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1996年の米国大統領選挙と政治資金

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1996年の米国大統領選挙と政治資金

藤 本 一 美

Ⅰ.はじめに−問題の所在 Ⅱ.1996年大統領選挙と政治資金の概要 1.1996年大統領選挙における全政治資金 2.大統領選挙運動関係の政治資金 Ⅲ.政治資金調達の戦略と問題点 1.民主党と共和党の政治資金調達の戦略 2.政治資金をめぐる争点と課題 Ⅳ.おわりに−政治資金研究の枠組み

Ⅰ.はじめに−問題の所在

現在、米国では2000年の大統領選挙戦が終盤を迎えている、本稿が活字になる頃には、第42 代大統領であるビル・クリントンが退陣し、新しく第43代の大統領が就任しているはずである。 今回の場合、民主党の大統領候補者はアルバート・ゴアであり、共和党の大統領候補者はジョ ージ・ブッシュ二世である。現在の時点では、主要な世論調査の結果をみる限り、両者互角の 戦いでしのぎをけずっている。 周知のように、大統領選挙戦は2月の予備選挙・党員集会に始まり、7月−8月の全国党大 会、10月のテレビ討論会、そして11月の本番の選挙という具合に選挙運動期間がおよそ1年近 くにも及ぶ。それだけに、これに要する「政治資金」1)も莫大な額に達している。 2000年の大統領選挙戦の場合、5月の段階までで、ブッシュ陣営が集めた政治資金の額は 7,200万ドルであり、一方、ゴア陣営が集めた政治資金の額は3,800万ドルに達していた。また 連邦選挙委員会が10月4日現在で、まとめた各候補者の政治資金状況によると、ブッシュ候補 が集めた額は1億7,642万ドルで、ゴア候補が集めた額の1億2,692万ドルを大きく引き離して いた。一方、これまで支出した額はブッシュ候補が1億2,078万ドルと、ゴア候補の6,086万ド ルの約二倍に達していた。この結果、両候補者の手持ち資金は、ゴア候補が6,606万ドルなの に対して、ブッシュ候補は5,564万ドルと、ゴア候補が政治資金面で優勢となっていた。いず

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れにせよ、両陣営は、かなり高いペースで政治資金を集めていたことがわかる。最終的に、今 回の大統領選挙戦につぎ込まれる政治資金の総額はかなりの額になるもののと見られ、まさに 「金権選挙」が展開されていたといってよい2) ところで、4年前の1996年の大統領選挙では、選挙期間中に大統領選挙運動に関連して集め られた政治資金の額は7億ドルに上り、その額は4年前の1 9 9 2 年の大統領選挙の時の5億 5,000万ドルに比べて約21%も増大し、史上最高の「金権選挙」が展開されたのである。問題 なのは、その増加分のほとんどが連邦選挙運動法の規制の網をかいくぐった「ソフト・マネー」 によるものであったことである。ソフト・マネーとは、企業、労組および富裕な個人が政党活 動の支援を名目に政党に献金した資金を大統領選挙や連邦議員選挙のために流用するものであ る3) ソフト・マネーは近年、とくに大統領選挙戦の後半において手持ちの政治資金がなくなって きた段階で大きな威力を発揮するようになっており、そのため大統領選挙運動に対するいわゆ る「公的助成金」制度との兼ね合いもあって、それは一部の「特権的利益集団」への便宜供与 をはかることになるので、これを厳しく規制すべきであるとして大きな論議をよんでいる4) 本稿では、こうした問題状況を踏まえて、米国の大統領選挙運動における政治資金の実態お よび問題点を明らかにし、政治資金研究の枠組みを検討するための予備的作業としたい。論述 はまず最初に、1996年の大統領選挙戦をケーススタディーとして、この年の全ての政治資金の 概要および大統領選挙運動に関連した政治資金を紹介する。次いで、民主党と共和党の政治資 金調達の戦略を検討し、とくにソフト・マネーをめぐる問題点を提示する。そして最後に、こ うした分析を通じて、政治資金研究の枠組みを考えてみたい。

Ⅱ.1996年大統領選挙と政治資金の概要

1.1996年大統領選挙における全政治資金 米国において大統領選挙が行われる年には、上は正副大統領から、連邦議会上院議員の三分 の一、下院議員の全員、多くの州の知事、州議会の上院議員および下院議員、市長、市議会な ど選挙、また住民投票が行われ、全米が選挙一色となる。 前回の1996年の大統領選挙の場合、全体でどの程度の政治資金が支出されたのであろうか。 1995年−96年のいわゆる選挙期間中に政治資金として、総額にして41億7,700万ドルが支出さ れたといわれる。この総額は、その前の1991年−1992年の大統領選挙期間中の32億ドルに比べ ると24%の増大であり、1992年から1996年までの間の消費者物価指数の11.8%増をはるかに上 回っていた5)

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図表1 1996年における政治資金支出の総額(単位:100万ドル) 大統領選挙 $7 0 0) 連邦議員選挙 8 3 8) 全国政党 3 5 4) 政党−州と地方 2 0 9) ソフト・マネー 2 7 1) 政党以外の政治団体 5 0 5) 州段階の選挙 6 5 0) 地方段階の選挙 4 2 5) 住民投票 2 2 5) (合計) ($4 , 1 7 7)

出所:Citizens Research Foundation.

John C. Green, ed., Financing the 1996 Election (New York, Shrpe, 1999), p.13より再引用。

この総額は、図表1からも明らかなように、これを9つのカテゴリーに分類することができ る。まず第一に、大統領選挙関連への支出であり、これは7億ドルであった。後述するように、 この中には1996年に大統領候補者として政党によって指名される以前の選挙運動への支出、指 名党大会委員会による支出、主要政党、少数政党および無所属候補者の大統領本選挙運動への 支出並びに大統領候補者に対する連邦政党委員会の支出も含まれている。第二に連邦議会議員 の選挙運動への支出であり、これは8億3,800万ドルであった。この中には、予備選挙、本選 挙および特別選挙の運動で政党および政党以外の政治委員会によって候補者に直接献金された 額も含まれている。また、独立支出、通信連絡費用および関連した争点主張の額も含まれてい る。第三に連邦政党委員会による支出であり、これは3億5,400万ドルであった。この中には、 管理費、資金集め運動およびその他の費用も含まれている。第四に、連邦に登録した州および 地方の政党委員会による支出であり、2億900万ドルであった。なおこれには、州段階で政党 委員会と分担した管理費は含まれていない。第五に、ソフト・マネーによる支出であり、これ は2億7,100万ドルであった。第六に、政党以外の政治委員会(政治行動委員会など)とその 支援者による支出であり、それは5億500万ドルであった。第七に、州段階の選挙運動への支 出であり、これは6億5,000万ドルであった。これには、州知事選挙、州議会選挙運動および 州政党の支出が含まれている。第八に、地方の選挙運動への支出であり、それは4億2,500万 ドルであった。この中には、郡、市長選挙及び地方の政党組織の維持の支出も含まれている。 第九に、州および地域の住民提案賛否運動への支出であり、それは2億2,500万ドルであった 6) 上で述べた1995年から1996年にかけてのいわゆる大統領選挙運動時期に支出した41億7,700 万ドルいう政治資金の総額については、これは膨大な額であるとして一方で多くの批判の声が 上がっているのは事実である。実際、選挙運動に支出される政治資金の急激な増大によって、

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公職への候補者たちは資金集めに法外な時間をつぎ込まねばならず、政治資金を求める候補者 の要求を満足させることで、影響力を行使しようとしている「特殊利益集団」が統治過程の健 全性を脅かしているという、批判である。 しかしながら他方で、この政治資金の総額は、民間の企業、例えば化粧品会社や自動車会社 がその宣伝費としてつぎ込んだ総額よりも少なく、また1996年に連邦政府、州および地方政府 が支出した2兆4,000億ドルの約1.7%にすぎず、特に問題はないという意見もある7) 2.大統領選挙運動関係の政治資金 すでに述べたように、1996年の大統領選挙の時に大統領選挙関係の政治資金として7億ドル が支出された。次にこれを予備選挙、全国党大会、本選挙および少数政党の支出に区分してそ の概要を紹介する。ちなみに、米国では、1976年の大統領選挙の時から、大統領選挙運動の各 段階−予備選挙、全国党大会および本選挙−につき連邦政府により一定の条件を満たした候補 者に「公的助成金」が支給されている。なお、候補者が公的助成金を受領するかどうかは各人 の判断に委ねられている。1996年の大統領選挙の時には、総額にして2億3,400万ドルが連邦 政府から公的助成金として支出され、それは1992年の大統領選挙の時に支出された1億7,540 万ドルと比較すると45%の増大であった。公的助成金の原資は、納税者が連邦所得税を申告す る際に各自の税金から3ドルを任意に大統領運動基金へ払い込んで積み立てられた分があてら れる。公的助成金は、1996年大統領選挙運動関係への全支出の中で実に32%を占めていた8) 図表2 1996年大統領選挙の支出内訳(単位:100万ドル) [予備選挙関係] 二大政党候補者の支出 $2 2 8 . 0 共和党全国委員会支出 1 4 . 0 民主党全国委員会支出 1 7 . 0 少数政党候補者の支出 1 1 . 7 独立支出 0 . 7 通信費 1 . 1 法律上の義務履行支出 1 0 . 0 (小計) $2 8 2 . 5 [全国党大会関係] 共  和 党 $3 1 . 0 民  主 党 3 4 . 0 (小計) $6 5 . 0

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[本選挙関係] 二大政党候補者の支出 $1 2 5 . 2 政党関係支出 1 8 . 4 法律上の義務履行支出 1 3 . 6 政党以外の組織支出 2 5 . 0 少数政党の支出 2 7 . 6 独立支出 0 . 7 労組・企業・団体の支出 2 0 . 0 政党ソフトマネー・争点広告 6 8 . 0 通信費 1 . 6 (小 計) $3 0 0 . 1 [雑費] $5 2 . 4 (総 計) $7 0 0 . 0

出所:Citizens Research Foundation.

John C. Green, ed., op, cit., Financing the 1996 Election, p.17より再引用。

①予備選挙 大統領予備選挙期間中に、2億3,860万ドルが民主党、共和党、改革党、リバタリアン党お よびその他の政党の候補者によって支出された。11人の候補者が公的助成金を受領し、その金 額は5,680万ドルであり、予備選挙運動費用の中で23%を占めた。 公的助成金を受領した場合の法定限度額による規制を嫌った3人の候補者は、自前の資金で 選挙運動をまかなった。主要な候補者の資金調達と支出は、つぎの通りである。 改革党を創設したロス・ペローは、リチャード・レマンを相手に予備選挙を戦うために、 850万ドル支出した。ステーブン・フォーブスは416万ドル調達し、その大部分が自己資金であ り、それを共和党の予備選挙で支出した。マリス・ティラーも共和党の予備選挙に参加し、 650万ドル支出したが、これもまたその大部分が自己資金であった9) 他方、民主党のビル・クリントン大統領と最終的に共和党の指名を手にしたロバート・ドー ルの両者は、公的助成金を受領する方を選び、各々の党の指名を獲得する段階までに法定制限 枠一杯の3,710万ドル支出した。クリントンは、民主党の指名を求める戦いでは、競争相手が おらず、従って比較的楽な選挙運動を展開することができた。クリントンは、予備選挙と党員 集会を安上がりの支出で済ませ、11月の本選挙に向けて政治資金も余裕を持って支出した。そ の結果、クリントンは本選挙でも有利な立場に立つことができたといわれる。 これに対して、ドールの場合には共和党の指名を求める候補者が乱立し、そのため予備選挙 の段階で多額の支出を余儀なくされた。ことに強力でかつ資金的に潤沢なグラマン、ブキャナ

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ンおよびフォーブスとの戦いで、ドールは政治資金の多くを制限枠一杯まで使い果たし、本選 挙では、全国政党の資金源となっている「ソフト・マネー」を利用し、また州や地方の政党が 支払う「争点広告」の助けを借りた。公的助成金を受領した見返りとしての支出制限が、ドー ルの活動の足を縛り選挙運動過程を拘束したといえる10) ②全国指名党大会 大統領選出過程の第二の段階は、全国指名党大会である。主要政党の党大会は、一部分は公 的助成金でまかなわれた。1996年の場合、二つの党大会、すなわち、サンディゴ市で開催され た共和党とシカゴ市で開催された民主党の党大会に各々、1,236万4,000ドルの公的助成金が支 給された。しかし、党大会の実際の費用は、共和党が3,100万ドル、民主党が3,400万ドルかか った。法定支出制限額は、1,240万ドルと定められていた。党大会が開催された都市の市主催 委員会、観光旅行会社、並びに多くの企業と労組の後援会からの資金が支出制限を無視するか たちで、使用されたのである。そのため、法定支出限度は意味をなさなかったのである。 ③本選挙 1996年には、本選挙において、総額にして1億5,670万ドルが民主党のクリントン・ゴア正 副大統領候補者のため支出され、そして1億3,060万ドルが共和党のドール・ケンプ正副大統 領候補者のために支出された1 1 )。本選挙においては、三つの段階の選挙運動が主要政党の候補 者や主要政党によって展開された。すなわち、第一段階の選挙運動では、法律の定めにより、 公的助成金として付与された6,180万ドルに支出が制限されていた。これに全国党大会に対す る協力分として1,200万ドルが認められたので、合計7,380万ドルが主要政党の候補者の各々に 対する支出制限となった。しかし、第二段階の選挙運動では、より多くの資金が支出制限を無 視したかたちで、直接および間接的に選挙費用を支払うために利用された。その多くは、連邦 選挙運動法の制限の枠外、つまり富裕な個人、企業および労組から政党が調達した「ソフト・ マネー」献金の形をとった。第三段階の選挙運動では、個人および集団により「独立支出」が 利用された。これはその支出が候補者や候補者の選挙運動委員会と協力・協議なしに行われる ならば、特定候補者の当選や落選を主張する通信に無制限に支出できるものである11) ④少数政党と無所属の候補者 周知のように、ロス・ペローは、1996年には最も重要でかつ影響力のある少数政党の候補者 であった。およそ2,810万ドルがロス・ペローとその他の少数政党や無所属の候補者によって 支出されたが、ペローは支出の大部分を自己資金でまかない、2,500万ドルを本選挙で支出し た。なお、先に述べたようにペローは、改革党を設立するさいに自己資金として850万ドル支 出しており、結局総額にして1996年の選挙では3,350万ドルを支出したのである12) ⑤予備選挙と本選挙の収支の内容 それでは、二大政党の候補者であるクリントン大統領とドール上院院内総務が法定選挙費用 として調達し、支出した中味を検討するため、予備選挙および本選挙の段階での収支の内訳を 見てみよう。まず、予備選挙の段階ではクリントン大統領は、4,240万ドル調達しており、そ の内訳は個人献金が2,820万ドル(66.5%)、公的助成金が1,340万ドル(31.6%)、その他が80万

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ドル(1.9%)となっていた。これに対して、支出は3,040万ドルで、その内訳は諸経費が1,410万 ドル(46.3%)、宣伝広告費が880万ドル(29.0%)、寄付金集め費用が460万ドル(15.3%)、その 他の選挙活動費が180万ドル(6.0%)、世論調査費が110万ドル(3.4%)となっていた。 一方、ドール上院院内総務は、4,460万ドル調達しており、その内訳は個人献金が2,960万ド ル(66.4%)、公的助成金が1,350万ドル(30.3%)、政治委員会が120万ドル(2.6%)、その他が30 万ドル(0 . 7 %)となっていた。これに対して、支出は3 , 4 5 0 万ドルで、その内訳は諸経費が 1,210万ドル(35.2%)、寄付金集め費用が1,010万ドル(29.4%)、宣伝広告費が650万ドル(18.5%)、 その他の選挙活動費が500万ドル(14.6%)、世論調査費が71万ドル(2.2%)であった。 つぎに、本選挙では、両候補とも法定制限限度額は、7,400万ドルであった。しかし実際に は、クリントン大統領は7,350万7,818ドル支出し、その内訳は宣伝広告が4,611万7,989ドル (62.6%)、諸経費が1,570万2,486ドル(21.4%)、その他の選挙選挙活動費が809万6,263ドル (11.1%)、その他の支出が268万1,418ドル(3.7%)、世論調査費が90万9,662ドル(1.2%)であった。 一方、ドール上院院内総務は、7,665万4,532ドル支出し、その内訳は宣伝広告が4,703万2,711 ドル(61.3%)、その他の選挙活動費が1,453万2,337ドル(19.0%)、諸経費が1,313万3,217ドル (17.2%)、その他の支出が101万6,542ドル(1.3%)、世論調査費が93万9,715ドル(1.2%)であっ た13) 見られるように、予備選挙から本選挙へと選挙区が拡大するにつれて、支出の面で宣伝広告 費が高い割合を占めていたことがわかる。すなわち、予備選挙の段階では、宣伝広告費がクリ ントン大統領が29.0%、ドール上院院内総務が18.5%であった。それが大統領本選挙では、全 国を選挙区とするために、これにかかる経費が著しく増大している。すなわち、クリントン大 統領が62.6%、そしてドール上院院内総務が61.3%とはね上がっており、全国を選挙区とする 場合には、テレビ、ラジオおよび新聞などのマスコミ中心の選挙運動が主体となるため、これ にかかる費用は急激に増大している。

Ⅲ.政治資金調達の戦略と問題点

1.民主党と共和党の政治資金調達の戦略 前節で述べてきたように、大統領選挙運動に支出される金額の大きさは、候補者たちにとっ て、極めて深刻な問題を提起している。というのも、大統領候補者たちは全国党大会が開催さ れる以前のかなり早い段階で多額の資金を集め、その支出を調整し、重要な資金割り当ての決 定を行い、そして指名と本選挙運動の両期間中においては複雑な政治資金関連法規を守らねば ならないからである。それと同時に、彼らは所属する政党の連邦議会議員候補者のために多額 の資金を要請し、配分し、そして支出する党の幹部たちにも対応しなければならないのである。 大統領選挙運動のために調達され支出される多額の政治資金は、米国の民主的な選出過程を侵 害しつつあるといわねばならない1 3 )。そこで以下においては、民主党および共和党を中心に政 治資金調達の実態に迫ってみたい。

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①クリントンの戦略 テランス・マクライフは、著名な民主党の資金調達者であった。彼は、クリントン再選運動 のための政治資金集めを検討するために、早くも1994年12月に大統領と協議した。二ヵ月後の 1995年2月、マクライフは、1992年の大統領選挙の時に、クリントン・ゴアおよび民主党への 献金者をターゲットにした「ダイレクト・メール」運動を提案した。その内容は、大統領、副 大統領およびその他の民主党の指導者が参加する1,000ドル献金デナーを含めた100万ドル資金 集めの行事(イベント)であった。さらに、200名の忠実で親密な関係にある民主党員から構 成される「全国資金調達委員会」(National Finance Board)の設立であった。そのメンバーた ちは各々、選挙運動のため5万ドル集めることを課せられていた。政治資金集めの行事と資金 調達委員会の目標は、法律で定められている最大限の額の資金を集めることであり、1995年の 末までに3,700万ドル調達することが目標とされた。 人気が増大している現職大統領であるクリントンにとって、政治資金を直ちにかつより安い 費用で調達することはさほど困難ではなかった。この初期の段階での資金集めには、クリント ン大統領のために三つの目的を同時に達成することも含まれていた。すなわち、民主党の内部 でクリントンの資金集めの強さを証明すること、有力な挑戦者が利用できる政治資金を少なく すること、そして共和党の批判に対して警告を発し論破する際に柔軟なやり方で選挙運動を展 開すること。これらの目標の各々が達成され、政治資金集めの事業の方は、1995年の末までに 資金集めの限度に達したので、その仕事を終えたのである。 クリントンの再選委員会は、すでに1995年6月の段階でおよそ250万ドルの資金を宣伝活動 につぎこんでいた。大統領選挙が行われる1年半前の宣伝活動は、連邦議会で共和党が提出し た均衡予算案に対する国民の支持の効果を弱めるといったもう一つの目的があったとはいえ、 これ程早い時期にかくも多くの資金を支出することにはクリントン陣営内でもかなりの論議を 呼んだ14) そこで、初期の段階での宣伝支出に批判的であった大統領副首席補佐官のハラルド・アクス が一つの提案をした。それは、民主党に対してソフトマネーを集めこれを宣伝活動に利用させ ることを勧めることであった。その際、宣伝広告は、政策を志向するものであって大統領の再 選を明確にかつ直接に推進するものでないので、その意図はともかく法律上は問題ないと論じ た。ソフト・マネーを流用することの利点は、法定の支出制限を迂回することに加えて、献金 の額が連邦法で制限されていないことだった。クリントン大統領は当初、党が10万ドル以上献 金者から受け取ってはならないといっていたが、後に10万ドルの上限も無視された。 その後に続いたのが、いわば半狂乱的ともいうべき政治資金集め運動であった。民主党は、 これまで以上により多くの資金を集めそして支出した。もちろん、クリントン大統領やゴア副 大統領も、このような資金集め運動を積極的に奨励しそれに加わったのはいうまでもない。5 万ドルから10万ドルといった多額の献金者は、ホワイトハウスに呼ばれて、大統領とのデナー、 ゴルフ、大統領専用機へと招待され、若千少ない献金者は、副大統領とのデナー、党大会での 貴賓席、コーヒー飲食会への招待など、至り尽くせりの対応ぶりであった15)

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クリントン大統領は、できるだけこれらの政治資金集めの行事に参加し、その旅行計画をこ なした。何と選挙の年だけで、クリントン大統領は、90回に及ぶこれらの行事に参加した。そ してニューヨーク市で開催された大統領の5 0 歳の誕生日祝賀会では、資金調達委員会が、 1,000万ドルの純益をあげた。一方、ゴア副大統領の方は、ゴア自身が主催者となった39回の 資金集めの行事で約900万ドル集めた。またゴア副大統領は、ホワイトハウスから52回に及ぶ 献金要請の電話をかけ、これにより79万5,000ドル集めた。なお、この行為は後に連邦法に違 反しているとして大きな政治問題となった16) こうして、民主党の献金運動は完全に成功した。何と民主党は、1995年−1996年の選挙期間 中に2億2,160万ドルも調達し、その中の4,400万ドルを一般の宣伝活動のため使用し、1995年 に1,800万ドル、そして1996年に残りの3,800万ドルを支出したのである。しかし、全国民主党 は法定以上の政治資金を支出しなかった。何故なら、連邦法では、大統領候補者に対する党の 献金額を1,200万ドルに制限していたからである。そこで民主党側は、策略をめぐらし、12の 重要な戦いの場となる州における党支部へソフト・マネーとして3,200万ドルを送付し、広告 宣伝資金としてこれを支出することを各々の州民主党支部に指示したのである17) ②ドールの戦略 他方、共和党の大統領候補者であるドールは、連邦議会の上院多数派院内総務としての地位、 また党の大統領最有力候補者としての立場という利点をもっていた。従って彼は、その利点を 政治資金集めのため最大限に利用しようとした。ドールに最初に挑戦した候補者は、連邦上院 議員のフィル・グラマンであり、彼は前回の上院選挙運動からの繰越し金として500万ドルを 持ち、多くの富裕なテキサス州の献金者を抱えていた。しかしドールは、選挙運動委員会を設 置してから有力候補として資金集めにはさほど苦労せず、クリントンが行ったよりも2倍以上 の費用をかけて資金を調達したのである。 こうしてドール陣営は、予備選挙と党員集会が開かれる前に、政治資金集めを完了し、ドー ルの指名に向けて強力な選挙運動を展開した。だが、1995年の秋にステーブ・フォーブスがマ スコミによる効果的な大キャンペーン作戦を展開したため、状況が一変した。フォーブスの積 極的な選挙運動は、ドール陣営が計画していた以上の多額でかつ早い資金の支出をうながした。 このため、ドールは彼自身の資金でフォーブスが展開するテレビ宣伝と戦わねばばならなくな ったのである。それに加えて、ドール側では選挙運動の一環として、積極的な電話による投票 依頼運動を行っており、これにかなりの資金を支出した。さらに、この初期の運動期間と予備 選挙の段階で、ドール陣営は大規模な世論調査を実施し、この世論調査会社に80万ドルも支出 したのである18) 1996年1月と2月の予備選挙運動の初期の二ヵ月間だけでドールは、強力な対立候補と戦う ために1,300万ドルも支出を余儀なくされ、その額は8月の共和党大会前に合法的に支出でき る総額の約三分の一以上を越えていた。そのためもあって、3月中ごろにはドールはテレビ宣 伝のために残した資金が底をつき、彼の姿がテレビの宣伝で全く放映されない状態が続いた。 これを見た共和党は急拠、4月と5月にドールと他の共和党連邦議員候補者のため宣伝費用と

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して2,800万ドルかき集めこれを支出した。なお、共和党は5月に入って、ドールが党の指名 者となることが確実になった段階で、はじめて民主党が行ったような資金集め、つまりソフ ト・マネーを利用したのである19) 2.政治資金をめぐる争点と課題 近年、米国では政党の活動が活発化している。特に共和党および民主党の全国委員会は、政 治資金の調達と支出の両面で積極的な運動を展開して、大統領候補者を側面から援助している。 一般に、政党が調達することかできる政治資金には、二つの種類がある。それは、ハード・マ ネーとソフト・マネーである。ハード・マネーとは、連邦法の管理のもとで調達・支出し、こ れを公開する資金のことををいう。これに対して、連邦法の規制の枠外から調達するものの、 連邦選挙に影響する意図をもって支出する資金のことをソフト・マネーと称している20) ハード・マネーの方は、個人および集団による献金の制限を受けるが、ソフト・マネーの方 は、そのような制限を受けない。ハード・マネーは名指しで、大統領候補者を応援するために 政党によって支出できる。他方、ソフト・マネーでは、そうはできない。しかし、ソフト・マ ネーは、争点主張、一般的広告、並びに有力な支持者の登録および支持者を投票に参加させる など、いわゆる「政党形成」(Party-Bilding)の活動のために支出できるのである。 1979年の連邦選挙運動法の改正による地方の政党の収支に対する除外措置、また、州レベル 以下での政治資金規制が不十分であることに目をつけて、共和党と民主党の全国委員会を中心 に、とくに大統領選挙のために、ハード・マネーを補う資金としてソフト・マネーが活用され るようになったのである21) 現行の連邦選挙運動法の下では、ソフト・マネーは、取り締まることができず、例外措置は 一般に、政党組織の活動を促すためのものであって、必ずしも特定の候補者を支援するもので はない。しかしソフト・マネーは現実には、選挙期間中に多くの政治資金を調達するための政 党の主たる「抜け道」となっている。 前節でも述べたように、全国政党は、ソフト・マネー要請の中心となっているにもかかわら ず、その調達した資金の多くを州および地方の政党支部にまわしているのである。連邦公職を 求める党の候補者に対して、全国政党が資金を支出することは法律でもって厳しく規制されて おり、そのため全国政党はソフトマネーという形で調達し、それを州や地方の政党にまわし、 そして州や地方の政党がこの資金を「教育的選挙運動」(educational campaigns)と称して党 の候補者−連邦公職候補者を含めて−のために支出しているのだ。要するに、全国共和党と全 国民主党、具体的には両党の全国委員会は、政治資金の額を拡大し法律の制限を迂回するため ソフト・マネーを利用しているといってよいだろう22) 1996年の大統領選挙運動において、ソフト・マネーが大きな威力を発揮したのはいうまでも ない。民主党サイドでは、クリントン大統領とゴア副大統領が前面に立って、積極的にソフ ト・マネー集めの各種の行事に出席して物議をかもしたことはすでに述べた。一方、共和党サ イドでも、ドール上院院内総務が党の「最高責任者」としてソフト・マネー集めのために数多

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くの「遊説旅行」をこなしたのである。 この結果、1996年の大統領選挙期間中に、共和党はソフト・マネーとして、1億3,820万ド ル、一方、民主党は1億2,390万ドル集め、両党が集めた政治資金総額の中で、ソフト・マネ ーの占める比率は、各々民主党が36%、そして共和党が25%となり、それが政治資金の総額を 押し上げる大きな要因となっている23) 図表3 1996年の大統領選挙におけるハードマネーとソフト・マネー(単位:100万ドル) 収入 支出 民主党 ハード・マネー $2 2 1 . 6 $2 4 1 . 3 ソフト・マネー $1 2 3 . 9 $1 2 1 . 8 (合計) $3 4 5 . 5 $3 3 6 . 1 共和党 ハード・マネー $4 1 6 . 5 $4 0 8 . 5 ソフト・マネー $1 3 8 . 2 $1 4 9 . 7 (合計) $5 5 4 . 7 $5 5 8 . 2

出所:Federal Election Commission, Press Release, Jan. 10, 1977.

1991年に施行された新たな規則により、全国政党に対するソフト・マネーの金額の方は、連 邦選挙委員会に報告しなければならなくなった。しかしながら、企業、労組、その他の政治団 体のソフト・マネーの大部分は現在でも、いかなる制約を受けることもなく、事実上「野放し」 の状態にある。その結果、ソフト・マネーによる献金者とその受領者たちにつぎのような恩典 をもたらしている。 1)ソフト・マネーは、いかなる献金額の上での制約も受けない。連邦公職への候補者や全 国政党への献金は、連邦法や規則の制限の対象となるが、しかし、ソフト・マネーによる献金 の方は金額の上で一切の制約を受けないのである。 2)ソフト・マネーによる献金は、連邦公職への候補者や全国政党へ献金を禁止された集団 を含めて、誰でも行うことができる。連邦選挙運動法の下では、企業と労組は連邦公職への候 補者、全国政党、もしくは連邦の政治行動委員会に対して直接献金することが明確に禁止され ている。だが、ソフト・マネーの献金者たちは、献金した州の規制を受けるだけであり、実際、 多くの州では現在、企業と労組による献金を容認しているのである。 3)ソフト・マネーは、すでに連邦公職の候補者に対して、制限枠一杯の献金を行っている 者に、政治上の特権を提供する。連邦選挙運動法の下では、個人の献金はすべての連邦公職の 候補者、政治行動委員会および全国政党につき、年額2万5,000ドルに制限されている。その ため、ある個人が制限枠一杯の献金を行ったならば、それ以上の献金はできないのである。だ が、ソフト・マネーによる献金ならば別である。この方法を利用すれば、富裕な献金者は、政 党活動を支援するという形で、実際には名目上の制限を大きく越えて献金を行うことができる

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のである。 4)この結果、ソフト・マネーは、とくに4年に一回閏年に行われる大統領選挙の年の秋に おいて、大統領候補者を支援する企業、労組、および富裕な個人に「抜け道」という方法を提 供している。各党の大統領候補者たちは、全国党大会での指名を求めて、予備選挙の期間中に は多額の政治資金を集めることができる。だが、一度全国党大会で指名を受けたならば、それ 以上資金を集めることは認められない。しかし、ソフト・マネーという「抜け道」を利用して 大統領選挙終盤には、政治資金集めが最も激化するのである24) 図表4 1996年の民主党および共和党へのソフトマネー献金企業トツプ10社(単位:ドル) (民主党) ジョセフE.シーグラム&サンズ $1 . 2 6 1 . 7 0 0 コミニケーション・ワーカーズ・オブ・アメリカ 1 . 1 5 0 . 3 0 0 アフスコム 1 . 1 3 4 . 9 6 2 ウオルト・ディズニー 1 . 0 3 8 . 0 5 0 フード&コマーシャル・ワーカーズ・ユニオン 7 2 7 . 5 5 0 レーバーズ・ユニオン 6 2 7 . 0 8 8 ラザード・フリーズ 6 2 4 . 5 0 0 マクアンドルーズ&フオーブス 6 2 3 . 2 5 0 MCIテレコミニケーション 6 0 7 . 2 9 6 アソシエーション・オブ・トライアル・オブ・ロイアーズ・オブ・アメリカ 6 0 6 . 3 0 0 (共和党) フイリップ・モリス $2 . 5 2 0 . 5 1 8 RJBナビスコ 1 . 1 8 8 . 1 7 5 ニューズ・コープ 7 9 4 . 7 0 0 アトランテック・リーチフイールド 7 6 4 . 4 7 1 ジョセフE・シーグラム&サンズ 6 7 7 . 1 4 5 ブラウン&ウイリアムソン・タバコ 6 3 5 . 0 0 0 アメリカン・ディフインス・インステテュト 6 0 0 . 0 0 0 U.S.タバコ 5 5 6 . 6 0 3 AT&T 5 5 2 . 3 4 0 エンロン・コープ 5 4 4 . 5 0 0

出所:Center for Responsive Politics-Fderal Election Commission, Release, May. 7, 1997. Green, op. cit.,

Financing the 1996 Election, p.174.より再引用。

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よび団体の上位10位まで示したものである。民主党の場合は酒造会社、通信社、娯楽会社、お よび労組関係が上位を占めていた。他方、共和党の場合はタバコ会社、食品会社、および石油 会社が上位を占めていた。 なお、1996年10月、大統領選挙の終盤に至り、クリントン大統領と民主党陣営が、いわゆる 「インドネシア・コネクション」から多額の政治献金を受けて問題となった。クリントン大統 領は、インドネシアの富豪一族であるジェームズ・リアディー夫妻とは、アーカンソー州知事 時代からの付き合いがあり、リアディーは“ソフト・マネー”の形で民主党に多額の献金をし てきた。また、同じく、インドネシアのリッポン財閥や台湾のアジア系企業から民主党に対す るソフト・マネーによる献金が明るみになり、大きな批判を浴びた25) 以上において述べてきたように、大統領選挙戦においてソフト・マネーが増大し、政治資金 全体の中で大きな割合を占めるようになるにつれて、大統領選挙運動への公的助成金制度が形 骸化する恐れが出てきた。つまり、ソフト・マネーによる資金が公的助成金制度の理論的根拠 を崩し、連邦選挙運動法と大統領運動基金法による規制の枠組みが疑問視されてきたのである。 そのため、これを憂える識者たちは、ソフトマネーによる献金をより厳しく規制する必要性を 認識し、この種の献金の完全禁止を要求するようになった26) これに加えて、ソフト・マネーによる献金の主役になってきた大企業、大労組および富裕な 個人と、連邦政府との「特権的結びつき」も指摘されるようになっており、大統領による政治 任命や対外政策にも影響を及ぼしているのではないかと危惧されている。 ソフト・マネーについては、「企業や組合の資金、富裕な個人の資金が無制限に政党に流れ 込んでおり、その結果、汚職の土壌がうまれ、特定の団体・個人が政治に特別の影響力を行使 するようになる。また、政党を律する規制を有名無実化する」との批判の声が聞かれる。しか し他方で、ソフトマネーは投票者の確保と政党組織の復活という点で重要な役割を果たしてお り、ソフト・マネーの利用は、連邦選挙運動法によってボランティア活動に関連した支出に限 定されているのだし、しかもその目的は有権者登録や投票棄権防止、また電話による投票依頼 のような活動を認めるものであって、これらは全て、有権者の政治参加を呼び起こし、いわば 「市民活動」として認められてきたものであるのでソフト・マネーを容認しべきだ、という意 見もある27)

Ⅳ.おわりに−政治資金研究の枠組み

周知のように、1996年の大統領選挙ではクリントン大統領が再選され、民主党は第二次世界 大戦後初めて二期にわたって政権を担当することになった。しかしながら、1996年の大統領選 挙運動での選挙資金調達と支出の実態をみるにつけ、それはまぎれもなく大規模な不法な「金 権選挙」に終始していたといってよい。大統領自身が政治資金集めで連邦法に違反しているよ うな現実をみるにつけ、1970年代に確立された米国の政治資金の法体制は破綻し、時代おくれ になったことを示しているといわねばならない。

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そして、1996年の大統領選挙をめぐる政治資金調達と支出の実態は、選挙過程にたいする国 民の不信感を大きく増大させた。そうした状況のもとで新たに顕著となった慣行は、「ソフ ト・マネー」による献金と「争点主張」の支出であるといわれる。すでに述べたように、ソフ ト・マネーは、連邦選挙運動法の規制の枠外で、主として民主党と共和党の州レベルの支持者 によって集められた資金である。一方、争点主張とは、連邦選挙の結果に影響を与えるために 支出されるが、しかしそれは特定の候補者の当選を明確に主張するものではない。これらの事 実は、ゆゆしき問題を孕んでいるといわねばならない。しかしながら、共和党が支配する連邦 議会では、1990年代にはいって一度も、政治資金関連の改革案が日の目をみていない状況にあ る。行政府を支配する民主党と立法府を支配する共和党の指導者の利害と思惑が一致しないの がその大きな原因であると考えられている28) 最後になったが、政治資金研究のための枠組みを簡単に紹介しておわりとしたい。政治(選 挙)資金の研究は、「政治資金制度」と呼ばれるものの行動に関する研究であって、これらの 行動は幾つかの確認できるパターンに起因している。すなわち、選挙において調達しそして支 出した資金の総額、政治候補者の間での政治資金の配分、選挙支出が投票において持つ効果、 および選挙運動への献金が政府の政策に果たす効果などである。 アンソニー・ギリズンスキーによれば、政治資金制度は、大別して4つの要因によって影響 を受けるといわれる。それは、政治的要因、法律的要因、構造的要因および選挙上の要因であ る。まず、政治的要因は、政治資金制度における政治的環境と政治的制度の本質であって、そ れには、政党対立の程度、政治文化、立法上の専門職意識、利益集団の強さ、政党組織の強さ、 選挙の重要性と政策決定過程における分権の程度が挙げられる。つぎに法律上の要因は、選挙 資金を規制する法律から構成されており、それには、献金制限、支出制限、公的助成および報 告義務が含まれ、さらに選挙慣習を規定している法律、すなわち、本選挙時期の長さ、任期の 制限および政党の推薦を規制している立法から構成されている。構造的要因は、政治資金制度 の中で年ごとの立法府の戦いの関係を定める比較的安定した要因であって、これらには、利用 できる資金の蓄え、選挙区の人口、選挙区の地理的規模、議席の数および選挙区での政党の歴 史が含まれる。最後に選挙上の要因は、政治資金制度の下で選挙ごとに変化する立法府の選挙 戦の側面であって、それには、候補者の在職中の地位、選挙戦の予測された対立度、挑戦者の 資質、立法の中での現職議員の地位および候補者の人口統計的特徴も含まれる29) 以上述べた政治資金研究の枠組みを検討するための諸要因については、極めて重要な問題点 が含まれている。しかし、与えられた紙幅の関係もありこれらの点については稿を改めて論じ ることにしたい。 一般に政治資金は、政治活動のための「母乳」であるといわれる。しかしその母乳が汚染さ れたとするなら、乳児たちの成長と健康に大きな影響を及ぼすことになる。我々は今後ともそ の母乳の健康管理に一層留意していかなければならないと考える。

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1)本稿では、さしあたって政治資金とは一般的につぎのような意味で使用している。すなわち、「選挙 運動のために、候補者、団体および政党が調達し支出した資金」 のことである。わが国とは異なって、 米国では選挙運動費用と政治活動資金とを区別しておらず、両者を一括して政治資金として取扱ってい るのが特色である(拙著『アメリカの政治資金』[勁草書房、1999年]、4頁)。 2)「2000年米政権をめざす人脈・金脈」『日本経済新聞』2000年5月4日、6面。中川寛之「米大統領選 挙の政治資金に絡む業界の思惑」『世界週報』2000年11月7日号、36頁。 3)1979年の連邦選挙運動法の改正により、連邦の献金と支出から州と地方の政党の活動費用分が除外さ れ、これらの活動に必要な資金を無制限に支出することが認められるようになったのである。このよう な除外措置は、政党組織の活動を促進するものであって、特定の候補者を支援するものではない。しか し、それは実際には選挙期間中に、多くの政治資金を集めるための政党の主たる「抜け道」となっている (Larry Makinson, Open Secrets: The Encyclpedia of Congressional Money and Politics〔C. Q. Ins., 1996〕, p.20.

4)米国では大統領選挙運動に対して連邦政府から助成金が付与されている。この点については、右崎正 博「アメリカにおける大統領選挙への公費補助制度」『法律時報』第64巻第2号(1992年1月)、74-83頁 を参照されたい。

5)Herbert E Alexander, “Spending in the 1996 Election”, in John C. Green, ed., Finacing the 1996 Election (New York, Sharpe, 1999), p.11.

6)Lbid., pp.12-15. 7)Lbid., pp.11-12.

8)Herbert E. Alexander, “Political Finance in the United States, 1995-1996”, Lecture at Institute for Political Studies in Japan, Tokyo, Feb. 5, 1998, p.4.

9)Alexander, op, cit., “Spending in the 1996 Elections”, p.18. 10)Lbid., pp.19-20.

11)Lbid., pp.20-21. 12)Lbid., pp.21-22.

13)Stephen J. Wayne, The Road to the White House-2000: The Politics of Presidential Elections (Boston, ST. Martins, 2000), p.26. 14)Lbid., pp.47-48. 15)Lbid., pp.48-49. 16)これにはクリントン大統領自身も絡んでおり、大統領は3回にわたって献金要請の電話をホワイトハ ウスからしたといわれる。共和党側は、政府施設内で政府職員が献金を要請したり、受け取ることを禁 止したベンドルトン法に違反しているとして訴え、司法省の捜査官がクリントンとゴアの両人から事情 聴取をおこなった(拙稿「クリントン政権二期目の成果と課題」岡野加穂留・大六野耕作編『比較政治学 とデモクラシーの限界』[東信堂]、近刊参照)。

17)Wayne, op, cit., The Road to the White House, p.49. 18)Lbid., p.50.

19)Lbid.

20)Mariann Holt, “The Surge in Party Money in Competitive 1998 Congressional Election”, in David B. Maglely, ed., Outside Money-Soft Money and Issue Advocacy in the 1998 Congressional Elections (New

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York: Rowan & Littefld Pab. 2000), pp.17-18. 21)ソフト・マネーが大統領選挙の過程で大きな力を発揮するようになったのは、既述のように1979年の 連邦選挙運動法の改正によるものである。その際、政党の地方組織に関して次のような改正が行われた。 ①政党の所属候補者のためのビラ・ポスターなどを用いて党組織が独自に行う選挙費用を規制からはず し、これらの選挙運動を無制限に行えるようにした、②政党による正副大統領候補者のために行う有権 者登録運動と投票促進運動の費用を規制の枠からはずし、これらの運動を無制限に行えるようにした (拙著,前掲書,『アメリカの政治資金』,94-95頁)。

22)Wayne, op. cit., The Road to the White House, pp.45-46.

23)岸本正人「ソフト・マネー、ハードな課題」『毎日新聞』1997年2月19日、6面。 24)Makinson, op. cit., Open Secret, p.20.

25)ハワード・ファイマン、マーク・ホーゼンポール「吹き出した献金疑惑」『ニューズ・ウィーク(日本 語版)』,1996年10月30日号,16-19頁。 26)実際、クリントン大統領自身も1996年11月1日に、極めて異例なことに、世論の批判に答える形で、 つぎのような提案を行った。①企業から政党を迂回して各候補者の選挙運動に利用されているソフト・ マネーを禁止する、②個人から政党への献金も新たに制限する、③政治委員会から各候補者への献金最 高額を年間5.000ドルから大幅に減額する、④米国の市民権をもたない人々からの献金を禁止する(「献 金規制の強化案提案」『朝日新聞』,1996年11月2日[夕],3面)。 27)なお、これらの点については、前掲書、拙著『アメリカの政治資金』,106-108頁参照。 28)Alexander, op. cit., “Political Finacing in the United States, 1995-1996”, pp.16-17.

29)Anthony Gierzynski, “A Framework for the Study of Campaign Finance,” in Joel A. Thompson and Gary F. Moncrief, Campaign Finance in State Legislative Elections (Washington, D. C. CQ, Inc. 1998), pp.18-26.

参照

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