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市場流動性が失われるとき

(米国債のフラッシュ・ラリー現象で明らかになったリスク) ムーディーズ・アナリティックス ディレクター 水 野 裕 二 [email protected] 2015年4月22日

(2)

 本資料はIMFが2015年4月15日に公表した国際金融安定性報告書の市場流

動性に関する部分(“When Market Liquidity Vanishes”)及び米国債フラッシュ・

ラリー現象に関する米国FedおよびJPモルガンの公表資料を抜粋して、その 概要をご紹介するものです。

“Global Financial Stability Report / A Report by the Monetary and Capital Markets Department on Market Developments and Issues” (IMF, Apr 15, 2015)

“Challenges posed by the evolution of the treasury market” (Remarks by Simon M Potter, Executive Vice President of the Markets Group of the Federal Reserve Bank of New York, at the 2015 Primary Dealer Meeting, New York City, 13 April 2015)

JPMorgan’s letter to shareholders by Jamie Dimon (Apr 8, 2015)

はじめに

 本資料では上記資料の一部を翻訳してご紹介しておりますが、弊社はその正確な内容を保証するものでは ありません。正確な内容につきましては、原文をご参照くださいますようお願い致します。

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 IMFによれば・・・(第1章)  米国債のフラッシュ・ラリー現象に見られる通り、金融市場の市場流動性が 低下している。これは様々な構造的要因によるものである。  アセットのコリレーションが高まっており、波及リスクが懸念される。  この観点における次の規制強化の焦点はアセット・マネジメント業界である。  米国Fedによれば・・・ (第2章)  米国債のフラッシュ・ラリー現象は様々な構造的要因によると思われるが、 現在調査継続中である。  JPモルガンによれば・・・ (第3章)  米国債のフラッシュ・ラリー現象は銀行規制を強化したためである。

エグゼクティブ・サマリー

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1.市場流動性が失われるとき

(IMF国際金融安定性報告書 2015年4月15日)

本章の内容は以下の資料に依拠しています。

“Global Financial Stability Report / A Report by the Monetary and Capital Markets Department on Market Developments and Issues” (IMF, Apr 15, 2015)

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市場流動性の低下は金融安定性リスクを著しく増幅させる

【通貨のボラティリティ】  米国金融政策が正常化するに伴い、一時的に上昇していた市場流動性は低下 し、資本市場の状況は変化するだろう。金融市場は流動性が突然失われ、ボラ ティリティが急上昇する局面に多く見舞われる可能性が高くなる。 【米国債のフラッシュ・ラリー現象とスイスフラン・ショック】  最近、典型的な事例が2件発生した。2014年10月15日に発生した米国債市場の 大きな変動と2015年1月15日に発生したスイスフランの急上昇である。これらの 事象においては、マーケットメイカーが流動性供給を停止することで当初の ショックが増幅されたと見られている。 【市場流動性の低下は金融安定性リスクを著しく増幅させる】  市場流動性の低下をもたらしている要因の多くが、市場内外のリスクを悪化させ、 ストレス時における資産相互間のコリレーションを高めている。  これらの現象が示すことは、市場流動性の低下が金融安定性に対するリスクを 著しく増幅する可能性があるということである。

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フィクストインカム市場の流動性イリュージョン

【流動性イリュージョン】  資本市場は以前にも増して重要な与信供給の役割を果たしており、投資信託が 保有するフィクストインカム商品のシェアは拡大している。投資信託への資金流 入はクレジット市場において流動性イリュージョンを生み出している。しかし、市 場構造の変化により、ストレス時における流動性不足が悪化する可能性がある。 【フィクスト・インカム市場の市場リスクや流動性リスク】  銀行業界はマーケット・メイク業務を縮小する一方で、より多くの投資家がベンチ マーク指標に従っている。ディーラー業者の在庫縮小、資産価格の上昇、質へ の逃避をしがちな投資家の存在、脆弱な流動性構造があいまって、フィクストイ ンカム市場の市場リスクや流動性リスクを高めている。

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グローバル市場は流動性喪失に対して脆弱になっている

【米国の金融政策変更に伴うリスク】  世界的に歩調が合わない金融政策や多様化した経済情勢により、外国為替市 場のボラティリティは著しく高まっている。グローバルなデフレ圧力やそれに伴う 政策対応により、米国債の長期イールドは低下している。  市場の見方が急激に変化し、プレミアムが上昇し、イールドが上昇することがあ れば、市場流動性ショックの引き金が引かれる可能性がある。  資産価格は依然として過去10年というスパンで見て高い水準にあり、スプレッド 低下圧力が生じてきたが、米国の量的緩和政策が終了することにより、ワイドニ ングする可能性がある。これにより、因果関係のチャネルが逆転し、グローバル 市場にショックが伝播する可能性がある。 【スイスフラン・ショック】  金融政策的な事情により、スイス中央銀行は2015年1月15日にスイスフランの ユーロに対する上限を撤廃するという予想外の行動に出た。フランはユーロに 対して即座に41%も上昇し、市場参加者はビッド・アスク・スプレッドを広げた。外 国為替市場の流動性は崩壊し、2011-12年のユーロ危機や2013年のTapering 時よりもさらに悪化した。

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2014年10月15日の米国債市場フラッシュ・ラリー現象

【2014年10月15日に米国債イールドが大きく低下した】  2014年10月15日、米国債市場は過去25年で最大規模となるイールド変化を経 験した。10年国債イールドは前日終値から37ベーシス低下し、その後、素早くリ バウンドした。そのボラティリティは関連するアセットクラス(米ドル・スワップ)や (少し遅れて)株式へと伝播した。

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2014年10月15日の米国債市場フラッシュ・ラリー現象

【2014年10月15日の価格変動は過去と比較してもレアなケース】

 本件での米国債イールドの低下幅は2008年9月15日のリーマンブラザース破綻 時のものよりも大きかった。最近のトレーディング状況と比較してみても、10月15 日中に見られた大きな価格変動は極めて珍しい部類に入る。

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2014年10月15日の米国債市場フラッシュ・ラリー現象

【マーケットメイクの縮小が流動性リスクを増幅させた】  この米国債の急激な上昇はデータ発表の不備や片側に偏ったポジションのため に引き起こされたと報道されているが、伝統的なマーケットメイカーがリスクを抱 える役割から撤退していたことによって増幅されたと思われる。米国債先物契約 の売買の多くが拒否されたため、個々のトレードが市場価格に対して通常時より も大きな影響をもたらした。 【2014年10月15日の午前8:00から10:00の間の米国債先物市場のビッド・アスク推移】 ビッド・アスクのオファーが極端に薄 くなった時点で価格が急騰している

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なぜ市場ショックは増幅されてしまうのか?

【市場環境の変化により、市場参加者は流動性ショックに脆弱な立場にある】  市場ショックは流動性が低い状況下では簡単に伝播するものである。IT技術の 変化、規制影響、市場参加者の構造変化によって、米国債市場とフィクストイン カム市場のミクロレベルでの構造が変化してきている。  その結果、市場参加者はディーラー業者がボラタイルな市場において常に十分 な流動性を供給してくれると信用することができなくなり、流動性ショックに対して より脆弱になっている。さらに、市場のセーフガード措置はもはや変化する市場 環境に適切に対応しているとは言えなくなっている。  流動性供給が低下している要因には以下のようなものがある。 ① 自動執行トレーディングや高頻度トレーディングの登場 ② 伝統的なディーラー業者によるマーケットメイクの減少 ③ 不適切な市場セーフガード ④ 規制が緩いノンバンク市場仲介者の登場 ⑤ ベンチマーキング取引への注力 ⑥ デリバティブとETFの増加

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市場ショックを増幅させる要因(1)

① 自動執行トレーディングや高頻度トレーディングの登場  米国債や米国債先物トレードの大半は電子プラットフォーム上で実施されており、 アルゴリズム・トレーダーや高頻度トレーダーが市場シェアを拡大している。高頻 度トレーディングの現物市場におけるシェアは50%、先物市場におけるシェアは 60-70%と推定されている。  アルゴリズム・トレード戦略を採用するマーケットメイク業者も増加している。流 動性の供給は取引プログラムの反応に依存する面が強くなっており、リスキーな 状況下で市場を安定させる流動性が得られなくなっている。 ② 伝統的なディーラー業者によるマーケットメイクの減少  銀行がマーケットメイクを通じて流動性を供給する能力は近年の金融規制強化 によって縮小してきている。同様に年金基金や保険会社も資産・負債のミスマッ チを最小化する規制要件の強化により、金融市場にてカウンターシクリカルな役 割を果たすことができなくなってきている。

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市場ショックを増幅させる要因(2)

③ 不適切な市場セーフガード  自動執行トレーディングに支配されている市場では既存のセーフガード措置が 不自然な価格変動を制限できないことがある。米国債フラッシュラリーのケース では、先物市場でサーキットブレーカーが機能しなかった。市場取引は連続した 価格で執行され続け、価格にジャンプが生じなかったからである。  しかし、各価格水準で執行可能であった取引数が少なかったため、価格は連続 的に執行されつつ急激に上昇し、市場参加者にその時点の市場価格で大きな ポジションを解消するチャンスを与えなかった。 ④ 規制が緩いノンバンク市場仲介者の登場  レバレッジを活用するリテール投資家の存在がスイスフラン上昇に拍車をかけ た。大きくレバレッジのかかったポジションが監督当局の監視下にないケースが 多い。多くのリテール投資家がリスクを認識していないか、外国為替ブローカー から証拠金以上に負けることはないという明示的あるいは黙示的な保証を受け ている。しかし、フランが急上昇して彼らのポジションの逆方向に動いた際、高い レバレッジのために証拠金をはるかに上回る損失が生じた。その結果、2社が 支払不能となり、あるブローカーは約2.25億ドルの損失を公表した。

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市場ショックを増幅させる要因(3)

⑤ ベンチマーキング取引への注力  より多くの市場参加者が金融指標や指標に採用されている証券のバスケットに 投資するようになっている。このトレンドを支えている要因にはいくつかあり、プラ イムブローカーから得られるレバレッジへのアクセスが制限されていること、厳し いリスク管理や高い透明性を求める投資家の要望などがある。より多くのアセッ ト・マネージャーがベンチマーク取引に注力するに伴い、指標に採用されていな いアセットの流動性が低下しやすくなっている。 ⑥ デリバティブとETFの増加  デリバティブのような指標ベースの取引やETF(上場投信)のトレーディングが増 加していることにより、流動性を制約する効果が増幅されている。ディーラー業 者は、顧客の株式指数デリバティブ契約に伴うエクスポージャーのヘッジのため に現物市場を利用する際、指数に含まれる各株式に関して反対方向のオー ダーを同時に発注する必要が生じる。これにより、指標に採用されている証券と それ以外の間の流動性の差異が拡大する。

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市場流動性の喪失は他のアセットクラスや新興国市場へ伝播する

【市場流動性の低下に伴って資産コリレーションが上昇している】  これらの市場構造的なシフトが、資産価格のコリレーション上昇にも寄与してい る可能性がある。流動性が低下し、マーケットメイクが減少し、ベンチマーク取引 が増加する中で、資産価格は固有のファンダメンタル要因より、共通するショック 事象によって、より頻繁に変動しやすくなっている。  市場流動性の低下とデリバティブ利用の増加は、過去5年間に資産価格コリ レーションが上昇している事実に関連している。 米国債の市場流動性は米国債指標リターンの売買高に対する比率で、数値が大きいほど流動性が低い。コリレーションは米国債とS&P500 指数のそれぞれと他の6指標(MSCI EM、米国債、EMBI、global、GBI EM、US HY、Commodities)との間の相関関係。

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市場流動性の喪失は他のアセットクラスや新興国市場へ伝播する

【金融危機後の資産価格コリレーションは著しく上昇している】  資産価格のコリレーション上昇は、フロー取引の流動性が低下し、ボラティリティ が上昇するストレス期に特に顕著となる。ストレス期におけるコリレーション上昇 はリスク伝播の主要な特徴の1つであることが多い。主要アセットクラスのリスク 調整後リターンのコリレーションは2010年以降、著しく上昇している。 【S&P500株価指数と主要アセットクラスの間のコリレーション】

MSCI EM = MSCI Emerging Markets Equity Index; U.S. Treasuries = 7–10-year U.S. Treasury Index; EMBI Global = JPMorgan Emerging Markets Bond Index Global; GBI-EM broad loc cur = JPMorgan Government Bond Index-Emerging Markets in local currency; US HY = U.S. High-Yield Index; Commodities = Credit Suisse Index; VIX = Chicago Board Options Exchange Market Volatility Index.

 S&P500指数の米国ハイイールド指数 との間のコリレーションは急上昇して おり、コモディティとの間のコリレー ションは4倍になっている。先進国市 場と新興国市場の間のコリレーション の著しい上昇はストレス期において波 及効果が大きくなる可能性を示す。

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市場流動性の喪失は他のアセットクラスや新興国市場へ伝播する

【金融危機後の資産価格コリレーションは著しく上昇している】  資産価格のコリレーションは市場ボラティリティが高い期間に高くなる。コリレー ションは通常は市場混乱期に増加するものであるが、過去5年間ではコリレー ションは高ボラティリティに連動して、0.7かそれ以上の水準へと上昇している。 【6種類の主要アセットクラスのクロス・コリレーション】  ストレス期にコリレーションが上 昇することはアセットクラス間 や国境を越えた波及リスクがあ ることを示している。  また、それは流動性がその他 のリスク要因を増幅させる効果 を持っていることも示している。

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金融政策当事者は流動性喪失と波及効果にどう対処すべきか?

【懸念はアセットマネジメント業界の平常時・ストレス時の流動性ミスマッチ】  政策当事者はアセットマネジメント業界における流動性ミスマッチに対処すべき である。主要な懸念事項は投資信託を保有する者に約束されている平常時の 市場流動性と、ストレス時に受ける解約依頼から生じる非流動性コストの間のミ スマッチから生じる市場流動性リスクである。これは特に、流動性が劣る事業債 や新興国の債券市場において懸念される。  政策当事者はファンドの解約条件を投資対象資産の流動性に見合ったものに することにより、投資家が逃げ出すインセンティブを除去すべきである。また、 ネット資産価値の正確性を高める政策、投資信託の流動性バッファとしての キャッシュを増加させる政策、セカンダリー市場(特に長期デット)の流動性と透 明性を高める政策を採用することもできるだろう。  アセットマネジメント業界には優れたミクロ・プルデンシャルなリスク監視とマク ロ・プルデンシャルな指導を結びつけた、より強固な監督が必要である。

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2.ニューヨーク連銀/ポターEVPによる講演

(米国債フラッシュラリーに関する部分の抜粋)

本章の内容は以下の資料に依拠しています。

“Challenges posed by the evolution of the treasury market” (Remarks by Simon M Potter, Executive Vice President of the Markets Group of the Federal Reserve Bank of New York, at the 2015 Primary Dealer Meeting, New York City, 13 April 2015)

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2014年10月15日の米国債の異常な値動き

【2014年10月15日の現象について】  10月15日、米国債イールドは異常なボラティリティを示し、ベンチマークの10年 イールドは市場オープンからクローズまでに35ベーシスのレンジで取引された。 当日の朝8:30に米国の小売売上高の公表後、イールドは著しく低下し、9:33の 後には元の水準に戻るという、極めて異常な動きを示した。  その間、10年イールドは5分間で15ベー シス下落し、同じくらいの短時間で元に 戻った。この非常に短い「イベント時間」 は世界で最も流動的な市場にとって極 めて珍しい事象であり、独特なダイナミク スを反映したものであろう。  実際、最終的なネット変化率は10ベーシ ス以下であり、その一日の異常な値動き に比べれば、ごく小さなものに過ぎな かった。我々は現在もこの件について協 議を行っている。

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10月15日の急激な変動の要因は何か?

【原因は米国債市場の構造変化にある?】  日中に米国金利が大きく変動した過去事例では、金融政策に関する重要なアナ ウンスなど、重要な経済事象が関連していた。しかし、10/15のボラティリティの 原因について市場参加者の間にコンセンサスは未だにないようだ。  グローバル経済の見通しに関する懸念やレバレッジ投資家によるポジション解 約の懸念など、多くの要因が寄与した可能性はある。確かに、そのような懸念は、 小売売上高の控えめなサプライズがあれほどのリアクションを引き起こした原因 を説明するのに役立つ。先物市場のポジションに関する公表データによれば、 ヘッジ以外の目的でポジション保有していた投資家が、10/15の数ヶ月前から短 期金利先物で大きなショートポジションを積み重ね、それが10/15前後に一挙に 解消されたことが判明している。  しかし、これらの要因はデータ発表後1時間でイールドが「行って来い」を示した 事実の説明としては弱い。この事象は市場にもたらされた情報とは結びついて いないように見える。そのため、市場参加者や当局関係者は最近の米国債市場 の構造変化がこの動きの原因ではないかと疑っており、電子トレーディングや自 動執行トレーディングにその答えを求める者たちもいる。

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10月15日の急激な変動の要因は何か?

【自動執行トレーディングが市場流動性や価格変動に影響を及ぼしたとする説】  自動執行トレーディングは米国債市場の価格変動が他の市場へ伝播するス ピードを高めている。また、自動執行トレーディングを行う企業が「プラグを抜い て」しまい、ボラティリティを悪化させる取引戦略を執行したのではないか、と言う 者もいる。  確かに、自動執行トレーディングを行う企業が市場ボラティリティに対して示すリ アクションは、そのような手法を採用していない企業とは異なる可能性がある。 自動執行システムは変化するオーダー状況や市場価格ダイナミクスに対応して、 速やかにリスク・エクスポージャーを調整する能力を備えているからである。  しかし、ホールセール取引の撤退という仮説は、10/15当日に見られた非常に高 いトレーディング・ボリュームと合致しない。過去の大きな相場変動の場合、資産 価格は価格ジャンプを示し、それら以外の価格ではほとんど取引が執行されな かった。しかし、10/15は違った。自動トレーディング戦略を採用する企業の酸化 状況や態様に変化が生じ、それが10/15の市場流動性や価格変動に影響を及 ぼした可能性がある。

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10月15日の急激な変動の要因は何か?

【金融規制の副産物とする説】  10/15に発生した事象は、規制変化によって伝統的なディーラー業者がボラティ リティが高い期間でも大きな取引を執行し、ショックを吸収する役割を果たす能 力が弱まってしまったという副産物によるものだと主張する者もいる。最近の規 制変化により、ディーラー業務を行う際のバランスシート・コストが増大し、米国 債のマーケットメイクのような低マージン業務を拡大することに消極的になって いる、という主張をする市場参加者もいる。  もしそれが真実だとすれば、10/15の原因を説明することに役立つかも知れない。 しかし、それは10/15当日に価格が「行って来い」を示した事実を説明するには 不明確すぎる。そうは言っても、電子・自動執行トレーディングと市場参加者の 構造変化がディーラー行動とあいまって、異常な値動きにつながった可能性は 高い。  金融機関が十分な資本を保有することが最近の規制イニシアティブの目的で あったとしても、これらの規制変化による意図せざる結果として、10/15の値動き のような異常事態が普通のことになってしまう可能性がある。

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10月15日の急激な変動の要因は何か?

【ボラティリティ上昇と市場の厚みの減少】  10/15の事象はまた、米国債市場の流動性の性質に関する疑問も提起している。 市場流動性は特定するのが困難な概念であり、10/15に流動性がどう進展した かと尋ねれば、答えは市場流動性をどう計測するかによって異なってくる。  確かに市場流動性の計測方法としてよく使われる手法である、一定時刻に執行 可能な取引量(「市場の厚み」と呼ばれる)によれば、10/15の午前には著しいひ ずみが存在したことが分かる。しかし、その日はボラティリティも上昇したのであ り、市場の厚みが同時に減少したことは驚きではない。実際、ボラティリティ上昇 と市場の厚みの低下がお互いを強めるように働きかけあって、大きな価格影響 を及ぼした。結果的に生じたボラティリティが市場の厚みをさらに減じるように機 能したのである。  このようなダイナミクスは常に市場に存在するが、自動執行トレーディングがそ れを悪化させるように働いた可能性がある。ボラティリティ上昇によって市場の 厚みが急激に失われることが普通と思われる状況であっても、合理的なサイズ の取引がよりコスト高になってしまい、それが通常時よりも大きなプライス影響を 及ぼしたのであろう。

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Fedは引き続き調査を進める

【取引可能な状況と流動性が高い状況とは必ずしも同じではない】  通常よりサイズが小さくなったとはいえ取引はできたのだから、10/15の流動性 は合理的なものである、と主張する者もいるかも知れない。当日のトレーディン グ量は通常時よりも何倍も大きく、取引は連続的に発生していた。もしも、流動 性が本当に著しく悪化していたのであれば、そのような異常な取引量は実現不 可能であっただろう。  しかし、取引可能な状況というのは流動性の高さとは必ずしも同じではない。取 引が小さいサイズでしか行えないときやビッド・アスクの中央値よりも大きなスプ レッドを支払わないと合理的なサイズの取引を行えないような場合である。  市場流動性の定義に関わらず、ボラティリティが高く、説明不能である期間が続 くことがあれば、特にそれが情報不足によってもたらされる場合、投資家や市場 参加者が米国債市場の流動性を疑い、市場の重要な役割を阻害することになり かねない。  米国債市場の重要な役割を考えれば、変化する市場構造がどのように市場流 動性に影響するかを理解することは極めて重要であり、さらに調査を進める所 存である。

(26)

3.JPモルガン/ダイモンCEOの株主宛てレター

(米国債フラッシュラリーに関する部分の抜粋)

本章の内容は以下の資料に依拠しています。

(27)

市場流動性が低下している

【市場全般における流動性が非常に低くなっている】  市場流動性は発行体と投資家の両方に価値あるものである。発行体にとっては 発行コストを削減するものであり、投資家にとっては売買コストを削減するもので ある。流動性はストレス時は特に重要である。なぜなら、投資家は速やかに売 却する必要があり、流動性がなければプライスは跳んでしまい、恐怖心が発生 し、最も流動的とされる市場においてすら流動性不足が一挙に広がってしまうか らである。  ビッド・オファー間のスプレッドが引き続き低く、健全である状況を享受している 投資かもいるが、市場の厚みはかつてよりも大きく低下している。例えば、現在 の10年国債の市場の厚み(最善の3件のビッドとオファーの平均サイズとして定 義)は1.25億ドルであり、2007年のピークである5億ドルから低下している。  ほぼ全ての債券市場で市場の厚みが低下している原因はマーケットメイカーの 在庫ポジションがかつてよりも劇的に低下しているためである。例えば、現在の 米国債マーケットメイカー在庫は1.7兆ドルであり、 2007年のピークである2.7 兆ドルから低下している。

(28)

市場流動性の低下は金融規制によるものである

【市場流動性の低下は金融規制による影響が大きい】  現在の米国債市場は12.5兆ドルであるが、2007年には4.4兆ドルであった。 事業債のディーラーポジションも同様である。事業債のディーラー・ポジションは 2007年から75%低下している一方、事業債の残高は50%増加している。  在庫は低下しているが、それは1つの新規制によるものではなく、マーケットメイ クに影響を与える複数の新規制(高い資本規制、流動性規制、ボルカールー ル)によるものである。他にも潜在的な規制があり、この現象に拍車をかける可 能性がある。例えば、取引後の透明性を要求する規制により、大きなトレードを ポジションを知られずに実行することが困難になる。

(29)

10/15の米国債変動は30億年に一度の現象?

【ストレス状況下で市場変動が発生すると被害は大きくなる】  米国債市場や外国為替市場で最近見られている現象は警告である。米国債市 場はFedが資産購入をスローダウンさせると示唆した2013年の春と夏に混乱し た。さらに2014年10月15日、米国債は40ベーシスも変動した。これは統計的に は7-8標準偏差(かつてない動き)であり、30億年に1度しか発生し得ないとさ れる現象である(米国債市場は作られてから200年かそこらであり、この統計に 疑いを持つことは当然のことであるが)。通貨の中には最近、似たような大きな 変動をしたものもある。  重要なことは米国債と主要通貨は最も標準化され、流動的な金融商品とみなさ れていることである。良いニュースは、これによって大きく傷ついた人はほとんど 皆無であることで、金融システムの強靭性を示している。しかし、これは良好な 市場環境と信じている状況下で発生したことである。これがストレス状況下で発 しすれば、より悪い結果をもたらしかねない。

(30)

(ご参考)

30億年も待たずとも、日本国債市場で

2年前に大きな変動が起きていた。

30億年前の地球とは、先カンブリア時代の中始生代(32-28億年前)と呼ばれる時代である。この時代には人も 動物も植物もおらず、せいぜい単細胞生物がいた程度であった。もちろん米国債トレーディング市場は存在しな い。あくまで統計上の概念とはいえ、ずいぶんと思い切った年代を引き合いに出したものであるが、中途半端な 年数を出して余計な物議をかもすよりもマシ、と考えたのかも知れない。(MA水野)

(31)

2013年4月5日に発生した日本国債市場の乱高下

【2013年4月5日 日本銀行による量的緩和公表直後の10年日本国債の利回り】 始値 高値 安値 終値 高値・安値の 差異 2013年4月4日 0.560% 0.560% 0.444% 0.446% 0.116% 2013年4月5日 0.331% 0.650% 0.325% 0.534% 0.325% 2013年4月8日 0.481% 0.523% 0.442% 0.520% 0.081% *高・安はイールド基準 (出所:Bloomberg) 10/15の米国債イールド 変化に匹敵する相場変 動が発生していた。 日銀「バズーカ」 (2014/10/31) 日銀「量的緩和」 (2013/4/5)

(32)
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Moody's Investors Service, Inc.(以下「MIS」といいます)及び関連会社により付与される信用格付は、事業 体、与信契約、債務又は債務類似証券の相対的な将来の信用リスクについての、ムーディーズの現時点での 意見です。ムーディーズが発行する信用格付及び調査刊行物(以下「ムーディーズの刊行物」といいます) は、事業体、与信契約、債務又は債務類似証券の相対的な将来の信用リスクについてのムーディーズの現時 点での意見を含むことがあります。ムーディーズは、信用リスクを、事業体が契約上・財務上の義務を期日 に履行できないリスク及びデフォルト事由が発生した場合に見込まれるあらゆる種類の財産的損失と定義し ています。信用格付は、流動性リスク、市場価値リスク、価格変動性及びその他のリスクについて言及する ものではありません。信用格付及びムーディーズの刊行物に含まれているムーディーズの意見は、現在又は 過去の事実を示すものではありません。ムーディーズの刊行物はまた、定量的モデルに基づく信用リスクの 評価及びMoody’s Analytics, Inc.が公表する関連意見又は解説を含むことがあります。信用格付及びムー ディーズの刊行物は、投資又は財務に関する助言を構成又は提供するものではありません。信用格付及び ムーディーズの刊行物は特定の証券の購入、売却又は保有を推奨するものではありません。信用格付及び ムーディーズの刊行物はいずれも、特定の投資家にとっての投資の適切性について論評するものではありま せん。ムーディーズは、投資家が、相当の注意をもって、購入、保有又は売却を検討する各証券について投 資家自身で研究・評価するという期待及び理解の下で、信用格付を付与し、ムーディーズの刊行物を発行し ます。 ムーディーズの信用格付及びムーディーズの刊行物は、個人投資家の利用を意図しておらず、個人投資家が 何らかの投資判断を行う際にムーディーズの信用格付及びムーディーズの刊行物を考慮することは、慎重を 欠く行為です。もし、疑問がある場合には、ご自身のフィナンシャル・アドバイザーその他の専門家にご相 談することを推奨します。 ここに記載する情報はすべて、著作権法を含む法律により保護されており、いかなる者も、いかなる形式若 しくは方法又は手段によっても、全部か一部かを問わずこれらの情報を、ムーディーズの事前の書面による 同意なく、複製その他の方法により再製、リパッケージ、転送、譲渡、頒布、配布又は転売することはでき ず、また、これらの目的で再使用するために保管することはできません。 ここに記載する情報は、すべてムーディーズが正確かつ信頼しうると考える情報源から入手したものです。 しかし、人的及び機械的誤りが存在する可能性並びにその他の事情により、ムーディーズはこれらの情報を いかなる種類の保証も付すことなく「現状有姿」で提供しています。ムーディーズは、信用格付を付与する 際に用いる情報が十分な品質を有し、またその情報源がムーディーズにとって信頼できると考えられるもの であること(独立した第三者がこの情報源に該当する場合もあります)を確保するため、すべての必要な措 置を講じています。しかし、ムーディーズは監査を行う者ではなく、格付の過程で又はムーディーズの刊行 物の作成に際して受領した情報の正確性及び有効性について常に独自に確認することはできません。 法律が許容する範囲において、ムーディーズ及びその取締役、役職員、従業員、代理人、代表者、ライセン サー及びサプライヤーは、いかなる者又は法人に対しても、ここに記載する情報又は当該情報の使用若しく は使用が不可能であることに起因又は関連するあらゆる間接的、特別、二次的又は付随的な損失又は損害に 対して、ムーディーズ又はその取締役、役職員、従業員、代理人、代表者、ライセンサー又はサプライヤー のいずれかが事前に当該損失又は損害((a)現在若しくは将来の利益の喪失、又は(b)関連する金融商品が、 ムーディーズが付与する特定の信用格付の対象ではない場合に生じるあらゆる損失若しくは損害を含むがこ れに限定されない)の可能性について助言を受けていた場合においても、責任を負いません。 法律が許容する範囲において、ムーディーズ及びその取締役、役職員、従業員、代理人、代表者、ライセン サー及びサプライヤーは、ここに記載する情報又は当該情報の使用若しくは使用が不可能であることに起因 又は関連していかなる者又は法人に生じたいかなる直接的又は補償的損失又は損害に対しても、それらが ムーディーズ又はその取締役、役職員、従業員、代理人、代表者、ライセンサー若しくはサプライヤーのう ちいずれかの側の過失によるもの(但し、詐欺、故意による違反行為、又は、疑義を避けるために付言する ここに記載される情報の一部を構成する格付、財務報告分析、予測及びその他の見解(もしあれば)は意見 の表明であり、またそのようなものとしてのみ解釈されるべきものであり、これによって事実を表明し、又 は証券の購入、売却若しくは保有を推奨するものではありません。ここに記載する情報の各利用者は、購入、 保有又は売却を検討する各証券について、自ら研究・評価しなければなりません。 ムーディーズは、いかなる形式又は方法によっても、これらの格付若しくはその他の意見又は情報の正確性、 適時性、完全性、商品性及び特定の目的への適合性について、(明示的、黙示的を問わず)いかなる保証も 行っていません。

Moody's Corporation (以下「MCO」といいます)が全額出資する信用格付会社であるMISは、同社が格付を 行っている負債証券(社債、地方債、債券、手形及びCP を含みます)及び優先株式の発行者の大部分が、 MISが行う評価・格付サービスに対して、格付の付与に先立ち、1500 ドルから約250 万ドルの手数料をMIS に支払うことに同意していることを、ここに開示します。また、MCO及びMISは、MISの格付及び格付過程 の独立性を確保するための方針と手続を整備しています。MCO の取締役と格付対象会社との間、及び、MIS から格付を付与され、かつMCO の株式の5%以上を保有していることをSEC に公式に報告している会社間に 存在し得る特定の利害関係に関する情報は、ムーディーズのウェブサイトwww.moodys.com上に

"Shareholder Relations-Corporate Governance-Director and Shareholder Affiliation Policy"という表題で毎年、 掲載されます。

オーストラリアについてのみ:この文書のオーストラリアでの発行は、ムーディーズの関連会社である Moody's Investors Service Pty Limited ABN 61 003 399 657(オーストラリア金融サービス認可番号336969) 及び(又は)Moody's Analytics Australia Pty Ltd ABN 94 105 136 972(オーストラリア金融サービス認可番 号383569)(該当する者)のオーストラリア金融サービス認可に基づき行われます。この文書は2001年会社 法761G条の定める意味における「ホールセール顧客」のみへの提供を意図したものです。オーストラリア国 内からこの文書に継続的にアクセスした場合、貴殿は、ムーディーズに対して、貴殿が「ホールセール顧 客」であるか又は「ホールセール顧客」の代表者としてこの文書にアクセスしていること、及び、貴殿又は 貴殿が代表する法人が、直接又は間接に、この文書又はその内容を2001年会社法761G条の定める意味におけ る「リテール顧客」に配布しないことを表明したことになります。ムーディーズの信用格付は、発行者の債 務の信用力についての意見であり、発行者のエクイティ証券又はリテール顧客が取得可能なその他の形式の 証券について意見を述べるものではありません。リテール顧客が、ムーディーズの信用格付に基づいて投資 判断をするのは危険です。もし、疑問がある場合には、ご自身のフィナンシャル・アドバイザーその他の専 門家に相談することを推奨します。

Moody’s Capital Markets Research, Inc.が発行する刊行物についてのみ:

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