1.は じ め に 乳腺は「主乳管 - 枝分かれする乳管 - 終末乳管小 葉単位(TDLU)」よりなっており,どの乳腺にも 共通した正常基本構造である.しかし,実際の乳房 超音波観察では,正常乳腺が千差万別のようにみえ る.それは経年変化や個人差(ホルモン環境,授乳 歴,BMI等)によるとも言われ,例えば,乳房の 乳腺と脂肪の割合や分布,厚み,乳腺の中に見られ る等エコー構造物の形状についても連続性のあるも の,短く途切れているもの,径の太いもの,細いも のと様々である.なぜ,このように正常乳房超音波 像は多様性に富んで見えているのだろうか.乳腺の 正常構造の何が組織学的に異なっているのだろうか. 画像診断の基本は「正常を知り,正常から逸脱し ている部位に注目する」という視点である.この初 級編では,超音波診断機器の進歩に伴い可能となっ てきた,「乳房正常解剖の新しい超音波像理解」と「立 体的乳房腺葉構造読影法」について述べる.正常乳 房超音波画像を組織学的に解説しながら,普段みて いる正常乳房超音波が乳房解剖をどう反映している のか,考えてみたい. ◇ REVIEW ARTICLE(第 16 回教育セッション)(乳腺)◇
乳房正常解剖の超音波画像理解と観察法
何森亜由美 抄 録 乳房超音波に重要な乳房解剖知識として,乳腺の小葉外間質は,(1)「周囲間質 surrounding stroma」と(2)「浮腫 状間質edematous stroma」の膠原線維密度の異なる 2 種類の間質がある.乳腺内に見える等エコー構造は,「終末 細乳管小葉単位(TDLU)- 乳管」と「周囲間質」からなり,乳管の走行を反映しているものであり,どの年代に も見える解剖学的基本構造である.等エコー構造の間を充填する間質が「浮腫状間質」であり,超音波では背景乳 腺として高エコーに描出される.乳腺の脂肪化は「浮腫状間質」に起こるが,脂肪と膠原線維の割合に関わらず, 超音波は「散在」して高エコーレベルを示すことに変わりはない.等エコー構造は乳管の走行に一致しているため, 乳頭方向と腺葉境界面に向かう規則性を持つ.乳管走行の規則性パターンを追う観察法は,腺葉の重なりが理解で き,乳房を立体的に観察することが可能となる.描出される等エコー構造が正常であることを確認していけば「正 常構造からの逸脱部」に気づくことができ,これまで検出が難しいとされていた「淡い病変」「微少な病変」「等エ コー病変」でも容易に検出することができる.乳房解剖理解に基づく観察によって,乳房超音波検査を,客観性, 短時間で,精確なものとし,検査手技の獲得も効率よく行える.Ultrasound understanding and observation method of normal mammary gland anatomy
Ayumi IZUMORI Abstract
There are two types of stroma in interlobular stromal fibrous tissue: (1) a surrounding stroma that is densely packed with fibrous connective tissues and surrounds the lobules and an extralobular duct (isoechoic) and (2) an edematous stroma with loosely packed fibrous connective tissues (hyperechoic). The isoechoic structure includes “extralobular duct - TDLU” in the surrounding stroma. The isoechoic structure shows the running of the duct. Normal isoechoic structures have two types of regularities, i.e., toward the nipple and toward the boundary surface between the lobes, reflecting the course of the mammary ducts. The continuity of the isoechoic structure should be traced by paying attention to these two types of regularities. The site where the isoechoic structure is interrupted in its continuity or disordered in direction should be evaluated for possible pathological changes.
Keywords
normal breast anatomy,normal mammary gland structure,isoechoic,lobe,deviation from normal DOI: 10.3179/jjmu. JJMU.R.130
高松平和病院外科
Department of Surgery, Takamatsu Heiwa Hospital, 1︲4︲1 Ritsurincho, Takamatsu, Kagawa 760︲8530, Japan Received on February 9, 2018; Accepted on February 26, 2018 J-STAGE. Advanced published. date: May 21, 2018
2.乳腺内に見える等エコー構造模様の正体 2 つ の小葉外間質 組織像と正常超音波画像の対比研究により,乳腺 には,超音波の見え方が異なる2つの小葉外間質が あることが判明した1,2).小葉外間質は(1)周囲間 質と(2)浮腫状間質に分けられる.超音波で見え ている乳腺内の等エコー構造の模様は,これまでわ かっていた「乳管 -TDLU」という解剖学的基本構 造が(1)の間質で修飾されたものであることが明 らかになった. 2.1 2 つの小葉外間質の組織学的・画像的特徴 (1)膠原線維の密な間質:周囲間質surrounding stroma a.「乳管 -TDLU」周囲を取り巻いている膠原線維 が密な部位である.組織標本ではHE染色で濃いピ ンク色に染まる部分である(Fig. 1 - ⑴ ). b. 超音波では等エコーレベルに見える(Fig. 2 - ① ). 乳腺内に見える等エコーの模様は,この周囲間質と 「乳管 -TDLU」からなっている. c. 乳房の「母乳を産生して分泌する」という器官 機能の役割を果たす「実質」を支持するように分布 する間質である.経年変化を受けにくい(Fig. 3). (2)浮腫状で膠原線維が疎な間質:浮腫状間質 edematous stroma a.(1)の「周囲間質」の間を埋める間質.基質が 豊富でHE染色では薄いピンク色に染まる部分であ る.脂肪細胞が混在している(Fig. 1 - ⑵ ). b. 超音波では高エコーレベルを示す.基質の量と 脂肪細胞の量は乳房によって,また部位 によって 様々な割合で混在するが,どの割合であっても,超 音波の特性である「散在」によって高エコーレベル を示す.(Fig. 2 - ③ ) c. 経年変化やBMIにより脂肪に置き換わり,脂肪 化する部位である(Fig. 3). 2.2 等エコー構造の連続性:乳管の走行パターン を読む 乳腺超音波検査の動的観察時にも等エコー構造が 途切れ途切れに見えるのは,(1)の周囲間質の分布 に偏りのある乳腺が多いからである(Fig. 4).病理 標本では周囲間質は存在するが,横断像で厚みが約 0.2 mm(汎用されている12 MHz周波帯プローブ Fig. 2 超音波で観察される正常構造 ①乳管走行や小葉分布を反映した「小葉 乳管 -周囲間質」構造:等エコー ②①の中心の乳管が見える場合もある:1本又 は2本の線状高エコー(左図:矢印)分泌物が ある場合は分泌物部は低エコーになる ③①と②の間を充填している浮腫状間質:高エ コー ④腺葉構造:面状高エコー(右図:矢印) ⑤脂肪小葉と筋膜:等エコー+高エコー被膜 ⑥乳頭,皮膚,胸筋,肋骨 ① ① ① ③ ③ ③ ⑤ ⑥ ⑥ Fig. 1 2つの小葉外間質 (1)膠原線維の密な間質:周囲間質surrounding stroma (2)浮腫状で膠原線維が疎な間質:浮腫状間質 edematous stroma (文献1より引用改訂) (2) (2) (2) (1) (1)
小葉
小葉
小葉
小葉
乳管 乳管の生体での推定距離分解能)以下の部位は超音波画 像上では背景の(2)浮腫状間質と分離して描出で きない.画像上等エコー模様が途切れて見えていて も,中心部の乳管は必ず連続している構造物であり, 乳管と連続していない場所には等エコー構造物は存 在しないことになる.このことから動的観察の中で は,立体的な乳管走行の連続性を常に念頭におくこ とが重要である.(1)の周囲間質が均等に分布して いる乳腺は,等エコー構造の連続性を追って描出す ることができ,正常乳管の走行が観察しやすくなる (Fig. 5上).連続性を保って見えている乳腺で,乳 管走行のパターンが動的観察でどのように見えるの かを覚えることが,連続性の「ない」等エコー模様 のパターンの観察を上達させるコツである. なお,超音波の性能が上がり高周波成分を含む高 分解能プローブになると,等エコー構造はより連続 性を持って見えてくるようになっており,これから の乳房超音波検査の進歩につながると私は考えてい る. 2.3 等エコー構造の方向性:腺葉の広がりを読む 連続性を追えない乳腺の乳管走行パターンと,連 続性を追うことができる乳腺の乳管走行パターンは 基本的には同じである(Fig. 5). 等エコーの連続性に注意して乳腺を観察している と,一定の方向性に気づく.一つ目は乳頭方向へ向 かう方向性であり,長軸方向で腺葉を見ると,乳管 はFig. 4, 5の様に傾いていることがわかる.二つ 目は腺葉の重なっている部位に見られる,腺葉の境 界面に向かう方向性である.厚みのある乳腺の場合 Fig. 4 周囲間質の分布と超音波画像1. 周囲間質の分布に「偏り」があると等エコー模様 は途切れて見える(点線囲み)(文献1より引用) Fig. 3 経年変化と脂肪化 超音 波画像と組織像の対比 左:40代 中:50代 右:80代. 組織像では浮腫状間質が脂肪に 置き換わっている. 一方周囲間質は残存している. 超音波では「小葉 - 乳管 - 周囲間 質構造」はどの年代でも観察され ており,浮腫状間質はどの年代 でも高エコーレベルである(文 献1より引用)
に,腺葉境界面への方向性は観察されやすい. 3.乳腺の腺葉構造 乳腺には腺葉構造があり,超音波ではその境界面 が観察される. 乳腺は様々な容量の15-20枚の腺葉が重なり あっていると言われている.超音波による動的観察 では,水平方向の腺葉境界面の一部が,シート状の 高 エ コ ー 像 で 観 察 さ れ る(Fig. 2右 矢 印 ④, Fig. 6).前述した様に等エコー構造である「乳管 -TDLU- 周囲間質構造」は腺葉境界面に向かう方向 性があるが,この薄い腺葉境界面をお互いに越える ことはない.したがって,シート状の高エコーが観 察されなくても,等エコー構造の方向性のパターン が異なる面が,腺葉の境界面ということになる. 組織学的には,腺葉境界面には線維結合織の中に 脈管が並んでいる.他の臓器と同様に区域を分ける 構造が見られる(Fig. 6下右). 4.乳房超音波検査の実践に必要な知識 乳房の正常解剖学構造を理解して観察する方法 「立体的乳房腺葉構造読影法」は乳房画像を解剖理 解に基づいてリアルタイムで読み解く方法であり, 要約すると,以下の様になる. 4.1 新たな正常乳房解剖・観察理解 point 1:乳房には2種類の間質がある. ① 膠 原 線 維 の 密 な 間 質: 周 囲 間 質surrounding stroma 「乳管 -TDLU」周囲を取り巻いている.等エコー レベル.経年変化を受けにくい. ② 浮 腫 状 で 膠 原 線 維 の 疎 な 間 質: 浮 腫 状 間 質 edematous stroma Fig. 5 周囲間質の分布と超音波画像2. 上:周囲間質の分布が「小葉 - 乳管」周囲に均 等であると,正常構造が連続性に観察しやすい. 下:周囲間質の分布が不均等な乳腺も多く,そ の場合は正常構造は途切れ途切れに観察され る.しかし,乳管の走行パターンは上下とも同 じである Fig. 6 腺葉境界面と組織像. 上:組織学的には腺葉境界面に特別な膜構造は ないが,線維結合織がみられる. 下左:超音波では高エコーの面状の構造として 観察される. 下右:腺葉境界面の横断面では,脈管が並んで いる(文献1より引用)
①の間を埋める間質.高エコーレベル.経年変化 やBMIにより脂肪に置き換わる. point 2:腺葉の境界面がわかる. 4.2 観察するもの point 3:「連続性」等エコー構造物は乳管の走行 を反映している. point 4:「規則性」等エコー構造物は,乳頭方向 と腺葉境界面方向の2つの方向性を持つ 4.3 正常構造からの逸脱部の立体的検出 point 5:「途絶え」腫瘤がある部位.病変が等エコー でも指摘し得る. point 6:「乱れ・広狭不整」非腫瘤性病変・distortion がある部位. 正常構造からの逸脱部を検出する方法は,「腫瘤」 「非腫瘤」「構築の乱れ」等,どの様な形態の病変で あっても「容易に」「客観的に」存在に気づくこと ができる観察法である.また,正常構造が観察され た部位は安心して「病変がない」と言えるので,何 度も乳房を往復する必要がなく,構造が観察しやす い乳房では,短時間で観察を終えることができる. 正常構造を目安に乳房を観察し,「正常構造から の逸脱部」を検出する観察法を実践する際に必要な もう一つの重要な技術ポイントとして,「乳腺構造 を歪みなくきれいに伸展した画像で観察する」こと があげられる.乳房は「大胸筋 - 乳房間のルーズな 筋膜構造」や「乳房・乳腺の脂肪化」により,超音 波観察を行う背臥位では「歪み,たわみ」が生じて いる.正常乳房の解剖学的な歪みの仕組みを意識し ながら,プローブ走査でたわんだ構造を伸展して観 察することが重要となる(Fig. 7). 歪みやたわみの修正がどの程度必要であるかは, 個々の乳房の歪みの程度に応じて行う.修正の目安 は,これまで理解してきた「乳管 - 小葉 - 周囲間質」 がおよそ水平方向にきれいに伸び,乳管の枝分かれ や方向性が追えている状態がモニターに映し出され ているかである.したがって,乳房内側は比較的自 然に正常構造は伸ばされており,軽くプローブを当 てるだけで良い.また,若年でたわみの少ない乳房 も軽く当てているだけで構造は伸びている.脂肪化 してたわんだ乳房の場合,特に外側ではプローブ先 端が皮膚に隠れるくらいの圧迫を要する.しかしこ のような乳房でも構造が伸びるまで被験者は痛みを 感じないので,安心してモニターに映し出される構 Fig. 7 外側への歪みたわみ. 左:服臥位やMRI撮影時.乳頭を中心に下垂した状態. 中:背臥位/US観察時.厚みが減り大胸筋側の乳房が胸郭に沿って外側へ移動する.内側と外側の境界部は外側に歪む.胸 壁外側に乳房がたわむ. 右:乳房の歪みたわみの誤った考えかた.厚みが薄くなるだけや,外側に歪んでいるだけではない(文献2より引用改訂) 背臥位/US観察時 腹臥位/MRI撮影時 誤った考え方 Fig. 8 乳房観察範囲の解剖学的指標 内側:胸骨が確認できる範囲 尾側:皮膚に見られる乳房下溝より3∼4 cm尾側 頭側:鎖骨の1横指下 外側:広背筋外側が目安となる.ただし乳房外側移動に個 別性があるため脂肪筋膜境界の観察を加える(Fig. 7参照) (文献2より引用改訂) 鎖骨の1横指下まで 広背筋外縁を確認 270 乳房下溝より3~4 ㎝尾側から始める 胸骨まで
造を確認しながら,圧迫加減を探ると良い. 5.観 察 範 囲 観察範囲は乳房の大きさや外見のたわみ具合では なく,解剖学的構造を目印に決める.またマンモグ ラフィの死角になる部位をカバーするよう留意する ことが大切である(Fig. 8). 特に表面からは位置が確認しにくいのは,乳房の 外側である.脂肪の多い乳房の場合は,「背側腋窩 の脂肪」と「乳房の脂肪」の境界は通常の観察では 判別がつかない.しかし乳房の大胸筋側には可動性 のあるルーズな筋膜(潤滑性脂肪筋膜系:lubricant adipofascial system:LAFS)がある3,4)ため,乳房外 側脂肪と背側腋窩脂肪との境界はダイナミックテス トを加えることで観察される5()Fig. 9).乳頭方向 に押しもどすような動きのダイナミックテストで, 乳房脂肪組織の大胸筋側には水平方向の移動が見ら れ,乳房脂肪と背側腋窩脂肪の脂肪筋膜境界部が明 瞭になる.大胸筋側の脂肪筋膜アンカー部に注目す ると観察しやすい.乳房の外側移動の程度には個人 差があり,また外側境界部は腋窩中線からの直線で はなく尾側と頭側で位置が異なるため,用手的に乳 房外縁部を確認する習慣をつけておくと良い.乳腺 分布の可能性のある部位はその範囲まで残さず観察 する必要がある. 6.お わ り に 本稿では,乳房正常解剖の超音波画像上における 見え方についての基礎的な理解の一部と,その応用 による観察法を紹介した.今回は主に乳腺の乳管走 行に重点をおいて解説しており,小葉分布や腺葉分 布のバリエーション,乳房の脂肪については省略し ている.超音波検査は主観的であると言われやすい が,解剖学的指標を目安とした観察法は,客観性を 担保し,精確な検査手技の獲得が効率よく可能にな る.今後の皆さんの診療にお役に立てば幸いである. 利益相反 本論文に関わる研究に関して利益相反はありませ ん. 文 献
1) Izumori A, Horii R, Akiyama F, et al. Proposal of a novel method for observing the breast by high-reso -lution ultrasound imaging: understanding the normal breast structure and its application in an observational method for detecting deviations. Breast Cancer. 2013; 20:83︲91.
2) 日本乳腺甲状腺超音波診断医学会乳房超音波診断ガ イドライン改訂第3版.東京:南江堂; 2014.p.14︲17. 3) Nakajima H, Imanishi N, Minabe T, et al. Anatomical
study of subcutaneous adipofascial tissue: a concept of the protective adipofascial system (PAFS) and lubricant adipofascial system (LAFS). Scand J Plast Reconstr Surg Hand Surg. 2004;38:261︲6.
4) 今西宣晶,中嶋英雄,貴志和生.皮下脂肪筋膜組織の 肉眼的構造と組織学的構造.形成外科.2006;49:1083︲ 8. 5) 何森亜由美.高周波プローブによる乳腺超音波検査 基本手技.映像情報Medical.2017;49:72︲6. Fig. 9 乳房外側境界の観察 上:プローブで圧迫し構造を伸ばしている状態. この状態のままだと背側腋窩脂肪と乳房脂肪の 区別はつかない. 下:プローブの乳頭側の圧力を解除すると,乳 房の大胸筋側の筋膜(LAFS)の外側への移動 がわかる.圧迫と解除を繰り返すと境界である アンカー部(☆)が明瞭となり,背側腋窩脂肪 と乳房脂肪の境界部がわかる