∆E (83) となります。ただし、∆ はラプラス作用素と呼ばれる ∆ = ∂ 2 ∂x2 + ∂2 ∂y2 + ∂2 ∂z2 を各成分に施すことです41。式 (78) を成分で表したものである∇ • E = 0 を最後の式の第 1 項に 入れると、 ∇ × (∇ × E) = −∆E となります。これを式 (82)(を成分で表したもの)の左辺に代入して、 ∆E = ε0µ0 ∂2E ∂t2 (84) 40B も ⃗⃗ E も十分に滑らかであると仮定しています。つまり、座標系によって、 ⃗B や ⃗E の成分を 4 変数関数として表し たとき、それらの関数は必要なだけ微分可能であるとしています。だから、偏微分する変数の順序を変えても結果は変わり ません。そのことを使って t による偏微分と rot という微分(rot の中身は偏微分です)との順序を入れ替えました。 41ラプラス作用素を施すことは正規直交座標系の取り方に依らない操作になっています。なぜなら、式 (83) により、ラ
プラス作用素は座標を使わずに grad◦ div − rot ◦ rot と定義できるからです。座標系を使わなくても ∆ という作用素が
という式が得られます。全く同様に、式 (80) を t で偏微分して式 (81) と (79) を使うと、 ⃗B の成 分表示 B も全く同じ方程式 ∆B = ε0µ0 ∂2B ∂t2 (85) を満たすことが導かれます。 ∆ も ∂t∂22 も成分ごとに施すのですから、これらの式は、E と B の成分がすべて ∆f (x, y, z, t) = ε0µ0 ∂2f ∂t2(x, y, z, t) (86) という微分方程式を満たすことを意味します。そして、実は、この方程式は f (x, y, z, t) が速度 √1 ε0µ0 で伝わる波 であるということを意味する式なのです。しかも、実測により 1 √ε 0µ0 = c(光速) であることがわかっています。だから、 電場も磁場も光速で進む 3 次元の波 であるということが結論されるのです。 注意. 前章までと違って今は時刻も考えているので、二つの座標系は互いに等速で平行移動している可能性が あります。私の入れた座標系で見たとき、あなたの座標系の原点は等速直線運動をしているかも知れないの です。上の結論は、たとえそうであっても電磁波の速さは私(の座標原点)から見てもあなた(の座標原点) から見ても同じである、つまり、電磁波の速さはどの慣性系で観測しても常に一定値 cであると言っていま す。このことは、電磁気の理論が相対論的であることを意味しています42。★ 問題 44. 微分方程式 ∂2f ∂x2(x, t) = 1 v2 ∂2f ∂t2(x, t) (87) の解 f (x, t) は二つの 1 変数関数 φ(y) と ψ(y) によって f (x, t) = φ(x− vt) + ψ(x + vt) (88) と表される関数であることを次の手順で示せ。 (1) 新しい変数 X と Y を X = x− vt, Y = x + vt とし、f(x, t) の変数を X, Y に変換したも のを g(X, Y ) とする。(すなわち、g(X, Y ) を g(x− vt, x + vt) = f(x, t) となる関数とする。)微 分方程式 (87) を X, Y に関する微分方程式に書き直すと ∂2g ∂X∂Y(X, Y ) = 0 (89) となることを示せ。 (2) X を定数と見なして Y で不定積分し、そのあと Y を定数と見なして X で不定積分するこ とにより、微分方程式 (89) の解 g(X, Y ) は X だけを変数とする 1 変数関数 φ(X) と Y だけを変 数とする 1 変数関数 ψ(Y ) の和 g(X, Y ) = φ(X) + ψ(Y ) であることを示せ。 X = x− vt と Y = x + vt を代入して変数を x と t に戻して式 (88) が得られる。 ♪ 42と言うか、マックスウェルの理論がこのようにニュートン力学と矛盾してしまったので、当時ほとんどの物理学者は マックスウェルの理論には間違いがあると考えたところを、アインシュタインだけがマックスウェルの理論を信じて相対論 に至ったのだと思います、多分。
注意. 微分方程式(86)は3次元波動方程式、(87)は1次元波動方程式と呼ばれます。ラプラス作用素∆は 1次元ではxによる2回微分に過ぎないので、この二つは「空間」の次元が違うだけで、同じ方程式です。 さて、これらの方程式は「波」が満たすべき条件式として見いだされたものですが、1次元の場合の解が式 (88)で表されるということはどういうことを意味するのでしょうか。 いつものように、x軸が水平右向きになるようにxy平面を想像して下さい。v > 0としましょう。すると、 y = φ(x− vt)のグラフとは、時刻tが進むにつれてy = φ(x)のグラフが右向きに速さvで進んでいく状況 を表しています。なぜなら、時刻t0におけるx0 でのyの値φ(x0− vt0)は、時刻0におけるx = x0− vt0 におけるyの値だからです。(x, t) = (x0, t0)におけるyの値は(x0− vt0, 0)におけるyの値と同じ、すな わち、時刻0においてvt0 だけ左にいたyの値が時刻がt0 だけ進むことによってx0 に到達するわけです。 y = ψ(x + vt)は、上でvを−v に取り替えたののですから、時刻0でy = ψ(x)だったものがtが進む につれて左向きに速さvで進んでいく状況を表しています。 ということは、微分方程式(87)の解が式(88)で表される関数であるとは、1次元の波は同じ速さで右向き に進む波と左向きに進む波の重ね合わせであるということを意味していることになります。★ さて、電場 ⃗E と磁束密度 ⃗B がどちらも「波」と呼んでよいものであることは分かりましたが、 これではまだ「電波」と「磁波」の関係がわからないので「電磁波」とひとまとめにした名前を付 けるところまでは行かない感じです。この二つの関係をどちらも「平面波」である場合に調べてみ ましょう。 ベクトル場の微分を座標系を使った式で定義したので、計算は座標系を決めてすることになるの ですが、図形的な意味を強調するために座標系を使わない表記をできるだけ使います。ただし、点 を位置ベクトルで表したいので、位置ベクトルの原点だけ一つ決めて固定し、点を ⃗x で表すこと にします。3 次元の波 ⃗F (⃗x, t) が平面波であるとは、1 変数関数 f と定ベクトル ⃗a、単位定ベクト ル ⃗k、および正定数 v によって、 ⃗ F (⃗x, t) = f (⃗k• ⃗x − vt)⃗a と表されることを言います。⃗k と直交する平面を一つ取ると、その平面上のすべての点で ⃗F は同 じベクトルであり、しかもそれが ⃗k 方向に速さ v で伝わって行く、という波なので平面波と呼ば れるのです。 ⃗E も ⃗B も平面波であるとして ⃗
E(⃗x, t) = f (⃗k• ⃗x − vt)⃗e B(⃗⃗ x, t) = g(⃗l• ⃗x − ut)⃗b (90) とおき、これをマックスウェル方程式に入れて ⃗k, ⃗l, ⃗e, ⃗b, v, u の間の関係を調べてみましょう。た だし、本当に波が起こっていないと面白くないので、f と g は定数関数ではないとします。 マックスウェル方程式そのものに代入する前に、マックスウェル方程式から得られた波の式 (84) と (85) に入れてみましょう。すると、 f′′(⃗k• ⃗x − vt)⃗e = ε0µ0v2f′′(⃗k• ⃗x − vt)⃗e g′′(⃗l• ⃗x − ut)⃗b = ε0µ0u2g′′(⃗l• ⃗x − ut)⃗b となります。(⃗k も ⃗l も単位ベクトルであることに注意して下さい。) 注意. 計算をするには座標系を固定する必要があります。f (⃗k• ⃗x − vt)⃗eにラプラス作用素∆を施す計算を ここに書いておきますので、これ以降の計算はこれのまねをして自分でやってみてください。 ⃗ εは定ベクトルですので、f (⃗k•⃗x−vt)だけにラプラス作用素を施すことになります。位置ベクトルの始点を 原点とする右手正規直交座標系を一つ固定し、それによる⃗kと⃗xの成分表示をk = kk12 k3 , x = xx12 x3 とします。すると、 f (⃗k• ⃗x − vt) = f(k1x1+ k2x2+ k3x3− vt) となります。これをx1 で偏微分すると、合成関数の微分公式により f′(k1x1+ k2x2+ k3x3− vt)k1
となります。これをもう一度x1 で偏微分すると、 f′′(k1x1+ k2x2+ k3x3− vt)k21 となります。x2 やx3 での2回偏微分も同様です。よって、 ∆f (⃗k• ⃗x − vt) = f′′(⃗k• ⃗x − vt)(k12+ k 2 2+ k 2 3 ) = f′′(⃗k• ⃗x − vt) となります。最後の等号で⃗kが単位ベクトルであることを使いました。★ これで、 ⃗E(⃗x, t) の速さ v と ⃗B(⃗x, t) の速さ u がどちらも光速 c であること、すなわち v = u = √1 ε0µ0 = c であることが確認できました。 二つの式 (90) で u = v = c とおいたものをマックスウェル方程式そのもの (78), (79), (80), (81) に代入すると、 f′(⃗k• ⃗x − ct)⃗k • ⃗e = 0 (91) g′(⃗l• ⃗x − ct)⃗l•⃗b = 0 (92) f′(⃗k• ⃗x − ct)⃗k × ⃗e = cg′(⃗l• ⃗x − ct)⃗b (93) cg′(⃗l• ⃗x − ct)⃗l×⃗b = −f′(⃗k• ⃗x − ct)⃗e (94) となります。 問題 45. 上の注意のように座標表示をすることにより、マックスウェル方程式 (78), (79), (80), (81) に二つの式 (90) で u = v = c とおいたものを代入して四つの方程式 (91), (92), (93), (94) を 導け。 ♪ f や g は定数関数ではないとしているので、f′ が 0 でない (⃗x, t) や g′ が 0 でない (⃗x, t) が存在 します。よって、式 (91) と式 (92) から ⃗k• ⃗e = ⃗l•⃗b = 0 が得られます。これは ⃗ k と ⃗e は直交し、⃗l と ⃗b は直交する ということを意味しています。つまり、 ⃗E も ⃗B も変位の方向が進行方向と直交しているわけです。 このような波を横波と言います。さらに、式 (93) から ⃗b は ⃗k とも ⃗e とも直交する ということが分かり、同様に式 (94) から ⃗e は ⃗l とも ⃗b とも直交する ということがわかります。まとめると、 ⃗e と ⃗b は直交し、⃗k, ⃗l は ⃗e, ⃗b の両方と直交する
となります。ということは、⃗e と ⃗b は平面を張り、⃗k と ⃗l はどちらもその平面の単位法線ベクトル であることになります。だから ⃗l = ⃗k または ⃗l = −⃗k です。 この符号を決めるために、ベクトル積の定義に従って向きを詳しく見てみましょう。式 (93) に 右から ⃗l をベクトル積すると、 f′(⃗k• ⃗x − ct)(⃗k × ⃗e) × ⃗l = cg′(⃗l• ⃗x − ct)⃗b × ⃗l となります。この右辺は式 (94) の左辺を−1 倍したものですので、 f′(⃗k• ⃗x − ct)(⃗k × ⃗e) × ⃗l = f′(⃗k• ⃗x − ct)⃗e となります。f′ が 0 でない (⃗x, t) が存在するのですから、この式から (⃗k× ⃗e) × ⃗l = ⃗e (95)
が得られます。さて、ベクトル ⃗a を ⃗a = ⃗k× ⃗e とすると、
⃗k, ⃗e, ⃗a は右手系 となります。そして、式 (95) は ⃗a, ⃗l, ⃗e が右手系 と言っています。これは、 ⃗l, ⃗e, ⃗a は右手系 と言い換えられます。よって、⃗l は ⃗k と同じ向きでなければなりません。これで ⃗l = ⃗k がわかりました。 以上をまとめると、 電場 ⃗E と磁束密度 ⃗B が平面波ならば、速さはどちらも光速であり、進行方向は一致 し、どちらも横波であり、 ⃗E と ⃗B は直交する。 となります。マックスウェルもこのように考えて電磁波の存在に到達したのかも知れません。
3.4
電磁ポテンシャル
マックスウェル方程式はスカラー場の間の等式が二つとベクトル場の間の等式が二つですが、電 磁ポテンシャルという新しい「物理量」を導入するとスカラー場の間の等式が一つとベクトル場の 間の等式が一つで、方程式の数を元のマックスウェル方程式の半分に減らすことができます。ここ ではそれを説明しましょう。3.4.1 ベクトルポテンシャル ベクトル場 ⃗F に対し、− grad φ = ⃗F を満たすスカラー場 φ をそのポテンシャルと呼びました。 これをまねて、rot ⃗G = ⃗F を満たすベクトル場 ⃗G を ⃗F のベクトルポテンシャルと呼びます43。 普通のポテンシャルに関しては、ベクトル場の定義域が単連結(例えば空間全体)ならば、 ⃗ F がポテンシャルを持つ ⇐⇒ rot ⃗F = ⃗0 が成り立つことを第 2.7.4 節で示しました。 ベクトルポテンシャルについてはどうでしょうか。問題 30 の (2) で div(rot ⃗G) = 0 を示してあ りますので、 ⃗ F がベクトルポテンシャルを持つ =⇒ div ⃗F = 0 は証明済みです。実は、普通のポテンシャルのときと同様に、⃗F の定義域がある条件を満たせば逆 も成り立ちます。ここでは空間全体を定義域とする場合について証明しておきましょう。 右手正規直交座標系 xyz を固定し、それによってベクトル場 ⃗F が F (x, y, z) = F1(x, y, z) F2(x, y, z) F3(x, y, z) と成分表示されているとします。示したいことは、 ∂G3 ∂y − ∂G2 ∂z = F1 ∂G1 ∂z − ∂G3 ∂x = F2 ∂G2 ∂x − ∂G1 ∂y = F3 を満たす三つの関数 G1(x, y, z), G2(x, y, z), G3(x, y, z) が存在することです。まず、 G1(x, y, z) = ∫ z 0 F2(x, y, t)dt によって G1 を定義してしまいます。(右辺の積分は x, y を定数と思って 1 変数関数として積分す ることです。)空間全体を定義域としているので、2 点 (x, y, 0) と (x, y, z) を結ぶ線分は定義域に 入っており、この積分は可能です。すると、z の 1 変数関数としての微積分の基本定理により ∂G1 ∂z (x, y, z) = F2(x, y, z) が成り立っています。この G1 を使って G2(x, y, z) = ∫ x 0 ( F3(t, y, z) + ∂G1 ∂y (t, y, z) ) dt と定義します。x の 1 変数関数としての微積分の基本定理により ∂G2 ∂x (x, y, z)− ∂G1 ∂y (x, y, z) = F3(x, y, z) となります。最後に、 G3(x, y, z) = ∫ y 0 ( F1(x, t, z) + ∂G2 ∂z (x, t, z) ) dt 43誤解が起きないようにするために、普通のポテンシャルのことをスカラーポテンシャルと呼ぶこともあります。
と定義します。すると、y の 1 変数関数としての微積分の基本定理から ∂G3 ∂y − ∂G2 ∂z (x, y, z) = F1(x, y, z) が成り立っています。一方、div ⃗F = 0 すなわち ∂F1 ∂x + ∂F2 ∂y + ∂F3 ∂z = 0 であることから、 ∂G3 ∂x = ∂ ∂x (∫ y 0 ( F1(x, t, z) + ∂G2 ∂z (x, t, z) ) dt ) = ∫ y 0 ( ∂F1 ∂x (x, t, z) + ∂2G 2 ∂x∂z(x, t, z) ) dt = ∫ y 0 ( −∂F2 ∂y (x, t, z)− ∂F3 ∂z (x, t, z) + ∂2G 2 ∂x∂z(x, t, z) ) dt = ∫ y 0 ( −∂2G1 ∂y∂z(x, t, z)− ∂2G2 ∂x∂z(x, t, z) + ∂2G1 ∂y∂z(x, t, z) + ∂2G2 ∂x∂z(x, t, z) ) dt = ∫ y 0 0dt = 0 となりますので、 ∂G1 ∂z − ∂G3 ∂x = ∂G1 ∂z = F2 も成り立っています。(いつものように、偏微分の順序や微分と積分の順序は自由に入れ替えられ るようなよい関数しか考えていません。) これで、空間全体を定義域とする場合、 ⃗ F がベクトルポテンシャルを持つ⇐⇒ div ⃗F = 0 の成り立つことが示せました。 3.4.2 電磁ポテンシャル ベクトルポテンシャルを利用するために、空間全体を定義域とするマックスウェル方程式を考え ましょう。 「単磁極の非存在」と名付けた方程式 (79) は、磁束密度 ⃗B が(各時刻において)ベクトルポテ ンシャル ⃗A を持つことを意味しています。つまり rot ⃗A = ⃗B が成り立つベクトル場 ⃗A が存在す るわけです。rot ⃗A をファラデーの法則 (80) の ⃗B に代入すると。 rot ⃗E =−∂ ∂t(rot ⃗A) となります。例によって時間微分と空間微分順序を入れ替え、さらに右辺を左辺に移項すると、 rot ( ⃗ E +∂ ⃗A ∂t ) = ⃗0 となります。これは ⃗E +∂ ⃗A ∂t というベクトル場が普通のポテンシャルを持つための条件になってい ます。すなわち、 − grad φ = ⃗E +∂ ⃗A ∂t
を満たすスカラー場 φ が存在まします。 このようなスカラー場とベクトル場の組 (φ, ⃗A) を ( ⃗E, ⃗B) の電磁ポテンシャルと言います。 マックスウェル方程式を電磁ポテンシャルに対する方程式に書き換えましょう。「単磁極の非存 在」(79) とファラデーの法則 (80) は満たすことがわかっているので、残りの二つに ⃗ E =− grad φ −∂ ⃗A ∂t ⃗ B = rot ⃗A を代入しましょう。 まず、ガウスの法則に代入してみます。すると、 −∆φ − div∂ ⃗A ∂t = 1 ε0 ρ (96) となります。(div(grad φ) = ∆φ です。第 8 回の問題 32 とその解答のあとの説明を参照して下 さい。) 次に、アンペール・マックスウェルの法則に代入してみましょう。すると、 1 µ0 rot(rot ⃗A) =−ε0grad ∂φ ∂t − ε0 ∂2A⃗ ∂t2 + ⃗J となります。両辺に µ0 を掛け、µ0ε0= c12 を使い、さらに rot(rot ⃗A) = grad(div ⃗A)− ∆ ⃗A (式 (83))を代入して整理すると、 grad ( div ⃗A + 1 c2 ∂φ ∂t ) − ( ∆− 1 c2 ∂2 ∂t2 ) ⃗ A = µ0J⃗ (97) となります44。 このように、電場と磁束密度ではなく電磁ポテンシャルを「未知のもの」とすると、マックス ウェル方程式はスカラー場の間の等式 (96) とベクトル場の間の等式 (97) が一つずつになるのです。 もちろん、電磁ポテンシャルを考えることの意味はこのような形式的なことだけに留まるもので はありません。これを足がかりに、量子電磁気学や一般のゲージ理論へと理論が深まってゆきま す。また、アハラノフ・ボーム効果という「電磁ポテンシャルが実在することの証拠」と解釈でき るような実験結果も知られています。 問題 46. 電磁ポテンシャルは「原始関数のようなもの」なので、同じ電場と磁束密度に対しても いろいろな取り方がある。電磁ポテンシャルが、条件45 div ⃗A + 1 c2 ∂φ ∂t = 0 (98) を満たすと仮定する46。 (イ) ρ = 0 かつ ⃗J = ⃗0 とすると、φ も ⃗A も速さが c の波であることを示せ。すなわち、 ∆φ = 1 c2 ∂2φ ∂t2 ∆ ⃗A = 1 c2 ∂2A⃗ ∂t2 が成り立つことを証明せよ。 (ロ) 二つの波の方程式 (84) と (85) を導け。 ♪ 44(∆− 1 c2 ∂ 2 ∂t2 ) ⃗ A は ∆ ⃗A− 1 c2∂ 2A⃗ ∂t2 を、かけ算と足し算の間の分配法則 ac + bc = (a + b)c の要領でまとめて書いた ものです。 45ローレンツの条件と呼ばれる条件です。 46ここでは仮定にしましたが、実はこの条件を満たすように電磁ポテンシャルを取れることが証明できます。
解答
問題 44 の解答 (1) ξ(x, t) = x− vt, η(x, t) = x + vt と置くと、f(x, t) = g(ξ(x, t), η(x, t))となります。これを x で偏微分すると、(多変数関数の)合成関数の微分法により ∂f ∂x(x, t) = ∂g ∂X ( ξ(x, t), η(x, t)) ∂ξ ∂x+ ∂g ∂Y ( ξ(x, t), η(x, t)) ∂η ∂x = ∂g ∂X ( ξ(x, t), η(x, t))+ ∂g ∂Y ( ξ(x, t), η(x, t)) となり、これをさらに x で偏微分すると ∂2f ∂x2(x, t) = ∂ ∂X ( ∂g ∂X ) ( ξ(x, t), η(x, t)) ∂ξ ∂x + ∂ ∂Y ( ∂g ∂X ) ( ξ(x, t), η(x, t)) ∂η ∂x + ∂ ∂X ( ∂g ∂Y ) ( ξ(x, t), η(x, t)) ∂ξ ∂x+ ∂ ∂Y ( ∂g ∂Y ) ( ξ(x, t), η(x, t)) ∂η ∂x = ∂ 2g ∂X2 ( ξ(x, t), η(x, t))+ 2 ∂ 2g ∂X∂Y ( ξ(x, t), η(x, t))+ ∂ 2g ∂Y2 ( ξ(x, t), η(x, t)) となります。 同様に t で偏微分すると ∂f ∂t(x, t) = ∂g ∂X ( ξ(x, t), η(x, t))∂ξ ∂t + ∂g ∂Y ( ξ(x, t), η(x, t))∂η ∂t =−v∂g ∂X ( ξ(x, t), η(x, t))+ v∂g ∂Y ( ξ(x, t), η(x, t)) となり、これをもう一度 t で偏微分すると ∂2f ∂t2(x, t) = ∂ ∂X ( −v∂g ∂X ) ( ξ(x, t), η(x, t))∂ξ ∂t + ∂ ∂Y ( −v∂g ∂X ) ( ξ(x, t), η(x, t))∂η ∂t + ∂ ∂X ( v∂g ∂Y ) ( ξ(x, t), η(x, t))∂ξ ∂t + ∂ ∂Y ( v∂g ∂Y ) ( ξ(x, t), η(x, t))∂η ∂t = v2 ( ∂2g ∂X2 ( ξ(x, t), η(x, t))− 2 ∂ 2g ∂X∂Y ( ξ(x, t), η(x, t))+ ∂ 2g ∂Y2 ( ξ(x, t), η(x, t))) となります。 これらを微分方程式 (87) に代入すると ∂2g ∂X2 ( ξ(x, t), η(x, t))+ 2 ∂ 2g ∂X∂Y ( ξ(x, t), η(x, t))+ ∂ 2g ∂Y2 ( ξ(x, t), η(x, t)) = ∂ 2g ∂X2 ( ξ(x, t), η(x, t))− 2 ∂ 2g ∂X∂Y ( ξ(x, t), η(x, t))+ ∂ 2g ∂Y2 ( ξ(x, t), η(x, t)) すなわち、 ∂2g ∂X∂Y ( ξ(x, t), η(x, t))= 0 となります。ξ(x, t) と η(x, t) を X と Y 書き直して微分方程式 (89) が得られました。 □ (3) 等式 (89) の両辺を、X を定数と見なして Y の 1 変数関数として不定積分すると ∂g ∂X(X, Y ) = ∫ ∂ ∂Y ( ∂g ∂X ) (X, Y )dY = χ(X)となります。右辺は積分定数で数ですが、X ごとに違う値でよいのですから X の関数になります。 次に、この式の両辺を Y を定数と見なして X の 1 変数関数として不定積分すると g(X, Y ) = ∫ ∂g ∂X(X, Y )dX = ∫ χ(X)dX + ψ(Y ) となります。ψ(Y ) はこの不定積分の積分定数ですが、Y ごとに違う値でよいので Y の関数です。 χ(X) の (X による) 不定積分はやはり X の 1 変数関数ですので、それを φ(X) と書けば g(X, Y ) = φ(X) + ψ(Y ) となります。 □ 問題 45 の解答 ⃗e, ⃗b, ⃗l も ⃗x や ⃗k のように成分表示します。 ⃗ E の成分表示を E(x1, x2, x3, t) = E1(x1, x2, x3, t) E2(x1, x2, x3, t) E3(x1, x2, x3, t) とすると、ガウスの法則 (78) を成分表示したものは、 ∂E1 ∂x1 (x1, x2, x3, t) + ∂E2 ∂x2 (x1, x2, x3, t) + ∂E3 ∂x3 (x1, x2, x3, t) = 0 となります。今 E(x1, x2, x3, t) = f (k1x1+ k2x2+ k3x3− ct) e1 e2 e3 ですので、i = 1, 2, 3 として、 ∂Ei ∂xi (x1, x2, x3, t) = kif′(k1x1+ k2x2+ k3x3− ct)ei となります。よって、ガウスの法則 (78) に ⃗E = f (⃗k• ⃗s − ct)⃗e を代入したものの成分表示は f′(k1x1+ k2x2+ k3x3− ct)(k1e1+ k2e2+ k3e3) = 0 となります。成分を使わずに書くと f′(⃗k• ⃗x − ct)⃗k • ⃗e = 0 です。これで式 (91) が得られました。 「単磁極なし」(79) は、ガウスの法則 (78) で ⃗E を ⃗B に取り替えたものなので、上の結論で f を g に、⃗k を ⃗l に、⃗e を ⃗b に取り替えたもの g′(⃗l• ⃗x − ct)⃗l•⃗b = 0 です。これは式 (92) です。
磁束密度 ⃗B の成分表示を B(x1, x2, x3, t) = B1(x1, x2, x3, t) B2(x1, x2, x3, t) B3(x1, x2, x3, t) とすると、ファラデーの法則 (80) の成分表示は ∂E3 ∂x2 (x1, x2, x3, t)− ∂E2 ∂x3 (x1, x2, x3, t) =− ∂B1 ∂t (x1, x2, x3, t) ∂E1 ∂x3 (x1, x2, x3, t)− ∂E3 ∂x1 (x1, x2, x3, t) =− ∂B2 ∂t (x1, x2, x3, t) ∂E2 ∂x1 (x1, x2, x3, t)− ∂E1 ∂x2 (x1, x2, x3, t) =− ∂B3 ∂t (x1, x2, x3, t) となります。これらに E(x1, x2, x3, t) = f (k1x1+ k2x2+ k3x3− ct) e1 e2 e3 B(x1, x2, x3, t) = g(l1x1+ l2x2+ l3x3− ct) b1 b2 b3 を代入すると、 k2f′(k1x1+ k2x2+ k3x3− ct)e3− k3f′(k1x1+ k2x2+ k3x3− ct)e2=−(−c)g′(l1x1+ l2x2+ l3x3− ct)b1 k3f′(k1x1+ k2x2+ k3x3− ct)e1− k1f′(k1x1+ k2x2+ k3x3− ct)e3=−(−c)g′(l1x1+ l2x2+ l3x3− ct)b2 k1f′(k1x1+ k2x2+ k3x3− ct)e2− k2f′(k1x1+ k2x2+ k3x3− ct)e1=−(−c)g′(l1x1+ l2x2+ l3x3− ct)b3 すなわち、 f′(k1x1+ k2x2+ k3x3− ct) k2e3− k3e2 k3e1− k1e3 k1e2− k2e1 = cg′(l1x1+ l2x2+ l3x3− ct) b1 b2 b3 となります。成分を使わずに書くと f′(⃗k• ⃗x − ct)⃗k × ⃗e = cg′(⃗l• ⃗x − ct)⃗b となって式 (93) になります。 アンペール・マックスウェルの法則 (81) は、ファラデーの法則 (80) で ⃗E と ⃗B を取り替えて右 辺を−ε0µ0=−1/c2倍したものなので、上の結論で、f と g を、⃗e と ⃗b を、⃗k と ⃗l をそれぞれ取 り替えて、(右辺を−c2 で割る代わりに)左辺を c 倍し右辺を−c で割ったもの、すなわち cg′(⃗l• ⃗x − ct)⃗l×⃗b = −f′(⃗k• ⃗x − ct)⃗e となります。これで (94) も得られました。 □
問題 46 の解答 (イ) 条件式 (98) を t で偏微分すると、 div∂ ⃗A ∂t =− 1 c2 ∂2φ ∂t2 となります。(偏微分の順序は自由に入れ替えられるとしています。)これを式 (96) で ρ = 0 とし たものに代入すると、 ∆φ = 1 c2 ∂2φ ∂t2 (99) となります。 一方、条件式 (98) そのものを式 (97) で ⃗J = ⃗0 としたものに代入すると、 ∆ ⃗A = 1 c2 ∂2A⃗ ∂t2 (100) となります。 (ロ) 式 (100) の両辺に rot を施すと、偏微分の順序が入れ替えられる(ような冠数詞か考えてい ない)ことから、 ∆(rot ⃗A) = 1 c2 ∂2 ∂t2(rot ⃗A) となります。これに rot ⃗A = ⃗B を代入すれば ∆ ⃗B = 1 c2 ∂2B⃗ ∂t2 が得られます。これは式 (85) です。 一方、式 (99) の両辺に grad を施した grad(∆φ) = 1 c2grad ∂2φ ∂t2 と式 (100) の両辺を t で偏微分した ∂ ∂t(∆ ⃗A) = 1 c2 ∂3A⃗ ∂t3 とを辺々足すと、偏微分の順序が入れ替えられる(としている)ことから ∆ ( grad φ + ∂ ⃗A ∂t ) = 1 c2 ∂2 ∂t2 ( grad φ +∂ ⃗A ∂t ) となります。 ⃗E =− grad φ −∂ ⃗A ∂t なので、両辺を−1 倍すると、 ∆ ⃗E = 1 c2 ∂2E⃗ ∂t2 が得られます。これは式 (84) です。 □