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<Article>The Curriculum of the Waldort School

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草創 期 自由 ヴ ァル ドル フ学 校 の教 育課 程

博 物 学 を中心 に

鈴 木

そ よ 子

自 由 ヴ ァ ル ドル フ 学 校(FreieWaldorfschule)は,1919年 に,ド イ ツ の シ ュ ツ ッ ツ ガ ル トに 設 立 され た 。 第 二 次 世 界 大 戦 前 に す で に 数 校 に 増 え て い た が,1939年 に ナ チ ス ・ ドイ ツ の も とで 閉 校 を余 儀 な く さ れ た 。 しか し,第 二 次 世 界 大 戦 後,再 び 開 校 し,現 在 の 学 校 数 は,ド イ ツ,そ の 他 の ヨー ロ ッパ 諸 国,南 ア メ リ カ ・ア フ リカ 諸 国,あ わ せ て400校 に及 ぶ と い う。 ル ドル フ ・ シ ュ タ イ ナ ー(RudolfSteiner:1861∼1925年)の 教 育 観 に 基 づ き,彼 の 指 導 の も と に 実 践 さ れ た 学 校 で あ る。 そ の 特 質 は,シ ュ タ イ ナ ー の 人 間 観 「人 智 の 学 」(Anthroposophie)に 基 づ き,人 間 の 発 達 段 階 に相 応 し い 教 育 実 践 を形 成 した こ と に あ る 。 筆 者 は,「 草 創 期 自 由 ヴ ァ ル ドル フ 学 校 に お け る 理 念 と実 践1919∼25  ラ 年 の 教 育 課 程 を 中 心 に一 一 」 に お い て,自 由 ヴ ァ ル ドル フ学 校 の 設 立 経 緯, 教 育 課 程(Lehrplan)の 全 体 像,そ し て,教 育 課 程 と シ ュ タ イ ナ ー の 人 間 観 と の 関 わ りの3点 に つ い て明 らか に した 。 シ ュ タ イ ナ ー に よ れ ば,人 間 の 誕 生 か ら成 人 まで の 発 達 段 階 は,第1期 「誕 生 か ら歯 の 生 え替 わ る時 期 まで 」 お よ そ7歳 ま で,第2期 「歯 の 生 え替 わ りか ら性 的 成 熟 に 至 る ま で 」 ほ ぼ7 171

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歳 か ら14歳 ま で,第3期 「性 的 成 熟 以 降 」14歳 以 後 と捉 え られ て い る 。 自 由 ヴ ァル ドル フ学 校 の 開 設 に 際 して,各 時 期 に相 応 し い 教 育 課 程 が 具 体 化 され, こ れ を実 践 で き る教 師 た ち が 養 成 さ れ た の で あ っ た 。 本 論 文 の 課 題 は,先 の 論 文 に お け る 考 察 を踏 ま え て,自 由 ヴ ァ ル ドル フ学 校 の 博 物 学 教 育 課 程(Naturkunde,Naturgeschichte)の 特 徴 を,1920年 代 の 状 況 の 中 で 把 握 す る こ とに あ る。 シ ュ タ イ ナ0と と も に教 育 課 程 を つ く り あ げ た 自 由 ヴ ァ ル ドル フ学 校 の 教 師 シ ュ ト ッ クマ イ ヤ ー(E.A.KarlStock-meyer)に よ る と,「 博 物 学 は,ヴ ァル ドル フ 教 育 課 程 の な か で,多 少 特 別 な 位 置 を 占 め て い る科 目 で あ る 。 教 育 方 法 の 転 換 を別 に し て も他 教 科 以 上 に 新 3) た な 観 点 ・観 察 法 ・解 釈 が 求 め られ た 科 目 で あ る。」 と位 置 づ け られ て い る。 自 由 ヴ ァル ドル フ 学 校 の 教 育 課 程 の 中 で,博 物 学 は,新 た な試 み を盛 り込 ま れ た 科 目 で あ っ た 。 本 論 文 の 考 察 の 方 法 と し て,自 由 ヴ ァ ル ドル フ学 校 の 博 物 学 と 国 民 学 校 (Volksschule)の 教 育 課 程,ま た,当 時,ヨ ー ロ ッパ や ア メ リカ で 盛 ん に な っ て い た 子 ど も中 心 教 育 で あ る 「新 教 育 」 の 理 科 教 授 革 新 の 例 の 三 者 を比 較 す る。 こ の 比 較 に よ っ て,当 時 に お け る 自 由 ヴ ァ ル ドル フ学 校 の 博 物 学 の 位 置 を 明 らか に し た い 。 さ ら に,自 由 ヴ ァ ル ドル フ学 校 の 博 物 学 の 教 材 構 成 の 目 的 を,シ ュ タ イ ナ ー の 発 達 段 階 把 握 との 関 わ りで 考 察 す る 。 近 年,シ ュ タ イ ナ ー の 思 想 や 教 育 は,日 本 に お い て も多 方 面 か ら紹 介 さ れ, 注 目 さ れ る に 至 っ た 。 教 育 実 践 レベ ル で は,各 国 の シ ュ タ イ ナ ー 学 校 で の 被 教 育 体 験 が,多 く出 版 さ れ る よ う に な っ た 。 本 論 文 は,個 々 の 学 校 や 個 々 の 教 師 の 実 践 を貫 く教 育 課 程 の 基 本 的 構 成 に つ い て の 考 察 で あ る 。 総 論 部 分 は, 先 の 「草 創 期 自 由 ヴ ァル ドル フ学 校 に お け る 理 念 と実 践 」 に譲 り,特 に博 物 学 を 中 心 に 検 討 す る 。 172国 際 経 営 論 集No.81995

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1博

物 学教 育課程

1自 由 ヴ ァル ドル フ学 校 の 博 物 学 4) 自 由 ヴ ァ ル ドル フ 学 校 の 教 育 課 程 に お い て は,郷 土 科(Heimatkunde)が 第1学 年 か ら第3学 年 まで 行 わ れ る 。 これ か ら分 化 す る 理 科 の1科 目 と し て, 博 物 学 が 位 置 づ け ら れ て い る 。第4∼10学 年 の 博 物 学(Naturkunde),第11・ 12学 年 の博 物 学(Naturgeschichte)か ら構 成 さ れ て い る 。 第4・5学 年 で は,動 物 界 を人 間 と比 較 す る。 「個 々 の 動 物 に つ い て 説 明 し,動 物 の 器 官 ・鵬(Organisati。n)と 燗 の そ れ を比 較 す9.」 こ の 考 察 の 目的 は,「動物 界 の 多 様性 が人 間 の 中 で は明 確 な秩 序 と調和 を保 っ て ひ とつ 6) に ま と め あ げ ら れ て い る と い う実 感 を,子 ど も た ち に与 え る 」 こ と に あ る 。 第5・6学 年 の植 物 界 の考 察 は,「 つ ね1こ大 地 の営 み との関 連 で 扱 わ れ 勧 大 地 に根 を張 っ た生 物 と して植 物 を捉 え る とい う観 点 か ら構 成 され て い る。 第6学 年 の鉱 物 界 の考 察 は,地 理 と関連 づ け られ る。rた とえば,石 灰 岩 の 山 と花 闘岩 の 山 が与 え る正 反 対 の イ メ ー ジ を,子 ど もに理 解 させ た後,個 々 む の 石 灰 岩 と花 崩 岩 を子 ど もの 眼 の 前 に 置 い て み る。」 第7・8学 年 で は,以 上 の よ う な 自 然 界 の 考 察 に 基 づ き,「 自 然 界 の 総 体, 9) つ ま り,ミ ク ロ コ ス モ ス と して の 人 間 像 」 を 把 握 す る とい う観 点 か ら,人 の 身 体 機 構 や,栄 養 と健 康 の 関 係 を取 り扱 う。 第9学 年 で は,第7・8学 年 の 発 展 段 階 と して,人 間 学(Anthropologie) を継 続 す る 。 第10学 年 で は,人 間 学 との 関 連 で 鉱 物 学 ・結 晶 学 が 扱 わ れ る 。 そ の 際,例 え ば 石 灰 に つ い て の 説 明 の 観 点 に つ い て 「地 上 で の 石 灰 化 過 程 や,人 間 や 動 物 の 生 命 体(Organismus:有 機 体)の 中 で の 皮 膚 形 成 ・骨 形 成 は,い か に 人 10) 間 が 自 然 の 石 灰 化 過 程 を克 服 しな け れ ば な ら な い か を 示 し て い る。」と述 べ ら れ て い る 。 草創期自由ヴァル ドルフ学校の教育課程173

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第11学 年 で は,細 胞 学 ・植 物 学 を宇 宙 や大 地 との 関連 で考 察 す る。 第12学 年 で は,植 物 学 ・動 物 学 を扱 う。植 物 学 で は,第11学 年 の 考 察 の 継 続 と して,顕 花 植 物 全般 を論 じる。動 物 学 で は,動 物 界 の主 だ っ た系 統 に つ い て説 明 す る。 動 物 学 の 観 点 は,「 人 間 の 個 々 の器 官 組 織 が 動 物 グル ー プ の 個 々 の組 織 へ の広 が り として明 確 化 され る と同時 に,個 々 の動 物 が 人 間 の一 ]1? 個 の 器 官 あ る い は 器 官 の 一一部 と し て 見 な さ れ る 」 点 に求 め られ る 。 以 上 の よ う に,第4∼12学 年 の 博 物 学 の 構 成 視 点 を み る と,第4∼8学 年 で 動 ・植 ・鉱 物 界 及 び 人 間 に っ い て 具 体 的 に 理 解 し,第9∼12学 年 で,学 問 的 ・理 論 的 に 捉 え て い る 。 そ し て,内 容 的 に は,第4・5学 年,12学 年 と も に 動 物 界 の 総 体 と し て 人 間 を 捉 え,人 間 の 多 様 化 した もの と して 動 物 界 を捉 え る と い う観 点 が 一 貫 し て い る。 こ の 観 点 が,教 育 方 法 に お い て も,動 物 と 人 間 の 器 官 組 織 を比 較 す る こ と に具 体 化 さ れ て い る 。 また,第5・6,11・ 12学 年 の 植 物 学 の 観 点 は と も に,生 きて 成 長 す る 生 物 と し て の植 物 を 考 察 す る こ と に あ る 。 この 観 点 が,植 物 を 大 地 ・宇 宙 の 作 用 との 関 わ りで 植 物 を扱 う教 育 方 法 に 具 体 化 さ れ て い る。 第10学 年 の 鉱 物 学 は,自 然 界 と身 体 に共 通 す る 要 素 と し て 考 察 さ れ て い る。 こ の 観 点 が 第6学 年 に も共 通 して い る か ど うか は 明 確 で な い 。 人 間 学 に つ い て は,第7∼10学 年 に か け て,人 間 を 自 然 の 総 体 と し て 見 る観 点 か ら構 成 され て い る 。こ の 観 点 は,栄 養 と健 康 の 関 係; 各 器 官 組 織 の 機 能 及 び 調 和;骨 と筋 肉 の 仕 組 み;眼 の 内 側 の 構 造;鉱 物 学 と 結 晶 学 な どの 教 育 内 容 に 具 体 化 され て い る。 2国 民 学 校 の 博 物 学 当 時 の 国 民 学 校 の 教 育 課 程 は,ワ イ マ ー ル 期 に は い っ て か ら ビ ュ ル テ ン ベ ル ク州 の 文 部 省 が 定 め た 教 育 課 程 を収 め た 。LehrplanefurdieVolks-und 121 MittelschuleninWurttemberg"に よ っ て,把 握 す る こ と が で き る 。 本 節 で は,こ の な か か ら,1925年 に 公 け に さ れ た 国 民 学 校 第5∼8学 年 の 博 物 学 (Naturgesch{chte)の 教 育 課 程 に つ い て 検 討 す る 。 174国 際経 営 論 集No.81995

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国民 学 校 の 教 育 課 程 で は,4年 間 の基 礎 学校 の 郷 土 科(Heimatkunde)を 経 た後 に教 授 され る科 目 と して位 置 づ け られ て い る。 郷 土 科 で は,郷 土 の動 物 ・植 物 ・鉱 物 の継 続 的観 察 を通 して,ま た,動 物 ・植 物 の 世 話 を通 して, 生 徒 が 自然 を徐 々 に認 識 的 に理解 で きる よ うに導 きs特 に第4学 年 で は,重 13} 要 な 自然物 に対 す る深 い理 解 や,自 然 界 に対 す る親 和 感 を育 む。 この4年 間 に 自然 を客 観 的 対 象 として観 察 し,理 解 す る過 程 を体 験 した後 ,博 物 学 に進 む。 本 論 文 末 に掲 載 した 「資 料 国民 学 校 の博 物 学課 程 」に基 づ きなが ら, 第5∼8学 年 の教 育 内容 を領 域 別 に ま とめ て み よ う。 動 物 ・植 物 領 域 で は,第5学 年 に,郷 土 の 自然 の な か で生 態観 察 を し,第 6学 年 で生 物 学 に則 って考 察 し,第7学 年 で,飼 育 ・栽 培 の観 点 も含 め た考 察 を継i続す る。 鉱 物 領 域 はi第6・7学 年 に扱 う。 石 炭 類,原 油,岩 塩,鉄,金,銀 な ど, そ して,土 壌 づ くりに必 要 な鉱 物 が 対 象 とな る。 動 物 ・植 物 ・鉱 物 学 の教 育 課 程 構 成 の 目的 は,「 郷 土 の 自然 の なか で起 こ る 現 象 と郷 土 の生 物 に対 す る興 味 ・理 解 を 目覚 め させ る 」(資 料 参 照)こ とに あ る。 それ ゆ え,第5∼7学 年 で扱 う教 材 の うち,立 ち入 って取 り扱 う もの は, 「そ の地 に とっ て,あ る い は,そ の環 境 に とっ て重 要 な もの だ けで あ る。」(資 料 参 照)と,限 定 され て い る。 換 言 す るな らば,動 物 ・植 物 ・鉱 物 学 と もに, 郷 土 の 自然 に対 す る興味 と理 解 を育 む とい う観 点 か ら構 成 され て い る。 この 観 点 は,生 態 観 察 に基 づ く生 物 学 的 ・地 学 的 ・化 学 的考 察 と して,具 体 化 さ れ て い る。 人 間 学 の 目的 は,「健 康 な生 活 を営 む た め に,身 体 の構 造 と活 動 を一 覧 す る」 (資 料 参 照)こ とに あ る。 内 容 は,身 体 の構 造;栄 養 と健 康;栄 養 素 か ら構 成 され て い る。 3イ チ ュ ネ ル 案 の 人 間 学 的 総 合 理 科 ヨー ロ ッパ に お け る20世 紀 初 頭 の 理 科 教 授 革 新 の 様 子 は,梅 根 悟 に よ っ て 草創期 自由ヴァル ドルフ学校の教育課程175

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概 観 され て い る。梅 根 は,20世 紀 初 頭 の理 科 教 授 革新 を,19世 紀 末 の 理科 教 授運 動 の延 長 として捉 え,ま た,合 科 教 授 の プ レ リュ ー ドと して位 置 づ けて 14) い る。 この 理 科 教 授 革 新 の 実 践 的 試 み の 代 表 的 な も の と し て,イ チ ュ ネ ル (Itschnel)の 人 間 学 的 総 合 理 科 が あ げ ら れ て い る 。 ・イチ ュ ネ ル の 具 体 案 は, 1910年 の 著 作 『教 授 論 』(。Unterrichtslehre",Leipzig,1910)に お い て 展 開 さ れ た 。 イ チ ュ ネ ル 案 は,人 間 生 活 の 課 題 を 中 核 に お い た 単 元 構 成 を して お 15} り,人 間 生 活 の課 題 として次 の4点 を あ げて い る。 1.保 護 自然 環 境(寒 暖 ・乾 湿 な ど)に 対 す る適 応 。 2.形 態 とその運 動 人 間 の 身体 の形 態 とそ の運 動(内 臓 機 能 に至 る ま で)を 意 味 し,生 命 維持 のた め に必 要 な運 動 の調 整 で あ る。 3.新 陳代 謝 生 命 エ ネ ル ギ ー維 持 の た め に行 わ れ る新 陳代 謝 作 用 で あ る。 4.生 存 の た め の 闘 い 生 命 体 相 互 の生 存 競 争 と共 同 生 存 の た めの協 同 16} な ど を意 味 す る 。 ユア  これ らを小 学 校 後 半 の4年 間 に配 置 して,各 学 年 の指 導 理 念 とした。 梅 根 に よ る イ チ ュ ネル評 価 の視 点 は,ユ ンゲ等 が人 間以 外 の 生物 の生 活 共 同体 的 現 象 か ら得 られ る法 則 を人 間 の生 命 維 持 の 問題 へ敷 衛 し よ う と した の に対 して,イ チ ュネル が 人 間 そ の もの を中心 に置 い て い る点 を あ げ,「 こ こに ユ ンゲ との相 違 が あ る。 そ して,そ こに また 一 つ の進 歩 が あ る とも考 え られ 18} .」 と評 して い る.し か しなが ら,「 単 な る生物 として の燗 の研 究 が 中心 19) で あ る 限 り,そ れ は な お 科 学 主 義 で あ り,真 の 生 活 主 義 で は な い 」 と,イ チ ュ ネ ル の 構 想 の 限 界 性 を 指 摘 し て い る。 「生 活 主 義 」 と は,イ チ ュ ネ ル が 「科 学 主 義 」 否 定 の 立 場 に 立 っ て,自 ら の 立 場 を 「生 活 主 義 」 と い う言 葉 で 表 明 した こ とを 受 け て,梅 根 が 用 い た の で あ る が,同 時 に,イ チ ュ ネ ル 案 に対 す る 梅 根 自身 の 評 価 の 視 点 も,ど こ ま で 生 活 主 義 に徹 底 した 構 想 で あ るか とい う点 に 置 か れ て い る 。 梅 根 は,こ の 視 点 か ら見 て,イ チ ュ ネ ル 案 は 人 間 を 中 心 に置 い て い る か ら,19世 紀 の 理 科 教 授 運 動 に 比 べ て,一 歩 生 活 主 義 に 近 づ 176国 際経営論集No.81995

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い て は い るが,「 理 科 的諸 教 科 の 総 合 の 域 に留 ま った 」構 想 で あ るか ら,真 の 生 活 主 義 で は な い と評 して い る。 また,梅 根 は この 立 場 か ら,第 一 次 世 界 大 戦 以 後 盛 ん に な る合 科 教 授 運 動 を よ り高 く評 価 して い る。 この イチ ュ ネル 案 は,理 科 教 授 革 新 の 方 向 が,人 間 を単 元 の 中心 に位 置 づ け る方 向 に あ る こ とを示 して い る。 4自 由 ヴ ァル ドル フ学 校 の 博 物 学 の 特 質 自由 ヴ ァル ドル フ学校 の場 合,動 物 学 ・植 物 学 ・鉱物 学 ・人 間 学 の領 域 毎 の 内容 を構 成 す る と同 時 に,「 自然 の 総体 」と して の人 間像 を育 む こ とが,全 体 を貫 く目的 で あ る。 これ は,当 時 の 国民 学 校 の 教 育課 程 ・理 科 教 授 革 新 の 流 れ と も異 な る。 自 由 ヴ ァル ドル フ学 校 で,学 校 の 教 育 目的 との関 わ りで意 識 的 に構 成 され た もの だ と判 断 で き る。

II教

それ で は,自 由 ヴ ァル ドル フ学 校 の動 物 学 ・植 物 学 は,教 材 の構 成 レベ ル で,ど の よ うに具体 化 され た の だ ろ うか。 開校 準 備 中 に行 わ れ た教 師 養 成 の た めの講 習 会 に お け る シ ュタ イ ナ ー の講 演 内容 を資料 と して,こ の問 い を明 らか にす る。 この講 演 の 教 材 構 成 例 は,動 物 を人 間 との比 較 で 捉 え る こ と, また,植 物 を大 地 との 関 わ りで捉 え る こ とを,具 体 的 に示 した もの で あ り, 20) 『自 由 ヴ ァ ル ドル フ学 校 の 教 育 課 程 に つ い て 』の 叙 述 か ら判 断 し て,X919∼25 年 に至 る 時 期 は,こ の 講 演 に み ら れ る よ う な シ ュ タ イ ナ ー の 指 導 を,個 々 の 教 師 が 実 践 して い っ た 時 期 だ と見 る こ とが で き る 。 そ れ ゆ え,シ ュ タ イ ナ ー の 講 演 内 容 を教 材 構 成 の 資 料 とす る。 た だ し,講 演 内 容 か ら再 構 成 で き る教 材 は,第4∼8学 年 に相 当 す る時 期 の もの で あ る 。 草 創 期 自 由 ヴ ァル ドル フ学 校 の 教 育課 程177

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1動 物 学 の 教 材 構 成 動 物 学 で は,ま ず 最 初 に初 歩 的 人 間 学 を学 び,次 に,動 物 と人 間 を比 較 す る。 初 歩 的 人 間 学 で は,人 間 の 全 体 像 が 描 き 出 さ れ た 後,人 体 の 頭 部 ・胴 部 ・ 四 肢 に つ い て 説 明 さ れ る 。 頭 部 の 感 覚 器 官 の 一 つ ひ とつ に つ い て 説 明 して い く。 「きみ は 目 を 持 っ て い る。耳 も鼻 も 口 も,き み の 頭 部 に あ る ね 。 きみ は 目 で 見 て,耳 で 聞 き,鼻 で 臭 い を か い で,口 で 味 を味 わ う。 きみ が 外 界 に っ い 21) て 知 覚 す る こ との 多 くは,き み の 頭 部 を通 して 知 る ん だ よ 。」こ の 説 明 に よ っ て,頭 部 が 外 界 か ら体 内 へ の 入 り口 と し て の 役 目 を担 っ て い る こ と を,子 ど も に感 じ と らせ る 。 胴 部 に つ い て は,子 ど もが 舌 で 味 わ っ た もの が,栄 養 と して 胴 部 に 入 っ て い く こ とや,耳 で 聞 い た も の が,響 き と して 胴 部 に入 っ て い く こ と,さ ら に, 胴 部 に位 置 す る 呼 吸 器 官 ・消 化 器 官 の 機 能 に つ い て 簡 単 に説 明 す る 。 この こ とか ら,胴 部 の 役 目 が,外 界 か ら知 覚 ・摂 取 した もの を体 内 化 ・消 化 す る こ と に あ る こ と を 説 明 す る 。 四 肢 の 説 明 で は,人 間 の 手 が 他 の 動 物 の 四 肢 と は異 な っ た 役 目 を 持 っ て い る こ と に 焦 点 が あ て られ て い る。 他 の 動 物 の 四 肢 は,頭 部 ・胴 部 を 支 え て運 ぶ こ と を 主 な 役 目 と し て い る。 し か し,人 間 の 四 肢 の 場 合,確 か に 足 は 頭 部 ・ 胴 部 を 支 え て運 ぶ 役 目 を も っ て い る が,両 手 ・両 腕 は 自 由 に動 か す こ とが で き る 。 シ ュ タ イ ナ ー の 四 肢 の 説 明 に よ れ ば,両 手 の 自 由 さ が,つ ね に 身 体 を 支 え て い る 両 足(動 物 の 四 肢)の 「利 己 的 な 行 動 」 を越 え た 「無 私 の 労 働 」   ラ をす る可 能 性 を生 ん で い る。 この説 明 に よ って,人 間 が人 間 と して 完 成 して い るの は,四 肢 ゆ え で あ る こ とを感 じ取 らせ よ う と して い る。 自然界 を考 察 す る前 に人 間 を扱 うの は,博 物 学 の授 業 の歩 み を通 して,「人 間 は 自然 の なか の動 物 ・植 物 ・鉱 物 界 の総 体 だ とい う こ とに対 す る感 情 を, 23) 子 ど もの な か に 喚 起 す る。」た め だ と,シ ュ タ イ ナ ー は 言 う。 最 初 に この よ う な人 間 像 を 描 き 出 す こ と 自体 が,い ず れ 自然 界 の 考 察 を 介 し て人 間 を 捉 え る こ と を 暗 示 し て い る 。 178国 際経営論集No.81995

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以 上 の よ う に,予 め 人 間 像 を描 き出 した の ち,動 物 界 の 考 察 へ と進 む 。 各 動 物 の 説 明 の 最 初 に 簡 単 な 絵 を描 く。 そ の 際,動 物 毎 に,描 き 方 に 変 化 を つ け る こ と に よ っ て,各 々 の 違 い に対 す る 感 情 を育 む よ う に配 慮 し な が ら,動 物 の 全 体 像 を描 く。 こ の 後,個 々 の 説 明 を す る。 「イ カ ・ネ ズ ミ ・ヒ ト」 の 例 を あ げ よ う。 ま ず,イ カ に つ い て 説 明 す る 。 この 場 合,敵 が 近 づ い た 時 の 防 御 の 仕 方, 餌 の 取 り方,食 べ 方 な ど,様 々 な 側 面 か ら イ カ を特 徴 づ け る 。 子 ど もが で き る 限 り具 体 的 な イ カ の イ メ ー ジ を 抱 け る た め で あ る。 例 え ば,防 御 の 仕 方 は, 次 の よ う に説 明 さ れ る 。「イ カ は ね,近 くに 何 か 危 険 な もの が い る の を み つ け る と,そ の 瞬 間 に真 っ黒 な 液 を 吹 き 出 す ん だ よ 。 自分 を煙 幕 の 中 に 包 み 込 ん で し ま うた め に ね 。 こ うす る と,身 近 に 来 て い た 敵 が 自 分 か ら逃 げ 出 す ん だ 24) よ 。」 こ の よ う に具 体 的 な 説 明 を 重 ね る 目 的 は,「 子 ど もが,周 囲 に 対 す る イ 25) カ の 繊 細 な神 経 を感 じ とれ る よ う な 方 法 で,イ カ を 説 明 す る 」 こ とに あ る。 イ カ の 神 経 系 の 中 に イ カ の 特 性 を見 い だ し,様 々 な例 を 用 い て,こ の 特 性 を 理 解 させ よ う とす る の で あ る。 ネ ズ ミの 説 明 で は,ネ ズ ミが とが っ た 鼻 を も っ て い る こ と,そ の 側 に は細 くて ピ ン と張 っ た ひ げ が は え て い る こ と,上 下 と も大 き な 前 歯 を持 っ て い る こ と,円 筒 形 の 胴 を も っ て い る こ と,さ ら に,小 さ な 前 足 と大 き な 後 ろ足 を 持 っ て い て,こ れ で 精 一 杯 跳 ね る こ と な ど,こ の 一 つ 一 つ に つ い て,子 ど も に,具 体 的 に話 して い く。 次 に,イ カ と ネ ズ ミの 比 較 か ら両 者 の 特 徴 を押 さ え る。 「イ カ の 場 合 は,体 26) を覆 う もの は全 くな い の に,ネ ズ ミの 場 合 は,な ぜ 必 要 な の か 」 と い う点 を 問 題 に す る。 イ カ の 場 合 は,体 全 体 が 感 応 的(empfindlich)で あ る 。 そ れ ゆ え,体 の 表 面 を感 応 的 な 毛 皮 で 覆 う必 要 は な い し,ネ ズ ミの よ う な 大 き な 耳 も必 要 な い 。 ま た,ネ ズ ミの よ う な とが っ た 鼻 で 餌 を か ぎわ け る 必 要 も な い 。 さ ら に,イ カ が 水 中 を 前 進 す る場 合 は,こ の 感 応 的 な 全 身 を 使 っ て 移 動 す る か ら,ネ ズ ミの よ う な,大 き く成 長 し た 足 も必 要 な い 。 つ ま り,下 等 動 物 で 草創期 自由ヴァル ドルフ学校の教育課程179

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あ る軟 体 動 物 の 一 例 と して イ カ を用 い る 。 そ し てiイ カ の 特 性 が 「四 肢 に よ 27) っ て表 現 す る よ り も,体 その もの で 自分 を表 現 す る」 点 に あ る と見 る こ とか ら,全 身 が 神 経 系 の 固 ま りで あ る下 等 動 物 を,神 経 系 の 中枢 で あ る人 間 の 頭 部 に喩 え る。「人 間 の 中 で,最 もイカ に似 て い るの は ど こだ ろ う と捜 して み る 28) と,意 外 な こ とに 人 間 の 頭 部 に思 い 至 り ます 。」ネ ズ ミは}高 等 動 物 の ほ 乳 類 29) の 一 例 と し て 用 い る。ネ ズ ミの 特 性 は,「 四 肢 が 胴 部 の 活 動 に奉 仕 す る よ う に 作 られ て い る 」 点 に 見 い 出 す 。 この よ う に,下 等 動 物 の イ カ を人 間 の 頭 部 が 発 達 した もの と して 捉 え,高 等 動 物 の ネ ズ ミ は,人 間 の 四 肢 が 特 に 発 達 し た もの と し て 捉 え た 上 で,「 イ カ ・ネ ズ ミ ・ヒ ト」 の 比 較 は 次 の よ う に ま と め られ て い る 。 「下 等 動 物 の よ う に頭 だ け の もの は,頭 そ の もの を 動 か し て 移 動 し な け れ ば な らな い。 そ して, 高 等 動 物 も そ の 四 肢 は,胴 部 に奉 仕 す る だ け の も の で あ り,人 間 に比 べ て 四 肢 が 自 由 で は な い か ら,ま だ 完 全 な もの で は な い 。 そ れ に 対 し て,人 間 の 場 合 は,四 肢 の う ち 両 手 が 完 全 に 自 由 に な っ て い る 。 人 間 が 完 成 し て い る の はs 30) 頭 部 ゆ え で は な く,四 肢(特 に両 手 ・両 腕)ゆ え で あ る。」 この ま とめ の 内容 は,初 歩 的 人 間学 の なか で の人 間 把握 と重 な る。 だ が, 動物 との比 較 に よっ て,こ の 人 間 の特 性 を導 き出 す の は,「人 間 は四肢 ゆ え に 完成 して い る」 とい う特 性 を強 調 す るた め にの み な され るの で は な い。 む し ろ,人 間 を動物 界 の なか に位 置 づ け て,動 物 界 全 体 との 関 わ りで人 間 の特 性 を捉 え直 す こ とが 主 眼 とな っ て い る。 動 物 学 の考 察 は,人 間 と切 り離 され た 形 で進 め られ るの で はな く,つ ね に, 人 間 を背 景 にお い た形 で進 め られ る。 そ して,動 物 に つ い て の考 察 が,動 物 と人 間 の比 較(両 者 の共 通 点 と相 違 点 を明 確 にす る こ と)へ と焦 点 化 され て い く。 2植 物 学 の 教 材 構成 植 物 学 は,つ ね に,大 地 の営 み との関 連 で取 り扱 わ れ る。 この 教材 構 成 は 180国 際 経 営 論 集No.81995

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どの よ う に行 わ れ る の だ ろ う か 。 ま ず,植 物 と大 地 の 関 連 に 限 定 す る こ とな く,植 物 と外 界(宇 宙)の 作 用 と の 関 連 を把 握 す る た め の 教 材 例 を あ げ よ う。 教 師 は,子 ど もた ち が 春 ・夏 ・秋 の3回 に わ た っ て,同 じ野 原 を 散 歩 し, 季 節 毎 の タ ン ポ ポ の 変 化 を 目 の 当 た りに した,と 想 像 さ せ た 後,次 の よ う に 31) 語 りか け る。「緑 の 葉 が 大 地 か ら芽 を 出 した の を 見 た 頃 は,そ ん な に 暑 い 頃 で は な か っ た ね 。 陽 射 し も まだ そ ん な に強 く は な か っ た 。 で も,こ の 頃,葉 の ま わ り に あ っ た もの に気 づ い た か い?そ れ は,風 が 吹 く時 しか 感 じ られ な い け ど,実 は い つ も きみ た ち の まわ りに あ る もの な ん だ よ 。 そ う,空 気 だ ね 。 空 気 は 発 芽 を助 け,次 々 と新 し い 葉 を芽 生 え さ せ て い くん だ よ 。 そ し て,こ の 空 気 が 暖 め られ て,暖 か い 季 節 に な っ て く る と,葉 は も は や,葉 の ま ま で 止 ま っ て は い な い で,一 番 上 の 葉 に な る は ず の 部 分 が 花 に な る ん だ よ。 で も ね,空 気 を暖 め る熱 は,草 木 の な か へ 届 くだ け で は な くてx大 地 に も入 っ て い き,そ れ か ら再 び 帰 っ て くる ん だ よ。 き み た ち は トタ ン板 の 上 で 寝 こ ろ ん だ こ とが あ る ね 。 トタ ン板 は 太 陽 の 熱 を受 け て,そ れ か ら再 び 照 り返 す ね 。 そ して,ど ん な もの で も トタ ン板 と 同 じ よ う に熱 くな る ん だ よ 。 光 が 大 地 に 向 か っ て 照 りつ け て い る 時,そ し て,大 地 が さ ほ ど熱 くな っ て い な い 時,草 木 は 花 を つ く る ん だ よ 。 そ れ か ら,熱 が 地 上 か ら照 りか え さ れ て 草 木 に 向 か う よ う に な っ て 初 め て,草 木 は 種 を つ く る ん だ よ 。 だ か ら,秋 まで 待 た な け 32) れ ば 種 は で きな い ん だ よ。」 太 陽 の 光 と暖 か さ が,空 気 を 通 し て,草 木 の 発 芽 や 成 長 を 支 え る。 太 陽 熱 は大 地 に も蓄 積 さ れ て,春 ・夏 の 熱 吸 収 期 に は,花 や 葉 が つ く られ,秋 の 熱 放 出 期 に は種 が 作 られ る と み る。 こ の よ う に,一 つ の 植 物 が 発 芽 し,成 長 し, 実 を熟 す 過 程 は,植 物 と外 界(宇 宙)の 作 用 との 関 わ りで 描 き 出 さ れ る。 こ の 例 で は,太 陽 ・空 気 ・土 と い う 鉱 物 界 の 三 者 が 植 物 を 育 む と き の 関 わ り 方 に焦 点 が 当 て られ る が,こ れ を,さ ら に植 物 と大 地 の 関 わ りに 注 目 し て 展 開 す る と,次 の よ う な例 が 得 られ る。 「こ こ に 大 地 が あ り ま す 。 ほ ん の 少 し盛 り 上 が っ て 丘 に な り ます 。 この 丘 に は 空 気 と太 陽 の 力 が 浸 透 し て い る の で す 。 草創期 自由ヴァル ドルフ学校の教育課程181

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だ か ら,丘 は 土 の ま まで 止 ま っ て は い ませ ん 。 み ず み ず し い 葉 と根 の 間 に あ る もの へ と変 化 し ます 。 そ の 中 に は 乾 燥 し た 大 地 が あ る の で す 。 そ れ は,木 33/ の 幹 で す 。 この 盛 り上 が っ た 大 地 の 上 に,本 来 の 植 物 で あ る枝 が 育 ち ま す 。」 一 般 的 に植 物 と大 地 の 関 わ り を把 握 す る と き ,大 地 は植 物 の 根 を支 え,養 分 を貯 え,与 え て い る と指 摘 され るだ ろ うが,こ こで は,植 物 そ の もの の 一 部 分 を大 地 の 変 形 と して 見 な し て い る。 木 の 幹 は,盛 り上 が っ た 大 地 だ とい う。 そ して,木 と は,盛 り上 が っ た 大 地 の 上 に本 来 の 植 物(本 来 の 草 木)が 茂 っ て い る状 態 だ と い う。 つ ま り,大 地 と植 物 が,無 生 物 と生 物 の 枠 を超 え た 連 続 的 な もの と して 捉 え られ て い る。 こ の よ う な植 物 と大 地 の 連 続 性 は,木 が 朽 ち て さ ら に大 地 に 近 づ い て い く 様 子 を描 き 出 す こ と に よ っ て も説 明 さ れ る 。 こ の こ とか ら,砂 や 石 が,か つ て は木 に な る運 命 を持 っ て い た もの の 中 に そ の 起 源 を も っ て い る こ と,ま た, 大 地 は そ れ 自体 が 大 き な 植 物 で あ り,そ こか ら枝 を伸 ば す よ う に,草 木 を育 む 巨 大 な 木 で あ る こ と を説 明 す る 。 大 地 そ の もの,あ る い は地 球 そ の も の が 巨 大 な 木 で あ り,こ の 木 の 幹 か ら 様 々 な 植 物 が 生 え て い る と い う理 解 の 仕 方 は,学 問 的 な 自然 理 解 とい う よ り も,直 感 的 あ る い は比 喩 的 な理 解 と し て 受 け入 れ る べ き で あ ろ う。 だ か ら, こ の 自然 理 解 が 鉱 物 学 ・生 物 学 ・地 学 な どの 学 問 分 野 か ら見 て 妥 当 か ど う か を問 題 に す る の で は な く,何 の た め に こ の よ う な比 喩 的 自然 理 解 を,第5・ 6学 年(10∼12歳)の 子 ど もの な か に育 も う とす る の か と い う視 点 が 重 要 に な る。 さ ら に,教 材 構 成 例 を 示 す と,「 巨 大 な 木 か ら伸 び る枝 の よ う な 植 物 」の 中 に も,草 木 が あ り,樹 木 が あ り,菌 類 が あ る 。 植 物 の 多 様 性 は,ど の よ う に 説 明 さ れ る の だ ろ う か 。 ま ず,土 か ら掘 り起 こ す こ との で き る何 か の 草 花,た と え ば キ ン ポ ウ ゲ を 子 ど も た ち に 見 せ て,根 と茎 と葉 と花,そ れ か ら,お しべ と,そ こか ら実 が 成 長 し て くる め しべ の 作 りに つ い て,子 ど もた ち に説 明 した 後,一 本 の 木 を 182国 際経営論集No.81995

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引 き合 い に 出 し て,次 の よ う に樹 木 の 説 明 を す る。「この キ ン ポ ウ ゲ と木 を並 べ て 思 い 浮 か べ て ご ら ん 。 木 の つ く り は ど う な っ て い る の か な 。 土 の 中 に 根 が あ る ね 。 そ れ か ら,キ ン ポ ウ ゲ の 茎 の 部 分 が,木 の 場 合 は 幹 に な っ て い る ね 。 そ して,そ の 上 に よ うや く枝 が 伸 び て い る ね 。 この 枝 の 上 に,草 木 が 成 長 す る か の よ う に,た く さ ん の 小 花 や 葉 が つ い て い る ね 。 た と え ば,黄 色 の キ ン ポ ウ ゲ は草 原 に 咲 い て い る ね 。 そ し て,草 原 は 大 地 に根 を 張 っ た 本 来 の 草 花 に覆 わ れ て い る 。 この 本 来 の 草 花 た ち は,草 原 い っ ぱ い に 広 が っ て い る ね 。 け れ ど木 の 場 合 は,幹 の 上 に草 花 を持 っ て い る ん だ よ。 幹 そ の もの が 大 地 の 一 部 分 で,幹 は,そ の 上 に草 花 を咲 か せ る 草 原 の よ ヨの う な も の な ん だ よ。」 さ ら に,菌 類 ・蘇 類 に つ い て は,「 こ こで,草 花 が あ た か もす べ て を地 中 に 隠 し持 っ て い る と考 え て ご らん 。 茎 や 葉 を 持 っ て は い る け れ ど,成 長 させ な い で,た だ 花 の 中 に あ る もの だ け を 地 上 に 出 し て い る。 これ が キ ノ コ な ん だ よ。 茎 は 地 中 に あ る ま ま だ け ど,か ろ う じ て 葉 を地 上 に お ラ 出 し て い る植 物 が シ ダ 類 な ん だ よ 。」 と話 す 。 以 上 の よ う に,樹 木 はi大 地 が 伸 び 上 が っ た も の で あ る幹 の 上 に本 来 の 草 花 が 育 成 し て い る も の と して 捉 え られ て い る。 そ し て,菌 類 は,本 来 の 草 花 の もっ て い る茎 や 葉 が 大 地 の な か に 秘 め ら れ て い る もの と して 捉 え られ て い る。 つ ま り,植 物 の 多 様 さ は,根 ・茎 ・葉 ・花 を もつ 本 来 の 草 花 と大 地 の 関 わ りの 多 様 化 した もの と し て,捉 え ら れ て い る の で あ る 。 本 来 の 草 花 の 特 性 は,春 に芽 を 出 し,夏 に お し べ ・め し べ の 揃 っ た 花 を 咲 か せ,秋 に は 種 子 を つ く り,冬 に は 種 子 を 大 地 に 戻 し,自 ら も枯 れ 果 て て 大 地 に 帰 す る,と い う サ イ ク ル を 繰 り返 す こ とで あ る 。 そ れ ゆ え,様 々 な 植 物 を本 来 の 草 花 の 多 様 化 した も の と し て 捉 え る とい う こ と は,植 物 界 を こ の サ イ クル に お い て 理 解 す る とい う こ とで あ る。 ま た,本 来 の 草 花 と大 地 の 関 わ りは,季 節 に よ っ て 変 化 す る も の と し て, 捉 え られ て い る 。 「夏 が 近 づ い て き た 時,大 地 に は眠 りが 広 が る 。 そ れ は,次 第 に 広 が り,濃 厚 に な っ て い く。 植 物 が 最 も伸 び 広 が っ て い る時,大 地 は最 草創期 自由ヴァル ドルフ学校の教育課程183

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も眠 り込 ん で い る。 そ して,晩 秋 に な り,植 物 の 姿 が 消 え た 時,大 地 は 眠 り 36) か ら醒 め る。」 四 季 の 変 化 に 伴 う大 地 の 状 態 の 変 化 は,「 眠 り」 と 「目 醒 め 」 と い う比 喩 で 捉 え ら れ て い る。 シ ュ タ イ ナ ー の 把 握 に よれ ば,植 物 が 芽 を 出 し,花 が 開 き,実 を結 ぶ 春 ・夏 ・秋 の 間,大 地 は 「眠 っ て 」 い る 。 植 物 が 枯 れ,種 が 大 地 に 戻 る 晩 秋 ・冬 ・早 春 に か け て,大 地 は 「目醒 め 」 て い る。 晩 秋 か ら早 春 に か け て 大 地 に貯 え ら れ た エ ネ ル ギ ー が,春 ・夏 ・秋 に か け て 植 物 の 中 へ 入 っ て い き,発 芽 を 助 け,開 花 を助 け,実 を結 ば せ る。 や が て,冬 に な る と再 び 種 と して,枯 草 と し て,エ ネ ル ギ ー は大 地 に 帰 る。 こ の エ ネ ル ギ ー に満 ち て い る冬 を,大 地 の 「目醒 め 」 の 時 期 に 喩 え,エ ネ ル ギ ー が 大 地 か ら植 物 の 中 へ 移 動 す る春 ・夏 ・秋 を,大 地 の 「眠 り」 の 時 期 に 喩 え て い る 。 季 節 毎 の 植 物 の 変 化 に伴 う大 地 の 状 態 変 化 を,「 目醒 め 」 「眠 り」 に 喩 え る の は,人 間 の 営 み との 関 連 を意 識 して い る か らで あ る 。「人 間 の 場 合,彼 が 眠 っ て い る 時 の 心 の 営 み は 静 止 し て い る。 大 地 の 場 合,大 地 が 眠 っ て い る 時,心 37) の 営 み が 始 ま る 。」 本 来 の 草 花 は,大 地 が 「眠 り」 に つ い て い る春 ・夏 ・秋 の 間 に,地 上 に 姿 を見 せ て い る 。 この 本 来 の 草 花 を 「人 間 の 心 の 営 み 」 に喩 え る と,人 間 と 自 然 の 営 み の 間 に,上 の 引 用 に 示 さ れ て い る よ う な 関 連 性 を見 い 出 す こ とが で き る。 そ れ ゆ え,大 地 の 営 み との 関 わ りで 植 物 を 扱 う と い う こ と は,「 人 間 の 心 の 営 み 」 の 喩 え と し て 植 物 を示 す こ と を意 図 し た もの だ と い え よ う。 この よ う に植 物 界 を 「人 間 の 心 の 営 み 」 の 喩 え と して 示 す こ と を意 図 す る 植 物 学 は,単 な る 実 物 観 察 の 繰 り返 し と は異 な っ た 教 材 構 成 に な っ て い る。 た と え ば ス ミ レ を 扱 う場 合 の例 を あ げ て み よ う。 教 師 は,ま ず,子 ど もた ち に ス ミレ そ の も の を 見 せ て,つ く りを 説 明 し, 次 に,子 ど もた ち が 谷 の 酵 の 間 で 根 づ い て い る ス ミ レの 様 子 を 思 い 浮 か べ ら れ る よ う に,話 し を し た り絵 を描 い た りす る 。 そ れ か ら,次 の よ う に話 を進 め て い る。 「控 え 目 な 子 ど も と活 発 な 子 ど もが い ます 。控 え 目 な 子 ど も は,ほ とん ど 目 184国 際経営論集No.81995

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立 ち ませ ん 。 け れ ど,活 発 な 子 ど も は注 目 さ れ た が り ます 。 見 て ご ら ん,ス ミ レ は とて も美 し い ね 。 こ の ス ミ レ が 愛 ら し い葉 を ぴ い ん と張 っ て い るの を 見 る と,ス ミ レ は 注 目 さ れ た が っ て い る よ う に 見 え る ね ス ミ レ は,引 っ込 み 思 案 で 隅 の 方 に い る子 ど も と は比 べ られ な い け れ ど ,と て も快 活 な 子 ど も と比 べ る こ と は で き る ね 。 けれ ど,ス ミ レ が 蘇 の 間 に 隠 れ て い た 時 は そ ん な 風 で もな か っ た ね。 そ れ か ら し ば ら く経 っ て,葉 の 間 に ス ミ レ の 花 が 咲 い て い る の を 見 つ け た 時 ,ス ミ レ全 体 が 蘇 か ら盛 り上 が っ て い た ね 。 け れ ど,こ の 場 合 も,ス ミ レ は た だ 見 られ た が っ て こ う し て い る の で は な く,ま た,た だ 香 気 を放 ち た が っ て こ う す る の で もな か っ た よ うだ ね 。 あ た か も,『 は い,は い,は い,は い,私 は こ こ に い る よ。 で も,き み が 捜 しあ て な い と,私 は 見 つ か ら な い よ。』と言 っ て い る よ う だ ね 。 こ の ス ミ レ は,全 く 目立 ち た が りな 子 ど も だ とい う わ け で 38) もな く,茶 目 っ 気 の あ る子 ど も の よ う だ ね 。」 この 例 で は,ス ミ レ の 持 っ て い る 茶 目 っ 気 さ が 強 調 さ れ て い る 。 また,ナ デ シ コ科 の カ ー ネ ー シ ョ ン の 場 合 は,そ の あ で や か さ(こ び)に 注 目 す る 更 に,ヒ マ ワ リを 教 材 と し て 用 い る場 合 は,ヒ マ ワ リが 武 骨 に 目立 ち た が っ て い る様 が 思 い 浮 か ぶ よ う に 扱 う。 こ の よ う に,本 来 の 草 花 は,主 に 気 性 ・ 気 質 ・性 向 の 喩 え と して 用 い られ る 。 つ ま り,植 物 学 の 考 察 が 大 地 の 営 み との 関 わ りで な され る とい う こ と は, 人 間 を 背 景 に お い た 自然 考 察 が 意 図 さ れ て い る こ と を 示 し て い る。 そ して, 植 物 界 は,本 来 の 草 花 の 多 様 化 し た もの と して 捉 え られ て い る 。 更 に,本 来 の 草 花 に あ た る顕 花 植 物 は,「 人 間 の 心 の 営 み 」 で あ る 気 質 ・気 性 ・性 向 に 喩 え ら れ る。 ま た,子 ど もた ち が 個 々 の 植 物 教 材 を大 地 に根 づ い た もの と し て 捉 え られ る た め に,実 物 観 察 に加 え て,絵 画 を 伴 う具 体 的 な 説 明 を積 み 重 ね る 。 草創 期 自由 ヴ ァル ドル フ学 校 の教 育 課 程185

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III「 生 き た 概 念 」 シ ュタ イナ ー は,第2期(歯 の生 え替 わ りか ら性 的 成熟 に至 る まで)の 授 業 方 法 として,「 性 格 づ け」を重 視 して い る。 彼 は,教 師 養 成 の た めの講 習 会 にお け る連 続 講 演 「教育 の 基 礎 として の一 般 人 間 学 」(第 九講)の 中 で,「 性 格 づ け」 につ い て次 の よ うに述 べ て い る。 「私達 は授 業 の 中 で 定 義 づ け をす べ きで は な く,性 格 づ け をす る よ うに試 み るべ きな の で す。 性 格 づ け をす る に は,事 物 を 出来 るだ け多 くの 視 点 に さ ら す の が よい の で す 。 も し私 達 が博 物 の授 業 で,た とえば今 日の あ らゆ る博 物 学 教 科書 の 中 に書 い て あ る よ うな動 物 につ い て の説 明 を子 ど もに教 え込 む な らば,そ れ は子 ど もに 向 か って単 に動物 の定 義 を与 え てい るの と同 じ こ とで あ ります。 私 達 は授 業 の あ らゆ る瞬 間 に お い て,様 々 な面 か ら動物 の 持 つ 性 格 を明 らか に して い くよ うに試 み な け れ ば な りませ ん。 た とえ ば,ど の よ う な過 程 を通 して人 間 は或 る動 物 と親 し くな って い った の か,ど の よ う に して この 動物 を人 間 の た め の作 業 に使 役 す る よ う に な った の か 等 々 の 面 か ら,こ の動 物 を性 格 づ けて い くよ うに私 達 は試 み るべ きなの で す 。 皆 さん が,年 間授 業 計 画 に したが っ て まず イ カ にっ い て生物 学 的 に説 明 し,次 のペ ー ジで ネ ズ ミを扱 い,そ れ か ら先 に進 ん で い って人 間 を扱 う とい うよ うに授 業 を進 め るの をや め,イ カ とネズ ミ と人 間 を同 時 に 扱 い, 相 互 に関 連 づ け て い くよ う にな され ば,た とえ知 的 に構 成 され た 授 業 で あ っ て も,十 分 に性 格 づ けの効 果 を発 揮 で きるの で あ ります 。 この よ うにす れ ば 相 互 の関 係 は多面 的 に な って き ます か ら,そ こか らは定 義 づ け で は な く,性 39) 格 づ け が 生 じて くる の で あ り ま す 。」 シ ュ タ イ ナ ー は,「 定 義 づ け 」 と 「性 格 づ け 」 を 区 別 して い る 。 「定 義 づ け 」 の 授 業 は,た と え ば 「ラ イ オ ン と は … … 」 と い う定 義 を教 え込 ん で,子 ど も に そ の ま ま暗 記 さ認 よ うな授 業 で あ る.つ ま り慨 成 の 概 念 ・糠 ・判 断 186国 際 経 営 論 集No.81995

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を そ の ま ま憶 え 込 ま せ る こ と に 重 点 を 置 く授 業 が,「 定 義 づ け 」 の 授 業 で あ る。 こ れ に対 して,「 性 格 づ け 」は,い くつ か の 教 材 を 並 行 し て 扱 っ た り,相 互 に 関 係 づ け た り し て,個 々 の 教 材 を 多 面 的 に 把 握 す る こ と を意 味 し て い る。 そ れ ゆ え,「 性 格 づ け」の 授 業 は,教 材 の 具 体 的 な イ メ ー ジ を伝 え る こ と に 重 点 を置 い た 授 業 で あ る 。 シ ュ タ イ ナ ー は,特 定 の 教 科 に 限 定 す る こ と な く, 教 材 の 扱 い 方 の 一 般 的 原 則 と し て,「 性 格 づ け 」 を あ げ て い る 。 そ し て,シ ュ タ イ ナ ー が 「性 格 づ け 」 の 授 業 を重 視 す る の は,第2期 の 子 ど もに 「生 きた 概 念 」 を与 え る た め な の だ が,彼 は,「 生 きた 概 念 」 を どの よ う に 捉 え て い る の だ ろ うか 。 教 師 養 成 の た め の講 習 会 に お け る講 演 の 中 で, シ ュ タ イ ナ ー は次 の よ う に述 べ て い る 。 「も し皆 さ ん が9歳 か10歳 の 子 ど もに 概 念 を注 入 し,そ の 子 ど もが30歳 ・40 歳 とな っ た 後 に もな お,そ の 概 念 が 同 じ形 で 残 っ て い る よ う な こ と に な る な ら ば,皆 さ ん は そ の 子 ど も に概 念 の 死 骸 を 注 入 し た の で す 。 な ぜ な ら ば,人 間 の 方 は 成 長 し て い くの に,そ の 概 念 は 人 間 と共 に 生 き て い く こ と を し な い か ら で す 。 子 ど も に与 え られ な け れ ば な ら な い の は,子 ど もの 成 長 と共 に 変 41) 化 し て い く こ との で き る概 念 で な け れ ば な り ませ ん 。」 シ ュ タ イ ナ ー は,「 生 き た 概 念 」 と 「概 念 の 死 骸 」 を 対 置 させ て 捉 え て い る 。 「概 念 の 死 骸 」は,子 ど もが 成 長 し て い っ た後 も,教 え られ た ま ま の 形 で 留 っ て い る とい う。 そ れ に対 して,「 生 き た 概 念 」は,子 ど もの 成 長 と と も に 変 化 し て い く可 塑 性 を持 っ て い る と い う。 そ し て,既 成 の 概 念 や 定 義,あ る い は 教 師 が す で に 下 し て し ま っ た 判 断 を,そ の ま ま教 え込 む こ とに 重 点 を お く 「定 義 づ け 」 の 授 業 が,「 概 念 の 死 骸 」 を注 入 して い る の に 対 し て,「 性 格 づ け 」 の 授 業 は 「生 き た 概 念 」 を与 え て い る の で あ る。 そ れ ゆ え,「 生 き た 概 念 」は,教 材 の 具 体 的 な イ メ ー ジ が 伝 わ る よ う な 教 材 構 成 の 積 み 重 ね に よ っ て 作 り あ げ られ る概 念 で あ り,こ の よ う な 概 念 が,子 ど もの 成 長 と と もに 変 化 して い く可 塑 性 を 持 っ て い る,と ま とめ る こ とが で き る 。 草創期自由ヴァルドルフ学校の教育課程187

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更 に,シ ュ タ イ ナ ー は,「 生 きた 概 念 」 の 条 件 を 次 の よ う に 述 べ て い る。 「人 生 や 世 界 の 個 々 の 事 象 に つ い て は,子 ど も と共 に 生 き て成 長 す る よ う な 概 念 を 与 え な け れ ば な り ま せ ん 。 で す け れ ど も,そ の 際 に 皆 さ ん は,一 切 の 事 象 を 人 間 に 関 係 づ け る よ う に し な け れ ば な ら な い の で す 。 … … 子 ど も に 寓 話 を語 っ て 聞 か せ,そ れ を人 間 の 問 題 と関 係 づ け る 時,ま た,博 物 学 の 授 業 で イ カ や ネ ズ ミ を人 間 と関 係 づ け る 時,あ る い は,電 気 通 信 機 を取 り扱 い, 地 回 路 に よ っ て 完 結 す る この 奇 跡 に つ い て の 驚 き を 子 ど も に 目 ざ め させ る 時, そ の よ う な 時 に皆 さ ん が 子 ど も に 与 え る もの の 一 切 は,そ の 個 別 の 相 に 42) お い て 全 世 界 と人 間 を 結 び つ け る もの な の で あ り ます 。」 シ ュ タ イ ナ ー は,「 生 き た 概 念 」が 常 に人 間 に 関 係 づ け ら れ た もの で な け れ ば な ら な い とい う条 件 を述 べ て い る 。 そ し て,人 間 と関 係 づ け られ た 「生 き た 概 念 」 を作 りあ げ る た め に は,個 々 の 教 材 を 「性 格 づ け」 す る場 合 に も, 一 つ 一 つ の 教 材 を人 間 と関 連 づ け る 必 要 が あ る と述 べ て い る こ こ で,こ れ ま で の 引 用 に も とつ い て,「 性 格 づ け 」 と 「生 き た 概 念 」に つ い て ま と め て お こ う。 「性 格 づ け 」 と は,個 々 の 教 材 を人 間 と関 係 づ け な が ら,幾 っ か の 教 材 を並 行 して 扱 う こ と に よ り,教 材 の 多 面 的 な 把 握 が で き る よ う に 教 材 構 成 を す る こ とで あ る 。 そ し て,「 生 きた 概 念 」とは,こ の よ う な 「性 格 づ け 」の 作 業 を積 み 重 ね る こ と に よ っ て 得 ら れ る もの で あ り,子 ど もの 成 長 と と も に概 念 も成 長 ・発 展 し て い く こ と と,人 間 に 関 係 づ け られ た 概 念 で あ る とい う こ とが 特 徴 で あ る 。 ]Vお わ り に 「性 格 づ け 」 及 び 「生 き た 概 念 」 は,す で に 検 討 し た 動 物 学 ・植 物 学 の 教 材 構 成 例 の 中 に もい か さ れ て い る 。 この 場 合 の 「性 格 づ け 」 は,第1に,イ カ ・ネ ズ ミ ・人 間,あ る い は,草 花 を 具 体 的 に イ メ ー ジ で き る よ う な 説 明 を 積 み 重 ね る こ と,第2に,動 物 ・植 物 の 生 活 環 境 も含 め た 絵 を 描 く こ とに 具 188国 際 経 営 論 集No.81995

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体 化 され て い る。 そ して,各 教 材 の具 体 的 な イ メー ジの積 み重 ね に よっ て作 りあ げ られ る動 物 界 ・植 物 界 の 全体 像 が,動 物 学 ・植 物 学 にお け る 「生 きた 概 念 」にあ た る,と 考 え て い い だ ろ う。動 物 学 で は,「 動 物 界 は人 間 の 多様 化 した もの で あ り,人 間 は動 物 界 の総 体 で あ る」 とい う全 体 像 を導 き出 し,植 物 学 で は,「植 物 界 は本 来 の草 花 の 多様 化 した もの で あ り,本 来 の草 花 は人 間 の心 の比 喩 だ 」 とい う全 体 像 を導 き出 した 。 この全 体 像 が 「生 きた概 念 」 だ とい え る理 由 は,第1に,人 間 との関 わ りで動 物 界 ・植 物 界 を捉 え て い るか らで あ りa第2に,後 に生物 学 の知 識 を加 え得 る可 塑 性 が あ るか らで あ る。 それ ゆ え,自 由 ヴ ァル ドル フ学 校 の 教 育課 程 に お け る博 物 学 教 育課 程 が, 国 民 学校 の 教 育 課 程 に見 られ る よ うな 生 物 学 的 考 察 観 点 を と らず,第9∼12 学 年 の 生物 学 の 体 系 に則 った学 習 の 前 に,人 間 との 関 わ りで 自然 の全 体 像 を 描 き出 す の は,「 生 きた概 念 」と して の 自然把 握 を育 も う と して い る か らだ と い え よ う。 今 後,現 在 の 自由 ヴ ァル ドル フ学 校 の教 育 実 践 資料 の収 集 や,学 校 参 観 を 通 じて,教 育 実 践 に基 づ く教 育 課 程 に つ い て考 察 す る こ とを課 題 とす る。 謝 辞 自 由 ヴ ァル ドル フ学 校 に つ い て の文 献 調 査 並 び に翻 訳 に際 して,新 田 義 之 先 生 ・新 田貴 代 先 生 か ら ご指 導 や助 言 をい た だ いた 。 また,ヴ ュ ル テ ンベ ル ク州 の ・ 教 育 課 程 資 料 は,当 時,旧 西 ドイ ツ に留 学 中 だ っ た今 井 重 孝 氏 が お 送 り下 さ っ た。 厚 くお 礼 申 し上 げ る。 付 記 本 論 文 は,筆 者 が 東 京 大学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 に提 出 した修 士論 文 「自 由 ヴ ァ ル ドル フ学 校 に お け る理 念 と実践1919∼25年 を中心 に 」(1981年1月)の 「第 二 章 教 育 課 程 一 博 物 学 を 中 心 に 」 「資 料 」に 加 筆 し,修 正 を加 え た も の で あ る。 自由 ヴ ァル ドル フ学 校 で は,生 徒 一 人 ひ と りが ノ ー ト作 成 を して結 果 的 に教 科書 に値 す る もの を各 自が つ く り出 す 過程 が 大切 に され て お り,ノ ー トの 草 創 期 自由 ヴ ァル ドル フ学 校 の 教 育課 程189

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内容 が,教 育 内容 を明 確 に把 握 で き る資 料 で もあ る。修 士論 文 で は,新 田先 生 を 通 じて お借 りした,A.Geier(1979年 に 自由 ヴ ァル ドル フ学 校 の フ ラ イ ブル ク校 を卒 業)の ノ ー トの翻 訳 を,カ ラ ー 写真 と共 に資料 と して付 した が,本 論 文 で は 紙 面 の都 合 上 割 愛 した。 注 1)新 田 義 之 監 修 ・大 西 そ よ 子 訳 『精 神 科 学 の 立 場 か ら 見 た 子 ど も の 教 育 』 人 智 学 出 版 社y1979年,参 照 。 2)鈴 木 そ よ 子 「草 創 期 自 由 ヴ ァ ル ド ル フ 学 校 に お け る 理 念 と 実 践1919∼25 年 の 教 育 課 程 を 中 心 に 」 『神 奈 川 大 学 心 理 ・教 育 研 究 論 集 第10号 』1992 年 。 3)E.A.KarlStockmeyer:RudolfStainersLehrplanfurdie陥 〃o腐 漉 〃6. Stuttgart21965.:RudolfSteiner'sCz〃 γゴα彫12〃ηforWaldorfSchools. RolandEverett-Zade(translator)Bradford1966,p.121. 4)CarolinevonHeydebrand:VvmLehrplanderFreienWaldorfschule. Stuttgart1978. 5}ibid.,S.25. 6)ibid. 7)ibid.,S.27. 8)ibid.,S.30. 9}ibid.,S.36. 10}ibid.,S.44. 11}ibid.,S.53. 1?)LehrpldnefurdieVolks=andMittelschuleninWurttemberg.Gesamtaus-gabe1928. 13)ibid.,S.19. 14)梅 根 悟 「初 等 理 科 教 授 の 革 新 』 梅 根 悟 教 育 著 作 選 集5,明 治 図 書,1977年, p.233. 15)同 書,p.236. 16)同 頁 。 190国 際 経 営 論 集No.81995

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17)同 頁 。

18)同 書,p.237.

19)同 頁 。

20)CarolinevonHeydebrand:レ リηzLehrplanderF7召 ∫召ηWaldortschule .

Stuttgart1978. 21)RudolfSteinerlE㎎ ガ6ぬ%η,g3肋 ηs4Methadisch--1)adaktisches.Dornach1974, S.99. 22)ibid.,S.1.00. 23}ibid.,S.97. 24}ibid.,S.100. 25)ibid.,S,101. 26)ibid. 27)ibid.,S.102. 28)ibid. 29)こ こ で,人 間 と 動 物 を 比 較 す る 際 の 原 則 に つ い て ま と め て お こ う 。 シ ュ タ イ ナ ー は 人 間 の 身 体 を3部 分 に 分 け て 捉 え て い る 。 脳 と 神 経 組 織,呼 吸 ・血 液 循 環 組 織,四 肢 と 新 陳 代 謝 組 織 で あ る 。 こ れ ら が,初 歩 的 人 間 学 に お い て は,頭 部,胴 部,四 肢 と 表 現 さ れ て い る 。 そ し て,人 間 と 動 物 を 比 較 す る 際 に,各 組 織 が 特 に 発 達 し て い る 動 物 を 比 較 の 対 象 と し て 選 ぶ 。 頭 脳 ・神 経 組 織 一 下 等 動 物 呼 吸 ・血 液 循 環 組 織 一 魚 類 の よ う に い く ら か 程 度 の 高 い 動 物 四 肢 ・新 陳 代 謝 組 織 一一 高 等 動 物 30)ibid.,S.105. 31)実 際 に は,シ ュ タ イ ナ ー が 教 師 達 を 前 に し て 話 し て い る の だ が,こ の 箇 所 は 彼 が 教 壇 に 立 っ て,子 ど も た ち に 話 し か け る よ う に 説 明 し て い る 。 32)RudolfSteiner:Erziehungskunst,SeminarbespreehungenandLahrplan-vnrtrage.Dornach1977,S.105E. 33)RudolfSteiner:GegenwartigesGeisteslebenandErziehung.Dornach1973, S.163. 34)RudolfSteiner:Erziehungskunst,SeminarbesprechungenandLehr-planvvrtrdge.Dornach1977,S.114f. 35)ihid.,S.115. 草 創 期 自 由 ヴ ァル1Lフ 学 校 の 教 育 課 程191

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36?ibid.,S.113. 37)ibid.,S.114. 38)ibid.,S.fi7. 39)RudolfSteiner:AllgemeineMenschenkundealsGrundlagederPddagogik. Dornach1960.ル ド ル フ ・ シ ュ タ イ ナ ー 「教 育 の 基 礎 と し て の 一 般 人 間 学 』 新 田 義 之 訳,人 智 学 出 版 社,1980年,p.184. 40)同 書,p.183. 41)同 頁 。 42)同 書,p.185.

学(1925年)

出 典:Lehrうlanefurdie'レolks=and〃 読 諮 漉 〃 例inWurttemberg, Gesamtausgabe,1928. 博物学 の主な 目的 1.郷 土 の 自然 の なか で起 こる現 象 と郷 土 の生 活 に対 す る興 味 ・理 解 を 目覚 め さ せ る。 その 際,重 要 な動 物 ・植 物 の知 識 を与 え る。 2.健 康 な生 活 を営 む た め に,身 体 の構 造 と活 動 を一 覧 させ る。

教育内容

第5学 年 1.狭 く限 定 し た 意 味 の 「生 活 共 同 体 」 を 営 む 動 ・植 物 の な か か ら,い く つ か を 扱 う 。 2.観 察 領 域 を 限 定 す る こ と な く,庭 ・畑 ・草 原 ・森 な ど で 動 ・植 物 を 観 察 す る 。 第6学 年 1.第5学 年 か ら 継 続 し て い る 動 ・植 物 の 観 察 が あ る 程 度 進 ん だ 段 階 で,自 然 体 系 に も と つ い て,動 ・植 物 を 簡 単 に 概 観 す る 。 こ の こ と か ら,た と え ば,個 々 の 動 ・植 物 の 成 長 過 程,適 応 現 象,動 ・植 物 の 越 冬 な ど の よ う な 生 物 的 理 解 へ と 導 く。 192国 際 経 営 論 集No.81995

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2.自 然 観 察 に も とつ く植 物 の 考 察 を す る。 酸 素 ・炭 素 ・水 につ い て の 化 学 的 説 明 を した うえ で,植 物 の発 芽,根 か らの 水 分 ・滋 養 物 の吸 収,細 胞,水 の 浸 透 な どにつ い て論 じ る。 3.石 炭 類i原 油,岩 塩,鉄,金,銀 な ど。 第7学 年 1.重 要 な飼 育 動物 ・栽 培植 物 及 び郷 土 の 四季 の植 物 が,自 然 条件 や 人 間 の手 入 れ に依 存 して い る こ とにつ い て学 習 す る。 2.地 学 的 側 面 か ら郷 土 をみ る。 3.化 学 的 側 面 で は,第6学 年 の簡 単 な復 習 と補 充 を す る。 4.肥 え た土 壌 を つ くる重 要鉱 物 につ いて学 習 す る。 5.地 殼 の構 造 。 第8学 年 1.人 体 の構 造 と活 動 の 考 察 か ら,自 分 自身 の身 体 の観 察 ・保 護 ・育 成(健 康 学) へ と導 く。 2.人 間 学:人 間 の構 成物,支 え ・保護 ・動 作 の器 官(骨 格 ・筋 肉 ・皮 膚) ,細 胞 の つ く り,新 陳 代 謝 とそ の器 官:栄 養,血 液 循 環 ・呼 吸 と排 泄,咽 頭 ・神 経組 織 と感 覚組 織 な ど。 3.保 健 ・衛 生 の適 当 な部 分 か ら:労 働 と休 養,体 操,散 歩,遊 び,ス ポ ー ツ, の意 味 。 身 体 強 化 ・話 ・歌 に お け る正 しい 呼 吸 法 。過 度 な,不 十 分 な,あ るい は偏 った栄 養 。 口 と歯 の 衛 生 な ど。 4.人 間学 と関連 す る化 学 か ら:炭 水 化 物 ・蛋 白質 ・脂 肪 な どの重 要 な栄 養 素 。 5.家 づ く りの材 料 。

教育方法

特 に,動 ・植 物 の扱 い 方 に関 す る部 分 の 要 約 。 第5∼7学 年 で 扱 う教 材 は,郷 土 の 自然 条件 や 実 生 活 の 要 求 や 学 校 の状 況 に よ っ て,郷 土 の動 物 や植 物 を扱 う。 しか し,こ れ らの う ちで,立 ち入 って 扱 うの は,そ の地 に とって,あ る い は,そ の環 境 に とっ て重 要 な もの だ けで あ る。 動 ・植 物 の 多 くは,こ れ ら が 生 活 連 関(Lebensverband)や 人 間 に と っ て 意 味 を 持 つ 限 りで,そ の 主 な特 徴 や 活 動 の仕 方 に も とつ く特 徴 づ け を すれ ば十 分 で あ る。(外 国 の 動 ・植 物 は地 理 学 で考 察 す る。) 草 創期 自由 ヴ ァル ドル フ学 校 の教 育 課 程193

参照

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