カナグル
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製造販売承認申請書添付資料
第
2 部(モジュール 2)
2.4 非臨床試験の概括評価
2.4 非臨床試験の概括評価 2
目次
略語・略号一覧 ... 3 2.4 非臨床試験の概括評価 ... 4 2.4.1 非臨床試験計画概略 ... 4 2.4.1.1 薬理試験 ... 5 2.4.1.2 薬物動態試験 ... 5 2.4.1.3 毒性試験 ... 6 2.4.2 薬理試験 ... 6 2.4.2.1 効力を裏付ける試験 ... 6 2.4.2.2 副次的薬理試験 ... 8 2.4.2.3 安全性薬理試験 ... 8 2.4.3 薬物動態試験 ... 8 2.4.3.1 吸収 ... 8 2.4.3.2 分布 ... 9 2.4.3.3 代謝 ... 9 2.4.3.4 排泄 ... 10 2.4.3.5 薬物動態学的薬物相互作用 ... 10 2.4.4 毒性試験 ... 11 2.4.4.1 単回投与毒性試験 ... 11 2.4.4.2 反復投与毒性試験 ... 12 2.4.4.3 遺伝毒性試験 ... 13 2.4.4.4 がん原性試験 ... 14 2.4.4.5 生殖発生毒性試験 ... 14 2.4.4.6 その他の試験 ... 15 2.4.5 総括及び結論 ... 15 2.4.5.1 薬理試験 ... 15 2.4.5.2 薬物動態試験 ... 17 2.4.5.3 毒性試験 ... 18 2.4.6 参考文献一覧 ... 20略語・略号一覧
略語・略号 略していない表現(英語) 略していない表現(日本語)
ALT alanine aminotransferase アラニンアミノトランスフェラーゼ
APD60 action potential duration at 60% of
repolarization
60%再分極時活動電位持続時間
AST aspartate aminotransferase アスパラギン酸アミノトランスフェ
ラーゼ
AUC area under the plasma (tissue)
concentration-time curve
血漿(組織)中濃度-時間曲線下面積
BA bioavailability バイオアベイラビリティ
BCRP breast cancer resistance protein 乳がん耐性たん白質
Cmax maximum plasma concentration 最高血漿中濃度
CYP cytochrome P450 チトクロームP450
GLP Good Laboratory Practice 医薬品の安全性に関する非臨床試験
の実施の基準
GLUT facilitative glucose transporter 促通拡散型糖輸送担体
HEK293 細胞 human embryonic kidney cell 293 ヒト胎児腎由来細胞293
hERG human ether a-go-go related gene ヒト急速活性型遅延整流カリウムチ
ャネル遺伝子
HSA human serum albumin ヒト血清アルブミン
5-HT 5-hydroxytryptamine セロトニン
IC50 half maximal(50%) inhibitory
concentration
50%阻害濃度
ICH International Conference on
Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use
日米EU 医薬品規制調和国際会議
MPE mean photo effect 平均光効果
MRP multidrug resistance-associated protein 多剤耐性関連たん白質
NOEL no observed effect level 無影響量
NTCP sodium/taurocholate cotransporting
polypeptide
ナトリウム/タウロコール酸共輸送
ポリペプチド
OAT organic anion transporter 有機アニオントランスポーター
OATP organic anion transporting polypeptide 有機アニオン輸送ポリペプチド
OCT organic cation transpoter 有機カチオントランスポーター
P-gp P-glycoprotein P-糖たん白質
SGLT sodium glucose co-transporter ナトリウム-グルコース共輸送体
t1/2 elimination half-life 消失半減期
UGT uridine-5’-diphospho-α -D-glucuronosyltransferase
ウリジン-5’-二リン酸-α-D-グルクロ ン酸転移酵素
ZDF Zucker Diabetic Fatty -
2.4 非臨床試験の概括評価
4
2.4 非臨床試験の概括評価
カナグリフロジン水和物((1S)-1,5-Anhydro-1-C-(3-{[5-(4-fluorophenyl)thiophen-2-yl]methyl}
-4-methylphenyl)-D-glucitol hemihydrate)は,田辺三菱製薬株式会社にて創製された,ナトリ
ウム-グルコース共輸送体(以下,SGLT)2 を選択的に阻害する経口投与可能な新規 2 型糖 尿病治療薬である. 2.4.1 非臨床試験計画概略 SGLT は,単糖とナトリウムの共輸送担体であり,7 種類のサブタイプが知られている[1]. 腎臓の近位尿細管にはSGLT1 及び SGLT2 が発現している.グルコースに対して低親和性の SGLT2 は,腎臓の近位尿細管起始部(S1 領域)管腔側刷子縁膜に限局して発現している[2]. 腎糸球体でろ過された原尿には血漿と同じ濃度のグルコースが含まれており,SGLT2 はその およそ90%を血液中に再吸収する役割を果たしている.一方,グルコースに対して高親和性 のSGLT1 は近位尿細管の遠位部(S3 領域)に分布しており,原尿中に残存したグルコース をほぼ完全に再吸収する[1].このように,腎臓ではSGLT2 と SGLT1 が協調して機能する ことにより,健康成人の尿中にはグルコースがほとんど検出されない[1]. SGLT2 遺伝子に変異を有し,その機能に異常があると,血糖値は正常であるにもかかわら ず尿糖が陽性となる腎性糖尿(Renal glucosuria)を呈するが,一般に無症状で腎の機能不全 は認められない[3].一方,SGLT1 は,小腸にも発現しており,腎でのグルコース再吸収に 加え,消化管におけるグルコースの吸収にも関与している.SGLT1 遺伝子変異で認められる 尿糖は,SGLT2 遺伝子変異を有する場合に比べ軽度である[4].このように,SGLT2 は腎で の糖の再吸収において主要な役割を担っていると考えられている.
腎臓での糖再吸収は,その閾値(Renal threshold)であるおよそ 11 mmol/L までは,グルコ ース濃度の増加に応じて直線的に増加する.糖尿病などで,グルコース濃度が閾値を越える と,糖再吸収システムは飽和し,尿中に糖が漏出するようになる[5].2 型糖尿病患者では, 健康成人に比べて,尿細管でのSGLT2 の発現が亢進し[6],それに伴い腎糖再吸収量が増加 している[7]ことが高血糖の成因の一つになっていると考えられている.したがって,SGLT2 阻害薬には,糖尿病で亢進している腎でのグルコース再吸収を抑制し,血中に過剰に存在す るグルコースの尿中排泄を促進することにより,高血糖を是正することが期待できる. 一方,2 型糖尿病の病態において,高血糖が持続することにより,インスリン分泌不全が 惹起され,インスリン抵抗性が増大して,更なる糖尿病の悪化をきたすことが知られている. 高血糖により引き起こされるこうした悪影響は,糖毒性(glucose toxicity)[8][9]と呼ばれ ており,SGLT2 阻害薬には,この悪循環を断ち切ることで,糖尿病の進展を抑制すること, 更には,合併症の発症を予防し進展を抑制することが期待されている[10].また,SGLT2 阻害薬は,体重低下作用を有し[11],インスリン分泌を促進させず血糖低下時の糖応答を抑 制しないため低血糖リスクが低い[1]という特徴を持っていることが報告されている.SGLT2 阻害薬は,既存の糖尿病治療薬とは異なる作用機序を持つ薬剤であり,画期的な糖尿病治療
薬となる可能性がある. 非臨床試験では,カナグリフロジン水和物の薬理,薬物動態及び毒性の特徴を明らかにす ることを目的とし,各種in vitro 及び in vivo 試験を実施した.なお,原薬形態及び投与量の 記載については,[2.6.3][2.6.5.1][2.6.7.1]に示した. 2.4.1.1 薬理試験 カナグリフロジン水和物の効力を裏付ける試験として,in vitro 及び in vivo 試験を実施した. In vitro 試験では SGLT2 の阻害作用,類縁糖輸送担体である SGLT の各サブタイプ及び促通拡 散型糖輸送担体(以下,GLUT)に対する阻害作用をそれぞれ評価した.また,ヒトにおけ る主な代謝物M5 及び M7 の SGLT1 及び SGLT2 に対する阻害作用を評価した.In vivo 試験 では,正常動物及び2 型糖尿病モデル動物を用いて,カナグリフロジン水和物の作用機序及 び血糖低下作用を検討した. 副次的薬理試験として,各種受容体,イオンチャネル及び輸送体等の各リガンド結合に対 する阻害作用を評価した. 安全性薬理試験として,中枢神経系,心血管系及び呼吸器系に及ぼす影響について評価し た.参考資料とした試験を除き,安全性薬理試験は日米EU 医薬品規制調和国際会議(以下, ICH)S7A ガイドライン及びその他関連する ICH ガイドラインに従い,医薬品の安全性に関 する非臨床試験の実施の基準(以下,GLP)に準拠して実施した.なお,S7B ガイドライン が発効される以前に開始した一部試験(ヒト急速活性型遅延整流カリウムチャネル遺伝子(以 下,hERG)電流に及ぼす影響)については GLP 非適用試験として実施した. 2.4.1.2 薬物動態試験 カナグリフロジン水和物の動物における吸収,分布,代謝及び排泄(ADME)について検 討した.また,薬物相互作用に関する評価はカナグリフロジン水和物に加え,代謝物M5 及 びM7 についても評価した.これらの試験は,非標識体及び[14C]標識体を用いて実施した. In vivo 試験では,薬効薬理試験及び毒性試験に使用したマウス,ラット及びイヌを主に用 い,絶食又は非絶食条件下においてカナグリフロジン水和物又は[14C]標識カナグリフロジン を静脈内又は経口投与した.生体試料中の放射能は液体シンチレーションカウンター(LSC) 又は放射能検出器付き高速液体クロマトグラフ(HPLC-RI)により,放射能の組織分布は定 量的全身オートラジオグラフィー(QWARG)により評価した.カナグリフロジン,代謝物 M5 及び M7 濃度は液体クロマトグラフタンデム質量分析計(LC-MS/MS)により測定した. In vitro では,Caco-2 細胞を用いた膜透過試験,ヒトを含む各種動物血漿等を用いたたん白 結合試験,各種動物凍結肝細胞及び肝ミクロソームを用いた薬物代謝試験,ヒトチトクロー ム P450(以下,CYP)及びウリジン-5’-二リン酸-α-D-グルクロン酸転移酵素(以下,UGT) 発現系ミクロソームを用いた代謝分子種の同定試験,ヒト肝ミクロソームを用いた薬物代謝
HepG2 細胞,ヒト初代培養脂肪細胞における GLUT 及びヒト GLUT5)に対する IC50値は, いずれもヒトSGLT2 に対する値の 738~約 12,000 倍以上であった.したがって,カナグリフ ロジン水和物はSGLT2 に対して高い選択性を有することが示された. カナグリフロジン水和物のヒトにおける主な代謝物であるM5 及び M7 のヒト SGLT2 に対 するIC50値は,それぞれ1.0 μmol/L 及び 7.6 μmol/L であった. 2.4.2.1.2 In vivo 薬理試験 正常ラットにカナグリフロジン水和物を単回経口投与(1~30 mg/kg)すると,1 mg/kg か ら投与量に応じた腎糖再吸収阻害作用が認められた.また,正常ラットにカナグリフロジン 水和物を単回経口投与(0.3~30 mg/kg)すると,1 mg/kg から用量依存的な尿糖排泄促進作 用が認められた.同様に,正常マウスにおいても用量依存的な尿糖排泄促進作用が認められ た.更に,正常イヌにカナグリフロジン水和物を単回経口投与(0.3~3 mg/kg)すると,0.3 mg/kg 以上の投与量で用量依存的な尿糖排泄促進作用が認められ,この作用は本薬の血漿中 曝露量との高い相関性が示された.以上の結果から,カナグリフロジン水和物は腎糖再吸収 を阻害することによって,尿糖排泄を促進することが示唆された.
肥満2 型糖尿病モデルである Zucker Diabetic Fatty(以下,ZDF)ラットに,カナグリフロ
ジン水和物を単回経口投与(0.3~30 mg/kg)すると,用量依存的な腎糖再吸収阻害作用が認
められ,投与2 及び 4 時間後では 3 mg/kg 以上の投与量で,投与 6 時間後では 0.3 mg/kg 以上
の投与量で,腎糖再吸収阻害率が有意に上昇した.また,0.3 mg/kg 以上の投与量で,用量依
存的な血糖低下作用を認めた.したがって,カナグリフロジン水和物は,2 型糖尿病モデル
ラットにおいて,腎糖再吸収を阻害することによって血糖低下作用を発揮することが示唆さ
れた.更に,高血糖を呈するZDF ラット及びその正常対照である Zucker Diabetic Fatty-lean
(以下,ZDF-lean)ラットにおいて,カナグリフロジン水和物の単回経口投与(1~10 mg/kg) による血糖低下作用を評価した.両系統のラットにおいて,1 mg/kg 以上の投与量で有意な 血糖低下作用が認められ,その最大低下幅はZDF-lean ラット及び ZDF ラットで,それぞれ 約20 及び約 300 mg/dL であった.このときの血漿中カナグリフロジン濃度には,両系統間で 大きな違いは認められなかった.したがって,カナグリフロジン水和物は,正常血糖状態で は血糖値への影響が小さいが,高血糖状態で強力な血糖低下作用を発揮するという特徴を有 することが示唆された. また,ZDF ラットにカナグリフロジン水和物を 4 週間反復経口投与(3~30 mg/kg/日)す ると,3 mg/kg/日以上の投与量で持続的な血糖低下作用及び有意な HbA1c 低下作用が認めら れ,血漿中インスリン濃度は媒体群に比し有意に高値を示した.4 週間反復投与後の経口糖 負荷試験において,血糖上昇抑制及びインスリン分泌能の改善が認められた.以上の結果か ら,2 型糖尿病モデルラットにおいて,カナグリフロジン水和物の反復投与は糖尿病の病態 改善に有用であることが示された.
2.4 非臨床試験の概括評価 8 2.4.2.2 副次的薬理試験 カナグリフロジン水和物の副次的薬理試験として,種々の受容体,イオンチャネル及び輸 送体の各リガンド結合に対する阻害作用を評価した.カナグリフロジンは10 μmol/L の濃度 で,アデノシンA1受容体,ノルエピネフリン輸送体及びセロトニン2A(以下,5-HT2A)受 容体に対する各リガンドの結合を,それぞれ62,51 及び 56%阻害したが,1 μmol/L の濃度 では,50%以上の結合阻害を示さなかった.その他の受容体等に対しては,カナグリフロジ ンは10 μmol/L の濃度で 50%以上の結合阻害を示さなかった. 2.4.2.3 安全性薬理試験 カナグリフロジン水和物の一般症状及び行動に及ぼす影響について,ラットを用いてIrwin 変法で評価した結果,最高用量の1000 mg/kg においても影響が認められなかった.また,カ ナグリフロジンのhERG 電流に及ぼす影響について,hERG 導入ヒト胎児腎由来細胞 293(以 下,HEK293 細胞)を用いてホールセルパッチクランプ法で検討した結果,3 μmol/L の濃度 条件までhERG 電流への影響は認められなかった. ウサギのランゲンドルフ灌流心標本における活動電位及び冠血流量に対しては,3 μmol/L 以上で60%再分極時活動電位持続時間(以下,APD60)を有意に短縮させ,10 μmol/L では冠 血流量の増加傾向が認められた.他の評価項目については10 μmol/L まで影響は認められな かった.麻酔下モルモットを用いて心血管系への影響を評価したところ,累積投与量 9.86 mg/kg(最終投与後 5 分の血漿中濃度 12,749 ng/mL)まで影響は認められなかった.イヌを用 いた非拘束下テレメトリー試験(4, 40 及び 400 mg/kg)において,体温,血圧,心拍数,心 電図パラメータ,一回換気量,分時換気量及び呼吸数への影響を評価した.その結果,最高 用量の400 mg/kg まで心血管系及び呼吸器系に対して影響を及ぼさなかった.体温について は,対照群と比較して高用量群で軽度の低下が認められたが,投与18 時間後には回復した. そのため,体温に対する無影響量(以下,NOEL)は 40 mg/kg,心血管系及び呼吸器系に対 するNOEL は 400 mg/kg と判断した.なお,すべての投与量において嘔吐が,40 及び 400 mg/kg 投与時に便の異常(軟便及び水様便など)が認められた. 2.4.3 薬物動態試験 2.4.3.1 吸収 マウス,ラット,イヌ及びサルにカナグリフロジン水和物を単回経口投与したとき,それ ぞれ投与後1.0 時間,5.0~5.5 時間,2.0~2.75 時間及び 3.5 時間で最高血漿中濃度(以下, Cmax)に到達し,4.14~4.91 時間,6.88~7.57 時間,8.10~8.31 時間及び 7.29 時間の消失半減 期(以下,t1/2)で血漿中から消失した.マウス,ラット,イヌ及びサルにおける経口投与時 のバイオアベイラビリティ(以下,BA)はそれぞれ 109~125%,34.1~34.9%,63.0~67.6% 及び 48.8%であった.マウス,ラット及びイヌの薬物動態パラメータに顕著な性差は認めら
れなかった. また,尿糖排泄促進作用試験においてマウスに0.3~100 mg/kg の,ラットに 0.3~30 mg/kg の,イヌに0.3~3 mg/kg のカナグリフロジン水和物を単回経口投与したとき,それぞれ投与 後 0.5~2.0 時間,4.5~7.0 時間及び 3.0~3.5 時間で Cmaxに到達し,2.4~4.3 時間,6.4~7.2 時間及び9.8~12.6 時間の t1/2で血漿中から消失した.経口投与後のCmaxについては,いずれ の動物種においても用量比例性が認められた.一方,血漿中濃度-時間曲線下面積(以下, AUC)については,ラット及びイヌでは用量比例性が確認されたが,マウスについては用量 比以上の増加が認められた. マウス,ラット及びイヌにカナグリフロジン水和物をそれぞれ 13 週間,6 ヶ月間及び 12 ヶ月間反復経口投与したとき,いずれの動物種においてもCmax及びAUC は雌雄共に投与量 の増加に伴って上昇し,曝露量に明らかな性差はなく,また,反復投与によるカナグリフロ ジンの明らかな曝露量の変動もなかった. Caco-2 細胞を用いて膜透過性を検討した結果,カナグリフロジンは中程度の膜透過性を有 していた. 2.4.3.2 分布 有色ラットに[14C]標識カナグリフロジンを単回経口投与したとき,腎盂,髄膜及び小腸を 除く組織中の放射能濃度は投与後8 時間で最も高く,その後,血漿中放射能濃度の消失に伴 い経時的に減少した.小腸,腎臓皮質及びハーダー腺の放射能濃度は他の組織と比較して高 く,次いで,肝臓,腎臓,副腎,腎臓髄質,眼球血管膜等への移行性が高かった.一方,脳 及び骨への移行性は低かった.有色皮膚の放射能濃度は白色皮膚と同程度の値を示し,メラ ニン含有組織への特異的な移行性は認められなかった.妊娠ラットに[14C]標識カナグリフロ ジンを単回経口投与したとき,胎盤に母体血液の1.7 倍の放射能曝露(組織中濃度-時間曲線 下面積(AUC)比)が認められ,また,胎児では母体血液と同程度であったことから,カナ グリフロジン若しくはその代謝物の胎児への移行が示唆された. In vitro 血漿たん白結合率は,ヒト,マウス,ラット,ウサギ,イヌ及びサルのいずれにお いても98%以上であり,種差及び濃度依存性は認められなかった.ヒト血漿中においてカナ グリフロジンと結合する主なたん白質はヒト血清アルブミン(以下,HSA)であった.ラッ ト及びイヌに[14C]標識カナグリフロジンを単回経口投与したときの放射能の血液/血漿濃度 比は,いずれも1 以下と血球への移行性は低いことが示唆された. 2.4.3.3 代謝 カナグリフロジンの動物及びヒト代謝物として,グルクロン酸抱合体(M5,M7 及び M17), 酸化体(M3,M4,M8,M9,M10,M12,M18 及び M19),カルボン酸体(M6)及び酸化体 のグルクロン酸抱合体(M1,M2,M13,M14,M15 及び M16)が認められた.ヒトにおけ
2.4 非臨床試験の概括評価 10 る主要な代謝物はM5 及び M7 であり,ヒト特異的な代謝物は認められなかった. [14C]標識カナグリフロジンをマウス,ラット及びイヌに投与したとき,いずれの動物種に おいても血漿中の主成分は未変化体であった.また,ヒト凍結肝細胞及びヒト肝ミクロソー ムを用いた検討より,グルクロン酸抱合体としてM5 及び M7 が,酸化体として M6,M8 及 びM9 が検出された. ヒトCYP 及び UGT 発現系ミクロソームを用いた検討により,カナグリフロジンの酸化代
謝には主に CYP3A4,次いで CYP2D6 が,グルクロン酸抱合代謝には主に UGT1A9 及び
UGT2B4 が関与することが示唆された. 2.4.3.4 排泄 [14C]標識カナグリフロジンを単回経口投与したとき,マウスでは投与後 96 時間までに投与 放射能の 5.81~6.46%が尿中に,91.65~91.76%が糞中に排泄された.ラットでは投与後 120 時間までに投与放射能の 3.99~5.14%が尿中に,88.5~89.9%が糞中に排泄された.イヌでは 投与後144 時間までに投与放射能の 1.90%が尿中に,93.6%が糞中に排泄された.また,胆管 カニュレーションを施した動物に[14C]標識カナグリフロジンを単回経口投与したとき,マウ スでは投与後24 時間までに投与放射能の 34.4%が,ラットでは投与後 24 時間までに投与放 射能の 52.2%が胆汁中に排泄された.マウス胆汁へ排泄されたカナグリフロジン及びその代 謝物の約36%は再吸収され,腸肝循環が認められた.カナグリフロジン及びその代謝物の主 要な排泄経路は,胆汁を介した糞中への排泄であると考えられた. 分娩後の授乳ラットに[14C]標識カナグリフロジンを単回経口投与したときの乳汁/母体血 漿中放射能濃度比は1.05~1.55 であり,乳汁中放射能濃度は母体血漿中放射能濃度と同程度 であった. 2.4.3.5 薬物動態学的薬物相互作用 各ヒト CYP 分子種の代謝活性に及ぼす影響について検討した結果,カナグリフロジンは CYP2B6,2C8,2C9 及び 3A4(基質:テストステロン)に対し阻害作用を示した.IC50値は
CYP2B6 が 16 μmol/L,2C8 が 75 μmol/L,2C9 が 80 μmol/L 及び 3A4 が 27 µmol/L であった.
また,代謝物M5 はいずれの CYP 分子種に対しても阻害作用を示さなかった.一方,代謝物
M7 は CYP2B6 及び 2C8 に対して阻害作用を示し,IC50値はそれぞれ55 及び 64 µmol/L であ
った.また,カナグリフロジンのCYP に対する時間依存的阻害(TDI)作用は認められなか
った.
ヒトCYP 誘導能についてヒト凍結肝細胞を用いて検討した結果,カナグリフロジンは 15
μmol/L まで,代謝物 M5 及び M7 は 75 μmol/L まで誘導能を示さなかった.
各ヒト UGT 分子種の代謝活性に及ぼす影響について検討した結果,カナグリフロジンは
P-糖たん白質(以下,P-gp)又は多剤耐性関連たん白質 2(以下,MRP2)発現細胞を用い て輸送方向性を検討した結果,カナグリフロジンはこれらトランスポーターの基質であるこ とが示された.P-gp 又は MRP2 の基質輸送に対してカナグリフロジンは濃度依存的な阻害作 用を示し,IC50値はそれぞれ19.3 及び 21.5 µmol/L であった.一方,代謝物 M5 及び M7 は P-gp により輸送されず,また,阻害作用も示さなかった.乳がん耐性たん白質(以下,BCRP) 発現細胞を用いて輸送方向性を検討した結果,カナグリフロジンはBCRP の基質であること が示された.また,BCRP の基質輸送に対してカナグリフロジンは 16 μmol/L(実測濃度とし て10.5 μmol/L)の濃度まで阻害作用を示さなかった.有機アニオン輸送ポリペプチド 1B1(以 下,OATP1B1),ナトリウム/タウロコール酸共輸送ポリペプチド(以下,NTCP),有機アニ オントランスポーター1 及び 3(以下,OAT1 及び OAT3),有機カチオントランスポーター1 及び2(OCT1 及び OCT2)を発現させたアフリカツメガエル卵母細胞を用いて検討した結果, カナグリフロジン及び代謝物M5 はいずれのトランスポーターにおいても輸送されず,また, これらトランスポーターに対する阻害率は100 μmol/L で 50%未満であり,明確な阻害作用は 認められなかった.代謝物M7 はいずれのトランスポーターにおいても輸送されなかったが,
100 μmol/L で OATP1B1 を 65%,NTCP を 86%,OAT3 を 54%阻害した.OATP1B3 発現細胞
を用いて検討した結果,カナグリフロジンはOATP1B3 で輸送されず,また,OATP1B3 に対 する阻害率は100 μmol/L(実測濃度として 66.7 μmol/L)で 40%未満であり,明確な阻害作用 は認められなかった. 2.4.4 毒性試験 2.4.4.1 単回投与毒性試験 ICR マウス,SD ラット及びビーグル犬を用いて急性毒性を評価した.単回経口投与毒性試 験において,マウスでは2000 mg/kg の投与量まで死亡例は認められず,ラットでは雌の 2000 mg/kg で死亡例が認められた.したがって,カナグリフロジン水和物の単回経口投与による 概略の致死量はマウスでは2000 mg/kg 超,ラットでは 2000 mg/kg であった.また,単回腹 腔内投与試験において,マウスでは500 mg/kg まで死亡例が認められず,ラットでは雄の 250 及び500 mg/kg 群で死亡例が認められた.したがって,カナグリフロジン水和物の腹腔内投 与による概略の致死量は,マウスでは500 mg/kg 超,ラットでは 250 mg/kg であった.単回 投与による主な毒性変化は,経口投与及び腹腔内投与とも軟便,水様便などの消化器症状で あった.ビーグル犬を用いた5 日間反復経口投与試験において,初回投与時には死亡/瀕死 例はみられなかったことから,単回投与における概略の致死量は800 mg/kg 超と推定された. 初回投与時にはすべての投薬群で嘔吐及び便の異常がみられ,単回投与による主な毒性変化 は消化器症状であると判断された.
2.4 非臨床試験の概括評価 12 2.4.4.2 反復投与毒性試験 ICR マウスを用いた 2 週間及び 13 週間反復投与毒性試験,SD ラットを用いた 2 週間,13 週間及び6 ヶ月間反復投与毒性試験,並びにビーグル犬を用いた 2 週間,13 週間及び 12 ヶ 月間反復投与毒性試験を実施した.なお,イヌでは用量設定のための非 GLP 試験として 5 日間投与試験を実施した. 2.4.4.2.1 マウスを用いた反復投与毒性試験 2 週間反復投与用量設定試験(50,250,500 及び 1000 mg/kg/日)では,500 mg/kg/日以上 の群において投薬に起因する死亡がみられた.250 mg/kg/日以上の群では軟便などの消化器 症状,貧血傾向,並びにアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(以下,AST),アラニン アミノトランスフェラーゼ(以下,ALT)及び尿素窒素の高値などの所見がみられた.250 mg/kg/日群で認められた変化は軽度であったため,13 週間投与毒性試験は 30,100 及び 300 mg/kg/日の投与量で実施した.その結果,300 mg/kg/日群の雄 1 例で瀕死となり剖検したほか, 軟便などの消化器症状,並びに貧血傾向などの所見が認められた.100 mg/kg/日群でみられ た変化は変動の程度が軽微であり毒性学的な意義が低いと判断し,無毒性量は100 mg/kg/日 と結論した. 2.4.4.2.2 ラットを用いた反復投与毒性試験 2 週間反復投与毒性試験(3,20 及び 150 mg/kg/日)では,薬理作用に基づく変化として, 尿中グルコース排泄量,尿量及び尿比重の高値,並びに血清中グルコースの低値も認められ た.そのほか,血清中のAST,ALT 及び尿素窒素の高値,尿中カルシウム排泄量の高値など が認められた.なお,剖検及び病理組織学的検査において胃のびらん(変色・赤色巣/領域) が認められたが,投薬による血糖値の低下と剖検前の絶食が組み合わさることによって誘発 されたもので,本薬の胃への直接作用に起因するものでないと判断した.150 mg/kg/日群で は過骨症が認められ,無毒性量は20 mg/kg/日と結論した.13 週間投与試験(4,20 及び 100 mg/kg/日)では,2 週間投与試験と同様の所見に加え,尿検査では,γ グルタミルトランスフ ェラーゼ(GGT),N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)及びたん白排泄量の高値,並び にカルシウムを含む電解質排泄量の高値などの変化がみられたが,これらのパラメータのう ち GGT 及びカルシウムを除き,尿中濃度は対照群と同等か若しくは低い濃度であったこと から,これらの変化は尿量の増加に伴った二次的変化であると判断した.また,2 週間投与 試験において過骨症がみられたことから,骨代謝に関連するバイオマーカーを測定した.測 定したすべてのパラメータが低値であったことから,ラットでみられた過骨症は,骨代謝回 転が低下した中で骨吸収が骨形成よりも相対的に低下し,発現した可能性が示唆された.本 試験では明らかな過骨症が認められなかった雄の4 mg/kg/日及び雌の 20 mg/kg/日を無毒性量 と結論した.なお,本試験で認められた変化はおおむね 8 週間の休薬により回復した.6 ヶ 月間投与試験(4,20 及び 100 mg/kg/日)では,2 週間及び 13 週間投与試験と同様の所見が
みられた.過骨症に関連してDual energy X-ray absorptiometry(DXA)スキャンによる骨密度 の測定及び骨強度試験を行った.その結果,100 mg/kg/日群において大腿骨及び腰椎の骨塩 量の低下が認められたものの骨密度には変化は無く,本変化は体重増加抑制に伴う骨の成長 抑制を示唆する変化であると考えられた.なお,20 mg/kg/日以上の群で明らかな過骨症が認 められたこと,4 mg/kg/日群でみられた変化はいずれも毒性学的意義が乏しいと判断し,無 毒性量は雌雄とも4 mg/kg/日と結論した. 2.4.4.2.3 イヌを用いた反復投与毒性試験 5 日間投与用量設定試験(25,100,400 及び 800 mg/kg/日)では,800 mg/kg/日投与の雌 1 例で状態悪化(ケトーシス及び脱水を伴う低血糖)が認められたため瀕死期解剖を行った. そのほか,薬理作用に起因した尿中グルコース排泄量の高値などの変化がみられたが,400 mg/kg/日まで忍容性に問題が無かったことから,2 週間投与試験は 4,40 及び 400 mg/kg/日の 投与量で実施した.その結果,薬理作用に基づく尿中グルコース排泄量,尿量及び尿中カル シウム排泄量の高値,並びに血清中グルコースの低値などの変化が認められた.これらは薬 理作用に起因した変化又は組織学的所見を伴わない軽微な変化であり,無毒性量は雌雄とも 400 mg/kg/日と結論した.13 週間投与試験は,4,30 及び 200 mg/kg/日の投与量で開始したが, 雌雄の200 mg/kg/日群において一般状態が著しく悪化したため,途中で 100 mg/kg/日に投与 量を減じた.200 mg/kg/日投与時には活動性低下,脱水,血便及び紅斑などの症状が認めら れたが,投与量を100 mg/kg/日に減じて以降,これらの症状は消失した.30 mg/kg/日群で認 められた変化は,2 週間投与試験と同様の薬理作用に起因した変化又は組織学的所見を伴わ ない軽微な変化であり,無毒性量は雌雄とも30 mg/kg/日と結論した.なお,本試験で認めら れた変化はいずれも4 週間の回復期間中に回復した.12 ヶ月間投与試験(4,30 及び 100 mg/kg/ 日)で認められた変化は13 週間投与試験とおおむね同様であった.ラットに過骨症がみられ たことから,イヌでの骨への影響を評価するために骨代謝に関連するバイオマーカーを測定 した.測定したパラメータにわずかな変動がみられたが,骨密度,骨強度及び骨形態計測に おいて明らかな所見は認められなかったことから,これらの変化に毒性学的意義は無いと判 断し,無毒性量は100 mg/kg/日と結論した. 2.4.4.3 遺伝毒性試験 細菌を用いた復帰突然変異試験,マウスリンフォーマアッセイ,ラット骨髄小核試験及び ラット肝コメットアッセイにて評価した.マウスリンフォーマアッセイの代謝活性化法にお いて突然変異頻度の増加が認められたが,被験物質の析出がみられる用量のみでの変化であ ったことから,本結果の毒性学的意義は低いと考えられた.他の試験では陰性であったこと から,カナグリフロジン水和物は遺伝毒性を有しないと結論した.
2.4 非臨床試験の概括評価 14 2.4.4.4 がん原性試験 ICR マウスを用いた 2 年間がん原性試験及び SD ラットを用いた 2 年間がん原性試験を実 施した. 2.4.4.4.1 マウスを用いたがん原性試験 マウス2 年間反復経口投与がん原性試験(10,30 及び 100 mg/kg/日)では,投薬に起因し た腫瘍所見は認められなかった. 2.4.4.4.2 ラットを用いたがん原性試験 ラット2 年間反復投与がん原性試験(10,30 及び 100 mg/kg/日)では,投薬に起因して, 副腎褐色細胞腫,腎尿細管腫瘍及び精巣間細胞腫の発現頻度が増加したが,いずれの腫瘍も 以下の理由でラット特有の現象であると考えている.①カナグリフロジン水和物は遺伝毒性 試験バッテリーにおいて非遺伝毒性物質と判断されており,ラットにおける腫瘍発生増加は 非遺伝毒性メカニズムによるものであると考えられる.②マウスがん原性試験では,薬物曝 露レベルはラットがん原性試験と同等であったが,投薬に起因する腫瘍は認められなかった. ③いずれの腫瘍もラット特異的に腫瘍を発生させるメカニズムが存在すると考えられる.し たがって,カナグリフロジン水和物は非遺伝毒性的な機序によりラットにがん原性を示すも のの,いずれの腫瘍についてもヒトへの外挿性は低いと考えられる. ラットにみられた腫瘍発生メカニズムを検証するために機序検討試験を実施した結果,ラ ットがん原性試験でみられた3 種の腫瘍発生には,投薬に起因した糖質吸収不全に続発する カルシウムインバランスが関与しており,精巣間細胞腫については,更にホルモンインバラ ンスが関与していることが示唆された. 2.4.4.5 生殖発生毒性試験 雌雄ラットを用いた受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験(4,20 及び 100 mg/kg/ 日)では,100 mg/kg/日まで雌雄親動物の生殖機能及び初期胚発生に影響は認められなかっ た.ラット(10,30 及び 100 mg/kg/日)及びウサギ(10,40 及び 160 mg/kg/日)を用いた胚・ 胎児発生に関する試験では,いずれも高用量まで胚・胎児毒性や催奇形性を示す所見はみら れなかった.ラットを用いた出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験(10, 30 及び 100 mg/kg/日)では,30 及び 100 mg/kg/日群で妊娠期間中に母動物の体重増加抑制, 又は体重減少が,哺育期間中に出生児の体重増加抑制がみられた.出生児に対する無毒性量 は10 mg/kg/日と結論した.幼若ラットを用いた 10 週間反復投与毒性試験(4,20,65 及び 100 mg/kg/日)では,ラットを用いた反復投与毒性試験と同様の変化が認められ,幼若動物 に特異的な毒性の発現は認められなかった.また,尺骨長の発育,性成熟の指標は遅延した ものの,体重増加の抑制に伴うものと判断され,器官・機能の発達に対する直接的な影響で はないと判断した.幼若ラットにおける無毒性量は4 mg/kg/日と結論した.
2.4 非臨床試験の概括評価 16 ラットを用いた検討から,カナグリフロジン水和物は,正常血糖値は低下させにくく,高血 糖状態において強い血糖低下作用を発揮するという特徴を有していることが示された.更に, ZDF ラットにおける 4 週間反復投与試験では,カナグリフロジン水和物は持続的な血糖低下 作用及びHbA1c 低下作用,並びに血漿インスリン濃度の上昇を示し,長期的な血糖のコント ロールが可能であることが示唆された.加えて,反復投与後の糖負荷試験では,血糖上昇抑 制及びグルコース応答性のインスリン分泌能改善がそれぞれ認められた.以上のことから, カナグリフロジン水和物の反復投与により持続的に血糖が低下し,糖毒性[8][9]が軽減さ れた結果,糖尿病の病態が改善したことが示唆された. カナグリフロジン水和物の副次的薬理試験として,種々受容体等に対する選択性を検討し た.カナグリフロジンは10 μmol/L の濃度で,アデノシン A1受容体,ノルエピネフリン輸送 体及び 5-HT2A受容体に対する各リガンドの結合を,それぞれ 62,51 及び 56%阻害した.1 μmol/L の濃度では 50%以上の結合阻害を示さなかった.上記受容体に作用を示す濃度は,日 本人の2 型糖尿病患者における 1 日投与量(100 mg)の Cmax(非結合型濃度)の約230 倍で ある.また,安全性薬理試験において,これら受容体等を介すると考えられる中枢や心血管 系に対する影響がみられていないことから,ヒトにおいて上記結合活性に起因する有害事象 発生の可能性は低いと考えられた. カナグリフロジン水和物の安全性薬理試験として,中枢神経系,心血管系及び呼吸器系に 及ぼす影響を検討した.中枢神経系については,Irwin 変法を用いてラットの一般症状及び行 動を観察したところ,いずれの投薬群においても中枢神経症状及び体温への影響は認められ なかった.ラットの雄に1000 mg/kg を単回経口投与後 6 時間の血漿中濃度は 102,000 ng/mL (非結合型濃度:1,530 ng/mL)であり[2.6.7.17G.4],日本人の 2 型糖尿病患者における 1 日投与量(100 mg)に対する非結合型濃度での安全域は約 79 倍であった.また,イヌに 400 mg/kg を経口投与すると軽微な体温低下が認められ,本作用に関する NOEL は 40 mg/kg であ った.雄性イヌに40 mg/kg を単回経口投与後 3 時間の血漿中濃度は 16,800 ng/mL(非結合型 濃度:190 ng/mL)であり[2.6.7.17G.5],日本人の 2 型糖尿病患者における 1 日投与量(100 mg)に対する非結合型濃度での安全域は約 9.8 倍であった. 心血管系については,hERG 電流への影響,ウサギランゲンドルフ灌流心標本を用いた活 動電位及び冠血流量への影響,麻酔下モルモットを用いた血圧,心拍数及び心電図への影響, 並びに覚醒下イヌにおける血圧,心拍数及び心電図への影響を検討した.hERG チャネル発
現HEK293 細胞における hERG 電流について,3 μmol/L までの濃度で影響を及ぼさなかった.
日本人の2 型糖尿病患者における 1 日投与量(100 mg)に対する非結合型濃度での安全域は 約70 倍であった.ウサギの灌流心標本において 3 μmol/L 以上で APD60の短縮が認められ, NOEL は 1 μmol/L と判断された.日本人の 2 型糖尿病患者における 1 日投与量(100 mg)に 対する非結合型濃度での安全域は約 23 倍であった.麻酔下モルモットを用いた検討では 5 mg/kg まで心血管系には影響を及ぼさなかった.本試験での 5 mg/kg 投与後 5 分の血漿中濃 度は12,749 ng/mL であり,日本人の 2 型糖尿病患者における 1 日投与量(100 mg)に対する
安全域は約11 倍であった.また,覚醒下イヌの心血管系及び呼吸器系に対する影響を検討し たが,いずれのパラメータにも400 mg/kg 投与まで影響を及ぼさなかった.イヌの雄に 400 mg/kg を単回経口投与後 3 時間の血漿中濃度は 59,400 ng/mL(非結合型濃度:671 ng/mL)で あり[2.6.7.17G.5],日本人の 2 型糖尿病患者における 1 日投与量(100 mg)に対する非結合 型濃度での安全域は約35 倍であった. 以上のように,安全性薬理試験ではイヌでの軽微な体温の低下とウサギランゲンドルフ灌 流心標本におけるAPD60の短縮が認められたが,これらの作用と想定臨床使用時の曝露量に は十分な安全域が確認され,他には明らかな影響が認められなかった.したがって,臨床使 用時に中枢神経系,心血管系及び呼吸器系に影響を及ぼす可能性は低いと判断された. なお,安全性薬理試験において,中枢神経系,心血管系及び呼吸器系以外に観察された変 化として,ラットあるいはイヌで軟便及び水様便等の便の異常や嘔吐が認められた.便の異 常に関して,高用量投与によりカナグリフロジン水和物が消化管のSGLT1 に対する阻害作用 を示したことによる可能性が考えられた.また,嘔吐に関しては,各種受容体結合の結果等 から胃腸管粘膜の刺激に基づく可能性が考えられた.便の異常,嘔吐ともに,臨床試験での 増加が認められないこと[2.7.4.2.1.5.2.12]から,臨床用量ではヒトにこれらの異常が生じる 可能性は低いと判断した. 2.4.5.2 薬物動態試験 マウス,ラット,イヌ及びサルにカナグリフロジン水和物を単回経口投与したとき,それ ぞれ投与後1.0 時間,5.0~5.5 時間,2.0~2.75 時間及び 3.5 時間で Cmaxに到達した後,1 相性 の消失を示し,その t1/2は,4.14~4.91,6.88~7.57,8.10~8.31 及び 7.29 時間であった.経 口投与時のBA はマウス,ラット,イヌ及びサルにおいて,それぞれ 109~125%,34.1~34.9%, 63.0~67.6%及び 48.8%と,いずれの動物種においても良好であった.ラットでは他の動物種 と比較して低いBA が確認されたが,その要因の一つは小腸における代謝が大きいためと推 察された.また,マウス,ラット及びイヌにおいて,雄よりも雌でカナグリフロジンの曝露 量は高い値を示し,全身クリアランス(CLtotal)と定常状態における分布容積(VSS)の差異 がその要因の一つと考えられたが,Cmax及び AUC0-∞に明らかな差は認められなかった.尿 糖排泄促進試験においてマウス,ラット及びイヌに単回経口投与後のカナグリフロジンの Cmax及び AUC は投与量の増加に伴い上昇した.また,反復投与によるカナグリフロジンの 明らかな曝露量の変動はなかった.Caco-2 細胞を用いて膜透過性を検討した結果,カナグリ フロジンは中程度の膜透過性を有していた. 有色ラットに[14C]標識カナグリフロジンを単回経口投与したとき,大部分の組織中放射能 濃度は投与後8 時間で最も高く,その後,血漿中放射能濃度の消失に伴い経時的に減少した. 小腸,腎臓皮質及びハーダー腺の放射能濃度は他の組織と比較して高く,次いで,肝臓,腎 臓,副腎,腎臓髄質,眼球血管膜等への移行が高かった.有色組織への特異的な移行は認め られず,カナグリフロジンのメラニンへの親和性は低いものと考えられた.また,カナグリ
2.4 非臨床試験の概括評価 18 フロジン若しくはその代謝物の組織中の顕著な残留性は無いものと考えられた.妊娠ラット を用いた検討において,カナグリフロジン若しくはその代謝物の胎盤及び胎児への移行が示 唆された.動物及びヒトにおけるin vitro 血漿たん白結合率はいずれも 98%以上であり,ヒト 血漿中においてカナグリフロジンと結合する主なたん白質はHSA であった.ラット及びイヌ に[14C]標識カナグリフロジンを単回経口投与したときの血球への移行性は低いことが示唆さ れた. カナグリフロジンの動物及びヒト代謝物として,複数のグルクロン酸抱合体,酸化体,カ ルボン酸体及び酸化体のグルクロン酸抱合体が認められた.主代謝経路には種差が存在し, マウス及びヒトではグルクロン酸抱合代謝が,ラット及びイヌでは酸化代謝が主代謝経路で あると推察された.ヒトにおける主要な代謝物はグルクロン酸抱合体であるM5 及び M7 で あり,ヒト特異的な代謝物は認められなかった.In vivo 代謝評価において,いずれの動物種 においても血漿中の主成分は未変化体であった.また,in vitro 代謝評価において,グルクロ ン酸抱合体としてM5 及び M7 が,酸化体として M6,M8 及び M9 が認められた.ヒトにお いて,カナグリフロジンのグルクロン酸抱合代謝には主にUGT1A9 及び UGT2B4 が,酸化代 謝には主にCYP3A4,次いで CYP2D6 が関与することが示唆された.代謝に関与する酵素は 複数存在し,薬物相互作用を顕著に受ける可能性は小さいと考えられた. マウス,ラット及びイヌのいずれの動物種においてもカナグリフロジン及びその代謝物は 主に糞中に排泄され,尿中への排泄は10%未満とわずかであった.マウス及びラットを用い た評価で胆汁への排泄が認められたことから,カナグリフロジン及びその代謝物の主要な排 泄経路は胆汁を介した糞中への排泄であると考えられた.マウス胆汁へ排泄されたカナグリ フロジン及びその代謝物の約36%は再吸収され,腸肝循環が認められた.分娩後の授乳ラッ トを用いた評価でカナグリフロジン若しくはその代謝物の乳汁への移行が認められた. 薬物相互作用に関する検討の結果,日本人の2 型糖尿病患者における 1 日投与量(100 mg)
でのカナグリフロジン,代謝物M5 及び M7 の Cmaxは,CYP 酵素を阻害又は誘導,UGT 酵
素を阻害,P-gp や MRP2 等の輸送活性を阻害する濃度よりも十分に低く,これらを介した薬 物相互作用の可能性は低いと考えられた.一方,経口投与したときの小腸内カナグリフロジ ン濃度は一過性に高くなると推察されるため,小腸に発現する CYP3A4 及び P-gp 阻害の可 能性があることが示唆された.カナグリフロジン(300 mg)は CYP3A4 の典型的な基質であ るシンバスタチンのCmaxを約9%,AUC0-∞を約12%上昇させ,P-gp の典型的な基質であるジ ゴキシンのCmaxを36%,AUC0-24hを20%上昇させたが,いずれも臨床上意味のある影響を与 えないと考えられた[2.7.2.2.5.1]. 2.4.5.3 毒性試験 カナグリフロジン水和物の単回経口投与による概略の致死量は,マウスでは2000 mg/kg 超, ラットでは2000 mg/kg であった.また,単回腹腔内投与による概略の致死量は,マウスでは 500 mg/kg 超,ラットでは 250 mg/kg であった.イヌでは,5 日間反復経口投与試験の初回投
与の成績を基に単回投与における概略の致死量は800 mg/kg 超と推定された. 反復経口投与毒性試験の無毒性量は,マウスを用いた13 週間投与試験では 100 mg/kg/日, ラットを用いた6 ヶ月間投与試験では 4 mg/kg/日,イヌを用いた 12 ヶ月間投与試験では 100 mg/kg/日と結論した.日本人の 2 型糖尿病患者における 1 日投与量(100 mg)との安全域は, それぞれマウス35.4 倍,ラット 2.1 倍,イヌ 75.8 倍であった[表 2.6.6.9-1].安全域の狭い ラットにおいて無毒性量を規定する変化は過骨症である.本変化は2 週間以上の投薬で認め られ,投薬期間が延長しても顕著に増悪する傾向はなく,休薬すると回復する変化であった. 種々の検討からカナグリフロジン水和物による過骨症はラット特異的であり,かつ骨の成長 が活発な時期に投薬された場合にのみ惹起されることが示唆されている.また,ヒトにおい てはラットで認められた過骨症や骨折発現のリスクは低いと考えられた[2.7.4.2.1.5.2.9]. 遺伝毒性試験について,細菌を用いた復帰突然変異試験,マウスリンフォーマアッセイ, ラット骨髄小核試験及びラット肝コメットアッセイで評価し,カナグリフロジン水和物は遺 伝毒性を有しないと結論した. マウス2 年間反復経口投与がん原性試験では,投薬に起因した腫瘍所見は認められなかっ た.一方,ラット2 年間反復投与がん原性試験では,投薬に起因して,副腎褐色細胞腫,腎 尿細管腫瘍及び精巣間細胞腫の発現頻度が増加した.しかし,いずれの腫瘍もラット特異的 に腫瘍を発生させるメカニズムが存在すると考えられることから,カナグリフロジン水和物 は非遺伝毒性的な機序によりラットにがん原性を示すものの,いずれの腫瘍についてもヒト への外挿性は低いと考えられた.また,ヒトにおいてはカナグリフロジンを投薬された群と 対照群の間に悪性腫瘍発現のインバランスはみられなかった[2.7.4.2.1.5.2.13]. 生殖発生毒性試験について,雌雄ラットを用いた受胎能及び着床までの初期胚発生に関す る試験では,100 mg/kg/日まで受胎能及び生殖機能に影響は認められなかった.ラット及び ウサギを用いた胚・胎児発生に関する試験では,いずれも最高用量まで胚胎児致死や催奇形 性を示す所見はみられなかった.ラットを用いた出生前及び出生後の発生並びに母体の機能 に関する試験では,30 及び 100 mg/kg/日群で妊娠期間中に母動物の体重増加抑制,又は体重 減少が,哺育期間中に出生児の体重増加抑制がみられた.出生児に対する無毒性量は 10 mg/kg/日と結論した.幼若ラットを用いた 10 週間反復投与毒性試験においては,成熟ラット を用いた反復投与毒性試験と同様の変化が認められ,幼若動物に特異的な毒性の発現は認め られなかった.幼若ラットにおける無毒性量は4 mg/kg/日と判断された. カナグリフロジン水和物の取扱者の安全性に配慮する目的で,ウシ摘出角膜を用いた眼刺 激性試験を実施したところ,カナグリフロジン水和物の眼刺激性は,非眼刺激性又は軽度の 眼刺激性に分類された.同様にCBA/J マウスを用いて耳介リンパ節のリンパ球増殖反応を指 標にした局所リンパ節試験を実施したところ,カナグリフロジン水和物は皮膚感作物質では ないと結論した. 光安全性評価として,Balb/c 3T3 細胞を用いた光細胞毒性試験では,光毒性のポテンシャ ルが確認された.Long-Evans ラットを用いた in vivo 光毒性試験では,眼への影響は認められ なかったものの,皮膚では紅斑及び浮腫が認められ,無毒性量は5 mg/kg と結論した.なお,
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