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野外運動実習(キャンプ)が大学生の自尊感情、レジリエンス、社会的スキルに及ぼす影響 ―教員養成課程学生を対象として―

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Academic year: 2021

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1. はじめに

 近年、教員におけるメンタルヘルスや社会的スキルの重要性が年々増している。文部科学省の調査1) よると、教員における精神疾患での休職者が増加傾向にあることが分かる。また石山ら2)は離職・病気休 職者からの聞き取り調査において、教員が児童とその保護者との関係や職場での人間関係に悩むことを報 告している。このような現状を鑑みると、教員におけるメンタルヘルスや社会的スキルの向上が喫緊の課 題であると言えよう。したがって、教員を志望する学生にとって、教員になる前にメンタルヘルスや社会 的スキルの向上を図ることは重要なことであり、教員養成課程においても、そのような機会を作る必要が あると考えられる。  本学部における野外運動実習(キャンプ)は主に教育コースの学生を対象とした教職課程科目の一つで ある。本実習を通じ、野外運動・キャンプを実施する上で必要な基礎知識や技術を学ぶと共に、その意義 や重要性を認識し、体育・スポーツに関わる者としての資質の向上を図ることを目的としている。先行研 究では教師における自己効力感に着目して研究が行われ、野外活動を通して教師自己効力感が有意に変容 すること3)、またその変化は一部性差によっても異なることを明らかにしている4)ことから、本実習が教 員としての資質の向上に貢献していることが分かる。  一方、キャンプには他にも様々な影響を与えると言われており、メンタルヘルスや社会的スキルの向上 も期待できる。  本実習においてその効果が認められるならば、メンタルヘルスや社会的スキルの面からも教員としての 資質向上に貢献していると言えるだろう。  そこで、本研究は本学の野外活動実習が受講者の自尊感情、レジリエンス、社会的スキルに与える影響 について調査を行い、本実習が教員を志望している学生のメンタルヘルスや社会的スキル向上に貢献でき るかを明らかにすることを目的とした。

2. 研究方法

( 1 )対象授業の概要  本研究で対象とした野外運動実習(キャンプ)は教職課程科目の内、教科に関する科目に位置づけられ、保 健体育科の教員免許状取得を目指す学生は必修となっている。3年次の夏季休暇期間に集中授業として名古 屋YMCA御岳・日和田高原キャンプ場(岐阜県高山市)にて開講されている。本実習では毎年履修学生が多 数となるため、2 期に分かれて開講され、履修学生は機械的に第 1 クール、第 2 クールのどちらかに分けられ ている。これは、仲の良い者同士で集まることを防ぐこと、また普段の大学生活で関わりが少ない者同士をグ ループにすることで集団における望ましい態度と役割意識を持たせることを意図したものである。本年度の実

野外運動実習(キャンプ)が大学生の自尊感情、レジリエンス、社会的スキルに及ぼす影響

―教員養成課程学生を対象として―

中川雅智 * 井澤悠樹 **

* 東海学園大学スポーツ健康科学部助手 ** 東海学園大学スポーツ健康科学部講師

(2)

習は第 1 クールが2018年 8 月26日(日)∼ 8 月29日(水)、第 2 クールが2018年 8 月30日(木)∼ 9 月 2 日 (日)のそれぞれ 4 日間にわたり開講された。詳細なスケジュールは表 1 に記した。これらのスケジュールは 2 年前からほぼ同様となっている。主となるプログラムは 2 ∼ 3日目に行う 4 つの選択プログラムである。 ( 2 ) 調査について  調査対象は野外活動実習に参加した本学スポーツ健康科学部学生 112 名である。調査方法は集合調査法 による質問紙調査であり、第 1 クール及び第 2 クールの各初日の実習開始前に 1 回目の調査(pre)、最終 日の実習終了後に 2 回目の調査(post)を行った。調査項目は基本事項(学籍番号、実習参加時期)、実 習に対する期待度(pre)及び満足度(post)に関する項目、自尊感情に関する項目、レジリエンスに関 する項目、社会的スキルに関する項目で構成されている。実習に対する期待度及び満足度の項目は昨年 度の本実習を対象とした調査4)で使用した項目を採用した(13 項目、 7 件法)。自尊感情に関する項目は Rossenberg のセルフエスティーム尺度の日本語版(10 項目、 4 件法)5)を採用した。レジリエンスに関す る項目は、小塩ら6)が作成した精神的回復力尺度(21項目、5 件法)を使用した。社会的スキルは菊池7) 作成した Kiss-18(18 項目、 5 件法)を採用した。Kiss-18 はいくつかの因子構造を持つことが指摘されて いるが、基本的には総合点のみを比較する尺度であるため8)、今回はそれに倣い総合点の比較を行った。 表 2 には各尺度の質問項目を記した。  解析対象は自尊感情、レジリエンス、社会的スキルに関する項目について誤記入、未回答等の無い 101 部(90.2%)とした。自尊感情、レジリエンス、社会的スキルの各尺度について総合点を算出し、対応の ある student-t 検定を行った。また社会的スキル得点の変化量(post 得点− pre 得点)と自尊感情、レジリ エンス得点の変化量との間でピアソンの積率相関分析を行った。有意水準は 5 %未満とした。

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3. 結果

( 1 ) 受講者の期待度及び満足度  受講者の期待度及び満足度について表 3 に示した。回答は 13 項目の内、10 項目のプログラムにおいて満 足度が期待度を有意に上回っていたことが確認された。尚、プログラムによってサンプル数が異なるのは、 天候不順等により実施できなかったプログラムがあったことが主な要因である。 表2 各尺度の質問事項 表3 各プログラム及び実習全体における期待度・満足度

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( 2 )自尊感情

 自尊感情合計点の pre 及び post の比較について、図 1 に示した。pre が 26.6 ± 3.96 点、post が 28.5 ± 3.95 点であり、post が pre よりも 0.1%レベルで有意に高い値を示した。

(3)レジリエンス

 レジリエンスの合計点の比較について、図 2 に示した。pre が 73.1 ± 9.32 点、post が 77.2 ± 9.85 点であり、 post が pre よりも 0.1%レベルで有意に高い値を示した。

( 4 )社会的スキル

 社会的スキルの比較について、図 3 に示した。pre が 59.7 ± 9.30 点、post が 64.3 ± 9.22 点であり、post が pre よりも 0.1%レベルで有意に高い値を示した。また社会的スキル得点の変化量(post 得点− pre 得点) と自尊感情、レジリエンス得点の変化量との間で相関分析をしたところ、それぞれ r=0.444、r=0.346 とな り、0.1%レベルで有意に相関があることが確認された(表 4 )。

図1 自尊感情の比較

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4. 考察

( 1 )受講者の期待度及び満足度について  受講者の期待度及び満足度について、ほとんどのプログラムで満足度が期待度を有意に上回っていた。 このことから受講者の実習に対する満足度は高かったと推測される。有意差が確認されなかったプログラ ムは、テント泊、森林体験、渓流ハイクであった。昨年度の本実習を対象とした先行研究では森林体験、 渓流ハイクの期待度・満足度に有意差が見られなかった4)。このことから受講者の期待度・満足度を基準 とすると昨年度とおおむね同様の実習であったと考えられる。テント泊で有意差が見られなかったことは、 昨年よりも天候が荒れた日が多く、受講者にとってテントでの生活がより困難となったことが影響したも のと考えられる。 ( 2 )自尊感情について  自尊感情はセルフエスティームとも言われ、自分を客観的に評価することを通して、無意識に自分を探 り、自分を知り、自分を好きになり、自分を励ます能力であるとされる9)。一般に自尊感情は高い方がよ いとされ、今回の調査で使用した Rossenberg のセルフエスティーム尺度は得点が高いほど、自尊感情の レベルが高いとされている。今回の結果では実習後の値が実習前と比べ有意に得点が高い様子が確認され た。これは実習に参加することにより、自尊感情が向上したことを表す。吉田10)は短期大学生を対象とし たキャンプの前後で女子学生の自尊感情が向上したことを報告し、キャンプにおける様々な課題に対し、 挑戦し成功体験をすることによって、自分はこれでいいのだと捉えられるように変容していったと推察し ている。本実習においても、テントを張る、火をおこす、鉈で木を割るなど、受講者にとって初めての体 験となることが多かった。受講者はそれに対し、挑戦し成功体験を積み重ねたことによって自尊感情が向 上したのではないかと考えられる。   (3)レジリエンスについて  レジリエンスは精神的回復力とも言われ、ストレッサーに曝露されても心理的な健康状態を維持する力、 図3 社会的スキルの比較 表4 社会的スキルの変化量と自尊感情、レジリエンスの変化量との相関分析

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あるいは一時的に不適応状態に陥ったとしても、それを乗り越え健康な状態へ回復していく力とされてい る6)。今回の結果では実習後の値が実習前と比べ有意に高値を示し、レジリエンスが向上している様子が 伺えた。原ら11)は日本のレジリエンス育成に関する教育実践について取り上げ、体験重視型の実践におい て、我が国では体験そのものを重視するため、体験を通してレジリエンスを育成するためにはかなり工夫 が必要であるとし、目標設定やふり返り等を注意して行う必要があると報告している。本実習においては 実習中毎日、班と個人での目標設定を行い、その日の最後にはふり返りを行わせた。こうしたことがレジ リエンスの向上につながったのではないかと推測される。 ( 4 )社会的スキルについて  社会的スキルは一般的に対人関係を円滑にするスキルであると言われている。菊池8)は相手から肯定的 な反応をもらい、否定的な反応をもらわないように作用するスキルであるとしている。大道ら12)は、教員 は専門教科の指導力だけでなく、子ども、同僚、管理職や保護者との関わり、良好な関係を作る力が必要 であり、その職責を果たすためには他の職業以上に社会的スキルが重要であることを指摘している。今回 の結果では男女共に実習を通して、社会的スキルが向上する結果となった。古賀ら13)は夏季集中授業「富 士登山キャンプ」(3 泊 4 日)に参加した大学生の Kiss-18 の得点が有意に上昇したことを認め、「富士登山 キャンプ」は、社会的スキルに対して一定の教育効果を有するものと考えられると報告している。一方で 吉田10)は初歩的な社会的スキルは向上したものの、全体的な社会的スキルが向上していないことを報告し ている。これは吉田の報告は 1 泊 2 日のキャンプであり、古賀らの報告や本実習と比べ短いプログラムで あったことが要因として考えられる。つまり、ある程度長い期間のキャンプでなければ全体的な社会的ス キルは向上しないことが推測される。さらに本実習では班の編成をランダムに行い、普段関わり合いの少 ない学生同士で実習を行わせている。このような工夫も社会的スキルの向上に貢献しているのではないか と考えられる。  また社会的スキルの変化量と自尊感情、レジリエンスの変化量の間には有意な正の相関があることが確認 された。以前より社会的スキルと自尊感情、レジリエンスは関連があることが報告されている。服部ら14) セルフエスティームと社会的スキルは関連があり、セルフエスティームの高い者は自分に自信を持ち、あ りのままの自分を表現できるため周りの者からの信頼を獲得し、円滑な人間関係を形成・維持できると報 告している。また齋藤ら15)はソーシャルスキルが高い人はレジリエンスが高い傾向にあることを報告して いる。今回の結果はあくまで相関関係であり、因果関係までは分からない。しかし、社会的スキルと自尊 感情、レジリエンスはその変化にも関連があり、例えば自尊感情、レジリエンスをより向上させるプログ ラムを行うことで、社会的スキルがさらに向上する可能性があると考えられる。

5. まとめ

 本研究の目的は本学の野外活動実習が教職志望学生のメンタルヘルス、社会的スキルに影響するかを検 討することであった。その結果、自尊感情、レジリエンス、社会的スキルのそれぞれが、本実習を受講す ることで向上するという結果が得られた。また目標設定やふり返り、実習期間の長さ、班編成での工夫な どがその向上につながる可能性についても指摘した。さらに社会的スキルの変化と自尊感情、レジリエン スの変化には相関があり、自尊感情、レジリエンスがより向上するプログラムを行うことで社会的スキル がさらに向上する可能性を見出した。以上のことから、本実習が教職志望学生のメンタルヘルス、社会的 スキルの獲得につながり、教員としての資質の向上に貢献することが確認された。一方で、本研究は実習 全体を通しての変化を観察したが、各プログラムの影響については検討していない。また、性差や過去の キャンプ体験など学生の特性についても考慮していない。今後さらに良い実習とするため、これらについ

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ても検討を行う必要があると考えられる。

参考文献

1 ) 文部科学省:教員のメンタルヘルスの現状,2012 2 ) 石山陽子,坂口守男:教員の職場内メンタルヘルスに関する報告(Ⅰ)―離職 ・ 病気休職者からの聞 きとり調査をもとに―,大阪教育大学紀要 3 自然科学・応用科学, 57( 2 ),pp59-68,2009 3 ) 井澤悠樹,中川雅智,出口順子:教員養成大学における野外運動実習(キャンプ)のプログラム評価 ―参加学生の教師効力感の変容に着目して―,東海学園大学教育研究紀要:スポーツ健康科学部, 2 , pp3- 9 ,2016 4 ) 井澤悠樹,中川雅智:教員養成大学における野外運動実習のプログラム評価―参加学生の教師自己効 力感の変容と性差に着目して―,東海学園大学教育研究紀要, 2 ( 2 ),pp 1 - 8 ,2018

5 ) 松下覚:Self-image の研究:self-esteem scale の作成,日本教育心理学会第 11 回総会発表論論文集, pp280-281,1969 6 ) 小塩真司,中谷素之,金子一史,長峰伸治:ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性― 精神的回復力尺度の作成―,カウンセリング心理学,35,57-65,2002 7 ) 菊池章夫:思いやりを科学する―向社会的行動の心理とスキル―,川島書店,1988 8 ) 菊池章夫:Kiss-18 研究ノート,岩手県立大学社会福祉学部紀要, 6 ( 2 ),pp41-51,2004 9 ) 村松常司:セルフエスティームからの健康支援,愛知教育大学保健環境センター紀要,3,29-31, 2004 10) 吉田充:キャンプ体験が短期大学生の自尊感情と社会的スキルに与える影響,國學院短期大学紀要, 24,pp3-14,2007 11) 原郁水,都築繁幸:保健教育への応用を目指したレジリエンス育成プログラムに関する文献的考察: 我が国における教育実践から,教科開発学論集, 2 ,193-198,2014 12) 大道乃里江,宮本佐知,小山健蔵:教職課程履修学生における社会的スキルとストレス反応との関連, 学校危機とメンタルケア, 9 ,29-37,2017 13) 古賀初,加藤知己,木村憲:大学生の社会的スキルおよび自己効力感に対する「富士登山キャンプ」 の教育効果,東京電機大学総合文化研究,14,pp195-198,2016 14) 服部洋兒,岡本昌也,金子恵一,服部祐兒,村松成司,村松常司,山田雄大:運動習慣がセルフエス ティーム・社会的スキルに及ぼす影響,スポーツ整復療法学研究,13( 1 ),pp 1 - 8 ,2011 15) 齊藤和貴,岡安孝弘:大学生のソーシャルスキルと自尊感情がレジリエンスに及ぼす影響,健康心理 学研究,27( 1 ),pp12-19,2014

参照

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