本稿は,平成 年 月 日に行われた香川大学法学会講演会の原稿に加筆したも のである。 Ⅰ.序論:韓国の司法制度の概要 本稿の目的は, 年に大韓民国政府が樹立された以後の韓国における腐敗防止法 と判例について紹介することであるが,本論の理解を深めるためにまず,韓国司法制度 に関して簡単に説明する。韓国の司法制度は,日本の制度と近似しているが,日本に存 在しない制度も多数ある。例えば, 年にはアジア初の憲法裁判所が設立されてお り,民事訴訟事件(第一審)の約 パーセントを占める少額事件を簡易・迅速に処理 できる少額事件審判法がある。さらに,刑事保安処分として電子足輪の付着と化学的去 勢など⑴も挙げられる。以下では,韓国に近代司法制度が導入された 年(朝鮮末期 の「甲午の改革」)前後の司法制度について紹介する。 紀元前 年に成立した最初の国である古朝鮮では「 ヵ条の法」が制定された。 同法は,殺人に対して死刑,傷害に対して穀物による損害賠償,窃盗犯の奴隷化などす べて刑法に関する内容であった。部族国家であった古朝鮮が崩壊し,高句麗・百済・新 羅の三国が登場した。その後,中央集権国家である統一新羅が出現し,同国では中国の 唐の律令と同様の制定法が施行された。また,高麗は,慣習法によって日常生活を規律 ! 最近の韓国での刑事に関する新しい立法について詳しくは趙炳宣,「韓国での社会変化にともなう刑事 立法の予防指向性の動向とその展望−刑法,刑事訴訟法,秩序違反法での新しい制度の導入と展開を契 機に−」北大法学論集第 巻第 号( ) − 頁参照。
韓国の腐敗防止制度に関する比較法的考察
趙
炳
宣
金 ジャンディ (訳)
するほか, ヵ条の刑法を制定し,地方の判決,首都の判決を経る審級制度を導入し た。最後の王朝である朝鮮は三審制を完成させたが,行政府と司法府を分離せず,義禁 府,刑曺,司憲府,漢城府の つの機関が中央政府の司法機関の役割を担って,統合法 典を制定した。 年には韓国最初の経済六典が制定され,その後,経国大典,大伝 通編,大典会通などの法典が制定された。法典編纂の形式はすべて吏・戸・禮・兵・ 刑・工の編別に構成される六典式であった。 年朝鮮で甲午の改革が行われた後, 最初の成文憲法である洪範 条が制定された。同法の制定によって,独立の司法府が 運営され,法院組織法(裁判所組織法)など近代的な法律が制定された。その一つが韓 国最初の刑法典である 年の刑法大典である。当初,同法は 条で構成されてい たが, 年の改正により 条になった。同法には東アジア最初の拷問禁止に関す る条文が規定された。 年の日韓併合により 年には朝鮮民事令と朝鮮刑事令に基づいて日本の法令 が適用され,司法制度の近代化は停滞期を迎えた。 年日本帝国主義から解放され た後,米軍政を経て, 年大韓民国が樹立され,国民主権と民主主義の理念に立脚 した憲法( 年)に基づいて刑法( 年)・刑事訴訟法( 年)⑵・民法( 年)・ 民事訴訟法( 年)・商法( 年)などが制定された。韓国の近代法は,大陸法を 土台とし,それに英米法を加味して形成された。韓国では大法院(院長を含む 人), 高等法院( ヵ所),地方法院( ヵ所の地方法院外 ヵ所の支院を含む),行政法院 (ソウルのみ地方法院級の行政法院が設置されている。行政法院が設置されていない地 域では,当該地方法院が管轄),特許法院(大田市 カ所,二審制として高等法院級), 家庭法院の 種類の法院があり,特別法院として軍事法院(軍部隊に設置された地方法 院級の一般軍事法院と国防部内に設置された高等軍事法院,最終審(最上級)は大法院) が設置されている。 年に創設された憲法裁判所は,違憲法律審判,弾劾審判,政 党解散審判,権限争議審判,憲法訴願審判等を扱う。 韓国の刑事訴訟法は, 年大規模な改正が行われた。同改正により, 年に導 入された任意的な拘束前被疑者審問制度(勾留質問制度)が義務化されており,公判期 日の効率的かつ集中的な審理のために公判準備手続き以外に公判前整理手続きが導入さ れた。このように被疑者・被告人の権利と公判中心主義・弁論主義の強化とともに韓国 型国民参与裁判(陪審制と参審制を混合したが陪審制に近く,対象事件は重要事件に限 定される)が導入されており⑶,量刑基準(sentencing guideline)⑷も創設された。 ! 韓国の刑事法の歴史について詳しくは趙炳宣,「韓国刑事法の生成と展開−韓国刑事司法入門」姫路法 学第 ・ 号( ), − 頁。
韓国 日本 シンガポール 香港 [表 ]アジア諸国の腐敗認識指数(CPI)の比較 出典:国際透明性機構のホームページ(http://www.transparency.org/research/cpi/, 検索月: 年 月) Ⅱ.韓国の腐敗防止制度の概要 .問題の所在 国際的観点から評価した韓国の腐敗の程度は向上したが,良いレベルであるとはいえ ない。国際透明性機構(Transparency International)が 年に調査した腐敗認識指数 (Corruption Perceptions Index)によると,韓国は調査対象国 ヵ国のうち 位であ り, 年に比べると 段階上昇した。しかし,経済協力開発機構(The Organization for Economic Co-operation and Development(OECD)) ヵ国で 位と下位にとどまっ ている。アジア諸国のうち,韓国より上位にある国は,シンガポール( 位),香港( 位),日本( 位),ブータン( 位)と台湾( 位)などがある。以下の表は, 年から 年までのアジア諸国の腐敗認識指数を年度別に比較したものである。 不正腐敗防止に関する法律や制度が不十分であるために韓国の腐敗認識指数が他国よ り高いと思うかもしれない。しかし,韓国には腐敗防止に関する法律が非常に多く,厳 格に規制されている。具体的な内容については,以下で詳説する。 .腐敗防止制度の量的検討 ⑴ 国内の公職領域と民間領域 公職腐敗について刑法第 条から第 条まで(賄賂犯罪)規定されており,民間 腐敗については同法第 条(背任収贈財罪)に規定されている。その他,刑事処罰規 定(刑事特別法並びに行政刑法)及び加重処罰法として「特定犯罪加重処罰等に関する 法律」や「特定の経済犯罪加重処罰等に関する法律」,そして腐敗財産の没収・追徴に ! 詳細は,趙炳宣「韓国における国民参与裁判制度の『最終モデル』に関する論争およびその展望」岡 山大学法学会雑誌第 巻第 号( ) − 頁。 " 詳細は,趙炳宣「韓国の国民参与裁判と死刑」福井厚編著『死刑と向きあう裁判員のために』(現代人 文社, ) − 頁。
ついて「公務員犯罪に関する没収特例法」,「腐敗財産の没収と回復に関する特例法」, 「犯罪収益隠匿の規制及び処罰等に関する法律」など,約 種類を超える法律がある (約 種類以上の公務員の擬制規定は含まれていない⑸)。 さらに,過料を科する規定や懲戒規定,不正腐敗の防止のための間接的な制度(例え ば,利害衝突防止策としての就職の制限,財産の登録・公開制度など),腐敗財産の没 収・追徴,腐敗申告制度の違反に対する処罰規定,その他,国家及び地方自治体などに よって規定されている行動綱領や倫理綱領まで含めると数え切れないほどである。この ような法律の中で,題名自体が腐敗防止を直接的に関連させるものは,「公職者倫理 法」,「腐敗防止及び国民権益委員会の設置と運営に関する法律」,「不正請託及び金品等 の収受禁止に関する法律」などがある。 ⑵ 国際領域の腐敗防止制度 韓国には,公職領域と民間領域における腐敗規制制度に加えて,外国の公務員に対す る供賄行為を規制のために,OECD の「国際商取引における外国公務員に対する賄賂行 為防止のための条約(Convention on Combating Bribery of Foreign Public Officials in International Business Transactions)」に基づく国内立法「国際商取引における外国公務員 に対する贈賄防止法」が制定されている。 .腐敗防止制度の質的検討 諸外国に比べて韓国の腐敗行為処罰規定の法定刑が低いのではないか,制度的な欠缺 や不備があるのではないかなどの疑問が生じうる。しかし「特定犯罪加重処罰などに関 する法律」(以下「特加法」と表記する)の制定当時( 年 月 日)収賄額が 万ウォン以上のときは死刑,無期又は 年以上の懲役であった(旧特加法第 条第 項第 号⑹)。民間領域における腐敗の場合,例えば,金融機関における不正腐敗行為に 対して「特定経済犯罪加重処罰等に関する法律」(以下「特経法」と表記する)の制定 当時( 年 月 日制定)収賄額が 千万ウォン以上のときは死刑,無期又は 年以上の懲役に処すると規定されていた(旧特経法第 条第 項第 号⑺)。腐敗犯罪に ! 公職領域の腐敗について趙炳宣,「韓国における政治倫理・公職倫理と刑事法」,犯罪と刑罰第 号 ( ) − 頁。民間領域の腐敗については,Cho, Byung-Sun, National Report of Korea : Private Commercial Bribery in Heine・Huber・Rose(eds), Private Commercial Bribery − A Comparison of National and Supranational Legal Structures, ICC The world business organization( ), − 。
" 現行法によると収賄額が 億ウォン以上のときは,無期又は 年以上の懲役に処する(特加法第 条 第 項第 号)。
対して死刑を規定した諸外国の立法例はあまり存在せず,現行法においても刑罰として 無期懲役を規定していることに照らしてみると,軽微な処罰のために腐敗犯罪が根絶で きないという主張は説得力を失う。 .最近の動向:既存法律の改正と新立法 韓国には腐敗防止のための規制法が非常に多いが,制度的に不十分であるという指摘 から 年 月 日「不正請託及び金品等の収受禁止に関する法律」( 年 月 日施行)が制定された。同法は不正腐敗への取組みの終着点であると思われる。同法で は,不正の請託行為自体を処罰し,公職者等の金品など収受に関して職務関連性・対価 性を必要とせず,配偶者の金品等収受事実の申告義務が新設された。さらに,公務員擬 制規定ではなく,「公務を実行する私人」に関する規定が新設された。 韓国の「不正請託及び金品等の収受禁止に関する法律」は,公職者の不正・腐敗を防 止するための法律であり,最初の提案者の名前を付けて「キム・ヨンラン法」と呼ばれ ている。同法は, 年国民権益委員会の委員長で あ っ た キ ム・ヨ ン ラ ン 氏 が 提 案, 年 月に国会の同意を得た。同法によると公職者,公務員,政府関連機関・ 公共機関の職員,学校の教職員(私立学校,大学病院含む),マスコミ関係者だけでは なく,対象者の配偶者にも適用される。国会議員も国家公務員法により公務員の範疇に 入るため対象となる。対象者は約 万人にのぼり,以下の場合に処罰される。⑴職務 (または配偶者の職務)と関連がある人から, 回あたり 万ウォン(約 , 円)を 超える接待,⑵ 回あたり 万ウォン(約 , 円)を超えるプレゼント・中元・歳暮 を受け取る,⑶ 回あたり 万ウォン(約 , 円)を超える祝儀・香典を受け取る。 接待は飲み物代も含めて 万ウォンを超えてはならない。祝儀・香典も花代と現金の合 計が 万ウォンを超えてはならない。 ・ ・ 万ウォンの金額は,廬武鉉大統領が 年に制定した「公務員行動綱領」を参考にしたものなので,現在の物価からする と厳しすぎるという意見もあったが,原案のまま施行されている。職務と関連がある人 から規定を超える接待や金品を受け取った場合は,受け取った金額の ∼ 倍を過怠料 として賦課する。職務と関連がない人から受け取っても良い金品は 万ウォン(約 万円)未満である。これを超える金品を受け取った場合, 年以下の懲役または , 万ウォン(約 万円)以下の罰金に処される。 また,改正前の医療法によれば,医薬品や医療機器などの納品に関する不当な経済的 ! 現行によると収受額が 億ウォン以上のときは,無期または 年以上の懲役に処する(特経法第 条 第 項第 号)。
左から順に趙炳宣氏,金ジャンディ氏 利益を提供する行為のみが処罰の対象とされたが(同法第 条の ), 年 月 日の改正でその収受行為も処罰対象となった(双罰制)。また, 年 月 日,刑 法改正によって第三者背任収財罪が新設され,従来の処罰上の問題が解決された。 Ⅲ.韓国の腐敗防止制度の問題に関する比較法的考察 .刑法の賄賂罪の体系上の問題−不可読性 韓国刑法上の賄賂罪の体系は,①単純収賄,②事前収賄,③第三者賄物提供,④収賄 後不正処事,⑤事後収賄,⑥斡旋収賄,⑦賄賂供与,⑧没収と追徴の順に規定されてい る。このような順は, 年の日本改正刑法仮案第 条から第 条に規定された 賄賂罪の規定と同様である。すなわち,処罰可能な収賄行為を列挙して,それぞれの収 賄行為に対応する贈賄行為を包括的に禁止する方法で規定されている⑻。一方,諸外国で は賄賂罪について簡潔に構成されている場合が多い。一般的に収賄罪と贈賄罪を区別し た上(贈賄罪について先に規定した場合もある),例えば収賄罪の場合,さらに,単純 収賄罪と不正処事収賄に区分する。この際,直接的・間接的供賄も含まれるだけでな く,賄賂が誰のために提供されたかも問わない。諸外国の賄賂罪に関する立法が理想的 であるとはいえないが,少なくとも一般国民が理解できるように簡潔に構成する必要が あると思われる。 ! 日本評論社,「別冊付録刑法改正条文対照表」,「法律時報」,通巻第 号 月号, , 頁以下参 照。
さらに金品等の授受について刑法第 条から第 条の賄賂犯罪のほか,「特定の 犯罪加重処罰などに関する法律」,「不正請託と金品などの授受の禁止に関する法律」, 「公職者倫理法」,「政治資金法」,「公職選挙法」等の複数の個別の法律に収賄罪が規定 されている。これらの賄賂罪の規定に公務員擬制を適用すれば,その数を算定すること は容易ではない。民間部門における金品収受等の行為の場合も同様である。刑法第 条から第 条までの横領と背任の罪(第 条(背任受贈財)は,民間部門の腐敗に 関する一般規定である)が規定されており,その他「特定経済犯罪加重処罰などに関す る法律」と各職種別で規律されている不正な経済的利益の収受等の行為に対する処罰規 定(弁護士法,医療法,薬剤師法,医療機器法,競輪・競艇法,韓国馬事会法,国民体 育振興法など)がある。さらに,会社に関連して商法第 条から第 条の ・第 条及び第 条があり,企業活動と関連した不正な金品等の収受などの行為を通じた不 公正取引行為は,「独占規制及び公正取引に関する法律」第 章不公取引行為と特殊関 係人の不当な利益提供の禁止で包括的に規定されている。商取引における外国公務員に 対する賄賂行為は,国際商取引における外国公務員に対する贈賄防止法により規律され る。また,公務員と公務員であった者の利害衝突防止(就業制限,業務取扱の制限,株 式の白紙信託制度,財産の登録および公開制度など)に関しては「腐敗防止と国民権益 委員会の設置及び運営に関する法律」や「公職者倫理法」に規定されている。不正蓄財 の防止や腐敗財産の返還に関しては,刑法上の没収制度のほか「犯罪収益隠匿の規制及 び処罰などに関する法律」,「公務員の犯罪に関する没収特例法」,「腐敗財産の没収と回 復に関する特例法」,「不法政治資金などの没収に関する特例法」などに規定されている。 国外財産逃避に関連して「特定の経済犯罪加重処罰等に関する法律」第 条に定める 「財産国外逃避罪」のほか,輸出入価格の操作を通じた財産国外逃避は「関税法」,外 国為替を通じた財産逃避は「外国為替管理法」,脱税を通じた国外財産逃避は「国税基 本法」など様々な税法で規律されている。財産の透明性を確保するための法律は,「金 融実名取引及び秘密保障に関する法律」と「不動産実権利者名登記に関する法律」があ り,そのほか海外不動産取得申告制度や外国為替取引申告制度に関しては「外国為替取 引法」で規律されている。このように,立法趣旨と規制対象が異なるため,腐敗に関す る法律を概観することは困難である。しかし,少なくとも一貫性と体系整合性を保つ必 要があると思われる。 .賄物の帰属主体と請託の有無 刑法上の単純収賄(刑法第 条第 項)と第三者賄物提供(第 条)を一つの構 成要件に規定することが望ましい。第三者賄物提供も職務上の不正な消極的賄賂行為
(passive bribery)であり,金品等が公務員本人に帰属するか,第三者に帰属するかで その可罰性は実質的に差がないからである。また,賄賂提供者の観点からしても職務に 関する金品等である以上,それが誰(公務員又は第三者)に帰属されるかは重要ではな い。このような見解は諸外国の立法例においてもよくみられる。 さらに,請託は単純収賄罪の構成要件ではないが,第三者賄物提供罪は職務に関する 不正な請託を受けた場合に限って成立するため,混同を生じさせる恐れがある。刑法上 の「請託」を構成要件の要素としている規定は,事前収賄(第 条第 項,「公務員 または仲裁人になる者」)と事後収賄(第 条第 項,「公務員または仲裁人であった 者」)である。事前収賄や事後収賄の成立のために「請託」を要求することが妥当であ るか否かは別論としても,請託が犯罪の成立範囲を制限する機能をもっていることは明 らかである。第三者賄物提供罪の場合,当該請託の「不正」を要求することで,成立を さらに制限する。この点に関して, 年 月 日のソウル中央地方法院⑼は,いわゆ る「黙示的な不正請託」を認め,注目を集めている。韓国の朴槿恵前大統領への贈賄罪 などに問われたサムスン電子副会長の李在鎔被告人の公判で,ソウル中央地方法院は, 懲役 年(求刑懲役 年)の実刑判決を宣告した。李は 年から 年まで, 回にわたり大統領だった朴と会談し,父の李健熙会長からの経営権継承や自らの経営権 確立に向け,朴から便宜を受ける見返りに,朴の親友の崔順実被告人らに約 億ウォ ン(約 億円)の賄賂を提供したとして起訴された。李は「朴被告人に不正な請託を したことはない」と主張した。また,経営権の強化に不可欠であるサムスン物産と第一 毛織の合併についても「関与していない」と述べ,全面否認した。法院の判決は,崔の 娘で馬術選手のチョンユラ氏に対する 億ウォン(約 億円)の支援,崔の姪運営の 「冬季スポーツ英才センター」関連支援 億ウォン(約 億 , 万円)を賄賂と認 定した。同判決では,賄賂の対価関係について,被告人のいわゆる「黙示的な不正請託」 を認め,「包括的賄賂罪(同罪に関しては, .包括的対価関係に関する韓国の判例と 請託禁止法で詳説する)」として賄賂罪の成立を認めた。一方,第三者賄物提供罪で起 訴された崔被告人が設立した文化・スポーツ支援財団である「ミル財団」「K スポーツ 財団」への出資を賄賂と解釈するのは困難であると判旨した。判決は収賄罪などで起訴 された朴被告人の裁判にも影響を及ぼすと思われる。 その後, 年 月 日懲役 年 月,ソウル高等法院の判決では,第一審で賄賂 として認めた 億ウォン(約 億円)のうち, 億ウォンだけを賄賂として認め,李 被告人のサムスン経営権承継のための活動が認められないため(黙示的請託の否定), ! ソウル中央地方法院第 刑事部 .. .宣告 고합 判決.
「冬季スポーツ英才センター」に対して 億ウォン(約 億 , 万円)を提供した 行為は,第三者賄物提供罪に該当しないと判示した。同判決において(第一審が認めた) 単純収賄罪ではなく,第三者賄物提供罪について判断した理由は,公判段階において 被告人の賄賂供与行為をめぐって単純収賄罪が成立するのか,第三者賄物提供罪が成立 するのかが争われたが,検察が単純賄賂罪で起訴したチョンユラへの乗馬支援に対して 第三者賄物提供罪が予備として追加されており,第三者賄物提供罪として起訴された 「ミル財団」「K スポーツ財団」への出資に対して単純賄賂罪が予備で追加されるなど, 回にわたって起訴状を変更したからである。第一審と同様に控訴審においても「ミル 財団」「K スポーツ財団」への出資に対して無罪判決が言い渡されたが,控訴審では, 李のサムスン経営権の承継のための「黙示的請託」が認められなかったため,単純賄賂 罪ではなく,第三者賄物提供罪の成否が問われた。第一審において「黙示的請託」が認 められたのは,大統領の活動に関して詳細に記録した朴前大統領の経済首席秘書の業務 手帳が決定的な証拠となったためであるが,控訴審では業務手帳は状況証拠として認め られず,証拠能力が否定された。業務手帳の証拠能力に関して第一審と第二審は異なる 判断をしており,業務手帳は「黙示的請託」に関する決定的な証拠となるため,大法院 が第三者賄物提供罪を適用するのか,又は,単純供賄罪を適用するのかが注目されてい る。控訴審において検察は財団への出資に単純供賄罪を適用し,起訴状を変更したた め,法院が第三者賄物提供罪ではなく単純供賄罪の成立を認めれば「不正請託」が存在 しなくても有罪判決が言い渡される可能性が高い。控訴審に関してソウル法院所属のあ る判事は「第三者賄物提供罪は,賄賂を要求した公務員と賄賂を受け取る第三者賄物提 供罪が分離されている(異なる)ことを前提とする。同事件の場合,朴前大統領と崔被 告人が分離されていると解することは困難であると思われる。『形式的・表面的』には 第三者に提供した賄賂であるが,『実質的』に公務員が賄賂を受け取ったと解釈できる 事案において第三者賄物提供罪を適用し,『不正請託』がある場合に限って処罰するこ とは不当である」と指摘した。また,民主社会のための弁護士会の副会長は「財団への 出資金は第三者に対する賄賂として解釈し,『不正請託』の要件を厳格に要求すれば, 今後権力者は財団を通じて賄賂を受け取り,責任を回避する恐れがある」と批判してい る⑽。これらの観点に基づいて検察は捜査初期段階から朴前大統領と崔被告人の関係が 「経済的共同体」であることを強調した。このように韓国では「不正な請託」が第三者 賄物提供罪の要件であるが,単純収賄罪の要件ではないため,どちらの罪を適用するか が争点となった。諸外国では,請託を賄賂罪の構成要件要素として要求する場合がある ! 京郷新聞 年 月 日, 頁参照。
韓国 日本 単純収賄 × × 受託収賄 なし 〇 事前収賄(公務員等となる者) 〇 〇 第三者賄物提供 〇(不正な請託) 〇 収賄後不正処事(韓国刑法第 条 頁) × × 事後収賄(不正処事後収賄)(韓国刑法第 条 頁) × × 事後収賄(在職中不正処事後収賄)(韓国刑法第 条 頁)(公務員であった者) 〇 〇 斡旋収賄 × 〇 [表 ]請託の必要性の有無 が,第三者賄物提供において「不正な請託」を要求することが妥当であるかについては 疑問が残る。例えば,日本の刑法第 条第 項の第一文に単純収賄罪,第二文に受諾 収賄罪( 年以下の懲役)が規定されており,(単純収賄罪の場合)請託を受けたとき は, 年以下の懲役に処すると規定されている。学説は「請託行為」により職務と賄賂 の関係がより堅固で明白になり,職務が賄賂によって左右される危険性が増大するた め,単純収賄よりその刑が加重されると解している⑾。また,韓国と同様に日本の刑法第 条の は,「公務員が,その職務に関し,請託を受けて,第三者に賄賂を供与させ, 又はその供与の要求若しくは約束したときは, 年以下の懲役に処する」として請託を その成立要素として規定している(ただし,韓国の刑法のように「請託内容の不正性」 まで要求しない)。これに関して学説は,単純収賄罪の主体は公務員である一方,第三 者賄物提供罪の主体は公務員ではないことがあるため,賄賂と職務間の対価関係を明確 にするためであると解している。したがって請託の存在は,受託収賄罪で刑の加重要 素,第三者賄物提供罪で成立要件となる⑿。以下の表は,日韓の賄賂罪における請託の必 要性を比較したものである。 賄賂の帰属主体による賄物収受の不法の差がないと解すれば,単純収賄と同様に,第 ! 松原芳博『刑法各論』(日本評論社, ) 頁;大塚仁・河上和雄・佐藤文哉・古田佑紀『大コン メンタール刑法』〈第 巻〉第 条∼第 条の ,第二版,(青林書林, )§ Ⅲ..( )(a); 大塚仁『刑法概論[各論]』(有斐閣, ) 頁;山口厚『刑法各論』(有斐閣, ) 頁;大谷 實『刑法講義各論』(成文堂, ) 頁;川端博『刑法各論講義』(成文堂, ) 頁;山中敬一 『刑法各論』(成文堂, ) 頁。 " 松原芳博,前掲!, 頁以下。
構成要件 主体 対象行為 第三者金品提 供の処罰 提供者 の処罰 常習犯 斡旋収賄(刑法 条):公務員が その地位を利用して,他の公務員 の職務に属する事項の斡旋につい て賄賂を収受,要求又は約束した ときは, 年以下の懲役又は 年 以下の資格停止に処する。 公務員 公務員の 職務 × 条 × 斡旋収財(特加法 条):公務員の 職務に属する事項の斡旋について 金品や利益を収受・要求又は約束 した人は, 年以下の懲役又は 千万ウォン以下の罰金に処する。 すべて の人 公務員の 職務 × × × 弁護士法 条 項:公務員が扱う 事件や事務について請託や斡旋を するという名目で金品・接待,そ の他の利益を受け,又は受けるこ とを約束した者又は第三者にこれ を供与させ,又は供与することを 約束した者は, 年以下の懲役又 は 千万ウォン以下の罰金に処す る。この場合,罰金と懲役は併科 することができる。 すべて の人 公務員の 職務 〇 × 第 条 斡旋収財(特経法 条):金融会社 などの従業員がその地位を利用し て,自己の利益または所属金融会 社 等 以 外 の 第 三 者 の 利 益 の た め に,自己の計算で,または所属金 融会社等以外の第三者計算で金銭 の貸付け金,債務の保証または引 数をしたり,これを斡旋したとき は, 年 以 下 の 懲 役 又 は 千 万 ウォン以下の罰金に処する。 金融会 社等の 役職員 金融会社 等の役職 員の職務 〇 × × [表 ]韓国の斡旋贈収賄罪 三者賄物提供における不正な請託の有無にかかわらず賄賂罪が成立するように韓国の法 律を改正しなければならないと思われる。 .韓国の賄賂罪の特徴:斡旋贈収賄罪 諸外国と異なり韓国では斡旋贈収賄罪と贈収財罪について規定している。
斡旋収賄と収財罪は体系上,次のような問題があると思われる。まず,これらの規定 は,相互に適用範囲が重なる部分があり,法適用において混乱が生じうる。すなわち, 刑法上の斡旋収賄罪が公務員を,特経法上の斡旋収財罪が金融会社等の役職員を主体と している一方,特加法上の斡旋収財罪と弁護士法上の斡旋収財罪の場合は主体に制限が ない。したがって,主体が公務員である場合,刑法上の斡旋収賄,特加法上の斡旋収財 そして弁護士法上の斡旋収財がすべて適用できる。特加法上の斡旋収財と弁護士法上の 斡旋収財が公務員を除いた私人を適用対象としていると解しても,特加法上の斡旋収財 と弁護士法上の斡旋収財の適用範囲が重なり合うため競合関係になる。さらに問題とな るのは,弁護士法上の斡旋収財の場合,第三者収財行為を処罰対象としているだけでな く,常習犯も処罰しており,罰金も併科できるように規定されているため,私人が公務 員の職務に関して斡旋し,金品等を収受した場合,どの法律を適用するかによって,そ の処罰が変わる。第二に,斡旋を目的とする金品等の収受,提供行為など同様の行為を 処罰対象とする場合,構成要件の記述方式を統一する必要がある。弁護士法上の斡旋収 財と特経法上の斡旋収財の場合,第三者に対する金品の提供行為を処罰しているが,刑 法上の斡旋収賄と特加法上の斡旋収財の場合,第三者に対する金品の提供行為を処罰し ていないという処罰上の空白が発生する。また,刑法上の斡旋収賄以外は金品など提供 者が処罰されないという問題がある。さらに,弁護士法上の斡旋収財は常習犯を処罰し ているが,他法の場合には,常習犯を処罰していない。 民間部門の腐敗に関して日本の刑法は,韓国の背任収贈財罪(刑法第 条)に相当 する一般的な処罰規定が存在しない。日本の改正刑法仮案⒀第 条では背任収贈財罪に ついて規定していたが⒁,同仮案は立法化されなかった。その後,改正刑法準備草案( 年)と改正刑法草案( 年)の刑法全面改訂作業においても背任収贈財罪は新設に 至らなかった。その代わりに,会社法において会社役員などの贈収賄罪(第 条), 株主等の権利行使に関した贈収賄罪(第 条),株主等の権利行使に関する利益の提 供の罪(第 条)を規定したが⒂,この規定は,韓国の商法第 条(発起人,取締役 その他の任員の瀆職(汚職)罪),第 条(権利行使妨害等に関する贈収賄罪)と第 条の (株主の権利の行使に関する利益供与の罪)と同様の内容である。しかし, 日韓の両罰規定の適用は異なる。日本の場合,会社法第 条第 項及び第 条第 ! 日本の改正刑法仮案の原文は法律時報別冊付録第 巻 号「刑法改正条文対照表」( )参照。 " 日本「改正刑法仮案」第 条:他人ノ事務ヲ処理スル者其ノ任務ニ関シ不正ノ請託ヲ受ケ財産上ノ 利益ヲ得タルトキハ三年以下ノ懲役又ハ五千円以下ノ罰金ニ処ス利益ヲ供与シタル者亦同ジ。 # 日本の特別背任罪について,伊東研祐「特別背任罪の解釈視座について−昭和 年商法罰則改正と改 正刑法仮案−」島大法学第 巻第 号( ) 頁参照。
項(韓国の「商法」第 条第 項及び第 条の に該当)は,行為者が法人である 場合,役員等の自然人を処罰する一方(会社法第 条),韓国の場合,商法第 条 の に両罰規定が適用されるため,法人も処罰できる(第 条の 本文)。この場合, コンプライアンス・ガイダンス(韓国商法第 条の (遵法統制基準と遵法支援人)) を遵守すれば管理・監督責任を免れる。 .請託禁止法における公職者等の間接的な収賄−配偶者の申告義務 請託禁止法第 条第 項は,「公職者等は,職務関連可否,寄付・後援・贈与など, その名目に関係なく同一人から 回に 万ウォンまたは毎会計年度に 万ウォンを 超える金品などを受けたり,要求又は約束してはならない」と規定し,第 項は,「公 職者等は,職務に関連して対価性の可否を不問し,第 項で定めた金額以下の金品など を受けたり,要求又は約束してはならない」と規定し,第 項に違反した場合には,刑 事罰の対象となり(第 条第 項第 号, 年以下の懲役又は 千万ウォン以下の罰 金)と第 項に違反した場合は過料を賦課することになる(第 条第 項第 号,そ の違反行為に関連する金品等価額の 倍以上 倍以下に相当する金額の過料)。そして 第 項では,「公職者などの配偶者は,公職者などの職務に関して,第 項又は第 項 の規定により公職者等が受けることを禁止されている金品等(以下「収受禁止金品等」 と表記する)を受けたり,要求または提供を受けることを約束してはならない」と規定 し,公職者などがこの事実を知りながら申告しないときは,公職者などが直接収受禁止 金品等を収受した場合に準じて刑事処罰(第 条第 項第 号)または過料を課すと 規定されている(第 条第 項第 号)。しかし,配偶者申告義務違反に関する規定は 次のような問題がある。まず,韓国の刑法第 条第 項の単純収賄罪において間接的 な賄賂を禁止する文言がないが,賄賂の授受は直接的・間接的な方法によって行われう ると解釈できるため⒃,請託禁止法第 条第 項においても同様に解釈することができ る。次に,請託禁止法第 条第 項及び第 項の場合,公務員等は配偶者の収受禁止金 品等の「間接的な」収受行為があれば同罪の正犯となる。つまり,公務員などの配偶者 申告義務違反は公務員(正犯)等と同様の法定刑により処罰され,不告知罪という憲法 上の問題を引き起こす(縁坐制禁止あるいは良心の自由)⒄。 ! オヨウングン『刑法各論第 版』(博英社, ) 頁以下;ギムソンドン『刑法各論第 版』(成 均館大学校出版部, ) 頁。 " 詳細は,荒地状態・ギムユグン・バクジュンフイ『最近腐敗防止法の争点に関する研究−請託禁止法 に関する法理的検討と国民意識調査−』(韓国刑事政策研究院, ) 頁以下。
.「包括的」対価関係に関する韓国の判例と請託禁止法 韓国の学説⒅と判例⒆は,包括的な対価関係について広く認めているが,刑事訴訟実務で は,賄賂罪の対価関係の立証困難性が問題になった。同問題を解決したのが元大統領 (全斗煥・盧泰愚)の賄賂罪に関する 年大法院の判決⒇であった。大法院は「大統 領は,中央行政機関の長を指揮・監督し,政府の重要政策の樹立を推進するなど,すべ ての行政業務を総括する職務を遂行し,大規模の建設事業や国土開発に関する政策,通 貨,金融,租税に関する政策や企業活動に関する政策など,様々な金融・経済政策の樹 立及び施行を最終的に決定し,所管行政各部の長に委任された事業者の選定,新規事業 の許認可,金融サポート,税務調査など具体的事項について直接または間接的な権限を 行使することにより,企業の活動において職務上または事実上の影響力を行使すること ができる地位にあり,国策事業の事業者選定も大統領の職務範囲に属し,又はその職務 と密接な関係のある行為であると認められるため,これに対して大統領に金品を供与す れば贈賄罪が成立して,大統領が実際上,影響力を行使したか否かは,犯罪の成立に影 響を及ぼさない。また,賄賂罪は,職務の執行の公正とこれに対する社会の信頼に基づ き,職務行為の不可買収性を保護法益としており,賄賂性の判断において特に義務違反 行為の有無や請託の有無などを考慮する必要がないため,賄賂は大統領の職務に対して 供与・授受されたものであれば十分であり,個々の職務行為と対価的関係にある必要が なく,その職務行為が特定のものである必要もない」と宣言した。 多数説と同様に韓国の判例は,特に元大統領の賄物罪に関して提供された利益と個々 の職務行為の間に厳格な対価関係の立証を求めず,全体的・包括的な対価関係が立証で きれば足りると解し,「包括的賄賂罪」という新造語を作った。また判例は,当事者が 対価性を否定し,又は対価性に疑いがある場合,「公務員から受け取った接待や収受さ れた者を返却することとして,社会通念に照らして形式的なことに過ぎないとき,又は (個人的に)親密な関係に基づいて必要なものであると明確に認められる場合など特別 な事情がない限り職務との関連性がないと解することはできない」と判示しており,挙 証責任を転換した結果になると思われる。 この場合においても「賄賂罪が職務の執行の公正とこれに対する社会の信頼と職務行 為の不可買収性を保護法益としている点に照らしてみると,公務員が利益を授受するこ ! ベジョンデ『刑法各論第 全整版』(弘文社, ) 頁。 " 大法院 . . .宣告 ド 判決;大法院 . . .宣 告 ド 判 決;大 法 院 . . .宣告 ド 判決;大法院 . . .宣告 ド 判決。 # 大法院 .. .宣告 ド 全員合議体判決。 $ 大法院 . . 。宣告 ド 判決。
とにより,社会一般から職務の執行の公正さが疑われるか否かも賄賂罪の成立の判断基 準となる」と判示し,賄賂罪の成立について判断する際,一般国民の感情を考慮し,同 罪の成立範囲を著しく拡大しており,主な外国の立法例の賄賂罪の適用範囲とほとんど 差がない。 日本と韓国の収賄罪の構成要件が同様であるため,日本の学説と判例の解釈上の差は あるものの「対価関係の拡大解釈」を志向する傾向にある点は似ていると思われる。し かし,金品等の収受行為における対価関係の立証の必要性に関して韓国の刑法上の賄物 罪よりその適用範囲を拡大したのが「請託禁止法」である。つまり請託禁止法第 条(金 品などの収受禁止)により代価性の有無を問わず刑事処罰または過料賦課処分を科すこ とができ,対価関係の立証の困難という問題を解決した。さらに同法によると,刑事処 罰の対象となる基準価額以上の金品などを収受した場合は,職務関連性も問わず処罰で きる(同条第 項)。このように請託禁止法により対価性の有無を問わず,刑事処罰や 過料賦課処分を科すことができるようになり,今後の刑法上の賄賂罪の構成要件におい て対価関係に関して請託禁止法と類似する賄賂罪規定に改正する必要があると主張され ている。 .公務員の斡旋収賄と選出職公務員の職務 年日本刑法制定当時,公職腐敗に関しては単純収賄罪と供与罪(現行刑法第 条本文及び第 条)の つの条文だけが存在したが, 年と 年(斡旋収賄罪 新設(第 条の ))の 回の改正を通じ,現行の賄賂罪体系に至った。 年代後半及び 年代の国会議員とその秘書の不正腐敗事件が契機となり,斡 ! 大法院 . . 。宣告 ド 判決。 " 大塚仁『刑法概論[各論]』(有斐閣, ) 頁以下;大谷實,前掲⑾, 頁;山中敬一,前掲⑾, 頁;山口厚,前掲⑾, 頁;大塚仁・河上和雄・佐藤文哉・古田佑紀『大コンメンタール刑法』〈第 巻〉第 条∼第 条の ,第二版,(青林書林, )§ 頁;松原芳博前掲⑾, 頁以 下。 # 「個々の職務行為と賄賂との間に対価的関係のあることを必要とするものではないと解するを相当とす る〔昭和 年 月 日大審院第三刑事部判決,刑集 巻 頁等参照〕」 $ 国民権益委員会「請託禁止法圏域別巡廻説明会資料集」( ) 頁。 % 詳細は大塚仁・河上和雄・佐藤文哉・古田佑紀,『大コンメンタール刑法』,〈第 巻〉第 条∼第 条の ,第二巻,(青林書林, 年),§ ∼§ 前注VI ;山中敬一,前掲⑾, 頁以下。 & 年 月,当時日本の建設部長官が受託収賄嫌疑で逮捕された事件を契機に法制定が加速化され た。これに関しては西田典之・鎮目征樹,「あっせん利得処罰法」,法学教室第 号( ) 頁; ベソンホ「日本の公職者腐敗行為に関する比較法的研究」,韓国法制研究院, .. . 頁以下を参 照。
旋収賄罪だけでは可罰性の欠如を補充することができないという観点から, 年 月 日「公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律(平成 年 法律第 号)」を制定した。同法第 条に公職者斡旋利得罪(公職者あっせん利得), 第 条に議員秘書あっせん利得が規定されている。同法における不正請託の内容となる 職務には,公職者のすべての職務が含まれるのではなく,「契約」と「処分」だけが該 当する。このような制限は,行政計画や予算編成などに関する意思の連絡行為(斡旋) は,国民の意思を反映する選出職公務員の職務に属することにより政治活動の自由保障 にも直結するという点を考慮したためである。これらは,韓国の請託禁止法が不正請託 の例外について定義し,「選出職公職者,政党,市民団体などが公益的な目的のために 第三者の苦情を訴えたり,法令・基準の制定・改正・廃止または政策・事業・制度及び その運用等の改善についての提案する行為」(同法第 条第 項第 号)を否定請託の 範囲から除外する趣旨と同様であろう。 .国際的賄賂犯罪 韓国では外国公務員に対する供賄について OECD の「国際商取引における外国公務 員に対する賄賂行為防止のための条約(Convention on Combating Bribery of Foreign Public Officials in International Business Transactions)」の履行立法としての特別法(「国 際商取引における外国公務員に対する贈賄防止法」)を制定して対応している。日本は 年に不正競争防止法を改正し,同法第 条「外国公務員等に対する不正の利益の 供与等の禁止」と第 条の罰則に基づいて 年以下の懲役又は 万円以下の罰金に 処する(同条第 項第 号)。単純収賄罪(刑法第 条本文, 年以下の懲役より軽 い法定刑)の賄賂を供与した企業は 億円以下の罰金に処すると規定されている(同法 第 条第 項第 号)。 韓国の朴前大統領や知人女性で青瓦台(大統領府)「陰の実力者」と言われた崔順実 (チェ・スンシル)の刑事裁判で朴大統領は,崔と共謀し,サムスン電子副会長の李在 鎔(イ・ジェヨン)被告によるサムスングループの経営権継承を支援する見返りに, 億ウォン(約 億 , 万円)の賄賂を受け取ったと疑われている。検察によればサ ムスンは 年 月 日から 年 月 日まで崔が事実上所有する韓国政府の外 郭団体「韓国冬季スポーツ英才センター」( 億 , 万ウォン,約 億 , 万円), 文化支援財団「ミル」( 億ウォン,約 億 , 億円),「K スポーツ」財団( 億 ウォン,約 億 , 万円)に出資したとされている。さらに,乗馬選手のチョン・ユ ! 法律第 号, . . ,制定, .. 施行。
ラ氏(崔の娘)が馬の購入・管理のため使った費用 億 , 万ウォン(約 億 , 万円)も直接送金したとされている。崔側に渡された金額だけでも 億 , 万ウォ ン(約 億 , 万円)以上である。サムスンが支援を約束したが支払われなかった 金額まで含めると,贈賄額は 億 , 万ウォン(約 億 , 万円)に達する。「朴 槿恵・崔順実(チェ・スンシル)ゲート」に関した刑事裁判において朴大統領と大企業 の賄賂罪の成立の証明に焦点を当てている。アメリカ合衆国を含め多くの諸外国におい て導入されている海外腐敗行為防止法(FCPA,Foreign Corrupt Practices Act)が適用さ れる場合,大規模な課徴金が賦課され,海外営業活動に制約が加えられる可能性がある ため,韓国の企業は裁判の結果に注目している。 年に制定されたアメリカ合衆国 の海外腐敗行為防止法は,世界市場に最も影響を与えるアメリカ合衆国の法律である が,関連判例があまりないため,実際の遵守に困難があった。しかし,連邦高等第 巡回裁判所(the U. S. Court of Appeals for the Eleventh Circuit)において FCPA の主要な 部分について判示した「United States v. Esquenazi」の判決が登場し,今後 FCPA の解釈 と適用に大きな影響を与えると思われる。FCPA は,贈賄禁止と会計帳簿の透明性とい う二つの部門に対して規制している。FCPA の贈賄禁止違反を証明するには, つの成 立要件に該当しなければならない。①アメリカ合衆国と関係のある個人又は企業が②事 業を獲得・維持し,又は不適切な利益を得るために③海外の官吏に④価値あるものを提 供しようとした行為があったことを証明しなければならない。FCPA によると,「外国 公務員」は,「海外の政府や政府機関,工事あるいは附属機関の官吏や職員」が含まれ ると定められているが,政府の「附属機関(instrumentality)」については正確に定義さ れていない。この空白を「Esquenazi」事件が補充した。米連邦高等第 巡回裁判所は, 検察側の意見を受け入れて「附属機関」とは,「海外の政府が統制し,海外の政府が本 来の責務であると認められる機能を果たす機関」と定義した。さらに,どのような場合 に海外の政府が特定機関を「制御」すると認められるのか,またその機関が「政府本来 の責務」を果たしているのか否かの判断は事実関係によって異なると述べた上,ハイチ 電信会社(Telecommunications D’Haiti,SAM「Haiti Telco」)は,政府の附属機関である ため,Haiti Telco の役員に賄賂を供与したことは FCPA の違反であると判決した原審を 確定した。連邦高裁が FCPA における「外国公務員」の意味に対して明らかにしたのは, 「Esquenazi」事件が最初であった。FCPA は 年に制定されたものの,約 年間法 令の重要な分野に対して解説されなかった(アメリカ合衆国の連邦最高裁の判例は,存
! United States v. Esquenazi F. d ( th Cir. ).この判例について詳細には Eleventh Circuit Defines“Government Instrumentality”Under the FCPA, Harv. L. Rev. ( )。
在しない)。判例が存在しなかった時,アメリカ合衆国の司法省と証券監督院は「外国 公務員」の範囲を非常に広く解釈したが,Esquenazi 判例はこの解釈をほぼそのまま受 け入れたことになる。この事件の被告人はHaiti Telco の従業員に賄賂を供与して有罪 が言い渡された。主な争点は,FCPA の「政府の附属機関」の意味と「Haiti Telco」は 政府の附属機関に含まれるのか否かであった。Haiti Telco は,ハイチに独占的に地上線 の電話サービスを提供しており,ハイチ中央銀行が株の %を所有していた。しかし, Haiti Telco を政府機関や国営企業として認める法律は,ハイチに存在しなかった。 FCPA に基づく制裁権限はアメリカ合衆国司法省(DOJ)と証券取引委員会(SEC) が有しており,事業を獲得・維持するためにアメリカ合衆国法人,証券市場上場企業, アメリカ合衆国に法人がある企業などが外国公務員等に賄賂を提供する行為を処罰して いる。韓国で韓国企業が公務員に賄賂を供与しても,供与者が外国証券市場に上場され ている場合,調査の対象になる。上場会社ではない場合,韓国の会社のアメリカ合衆国 の法人・メーカーと共にプロジェクトに参加し,又は一緒にコンソーシアムに参加した 企業などがすべて「潜在的な標的」になりうる。韓国では,LG ディスプレー,SK テ レコム,KT,ポスコなどの大企業の系列会社がニューヨーク証券取引所(NYSE)に上 場されている。サムスン電子は,ロンドン証券取引所(LSE)で,SK ハイニックス, 現代自動車などは,ルクセンブルク証券取引所(LuxSE)で取引中である。まだ韓国の 企業のうち,FCPA によって処罰された事例はない。しかし,今回の「朴槿恵・崔順実 ゲート」の影響により,最初の事例が登場する可能性があると思われる。
.まとめ 以上で検討した日韓の賄賂罪の体系は以下の通りである。[表 ]は公職腐敗,[表 ]は民間部門の腐敗に関する日韓比較であり,[表 ]は金品授受行為の処罰に関す るものである。ただし,刑罰と過料以外の制裁手段,例えば腐敗企業の登録及び公示制 度,犯罪収益還収と資金洗浄の規制,没収と追徴及びその挙証責任の転換などについて は,量が多いため省略した。 [表 ]公職部門の腐敗 韓国 日本 刑法 請託禁止法 刑法 法定刑 年 以 下 の 懲 役 ま た は 年以下の資格停止(第 条 第 項)[加 重] 特加法第 条第 項収賄 額 に 応 じ て 無 期 懲 役 ま で,第 項収賄額の 倍 以上 倍以下の罰金を併 科 ・ 回 万ウォン,毎 会計年度, 万ウォン を超える: 年以下の懲 役又は 千万ウォン以下 の 罰 金・価 額 基 準 未 超 過:収受価額の 倍以上 倍以下に相当する金額 の罰金 ・単純収賄罪: 年以下 の懲役(第 条第 項 前段) ・受託収賄罪: 年以下 の懲役(同条同項後段) 利益の不法 性 〇(賂物) ×(金品等) 〇(賂物) 職務遂行の 不適切性 ×(ただし,収賄後不正 処事〇) × × 公務員概念 それぞれの法令に公務員 擬制規定あり 第 条 号 第 条(定義) 職務関連性 〇(「職務に関連して」) ×(ただし,過料規定に 〇:「職務に関連して」) 〇(その職務に関し) 対価関係 △「包括的」(判例の解釈) × 〇(単純収賄,請託収賄 すべて) 請託 ×(〇:ただし,事前収 賄(第 条第 項,「公 務員または仲裁人になる 者」)と事後収賄(第 条 第 項,「公 務 員 ま た は仲裁人であった者」) の場合には必要) × 〇(請託のない場合は単 純収賄となり,法定刑が 年以下の懲役であるの に対し,請託のあったこ とが立証された場合は受 託収賄となり,法定刑は 年以下の懲役となる。) 賂物供与の 法定刑 年以下の懲役又は 千 万ウォン以下の罰金 賄物収受と同じ 年 以 下 の 懲 役 ま た は 万円以下の罰金 不告知罪 × 〇 ×
行政制裁 × 〇:過料,懲戒,懲戒附 加金 × 未遂犯処罰 × × × 法人処罰 × 〇 × [表 ]民間部門の腐敗 韓国 日本 刑法 請託禁止法 会社法 民間腐敗の 規律方式 刑法上の財産犯罪で規律 −第 条 背 任 受 贈 財 罪: 年以下の懲役又は 千万ウォン以下の罰金 (特加法の対象ではない ので加重処罰なし) 法の中に公職腐敗と民間 腐敗を一緒にした規律が あり,民間腐敗の適用範 囲は限定的 民間腐敗を不公正取引の 一種で規律(会社法 条, 条) 職務関連性 〇 ×(過料) − 代価性 〇 × − 請託 〇(「不正な請託」) × −(ただし,会社法:「不 正な請託」) 未遂犯処罰 〇 × − 請託 × × 〇 法人処罰 ×(ただし,商法第 条の に該当する場合, 両罰規定) ×(ただし,管理監督義 務 違 反 は 両 罰 規 定 の 適 用) (会社法にも両罰規定な し) [表 ]金品授受等の行為に関する処罰 韓国 日本 刑法 請託禁止法 第 章公務員の職務に関する 罪】 ・第 条(収賄罪,事前収 賄) ・第 条(第三者賄物提供) ・第 条(収賄後否定仕打 ち,事後収賄) ・第 条(あっせん収賄) ・第 条(贈賄など) 【第 章金品などの授受の禁 止など] ・ 回 万ウォン,毎会計 年度の 万ウォンを超える (刑 事 罰,第 条 第 項;第 条第 項 号) ・基準価額以下(過料,第 条 第 項;第 条第 項 号) ・例外(第 条第 項) 第 章汚職の罪 ・第 条(収賄,受託収賄 と事前収賄) ・第 条の (第三者賄物 提供) ・第 条の (加重賄賂と 事後賄賂) ・第 条の (斡旋収賄) ・第 条の (没収と追徴)
・第 条(没収,追徴) ・金品などの提供禁止(第 条第 項 ; 第 条第 項 号;第 条第 項 号) ・公務遂行私人(第 条) ・公職者の配偶者による受け 渡し禁止ないし違反時公職申 告義務:公職者の申告義務違 反(基準価額に基づいて処罰 (第 条第 号;第 条第 項 号) ・第 条(贈賂) 【特加法] ・第 条(賄賂罪の加重処罰) ・第 条(斡旋収財) ・第 条(賄賂罪の適用対象 の拡大) 公職にある者等のあっせん行 為による利得等の処罰に関す る法律 Ⅳ.結論 以上,韓国の腐敗防止制度について概括し,その特徴及び問題について比較検討し た。韓国社会が感情的な面を重視しつつ,法治より徳治を強調する伝統は長所がある が,一方,現代社会において腐敗が社会統合を害することから腐敗防止のための多数の 立法作業が行われた。しかし,不正腐敗を法制度を用いて解決することは,限界がある だろう。本稿は,韓国で腐敗の問題を解決するための法制度上の試みを比較検討した が,多くの課題が残されていると思われる。 (チョ・ビュンソン 清州大学校法科大学教授) 【編集注】 講演者の趙教授は,韓国・成均館大学校で法学を学ばれた後,ドイツに留学され,当時マックス・プラ ンク外国刑法・国際刑法研究所所長であったアルビン・エーザー教授の下,法学博士号を取得された。刑 事法の専門家として,韓国はもとより,国際的にも高名な研究者であり,韓国刑事法研究領域の代表者と して国際学会でも要職をつとめられている。研究領域も非常に多岐にわたり,今回の講演テーマである汚 職に関しても,既に論文をいくつも公表されているエキスパートであるⅰ。汚職は韓国社会においても大き な問題であり,本稿でも取り上げられている政治に関連する様々な事件は,日本でも大きく報道された が,今後こうした事件に関する法的観点からの冷静な分析を進めていくことが日本の汚職対策を検討する 上でも有益であると考え,趙先生に講演をお願いしたところ,ご快諾いただいた。大変ご多忙にもかかわ らず来日,ご講演くださった趙先生には,改めて厚く御礼を申し上げたい。 また,当日の通訳および本稿の翻訳にあたっては,大阪大学の金ジャンディさんに大変にお世話になっ た。この講演会の成功は,彼女の大変流暢な通訳に負うところが大きい。彼女にも改めて御礼を申し上げ る次第である。 本講演は,JSPS 科研費 K の助成を受けたものである。 ⅰ このテーマに関する論考として,趙炳宣「韓国における政治倫理・公職倫理と刑事法」犯罪と刑罰 号( ) 頁以下,Byung-Sun Cho, Country Reports - Korea ; in Heine=Huber=Rose(eds.), Private Commercial Bribery, , p. .などがある。