6
章
スペクトルの平滑化
スペクトルの平滑化とは フーリエスペクトルやパワ・スペクトルのギ ザギザを取り除き、滑らかにする操作のことを いう。ただし、波のもっている本質的なものを ゆがめてはいけない。 6.1 合積のフーリエ変換 スペクトルの平滑化を学ぶ前に、合積とそのフーリエ変換について説明する。 6.2 データ・ウィンドウ データ・ウィンドウの定義と特徴について説明する。 6.3 スペクトル・ウィンドウ スペクトル・ウィンドウの定義ともつべき性質を説明し、6 つのスペクトル・ウィンドウについての 紹介をする。 6.1 合積のフーリエ変換 2 つの関数 f1(x)と f2(x)が与えられたとき f1(x)と f2(x)の積: f(x) = f1(x・) f2(x) f1(x)と f2(x)の合積:f
x
∫
f
y
f
x
y
dy
∞ ∞ −−
=
(
)
(
)
)
(
1・
2 (6.1) が定義される。ここで変数を時間と変えて、t と書けばdy
t
f
f
t
f
∫
∞ ∞ −−
=
(
)
(
)
)
(
1τ
・
2τ
(6.2) が時間の関数 f1(x)と f2(x)の合積である。式(6.1)の y や式(6.2)の τ は、積分すると消えてしまう媒介変 数である。合積はたたみ込み積分あるいは Duhamel 積分と呼ばれることもある。 また、関数が 0≦t≦∞の間で定義されているとき、式(6.2)はdy
t
f
f
t
f
=
∫
t−
0 1(
)
2(
)
)
(
τ
・
τ
(6.3) で表され、これも合積である。 式(6.2)の定義を記号で書くと f(t) = f1(t)∗ f2(t) (6.4) となり、これは式(6.2)で変数変換をおこなうと ) ( ) ( ) ( ) ( 2 2 1 1 t f t f t f t f ∗ = ∗ (6.5) 図 6-7 パワ・スペクトルの平滑化となり交換法則が成り立つ。 次に式(6.2)をフーリエ変換すると、式(4.68)により
dt
e
t
f
F
∫
∞ i t ∞ − −=
ωω
)
(
)
(
(4.68)τ
τ
τ
τ
ω
f
f
t
d
e
ωd
F
∫ ∫
∞ i t ∞ − − ∞ ∞ −
−
=
(
)
(
)
)
(
1 2 (a) となり、積分の順序を変更すればτ
τ
τ
τ
ω
f
f
t
e
ωd
d
F
∫
∞∫
i t ∞ − ∞ ∞ − −
−
=
(
)
(
)
)
(
1 2 である。ここで、t−τ ≡ zとおくとt
=
z
+
τ
,
dt
=
dz
だから、[]内の積分は ωτ ωτ ω τ ω ωω
τ
τ
τ
i i z i z i t ie
F
e
d
e
z
f
dz
e
z
f
d
e
t
f
− ∞ ∞ − ∞ ∞ − − − + − ∞ ∞ − −=
=
=
−
∫
∫
∫
)
(
)
(
)
(
)
(
2 2 ) ( 2 2・
と書け、したがって(a)式は)
(
)
(
)
(
)
(
)
(
ω
1τ
ωτ 2ω
τ
1ω
2ω
F
F
d
F
e
f
F
∫
∞ i・
∞ − −=
=
となる。つまり、2 つの関数 f1(x)と f2(x)の合積のフーリエ変換は、それぞれの関数のフーリエ変換 F1(ω) と F2(ω)の積である。式(4.70)および式(6.4)に示した記号を使えば)
(
)
(
t
F
ω
f
⇔
(4.70)
⇔
∗
⇔
⇔
)
(
)
(
)
(
)
(
)
(
)
(
),
(
)
(
2 1 2 1 2 2 1 1ω
ω
ω
ω
F
F
t
f
t
f
F
t
f
F
t
f
・
(6.6) と表わせる。円振動数 ω の代わりに、振動数 f を使っても
⇔
∗
⇔
⇔
)
(
)
(
)
(
)
(
)
(
)
(
),
(
)
(
2 1 2 1 2 2 1 1f
F
f
F
t
f
t
f
f
F
t
f
f
F
t
f
・
(6.7) である。 これと逆に、時間領域における 2 つの関数 f1(t)と f2(t)の合積のフーリエ変換は、それぞれの関数のフ ーリエ変換 F1(ω)と F2(ω)の周波数領域における合積になっているとういう関係、すなわち
∗
⇔
⇔
⇔
)
(
)
(
2
1
)
(
)
(
)
(
)
(
),
(
)
(
2 1 2 1 2 2 1 1ω
ω
π
ω
ω
F
F
t
f
t
f
F
t
f
F
t
f
・
(6.8) あるいは
∗
⇔
⇔
⇔
)
(
)
(
)
(
)
(
)
(
)
(
),
(
)
(
2 1 2 1 2 2 1 1f
F
f
F
t
f
t
f
f
F
t
f
f
F
t
f
・
(6.9) もほとんど同様にして導くことができる。 フーリエ変換の対をなす6.2 データ・ウィンドウ 移動平均法:図 6-1 に示すように、ある標本値を中心に時間の幅 b の間にある標本値の平均を求め、 その値を中心点に標本値とし時間幅一定で中心をずらしていく方法。 図 6-1 データ・ウィンドウ 図 6-2 のように、時間幅 b が広くなるほど波が滑らかになっていく。 図 6-2 例題波の移動平均 時間の連続関数 f(t)を考え、時間幅 b の中の平均値をその中心とする、ということを式で書けば
f
τ
d
τ
b
t
f
b t b t b∫
+ −=
2 2)
(
1
)
(
となる。 ずらしていく ずらしていく ずらしていく ずらしていく 平均値 平均値 平均値 平均値 ボコボコ 滑らか (a) (b) (c)次のような式(6.10)で与えられる時間の関数 w(t)の形を長方形パルスという。
>
=
≤
=
2
0
)
(
2
1
)
(
b
t
t
w
b
t
b
t
w
(6.10) 図 6-3 長方形パルス 式(6.10)から
+
>
−
<
=
−
+
≤
≤
−
=
−
2
,
2
0
)
(
2
2
1
)
(
b
t
b
t
t
w
b
t
b
t
b
t
w
τ
τ
τ
τ
τ
であるから、移動平均法は式(6.11)のような合積をしていることになる。f
b(
t
)
=
∫
f
(
τ
)
w
(
t
−
τ
)
d
τ
∞ ∞ − (6.11) ・図 6-1 に示すようにデータの並びを幅 b で囲ったウィンドウ(窓)で見るという意味で、式(6.10)の関 数 w(t)をデータ・ウィンドウという。 ・このウィンドウはデータの値を一様に平均しているが、真ん中が大きく端を小さくするようなデータ に重みをもたせた平均値をとるウィンドウもある。 長方形パルス → 平面ガラス データに重みをもたせたウィンドウ → レンズのようなガラス 式(6.11)右辺の合積のフーリエ変換は以下のようになる。f
(
t
)
∗
w
(
t
)
⇔
F
(
f
)
・
W
(
f
)
つまり、時間領域で移動平均法をおこなってデータを平滑化すると、スペクトルは原波形のスペクト ルに、データ・ウィンドウのフーリエ変換を乗じたものになる。 幅:b 高さ:1/b 面積:1 原波形のフーリエ変換 データ・ウィンドウのフーリエ変データ・ウィンドウ w(t)のフーリエ変換 W(f)は
[
]
2[
( ) ( )]
2 ) 2 ( 2 2 ) 2 ( ) 2 ()
2
(
1
)
2
(
1
1
)
(
)
(
bt i bt i b b ft i b b ft i ft ie
e
bf
i
e
bf
i
dt
e
b
dt
e
t
w
f
W
π π π π ππ
π
− − − − − ∞ ∞ − −−
=
−
=
=
=
∫
∫
となり、式(4.33)から)
(
2
1
sin
θ
iθ iθe
e
i
−
−−
=
(4.33)bf
bf
f
W
π
π
sin
)
(
=
(6.12) である。式(6.12)を描くと図 6-4 のようになる。また、図 6-2 の(a),(b),(c)それぞれのパワ・スペク トルは図 6-5 のようになる。 図 6-4 データ・ウィンドウのフーリエ変換 図 6-5 移動平均法とパワ・スペクトル ・図 6-5 のように、スペクトルがそれぞれ 1/b Hz のところでほぼ終わりになっている。 ・データ・ウィンドウの幅を広げると、スペクトルの面積を小さくするためパワをゆがめてしまう。 f=1/b でスペクトルが 0 サイド・ローブ Δt=0.5 1/(3Δt)=0.67 1/(5Δt)=0.4 0.4 0.676.3 スペクトル・ウィンドウ パワ・スペクトルを G(f)とし、移動平均法によって平滑化されたパワ・スペクトル G(f)は
∫
−∞∞−
=
G
g
W
f
g
dg
f
G
(
)
(
)
(
)
(6.13) で表わされる。このような振動数の関数 W(f)をスペクトル・ウィンドウといい、これがもつべき性質は 面積不変性:原波形のもつパワ・スペクトルの面積を変えてはまずい。 対称性:ある点で平均値を求めるとき、その両側の値の扱いに不均衡があってはならない。 であり、このことを式で表わせば
−
=
=
∫
∞ ∞ −)
(
)
(
1
)
(
f
W
f
W
df
f
W
(6.14) 式(6.14)のような条件を有する関数は無数にある。ここでは理論的に分かりやすいもの、実際によく 使われているものを紹介する。 (1) 長方形パルス 式(6-3)に示した時間領域のウィンドウを周波数領域におけるウィンドウにすると
>
=
≤
=
2
0
)
(
2
1
)
(
b
f
f
W
b
f
b
f
W
(6.15) となる。この関数の横軸に関する分散はb
df
b
df
b
df
f
W
b b1
1
1
)
(
/2 2 / 2 2 2 2=
=
=
=
∫
∫
∫
− ∞ ∞ − ∞ ∞ −σ
(a) である。 (2) 長方形ウィンドウ 式(6.16)で与えられる振動数の関数を長方形ウィンドウという。
=
uf
uf
u
f
W
π
π
2
2
sin
2
)
(
(6.16) ここで、u はある定数である。.
const
u =
(sec) (6.17) (3) Bartlett ウィンドウ 式(6.18)で与えられる振動数の関数を Bartlett ウィンドウという。 面積不変性 対称性2
sin
)
(
=
uf
uf
u
f
W
π
π
(6.18) (4) Parzen ウィンドウ 式(6.19)で与えられる振動数の関数を Parzen ウィンドウという。 22
2
sin
4
3
)
(
=
uf
uf
u
f
W
π
π
(6.19) (2)~(4)のスペクトル・ウィンドウを図 6-6 に示す。 図 6-6 スペクトル・ウィンドウ 式(6.16),(6.18),(6.19)をまとめて書くと ピークの鋭さ サイド・ローブ (a) > (b) > (c) バンド幅 バンド幅 バンド幅n
n
uf
n
uf
cu
f
W
=
π
π
2
2
sin
)
(
(6.20) ここで、c:定数、n:1,2,4 である。n が大きくなるとピークが広がってなだらかになり、サイド・ロ ーブが小さくなる。前出の式(6.12)も含め、もっと一般的に sin(πx)/πx といった形の関数を回折関数と いいx
x
x
dif
π
π
sin
≡
と書くことがある。 (5) Hannimg ウィンドウ (6) Hamming ウィンドウ この 2 つについては、6.5 節のディジタル・ウィンドウのところで述べている。 以下の図 1 に、それぞれのウィンドウについてまとめる。 帯域フィルタ:一定幅の間にある振動数成分だけを通すウィンドウ。 図 1 スペクトル・ウィンドウのまとめ バンド幅を求めるにはそれぞれの関数の分散を求め、式(a)に示す長方形パルスの分散を用いること で算出できる。 例えば、式(6.16)に示した長方形ウィンドウの場合u
u
df
uf
uf
u
df
f
W
2
1
4
2
2
sin
4
)
(
2 2 2 2 2・
=
=
=
∫
∫
∞ ∞ − ∞ ∞ −π
π
σ
u
2
=
(b) 式(a)よりb
1
2=
σ
(a)u
b
2
1
=
∴
Hz 帯域フィルタ 平面ガラス バンド幅 b:はっきり ・長方形パルス ・長方形ウィンドウ ・Bartlett ウィンドウ ・Parzen ウィンドウ レンズ バンド幅 b:はっきりしない ピーク鋭 ピーク滑らか サイド・ローブ大 サイド・ローブ小となる。 一般的にバンド幅は式(6.21)のように書くことができ、他のウィンドウのバンド幅は表 6-1 のように なる。